説明

魚群探知機用振動子の取付構造

【課題】船底に振動子専用の孔を開けることなく船体内側から振動子を簡単に取り付けることができるとともに、取り付けられた振動子の受信感度を落とすことなく使用することができる魚群探知機用振動子の取付構造を提供すること。
【解決手段】海水を導入及び排出するため連通孔11を船体2の底部に形成して成る生け簀5を備えた小型船舶の船体2に魚群探知機用振動子7を取り付けるための構造として、前記魚群探知機用振動子7を収納保持するケース14を前記生け簀5の連通孔11に嵌着されたスカッパー13に船体2(生け簀5)の内側から着脱可能に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型船舶の船体に魚群探知機用振動子を取り付けるための取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
釣り用ボート等の小型船舶には、超音波によって魚群を検知するための魚群検知機が設けられているが、この魚群検知機は、超音波を送受信する振動子と、該振動子の受信データを表示する表示部等で構成されている。
【0003】
ここで、魚群探知機を搭載した小型船舶を図7及び図8に示す。
【0004】
図7は小型船舶の側断面図、図8は図7のB−B線断面図であり、図示の小型船舶101の船体102は、デッキ103とハル104とを接合一体化して構成されており(小型船舶の船体構造に関しては例えば特許文献1参照)、魚群探知機106の表示部109は、例えば図示のようにブリッジ108の上部に取り付けられるが、振動子107は、図7に示すようにハル104の船底部104aやトランサム部102aに取り付けられる。
【0005】
上述のように振動子107をハル104の船底部104aに取り付ける方法には2つあり、第1の方法は、図8に示すようにハル104の船底部104aに形成された凹状のインナーハル104bに振動子107を取り付けてインナーハル104bの内部に充填剤123を満たす方法であり、第2の方法は、ハル104の船底部104aに孔を開け、その孔に振動子107を通してこれを船底部104aに直接取り付ける方法である。
【0006】
又、振動子107を船体のトランサム部102aに取り付ける方法は、図7に示すように、トランサム部102aに専用のブラケット124を取り付け、このブラケット124に振動子107を取り付ける方法である(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−206277号公報
【特許文献2】特開平6−181668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、振動子107をハル104の船底部104aに取り付ける方法のうちの前記第1の方法、つまりインナーハル104bに振動子107を取り付けてインナーハル104bの内部に充填剤123を満たす方法では、ハル104の船体部104aに孔を開けることなく簡単に振動子107を取り付けることができる反面、振動子107の受信感度が低下するという問題がある。又、前記第2の方法、つまりハル104の船底部104aに孔を開け、その孔に振動子107を通してこれを船底部104aに直接取り付ける方法では、振動子107に高い受信感度を確保することができる反面、ハル104の船底部104aに孔を開けるために振動子107の取り付けに専門の知識を要する他、水漏れの可能性があるという問題がある。
【0008】
更に、船体102のトランサム部102aに振動子107を取り付ける方法では、水漏れや振動子107の感度の低下等の問題は生じない反面、取付方法によっては気泡をかみ易く、振動子107を桟橋等の障害物にぶつけて損傷させる可能性がある等の問題がある。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、船底に振動子専用の孔を開けることなく船体内側から振動子を簡単に取り付けることができるとともに、取り付けられた振動子の受信感度を落とすことなく使用することができる魚群探知機用振動子の取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、海水を導入及び排出するため連通孔を船体底部に形成して成る生け簀を備えた小型船舶の船体に魚群探知機用振動子を取り付けるための構造として、前記魚群探知機用振動子を収納保持するケースを前記生け簀の連通孔に船体内側から着脱可能に取り付けることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ケースは、これが前記生け簀の連通孔に取り付けられた状態で、前記魚群探知機用振動子をその送受信面が略鉛直下方に向くよう収納保持することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記ケースに、前記生け簀の連通孔に係合する複数の係合部を形成し、該係合部の少なくとも1つを連通