説明

高圧ガス容器

【課題】塗装がし易く、防錆効果を長期間維持でき、軽量で、低コストで製造できる高圧ガス容器を提供する。
【解決手段】 円筒形の容器本体2の上鏡3に、バルブ6を囲うプロテクター10が設けられ、容器本体2の下鏡4に支持脚としてリング状のスカート20が接合されてなる高圧ガス容器1において、バルブ6を容器本体2の上鏡3に取り付けた状態でバルブ6の接続口の向きを前方としたとき、プロテクター10は、左右方向に、2個に分割されて容器本体2の上鏡3の対抗する位置に設けられてなり、スカート20は、容器本体2との接合部8に、通気のための開口部21が、持ち手にもなるサイズで前後左右に4箇所設けられ、スカート20の下端部22の曲り部23に、複数の水抜き用切り欠き24が設けられてなるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装がし易く、防錆効果を長期間維持でき、軽量で、低コストで製造できるLPG等の高圧ガス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
LPG(液化石油ガス)等の高圧ガスを封入するための高圧ガス容器は、容器本体にねじ込み等で接続されたバルブを保護する目的でプロテクターを設けることが義務づけられている。例えば、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則(第18条)では、「充てん容器等(内容積が5リットル以下のものを除く。)には、転落、転倒等による衝撃及びバルブ等の損傷を防止する措置を講ずること。」と規定されている。
【0003】
このような法規制の下、従来のプロテクター110には、図10(a)に示すような一体成型した円弧状の周面で構成し、バルブを囲うように高圧ガス容器の上鏡にボルト付け又は溶接付けしたものがある。この従来のプロテクター110が最も一般的であり、これによれば、円弧状の周面でバルブ106が保護されるとともに、その開放部分においてバルブ106の開閉操作が円滑に行える。
【0004】
また、容器底部の腐食対策として設けられている高圧ガス容器のスカートについては、「容器保安規則の機能性基準の運用について」の別添2「溶接容器の技術基準の解釈」の第5条(構造及び仕様)において、詳細に例示されている。
【0005】
例えば、「液化石油ガスを充てんする容器で、内容積が25Lを越え、50L未満の容器の場合、
・寸法は、直径にあっては容器胴部の直径の80%以上、肉厚は3mm以上、底面間隔(容器本体の底部と設置面との間隔)は15mm以上でなければならない。
・スカートの上端部又は中間部には通気孔を3箇所以上設けることとし、その合計面積は、500mm以上でなければならない。
・スカートの下端部の曲り部には水抜き孔を円周に対し等間隔に3箇所以上設けることとし、その合計面積は、100mm以上でなければならない。この場合、水抜き孔の形状は、スカートの下端の曲り部に水が残留しない構造のものであること。
・スカートは、溶接で容器本体に取付けるものとし、容器とスカートとの接続部における内側の角度は30度以上でなければならない。この場合、溶接は、全周溶接又は溶接線長さの合計が、全周の1/3以上となる3箇所以上の溶接とする。」と例示されている。
【0006】
これを受けて、従来のスカート120には、図10(b)に示すように、スカート120の上端部125に3箇所の通気孔121及び中間部126に6箇所の通気孔127が設けられ、スカート120の下端部122の曲り部123には6箇所の水抜き孔124が円周に対し等間隔に設けられたものがある。この従来のスカート120が主流であり、これによって、容器底部の腐食対策が施されている。
【特許文献1】特開2000−234699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の高圧ガス容器101は、防錆のために容器全体の塗装が必須となるが、従来のプロテクター110については、プロテクター110が容器本体102の上鏡103に取り付けられた後、この上鏡103にバルブ106が装着され、このバルブ106にキャップが付けられてから塗装が行われている。
【0008】
しかしながら、従来のプロテクター110は、一体成型した円弧状の周面でバルブ106を囲うように構成しているため、バルブ106とプロテクター110との間隔が狭く、バルブ106の背面を塗装し難いという問題があった。
【0009】
また、従来のスカート120については、一般に、スカート120の下部及び外面から,並びに,上端部125の通気孔121及び中間部126の通気孔127を介して、研掃材(粒体)の投射により容器底面及びスカート120の内外面へのバリの除去や表面研削が行われ(ブラスト加工)、続いて、塗料のスプレー噴射により容器底面及びスカート120の内外面への塗装が行われている。
