説明

高清浄アルミキルド鋼の製造方法

【課題】酸化物系介在物を減少させて曲げ性に優れた鋼板を製造することができるようにする。
【解決手段】取鍋精錬時において、ガス攪拌の時間を5分以上とし、静止状態でのスラグ厚は260mm以上400mm未満とする。また、取鍋精錬時において、スラグ中のMgO量が1.2kg/ton以上5.0kg/ton以下とし、ガス攪拌の時間(t1)とスラグ中のMgO量(X)との関係がt1≦−5X+40を満たすとと共に、t1≧−5X+20を満たすようにする。さらに、真空脱ガス精錬において、溶鋼の還流時間を10分以上40分以下とし、溶鋼還流量も150ton/min以上200ton/min以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高清浄アルミキルド鋼の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、転炉から出鋼した溶鋼に対してガス攪拌による取鍋精錬を行った後、真空脱ガス精錬を行うことで清浄度鋼を製造することは数多く行われている。このような清浄度鋼の製造方法では、鋼中に含まれる酸化系介在物を出来るだけ減少させるような様々な技術が開示されている(例えば、特許文献1〜特許文献3)。
特許文献1では、高清浄度鋼を製造するに当り、転炉または電気炉にて脱炭された後の二次精錬処理において、電磁攪拌のみで溶鋼の攪拌を実施した後に、還流式真空脱ガスを行っている。
【0003】
特許文献2では、真空・減圧精錬装置を用いた溶鋼の精錬方法において、溶鋼にMgO源を添加して、スラグ中MgO濃度を5%以上20%以下としている。
特許文献3では、取鍋内で、Si濃度およびMn濃度を調整するとともに、造滓剤およびSiを添加しつつ酸素を吹き付けることにより加熱してCaO−SiO2−Al23−MgO 系の組成のスラグを形成し、溶鋼中のSi濃度を0.05〜0.2重量%に再調整し、予め定められた条件でガスバブリング処理および真空脱ガス処理を行っている。
また、取鍋精錬時におけるスラグ厚が開示されているものとして、特許文献4に開示されているものがある。
【0004】
特許文献4では、脱炭を主とする精錬炉で精錬した高クロム溶鋼を取鍋に出鋼し、該取鍋内溶鋼を二次精錬するに際し、前記取鍋内溶鋼の浴面上に存在するスラグの量を、平均厚みで30〜200mmの範囲となるように調整してから二次精錬を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−233254号公報
【特許文献2】特開2003−171714号公報
【特許文献3】特開平11−012640号公報
【特許文献4】特開2001−234227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜特許文献3には、取鍋精錬におけるスラグ中のMgO濃度が開示され、特許文献4には、スラグの厚みが開示されているものの、スラグ中のMgO濃度、スラグ厚、溶鋼処理時間を考慮して鋼中に含まれる酸化物系介在物を減少させるという考えは全く開示されておらず、スラグ中のMgO濃度、スラグ厚、溶鋼処理時間を関係を考慮した上で、酸化物系介在物が少ないアルミキルド鋼を製造するという技術は未だ未開発である。
そこで、本発明は、酸化物系介在物を減少させて曲げ性に優れた鋼板を製造することができる高清浄アルミキルド鋼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明は、転炉又は電気炉から出鋼した溶鋼に対して2000l/min以上4000l/min以下にてガス攪拌による取鍋精錬を行った後、真空脱ガス精錬を行うことでアルミキルド鋼を製造する高清浄アルミキルド鋼の製造方法において、前記取鍋精錬の際には、前記ガス攪拌の時間を5分以上とすると共に、静止状態でのスラグ厚を260mm以上400mm未満とし、且つ、前記ガス攪拌の時間とスラグ中のMgO量との関係が式(1)〜式(4)を満たすように精錬し、前記真空脱ガス精錬の際には、溶鋼の還流時間が式(5)を満たすように精錬すると共に、溶鋼の還流量が式(6)を満たすように精錬する点にある。
