説明

193nmでの広角高反射ミラー

【課題】 高反射光学素子の性能を改善するための適切な高/低屈折率コーティング系を提供する。
【解決手段】 選択された基体およびこの基体上の式(Hooioの非晶質コーティングを有してなる光学素子であって、(Hooiは、基体上のHo層およびLo層からなる複数iのコーティング周期の積層体であり、iは14〜20の範囲にあり、Hoは非晶質MgAl24であり、Loは非晶質SiO2であり、それによって、基体上に非晶質MgAl24−SiO2コーティングを形成し、第1の周期のHo層が基体に接触しており、iの周期の厚さが600nmから1200nmの範囲ある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、200nm未満のレーザシステムに使用できる広角高反射ミラーおよびそのようなミラーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ArFエキシマレーザなどの200nm未満のレーザは、マイクロリソグラフィー産業に最適な照明源である。この産業では常に、エキシマレーザ源からより多くの性能が要望されている。その結果、レーザ光学部品、例えば、高繰返し率で動作する193nmの波長のエキシマレーザにおいて使用される高反射ミラーおよび他の光学部品には、常により多くの要求がなされている。高反射ミラーは、一般に、選択された基体上の多層に堆積された少なくとも1つの高屈折率材料および1つの低屈折率材料を用いて製造される。
【0003】
光学薄膜の堆積が当該技術分野において知られており、そのような薄膜を堆積させるために、いくつかの異なる方法または技術が用いられてきた。全てが真空中で行われる、薄膜を堆積させるために用いられてきた方法には、以下のものがある:(1)従来の蒸着(「CD」)、(2)イオンアシスト蒸着(「IAD」)、(3)イオンビームスパッタリング(「IBS」)、および(4)プラズマイオンアシスト蒸着(「PIAD」)。
【0004】
従来の蒸着(CD)法において、堆積すべき材料が、抵抗加熱法または電子衝撃いずれかにより溶融状態まで加熱されるが、この加熱は、膜を堆積させるべき基体の存在下で行われる。堆積すべき材料が溶融したときに、その材料が蒸発し、基体の表面上に膜が凝縮される。この方法で用いられる溶融材料の温度によって、蒸発物がある程度解離してしまう。元素材料(例えば、元素のアルミニウム、銀、ニッケルなど)が堆積されているときには、この解離は問題ではないが、堆積すべき材料が化合物(例えば、SiO2、HfO2)である場合には、問題となる。酸化物材料の場合には、化学量論を復元させる試行における蒸着(いわゆる、反応性蒸着)中に、チャンバ中に少量の酸素が流れ込む。CD法により堆積される膜は、一般に、多孔質であり、表面エネルギー(付着)に打ち勝つための蒸着の際の十分な運動エネルギー(表面移動度)が不足している。膜の成長は、典型的に、円柱状であり(非特許文献1)、供給源に対する方向に成長し、膜厚が増加するにつれて増加する気孔率を有する。膜の高気孔率に加え、CDにより堆積された膜が遭遇する他の問題としては、屈折率の不均一性、過度の上面粗さ、および低吸収率が挙げられる。蒸着速度を調節し、蒸着中の基体の温度を上昇させることによって、わずかではあるが、ある程度の改善が可能である。しかしながら、最終製品を全体的に検討すると、CD技法は、高品質の光学部品、例えば、通信要素、フィルタ、レーザ部品、およびセンサには適していないのが分かる。
【0005】
イオンアシスト蒸着(IAD)は、上述したCD法と類似しており、蒸着プロセス中に不活性ガス(例えば、アルゴン)の高エネルギーイオンと共に、ある程度のイオン化酸素(酸化物膜の場合には、膜の化学量論を改善するために、一般に必要である)が、堆積される膜に衝突させられる特徴が加わっている。イオンエネルギーは一般に300eVから1000eVの範囲にあるが、基体でのイオン電流は低く、一般に数マイクロアンペア/cm2である(それゆえ、IADは、高電圧、低電流密度のプロセスである)。この衝撃は、表面エネルギーに打ち勝ち、緻密で滑らかな膜が生成されるように、堆積している膜にモーメントを伝達し、十分な表面移動度を提供するように働く。堆積した膜の屈折率の不均一性および透明性も改善され、IAD法には、基体の加熱はほとんどまたは全く必要ない。
