黒色天然皮革
【課題】長時間にわたる赤外線の照射下でも温度が上昇しにくい黒色天然皮革の提供。
【解決手段】特定の黒色アゾ系酸性染料により天然皮革を染色した天然皮革であり、黒色染料が(1)SELLA_SET_BLACK_BR、(2)SELLA_SET_BLACK_BR、LURAZOL_SN、及びENIVEL_NT、SELLA_COOL_BLACK、(3)(3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩)、(4)SELLA_FAST_BLACK_FNから選ばれるいずれかであり、顔料としてペリレン系顔料、又は少なくとも3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料含む塗膜層を有する天然皮革である。
【解決手段】特定の黒色アゾ系酸性染料により天然皮革を染色した天然皮革であり、黒色染料が(1)SELLA_SET_BLACK_BR、(2)SELLA_SET_BLACK_BR、LURAZOL_SN、及びENIVEL_NT、SELLA_COOL_BLACK、(3)(3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩)、(4)SELLA_FAST_BLACK_FNから選ばれるいずれかであり、顔料としてペリレン系顔料、又は少なくとも3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料含む塗膜層を有する天然皮革である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は黒色天然皮革(直射日光に照射された条件に晒されても温度が上昇しにくい黒色の天然皮革であり、黒色に染められた天然皮革)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然皮革は多孔性で空隙も多く、比熱が大であり、熱伝導率も小さく、熱などに対処するため、又、手触り等の感触がよく、見た目にも優れるなどの点から、加熱されやすい環境下で用いられる温度上昇を防止する材料としては最も優れている(非特許文献1 新版皮革化学、平成4年11月25日 日本皮革協会発行、第227頁「2.4熱的性質」の項)。耐熱性に関してはクロムなめの牛革においては77から120℃、ジルコニウムなめしの牛皮75〜97℃であり、植物タンニンなめしで70から89℃、グルタルアルデヒドなめしで65から85℃とされている。天然皮革の場合には熱変性温度は水分量変化に伴って変化する。水分含有量が少ない場合には変性温度が120℃を超えることも既に知られている(非特許文献2 皮革ハンドブック2005年1月30日 日本皮革技術協会編集、樹芸書房発行98〜101頁)。また、合成皮革を構成する合成樹脂は軟化すること、溶融すること、そして火源を取除いても燃焼は続行して燃え尽きることの問題点が指摘されている。
一方、天然皮革は軟化しないこと、120℃程度で収縮するなどが挙げられ、燃焼性ではなく、軟化点や融点も存在しない特徴がある(前掲書 同頁)。
以上のことを考えると、天然皮革は安全性及び快適性を追及する自動車の内部に用いる材料としては最高の材料であるということができる。
【0003】
天然皮革であっても自動車内などで太陽光に晒された場合には天然皮革の温度は上昇し、白煙などの発生が生ずることがある。天然皮革表面など存在す染料や顔料により、日光が遮断されることなく天然皮革の表面や内部に入り込み、熱を吸収する結果であると考えられる。天然皮革の内部に光が入り込むことを防止するためには、天然皮革の表面や又はその表面に覆いを設置し、これらに直射日光の通過を遮断する物質を配置し、その物質により熱を反射するようにすることなどが一般的に考えられる。しかしながら、このような対策では十分な効果を期待できないことを日常感じているところである。
【0004】
従来、天然皮革の色付けを行う場合には、染料を用いる。天然皮革中に染料を閉じ込め、その結果、天然皮革を染料により均一に染め上げて目的とする色を出す。皮革の着色には染色加脂工程で染料による染色が行われ、後に仕上げ工程で染料と顔料を用いられる(非特許文献3 染料便覧 昭和45年7月20日 社団法人有機化学協会編集、株式会社丸善株式会社発行 248頁)。
天然皮革を染料により染色する場合には、表面だけではなく、組織内部まで染料が入り込ませることができる。断面部分が外側から見える場合であっても、内側の組織まで染色されるので、全体が染色されているように見え、見栄えがする。その結果、シート、インストルメントパネル、ステアリングホイールやノブを被覆する天然皮革では、断面部分が外側から見える場合でも、見た目には良好な印象を与えることが可能となる。
天然皮革を皮革用顔料で着色することも行われる。顔料は塗料の形態で用いられる。仕上げ工程において皮革銀面を塗料のようして着色される。顔料はその粒径サイズが染料に比較して大きく、皮革内面に入り込むことはない。 したがって、顔料を用いることにより、顔料は銀面を着色すると共に、光沢、なめらかさ、耐水性、耐摩耗性などの価値を高めるための重要な工程とされている(非特許文献3 前掲書251頁)。太陽光照射によっては、耐久性の低下を起こし、染料の色調は変化しやすい。この場合に顔料を併用していると、退色は比べて著しく少なくすることができる。
光反射による光学特性はつや、光沢、色の濃淡の深み、模様などから、皮革らしさや美しさを表現する上で重要視されてきた。皮革表面にコート層を形成する場合にはベースコート層や中間コート層に顔料を添加して層の形成を行うことが一般的である(非特許文献2 86〜87頁)。
【0005】
黒色に染色された天然皮革は、高級感があることにより人気が高い。しかしながら、前記のようにして製造してきた黒色の皮革は、長い時間、高温条件下に、さらされていると、他の色の場合より一層高温となる。このことから、革の温度が上昇しにくい黒色加工を施した革を必要とする要望は極めて高い。
皮革を黒色とするためにカーボンブラックを用いてきた。
しかしながら、カーボンブラックを用いることは赤外線吸収しやすくなる結果、温度上昇を避けることができないと本発明者らは考えた。このカーボンブラックの使用をやめて、皮革を黒色に染め上げるために温度上昇とならない黒色染料を定めることが必要であること、又、同時に温度上昇につながれない顔料を定めることが必要であると考えた。
【0006】
本発明の解決すべき課題は、天然皮革を黒色に染色をする場合には、温度上昇につながらない黒色染料を選択して染色し、同時に温度上昇につながらない顔料をあわせて用いることが有効であるとの考えの下に、天然皮革を従来用いられていない黒色染料で染色した新規な黒色天然皮革、従来コーティング層として用いられていない顔料による新規なコーティング層及び前記天然皮革の表面にコーティング層を形成している新規な黒色天然皮革であり、温度上昇を防止することができる新規な天然黒色皮革を提供することである。
【0007】
黒色とした天然皮革の温度上昇を避けるうえで、染料を用いることなく、又、カーボンブラックを用いることを止めて、顔料を用いることにより温度上昇を阻止できるとする発明がある(特許文献1 特開2001−187574号公報、特許文献2 特開2001−113975号公報、特許文献3 特開2001−122044号公報)。特許文献1の0051では天然皮革を対象とする場合にはペリレン系顔料を使用することを述べている。特許文献2及び3ではペリレン系顔料を赤外線反射顔料として用いており、BASF社のPaliogen Black(登録商標) L0084が記載されている。しかしながら、天然皮革を黒色に染め上げるうえで、染料を用いずに顔料のみを用いて黒色に染色することは基本的に無理がある。この点を克服する必要がある。
【0008】
皮革の適当な温度調節を達成することを意図して、相変換物質(phase changing materials)(PCM‘s、英語の頭文字より)を含むビーズを用いる(特許文献4 米国特許第6,179,879号明細書)の発明では、皮革はそれでもかなりの高温を示し、自動車内の部品が加熱された場合に要求される快適性を示すことはないとされる。
米国特許第6,194,484号明細書(特許文献5)では、0.7〜2.5μmの赤外範囲付近の吸収が、0.07において10%、0.5μmにおいて50%増加する一方、0.35〜0.7μmの範囲の可視光線を80%まで反射する能力を有する色素または粒子を望ましいとする。8〜14μmの範囲における放射は一般的に90%減少する。しかし、太陽照射の最大エネルギーは1μm付近であるため、この範囲のエネルギー吸収は、温度的に快適な基層(substratum)の表面には望ましくないものとされる。
特開2005−526878号公報(特許文献6)では、有機着色剤として、有機金属化合物やナフタレン誘導体などの高赤外線吸着能を有する化合物を全く含まないアゾ基を有するアニリン誘導体を使用する(0028から0030)。
赤外線に対して高い反射能を有する物質は、高赤外線反射能を有する着色剤または色素から選択され、好ましくは波長間隔750〜2500nmでの反射率が40%以上で、さらに好ましくは有機または無機の着色剤または色素より選択される。
本発明で言う低熱吸着能を有する物質は、積層体表面から20cmで垂直に設置された250ワットの赤外線ランプにより照射された後、一時間で最高温度として80℃に達する。一方、従来技術の積層体は130℃まで達し、それにより積層体の分子構造、外観および機械的特性が影響されると述べる。有機着色剤として、有機金属化合物やナフタレン誘導体などの高赤外線吸着能を有する化合物を全く含まないアゾ基を有するアニリン誘導体、好ましくはスクアリウム、ペンタメチンシアニンナフトキノンおよびナフタロシアニンを全く含まず、特定の構造式の物質を述べているが、反射率が40%以上とするもののその上限は明確にされず、具体的な染料物質として特定されているものではない。以上のことから、長時間にわたり赤外線などの照射されている条件下に赤外線反射率が具体的に40%程度以上とする染料が皮革の染料として用いられる酸性染料として明確にされているものはない。
赤外線照射条件下に天然皮革の温度が上昇しにくい黒色加工を施した天然皮革は依然として未解決であり、その解決が早急に求められている。
【0009】
合成繊維極細糸よりなる立毛繊維基材に、着色ポリウレタンを含浸させ、湿式凝固処理後毛羽露出処理をして、着色スエード調合成皮革を製造するに際し、該着色ポリウレタンの着色成分の一部として、900nmから1500nmの波長範囲の近赤外線反射率が、60%以上の黒色顔料を用い、得られる合成皮革の近赤外線反射率を60%以上にする発明がある。ペリレン顔料及びアゾメチン顔料が好ましいとする(特許文献7 特開平5−321159号公報)。又、キノン系、ペリレン系、アゾメチンアゾ系等の有機顔料の黒色顔料であって上記を満足するものが好ましい(特許文献8 特開平7−42084号公報)。
ポリウレタンからなる染色されたスエード調人工皮革において、ポリウレタンが黄色系顔料、赤色系顔料、青色系顔料の少なくとも1種ずつ含み、(1)850nmにおける赤外線反射率が60%以上、(2)光照射時の表面温度が105℃以下、(3)耐光堅牢度が3級以上を満たす人工皮革(特許文献9 特開2004−52120号公報、特許文献10 特開2003−253572号公報、特開2004−52120号公報、特許文献11 特開2002−327377号公報)がある。
少なくともシートの片面が、マンセル値で表される明度が0〜8.0、彩度が0〜1.0であり、かつ、800〜1300nmの範囲内の波長領域における赤外線反射率が20〜80%の範囲内である部分を有するとともに、該赤外線反射率が20〜80%の範囲内である部分が、面積比で50%以上であることを特徴とする赤外線偽装シート(特許文献12 特許第4032715号明細書)が知られている。
シート基材上に、貫通孔を有する着色樹脂層を有する着色シート材(特許文献13 特開2008―87167号公報)は着色樹脂層に顔料を用いることを述べている。
これらは、いずれも赤外線反射性材料として顔料を用いる。顔料を用いて天然皮革を黒色に染色するうえでは十分ではない。天然皮革を黒色に染色するうえでは、黒色染料を用いることが必要であり、したがって、顔料による赤外線反射率を示すことにより、天然皮革を黒色に染色することを示す具体例とはならない。
【0010】
合成樹脂布帛の分野では、染料を使用する赤外線吸収性物質を利用する発明がある(特許文献14 特開平5−222682号公報、特許第3094130号明細書)。この発明では酸性染料、金属錯塩染料、反応性染料が用いられる。黒色染料にはCI acid Black 132、194、112、58、170、222などが例示されているが、CI acid Black 112は10%(図1、本明細書中図13で表示)であり、CI acid Black 132の場合でも60%に到達せず(図2、本明細書中図14で表示)、CI acid Black 58の場合でも20%に到達しない(図3、本明細書中図15で表示)。黒色染料は一般に黒色染料の赤外線反射率は低いということが示されている。
硫化物および還元剤を含まず、且つ硫黄の二重結合をもたない硫化染料を用いて無地染めしたポリアミド繊維、セルロース繊維のうち少なくとも一つ以上を織編物に均一に分布させたポリエステル繊維からなる織編物にあっては、600〜1300nmの赤外線波長領域にわたって70%以下の赤外線反射率を示すことを特徴とする吸光蓄熱性織編物(特許文献15 特開2007−046175号公報)の発明では、染料を用いるものの70%以下であり、硫化染料はもともと天然皮革には用いられておらず、天然皮革に用いて高い赤外線反射率を期待できるというものではない(特許文献16特開2007−046175号公報)。
又、綿系編物に建染染料を用いた染色により600〜1200nmの赤外線波長領域において600〜660nmで5〜18%、700〜720nmで18〜45%、740〜760nmで30〜65%、1000〜1200nmで54〜66%の赤外線反射率を示す迷彩加工を施すことを特徴とする迷彩綿系編物の製造方法(特許文献17特許3424134号明細書)では、建染染料としては、例えば、 CI Vat Yellow 2 CI Vat Yellow 48 CI Vat Red 10 CI Vat Orange 9 CI Vat Orange 2 CI Vat Blue 66 CI Vat Blue 14 CI Vat Blue 25 CI Vat Green 1 CI Vat Green 13 CI Vat Brown 1 CI Vat Black 19等が望ましいとする。赤外線反射率が格別高いというものではないし、天然皮革に用いられる染料でもない。
したがって、これらのことが知られているからといって天然皮革の染色用の染料に用いることができることを示しているものでもない。
近赤外線領域の吸収が黒色染料よりも高い特性を持つ染料と他の染料を組み合わせて染色する事により、太陽光または加熱ランプを照射した時に生地の温度上昇が黒色染色品より早くなる近赤外線吸収加工方法(特許文献18 特開平9−291463号公報)では、近赤外線吸収の程度としては、750から1500nmの範囲内で生地の分光反射率が、65%以下のもので、特に750から900nmの反射率が50%以下であるものが望ましいとする。直接染料、反応染料、ナフトール染料、バット染料の中から選定できるが、特に、バット染料の一部のものが効果的である。赤外線反射率が格別高いというものではないし、天然皮革に用いられる染料でもない。
これらのことが知られているからといって天然皮革の染色用の染料に用いることができることを示しているものでもない。なお、黒色染料とは、セルロース用黒色染料として従来から代表的に使用されている、例えば、反応染料レマゾール ブラックB(ReactiveBlack 5)(ヘキスト社製)等をいうとするものの、これは赤外線を吸収する上で良好とするものであり、温度が上昇する場合を述べるものである。
【特許文献1】特開2001−187574号公報
【特許文献2】特開2001−113975号公報
【特許文献3】特開2001−122044号公報
【特許文献4】米国特許第6,179,879号明細書
【特許文献5】米国特許第6,194,484 号明細書
【特許文献6】特開2005−526878号公報
【特許文献7】特開平5−321159号公報
【特許文献8】特開平7−42084号公報
【特許文献9】特開2004−52120号公報
【特許文献10】特開2003−253572号公報
【特許文献11】特開2002−327377号公報
【特許文献12】特許第4032715号明細書
【特許文献13】特開2002−327377号公報
【特許文献14】特開平5−222682号公報、特許第3094130号明細書
【特許文献15】特開2007−046175号公報
【特許文献16】特開2007−046175号公報
【特許文献17】特許3424134号明細書
【特許文献18】特開平9−291463号公報
【非特許文献1】新版皮革化学、平成4年11月25日 日本皮革協会発行、第227頁「2.4熱的性質」の項
【非特許文献2】皮革ハンドブック2005年1月30日 日本皮革技術協会編集、樹芸書房発行98〜101頁
【非特許文献3】染料便覧 昭和45年7月20日 社団法人有機化学協会編集、株式会社丸善株式会社発行 248頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、天然皮革を従来用いられていない黒色染料で染色した新規な天然皮革、従来コーティング層として用いられていない顔料による新規なコーティング層及び前記天然皮革の表面にコーティング層を形成している新規な天然皮革であり、温度上昇を防止することができる新規な天然皮革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1) 本発明者らは、前記課題で述べる黒色の天然皮革では赤外線反射率が高く、また長時間、赤外線照射下にさらされている条件下でも温度が上昇しにくい天然皮革であることを見出して、発明を完成させた。
(イ)(1)SELLASET BLACK BR(商品名)又は(2)SELLASET BLACK BR(商品名)、LURAZOL SN(商品名)及びENIAVEL NT(商品名)の混合物から選ばれる黒色アゾ系酸性染料により染色された天然皮革であり、その赤外線反射率が700nmで0.3を超え、800nmでは0.5を超え、1000nmでは0.6を超え、1200nmでは0.8を超えた後に以後1600nmまで0.7を超えている天然皮革。この結果からわかるように、これらは赤外線反射率が高い染料である。
