説明

黒色トリスアゾ色素、該トリスアゾ色素の調製および使用方法

【課題】可能な限り中性的な色合いの黒色を有する新規な黒色トリスアゾ色素と、インクジェット印刷や筆記具用の記録液体中での該色素の使用方法の提供。
【解決手段】例えば、式(XIX)で示されるアミンをジアゾ化させ、アゾ基、スルホ基を有すアミノナフトール化合物とカップリングさせて得た黒色トリスアゾ色素。


(図中、Mは、水素原子、金属カチオン、またはアンモニウムカチオンを示し、nは0または1であり、Aは、置換基を有してもよいフェニル基またはナフチル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な黒色トリスアゾ色素および該トリスアゾ色素の塩、染色および印刷操作での該トリスアゾ色素の調製および使用方法に関する。また、本発明は、該トリスアゾ色素を含む液体色素調製物、特に、インクジェット印刷用および筆記具用の水性記録液に関する。
【背景技術】
【0002】
経済的な理由のために、最近のインクジェットプリンタの速度は、着実に向上される必要がある。プリンタに特に適した記録用紙には、例えば、二酸化シリシウム(silicium dioxide)、アルミニウム酸化物/水酸化物、酸化アルミニウム、あるいはこれらの混合物などのナノ多孔性無機化合物が含まれる。記録用紙は、「ナノ多孔性記録用紙」として知られている。該記録用紙上に印刷された画像は、悪条件下でも優れた保存安定性を有する必要がある。これは、インクを精密に調整するシステム、換言すれば、インクに含まれる色素をそれぞれ精密に調整するシステムを使用することによってのみ実現できる。
【0003】
これまで、これらの画像は、要求される特性の全てを満足していない。特に、これらの記録用紙上に印刷された画像の水堅牢性、光安定性、オゾン安定性、色合い、および光沢は、満足のいくものではない。そのため、これらの記録用紙上に印刷された画像の上述の
特性、特に、黒色の色合いを有する領域の特性を改善する、新規な色素が求められている。
【0004】
もっとも、インクジェット印刷用の黒色色素として、相当数の黒色色素が既に提案されている。しかしながら、要求される特性の全てを満足するものはない。
【0005】
式(I)で示されるトリスアゾ色素が、特許文献1(実施例1−5)に記載されている。
【0006】
【化1】