【0008】
【数1】

【発明の効果】
【0009】
本発明における高清浄アルミキルド鋼の製造方法によれば、酸化物系介在物を減少させて曲げ性に優れた鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】高清浄アルミキルド鋼の製造方法の工程を示した図である。
【図2】曲げ不良率と介在物の個数との関係図である。
【図3】取鍋精錬における処理時間(ガス攪拌時間)とスラグ中のMgO量との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の高清浄アルミキルド鋼の製造方法について説明する。
以下、本発明の高清浄アルミキルド鋼の製造方法は、図1に示すように、転炉1にて脱炭精錬(一次精錬)次を行った後に、溶鋼を取鍋2に出鋼し、当該溶鋼内にAlを投入して脱酸する。そして、脱酸した取鍋2を二次精錬装置3に搬送して当該二次精錬装置3にて精錬し、二次精錬装置3で処理した溶鋼を連続鋳造装置にて鋳造することにより製造する。なお、溶鋼は電気炉から出鋼したものであってもよい。
二次精錬装置3は、ガス攪拌による取鍋精錬を行う取鍋精錬装置5と、還流ガスにより真空脱ガス精錬を行う還流式真空脱ガス装置6とを有している。
【0012】
取鍋精錬装置5は、電極加熱式の精錬装置(以降、LF装置ということがある)であって、溶鋼が装入された取鍋2と、取鍋2の溶鋼内にガスを吹き込む吹き込み装置7と、溶鋼を加熱する電極式加熱装置8と、フラックス等を投入するための供給装置9とを有している。
吹き込み装置7は、取鍋2の底部に設けられてその底部からガスを吹き込むポーラス吹込口15と、取鍋2の上部からガスを吹き込むランス16とを備えている。ランス16の先端には溶鋼内にガスを吹き込むノズルが設けられている。なお、吹き込み装置7は、ポーラス吹込口15のみを有するものであっても、ランス16のみを有するものであってもよい。
【0013】
還流式真空脱ガス装置6は、溶鋼を還流させることで当該溶鋼の脱ガスを行うもの(以降、RH装置ということがある)であって、溶鋼が装入された取鍋2と、真空状態となって溶鋼内の脱ガスを行う脱ガス槽(真空槽)10とを有している。RH装置6の取鍋2は、LF装置5の取鍋2と同一のものであって、脱ガス槽10の直下に配置されるようになっている。
脱ガス槽10の下部には取鍋2内の溶鋼に浸漬させる2本の浸漬管11が設けられており、この浸漬管11の一方にはArガス等の不活性ガスを吹き込む吹き込み口(図示省略)が設けられている。脱ガス槽10の上部には、脱ガス槽10のガスを排気する排気口13が設けられている。
【0014】
以下、本発明の高清浄アルミキルド鋼の製造方法について詳しく説明する。
図1に示すように、高清浄アルミキルド鋼の製造方法では、まず、転炉1にて溶鋼の脱炭処理行う。そして、転炉1から溶鋼を取鍋2に出鋼し、取鍋2内にAlを投入することによって溶鋼を脱酸する。その後、溶鋼が装入された取鍋2をLF装置5に搬送し、LF装置5の吹き込み装置7によって溶鋼内にArガスを2000l/min以上4000l/min以下の範囲で溶鋼内に吹き込んでいる。
なお、LF装置5による取鍋精錬では、電極式加熱装置8でアーク放電することにより溶鋼上のスラグを滓化させると共に、様々な合金を溶鋼に投入することで成分調整を行う。また、この取鍋精錬では、上述した処理を行うと共に、主に溶鋼に対する脱硫や酸素低減を行う。
【0015】
取鍋精錬では、ガスによる攪拌(ガス攪拌)の時間を5分以上とすると共に、静止状態でのスラグ厚を260mm以上400mm未満とし、且つ、ガス攪拌の時間とスラグ中のMgO量との関係が式(1)〜式(4)を満たすように精錬している。
