説明

黒色塗装鋼板、加工品および薄型テレビ用パネル

【課題】良好な曲げ加工性およびプレス加工後の外観を具えた薄膜黒色塗装鋼板を提供する。
【解決手段】亜鉛系めっき層と、該めっき層の上に形成されたクロムを含有しない化成皮膜と、該化成皮膜の上に形成された水酸基価が10KOHmg/g以上のポリエステル樹脂、イミノ基含有メラミン樹脂および含有量5〜15質量%のカーボンブラックを含む着色単一の有機皮膜を有し、該有機皮膜のガラス転移温度(Tg)を40℃以上、膜厚を10μm以下および硬度を200N/mm2以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色塗装鋼板、加工品および薄型テレビ用パネルに関し、特に、曲げ加工性およびプレス加工後の外観に優れ、しかも薄くかつ塗装皮膜の硬度が高い黒色の塗装鋼板に関するものである。
本発明の黒色塗装鋼板は、例えば、液晶テレビやプラズマテレビのような薄型テレビ用パネルに代表される、AV機器などの筐体の素材として好適なものである。
【背景技術】
【0002】
塗装鋼板は、例えば、テレビ用パネル等に成形される際に、プレス加工や曲げ加工が行われるのが一般的であり、曲げ加工性およびプレス加工後の外観が要求されている。通常、プレコート鋼板(塗装鋼板)では、外面側の下塗り塗膜に主として変性ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂を使用することで、下地鋼板との密着性、耐食性などを確保し、さらに、外面側の上塗り塗膜にポリエステル系、アクリル系塗膜などを使用することで、主として耐汚染性、意匠性、耐疵付き性、耐エタノール性および耐塩酸性または耐アルカリ性であるバリア性などを付与する2コート鋼板とすることが一般的である。
さらには、下塗り塗膜と上塗り塗膜の間に、中塗り塗膜を形成した3コート鋼板もある。
【0003】
従来の2コート塗装鋼板は、特許文献1に開示されているように、隠蔽性等の観点から、下塗り塗膜の膜厚が5μm程度、上塗り塗膜の膜厚は、最低でも12μm必要とされ、これら塗膜の総膜厚は、20μm以上とするのが一般的である。しかしながら、20μmもの塗膜を形成するには、塗装や焼付のための時間が長くかかり、また塗膜の膜厚が厚いほど製造コストの点でも不利となるため、塗装作業の合理化や省資源化の観点から塗膜の薄膜化が望まれていた。
【0004】
これに応えるものとして、本発明者らは先に、特許文献2において、塗膜中に樹脂粒子を添加することにより、10μm以下の膜厚でも、曲げ加工性やプレス加工後の外観に優れる塗膜硬度を持つ塗装鋼板を提案した。
【0005】
【特許文献1】特開平4−215873号公報
【特許文献2】特開2007−269010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上掲した特許文献2の技術の開発により、塗装鋼板の塗膜の厚みが10μm以下の塗装鋼板が得られるようになった。
一方、最近では、薄型テレビの人気の高まりとともに、薄型テレビ用パネル等において、有色系、特に黒色の皮膜を有する塗装鋼板に対する要望が高まっている。
【0007】
そこで、本発明者らは、特許文献2に従い、黒色顔料を添加して黒色塗装鋼板の製造を試みたところ、特に厳しいプレス加工を行った時の黒色塗装鋼板の外観に改善の余地を残していることが分かった。
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、良好なプレス加工後の外観を有する黒色塗装鋼板を、その加工品、中でも薄型テレビ用パネルと共に、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため、前記特許文献2に従った薄膜化塗膜の外観劣化の原因について検討した。その結果、プレス加工後の黒色塗装鋼板の外観は、プレス加工中のしわ押さえ圧が49kN(5tf)程度の条件でプレス加工を行った時には、特許文献2の樹脂粒子の効果があり、外観にも問題を生じないが、上記しわ押さえ圧が98kN(10tf)以上となる厳しい条件下では、樹脂粒子の効果が薄れ、バルクの樹脂皮膜自体の硬度が外観を左右することが判明した。