【0007】
式(II)で示されるトリスアゾ色素が、特許文献1(比較例1−2)に記載されている。
【0008】
【化2】

【0009】
式(III)で示されるトリスアゾ色素が、特許文献2(化合物番号17)に記載されている。
【0010】
【化3】

【0011】
これらのトリスアゾ色素は技術水準を示すものであって、トリスアゾ色素をインクジェット印刷用の記録液体の形で用いる場合、ナノ多孔性の記録用紙を急速に乾燥するという悪条件下であっても優れた安定性を有する画像が得られる必要があるが、トリスアゾ色素は必要とされる要求の全てを満足するものではない。自明ではあるが、トリスアゾ色素によって、普通紙またはコート紙、コート紙または非コート紙、不透明または透明な合成材料などの他のあらゆる種類の記録用紙上に、可能な限り中性的(ニュートラル)な黒色の色合い(aとbが可能な限り小さい値を示すL値)を有する黒色の画像領域または画像着色部が得られる必要がある。
【0012】
インクの調製に用いられる色素は、本質的に水性であるインク液に、優れた溶解性を示す必要があり、色素は記録用紙に浸透する必要があり、記録用紙の表面に色素の集合体(bronzing「ブロンジング」)が確認されるべきではない。悪条件下であっても、色素によって、光学濃度が高く、水堅牢性に優れ、光安定性に優れ、オゾン堅牢性に優れ、拡散堅牢性に優れた画像が印刷される必要がある。インクを悪条件で長時間保存する場合でも、色素は、インク中において安定である必要がある。
【0013】
種々の種類のインク組成物が提案されてきた。典型的なインクは、1以上の色素または顔料、水、有機共溶媒、および他の添加物から構成される。
【0014】
インクは、以下の基準を満足する必要がある。
(1)インクによって、あらゆる種類の記録用紙上で優れた品質の画像が得られる。
(2)インクによって、水堅牢性に優れた画像が印刷される。
(3)インクによって、光安定性に優れた画像が印刷される。
(4)インクによって、オゾン堅牢性に優れた画像が印刷される。
(5)インクによって、滲み挙動に優れた画像が印刷される。
(6)インクによって、高温かつ高湿度の条件下において、保存安定性に優れた画像が印刷される。
(7)記録が長期間中断されている間、インクジェットプリンタのジェットノズルにキャップをしない場合でも、インクによって、インクジェットプリンタのジェットノズルからの吐出が妨げられない。
(8)品質を悪化させずに、インクを長期間保存することができる。
(9)インクは、非毒性であり、不燃性であり、かつ安全である必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2005/054374号
【特許文献2】特開2005−220211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的の一つは、可能な限り中性的な色合いの黒色を有する新規な黒色トリスアゾ色素と、水性インク中、特にインクジェット印刷や筆記具用の記録液体中での色素の使用方法を提供することである。色素は、急速に乾燥するナノ多孔性の記録用紙上において、画像または着色を調製するインクジェット印刷に特に有利である。新規な黒色トリスアゾ色素は、着色強度が高く、水性系での溶解性に優れる。新規な黒色トリスアゾ色素によれば、特にインクジェット印刷において、全般的に優れた特性を有する画像または着色が得られ、鮮明な色合いの画像が得られる。画像の鮮明さは、高温・高湿度条件下で長期間保存している間に悪化しないか、僅かに悪化するだけである。さらに、画像は、光安定性に優れ、オゾン堅牢性に優れる。
【0017】
本発明の更なる目的は、液体色素調製物、特にインクジェット印刷用や筆記具用のインクを提供することであり、液体色素調製物によれば、あらゆる種類の記録用紙上において、色合いのスペクトルが変化しない。
【0018】
本発明の更なる目的は、前述した要求される特性の全てを有するインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、一般式(IV)と一般式(V)で示される新規なトリスアゾ色素に関する。
【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
ここで、Mは、水素原子、金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを示しており、該アンモニウムカチオンは、所望により、1以上のアルキル基または1から18個の炭素原子をそれぞれ有する置換型のアルキル基で置換されてもよい。
【0023】
m、nは互いに独立していて、0または1を示している。
【0024】
Aは、一般式(VI)または一般式(VII)の何れかで示される基である。
【0025】
【化6】

【0026】
ここで、R、R、R、R、R10は、互いに独立していて、水素原子、SOM基、NO基、COOM基、CN基、ハロゲン原子、エステル基、1から6個の炭素原子をそれぞれ有するアルキルまたはアルコキシル基、12個までの炭素原子をそれぞれを有する非置換型または置換型のアミドまたはスルホンアミド基を示しており、置換基は、COOM、OH、OCH、NH、Cl、COOCHおよびCOOCHCHからなる群の中から選ばれる。
【0027】
【化7】

【0028】
ここで、oは0または1である。
【0029】
また、R11、R12、R13、R14は互いに独立していて、水素原子、SOM基、NO基、COOM基、ハロゲン原子、エステル基、1から6個の炭素原子を有するアルコキシル基、12個までの炭素原子をそれぞれ有する非置換型または置換型のアミドあるいはスルホンアミド基を示していて、置換基は、COOM、OH、OCH、NH、Cl、COOCHおよびCOOCHCHからなる群の中から選ばれる。
【0030】
Bは、一般式(VIII)または一般式(IX)の何れかで示される基である。
【0031】
【化8】

【0032】
ここで、R、R、R、R、Rは互いに独立していて、水素原子、SOM基、NO基、COOM基、CN基、ハロゲン原子、エステル基、1から6個の炭素原子をそれぞれ有するアルキルまたはアルコキシル基、12個までの炭素原子をそれぞれ有する非置換型または置換型のアミドあるいはスルホンアミド基を示していて、置換基は、COOM、OH、OCH、NH、Cl、COOCHおよびCOOCHCHからなる群の中から選ばれる。
【0033】
【化9】

