説明

1β−メチルカルバペネム誘導体およびその製造方法

本発明の目的は優れた抗菌活性及びDHP−I酵素に対する優れた安定性を有する新規な1β−メチルカルバペネム誘導体、前記1β−メチルカルバペネム誘導体の製造方法、前記1β−メチルカルバペネム誘導体の製造に有用な中間体及び前記1β−メチルカルバペネム誘導体またはその薬学的に許容される塩を活性成分として含む薬学組成物を提供することである。本発明の1β−メチルカルバペネム誘導体はDHP−Iに対し安定であり、グラム陽性菌及びグラム陰性菌の両方とも優れた抗菌活性を示すため、抗生剤として非常に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な1β−メチルカルバペネム誘導体、その製造方法およびこれを含む薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カルバペネム系抗生剤は、グラム陽性菌及びグラム陰性菌のいずれに対してもセファロスポリン系またはペニシリン系抗生剤より広範囲で且つ強力な抗菌活性を示すだけでなく、特に耐性菌株に優れた效果を示すため、最も理想的な抗生剤として注目されている。
【0003】
Merck社が1979年に開発したイミペネム(imipenem (N-formimidoly thienamycin)、MK-0787)は最初のカルバペネム系抗生剤であって優秀な抗菌活性を示す(J.Med.Chem.1979, 22, 1435)。しかし、これは腎臓から分泌されるヒト腎デヒドロペプチダーゼーI(dehydropeptidase-I,DHP-I)の加水分解活性によって容易に分解されるため、DHP−I阻害剤であるシラスタチン(cilastatin)を一緒に使用しなければならない。日本の住友化学社が開発したメロペネム(meropenem,SM-7338)はイミペネムのデメリットをほぼ補完した1β−メチルカルバペネム抗生剤である(J.Antibiot.1990,43,519)。メロペネムは、MRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aeruginosa)に対してはイミペネムと同等な抗菌活性を示し、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に対してはイミペネムよりも優れた活性を示すが、生体内における半減期が短く、グラム陽性菌に対する抗菌活性がイミペネムに比べて低い。
【0004】
また、ゼネカ社(Zeneka、イギリス)とMerck社が2001年に商品化したエルタペネム(ertapenem)は、生体内で長い半減期を有し、ESBL(extended spectrum beta lactamase)及びAmpCの分解活性に対しては安定しているが、緑膿菌に対する抗菌活性は劣る(Int.J.Antimicrob.Agents 2002, 20, 136)。
【0005】
したがって、本発明者らは既存の抗生剤の問題点を補完し、優れた抗菌活性を有する新たなカルバペネム抗生剤を開発するために努めてきた。
【非特許文献1】J.Med.Chem.1979,22,1435
【非特許文献2】J.Antibiot.1990,43,519
【非特許文献3】Int.J.Antimicrob.Agents 2002,20,136
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、優れた抗菌活性及びDHP−I酵素に対して優れた安定性を有する新規な1β−メチルカルバペネム誘導体を提供することである。
本発明の他の目的は、前記1β−メチルカルバペネム誘導体の製造方法を提供することである。
【0007】
本発明のまた他の目的は、前記1β−メチルカルバペネム誘導体の製造に有用な中間体を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、前記1β−メチルカルバペネム誘導体またはその薬学的に許容される塩を活性成分として含む薬学組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を達成するため、本発明の第1の態様は、本発明は下記式(I)の1β−メチルカルバペネム誘導体またはその薬学的に許容される塩を提供する。
【化1】

