説明

黒鉛材料の製造方法

【課題】メソカーボン小球体および/またはその焼成物を原料として黒鉛化して、結晶性の高い黒鉛材料を製造する方法の提供。
【解決手段】メソカーボン小球体および/またはメソカーボン小球体の焼成物を、鉄元素および珪素元素の存在下で黒鉛化する黒鉛材料の製造方法であって、該
メソカーボン小球体、メソカーボン小球体の焼成物、鉄元素および珪素元素の合計量に対する鉄元素と珪素元素の合計量の割合が0.1〜25質量%であり、鉄元素と珪素元素の合計量に対する鉄元素の割合が30〜90質量%である黒鉛材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソカーボン小球体および/またはメソカーボン小球体の焼成物を黒鉛化して、高放電容量のリチウムイオン二次電池用負極材料を提供する黒鉛材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は作動電圧が高いこと、電池容量が大きいことおよびサイクル寿命が長いなどの優れた特徴を有し、かつ環境汚染が少ないことから、従来主流であったニッケル・カドミウム電池やニッケル水素電池に代わって広範囲で用いられている。リチウムイオン二次電池が実用可能となったのは、負極材料として安全性に問題があったリチウム金属に代わって、リチウムイオンを層間挿入した炭素材料が、安定した活物質となり得ることが発見され、リチウムイオン二次電池の実用化と性能向上に果たす炭素材料の役割が認識されたことに起因する。
【0003】
近年の携帯電話やノートパソコンなどの携帯電子機器の高性能・高機能化に伴い消費電力が増加し、リチウムイオン二次電池のさらなる高容量化が求められている。リチウムイオン二次電池の容量は、特に負極用炭素材料の質量当りの放電容量が大きな支配要因であるが、質量当りの放電容量は炭素負極材料の中では高純度の天然黒鉛の理論容量372mAh/gが限界であり、負極用炭素材料の放電容量はできるだけ天然黒鉛の理論容量に近づけることが課題である。一方、リチウムイオン二次電池一本当りの放電容量を向上させるためには、体積当りの放電容量を向上させることも重要である。すなわち、負極板の電極密度を向上させ負極活物質をできるだけ充填させることが重要である。
【0004】
しかし、質量あたりの放電容量が最も高いとされる天然黒鉛はその鱗片状組織に由来し、電極密度を向上させようとすると、集電体に対して平行に配向するのでリチウムイオンの活物質内部への挿入が困難になる傾向があった。
そこで、炭素材料の配向を防止するために、球形の炭素材料、例えば、メソカーボン小球体(メソフェーズ小球体)の黒鉛化物を用いる技術が知られている(特許文献1)。しかし、メソカーボン小球体の黒鉛化物を用いても、放電容量は天然黒鉛に及ばない。
【0005】
そこで、メソカーボン小球体を原料とする炭素材料の結晶性を上げて、放電容量を向上させることが考えられる。炭素材料の結晶性を上げる技術の一つとして、金属酸化物(酸化鉄、酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化珪素など)および/または金属(銅、白金またはパラジウム)をメソフェーズ小球体の炭素化触媒として用い、該小球体を加熱し炭素化する技術が知られている(特許文献2)。また、黒鉛化可能な骨材(コークス粉末など)または黒鉛と黒鉛化可能なバインダ(ピッチ、タールなど)とを、黒鉛化触媒(チタン、珪素、鉄などの金属もしくはその酸化物または炭化物)を用いて2500℃以上の温度で焼成して、黒鉛化する技術が知られている(特許文献3)。
しかし、これらの改良技術で得られた黒鉛材料の結晶性は充分に高くはなく、該黒鉛材料を用いた負極材料、負極からなるリチウムイオン二次電池の放電容量も満足できるものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平4−115457号の特許請求の範囲、第3頁左上欄
【特許文献2】特開2001−107057号の特許請求の範囲、段落0053
【特許文献3】特開2004−6358号の特許請求の範囲、段落0020〜0023
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、メソカーボン小球体および/またはその焼成物を原料に用いて黒鉛化して得られた黒鉛材料を、負極材料、負極に用いたときに、リチウムイオン二次電池の放電容量を高くすることができる黒鉛材料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、メソカーボン小球体および/またはメソカーボン小球体の焼成物を、鉄元素および珪素元素の存在下で黒鉛化する黒鉛材料の製造方法であって、前記したメソカーボン小球体、メソカーボン小球体の焼成物、鉄元素および珪素元素の合計量に対する鉄元素と珪素元素の合計量の割合が0.1〜25質量%であり、前記した鉄元素と珪素元素の合計量に対する鉄元素の割合が30〜90質量%であることを特徴と黒鉛材料の製造方法、である。
