説明

高電位勾配及び高非線形係数を有する酸化亜鉛バリスタの製造方法

【課題】高電位勾配及び高非線形係数の両方を有する酸化亜鉛バリスタを製造する方法を提供すること
【解決手段】酸化亜鉛バリスタを製造する方法を開示し、この方法では、非等価イオンがドープされ且つ十分に半導体化された酸化亜鉛粒子と、高インピーダンス特性を有する焼結粉末とを2つの別々の手順でそれぞれ調製することによって高電位勾配及び高非線形係数の両方を特徴とする酸化亜鉛バリスタが得られる。特に、開示の方法は、2000〜9000V/mmの電位勾配及び21.5〜55の非線形係数(α)を有する特定の酸化亜鉛バリスタの製造に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛バリスタを製造する方法、特には高電位勾配及び高非線形係数の両方を有する酸化亜鉛バリスタを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛バリスタ(以下、ZnOバリスタと称する)は、優れたサージ吸収性能及び優秀な非オーム特性を有することから理想的な過電圧保護素子として知られ、電力系統又は回路システムにおいて、過渡的サージを防止することによってシステムの構成要素を保護する過渡電圧サプレッサとして使用される。
【0003】
しかしながら、世界中の殆どの国が自国の電力系統を超高電圧(extra high voltage:EHVと省略)送電系統に移行させようと計画していることから、高電位勾配及び高エネルギー吸収能の両方を得るために新世代のZnOバリスタが必要不可欠であり、重要な開発トレンドになっている。
【0004】
これまで知られている技術的知識では、ZnOバリスタの電位勾配及びエネルギー耐量(又はエネルギー吸収性能とも称される)を強化するために、ZnO粒径を下げ、気孔率を低下させ、粒界数を上昇させ、粒界障壁を強化するようにZnOバリスタを設計することが提案されてきた。このため、ZnOバリスタの単位厚さ当たりのポテンシャル障壁の数はZnO粒径と反比例し、ZnO粒径及びZnO粒子を包囲する粒界数がZnOバリスタの電位勾配の決定において重要な要素となる。
【0005】
これまで知られている古典的な理論によると、ZnOバリスタは、そのZnO粒子間で1粒界あたり約3Vの絶縁破壊電圧を有する。ZnOバリスタの非オーム特性は、2つのZnO粒子ごとに生じるダブルショットキー障壁に起因する。このダブルショットキー障壁をより高く強化すると、非線形係数(α)及び絶縁破壊電圧の両方において特性がより優れたZnOバリスタが得られる。
【0006】
従来の配合で調合し慣用の技法で調製した場合、ZnOバリスタの電位勾配は約180〜約200Vmmにしかならず、エネルギー耐量は約100〜約140J/cm3である。したがって、慣用のZnOバリスタはEHV送電系統での使用には適していない。
【0007】
高電位勾配を有するZnOバリスタの改良に関し、現行の方法では一般に以下の2つのアプローチに頼っている。
(1)希土類酸化物をZnO粒子用のドーピングイオン源として添加すると、得られるZnOバリスタの電位勾配が最高400V/mmになる。
(2)ZnOバリスタの製造においてより有用な酸化亜鉛セラミック粉末を調製するための改良された製造方法を生み出す又は新しい技法(例えば、高エネルギーボールミル粉砕及びナノ微細化)を導入すると、得られるZnOバリスタの電位勾配は約2000V/mmになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ZnOバリスタの電位勾配を上昇させるための上記のアプローチには共通する欠点がある。すなわち、ZnOバリスタの電位勾配が一旦上昇すると、バリスタの非線形係数(α)が不可避的に低下してしまうのである。この負の現象のせいでZnOバリスタは電圧制限効果において好ましくないものとなってしまい、依然としてEHV送電系統では使用できない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記に鑑みて、本発明の第1の目的は高電位勾配及び高非線形係数の両方を有する酸化亜鉛バリスタを製造する方法を提供することであり、この方法は基本的に、