【0010】
本発明の第2態様は、本発明は前記1β−メチルカルバペネム誘導体またはその薬学的に許容される塩の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の第3態様は、本発明は中間体として用いられるチオール誘導体及びその製造方法を提供する。
【0012】
本発明の第4態様は、本発明は前記式(I)の1β−メチルカルバペネム誘導体またはその薬学的に許容される塩を活性抗菌成分として含む薬学組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
発明の1β−メチルカルバペネム誘導体はDHP−Iに対し安定しており、グラム陽性菌及びグラム陰性菌のいずれに対しても優れた抗菌活性を示すため、抗生剤として非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の1β−メチルカルバペネム誘導体は1β−メチルカルバペネムのピロリジン部分の5番位置にカルボン酸置換基を有するイソオキサゾールがビニル基で連結された化合物である。
【0015】
また、本発明の1β−メチルカルバペネム誘導体は薬学的に許容される塩、水和物または溶媒和物の形態で使用され得る。薬学的に許容される塩は、式(I)の化合物のアルカリ金属塩、好ましくはナトリウム塩、または酸付加塩であることができる。前記酸は無機酸または有機酸でもよく、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、クエン酸、酢酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、メタンスルホン酸、グリコール酸、コハク酸、4−トルエンスルホン酸、グルクロン酸、エンボン酸、グルタミン酸、またはアスパラギン酸などを用いることができる。
【0016】
本発明の式(I)の化合物は下記反応式1に示すように、式(II)のカルバペネムエノールリン酸化合物と式(III)のチオール構造を有する中間体化合物から製造することができる。
【化2】

(式中、Allylは−CH−CH=CHであり、Allocは
【化3】

である。)
【0017】
前記製造方法は、
(a)式(II)の化合物と式(III)の化合物とを塩基の存在下で反応させて式(IX)の保護カルバペネム化合物を製造する段階;および
(b)前記式(IX)の化合物を脱保護反応させる段階;を含む。
前記段階(a)で出発物質として用いられた式(II)のカルバペネム中間体は公知の方法によって製造することができる。(Catchpole,C. R. et al. Antimicrob. Agents Chemother. 1992,36,1928)
【0018】
具体的に、前記段階(a)で用いられる塩基としてはトリメチルアミン、トリエチルアミン、N、N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、2、6−ルチジン、ピコリン、N、N−ジメチルアニリン 、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等のような3級アミンであっても良く、N、N−ジイソプロピルエチルアミンが好ましい。前記反応は−10〜10℃の温度範囲、好ましくは0℃で1〜3時間、更に好ましくは1.5時間行う。この段階で用いられる溶媒としてはアセトニトリルが好ましい。
【0019】
段階(b)で、前記式(IX)の保護カルバペネム化合物の脱保護反応は通常の方法に従って行うことができる。例えば、前記保護基はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム及びジ(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウムのようなパラジウム触媒と水素化トリブチルスズ(n−BuSnH)の組み合わせや、好ましくはテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム触媒と水素化トリブチルスズとの組み合わせを用いて、−10〜10℃の温度範囲、好ましくは0℃で1〜3時間、更に好ましくは1.5時間反応させる。この反応で用いられる溶媒としては、ジクロロメタン、ジクロロメタンと水との混合物、またはテトラヒドロフランなどを使用することができ、好ましくはジクロロメタンを用いる。
【0020】
保護基が除去された式(I)のカルバペネム化合物を脱保護と同一条件下でアルカリ金属化合物、好ましくは2−エチルヘキサン酸ナトリウム(SEH)または炭酸水素ナトリウムと10〜60分間反応させて、式(I)の1β−メチルカルバペネム誘導体のナトリウム塩を得ることができる。
前記反応式1で用いられた式(III)の中間体化合物は下記反応式2に示す組み合わせによって製造することができる。
【化4】

