説明

高圧超音波パルスを生成する装置と方法

【課題】先行する拡張波を生成することなく、高圧力超音波パルスを生成し、ピエゾ電気トランスジューサの脱分極を回避する、簡単な方法で製造できる装置を提供すること。
【解決手段】本発明の装置は、複数電極(3)を備え、分極方向(f1)を有するピエゾ電気タイプの超音波トランスジューサ(2)と、前記超音波トランスジューサ(2)の前記電極(3)に電圧を印加する手段(4)と備え、
前記分極方向(f1)と逆方向(f2)に電界を加え、次に、前記分極方向(f1)と同一方向に過渡的電界を加え、カップリング媒体に圧縮超音波を発出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高圧力、即ち、数百バール(bar)、又は約千バールのオーダの超音波パルスを生成する技術分野に関する。
【0002】
本発明は、材料又は構造体の非破壊検査分野、若しくは、医療分野(結石破壊(lithotrity)、キャビテーションによる組織破壊等)における応用に関する。
【背景技術】
【0003】
超音波パルスは、ピエゾ型トランスジューサを有する音源を使うカップリング媒体(coupling medium)内で生成される。該トランスジューサは、電圧が印加されると、音波を生成する。、該音波は通常焦点に絞られ、高圧を達する。この点につき留意すべきは、トランスジューサの焦点の圧力と表面の圧力との比は、『アンテナ ゲイン』として知られていることである。該アンテナ ゲインは、放射周波数と、開口度(即ち、トランスジューサの直径に対する焦点長さの比)の関数になっている。一例として、直径約45センチメータのカップ形状、表面圧力約10バール、400kHzの周波数の音源を使うと、結石破壊器の焦点において1000バールの圧力を有する超音波が生成される。
【0004】
このような超音波パルスを生成する音源は、サイズが大きいので、ポータブル又はポータブルに近い装置を製造することはできない。この音源のサイズを小さくする為には、放射カップの表面圧力を大きくしなければならない。
【0005】
この目的を達成するために、従来、ピエゾコンポジットとして知られているコンポジットタイプの材料を使用することが提案されていた。このピエゾコンポジットは、表面圧力を従来のピエゾセラミック材料のものと比較して、1.5から2倍に増大することができるものである。このタイプの材料を使うと、本質的に厚さ方向に振動するので、縦モードが生成される。従来のピエゾセラミック材料を使うケースと比較すると、その振幅が小さい。このゲインは、興味深いものであったが、依然として不十分であった。
【0006】
Luc Chofflet氏がパリ第8大学に提出したドクター論文『超音波トランスジューサと積層マルチピエゾ電気構造の最適化の研究(L’etude de L’optimisation des transducteurs ultrasonores et des structures multi-piezo-electriques empiliees)』には、2個のトランスジューサをサンドイッチ状に組み合わせると、表面圧力を増大させることが可能であることが示されている。理論的には、ゲインは、積層体の層数に比例するものであった。然し、実際に研究してみると、実際のゲインは、より小さなものであった。というのは、前面の(frontal)トランスジューサは、ストレスを全面的に受け、最前列の構成素子が破壊されてしまったのである。更に、平板の積層型トランスジューサを製造することすら既に複雑であるから、カップ形状でこの原理を実施するトランスジューサを製造することは、極めて困難になる。
【0007】
従来技術において、TONPILZ(acoustic mushroom)タイプのトランスジューサは、漁業又は海軍用ソナーに使用する単色(monochromatic)波を生成するためにのみ設計されていた。フランス特許FR 2 640 455及びFR 2 728 755には、ピエゾ電気材料上に機械的なストレスを与え、高圧を生成するための各種方法を記載している。
【0008】
トランスジューサのピエゾ電気材料を固着(clamping)させると、全体の共振周波数を大幅に低下させることが、確認できた。従って、このトランスジューサは、最大でも、数十kHzの共振周波数で動作し、結果、その応用は、ソナーに使用される。更に、トランスジューサが積層体として構成される場合は、この音源は、その積層体層が共振に入る為の周波数だけを伝送することができる。つまり、広帯域周波数のスペクトラムを持つ圧力パルスを伝送できず、又、短いパルスを伝送できない。加えて、積層体構造のトランスジューサを製造することは簡単ではない。
