説明

高周波誘導炉および固体溶融方法

【課題】熱効率の高い高周波誘導炉および固体溶融方法を提供する。
【解決手段】高周波誘導炉10は、絶縁性材料または誘電性材料からなり、被溶融固体を収容する溶融容器11と、溶融容器11の周囲を囲むように配置された高周波コイル12と、導電性材料からなり、溶融容器11の中心に配置され、高周波コイル12に所定周波数の電流を流した際の電磁誘導により発熱する筒状の加熱体13とを具備する。加熱体13の外半径をr、肉厚をt、表皮厚さをδとしたときに、t=δ/rの関係が満たされている。被溶融固体50は、溶融容器11の内周壁面と加熱体13の外周壁面との間の空間および加熱体13の内側の空間に投入され、溶融される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波誘導炉および固体溶融方法に関し、特に、アスベスト含有廃棄物等を溶融してガラス化させるために用いられる高周波誘導炉および固体溶融方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベスト(石綿)は天然に産出する鉱物であり、安価で、耐熱性,耐摩耗性,耐薬品性等に優れており、セメントや樹脂等への配合も容易であることから、従来、建材用途を中心に広く用いられてきた。
【0003】
しかし、アスベストの微細な針状繊維(結晶)は、呼吸を通じて人間の肺に取り込まれると、数十年の時間を経て、肺ガンや中皮腫等の病気を引き起こすことが明らかとなった。
【0004】
そのため、近時、既存の建築物から吹き付け塗装されたアスベストやアスベスト含有スレート材等を撤去する工事が随所で行われていることが周知の通りである。また、今後、アスベスト建材を用いた建築物が構造寿命を迎えるために、大量のアスベスト含有廃棄物が発生することは明らかであり、このようなアスベスト含有廃棄物を無害で有用な材料として再生する必要がある。
【0005】
その1つの方法として、アスベスト含有廃棄物をガラス化する方法が検討されている(例えば、特許文献1参照)。これはアスベストの主成分が珪酸ガラスの主成分でもある二酸化ケイ素(SiO)であることに着目したものであり、アスベストの繊維形状は溶融によって不定形化される。また、ガラスは組成の調整範囲が広く、所望の特性を有するガラスへの成分調整も容易であるという特徴がある。
【0006】
アスベスト含有廃棄物を溶融してガラス化させるための溶融装置として、省エネルギーで高温への加熱が容易な高周波誘導炉を用いることが提案されている。
【0007】
しかしながら、一般的な高周波誘導炉は、アスベスト含有廃棄物を投入する容器自体を誘導加熱するか、または容器の内部に容器の内周にそって金属製の筒体を配置する外熱式であり、熱効率が高くない。
【0008】
これに対して、アスベスト含有廃棄物を投入する容器の中央部に、円柱状の導電性材料からなる加熱体を配置した内熱式のものが提案されているが、このような加熱体は、主にその表面近傍でしか発熱しないために、熱効率は高いとは言い難い(例えば、特許文献2,3参照)。
【特許文献1】特開2005−279589号公報(段落[0014],[0015等]
【特許文献2】特開平7−20288号公報(段落[0007]、第1図等)
【特許文献3】特許第3602039号公報(段落[0024]、第1図等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、熱効率の高い高周波誘導炉および固体溶融方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、第1発明として、絶縁性材料または誘電性材料からなり、被溶融固体を収容する溶融容器と、前記溶融容器の周囲を囲むように配置された高周波コイルと、導電性材料からなり、前記溶融容器の中心に配置され、前記高周波コイルに所定周波数の電流を流した際の電磁誘導により発熱する筒状の加熱体を具備する高周波誘導炉であって、前記加熱体の外半径をr、肉厚をt、表皮厚さをδとしたときに、t=δ/rの関係が満たされていることを特徴とする高周波誘導炉が提供される。
【0011】
この高周波誘導炉は、加熱体を回転させる回転機構をさらに具備する構成とすることが好ましい。
【0012】
本発明は第2発明として、絶縁性材料または誘電性材料からなる溶融容器の内部に導電性材料からなる筒状の加熱体を収容し、前記溶融容器の周囲を囲むように高周波コイルを配置し、前記溶融容器の内周壁面と前記加熱体の外周壁面との間の空間および前記加熱体の内側の空間に被溶融固体を投入し、前記高周波コイルに所定周波数の電流を流すことによって前記加熱体を高周波誘導加熱し、前記被溶融固体を溶融することを特徴とする固体溶融方法が提供される。
【0013】