孔の径方向に移動可能に構成するとともに、該移動可能な係合部を移動させる移動手段を設けたことを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記移動手段を、前記移動可能な係合部に螺合するノブボルトで構成したことを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4の何れかに記載の発明において、前記生け簀の連通孔に樹脂製のフィルタを被着したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、小型船舶の生け簀に既に設けられいる連通孔を利用し、この連通孔に、魚群探知機用振動子を収納保持するケースを船体内側から着脱可能に取り付けるようにしたため、船底に振動子専用の孔を開けることなく船体内側から振動子をワンタッチで簡単に取り付けることができる。又、取り付けられた振動子が送受信する超音波を遮る障害物が無いため、該振動子をその受信感度を落とすことなく使用することができる。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、ケースは、これが生け簀の連通孔に取り付けられた状態で、魚群探知機用振動子をその送受信面が略鉛直下方に向くよう収納保持するため、振動子には常に高い感度が確保される。又、ケースを変更することによって、船底が水平な船舶から船体が傾斜している船舶まで本発明を適用することができ、高い汎用性が確保される。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、振動子の取り付けに際して、ケースを、これに形成された複数の係合部が生け簀の連通孔に係合するよう船体内側から嵌め込んだ後、移動手段によって少なくとも1つの係合部を径方向外方へ移動させて連通孔の内周部に押圧すれば、ケースが連通孔に確実に固定されるため、振動子を作業性良く簡単に取り付けることができる。
【0018】
請求項4記載の発明によれば、移動手段であるノブボルトを回せば、これに螺合する係合部が径方向に移動してケースを生け簀の連通孔に固定するため、特殊な工具を用いることなく振動子を作業性良く簡単に取り付けることができる。
【0019】
請求項5記載の発明によれば、生け簀の連通孔に被着されたフィルタによって生け簀内へのゴミ等の異物の侵入が防がれるとともに、フィルタを樹脂製とすることによって超音波の反射を防いで振動子に高い検出精度を確保することができる。因に、フィルタが金属製である場合には、超音波がフィルタで反射するために振動子に高い検出精度を期し難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は小型船舶の側断面図、図2は図1のA−A線断面図、図3はケースの取付要領を示す断面図、図4は小型船舶に設けられた生け簀の斜視図、図5はケースの縦断面図、図6は同ケースの底面図である。
【0022】
図1に示す小型船舶1は漁船であって、その船体2は、デッキ3とその下部のハル4とを接合一体化して構成されており、その長さ方向中間部には、捕獲した魚を生かした状態で入れておくための生け簀5が設けられている。そして、この小型船舶1には、超音波によって魚群を検知するための魚群探知機6が搭載されており、この魚群探知機6は、本発明に係る取付構造によって生け簀5の底部に取り付けられた振動子7とブリッジ8の上部に取り付けられた表示部9とを通信線10によって接続して構成されている。
【0023】
ところで、小型船舶1の船体2の長さ方向中間部に設けられた前記生け簀5は、図4に示すように、上面が開口する矩形ボックス状の容器であって、その底壁5aは横断面V字状を成すハル4の船底部4aの一部で構成されている。そして、この生け簀5の横断面V字状を成す底壁5aには、当該生け簀5に海水を導入するための円孔状の連通孔11と、生け簀5内の海水を外部に排出するための連通孔12が形成されており、これらの連通孔11,12からの海水の出入りによって生け簀5には常に新鮮な海水が循環する。
【0024】
而して、図2及び図3に示すように、生け簀5の底壁5aに開口する前記連通孔11には略円筒状のスカッパー13が嵌着されており、このスカッパー13に、前記魚群探知機6の振動子7を収容保持して成る円形ボックス状のケース14が内側から着脱可能に取り付けられる。ここで、スカッパー13は、樹脂にて一体に形成されており、その底部には、生け簀5の底壁5aから斜め下方へ突出する円筒状の海水取込用ガイド13aが一体に形成されており、この海水取込用ガイド13aの内側には、スカッパー13の開口部を覆うようにメッシュ状のフィルタ13bが一体に形成されている。
【0025】
次に、前記ケース14の構成の詳細を図5及び図6に基づいて説明する。
【0026】
