説明

麻酔薬組成物、製剤及び使用方法

ヒアルロニダーゼを有する第一成分と、麻酔製剤を有する第二成分とを含む、注射による局所麻酔薬の投与に使用する麻酔薬組成物。該組成物は効果的で且つ保存安定性が高く、室温で保存及び投与してもよいという利点を有する。特定の実施態様において、該ヒアルロニダーゼは、凍結乾燥により乾燥粉末形状で調製される。前記麻酔薬成分は、リドカイン、ポロカイン、キシロカイン、ノボカイン、プロカイン、プリロカイン、ブピバカイン、メピバカイン、カルボカイン、エチドカイン及びチンコカインなどの公知麻酔薬の群から選択されてもよい。該組成物は、様々な目的のために、単回投与剤形を含む単位剤形で調製されてもよい。そのような単位剤形は、複室注射器などのディスペンサー中で調製されてもよく、これにより該成分は投与時まで混ざり合わない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬化学の分野に関し、より詳しくは麻酔薬を投与するための製剤及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
麻酔薬組成物の使用及び該麻薬組成物の投与は、長年、幅広く利用されている。医学及び歯学の両方における特定の治療に関するものであって、その治療の性質がその治療に局所的に近接する組織を脱感作する必要があることのみを要する場合に、局所麻酔が用いられる。対照的に、より包括的で侵襲性の治療には、全身麻酔によるより全体的又は全身性の脱感作が必要とされるであろう。
【0003】
両方の例において、投与及び麻酔による脱感作の達成に伴う問題の1つは、麻酔状態又は脱感作状態が確立される速度である。一般的に、麻酔薬は細胞の壁を突破して脱感作が始まるきっかけを作り出さなければならず、そのような効果が得られるまでの時間は変動し得る。同様に、特に注射を介した局所的投与に関する例においては、麻酔作用が効いてくるまでのラグタイムが長引き得る。
【0004】
様々な麻酔薬組成物及びその投与方法が知られているが、前記問題は未だ有意には克服されていない。また、注射可能な剤形に関する例においては、麻酔専門医は、理想的にはそのような剤形が予め測量されており、すぐに使用出来るように調製されていることを望んでいる。しかしながら、麻酔薬組成物の中には保存期限が限られているものがあり、そのため、そのような剤形は低温で保持されるか、あるいは調製されていない状態で保持されていなければならず、実際に投与する直前に調製しなければならない。救命救急診療や緊急治療に関する例においては、剤形を調製する必要があると、麻酔開始が遅れることによって治療に関連するリスクを高め得る。あるいは、剤形を調製して冷蔵庫で保存してもよいが、低温又は冷蔵庫で保存されている剤形は効果的ではないため、投与前に室温に戻さなければならない。
【0005】
従って、保存期限を改善し冷蔵することなく保存でき、従って患者に投与する際にすぐに効果的になり得る、麻酔投与用の剤形及び組成物の開発に対する需要が存在する。本発明は、前記目的を達成することを課題とする。
【発明の概要】
【0006】
本発明によれば、改良された麻酔剤形用の組成物及び対応する製剤が開示される。従って、そのような剤形は、使用時の混合に用いられる保存安定性組成物を含む。該組成物は、例えば、第一のコンパートメント(区画)中に、保存安定形状のヒアルロニダーゼを含み、第二のコンパートメント中に、リドカインなどの一般的な麻酔薬組成物を単独で又は他の補助薬(アジュバント)若しくは添加剤と組み合わせた状態で含む。両コンパートメントは好ましくは密封されており、投与時に該組成物の成分を混合させるために該コンパートメントを破裂させた後に、注射などによる投与がなされる。
【0007】
本発明の特定の実施態様において、前記組成物及び製剤は、該組成物の分離した成分を混合させる多室注射器(multiply chambered syringe)などの装置内に配置され、その後、得られた溶液を、患者に供給するために針などを介した注射により投与することを容易にする。ヒアルロニダーゼは、乾燥状態にまで粉末化することにより、保存安定形状に調製される。そのような調製は、例えば液体形態を凍結乾燥し、それを粉末若しくは顆粒状態にまで粉末化することにより達成されてもよい。該組成物の他の成分は、該成分が一つにまとまった際に、ヒアルロニダーゼを含む溶液が迅速に形成されるように修正可能な液体形態で配置されていてもよい。