この固体溶融方法においては、加熱体として上記第1発明に用いられる加熱体が好適に用いられ、加熱体を回転させながら前記被溶融固体を溶融することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱効率の高い高周波誘導炉が実現され、省エネルギーでの固体溶融を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1に高周波誘導炉10の概略構造を表した断面図を示す。この高周波誘導炉10は、ガラス原料たる被溶融固体50を収容する溶融容器11と、溶融容器11の周囲を囲むように配置された高周波コイル12と、溶融容器の中心に配置された筒状の加熱体13と、加熱体13を昇降,回転させる昇降回転機構14と、溶融容器11と高周波コイル12を保持するステージ15とを備えている。
【0016】
被溶融固体50としては、アスベスト等の固体廃材とそのガラス化のための添加物が挙げられる。添加物は、固体廃材のガラス化を低温化させたり、所望の機能が得られるように組成を調整したりするためのものであり、具体的には、アルカリ金属やアルカリ土類金属,ホウ素(B),アルミニウム(Al),シリコン(Si),リン(P)等の化合物や酸化物,水酸化物,炭酸塩等が用いられる。
【0017】
被溶融固体50は、溶融容器11の内周壁面と加熱体13の外周壁面との間の空間および加熱体13の内側の空間に投入され、これらの空間において溶融されることとなる。高周波誘導炉10は、所謂、バッチ式加熱炉であって、被溶融固体50は図示しないホッパー等によって溶融容器11に投入される。
【0018】
溶融容器11は、製造されるガラスに対する耐食性に優れた絶縁性材料または誘電性材料で構成され、より好ましくは被溶融固体のガラス化による温度変化に対する耐熱衝撃性に優れる材料で構成される。溶融容器11としては、例えば、アルミナ坩堝等を用いることができる。
【0019】
溶融容器11はステージ15に固定されている。加熱体13を溶融容器11の上空に待避させた状態において溶融容器11を傾けることによって、その内部に生成させた溶融ガラスを流し出すことができるように、ステージ15は回動機能を備えている。
【0020】
高周波コイル12の構造は特に限定されないが、例えば、銅製のチューブを所定巻き数で螺旋状に捲回した構造とすることができる。高周波コイル12には図示しない高周波電源に接続されている。
【0021】
加熱体13は、金属またはカーボン等の導電性材料であって、生成するガラスに対する耐食性に優れる(つまり、ガラスの成分として溶け出さない)材料で構成される。金属を用いる場合、例えば、ステンレス等を用いることができる。高周波コイル12に所定周波数の電流を流した際の電磁誘導(高周波誘導)により発熱し、この熱を利用して、被溶融固体50を溶融し、ガラス化させる。
【0022】
昇降回転機構14は、加熱体13に連結される枢軸17と、枢軸17を回転させるモータ16と、モータ16を昇降させる昇降機構18とを備えており、モータ16の昇降にしたがって加熱体13も昇降する。加熱体13と枢軸17とは、複数本の連結棒19により連結されている。
【0023】
高周波誘導炉10によるガラス作製は、概略、以下の工程で行われる。最初に、一定量の被溶融固体50を溶融容器11の内周壁面と加熱体13の外周壁面との間の空間および加熱体13の内側の空間に投入する。高周波誘導炉10は、内熱式でありながら、外熱式と同等に溶融容器11の容積を無駄なく使用することができる。続いて、高周波コイル12に所定周波数の電流を流すことによって加熱体13を高周波誘導加熱する。これにより加熱体13と接触している被溶融固体50から溶融が始まる。
【0024】
加熱体13の回転は、加熱体13近傍の被溶融固体50が溶解して、その回転を容易に行うことができる状態になったときから始めることができる。加熱体13の回転により、被溶融固体50の溶融により生成した溶融ガラスを撹拌し、溶融を促進するとともに、生成するガラスの組成を均一にすることができる。加熱体13の回転数は、溶融ガラスに気泡が取り込まれない回転数に抑えることが好ましい。
【0025】
被溶融固体50の溶融の進行とともに、適宜、被溶融固体50を追加して溶融させることも好ましい。一定時間の溶融処理の後に、加熱体13を溶融容器11から引き上げて、ステージ15を回動させて溶融容器11を傾け、生成した溶融ガラスを離型性のよい鋳型等に流し出す。この鋳型等を所定温度に保持して焼き鈍し(アニール)を行い、その後、室温へ冷却することで、一定形状のガラスを得ることができる。得られたガラスには、用途により、さらに所定の加工が施される。
【0026】
次に、高周波誘導炉10の構成部材である加熱体13についてより詳細に説明する。加熱体13の外半径をr(m)、肉厚をt(m)とし、表皮厚さをδ(m)としたときに、t=δ/rの関係が満たされている。
【0027】
なお、表皮厚さδは、周知の通り、渦電流密度が加熱体表面の1/e、すなわち、約37%に減少する厚さであり、高周波誘導加熱のために高周波コイル12に流す電流の周波数をf(Hz),加熱体13の透磁率をμ(N/A),加熱体13の導電率をσ(S/m(=A/m・N))とすると(1)式の通りに表される。
【数1】