(ロ)SELLA FAST BLACK FN(商品名)(黒色アゾ系酸性染料)により染色された天然皮革であり、染色するに先立ちグルタルアルデヒドによりなめしが行われ、さらに再なめし剤による再なめしされている黒色天然皮革。
(ハ)3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ)−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩である黒色アゾ系酸性染料により染色された黒色天然皮革であり、その赤外線反射率が700nmで0.2を超え、800nmでは0.8を超え、1000nmでは0.9を超え、1200nmでは0.9を超えた後に以後1400nmまで0.9を超え、1500nmでは0.85を超え、1600nmでは0.92を超えている天然皮革。この結果からわかるように、これらは赤外線反射率が高い染料である。
(ニ)ポリウレタン樹脂を含有する下塗り層、中塗り層及びトップコート層の少なくとも一層に、少なくとも3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料、又はペリレン顔料により形成される黒色としての役割をはたす顔料を含むコーティング層からなることを特徴とする天然皮革の表面に設けられるコーティング層とすることにより、高度に赤外線反射率を高めることができるコーティング層を得ることができる。
(ホ)(イ)若しくは(ロ)又は(ハ)記載の天然皮革の表面に前記(ニ)記載の天然皮革の表面に設けられるコーティング層を形成することにより得られる天然皮革は、天然皮革及び天然皮革の表面に設けられるコーティング層いずれもが赤外線反射率が高い染料及び顔料を用いていることにより、赤外線の照射下にさらされる条件下でも温度が上昇しにくい新規な天然皮革を得ることができる。
(ヘ)次に、前記(ホ)により得られる天然皮革は、150W白熱灯を点灯し、天然皮革の表面温度を経時的に測定すると、180分経過後も87℃又は91℃((1)のイの天然皮革に混色顔料又はペリレン顔料を、塗膜層に用いた場合)、180分経過後も50℃((1)のロの天然皮革に混色顔料を塗膜層に用いた場合)、同じく91℃及び87℃((2)の天然皮革に混色顔料又はペリレン顔料を、塗膜層に用いた場合)、180分経過後も74℃又は65℃を維持しており((3)の天然皮革に混色顔料又はペリレン顔料を、塗膜層に用いた場合)被加熱温度を一定の温度に維持できることを見出した。
これは、従来用いられていない黒色染料及び黒色顔料を用いて製造される天然皮革であり、長時間にわたる赤外線の照射下にさらされる条件下でも温度が上昇しにくい新規な天然皮革であるということができる。
自動車用内装部品に関し、輻射熱による加熱条件下に置かれたとしても従来見られたように白煙を挙げて使用に困難をきたすことを防止して被加熱温度を一定の温度に維持できるということ結果となっている。日光などの赤外線を含む輻射熱の影響下であっても、時間が経過しても一定の温度条件に保つことができ、温度上昇が継続、続行することはないことである。自動車内の熱交換を十分に行うことができるのであれば、車内の温度上昇を阻止することができることを意味している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定の染料により天然皮革を染色して得られる黒色天然皮革は、赤外線反射率が高い。又、この黒色天然皮革の表面に形成するコーティング層には高度に赤外線反射率を高めることができる顔料を存在させることにより、赤外線反射率が高い天然皮革用のコーティング層を得ることができる。
前記黒色天然皮革の表面に前記コーティング層を設置して得られた天然皮革は、150W白熱灯を点灯し、天然皮革の表面温度を経時的に測定すると、180分経過後も一定温度を維持することができるので、天然皮革に赤外線が入り込む環境下に使用されているばあいであっても温度上昇が一定に抑制される結果となる。赤外線照射環境下にあっても十分に使用することに耐える天然皮革を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明により得られる黒色天然皮革は以下の天然皮革である。
[1](1)(イ)SELLASET BLACK BR、又は(2)SELLASET BLACK BR(商品名)、LURAZOL SN(商品名)及びENIAVEL NT(商品名)の混合物から選ばれる黒色アゾ系酸性染料により染色された黒色天然皮革(いずれもなめし剤としてクロムなめしを用いるもの)であり、後で述べる赤外線反射率の測定手段により赤外線反射率を実測した結果から、赤外線反射率が700nmで0.3を超え、800nmでは0.5を超え、1000nmでは0.6を超え、1200nmでは0.8を超えた後に以後1600nmまで0.7を超えている黒色天然皮革である。これら天然皮革の赤外線反射率の測定結果は各々図1、又は図5に示されるとおりである。
[2]SELLAFAST BLACK FN(商品名)を用いて染色するに先立ちグルタルアルデヒドによりなめしが行われ、さらに再なめし剤による再なめしされている黒色天然皮革の場合にも、赤外線反射率は高い結果となる。
【0015】
[3]3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ)−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩である黒色染料により染色された黒色天然皮革であり、後で述べる赤外線反射率の測定手段により赤外線反射率を実測した結果から、その赤外線反射率が700nmで0.2を超え、800nmでは0.8を超え、1000nmでは0.9を超え、1200nmでは0.9を超えた後に以後1400nmまで0.9を超え、1500nmでは0.85を超え、1600nmでは0.92を超えている然皮革である。
これら天然皮革の赤外線反射率の測定結果は各々図9に示される通りである。
図9の結果から明らかなように、従来から見られる赤外線反射率よりも最も高い結果を得ていることがわかる。
【0016】
上記染料の内のSELLASET BLACK BRはTFLの製品名、 LURAZOL SNはBASFの製品名、 ENIAVEL NTはダイナテックの製品名である。
SELLAFAST BLACK FNは、
TFL Ledertechnik Gmbhの製品名である(同社のマテリアル セフティデータ シートによる(2005年6月1日発行(2005年5月31日改定))。
又、3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ)−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(CAS登録番号:70210−06−9、分子量673.670:セラクールブラック:商品名、企業名TFL社 同社のマテリアル セフティデータ シート、2002年2月1日発行、2007.10.29印刷による2006.1.30更新版による。)
【0017】
前記染色工程は、再なめし工程を経て得られる革を対象にして前記染料を用いて染色を行うものである。酸性水性染料を用いて染色される。酸性水性染料は、水性媒体、染料等の成分により構成される。水性媒体とは、水及び水とアルコール等の水溶性溶媒との混合物を意味する。
【0018】
染料を含む組成物は、比較的強酸側(pH=3から4)であり、革重量基準で、水250%、前記染料2.5から4%、アニオン界面活性剤からなる均染剤0.5%からなる水溶性組成物として供給される。
処理温度は50℃程度である。1時間程度ドラム内処理する。
染色工程終了後、ギ酸1%(革に対する重量%)により染料の定着処理を行う。
染色の際の処方は、甲革用表面染色にあたっては厚さ1.4mm程度のクロムなめし成牛革に対する染色は以下の通りである。
再なめし後、400%(シェービング革重量基準、以下同様)の水で水洗し、染色の際には、250%の水(50℃)、0.5%の均染剤、2.5%表面染色性染料(1:20)の水溶液中で処理する。1/2工程を20分回転,残り1/2工程を30回転処理する。定着操作は1%蟻酸(1:10)で、2/3工程を10分間回転、1/3を10分間回転操作する。
革の湿重量に対して、前記アゾ系酸性染料は、2.5重量%〜3.5重量%を用いる。この範囲であれば天然皮革を染め付けるための染料として十分であり、更に表面層を通して入り込む赤外線を入り込むことを防止することができる。
【0019】
このようにして得られる天然皮革では、赤外線反射率が実際に高い結果となるかということを、以下の測定方法により確認した。
皮革サンプルの赤外線反射率の測定は、可視光域(400〜900nm)についてFiberspecマルチチャンネル分光器S-2650、近赤外光域(900〜1600nm)についてはFastevertマルチチャンネル分光器S-2700(いずれも相馬光学株式会社製)を用いて、入射光と反射光の分光の波長分布を調べる。
皮革サンプルに、光ファイバー端から白色光を照射し、反射光を照射と同一方向の反射光を光ファイバーで受けて分光して測定する。 相対反射率は、白色拡散反射標準板(エドモンドオプティクス社)の反射を1として算出する。
前記の染料を用いて染色した天然皮革の赤外線反射率の状態を調べた結果は、前記の図1、図5及び図9の通りである。
【0020】
上記染色の対象となった天然皮革は、(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)「なめし」工程、(3)「再なめし」工程の中の、なめし工程より得られた革を、合成なめし及び樹脂からなる再なめし剤を用いて再なめしを行うことにより得られる天然皮革である。以下に、それまでの工程の説明を行う。
【0021】
(1)皮なめしを行う前の前処理及びなめし工程は、原皮水洗・水漬け工程から始め、トリミング工程にいたる工程に含まれる工程である(図16)。
原皮水洗・水漬け工程では、低温貯蔵されて鮮度保持・腐敗防止された原皮が石灰ドラムに移され、塩漬け原皮を水戻しして生皮の状態に戻し、塩・不純物を除去し、石灰漬けのためのpH調整を行う。
フレッシング・トリミング工程では、フレッシングマシン、トリミングマシンに移され、脂肪等の余分な裏ニベを機械的に除去し、塩や不純物も除去され、縁周りを整形する。石灰漬け工程では、石灰ドラムに移され、皮表面の毛を溶解すると共に垢をとり、皮の内部に石灰を浸透させて繊維をほぐす。
生バンドスプリット工程では、バンドマシンに移され、用途に応じた厚さに皮を漉くと共に、皮を銀層と床に分割する。
脱灰・酵解・ピックル工程は以下の通りである
前記石灰の脱灰、酵素による酵解分解、ピックル作業を行う。
なめし工程では、得られた皮をなめし剤でなめして皮を製造する。
脱水工程では革を水絞り機に移し、脱水を行う。次に、傷・穴・面積等の表面状態に応じた等級分けを実施する選別を行う。
シェービング工程では、シェービングマシンに革を移し、用途に応じた厚さに削る。トリミング工程では、トリミング台で不要なボロ切れ目等を切り、後工程での破れを防止して作業性能を高める。
【0022】
(2)なめし工程の特徴は以下の通りである。
前記なめし工程は酸性条件下に皮を、なめし剤を水の存在下に処理するものである。なめし剤は皮のコラーゲン物質に架橋を起こさせて、皮に耐熱性、微生物や化学物質に対する抵抗性を与え、柔軟性を付与する操作である。
なめし剤には、3価のクロム錯体、例えばCr2(SO4)3として表現されるヘキサアコ結晶硫酸を用いるクロム化合物、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド化合物などが用いられている。これらはいずれも従来から知られているものであり、市販のものを購入して使用すればよい。
クロム錯体については以下の通り。
ChromitanB、ChromitanMS、ChromitanFM、BaychromaCH、BaychromaCL,BlancorolRN、BlancorolRCなど。
皮なめし工程ではCr2O3を裸皮に対して2乃至2.5%に相当する濃度のクロム塩が供給されるが、このうちの70乃至80%が皮中に固定されずにすぎず、20乃至30%は溢流中に放出されるという。
グルタルアルデヒドについては、以下の通りである。
市販のグルタルアルデヒドを購入して使用する場合には、レルガンGT−50、レルガンGT−24、レルガンGTW(BASF社製)、デルガン−2080、デルガン−3080、デルガン−Z(Schill+Seilacher社製)、ユーカーなめし剤GA−25、ユーカーなめし剤GA−50などを用いることができる。
グルタルアルデヒドの使用量は革重量を基準にして、1乃至10重量%程度である(特開平08−232000)。
いずれもなめし剤は皮革成分と化学的に結合する。
そのほか、合成なめし剤(合成なめし剤については、再なめし工程のところで説明する。)、植物タンニン(ミモサME、ミモサFE、ケブラッチョなど)を用いることができる。いずれも従来から知られているものであり市販のものを購入して使用すればよい。
【0023】
再なめし工程・染色工程・加脂工程は一つのドラム内で処理が行なわれる。
各工程の終了後には十分に水洗操作が行われ、前の工程の結果が後の工程に影響を及ぼすことがないように行われている(図17)。
【0024】
再なめし工程では、再なめし剤として、合成なめし剤、植物なめし剤などが用いられる。場合によっては、前記なめし剤であるクロムやグルタルアルデヒドなど添加して使用することもある。
再なめしに際し中和されているかどうかを予め確認して行う。革の断面にpH指示薬を滴下し、その変色層を観察して行う。おおよその目安として甲革タイプで表面層はpH5から6、内部層は3から4程度とされている。
【0025】
(1)合成なめし剤としては、以下のなめし剤が用いられる。
芳香族スルホン酸(主としてナフタレン及びフェノールのスルホン酸)のホルムアルデヒド縮合物、アミノ化合物とホルムアルデヒドとの縮合物などについては、以下の通りである。
(イ)フェノールのスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物としては以下のものが知られている。
(a)フェノールスルホン酸およびビスヒドロキシフェニルスルホンを、1:3のモル比で、水溶液中において6〜9のpHで、ホルムアルデヒド2モルと100〜120℃で縮合させ、硫酸でpHを3.5に調節し、フタル酸で酸価(AN)を120に調節し、乾燥させる。
(b)フェノールスルホン酸(65%溶液)ナトリウム塩を、ビスヒドロキシフェニルスルホン(55%懸濁液)と、2.5:1のモル比で混合する。ホルムアルデヒド(30%溶液)2.5当量を高温の混合物に添加し、112〜115℃で3時間縮合させる。粗縮合物を、アジピン酸で酸価100に調節し、乾燥させる。
フェノールスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物の分子量分布は、有機溶剤で展開するゲルクロマトグラフィーにより測定すると,Mw400〜4000に分布しており、中心はMw3000前後である。
これらは以下の市販品を購入して使用することができる。
フェノールスルフォン酸ホルムアルデヒド重縮合物:Basyntan DLX-N、MLB、SL、SW Liquid、Tamol NNOL(BASF社製)、Tanigan WLF(LANXESS社製)
(ロ)ナフタレンのスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物
(a)ナフタレンをH2SO41.4当量で、145℃で2時間スルホン化させる。このようにして得られたナフタレンスルホン酸の混合物1000g、ビスヒドロキシフェニルスルホン800gおよび37%ホルムアルデヒド溶液250mlを100〜120℃で3時間縮合させる。得られた生成物をpH3.5に調節し、水酸化ナトリウム溶液およびフタル酸でANを80とし、噴霧乾燥させる。
以下によっても製造可能である。
(b)ナフタレンをH2SO41.4モルで、145℃で3時間スルホン化させ、ホルムアルデヒド0.66モルと3時間縮合させ、冷却し、pHを3.5に調節し、水酸化ナトリウム溶液およびグルタル酸でANを50とし、噴霧乾燥させる。
これらの分子量分布は、有機溶剤で展開するゲルクロマトグラフィーにより測定するとMw200〜2000程度であり、中心はMw1300であるとされる。
いずれも市販品を購入して使用することができる。
ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドの重縮合物:Basyntan FC、Tamol NA(BASF社製)、Ukatan GM(Schill+Seilacher社製)、Tanigan BN(LANXESS社製)、Irgatan LV(TLF社製)、BELLCOTAN A、PT、PS(日本精化株式会社製)
(ハ)フェノールスルホン酸、尿素及びホルムアルデヒドの縮合物
フェノール1モルおよび硫酸0.5モル、ウレア1モルおよびホルムアルデヒド0.9モルを、100〜110℃での強酸性反応下に処理し、得られた縮合物を、水酸化ナトリウム溶液0.2モルで緩衝させる。このようにして得られた中間生成物を、さらにフェノール0.8モルおよびホルムアルデヒド1.2モルと縮合させ、冷却し、pHを3.5に調節し、水酸化ナトリウム溶液、ギ酸およびフタル酸でANを80とし、噴霧乾燥させる。
購入して使用する場合には、以下の化合物がある。
Basyntan(登録商標)DLX)を購入して使用することができる。
(2)樹脂なめし剤を用いる場合
尿素、ジシアンジアミド、メラミンなどのアミノ化合物とホルムアルデヒドとの縮合物を主成分とするものである。
メラミンホルムアルデヒド縮合物と尿素ホルムアルデヒド゛縮合物の混合物としてはRelugan D、又はDLF、S(BASF社製)などを使用できる。
ポリアクリル酸系の樹脂なめし剤としては、ReluganSE,RE,RV(BASF社製)、LuburitanGX(Rohm and Haas社製)などが使用できる。
【0026】
再なめし工程では、使用される合成なめし剤などのなめし剤は、使用された革の重量に対して有利に50〜200%の重量を含んだ水溶液状態で用いられる。
条件は3.0〜8.0、有利に3.5〜6.5のpH範囲内で使用される。再鞣処理は有利に1.5〜24時間、殊に2〜8時間で実施される。
再なめし後、400%(シェービング革重量基準、以下同様)の水で水洗する。
【0027】
再なめし後の染色工程については前記のとおりであり、既に記載したので、この点については省略する。
【0028】
加脂工程は以下の通りである。