【0009】
本発明の黒鉛材料の製造方法は、前記鉄元素が鉄および/または鉄化合物の形態であり、ならびに前記珪素元素が珪素および/または珪素化合物の形態であることが好ましい。
【0010】
本発明の黒鉛材料の製造方法は、前記鉄元素および前記珪素元素が、鉄と珪素の化合物の形態であることが好ましい。
【0011】
本発明の黒鉛材料の製造方法は、前記黒鉛材料がリチウムイオン二次電池の負極材料であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のメソカーボン小球体および/またはその焼成物を黒鉛化してなる黒鉛材料は、結晶性が高く、これをリチウムイオン二次電池の負極材料として用いた場合、放電容量が高いリチウムイオン二次電池を提供できるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者は、黒鉛化触媒について、詳細に検討した結果、鉄元素(鉄化合物を含む)と珪素元素(珪素化合物を含む)を併用すると、相乗効果により、原料のメソカーボン小球体の黒鉛化が進み、結晶性が向上し、また、該黒鉛材料をリチウムイオン二次電池の負極材料として用いた場合、放電容量も向上できることを見出し、本発明の黒鉛材料の製造方法を完成した。
【0014】
本発明の黒鉛材料の製造方法は、メソカーボン小球体および/またはメソカーボン小球体の焼成物(以後、単にメソカーボン小球体または小球体とも記す)を、鉄元素および珪素元素を触媒に用いて黒鉛化する際に、鉄元素および珪素元素の存在量を特定範囲に調整して黒鉛化する方法である。これにより、黒鉛材料の結晶性を高め、もって、リチウムイオン二次電池の放電容量を高めることができるのである。すなわち、メソカーボン小球体、メソカーボン小球体の焼成物、鉄元素および珪素元素の合計量に対する鉄元素と珪素元素の合計量の割合を0.1〜25質量%に、かつ鉄元素と珪素元素の合計量に対する鉄元素の割合を30〜90質量%に調整して焼成し黒鉛化することにより、前記黒鉛材料を製造する方法である。
【0015】
(メソカーボン小球体)
本発明の黒鉛材料の出発原料である、メソカーボン小球体は、コールタール、タール軽油、タール中油、タール重油、ナフタリン油、アントラセン油、コールタールピッチ、ピッチ油、酸素架橋石油ピッチ、ヘビーオイルなど、好ましくはコールタールピッチ、石油系ピッチから、例えば、次の方法で調製される。
フリーカーボンを0.01〜2質量%、好ましくは0.3〜0.9質量%含有する石油系または石炭系のタールピッチ類を350〜1000℃、好ましくは400〜600℃、より好ましくは400〜450℃で熱処理すると、光学的異方性を有する球状体、すなわち、メソカーボン小球体が生成する。該小球体は熱処理後のピッチ中に1〜50質量%、好ましくは15〜40質量%の割合で存在する。これから、タール中油などを用いて抽出し、ろ過して、メソカーボン小球体を得ることができる。
【0016】
本発明に使用されるメソカーボン小球体の焼成物は、前記メソカーボン小球体を300
〜1200℃で熱処理(焼成)して得た炭素材料であり、揮発分の含有量を2.0〜30質量%、好ましくは3〜10質量%に調整したものである。該焼成により、該小球体の結晶性が向上する。
本発明の黒鉛材料の製造の原料として、メソカーボン小球体とメソカーボン小球体の焼成物を併用する場合の、組成比は何ら制限されないが、焼成物の比率が高い方が、黒鉛化の際の、該小球体の凝集が少ない。
メソカーボン小球体およびメソカーボン小球体の焼成物の平均粒径は数μm〜数十μm、好ましくは10〜70μm、さらに好ましくは15〜40μmである。球形は球に近いほど好ましいが、例えば、楕円球形であっても差支えない。
【0017】
(黒鉛化触媒)
本発明に使用される黒鉛化触媒は鉄元素と珪素元素である。もちろん、鉄元素および珪素元素とはこれらの金属元素自体、鉄化合物および珪素化合物を含む意味である。鉄化合物および珪素化合物としては、酸化物、複酸化物、塩化物、窒化物などの無機化合物、アルコキシシラン、クロロシラン、酢酸化物などの有機化合物が例示される。好ましいのは無機化合物であり、より好ましいのはFe、Fe、FeO、SiO、SiOなどの酸化物、複酸化物や、フェロシリコンであり、テトラメトキシシシラン、ジメチルジメトキシシランなどである。特に好ましいのはFe、テトラメトキシシシランとフェロシリコンである。
