説明

高純度硫酸ニッケルを得るための溶媒抽出方法

【課題】不純物、特にMg品位の低い高純度な硫酸ニッケルを得るための溶媒抽出方法の提供。
【解決手段】NiとCoを含有する硫化物を酸で浸出して得た溶液を、抽出剤濃度が15〜30体積%で含む抽出溶媒と、粗硫酸ニッケル溶液とをpH6.0〜7.0で接触させ、Niを抽出してニッケル保持有機相を得る第1工程、そのニッケル保持有機相と、Niを含む洗浄液とを混合し、保持有機相に含有されるNa、NHイオンを洗浄液に分離し、洗浄後ニッケル保持有機相を得る第2工程、その洗浄後ニッケル保持有機相と、MgとNiの濃度比Mg/Niが0.001〜0.004の範囲にある組成の硫酸ニッケル溶液とを反応させ、ニッケル保持有機相中のNiと硫酸ニッケル溶液に含有する不純物とを置換させ、逆抽出後有機相と不純物分離後の硫酸ニッケル溶液を得る工程の3工程で構成された溶媒抽出工程で処理する硫酸ニッケルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルを含有する酸性溶液から、不純物、特にマグネシウム、マンガン、カルシウムが少ない電池材料に使用できる高純度な硫酸ニッケルを得ようとする分野に利用できる。
【背景技術】
【0002】
ニッケルは、ステンレスや耐蝕合金の材料として広く用いられるほか、最近ではハイブリッド電気自動車、携帯電話、パソコンなどに用いられるニッケル水素電池やリチウムイオン電池の材料としても多く使われている。
このような材料に用いられるニッケルは、硫化物鉱や酸化物鉱として存在する鉱石を採掘し、製錬して製造される。
【0003】
例えば、硫化鉱石を処理する場合の一つの方法として、鉱石を炉に入れて熔融し、スラグとして不純物を分離してニッケルを濃縮したマットを得、このマットを硫酸や塩酸で溶解し、その溶解溶液から不純物を分離してニッケル溶液を得、中和や晶析等の手段によって硫酸ニッケルや酸化ニッケルなどのニッケル塩類を製造する。あるいは、電解採取等を行ったりしてニッケルメタルを製造する場合がある。
【0004】
一方、酸化鉱石を処理する場合の一つの方法として、例えばコークスなどの還元剤と共に加熱熔融してスラグと分離し、ニッケルと鉄の合金であるフェロニッケルを得てステンレスの原料とすることが行なわれている。
【0005】
しかし、このような製錬方法は、いずれも多量のエネルギーを必要とし、不純物の分離に多くのコストと手間を要する。
特に、高品質な鉱石が枯渇しつつある近年は、その確保が困難となり、その結果入手できる鉱石中のニッケル品位は低下傾向となり、これらの低品位原料からニッケルを得るのには、さらにコストと手間を要するようになってきた。
【0006】
そこで、最近は従来には原料に用いられなかった低品位の酸化鉱石を高温加圧下で酸浸出し、その浸出溶液を消石灰等のアルカリで中和してニッケル塩類やニッケルメタルを得る方法が開発されてきた。
この方法は、低品位の資源を有効かつ比較的少ないエネルギーで有効に利用できる技術であるが、上記のようなニッケル塩類を得ようとする場合、従来の製錬方法では見られなかった新たな課題も生じてきている。
【0007】
例えば、鉱石に含有されるマグネシウムやマンガン等は、上記の炉を用いた製錬方法では、大部分がスラグに分配し、マットへの分配は少なくなる。その結果、ニッケル塩類への混入はごくわずかな量にとどまり、ほとんど問題にならなかった。
これに対して、高温加圧浸出を用いた製錬方法では、マグネシウムやマンガンは酸によってよく浸出され、その結果ニッケル塩類への混入も増加する。また高温加圧浸出では、得た浸出スラリーにアルカリを添加してpHを調整する操作が行われるが、中和剤に使われるカルシウムのニッケル塩類への混入の影響も無視できない。
特に、ニッケルをリチウムイオン電池やニッケル水素電池の材料に用いる場合、マグネシウムやカルシウムが共存すると、製品に仕上げた電池の特性に大きく影響するため、ニッケル塩を製造する段階から混入をできるだけ排除した高純度ニッケル塩が望ましいとされる。
【0008】
ところで、ニッケル塩の一つである硫酸ニッケルを高純度で得るには、例えばニッケルを電解採取などの方法によって一度メタルとして得、このメタルを再度硫酸に溶解し、次いで溶解した液を濃縮するなどして硫酸ニッケルを晶析させる方法も考えられる。しかし、メタルを得るには相当な電力と相応の規模の設備を必要とし、エネルギー効率やコストを考えると有利な方法ではない。
【0009】
さらに、ニッケルを含む鉱物には同時にコバルトも含有する場合が多い。コバルトも有価金属であり、ニッケルと共存する必要はないので、分離してそれぞれを回収することが行なわれる。