【0010】
しかしながら、上端部125の通気孔121,及び中間部126の通気孔127の面積は小さく、これに伴って研掃材の投射角度や塗料のスプレー噴射角度が小さくなるため、研掃材や塗料の届き難い箇所ができ、ブラスト加工や塗装が困難となると共に、通気がよくない箇所、特に容器とスカートとの接合部の内側においては、スプレー噴射された塗料を含む気流の滞留が生じ、塗装品位が低下するという問題があった。
【0011】
また、従来の高圧ガス容器101は、使用に際して雨風に晒される屋外に設置されることが多く、従来のプロテクター110及びスカート120の両者について、塗装による防錆効果を長期間維持するために、排水性や通気性をよくすることが求められている。
【0012】
しかしながら、従来のプロテクター110は、一体成型した円弧状の周面でバルブ106を囲うように構成しているため、バルブ106の背面方向への排水性や通気性が十分でなかった。また、従来のスカート120についても、水抜き孔124が小さな穴で構成され、上端部125の通気孔121,及び中間部126の通気孔127の面積も小さいため、容器底部の排水性や通気性が十分でなかった。したがって、従来の高圧ガス容器101は、乾燥し難く、塗装による防錆効果を長期間維持できないという問題があった。
【0013】
また、従来の高圧ガス容器101は、設置や回収する際には手運びになるため、軽いものが望まれるが、従来のプロテクター110やスカート120が重いという問題があった。
【0014】
さらに、従来の高圧ガス容器101は、プロテクター110を一体成型によって製造するため、容器本体の材料とは別に、プロテクター110用に材料を調達する必要があり、コスト高になるという問題があった。
【0015】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、バルブ106とプロテクター110との間隔が狭いために生ずるバルブ106の背面を塗装し難いという問題、スカート120の形状に起因してブラスト加工や塗装が困難となると共に、通気がよくない箇所で塗装品位が低下する問題、プロテクター110やスカート120の排水性や通気性が十分でないため塗装による防錆効果を長期間維持できないという問題、プロテクター110やスカート120が重いという問題、さらに、プロテクター110用に材料を調達する必要があるためコスト高になるという問題を解消できる高圧ガス容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、円筒形の容器本体の上鏡に、バルブを囲うプロテクターが設けられ、前記容器本体の下鏡に支持脚としてリング状のスカートが接合されてなる高圧ガス容器において、前記バルブを前記容器本体の上鏡に取り付けた状態で前記バルブの接続口の向きを前方としたとき、前記プロテクターは、左右方向に、2個に分割されて前記容器本体の上鏡の対抗する位置に設けられてなることを特徴としている。
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、前記プロテクターは、バルブの背面側には周面が設けられず、2個に分割されて前記容器本体の上鏡の対抗する位置に設けられているため、バルブの背面方向から塗装ができる。したがって、バルブ106とプロテクター110との間隔が狭いために生ずるバルブ106の背面を塗装し難いという問題が解消できる。
【0018】
また、請求項1に記載の発明によれば、前記プロテクターは、バルブの背面側には周面が設けられていないため、バルブの背面方向への排水性や通気性がよい。したがって、乾燥し難く、塗装による防錆効果を長期間維持できないという問題が解消できる。
【0019】
さらに、請求項1に記載の発明によれば、前記プロテクターは、バルブの背面側には周面が設けられていないため、バルブの背面側の周面の分だけ重量を軽くすることができる。
【0020】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記プロテクターのそれぞれに持ち手部が設けられ、前記スカートは、前記容器本体との接合部に、通気のための開口部が、持ち手にもなるサイズで前後左右に4箇所設けられ、前記スカートの下端部の曲り部に、複数の水抜き用切り欠きが設けられてなることを特徴としている。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、前記スカートは、前記容器本体との接合部に、通気のための開口部が、持ち手にもなるサイズで4箇所設けられており、前記スカートの下端部の曲り部に、小さな水抜き孔124に代えて複数の水抜き用切り欠きが設けられているため、開口面積が従来に比べて格段に大きくなっている。したがって、請求項1による効果に加えて、研掃材の投射角度や塗料のスプレー噴射角度が大きくなり、研掃材や塗料が細部まで届き易くなるため、ブラスト加工や塗装が困難となる問題が解消できる。