鉄元素および珪素元素の平均粒径は、少ない使用量で最大限の効果を引き出すために、小粒径であるほど好ましく、1nm〜100μmであり、好ましくは1nm〜10μmであり、さらに好ましくは1nm〜1μmである。
【0018】
鉄元素および珪素元素は、それらの合計量として、メソカーボン小球体、メソカーボン小球体の焼成物、鉄元素および珪素元素の合計量に対し0.1〜25質量%、好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%の割合で使用される。該合計量が0.1質量%未満であると、触媒効果が不十分で、黒鉛材料の結晶性を充分高くすることができない。一方、該合計量が25質量%超であると、利用されない鉄元素および珪素元素が存在し、経済的に無駄である。よって、該範囲の逸脱を回避しなければならない。
なお、例えば、鉄元素が酸化鉄の場合の鉄元素の量は、酸素を含めない量である。
また、鉄元素は、鉄元素および珪素元素の合計量に対し30〜90質量%、好ましくは40〜80質量%、さらに好ましくは50〜70質量%の割合で使用される。該範囲を逸脱すると、黒鉛材料の収率が低下し、得られる黒鉛材料の結晶性を充分高くすることができない。該合計量が30質量%未満であると、触媒の能力が低下し、得られる黒鉛材料の結晶性を充分高くすることができない。一方、該合計量が90質量%超であると、黒鉛化時に鉄とカーボンが反応し、セメンタイト(FeC)を生成し、セメンタイトが高温で分解するときに、メソカーボン小球体の表面を損耗してしまうという弊害がある。よって、該範囲の逸脱を回避しなければならない。
鉄元素および珪素元素の合計量と、鉄元素の量を前記範囲に限定することにより、黒鉛化により得られた黒鉛材料の結晶性が高くなり、リチウムイオン二次電池の放電容量が、相乗的に一段と高くなる([図2]を参照)。これより、鉄元素および珪素元素は、単なる触媒以上の作用効果を発揮していることが推定される。
【0019】
メソカーボン小球体、その焼成物、鉄元素、および珪素元素の混合は特に限定されないが、鉄元素および珪素元素を予め溶媒に入れ、混合し分散させて得た分散液をメソカーボン小球体、その焼成物と混合後、ろ過分離し乾燥してから、黒鉛化することが好ましい。これは、メソカーボン小球体などの混合、分散が均一になり、黒鉛化の効率が向上するからである。分散溶媒としては、アセトン、トルエン、タール中油などの有機溶媒が好ましく使用される。該乾燥は、鉄元素および珪素元素が酸化しない条件、例えば、50〜120℃で真空乾燥または窒素雰囲気で熱風乾燥すればよい。
【0020】
(黒鉛化方法)
本発明の黒鉛化方法は、例えば、下記の方法で実施される。
(1)コールタールピッチを加熱して、メソカーボン小球体を生成させた熱処理ピッチに、鉄元素および珪素元素またはそれらの溶媒分散液を添加し、混合した後、タール中油などを添加して、ろ過し、必要ならば、乾燥と、洗浄を行って得た、メソカーボン小球体混合物を加熱して、焼成し黒鉛化する方法
(2)コールタールピッチを加熱して、メソカーボン小球体を生成させた熱処理ピッチに、タール中油などを添加して、ろ過し、必要ならば、乾燥と、洗浄を行った後、鉄元素および珪素元素またはそれらの溶媒分散液を添加し、混合して得た、メソカーボン小球体混合物を加熱して、焼成し黒鉛化する方法
(3)メソカーボン小球体および/またはメソカーボン小球体の焼成物に、鉄元素および珪素元素またはそれらの溶媒分散液を添加し、混合して得た、メソカーボン小球体および/または該小球体の焼成物の混合物を加熱して、焼成し黒鉛化する方法
【0021】
前記黒鉛化方法は、例えば、タンマン炉、アチソン炉などの黒鉛化炉を用いて、真空、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの非酸化性雰囲気下で、2500℃以上、好ましくは2800℃以上、さらに好ましくは3000℃近辺の温度で高温熱処理して黒鉛化する。黒鉛化に要する時間は、0.5〜80時間、好ましくは2〜20時間である。
黒鉛化の際に凝集した場合には、負極の厚みより大きい粒径(最大粒径)の粗粒を分級により除去して粒度調整することが好ましい。
【0022】
本発明の製造方法で得られた黒鉛材料は、その特徴を活かして種々の用途に使用できるが、特に、該黒鉛材料は黒鉛化触媒や揮発分を実質的に含有しておらず、結晶構造に歪がなく、リチウムイオンが黒鉛構造に入り込むことができるので、リチウムイオン二次電池の負極材料、負極に用いると、該二次電池の放電容量の増大に好結果を与えることができる。
【0023】