【0010】
硫酸溶液中のニッケルとコバルトとを分離する効率的かつ実用的な方法として、溶媒抽出が用いられることが多い。例えば、特許文献1には、商品名PC88A(大八化学株式会社製)を抽出剤に用いた溶媒抽出によってコバルトを抽出し、ニッケルとコバルトとを分離する例が示されている。
【0011】
この抽出剤にPC88Aを用いた場合、マグネシウムやカルシウムの抽出挙動も、ニッケルの挙動に類似する。このため、ニッケルが高濃度で含有される溶液を溶媒抽出に付した場合、マグネシウムやカルシウムの抽出率が低下するなどマグネシウムやカルシウムを分離する効率が低下する問題が生じてしまう。
【0012】
一方、特許文献2には、カルシウム、マグネシウム、コバルト等を不純物として含むニッケル水溶液から、ニッケルを含有するアルキルホスホン酸エステルまたはアルキルホスフィン酸を抽出剤として用い、ニッケル水溶液中の不純物を抽出分離し、かつナトリウムやアンモニアを含まない高純度ニッケル水溶液を製造する方法が示されている。
【0013】
特許文献2に提案される予め高いpHでニッケルを有機溶媒中へ抽出し、このニッケルを抽出した有機溶媒と不純物を含むニッケル溶液を接触させる方法によって、ニッケルより抽出されやすい元素が有機相へ、有機中のニッケルが水相側へ移行する交換反応が起こり、ニッケル溶液中の不純物を除去することができる。
また、pH調整剤に含まれるNaなどの不純物元素がニッケル溶液へ混入し、製品を汚染することを防止する方法としても有効である。
【0014】
しかしながら、特許文献2に提案される硫酸ニッケルの浄液工程においても、溶液中のマグネシウムは、ニッケルと似た挙動を持ち、マグネシウムを除去することは困難であった。
さらに、溶媒抽出工程や他の浄液工程から排出されるニッケルを少量含有する液を系内に繰り返す場合、マグネシウムも同様に繰り返されることになる。この結果、系内にマグネシウムが蓄積し、製品中のマグネシウム品位が上昇する要因となっていた。
【0015】
このような理由により、マグネシウムが多く含有される硫酸酸性溶液からマグネシウム品位の低い電池原料に使用できる高純度な硫酸ニッケルを効率よく得られる方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平10−310437号公報
【特許文献2】特開平10−30135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このような状況に鑑み本発明は、酸性有機抽出剤を用いた溶媒抽出により高ニッケル濃度の硫酸ニッケル溶液を得る工程において、抽出剤の濃度と処理時のpH濃度を調整する事で、不純物、特にマグネシウム品位の低い高純度な硫酸ニッケルを得る溶媒抽出工程を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような課題を解決するための本発明の第1の発明は、ニッケルとコバルトを含有するニッケル含有溶液を、下記第1工程、第2工程、第3工程の3工程で構成された溶媒抽出工程により処理することで硫酸ニッケルを生成することを特徴とする硫酸ニッケルの製造方法である。
[溶媒抽出工程]
(1)第1工程
抽出剤濃度が15〜30体積%で含有する抽出溶媒と、ニッケル含有溶液とをpH6.0〜7.0で接触させ、ニッケルを抽出してニッケル保持有機相を得る工程。
(2)第2工程
第1工程で得たニッケル保持有機相と、ニッケルを含有する洗浄液とを混合し、保持有機相に含有されるナトリウム、アンモニウムイオンを洗浄液に分離し、洗浄後ニッケル保持有機相を得る工程。
(3)第3工程
第2工程で得た洗浄後ニッケル保持有機相と、マグネシウム濃度/ニッケル濃度の比率が0.001〜0.004の範囲にある組成の硫酸ニッケル溶液とを反応させ、ニッケル保持有機相中のニッケルと、その硫酸ニッケル溶液に含有する不純物とを置換させ、逆抽出後有機相と不純物分離後の硫酸ニッケル溶液を得る工程。
【0019】
本発明の第2の発明は、第1の発明の溶媒抽出工程における、用いられる抽出剤が、酸性燐酸エステル系抽出剤であることを特徴とする高純度硫酸ニッケルの製造方法である。
【0020】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明の第3工程におけるニッケル保持有機相に混合する硫酸ニッケル溶液のpHが、2.8以上を維持し、有機相マグネシウム濃度/液相マグネシウム濃度比を1.0以上に制御することを特徴とする高純度硫酸ニッケルの製造方法である。