(式中、Allylは−CH−CH=CHであり、Allocは
【化5】

であり、Msはメタンスルホニルであり、Acは
【化6】

である。)
【0021】
前記製造方法は、
(a)式(VIII)の化合物をトリフェニルホスフィンと縮合反応させて式(VII)の化合物を製造する段階;
(b)前記式(VII)の化合物と式(VI)の化合物とを塩基の存在下でウィッティヒ反応(Wittig reaction)させて式(V)の化合物を製造する段階;
(c)前記式(V)の化合物を溶媒中でチオ酢酸カリウムで置換反応させて式(IV)の化合物を製造する段階;
(d)前記式(IV)の化合物を溶媒中で脱アセチル化させて式(III)の化合物を製造する段階;を含む。
【0022】
前記段階(b)で出発物質として用いられる式(VI)のアルデヒドは通常の方法(Ohtake, N.et al.J.Antibiot.1997,50,567)によって製造することができる。
【0023】
具体的に、段階(a)では、公知の方法(DeShong,P.et al.J.Org.Chem.1988,53,1356)によって、溶媒中で式(VIII)のブロモイソオキサゾール化合物とトリフェニルホスフィンを縮合反応させて式(VII)のトリフェニルホスホニウム化合物を得る。前記溶媒としてはアセトニトリルまたはジクロロメタン、好ましくはアセトニトリルを用い、前記反応は40〜80℃の温度範囲、好ましくは80℃で2〜5時間、更に好ましくは3時間行われる。
【0024】
段階(b)では、式(VII)の化合物を塩基の存在下で反応させてイリド(ylide)を形成した後、これに式(VI)の化合物を反応させて式(V)のビニル化合物を得る。前記塩基としてはナトリウムビズトリメチルシリルアミン塩またはリチウムビズトリメチルシリルアミン塩、好ましくはナトリウムビストリメチルシリルアミン塩を用い、前記反応は−78℃で2〜5時間、更に好ましくは3時間行われる。この段階で用いられる好ましい溶媒はテトラヒドロフランである。
【0025】
段階(c)では、式(V)の化合物を溶媒中でチオ酢酸カリウム塩と4〜7時間、好ましくは5時間還流させることにより式(IV)のチオアセチル化合物を得、前記溶媒としてはアセトンとジメチルホルムアミドとの混合物、アセトニトリル、アセトンまたはジメチルホルムアミド、更に好ましくはアセトンとジメチルホルムアミドとの混合物(3:1(v/v))を用いる。
【0026】
段階(d)では、式(IV)の化合物を溶媒中でナトリウムチオメトキシドと−10℃から室温までの温度範囲、好ましくは0℃で20〜60分、更に好ましくは30分間脱アセチル化させて式(III)の化合物を得る。この時、溶媒としてアリルアルコールを用いることができる。
【0027】
本発明の1β−メチルカルバペネム誘導体は、臨床分離菌株を含むグラム陽性菌およびグラム陰性菌に対しイミペネム(imipenem)、メロペネム(meropenem)及びエルタペネム(ertapenem)のような公知の抗生剤に比べて非常に優れた抗菌活性を示す。また、DHP−Iに対しても非常に安定であり、公知の抗生剤よりも卓越な半減期及び生体利用率を示す。
【0028】
さらに、本発明の範囲には活性成分として式(I)の1β−メチルカルバペネム誘導体またはその薬学的に許容される塩を薬学的に許容される担体とともに治療有效量だけ含む薬学組成物も含まれる。
【0029】
本発明の薬学組成物は静脈内、腹腔内、皮下などの非経口的経路で投与することができ、通常的な方法に従って注射剤のような非経口投与用製剤として製剤化できる。
本発明の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量はヒトを始めとする哺乳動物の場合、一日当たり0.1〜100mg/kg(体重)であり、好ましくは0.1〜10mg/kg(体重)であり、この量は一日に一回又は数回に分けて投与することができる。しかし、前述した投与量は治療対象の特異体質及び体重、病気の種類及び重症度、製剤の性質、並びに投与期間及び間隔を考慮して変えられる。
【0030】
以下、本発明を実施例によって本詳細に説明する。但し、下記実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲を制限しない。
【実施例】
【0031】
(1R、5S、6S、8R、3’S、5’S)−2−{5’−[(E)−2−(3−カルボン酸またはカルボン酸ナトリウム塩−5−イソオキサゾロ)エテニル]ピロリジン−3’−イルチオ }−6−(1−ヒドロキシエチル)−1−メチルカルバペン−2−エム−3−カルボン酸の製造
【0032】
(段階1)3−アリルオキシカルボニル−5−ブロモメチルイソオキサゾール(式(VIII))の製造
【化7】