リチウムイオン二次電池は、本質的に、充電時にはリチウムイオンが負極中に吸蔵され、放電時には負極から脱離する電池機構である。リチウムイオン二次電池は、通常、負極、正極および非水電解質を主たる電池構成要素とし、正・負極はそれぞれリチウムイオンの担持体からなり、充放電過程における非水溶媒の出入りは層間で行われる。
リチウムイオン二次電池は、負極の単位体積当たりの放電容量が大きい方が好ましく、そのために、負極を構成する負極材料の結晶性が大きいことが望まれる。
【0024】
本発明において、黒鉛材料の結晶性は、X線広角回折法における炭素網面層の面間隔(d002)および結晶子のC軸方向の大きさ(Lc)から判定することができる。すなわち、CuKα線をX線源、高純度珪素を標準物質に使用して、黒鉛材料に対し(002)面の回折ピークを測定し、そのピークの位置およびその半値幅より、それぞれd002およびLcを算出する。算出方法は学振法に従うものであり、具体的な方法は「炭素繊維」(近代編集社、昭和61年3月発行)733〜742頁などに記載されている。
本発明の黒鉛材料の黒鉛構造の発達度合いの指標となるX線回折法によるd002およびLcは、高い放電容量を発現させる観点から、d002≦0.3365nm、Lc≧40nmであるのが好ましく、d002≦0.3362nm、Lc≧50nmであるのがさらに好ましい。
【0025】
本発明のリチウムイオン二次電池の負極材料は、前記のメソカーボン小球体の黒鉛材料を用いること以外は特に限定されず、他の電池構成要素については一般的なリチウムイオン二次電池の要素に準ずる。
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池用の負極材料は、メソカーボン小球体の黒鉛材料を、ポリフッ化ビニリデン樹脂などの結着材との組成物または該結着材で結着した合剤であり、該負極材料を銅箔などの集電体に固着したものがリチウムイオン二次電池用負極である。
【0026】
(負極材料、負極)
本発明のリチウムオン二次電池用負極材料は、例えば、負極合剤ペーストとして調製され、さらに、負極、リチウムオン二次電池に作製される。具体的には、黒鉛化物を分級などによって適当な粒径に調整し、結着材をイソプロピルアルコールなどの有機溶媒または水系溶媒による溶液または分散液と混合することによって負極合剤ペーストを調製し、該ペーストを、集電体の片面または両面に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、負極合剤層が均一かつ強固に集電体に接着した負極を作製することができる。もちろん、上記する方法に限定されるものではなく、前記黒鉛材料と、例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂を、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、水、アルコールなどの溶媒と混合してスラリーとした後、集電体に塗布して負極合剤層を形成することもできる。
結着材は電解質に対して化学的安定性、電気化学的安定性を有するものが好ましく、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などのフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、SBRなどが例示される。これらを併用することもできる。
結着材の使用量は、負極合剤全量の1〜20質量%、好ましくは3〜10質量%である。該負極合剤は、集電体の片面または両面に、層厚10〜300μm、好ましくは40〜100μmになるように塗布される。
負極合剤層には、カーボンブラックなどの導電剤や、炭素繊維などの添加剤を含有させることができる。
【0027】
負極に用いる集電体の形状としては、特に限定されないが、箔状、あるいはメッシュ、エキスパンドメタルなどの網状のものなどが挙がられる。集電体としては、例えば、銅、ステンレス、ニッケルなどを挙げることができる。集電体の厚みは、箔状の場合、5〜20μm程度であることが好ましい。
負極は、通常の成形方法に準じて行うことができる。例えば、黒鉛化物と、結着材粉末とを乾式混合し、金型内でホットプレス成形して、作製することもできる。さらに、負極合剤層を形成した後、プレス加圧などの圧着を行うと、負極合剤層と集電体との接着強度をさらに高めることができる。
【0028】
(正極)