(a)十分に半導体化されたドープZnO粒子を個別に調製し、
(b)ドープZnO粒子を包囲する粒界として有用に機能する所望の高インピーダンス焼結成分を個別に調製し、
(c)ドープZnO粒子と選択した粒界成分とを均一に混合し、
(d)焼結工程を行うことによって高電位勾配及び高非線形係数の両方を有するZnOバリスタを製造するステップ、を含む。
【0010】
本発明のZnOバリスタ製造方法は、慣用のものとは主に、十分に半導体化されたドープZnO粒子及び高インピーダンス焼結成分(例えば、焼結粉末又はガラス粉末)を2つの別々の手順でそれぞれ調製する点で異なる。
この結果、製造されたZnOバリスタは、以下の予期せぬ利点だけではなく、慣用のZnOバリスタ製造方法で製造した場合のZnOバリスタの上記の好ましくない限界を克服した超高電位勾配及び超高非線形係数の両方も有する。予期せぬ利点とは、
1.ZnO粒子間で一旦生じたダブルショットキー障壁がより高く強化される
2.堆積されるZnOバリスタの単位厚さ当たりの粒界数がZnO粒子間でより大きく上昇する
3.ZnOバリスタの材料組成均一性及び構造均一性がより優れたものになる
事である。
【0011】
本発明は、以下の詳細な説明を添付の図面と共に参照することによって理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態4のサンプル8のZnO*粒子のX線ディフラクトグラムである。
【図2】実施形態4のサンプル9のZnO*粒子のX線ディフラクトグラムである。
【図3】実施形態4のサンプル8のディスク型酸化亜鉛バリスタのI−V図である。
【図4】実施形態4のサンプル9のディスク型酸化亜鉛バリスタのI−V図である。
【図5】実施形態8の未ドープZnO粒子から作製されたディスク型酸化亜鉛バリスタのSEM断面写真である。
【図6】実施形態8のドープZnO*粒子から作製されたディスク型酸化亜鉛バリスタのSEM断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、酸化亜鉛バリスタを製造する方法を開示する。本発明で開示する方法は、超高電位勾配及び超高非線形係数を有する酸化亜鉛バリスタの製造に適している。
また、本発明の方法は、1200〜9000V/mmの電位勾配、21.5〜55の非線形係数(α)及び1〜21μAのリーク電流(IL)を有する酸化亜鉛バリスタの製造における使用に適している。
さらに、本発明の方法は、電位勾配が2000V/mmを超える酸化亜鉛バリスタの製造における使用に適している。
【0014】
酸化亜鉛バリスタを製造するための本明細書で開示する方法は、以下のステップ:
(a)製造後に1200〜9000V/mmの所望の電位勾配を有する酸化亜鉛バリスタをプリセットするのに必要な非等価イオンをドープしたZnO粒子を個別に調製し、
(b)製造後に1200〜9000V/mmの所望の電位勾配を有する酸化亜鉛バリスタをプリセットするのに必要な焼結粉末(又はガラス粉末と称する)を個別に調製し、
(c)ステップ(a)のドープZnO粒子を特定の比でステップ(b)のガラス粉末と混合して得られるスラリー混合物をか焼し、か焼したセラミック粉末を所望の細末度に粉砕することによってZnOバリスタ製造用の粉砕されたセラミック粉末を調製し、
(d)ステップ(c)の粉砕されたセラミック粉末を焼結工程に供することによって1200〜9000V/mmの超高電位勾配及び21.5〜55の超高非線形係数(α)を有するZnOバリスタを製造する
を含む。
【0015】
本発明の開示の方法のステップ(a)においては、Zn2+イオンとの置換又は格子間位置に埋めることによって非等価イオンをZnO粒子にドープする。このことが、続く焼結工程でのZnO粒子の成長を抑制し、またZnO粒子の十分な半導体化を可能にする。