【0016】
【数2】

【0017】
一般的に、一次精錬後に行われるAlによる脱酸では、2Al+3O→Al23の反応が進み、取鍋精錬前の溶鋼中にAl23が不可避的に多量に存在することになる。
また、取鍋精錬中では、スラグにはMgOが含まれていることから、MgO→Mg+Oの反応により、溶鋼内にMgが溶け出すことになる。ここで、取鍋精錬では、溶鋼中に溶け出したMgと、Alによる脱酸等により溶鋼中に含まれるAl23とが、3Mg+4Al23→3MgO・Al23+2Alの反応により、スピネル(MgO・Al23)が生成することになる。取鍋精錬中に生成するスピネル(MgO・Al23)は、介在物の一種であり、溶鋼中には出来るだけ少ないことが望ましいが、スピネル(MgO・Al23)は、アルミナ(Al23)に比べて、真空脱ガス精錬時に除去し易いという利点がある。そこで、本発明では、取鍋精錬において出来る限りアルミナよりもスピネルを生成させて、最終的には、真空脱ガス精錬にてスピネルを除去することにより、アルミナやスピネルといった介在物を極力減らすようにしている。即ち、本発明では、取鍋精錬においてスピネルを制御することにより、介在物の少ないアルミキルド鋼を製造することとしている。
【0018】
さて、上述したように、取鍋精錬において、ガス攪拌の時間が5分未満であって非常に短いと、スラグ中から溶鋼内にMgが溶け出すという反応時間が短いため、溶鋼中にMgが非常に少なくなってしまう(反応が進まない)。そのため、スラグから溶鋼中に溶け出したMgと、溶鋼中に含まれるAl23との反応によるスピネルの生成が少なくなる可能性がある。そこで、様々な実験等により、取鍋精錬におけるガス攪拌の時間は、5分以上としている。
一方で、取鍋精錬中に、ガス攪拌の時間が十分にあったとしても、スラグ中に含まれるMgO量が少ないと、アルミナとの反応が進まず、スピネルがあまり生成されない可能性がある。そこで、様々な実験等により、取鍋精錬におけるスラグ中のMgO量は、式(4)を満たす必要がある。
【0019】
ここで、スラグ中のMgO量は、溶鋼1ton当たりのスラグ中のMgO量であり、単位は、kg/tonである。MgO量は、溶鋼1ton当たりのスラグ量とスラグ中のMgO濃度を乗じて算出する[X=スラグ量(kg/ton)×スラグ中MgO濃度(質量%)÷100]。
また、様々な実験等により、ガス攪拌の時間が5分以上であり、スラグ中のMgO量が式(4)を満たしている場合であっても、スピネルの生成には、ガス攪拌の時間とスラグ中のMgO量との関係が式(2)を満たす必要がある。
【0020】
ここで、スラグ中から溶鋼内へ溶け出したMgが多く、溶鋼中のMgO濃度が高くなってしまうと、溶鋼中のMgと溶鋼中のAl23との反応によりスピネルが生成されるという反応よりも、溶鋼中のMgと溶鋼中のOとが反応するという現象(Mg+O→MgO)が支配的になってしまう。そこで、溶鋼中のMgが多くなり、スピネルが生成されるという現象よりも、MgOが生成されるという現象を抑制するために、様々な実験により、スラグ中のMgO量は式(3)を満たす必要がある。
また、スラグ中のMgO量が式(3)を満たした場合であっても、ガス攪拌時間が長いと溶鋼中に溶出するMg量が多くなるという傾向がある。そこで、様々な実験により、スラグ中のMgO量と、ガス攪拌の時間との関係を整理すると、スラグ中のMgO量と、ガス攪拌時間との関係は式(1)を満たす必要がある。
【0021】
このように、取鍋精錬では、スラグから溶鋼に溶け出すMgと、溶鋼中のアルミナとを用いてスピネルを生成させている。また、スピネルを生成させる際には、スラグから溶け出すMgのバランスやMgの反応度合いも考え、スラグ中に含まれるMgO量とガス攪拌の時間との関係も考慮している。