3−アリルオキシカルボニル−5−ヒドロキシメチルイソオキサゾール2.30g(12.6mmol)を無水ジクロロメタン30mlに溶解させた後、温度を−20℃に下げてトリフェニルホスフィン3.8g(14.5mmol)を加えた。同一温度で四臭化炭素4.7g(14.2mmol)を前記混合物に加えた後30分間攪拌した。反応混合物を減圧下で濃縮して溶媒を除去した後、残渣をカラムクロマトグラフィで精製して標題化合物1.75g(収率56%)を得た。
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ4.58 (m, 2H), 4.81 (m, 2H), 5.21 (m, 2H), 6.01
(m, 1H), 6.65 (s, 1H).
【0033】
(段階2)3−アリルオキシカルボニル−5−イソオキサゾロメチルトリフェニル臭化ホスホニウム(式(VII))の製造
【化8】

前記段階(1)で製造した3−アリルオキシカルボニル−5−ブロモメチルイソオキサゾール1.72g(7mmol)をアセトニトリル20mlに溶解させた後、トリフェニルホスフィン2g(7.6mmol)を加えた。前記溶液を3時間還流させ、冷却した後で生成した固体をろ過して標題化合物3.2g(収率90%)を得た。
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 4.58 (m, 2H), 4.81 (m, 2H), 5.21 (m, 2H), 6.27 (d, 2H, J=14.7 Hz), 7.12 (s, 1H), 7.67 (m, 6H), 7.82 (m, 9H).
【0034】
(段階3)(3R、5S)−5−[(E)−2−(3−アリルオキシカルボニル−5−イソオキサゾロ)エテニル]−3−メタンスルホニルオキシ−1−アリルオキシカルボニルピロリジン(式(V))の製造
【化9】

前記段階(2)で製造した3−アリルオキシカルボニル−5−イソオキサゾロメチルトリフェニル臭化ホスホニウム3.0g(5.9mmol)をテトラヒドロフラン30mlに加えた後、温度を−78℃に冷却した。−78℃を維持しつつこれに1Mナトリウムビストリメチルシリルアミン/テトラヒドロフラン6.2ml(6.2mmol)を滴加し、温度を−30℃まで上げ、更に約30分間攪拌した。この混合物を再度−78℃まで冷却した後、テトラヒドロフラン30mlに溶かしたメタンスルホニルオキシホルミルピロリジン1.6g(5.9mmol)溶液を滴加した。前記混合物の温度を室温まで上げて約3時間攪拌した後、0℃に冷却し、飽和塩化アンモニウム溶液を滴加した。前記混合物を減圧下で濃縮して溶媒を除去し、水50ml及びジクロロメタン50mlで処理した。ジクロロメタン層を分離し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過して減圧下で濃縮し溶媒を除去してから、残渣をカラムクロマトグラフィで精製して無色オイル状の標題化合物1.9g(収率76%)を得た。
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 2.16 (m, 1H), 2.61 (m, 1H), 3.08 (s, 3H), 3.68-3.78 (m, 1H), 4.00 (m, 1H), 4.60 (m, 3H), 4.69 (m, 1H), 5.25-5.45 (m, 5H), 5.98 (m, 2H), 6.48-6.50 (s, 2H), 6.57 (m, 1H).
【0035】
(段階4)(3R、5S)−3−チオアセチル−5−[(E)−2−(3−アリルオキシカルボニル−5−イソオキサゾロ)エテニル]−1−アリルオキシカルボニルピロリジン(式(IV))の製造
【化10】