【0008】
同様に、本発明の組成物、製剤及び装置はキット内に組み入れられ、そこでは、例えば、すぐに使用できるように多室注射器などの好適な単位剤形が予め製造されていてもよく、室温で保存されていてもよい。
【0009】
本発明の製剤は、保存期限及び保存安定性を顕著に向上させるものであり、使用前に冷蔵する必要がない。また、前記麻酔薬組成物中にヒアルロニダーゼが存在することにより、麻酔状態の発現が迅速化及び増進し、従って、脱感作及びそれに対応した患者の治療開始の質が向上すると考えられる。
【0010】
本発明の好ましい実施態様において、当該剤形は複室注射器などの混合用チャンバー付きディスペンサー(mixing chamber dispenser)内に配置されるが、混合チャンバー・ディスペンサーのいくつかは現在市場で入手できる。剤形は、その成分の量及び濃度が異なっていてもよく、5cc及び10ccの注射器が典型的である。
【0011】
従って、本発明の主要目的は、麻酔状態の促進及び迅速な発現をもたらす、麻酔薬投与用製剤及び組成物を調製することである。
【0012】
本発明の更なる目的は、使用前の保存安定性が向上した前記製剤及び組成物を提供することである。
【0013】
本発明の更なる目的は、冷蔵の必要なく保存期限を向上することのできる前記組成物及び製剤を提供することである。
【0014】
本発明の更なる目的は、注射器などの投与装置中の分離可能な容器内に配置された本発明の製剤及び組成物を含む、単位剤形及び対応するキットを提供することである。
【0015】
その他の目的及び利点は、以下の詳細な説明を再検討することにより、当業者にとって明らかになるであろう。
【0016】
[発明の詳細な説明]
本発明によれば、上記の目的及び利点は容易に達成される。
【0017】
最も広い態様において、本発明は改良された麻酔薬用の組成物及び製剤に関する。より詳しくは、本発明の組成物は、麻酔薬の供給速度、範囲及びそれに伴う効果を高める成分を含む麻酔薬の製剤を特徴とする。特定の態様において、得られた組成物は、公知の麻酔薬組成物に対して実効時間の予期せぬ増加を示す。
【0018】
本発明の麻酔薬組成物の寿命及び効果を増大及び延長させると考えられる成分はヒアルロニダーゼであり、これは、グリコサミノグリカンとして知られる、特定の組織の多糖を分解することが知られている酵素群から得られる。ヒアルロニダーゼの中にはその活性が非特異的であり、ヒアルロン酸、コンドロイチン及び関連する多糖を分解するものもある一方で、ヒアルロン酸に特異的なヒアルロニダーゼも存在する。次に、ヒアルロン酸は、動物の細胞外結合組織で広く見出される多糖であり、細胞をまとめる機能を有すると考えられている。ヒアルロニダーゼはかつて展着剤として同定され、硝子体液を壊す能力があるために緑内障などの治療に用いられてきた。興味深いことに、ヒアルロニダーゼは、αアドレナリン作動性受容体アンタゴニストと組み合わせて、麻酔からの離脱促進を支援するために用いられてきた(米国特許番号6,432,401)。そのような機能は、特定且つ特有の治療上の重要性を有する一方、本明細書において特定されたヒアルロニダーゼの重要な役割を示唆しておらず、実際には同一であることから遠ざかることを教示している。
【0019】
具体的には、本発明の組成物は、ヒアルロニダーゼとリドカインやプロカインなどの麻酔製剤との相乗的な組み合わせを意味し、これにより麻酔薬の供給と発現における予期せぬ増強をもたらす。より詳しくは、本発明の組成物は、多成分単位剤形での調製により、予期せぬ保存期限の向上及び投与の容易化を目的として調製されてもよい。
【0020】
従って、本発明は、使用及び投与前は互いに分離された状態で保たれている第一のヒアルロニダーゼ成分と第二の麻酔薬成分とを含む、注射器などによる投与用の単位剤形にまで及ぶ。第一成分であるヒアルロニダーゼは、固体形状又は乾燥粉末形状で調製されてもよく、流体不浸透性のチャンバー又は容器内に配置されてもよい。粉末形状のヒアルロニダーゼの調製は、液体物質の凍結乾燥(lyophilization)し、それを顆粒化などの公知技術により粉末状に変えることにより行ってもよい。有利なことには、このようにして調製された粉末調製品はパッケージされ、分解又は減退することなく、使用前は室温で安定的に保持及び貯蔵され得る。特定の実施態様において、単位剤形は単回投与剤形であってもよく、その結果、使用済みのディスペンサーや容器などは使用後に捨てられてもよい。