【0028】
このような加熱体13の形状を特定するために、最初に、高周波誘導炉10を模したジュール熱測定装置を用いて加熱体13の形状と発生するジュール熱との関係を調べた結果について、以下に説明する。
【0029】
図2にそのジュール熱測定装置30の概略構造を表した断面図を示す。このジュール熱測定装置30は、上面に細く絞られた開口部を備え、底面は開口しており、内部の熱が外部に拡散しないように中空構造を有し、その中空部が真空状態に保持されているガラス管31と、ガラス管31の底面を液密に塞ぎ、ガラス管31の内部に水を導入するための給水管33が中央部に配設された底板32と、ガラス管31内に収容されるように底板32に立設され、多数箇所に穴部34aが形成された円筒状の架台34と、架台34に支持された円筒状の加熱体35と、ガラス管31の開口部に取り付けられた排水管36と、加熱体35の外延位置においてガラス管31の周囲を囲むように配置された高周波コイル37を備えている。
【0030】
また、ガラス管31の内部に供給する水の温度を測定するための熱電対38aが給水管33の下流位置に、ガラス管31から排出される水の温度を測定するための熱電対38bが排水管36の上流位置にそれぞれ配置されている。
【0031】
このジュール熱測定装置30では、給水管33を通してガラス管31の内部に水を一定流速(流量)で供給しながら、高周波コイル37に一定周波数の電流を流して加熱体35を高周波誘導加熱する。ガラス管31内に供給された水は、加熱体35の内側を上昇しながら、また、架台34に設けられた穴部34aを通してガラス管31の内周壁面と架台34および加熱体35の外周壁面との間の空間に流出してその空間を上昇しながら、加熱体35により加熱されて最終的に排水管36から排出される。
【0032】
IN(K):ガラス管31に供給される水の温度、TOUT(K):ガラス管31から排出される水の温度、ρ(g/cm):水の密度、c(J/g・K)、水の比熱、V(cm/s):水の流速とすると、ジュール熱Wは(2)式で示される。
【数2】