【0022】
加えて、これまで通気がよくなかった容器とスカートとの接合部の内側に、開口面積が十分に大きい開口部が設けられたことにより、スプレー噴射された塗料を含む吹き返りの気流が開口部に流れ、スプレー噴射された塗料を含む気流の滞留が発生しないため、塗装品位が低下するという問題が解消できる。
【0023】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1による効果に加えて、前記プロテクターのそれぞれに持ち手部が設けられ、通気のための開口部が、持ち手にもなるサイズで、前記持ち手部の方向と一致するように設けられているため、同一方向の持ち手部と開口部とを両手で同時に掴むことが可能であり手運びがし易い。
【0024】
さらに、請求項2に記載の発明によれば、請求項1による効果に加えて、前記スカートは、開口面積が従来に比べて格段に大きくなっているため、開口面積が大きくなった分だけ重量を軽くすることができる。
【0025】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2において、前記プロテクターは、前記容器本体材料の抜断残材から材料取りがされることを特徴としている。
【0026】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2による効果に加えて、前記プロテクターは、一体成型せずに2個に分割されているので材料取りの面積が少なくて済むため、前記容器本体材料の抜断残材からでも十分に材料取りが可能であり、前記プロテクター用の材料を別途に調達する必要がなく、コスト高になるという問題が解消できる。
【0027】
請求項4に記載の発明は、円筒形の容器本体の上鏡に、バルブを囲うプロテクターが設けられ、前記容器本体の下鏡に支持脚としてリング状のスカートが接合されてなる高圧ガス容器において、前記スカートは、前記容器本体との接合部に、通気のための開口部が、持ち手にもなるサイズで前後左右に4箇所設けられ、前記スカートの下端部の曲り部に、複数の水抜き用切り欠きが設けられてなることを特徴としている。
【0028】
請求項4に記載の発明によれば、前記スカートは、前記容器本体との接合部に、通気のための開口部が、持ち手にもなるサイズで、4箇所設けられており、前記スカートの下端部の曲り部に、小さな水抜き孔124に代えて複数の水抜き用切り欠きが設けられているため、開口面積が従来に比べて格段に大きくなっている。したがって、研掃材の投射角度や塗料のスプレー噴射角度が大きくなり、研掃材や塗料が細部まで届き易くなるため、ブラスト加工や塗装が困難となる問題が解消できる。
【0029】
加えて、これまで通気がよくなかった容器とスカートとの接合部の内側に、開口面積が十分に大きい開口部が設けられたことにより、スプレー噴射された塗料を含む気流の滞留が発生しないため、塗装品位が低下するという問題が解消できる。
【0030】
また、請求項4に記載の発明によれば、前記スカートは、開口面積が従来に比べて格段に大きくなっているため、開口面積が大きくなった分だけ重量を軽くすることができる。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、バルブ106とプロテクター110との間隔が狭いために生ずるバルブ106の背面を塗装し難いという問題、スカート120の形状に起因してブラスト加工や塗装が困難となると共に、通気がよくない箇所で塗装品位が低下する問題、プロテクター110やスカート120の排水性や通気性が十分でないため塗装による防錆効果を長期間維持できないという問題、プロテクター110やスカート120が重いという問題、さらに、プロテクター110用に材料を調達する必要があるためコスト高になるという問題を解消できる高圧ガス容器を提供することができる。
【0032】
すなわち、この発明によれば、塗装がし易く、防錆効果を長期間維持でき、軽量で、低コストで製造できる高圧ガス容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は、例えば、図1に示すような構成の高圧ガス容器1に適用される。
【0034】
先ず、図1乃至6を参照して、高圧ガス容器1の構成について説明する。この高圧ガス容器1は、図1に示すように、円筒形の容器本体2の上鏡3に、バルブ6を囲うプロテクター10が設けられ、容器本体2の下鏡4に支持脚としてリング状のスカート20が接合されている。