【0009】
そこで、バルクの樹脂皮膜自体の硬度を上げるべく、種々検討を重ねた結果、所定の特性を備えたポリエステル樹脂に、従来、耐溶剤性に効果がある架橋剤として添加されていたメラミン樹脂のうち、特にイミノ基を含有するメラミン樹脂と、カーボンブラックとを同時に添加することにより、バルクの樹脂皮膜の硬度が向上し、しわ押さえ圧が98kN以上となるプレス加工後の外観に優れる黒色塗膜が作製できるとの知見を得た。
本発明は、上記知見に立脚するものである。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)鋼板の両面に形成された亜鉛系めっき層と、前記鋼板の少なくとも一方の面の該めっき層の上に形成されたクロムを含有しない化成皮膜と、該化成皮膜の上に形成された、水酸基価が10KOHmg/g以上のポリエステル樹脂、イミノ基含有メラミン樹脂および含有量5〜15質量%のカーボンブラックを含む着色単一の有機皮膜を有し、かつ該有機皮膜のガラス転移温度(Tg)が40℃以上、膜厚が10μm以下および硬度が200N/mm2以上であることを特徴とする黒色塗装鋼板。
【0011】
(2)前記着色単一の有機皮膜を鋼板の一方の面に施した場合において、前記鋼板の他方の面の最表面に前記化成皮膜または有機樹脂層を有し、該他方の面の導電荷重が500g以下であることを特徴とする上記(1)に記載の黒色塗装鋼板。
【0012】
(3)前記有機樹脂層が、熱吸収性顔料を含むことを特徴とする上記(2)に記載の黒色塗装鋼板。
【0013】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の黒色塗装鋼板に、プレス加工を施して形成してなる加工品。
【0014】
(5)上記(4)において、前記黒色塗装鋼板の着色単一の有機皮膜を具える面が、外部に露出する凸面になるようにプレス加工を施したことを特徴とする薄型テレビ用パネル。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記鋼板上の塗膜である着色単一有機皮膜の架橋剤等の最適化を図ることにより、樹脂粒子の添加を問わず、良好な曲げ加工性およびしわ押さえ圧が98kN以上のプレス加工後の優れた外観を得ることができる。
かくして得られた黒色塗装鋼板は、他方の面をプレス加工したパネルの内面とすると、優れた電磁波シールド性や放熱性が得られ、その加工品、中でも薄型テレビ用パネルとして好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の塗装鋼板の下地鋼板となる亜鉛系めっき層を形成した鋼板としては、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板(例えば、溶融亜鉛−55質量%アルミニウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛−5質量%アルミニウム合金めっき鋼板)、鉄−亜鉛合金めっき鋼板およびニッケル−亜鉛合金めっき鋼板などの各種亜鉛系めっき鋼板を用いることができる。
【0017】
上記した亜鉛系めっき層の上に形成される化成皮膜は、環境保護の観点から、クロムを含有しないものとする。上記化成皮膜は、主としてめっき層と着色単一有機皮膜との密着性向上のために形成される。密着性を向上するものであればどのようなものでも支障はないが、密着性だけでなく耐食性を向上できるものがより好ましい。例えば、密着性と耐食性の点からシリカ微粒子を含有し、耐食性の点からリン酸および/又はリン酸化合物を含有するものが好適である。
シリカ微粒子は湿式シリカおよび乾式シリカのいずれを用いても構わないが、密着性向上効果の大きいシリカ微粒子、特に乾式シリカが含有されることが好ましい。
リン酸やリン酸化合物は、例えばオルトリン酸、ピロリン酸およびポリリン酸など、これらの金属塩や化合物などのうちから選ばれる1種以上を含有すれば良い。さらに、アクリル樹脂などの樹脂、シランカップリング剤などの添加剤を適宜添加しても良い。
