説明

高誘電性フィルム

【課題】高誘電性でかつ薄膜化が可能であり、しかも巻付き性(可撓性)にも優れ、誘電損失の小さい高誘電性フィルムを提供する。
【解決手段】フッ化ビニリデン系ポリマー(A)、および式:M1a2bc(M1とM2は異なり、M1は周期表の2族金属元素、M2は周期表の第5周期の金属元素;aは0.9〜1.1;bは0.9〜1.1;cは2.8〜3.2である)で示される複合酸化物粒子(B)を含んでなり、フッ化ビニリデン系ポリマー(A)100質量部に対して、複合酸化物粒子(B)を10〜500質量部含む高誘電性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばフィルムコンデンサ用の誘電性フィルムとして有用な高誘電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック絶縁体は、絶縁抵抗が高く、周波数特性に優れ、柔軟性にも優れるという特徴を有しているため、通信用、電子機器用、電力用、中・低圧進相用、インバータ用などのフィルムコンデンサとして期待されている。フィルムコンデンサとしては、航空機、船舶、車両などの無線通信機、テレビ、ラジオ、オーディオなどの民生用機器、エアコン、洗濯機、扇風機などの小型モーター駆動用、蛍光灯、水銀灯などの電力率改善用などに用いられる。
【0003】
フィルムコンデンサは通常、表面にアルミニウムまたは亜鉛を蒸着したフィルム、またはアルミニウム箔とフィルムを多層に重ねたものから構成されている。近年、とくに金属蒸着によりフィルム上に電極を作製するタイプのフィルムコンデンサが多く用いられている。
【0004】
フィルムコンデンサ用フィルムとしては、これまでポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタラート(PET)やポリフェニレンスルフィド(PPS)フィルムが検討されてきた(たとえば、特許文献1参照)。ただし、これらのフィルムは比誘電率が2.5〜3程度と低いものであった。フィルムコンデンサの容量は、誘電率に比例して膜厚に反比例することから、これまで主にこれらのフィルムの薄膜化が検討されてきたが、薄膜化しすぎると生産での困難、絶縁電圧の低下がみられ、限界がある。フィルムコンデンサにはさらなる小型・大容量化が求められており、そのため、高誘電率薄膜に対する要望は大きい。
【0005】
これまで、高誘電フィルムとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系フィルム、シアノエチル化したプルランを用いたフィルムが検討されてきた(たとえば、特許文献2〜4参照)が、いずれのフィルムでも比誘電率は14には満たず、また、薄膜化することが困難であった。
【0006】
さらに誘電率を高めたフィルムを作製すべく、誘電率の高い無機強誘電体粒子であるチタン酸バリウムやジルコン酸鉛と樹脂を混合してフィルム化する手法が検討されてきた。
【0007】
その一つが、樹脂と無機強誘電体微粒子を溶融混練し、溶融押出やインフレーション成形によりフィルム化する手法である(たとえば、特許文献5〜8参照)。ただし、この手法では、
(1)10μm以下の薄膜化が困難である
(2)ボイドが生成しやすい
の2点の問題があるため、比誘電率14以上、膜厚9μm以下の薄膜フィルムは得られていないのが現状である。
【0008】
他の手法としては、樹脂と無機強誘電体微粒子を溶液中で混合し、コーティングにより薄膜を形成する方法があげられる(たとえば、特許文献9〜10参照)。特許文献9、10では、芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーに強誘電体微粒子を分散させてコーティングし、剥離により比誘電率20、膜厚10μmのフィルムを得ることができている。しかし、膜厚が5μmの場合は比誘電率が15、膜厚が3μmの場合は比誘電率が11と、膜厚を薄くするにしたがい、誘電率が低下している。さらに、ポリマーとして、ポリアミドやポリイミドを使用しているため、可撓性の低いフィルムとなっている。
【0009】
また、無機強誘電体微粒子としてチタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛を使用した場合、数十Hz〜数十kHz程度の周波数領域において誘電損失が高く、さらに、誘電損失の温度係数が高いため、たとえ誘電率が高くても、その特性を生かすことができなかった。
【0010】
【特許文献1】特開昭54−129064号公報
【特許文献2】特開昭59−62115号公報
【特許文献3】特開昭62−286720号公報
【特許文献4】特開昭60−207329号公報
【特許文献5】特開昭58−69252号公報
【特許文献6】特開昭55−62605号公報
【特許文献7】特表2000−501549号公報
【特許文献8】特開2000−294447号公報
【特許文献9】特開平4−160705号公報
【特許文献10】特開平2−206623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高誘電性でかつ薄膜化が可能であり、しかも巻付き性(可撓性)にも優れ、誘電損失の小さい高誘電性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、高誘電率を得るための酸化物粒子として、金属元素として周期表の2族元素と周期表の第5周期の金属元素を含む複合酸化物粒子を用いることにより、上述の課題を解決できることを見出し、本発明にいたった。
【0013】
すなわち、本発明は、
(A)フッ化ビニリデン系ポリマー(以下、「VdF系ポリマー(A)」ともいう)、および
(B)式(B):
1a2bc
(式中、M1とM2は異なり、M1は周期表の2族金属元素、M2は周期表の第5周期の金属元素;aは0.9〜1.1;bは0.9〜1.1;cは2.8〜3.2である)
で示される複合酸化物粒子(以下、「複合酸化物粒子(B)」ともいう)
を含んでなり、フッ化ビニリデン系ポリマー(A)100質量部に対して、複合酸化物粒子(B)を10〜500質量部含む高誘電性フィルムに関する。
【0014】