加脂工程では加脂剤による処理が行なわれる。
加脂工程は再なめし後の染色工程の次に行われる処理であり、革製品に要求される柔軟性を付与するために行われ、加脂剤と呼ばれる油剤で処理するものである。これらの中には、界面活性性を有するものが少なくない。その結果皮革内部にも浸透しやすいものとなっている。
染色工程を経て加脂工程で処理する革は水に濡れた状態にあり、線維束内、線維間隔に存在する水のために線維の柔軟性が保持されているが、乾燥すると線維同志が膠着して線維及び組織が硬化する。乾燥前に予め線維間に膠着を阻害する物質となる油剤により処理することが効果的である。又、革線維の保護(撥水性、防水性)のような機能、感触、膨らみを付与する。このために加脂工程があり、加脂剤が用いられる。
【0029】
加脂剤には以下のものが含まれる。
これらのうちから選ばれて用いられる。
(1)アニオン性加脂剤は以下の通りである。
(イ)硫酸化油
硫酸化油は天然の不飽和油脂に硫酸を加え、硫酸エステル化したものである。水酸基や二重結合の一部分が硫酸化されている。
硫酸化脂肪酸エステル:Lipoderm Liquor PU(BASF社製)、
合成スルホン化脂質:SYNCUROL KV(MUNZING社製)、
スルホン化エステルと炭化水素の混合物:SYNCUROL 79(MUNZING社製)、スルホン化エステル:SYNCUROL SE(MUNZING社製)、
合成スルホン化エステル:SYNCUROL PF、MAX(MUNZING社製)などがある。
(ロ)スルホン化油
スルホン化油は不飽和基を有する合成油天然油を無水硫酸、発煙硫酸、クロルホン酸などで処理し、分子中の二重結合をスルホン化して中和したものである。
スルホン化油としては、例えば、SKオイルHF(サンプラス社製)、ペラストールES(Zschimmer & Schwarzchemische Fabriken 社製)等が挙げられる。
なお、SKオイルHFは、耐黄変性のある合成スルホン化油であり、未反応の生油50重量%、その硫酸エステル25重量%と加水分解生成物25重量%の混合物である。
此のほか、ターコンFA−200(泰光油脂化学工業社製)、ペルグラソールSF(Zschimmer & Schwarzchemische Fabriken 社製)等が挙げられる。なお、ターコンFA200は、脂肪酸モノグリセライド、天然油のスルホン化油、これらの酸化生成物等の混合物である。
(ハ)亜硫酸化油
亜硫酸化油は不飽和度の高い天然油や合成油を原料として亜硫酸塩をスルホン化剤として得られるスルホン酸塩である。
亜硫酸化魚油、天然油、乳化剤の混合物:Lipsol EB(Schill+Seilacher社製)、亜硫酸化魚油:OPTIMALIN UPNC(MUNZING社製)、植物油、亜硫酸化動物油の水性エマルジョン:Lipoderm Liquor A1(BASF社製)、
(ニ)脂肪酸石鹸、
脂肪酸石鹸は天然の油脂をアルカリ水溶液でケン化すると得られる石鹸である。加脂剤にはアンモニウム塩やカリウム塩も使用される。中性から酸性側で脂肪酸が遊離するため、界面活性成分と中性油の効果がある。
変性脂肪酸:Lipoderm Liquor LA(BASF社製)
(ホ)リン酸化油
卵黄、大豆レシチンなどのリン脂質が用いられてきた。最近では、リン酸化油は高級アルコール又はポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸エステル塩が多く用いられている。
合成油とレシチン油の混合物のエマルジョン:Lipsol LQ(Schill+Seilacher社製)、燐酸エステル油:Lipoderm Liquor PU(BASF社製)
硫酸化植物油、脂肪アルコール燐酸エステル塩及び炭化水素の配合品:リッカーKIM(那木商会)、
(へ)多極性加脂剤はアニオン性、非イオン性及び少量のカチオン性加脂剤の混合物である
(ト)そのほかのアニオン性加脂剤
モノ又はジアルキルコハク酸、アルキルマロン酸、アルキル鎖両末端のカルボン酸塩など錯活性基を有するもの、長鎖アルキル基を有するポリアクリル酸誘導体などがある。
【0030】
(2)カチオン性加脂剤
カチオン性加脂剤には、4級アンモニウム塩、脂肪族アミン、脂肪族ポリアミン縮合物が用いられる。
(3)両性加脂剤
両性加脂剤には同一分子内にアニオンとカチオンの両性を有する加脂剤でレシチンが古くから使用されている。
(4)ノニオン性加脂剤
ノニオン加脂剤は単独で使用されることは少なく、アニオン性及びカチオン性加脂剤と併用される。
天然油と非イオン性界面活性剤の水溶:Lipoderm Liquor IC(BASF社製)、ワックス、天然油及び界面活性剤の混合水溶液:Lipoderm Liquor SC(BASF社製)、非イオン界面活性剤、亜硫酸化油、ナトリウム塩の水溶液:Lipoderm Liquor WF(BASF社製)、天然油、合成油、合成乳化剤の混合物:Lipsol MSG(Schill+Seilacher社製)
(5)中性油、具体的には、(イ)動物油、(ロ)海産動物油、(ハ)植物(ニ)鉱物油、(ホ)合成油などを挙げることができる。
【0031】
加脂剤を含む組成物は以下の通りである。
水は革重量に対して110%から130%、
合成加脂剤は革重量に対して2から5%、
ラノリン系加脂剤は革重量に対して0.6から0.8%、
液のpHは3.5
水温は50℃程度。
以上の組成物をドラム中の革に供給処理し、処理後に十分に水洗して操作を終了する。
【0032】
セッター工程では、なめして柔らかくした革をセッティングマシンに移し、染色後の革の水分を絞り乾燥を容易にする。また、しわを伸ばして革を大きくする。柄干乾燥工程では、革を柄干乾燥機に移し、革を乾燥させて薬品・染料の吸着を完全にし、革を1回乾燥させることにより風合いをだす。味取り工程では、革を味取りシャワー機に移し、酸化防止剤の水溶液を塗布する。乾燥状態にある革に少量の水を塗布することにより味付けを行う。これは、最終的に革の均等な伸び・膨らみ感に関係する。
【0033】
バイブレーション工程では、革をバイブレーションマシンに移し、足先・縁周り等の硬さを取り、空打ちのしわを取り、面積を大きくする。空打ち工程では、革を空打ちドラムに移し、乾燥後の革の繊維をほぐす。その後、乾燥・バフ・バイブレーション工程では、革をフィンバックマシンに移して空打ち後の革をトグルで止めて革を伸ばして乾燥させ(ネット張乾燥)、革を平らにする。革をバイブレーションマシンに移して繊維をほぐし、足先縁周り等の硬さを取り、空打ちのしわを取り、面積を大きくする。そして、生産品の中間検査を行い、等級、紋、風合い、色調、厚度等の項目を検査する。
【0034】
図18は、裏糊スプレー工程及び樹脂塗装工程を示す。裏糊スプレー工程では、水性スプレーによりバッキング処理を行い、塗装面への裏毛羽の付着を防止する。この時、革の裏面に樹脂塗装が施される。革の裏面に樹脂塗装が施されることにより、ガラス曇りの原因物質の放出を物理的に遮断することができる。塗装工程では、リバースコ一タにより革の表面に1回目の顔料塗装を行い、型押し工程では、革の表面への模様付けと傷隠しを行う。
加脂工程を経た天然皮革について、通常行われている処理を行う。セッターにかけて伸ばし操作を行い、柄干し乾燥を行い、味取り、バイブレーション、空うち、乾燥、バフ及びバイブレーション処理を行う。
【0035】
塗装を行う仕上げ工程は、天然皮革の表面にコーティング層を形成する。
このコーティング層は以下の三層から形成される。
ポリウレタン樹脂を含有する下塗り層、中塗り層及びトップコート層いずれかに、少なくとも3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料、又はペリレン顔料を含むコーティング層からなることを天然皮革の表面に設けられるコーティング層である。
【0036】
ポリウレタン樹脂を含有する下塗り層、中塗り層及びトップコート層の少なくとも一層に、少なくとも3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料、又はペリレン顔料により形成される黒色としての役割をはたす顔料を含むコーティング層を用いる。
【0037】
得られた天然皮革基材表面に、顔料を含有した水性塗装剤をコートしてなるボトムコート層と、そのコート層上に水性塗装剤をコートしてなるベースコート層と、さらに、そのコート層上に、トップコート層とを形成する。
(1)ボトムコート塗装
ボトムコート塗装は、顔料を含有した水性塗装剤を用い、ロール塗装あるいはスプレー塗装により行われる。このボトムコートの膜厚は、通常3〜10μmである。塗装後、乾燥処理に付されるが、通常は80℃熱風乾燥機による10分程度の処理で充分である。
乾燥後、ボトムコートの平滑な面を形成せしめるため、プレス処理を行う。ボトムコート塗装においてロール塗装が行われる場合は、プレス処理を省略してもよい。
【0038】
(2) ベースコート塗装
前記のボトムコート塗装に次いでベースコート塗装を行うが、最終製品の色調あるいは諸物性を充分なものとするため、このベースコート塗装は、2度塗り作業により行うことが好ましい。このベースコート塗装に使用する水性塗装剤に対して紫外線吸収剤(特に、酸化亜鉛が好ましい)を含有せしめるが、紫外線吸収剤の量は、水性塗装剤中に使用されているバインダー固形分に対し通常10〜40%である。酸化亜鉛としては水分散タイプのものが用いられる。
【0039】
上記のバインダーとしては、通常、2〜3種類のバインダーが混合使用されるが、アクリル酸エステル系、アクリル−酢酸ビニル系、スチレン−ブタジエン系、アクリロニトリルーブタジエン系、ブタジエン−メタクリレート系、塩化ビニリデン系の合成樹脂バインダーなどがエマルジョンタイプのバインダーとして使用され、また、ポリウレタン系の合成樹脂バインダーが溶液タイプのバインダーとして使用される。
【0040】
2度塗り作業によりベースコート塗装を行う場合には、最初の塗布作業の後、一旦、乾燥処理を行う。この乾燥処理も、通常は80℃熱風乾燥機による10分程度の処理で充分である。ベースコートの膜厚は、通常、トータル膜厚として7〜30μmである。ベースコート塗装終了後、前記と同じく乾燥処理に付する。
【0041】
(3)トップコート塗装
前記のベースコート塗装に次いで、トップコート塗装を行う。二液性ウレタン樹脂塗料を吹き付け塗装する。トップコートの膜厚は、通常10μm程度の厚さである。塗装後、乾燥処理に付されるが、この乾燥処理も前述の各塗装工程における乾燥処理と同様である。
【0042】
ボトムコート塗装は、水性ポリウレタン樹脂や水性ポリアクリル樹脂などの樹脂バインダーと顔料を含有した水性塗装剤で形成され、膜厚は、通常30μmであり、3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料をと樹脂バインダーの割合は(80:400)(重量比)である。
ベースコート(中塗り)は、水性ポリウレタン樹脂や水性ポリアクリル樹脂等の樹脂バインダーと3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料を含有した水性塗装剤で形成され、層の厚みは20μm程度であり、混色顔料と樹脂バインダーの割合は(100:450)(重量比)である。
トップコートは、水性ポリウレタン・アクリル樹脂、水性ポリウレタン樹脂などの樹脂バインダーにより形成されており、層の厚みは10μmであり、3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料と樹脂バインダーの割合は(8:500)である。
【0043】
この工程では処理剤として、ポリウレタン樹脂やアクリル樹脂による塗装が行われる。又、これらに顔料が添加され、色付けが行われる。
【0044】
本発明で用いるペリレン系顔料又は混色顔料は以下の通りである。
【0045】
ペリレン系顔料は赤外線反射率が高い顔料として知られている。
ペリレン系顔料は以下の構造式で示される。
【化1】
(式中、Rはアルキル基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基、アラールキル基、又は窒素含有複素環式芳香族基を示す。)
以下の公開公報などにも具体的に開示されている(特開2004-323534、特開平11-286489)。
以上の構造式で示されるペリレン系黒色顔料を用いる。
ペリレン顔料である、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸ビスイミドは、長い間高度耐光性の建染染料および顔料として、また最近では均一溶液中の蛍光染料として(たとえば、H. Zollinger, Color Chemistry, VCH Verlagsgesellschaft, Weinheim, 1987参照)使われてきた。このほか、ペリレン−3,4−ジカルボキシイミドなどが知られている。
ビス(2−フェニルエチル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸ジイミド、
ビス(メトキシベンジル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸ジイミド、
ビス(ヒドロキシエチル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸ジイミド、
ビス(ヒドロキシヘキシル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸ジイミドなどがある。
一般的な合成経路は、工業的に製造されるペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物(3)と一級アミンとの縮合により可能である。
これらは、TFL社製の皮革用ペリレン顔料及び東洋インキ製造株式会社製のペリレン顔料を購入して用いることができる。
【0046】
ペリレン顔料を用いるときの配合例は以下の通りである。
従来の顔料に比べて堅牢度と赤外線反射率が高いキノン構造(ベンゼン環から誘導され、2つのケトン構造を持つ環状の有機化合物の総称)を持つ染料であるペリレン系黒色顔料を用い、これに赤、青、黄などの顔料を用い、これに赤、青、黄などの顔料を混ぜて色を調整する。一例を挙げれば次表の通りである。
赤、青、黄の顔料については、大日本インキ株式会社製、東洋インキ株式会社製,BASF社製、スタール社製などの顔料のCI、Noより選択して使用する。
【0047】
【表1】
【0048】
多数の顔料を混ぜ合わせて黒色を出す。これを減法混色という。可視光の全域にわたって光を反射しない(吸収する)ようにすれば黒く見えるので、可視光の一部波長域しか吸収しない顔料でも吸収波長域の異なるものを組み合わせて全域を吸収するようにすれば黒色の顔料になる。これを下塗り、中塗り、トップコートのそれぞれの塗装液に混ぜて革の表面に塗る。
一例を示すと以下の通りである。
【0049】
【表2】
【0050】
下塗り、中塗り、トップコートに使用する混色顔料を調製するために用いられる顔料は以下のとおりである。
(1)赤色顔料では以下の通り。
(イ)CI:Pigment Red 161 成分:顔料(縮合多環系顔料)
(ロ)CI:Pigment Red 254 成分:顔料(縮合多環系顔料)
(2)黄色顔料は以下の通り。
(イ)CI:Pigment Yellow 42 成分:顔料(黄色酸化鉄)
(ロ)CI:Pigment Yellow 130 成分:顔料(ジスアゾエロー系顔料)
(ハ)CI:Pigment Yellow 81 成分:顔料(ジスアゾエロー系顔料)
(ニ)CI:Pigment Yellow 128 成分:顔料(縮合アゾ顔料)
(ホ)CI:Pigment Yellow 110 成分:顔料(縮合多環系顔料)
(3)青色顔料は以下の通り。
(イ)CI PIGMENT BLUE 15−2 成分:顔料(銅フタロシアニンブルー)
(ロ)PIGMENT BLUE 60 成分:顔料(アンスラキノン系)
(4)緑色顔料は以下の通り。
(イ)CI:Pigment Green 7 成分:顔料(銅フタロシアニングリーン)
(5)褐色は以下の通り。
(イ)Pigment Red 202 成分:顔料(酸化鉄)
上記CIナンバーの各色顔料の中から適宜選択して、それらを混合して用いることができる。
顔料を混色することについては以下のとおりである。
混色により黒の顔料を得る場合には三色の顔料を混合するが、三色顔料の使用量は全体の20%から50%程度である。三色の顔料として用いられなかったその他の顔料(例えば、赤、黄、青、緑、白など)を相当量使用する。このようにその他の顔料を用いる理由は、ユーザーである自動車会社による色見本とできるだけ合致させるために用いられる。色見本は、黒色だけでも自動車会社1社あたり10種類以上あるが、この見本に色を厳密に合わせて意図する色に合致させることは、品質管理上重要な項目となる。
色見本に色を合わせるために必要な顔料の種類は、機械(カラーマッチングシステム)を用いて選択する。顔料組成を出させる際に、顔料全種を指定しておくと、その中から適切な顔料を選んで組成を決めることができる。
【0051】
黒以外の顔料で混色顔料をつくるときには、基本的には赤、黄、青の3色で目的の黒を出すことができる。実施例で緑、白をわずかに加えているのは、色あわせを容易にするためである。色見本とのずれを修正するときに、はじめの顔料組成に含まれていない顔料を新たに加えると、色の変化を予測しにくいが、少量でも初めから加えておいて、添加量を加減するようにすれば、色の変化を予想しやすく、色あわせが容易になる。
【0052】
以上により得られた前記塗膜を形成した天然皮革に関して白熱灯を照射して
塗膜を形成した天然皮革について温度の上昇の状態
本発明の染料で染色した天然皮革の表面に前記顔料を含む塗膜層を設けた天然皮革に前記と同じく白熱電灯を照射して天然皮革の温度上昇を調べた。
染料としてSELLA COOL BLACK(3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ)−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩])、SELLA SET BLACK BR及びBLACK LURAZOL SN、ENIVEL NTの混合物により染色し、天然皮革の表面に形成する塗膜に用いる顔料として、ペリレン系顔料、混色顔料、カーボンを用いた場合である。
以下の具体例で天然皮革をなめすときに用いたなめし剤はいずれもクロムを用いた場合である。
【0053】
【表3】
【0054】