【0016】
結晶学の原理に基づき、ZnO粒子にドープする非等価イオンは、リチウム(Li)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、イットリウム(Y)、プラセオジム(Pr)、アンチモン(Sb)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)及びスズ(Sn)から成る群から選択される少なくとも1種の元素のイオンになり得る。ZnO粒子にドープする非等価イオンの量は実際のニーズに応じて異なり、酸化亜鉛の20モル%未満である。
【0017】
以下の2つの方法のいずれを利用しても、非等価イオンをドープしたZnO粒子を調製することができる。
(方法1)
ドープするイオンを含有する可溶性の塩をZnOバリスタの特定の特性に応じて選択し、特定濃度の水溶液をこの塩から調製する。この溶液をZnO粉末に添加し、撹拌し、オーブン乾燥させ、950〜1550℃でか焼する。このようにして得られたか焼済み材料を破砕し、後で利用するために所望の細末度にまで粉砕する。
(方法2)
所望のイオンをドープしたZnO粒子を、ZnOバリスタの特定の特性に応じて、微粉末を調製するための物理的又は化学的なナノテクノロジーに基づいた方法によって調製する。適切な物理的方法には、例えば蒸着、レーザー法及びマイクロ波法が含まれる。適切な化学的方法には、沈殿、マイクロエマルション法、熱水処理、相移動、ゾルゲル法等が含まれる。
【0018】
化学沈殿は、以下のようにして行うことができる。亜鉛イオンを含有する溶液とドーピングイオンを含有する溶液とを混合及び撹拌することによって、亜鉛イオン及びドーピングイオンの両方を含有する均一に混合された溶液を調製する。
撹拌した状態で、沈殿剤を正添加又は逆添加によって混合溶液に添加する。pH値が一旦適当なレベルに制御されたら共沈物を取り出し、数回洗浄し、オーブン乾燥させ、適正温度でか焼する。このようにして、ドーピングイオンを含有する酸化亜鉛結晶粒子が得られる。
【0019】
沈殿剤は、シュウ酸、尿素、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、アンモニア水、エタノールアミン及び他のアルカリ性溶液から選択することができる。か焼温度は、共沈物の分解温度に左右される。
【0020】
ゾルゲル法を採用する場合は、亜鉛イオンを、所望のドーピングイオンを含有する無機塩又は金属アルコキシドのゾルに均一に分散させる。加水分解、凝縮及び重合反応後、このゾルはゲルになる。このゲルを硬化させ熱処理に供することによって、非等価イオンをドープした酸化亜鉛結晶粒子を生成する。
【0021】
ナノテクノロジーに基づいた上記の2つの調製技法によって得られるZnO粒子の粒径は小さく、またドーピングイオンが極めて均一に分散していることを特徴とする。更に、350〜1000℃という比較的低い熱処理温度であるため、この2つの調製技法は大量生産に適している。
【0022】
本発明の方法において、ステップ(a)及び(b)は2つの独立した異なる手順である。ステップ(b)で焼結粉末(粒界成分として焼結されることも知られる)を調製し、その組成はZnOバリスタの特定の特性に応じて異なる。
【0023】
高インピーダンス特性を得るのに必要な焼結粉末は、以下の2つの方法によって調製することができる。
(方法1)
ZnOバリスタの特定の性能に応じて、以下のビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、バリウム(Ba)、ホウ素(B)、セレン(Se)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)及びスズ(Sn)から成る群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩又はシュウ酸塩を開始材料として使用する。
