説明

(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置

【課題】(亜)硝酸性窒素と多価無機イオンとを含有する排水を膜分離装置で濃縮し、濃縮水を生物学的脱窒装置で脱窒処理するに当たり、膜分離装置における多価無機イオンの不溶化によるスケール化及びそれによる膜分離装置の処理水量及び処理水質が低下を防止する。
【解決手段】(亜)硝酸性窒素と多価無機イオンとを含有する排水に多価無機イオンのスケール化を抑制するスケール防止剤を添加した後膜分離装置2で透過水と濃縮水とに膜分離処理し、濃縮水を生物学的脱窒装置3で脱窒処理する。(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水を膜分離装置2で膜分離するに当たり、多価無機イオンのスケール化を抑制するためのスケール防止剤を添加するため、膜分離装置2における多価無機イオンのスケール化は防止され、膜面へのスケールの析出、沈着による膜差圧の上昇、膜の透過流束(処理水量)の低下、処理水質の低下の問題を引き起こすことなく、長期に亘り、安定かつ効率的な処理を行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸性窒素及び/又は亜硝酸性窒素(以下、これらを「(亜)硝酸性窒素」と称す。)と多価無機イオンとを含有する排水を膜分離装置で濃縮し、濃縮水を生物学的脱窒装置で脱窒処理する装置に係り、特に、(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水を膜分離装置で濃縮する際の多価無機イオンの不溶化によるスケール析出の問題を解決する(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素含有排水を処理する方法として、アンモニア性窒素を含む有機性窒素を生物学的に(亜)硝酸性窒素に硝化し、この(亜)硝酸性窒素を生物学的に窒素ガスにまで還元処理する生物学的脱窒処理方法は周知である。そして、この生物学的脱窒処理に先立ち、(亜)硝酸性窒素を含む硝化処理液を膜分離装置で濃縮し、濃縮水を脱窒処理することも行われている(例えば特開平6−142693号公報)。このような硝化処理液の濃縮によって、(亜)硝酸性窒素の濃度を高めて効率的に生物脱窒処理することが可能となり、また、濃縮によって脱窒槽に導入する水量を低減できるので、脱窒槽を小型化できるという効果も奏される。
【特許文献1】特開平6−142693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、硝化処理液を膜分離装置で濃縮する場合、硝化処理液にカルシウムイオン等の溶解性の低い多価無機イオンが含まれていると、この多価無機イオンが膜分離装置で濃縮されることにより、炭酸カルシウム等のスケールとして膜面で析出・沈着するため、膜分離装置の処理水量及び処理水質が低下してしまう問題があった。
【0004】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、(亜)硝酸性窒素と多価無機イオンとを含有する排水を膜分離装置で濃縮し、濃縮水を生物学的脱窒装置で脱窒処理するに当たり、膜分離装置における多価無機イオンの不溶化によるスケール化及びそれによる膜分離装置の処理水量及び処理水質が低下を防止する(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明(請求項1)の(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置は、硝酸性窒素及び/又は亜硝酸性窒素と多価無機イオンとを含有する排水に、該多価無機イオンのスケール化を抑制するスケール防止剤を添加する手段と、該スケール防止剤が添加された前記排水を、膜分離処理して透過水と濃縮水とに分離する膜分離装置と、前記濃縮水に含有される硝酸性窒素及び/又は亜硝酸性窒素を脱窒処理する生物学的脱窒装置とを有することを特徴とする。
【0006】
請求項2の(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置は、請求項1において、前記スケール防止剤が生分解性のスケール防止剤であることを特徴とする。
【0007】
請求項3の(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置は、請求項1又は2において、前記生物学的脱窒装置が上向流汚泥床式生物学的脱窒装置であることを特徴とする。
【0008】
請求項4の(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記生物学的脱窒装置内の水又は該生物学的脱窒装置に導入される前記濃縮水に無機化合物を添加する手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水を膜分離装置で膜分離するに当たり、多価無機イオンのスケール化を抑制するためのスケール防止剤を添加するため、膜分離装置における多価無機イオンのスケール化は防止され、膜面へのスケールの析出、沈着による膜差圧の上昇、膜の透過流束(処理水量)の低下、処理水質の低下の問題を引き起こすことなく、長期に亘り、安定かつ効率的な処理を行える。
【0010】
このスケール防止剤として生物解性のスケール防止剤を用いた場合には、未反応の余剰のスケール防止剤が後段の生物学的脱窒装置で分解されることにより、残留スケール防止剤による処理水の低下の問題が解決される。また、後段の生物学的脱窒装置において、スケール防止剤が生物解されることで、生物学的脱窒装置内で多価無機イオンが遊離し、この多価無機イオンが汚泥中に取り込まれ、汚泥の沈降性を高めることにより、例えば、上向流汚泥床(USB)式の生物学的脱窒装置において、グラニュール汚泥の沈降性を高めて脱窒槽内の汚泥濃度の維持、処理負荷の維持に有効に機能する。また、脱窒槽の後段に沈殿槽を有する場合においても、沈殿槽における汚泥の沈降性を高めて固液分離性を向上させることができる(請求項2)。