【0021】
第二成分の調製に用いられてもよい好ましい麻酔薬は、すでによく知られ、長年使用・流通されており、その非限定的な例には、リドカイン、マーカイン(marcaine)、ポロカイン(polocaine)、キシロカイン、ノボカイン、プロカイン、プリロカイン、ブピバカイン、メピバカイン、カルボカイン(carbocaine)、エチドカイン(etidocaine)及びチンコカイン(chincocaine)などの局所麻酔薬が含まれる。本発明の組成物は、麻酔薬ブロックの調製方法としてよく知られた方法で、麻酔薬ブロックとして調製されてもよい。
【0022】
特定の実施態様において、前記麻酔薬成分は、リドカインと様々な類似成分との混合物を含む。従って、前記麻酔薬成分は、リドカインと、メピバカイン及びブピビカイン(bupivicaine)から選択される他の麻酔薬との混合物を含んでいてもよい。
【0023】
更なる特定の実施態様において、前記麻酔薬成分はリドカインのみを含む。更なる特定の実施態様において、本発明の組成物は、1.0質量%〜約5.0質量%の濃度の活性成分を有する溶液中で調製される。
【0024】
上記の通り、本発明の重要な態様によれば、本発明の麻酔薬組成物は、投与時に混合される分離した成分として調製される。従って、本発明は、その実施態様として、該麻酔薬組成物を混合及び合同投与するためのキットを含む。そのようなキットは、複室注射器として調製されても、あるいは複室注射器とともに使用するために調製されてもよく、該複室注射器において麻酔薬製剤は、流体密封障壁によってヒアルロニダーゼ成分から分離された溶液中で保持される。次に、例えば粉末形状のヒアルロニダーゼは、密封されたチャンバー内に置かれ、前記組成物の投与開始時に注射器を作動することにより混ざり合う。
【0025】
本発明において役立ち得る好適な注射器装置は、非限定的な例として、米国特許番号6,817,987(Vetter et al.)に開示されており、その具体的な開示内容は全体を参照することにより本明細書に援用される。前記特許文献において、投与される組成物の成分は、流体密封の分離状態で調製・保存されており、プランジャーが往復することによりピストンが装置内に押し込まれ、これによりチャンバー間の障壁が破裂し、注射前に該組成物の成分が親密に混ざり合うことによって、使用時にのみ混ざり合う。
【0026】
本発明の更なる態様において、本明細書の方法で調製され投与されてもよい前記組成物は、注射部位の組織を救済及び治療するために、補完的治療薬や薬剤などの他の成分を含んでいてもよい。そのような薬剤の選択及び包含は当該分野の技術の範囲中で変更してもよく、熟練した医師又は獣医によって決定できるものと考えられる。
【実施例】
【0027】
以下の例証的な実施例を考慮することにより、本発明はさらによく理解されるであろう。なお、本実施例において、あらゆる成分の割合は質量%を意図している。
【0028】
[実施例I]
第一の調製は、およそ20ccの2%リドカインと、100,000分の1のエピネフリン(原液)と、およそ2000ユニットのヒアルロニダーゼ(希釈剤とともに約8〜10ccの量で供給される)との混合物を含む。この混合物に、純粋なリドカイン4%溶液を添加し、容器又はディスペンサーを4%の純粋なリドカイン合計36ccの量で満たす。このようにして調製された混合物は、1cc当たりおよそ30ユニットのヒアルロニダーゼ、3%リドカイン、1/400,000のエピネフリンを含む合計約66ccのカクテルを得る。ブロックは、1患者当たりこの混合物4ccを用いる。
【0029】
[実施例II]
代替的な調製において、約1.5ccの原液リドカイン/エピネフリン100,000分の1を含む100〜110ユニットの薬剤を含む、およそ0.5ccのヒアルロニダーゼ溶液を調製し、その後、得られた混合物をリドカイン単独の4%溶液2ccで補い、単回用の4ccの注射ブロックを得る。
【0030】
[実施例III]
更なる調製において、ブピビカイン/リドカインの混合物を調製する。具体的には、実施例1に従って調製した2ccの調製物を、ヒアルロニダーゼ50ユニットを含む7.5%メピバカイン2ccと混合し、得られた調製物を投与用に用いる。
【0031】