一旦十分に混合したら、開始材料は所望の組成の焼結材料のベースとなる。このベースを焼結し、所望の細末度にまで粉砕すると高インピーダンスの焼結粉末が得られる。あるいは、十分に混合した開始材料を高温で溶融させ、水でクエンチし、オーブン乾燥させ、次に粉砕して焼結粉末にする。
【0024】
例えば、上記の焼結材料の開始材料は、三酸化ビスマス(Bi23)、三酸化ホウ素(B23)、三酸化アンチモン(Sb23)、三酸化コバルト(Co23)、二酸化マンガン(MnO2)、三酸化クロム(Cr23)、三酸化バナジウム(V23)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)、二酸化ケイ素(SiO2)及び希土類酸化物から成る群から選択される少なくとも2種の酸化物の混合物である。追加の酸化亜鉛(ZnO)を焼結粉末に添加する目的は、粒界間の焼結作用の強化である。
【0025】
(方法2)
特定の成分を有するナノ粒子を、酸化亜鉛バリスタの特定の特性に応じて、物理的又は化学的なナノテクノロジーに基づいた方法によって調製する。好ましくは、化学沈殿、マイクロエマルション法又はゾルゲル法を本発明で採用して高インピーダンスのナノ粒子を調製する。物理的又は化学的なナノテクノロジーに基づいた適切な方法を利用することによって、その成分の均一な分散及び小さい粒径を特徴とする焼結粉末を得ることができる。
【0026】
本明細書で開示の本発明の方法のステップ(c)は、以下のようにして行われる。ステップ(b)で調製した高インピーダンスの焼結粉末に水を添加してスラリーにする。次に、撹拌条件下で、ステップ(a)で調製した非等価イオンをドープしたZnO粒子をこのスラリーに特定の比で添加する。得られた混合物を十分に撹拌し、オーブン乾燥させ、か焼し、粉砕すると酸化亜鉛バリスタを作製するためのセラミック粉末が得られる。
【0027】
ステップ(a)のドープZnO粒子とステップ(b)の焼結粉末との重量比は、100:2〜100:50、好ましくは100:10〜100:30である。
【0028】
開示の方法のステップ(d)では、酸化亜鉛バリスタを慣用の方法で作製する。この慣用の方法は、ステップ(c)の粉砕されたセラミック粉末を適当なバインダと混合することによって有機スラリーを調製し、ドクターブレード技法によってこの有機スラリーから未加工フィルム層を形成し、2層以上のインターレース型内部電極を印刷し、内部電極を有する未加工のフィルムチップをか焼し、次に、各チップの内部電極の2つの露出した端部に外部電極をめっきすることを含む。このようにして、ディスク型又は多層の酸化亜鉛バリスタが得られる。
【0029】
ZnOバリスタを製造するための開示の方法は以下の有利な効果を有する。
1.ZnO粒子間のショットキー障壁の高さが上昇する
開示の方法のステップ(a)は独立した手順であるため、ZnO粒子に非等価イオンをドープする工程が、選択した高インピーダンスの粒界成分によって課せられる制限を受けることがなくなる。加えて、以下で挙げる利点によってZnO粒子間のショットキー障壁の高さが上昇するため、得られるZnOバリスタは超高電位勾配及び超高非線形係数を有する。
1)適格なドーピングイオンの範囲が広がる
高インピーダンスの粒界成分による制限を受けることなくZnO粒子をドープできるようになったため、ZnO粒子にドープすることができる非等価イオンの種類が大幅に広がる。
2)非等価イオンのドーピング量が上昇する
ZnO粒子が非等価イオンのドーピングにとって最適なイオンドーピング条件を作り出せることから、ZnO粒子にドープされる非等価イオンの量が大きく上昇する。
【0030】
2.ZnOバリスタの単位厚さ当たりの粒界数がZnO粒子間でより上昇する
本発明の方法では、粒界成分の組成を調節してZnO粒子の成長を抑制することができる。あるいは、超微粉砕技法を利用してZnO粒子の粒径を下げることができる。あるいは、ナノスケールZnO粒子を使用することができる。上記のこと全てがZnO粒子数及びZnOバリスタの単位厚さ当たりの粒界数の上昇に寄与し、その結果、得られるZnOバリスタに超高電位勾配及びより優秀な非オーム特性が付与される。