【0034】
ここで、pは0または1である。
【0035】
また、R15、R16、R17、R18は互いに独立していて、水素原子、SOM基、NO基、COOM基、ハロゲン原子、エステル基、1から6個の炭素原子を有するアルコキシル基、12個までの炭素原子をそれぞれ有する非置換型または置換型のアミドあるいはスルホンアミド基を示していて、置換基は、COOM、OH、OCH、NH、Cl、COOCHおよびCOOCHCHからなる群の中から選ばれる。
【0036】
一般式(IV)と(V)で示されるトリスアゾ色素が好ましく、M、oおよびpは、先に定義した通りである。
【0037】
、R、R、R、Rは互いに独立していて、水素原子、SOM基、NO基、COOM基、CN基、ハロゲン原子、エステル基、1から6個の炭素原子をそれぞれ有するアルキルまたはアルコキシル基を示している。
【0038】
、R、R、R、R10は互いに独立していて、水素原子、SOM基、NO基、COOM基、CN基、ハロゲン原子、エステル基、1から6個の炭素原子をそれぞれ有するアルキルまたはアルコキシル基を示している。
【0039】
11、R12、13、R14は互いに独立していて、水素原子、ハロゲン原子、SOM基またはCOOM基を示している。
【0040】
15、R16、R17、R18は互いに独立していて、水素原子、ハロゲン原子、SOM基またはCOOM基を示している。
【0041】
また、m、nは1である。
【0042】
一般式(IV)と一般式(V)で示されるトリスアゾ色素が特に好ましい。ここで、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、M、oおよびpは、先に定義した通りであり、スルホン酸基は、4位と4’位にある。
【0043】
一般式(IV)と一般式(V)で示されるトリスアゾ色素が特に好ましい。ここで、Aは一般式(VI)で示される基であり、Bは一般式(VIII)で示される基である。
【0044】
一般式(IV)と一般式(V)で示されるトリスアゾ色素であって、基AとBが同一であるトリスアゾ色素も好ましい。
【0045】
金属カチオンとしては、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)のカチオン、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム)のカチオン、およびアンモニウムカチオンが好ましい。該アンモニウムカチオンは、所望により、1から4個の炭素原子をそれぞれ有する1以上のアルキル基で置換され、あるいは、1から6個の炭素原子をそれぞれ有するヒドロキシ基で置換されたアルキルで置換される。
【0046】
一般式(IV)で示されるトリスアゾ色素の特定の例を以下に示す。ここで、置換基Mは、表1に定義した通りである。
【0047】
【化10a】

【0048】
【化10b】

【0049】
【化10c】

【0050】
【化10d】

【0051】
【化10e】

【0052】
【化10f】

【0053】
一般式(V)で示されるトリスアゾ色素の特定の例を以下に示す。ここで、置換基Mは、表1に定義した通りである。
【0054】
【化11a】

【0055】
【化11b】

【0056】
一般式(IV)と一般式(V)で示される調製されたトリスアゾ色素と該色素の水溶液中での極大吸収を表1に掲載する。
【0057】
【表1】

【0058】
一般式(IV)と一般式(V)で示されるトリスアゾ色素は、遊離酸の形であってもよいし、無機または有機塩の形であってもよい。該色素は、アルカリ塩またはアンモニウム塩の形であると好ましく、アンモニウムカチオンは置換されていてもよい。このような置換型のアンモニウムカチオンの例は、2−ヒドロキシエチルアンモニウム、ビス−(2−ヒドロキシエチル)−アンモニウム、トリス−(2−ヒドロキシエチル)−アンモニウム、ビス−(2−ヒドロキシエチル)−メチルアンモニウム、トリス−[2−(2−メトキシエトキシ)−エチル]−アンモニウム、8−ヒドロキシ−3,6−ジオキサオクチルアンモニウム、およびテトラメチルアンモニウムまたはテトラブチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムである。
【0059】
本発明は、一般式(IV)と一般式(V)で示される純粋なトリスアゾ色素に関するだけでなく、これらのトリスアゾ色素の混合物にも関する。
【0060】
本発明は、本発明に係る一般式(IV)で示されるトリスアゾ色素の調製方法にも関する。該方法は、一般式(X)で示されるアミンをジアゾ化し、
【0061】
【化12】

ここで、nとMは先に定義した通りである。
【0062】
次に、pHを約1.0〜3.0の酸の値に調整して、一般式(XI)で示される化合物と結合させて、一般式(XII)で示される中間体色素を形成する。
【0063】
【化13】

ここで、mとMは先に定義した通りである。
【0064】
【化14】

【0065】
pHを僅かに塩基性である約7.0〜9.0に調整して、一般式(XII)で示される中間体色素を、一般式(XIII)で示されるジアゾ化合物、あるいは一般式(XIV)で示されるジアゾ化合物とさらに結合させ、
【0066】
【化15】