【0033】
ガラス管31として、耐熱衝撃性ホウケイ酸塩ガラスからなり、内径φ85mm・外形φ90mm×高さ400mmの形状を有するものを用い、加熱体35として、外径φ50mm×高さ80mm×厚さtmmの円筒形ステンレスを用い、高周波コイル37として、直径φ10mmの銅製チューブを12回巻いて内径φ110mm×高さ120mmとしたものを用い、印加電流の周波数を30kHzとし、加熱体35の厚さtを種々に変えて、加熱体35に発生するジュール熱Wを測定した。また、比較のために、円筒状の加熱体35と同じ外形を有する円柱状の加熱体を用いた場合のジュール熱Wを測定した。
【0034】
加熱体35の厚さtおよび上記(1)式から求めた表皮厚さδとの比t/δと測定されたジュール熱Wとの関係を求めた。また、Fujihisa,Taniguchiにより作成されたMIND−B3のElimination methodプログラムを用いた理論計算により、ジュール熱を計算した。これらの結果を図3に示す。
【0035】
図3に示されるように、加熱体35に発生するジュール熱Wは、t/δ=0.1近傍で最大値をとるという結果が得られ、この最大値は、円柱状の加熱体を用いた場合の約3.6倍であった。また、ジュール熱Wの測定結果は、計算値とよい一致を示した。
【0036】
図4に総誘導電流および平均電流密度とt/δとの関係を示す。加熱体35の厚さtの減少に伴って、総誘導電流は小さくなっているが、平均電流密度は大きくなっている。これは誘導電流が加熱体35の小さな断面に集中することが原因であり、それぞれについて勾配が変化している点(t/δ)は、図3に示した最大ジュール熱Wを示すt/δ値と一致する。
【0037】
このことは、誘導抵抗という概念により、以下の通りに説明される。すなわち、加熱体35を小さなコイルの集合体と仮定して、そのうちの1つのコイルに注目する。そのコイルに電流が流れると磁場が発生し、その磁場を打ち消そうと別のコイルに逆向きの磁場を誘起する渦電流が流れる。このような仮想小コイルどうしの相互作用により、加熱体35に流れる渦電流は全体的少なくなる。これが誘導抵抗であり、誘導抵抗Xは(3)式で示される。ここで、Lはインダクタンスである。
【数3】

【0038】
この(3)式から誘導抵抗の作用は、周波数が大きいほど、すなわち(1)式からt/δが大きいほど強くなることがわかる。平均電流密度はt/δの減少に伴って増加しているが、点(t/δ)付近から収束している。この地点からは仮想小コイルの数自体が少なくなるために、相互作用が小さくなり、加熱体35を流れる誘導電流の総量も低下する。これらの兼ね合いよって、t/δ=0.1近傍でジュール熱が最大値を取ったことが推測される。
【0039】
このように加熱体35で発生するジュール熱は、被加熱固体50に依存するものではなく、高周波コイル37と加熱体35の構造に由来するものである。したがって、図3に示す結果は、円筒状の加熱体を用い、この加熱体の内側と外側とで被溶融固体を加熱する高周波誘導炉では、従来の円柱状の加熱体を用いた高周波誘導炉よりも、高い熱効率で被溶融固体を溶融させることができることを示しており、直接的に、高周波誘導炉10の構成に適用することができる。
【0040】
高周波誘導炉10は、このような優れた熱効率により、従来と同じ大きさであれば処理能力が向上し、従来の処理量でよければ装置全体をコンパクトに構成することができるという利点がある。この効果は、溶融容器11の容積を無駄なく使用して被溶融固体50を溶融することができることによって、さらに顕著なものとなる。
【0041】
なお、加熱体35に発生するジュール熱Wがt/δ=0.1近傍で最大値をとるという結果は、後に説明するように、あくまで加熱体35がステンレスである場合の結果であり、加熱体に別の材料を用いた場合にt/δが0.1近傍で最大値を取るとは限らない。
【0042】
上記結果は、加熱体35の直径を変化させた場合にも、t/δの好適な値は不変であるか否かが、高周波誘導炉10のスケールアップやスケールダウンに際して、極めて重要な問題となる。
【0043】
これについて、(i)加熱体の厚さt(m)はその外半径r(m)に比べて薄く、ここでは、r/t>4.5の条件が成り立っている、(ii)加熱体の電流密度は加熱体の断面全体で均一である、(iii)r/δ>2.25またはf(Hz)以上の高周波数で成立している、(iv)加熱体の内側の磁界は高周波コイルに発生した磁界と誘導電流によって発生した磁界との差によって求められると仮定する。ここでf(Hz)は、加熱体の透磁率をμ(N/A)として、(4式)で与えられる。
【数4】

【0044】
その上で、h:加熱体の高さ(m)、A:加熱体の断面積(m)、H:コイルが発生した磁界のr.m.s.値(A/m)、H:加熱体の内側の磁界のr.m.s.値(A/m)、Φ:磁束(Wb)、ω(=2πf;rad/s)、j(=−11/2)とすると、
加熱体周囲の起電力eは(5)式で、加熱体の抵抗Ωは、比抵抗をρ(Ωm)として(6)式で、誘導電流Iは(7)式でそれぞれ表される。
【数5】