正極活物質としては、充分量のリチウムイオンを吸蔵・脱離し得るものを選択することが好ましい。そのような正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物(V25、V613、V24、V38など)およびリチウム化合物などのリチウム含有化合物、一般式MMO68-Y(式中Xは0≦X≦4、Yは0≦Y≦1の範囲の数値であり、Mは遷移金属などの金属を表す)で表されるシェブレル相化合物、活性炭、活性炭素繊維などを挙げることができる。
前記リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属との複合酸化物であり、リチウムと2種類以上の遷移金属を固溶したものであってもよい。リチウム含有遷移金属酸化物は、具体的には、LiM(1)1-XM(2)X2(式中Xは0≦X≦1の範囲の数値であり、M(1)、M(2)は少なくとも一種類の遷移金属を表す)またはLiM(1)2-YM(2)Y4(式中Yは0≦Y≦1の範囲の数値であり、M(1)、M(2)は少なくとも一種の遷移金属を表す)で示される。
【0029】
前記のMで示される遷移金属元素としては、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Snなどが挙げられ、好ましくはCo、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Alが挙げられる。
リチウム含有遷移金属酸化物としては、より具体的に、LiCoO2、LiXNiY1-Y2(MはNiを除く遷移金属元素、好ましくはCo、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Alから選ばれる少なくとも一種、0.05≦X≦1.10、0.5≦Y≦1.0である)で示されるリチウム複合酸化物、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24などが挙げられる。
【0030】
前記のようなリチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、Li、遷移金属の酸化物または塩類を出発原料とし、これら出発原料を組成に応じて混合し、酸素雰囲気下600〜1000℃の温度範囲で焼成することにより得ることができる。なお、出発原料は酸化物または塩類に限定されず、水酸化物などからも合成可能である。
本発明では、正極活物質は、前記化合物を単独で使用しても2種類以上併用してもよい。例えば、正極中には、炭酸リチウムなどの炭素塩を添加することもできる。
【0031】
このような正極材料によって正極を形成するには、例えば、正極活物質と結着材および電極に導電性を付与するための導電剤よりなる正極合剤を集電体の両面に塗布し乾燥して正極合剤層を形成する。正極合剤層を形成した後、さらにプレス加圧などの圧着を行ってもよい。これにより正極合剤層が均一かつ強固に集電体に接着される。
結着材としては、負極で使用されるポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などのフッ素系樹脂、SBRなどのエラストマー、ポリエチレンなどが使用可能である。正極合剤層を形成するに際しては、従来公知の導電剤や結着剤などの各種添加剤を適宜使用することができる。導電剤としては、例えば、カーボンブラックなどの黒鉛質粒子が用いられる。
【0032】
集電体の形状は特に限定されず、箔状またはメッシュ、エキスパンドメタルなどの網状などのものが用いられる。例えば、集電体としては、アルミニウム、ステンレス、ニッケルなどを挙げることができる。その厚さとしては10〜40μmのものが好適である。
【0033】
(電解質)
本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる電解質としては、通常の非水電解液に使用されている電解質塩を用いることができ、例えば,LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiB(C65)、LiCl、LiBr、LiCF3SO3、LiCH3SO3、LiN(CF3SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3CH2OSO2)2、LiN(HCF2CF2CH2OSO2)2、LiN[(CF3)2CHOSO22、LiB[C63(CF3)2]、LiAlCl4、LiSiF6などのリチウム塩を用いることができる。特に、LiPF6、LiBF4が酸化安定性の点から好ましく用いられる。
電解液中の電解質濃度は0.1〜5mol/lが好ましく、0.5〜3.0mol/lがより好ましい。
【0034】