【0021】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明の第3工程におけるニッケル保持有機相(O)と硫酸ニッケル溶液(A)の液量の容積比(O/A)が、2.0〜5.0の範囲に維持されることを特徴とする高純度硫酸ニッケルの製造方法である。
【0022】
本発明の第5の発明は、第1から第4の発明の第3工程における硫酸ニッケル溶液中のニッケル濃度が、100[g/L]以上に維持されるように、ニッケル保持有機相に添加する硫酸ニッケル溶液のニッケル濃度を調整することを特徴とする高純度硫酸ニッケルの製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、以下に示す工業上顕著な効果を奏するものである。
(1)二次電池の原料に用いることができるマグネシウム品位の低い硫酸ニッケルを得ることができる。
(2)ニッケル酸化鉱石を酸浸出して得た酸性溶液からも高純度な硫酸ニッケルを直接得ることができる。
(3)原料品位や操業負荷が変動しても得られる高純度硫酸ニッケル液中のMg/Ni濃度比を一定に維持し品質が安定する。
(4)マグネシウム除去のための新たな設備が不要で、投資が圧縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の溶媒抽出工程を含むニッケル含有溶液からの硫酸ニッケルの製造工程を示す工程図である。
【図2】第3工程における有機相および液相Mg濃度の関係を示す図である。
【図3】4段目M/Sにおける操作pHとMg分配の関係を示す図である。
【図4】第3工程におけるO/Aと精製硫酸ニッケル溶液のMg濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、ニッケルやマグネシウムを含有する硫化物からニッケル水素電池やリチウムイオン電池の原料として使用できる高純度な硫酸ニッケルを得るのに適した製造方法である。
本発明では、ニッケルやマグネシウムを含有する酸性溶液を溶媒抽出によって分離する際に、使用する抽出剤に希釈剤を加えて18〜30容量%に希釈し、第3工程の操作pHを酸添加により行い、2.8以上のpHに制御し、かつ、第3工程に供する有機相/液相となる流量比を1.7以上に維持する事で、得られる硫酸ニッケル溶液のマグネシウム/ニッケル濃度比を0.0005以下に低減するものである。
なお、マグネシウムと同時にコバルトも分離するので、ニッケルを含有する鉱石や、ニッケルとコバルトを含有する2次電池を処理する際、溶媒抽出工程を一つ設けておけば事足りる。
【0026】
一般に、酸性溶液から溶媒抽出を用いてニッケルとコバルトを分離する際には、酸性有機抽出剤が用いられることが多い。
本発明の溶媒抽出工程は、図1に示すように具体的にはニッケル含有溶液(酸性溶液)からの硫酸ニッケルの製造における製造工程に含まれるもので、以下の3つの工程から構成される。図1は本発明の溶媒抽出工程を含むニッケル含有溶液(酸性溶液)からの硫酸ニッケルの製造工程を示す工程図である。
【0027】
[第1工程]
第1工程では、抽出剤本体を15〜30体積%の濃度で含有するように希釈した抽出溶媒と、ニッケル、カルシウム、コバルト、マグネシウム、アンモニムイオン(NH)、ナトリウム、塩化物イオン(Cl)などを含有する硫酸酸性溶液である粗硫酸ニッケル溶液(図1中の「ニッケル含有溶液」)とを、pH6.0〜7.0の範囲で接触させ、ニッケルを抽出してマグネシウム/ニッケル濃度比が0.002以下となるニッケル保持有機相を得る工程である。
【0028】
[第2工程]
第2工程では、第1工程で得たニッケル保持有機相と、予めニッケルを含むニッケル含有洗浄液とを混合し、ニッケル保持有機相中に含有しているナトリウム、アンモニウムイオンを洗浄液中に移行し、ニッケルと分離する工程である。
【0029】
[第3工程]
第3工程では、第2工程で得た洗浄後ニッケル保持有機相と、溶液中のマグネシウム/ニッケル濃度比が0.001〜0.004の範囲である硫酸ニッケル溶液(図1中の「Mg、Ni組成比制御硫酸ニッケル溶液」)とを混合し、ニッケル保持有機相中のニッケルと硫酸ニッケル溶液に含まれる不純物とを置換させる工程である。
この第3工程での置換反応は、硫酸ニッケル溶液のpHを2.8以上に維持し、抽出剤濃度を15〜30容量%、好ましくは18〜20容量%の範囲に調整する。
【0030】
ここで、マグネシウムとニッケルの分離能を維持する為には、pH以外にもフリー抽出剤の濃度や有機相(O)と水相(A)の容積比率(O/A)を最適化することが重要となる。
【0031】
