説明

高強度低温焼成セラミックと高強度低温焼成セラミック基板の製造方法

【課題】 低融点金属との同時焼成が可能であり、クラックや破損が生じにくい回路基板を形成し得る高強度の低温焼成セラミックと、低温焼成セラミックからなる回路基板の製造方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも主成分としてAl、Si、Sr、Baを含み、組織中に六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの少なくとも一種及びAl結晶を有する高強度低温焼成セラミックとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度低温焼成セラミックと高強度低温焼成セラミック基板の製造方法に関し、特には機械的強度が高く、銀、金、銅等の低融点金属からなる電極との同時焼成が可能な高強度低温焼成セラミックと高強度低温焼成セラミック基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からIC等の半導体素子や各種電子部品を搭載し、内層回路を配したセラミック積層回路基板が知られている。このような積層回路基板には、これまで放熱性、電気的特性、機械的強度等が総合的に優れたアルミナ基板が用いられて来た。アルミナ基板は焼成温度が1300〜1600℃と高いため、電極材料にはW,Mo等の高融点金属が使用されている。しかし、これらの電極材料は電気抵抗率が高く、携帯電話等の数百MHzを超える高周波回路では信号の伝送損失の増大を招く問題があった。
携帯電話等の移動体通信分野においては、特に、信号の伝送損失が小さいことが求められている。このため、W,Mo等の高融点金属の代わりに、電気抵抗率の小さい銀、金、銅等の電極材料が用いられるようになり、またセラミック積層回路基板には、前記電極材料と同時焼成が可能なガラスセラミックスや、低温焼成セラミックが多く使用されるようになった(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、前記積層回路基板は、アルミナ基板に比べて機械的強度が著しく劣っていた。例えばアルミナ基板の抗折強度は400MPa程度であるが、前記積層回路基板の抗折強度は200MPa程度である。従来の携帯電話等では積層回路基板の抗折強度が150MPa以上あれば実用的に十分であったが、携帯電話等に用いる電子部品の薄型化にともない、その中に用いられる積層回路基板も1mm以下にまで薄型化している。このように携帯電話等に用いる積層回路基板には、例えば、実装基板のねじれや曲がり等の変形や、落下時の衝撃に対して、クラックや破損が生じないような高強度が求められ、従来のセラミック積層回路基板では機械的強度が不十分となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−272960号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、低温焼成セラミックからなる積層回路基板の機械的強度を向上させるために、前記特許文献1に開示された低温焼成セラミックを基にして、種々の検討を行った。その内、低温焼成セラミックを構成する結晶相に着目し、焼成温度を変えて析出する結晶相を変えた試験片を作成して機械的強度を評価したところ、組織中に六方晶結晶を有するものが、他の結晶相のみで構成されるものより、相対的に高強度であることを知見した。
【0006】
しかしながら、六方晶結晶を析出させるためには焼成温度を下げることが必要となり、AgやCuとの同時同時焼成が困難となる場合があった。
従って本発明の目的は、低融点金属との同時焼成が可能であり、クラックや破損が生じにくい回路基板を形成し得る高強度の低温焼成セラミックを提供することである。
本発明のさらにもう一つの目的は、かかる低温焼成セラミックからなる回路基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、少なくとも主成分としてAl、Si、Sr、Baを含み、組織中に六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの少なくとも一種及びAl結晶を有し、10〜60質量%(Al換算)のAlと、25〜60質量%(SiO換算)のSiと、7.5〜50質量%(SrO換算)のSrと、3.0〜50質量%(BaO換算)のBaとを主成分とし、前記主成分100質量%に対して、0.1〜10質量%(Bi換算)のBiと、0.1〜5質量%(CoO換算)のCoからなる群から選ばれた少なくとも1種と、0.01〜5質量%(CuO換算)のCuと、0.01〜5質量%(MnO換算)のMnと、0.01〜5質量%のAgと、0.01〜2質量%(ZrO換算)のZrとからなる群から選ばれた少なくとも1種とからなる副成分とを含有することを特徴とする高強度低温焼成セラミックである。