グルタルアルデヒドを用いて通常の方法でなめした皮革を、再なめしを行い、SELLAFAST BLACK FNにより黒色に染色し、加脂工程を得てえられる天然皮革に混色顔料を用いた塗膜を形成した天然皮革に関して白熱灯を照射した場合の温度上昇の状態を表5に示した。
この際のグルタルアルデヒドなめし剤としてはレルガンGT−50、レルガンGT−24、レルガンGTW(BASF社製)、デルガン−2080、デルガン−3080、デルガン−Z(Schill+Seilacher社製)、ユーカーなめし剤GA−25、ユーカーなめし剤GA−50、などを用いることができる。その後の再なめし剤などは上記の場合と同じである。
【0055】
【表4】
【0056】
本発明で得られる染色層及び染色層の表面にコーティング層を設けた皮革の赤外線反射率の測定は以下による。
赤外線反射率の測定
前記図面に示されている赤外線反射率の測定方法は以下の通りである。
皮革サンプルの赤外線反射率の測定は、可視光域(400〜900nm)について Fiberspecマルチチャンネル分光器S-2650、近赤外光域(900〜1600nm)についてはFastevertマルチチャンネル分光器S-2700(いずれも相馬光学株式会社製)を用いて、入射光と反射光の分光の波長分布を調べる。
皮革サンプルに、光ファイバー端から白色光を照射し、反射光を照射と同一方向の反射光を光ファイバーで受けて分光して測定する。 相対反射率は、白色拡散反射標準板(エドモンドオプティクス社)の反射を1として算出する。
【0057】
以上の手順で得られた天然皮革に関して白熱灯による光を照射して温度上昇の解析を行った。天然皮革の特性を確認する。
150W白熱灯(パワーレフ屋内用、RS100/110V:100W−E、東芝)1灯を試験片及び比較片に対して、高さ15cmの位置に設置し、測定時間に応じた試験片及び比較片の温度を接触温度計で測定する。
【実施例1】
【0058】
クロムなめしを行った天然皮革を、シェービング革の湿重量に対して3重量%のSELLA SET BLACK BRにより染色した天然皮革の赤外線反射率の状態を(図1)に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
黒色染料により染色された染色層にあっては、一般的に前記のように高い結果とならないことが知られている(図13から15参照)。この態様については特開平05−222682号公報(特許3094130号明細書)に記載されている。これらの結果より、本発明の場合は良好な天然皮革であることが明らかである。
【実施例2】
【0059】
クロムなめしを行った天然皮革を、SELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NTを シェービング革の湿重量に対して3重量%である染料により染色した天然皮革の赤外線反射率の状態を(図6)に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
黒色染料を含む染色層にあっては、一般的に前記のように高い結果とならないことが知られている(図13から15参照)。この態様については特開平05−222682号公報(特許3094130号明細書)に記載されている。これらの結果より、本発明の場合は良好な天然皮革であることが明らかである。
【実施例3】
【0060】
クロムなめしを行った天然皮革を、3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(セラクールブラック(商品名、企業名(TFL社製))をシェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の赤外線反射率の状態を示している(図9)。赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
黒色染料を含む染色層にあっては、一般的に前記のように高い結果とならないことが知られている(図13から15参照)。この態様については特開平05−222682号公報(特許3094130号明細書)に記載されている。これらの結果より、本発明の場合は良好な天然皮革であることが明らかである。
【実施例4】
【0061】
実施例1で形成したSELLA SET BLACK BR シェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を測定した結果を図2に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
この結果は、カーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線
反射を示す図4と比較すると十分に効果があることがわかる。
【実施例5】
【0062】
実施例2で形成したSELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NTを シェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を測定した結果を図6に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
この結果は、カーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線
反射を示す図8と比較すると十分に効果があることがわかる。
【実施例6】
【0063】
実施例2で形成したSELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NTを シェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を測定した結果を図7に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
この結果は、カーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線
反射を示す図8と比較すると十分に効果があることがわかる。
【実施例7】
【0064】
実施例2で形成したSELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NTを シェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を測定した結果を図6に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
この結果は、カーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線
反射を示す図8と比較すると十分に効果があることがわかる。
【実施例8】
【0065】
実施例3で形成した3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホ)フェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(CAS登録番号:70210−06−9、分子量673.670:セラクールブラック:商品名、企業名TFL社製 TFL 同社のマテリアル セフティデータ シートによる(2002年2月1日発行)。2007.10.29印刷 2006.1.30更新版)を シェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を測定した結果を図10に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
この結果は、カーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線
反射を示す図12と比較すると十分に効果があることがわかる。
【実施例9】
【0066】
実施例3で形成した3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(セラクールブラック(商品名、企業名(TFL社製))を シェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の表面に混色顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を測定した結果を図11に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
この結果は、カーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線
反射を示す図12と比較すると十分に効果があることがわかる。
【実施例10】
【0067】
なめし剤としてグルタルアルデヒド(レルガンGT−50、レルガンGT−24、レルガンGTW(BASF社製)、デルガン−2080、デルガン−3080、デルガン−Z(Schill+Seilacher社製)、ユーカーなめし剤GA−25、ユーカーなめし剤GA−50などを使用できる)を用いて、なめしを行い、その後の再なめし剤などは実施例3の場合と同じ再なめしを行い、酸性の黒色染料であるSELLAFAST BLACK FNにより染色し、加脂工程を得て、この天然皮革の表面
塗膜には混色顔料を用いて天然皮革を作成した。
【実施例11】
【0068】
前記実施例により得られた天然皮革に対して照射試験を行った結果は、次表が示すとおりである。
【0069】
【表5】
【0070】
(1)3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(SELLA COOL BLACK:商品名、企業名(TFL社製))により皮革を染色し、コーティング層にペリレン顔料を含ませて得られる皮革の場合には60分経過して73℃に上昇し、以後同様の温度で経過した。
同じく、コーティング層に混色顔料を含ませて得られる皮革の場合には60分経過して64℃に上昇し、以後同様の温度で経過した。
同じく、コーティング層にカーボンを含ませて得られる皮革の場合には60分経過して93℃に上昇し、白煙をあげて危険な状態となり、以後の赤外線照射を中止した。
結局、このことから、染料に赤外線反射率の高い染料で染色しても顔料に赤外線反射率の高い顔料を用いなければ良好な結果を得ることができないことがわかった。この場合には混色顔料を用いた場合にはより一層温度上昇を低く抑えることができることがわかった。
(2)SELLA SET BLACK BRにより皮革を染色し、コーティング層にペリレン顔料を含ませて得られる皮革の場合には30分経過して91℃に上昇し、以後同様の温度で経過した。
同じく、コーティング層に混色顔料を含ませて得られる皮革の場合には30分経過して86℃に上昇し、以後同様の温度で経過した。
同じく、コーティング層にカーボンを含ませて得られる皮革の場合には60分経過して93℃に上昇し、白煙をあげて危険な状態となり、以後の赤外線照射を中止した。
結局、このことから、染料に赤外線反射率の高いSELLA SET BLACK BRで染色すると、顔料に赤外線反射率の高い顔料を用いることにより86から91℃の範囲に抑制できることがわかった。
(3)SELLA SET BLACK BR、LURAZOL SN及び ENIVEL NTにより皮革を染色し、コーティング層にペリレン顔料を含ませて得られる皮革の場合には60分経過して77℃に上昇し、以後同様の温度で経過した。
同じく、コーティング層に混色顔料を含ませて得られる皮革の場合には60分経過して77℃に上昇し、以後同様の温度で経過した。
同じく、コーティング層にカーボンを含ませて得られる皮革の場合には60分経過して92℃に上昇し、白煙をあげて危険な状態となり、以後の赤外線照射を中止した。
結局、このことから、染料に赤外線反射率のSELLA SET BLACK BR、LURAZOL SN及び ENIVEL NTにより皮革を染色すると、顔料に赤外線反射率の高い顔料を用いることにより77℃程度の範囲に抑制できることがわかった。
又、SELLA SET BLACK BR、LURAZOL SN及び ENIVEL NTの混色染料により染色した場合はSELLA SET BLACK BR単独で染色した場合より温度上昇を抑制できることが分かった。
いずれにしても、この結果よりいずれも温度上昇後は65から91℃の範囲で一定に保たれており温度上昇が抑制されたことがわかる。
【実施例12】
【0071】
実施例10で得られた天然皮革を用いて白熱電灯で照射を行った結果は以下の通りであった。温度上昇が50℃に抑制されており良好な結果を得た。
【0072】
【表6】
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】SELLA SET BLACK BRにより染色された天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図2】SELLA SET BLACK BRにより染色された天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図。
【図3】SELLA SET BLACK BRにより染色された天然皮革の表面に混色顔料を含む塗膜を形成したにより染色された天然皮革の表面に混色顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図4】SELLA SET BLACK BRにより染色された天然皮革の表面にカーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図5】SELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NTにより染色された天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図6】SELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NT により染色された天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図。
【図7】SELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NT により染色された天然皮革の表面に混色顔料を含む塗膜を形成したにより染色された天然皮革の表面に混色顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図8】SELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NT により染色された天然皮革の表面にカーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図9】SELLA COOL BLACK(3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩)により染色された天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図10】SELLA COOL BLACK(3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩)により染色された天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図。
【図11】SELLA COOL BLACK(3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩)により染色された天然皮革の表面に混色顔料を含む塗膜を形成したにより染色された天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図12】SELLA COOL BLACK(3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩)により染色された天然皮革の表面にカーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図13】従来例の黒色染料を用いた場合には赤外線反射率は低いことを示す図
【図14】従来例の黒色染料を用いた場合には赤外線反射率は低いことを示す図
【図15】従来例の黒色染料を用いた場合には赤外線反射率は低いことを示す図
【図16】原皮の処理からなめし工程終了までの処理工程を示す。
【図17】再なめしから表面層の形成までの処理工程を示す。
【図18】裏糊スプレー工程から樹脂塗装工程を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は黒色天然皮革(直射日光に照射された条件に晒されても温度が上昇しにくい黒色の天然皮革であり、黒色に染められた天然皮革)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然皮革は多孔性で空隙も多く、比熱が大であり、熱伝導率も小さく、熱などに対処するため、又、手触り等の感触がよく、見た目にも優れるなどの点から、加熱されやすい環境下で用いられる温度上昇を防止する材料としては最も優れている(非特許文献1 新版皮革化学、平成4年11月25日 日本皮革協会発行、第227頁「2.4熱的性質」の項)。耐熱性に関してはクロムなめの牛革においては77から120℃、ジルコニウムなめしの牛皮75〜97℃であり、植物タンニンなめしで70から89℃、グルタルアルデヒドなめしで65から85℃とされている。天然皮革の場合には熱変性温度は水分量変化に伴って変化する。水分含有量が少ない場合には変性温度が120℃を超えることも既に知られている(非特許文献2 皮革ハンドブック2005年1月30日 日本皮革技術協会編集、樹芸書房発行98〜101頁)。また、合成皮革を構成する合成樹脂は軟化すること、溶融すること、そして火源を取除いても燃焼は続行して燃え尽きることの問題点が指摘されている。
一方、天然皮革は軟化しないこと、120℃程度で収縮するなどが挙げられ、燃焼性ではなく、軟化点や融点も存在しない特徴がある(前掲書 同頁)。
以上のことを考えると、天然皮革は安全性及び快適性を追及する自動車の内部に用いる材料としては最高の材料であるということができる。
【0003】
天然皮革であっても自動車内などで太陽光に晒された場合には天然皮革の温度は上昇し、白煙などの発生が生ずることがある。天然皮革表面など存在す染料や顔料により、日光が遮断されることなく天然皮革の表面や内部に入り込み、熱を吸収する結果であると考えられる。天然皮革の内部に光が入り込むことを防止するためには、天然皮革の表面や又はその表面に覆いを設置し、これらに直射日光の通過を遮断する物質を配置し、その物質により熱を反射するようにすることなどが一般的に考えられる。しかしながら、このような対策では十分な効果を期待できないことを日常感じているところである。