【0018】
上記した鋼板の少なくとも一方の面の化成皮膜上に形成する着色単一有機皮膜は、カーボンブラックを5〜15質量%含み、水酸基価が10KOHmg/g以上のポリエステル樹脂とイミノ基含有メラミン樹脂から形成されたもの、つまり上記ポリエステル樹脂が、イミノ基含有メラミン樹脂により架橋された有機皮膜とする。
【0019】
上記の着色単一有機皮膜を構成するポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコールを使用し、上記の水酸基価等の特性を有するための、周知の方法および条件によって製造されたものであれば良く、加熱反応等を行って得られる共重合体である。
多塩基酸成分としては、例えば無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸、マレイン酸、アジピン酸およびフマル酸などを用いることができる。
【0020】
多価アルコールは、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオピンチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチレンプロパンおよびトリメチロールエタンなどを用いることができる。
【0021】
また、市販されているポリエステル樹脂としては、「アルマテックス」(登録商標、三井東圧化学(株)製)、「アルキノール」(商品名、住友バイエルウレタン(株)製)、「デスモフェン」(登録商標、住友バイエルウレタン(株)製)および「バイロン」(登録商標、東洋紡績(株)製)など、いずれもが好適に使用できる。
【0022】
また、前記のポリエステル樹脂の水酸基価は、10KOHmg/g以上とする。水酸基価が10KOHmg/g未満の場合、架橋反応を行う箇所が少なくなるため、耐溶剤性が劣化するとともに、イミノ基含有メラミン樹脂の添加効果が低下する。
上記のポリエステル樹脂の分子量は、数平均分子量で2000以上20000未満が好適である。ポリエステル樹脂の分子量が2000以上の場合、皮膜が硬くなりすぎることがなく、曲げ加工性に優れる皮膜となり、20000未満の場合、架橋密度が充分であるため、イミノ基含有メラミン樹脂の添加効果が向上し、プレス加工後の外観に優れた皮膜となる。さらに好適な数平均分子量は、3000以上10000未満である。
【0023】
化成皮膜の上に形成される単一着色有機皮膜は、皮膜硬度や曲げ加工性、プレス加工後の外観を確保し、また有機溶剤による溶解、変色を低減することを目的として、ポリエステル樹脂が十分に架橋した皮膜であることが重要である。
この十分に架橋した皮膜を作製するために、本発明では、架橋剤としてイミノ基含有メラミン樹脂を使用することが重要で、特に3官能のイミノ基含有メラミン樹脂が好適に使用できる。
イミノ基含有メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとを縮重合して得られるトリメチロールメラミンのメチロール基を、メタノール、エタノールおよびブタノールなどの低級アルコールでエーテル化することにより得ることができる。また必要に応じ、これを数分子縮合したものを用いてもよい。
【0024】
かようなイミノ基含有メラミン樹脂は、一般に市販されているもの、例えば「サイメル」(登録商標、三井サイアナミド社製)325、327、701、703、254等も好適に使用できる。
上記イミノ基含有メラミン樹脂の添加量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して5〜50質量部が好ましい。イミノ基含有メラミン樹脂の添加量がポリエステル樹脂100質量部に対して5質量部以上であると、皮膜が充分硬化し、プレス加工後の外観および耐溶剤性が向上する。また、イミノ基含有メラミン樹脂の添加量が50質量部以下であると、皮膜が硬くなりすぎることがなく、曲げ加工時のクラックの発生もなく、曲げ加工性に優れ、加工後の皮膜の密着性も向上する。
【0025】