【0035】
容器本体2は、鋼材からなり、670mm程度の全長,320mm程度の内径,2〜3mmの肉厚をもつ上下両端が密閉された円筒形をした中空状の圧力容器である。容器本体2は、上鏡3と下鏡4とから構成されている。上鏡3及び下鏡4は、それぞれ深絞り成形等により断面U字型の圧力蓋に成形され、それぞれの開口縁同士が互いに溶接付けされている。
【0036】
高圧ガス容器1の他の実施例として、容器本体2は、円筒形をした胴体5と、その両端開口部を閉鎖する上鏡3及び下鏡4により構成されてもよい。この場合、上鏡3及び下鏡4は、それぞれ絞り成形等により断面U字型の圧力蓋に成形され、それぞれが胴体5の両端開口部に溶接付けされる。
【0037】
ここで、容器本体2は、円柱対称性を有しているため、前後方向及び左右方向は任意に決め得るが、説明の便宜上、容器本体2の上鏡3にバルブ6を取り付けた状態で接続口7の向きを前方と定義する。
【0038】
プロテクター10は、鋼材からなり、140mm程度の高さ,2〜3mmの肉厚,170〜180mm程度の半径で約100°の中心角をもつ2個の円弧状の周面で構成されている。また、プロテクター10は、図1及び図2に示すように、左右方向の、容器本体2の上鏡3の対抗する位置に、バルブ6の接続口7に対して側面を2個の円弧状の周面で囲うようにボルト付け又は溶接付けによって固定されている。
【0039】
また、プロテクター10は、図3に示すように、容器本体2の上鏡3及び下鏡4の抜断残材から材料取りがされる。そして、図4に示すように、プロテクター10のそれぞれには持ち手部11が設けられ、金型を用いたプレス加工により円弧状の周面(図1及び図2を参照。)や持ち手部の丸み(図4(b)を参照。)が形成されている。
【0040】
スカート20は、鋼材からなり、290mm程度の直径,60mm程度の高さ,3mm程度の肉厚をもつリング状の支持脚である。スカート20は、図1に示すように、その上端開口縁が下鏡4の表面に溶接にて固定されている。また、スカート20は、容器本体2との接合部8に、通気のための開口部21が、前後左右に4箇所設けられ、図5及び図6に示すように、スカート20の下端部22の曲り部23に、水抜き用切り欠き24が4箇所設けられている。
【0041】
接合部8は、容器本体2の下鏡4とスカート20の上端開口縁とが溶接付けによって接合されている。
【0042】
開口部21は、図5及び図6に示すように、スカート20が単体では切り欠き状になっている。開口部21は、容器本体2の底部とスカート20とが接合されることによって、スカート20の外周方向に約120mmの幅及び外周方向に対して垂直方向に約40mmの幅を有する略長方形の開口として形成される。開口部21は、図5及び図6に示すように、中側の2隅が丸い(約30mmの曲率半径)形状をしている。開口部21は、スカート20の前後左右に4箇所設けられている。そして、スカート20は、左右方向の開口部21及びプロテクター10に設けられた持ち手部11の方向が一致するように容器本体2の下鏡4に接合されている。
【0043】
水抜き用切り欠き24は、図5及び図6に示すように、スカート20の外周方向に約60mmの幅及び外周方向に対して垂直方向に約10mmの幅を有する略長方形の切り欠きである。水抜き用切り欠き24は、図5及び図6に示すように、中側の2隅が丸い(約10mmの曲率半径)形状をしている。水抜き用切り欠き24は、図5に示すように、スカート20の斜め方向に4箇所設けられている。図6の展開図を用いて説明すると、水抜き用切り欠き24は、隣り合う開口部21の中間の下端部に設けられている。また、スカート20の下端部22において、水抜き用切り欠き24を構成しない縁部が、スカート20の内側へ折り曲げられて曲り部23を形成している。
【0044】
本発明は、他の実施例として、例えば、図7に示すような構成の高圧ガス容器51に適用してもよい。この高圧ガス容器51は、図7及び図8に示すように、プロテクターを2個に分割して円筒形の容器本体2の上鏡3に設けると共に、プロテクター10の上部をバルブ6の背面方向に延長して持ち手部12を形成している。
【0045】
続いて、前述した構成の高圧ガス容器1の製造方法について図9を参照して説明する。
【0046】