【0004】
従来、天然皮革の色付けを行う場合には、染料を用いる。天然皮革中に染料を閉じ込め、その結果、天然皮革を染料により均一に染め上げて目的とする色を出す。皮革の着色には染色加脂工程で染料による染色が行われ、後に仕上げ工程で染料と顔料を用いられる(非特許文献3 染料便覧 昭和45年7月20日 社団法人有機化学協会編集、株式会社丸善株式会社発行 248頁)。
天然皮革を染料により染色する場合には、表面だけではなく、組織内部まで染料が入り込ませることができる。断面部分が外側から見える場合であっても、内側の組織まで染色されるので、全体が染色されているように見え、見栄えがする。その結果、シート、インストルメントパネル、ステアリングホイールやノブを被覆する天然皮革では、断面部分が外側から見える場合でも、見た目には良好な印象を与えることが可能となる。
天然皮革を皮革用顔料で着色することも行われる。顔料は塗料の形態で用いられる。仕上げ工程において皮革銀面を塗料のようして着色される。顔料はその粒径サイズが染料に比較して大きく、皮革内面に入り込むことはない。 したがって、顔料を用いることにより、顔料は銀面を着色すると共に、光沢、なめらかさ、耐水性、耐摩耗性などの価値を高めるための重要な工程とされている(非特許文献3 前掲書251頁)。太陽光照射によっては、耐久性の低下を起こし、染料の色調は変化しやすい。この場合に顔料を併用していると、退色は比べて著しく少なくすることができる。
光反射による光学特性はつや、光沢、色の濃淡の深み、模様などから、皮革らしさや美しさを表現する上で重要視されてきた。皮革表面にコート層を形成する場合にはベースコート層や中間コート層に顔料を添加して層の形成を行うことが一般的である(非特許文献2 86〜87頁)。
【0005】
黒色に染色された天然皮革は、高級感があることにより人気が高い。しかしながら、前記のようにして製造してきた黒色の皮革は、長い時間、高温条件下に、さらされていると、他の色の場合より一層高温となる。このことから、革の温度が上昇しにくい黒色加工を施した革を必要とする要望は極めて高い。
皮革を黒色とするためにカーボンブラックを用いてきた。
しかしながら、カーボンブラックを用いることは赤外線吸収しやすくなる結果、温度上昇を避けることができないと本発明者らは考えた。このカーボンブラックの使用をやめて、皮革を黒色に染め上げるために温度上昇とならない黒色染料を定めることが必要であること、又、同時に温度上昇につながれない顔料を定めることが必要であると考えた。
【0006】
本発明の解決すべき課題は、天然皮革を黒色に染色をする場合には、温度上昇につながらない黒色染料を選択して染色し、同時に温度上昇につながらない顔料をあわせて用いることが有効であるとの考えの下に、天然皮革を従来用いられていない黒色染料で染色した新規な黒色天然皮革、従来コーティング層として用いられていない顔料による新規なコーティング層及び前記天然皮革の表面にコーティング層を形成している新規な黒色天然皮革であり、温度上昇を防止することができる新規な天然黒色皮革を提供することである。
【0007】
黒色とした天然皮革の温度上昇を避けるうえで、染料を用いることなく、又、カーボンブラックを用いることを止めて、顔料を用いることにより温度上昇を阻止できるとする発明がある(特許文献1 特開2001−187574号公報、特許文献2 特開2001−113975号公報、特許文献3 特開2001−122044号公報)。特許文献1の0051では天然皮革を対象とする場合にはペリレン系顔料を使用することを述べている。特許文献2及び3ではペリレン系顔料を赤外線反射顔料として用いており、BASF社のPaliogen Black(登録商標) L0084が記載されている。しかしながら、天然皮革を黒色に染め上げるうえで、染料を用いずに顔料のみを用いて黒色に染色することは基本的に無理がある。この点を克服する必要がある。
【0008】
皮革の適当な温度調節を達成することを意図して、相変換物質(phase changing materials)(PCM‘s、英語の頭文字より)を含むビーズを用いる(特許文献4 米国特許第6,179,879号明細書)の発明では、皮革はそれでもかなりの高温を示し、自動車内の部品が加熱された場合に要求される快適性を示すことはないとされる。
米国特許第6,194,484号明細書(特許文献5)では、0.7〜2.5μmの赤外範囲付近の吸収が、0.07において10%、0.5μmにおいて50%増加する一方、0.35〜0.7μmの範囲の可視光線を80%まで反射する能力を有する色素または粒子を望ましいとする。8〜14μmの範囲における放射は一般的に90%減少する。しかし、太陽照射の最大エネルギーは1μm付近であるため、この範囲のエネルギー吸収は、温度的に快適な基層(substratum)の表面には望ましくないものとされる。
特開2005−526878号公報(特許文献6)では、有機着色剤として、有機金属化合物やナフタレン誘導体などの高赤外線吸着能を有する化合物を全く含まないアゾ基を有するアニリン誘導体を使用する(0028から0030)。
赤外線に対して高い反射能を有する物質は、高赤外線反射能を有する着色剤または色素から選択され、好ましくは波長間隔750〜2500nmでの反射率が40%以上で、さらに好ましくは有機または無機の着色剤または色素より選択される。
本発明で言う低熱吸着能を有する物質は、積層体表面から20cmで垂直に設置された250ワットの赤外線ランプにより照射された後、一時間で最高温度として80℃に達する。一方、従来技術の積層体は130℃まで達し、それにより積層体の分子構造、外観および機械的特性が影響されると述べる。有機着色剤として、有機金属化合物やナフタレン誘導体などの高赤外線吸着能を有する化合物を全く含まないアゾ基を有するアニリン誘導体、好ましくはスクアリウム、ペンタメチンシアニンナフトキノンおよびナフタロシアニンを全く含まず、特定の構造式の物質を述べているが、反射率が40%以上とするもののその上限は明確にされず、具体的な染料物質として特定されているものではない。以上のことから、長時間にわたり赤外線などの照射されている条件下に赤外線反射率が具体的に40%程度以上とする染料が皮革の染料として用いられる酸性染料として明確にされているものはない。
赤外線照射条件下に天然皮革の温度が上昇しにくい黒色加工を施した天然皮革は依然として未解決であり、その解決が早急に求められている。
【0009】
合成繊維極細糸よりなる立毛繊維基材に、着色ポリウレタンを含浸させ、湿式凝固処理後毛羽露出処理をして、着色スエード調合成皮革を製造するに際し、該着色ポリウレタンの着色成分の一部として、900nmから1500nmの波長範囲の近赤外線反射率が、60%以上の黒色顔料を用い、得られる合成皮革の近赤外線反射率を60%以上にする発明がある。ペリレン顔料及びアゾメチン顔料が好ましいとする(特許文献7 特開平5−321159号公報)。又、キノン系、ペリレン系、アゾメチンアゾ系等の有機顔料の黒色顔料であって上記を満足するものが好ましい(特許文献8 特開平7−42084号公報)。
ポリウレタンからなる染色されたスエード調人工皮革において、ポリウレタンが黄色系顔料、赤色系顔料、青色系顔料の少なくとも1種ずつ含み、(1)850nmにおける赤外線反射率が60%以上、(2)光照射時の表面温度が105℃以下、(3)耐光堅牢度が3級以上を満たす人工皮革(特許文献9 特開2004−52120号公報、特許文献10 特開2003−253572号公報、特開2004−52120号公報、特許文献11 特開2002−327377号公報)がある。
少なくともシートの片面が、マンセル値で表される明度が0〜8.0、彩度が0〜1.0であり、かつ、800〜1300nmの範囲内の波長領域における赤外線反射率が20〜80%の範囲内である部分を有するとともに、該赤外線反射率が20〜80%の範囲内である部分が、面積比で50%以上であることを特徴とする赤外線偽装シート(特許文献12 特許第4032715号明細書)が知られている。
シート基材上に、貫通孔を有する着色樹脂層を有する着色シート材(特許文献13 特開2008―87167号公報)は着色樹脂層に顔料を用いることを述べている。
これらは、いずれも赤外線反射性材料として顔料を用いる。顔料を用いて天然皮革を黒色に染色するうえでは十分ではない。天然皮革を黒色に染色するうえでは、黒色染料を用いることが必要であり、したがって、顔料による赤外線反射率を示すことにより、天然皮革を黒色に染色することを示す具体例とはならない。
【0010】
合成樹脂布帛の分野では、染料を使用する赤外線吸収性物質を利用する発明がある(特許文献14 特開平5−222682号公報、特許第3094130号明細書)。この発明では酸性染料、金属錯塩染料、反応性染料が用いられる。黒色染料にはCI acid Black 132、194、112、58、170、222などが例示されているが、CI acid Black 112は10%(図1、本明細書中図13で表示)であり、CI acid Black 132の場合でも60%に到達せず(図2、本明細書中図14で表示)、CI acid Black 58の場合でも20%に到達しない(図3、本明細書中図15で表示)。黒色染料は一般に黒色染料の赤外線反射率は低いということが示されている。
硫化物および還元剤を含まず、且つ硫黄の二重結合をもたない硫化染料を用いて無地染めしたポリアミド繊維、セルロース繊維のうち少なくとも一つ以上を織編物に均一に分布させたポリエステル繊維からなる織編物にあっては、600〜1300nmの赤外線波長領域にわたって70%以下の赤外線反射率を示すことを特徴とする吸光蓄熱性織編物(特許文献15 特開2007−046175号公報)の発明では、染料を用いるものの70%以下であり、硫化染料はもともと天然皮革には用いられておらず、天然皮革に用いて高い赤外線反射率を期待できるというものではない(特許文献16特開2007−046175号公報)。
又、綿系編物に建染染料を用いた染色により600〜1200nmの赤外線波長領域において600〜660nmで5〜18%、700〜720nmで18〜45%、740〜760nmで30〜65%、1000〜1200nmで54〜66%の赤外線反射率を示す迷彩加工を施すことを特徴とする迷彩綿系編物の製造方法(特許文献17特許3424134号明細書)では、建染染料としては、例えば、 CI Vat Yellow 2 CI Vat Yellow 48 CI Vat Red 10 CI Vat Orange 9 CI Vat Orange 2 CI Vat Blue 66 CI Vat Blue 14 CI Vat Blue 25 CI Vat Green 1 CI Vat Green 13 CI Vat Brown 1 CI Vat Black 19等が望ましいとする。赤外線反射率が格別高いというものではないし、天然皮革に用いられる染料でもない。
したがって、これらのことが知られているからといって天然皮革の染色用の染料に用いることができることを示しているものでもない。
近赤外線領域の吸収が黒色染料よりも高い特性を持つ染料と他の染料を組み合わせて染色する事により、太陽光または加熱ランプを照射した時に生地の温度上昇が黒色染色品より早くなる近赤外線吸収加工方法(特許文献18 特開平9−291463号公報)では、近赤外線吸収の程度としては、750から1500nmの範囲内で生地の分光反射率が、65%以下のもので、特に750から900nmの反射率が50%以下であるものが望ましいとする。直接染料、反応染料、ナフトール染料、バット染料の中から選定できるが、特に、バット染料の一部のものが効果的である。赤外線反射率が格別高いというものではないし、天然皮革に用いられる染料でもない。
これらのことが知られているからといって天然皮革の染色用の染料に用いることができることを示しているものでもない。なお、黒色染料とは、セルロース用黒色染料として従来から代表的に使用されている、例えば、反応染料レマゾール ブラックB(ReactiveBlack 5)(ヘキスト社製)等をいうとするものの、これは赤外線を吸収する上で良好とするものであり、温度が上昇する場合を述べるものである。
【特許文献1】特開2001−187574号公報
【特許文献2】特開2001−113975号公報
【特許文献3】特開2001−122044号公報
【特許文献4】米国特許第6,179,879号明細書
【特許文献5】米国特許第6,194,484 号明細書
【特許文献6】特開2005−526878号公報
【特許文献7】特開平5−321159号公報
【特許文献8】特開平7−42084号公報
【特許文献9】特開2004−52120号公報
【特許文献10】特開2003−253572号公報
【特許文献11】特開2002−327377号公報
【特許文献12】特許第4032715号明細書
【特許文献13】特開2002−327377号公報
【特許文献14】特開平5−222682号公報、特許第3094130号明細書
【特許文献15】特開2007−046175号公報
【特許文献16】特開2007−046175号公報
【特許文献17】特許3424134号明細書
【特許文献18】特開平9−291463号公報
【非特許文献1】新版皮革化学、平成4年11月25日 日本皮革協会発行、第227頁「2.4熱的性質」の項
【非特許文献2】皮革ハンドブック2005年1月30日 日本皮革技術協会編集、樹芸書房発行98〜101頁
【非特許文献3】染料便覧 昭和45年7月20日 社団法人有機化学協会編集、株式会社丸善株式会社発行 248頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、天然皮革を従来用いられていない黒色染料で染色した新規な天然皮革、従来コーティング層として用いられていない顔料による新規なコーティング層及び前記天然皮革の表面にコーティング層を形成している新規な天然皮革であり、温度上昇を防止することができる新規な天然皮革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1) 本発明者らは、前記課題で述べる黒色の天然皮革では赤外線反射率が高く、また長時間、赤外線照射下にさらされている条件下でも温度が上昇しにくい天然皮革であることを見出して、発明を完成させた。
(イ)(1)SELLASET BLACK BR(商品名)又は(2)SELLASET BLACK BR(商品名)、LURAZOL SN(商品名)及びENIAVEL NT(商品名)の混合物から選ばれる黒色アゾ系酸性染料により染色された天然皮革であり、その赤外線反射率が700nmで0.3を超え、800nmでは0.5を超え、1000nmでは0.6を超え、1200nmでは0.8を超えた後に以後1600nmまで0.7を超えている天然皮革。この結果からわかるように、これらは赤外線反射率が高い染料である。
(ロ)SELLA FAST BLACK FN(商品名)(黒色アゾ系酸性染料)により染色された天然皮革であり、染色するに先立ちグルタルアルデヒドによりなめしが行われ、さらに再なめし剤による再なめしされている黒色天然皮革。
(ハ)3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ)−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩である黒色アゾ系酸性染料により染色された黒色天然皮革であり、その赤外線反射率が700nmで0.2を超え、800nmでは0.8を超え、1000nmでは0.9を超え、1200nmでは0.9を超えた後に以後1400nmまで0.9を超え、1500nmでは0.85を超え、1600nmでは0.92を超えている天然皮革。この結果からわかるように、これらは赤外線反射率が高い染料である。
(ニ)ポリウレタン樹脂を含有する下塗り層、中塗り層及びトップコート層の少なくとも一層に、少なくとも3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料、又はペリレン顔料により形成される黒色としての役割をはたす顔料を含むコーティング層からなることを特徴とする天然皮革の表面に設けられるコーティング層とすることにより、高度に赤外線反射率を高めることができるコーティング層を得ることができる。
(ホ)(イ)若しくは(ロ)又は(ハ)記載の天然皮革の表面に前記(ニ)記載の天然皮革の表面に設けられるコーティング層を形成することにより得られる天然皮革は、天然皮革及び天然皮革の表面に設けられるコーティング層いずれもが赤外線反射率が高い染料及び顔料を用いていることにより、赤外線の照射下にさらされる条件下でも温度が上昇しにくい新規な天然皮革を得ることができる。
(ヘ)次に、前記(ホ)により得られる天然皮革は、150W白熱灯を点灯し、天然皮革の表面温度を経時的に測定すると、180分経過後も87℃又は91℃((1)のイの天然皮革に混色顔料又はペリレン顔料を、塗膜層に用いた場合)、180分経過後も50℃((1)のロの天然皮革に混色顔料を塗膜層に用いた場合)、同じく91℃及び87℃((2)の天然皮革に混色顔料又はペリレン顔料を、塗膜層に用いた場合)、180分経過後も74℃又は65℃を維持しており((3)の天然皮革に混色顔料又はペリレン顔料を、塗膜層に用いた場合)被加熱温度を一定の温度に維持できることを見出した。
これは、従来用いられていない黒色染料及び黒色顔料を用いて製造される天然皮革であり、長時間にわたる赤外線の照射下にさらされる条件下でも温度が上昇しにくい新規な天然皮革であるということができる。
自動車用内装部品に関し、輻射熱による加熱条件下に置かれたとしても従来見られたように白煙を挙げて使用に困難をきたすことを防止して被加熱温度を一定の温度に維持できるということ結果となっている。日光などの赤外線を含む輻射熱の影響下であっても、時間が経過しても一定の温度条件に保つことができ、温度上昇が継続、続行することはないことである。自動車内の熱交換を十分に行うことができるのであれば、車内の温度上昇を阻止することができることを意味している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定の染料により天然皮革を染色して得られる黒色天然皮革は、赤外線反射率が高い。又、この黒色天然皮革の表面に形成するコーティング層には高度に赤外線反射率を高めることができる顔料を存在させることにより、赤外線反射率が高い天然皮革用のコーティング層を得ることができる。