【0006】
イオンビームスパッタリング(IBS)は、高エネルギーイオンビーム(例えば、500eV〜1500eVの範囲にあるアルゴンイオン)が標的材料、一般に酸化物材料に向けられる方法である。衝突の際に伝達されるモーメントは、標的材料を基体へとスパッタで跳ね飛ばすのに十分であり、標的材料はその基体に滑らかで緻密な膜として堆積する。スパッタされた材料は、高充填密度で滑らかな表面をもたらす約数百電子ボルトの高エネルギーで基体に到達するが、堆積した膜の高吸収率は、IABプロセスの一般的な副産物である。その結果、IBSプロセスは、化学量論および吸収率の両方を改善するために、IAD源を含むかもしれない。IBSプロセスはCDおよびIADより改善されているが、それにもかかわらず、IBSにも問題がある。IBS蒸着プロセスに関する問題の例としては、以下が挙げられる:(1)蒸着プロセスが非常に遅い;(2)製造プロセスというよりも、実験技法である;(3)IBS設備はわずかしか存在せず、典型的に、通信バブルからの遺物であり、これらには、少数のスタッフにより運転される1つか2つの装置しかない;(4)基体の容量が極めて限られている;(5)基体上の堆積均一性が制限となり得、このことは転じて、製品の品質に影響を与え、廃棄率が高くなってしまう;(6)標的が浸食されるので、堆積されている膜の均一性は変化し、それゆえ、さらに品質の問題が生じ、頻繁に標的を交換しなければならず、これは中断時間とコストに関連する;および(7)衝撃エネルギーは極めて高く、これは転じて、堆積した材料の解離、それゆえ、吸収を引き起こす。
【0007】
プラズマイオンアシスト蒸着(PIAD)は、低電圧、高電流密度のプラズマにより、堆積している膜にモーメントが伝達されることを除いて、上述したIADに類似している。典型的なバイアス電圧は90〜160Vの範囲にあり、電流密度はミリアンペア/cm2の範囲にある。PIAD設備は、精密光学素子産業において一般的であり、膜を堆積させるのに用いられているが、特に、堆積された膜の均一性について、PIAD法にはいくつか問題がある。PIAD法は、発明者がG.Hart、R.MaierおよびJue Wangである特許文献1に記載されている。
【0008】
深紫外線または「DUV」レーザとしても知られている200nm未満のレーザが、半導体製造に使用するためのパターンが形成されたシリコン・ウェハーを大量生産するための先端光リソグラフィーに頻繁に使用されてきた。半導体プロセスが65nmノードから45nmノード以降に進歩するにつれ、増加した解像度について、「波長での(at wavelength)」光学検査が要求されている。この「波長での」光測定学では、検査システムに関連して用いられる光学部品、例えば、193nmの波長での40°から50°に及ぶ入射角を有する、p偏光およびs偏光両方のための広角高反射ミラーに、より多くの性能が要求される。この広角高反射ミラーは、例えば、医療手術、超精密機械加工および測定、大規模集積電子素子、および通信用コンポーネントなどの、ArFエキシマレーザが用いられる他の分野においても必要とされるかもしれない。
【0009】
一般に、高反射ミラーを製造するには、少なくとも1つの高屈折率材料および1つの低屈折率材料が必要である。広角高反射ミラーは、波長の広い帯域幅に対応する。この帯域幅は、コーティング材料の屈折率比により決定付けられる。高入射角では、p偏光の帯域幅が狭くなり、反射率が減少してしまう。このため、s偏光とp偏光の両方を検討する必要がある場合、広角高反射ミラーの調製が技術課題となる。高反射ミラーは、金属酸化物、フッ化物およびフッ化物と酸化物の複合体の多層化により製造することができる。酸化物について、193nmでは、材料の選択が非常に限られる。Al23とSiO2の組合せが、それぞれ、高屈折率コーティング材料および低屈折率コーティング材料としてよく使用される。Al23およびSiO2系について、屈折率比(高屈折率÷低屈折率)は、248nmでのHfO2とSiO2の組合せに関する1.56の比および550nmでのTiO2とSiO2の組合せに関する2.07と比べると、193nmで比較的小さい(約1.16)。