ケース14は、円板状の下ケース14Bの上部に円錐台状の上ケース14Aを被着して構成されており、上ケース14Aの上壁14aは、図2に示すハル4の船底部4a(生け簀5の底壁5a)の傾斜角θと同角度だけ水平面に対して傾斜している。そして、この上ケース14Aの上壁14aには振動子7から延びる通信線10を通すための円孔14bが形成されており、上ケース14Aの側壁14cには海水が通過するための開口部14dが形成されている。
【0027】
又、上ケース14Aの上壁14aの内面2箇所からは円柱状の支柱14eが鉛直下方に向かって一体に突設されており、上ケース14Aの外周の一部には段状の台座部14fが一体に形成されている。
【0028】
他方、下ケース14Bの下面には、円弧曲面状に成形された2つの係合爪14gが下方に向かって一体に突設されており、各係合爪14gの外面にはシール部材15が取り付けられている。又、下ケース14Bには、図6に示すように、矩形の開口部14hとこれに連なる円孔14iが形成されるとともに、開口部14hに沿って径方向(図5及び図6の左右方向)に移動可能な係合爪16が保持されている。この移動可能な係合爪16は、前記係合爪14gと同様に円弧曲面状に成形され、その外面にはシール部材15が取り付けられている。
【0029】
ところで、上ケース14Aの前記台座部14fの裏面側にはガイド部材17が左右2本のビス18によって水平に取り付けられており、移動可能な前記係合爪16は、その中間段部が下ケース14Bの上面に移動可能に支持されるとともに、その上面が前記ガイド部材17によって移動可能にガイドされている。そして、上ケース14Aに形成された前記台座部14fの幅方向中心には円孔14jが貫設されており、この円孔14jにはノブボルト19のネジ部19aが貫通しており、このネジ部19aは、移動可能な前記係合爪16のケース14内に臨む上部に螺合している。尚、ノブボルト19の操作ノブ19bはケース14外に露出している。
【0030】
以上の構成を有するケース14内には魚群検知器6の振動子7が収容保持されるが、この振動子7は、ケース14を組み立てる前、つまり上ケース14Aを下ケース14Bに被着する前に上ケース14Aに内側から取り付けられる。即ち、図5に示すように、振動子7から延びる通信線10が内部に通されたコネクタ20を上ケース14Aの円孔14bに内側から通して振動子7を上ケース14Aの上壁14aの内面に密着させ、上ケース14Aから露出するコネクタ20に螺合するナット部材21を締め付けることによって振動子7が上ケース14Aの上壁14aの内面に密着した状態で上ケース14Aに取り付けられる。
【0031】
次に、振動子7が取り付けられた上ケース14Aを下ケース14Bに上から被せると、該上ケース14Aに突設された2つの支柱14eが図5に示すように下ケース14Bの上面に当接するため、下ケース14Bに下側から挿通する2本のビス22を各支柱14eにそれぞれ締め付ければ、上ケース14Aが下ケース14Bに取り付けられてボックス状のケース14が組み立てられ、このケース14内に振動子7が収容されて固定されることとなる。
【0032】
而して、ケース14に収容固定された振動子7は、ケース14を生け簀5の連通孔11に船体2の内側から組み付けることによって船体2の底部に容易に取り付けられる。
【0033】
即ち、図3に示すように、ケース14を係合爪14g,16を下にして生け簀5の内部を連通孔11に向かって図示矢印方向に移動させ、図2に示すように、3つの係合爪14g,16をスカッパー13の内周面に嵌め込んでケース14をスカッパー13に組み込む。尚、このとき、移動可能な係合爪16を径方向内方に移動させ、3つの係合爪14g,16がスカッパー13の内周部に容易に嵌め込まれるようにしておく。
【0034】
次に、ノブボルト19の操作ノブ19bを回してネジ部19aを回転させ、このネジ部19aに螺合する係合爪16を径方向外方へと移動させれば、該係合爪16がスカッパー13の内周面に押圧されるため、ケース14は図2に示す状態でスカッパー13に確実に固定され、該ケース14に収容固定された振動子7がケース14と共にスカッパー13に取り付けられる。尚、このとき、3つの係合爪14g,16の外面に取り付けられたシール部材15がスカッパー13の内周面に密着するため、ケース14がスカッパー13に一層強固に取り付けられる。又、ノブボルト19を逆方向に回して係合爪16を径方向内方に移動させれば、該係合爪16のスカッパー13との係合が解除されるため、ケース14を振動子7と共にスカッパー13から簡単に取り外すことができる。
【0035】
ところで、前述のように上ケース14Aの上壁14aは、図2に示すハル4の船底部4a(生け簀5の底壁5a)の傾斜角θと同角度だけ水平面に対して傾斜しているため、ケース14がスカッパー13に取り付けられた状態では、該ケース14の上カバー14Aの上壁14aに取り付けられた振動子7は、その送受信面が略鉛直下方に向くこととなり、該振動子7には常に高い感度が確保される。尚、ケース14を変更することによって、つまり上ケース14Aの上壁14aの傾斜角θを変更することによって、船底が水平な船舶から船底が傾斜している船舶に至るまで、任意の船舶に対して振動子7をその送受信面が略鉛直下方に向くよう取り付けることができ、本発明の取付構造に高い汎用性が確保される。