単一着色有機皮膜中には、カーボンブラックを5〜15質量%の範囲で含有させることも重要である。カーボンブラックは、イミノ基含有メラミン樹脂を架橋剤として使用した場合、同時に添加することにより、架橋作用を補完する作用が生じる。結果、より強固な架橋となり、皮膜硬度の上昇を実現し、しわ押さえ圧が98kN以上のプレス加工後の外観に優れ、さらには、後の塗装工程の省略が可能となり、生産性の向上にも有利に働き、素地色および素地疵の隠蔽性にも有利に作用する。
ここで、カーボンブラック量が5質量%未満では、上述した効果が得られない。一方、15質量%を超えると、顔料が多すぎるため皮膜が脆化する。
また、イミノ基含有メラミン樹脂とカーボンブラックの組み合わせで、架橋の補完作用が生じる理由については、まだ明確に解明されたわけではないが、皮膜内部にある樹脂分子の網目状組織が緻密になることによるものと推定される。
【0026】
また、着色単一有機皮膜には、目的や用途に応じて、以下の添加物を適量配合することができる。この添加物としては、天然ワックスまたは合成ワックス、p-トルエンスルホン酸、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジウラレートおよび2-エチルヘイソエート鉛などの硬化触媒、その他消泡剤、顔料分散剤および流れ止め剤などである。さらに、軽度のプレス等、プレス加工の条件によっては、有機樹脂粒子や、粒子状アクリル樹脂、ナイロン樹脂等の添加も妨げない。
【0027】
さらに、着色単一有機皮膜には、防錆顔料および防錆剤を併用して配合することもできる。防錆顔料および防錆剤としては、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸アルミ、亜リン酸アルミ、モリブデン酸塩、リン酸モリブデン酸塩、バナジン酸/リン酸混合顔料、シリカおよびカルシウムシリケートと呼ばれるCaを吸着させたタイプのシリカ等の、公知の防錆顔料および防錆剤を使用することができる。
【0028】
上記の着色単一有機皮膜のガラス転移温度(Tg)は、40℃以上とする必要がある。
というのは、ガラス転移温度Tgが40℃未満の場合、皮膜の靭性が低下し、十分なプレス加工性が得られない上、皮膜硬度、加工後の皮膜密着性などの特性も低下するからである。
本発明では、ガラス転移温度は、剛体振り子型物性測定装置を用いて測定する。塗装鋼板の上に置かれた剛体振り子の自由減衰振動における対数減数率と、塗装鋼板の温度の関係が極大を示す温度を、塗装鋼板に密着した塗膜フィルムのガラス転移温度と定義する。従って、本発明のガラス転移温度Tgは、塗膜フリーフィルムのTgとは異なる。
このガラス転移温度Tgは、60℃以上90℃未満の範囲にある場合にさらに好適である。Tgが90℃未満の場合、皮膜が硬くなりすぎることがなく、加工時、皮膜にクラックが入ることがないからである。
【0029】
上記の着色単一有機皮膜の膜厚は、10μm以下とする。というのは、膜厚が10μmを超えると、皮膜形成に長時間が必要となるばかりでなく、プレス加工時に切断端面から脱離する皮膜量が多くなり、製品に付着し外観を損ねるおそれがあるからである。より好ましくは5μm未満である。
一方、上記膜厚は、1μm以上とすることが好ましい。これは、膜厚が1μm以上とすると、当該皮膜の膜厚が均一となり、着色顔料が少ない部分が存在しないため、素地色および素地疵の隠蔽性が十分となり、耐食性の点でも十分となるためである。より好ましくは3μm以上である。
【0030】
上記の着色単一有機皮膜の膜厚は、皮膜を施した鋼板の断面を、光学顕微鏡または電子顕微鏡を用い、1視野につき任意の3箇所、少なくとも5視野、合計15箇所以上測定した膜厚の平均値を算出して、求めることができる。
【0031】
また、上記の着色単一有機皮膜の硬度は、200N/mm2以上とする。これは、塗膜硬度が200N/mm2に満たないと、しわ押さえ圧が、98kN(10tf)以上のプレス加工後の外観が劣るからである。
【0032】
上記の着色単一有機皮膜の塗膜硬度は、フィッシャー硬度計(フィッシャー・インスツルメンツ製)により測定する。具体的には、フィッシャースコープHM2000を用い、ISO EN DIN 14577に規定された方法に従ってマルテンス硬さを求める。