前記非水電解質は、液系の非水電解液としてもよいし、固体電解質あるいはゲル電解質など、高分子電解質としてもよい。前者の場合、非水系電解質電池は、いわゆるリチウムイオン電池として構成され、後者の場合、非水電解質電池は、高分子固体電解質電池、高分子ゲル電解質電池などの高分子電解質電池として構成される。
液系の非水電解液とする場合には、溶媒として、エチレカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,1−または1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルタトラヒドロフラン、γ−ブチルラクトン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリル、ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3−メチル−2−オキサゾリドン、エチレングリコール、ジメチルサルファイト等の非プロトン性有機溶剤を用いることができる。
【0035】
非水電解質を高分子固体電解質、高分子電解質などの高分子電解質とする場合には、可塑剤(非水電解液)でゲル化されたマトリクス高分子化合物を含むが、このマトリクス高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイドやその架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレート系高分子化合物、ポリアクリレート系高分子化合物、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物などを単独、もしくは混合して用いることができる。
これらの中で、酸化還元安定性の観点などから、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物を用いることが好ましい。
【0036】
これら高分子固体電解質、高分子ゲル電解質に含有される可塑剤を構成する電解質塩や非水系溶媒としては、前述のものがいずれも使用可能である。ゲル電解質の場合、可塑剤である非水電解液中の電解質塩濃度は0.1〜5mol/lが好ましく、0.5〜2.0mol/lがより好ましい。
【0037】
このような固体電解質の作製方法としては特に制限はないが、例えば、マトリックスを形成する高分子化合物、リチウム塩および溶媒を混合し、加熱して溶融する方法、適当な混合用の有機溶媒に高分子化合物、リチウム塩および溶媒を溶解させた後、混合用の有機溶剤を蒸発させる方法、ならびにモノマー、リチウム塩および溶媒を混合し、それに紫外線、電子線または分子線などを照射してポリマーを形成させる方法などを挙げることができる。
また、前記固体電解質中の溶媒の添加割合は10〜90質量%が好ましく、さらに好ましくは30〜80質量%である。10〜90質量%であると、導電率が高く、かつ機械的強度が高く、フィルム化しやすい。
【0038】
本発明のリチウムイオン二次電池においては、セパレーターを使用することもできる。
セパレーターとしては、特に限定されるものではないが、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜などが挙げられる。特に合成樹脂製多孔膜が好適に用いられるが、その中でもポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好適である。具体的には、ポリエチレンおよびポリプロピレン製微多孔膜、またはこれらを複合した微多孔膜などである。
【0039】
本発明のリチウムイオン二次電池においては、初期充放電効率が高いことから、ゲル電解質を用いることも可能である。
ゲル電解質二次電池は、本発明のメソカーボン小球体の黒鉛材料を含有する負極と、正極およびゲル電解質を、例えば、負極、ゲル電解質、正極の順で積層し、電池外装材内に収容することで構成される。なお、これに加えてさらに負極と正極の外側にゲル電解質を配するようにしてもよい。このような黒鉛材料を負極に用いるゲル電解質二次電池では、ゲル電解質にプロピレンカーボネートが含有され、また前記黒鉛材料粉末としてインピーダンスを十分に低くできる程度に小粒径のものを用いた場合でも、不可逆容量が小さく抑えられる。したがって、大きな放電容量が得られるとともに高い初期充放電効率が得られる。
【0040】
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池の構造は任意であり、その形状、形態について特に限定されるものではなく、円筒型、角型、コイン型、ボタン型などの中から任意に選択することができる。より安全性の高い密閉型非水電解液電池を得るためには、過充電などの異常時に電池内圧上昇を感知して電流を遮断させる手段を備えたものであることが好ましい。高分子固体電解質電池や高分子ゲル電解質電池の場合には、ラミネートフィルムに封入した構造とすることもできる。