1kHz、25℃における前記フッ化ビニリデン系ポリマー(A)自体の比誘電率は、5〜15であることが好ましい。
【0015】
前記複合酸化物粒子(B)は、スズ酸カルシウムまたはジルコン酸カルシウムの粒子であることが好ましい。
【0016】
前記複合酸化物粒子(B)の平均粒子径は、0.01〜6μmであることが好ましい。
【0017】
前記高誘電性フィルムは、1kHz、25℃における比誘電率が14〜80、誘電損失が0.2〜5%であり、膜厚が3〜9μmであることが好ましい。
【0018】
前記高誘電性フィルムは、フィルムコンデンサ用フィルムであることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、前記高誘電性フィルムの少なくとも片面に電極層が積層されてなるフィルムコンデンサ用積層フィルムに関する。
【0020】
また、本発明は、前記フィルムコンデンサ用積層フィルムを用いてなるフィルムコンデンサに関する。
【0021】
また、本発明は、
(A)フッ化ビニリデン系ポリマー、
(B)式(B):
1a2bc
(式中、M1とM2は異なり、M1は周期表の2族金属元素、M2は周期表の第5周期の金属元素;aは0.9〜1.1;bは0.9〜1.1;cは2.8〜3.2である)
で示される複合酸化物粒子、
(C)カップリング剤、界面活性剤またはエポキシ基含有化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の親和性向上剤、ならびに
(D)溶剤
を含んでなり、フッ化ビニリデン系ポリマー(A)100質量部に対して、複合酸化物粒子(B)を10〜500質量部、ならびに複合酸化物粒子(B)100質量部に対して親和性向上剤(C)を0.01〜30質量部含む高誘電性フィルム形成用コーティング組成物に関する。
【0022】
1kHz、25℃における前記フッ化ビニリデン系ポリマー(A)自体の比誘電率は、5〜15であることが好ましい。
【0023】
前記複合酸化物粒子(B)は、スズ酸カルシウムまたはジルコン酸カルシウムの粒子であることが好ましい。
【0024】
前記複合酸化物粒子(B)の平均粒子径は、0.01〜6μmであることが好ましい。
【0025】
前記コーティング組成物は、フィルムコンデンサ用の高誘電性フィルムの形成に用いることが好ましい。
【0026】
さらに、本発明は、前記コーティング組成物を基材に塗布し、乾燥することを特徴とする高誘電性フィルムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、金属元素として周期表の2族元素と周期表の第5周期の金属元素を含む複合酸化物粒子を用いることにより、高誘電性でかつ薄膜化が可能であり、しかも巻付き性(可撓性)にも優れ、誘電損失の小さい高誘電性フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の高誘電性フィルムは、VdF系ポリマー(A)および複合酸化物粒子(B)を含んでなり、VdF系ポリマー(A)100質量部に対して、複合酸化物粒子(B)を10〜500質量部含む。
【0029】
VdF系ポリマー(A)としては、フッ化ビニリデン(VdF)のホモポリマーでも、VdFと共重合可能な他のモノマーとのコポリマー(以下、「VdFコポリマー」ともいう)であってもよい。また、VdFのホモポリマーとVdFコポリマーとのブレンド、またはVdFコポリマー同士のブレンドであってもよい。
【0030】
VdFと共重合可能な他のモノマーとしては、たとえば、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、モノフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)などの含フッ素オレフィン類;含フッ素アクリレート、官能基含有含フッ素モノマーなどがあげられる。これらのうち、溶剤溶解性が良好な点から、TFE、CTFE、HFPが好ましい。共重合割合は、VdFが50モル%以上、好ましくは60モル%以上であることが、誘電率が高い点、溶剤溶解性が高い点から好ましい。なお、VdF/TFE系コポリマーの場合、その組成比は、VdF単位が60〜95モル%でTFE単位が5〜40モル%であることが、特にVdF単位が70〜90モル%でTFE単位が10〜30モル%であることが、耐電圧が高くなる点から好ましい。また、VdF系ポリマー自体の誘電損失を下げるために、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、CH2=CHCF3、CH2=CFCF3などと共重合することも好ましい。この場合、VdFとは直接反応しにくいので、TFEやCTFEなどのような上記の共重合可能な他のモノマーとともに共重合することもできる。また、VdF系ポリマー自体の比誘電率(1kHz、25℃)は5以上、さらには6以上、とくには7.5以上であることが、フィルムの誘電率をさらに高める点から好ましい。なお、上限値はとくに制限はないが、通常15、好ましくは13である。
【0031】
複合酸化物粒子(B)は、式(B):
1a2bc
(式中、M1とM2は異なり、M1は周期表の2族金属元素、M2は周期表の第5周期の金属元素;aは0.9〜1.1;bは0.9〜1.1;cは2.8〜3.2である)
で示される代表的な高誘電性無機粒子であり、それらの1kHz、25℃における比誘電率は20以上である。
【0032】
式(B)において、M1は周期表の2族金属元素であり、その具体例としては、たとえば、Mg、Ca、Sr、Baなどがあげられる。また、M2は周期表の第5周期の金属元素であり、その具体例としては、たとえば、Zr、Nb、In、Sn、Sbなどがあげられる。
【0033】