【0009】
先端技術として、米国特許No. 5 549 110が知られている。この特許の装置は、複数電極と、該電極に電圧を加える手段とを備え、ピエゾセラミックタイプのトランスジューサを有する、音波パルス生成装置である。変形例によれば、電圧を加える手段は、トランスジューサが分極する方向と反対方向に電界を与え、その後、トランスジューサが分極する方向と同一方向に過渡的(transient)電界を与え、音響波を放射する。
【0010】
ピエゾ電気トランスジューサ上で電気的プレストレス(prestress)を与えると、機械的プレストレスを与える時に生じる固有な問題を避けることができる。加えて、高圧力の超音波を生成する際に、トランスジューサを伸張する前に、前もって圧縮させておくと、伸張する時、破壊は生じない。
【0011】
にも拘わらず、前記特許に記載された音響波パルス生成装置は、実際には、結石破壊に使用することはできない。この装置が生成する超音波の波形は、音響衝撃波に関連する要件を満たさないからである。特に、前記トランスジューサに与えられるプレストレスは、後続して生成される圧縮波(compression wave)の大きさに実質的に等しい大きさの拡張波(expansion wave)を生成する。前記波は、キャビテーションを導き、これにより、後続の圧縮波の伝播は阻止される。更に、トランスジューサに与えられるプレストレスは、不可避的に脱分極に導くものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、前記先端技術の欠点を改良するもので、先行する(prior)拡張波を生成することなく、高圧力超音波パルスを生成し、ピエゾ電気トランスジューサの脱分極を回避し、然も、簡単な方法で製造することのできる装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成する為に、高圧超音波パルスを生成する本発明の装置は、
・複数電極を備えた、所与の方向に分極を有する、ピエゾ電気タイプのトランスジューサを有する超音波源と、
・前記超音波トランスジューサの電極に電圧を印加する手段とを有し、該手段は、超音波を放射するために、以下を行う。
・超音波トランスジューサを圧縮するために、分極方向と逆方向に電界を印加すること。
・次に、分極方向と同一の方向の過渡的電界をかけ、圧縮超音波をカップリング媒体において放射すること。
【0014】
本発明によれば、前記手段は、立上り時間を有する進行的(progressive)電界を印加し、ピエゾ電気超音波トランスジューサの脱分極に導く印加時間の間、分極方向と逆方向の電界を生成する。
【0015】
本発明の他の目的は、トランスジューサの脱分極を回避し、特に、高圧力超音波パルスを生成するための装置を提案することである。前記トランスジューサは、特に、脱分極を徐々に引き起こす、大きい幅の分極(de forte amplitude )を有するものである。
【0016】
この目的を達成する為に、本発明による、超音波パルス生成装置は、電圧印加手段を有し、該電圧は、電圧印加時間中に過渡的電界を生成する。前記印加時間は、必要に応じて、前記分極方向の逆方向に電界を加える時間より長いか又は等しくし、超音波トランスジューサが再分極化(repolarization)されるようにする。
【0017】
以下の記載と図を参照し、種々の別の特徴を示す。これら図は、本発明の実施例を表すものであるが、本発明は、これら図に限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1から分かるように、高圧力超音波生成装置1は、カップリング媒体において音波を放射する音源を形成するピエゾ電気タイプの超音波トランスジューサ2を有する。前記トランスジューサ2は、電圧印加手段4に接続する、相互に平行な複数電極3を有する。
【0019】
トランスジューサ2については、その構成は当業者に周知であるから詳細に説明しない。又、音波を生成するための能動素子として、超音波トランスジューサ2は、ピエゾセラミック、ピエゾコンポジット、又はピエゾ電気ポリマ材料のような、全てのピエゾ電気タイプの材料を包含する。
【0020】
公知の方法により、トランスジューサ2は、矢印f1で示す、電極3に垂直な方向の分極を有する。従って、ピエゾ電気材料に特有な分極方向が、電圧を電極3に印加すると生成する電界に平行である限り、トランスジューサ2は、圧縮/拡張モードで動作する。前記トランスジューサのピエゾ電気材料の変形は、本質的に電界に平行な方向に起こる。