ここで、R、R、R、RおよびRは、先に定義した通りであり、Xはジアゾ化中に使用される酸のアニオンである。
【0067】
【化16】

ここで、R15、R16、R17、R18およびpは、先に定義した通りであり、Xはジアゾ化中に用いられた酸のアニオンである。
【0068】
次に、該ジアゾ化合物を塩基性条件化で加水分解させて、一般式(XV)または一般式(XVI)で示される中間体色素を形成する。
【0069】
【化17】

【0070】
【化18】

【0071】
次に、pHを約5.0〜9.0のほぼ中性の値に調整して、一般式(XV)または(XVI)で示されるこれらの中間体色素を、一般式(XVII)または一般式(XVIII)で示されるジアゾ化合物と結合させて、本発明に係る一般式(IV)で示される色素を形成することを特徴とする。
【0072】
【化19】

ここで、X、R、R、R、RおよびR10は、先に定義した通りである。
【0073】
【化20】

ここで、X、o、R11、R12、R13およびR14は、先に定義した通りである。
【0074】
さらに、本発明は、本発明に係る一般式(V)で示されるトリスアゾ色素の調製方法にも関する。該方法は、一般式(XIX)で示されるアミンをジアゾ化し、
【0075】
【化21】

ここで、M、Aおよびnは、先に定義した通りである。
【0076】
次に、pHを約7.0〜9.0の僅かに塩基性の値に調整して、一般式(XX)で示される化合物と結合させて、本発明に係る一般式(V)で示される色素を形成することを特徴とする。
【0077】
【化22】

ここで、M、Bおよびmは、先に定義した通りである。
【0078】
本発明に係る一般式(IV)と(V)で示されるトリスアゾ色素を、材料を含むセルロース、紙、綿、ビスコース、皮革、およびウール、並びに紙、綿、ビスコース、皮革およびウールを含むセルロースの染色に使用すると、水堅牢性と光安定性に優れた染色材料が得られる。
【0079】
直接染料を用いた染色、好ましくは、サイズ紙または無サイズ紙のバルクまたは表面処理について、繊維工業および製紙業で公知の全ての方法が、トリスアゾ色素と共に使用されてもよい。前記色素は、長時間液体に浸漬させて、液体を染み込ませるプロセス(exhaustion process)によって、あるいは、連続プロセスで、綿、ビスコース、およびリネンの織り糸および反物を染色するのに使用されてもよい。
【0080】
本発明に係るトリスアゾ色素は、記録用紙、コート紙または非コート紙に、文字情報と画像を記録するのに特に適していて、天然または合成繊維材料、ナノ多孔性の記録用紙、皮革、およびアルミニウムを染色したり、印刷するのに特に適している。
【0081】
さらに、本発明は、一般式(IV)または一般式(V)で示される少なくとも1種のトリスアゾ色素を含む液体色素調製物に関する。液体色素調製物を紙の染色に使用すると特に好ましい。このような安定で、液体で、好ましくは水性で、濃縮された色素調製物は、当該技術分野において公知の方法を用いて、好ましくは好適な溶媒中に溶解することによって得ることができる。色素の合成中に、色素の中間体を分離せずに、例えば、反応液を透析濾過して脱塩した後に、このような安定で、水性で、濃縮された調整物を調製できると、特に有利である。
【0082】
一般式(IV)と一般式(V)で示されるトリスアゾ色素またはトリスアゾ色素の混合物は、インクジェット印刷や筆記具用のインクの調製物として、優れた色素である。
【0083】
中性的な黒色の色合いをさらに良好に得るために、本発明に係る一般式(IV)と一般式(V)で示されるトリスアゾ色素を、調色用色素、特に、欧州特許出願公開第0755984号明細書、欧州特許出願公開第1219682号明細書、国際公開第96/24635号および国際公開第96/24636号に開示された色素と組み合わせることもできる。
【0084】
インクは、液体の水性媒体中に、本発明に係る1または複数種のトリスアゾ色素を含んでいる。前記インクは、前記インクの総重量を基準にして、これらのトリスアゾ色素を、0.5重量パーセントから20重量パーセント、好ましくは、0.5重量パーセントから8重量パーセント含む。前記液体の媒体は、水または水と水混和性の有機溶媒の混合物であると好ましい。好適な溶媒は、例えば、米国特許第4626284号明細書、英国特許出願公開第2289473号明細書、欧州特許出願公開第0176195号明細書、欧州特許出願公開第0415581号明細書、欧州特許出願公開第0425150号明細書、および欧州特許出願公開第0597672号明細書に開示される。
【発明を実施するための形態】
【0085】
本発明は、請求された化合物の範囲を何ら限定せずに、以下の実施例によってより詳細に説明される。
【実施例】
【0086】
(実施例1)
色素番号10のトリスアゾ色素を以下の方法で調製した。
【0087】
[色素のジアゾ成分]
欧州特許出願公開第1693422号明細書に記載された実施例2−1の手順に従って、式(XXI)で表される化合物を、1−アミノ−8−ナフトール−4,6−ジスルホン酸0.5モルとベンゼンスルホニルクロリド0.6モルから調製した。Mは水素原子を示している。
【0088】
【化23】