さらに本発明では、プロセスで取り扱う液量を削減し装置規模を極小化するために多段向流型の溶媒抽出装置を用いると良い。
抽出溶媒(O)と高Co含有硫酸ニッケル溶液(A)の液量の体積比(O/A)は、有機溶媒の粘性を抑え分相性の良好な状態とするために、2.0〜5.0、好ましくは2.0以上、4.0以下の範囲に維持することが良い。
また、水相中のニッケル濃度が100[g/L]以上を維持するように、ニッケル保持有機相に添加するニッケル溶液のニッケル濃度を予め調整することが良い。
【0032】
上記の条件で操業することにより、硫酸ニッケル溶液中のマグネシウムとニッケルの濃度は、Mg/Ni=0.0005以下となるまで分離でき、マグネシウムの少ない高純度な硫酸ニッケルが得られる。
なお、Mg/(Ni+Co)濃度比が管理範囲から外れた際には、マグネシウムを濃縮した液を払い出せば範囲内に調整できる。
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【実施例】
【0033】
[溶媒抽出工程]
溶媒抽出の抽出装置には、向流4段のミキサーセトラーを使用した。ミキサーセトラーのミキサー部の有効容量は1リットル、セトラー部の有効容量は10リットルとした。1段目のミキサーセトラー(M/S)に有機相を、4段目のミキサーセトラーに水相をそれぞれ供給した。
【0034】
有機相には、官能基が2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2エチルヘキシルエステルからなる抽出剤(「商品名:PC88A」、大八化学工業株式会社製)を使用し、これをアルキルベンゼン系の希釈剤(「商品名:テクリーンN20」、JX日鉱日石エネルギー株式会社製)を用いて14〜18容量%に希釈した抽出溶媒をニッケル含有溶液と混合、洗浄して、ニッケルを20[g/L]、マグネシウムを[0.04g/L]の濃度に調製した混合有機溶媒(図1中の洗浄後ニッケル保持有機相)を有機相に用いた。さらに、有機相には、逆抽出工程でコバルトとカルシウムを分離して得た希釈用有機相を添加した。
【0035】
水相には、ニッケルを100[g/L]、コバルトを5〜15[g/L]、カルシウムを0.6[g/L]、Mg/Ni比が0.004の組成である、pH5.5の粗硫酸ニッケル溶液(図1中の「Mg、Ni組成比制御硫酸ニッケル溶液」)を用いた。
【0036】
1〜3段目の抽出pHは4.1〜5.6に、4段目のpHは2.0〜2.8の範囲になるように、25重量%の硫酸を用いて調整した。
【0037】
混合有機溶媒の給液量を195[ml/分]、希釈用有機溶媒の給液量を105[ml/分]、粗硫酸ニッケル水溶液の給液量を80〜150[ml/分]に設定し、24時間連続運転した。
【0038】
その結果を図2、図3、図4に示す。
図2は、第3工程における有機相および液相Mg濃度の関係を示す図で、4段目のM/SのpHを2.8以上に制御している。
図3は、4段目M/Sにおける操作pHとMg分配の関係を示す図で、ただし抽出剤濃度を18vol%として行っている。
図4は、第3工程におけるO/Aと精製硫酸ニッケル溶液のMg濃度の関係を示す図で、精製硫酸ニッケル溶液Ni濃度を120[g/L]、抽出剤濃度18vol%、4段目のpHを2.8の場合における結果である。
【0039】
図2からは、抽出剤濃度を18vol%以上とする事で、第3工程のMg分配比を1以上とする事が可能であった。
図3よりわかるように、第3工程における操作pHを2.8に維持する事で、マグネシウムの分配を1に維持できる。
また図4より、第3工程においてはO/Aを2以上とする事により、液のMg/Ni比を0.0005以下に抑制できる。
【実施例1】
【0040】
複数のミキサーセトラーを用いた多段向流形式にて、粗硫酸ニッケル溶液(図1中のMg、Ni組成比制御硫酸ニッケル溶液)と、ニッケル含有溶液よりニッケルを抽出した有機溶媒(図1中の洗浄後ニッケル保持有機相/抽出溶媒:PC−88A:20vol%、テクリーンN20:80vol%)をO/A=3.3で混合しながら硫酸を用いて所定のpHに調整することで精製した後、静置し、分液して高純度硫酸ニッケル溶液を作製した。
【0041】
Mg/(Ni+Co)濃度比=0.0022の粗硫酸ニッケル溶液を出発原料とし、溶媒抽出工程を用いた精製により、Mg/Ni濃度比=0.0004の高純度硫酸ニッケル溶液が得られた。
実施例1の結果を纏めて表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
(比較例1)