複合酸化物(B)は、式(B)におけるM1が2族金属元素であり、M2が第5周期の金属元素であるペロブスカイト型酸化物であり、具体的には、スズ酸マグネシウム、スズ酸カルシウム、スズ酸ストロンチウム、スズ酸バリウム、アンチモン酸マグネシウム、アンチモン酸カルシウム、アンチモン酸ストロンチウム、アンチモン酸バリウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸ストロンチウム、ジルコン酸バリウム、インジウム酸マグネシウム、インジウム酸カルシウム、インジウム酸ストロンチウム、インジウム酸バリウムなどがあげられる。なかでも、スズ酸マグネシウム、スズ酸カルシウム、スズ酸ストロンチウム、スズ酸バリウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸ストロンチウム、ジルコン酸バリウムが、さらにはスズ酸カルシウム、ジルコン酸カルシウムが、誘電率が高く、誘電損失が低い点から好ましい。
【0034】
複合酸化物粒子(B)の粒子径は、平均粒子径で0.01〜6μm、さらには0.01〜2μm、とくには0.01〜1.0μm、さらに0.01〜0.7μmであることが、フィルムの表面平滑性や均一分散性に優れる点から好ましい。
【0035】
複合酸化物粒子(B)の配合量は、VdF系ポリマー(A)100質量部に対して、10質量部以上、好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上である。少なすぎるとフィルムの誘電率の向上効果が小さくなる。上限は500質量部である。多くなりすぎるとフィルムとしての強度の点、表面荒れの点で問題が生じる。好ましい上限は400質量部、さらには300質量部である。
【0036】
本発明のフィルムには、さらに任意成分として、他のポリマー(a)、他の高誘電性無機粒子(b)、親和性向上剤(C)のほか、補強用フィラーや帯電防止用フィラー、他の親和性向上剤(c)などの各種フィラーなどの添加剤を含ませてもよい。
【0037】
他のポリマー(a)としては、たとえば可撓性を高めるためにはポリカーボネート(PC)、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シリコーン樹脂、ポリエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが好ましく、強度を高めるためにはポリ(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、ポリベンゾイミダゾール(PBI)などがあげられ、また高誘電性を補足する点から奇数ポリアミド、シアノプルラン、銅フタロシアニン系ポリマーなどがあげられる。これらの他のポリマー(a)は、本発明の目的を損なわない範囲で配合してもよい。
【0038】
本発明では複合酸化物粒子(B)以外の高誘電性無機粒子の併用を禁じるものではなく、従来公知の高誘電性無機粒子を配合してもよい。
【0039】
このような他の高誘電性無機粒子(b)としては、たとえば、式(b1):
dTief
(式中、Mは周期表の第2周期から第5周期までの2族金属元素;dは0.9〜1.1;eは0.9〜1.1;fは2.8〜3.2である)
で示される複合酸化物(b1)や、周期表の2族金属元素および4族金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも3種の金属元素を含む複合酸化物(b2)などがあげられる。
【0040】
式(b1)において、Mは周期表の第2周期から第5周期までの2族金属元素であり、その具体例としては、Be、Mg、Ca、Srがあげられる。
【0041】
複合酸化物(b1)としては、具体的には、チタン酸ベリリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムがあげられる。
【0042】
また、複合酸化物(b2)において、周期表の2族金属元素の具体例としては、たとえば、Mg、Ca、Sr、Baなどがあげられ、周期表の4族金属元素の具体例としては、たとえば、Ti、Zr、Hfなどがあげられる。
【0043】
周期表の2族金属元素と4族金属元素から選ばれる3種以上の好ましい組み合わせとしては、たとえば、Sr、Ba、Tiの組み合わせ、Sr、Ti、Zrの組み合わせ、Sr、Ba、Tiの組み合わせ、Ba、Ti、Zrの組み合わせ、Sr、Ba、Ti、Zrの組み合わせ、Mg、Ti、Zrの組み合わせ、Ca、Ti、Zrの組み合わせ、Ca、Ba、Tiの組み合わせ、Ca、Ba、Zrの組み合わせ、Ca、Ba、Ti、Zrの組み合わせ、Ca、Sr、Zrの組み合わせ、Ca、Sr、Ti、Zrの組み合わせ、Mg、Sr、Zrの組み合わせ、Mg、Sr、Ti、Zrの組み合わせ、Mg、Ba、Ti、Zrの組み合わせ、Mg、Ba、Zrの組み合わせなどがあげられる。
【0044】
複合酸化物(b2)としては、具体的には、チタン酸ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ジルコン酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどがあげられる。
【0045】
他にも、他の高誘電性無機粒子(b)としては、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アンチモン酸鉛、チタン酸亜鉛、チタン酸鉛、酸化チタンなども使用することができる。
【0046】
また、上記の複合酸化物の複合化合物、固溶体、混合物なども例示できる。これらのなかでも、複合酸化物粒子(B)と併用する場合、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛などが好ましい。
【0047】
他の高誘電性無機粒子(b)の粒子径は、平均粒子径で0.01〜2μm、好ましくは0.01〜1μm、さらには0.01〜0.7μm、とくには0.01〜0.5μm、さらに0.01〜0.2μm程度であることが、フィルムの表面平滑性や均一分散性に優れる点から好ましい。
【0048】
これらの他の高誘電性無機粒子(b)は、本発明の目的を損なわない範囲で配合できるが、その配合量は、VdF系ポリマー(A)100質量部に対して、10〜500質量部、好ましくは30〜400質量部、さらには50〜300質量部であることが、フィルムの誘電率、フィルムとしての強度の点、表面荒れが少ない点から好ましい。また、高誘電性有機化合物、たとえば銅フタロシアニン4量体なども、本発明の目的を損なわない範囲で配合してもよい。
【0049】