【0033】
本発明の塗装鋼板を、例えば薄型テレビ用パネルとして使用する場合に、プレス加工したパネルの内面となる塗装鋼板のウラ面は、溶接や電磁波シールド等の必要性から、導電性を付与することが好ましい。
かかる場合は、前記鋼板の他方の面上(ウラ面)にも、めっき層の上に、前述したクロムを含有しない化成皮膜または有機樹脂層を形成することで、従来のクロメート皮膜と同程度の耐食性と密着性を確保しつつ、優れた導電性も有することができる。この導電性は、導電荷重を500g以下とすることが、電磁波シールド性の観点で好ましい。さらに好ましいのは、300g以下とすることである。なお、この導電荷重は、表面抵抗が10−4Ω以下となる最小荷重のことである。
【0034】
耐食性の要求度がそれほど高くない用途には、この他方の面は、クロムを含有しない化成皮膜だけを形成し、特に電磁波シールド性に優れた塗装鋼板として提供できる。
耐食性の要求度が高い用途には、上記化成皮膜の上に必要に応じて有機樹脂層を形成することが好ましい。この場合、有機樹脂層としては、エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂等が好適である。また、この有機樹脂層は、Caイオン交換シリカを含有することが、さらに優れた耐食性を得る上で有利である。
【0035】
なお、上記した有機樹脂層を、めっき層の上に直接形成することができる。この場合、有機樹脂層としては、エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂が好適である。
【0036】
放熱性の要求度が高い用途には、上記の化成皮膜の上に、熱吸収性顔料を含む有機樹脂を形成することが有利である。
かような有機樹脂層としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂およびポリエステル樹脂等が例示される。
また、熱吸収性顔料は、特に限定されるものではなく、公知の顔料を用いればよいが、添加することにより積分放射率を上げる必要があるため、カーボンブラック、アニリンブラック、ポリメチレン染料、トリスアゾ染料アミン塩、シアニン染料またはその金属錯体、酸化鉄、酸化珪素およびマグネシウムケイ酸塩が例示される。これら熱吸収性顔料は、単独で添加してもよいが、二種以上組み合わせてもよい。
なお、積分放射率とは、4.5〜25μmの波長領域において、表面の分光反射率(R)を同温度の黒体放射を1(100%)として相対的に表し、波長範囲で積分したものである。
熱吸収性顔料の有機樹脂に対する添加量としては、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。これは、0.1質量%以上で熱吸収効果が十分に得られ、20質量%以下とすると皮膜の耐食性が劣化することがないためである。
【0037】
本発明の塗装鋼板は、プレス加工された後、電磁波シールド性や放熱性が要求される電子機器および家電製品等の用途で使用される部材に好適である。例えば、プラズマディスプレイパネルや液晶テレビなどの薄型TVの筐体、背面カバー、バックライトシャーシおよび構造部材に使用するのに適している。
また、本発明の塗装鋼板は、前記着色単一有機皮膜を具える面が外部に露出する凸面になるようにプレス加工された場合、電磁波シールド性や放熱性が要求される電子機器および家電製品等の用途で使用される部材、ならびに外部に露出する面の意匠性が必要な部位にも使用することができ、例えばプラズマディスプレイパネルや液晶テレビなどの背面パネルに使用するのに適している。
【実施例1】
【0038】
次に、本発明の実施例について説明する。
塗装用亜鉛系めっき鋼板として、各々板厚:0.5mmの電気亜鉛めっき鋼板(めっき種記号;EG)、溶融亜鉛めっき鋼板(めっき種記号;GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(Fe含有量:10質量%、めっき種記号;GA)、溶融Zn-Alめっき鋼板(Al含有量:4.5質量%、めっき種記号GF)および溶融Zn-Alめっき鋼板(Al含有量:55質量%、めっき種記号GL)を準備した。