この高圧ガス容器1の製造方法は、鋼板(JIS G3116 SG325 t=2.6)をφ695mmに丸抜きするコイルの抜断工程(ステップST1)と、丸抜きされた鋼板を油圧プレスにてプレス成型を行う成型プレス工程(ステップST2)と、プレス成型後の鏡の端面を切削加工し、所定の寸法に仕上げる機械加工,段付け工程(ステップST3)と、上鏡3にネックリングを,下鏡4にスカート20をそれぞれ溶接にて取り付けるネックリング溶接,スカート溶接工程(ステップST4)と、上鏡3と下鏡4とを組み立てる組立工程(ステップST5)と、組み立てた上鏡3と下鏡4とを溶接する円周溶接工程(ステップST6)と、プロテクター10を容器本体2に冶具を用いてセットし容器本体2に溶接するプロテクター溶接付け工程(ステップST7)と、残留応力除去を目的として容器を焼鈍する焼鈍工程(ステップST8)とを含んで構成されている。
【0047】
そして、この高圧ガス容器1の製造方法は、焼鈍工程(ステップST8)後、水圧にて容器の耐圧試験を行い、内部洗浄、乾燥を行う耐圧試験工程(ステップST9)と、容器の質量を測定し、容器に当該質量を刻印する質量測定,質量刻印工程(ステップST10)と、容器表面にブラスト加工を施す表面仕上工程(ステップST11)と、容器にバルブ6を取付けるバルブ取付工程(ステップST12)と、容器にエアーを充填し、気密試験を行う気密試験工程(ステップST13)と、塗装前処理として、リン酸亜鉛皮膜処理(パーカーライジング処理)を行う表面処理工程(ステップST14)と、容器底部及び上部の補正塗りを行い、その後容器全面への塗装を行い、熱風乾燥炉で乾燥させる塗装工程(ステップST15)と、法定表示(燃、LPガス、充填期限)を行い、必要に応じて容器所有者の表示を行う表示工程(ステップST16)とを含んで構成されている。
【0048】
コイルの抜断工程(ステップST1)において、図3に示すように、刃物金型を用いて平板鋼材を丸抜き後の略三角状の残材からプロテクター10の材料取りを行う。プロテクター10については、金型を用いたR曲げにより円弧状の周面を形成し、その後、金型を用いたプレス加工により持ち手部11の丸みを形成する。
【0049】
スカート20については、刃物金型を用いて、平板鋼材から図6に示す形状に型抜きを行う。このとき、開口部21や水抜き用切り欠き24も同時に型抜きがされる。型抜きがされた平板をローラ曲げによりリング状に成型し、両端を溶接付けにより接合する。そして、リング状の成型物をプレス加工により図1(又は図7)及び図5に示す形状に成型する。
【0050】
ブラスト加工については、詳細には、誘導式,直圧式,遠心投射式,又は湿式のブラスト機を用い、高圧ガス容器1の表面に研掃材を吹き付ける。なお、研掃材としてはサンド,グリット,ガラスビーズ,ショット(鋼粒)を用いるが、このとき高圧ガス容器1内は空にし、又バルブ6を未装着状態にして、その接続口には研掃材が流入しないよう栓をする。
【0051】
塗装については、通常はスプレー装置を用いて塗料を高圧ガス容器1の表面に吹き付け、その後乾燥させて10〜100μmの塗膜を形成する。例えば、熱可塑性樹脂系塗料はホットスプレー装置を用いて高圧ガス容器1の表面に溶射し、その後自然乾燥させる。また、熱硬化性樹脂系塗料はエア・スプレーやエアレス・スプレー装置を用いるなどして吹き付けた後、乾燥炉などに入れて焼き付け乾燥を施す。
【0052】
最後に、前述した構成の高圧ガス容器1の作用について説明する。
【0053】
プロテクター10は、バルブ6の背面側には周面が設けられず、2個に分割されて容器本体2の上鏡3の対抗する位置に設けられているため、バルブ6の背面方向から塗装ができる。
【0054】
プロテクター10は、バルブ6の背面側には周面が設けられていないため、バルブの背面方向への排水性や通気性がよい。したがって、乾燥し易く、塗装による防錆効果を長期間維持できる。
【0055】
プロテクター10は、バルブ6の背面側には周面が設けられていないため、バルブ6の背面側の周面の分だけ重量を軽くすることができる。
【0056】
スカート20は、容器本体2との接合部8に、通気のための開口部21が、持ち手にもなるサイズで4箇所設けられており、スカート20の下端部22の曲り部23に、小さな水抜き孔124に代えて複数の水抜き用切り欠き24が設けられているため、開口面積が従来に比べて格段に大きくなっている。したがって、ブラスト加工や塗装における研掃材の投射角度や塗料のスプレー噴射角度が大きくなり、研掃材や塗料が細部まで届き易くなるため、ブラスト加工や塗装が容易に行える。
【0057】
加えて、これまで通気がよくなかった容器とスカートとの接合部の内側に、開口面積が十分に大きい開口部21が設けられたことにより、スプレー噴射された塗料を含む吹き返りの気流が開口部21に流れ、気流の滞留が発生しないため、塗装品位がよいものとなる。
【0058】
プロテクター10のそれぞれに持ち手部11が設けられ、通気のための開口部21が、持ち手にもなるサイズで、持ち手部11の方向と一致するように設けられているため、同一方向の持ち手部11と開口部21とを両手で同時に掴むことが可能であり手で運び易くなる。