親和性向上剤(C)は、配合することで、VdF系ポリマー(A)と複合酸化物粒子(B)との親和性を高め、複合酸化物粒子(B)をVdF系ポリマー中に均一に分散させると共に、複合酸化物粒子(B)とVdF系ポリマー(A)をフィルム中でしっかり結合させる役割を果たし、ボイドの発生を抑制し、誘電率を高めることができる。なお、他の高誘電性無機粒子(b)を配合している場合には、VdF系ポリマー(A)と他の高誘電性無機粒子(b)との親和性を高める働きもする。
【0050】
親和性向上剤(C)としては、カップリング剤(C1)、界面活性剤(C2)またはエポキシ基含有化合物(C3)が有効である。
【0051】
カップリング剤(C1)としては、たとえば、チタン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、ジルコアルミネート系カップリング剤などが例示できる。
【0052】
チタン系カップリング剤としては、たとえば、モノアルコキシ型、キレート型、コーディネート型などがあげられ、とくに複合酸化物粒子(B)との親和性が良好な点から、モノアルコキシ型、キレート型が好ましい。なお、他の高誘電性無機粒子(b)を配合している場合には、モノアルコキシ型、キレート型は、他の高誘電性無機粒子(b)との親和性も良好である。
【0053】
シラン系カップリング剤としては、たとえば、高分子型、低分子型があり、また官能基の数の点からモノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ダイポーダルアルコキシシランなどがあげられ、とくに複合酸化物粒子(B)との親和性が良好な点から低分子型のアルコキシシランが好ましい。なお、他の高誘電性無機粒子(b)を配合している場合には、低分子型のアルコキシシランは、他の高誘電性無機粒子(b)との親和性も良好である。
【0054】
ジルコニウム系カップリング剤としては、たとえば、モノアルコキシジルコニウム、トリアルコキシジルコニウムなどがあげられる。
【0055】
ジルコアルミネート系カップリング剤としては、たとえば、モノアルコキシジルコアルミネート、トリアルコキシジルコアルミネートなどがあげられる。
【0056】
界面活性剤(C2)としては、高分子型、低分子型があり、官能基の種類の点から非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤があり、これらが使用でき、熱安定性が良好な点から、高分子型の界面活性剤が好ましい。
【0057】
非イオン性界面活性剤としては、たとえば、ポリエーテル誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、アルコール誘導体などがあげられ、とくに、複合酸化物粒子(B)との親和性が良好な点から、ポリエーテル誘導体が好ましい。なお、他の高誘電性無機粒子(b)を配合している場合には、ポリエーテル誘導体は、他の高誘電性無機粒子(b)との親和性も良好である。
【0058】
アニオン性界面活性剤としては、たとえば、スルホン酸やカルボン酸、およびそれらの塩を含有するポリマーなどがあげられ、とくに、VdF系ポリマー(A)との親和性が良好な点から、具体的にはアクリル酸誘導体系ポリマー、メタクリル酸誘導体系ポリマー、無水マレイン酸系共重合体が好ましい。
【0059】
カチオン性界面活性剤としては、たとえば、アミン系化合物やイミダゾリンなどの含チッ素系複合環を有する化合物やそのハロゲン化塩があげられるが、VdF系ポリマー(A)への攻撃性が低い点から、含チッ素系複合環を有する化合物が好ましい。塩型としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウムなどのハロゲンアニオンを含むアンモニウム塩があげられる。誘電率が高い点からハロゲンアニオンを含むアンモニウム塩が好ましい。
【0060】
エポキシ基含有化合物(C3)としては、エポキシ化合物またはグリシジル化合物などがあげられ、低分子量化合物でも高分子量化合物でもよい。なかでも、VdF系ポリマー(A)との親和性がとくに良好な点から、エポキシ基を1個有する低分子量の化合物が好ましい。なお、カップリング剤に分類されるエポキシ基含有カップリング剤(たとえばエポキシシランなど)は、本発明ではエポキシ基含有化合物(C3)には含めず、カップリング剤(C1)に含める。
【0061】
エポキシ基含有化合物(C3)の好ましい例としては、とくにVdF系ポリマー(A)との親和性に優れている点から、式(C3):
【0062】
【化1】

【0063】
(式中、Rは水素原子、または酸素原子、チッ素原子もしくは炭素−炭素二重結合を含んでいてもよい炭素数1〜10の1価の炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香環;lは0または1;mは0または1;nは0〜10の整数)
で示される化合物があげられる。
【0064】
具体例としては、
【0065】
【化2】

【0066】
などのケトン基やエステル基を有するものがあげられる。
【0067】
親和性向上剤(C)は、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができるが、具体的には、その配合量は、複合酸化物粒子(B)100質量部に対して、0.01〜30質量部が、さらには0.1〜25質量部が、とくには1〜20質量部が、均一に分散させることができ、得られるフィルムの誘電率が高い点から好ましい。
【0068】
親和性向上剤(C)としては、複合酸化物粒子(B)との親和性が良好な点からカップリング剤(C1)およびエポキシ基含有化合物(C3)が好ましく、とくにチタン系カップリング剤またはシラン系カップリング剤が、VdF系ポリマー(A)および複合酸化物粒子(B)の両方への親和性が良好な点から特に好ましい。なお、他の高誘電性無機粒子(b)を配合している場合には、カップリング剤(C1)やエポキシ基含有化合物(C3)、とくにチタン系カップリング剤やシラン系カップリング剤は、他の高誘電性無機粒子(b)との親和性も良好である。
【0069】