更に副成分として20質量%以下(TiO換算)のTiや0.1〜5質量%(B換算)のBを含んでいても良い。
【0008】
組織中に六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSi少なくとも一種を有する場合、組成物の抗折強度は300MPa以上となるが、組織中に六方晶を有さず、SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSi結晶が単斜晶および斜方晶であると、強度は150MPa程度に低下してしまう。
【0009】
六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiと単斜晶、斜方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiとで、機械的強度に著しい差がある理由は明らかではないが、主結晶相であるSrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSi結晶がAl結晶と同じ六方晶系として存在することにより、両結晶相の結び付きが強化され、機械的強度が高まるためであると考えられる。
低温焼成セラミックを六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの少なくとも一種とAl結晶が混在する組織とすることにより、電子部品に用いるのに必要な比誘電率、1.5THzを超える実用的なfQ等の誘電特性を確保しながら、機械的強度を向上することが出来る。
【0010】
第1の発明のおいては、更に単斜晶及び斜方晶のSrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiを有していても良い。さらに前記Al結晶粒の平均結晶粒径を1μm以下とするのも好ましい。
【0011】
第2の発明は、少なくとも主成分としてAl、Si、Sr、Baを含み、組織中に六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの少なくとも一種及びAl結晶を有する高強度低温焼成セラミック基板の製造方法であって、前記主成分材料と、Bi、Coからなる群から選ばれた少なくとも1種の材料を混合して仮焼し、Al結晶を有するガラス粉末とした仮焼粉を得る工程と、前記仮焼粉を成形して得られた成形体を、前記仮焼の温度よりも高温であり825℃〜920℃の温度で焼成して、組織中に六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの少なくとも一種及びAl結晶を形成する工程を備えたことを特徴とする回路基板の製造方法である。
【0012】
第2の発明においては、前記仮焼に供される材料として、更にCu、Mn、Ag及びZrからなる群から選ばれた少なくとも1種の材料を含むのが好ましい。
更に前記仮焼に供される材料として、20質量%以下(TiO換算)のTiや0.1〜5質量%(B換算)のBを含んでいても良い。
【0013】
前記成形は、前記仮焼粉をシート成形してセラミックグリーンシートを得る工程と、前記セラミックグリーンシートに低融点金属のペーストにより導電パターンを形成する工程と、前記導電パターンが形成されたセラミックグリーンシートを積層して積層体とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の低温焼成セラミックは、組織中に六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの少なくとも一種を有するので、高強度で実用的な誘電特性を有し、かつ1000℃以下の低温での焼成が可能である。
そのため、銀、金、銅等の低融点電極材料との同時焼成が可能である。また本発明の高強度低温焼成セラミックは、誘電率、fQ等の誘電特性に優れているのみならず、従来よりも機械的強度が向上するので、積層回路基板とするときに低融点金属との同時焼成が可能であり、またクラックや破損が生じにくい。そのため、本発明の高強度低温焼成セラミックを用いた積層電子部品は、優れた電気的特性及び機械的強度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係る積層回路基板を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施例に係る積層電子部品を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施例に係る積層電子部品の等価回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の高強度低温焼成セラミックの主成分は、Al,Si、Sr、Baと、副成分としてBi又はCoの少なくとも1種を含み、1050℃以下、好ましくは1000℃以下の温度で焼成し、組織中に少なくとも六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの少なくとも一種及びAl結晶粒を有する。