フッ化物材料について、GdF3およびLaF3は高屈折率材料と考えられるのに対し、MgF2およびAlF3は低屈折率材料である[非特許文献2から4を参照のこと]。GdF3とLaF3の組合せは、193nmで1.23の屈折率比を与えるが、これは、約1.16の比を有するAl23とSiO2の組合せのものよりも大きい。フッ化物の熱抵抗蒸発(thermal resistance evaporation)は、フッ素空乏(fluorine depletion)を導入せずにフッ化物を蒸発させるための良好な様式であることが実証されている。しかしながら、フッ化物層の数とその厚さが増加するにつれ、表面/界面の粗さおよびフッ化物多層の不均一性が上昇し、散乱損失が高くなる。その結果、フッ化物層の数が増加するにつれて、平均屈折率比が減少し、これにより、達成可能な反射率および帯域幅が制限される。
【0010】
2008年5月29日に出願された米国特許出願第12/156429号(コーニング社に譲渡された特許文献2)には、散乱損失をなくし、環境安定性を増大させるために、酸化物とフッ化物の混成物手法を使用することが記載されている。特許文献2に記載された手法を使用することによって、垂直の入射角で193nmで約98.5%の反射率が達成された。しかしながら、フッ化物と酸化物の混成物高反射ミラーの帯域幅は、193nmで約1.16であるAl23とSiO2の組合せの屈折率比のために制限される。高反射ミラーの帯域幅は、コーティング材料を変更して、屈折率比を増加させることによって改善できる。ある技術手法は、膜の屈折率をさらに減少させるために、ナノ多孔質構造が導入される、ゾルゲルプロセスを使用することである。ナノ多孔質膜は、浸漬コーティングまたはスピンコーティングにより堆積させることができる。ナノ多孔質シリカ膜の屈折率は1.20ほど低くできる[非特許文献5を参照のこと]。ゾルゲル由来の超低屈折率の利点が、193nmでの広角反射防止コーティングに示され、ここでは、1層の超低屈折率材料が、物理的に蒸発された膜の上面にスピンコーティングされる[非特許文献6を参照のこと]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第7465681号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第20080204862A1号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】K. Guenther, Applied Optics, Vol. 23 (1984), pp. 3806-3816
【非特許文献2】D. Ristau et al, “Ultraviolet optical and microstructural properties of MgF2 and LaF3 coating deposited by ion-beam sputtering and boat and electron-beam evaporation”, Applied Optics 41, 3196-3204 (2002)
【非特許文献3】C. C. Lee et al, “Characterization of AlF3 thin films at 193nm by thermal evaporation“, Applied Optics 44, 7333-7338 (2005)
【非特許文献4】Jue Wang et al., “Nanoporous structure of a GdF3 thin film evaluated by variable angle spectroscopic ellipsometry,” Applied Optics 46(16), 3221-3226 (2007)
【非特許文献5】Jue Wang et al., “Scratch-resistant improvement of sol-gel derived nano-porous silica films,” J. Sol-Gel Sci. and Technol. 18, 219-224 (2000)