また、カップリング剤(C1)およびエポキシ基含有化合物(C3)は複合酸化物粒子(B)と化学的な結合を形成する(反応性基を有する)ので、よりいっそうしっかりした親和性向上作用を発揮する。なお、他の高誘電性無機粒子(b)を配合している場合には、カップリング剤(C1)やエポキシ基含有化合物(C3)は、他の高誘電性無機粒子(b)とも結合を形成する。
【0070】
また、補強用フィラーとしては、たとえば、炭化ケイ素、チッ化ケイ素、酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、ガラス、アルミナ、ホウ素化合物の粒子または繊維などがあげられ、さらに誘電損失を下げるためのフィラーとしては、たとえば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化ビスマスなどがあげられ、他の親和性向上剤(c)としては、たとえば、官能基変性ポリオレフィン、スチレン改質ポリオレフィン、官能基変性ポリスチレン、ポリアクリル酸イミド、クミルフェノールなどがあげられ、本発明の目的を損なわない範囲で配合してもよい。
【0071】
本発明の高誘電性フィルムは、上記の溶融混練法(1)でもコーティング法(2)のいずれでも製造できるが、簡便さや得られるフィルムの均質性に優れる点から、コーティング法(2)で製造することが有利である。
【0072】
コーティング法で高誘電性フィルムを製造する場合、まず、コーティング組成物を調製する。本発明のコーティング組成物は、
(A)VdF系ポリマー、
(B)式(B):
1a2bc
(式中、M1とM2は異なり、M1は周期表の2族金属元素、M2は周期表の第5周期の金属元素;aは0.9〜1.1;bは0.9〜1.1;cは2.8〜3.2である)
で示される複合酸化物粒子、
(C)カップリング剤、界面活性剤またはエポキシ基含有化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の親和性向上剤、ならびに
(D)溶剤
を含んでなり、フッ化ビニリデン系ポリマー(A)100質量部に対して、複合酸化物粒子(B)を10〜500質量部、ならびに複合酸化物粒子(B)100質量部に対して親和性向上剤(C)を0.01〜30質量部含むコーティング組成物があげられる。
【0073】
VdF系ポリマー(A)、複合酸化物粒子(B)および親和性向上剤(C)、その他の任意成分の具体例、配合量については、上述の説明がそのまま適用される。
【0074】
このコーティング組成物は、粘度が0.01〜3Pa・sとなるように溶剤(D)で調整することが、塗工性が良好な点、均一で平滑なフィルムが得られる点から好ましい。とくには1.5Pa・s以下であることが表面粗さを抑制する点から好ましい。
【0075】
コーティング組成物の形態としては、エマルション型のもの(溶剤が水など)でもよいが、この場合VdF系ポリマー(A)も粒子であり、複合酸化物粒子(B)との粒子−粒子の混合系になって、均一分散が難しいため、VdF系ポリマー(A)を有機溶剤の溶液とし、その溶液に複合酸化物粒子(B)を分散させることが、均一分散が容易であり、均質なフィルムが得られやすいことから好ましい。
【0076】
VdF系ポリマー(A)を溶解する溶剤(D)としては、たとえば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶剤;シクロヘキサン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、2−ヘプタノン(MAK)などのケトン系溶剤;酢酸ブチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤;エチルセロソルブ、メチルセロソルブなどのエーテル系溶剤;プロピレンカーボネートやジエチレンカーボネート(DEC)などのカーボネート系溶剤が好ましく、VdF系ポリマー(A)の溶解性にとくに優れる点からアミド系溶剤が好ましい。これらの溶剤は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。とくにアミド系溶剤を主溶剤とし、これに助溶剤としてエステル、ケトン、エーテル、カーボネート系の溶剤を混合したものが、基材への濡れ性がよいため、ピンホールが少ない均一な薄膜作製に好適である。とりわけ、VdF系ポリマー(A)の溶解性を高めるという観点から、溶剤の1kHz、25℃における比誘電率が22以上になるように溶剤を調整することが好ましく、また、塗工性を向上させるという観点から、溶剤の表面張力が35dyn/cm以下になるように溶剤を調整することが好ましい。
【0077】
コーティング組成物には、溶剤(D)のほか、フィルム中には存在しない(フィルム形成時に消失する)成分または、存在していても本発明のフィルムが目的としている効果(高誘電率、可撓性、薄膜化、低誘電損失)に本質的な影響を与えない成分として、消泡剤、分散剤、湿潤剤、レベリング剤、流展剤などを添加してもよい。
【0078】
コーティング組成物の調製は、VdF系ポリマー(A)の溶剤(D)の溶液を調製し、ついでこれらに残余の成分を適宜添加し、強制攪拌分散させることにより行われる。より具体的には、つぎの方法がある。
【0079】
(1)複合酸化物粒子(B)と親和性向上剤(C)を予め溶剤(D)に混合し攪拌分散させ、得られた分散混合物とVdF系ポリマー(A)溶液とを充分に攪拌し分散させる方法:
この方法において、親和性向上剤(C)が化学反応性の親和性向上剤であるカップリング剤(C1)またはエポキシ基含有化合物(C3)である場合、親和性向上剤(C)と複合酸化物粒子(B)とを反応させたのち強制攪拌分散させてもよいし、複合酸化物粒子(B)と親和性向上剤(C)とを溶剤(D)に加えて反応と強制攪拌分散を同時に行ってもよいし、両者を併用してもよい。なお、親和性向上剤(C)が界面活性剤(C2)である場合は、反応は生じないので、複合酸化物粒子(B)と親和性向上剤(C)とを溶剤(D)に加えて反応と強制攪拌分散を同時に行うことが簡便である。
【0080】
また、複合酸化物粒子(B)と親和性向上剤(C)の分散混合物の安定性を高めるためには、複合酸化物粒子(B)と親和性向上剤(C)の強制攪拌分散時にVdF系ポリマー(A)溶液を少量共存させておくことが望ましい。