【0059】
プロテクター10は、バルブ6の背面側に持ち手部12を形成した場合(他の実施例)、持ち手部12と通気のための開口部21との方向も一致するため、より運び易くなると共に、持ち手部12が保護壁として機能するのでバルブ6の背面側を保護することができる。
【0060】
スカート20は、開口面積が従来に比べて格段に大きくなっているため、開口面積が大きくなった分だけ重量を軽くすることができる。
【0061】
プロテクター10は、一体成型せずに2個に分割されているので材料取りの面積が少なくて済むため、容器本体2の抜断残材からでも十分に材料取りが可能であり、プロテクター10用の材料を別途に調達する必要がなく、コストを抑えることができる。
【0062】
なお、本発明は前述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態を示す高圧ガス容器の正面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示す高圧ガス容器の平面図である。
【図3】プロテクターの材料取りの説明に供する図であって、ハッチ部分が抜断残材を示している。
【図4】本発明の一実施形態を示す高圧ガス容器の周面形成前のプロテクターであって、(a)正面図、(b)側面図である。
【図5】本発明の一実施形態を示す高圧ガス容器のスカートの平面図である。
【図6】本発明の一実施形態を示す高圧ガス容器のスカートの展開図である。
【図7】本発明の他の実施形態を示す高圧ガス容器の正面図である。
【図8】本発明の他の実施形態を示す高圧ガス容器の周面形成前のプロテクターであって、(a)正面図、(b)側面図である。
【図9】本発明に係る高圧ガス容器の製造方法の説明に供するフローチャートである。
【図10】従来の高圧ガス容器であって、(a)正面図、(b)スカートの平面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 高圧ガス容器
2 容器本体
3 上鏡
4 下鏡
5 胴体
6 バルブ
7 接続口
8 接合部
10 プロテクター
11 持ち手部
12 持ち手部
20 スカート
21 開口部
22 下端部
23 曲り部
24 水抜き用切り欠き
51 高圧ガス容器
101 高圧ガス容器
102 容器本体
103 上鏡
106 バルブ
110 プロテクター
120 スカート
121 通気孔
122 下端部
123 曲り部
124 水抜き孔
125 上端部
126 中間部
127 通気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形の容器本体の上鏡に、バルブを囲うプロテクターが設けられ、前記容器本体の下鏡に支持脚としてリング状のスカートが接合されてなる高圧ガス容器において、
前記バルブを前記容器本体の上鏡に取り付けた状態で前記バルブの接続口の向きを前方としたとき、
前記プロテクターは、左右方向に、2個に分割されて前記容器本体の上鏡の対抗する位置に設けられてなることを特徴とする高圧ガス容器。
【請求項2】
前記プロテクターのそれぞれに持ち手部が設けられ、
前記スカートは、前記容器本体との接合部に、通気のための開口部が、持ち手にもなるサイズで前後左右に4箇所設けられ、前記スカートの下端部の曲り部に、複数の水抜き用切り欠きが設けられてなることを特徴とする請求項1に記載の高圧ガス容器。
【請求項3】
前記プロテクターは、前記容器本体材料の抜断残材から材料取りがされることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高圧ガス容器。
【請求項4】
円筒形の容器本体の上鏡に、バルブを囲うプロテクターが設けられ、前記容器本体の下鏡に支持脚としてリング状のスカートが接合されてなる高圧ガス容器において、
前記スカートは、前記容器本体との接合部に、通気のための開口部が、持ち手にもなるサイズで前後左右に4箇所設けられ、前記スカートの下端部の曲り部に、複数の水抜き用切り欠きが設けられてなることを特徴とする高圧ガス容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−38212(P2010−38212A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200241(P2008−200241)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(504150715)萩尾高圧容器株式会社 (5)
【Fターム(参考)】