前記黒色天然皮革の表面に前記コーティング層を設置して得られた天然皮革は、150W白熱灯を点灯し、天然皮革の表面温度を経時的に測定すると、180分経過後も一定温度を維持することができるので、天然皮革に赤外線が入り込む環境下に使用されているばあいであっても温度上昇が一定に抑制される結果となる。赤外線照射環境下にあっても十分に使用することに耐える天然皮革を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明により得られる黒色天然皮革は以下の天然皮革である。
[1](1)(イ)SELLASET BLACK BR、又は(2)SELLASET BLACK BR(商品名)、LURAZOL SN(商品名)及びENIAVEL NT(商品名)の混合物から選ばれる黒色アゾ系酸性染料により染色された黒色天然皮革(いずれもなめし剤としてクロムなめしを用いるもの)であり、後で述べる赤外線反射率の測定手段により赤外線反射率を実測した結果から、赤外線反射率が700nmで0.3を超え、800nmでは0.5を超え、1000nmでは0.6を超え、1200nmでは0.8を超えた後に以後1600nmまで0.7を超えている黒色天然皮革である。これら天然皮革の赤外線反射率の測定結果は各々図1、又は図5に示されるとおりである。
[2]SELLAFAST BLACK FN(商品名)を用いて染色するに先立ちグルタルアルデヒドによりなめしが行われ、さらに再なめし剤による再なめしされている黒色天然皮革の場合にも、赤外線反射率は高い結果となる。
【0015】
[3]3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ)−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩である黒色染料により染色された黒色天然皮革であり、後で述べる赤外線反射率の測定手段により赤外線反射率を実測した結果から、その赤外線反射率が700nmで0.2を超え、800nmでは0.8を超え、1000nmでは0.9を超え、1200nmでは0.9を超えた後に以後1400nmまで0.9を超え、1500nmでは0.85を超え、1600nmでは0.92を超えている然皮革である。
これら天然皮革の赤外線反射率の測定結果は各々図9に示される通りである。
図9の結果から明らかなように、従来から見られる赤外線反射率よりも最も高い結果を得ていることがわかる。
【0016】
上記染料の内のSELLASET BLACK BRはTFLの製品名、 LURAZOL SNはBASFの製品名、 ENIAVEL NTはダイナテックの製品名である。
SELLAFAST BLACK FNは、
TFL Ledertechnik Gmbhの製品名である(同社のマテリアル セフティデータ シートによる(2005年6月1日発行(2005年5月31日改定))。
又、3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ)−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(CAS登録番号:70210−06−9、分子量673.670:セラクールブラック:商品名、企業名TFL社 同社のマテリアル セフティデータ シート、2002年2月1日発行、2007.10.29印刷による2006.1.30更新版による。)
【0017】
前記染色工程は、再なめし工程を経て得られる革を対象にして前記染料を用いて染色を行うものである。酸性水性染料を用いて染色される。酸性水性染料は、水性媒体、染料等の成分により構成される。水性媒体とは、水及び水とアルコール等の水溶性溶媒との混合物を意味する。
【0018】
染料を含む組成物は、比較的強酸側(pH=3から4)であり、革重量基準で、水250%、前記染料2.5から4%、アニオン界面活性剤からなる均染剤0.5%からなる水溶性組成物として供給される。
処理温度は50℃程度である。1時間程度ドラム内処理する。
染色工程終了後、ギ酸1%(革に対する重量%)により染料の定着処理を行う。
染色の際の処方は、甲革用表面染色にあたっては厚さ1.4mm程度のクロムなめし成牛革に対する染色は以下の通りである。
再なめし後、400%(シェービング革重量基準、以下同様)の水で水洗し、染色の際には、250%の水(50℃)、0.5%の均染剤、2.5%表面染色性染料(1:20)の水溶液中で処理する。1/2工程を20分回転,残り1/2工程を30回転処理する。定着操作は1%蟻酸(1:10)で、2/3工程を10分間回転、1/3を10分間回転操作する。
革の湿重量に対して、前記アゾ系酸性染料は、2.5重量%〜3.5重量%を用いる。この範囲であれば天然皮革を染め付けるための染料として十分であり、更に表面層を通して入り込む赤外線を入り込むことを防止することができる。
【0019】
このようにして得られる天然皮革では、赤外線反射率が実際に高い結果となるかということを、以下の測定方法により確認した。
皮革サンプルの赤外線反射率の測定は、可視光域(400〜900nm)についてFiberspecマルチチャンネル分光器S-2650、近赤外光域(900〜1600nm)についてはFastevertマルチチャンネル分光器S-2700(いずれも相馬光学株式会社製)を用いて、入射光と反射光の分光の波長分布を調べる。
皮革サンプルに、光ファイバー端から白色光を照射し、反射光を照射と同一方向の反射光を光ファイバーで受けて分光して測定する。 相対反射率は、白色拡散反射標準板(エドモンドオプティクス社)の反射を1として算出する。
前記の染料を用いて染色した天然皮革の赤外線反射率の状態を調べた結果は、前記の図1、図5及び図9の通りである。
【0020】
上記染色の対象となった天然皮革は、(1)皮なめしを行う前の前処理、(2)「なめし」工程、(3)「再なめし」工程の中の、なめし工程より得られた革を、合成なめし及び樹脂からなる再なめし剤を用いて再なめしを行うことにより得られる天然皮革である。以下に、それまでの工程の説明を行う。
【0021】
(1)皮なめしを行う前の前処理及びなめし工程は、原皮水洗・水漬け工程から始め、トリミング工程にいたる工程に含まれる工程である(図16)。
原皮水洗・水漬け工程では、低温貯蔵されて鮮度保持・腐敗防止された原皮が石灰ドラムに移され、塩漬け原皮を水戻しして生皮の状態に戻し、塩・不純物を除去し、石灰漬けのためのpH調整を行う。
フレッシング・トリミング工程では、フレッシングマシン、トリミングマシンに移され、脂肪等の余分な裏ニベを機械的に除去し、塩や不純物も除去され、縁周りを整形する。石灰漬け工程では、石灰ドラムに移され、皮表面の毛を溶解すると共に垢をとり、皮の内部に石灰を浸透させて繊維をほぐす。
生バンドスプリット工程では、バンドマシンに移され、用途に応じた厚さに皮を漉くと共に、皮を銀層と床に分割する。
脱灰・酵解・ピックル工程は以下の通りである
前記石灰の脱灰、酵素による酵解分解、ピックル作業を行う。
なめし工程では、得られた皮をなめし剤でなめして皮を製造する。
脱水工程では革を水絞り機に移し、脱水を行う。次に、傷・穴・面積等の表面状態に応じた等級分けを実施する選別を行う。
シェービング工程では、シェービングマシンに革を移し、用途に応じた厚さに削る。トリミング工程では、トリミング台で不要なボロ切れ目等を切り、後工程での破れを防止して作業性能を高める。
【0022】
(2)なめし工程の特徴は以下の通りである。
前記なめし工程は酸性条件下に皮を、なめし剤を水の存在下に処理するものである。なめし剤は皮のコラーゲン物質に架橋を起こさせて、皮に耐熱性、微生物や化学物質に対する抵抗性を与え、柔軟性を付与する操作である。
なめし剤には、3価のクロム錯体、例えばCr2(SO4)3として表現されるヘキサアコ結晶硫酸を用いるクロム化合物、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド化合物などが用いられている。これらはいずれも従来から知られているものであり、市販のものを購入して使用すればよい。
クロム錯体については以下の通り。
ChromitanB、ChromitanMS、ChromitanFM、BaychromaCH、BaychromaCL,BlancorolRN、BlancorolRCなど。
皮なめし工程ではCr2O3を裸皮に対して2乃至2.5%に相当する濃度のクロム塩が供給されるが、このうちの70乃至80%が皮中に固定されずにすぎず、20乃至30%は溢流中に放出されるという。
グルタルアルデヒドについては、以下の通りである。
市販のグルタルアルデヒドを購入して使用する場合には、レルガンGT−50、レルガンGT−24、レルガンGTW(BASF社製)、デルガン−2080、デルガン−3080、デルガン−Z(Schill+Seilacher社製)、ユーカーなめし剤GA−25、ユーカーなめし剤GA−50などを用いることができる。
グルタルアルデヒドの使用量は革重量を基準にして、1乃至10重量%程度である(特開平08−232000)。
いずれもなめし剤は皮革成分と化学的に結合する。
そのほか、合成なめし剤(合成なめし剤については、再なめし工程のところで説明する。)、植物タンニン(ミモサME、ミモサFE、ケブラッチョなど)を用いることができる。いずれも従来から知られているものであり市販のものを購入して使用すればよい。
【0023】
再なめし工程・染色工程・加脂工程は一つのドラム内で処理が行なわれる。
各工程の終了後には十分に水洗操作が行われ、前の工程の結果が後の工程に影響を及ぼすことがないように行われている(図17)。
【0024】
再なめし工程では、再なめし剤として、合成なめし剤、植物なめし剤などが用いられる。場合によっては、前記なめし剤であるクロムやグルタルアルデヒドなど添加して使用することもある。
再なめしに際し中和されているかどうかを予め確認して行う。革の断面にpH指示薬を滴下し、その変色層を観察して行う。おおよその目安として甲革タイプで表面層はpH5から6、内部層は3から4程度とされている。
【0025】
(1)合成なめし剤としては、以下のなめし剤が用いられる。
芳香族スルホン酸(主としてナフタレン及びフェノールのスルホン酸)のホルムアルデヒド縮合物、アミノ化合物とホルムアルデヒドとの縮合物などについては、以下の通りである。
(イ)フェノールのスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物としては以下のものが知られている。
(a)フェノールスルホン酸およびビスヒドロキシフェニルスルホンを、1:3のモル比で、水溶液中において6〜9のpHで、ホルムアルデヒド2モルと100〜120℃で縮合させ、硫酸でpHを3.5に調節し、フタル酸で酸価(AN)を120に調節し、乾燥させる。
(b)フェノールスルホン酸(65%溶液)ナトリウム塩を、ビスヒドロキシフェニルスルホン(55%懸濁液)と、2.5:1のモル比で混合する。ホルムアルデヒド(30%溶液)2.5当量を高温の混合物に添加し、112〜115℃で3時間縮合させる。粗縮合物を、アジピン酸で酸価100に調節し、乾燥させる。
フェノールスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物の分子量分布は、有機溶剤で展開するゲルクロマトグラフィーにより測定すると,Mw400〜4000に分布しており、中心はMw3000前後である。
これらは以下の市販品を購入して使用することができる。
フェノールスルフォン酸ホルムアルデヒド重縮合物:Basyntan DLX-N、MLB、SL、SW Liquid、Tamol NNOL(BASF社製)、Tanigan WLF(LANXESS社製)
(ロ)ナフタレンのスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物
(a)ナフタレンをH2SO41.4当量で、145℃で2時間スルホン化させる。このようにして得られたナフタレンスルホン酸の混合物1000g、ビスヒドロキシフェニルスルホン800gおよび37%ホルムアルデヒド溶液250mlを100〜120℃で3時間縮合させる。得られた生成物をpH3.5に調節し、水酸化ナトリウム溶液およびフタル酸でANを80とし、噴霧乾燥させる。
以下によっても製造可能である。
(b)ナフタレンをH2SO41.4モルで、145℃で3時間スルホン化させ、ホルムアルデヒド0.66モルと3時間縮合させ、冷却し、pHを3.5に調節し、水酸化ナトリウム溶液およびグルタル酸でANを50とし、噴霧乾燥させる。
これらの分子量分布は、有機溶剤で展開するゲルクロマトグラフィーにより測定するとMw200〜2000程度であり、中心はMw1300であるとされる。
いずれも市販品を購入して使用することができる。
ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドの重縮合物:Basyntan FC、Tamol NA(BASF社製)、Ukatan GM(Schill+Seilacher社製)、Tanigan BN(LANXESS社製)、Irgatan LV(TLF社製)、BELLCOTAN A、PT、PS(日本精化株式会社製)
(ハ)フェノールスルホン酸、尿素及びホルムアルデヒドの縮合物
フェノール1モルおよび硫酸0.5モル、ウレア1モルおよびホルムアルデヒド0.9モルを、100〜110℃での強酸性反応下に処理し、得られた縮合物を、水酸化ナトリウム溶液0.2モルで緩衝させる。このようにして得られた中間生成物を、さらにフェノール0.8モルおよびホルムアルデヒド1.2モルと縮合させ、冷却し、pHを3.5に調節し、水酸化ナトリウム溶液、ギ酸およびフタル酸でANを80とし、噴霧乾燥させる。
購入して使用する場合には、以下の化合物がある。
Basyntan(登録商標)DLX)を購入して使用することができる。
(2)樹脂なめし剤を用いる場合
尿素、ジシアンジアミド、メラミンなどのアミノ化合物とホルムアルデヒドとの縮合物を主成分とするものである。
メラミンホルムアルデヒド縮合物と尿素ホルムアルデヒド゛縮合物の混合物としてはRelugan D、又はDLF、S(BASF社製)などを使用できる。
ポリアクリル酸系の樹脂なめし剤としては、ReluganSE,RE,RV(BASF社製)、LuburitanGX(Rohm and Haas社製)などが使用できる。
【0026】
再なめし工程では、使用される合成なめし剤などのなめし剤は、使用された革の重量に対して有利に50〜200%の重量を含んだ水溶液状態で用いられる。
条件は3.0〜8.0、有利に3.5〜6.5のpH範囲内で使用される。再鞣処理は有利に1.5〜24時間、殊に2〜8時間で実施される。
再なめし後、400%(シェービング革重量基準、以下同様)の水で水洗する。
【0027】
再なめし後の染色工程については前記のとおりであり、既に記載したので、この点については省略する。
【0028】
加脂工程は以下の通りである。
加脂工程では加脂剤による処理が行なわれる。
加脂工程は再なめし後の染色工程の次に行われる処理であり、革製品に要求される柔軟性を付与するために行われ、加脂剤と呼ばれる油剤で処理するものである。これらの中には、界面活性性を有するものが少なくない。その結果皮革内部にも浸透しやすいものとなっている。
染色工程を経て加脂工程で処理する革は水に濡れた状態にあり、線維束内、線維間隔に存在する水のために線維の柔軟性が保持されているが、乾燥すると線維同志が膠着して線維及び組織が硬化する。乾燥前に予め線維間に膠着を阻害する物質となる油剤により処理することが効果的である。又、革線維の保護(撥水性、防水性)のような機能、感触、膨らみを付与する。このために加脂工程があり、加脂剤が用いられる。
【0029】
加脂剤には以下のものが含まれる。
これらのうちから選ばれて用いられる。
(1)アニオン性加脂剤は以下の通りである。
(イ)硫酸化油
硫酸化油は天然の不飽和油脂に硫酸を加え、硫酸エステル化したものである。水酸基や二重結合の一部分が硫酸化されている。
硫酸化脂肪酸エステル:Lipoderm Liquor PU(BASF社製)、
合成スルホン化脂質:SYNCUROL KV(MUNZING社製)、
スルホン化エステルと炭化水素の混合物:SYNCUROL 79(MUNZING社製)、スルホン化エステル:SYNCUROL SE(MUNZING社製)、
合成スルホン化エステル:SYNCUROL PF、MAX(MUNZING社製)などがある。
(ロ)スルホン化油
スルホン化油は不飽和基を有する合成油天然油を無水硫酸、発煙硫酸、クロルホン酸などで処理し、分子中の二重結合をスルホン化して中和したものである。
スルホン化油としては、例えば、SKオイルHF(サンプラス社製)、ペラストールES(Zschimmer & Schwarzchemische Fabriken 社製)等が挙げられる。
なお、SKオイルHFは、耐黄変性のある合成スルホン化油であり、未反応の生油50重量%、その硫酸エステル25重量%と加水分解生成物25重量%の混合物である。
此のほか、ターコンFA−200(泰光油脂化学工業社製)、ペルグラソールSF(Zschimmer & Schwarzchemische Fabriken 社製)等が挙げられる。なお、ターコンFA200は、脂肪酸モノグリセライド、天然油のスルホン化油、これらの酸化生成物等の混合物である。
(ハ)亜硫酸化油
亜硫酸化油は不飽和度の高い天然油や合成油を原料として亜硫酸塩をスルホン化剤として得られるスルホン酸塩である。
亜硫酸化魚油、天然油、乳化剤の混合物:Lipsol EB(Schill+Seilacher社製)、亜硫酸化魚油:OPTIMALIN UPNC(MUNZING社製)、植物油、亜硫酸化動物油の水性エマルジョン:Lipoderm Liquor A1(BASF社製)、
(ニ)脂肪酸石鹸、
脂肪酸石鹸は天然の油脂をアルカリ水溶液でケン化すると得られる石鹸である。加脂剤にはアンモニウム塩やカリウム塩も使用される。中性から酸性側で脂肪酸が遊離するため、界面活性成分と中性油の効果がある。
変性脂肪酸:Lipoderm Liquor LA(BASF社製)
(ホ)リン酸化油
卵黄、大豆レシチンなどのリン脂質が用いられてきた。最近では、リン酸化油は高級アルコール又はポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸エステル塩が多く用いられている。
合成油とレシチン油の混合物のエマルジョン:Lipsol LQ(Schill+Seilacher社製)、燐酸エステル油:Lipoderm Liquor PU(BASF社製)
硫酸化植物油、脂肪アルコール燐酸エステル塩及び炭化水素の配合品:リッカーKIM(那木商会)、