前記段階(3)で製造した(3R、5S)−5−[(E)−2−(3−アリルオキシカルボニル−5−イソオキサゾロ)エテニル]−3−メタンスルホニルオキシ−1−アリルオキシカルボニルピロリジン1.05g(2.46mmol)をアセトンとジメチルホルムアミドとの混合物(3:1(v/v))30mlに溶解させた後、チオ酢酸カリウム塩0.64g(5.9mmol)を添加した。この混合物を約5時間還流させた後、温度を室温に下げ、減圧下で濃縮し溶媒を除去した。得られた残渣を水50mlおよびジクロロメタン50mlで処理し、ジクロロメタン層を分離して無水硫酸マグネシウムで乾燥してからろ過し、減圧下で濃縮し溶媒を除去した後、残渣をカラムクロマトグラフィで精製して淡い黄色オイル状の標題化合物0.75g(収率75%)を得た。
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.89 (m, 1H), 2.35 (s, 3H), 2.70 (m, 1H), 3.38 (m, 1H), 4.00-4.09 (m, 2H), 4.61 (m, 3H), 4.88 (m, 3H), 5.32-5.47 (m, 4H), 6.05 (m, 2H), 6.54 (s, 2H), 6.60 (m, 1H).
【0036】
(段階5)(1R、5S、6S、8R、3’S、5’S)−2−{5’−[(E)−2−(3−アリルオキシカルボニル−5−イソオキサゾロ)エテニル]−1−アリルオキシカルボニルピロリジン3’−イルチオ }−6−(1−ヒドロキシエチル)−1−メチルカルバペン−2−エム−3−カルボン酸アリルエステル(式(IX))の製造
【化11】

前記段階(4)で製造した(3R、5S)−3−チオアセチル−5−[(E)−2−(3−アリルオキシカルボニル−5−イソオキサゾロ)エテニル]−1−アリルオキシカルボニルピロリジン0.55g(1.36mmol)をアリルアルコール10mlに溶解させて0℃に冷却した後、ナトリウムチオメトキシド0.10g(1.50mmol)を滴加した。同一温度で前記混合物を約30分間攪拌した後、1N塩酸1.5mlを加えて酸性化した。これを減圧下で濃縮し溶媒を除去した後、酢酸エチル50mlで抽出した。抽出物を飽和炭酸ナトリウム溶液で洗浄した後、水層を酢酸エチル50mlで抽出した。得られた有機層を合わせた後無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、ろ過し減圧下で濃縮して式IIIの化合物を得た。この生成物は付加的な精製をせず次の反応に用いた。
【0037】
式IIの(1R、5S、6S、8R)−2−ジフェニルホスホリルオキシ−6−(1−ヒドロキシエチル)−1−メチルカルバペン−2−エム−3−カルボン酸アリルエステル0.67g(1.36mmol)を窒素雰囲気下でアセトニトリル50mlに溶解した。0℃でN、N−ジイソプロピルエチルアミン0.28ml(1.64mmol)を加えた後、これに上記で得られた式(III)の化合物0.46g(1.36mmol)をアセトニトリル10mlに溶解した溶液を滴加した。前記混合物を同一温度で1.5時間攪拌した後、酢酸エチル50mlおよび飽和塩化ナトリウム溶液100mlで処理した。生成された有機層を分離して無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、ろ過し減圧下で濃縮してから、残渣をカラムクロマトグラフィで精製して淡い黄色泡の標題化合物0.48g(65%)を得た。
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.28 (d, 3H, J=7.2 Hz), 1.36 (d, 3H, J=6.2 Hz), 1.89 (m, 1H), 2.18 (m, 1H), 2.74 (m, 1H), 3.28 (m, 1H), 3.40 (m, 2H), 3.73 (m, 1H), 4.18 (m, 1H), 4.25 (m, 2H), 4.58-4.89 (m, 7H), 5.24-5.48 (m, 6H), 5.96 (m, 3H), 6.56 (m, 3H).
【0038】
(段階6)(1R、5S、6S、8R、3’S、5’S)−2−{5’−[(E)−2−(3−カルボン酸またはカルボン酸ナトリウム塩−5−イソオキサゾロ)エテニル]ピロリジン−3’−イルチオ }−6−(1−ヒドロキシエチル)−1−メチルカルバペン−2−エム−3−カルボン酸(式I)の製造
【化12】