【0039】
各めっき鋼板の片面当たりめっき付着量(g/m2)を表1に示す。なお、鋼板の一方の面(オモテ面)と他方の面(ウラ面)のめっき付着量およびめっき組成は同一とした。前記亜鉛系めっき鋼板に脱脂処理を行った後、以下の(i)および(ii)の処理を行い、サンプルとなる塗装鋼板を作製した。
【0040】
(i) オモテ面に、所定の化成処理薬剤をバーコーターにて塗布し乾燥させた後に、必要に応じてウラ面に、前記オモテ面と同じかまたは異なる化成処理薬剤を塗布し、その後、加熱10秒後に到達板温が100℃となるような加熱処理を行い、表1に示す組成、膜厚の化成皮膜をオモテ面およびウラ面に形成した。
なお、オモテ面およびウラ面に形成した化成皮膜の組成については、別途表3に示す。
【0041】
(ii) その後、オモテ面に着色単一有機皮膜として、ポリエステル樹脂、イミノ基含有メラミン樹脂、カーボンブラックを含有する着色単一有機皮膜用塗料(含有量は表1参照)を、表1に示す乾燥膜厚となるように塗布した後、必要に応じてウラ面に表1(ウラ面の有機樹脂層の添加剤種にあっては表4)に示す組成の有機樹脂塗料を塗布し、その後、加熱開始から20秒後に到達板温が190℃となるように加熱処理を行い、オモテ面の着色単一有機皮膜および/又はウラ面の有機樹脂層を形成した。
【0042】
かくして得られた各黒色塗装鋼板について、以下に示す性質を調査した。
得られた結果を表2に示す。
本試験での皮膜硬度を、前記フィッシャースコープHM2000で測定したところ、発明例の皮膜硬度は、表1に示されているとおり、いずれも200N/mm2以上であることが確認できた。
【0043】
<オモテ面の評価>
曲げ加工性
前記曲げ加工性は、JIS Z2248-1996に準拠し、前記塗装鋼板を、縦:60mm、横:30mmの大きさに切り出した試験片に、前記塗装鋼板を室温で180°に折り曲げる、いわゆる、0T曲げをしたときの曲げ加工部の頭頂部を目視で観察した。評価は以下の基準に従って行った。
○:有機皮膜の割れが観察されない
×:有機皮膜の割れが観察される
【0044】
プレス加工後の外観
上記各塗装鋼板を、ブランク径:100mm、ポンチ径:50mm、ポンチ肩:4mmR、ダイ径:70mm、ダイ肩:4mmRおよび成形高さ:18mmの条件で、しわ押さえ圧は49kN(5tf)および98kN(10tf)の2水準とし、オモテ面がポンチ側となるように円錐台成形を行い、側壁部の塗膜の外観を、目視により観察し、以下の基準に従って評価した。
◎:損傷による外観の変化は発生せず
○:若干の損傷による外観の変化が認められた
×:損傷が多数発生し、外観の変化が著しかった
【0045】
素地隠蔽性
素地隠蔽性は、化成皮膜形成前の前記めっき鋼板のオモテ面を、先端が金属のペンで疵をつけた後、前記した塗膜形成の処理工程を行って各塗装鋼板を作製し、オモテ面を目視で観察した。評価は以下の基準に従って評価した。
○:傷が分からない
×:傷が明瞭に分かる
【0046】
耐溶剤性
上記塗装鋼板の有機皮膜のオモテ面に対し、エタノールラビング試験を4.9N(0.5kgf)の荷重で10回行い、エタノールラビング試験前後のL値(明度)の変動幅(ΔL)を測定し、以下の基準に従って評価した。
◎:ΔLが1以下
○:ΔLが1超え、2以下の範囲
×:ΔLが2超え
【0047】
耐食性
上記各サンプルから、試験片(大きさ:100mm×50mm)を切り出し、試験片の端部およびウラ面をテープシールした後、JIS Z 2371-2000に準拠して、5質量%塩水を35℃で8時間噴霧した後、16時間休止する工程を1サイクルとし、これを3サイクル行った後の、皮膜表面外観の変化を評価した。評価は以下の基準に従って行った。
◎:表面に変化なし
○:表面に若干の発錆がある
×:表面に多数の発錆がある
【0048】
<ウラ面の評価>
(6)導電性