(へ)多極性加脂剤はアニオン性、非イオン性及び少量のカチオン性加脂剤の混合物である
(ト)そのほかのアニオン性加脂剤
モノ又はジアルキルコハク酸、アルキルマロン酸、アルキル鎖両末端のカルボン酸塩など錯活性基を有するもの、長鎖アルキル基を有するポリアクリル酸誘導体などがある。
【0030】
(2)カチオン性加脂剤
カチオン性加脂剤には、4級アンモニウム塩、脂肪族アミン、脂肪族ポリアミン縮合物が用いられる。
(3)両性加脂剤
両性加脂剤には同一分子内にアニオンとカチオンの両性を有する加脂剤でレシチンが古くから使用されている。
(4)ノニオン性加脂剤
ノニオン加脂剤は単独で使用されることは少なく、アニオン性及びカチオン性加脂剤と併用される。
天然油と非イオン性界面活性剤の水溶:Lipoderm Liquor IC(BASF社製)、ワックス、天然油及び界面活性剤の混合水溶液:Lipoderm Liquor SC(BASF社製)、非イオン界面活性剤、亜硫酸化油、ナトリウム塩の水溶液:Lipoderm Liquor WF(BASF社製)、天然油、合成油、合成乳化剤の混合物:Lipsol MSG(Schill+Seilacher社製)
(5)中性油、具体的には、(イ)動物油、(ロ)海産動物油、(ハ)植物(ニ)鉱物油、(ホ)合成油などを挙げることができる。
【0031】
加脂剤を含む組成物は以下の通りである。
水は革重量に対して110%から130%、
合成加脂剤は革重量に対して2から5%、
ラノリン系加脂剤は革重量に対して0.6から0.8%、
液のpHは3.5
水温は50℃程度。
以上の組成物をドラム中の革に供給処理し、処理後に十分に水洗して操作を終了する。
【0032】
セッター工程では、なめして柔らかくした革をセッティングマシンに移し、染色後の革の水分を絞り乾燥を容易にする。また、しわを伸ばして革を大きくする。柄干乾燥工程では、革を柄干乾燥機に移し、革を乾燥させて薬品・染料の吸着を完全にし、革を1回乾燥させることにより風合いをだす。味取り工程では、革を味取りシャワー機に移し、酸化防止剤の水溶液を塗布する。乾燥状態にある革に少量の水を塗布することにより味付けを行う。これは、最終的に革の均等な伸び・膨らみ感に関係する。
【0033】
バイブレーション工程では、革をバイブレーションマシンに移し、足先・縁周り等の硬さを取り、空打ちのしわを取り、面積を大きくする。空打ち工程では、革を空打ちドラムに移し、乾燥後の革の繊維をほぐす。その後、乾燥・バフ・バイブレーション工程では、革をフィンバックマシンに移して空打ち後の革をトグルで止めて革を伸ばして乾燥させ(ネット張乾燥)、革を平らにする。革をバイブレーションマシンに移して繊維をほぐし、足先縁周り等の硬さを取り、空打ちのしわを取り、面積を大きくする。そして、生産品の中間検査を行い、等級、紋、風合い、色調、厚度等の項目を検査する。
【0034】
図18は、裏糊スプレー工程及び樹脂塗装工程を示す。裏糊スプレー工程では、水性スプレーによりバッキング処理を行い、塗装面への裏毛羽の付着を防止する。この時、革の裏面に樹脂塗装が施される。革の裏面に樹脂塗装が施されることにより、ガラス曇りの原因物質の放出を物理的に遮断することができる。塗装工程では、リバースコ一タにより革の表面に1回目の顔料塗装を行い、型押し工程では、革の表面への模様付けと傷隠しを行う。
加脂工程を経た天然皮革について、通常行われている処理を行う。セッターにかけて伸ばし操作を行い、柄干し乾燥を行い、味取り、バイブレーション、空うち、乾燥、バフ及びバイブレーション処理を行う。
【0035】
塗装を行う仕上げ工程は、天然皮革の表面にコーティング層を形成する。
このコーティング層は以下の三層から形成される。
ポリウレタン樹脂を含有する下塗り層、中塗り層及びトップコート層いずれかに、少なくとも3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料、又はペリレン顔料を含むコーティング層からなることを天然皮革の表面に設けられるコーティング層である。
【0036】
ポリウレタン樹脂を含有する下塗り層、中塗り層及びトップコート層の少なくとも一層に、少なくとも3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料、又はペリレン顔料により形成される黒色としての役割をはたす顔料を含むコーティング層を用いる。
【0037】
得られた天然皮革基材表面に、顔料を含有した水性塗装剤をコートしてなるボトムコート層と、そのコート層上に水性塗装剤をコートしてなるベースコート層と、さらに、そのコート層上に、トップコート層とを形成する。
(1)ボトムコート塗装
ボトムコート塗装は、顔料を含有した水性塗装剤を用い、ロール塗装あるいはスプレー塗装により行われる。このボトムコートの膜厚は、通常3〜10μmである。塗装後、乾燥処理に付されるが、通常は80℃熱風乾燥機による10分程度の処理で充分である。
乾燥後、ボトムコートの平滑な面を形成せしめるため、プレス処理を行う。ボトムコート塗装においてロール塗装が行われる場合は、プレス処理を省略してもよい。
【0038】
(2) ベースコート塗装
前記のボトムコート塗装に次いでベースコート塗装を行うが、最終製品の色調あるいは諸物性を充分なものとするため、このベースコート塗装は、2度塗り作業により行うことが好ましい。このベースコート塗装に使用する水性塗装剤に対して紫外線吸収剤(特に、酸化亜鉛が好ましい)を含有せしめるが、紫外線吸収剤の量は、水性塗装剤中に使用されているバインダー固形分に対し通常10〜40%である。酸化亜鉛としては水分散タイプのものが用いられる。
【0039】
上記のバインダーとしては、通常、2〜3種類のバインダーが混合使用されるが、アクリル酸エステル系、アクリル−酢酸ビニル系、スチレン−ブタジエン系、アクリロニトリルーブタジエン系、ブタジエン−メタクリレート系、塩化ビニリデン系の合成樹脂バインダーなどがエマルジョンタイプのバインダーとして使用され、また、ポリウレタン系の合成樹脂バインダーが溶液タイプのバインダーとして使用される。
【0040】
2度塗り作業によりベースコート塗装を行う場合には、最初の塗布作業の後、一旦、乾燥処理を行う。この乾燥処理も、通常は80℃熱風乾燥機による10分程度の処理で充分である。ベースコートの膜厚は、通常、トータル膜厚として7〜30μmである。ベースコート塗装終了後、前記と同じく乾燥処理に付する。
【0041】
(3)トップコート塗装
前記のベースコート塗装に次いで、トップコート塗装を行う。二液性ウレタン樹脂塗料を吹き付け塗装する。トップコートの膜厚は、通常10μm程度の厚さである。塗装後、乾燥処理に付されるが、この乾燥処理も前述の各塗装工程における乾燥処理と同様である。
【0042】
ボトムコート塗装は、水性ポリウレタン樹脂や水性ポリアクリル樹脂などの樹脂バインダーと顔料を含有した水性塗装剤で形成され、膜厚は、通常30μmであり、3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料をと樹脂バインダーの割合は(80:400)(重量比)である。
ベースコート(中塗り)は、水性ポリウレタン樹脂や水性ポリアクリル樹脂等の樹脂バインダーと3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料を含有した水性塗装剤で形成され、層の厚みは20μm程度であり、混色顔料と樹脂バインダーの割合は(100:450)(重量比)である。
トップコートは、水性ポリウレタン・アクリル樹脂、水性ポリウレタン樹脂などの樹脂バインダーにより形成されており、層の厚みは10μmであり、3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料と樹脂バインダーの割合は(8:500)である。
【0043】
この工程では処理剤として、ポリウレタン樹脂やアクリル樹脂による塗装が行われる。又、これらに顔料が添加され、色付けが行われる。
【0044】
本発明で用いるペリレン系顔料又は混色顔料は以下の通りである。
【0045】
ペリレン系顔料は赤外線反射率が高い顔料として知られている。
ペリレン系顔料は以下の構造式で示される。
【化1】
(式中、Rはアルキル基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基、アラールキル基、又は窒素含有複素環式芳香族基を示す。)
以下の公開公報などにも具体的に開示されている(特開2004-323534、特開平11-286489)。
以上の構造式で示されるペリレン系黒色顔料を用いる。
ペリレン顔料である、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸ビスイミドは、長い間高度耐光性の建染染料および顔料として、また最近では均一溶液中の蛍光染料として(たとえば、H. Zollinger, Color Chemistry, VCH Verlagsgesellschaft, Weinheim, 1987参照)使われてきた。このほか、ペリレン−3,4−ジカルボキシイミドなどが知られている。
ビス(2−フェニルエチル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸ジイミド、
ビス(メトキシベンジル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸ジイミド、
ビス(ヒドロキシエチル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸ジイミド、
ビス(ヒドロキシヘキシル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸ジイミドなどがある。
一般的な合成経路は、工業的に製造されるペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物(3)と一級アミンとの縮合により可能である。
これらは、TFL社製の皮革用ペリレン顔料及び東洋インキ製造株式会社製のペリレン顔料を購入して用いることができる。
【0046】
ペリレン顔料を用いるときの配合例は以下の通りである。
従来の顔料に比べて堅牢度と赤外線反射率が高いキノン構造(ベンゼン環から誘導され、2つのケトン構造を持つ環状の有機化合物の総称)を持つ染料であるペリレン系黒色顔料を用い、これに赤、青、黄などの顔料を用い、これに赤、青、黄などの顔料を混ぜて色を調整する。一例を挙げれば次表の通りである。
赤、青、黄の顔料については、大日本インキ株式会社製、東洋インキ株式会社製,BASF社製、スタール社製などの顔料のCI、Noより選択して使用する。
【0047】
【表1】
【0048】
多数の顔料を混ぜ合わせて黒色を出す。これを減法混色という。可視光の全域にわたって光を反射しない(吸収する)ようにすれば黒く見えるので、可視光の一部波長域しか吸収しない顔料でも吸収波長域の異なるものを組み合わせて全域を吸収するようにすれば黒色の顔料になる。これを下塗り、中塗り、トップコートのそれぞれの塗装液に混ぜて革の表面に塗る。
一例を示すと以下の通りである。
【0049】
【表2】
【0050】
下塗り、中塗り、トップコートに使用する混色顔料を調製するために用いられる顔料は以下のとおりである。
(1)赤色顔料では以下の通り。
(イ)CI:Pigment Red 161 成分:顔料(縮合多環系顔料)
(ロ)CI:Pigment Red 254 成分:顔料(縮合多環系顔料)
(2)黄色顔料は以下の通り。
(イ)CI:Pigment Yellow 42 成分:顔料(黄色酸化鉄)
(ロ)CI:Pigment Yellow 130 成分:顔料(ジスアゾエロー系顔料)
(ハ)CI:Pigment Yellow 81 成分:顔料(ジスアゾエロー系顔料)
(ニ)CI:Pigment Yellow 128 成分:顔料(縮合アゾ顔料)
(ホ)CI:Pigment Yellow 110 成分:顔料(縮合多環系顔料)
(3)青色顔料は以下の通り。
(イ)CI PIGMENT BLUE 15−2 成分:顔料(銅フタロシアニンブルー)
(ロ)PIGMENT BLUE 60 成分:顔料(アンスラキノン系)
(4)緑色顔料は以下の通り。
(イ)CI:Pigment Green 7 成分:顔料(銅フタロシアニングリーン)
(5)褐色は以下の通り。
(イ)Pigment Red 202 成分:顔料(酸化鉄)
上記CIナンバーの各色顔料の中から適宜選択して、それらを混合して用いることができる。
顔料を混色することについては以下のとおりである。
混色により黒の顔料を得る場合には三色の顔料を混合するが、三色顔料の使用量は全体の20%から50%程度である。三色の顔料として用いられなかったその他の顔料(例えば、赤、黄、青、緑、白など)を相当量使用する。このようにその他の顔料を用いる理由は、ユーザーである自動車会社による色見本とできるだけ合致させるために用いられる。色見本は、黒色だけでも自動車会社1社あたり10種類以上あるが、この見本に色を厳密に合わせて意図する色に合致させることは、品質管理上重要な項目となる。
色見本に色を合わせるために必要な顔料の種類は、機械(カラーマッチングシステム)を用いて選択する。顔料組成を出させる際に、顔料全種を指定しておくと、その中から適切な顔料を選んで組成を決めることができる。
【0051】
黒以外の顔料で混色顔料をつくるときには、基本的には赤、黄、青の3色で目的の黒を出すことができる。実施例で緑、白をわずかに加えているのは、色あわせを容易にするためである。色見本とのずれを修正するときに、はじめの顔料組成に含まれていない顔料を新たに加えると、色の変化を予測しにくいが、少量でも初めから加えておいて、添加量を加減するようにすれば、色の変化を予想しやすく、色あわせが容易になる。
【0052】
以上により得られた前記塗膜を形成した天然皮革に関して白熱灯を照射して
塗膜を形成した天然皮革について温度の上昇の状態
本発明の染料で染色した天然皮革の表面に前記顔料を含む塗膜層を設けた天然皮革に前記と同じく白熱電灯を照射して天然皮革の温度上昇を調べた。
染料としてSELLA COOL BLACK(3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ)−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩])、SELLA SET BLACK BR及びBLACK LURAZOL SN、ENIVEL NTの混合物により染色し、天然皮革の表面に形成する塗膜に用いる顔料として、ペリレン系顔料、混色顔料、カーボンを用いた場合である。
以下の具体例で天然皮革をなめすときに用いたなめし剤はいずれもクロムを用いた場合である。
【0053】
【表3】
【0054】
グルタルアルデヒドを用いて通常の方法でなめした皮革を、再なめしを行い、SELLAFAST BLACK FNにより黒色に染色し、加脂工程を得てえられる天然皮革に混色顔料を用いた塗膜を形成した天然皮革に関して白熱灯を照射した場合の温度上昇の状態を表5に示した。
この際のグルタルアルデヒドなめし剤としてはレルガンGT−50、レルガンGT−24、レルガンGTW(BASF社製)、デルガン−2080、デルガン−3080、デルガン−Z(Schill+Seilacher社製)、ユーカーなめし剤GA−25、ユーカーなめし剤GA−50、などを用いることができる。その後の再なめし剤などは上記の場合と同じである。
【0055】
【表4】
【0056】
本発明で得られる染色層及び染色層の表面にコーティング層を設けた皮革の赤外線反射率の測定は以下による。
赤外線反射率の測定
前記図面に示されている赤外線反射率の測定方法は以下の通りである。
皮革サンプルの赤外線反射率の測定は、可視光域(400〜900nm)について Fiberspecマルチチャンネル分光器S-2650、近赤外光域(900〜1600nm)についてはFastevertマルチチャンネル分光器S-2700(いずれも相馬光学株式会社製)を用いて、入射光と反射光の分光の波長分布を調べる。
皮革サンプルに、光ファイバー端から白色光を照射し、反射光を照射と同一方向の反射光を光ファイバーで受けて分光して測定する。 相対反射率は、白色拡散反射標準板(エドモンドオプティクス社)の反射を1として算出する。
【0057】
以上の手順で得られた天然皮革に関して白熱灯による光を照射して温度上昇の解析を行った。天然皮革の特性を確認する。
150W白熱灯(パワーレフ屋内用、RS100/110V:100W−E、東芝)1灯を試験片及び比較片に対して、高さ15cmの位置に設置し、測定時間に応じた試験片及び比較片の温度を接触温度計で測定する。
【実施例1】
【0058】
クロムなめしを行った天然皮革を、シェービング革の湿重量に対して3重量%のSELLA SET BLACK BRにより染色した天然皮革の赤外線反射率の状態を(図1)に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
黒色染料により染色された染色層にあっては、一般的に前記のように高い結果とならないことが知られている(図13から15参照)。この態様については特開平05−222682号公報(特許3094130号明細書)に記載されている。これらの結果より、本発明の場合は良好な天然皮革であることが明らかである。
【実施例2】
【0059】
クロムなめしを行った天然皮革を、SELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NTを シェービング革の湿重量に対して3重量%である染料により染色した天然皮革の赤外線反射率の状態を(図6)に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
黒色染料を含む染色層にあっては、一般的に前記のように高い結果とならないことが知られている(図13から15参照)。この態様については特開平05−222682号公報(特許3094130号明細書)に記載されている。これらの結果より、本発明の場合は良好な天然皮革であることが明らかである。
【実施例3】
【0060】
クロムなめしを行った天然皮革を、3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(セラクールブラック(商品名、企業名(TFL社製))をシェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の赤外線反射率の状態を示している(図9)。赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