前記段階(5)で製造した(1R、5S、6S、8R、3’S、5’S)−2−{5’−[(E)−2−(3−アリルオキシカルボニル−5−イソオキサゾロ)エテニル]−1−アリルオキシカルボニルピロリジン3’−イルチオ }−6−(1−ヒドロキシエチル)−1−メチルカルバペン−2−エム−3−カルボン酸アリルエステル100mg(0.17mmol)を窒素雰囲気下でジクロロメタン2mlに溶解した。これにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[0]6.0mg(0.0052mmol)を0℃で加えた後、水素化トリブチルスズ0.093ml(0.35mmol)を滴加した。この溶液を同一温度で1.5時間攪拌し(E)−2−(3−カルボン酸−5−イソオキサゾロ)エテニル化合物を得た。
【0039】
(E)−2−(3−カルボン酸ナトリウム塩−5−イソオキサゾロ)エテニル化合物を得るために、前記反応液に2−エチルヘキサン酸ナトリウム塩 0.042g(0.26mmol)を加えてから30分間攪拌した。得られた混合物を水で洗浄した後、酢酸エチルで洗浄し、水層を凍結乾燥して得られた残渣をDiaionHP−20カラムクロマトグラフィ(3%テトラヒドロフラン溶液)で精製し、白色固体の標題化合物41.7mg(収率52%)を得た。
mp: 243-245 ℃
IR (KBr): 3390, 2968, 1748, 1614 cm-1
1H NMR (300 MHz, D2O) δ 1.09 (d, 3H, J=7.1 Hz), 1.15 (d, 3H, J=6.3 Hz), 1.59 (m, 1H), 2.59 (m, 1H), 3.07 (m, 1H), 3.18-3.32 (m, 1H), 3.39 (m, 1H), 3.82 (m, 1H), 3.99 (m, 1H), 4.06-4.13 (m, 2H), 6.46-6.62 (m, 3H).
13C NMR (75 MHz, D2O) δ 176.4, 168.2, 167.8, 166.2, 161.4, 140.0, 132.5, 128.7, 118.8, 102.3, 65.1, 60.5, 58.5, 55.9, 53.0, 42.7, 40.5, 36.4, 20.0, 15.0.
FABHRMS (m/z) Calcd for C20H22N3O7SNa2 (M+Na)+に対する計算値494.0975,
測定値: 494.0974.
【0040】
試験例1 抗菌活性試験
前記実施例で製造した本発明の3−カルボン酸ナトリウム塩化合物の試験管内(in vitro)抗菌活性を試験菌株としてグラム陽性菌である連鎖球菌(Streptococcus)とブドウ球菌(Staphylococcus)、及びグラム陰性菌である大膓菌(Escherichia)、サルモネラ菌(Salmonella)、クレブシエラ菌(Klebsiella)及び腸内細菌(Enterobacter)を、標準菌株(表1)、臨床分離好気性グラム陽性菌株(表2)、臨床分離好気性グラム陰性菌株(表3)、臨床分離嫌気性グラム陽性菌株(表4)及び臨床分離嫌気性グラム陰性菌株(表5)を用いて評価し、対照群としてはイミペネム(IPM)、メロペネム(MPM)及びエルタペネム(EPM)を用いた。
具体的に、希釈寒天培地で培養した前記菌株に2倍ずつ希釈した各試験化合物をそれぞれ加えた後、37℃で18〜20時間培養し、各菌株の成長を阻害する最小阻害濃度(minimum inhibitory concentration (MIC))を測定した。その結果を下記表1〜表5に示し、MIC50及びMIC90は当該菌株をそれぞれ50%及び90%抑制する濃度を示す。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【0041】
前記表1に示すように、実施例で合成した3−カルボン酸ナトリウム塩化合物はグラム陽性菌及びグラム陰性菌の両方ともメロペネムと同等な優れた抗菌活性を示した。
前記表2に示すように、実施例の3−カルボン酸ナトリウム塩化合物はエンテロコッカスフェシウムを除いたすべての菌株において非常に優れた抗菌活性を示し、肺炎連鎖球菌に対しては対照群化合物よりも優れた抗菌活性を示した。また、前記表3に示すように、好気性グラム陰性菌株に対してもIPM及びMPMとほとんど同等な阻害活性を示し、表4及び表5に示すように、本発明の化合物は嫌気性グラム陽性及び陰性菌株の成長を效果的に抑制した。
したがって、本発明の化合物が既存のカルバペネム抗生剤に比べて臨床分離グラム陽性菌及びグラム陰性菌のいずれに対し最も好ましい抗菌活性を示す。
【0042】
試験例2 DHP−I安定性
腎臓から分泌されるDHP−Iに関する、実施例で製造した式(I)の3−カルボン酸ナトリウム塩化合物の安定性を調べるため、次のような実験を実施した。
実験に用いられたDHP−Iは豚の腎臓皮質から分離した。イミペネムを30℃で30分間加水分解し、イミペネムの濃度を半分に減少させる酵素量を1単位と決めた。50μg/ml濃度の試験化合物と1単位のDHP−Iとを1mlのMOPS緩衝溶液(pH7.0)に添加して30℃で反応させながら0.5、1、2及び4時間後に299nm波長における反応液のOD値を測定した。
【0043】
DHP−Iによるメロペネムの半減期を1.00とし、イミペネム(IPM)およびメロペネム(MPM)を対照郡として用いて各試験化合物の相対的安定度を算定した。その結果を下記表6に示した。
【表7】