Baを添加することで、六方晶結晶が析出する温度を上昇させることが出来るので、このような低温焼成セラミックからなる誘電体層上に高導電率を有する低融点金属(銀、銅、金又はこれらの合金)からなる内部電極を形成し、積層後に焼成することにより一体化すると、機械的強度に優れ、高いQ値により極めて損失の小さい高周波電子部品を形成することができる。このため、誘電体共振器、フィルタ、積層インダクタ又は積層コンデンサ、及びこれらを複合化した高周波積層基板等に応用して、機械的強度、マイクロ波特性に優れ、低損失な回路デバイスが得られる。
【0017】
AlはAl換算で10〜60質量%とするのが好ましく、SiはSiO換算で25〜60質量%とするのが好ましく、SrはSrO換算で7.5〜50質量%とするのが好ましく、BaはBaO換算で3.0〜50質量%とするのが好ましい。
これらの金属の含有量がこれらの範囲外であると、1000℃以下の低温焼成では十分な焼成密度が得られないために、低温焼成セラミックは多孔質となり、吸湿等により良好な特性が得られない。
【0018】
また、この低温焼成セラミックに更に、副成分として、Bi、Coからなる群から選ばれた少なくとも1種、及びCu、Mn、Ag及びZrからなる群から選ばれた少なくとも1種を含有させるのが好ましい。またB、Tiを含有させるのも好ましい。
これらの金属の添加量は、特に断りがない限り、主成分の合計100質量%に対して、酸化物換算値で示す。これらの金属は酸化物又は炭酸塩の状態で添加するのが好ましい。
【0019】
Bi、Coは、仮焼工程においてAl以外の成分がガラス化する際、得られるガラスの軟化点を低下させる作用を有するので、より低温での焼成を可能にし、1000℃以下の焼成温度でもQ値の高い誘電特性を有する低温焼成セラミックを得ることを可能にする。ここで低温での焼成を可能にするとは、ガラス相が低融点化することであり、六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの結晶化を高める効果がある。
【0020】
Biは、Bi換算で0.1〜10質量%とするのが好ましい。Biが10質量%より多いと、Q値が小さくなる。Biのより好ましい添加量は5質量%以下である。またBiの添加量が0.1質量%より少ないと、焼成温度の低下効果が不十分である。Biのより好ましい添加量は0.2質量%以上である。
【0021】
Coは、CoO換算で0.1〜5質量%とするのが好ましい。Coが0.1質量%未満の場合、焼成温度の低下効果が不十分であり、900℃以下の焼成で緻密な低温焼成セラミックを得ることが困難である。またCoが5質量%を超えると、低温焼成セラミックの結晶化温度が1000℃超となり、1000℃以下で誘電損失が大きくなり過ぎ、実用性が無くなる。
【0022】
Cu,Mn,Ag及びZrは、主に焼成工程において誘電体セラミック組成物の結晶化を促進する作用があり、1050℃以下での低温焼成を達成するために添加する。
【0023】
Cuは、CuO換算で0.01〜5質量%とするのが好ましい。Cuが0.01質量%未満の場合、その添加効果は小さく、900℃以下での焼成でQ値の高い低温焼成セラミックを得ることが困難である。またCuが5質量%を超えると、低温焼成性が損なわれる。
【0024】
Mnは、MnO換算で0.01〜5質量%とするのが好ましい。Mnが0.01質量%未満の場合、その添加効果は小さく、900℃以下での焼成でQ値の高い低温焼成セラミックを得ることが困難である。またMnが5質量%を超えると、低温焼成性が損なわれる。
【0025】
Agは、0.01〜5質量%とするのが好ましい。Agが5質量%を超えると、誘電損失が大きくなり過ぎ、実用性がない。Agのより好ましい添加量は2質量%以下である。
【0026】
ZrはZrO換算で0.01〜2質量%とするのが好ましい。Zrが0.01質量%未満では、低温焼成セラミックの機械的強度の向上効果が不十分であり、また2質量%を超えると、fQが低下する。ZrO添加による機械的強度の向上効果をより期待するためには、0.3質量%〜1.5質量%とするのがより好ましい。
【0027】
Tiは低温焼成セラミックの共振周波数の温度係数τfを増加させる作用を有する。Tiは、TiO換算で0〜20質量%とするのが好ましい。Tiの含有量が増加するとともに低温焼成セラミックの共振周波数の温度係数は増大する。低温焼成セラミックの共振周波数の温度係数τfが−20〜−40ppm/℃程度のマイナス側にある場合、Tiの含有量を多くしてτfを0ppm/℃に容易に調整することができる。しかしながら、Tiの添加量がTiO換算で20質量%より多いと、1000℃以下の低温焼成では十分な焼成密度が得られないために、低温焼成セラミックが多孔質となり、吸湿等により良好な特性が得られない。