【非特許文献6】T. Murata et al., “Preparation of high-performance optical coatings with fluoride nanoparticles films made from autoclaved sols,” Applied Optics 45 1465-1468 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、このプロセスは、高反射ミラーには適していない。それゆえ、高反射光学素子の性能を改善するための適切な高/低屈折率コーティング系を見つけるために、多大な労力が払われているが、当該技術分野において満足のいくコーティング系は今のところ存在していない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、フッ化物強化層が挿入され緻密で滑らかなSiO2層により封止されている、非晶質MgAl24−SiO2コーティングを有する高反射光学素子、および非晶質MgAl24コーティングの供給源としてMgAl24のスピネル結晶の形態および高エネルギー蒸着技法を用いてそのような素子を調製する方法に関する。ここに記載されたコーティングおよび方法は、高反射ミラーを製造するのに使用でき、ビームスプリッタ、プリズム、レンズ、出力カプラおよび200nm未満のレーザシステムに用いられる同様の素子にも適用できる。
【0015】
ある実施の形態において、本発明は、1つまたは複数のMgAl24層、および1つまたは複数の二酸化ケイ素層を含むコーティングを有する光学素子を製造する方法であって、真空槽を提供する工程;この真空槽内において:選択された基体材料から製造された光学素子を提供する工程であって、この素子が、回転できる板上に配置される工程;少なくとも1つの選択されたコーティング材料源、またはコーティング材料源の混合物を提供し、電子ビームを使用してその材料を蒸発させて、コーティング材料の蒸気流束を提供する工程であって、この流束が、選択された形状を有するマスクにより、材料源から、光学素子まで通過する(図3参照)工程;プラズマ源からプラズマイオンを提供する工程;素子を選択された回転周波数fで回転させる工程;および光学素子の表面上にコーティング膜としてコーティング材料を堆積させ、材料の堆積プロセス中に、その素子上の膜にプラズマイオンを衝突させ、それによって、素子上に付着性気密膜を形成する工程を有してなる方法に関する。好ましい実施の形態において、選択されたコーティング材料源は、単結晶または単結晶から作製された粉末として存在してよい、MgAl24の単結晶形態である。
【0016】
別の実施の形態において、1つまたは複数のMgAl24層、1つまたは複数のアルカリ土類金属フッ化物層、および1つまたは複数の二酸化ケイ素層を含むコーティングを有する光学素子を製造する方法であって、真空槽を提供する工程;この真空槽内において:選択された基体材料から製造された光学素子を提供する工程であって、この素子が、回転できる板上に配置される工程;少なくとも1つの選択されたコーティング材料源、またはコーティング材料源の混合物を提供し、電子ビームを使用してその材料を蒸発させて、コーティング材料の蒸気流束を提供する工程であって、この流束が、選択された形状を有するマスクにより、材料源から、光学素子まで通過する工程;プラズマ源からプラズマイオンを提供する工程;素子を選択された回転周波数fで回転させる工程;および光学素子の表面上にコーティング膜としてコーティング材料を堆積させ、材料の堆積プロセス中に、その素子上の膜にプラズマイオンを衝突させ、それによって、素子上に緻密で滑らかな非晶質多層光学コーティングを形成する工程を有してなる方法に関する。フッ化物材料について、蒸発は、酸化物コーティングに用いられたのと同じ真空槽内において一連の部分マスクまたは逆マスクで、フッ化物原料を収容している2つの耐熱性ボートにより生じさせることもできる。複数のアルカリ土類金属フッ化物層は、プラズマイオンのアシストの有無にかからわず、2つの熱抵抗蒸発源または2つの電子ビーム蒸発源を交互にオンにすることによって、堆積させることができる。フッ化物積層体(stack)の付着後、SiO2層を、マスキング技法を用いた酸化物積層体の堆積について記載したのと同じプラズマ平滑化プロセスにより、フッ化物積層体の上面に堆積させる。そのマスクは、部分マスク(同一出願人による特許文献2の図3に示されているような)および逆マスク(同一出願人による特許文献1に示されているような)からなる群より選択される。好ましい実施の形態において、マスクは、添付の図面の図3に示された部分マスクである。また、好ましい実施の形態において、選択されたコーティング材料源は、単結晶または単結晶から作製された粉末として存在してよいMgAl24の単結晶形態である。