【0044】
前記表6に示すように、実施例の3−カルボン酸ナトリウム塩化合物はイミペネムより約25倍以上、メロペネムに比べて4.5倍以上の高い安定性を示した。したがって、本発明の化合物は対照群よりも生体利用率が遥かに高い。
【0045】
試験例3 薬物動態学試験
実施例の3−カルボン酸ナトリウム塩化合物の薬物動態学的を次のように調査した。雄SD(Sprague−Dawley)ラット(体重250g、14−15週齢、5匹/群)及びビーグル犬(体重10kg、3匹/群)を同一条件下で7日以上通常の動物用固体飼料を供給し飼育し、これらの試験動物は24時間以上絶食させた後試験に使用し、絶食時水は自由に飲めるようにした。
【0046】
試験製剤メロペネムを蒸留水に溶かした後、ラットには体重1kg当たり20mg当量で、ビーグル犬には体重1kg当たり5mg当量で静脈投与した。投与後0.25、0.5、0.75、1、2、3、4、8、12及び24時間経過後時にそれぞれ採血した。
各血液500μlを12、000rpmで30秒間遠心分離し、上澄み液を取って0.22umでろ過した後、HPLC/UV測定器で分析し、その結果を下記表7に示した。
カラム:Symmetry(5um、23.9×150mm、Waters社製、USA)
移動相:30mMリン酸緩衝溶液(pH3.0):アセトニトリル=85:15
注入用量:30 μl
流速:0.8ml/分
検出:UV260nm(実施例)及び298nm(MPM)
【表8】

【0047】
前記表7に示したように、ラットの場合実施例の3−カルボン酸ナトリウム塩化合物はメロペネムに比べて約3倍長い半減期及び約4倍高い生体利用率を示し、犬の場合も半減期及び生体利用率のいずれもカテゴリにおいて優れた値を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)の1β−メチルカルバペネム誘導体またはその薬学的に許容される塩。
【化1】