【0021】
本発明によると、前記手段4は、高圧力超音波を生成する前に、電気的プリストレスをトランスジューサ2に加える。図2に示すように、前記手段4を制御し、進行的電圧をトランスジューサ2の電極3に加えると、ピエゾ電気材料において、分極方向f1と逆方向の電界(矢印f2で示す)が生成される。これにより、トランスジューサ2は、徐々に圧縮される。図2を図1と比較して、分かるように、電極3に加えられる進行的電圧は、このようなものであるから、トランスジューサ2は、分極方向と逆方向f2の電界に従うこととなり、トランスジューサ2は、徐々に圧縮される。生成される圧力は電圧変化率(即ち、その導関数)に比例するから、トランスジューサ2は、徐々に圧縮される。図4から分かるように、期間Tの制御電圧V2は、トランスジューサの電極3に加えられる立上り時間t2mを有する進行的電圧を導く。これは、電圧V4に対応する図を参照すると理解できる。
【0022】
次に、前記手段4は、電圧V3を加え、ピエゾ電気材料において、分極方向と同一方向の過渡的電界を生成する。図3を参照して分かるように、トランスジューサ2は、分極方向f1と同一方向f3の電界に従う。前段階の状態から出発して、トランスジューサ2は、拡張(expansion)に従い、カップリング媒体に圧縮波5を送出する。
【0023】
上記記載から分かるように、本発明は、トランスジューサ2を徐々に圧縮して、超音波5を送出する簡単な方法である。このために、進行的電圧手段を使って、トランスジューサの分極方向と逆方向の電界をトランスジューサに加える。前記進行的電圧の後、前記分極と同一方向の電界を加え、それにより、拡張に導くのである。最初、トランスジューサ2を伸張する前に、圧縮する限り、トランスジューサ2は、図1に示す最初の段階から,ほとんど伸張していないと考えられる。トランスジューサ2は、破壊を回避するに十分な程度、僅かに伸張される。更に、トランスジューサ2に、徐々にプレストレスを加えることは、圧縮波の伝播を抑止する拡張波の発生を回避するためである。
【0024】
本発明の特徴に従うと、前記手段4は、T期間、電圧を印加し、前記分極方向と逆方向のf2方向の電界を生成する。前記T期間は、ピエゾ電気トランスジューサ2の脱分極(図4)に導く期間より短い。例えば、前記分極方向に逆方向の電界を加える為の、前記進行的電圧の印加期間Tは、10マイクロ秒(μs)より大きく、約100μsが好ましい。従って、所定期間、進行的電圧を印加することにより、トランスジューサ2に脱分極を起こさず、徐々にプリストレスを与えることができる。
【0025】
好ましい実施例によると、前記手段4は、電圧V3を印加し、分極方向f1と同一の方向f3に、印加期間t3、過渡的電界を生成する。前記印加期間t3は、1μsから1秒(s)の期間で、好ましくは,約100ミリ秒(ms)である。
【0026】
好ましい実施例によると、過渡的電界の印加時間t3は、前記分極方向f1と逆方向f2に電界を加える期間Tより大きいか、等しくする。そうすることにより、ピエゾ電気超音波トランスジューサ2に、小さい脱分極が発生する場合でも、再分極化できる。特に、特殊なケースで、トランスジューサ2が大きい幅で(avec une forte amplitude)分極している場合でも再分極化できる。図4から分かるように、電圧V3は、圧縮波を生成するが、徐々に、その初期電圧(0V)に復帰し、トランスジューサの再分極を可能にする。
【0027】
別の好ましい実施例によれば、前記手段4は、電圧V3を印加し、分極方向f1と同一の方向f3に、立上り時間t3m、過渡的電界を生成する。前記立上り時間t3mは、0.1μsから20μsの期間で、結石破壊用には、好ましくは,1μsから10μsである。
【0028】
図4の第3タイムチャートは、トランスジューサ2の電極間の電圧V4の波形である。好ましい実施例によると、分極方向f1の逆方向f2に電界を加えるための進行的電圧は、立上り時間t2mを有する。該立上り時間t2mは、前記遷電界の立上り時間t3mより大きくして、有害波(即ち、拡張波)の影響を最小化する。好ましい実施例においては、この立上り時間t2mは、少なくとも、前記過渡的電界の立上り時間t3mより10倍大きい。
【0029】
従って、本発明によれば、高圧力超音波生成用装置を作成することができる。即ち、本発明を使わないトランスジューサでは、最大圧力は、35バール(悪化する以前)であった。電気的プリストレスを加えるトランスジューサでは、最大圧力60バールを得ることができた。