【0031】
3.ZnO粒子を包囲するZnO粒子間に堆積される粒界成分が強化されて均一性及び構造的強度がより優れて強いものとなる
開示の方法のステップ(b)は独立した手順であり、このステップによって、粒界成分をそれぞれが実質的に同じ組成を有するナノ粒子に形成する。より重要なのは、粒界成分(Bi23を含む)を粉砕及びか焼することによって又はナノテクノロジーに基づいた適切な方法を利用して粒界成分(Bi23及び他の選択された原料を含む)を合成することによって、各ナノ粒子の組成が同様となり、またBi23を含有する点である。
焼結工程中、粒界成分の構造がほぼ同じであることは、Bi23溶融塊への酸化亜鉛の溶解度を下げ、ZnO粒子の成長を低下させ、またZnO粒子の粒径が上昇するのを防止するのに役立つ。したがって、ZnO粒子数及びZnOバリスタの単位厚さ当たりの粒界数が上昇するため、得られるZnOバリスタは1200〜9000V/mm、好ましくは2000〜9000V/mmの電位勾配及び21.5〜55の非線形係数(α)及び1〜21μAのリーク電流(IL)を有する。
【0032】
(実施形態1)
G1−10とコードする焼結粉末を化学沈殿によって調製する。この焼結粉末は、以下の通りの組成をZnO1モル%基準で有する。
【0033】

【0034】
酸化亜鉛を、以下の通りにドーピングイオンをZnO1モル%基準で含有する溶液に浸漬することによって、ドープZnO*粒子を調製する。
【0035】

【0036】
ドープZnO*粒子を焼結粉末G1−10と均一に混合後、混合物を圧力1000kg/cm2でプレスして各自が直径8.4mmを有するディスクを形成する。このディスクを920℃で8時間にわたって焼結する。次に、表面銀電極の焼結を800℃で完了させることによってディスク型酸化亜鉛バリスタを形成する。
上記のイオンドーピング工程では異なる3組のか焼条件を別々に採用するため(すなわち、それぞれ950℃で2時間、1250℃で2時間、1550℃で2時間にわたるか焼)3タイプの酸化亜鉛バリスタが得られ、その性能を表1に示す。得られた酸化亜鉛バリスタの全てが1200V/mmより高い電位勾配、45.6〜53.2の非線形係数(α)及び1.2〜5.3μAのリーク電流(IL)を有する。
【0037】
【表1】

【0038】
(実施形態2)
G1−00とコードする焼結粉末を化学沈殿によって調製する。この焼結粉末は、以下の通りの組成を重量基準で有する。
【0039】

【0040】
表2で挙げたドープZnO*粒子を化学的共沈によって調製する。各ZnO粒子は、1モル%のインジウム(In)イオンをドープされる。表2で挙げたドープZnO*粒子の各サンプルを焼結粉末G1−00と均一に混合し、ドープZnO*粒子と焼結粉末との重量比はそれぞれ100:10、100:15又は100:30である。
【0041】
次に、混合物を圧力1000kg/cm2でプレスしてディスクを形成し、続いて1065℃で2時間にわたって焼結する。銀電極のコーティングが800℃で一旦完了すると、ディスク型酸化亜鉛バリスタが得られる。異なるタイプの酸化亜鉛バリスタの性能の試験結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2から、ドープZnO*粒子に同種のドーピングイオンをドープする場合、得られるZnOバリスタの電位勾配(又は絶縁破壊電圧(BDV)と称される)はドープZnO*粒子と焼結粉末との比と共に変化する。したがって、ZnO粒子にドープするドーピングイオンの種類を制御することによって又はドープZnO*粒子と焼結粉末との比を調節することによって、1700V/mmより高く、2000V/mmより高くさえある電位勾配を有するZnOバリスタの作製を達成することができる。
【0044】
(実施形態3)