【数6】

【数7】

【0045】
は上記仮定(iv)によると(8)式で表される。
【数8】

【0046】
ここで、γ,T,Rをそれぞれ(9)式の通りに定義し、tとrをTとRで無次元化すると(10)式の通りに表すことができる。
【数9】

【数10】

【0047】
上記(8)式は、このγを用いて表すと(11)式となる。
【数11】

【0048】
したがって、ジュール熱P(W)は(12)式で表される。
【数12】

【0049】
この(12)式においてtと関係がある部分は(13)式の部分である。
【数13】

【0050】
外径φ50mmのステンレス製加熱体について、R=8.333としてこの(13)式をグラフ化したものを図5に示す。ジュール熱Pが最大となるときのTの値(以下「臨界厚さT」という)は、dP/dT=0,Tのときであるから、(13)式から(14)式が導かれ、さらに(15)式の解が得られる。
【数14】

【数15】

【0051】
臨界厚さTは負の値を取ることはないので、最終的に、臨界厚さTは(16)式で示されることがわかり、先に(9)式の定義により、(17)式が導かれる。
【数16】

【数17】

【0052】
なお、先の仮定(i)は(5)式に、仮定(ii)は(7)式にそれぞれ用いられており、仮定(iii)は数値解析の結果、明らかとなったものである。
【0053】
例えば、前記Elimination methodプログラムによる数値解析では、加熱体がステンレスの場合には、T=t/δ=δ/r=0.12≒0.11〜0.13との結果が得られており、これらはジュール熱測定装置30を用いた上記試験結果とよい一致を示している。また、カーボン(黒鉛)の場合には、T=t/δ=δ/r=0.36という結果が得られ、加熱体として用いる材料に応じて、適切な形状設定が必要なことがわかる。
【0054】
次に、高周波誘導炉10を用いて作製したガラスについて簡単に説明する。X線蛍光分光法(XRF)による組成分析結果が表1で示されるアスベストに、融剤としてホウ酸ナトリウム(Na)を、ガラスの網目形成成分として酸化ホウ素(B)と二酸化ケイ素(SiO)を適量添加したものを、1500℃で1時間溶融した。溶融物を大気中で銅板上に流し出し、電気炉を用いて650℃でのアニールを1時間行った後、室温まで冷却することによって、ガラスを得た。
【表1】

【0055】
作製したガラスは緑色に着色しており、添加物が多くなるとその色が薄くなる傾向を示した。また、作製したガラスの粉末X線回折チャートには、結晶相を示すピークは現れず、全体が非晶質化されていることが確認された。透過型電子顕微鏡(TEM)による組織観察では、原料のアスベストには繊維状結晶が確認され、明瞭な電子線回折パターンが現れたが、作製したガラスには繊維状の組織を確認することはできず、電子線回折パターンもぼやけたものであったことから、アスベストからガラスへの無害化が達成されたと判断した。
【0056】
作製したガラスについて、ヴィッカース硬度計を用いて測定したヴィッカース硬度を図7に、破壊靱性を図7にそれぞれ示す。一般的な窓ガラスのヴィッカース硬度は約4100MPaであり、破壊靱性は約0.77MPa・m1/2であるので、このようなガラスよりも高硬度、高靱性のガラスが得られることが確認された。
【0057】
着色はアスベストに含まれる鉄(Fe)の影響が大きいと考えられるが、このような着色を積極的に用いる用途として、例えば、ワインのボトル(但し、衛生面での安全確認が必要とされる)や窓ガラス(ガラスを通して先方を確認することを妨げることが必要とされる場所等で用いられるもの),飾り窓,照明器具(例えば、背面に蛍光灯等が配置されるもので、店舗内で用いられるものや、集合施設などの床・歩道に設置されるもの)等が挙げられる。
【0058】
示差走査熱量計(DSC)を用いて、Naを添加して得られたガラスの熱的特性として、ガラス転移点T、結晶析出温度T、最大発熱温度Texo、融点Tを測定した。その結果を表2に示す。
【表2】