【0081】
(2)VdF系ポリマー(A)の溶剤(D)溶液に、複合酸化物粒子(B)および親和性向上剤(C)を一括でまたは順次に添加し強制攪拌分散処理する方法:
順次添加する場合、添加順序はとくに限定されず、また、1つの成分を添加した都度、強制攪拌分散処理を行ってもよい。
【0082】
上記(1)および(2)の方法のいずれにおいても、複合酸化物粒子(B)は、予め表面の吸着水を熱処理などで除去しておくことが、均一分散性がさらに向上するので望ましい。この複合酸化物粒子(B)の予備的熱処理または表面処理を施すことにより、平均粒径が大きな複合酸化物粒子(B)であっても均一分散が容易になる。好ましくは、予備的熱処理および表面処理の両方を施すことが望ましい。
【0083】
また、各成分はいずれも、所定量を一括添加してもよし、分割して添加してもよい。さらに分割して添加する場合には、たとえば複合酸化物粒子(B)と親和性向上剤(C)の混合時にVdF系ポリマー(A)の一部を添加しておき、混合後に残りのVdF系ポリマー(A)を添加し、さらに、親和性向上剤(C)を追加的に添加混合するというように、添加順序と分割添加を自由に組み合わせてもよい。
【0084】
ここで重要な点は、強制撹拌分散を充分に行うことである。この分散処理が不充分な場合、複合酸化物粒子(B)などの固形分が容易に沈降し、コーティング自体が困難になったり、コーティング膜を乾燥して形成する際に内部に相分離が生じてしまったりすることがあり、均一で機械的特性に優れ、ムラのない誘電特性をもつフィルムを形成できなくなることがある。なお、この強制撹拌分散処理は、一旦調製した組成物に対し、コーティング直前に行ってもよい。
【0085】
強制撹拌分散の目安は、撹拌分散後のコーティング組成物が、室温(25℃)で7日間静置しても相分離が起こらない(溶液濁度の変化がわずか(10%以下)である)ことであり、予備実験をすることにより設定できる。
【0086】
好ましい強制撹拌分散装置としては、ボールミル、サンドミル、アトライト、ビスコミル、ロールミル、バンバリーミキサ、ストーンミル、バイブレータミル、ディスパージンミル、ディスクインペラー、ジェットミル、ダイーノミルなどがあげられる。これらのうち、不純物が入りにくく、かつ連続生産が可能な点から、ジェットミル、ロールミル、ダイーノミルが好ましい。
【0087】
限定的ではない強制撹拌分散条件としては、たとえばつぎの範囲が例示できる。
装置:サンドミル
撹拌条件:
撹拌速度:100〜10,000rpm
撹拌時間:5〜120分間
その他:ジルコニアビーズを入れる。
【0088】
得られた均一なコーティング組成物からフィルムを成膜する。フィルムの成膜は、基材にコーティングし乾燥させ、要すれば基材から剥離することにより行うことが、操作が容易で設備が簡便で膜厚の制御が容易である点から好ましい。そのほか、ラングミュアブロジェット法、含浸法といった方法で成膜してもよい。
【0089】
コーティング方法としては、ナイフコーティング法、キャストコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、ブレードコーティング法、ロッドコーティング法、エアドクタコーティング法、カーテンコーティング法、ファクンランコーティング法、キスコーティング法、スクリーンコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、押出コーティング法、電着コーティング法などが使用できるが、これらのうち操作性が容易な点、膜厚のバラツキが少ない点、生産性に優れる点から、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、キャストコーティング法が好ましい。
【0090】
乾燥は、ヤンキーシリンダ、カウンタフロー、熱風噴射、エアフローシリンダ、エアスルー、赤外線、マイクロ波、誘導加熱などを利用した方法で行うことができる。たとえば、熱風噴射法では、130〜200℃で1分間以内という条件が好適に採用できる。
【0091】
本発明の高誘電性フィルムは、いわゆる被膜として基材上に残してもよいが、フィルムコンデンサ用のフィルムとする場合などは、基材から剥離して単独フィルムとするため、基材としてはVdF系ポリマー(A)が剥離しやすい材料、たとえば、ステンレススチール、銅などの金属板;ガラス板;ITOやZnOを蒸着したポリマーフィルム;離型性に優れたポリマーフィルムなどが好ましい。ポリマーフィルムとしては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリスルフォン(PSF)などのエンジニアリングプラスチックが好適である。
【0092】
被膜として基材に残す場合は、ポリマーのフィルムの上に本発明のコーティング組成物を塗布、乾燥し、積層フィルムの形とすることができる。積層フィルム用の基材としては、VdF系ポリマー(A)と接着性がよい膜厚が1.5〜3μm程度のポリマーフィルムが好ましい。ポリマーとしては、PET、PEN、PC、PA、PI、PAI、PBI、PPS、PPO、PSFなどのエンジニアリングプラスチックが好適である。
【0093】
単独フィルムは、そのままでもよいが、さらに定法により延伸してもよく、その場合、延伸倍率は2〜6倍程度が望ましい。
【0094】
そのほか、単独フィルムでも積層フィルムでも、電極用のアルミニウムの蒸着を容易にするためにさらに別種のポリマーで表面処理してもよいしフィルムの表面にプラズマ処理やコロナ放電処理を施してもよい。また、フィルムの表面荒れを抑制するために別種のポリマーを表面コートしてもよいし、強度改善のために紫外線や電子線、放射線による架橋処理を施してもよい。さらに、フィルムをプレス加工、たとえばロールプレスしてもよく、その場合フィルムの表面平滑性が向上する。
【0095】