【0028】
Bは0.5〜5質量%とするのが好ましい。Bを添加する事により、添加しないものに比べて六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの少なくとも一種が析出する温度域が広域化する。Bを5質量%以上にするとバインダーのポリビニルブチラールと反応してゲル化し、シート成形性が悪くなる。また、0.5質量%以下にすると誘電特性が劣化し、fQが低下する。
【0029】
不可避的不純物としては、例えばY,Fe,Ca,Ga,Cr等が挙げられる。不可避的不純物の含有量は、低温焼成セラミックの特性を劣化させない範囲内としなければならない。
このような方法により得られる本発明の低温焼成セラミックは、さらに6〜9程度の比誘電率ε、及び実用的な3000GHz(3THz)以上のfQ(fは共振周波数、QはQ値)を有するのが好ましい。
【0030】
積層電子部品は、上記低温焼成セラミックからなる各誘電体層に低融点金属(銀、銅、金又はこれらの合金)からなる導体パターンを形成し、得られた導体パターンを有する誘電体層を複数積層することにより得られる。導体パターン自体は公知のもので良く、例えばインダクタンス素子及び/又はキャパシタンス素子を構成する。積層電子部品には、インダクタンス素子、キャパシタンス素子、スイッチング素子及びフィルタ素子の少なくとも1つを実装しても良い。積層電子部品の層構成自体は公知のもので良い。
【実施例】
【0031】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0032】
(実施例)
Al粉末、SiO粉末、SrCO粉末、BaCO粉末、TiO粉末、Bi粉末、CuO粉末、MnO粉末、HBO粉末をポリエチレン製のボールミルポットに投入し、酸化ジルコニウム製のボールと純水を投入して、20時間湿式混合を行った。
得られたスラリーを加熱乾燥した後、ライカイ機で解砕した。得られた混合粉末をアルミナ製のるつぼに入れて、775℃で2時間仮焼して、Al結晶を含有するホウケイ酸塩系ガラス粉末とした。仮焼粉の組成は、酸化物換算で、38.6質量%のAl、27.8質量%のSiO、11.0質量%のSrO、14.9質量%のBaCO、3.1質量%のTiO、1.9質量%のBi、0.2質量%のCuO、2.1質量%のB及び0.4質量%のMnOであった。
この仮焼粉を上記ボールミルで40時間湿式粉砕した後、乾燥した。得られた乾燥仮焼粉の一部を純水と一緒にボールミルに投入し、平均粒径1.0mmに粉砕した。得られた粉砕粉を含有するスラリーに、ポリビニルアルコール(PVA)を粉砕粉100質量%に対して1.5質量%の割合で添加した後、スプレードライヤーで造粒・乾燥し、平均粒径が約0.1mmの顆粒状の造粒粉を得た。
【0033】
この造粒粉を200MPaの圧力で加圧成形し円柱状成形体を得た。この成形体を大気中で室温から800〜1000℃の温度まで200℃/hrの速度で加熱し、前記温度に2時間保持して焼成した後、室温まで200℃/hrの速度で冷却した。
【0034】
得られた焼成体の比誘電率εを円柱共振器により8〜15GHzの共振周波数で求めた。また上記と同様に作製した38mm×12mm×1mmの試験片に対して、支点間距離を30mmとし、荷重速度を0.5mm/minそして3点曲げ試験(JIS C2141)を行い、試験片が破壊したときの最大荷重から曲げ強さ(抗折強度)を求めた。
その結果、六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSi少なくとも一種が析出する温度域が825℃〜920℃であり、前記温度域では7.2〜7.5の比誘電率及び15〜17THzのfQと優れた誘電特性を示し、抗折強度は約300MPa以上得られた。
【0035】
(実施例2)
Bを含まない以外は、実施例1と同様の手順で仮焼粉を得た。仮焼粉の組成は、酸化物換算で、39.4質量%のAl、28.4質量%のSiO、11.2質量%のSrO、15.2質量%のBaCO、3.2質量%のTiO、2.0質量%のBi、0.2質量%のCuO及び0.4質量%のMnOであった。
【0036】
この仮焼粉を実施例1と同様の手順で造粒、成形し、800〜1000℃の温度で焼成して、誘電特性、抗折強度を評価した。その結果、8.0〜8.3の誘電率及び0.25〜11THzのfQであり、六方晶SrAl2Si2O8、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSi少なくとも一種が析出する温度域は875℃〜約900℃であった。
【0037】
(比較例1)
Baを含まない以外は、実施例1と同様の手順で作成して得られた焼成体について、誘電特性、抗折強度を評価した。この場合には、六方晶SrAlSiが析出するが、その析出温度は約825℃〜約850℃であり、低融点金属とともに焼結するには十分な焼成温度ではなかった。約8.0〜8.2の誘電率及び約2GHzの誘電特性を示し、抗折強度は、400MPaであった。
