説明

黄斑変性を処置するためのマスクまたはコーティング銅塩の使用

本発明は、マスクまたはコーティング銅塩を用いて銅感受性化合物および/または組成物を分解から保護する方法に関する。好ましくは、銅はゼラチン、リポソームまたはモノおよびジグリセリドでコーティングされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅感受性化合物および/または組成物を分解から保護する方法に関する。
【0002】
オメガ3脂肪酸および多くのビタミン、そして他の薬学的に有効な化合物または組成物は、それが銅塩と接触したとき、分解されやすい。かかる化合物および/または組成物の貯蔵上、特に水が存在する場合に、この分解は重要な問題である。この水の存在は、湿度それ自体、組成物および/または化合物の成分の1つにおける痕跡量の水、または環境湿気由来のような微量の水をも含む。
【発明の概要】
【0003】
重要な、したがってしばしば必須とされる成分として銅塩を含む化合物および/または組成物は多数存在する。かかる状況において、銅塩と銅感受性化合物および/または組成物の相互作用は、次の段落に記載する方法によって制御され、すなわち銅感受性化合物および/または組成物の分解が実質的に阻害され、あるいは典型的には防止される。
【0004】
第1の局面において、この課題は、銅塩に適切なマスクまたはコーティングを施すことによって解決される。このマスクまたはコーティングは典型的に、該銅感受性化合物および/または組成物との相互作用を抑制する。銅塩は例えば、ゼラチンまたはリポソームおよび/またはその両方でマスクまたはコーティングされ、あるいはそれらに埋込まれ、例えばコーティング銅塩はゼラチンに埋込まれる。他に、例えば商業的に入手可能である商品Descote(登録商標)として知られているモノおよびジグリセリドで封入することによって銅塩を保護する方法も存在する。
【0005】
銅塩は、適切なシクロデキストリン化合物と安定な複合体を形成してもよく、これは典型的には、後段で、例えば必要と見なされるとき、例えば腸で、該複合体の酵素的分解後に、その遊離銅塩を放出する。
【0006】
銅塩は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンおよび他のセラミドを含むがこれらに限定されない双性イオンリン脂質、ならびに多様な他の双性イオンリン脂質でコーティングされていてもよい。
【0007】
本明細書の実施例において、該銅塩が適切にマスクまたはコーティングされていなければ分解する多数の銅感受性化合物を記載する。かかる銅感受性組成物は、例えば以下のようなものを含む。
【表1】

【0008】
実施例2
他の実験で、銅、例えば塩基性炭酸銅(II)が、次の成分を含むカプセルシェルに封入される。特に、シェルのようなマスク用賦形剤は、例えば以下の通りである。
【表2】

【0009】
上記組成物の安定性は、銅がマスクされていない条件と、シェル内の銅がマスクされている、したがって銅感受性成分と直接接触しない条件で検討する。記載したマスク/コーティング方法の安定性は、銅感受性化合物および/または組成物の分解の程度と相関する。
【0010】
【表3】

【0011】
上記組成は、目的のガレヌス製剤の製造のための、例えばカプセルシェル等の製造のための他の賦形剤を含んでいてもよい。
【0012】
実施例4
80℃(環境湿度、すなわち相対湿度50〜70%)で2日貯蔵後の、軟ゼラチンカプセル中のオメガ3脂肪酸の安定性
(オメガ3脂肪酸含有量の変化)
貯蔵後のEPAおよびDHAの重量パーセントを測定するためのアッセイは、欧州薬局方5.4に記載の標準的な方法によるガスクロマトグラフィーによって実施する。
【0013】
【表4】