【0011】
本発明において、生物学的脱窒装置はUSB式生物学的脱窒装置であることが、沈殿槽が不要で高負荷処理が可能であることから好ましい。
【0012】
また、本発明においては、スケール防止剤が生物解性ではなく、生物学的脱窒装置において、多価無機イオンが遊離しない場合、或いは、系内の多価無機イオンでは、汚泥の沈降性の向上を十分に図ることができない場合には、系外から無機化合物を添加して汚泥の沈降性を高めるようにしても良い(請求項4)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に図面を参照して本発明の(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【0015】
本発明において、処理対象排水中に含まれる多価無機イオンとは、水系で不溶化してスケール化し易いイオンであり、代表的には2価ないし3価のカチオンであり、例えば、Ca2+、Mg2+、Fe3+、Al3+などのイオンが挙げられる。これらの無機イオンは、水酸イオン、炭酸イオン、リン酸イオン、フッ素イオンなどの不溶化し易い対イオンが存在するとスケール化する。また、SO2−、PO3−、CO2−等のアニオンも共存するイオンによってスケール化するため、これらのアニオンも本発明に係る多価無機イオンに含まれる。
【0016】
このような無機イオンと(亜)硝酸性窒素を含む本発明の処理対象排水としては特に制限はないが、例えば液晶工場排水、半導体工場排水等の有機性窒素含有排水を硝化処理して、含有されるアンモニアやアンモニウム系化合物やアミン系化合物、例えばTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)、MEA(モノエタノールアミン)、その他アミノ酸等の有機性窒素をアンモニア性窒素を経て(亜)硝酸性窒素に変換して得られる硝化処理液が挙げられる。
【0017】
本発明においては、このような(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水を原水として配管11より膜分離装置2に導入して膜分離処理を行うが、この膜分離装置2における無機イオンのスケール化を抑制するために、膜分離装置2への原水導入配管11に設けたスケール防止剤添加手段1で原水にスケール防止剤を添加する。
【0018】
添加するスケール防止剤としては特に制限はなく、微分散化によりスケールを防止するものや、キレート生成により可溶化するものなど、通常用いられているものをいずれも用いることができる。例えば、難生物分解性のスケール防止剤として、例えば、ポリアクリル酸、ポリ無水マレイン酸、ポリアクリルアミド加水分解物、スルホン酸系重合体などの高分子分散剤、ホスホン酸塩、無機ポリリン酸塩、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)などのキレート系防止剤を用いることができる。また、易生分解性のスケール防止剤として、例えば、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリアラニン、ポリロイシン、ポリリシン、ポリアルギン酸などを用いることができる。これらのスケール防止剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0019】
特に易生分解性のスケール防止剤を用いた場合には、未反応の余剰のスケール防止剤が後段の生物学的脱窒装置3で分解されることにより、残留スケール防止剤による処理水質の低下の問題が解決され、また、後段の生物学的脱窒装置3において、スケール防止剤が生物解されることで、生物学的脱窒装置3内で多価無機イオンが遊離し、この多価無機イオンが汚泥中に取り込まれ、汚泥の沈降性を高めることにより、例えば、上向流汚泥床(USB)式の生物学的脱窒装置において、グラニュール汚泥の沈降性を高めて脱窒槽内の汚泥濃度の維持、処理負荷の維持に有効に機能するようになるため好ましい。また、脱窒槽の後段に沈殿槽を有する場合においても、沈殿槽における汚泥の沈降性を高めて固液分離性を向上させることができる。
【0020】
スケール防止剤の添加量は、多価無機イオンのスケール化を抑制できる程度であれば良く、原水の多価無機イオン濃度や膜分離装置2の処理条件(濃縮倍率等)、用いるスケール防止剤の種類等に応じて適宜決定されるが、通常の場合、5〜500mg/L程度である。
【0021】
本発明では、このようなスケール防止剤を添加することにより、原水中の多価無機イオンを分散させて膜分離装置2におけるスケール析出を防止する。
【0022】
スケール防止剤が添加された原水が導入される膜分離装置2の分離膜としては、(亜)硝酸性窒素を濃縮することができる膜を用いたものであれば良く、特に制限はないが、逆浸透(RO)膜、ナノフィルトレーション(NF)膜等を用いることができる。これらの膜分離装置を2段以上に設けても良い。
【0023】
この膜分離装置2では、多価無機イオンのスケール化が防止されることにより、長期に亘り、膜のフラックスを高く維持して安定かつ効率的な膜分離処理を継続することができる。
【0024】
この膜分離装置2の透過水は、原水中の塩類や有機物の殆どが除去された清浄度の高い水であり、配管12より回収して、そのまま、或いは必要な純度に更に処理して水質を向上させた上で再利用することができる。
【0025】
一方、膜分離装置2の濃縮水は、配管13より生物学的脱窒装置3に導入され、脱窒処理される。
【0026】
生物学的脱窒装置3の型式としては特に制限はなく、浮遊活性汚泥式、又は上向流式汚泥床(USB)式等の各種の型式のものを採用することができる。このうち、特に、USB式は、担体や炭酸カルシウムなどを核として直径1〜数mmのグラニュールを形成させて処理を行う方式であり、浮遊活性汚泥式に比べて設置面積が小さく、高負荷化が可能であるという利点があり、好ましい。