【0038】
(実施例3)
本発明の高強度低温焼成セラミックを用いた積層電子部品の一例として、携帯電話の高周波回路部に用いるダイオードスイッチ(アンテナ側回路、受信側回路及び送信側回路の接続を切り替える)を以下の通り作製した。
まず、実施例1と同様にして、質量基準で38.6質量%のAl、27.8質量%のSiO、11.0質量%のSrO、14.9質量%のBaCO、3.1質量%のTiO、1.9質量%のBi、0.2質量%のCuO、2.1質量%のB及び0.4質量%のMnOからなる仮焼粉を作製した。
【0039】
この仮焼粉をエタノール及びブタノールの混合溶媒に分散させて、ボールミルで平均粒径1.0μmまで粉砕した。得られたスラリーに、バインダーとしてポリビニルブチラール及び可塑剤としてブチルフタリルブチルグリコレートを、仮焼粉100質量%に対して、それぞれ15質量%及び7.5質量%の割合で分散させ、シート成形用のスラリーとした。
減圧下で脱泡及び溶媒の部分的な蒸発を行ってこのスラリーの粘度を約10000MPa・sにした後、ドクターブレードでシート成形し、約80μmの乾燥厚さを有する長尺のセラミックグリーンシートを得た。後工程のハンドリングのため、このセラミックグリーンシートを所定の大きさに裁断した。
複数枚のセラミックグリーンシートの表面に銀ペーストで伝送線路(インダクタンス素子)を構成する配線パターンL1−1,L1−2,L2−1,L2−2、グランド電極パターンGND、及びスイッチング素子を実装するためのAgペーストを用いて電極パターンを印刷した(図1参照)。
セラミックグリーンシートには、各層間の配線パターンの接続手段として銀ペーストを充填したビアホールが形成されている。導電パターンを印刷した各セラミックグリーンシートを位置合わせし、高精度に積層した後圧着した。圧着条件は、14MPaの圧力、85℃の温度、及び10分の保持時間であった。
【0040】
得られた積層体をチップサイズに切断した後、焼成セッターに載置し、連続炉で脱バインダー及び焼成を行い、4.5mm×3.2mm×1.0mmの焼成体(積層回路基板)を得た。焼成は大気雰囲気中875℃で2時間保持することにより行った。
焼成体のセラミック部分を粉砕してX線回折の測定をしたところ、組織中に六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiが、単斜晶および斜方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSi、Al結晶、TiO結晶、及びホウケイ酸塩系結晶が確認された。
【0041】
焼成体から内部の配線パターンが露出している側面部分に、Agを主成分とする外部電極用ペーストを塗布して800℃で焼き付けた後、銀表面にニッケル及びスズを電解めっきし、端子電極GND,TX,RX,VC1,VC2とした。これらの端子電極のうち端子電極GND,TX,RX,VC1はスイッチング素子を実装するための電極パターンと電気的に接続させた。
このようにして得られた積層回路基板の実装電極パターンに、スイッチング素子としてダイオードD1,D2を実装し、図2に示す積層電子部品1を作製した。積層電子部品1は図3に示す等価回路の破線部を構成する。
【0042】
本実施例では、インダクタンス素子を電極パターンで構成したが、チップインダクタやコイル等を実装しても良い。また直流成分を遮断するコンデンサ素子を、電極パターンで回路基板に構成したり、チップコンデンサとして回路基板上に実装したりしても良い。ダイオードスイッチにローパスフィルタやバンドパスフィルタ等のフィルタ素子が接続されることが多いが、上記フィルタ素子をSAWフィルタで構成し、これを回路基板に実装しても良い。またインダクタンス素子及びキャパシタンス素子からなるフィルタ素子を、回路基板上に電極パターンで形成したり、チップ部品として回路基板上に実装しても良い。
端子電極VC1,VC2に直流電源を接続し、ダイオードD1,D2をON,OFFさせて、端子電極ANT−RX間、及び端子電極ANT−TX間に高周波信号を通過させたところ、信号の伝送損失(挿入損失)が少なく、積層電子部品1は優れた電気的特性を有することが確認された。
【0043】
積層回路基板の端子電極を試験用プリント基板にはんだ付けし、プリント基板を撓ませたり捻じったりして、端子の剥離や積層回路基板のクラック発生に対する抵抗力を評価したところ、従来のものと比べて著しく向上していることが分かった。
本実施例から、本発明の低温焼成セラミックとAg等の低融点金属は同時焼成が可能であるので、本発明の低温焼成セラミックからなる誘電体層に低融点金属の導体パターンを形成すれば、電気的特性及び機械的強度に優れた積層電子部品が得られることが分かる。
【0044】