【0036】
以上のように、本実施の形態によれば、小型船舶1の生け簀5に既に設けられている連通孔11を利用し、この連通孔11に嵌着されたスカッパー13に、魚群探知機6の振動子7を収納保持するケース14を生け簀5の内側から着脱可能に取り付けるようにしたため、船底に振動子専用の孔を開ける必要がなく、開口部が広い生け簀5の内側から振動子7をワンタッチで簡単に取り付けることができ、取付作業性が著しく高められる。
【0037】
又、取り付けられた振動子7が送受信する超音波を遮る障害物が無いため、該振動子7をその受信感度を落とすことなく使用することができる。特に、スカッパー13の開口部を覆うフィルタ13bを樹脂製としたため、超音波のフィルタ13bでの反射を防いで振動子7に高い検出精度を確保することができる。因に、フィルタ13bが金属製である場合には、超音波がフィルタ13bで反射するために振動子7に高い検出精度を期し難い。尚、フィルタ13bによって生け簀5内へのゴミ等の異物の侵入が防がれるとともに、振動子7も保護される。
【0038】
更に、ケース14のスカッパー13への取り付けに際しては、ケース14の係合爪14g,16をスカッパー13に嵌め込んだ後にノブボルト19を回せば、これのネジ部19aに螺合する係合爪16が径方向に移動してケース14をスカッパー13に固定することができるため、特殊な工具を用いることなく振動子7を作業性良く簡単に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】小型船舶の側断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】ケースの取付要領を示す断面図である。
【図4】小型船舶に設けられた生け簀の斜視図である。
【図5】ケースの縦断面図である。
【図6】ケースの底面図である。
【図7】魚群探知機用振動子の取付構造の従来例を示す小型船舶の側断面図である。
【図8】図7のB−B線断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 小型船舶
2 船体
3 デッキ
4 ハル
4a ハルの船底部
5 生け簀
5a 生け簀の底壁
6 魚群探知機
7 振動子
8 ブリッジ
9 表示部
10 通信線
11,12 連通孔
13 スカッパー
13a 海水取込用ガイド
13b フィルタ
14 ケース
14A 上ケース
14B 下ケース
14a 上ケースの上壁
14b 上ケースの円孔
14c 上ケースの側壁
14d 上ケースの開口部
14e 上ケースの支柱
14f 上ケースの台座部
14g 係合爪(係合部)
14h 下ケースの開口部
14i 下ケースの円孔
14h 台座部の円孔
15 シール部材
16 係合爪(係合部)
17 ガイド部材
18 ビス
19 ノブボルト(移動手段)
19a ノブボルトのネジ部
19b ノブボルトの操作ノブ
20 コネクタ
21 ナット部材
22 ビス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水を導入及び排出するため連通孔を船体底部に形成して成る生け簀を備えた小型船舶の船体に魚群探知機用振動子を取り付けるための構造であって、
前記魚群探知機用振動子を収納保持するケースを前記生け簀の連通孔に船体内側から着脱可能に取り付けることを特徴とする魚群探知機用振動子の取付構造。
【請求項2】
前記ケースは、これが前記生け簀の連通孔に取り付けられた状態で、前記魚群探知機用振動子をその送受信面が略鉛直下方に向くよう収納保持することを特徴とする請求項1記載の魚群探知機用振動子の取付構造。
【請求項3】
前記ケースに、前記生け簀の連通孔に係合する複数の係合部を形成し、該係合部の少なくとも1つを連通孔の径方向に移動可能に構成するとともに、該移動可能な係合部を移動させる移動手段を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の魚群探知機用振動子の取付構造。
【請求項4】
前記移動手段を、前記移動可能な係合部に螺合するノブボルトで構成したことを特徴とする請求項3記載の魚群探知機用振動子の取付構造。
【請求項5】
前記生け簀の連通孔に樹脂製のフィルタを被着したことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の魚群探知機用振動子の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−331507(P2007−331507A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164186(P2006−164186)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】