【0059】
表2に示す結果から、Naの添加量を増加させると融点が低下し、ガラス形成能は、10%添加のときに最大となった。ヴィッカース硬度と破壊靱性も10%添加の場合に向上していることから、表1に示した組成のアスベストのガラス化においてNaを10%程度添加することは、ガラスの融点を下げつつ、優れた物理的特性を得るために効果的な手段であることが確認された。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこのような実施の形態に限定されるものではない。例えば、被溶融固体として固体廃材を取り上げたが、高周波誘導炉は、新規な機能ガラスの開発にも当然に用いることができ、その場合には、被溶融固体として各種試薬が用いられる。
【0061】
また、高周波誘導炉として、加熱体を昇降自在な構造としたが、加熱体の位置(高さ)を一定として、溶融容器とコイルを昇降させ、かつ、これらを傾斜させる構造としてもよい。さらに、加熱体とコイルを一体的に昇降させ、溶融容器とこれを保持したステージを回転,回動可能な構成としてもよい。
【0062】
また、高周波誘導炉の構成は、図2に示したジュール熱測定装置と同様に構成してもよい。その場合、溶融容器の下側から被溶融固体を連続的に供給すると、溶融容器の下側では被溶融固体は固体の状態のままであり、加熱体の下端近傍で被溶融固体は溶融してガラス化し、その後、溶融容器上面から外部に排出する構造とすることができる。このような構成であっても、加熱体を枢軸と連結させて加熱体を回転させることにより、溶融ガラスを撹拌して、均一な組成のガラスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】高周波誘導炉の概略構造を示す断面図。
【図2】ジュール熱測定装置の概略構造を示す断面図。
【図3】測定されたジュール熱とt/δとの関係を示すグラフ。
【図4】総誘導電流,平均電流密度とt/δとの関係を示すグラフ。
【図5】理論計算によるジュール熱とr/δとの関係を示すグラフ。
【図6】作製したガラスのヴィッカース硬度と添加物量との関係を示すグラフ。
【図7】作製したガラスの破壊靱性と添加物量との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0064】
10…高周波誘導炉、11…溶融容器、12…高周波コイル、13…加熱体、14…昇降回転機構、15…ステージ、16…モータ、17…枢軸、18…昇降機構、19…連結棒、30…ジュール熱測定装置、31…ガラス管、32…底板、33…給水管、34a…穴部、34…架台、35…加熱体、36…排水管、37…高周波コイル、38a・38b…熱電対、50…被溶融固体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性材料または誘電性材料からなり、被溶融固体を収容する溶融容器と、
前記溶融容器の周囲を囲むように配置された高周波コイルと、
導電性材料からなり、前記溶融容器の中心に配置され、前記高周波コイルに所定周波数の電流を流した際の電磁誘導により発熱する筒状の加熱体と、を具備する高周波誘導炉であって、
前記加熱体の外半径をr、肉厚をt、表皮厚さをδとしたときに、t=δ/rの関係が満たされていることを特徴とする高周波誘導炉。
【請求項2】
前記加熱体を回転させる回転機構をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の高周波誘導炉。
【請求項3】
絶縁性材料または誘電性材料からなる溶融容器の内部に導電性材料からなる筒状の加熱体を収容し、
前記溶融容器の周囲を囲むように高周波コイルを配置し、
前記溶融容器の内周壁面と前記加熱体の外周壁面との間の空間および前記加熱体の内側の空間に被溶融固体を投入し、
前記高周波コイルに所定周波数の電流を流すことによって前記加熱体を高周波誘導加熱し、前記被溶融固体を溶融することを特徴とする固体溶融方法。
【請求項4】
前記加熱体として、その外半径をr、肉厚をt、表皮厚さをδとしたときに、t=δ/rの関係が満たされているものを用いることを特徴とする請求項3に記載の固体溶融方法。
【請求項5】
前記加熱体を回転させながら前記被溶融固体を溶融することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の固体溶融方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−267733(P2008−267733A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113427(P2007−113427)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年10月23日 The Iron and Steel Institute of Japan(社団法人 日本鉄鋼協会)発行の「The 5th International Symposium on Electromagnetic Processing of Materials(第5回材料電磁プロセッシング国際シンポジウム(EPM2006))」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月1日 社団法人 日本鉄鋼協会発行の「材料とプロセス」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000242644)北陸電力株式会社 (112)
【Fターム(参考)】