本発明の低温焼成セラミックは、組織中に六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの少なくとも一種を有するので、高強度で実用的な誘電特性を有し、かつ1000℃以下の低温での焼成が可能である。そのため、銀、金、銅等の低融点電極材料との同時焼成が可能である。
また本発明の高強度低温焼成セラミックは、誘電率、fQ等の誘電特性に優れているのみならず、向上した機械的強度を有するので、積層回路基板とするときに低融点金属との同時焼成が可能であるとともにクラックや破損が生じにくい。そのため、本発明の高強度低温焼成セラミックを用いた積層電子部品は、優れた電気的特性及び機械的強度を有する。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも主成分としてAl、Si、Sr、Baを、副成分としてBi又はCoの少なくとも1種を含み、組織中に六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの少なくとも一種及びAl結晶を有することを特徴とする高強度低温焼成セラミック。
【請求項2】
少なくとも主成分としてAl、Si、Sr、Baを含み、組織中に六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの少なくとも一種及びAl結晶を有し、
10〜60質量%(Al換算)のAlと、25〜60質量%(SiO換算)のSiと、7.5〜50質量%(SrO換算)のSrと、3.0〜50質量%(BaO換算)のBaとを主成分とし、
前記主成分100質量%に対して、0.1〜10質量%(Bi換算)のBiと、0.1〜5質量%(CoO換算)のCoからなる群から選ばれた少なくとも1種と、
0.01〜5質量%(CuO換算)のCuと、0.01〜5質量%(MnO換算)のMnと、0.01〜5質量%のAgと、0.01〜2質量%(ZrO換算)のZrとからなる群から選ばれた少なくとも1種とを、副成分として含有することを特徴とする高強度低温焼成セラミック。
【請求項3】
副成分として、更に20質量%以下(TiO換算)のTi含むことを特徴とする請求項2に記載の高強度低温焼成セラミック。
【請求項4】
副成分として、更に0.1〜5質量%(B換算)のBを含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の高強度低温焼成セラミック。
【請求項5】
少なくとも主成分としてAl、Si、Sr、Baを含み、組織中に六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの少なくとも一種及びAl結晶を有する高強度低温焼成セラミック基板の製造方法であって、
前記主成分材料と、Bi、Coからなる群から選ばれた少なくとも1種の材料とを混合して仮焼し、Al結晶を有するガラス粉末とした仮焼粉を得る工程と、
前記仮焼粉を成形して得られた成形体を、前記仮焼の温度よりも高温であり825℃〜920℃の温度で焼成して、組織中にAl結晶とともに六方晶SrAlSi、(Sr、Ba)AlSi、BaAlSiの少なくとも一種を形成する工程を備えたことを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記仮焼に供される材料として、更にCu、Mn、Ag及びZrからなる群から選ばれた少なくとも1種の材料を含むことを特徴とする請求項5に記載の高強度低温焼成セラミック基板の製造方法。
【請求項7】
前記仮焼に供される材料として、更に20質量%以下(TiO換算)のTi含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の回路基板の製造方法。
【請求項8】
前記仮焼に供される材料として、更に0.1〜5質量%(B換算)のBを含むことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の回路基板の製造方法。
【請求項9】
前記成形は、前記仮焼粉をシート成形してセラミックグリーンシートを得る工程と、前記セラミックグリーンシートに低融点金属のペーストにより導電パターンを形成する工程と、前記導電パターンが形成されたセラミックグリーンシートを積層して積層体とする工程を備えることを特徴とする請求項5乃至8のいずれかに記載の高強度低温焼成セラミック基板の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−162437(P2011−162437A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52690(P2011−52690)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【分割の表示】特願2004−177173(P2004−177173)の分割
【原出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】