実施形態1で調製した焼結粉末G1−10を使用し、酸化亜鉛をドーピングイオンを含有する溶液に浸漬することによってドープZnO*粒子を調製する。イオンドーピング工程をか焼温度950℃で2時間にわたって行い、ドーピングイオンの種類及び比(ZnOの1モル%基準)を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
実施形態1と同様にしてディスク型酸化亜鉛バリスタを作製し、その性能の試験結果を表4に示す。
【0047】
表4から、サンプル4〜7の酸化亜鉛バリスタの全てが1200V/mmより高い電位勾配、27.41〜52.9の非線形係数α及び1.6〜16.5μAのリーク電流ILを有する。
【0048】
特に、サンプル7の酸化亜鉛バリスタは、6023V/mmもの電位勾配を有する。
【0049】
【表4】

【0050】
(実施形態4)
実施形態1で調製した焼結粉末G1−10を使用し、ドープZnO*粒子をゾルゲル法で調製する。イオンドーピング工程を、か焼温度350℃で3時間にわたって行う。ドーピングイオンの種類及び比は、実施形態3のサンプル6、7のものと同じである。したがって、この実施形態における対応するサンプルをそれぞれサンプル8、9とし、図1及び図2は、そのそれぞれのX線ディフラクトグラムである。ドープZnO*粒子のX線ディフラクトグラムをZnOの標準的なX線ディフラクトグラムと比較することによって、ZnO粒子が実際にこのような低か焼温度で生成されることがわかる。
【0051】
ディスク型酸化亜鉛バリスタを実施形態1と同じやり方で作製し、その性能を表5に示す。
【0052】
【表5】

【0053】
6500V/mmより高い場合、絶縁破壊電圧(BDV)が試験機器の測定範囲を超えてしまうことに留意されたい。したがって、I−V曲線をプロットし、V1(I1=0.1mA)及びV2(I2=1.0mA)の値を以下の式(I)に代入して非線形係数αを計算する。
【0054】
【数1】

【0055】
リーク電流ILは、典型的には、電流を絶縁破壊電圧(BDV)の80%とすることによって得られる。
【0056】
サンプル8、9のディスク型酸化亜鉛バリスタのI−V曲線を図3、4にそれぞれ示す。
【0057】
I−V曲線によると、サンプル8、9の両方の酸化亜鉛バリスタの電位勾配は6800V/mmを超える。特に、サンプル9の酸化亜鉛バリスタは9000V/mmより高い電位勾配、21.50もの非線形係数α及び16μAより低いリーク電流ILを有する。
【0058】
(実施形態5)
か焼温度1250℃でドープする実施形態1のドープZnO*粒子を、実施形態1の焼結粉末G1−10と均一に混合する。混合物を遊星型粉砕機に通すことによって、平均粒径がそれぞれ2.1μm、1.1μm及び0.56μmの3タイプのセラミック粉末サンプルを得る。ディスク型酸化亜鉛バリスタを実施形態1と同様にして作製し、その性能を表6に示す。
【0059】
【表6】

【0060】
表6に示すように、酸化亜鉛セラミック粉末が1.1μm以下の粒径を有する場合、得られる酸化亜鉛バリスタは1200V/mmより高い電位勾配を有する。したがって、この実施形態は、バリスタの作製に使用する酸化亜鉛セラミック粉末の細末度を上昇させることによって酸化亜鉛バリスタの電位勾配を上昇させることができると実証している。
【0061】
(実施形態6)
実施形態3のサンプル5の酸化亜鉛セラミック粉末を使用して、2220タイプ及び1210タイプの多層バリスタをその慣用の作製方法で作製する。焼結工程は900℃で8時間にわたって行われる。得られたバリスタの電気的特性を表7に示す。
【0062】
【表7】

【0063】
表7に示すように、2220ML100及び1210ML100多層バリスタの両方が2000V/mmより高い電位勾配及び35より高い非線形係数(α)を有する。
【0064】
(実施形態7)
実施形態3のサンプル6の酸化亜鉛セラミック粉末を使用して、2220タイプ及び1210タイプの多層バリスタをその慣用の作製方法で作製する。焼結工程は900℃で8時間にわたって行われる。得られたバリスタの電気的特性を表8に示す。
【0065】
【表8】