【0089】
[ジアゾ縣濁液A]
式(XXI)で表される化合物46g(0.1モル)を、室温で360mlの水に縣濁させ、温度0℃〜5℃まで冷却し、撹拌条件下において、(37%の)塩酸水溶液25mlを10分かけて滴下した。(4Nの)亜硝酸ナトリウム水溶液25mlを温度0℃〜10℃で滴下した。滴下終了後、温度0℃〜5℃で1時間撹拌し続けた。スルファミン酸と反応させて、過剰量の亜硝酸を除去した。
【0090】
[式(XII)で表される中間体色素の調製]
(20%の)水酸化ナトリウム溶液を添加しながらpHの値を2.0と3.0の間に保持している間に、撹拌条件下において、(92%の)1−アミノ−8−ナフトール−4,6−ジスルホン酸34.7g(0.1モル)を100mlの水に加えた縣濁液に、ジアゾ縣濁液Aを内温5℃〜10℃で30分かけて添加した。添加終了後、温度0℃〜5℃で2時間撹拌し続けた。
【0091】
【化24】

【0092】
[ジアゾ縣濁液B]
水50mlに、2−アミノ−5−ニトロベンゼンスルホン酸(57%)のナトリウム塩50.6g(0.12モル)を溶解した。得られた溶液を温度0℃〜5℃まで冷却し、(4Nの)亜硝酸ナトリウム水溶液30mlを添加した。撹拌条件下において、(37%の)塩酸水溶液50mlを、温度0℃〜10℃で10分かけて滴下した。その後、この温度で1時間撹拌し続けた。スルファミン酸と反応させて、過剰量の亜硝酸を除去した。
【0093】
[式(XXIII)で示される色素の調製]
式(XXII)で示される中間体色素を分離せずに、ジアゾ化合物Bと直接反応させた。
【0094】
(20%の)水酸化ナトリウム溶液を添加しながらpHの値を5.0〜7.0に保持している間に、撹拌条件下において、中間体色素(XXII)の縣濁液に、ジアゾ縣濁液Bを内温5℃〜10℃で30分かけて添加した。添加終了後、温度0℃〜5℃で2時間、室温で2時間撹拌し続けた。形成された色素は、分離せずに、水酸化ナトリウムを用いてpHの値を11.0〜12.0にして、温度90℃で直接加水分解された。加水分解終了後、pHの値は7.0まで低下した。沈殿した色素を濾取した。未精製の色素は、(60%の)エタノール水溶液300mlで精製された。乾燥後、式(XXIII)で示される39.2gの色素を得た。
【0095】
【化25】