本発明の組成物及び剤形は、様々な治療目的及び手術に用いられる麻酔薬を投与するのに有用である。従って、例えば、該組成物は、様々な外科手術に先立ってブロックとして投与するために調製されてもよく、外科手術に先立って又は既に存在する病状の治療において、歯痛及び眼痛の治療又は予防のために調製されてもよい。より一般的には、例えば治療計画の一部として、疼痛管理のために調製されてもよい。
【0032】
すぐ上に記載した文献の他にも様々な文献が本明細書において引用されており、その開示内容は全体を参照することにより本明細書で援用される。本明細書中のいかなる参考文献の引用も、そのような参考文献が本発明の先行技術として利用できることを認めたものとしてみなされてはならない。
【0033】
本発明は、特定の実施態様、様々な特定材料、手法及び実施例に言及することにより本明細書中に記載及び例証されたが、本発明は特定の材料の組み合わせ及びその目的のために選択される手法には制限されないものと理解される。実際、上述の記載から、本明細書中に記載されたもの以外の本発明の様々な改良が当業者にとって明確になるであろうし、そのような改良は本発明の範囲内であるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補助薬として機能する第一成分と、麻酔製剤を含む第二成分とを有する、効能及び室温保存安定性の向上した麻酔薬組成物であって、
前記第一成分及び第二成分は使用時まで互いに接触しないよう分離されており、
前記第一成分は保存安定なヒアルロニダーゼ製剤を含み、
前記第二成分は、リドカイン、マーカイン、ポロカイン、キシロカイン、ノボカイン、プロカイン、プリロカイン、ブピバカイン、メピバカイン、カルボカイン、エチドカイン及びチンコカインからなる群から選択される麻酔薬を含む、麻酔薬組成物。
【請求項2】
前記成分が投与時に混ざり合うことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ヒアルロニダーゼが粉末形状で調製されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ヒアルロニダーゼが凍結乾燥により粉末形状で調製されることを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記麻酔薬がリドカインとマーカインの混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記麻酔薬がリドカインとエピネフリンの混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記麻酔薬がリドカインとブピビカインの混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記麻酔薬がリドカインを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記麻酔薬が、1.0質量%〜約5.0質量%の濃度の活性成分を含む溶液中で調製されることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
麻酔薬ブロックとして4ccの量で調製された請求項1の組成物を含む、注射による麻酔薬投与用の単位剤形。
【請求項11】
前記組成物が、複数の空洞を有する注射器であって前記複数の空洞の各々が前記成分の1つを含む注射器内に配置されており、前記組成物を投薬するために前記注射器を作動させると、注射により投薬される前に前記成分が混ぜ合わさることを特徴とする、請求項10に記載の単位剤形。
【請求項12】
単回投与剤形として調製された請求項10に記載の単位剤形。
【請求項13】
請求項11に記載の単位剤形を有する投薬装置を調製する工程、及び麻酔の対象部位で前記組成物を投薬するために前記注射器を作動させる工程を有する、請求項1に記載の麻酔薬組成物の投与方法。

【公表番号】特表2011−517311(P2011−517311A)
【公表日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533110(P2010−533110)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/012596
【国際公開番号】WO2009/061482
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(507272810)
【Fターム(参考)】