【0066】
表8に示すように、2220ML390及び1210ML390多層バリスタは約4000V/mmの電位勾配及び44を超える非線形係数(α)を有する。
【0067】
実施形態6、7は、本発明の方法が、高電位勾配及び非線形特性の両方を有する多層バリスタの作製にも適していることを実証している。
【0068】
(実施形態8)
実施形態1と同様のやり方で、焼結粉末G1−10を未ドープZnO粒子又はドープZnO*粒子と共に使用してディスク型酸化亜鉛バリスタを作製する。得られたバリスタの性能を表9に示す。図5、6は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影したディスクサンプルの断面写真である。
【0069】
【表9】

【0070】
SEM断面写真に基づいて、未ドープディスクサンプルの未ドープZnO粒子の平均粒径を測定し、5.2μmと計算した。ドープディスクサンプルのドープZnO*粒子の平均粒径は2.2μmであり、前者の粒径は後者の2.4倍である。
【0071】
2種類のサンプルを同じ条件下で焼結するため、未ドープサンプルの酸化亜鉛粒径はドープサンプルの粒径の2.4倍である。これは、ドープ酸化亜鉛では、焼結工程中の酸化亜鉛粒子の成長を効果的に抑制することができることを示す。
【0072】
加えて、計算式によると、電位勾配は単位厚さ当たりの酸化亜鉛粒子数に比例したため、ドープ酸化亜鉛ディスクの電位勾配は777.6V/mm(すなわち、324V/mmx2.4=777.6V/mm)になるはずだが、実際の試験結果は1370V/mmである。
592.4V/mm(すなわち、1370V/mm−777.6V/mm=592.4V/mm)の上昇は、酸化亜鉛粒界でのショットキー障壁の高さを上昇させるイオンのドーピングに起因すると考えられる。同様に、ドープ酸化亜鉛バリスタはより高い非線形係数を有する。
【0073】
(実施形態9)
ディスク型酸化亜鉛バリスタを、実施形態1の焼結粉末G1−10、実施形態3のサンプル6、7のそれぞれのドープZnO*から作製する。異なる温度でそれぞれ使用した場合に得られた酸化亜鉛バリスタのリーク電流を表10に示す。
【0074】
【表10】

【0075】
実施形態9は、本発明の方法が、操作温度が25〜200℃の操作にも適用可能な酸化亜鉛バリスタの作製にも適していることを実証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛バリスタの製造方法であって、
2000〜9000V/mmの電位勾配、21.5〜55の非線形係数α及び1〜21μAのリーク電流ILを有する特定の酸化亜鉛バリスタの製造における使用に適し、
(a)2000〜9000V/mmの特定の酸化亜鉛バリスタのプリセット電位勾配に応じて非等価イオンでドープした酸化亜鉛粒子を個別に調製し、酸化亜鉛粒子にドープする前記非等価イオンを、リチウム(Li)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、イットリウム(Y)、プラセオジム(Pr)、アンチモン(Sb)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)及びスズ(Sn)から成る群の内の少なくとも1種の元素から選択するステップと、
(b)2000〜9000V/mmの特定の酸化亜鉛バリスタのプリセット電位勾配に応じて焼結粉末を個別に調製し、前記焼結粉末が、
(b−1)ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、バリウム(Ba)、ホウ素(B)、セレン(Se)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、イットリウム(Y)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)及びスズ(Sn)から成る群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩又はシュウ酸塩である開始材料を用意するステップと、