低抵抗測定装置(ロレスタGP、登録商標;三菱化学(株)製:ESPプローブ)を用い、各サンプルのウラ面の表面抵抗値を測定した。そのとき、プローブ先端にかかる荷重を20g/sで増加させ、表面抵抗値が10-4Ω以下になった時の荷重値で以下のように評価した。
◎:10点測定の平均荷重が300g以下
○:10点測定の平均荷重が300g超え500g以下
△:10点測定の平均荷重が500g超え700g以下
×:10点測定の平均荷重が700g超
【0049】
(7)湿潤耐食性
ウラ面に純水を200g/cm2含有させた黒色フェルトを接触させ、29.42kPa(300gf/cm2)の荷重をかけて、温度:20℃、相対湿度:60%の環境で48h静置後の、外観変化を評価した。評価は以下の基準で行った。
◎:表面に変化なし
○:表面に若干の発錆がある
×:表面に多数の発錆がある
【0050】
(8)放熱性
各サンプル100℃における分光放射率を、波長:4.5〜25μmの範囲で測定し同温度の黒体放射を1(100%)として相対的にあらわした。同波長範囲で分光放射率値を積分し、積分放射率を算出し、以下の基準で評価した。
◎:0.7以上
○:0.4以上0.7未満
×:0.4未満
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
表2に示すとおり、本発明に従う着色単一有機皮膜を具える黒色塗装鋼板は、いずれも、樹脂粒子の添加に依らず、曲げ加工性、プレス加工後の外観、素地隠蔽性、耐溶剤性および耐食性について優れた効果があることが分かる(オモテ面)。
また、他方の面(ウラ面)は、十分に満足のいく導電性と湿潤耐食性を有していた。特に、当該実施例2、7および9では、良好な放熱性が併せて得られている。この結果は、実施例2および9のウラ面めっき層の放射率が高いこと、実施例7および9のウラ面有機樹脂層中に熱吸収性顔料を含んでいることの効果を示している。さらに、実施例9は、めっき層および熱吸収性顔料の相乗効果が見られる。
これに対し、比較例は、プレス加工後の外観、特にしわ押さえ圧98kN(10tf)の時の外観、曲げ加工性、素地隠蔽性、耐溶剤性および耐食性それぞれの点で、十分とはいえなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、膜厚が10μm以下と薄い着色単一の皮膜を有し、曲げ加工性およびプレス後の外観に優れた黒色塗装鋼板を安定して得ることができ、かかる黒色塗装鋼板は、特に薄型テレビ用パネル等に供して好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の両面に形成された亜鉛系めっき層と、前記鋼板の少なくとも一方の面の該めっき層の上に形成されたクロムを含有しない化成皮膜と、該化成皮膜の上に形成された、水酸基価が10KOHmg/g以上のポリエステル樹脂、イミノ基含有メラミン樹脂および含有量5〜15質量%のカーボンブラックを含む着色単一の有機皮膜を有し、かつ該有機皮膜のガラス転移温度(Tg)が40℃以上、膜厚が10μm以下および硬度が200N/mm2以上であることを特徴とする黒色塗装鋼板。
【請求項2】
前記着色単一の有機皮膜を鋼板の一方の面に施した場合において、前記鋼板の他方の面の最表面に前記化成皮膜または有機樹脂層を有し、該他方の面の導電荷重が500g以下であることを特徴とする請求項1記載の黒色塗装鋼板。
【請求項3】
前記有機樹脂層が、熱吸収性顔料を含むことを特徴とする請求項2記載の黒色塗装鋼板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の黒色塗装鋼板に、プレス加工を施して形成してなる加工品。
【請求項5】
請求項4において、前記黒色塗装鋼板の着色単一の有機皮膜を具える面が、外部に露出する凸面になるようにプレス加工を施したことを特徴とする薄型テレビ用パネル。

【公開番号】特開2010−65254(P2010−65254A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231225(P2008−231225)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】