【請求項2】
前記塩がナトリウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の誘導体。
【請求項3】
(a)下記式(II)の化合物と式(III)の化合物とを塩基の存在下で反応させて下記式(IX)の保護基を有するカルバペネム化合物を製造する段階;および
(b)前記式(IX)の化合物から保護基を除去する段階;
を含む請求項1の誘導体の製造方法。
【化2】

(式中、Allylは、−CH-CH=CHであり、Allocは
【化3】

である。)
【請求項4】
前記段階(a)で用いられた塩基がトリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、2,6−ルチジン、ピコリン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン及び4−ジメチルアミノピリジンからなる群から選ばれることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記段階(a)がアセトニトリル中で行われることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記段階(a)が−10〜10℃の温度範囲で1〜3時間行われることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記保護基の除去がテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム及びジ(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウムからなる群から選ばれる触媒の存在下で前記式(IX)の化合物を水素化トリブチルスズと反応させて行われることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記保護基の除去がジクロロメタン、ジクロロメタンと水との混合物及びテトラヒドロフランからなる群から選ばれる溶媒中で−10〜0℃の温度範囲で1〜3時間行われることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項9】
式(I)の化合物を2−エチルヘキサン酸ナトリウム(SEH)または炭酸水素ナトリウムと反応させる段階を含む請求項2のナトリウム塩の製造方法。
【請求項10】
前記ナトリウム塩の製造が−10〜10℃の温度範囲で10〜60分間行われることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1の化合物を製造するために用いられる下記式(III)のチオール誘導体。
【化4】

(式中、Allylは、−CH-CH=CHであり、Allocは
【化5】

である。)
【請求項12】
(a)下記式(VIII)の化合物をトリフェニルホスフィンと縮合反応させて下記式(VII)の化合物を製造する段階;
(b)前記式(VI)の化合物と下記式(VII)の化合物とを、塩基及び溶媒の存在下でウィッティヒ反応(Wittig reaction)させて下記式(V)の化合物を製造する段階;
(c)前記式(V)の化合物とチオ酢酸カリウムとを溶媒中で置換反応させて下記式(IV)の化合物を製造する段階;および
(d)前記式(IV)の化合物を溶媒中で脱アセチル化させて下記式(III)の化合物を製造する段階;
を含む請求項11の式(III)のチオール誘導体の製造方法。
【化6】

(式中、Allylは−CH−CH=CHであり、Allocは
【化7】

であり、Msはメタンスルホニルであり、Acは
【化8】

である。)
【請求項13】
前記縮合反応がアセトニトリルまたはジクロロメタンの中で40〜80℃の温度範囲で2〜5時間行われることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記段階(b)で用いられた塩基がナトリウムビズトリメチルシリルアミン塩またはリチウムビズトリメチルシリルアミン塩であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記段階(b)で用いられた溶媒がテトラヒドロフランであることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記ウィッティヒ反応が−78℃で2〜5時間行われることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記段階(c)で用いられた溶媒がアセトニトリル、アセトン、ジメチルホルムアミドまたはこれらの混合物であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記置換反応が4〜7時間還流させることにより行われることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記段階(d)で用いられた溶媒がアリルアルコールであることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記脱アセチル化がナトリウムチオメトキシドを用いて行われることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記脱アセチル化が−10℃から室温の温度範囲で20〜60分間行われることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項22】
請求項1の1β−メチルカルバペネム誘導体またはその薬学的に許容される塩を活性抗菌成分として含有することを特徴とする薬学組成物。

【公表番号】特表2008−502675(P2008−502675A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516384(P2007−516384)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【国際出願番号】PCT/KR2005/001798
【国際公開番号】WO2005/121144
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(399101854)コリア インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (68)
【Fターム(参考)】