かくして得られる本発明の高誘電性フィルムは、膜厚を9μm以下、好ましくは6μm以下、さらには5μm以下にすることができる。膜厚の下限はポリマーの種類や複合酸化物粒子(B)の粒子径や配合量などによって異なるが、機械的強度の維持の点から3μmである。また、本発明の高誘電性フィルムは、1kHz、25℃における比誘電率を14以上、好ましくは20以上、誘電損失を5%以下にすることができる。なお、比誘電率の上限はポリマーの種類や複合酸化物粒子(B)の粒子径や配合量などによって異なるが、通常80程度である。また、誘電損失の下限はポリマーの種類や複合酸化物粒子(B)の粒子径や配合量などによって異なるが、通常0.2%程度である。
【0096】
本発明の高誘電性フィルムでは、複合酸化物粒子(B)の充填率が比較的高い(10質量%以上)にもかかわらず、膜厚を薄くすることができるので、静電容量を高くすることができる。たとえば、比誘電率2000のスズ酸カルシウム粒子を複合酸化物粒子(B)としかつ充填率を100質量%とした場合、1kHz、25℃におけるフィルムの比誘電率を30以上にすることができる。この場合、円電極の面積を9.5mm2とすると、膜厚が9μmのとき静電容量は2.8nF以上となり、膜厚が6μmでは静電容量が4.2nF以上となる。
【0097】
また、本発明のフィルムによれば、カップリング剤(C1)またはエポキシ基含有化合物(C3)を配合した場合には、その働きにより複合酸化物粒子(B)とVdF系ポリマー(A)とがしっかりと結合しており、ボイド含有量が小さい(たとえば5容量%以下、好ましくは1容量%以下)緻密な構造が達成され、耐電圧を高くすることができる。
【0098】
緻密であるにもかかわらず、本発明のフィルムは可撓性(巻付き性)に優れている。たとえば、膜厚を5μmのフィルムとしたとき、180度折曲試験で折り目に亀裂や折れが生じない。したがって、フィルムコンデンサ用に用いる場合、加工性(巻付き性や追随性)が格段に向上する。
【0099】
また、本発明のフィルムは表面平滑性に優れており、たとえば、表面中心粗さを±1μm以下、さらには±0.6μm以下にすることができる。表面平滑性に優れることにより、電気特性の均質化が向上する。
【0100】
本発明の高誘電性フィルムは、たとえばフィルムコンデンサ用のフィルムとして使用する場合、電極などを表面に蒸着法などにより積層フィルムを形成し、それを用いてフィルムコンデンサとすることができる。電極などの材料、形成方法、条件などは従来公知のものが採用できる。
【0101】
本発明の高誘電性フィルムは、フィルムコンデンサ用のフィルムとして特に有用であるが、そのほか、圧電素子用フィルム、焦電体用フィルム、転写体担持用誘電体フィルム、強誘電体素子用フィルムなどとしても有用である。
【実施例】
【0102】
つぎに本発明を、実施例などをあげて具体的に説明するが、本発明はかかる例のみに限定されるものではない。
【0103】
なお、本明細書で使用している特性値は、つぎの方法で測定したものである。
【0104】
(比誘電率、誘電損失)
金属基板上に形成したポリマー・無機微粒子混合フィルム、またはアルミニウムを一方の面に蒸着したアルミニウム蒸着ポリマー・無機微粒子混合フィルムに、基板(またはアルミニウム蒸着面)と反対側のフィルムの表面に真空中で面積95mm2にてアルミニウムを蒸着しサンプルを作製した。このサンプルをインピーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード社製のHP4194A)にて、室温(25℃)および100℃下で周波数100Hz、1kHzおよび10kHzでの静電容量と誘電損失を測定する。
【0105】
(膜厚)
デジタル測長機デジマイクロ((株)ニコン製のMF−1001)を用いて、基板に載せたフィルムを室温下にて測定する。
【0106】
(可撓性)
長さ20mm、幅5mm、厚さ5μmのフィルムを180度に折り曲げたのち、折曲げ部の亀裂、変形を肉眼で観察する。折曲げ部に亀裂、変形がないものを○とする。
【0107】
実施例1
3Lセパラブルフラスコ中にN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)(キシダ化学(株)製)800質量部とフッ化ビニリデン(VdF)ホモポリマー(ARKEMA社製のKAYNAR761。比誘電率9.6(1kHz、25℃))200質量部を入れ、80℃、3時間メカニカルスターラーにて攪拌し、20質量%濃度のポリマー溶液を得た。このポリマー溶液は透明の均一溶液であった。
【0108】
平均粒子径6.0μmのスズ酸カルシウム(CS)(共立マテリアル(株)製のCS)を100質量部、DMAc60質量部、メチルイソブチルケトン(MIBK)40質量部、さらにチタンカップリング剤として味の素ファインテクノ(株)製のプレンアクトKR−55を5質量部加えた。
【0109】
この混合物に直径1mmのジルコニアビーズを同質量加えて卓上遊星ボールミル((有)Gokin Planetaring(ゴーキンプラネタリング)製のPlanet M)に入れ、室温下、回転数800rpmで15分間分散処理を行った。分散処理後の混合物をステンレススチール製のメッシュ(真鍋工業(株)製の80メッシュ)に通してジルコニアビーズを取り除いて、複合酸化物分散溶液とした。
【0110】
この分散溶液34質量部(スズ酸カルシウム16.6質量部、チタンカップリング剤0.83質量部、DMAc10.0質量部、MIBK6.63質量部含有)とVdFホモポリマーのDMAc溶液を50質量部(VdFホモポリマー10.0質量部、DMAc40.0質量部含有)、MIBK26.7質量部混合し、本発明のコーティング組成物を調製した。
【0111】
ついで得られた組成物をアルミ基板上にバーコータで塗布し、180℃で1分間熱風乾燥して、厚さ約7.5μmの誘電性フィルムを形成した。
【0112】
得られたフィルムについて、各周波数での比誘電率、誘電損失および可撓性を調べた。結果を表1に示す。
【0113】
実施例2
複合酸化物粒子(B)の種類を平均粒子径0.7μmのジルコン酸カルシウム(CZ)(共立マテリアル(株)製のCZ−TH)に変更したほかは実施例1と同様にして本発明のコーティング組成物を調製し、ついで実施例1と同様にして厚さ約5.0μmの誘電性フィルムを形成して、各周波数での比誘電率、誘電損失および可撓性を調べた。結果を表1に示す。
【0114】
比較例1