黒色染料を含む染色層にあっては、一般的に前記のように高い結果とならないことが知られている(図13から15参照)。この態様については特開平05−222682号公報(特許3094130号明細書)に記載されている。これらの結果より、本発明の場合は良好な天然皮革であることが明らかである。
【実施例4】
【0061】
実施例1で形成したSELLA SET BLACK BR シェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を測定した結果を図2に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
この結果は、カーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線
反射を示す図4と比較すると十分に効果があることがわかる。
【実施例5】
【0062】
実施例2で形成したSELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NTを シェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を測定した結果を図6に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
この結果は、カーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線
反射を示す図8と比較すると十分に効果があることがわかる。
【実施例6】
【0063】
実施例2で形成したSELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NTを シェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を測定した結果を図7に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
この結果は、カーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線
反射を示す図8と比較すると十分に効果があることがわかる。
【実施例7】
【0064】
実施例2で形成したSELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NTを シェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を測定した結果を図6に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
この結果は、カーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線
反射を示す図8と比較すると十分に効果があることがわかる。
【実施例8】
【0065】
実施例3で形成した3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホ)フェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(CAS登録番号:70210−06−9、分子量673.670:セラクールブラック:商品名、企業名TFL社製 TFL 同社のマテリアル セフティデータ シートによる(2002年2月1日発行)。2007.10.29印刷 2006.1.30更新版)を シェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を測定した結果を図10に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
この結果は、カーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線
反射を示す図12と比較すると十分に効果があることがわかる。
【実施例9】
【0066】
実施例3で形成した3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(セラクールブラック(商品名、企業名(TFL社製))を シェービング革の湿重量に対して3重量%により染色した天然皮革の表面に混色顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を測定した結果を図11に示した。
赤外線反射率が各波長に対して高い状態で推移していることを示している。
この結果は、カーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線
反射を示す図12と比較すると十分に効果があることがわかる。
【実施例10】
【0067】
なめし剤としてグルタルアルデヒド(レルガンGT−50、レルガンGT−24、レルガンGTW(BASF社製)、デルガン−2080、デルガン−3080、デルガン−Z(Schill+Seilacher社製)、ユーカーなめし剤GA−25、ユーカーなめし剤GA−50などを使用できる)を用いて、なめしを行い、その後の再なめし剤などは実施例3の場合と同じ再なめしを行い、酸性の黒色染料であるSELLAFAST BLACK FNにより染色し、加脂工程を得て、この天然皮革の表面
塗膜には混色顔料を用いて天然皮革を作成した。
【実施例11】
【0068】
前記実施例により得られた天然皮革に対して照射試験を行った結果は、次表が示すとおりである。
【0069】
【表5】
【0070】
(1)3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(SELLA COOL BLACK:商品名、企業名(TFL社製))により皮革を染色し、コーティング層にペリレン顔料を含ませて得られる皮革の場合には60分経過して73℃に上昇し、以後同様の温度で経過した。
同じく、コーティング層に混色顔料を含ませて得られる皮革の場合には60分経過して64℃に上昇し、以後同様の温度で経過した。
同じく、コーティング層にカーボンを含ませて得られる皮革の場合には60分経過して93℃に上昇し、白煙をあげて危険な状態となり、以後の赤外線照射を中止した。
結局、このことから、染料に赤外線反射率の高い染料で染色しても顔料に赤外線反射率の高い顔料を用いなければ良好な結果を得ることができないことがわかった。この場合には混色顔料を用いた場合にはより一層温度上昇を低く抑えることができることがわかった。
(2)SELLA SET BLACK BRにより皮革を染色し、コーティング層にペリレン顔料を含ませて得られる皮革の場合には30分経過して91℃に上昇し、以後同様の温度で経過した。
同じく、コーティング層に混色顔料を含ませて得られる皮革の場合には30分経過して86℃に上昇し、以後同様の温度で経過した。
同じく、コーティング層にカーボンを含ませて得られる皮革の場合には60分経過して93℃に上昇し、白煙をあげて危険な状態となり、以後の赤外線照射を中止した。
結局、このことから、染料に赤外線反射率の高いSELLA SET BLACK BRで染色すると、顔料に赤外線反射率の高い顔料を用いることにより86から91℃の範囲に抑制できることがわかった。
(3)SELLA SET BLACK BR、LURAZOL SN及び ENIVEL NTにより皮革を染色し、コーティング層にペリレン顔料を含ませて得られる皮革の場合には60分経過して77℃に上昇し、以後同様の温度で経過した。
同じく、コーティング層に混色顔料を含ませて得られる皮革の場合には60分経過して77℃に上昇し、以後同様の温度で経過した。
同じく、コーティング層にカーボンを含ませて得られる皮革の場合には60分経過して92℃に上昇し、白煙をあげて危険な状態となり、以後の赤外線照射を中止した。
結局、このことから、染料に赤外線反射率のSELLA SET BLACK BR、LURAZOL SN及び ENIVEL NTにより皮革を染色すると、顔料に赤外線反射率の高い顔料を用いることにより77℃程度の範囲に抑制できることがわかった。
又、SELLA SET BLACK BR、LURAZOL SN及び ENIVEL NTの混色染料により染色した場合はSELLA SET BLACK BR単独で染色した場合より温度上昇を抑制できることが分かった。
いずれにしても、この結果よりいずれも温度上昇後は65から91℃の範囲で一定に保たれており温度上昇が抑制されたことがわかる。
【実施例12】
【0071】
実施例10で得られた天然皮革を用いて白熱電灯で照射を行った結果は以下の通りであった。温度上昇が50℃に抑制されており良好な結果を得た。
【0072】
【表6】
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】SELLA SET BLACK BRにより染色された天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図2】SELLA SET BLACK BRにより染色された天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図。
【図3】SELLA SET BLACK BRにより染色された天然皮革の表面に混色顔料を含む塗膜を形成したにより染色された天然皮革の表面に混色顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図4】SELLA SET BLACK BRにより染色された天然皮革の表面にカーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図5】SELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NTにより染色された天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図6】SELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NT により染色された天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図。
【図7】SELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NT により染色された天然皮革の表面に混色顔料を含む塗膜を形成したにより染色された天然皮革の表面に混色顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図8】SELLA SET BLACK BR , LURAZOL SN , ENIVEL NT により染色された天然皮革の表面にカーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図9】SELLA COOL BLACK(3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩)により染色された天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図10】SELLA COOL BLACK(3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩)により染色された天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図。
【図11】SELLA COOL BLACK(3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩)により染色された天然皮革の表面に混色顔料を含む塗膜を形成したにより染色された天然皮革の表面にペリレン系顔料を含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図12】SELLA COOL BLACK(3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ]−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩)により染色された天然皮革の表面にカーボンブラックを含む塗膜を形成した天然皮革の赤外線反射率を示す図
【図13】従来例の黒色染料を用いた場合には赤外線反射率は低いことを示す図
【図14】従来例の黒色染料を用いた場合には赤外線反射率は低いことを示す図
【図15】従来例の黒色染料を用いた場合には赤外線反射率は低いことを示す図
【図16】原皮の処理からなめし工程終了までの処理工程を示す。
【図17】再なめしから表面層の形成までの処理工程を示す。
【図18】裏糊スプレー工程から樹脂塗装工程を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)SELLASET BLACK BR(商品名)又は(2)SELLASET BLACK BR(商品名)、LURAZOL SN(商品名) 及びENIAVEL NT(商品名)の混合物から選ばれる黒色アゾ系酸性染料により染色された天然皮革であり、その赤外線反射率が700nmで0.3を超え、800nmでは0.5を超え、1000nmでは0.6を超え、1200nmでは0.8を超えた後に以後1600nmまで0.7を超えていることを特徴とする黒色天然皮革。
【請求項2】
SELLA FAST BLACK FN(商品名)(黒色アゾ系酸性染料により染色された天然皮革)であり、染色するに先立ちグルタルアルデヒドによりなめしが行われ、さらに再なめし剤による再なめしされていることを特徴とする黒色天然皮革。
【請求項3】
3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ)−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩である黒色染料により染色された天然皮革であり、その赤外線反射率が700nmで0.2を超え、800nmでは0.8を超え、1000nmでは0.9を超え、1200nmでは0.9を超えた後に以後1400nmまで0.9を超え、1500nmでは0.85を超え、1600nmでは0.92を超えていることを特徴とする黒色天然皮革。
【請求項4】
ポリウレタン樹脂を含有する下塗り層、中塗り層及びトップコート層の少なくとも一層に、少なくとも3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料、又はペリレン顔料により形成される黒色としての役割をはたす顔料を含むコーティング層からなることを特徴とする天然皮革の表面に設けられるコーティング層。
【請求項5】
前記請求項1から3いずれか記載の天然皮革の表面に前記請求項4記載の黒色天然皮革の表面に設けられるコーティング層を形成していることを特徴とする黒色天然皮革。
【請求項6】
請求項5記載の黒色天然皮革により被覆されていることを特徴とするステアリングホイール。
【請求項7】
請求項5記載の黒色天然皮革により被覆されていることを特徴とするシフトノブ。
【請求項8】
請求項5記載の黒色天然皮革により被覆されていることを特徴とする自動車内装部品。
【請求項1】
(1)SELLASET BLACK BR(商品名)又は(2)SELLASET BLACK BR(商品名)、LURAZOL SN(商品名) 及びENIAVEL NT(商品名)の混合物から選ばれる黒色アゾ系酸性染料により染色された天然皮革であり、その赤外線反射率が700nmで0.3を超え、800nmでは0.5を超え、1000nmでは0.6を超え、1200nmでは0.8を超えた後に以後1600nmまで0.7を超えていることを特徴とする黒色天然皮革。
【請求項2】
SELLA FAST BLACK FN(商品名)(黒色アゾ系酸性染料により染色された天然皮革)であり、染色するに先立ちグルタルアルデヒドによりなめしが行われ、さらに再なめし剤による再なめしされていることを特徴とする黒色天然皮革。
【請求項3】
3−[エチル[4−[4−[(3−(ソジオスルホフェニル)アゾ)−1−ナフタレニルアゾ]フェニル]アミノメチル]ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩である黒色染料により染色された天然皮革であり、その赤外線反射率が700nmで0.2を超え、800nmでは0.8を超え、1000nmでは0.9を超え、1200nmでは0.9を超えた後に以後1400nmまで0.9を超え、1500nmでは0.85を超え、1600nmでは0.92を超えていることを特徴とする黒色天然皮革。
【請求項4】
ポリウレタン樹脂を含有する下塗り層、中塗り層及びトップコート層の少なくとも一層に、少なくとも3色以上の顔料により形成される黒色としての役割をはたす混色顔料、又はペリレン顔料により形成される黒色としての役割をはたす顔料を含むコーティング層からなることを特徴とする天然皮革の表面に設けられるコーティング層。
【請求項5】
前記請求項1から3いずれか記載の天然皮革の表面に前記請求項4記載の黒色天然皮革の表面に設けられるコーティング層を形成していることを特徴とする黒色天然皮革。
【請求項6】
請求項5記載の黒色天然皮革により被覆されていることを特徴とするステアリングホイール。
【請求項7】
請求項5記載の黒色天然皮革により被覆されていることを特徴とするシフトノブ。
【請求項8】
請求項5記載の黒色天然皮革により被覆されていることを特徴とする自動車内装部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
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【図18】
【公開番号】特開2010−43142(P2010−43142A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206447(P2008−206447)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(591189535)ミドリホクヨー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(591189535)ミドリホクヨー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
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