【0096】
[色素番号10のトリスアゾ色素の調製]
(20%の)水酸化ナトリウム溶液を添加しながらpHの値を5.0〜7.0に保持している間に、水とN−メチルピロリドンの(2:1の)混合物150mlに式(XXIII)で示される色素9.9g(10ミリモル)を加えた均一混合物に、ジアゾ縣濁液B15mmolを内温5℃〜10℃で30分かけて添加した。添加終了後、温度0℃〜5℃で2時間、室温で2時間撹拌し続けた。その後、黒ずんだ溶液を濾過し、濾液をロータリーエバポレータで濃縮した。メタノールを添加して色素を沈殿させて、色素を濾取した。未精製の色素は、(80%の)エタノール水溶液60mlで精製された。乾燥後、式(XXIII)で示される39.2gの色素を得た。乾燥後、ナトリウム塩の形態を取った10gの色素番号10の色素を得た。
【0097】
本発明に係る色素番号11〜26のトリスアゾ色素は、適切な出発原料を用いて同様な方法で調製した。
【0098】
本発明に係る色素番号30〜33のトリスアゾ色素は、欧州特許出願第10187827.0号明細書に記載された方法によって調製した。
【0099】
(インク調製物の例)
本発明は、インクに関する限り、表1に掲載した本発明に係るトリスアゾ色素及び技術水準を示すトリスアゾ色素を用いた以下の例によって説明される。各色素について、撹拌条件下において、必要量の色素(2g−9g)、グリセロール(5g)、エチレングリコール(5g)、タージトール(Tergitol(登録商標)) 15−S−7(0.5g、アメリカ合衆国のヒューストンにあるユニオンカーバイド社から入手可能)、および殺生物剤であるメーガル(Mergal(登録商標)) K 10N(0.2g、ドイツ連邦共和国のシールズにあるリーデル・デ・ハーエンから入手可能)を水とともに温度50℃で約1時間加熱して、100gのインクを調製した。得られた溶液を温度20℃まで冷却し、pHの値を7.5に調整し、溶液を孔径0.5μmのミリポア(Millipore(登録商標))フィルターを通過させた。色素の量は、印刷画像の光学濃度が全ての色素で同じになるように調整された。
【0100】
(記録用液体の適用例)
次に、インクジェットプリンタであるキャノンピクスマ(Canon(登録商標) Pixma(登録商標)) IP4000を用いて、以下の記録用紙上に、記録用液体を印刷した。
1:イルフォード(ILFORD(登録商標)) プレミアム プラス インスタント ドライ グロッシー フォト RC ペーパー(二酸化シリシウム系のナノ多孔性記録用紙、スイス国のフリブールにあるイルフォード イメージング スウィツアランド ゲーエムべーハーから入手可能)
2:イルフォード ギャラリー スムース グロッシー ペーパー(水酸化/酸化アルミニウム系のナノ多孔性記録用紙、スイス国のフリブールにあるイルフォード イメージング スウィツアランド ゲーエムべーハーから入手可能)
【0101】
(試験)
(A)光安定性
6500ワットのキセノンランプを備えたウェザロメータ(Weather−Ometer(登録商標)) Ci35A(アメリカ合衆国のシカゴにあるアトラス マテリアル テスティング テクノロジーから入手可能)を用いて、照度が20メガルクス時に達するまで、印刷されたサンプルを、温度20℃、相対湿度50%の条件で照射した。濃度の低下は、濃度計であるスペクトロリノ(Spectrolino(登録商標))を用いて測定した。初期の濃度に対して低下した濃度の百分率は、印刷された記録用紙上での色素の光安定性を示している。
【0102】
(B)色座標
印刷されたサンプルの色座標Lは、分光光度計であるスペクトロリノ(Spectrolino(登録商標))(スイス国のレーゲンズドルフにあるグレタグ・マクベスから入手可能)を用いて測定した。
【0103】
(C)オゾンによる劣化に対する安定性
1cmの表面積を有する色付きの矩形状のパッチを、2枚の記録用紙上に印刷した。印刷されたサンプルを、相対湿度約60%において24時間乾燥した。次に、スペクトロリノ(Spectrolino(登録商標))濃度計を用いて、色付きの矩形状のパッチの光学濃度を測定した。その後、印刷されたサンプルは、温度30℃、空気の相対湿度50%、オゾン濃度1ppm、オゾンを含む空気の循環速度13mm/sの条件において、型式903のオゾンチャンバ(イギリス国のサトラ/ハンプデン(Satra/Hampden)から入手可能)内に所定時間保管された。保管後、サンプルを再測定した。これら2つの測定値の濃度の違いは、初期濃度の百分率として示され、オゾンに曝されたことに起因する色素損失の量を示している。
【0104】
(結果)
20メガルクス時の光に曝された後の濃度低下を、表2に掲載した。
【0105】
【表2】

【0106】
表2中の印刷サンプルの濃度損失の測定結果を比較すると、本発明に係るトリスアゾ色素は、技術水準として示されるトリスアゾ色素(I)と(II)に比べて、光安定性がかなり改善されていることが直ちに分かる。このことは、本発明に係るトリスアゾ色素を用いて、インクジェット印刷された黒色の画像が、技術水準として示される公知のトリスアゾ色素を含む黒色の画像よりも、退色がかなり小さいことを意味している。
【0107】
本発明に係るトリスアゾ色素と技術水準を示すトリスアゾ色素(I)と(II)について、Lの値(illuminant D65)を測定した結果を表3に掲載する。
【0108】
【表3】