(b−2)ステップ(b−1)で選択した開始材料を混合するステップと、
(b−3)ステップ(b−2)で得られた混合物を焼結して焼結粉末にするステップと、
(b−4)ステップ(b−3)で得られた焼結粉末を所望の細末度に粉砕することによって調製するステップと、
(c)ステップ(a)の非等価イオンをドープした酸化亜鉛粒子とステップ(b)の焼結粉末とを特定の比で混合することによって酸化亜鉛バリスタ作製用のセラミック粉末を調製するステップと、
(d)ステップ(c)のセラミック粉末からディスク型又は多層酸化亜鉛バリスタを作製するステップ、を含み、
前記酸化亜鉛バリスタが2000〜9000V/mmの電位勾配、21.5〜55の非線形係数(α)及び1〜21μAのリーク電流ILを有する要件を満たすことを特徴とする、
酸化亜鉛バリスタの製造方法。
【請求項2】
ステップ(a)において、(a−1)ドープする非等価イオンを含有する溶液を調製し、(a−2)前記酸化亜鉛粒子を前記溶液に浸漬し、(a−3)ステップ(a−2)で得られた非等価イオンをドープした酸化亜鉛粒子をオーブン乾燥し、(a−4)ステップ(a−3)のオーブン乾燥終了後にか焼温度950〜1550℃で前記ドープ酸化亜鉛粒子をか焼し、(a−5)ステップ(a−4)のか焼後、前記ドープ酸化亜鉛粒子を所望の細末度にまで粉砕することによって、前記非等価イオンを酸化亜鉛粒子にドープする事を特徴とする、請求項1に記載の酸化亜鉛バリスタの製造方法。
【請求項3】
ステップ(a)において、(a−1)ドープする非等価イオン及び可溶性亜鉛塩を含有する溶液から共沈物を得て、(a−2)前記共沈物を洗浄及びオーブン乾燥し、(a−3)350〜1000℃のか焼温度で前記オーブン乾燥させた共沈物をか焼してドープ酸化亜鉛粒子を調製することによって、前記非等価イオンを酸化亜鉛にドープする事を特徴とする、請求項1に記載の酸化亜鉛バリスタの製造方法。
【請求項4】
ステップ(a)において、(a−1)亜鉛イオンをドープする非等価イオンを含有する無機塩又は金属アルコキシドのゾルに均一に分散し、(a−2)加水分解、凝縮及び重合を前記ゾルに行うことによってゲルを生成し、(a−3)前記ゲルを硬化し、(a−4)ステップ(a−3)で得られた硬化材料をか焼温度350〜1000℃でか焼してドープ酸化亜鉛結晶粒子を生成することを含むゾルゲル法によって、前記非等価イオンを酸化亜鉛にドープする事を特徴とする、請求項1に記載の酸化亜鉛バリスタの製造方法。
【請求項5】
ステップ(b)の焼結粉末が、Bi23、Sb23、CoO、MnO、ZnO、Cr23、TiO2、SiO2、B23、Pr23、Y23及びLa23から成る群から選択される少なくとも1種の組み合わせから調製される事を特徴とする、請求項1に記載の酸化亜鉛バリスタの製造方法。
【請求項6】
ステップ(b)の焼結粉末が、(b−1)前記開始材料の溶液を調製し、(b−2)ナノテクノロジーに基づいた化学沈殿、マイクロエマルション法又はゾルゲル法を適用してナノサイズの焼結粉末を得ることによって調製される事を特徴とする、請求項1に記載の酸化亜鉛バリスタの製造方法。
【請求項7】
ステップ(c)において、ステップ(a)の酸化亜鉛粒子及びステップ(b)の焼結粉末をそれぞれ100:2〜100:50の重量比で混合する事を特徴とする、請求項1に記載の酸化亜鉛バリスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−115431(P2013−115431A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−251407(P2012−251407)
【出願日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【出願人】(512296586)
【出願人】(512296597)
【Fターム(参考)】