さて、取鍋精錬におけるガス攪拌では、そのガスの流量(Arガスの流量)が2000l/min以上4000l/min以下であって強攪拌である。Arガスを溶鋼内に吹き込む前の溶鋼の静止状態におけるスラグ厚みが260mm未満であると、Arガスを溶鋼内に吹き込んだ際(最大4000l/minのとき)に、スラグが取鍋の縁側(外側)に寄ってしまい溶鋼がスラグにより覆われずに、溶鋼の湯面が空気に触れてしまう虞がある。即ち、溶鋼の静止時においてスラグ厚みが260mm未満であると、溶鋼を強攪拌した際に溶鋼と大気中の酸素とが反応してAl23が生成して介在物を増加させてしまうという虞がある。そこで、Arガスを溶鋼に吹き込んでも、溶鋼が表面に現れないようにするために、スラグ厚を260mm以上確保する必要がある。
【0022】
一方で、スラグ厚が400mm以上になると、スラグの流動化が低下するために、スラグ−メタル反応が不十分となって、スラグ中のMgが溶出し難くなる。
上述したように、取鍋精錬の際には、スピネルを制御するために、ガス攪拌の時間を5分以上とすると共に、静止状態でのスラグ厚を260mm以上400mm未満とし、且つ、ガス攪拌の時間とスラグ中のMgO量との関係が式(1)〜式(4)を満たすように精錬している。
次に、取鍋精錬が終了すると、溶鋼が装入された取鍋2をRH装置6に搬送する。そして、RH装置6では、浸漬管11を取鍋2内の溶鋼に浸漬し、吹き込み口から不活性ガスを吹き込むと共に、排気口13から脱ガス槽10のガスを排気して脱ガス槽10内を略真空状態して溶鋼を脱ガス槽10と取鍋2との間で循環させることで、真空脱ガス精錬(還流式脱ガス精錬)を行う。
【0023】
真空脱ガス精錬では、溶鋼の還流時間が式(5)を満たすように精錬すると共に、溶鋼の還流量が式(6)を満たすように精錬している。溶鋼の還流量(溶鋼還流量)は、単位時間当たりに還流する溶鋼量であって、溶鋼還流速度とも言う。溶鋼還流量は、「桑原達朗ら:鉄と鋼、73(1987),S176」に示されている式(7)を用いて算出した。
【0024】
【数3】

【0025】
真空脱ガス精錬では、取鍋精錬にて生成したスピネル等を、溶鋼を還流しながら真空引きすることによって除去している。真空脱ガス精錬において、溶鋼の還流時間が10分未満であると、スピネル等の介在物の浮上する時間(除去する時間)が不十分であるため、溶鋼内に多くの介在物が残ってしまう。
一方で、真空脱ガス精錬において、溶鋼の還流時間が40分を超えると、スピネル等の介在物を除去する時間は十分であるものの、逆に、脱ガス槽10に付着した付着物や耐火物の溶損によって、溶鋼内の介在物が増加するという傾向にある。
【0026】
したがって、真空脱ガス精錬では、溶鋼内のスピネル等の介在物を十分に除去する時間を確保しつつ、脱ガス槽10に付着した付着物や耐火物の影響により溶鋼内の介在物を増加させない時間、即ち、式(5)を満たす還流時間にて精錬する必要がある。
真空脱ガス精錬において、溶鋼還流量が150ton/min未満であると、溶鋼の還流度合いが弱いので、スピネル等の介在物が十分に浮上せず、溶鋼内に多くの介在物が残ってしまう。一方で、真空脱ガス精錬において、溶鋼還流量が200ton/minより超えると、溶鋼の還流度合いが強くスピネル等の介在物を十分に浮上させることができるが、脱ガス槽10に付着した付着物や耐火物の溶損による介在物の増加が顕著になり、溶鋼内に多くの介在物が残ってしまう。
【0027】
したがって、真空脱ガス精錬では、溶鋼内のスピネル等の介在物を十分に除去することのできる溶鋼還流量で還流すると共に、その溶鋼還流量が強すぎないようにする必要がある。即ち、真空脱ガス精錬では、式(6)を満たす還流時間にて精錬する必要がある。
表1及び表2は、本発明の高清浄アルミキルド鋼の製造方法を実施した実施例と、本発明の高清浄アルミキルド鋼の製造方法を実施しなかった比較例とを示したものである。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