【0109】
表3中のLの値の測定結果を比較すると、本発明に係るトリスアゾ色素を含むインクによれば、技術水準を示すトリスアゾ色素(I)と(II)を含むインクで印刷された画像領域と比べて、bの値が小さい黒色の画像領域が得られることが直ちに分かる。したがって、本発明に係るトリスアゾ色素は、より中性的な黒色を再現できるので、インクジェット印刷に特に適している。
【0110】
色素による被覆率を80%にし、空気を含むオゾンに96時間曝した後に、記録用紙1と2について濃度低下を測定した結果を表4に掲載する。
【0111】
【表4】

【0112】
表4中のオゾンによる劣化に対する安定性の測定結果を比較すると、表2に示された本発明に係るトリスアゾ色素を含むインクは、技術水準を示すトリスアゾ色素(II)と比べて、オゾンによる劣化に対する安定性がかなり改善されていることが直ちに分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(IV)と一般式(V)で示されるトリスアゾ色素。
【化1】

【化2】

ここで、Mは、水素原子、金属カチオン、またはアンモニウムカチオンを示していて、前記アンモニウムカチオンは、所望により、1から18個の炭素原子をそれぞれ有する1以上のアルキル基または置換型のアルキル基で置換することができ、
m、nは互いに独立して、0または1であり、
Aは、一般式(VI)または一般式(VII)の何れかで示される基であり、
【化3】

ここで、R、R、R、R、R10は互いに独立して、水素原子、SOM基、NO基、COOM基、CN基、ハロゲン原子、エステル基、1から6個の炭素原子をそれぞれ有するアルキル基またはアルコキシル基、12個までの炭素原子をそれぞれ有する非置換型または置換型のアミドまたはスルホンアミド基を示していて、置換基は、COOM、OH、OCH、NH、Cl、COOCH、およびCOOCHCHからなる群の中から選ばれ、
【化4】

ここで、oは0または1であり、
11、R12、R13、R14は互いに独立して、水素原子、SOM基、NO基、COOM基、ハロゲン原子、エステル基、1から6個の炭素原子を有するアルコキシル基、12個までの炭素原子をそれぞれ有する非置換型または置換型のアミドまたはスルホンアミド基を示していて、置換基は、COOM、OH、OCH、NH、Cl、COOCH、およびCOOCHCHからなる群の中から選ばれ、
Bは、一般式(VIII)または一般式(IX)の何れかで示される基であり、
【化5】

ここで、R、R、R、R、Rは互いに独立して、水素原子、SOM基、NO基、COOM基、CN基、ハロゲン原子、エステル基、1から6個の炭素原子をそれぞれ有するアルキルまたはアルコキシル基、12個までの炭素原子をそれぞれ有する非置換型または置換型のアミドまたはスルホンアミド基を示していて、置換基は、COOM、OH、OCH、NH、Cl、COOCH、およびCOOCHCHからなる群の中から選ばれ、
【化6】