** 他のオメガ3脂肪酸は、α−リノレン酸(ALA)、ステアリドン酸(SA)、エイコサテトラエン酸(ETA)およびドコサペンタエン酸(DPA)の合計を意味する。
【0014】
用語定義:
本明細書において使用するとき、銅または銅塩は相互交換可能なように使用され、好ましくはCu2+に関するが、Cuもまた含む。銅塩は好ましくは、薬学的に許容されるアニオン、例えばクロライド、オキシド、ヒドロキシド、グルコネート、カルボネート、サルフェート等を含む。
【0015】
本明細書において使用するとき、オメガ3脂肪酸は、主としてエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)であるが、これらに限られない。
【0016】
本明細書において使用するとき、マスク、コーティングまたは包埋銅または銅塩なる用語は、銅塩と、該銅塩と銅感受性化合物および/または組成物の直接相互作用を効果的に防止するマスク剤、コーティング剤または埋込み剤に関する。
【0017】
本明細書において使用するとき、消化性カプセル物質は、例えば上記実施例2に記載のシェル物質であるが、一般に、医薬/食品/栄養補助カプセルの技術分野において使用される何れかのカプセル、カプセルシェルまたはシェル物質、典型的には薬学的に許容される(非毒性、生分解性、所望により腸もしくは胃で消化される)典型的には有機ポリマー組成物である。
【0018】
本明細書において使用するとき、医薬組成物なる用語は、典型的に、食事補助組成物および/または栄養補助組成物を意味し、そして食事補助組成物および/または栄養補助組成物なる用語は医薬組成物を意味していてもよい。
【0019】
別の局面において本発明は、銅塩によって処置され得る疾患、例えば加齢性黄斑変性(AMD)または糖尿病性網膜症(DR)の処置用医薬組成物におけるマスクまたはコーティング銅塩の使用に関する。
【0020】
さらに本発明は、医薬組成物を安定化する方法におけるマスクまたはコーティング銅塩の使用に関する。
【0021】
さらに本発明は、オメガ3脂肪酸とコーティングまたはマスク銅塩を含む貯蔵安定な医薬組成物に関する。
【0022】
さらに本発明は、銅塩依存分解から食事補助組成物および/または栄養補助組成物を安定化する方法における、マスクまたはコーティング銅塩の使用に関する。
【0023】
さらに本発明は、銅塩依存分解から医薬組成物を安定化する方法におけるマスクまたはコーティング銅塩の使用に関する。
【0024】
さらに本発明は、消化性カプセル物質、シェルまたはシェル物質、1種以上の銅感受性成分、例えばビタミンE、ルテインまたはオメガ3脂肪酸、および銅塩を含む薬剤送達系であって、該銅塩が薬剤送達系のシェル物質に存在することを特徴とする薬剤送達系に関する。
【0025】
本発明はさらに、次のものに関する:
マスクおよび/またはコーティング銅塩、好ましくは硫酸銅、炭酸銅および/またはグルコン酸銅を含む消化性カプセル物質、特に胃腸管で消化可能なカプセル物質であって、該カプセル物質が前記銅塩のためのマスクおよび/またはコーティング物質を含むことを特徴とするカプセル物質;
【0026】
銅塩が既にコーティング物質でコーティングされており、該コーティング物質がカプセル物質のマスク物質と同一または異なっていてもよい、上記段落に定義の消化性カプセル物質;
【0027】
カプセル内容物中に次の成分:アスコルビン酸カルシウムを含むかまたは実質的にそれからなるビタミンC、酢酸d,l-α-トコフェロールを含むかまたは実質的にそれからなるビタミンE、酸化亜鉛を含むかまたは実質的にそれからなる亜鉛、酸化銅、硫化銅、炭酸銅またはグルコン酸銅を含むかまたは実質的にそれらからなる銅、およびオメガ3酸トリグリセリドPh.Eurを含むかまたは実質的にそれからなるオメガ3脂肪酸を含む、上記2段落に定義の消化性カプセル物質;
【0028】
栄養剤または食事補助組成物、特に上記目的における、所望によりLucentis(登録商標)またはVisudyne(登録商標)による処置のようなAMD処置との組合せにおけるマスクまたはコーティング銅塩の使用であって、該マスクが上記に準じて、特に上記消化性カプセル物質の形態で得られる、使用;
【0029】
AMDおよび/またはDRの予防/処置における、栄養補助組成物または食事補助組成物としての、上記マスクまたはコーティング銅塩の使用;
【0030】
それを必要とする対象におけるAMDおよび/またはDRの処置および/または予防方法であって、上記マスクまたはコーティング銅塩を含む有効量の栄養補助組成物または食事補助組成物を投与することを含んでなる方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅塩によって処置および/または予防が可能な疾患の処置および/または予防用医薬組成物における、マスクまたはコーティング銅塩の使用。
【請求項2】
疾患が加齢性黄斑変性または糖尿病性網膜症である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
医薬組成物を銅塩依存性分解から安定化する方法における、マスクまたはコーティング銅塩の使用。
【請求項4】
医薬組成物が1種以上の銅感受性化合物、例えばオメガ3脂肪酸、ビタミンC、ビタミンE、ルテインおよび/またはゼアキサンチンを含む、請求項1〜3の何れかに記載の使用。
【請求項5】
銅がゼラチン、リポソームまたはモノおよびジグリセリドでコーティングされている、請求項1〜4の何れかに記載の使用。
【請求項6】
銅がグルコン酸銅、酸化銅、炭酸銅または塩化銅である、請求項1〜5の何れかに記載の使用。
【請求項7】
コーティングがホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンおよび他のセラミドを含むがこれらに限定されない双性イオンリン脂質、ならびに多様な他の双性イオンリン脂質である、請求項1〜6の何れかに記載の使用。
【請求項8】
銅が銅シクロデキストリン複合体である、請求項1〜7の何れかに記載の使用。
【請求項9】
マスクおよび/またはコーティング銅塩を含む消化性カプセル物質、特に胃腸管で消化可能なカプセル物質であって、該カプセル物質が前記銅塩のためのマスクおよび/またはコーティング物質を含むことを特徴とするカプセル物質。
【請求項10】
銅塩が既にコーティング物質でコーティングされており、該コーティング物質がカプセル物質のマスク物質と同一または異なっていてもよい、請求項9に記載の消化性カプセル物質。
【請求項11】
カプセル内容物中に次の成分:アスコルビン酸カルシウムを含むかまたは実質的にそれからなるビタミンC、酢酸d,l-α-トコフェロールを含むかまたは実質的にそれからなるビタミンE、酸化亜鉛を含むかまたは実質的にそれからなる亜鉛、およびオメガ3酸トリグリセリドPh.Eurを含むかまたは実質的にそれからなるオメガ3脂肪酸を含む、請求項9または10に記載の消化性カプセル物質。
【請求項12】
栄養剤または食事補助剤における、請求項9〜11の何れかに記載の消化性カプセル物質の形態のマスクまたはコーティング銅塩の使用。
【請求項13】
加齢性黄斑変性または糖尿病性網膜症の予防および/または処置用栄養補助組成物または食事補助組成物の製造のための、請求項9〜11の何れかに記載の消化性カプセル物質の形態のマスクまたはコーティング銅塩の使用。
【請求項14】
それを必要とする対象におけるAMDおよび/またはDRの処置および/または予防方法であって、請求項9〜11の何れかに記載の消化性カプセル物質の形態のマスクまたはコーティング銅塩を含む有効量の栄養補助組成物または食事補助組成物を投与することを含んでなる方法。

【公表番号】特表2010−521534(P2010−521534A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500223(P2010−500223)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/053283
【国際公開番号】WO2008/116806
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】