実施例及び比較例における条件について説明する。
実施例や比較例で製造した高清浄アルミキルド鋼は、980MPa級のハイテン鋼であって、その化学成分は、質量%で、C:0.005〜0.500%、Si:0.005〜2.000%、Mn:0.10〜3.00%、P:0.005〜0.100%、S:0.001〜0.020%、Al:0.01〜0.10%である。
真空脱ガス精錬後は、連続鋳造にて半製品(スラブ)とし、熱延、酸洗、冷延、焼鈍を行った後に板厚1.4mmの冷延板とした。連続鋳造、熱延、酸洗、冷延、焼鈍、圧延は、この鋼種(980MPa級のハイテン鋼)を製造する当業者の常法通りに行った。
【0031】
実施例や比較例においては、介在物の低減度合いを評価するために、取鍋精錬後と製品(冷延板)とで、アルミナ介在物個数、スピネル介在物、MgO介在物を測定した。取鍋精錬後は、ディスクサンプルを採取し、介在物を測定した。製品では板厚1.4mmの冷延板の表面を測定した。
これらの介在物(アルミナ介在物個数、スピネル介在物、MgO介在物)は、EPMA(電子プローブ・マイクロアナライザー)で計測した。使用したEPMAは日本電子社製「JXA−8000」シリーズで、測定条件は加速電圧20kV、X線種はK線、ビーム径は2μmとし、EDS検出器による組成分析を行った。
【0032】
EPMAで観測された介在物の組成がCaO−Al23−SiO2−MgOの4元系換算において、Al23≧60%、MgO<10%を含有するものをアルミナ介在物とし、Al23≧60%、10%≦MgO<40%を含有するものをスピネル介在物とし、Al23<60%、MgO≧40%を含有するものをMgO介在物とした。
これらの介在物において、介在物の大きさが5μm以上であるものの個数を測定した。測定では、信頼性を確保するために3000mm2以上観測し、1cm2当たりの個数を介在物個数とした。
【0033】
また、製品の曲げ不良率を調査した。具体的には、折り畳み曲げ加工を模擬した曲げ試験にて加工性を調査した。この曲げ試験では、信頼性を確保するために1つのサンプルに対して100枚の試験を実施した。曲げ試験においては、試験片サイズを1.4×40×75mm(圧延方向に垂直方向の試験片で、割れ方向は圧延方向と同じ方向)とし、80tプレス機(AIDA製80tonクランクプレス:NC1−80)にて、ストローク長さを160mm、ストローク数を40rpm、限界曲げRより大きいR=2mmにて曲げ試験を行った。曲げ試験では、目視にて加工部(試験部位)の観察し、割れを発見後SEM/EDXにて介在物に起因した割れかどうかを観察した。そして、100枚のサンプルに対して介在物に起因した割れをカウントして、不良率(曲げ不良率)を求めた。不良率(%)=(介在物割れ/100枚)×100になる。
【0034】
表1及び表2に示すように、比較例1、2では、取鍋精錬時において、ガス攪拌による流量(Arガス流量)が、2000l/min未満であるため、取鍋精錬時にスピネルの生成が進まず、最終的に、真空脱ガス精錬後にスピネルの介在物を全て除去したとしても、アルミナ介在物個数が多くなり、曲げ不良率も0%にすることができなかった(総合評価「×」)。
比較例3、4では、取鍋精錬時において、ガス攪拌の時間(表中、処理時間)が5分未満であるため、取鍋精錬時にスピネルの生成が進まず、最終的に、真空脱ガス精錬後にスピネルの介在物を全て除去したとしても、アルミナ介在物個数が多くなり、曲げ不良率も0%にすることができなかった(総合評価「×」)。
【0035】
比較例5、6では、取鍋精錬時において、静止時のスラグ厚(表中、スラグ厚)が260mm未満であるため、取鍋精錬時にアルミナを増加させてしまうという結果となり、最終的に、真空脱ガス精錬後にスピネルの介在物を全て除去したとしても、アルミナ介在物個数が多くなり、曲げ不良率も0%にすることができなかった(総合評価「×」)。