【0030】
当然、電極端子に電圧を加える前記手段4は、1又は2の発電機(generator)を使って、適当な方法で構成することができる。加えて、トランスジューサの形状をどのような形状にしてもよい。例えば、カップ形状にすることもできる。
【0031】
本発明は、前記実施例に限定されることなく、本発明の範囲を超えることなく、種々の変形をおこなうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による、超音波パルスを生成する装置の図である。
【図2】本発明による、超音波パルスを生成する装置の図である。
【図3】本発明による、超音波パルスを生成する装置の図である。
【図4】本発明の装置が動作する原理を説明する為のタイムチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップリング媒体における高圧力超音波生成装置であって
・複数電極(3)を備え、所定方向(f1)の分極を示すピエゾ電気タイプの超音波トラ ンスジューサ(2)を有する超音波源と、
・ ・前記超音波トランスジューサ(2)を圧縮するために前記分極方向(f1)と逆方 向(f2)に電界を加え、
・次に、前記分極方向(f1)と同一方向(f3)に立上り時間を持つ過渡的電界を加え、カップリング媒体に圧縮超音波を発出させるように、
超音波を発生させるために前記超音波トランスジューサ(2)の前記電極(3)に電圧を印加する手段(4)とを有し、
前記進行的電圧は、前記ピエゾタイプトランスジューサを脱分極するのに必要な時間より短い時間、逆方向(f2)の電界を生成するように、立上り時間(t2m)を有し、該立上り時間(t2m)は過渡的電界の立上り時間(t3m)より少なくとも10倍長いことを特徴とする高圧力超音波パルス生成装置。
【請求項2】
前記分極方向(f1)と逆方向(f2)に電界を加えるために電圧を印加する時間(T)が、10μsより長いことを特徴とする請求項1に記載の高圧力超音波パルス生成装置。
【請求項3】
電圧(V3)を印加するための前記手段(4)は、約1ミリ秒(ms)乃至1秒(s)の範囲を持つ印加時間(t3)で、前記分極方向(f1)と同一方向(f3)に過渡的電界を加えることを特徴とする請求項1に記載の高圧力超音波パルス生成装置。
【請求項4】
電圧(V3)を印加するための前記手段(4)は、約0.1μs乃至20μsの範囲の立上り時間(t3m)で、前記分極方向(f1)と同一方向(f3)に過渡的電界を加えることを特徴とする請求項1に記載の高圧力超音波パルス生成装置。
【請求項5】
前記分極方向(f1)と逆方向(f2)の進行的電界を加える電圧は、前記過渡的電界の立上り時間(t3m)より長い立上り時間(t2m)を有することを特徴とする請求項1に記載の高圧力超音波パルス生成装置。
【請求項6】
必要に応じて超音波トランスジューサを再分極化可能にするために、過渡的電界を加える時間(t3)は、前記分極方向(f1)と逆方向(f2)に加える時間(T)より長い又は等しいことを特徴とする請求項1に記載の高圧力超音波パルス生成装置。
【請求項7】
前記分極方向(f1)と逆方向(f2)に電界を加えるために電圧を印加する時間(T)が、約100ミリ秒(ms)であることを特徴とする請求項2に記載の高圧力超音波パルス生成装置。
【請求項8】
進行的電圧を印加するための前記手段は、約100ミリ秒(ms)の印加時間(t3)、前記分極方向(f1)と同一方向(f3)の過渡的電界を加えることを特徴とする請求項3に記載の高圧力超音波パルス生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−22012(P2009−22012A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183834(P2008−183834)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【分割の表示】特願2003−532216(P2003−532216)の分割
【原出願日】平成14年10月4日(2002.10.4)
【出願人】(592236234)アンスティテュー・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル・(イ・エヌ・エス・ウ・エール・エム) (12)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE (I.N.S.E.R.M.)
【Fターム(参考)】