ここで、pは0または1であり、
15、R16、R17、R18は互いに独立して、水素原子、SOM基、NO基、COOM基、ハロゲン原子、エステル基、1から6個の炭素原子を有するアルコキシル基、12個までの炭素原子をそれぞれ有する非置換型または置換型のアミドまたはスルホンアミド基を示していて、置換基は、COOM、OH、OCH、NH、Cl、COOCH、およびCOOCHCHからなる群の中から選ばれる。
【請求項2】
一般式(IV)と一般式(V)で示されるトリスアゾ色素であって、
M、o、およびpは請求項1に定義した通りであり、
、R、R、R、Rは互いに独立して、水素原子、SOM基、NO基、COOM基、CN基、ハロゲン原子、エステル基、1から6個の炭素原子をそれぞれ有するアルキルまたはアルコキシル基を示し、
、R、R、R、R10は互いに独立して、水素原子、SOM基、NO基、COOM基、CN基、ハロゲン原子、エステル基、1から6個の炭素原子をそれぞれ有するアルキルまたはアルコキシル基を示し、
11、R12、R13、R14は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、SOM基、またはCOOM基を示し、
15、R16、R17、R18は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、SOM基、またはCOOM基を示し、
m、nは1である、
ことを特徴とする請求項1に記載のトリスジズアゾ色素。
【請求項3】
一般式(IV)と一般式(V)で示されるトリスアゾ色素であって、
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、M、o、およびpは、請求項1に定義した通りであり、
m、nは1であり、
スルホン酸基が、4位と4’位にある、
ことを特徴とする請求項1に記載のトリスアゾ色素。
【請求項4】
一般式(IV)と一般式(V)で示されるトリスアゾ色素であって、
M、o、およびpは請求項1で定義した通りであり、
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、およびR18は、請求項2で定義した通りであり、
m、nは1であり、
スルホン酸基が、4位と4’位にある、
ことを特徴とする請求項1に記載のトリスアゾ色素。
【請求項5】
一般式(IV)と一般式(V)で示されるトリスアゾ色素であって、
Aは、一般式(VI)で示される基であり、
Bは、一般式(VIII)で示される基である、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のトリスアゾ色素。
【請求項6】
一般式(IV)と一般式(V)で示されるトリスアゾ色素であって、
置換基AとBが同一である、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のトリスアゾ色素。
【請求項7】
請求項1に記載された一般式(IV)で示されるトリスアゾ色素の調製方法であって、
一般式(X)で示されるアミンをジアゾ化し、
【化7】

ここで、nとMは請求項1で定義した通りであり、
次に、pHを約1.0〜3.0の酸性の値に調整して、一般式(XI)で示される化合物と結合させて、一般式(XII)で示される中間体色素を形成し、
【化8】

ここで、mとMは請求項1で定義した通りであり、
【化9】

pHを弱塩基性である約7.0〜9.0に調整して、一般式(XII)で示される中間体色素を、一般式(XIII)で示されるジアゾ化合物、あるいは一般式(XIV)で示されるジアゾ化合物とさらに結合させ、
【化10】

ここで、R、R、R、RおよびRは請求項1で定義した通りであり、Xはジアゾ化中に用いられた酸のアニオンであり、
【化11】

ここで、R15、R16、R17、R18およびpは請求項1で定義した通りであり、Xはジアゾ化中に用いられた酸のアニオンであり、
次に、該ジアゾ化合物を塩基性条件化で加水分解させて、一般式(XV)または一般式(XVI)で示される中間体色素を形成し、
【化12】

【化13】

次に、pHを約5.0〜9.0のほぼ中性の値に調整して、前記中間体色素を、一般式(XVII)または一般式(XVIII)で示されるジアゾ化合物と結合させて、一般式(IV)で示される色素を形成し、
【化14】

ここで、R、R、R、RおよびR10は請求項1で定義した通りであり、Xはジアゾ化中に用いられた酸のアニオンであり、
【化15】

ここで、R11、R12、R13およびR14は請求項1に定義した通りであり、Xはジアゾ化中に用いられた酸のアニオンである、
ことを特徴とするトリスアゾ色素の調製方法。
【請求項8】
請求項1に記載された一般式(V)のトリスアゾ色素の調製方法であって、
一般式(XIX)で示されるアミンをジアゾ化させ、
【化16】

ここで、M、Aおよびnは請求項1で定義した通りであり、
次に、pHを弱塩基性である約7.0〜9.0に調整して、一般式(XX)で示される化合物と結合させ、
【化17】

ここで、M、Bおよびmは請求項1で定義した通りである、
ことを特徴とするトリスアゾ色素の調製方法。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載された黒色トリスアゾ色素または黒色トリスアゾ色素の混合物を適用して、文字情報と画像を記録用紙上に記録し、天然または合成繊維材料、ナノ多孔性材料、皮革およびアルミニウムを染色および印刷するプロセス。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載された少なくとも1種のトリスアゾ色素またはトリスアゾ色素の混合物を含む液体色素調製物。
【請求項11】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載された少なくとも1種のトリスアゾ色素またはトリスアゾ色素の混合物を含むインクジェット印刷用および筆記具用の記録液体。
【請求項12】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載された1種以上のトリスアゾ色素またはトリスアゾ色素の混合物に加えて、1種以上の他の色素をさらに含むインクジェット印刷用および筆記具用の記録液体。

【公開番号】特開2012−132009(P2012−132009A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−280567(P2011−280567)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【出願人】(599085415)イルフォード イメージング スウィツアランド ゲーエムベーハー (13)
【Fターム(参考)】