【0027】
ところで、一般に、生物処理においては、微生物の増殖及び沈降性向上のために、少量の無機イオンが必要である。前述の如く、スケール防止剤として易生分解性のスケール防止剤を用いた場合には、脱窒工程でのスケール防止剤の生分解によって、多価無機イオンを遊離させて利用することができるが、難生分解性のスケール防止剤を用い、例えば、多価無機イオンがキレート化合物を形成している場合には、脱窒工程において十分な量の無機イオンを供給できない。従って、このような場合には、無機イオンを供給するためには、別途無機化合物を生物学的脱窒装置3の入口又は生物学的脱窒装置3に添加することが好ましい。特に、USB方式においては、発生する窒素ガスの付着や内包によるグラニュールの浮上・流出が問題となるため、高い沈降性をもつグラニュールの形成が、窒素処理負荷を維持するために重要となり、汚泥あるいはグラニュールに無機イオンを取り込ませ、その比重を高めることが有効である。
【0028】
この場合、添加する無機化合物としては、塩化カルシウムや水酸化カルシウム等を用いることができ、その添加量は、必要な汚泥沈降性が得られる程度であれば良い。
【0029】
本発明においては、このようにして生物学的脱窒装置3における無機イオン量を確保することにより、汚泥の沈降性を高め、脱窒槽内の全汚泥量に占める有機汚泥比(VSS/SS)を0.80以下、例えば0.5〜0.8程度に維持して脱窒処理を行うことが好ましい。
【0030】
なお、生物学的脱窒装置3における他の処理条件としては特に制限はない。この生物学的脱窒装置3には必要に応じてメタノール等の水素供与体が添加される。
【0031】
この生物学的脱窒装置3の処理水は配管14より系外へ排出され、更に処理されて回収、再利用されるか放流される。
【実施例】
【0032】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0033】
実施例1
図1に示す装置により、カルシウムイオン濃度45mg/L、NO−N濃度160mg/Lの排水を原水として、200L/dの流量で通水して処理を行った。なお、対象排水での運転は、各工程の装置を立ち上げてから、処理能力が定常状態となった時点で開始した。各装置の運転条件は以下の通りである。
スケール防止剤添加手段:ポリアスパラギン酸を400mg/L添加
膜分離装置:RO膜 日東電工社製「NTR759 HR−S2」
RO膜入口圧=1.3MPa
RO膜出口圧=1.25MPa
循環水量=6L/min
設定透過水量=0.7L/min
設定濃縮水量=0.3L/min
RO給水pH=6.0
生物学的脱窒装置:USB方式
槽容積=3.5L
pH=7.5
温度=35℃
水素供給体:メタノール1400mg/Lを添加
【0034】
このときの膜分離装置における膜フラックスの低下率及び生物学的脱窒装置におけるVSS/SS比と、生物学的脱窒装置入口水と出口水の硝酸(NO−N)濃度の経時変化を調べ、結果を表1に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1より明らかなように、膜分離装置では運転開始から10日目でも運転開始時と比較して5%以下のフラックスの低下しか観測されず、30日目でも運転開始時の5%以下のフラックス低下で継続して処理することができた。また、生物学的脱窒装置においては、汚泥全体に占める無機汚泥の比率はほぼ一定値を保ち、除去率90%以上で安定して脱窒処理することができた。
【0037】
比較例1
実施例1において、スケール防止剤の添加を行わなかったこと以外は同様にして処理を行い、膜分離装置における膜フラックスの低下率及び生物学的脱窒装置におけるVSS/SS比と、生物学的脱窒装置入口水と出口水の硝酸濃度の経時変化を調べ、結果を表2に示した。
【0038】
【表2】

【0039】
表2からも明らかなように、本比較例では、運転日数を経るごとに、膜面へのスケールの付着によって徐々に膜分離装置のフラックスが低下し、10日目にはフラックスは運転開始時と比較して40%以上も低下した。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【符号の説明】
【0041】
1 スケール防止剤添加手段
2 膜分離装置
3 生物学的脱窒装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸性窒素及び/又は亜硝酸性窒素と多価無機イオンとを含有する排水に、該多価無機イオンのスケール化を抑制するスケール防止剤を添加する手段と、
該スケール防止剤が添加された前記排水を、膜分離処理して透過水と濃縮水とに分離する膜分離装置と、
前記濃縮水に含有される硝酸性窒素及び/又は亜硝酸性窒素を脱窒処理する生物学的脱窒装置とを有することを特徴とする(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置。
【請求項2】
請求項1において、前記スケール防止剤が生分解性のスケール防止剤であることを特徴とする(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記生物学的脱窒装置が上向流汚泥床式生物学的脱窒装置であることを特徴とする(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記生物学的脱窒装置内の水又は該生物学的脱窒装置に導入される前記濃縮水に無機化合物を添加する手段を有することを特徴とする(亜)硝酸性窒素及び多価無機イオン含有排水の処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−175362(P2006−175362A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371496(P2004−371496)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】