【実施例】
【0041】
つぎに、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例および比較例では、メソカーボン小球体の黒鉛材料および結着材を含有する負極を用いて、図1に示すような構成の評価用ボタン型二次電池を作製して電池特性を評価した。実電池は、本発明の概念に基づき、公知の方法に準じて作製することができる。
小球体、鉄元素、珪素元素の平均粒径はレーザー回折式粒度分布計[セイシン(株)製、LS−5000]を用い測定し、累積度数が体積分率で50%となる粒径とした。
黒鉛材料の格子面間隔(d002)は、前記したように、X線としてCuKα線を用いて、高純度シリコンを標準物質とするX線回折法[大谷杉郎、炭素繊維、733−742頁(1986)、近代編集社]に基づいて測定した。
黒鉛材料の真密度はJIS R7222に準拠し、ピクノメーターを用い、ブタノールを分散媒として液相置換法で測定した。
【0042】
(実施例1)
コールタールピッチを400〜460℃で加熱し、コールタールピッチ中にメソカーボン小球体を生成させた。該熱処理ピッチ100質量部に対し、タール中油(沸点範囲140〜270℃)600質量部を用いて、メソカーボン小球体を抽出し、ろ過分離した。該小球体を、窒素ガス雰囲気下、340℃で焼成した。得られたメソカーボン小球体のベンゼン不溶成分は98.0質量%、キノリン不溶成分は89.5質量%。揮発分は8.5質量%であった。
【0043】
焼成した小球体(平均粒径32μm)に、純鉄(平均粒径50nm)4.0質量%および純珪素(平均粒径10nm)1.0質量%添加した。得られた混合物100gに、タール中油200mlを滴下し、超音波洗浄器を用いて、20分間攪拌し、分散させた。得られた分散体を、メンブランフィルターを設置した吸引ろ過機記を用いて、タール中油を分離した。分離された残渣を真空乾燥機を用いて、60℃で2時間乾燥した。
乾燥後の混合物を黒鉛るつぼに充填し、タンマン炉を用いて、2800℃で5時間加熱し、焼成および黒鉛化を行い、黒鉛材料を得た。黒鉛材料の物性を表1に示した。
【0044】
前記メソカーボン小球体の黒鉛材料90質量%と、ポリフッ化ビニリデン樹脂10質量%とを、N−メチルピロリドン溶媒中で混合し、ホモミキサーを用いて、500rpmで5分間攪拌して、負極合剤ペーストを調製した。
該ペーストを200μmのクリアランスのドクターブレード塗布器具を用いて、集電体である銅箔の片面に均一な厚さに塗布し、真空中90℃でN−メチルピロリドンを揮発させ乾燥した。次に、ローラープレスで加圧後、直径15.5mmの円板を打抜いて、作用電極を作製した。
対極は、リチウム金属箔(厚さ10μm)をニッケルネット(200メッシュ)に押付け、直径15.5mmの円板を打抜いて作製した。
【0045】
非水電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比1:2とした混合溶媒に、LiPF6を1mol/lとなる濃度で溶解して調製した。得られた非水電解液を、ポリプロピレンの多孔質体に含浸させ、電解質が含浸したセパレーターを作製した。
【0046】
評価電池として図1に示すボタン型二次電池を用いた。
該評価電池は、外装カップ1と外装缶3とは、その周辺部において絶縁ガスケット6を介してかしめられた密閉構造を有する。
この評価電池は、電解液を含浸させたセパレーター5を、集電体7bに密着した作用電極2と、集電体7aに密着した対極4との間に挟んで積層した後、作用電極2を外装カップ1内に、対極4を外装缶3内に収容して、外装カップ1と外装缶3とを合わせ外装カップ1と外装缶3との周辺部を、絶縁ガスケット6を介してかしめ密閉して作製した。
該評価電池は、実電池において負極活物質として使用可能なメソカーボン小球体の黒鉛化物を含有する作用電極2と、リチウム金属箔からなる対極4とから構成される電池である。
【0047】
前記評価電池について、25℃の温度下で下記のような充放電試験を行った。
0.9mAの電流値で回路電圧が0mVに達するまで定電流充電を行い、回路電圧が0mVに達した時点で定電圧充電に切り替え、さらに電流値が20μAになるまで充電を続けた。その間の通電量から充電容量を求めた。その後、120分間休止した。
なお、この試験では、リチウムイオンを負極合剤中に吸蔵する過程を充電、負極合剤から脱離する過程を放電とした。