複合酸化物粒子(B)の種類を平均粒子径0.1μmのチタン酸バリウム(BT)(堺化学工業(株)製のBT−01)に変更したほかは実施例1と同様にして本発明のコーティング組成物を調製し、ついで実施例1と同様にして厚さ5.0μmの誘電性フィルムを形成して、各周波数での比誘電率、誘電損失および可撓性を調べた。結果を表1に示す。
【0115】
実施例3
複合酸化物粒子(B)を平均粒子径1.0μmのスズ酸カルシウム((株)高純度化学研究所製のCAF03PB)に変更したほかは実施例1と同様にして本発明のコーティング組成物を調製し、ついで実施例1と同様にして厚さ5.0μmの誘電性フィルムを形成して、各周波数での比誘電率、誘電損失および可撓性を調べた。結果を表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
実施例4
複合酸化物粒子(B)として、平均粒子径6.0μmのCS(共立マテリアル(株)製のCS)を100質量部ではなく、平均粒子径1.0μmのCS((株)高純度化学研究所製のCAF03PB)と平均粒子径0.1μmのBT(堺化学工業(株)製のBT−01)をそれぞれ50質量部加えた他は実施例1と同様にして本発明のコーティング組成物を調製し、ついで実施例1と同様にして厚さ5.0μmの誘電性フィルムを形成して、各周波数での比誘電率、誘電損失および可撓性を調べた。結果を表2に示す。
【0118】
実施例5
複合酸化物粒子(B)として、平均粒子径6.0μmのCS(共立マテリアル(株)製のCS)を100質量部ではなく、平均粒子径0.7μmのジルコン酸カルシウム(CZ)(共立マテリアル(株)製のCZ−TH)と平均粒子径0.1μmのBT(堺化学工業(株)製のBT−01)をそれぞれ50質量部加えた他は実施例1と同様にして本発明のコーティング組成物を調製し、ついで実施例1と同様にして厚さ5.0μmの誘電性フィルムを形成して、各周波数での比誘電率、誘電損失および可撓性を調べた。結果を表2に示す。
【0119】
実施例6
複合酸化物粒子(B)として、平均粒子径6.0μmのCS(共立マテリアル(株)製のCS)を100質量部ではなく、平均粒子径6.0μmのCS(共立マテリアル(株)製のCS)と平均粒子径0.1μmのBT(堺化学工業(株)製のBT−01)をそれぞれ50質量部加えた他は実施例1と同様にして本発明のコーティング組成物を調製し、ついで実施例1と同様にして厚さ7.5μmの誘電性フィルムを形成して、各周波数での比誘電率、誘電損失および可撓性を調べた。結果を表2に示す。
【0120】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フッ化ビニリデン系ポリマー、および
(B)式(B):
1a2bc
(式中、M1とM2は異なり、M1は周期表の2族金属元素、M2は周期表の第5周期の金属元素;aは0.9〜1.1;bは0.9〜1.1;cは2.8〜3.2である)
で示される複合酸化物粒子
を含んでなり、フッ化ビニリデン系ポリマー(A)100質量部に対して、複合酸化物粒子(B)を10〜500質量部含む高誘電性フィルム。
【請求項2】
1kHz、25℃におけるフッ化ビニリデン系ポリマー(A)自体の比誘電率が5〜15である請求項1記載の高誘電性フィルム。
【請求項3】
複合酸化物粒子(B)が、スズ酸カルシウムまたはジルコン酸カルシウムの粒子である請求項1または2記載の高誘電性フィルム。
【請求項4】
複合酸化物粒子(B)の平均粒子径が0.01〜6μmである請求項1〜3のいずれかに記載の高誘電性フィルム。
【請求項5】
1kHz、25℃における比誘電率が14〜80、誘電損失が0.2〜5%であり、膜厚が3〜9μmである請求項1〜4のいずれかに記載の高誘電性フィルム。
【請求項6】
フィルムコンデンサ用フィルムである請求項1〜5のいずれかに記載の高誘電性フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の高誘電性フィルムの少なくとも片面に電極層が積層されてなるフィルムコンデンサ用積層フィルム。
【請求項8】
請求項7記載のフィルムコンデンサ用積層フィルムを用いてなるフィルムコンデンサ。
【請求項9】
(A)フッ化ビニリデン系ポリマー、
(B)式(B):
1a2bc
(式中、M1とM2は異なり、M1は周期表の2族金属元素、M2は周期表の第5周期の金属元素;aは0.9〜1.1;bは0.9〜1.1;cは2.8〜3.2である)
で示される複合酸化物粒子、
(C)カップリング剤、界面活性剤またはエポキシ基含有化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の親和性向上剤、ならびに
(D)溶剤
を含んでなり、フッ化ビニリデン系ポリマー(A)100質量部に対して、複合酸化物粒子(B)を10〜500質量部、ならびに複合酸化物粒子(B)100質量部に対して親和性向上剤(C)を0.01〜30質量部含む高誘電性フィルム形成用コーティング組成物。
【請求項10】
1kHz、25℃におけるフッ化ビニリデン系ポリマー(A)自体の比誘電率が5〜15である請求項9記載のコーティング組成物。
【請求項11】
複合酸化物粒子(B)が、スズ酸カルシウムまたはジルコン酸カルシウムの粒子である請求項9または10記載のコーティング組成物。
【請求項12】
複合酸化物粒子(B)の平均粒子径が0.01〜6μmである請求項9〜11のいずれかに記載のコーティング組成物。
【請求項13】
フィルムコンデンサ用の高誘電性フィルムの形成に用いる請求項9〜12のいずれかに記載のコーティング組成物。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれかに記載のコーティング組成物を基材に塗布し、乾燥することを特徴とする高誘電性フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2009−38088(P2009−38088A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198874(P2007−198874)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】