比較例7、8では、取鍋精錬時において、静止時のスラグ厚が400mmを超えているため、取鍋精錬時にスピネルの生成が進まず、最終的に、真空脱ガス精錬後にスピネルの介在物を全て除去したとしても、アルミナ介在物個数が多くなり、曲げ不良率も0%にすることができなかった(総合評価「×」)。
【0036】
比較例9、10では、取鍋精錬時において、スラグ中のMgO量が1.2kg/ton未満であるため、取鍋精錬時にスピネルの生成が進まず、最終的に、真空脱ガス精錬後にスピネルの介在物を全て除去したとしても、アルミナ介在物個数が多くなり、曲げ不良率も0%にすることができなかった(総合評価「×」)。
比較例11、12では、取鍋精錬時において、スラグ中のMgO量が5.0kg/tonを超えているため、取鍋精錬時にスピネルの生成が進まず、MgOの生成が進んでしまい、最終的に、真空脱ガス精錬後にスピネルの介在物を全て除去したとしても、MgO介在物個数が多くなり、曲げ不良率も0%にすることができなかった(総合評価「×」)。
【0037】
比較例13、14では、取鍋精錬時において、ガス攪拌の時間(t1)と、スラグ中のMgO量(X)との関係が、t1≧−5X+20を満たしていないため、ガス攪拌の時間に比べてスラグ中のMgO量が少なく、アルミナからスピネルへの組成制御が進まず、最終的に、真空脱ガス精錬後にスピネルの介在物を全て除去したとしても、アルミナ介在物個数が多くなり、曲げ不良率も0%にすることができなかった(総合評価「×」)。
比較例15〜17では、取鍋精錬時において、ガス攪拌の時間(t1)と、スラグ中のMgO量(X)との関係が、t1≦−5X+40を満たしていないため、ガス攪拌の時間に比べてスラグ中のMgO量が多く、スピネルが生成される前にMgOへの組成変化してしまい、最終的に、真空脱ガス精錬後にスピネルの介在物を全て除去したとしても、MgO介在物個数が多くなり、曲げ不良率も0%にすることができなかった(総合評価「×」)。
【0038】
比較例18、19では、真空脱ガス精錬において、溶鋼の還流時間(表中、処理時間)が10分未満と短いために、取鍋精錬時に生成したスピネルを十分に除去することができず、曲げ不良率も0%にすることができなかった(総合評価「×」)。
比較例20、21では、真空脱ガス精錬において、溶鋼の還流時間が40分よりも長いために、脱ガス槽10に付着した付着物や耐火物の溶損の影響により溶鋼内の介在物を逆に増加させてしまうという結果になった。最終的に、真空脱ガス精錬後にスピネルの介在物を全て除去したとしても、アルミナ介在物個数が多くなり、曲げ不良率も0%にすることができなかった(総合評価「×」)。
【0039】
比較例22、23では、真空脱ガス精錬において、溶鋼還流量が150ton/min未満であり、溶鋼の還流する度合いが弱いために、介在物の凝固集合体(介在物が固まったもの)の分離浮上や除去が進まなかった。最終的に、真空脱ガス精錬後にスピネルの介在物を全て除去することができず、曲げ不良率も0%にすることができなかった(総合評価「×」)。
比較例24、25では、真空脱ガス精錬において、溶鋼還流量が200ton/minを超えてしまい、溶鋼の還流する度合いが強すぎるために、脱ガス槽10に付着した付着物や耐火物の溶損物を溶鋼内に取り込んでしまい、溶鋼内の介在物を逆に増加させてしまうという結果になった。最終的に、真空脱ガス精錬後にスピネルの介在物を全て除去したとしても、アルミナ介在物個数が多くなり、曲げ不良率も0%にすることができなかった(総合評価「×」)。
【0040】
実施例26〜38では、取鍋精錬時において、ガス攪拌の時間は5分以上であり、静止状態でのスラグ厚は260mm以上400mm未満である。また、実施例26〜38では、取鍋精錬時において、スラグ中のMgO量が1.2kg/ton以上5.0kg/ton以下であり、ガス攪拌の時間(t1)とスラグ中のMgO量(X)との関係がt1≦−5X+40を満たすとと共に、t1≧−5X+20を満たしている。