次に0.9mAの電流値で、回路電圧が1.5Vに達するまで定電流充電を行い、その間の通電量から充電容量と放電容量を求め、次式から不可逆容量と初期充放電効率を計算した。該黒鉛材料1g当たりの放電容量(mAh/g)、不可逆容量(mAh/g)および初期充放電効率(%)の値を表2に示した。
不可逆容量(mAh/g)=第一サイクルの充電容量(mAh/g)−第一サイクルの放電容
量(mAh/g)
初期充放電効率(%)=(第一サイクルの放電容量/第一サイクルの充電容量)
×100
【0048】
(実施例2〜6、9〜10、比較例1〜5)
表1に示す原材料を用いた以外、実施例1と同様な方法と条件で黒鉛材料を製造し、さらに、負極材料、負極および評価電池を作製した。そして、実施例1と同様な方法と条件で、黒鉛材料の物性測定および評価電池の特性評価を行った。結果を表2に示した。
また、実施例1〜3と比較例1〜2、5の、鉄元素の(鉄元素+珪素元素)に対する割合と、放電容量の関係を図2に示した。
【0049】
(実施例7)
実施例1のメソカーボン小球体に、鉄が3質量%および珪素が1質量%になるように、酸化鉄(III)およびテトラメトキシシラン[Si(OCH]をタール軽油に分散して添加し、攪拌した。得られた分散体を、メンブランフィルターを設置した吸引ろ過器を用いて、タール中油を分離した。分離された残渣を真空乾燥機を用いて、60℃で2時間乾燥した。乾燥後の残渣を、実施例1と同様な方法と条件で黒鉛化を行い、黒鉛材料を製造し、さらに、負極材料、負極および評価電池を作製した。そして、実施例1と同様な方法と条件で、黒鉛材料の物性測定および評価電池の特性評価を行った。結果を表2に示した。
【0050】
(実施例8)
実施例1のメソカーボン小球体を500〜1000℃で焼成した焼成物を用いる以外は、実施例7と同様な方法と条件で、黒鉛化を行い、黒鉛材料を製造し、さらに、負極材料、負極および評価電池を作製した。そして、実施例1と同様な方法と条件で、黒鉛材料の物性測定および評価電池の特性評価を行った。結果を表2に示した。
【0051】
図2から、リチウムイオン二次電池の放電容量が、メソカーボン小球体の黒鉛化触媒として鉄元素と珪素元素を特定量で使用することにより、相和以上の効果、すなわち、相乗効果を有することが明らかである。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のメソカーボン小球体の黒鉛材料を含有するリチウムイオン二次電池用負極材料は、リチウムイオン二次電池の負極として用いたときに、高放電容量である。よって、より一層高性能、高機能が要求される携帯電話や、ノートパソコンなどの携帯電子機器の電池としての利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】充放電特性を評価するための評価電池の断面図である。
【図2】黒鉛化触媒である鉄元素、珪素元素の量と、リチウムイオン二次電池の放電容量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1 外装カップ
2 作用電極
3 外装缶
4 対極
5 電解質溶液含浸セパレーター
6 絶縁ガスケット
7a,7b 集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソカーボン小球体および/またはメソカーボン小球体の焼成物を、鉄元素および珪素元素の存在下に黒鉛化する黒鉛材料の製造方法であって、前記したメソカーボン小球体、メソカーボン小球体の焼成物、鉄元素および珪素元素の合計量に対する鉄元素と珪素元素の合計量の割合が0.1〜25質量%であり、前記した鉄元素と珪素元素の合計量に対する鉄元素の割合が30〜90質量%であることを特徴と黒鉛材料の製造方法。
【請求項2】
前記鉄元素が鉄および/または鉄化合物の形態であり、ならびに前記珪素元素が珪素および/または珪素化合物の形態であることを特徴とする請求項1に記載の黒鉛材料の製造方法。
【請求項3】
前記鉄元素および前記珪素元素が、鉄と珪素の化合物の形態であることを特徴とする請求項1に記載の黒鉛材料の製造方法。
【請求項4】
前記黒鉛材料がリチウムイオン二次電池の負極材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の黒鉛材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−31233(P2007−31233A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219339(P2005−219339)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】