複数のミキサーセトラーを用いて多段向流形式にて、粗硫酸ニッケル溶液とニッケルを抽出した有機溶媒(図1中の洗浄後ニッケル保持有機相/抽出溶媒:PC−88A:20vol%、テクリーンN20:80vol%)をO/A=3.5を維持しながら混合しつつ硫酸を用いて所定のpHに調整することで精製した後、静置して高純度硫酸ニッケル溶液を作製した。
【0044】
Mg/(Ni+Co)濃度比=0.00456の粗硫酸ニッケル溶液を出発原料とし、溶媒抽出工程を用いた精製により、Mg/Ni濃度比=0.00056の硫酸ニッケル溶液が得られた。
比較例1の結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例1では、Mg/(Ni+Co)濃度比が0.0017〜0.0025という本発明の条件を満たす粗硫酸ニッケル溶液を溶媒抽出法で精製したので、Mg/Ni濃度比が0.0003〜0.00050を満たす高純度硫酸ニッケル溶液が得られた。
一方、比較例1では、Mg/(Ni+Co)濃度比が0.00456と本発明の条件を満たさない粗硫酸ニッケル溶液を用いたため、溶媒抽出工程で精製して得られた硫酸ニッケル溶液のMg/Ni比は0.00056にとどまった。
【0047】
(比較例2)
複数のミキサーセトラーを用いて多段向流形式にて、実施例1と同じ粗硫酸ニッケル溶液と、ニッケルを抽出した有機溶媒(図1中の洗浄後ニッケル保持有機相/抽出溶媒:PC−88A:20vol%、テクリーンN20:80vol%)をO/A=1.5を維持しながら混合しつつ硫酸を用いて所定のpHに調整することで精製した後、静置して高純度硫酸ニッケル溶液を作製した。
【0048】
Mg/(Ni+Co)濃度比=0.00215の粗硫酸ニッケル液を出発原料とし、溶媒抽出工程を用いた精製により、Mg/Ni濃度比が0.0065の硫酸ニッケル溶液が得られた。
O/Aが2.0より低いために、良好なニッケル置換ができずに、Mg/Ni濃度比は実施例1よりも大きくなり、純度が大きく低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル含有溶液を、以下の3工程で構成された溶媒抽出工程で処理することを特徴とする硫酸ニッケルの製造方法。
[溶媒抽出工程]
第1工程:
抽出剤濃度が15〜30体積%で含有する抽出溶媒と、ニッケル含有溶液とをpH6.0〜7.0で接触させ、ニッケルを抽出してニッケル保持有機相を得る工程。
第2工程:
前記第1工程で得たニッケル保持有機相と、ニッケルを含有する洗浄液とを混合し、保持有機相に含有されるナトリウム、アンモニウムイオンを洗浄液に分離し、洗浄後ニッケル保持有機相を得る工程。
第3工程:
前記第2工程で得た洗浄後ニッケル保持有機相と、マグネシウム濃度/ニッケル濃度の比率が0.001〜0.004の範囲にある組成の硫酸ニッケル溶液とを反応させ、ニッケル保持有機相中のニッケルと前記硫酸ニッケル溶液に含有する不純物とを置換させ、逆抽出後有機相と不純物分離後の硫酸ニッケル溶液を得る工程。
【請求項2】
前記溶媒抽出工程における抽出剤が、酸性燐酸エステル系抽出剤であることを特徴とする請求項1記載の高純度硫酸ニッケルの製造方法。
【請求項3】
前記第3工程における洗浄後ニッケル保持有機相に混合する硫酸ニッケル溶液のpHが2.8以上を維持し、有機相マグネシウム濃度/液相マグネシウム濃度比を1.0以上に制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の高純度硫酸ニッケルの製造方法。
【請求項4】
前記第3工程におけるニッケル保持有機相(O)と硫酸ニッケル溶液(A)の液量の容積比(O/A)が、2.0〜5.0の範囲に維持されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の高純度硫酸ニッケルの製造方法。
【請求項5】
前記第3工程における硫酸ニッケル溶液中のニッケル濃度が、100[g/L]以上に維持されるように、ニッケル保持有機相に添加する硫酸ニッケル溶液のニッケル濃度を調整することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高純度硫酸ニッケルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−100204(P2013−100204A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245627(P2011−245627)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】