加えて、実施例26〜38では、真空脱ガス精錬において、溶鋼の還流時間は、10分以上40分以下であり、溶鋼還流量も150ton/min以上200ton/min以下である。
【0041】
その結果、実施例26〜38では、取鍋精錬時においてスピネルを十分に生成して、真空脱ガス精錬時にスピネルを全て除去することができ、アルミナ介在物も非常に少なく、曲げ不良率を0%にすることができた(総合評価「○」)。
図2は、比較例及び実施例において、介在物個数の合計(アルミナ介在物個数+スピネル介在物の個数+MgO介在物の個数)と、曲げ不良率との関係をまとめたものである。
図2及び表1、表2に示すように、取鍋精錬時においてスピネルを十分に生成した後、真空脱ガス精錬時にスピネルを全て除去し、アルミナ介在物も非常に少なくして、介在物個数の合計を2.0個/cm2以下にするような実施例26〜38を行う、即ち、上述した本発明の条件を満たすような操業を行うと、曲げ不良率を0%にすることができる。一方で、介在物個数の合計が2.0個/cm2以下にできないような比較例1〜25、即ち、上述した本発明の条件を外れるような操業では、曲げ不良率を0%にすることはできなかった。
【0042】
なお、スラグ中のMgO量と、取鍋精錬におけるガス攪拌時間(処理時間)をまとめると、図3に示すようになる。図3に示した「×」が比較例であり、「○」が実施例である。
図3に示した4つの直線が、本発明に示した式(1)〜式(4)の条件となる。
以上、取鍋精錬の際には、ガス攪拌の時間を5分以上とすると共に、静止状態でのスラグ厚を260mm以上400mm未満とし、且つ、ガス攪拌の時間とスラグ中のMgO量との関係が式(1)〜式(4)を満たすように精錬し、真空脱ガス精錬の際には、溶鋼の還流時間が式(5)を満たすように精錬すると共に、溶鋼の還流量が式(6)を満たすように精錬することによって、鋼中の酸化物系介在物(アルミナ介在物、スピネル介在物、MgO介在物)が減少して、曲げ性に優れた鋼板を製造することができる。
【0043】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。アルミキルド鋼は、上述したように、転炉1の出鋼時にAlを投入することによって脱酸するものであっても、二次精錬時にAlを投入して脱酸するようなものであってもよい。また、取鍋精錬では、電磁攪拌により溶鋼を攪拌するようなASEA−SKFは対象としていない。また、本発明の製造方法では、溶鋼をSiによりキルドしたシリコンキルド鋼は含まない。
【符号の説明】
【0044】
1 転炉
2 取鍋
3 二次精錬装置
5 取鍋精錬装置
6 RH装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉又は電気炉から出鋼した溶鋼に対して2000l/min以上4000l/min以下にてガス攪拌による取鍋精錬を行った後、真空脱ガス精錬を行うことでアルミキルド鋼を製造する高清浄アルミキルド鋼の製造方法において、
前記取鍋精錬の際には、前記ガス攪拌の時間を5分以上とすると共に、静止状態でのスラグ厚を260mm以上400mm未満とし、且つ、前記ガス攪拌の時間とスラグ中のMgO量との関係が式(1)〜式(4)を満たすように精錬し、
前記真空脱ガス精錬の際には、溶鋼の還流時間が式(5)を満たすように精錬すると共に、溶鋼の還流量が式(6)を満たすように精錬することを特徴とする高清浄アルミキルド鋼の製造方法。
【数4】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−189691(P2010−189691A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33997(P2009−33997)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】