【0017】
ある実施の形態において、本発明は、選択された基体およびその基体上の式(Hooioの非晶質コーティングを含む光学素子であって、ここで、
(Hooiが、基体上のHo層およびLo層からなる複数iのコーティング周期の積層体であり、
iが14〜20の範囲にあり、
oが非晶質MgAl24であり、
oが非晶質SiO2であり、
それによって、基体上に非晶質MgAl24−SiO2コーティングを形成し、第1の周期のHo層が基体と接触している光学素子に関する。
【0018】
別の実施の形態において、本発明は、式(Hooioを有する第1のコーティング、この第1のコーティングの上面の式(Lffj2Moの第2のコーティング、およびこの第2のコーティングの上面の式(Lffk2Moの第3のコーティングを有する選択された基体からなる光学素子であって、ここで、
(Hooiが、基体上の複数iの周期Hooからなる積層体であり、iが14〜20の範囲にあり、Hoが非晶質MgAl24であり、Loが非晶質SiO2であり、第1の周期のHo層が基体と接触しており、
(Lffjが、(Hooioの上面に形成された積層体であり、Lfが第1の層であり、Hfが第2の層である交互の層により形成された複数jの周期Lffであり、jが2から6での範囲にある整数であり、2Moが(Lffj積層体の上面のコーティングであり、
(Lffkが、(Lffj2Moの上面に形成された積層体であり、Lfが第1の層であり、Hfが第2の層である交互の層により形成された複数kの周期Lffであり、kが2から6の範囲にある整数であり、2Moが(Lffk積層体の上面のコーティングであり、
fは低屈折率金属フッ化物であり、Hfは高屈折率金属フッ化物であり、2Moは、シリカ、溶融シリカ、およびFドープト溶融シリカからなる群より選択される酸化物材料である、
光学素子に関する。
【0019】
式(Hooioを有する第1のコーティング、この第1のコーティングの上面の式(Lffj2Moの第2のコーティング、およびこの第2のコーティングの上面の式Hf(Lffk2Moの第3のコーティングを有する選択された基体からなる光学素子であって、ここで、
(Hooiが、基体上の複数iのコーティング周期Hooからなる積層体であり、iが14〜20の範囲にあり、Hoが非晶質MgAl24であり、Loが非晶質SiO2であり、第1の周期のHo層が基体と接触しており、
(Lffjが、(Hooioの上面に形成された積層体であり、Lfが第1の層であり、Hfが第2の層である交互の層により形成された複数jの周期Lffであり、jが2から6の範囲にある整数であり、2Moが(Lffj積層体の上面のコーティングであり、
fが、第2のコーティングの上面に形成された第1の高屈折率金属フッ化物層であり、
(Lffkが、第1の高屈折率層Hfの上面に形成された、Lfが第1の層であり、Hfが第2の層である交互の層により形成された複数kの周期Lffであり、kが2から6の範囲にある整数であり、2Moが(Lffk積層体の上面のコーティングであり、
fは低屈折率金属フッ化物であり、Hfは高屈折率金属フッ化物であり、2Moは、シリカ、溶融シリカ、およびFドープト溶融シリカからなる群より選択される酸化物材料である。
【0020】
本発明はさらに、高反射光学素子を製造する方法であって、
真空槽を提供する工程;この真空槽内において:
1つまたは複数のコーティングをその上に堆積すべき基体を提供する工程;
少なくとも1つの選択されたコーティング材料源、またはコーティング材料源の混合物を提供し、その材料を蒸発させて、コーティング材料の蒸気流束を提供する工程であって、この流束が、材料源から、選択されたマスクを通って、基体まで通過する工程;
プラズマ源からプラズマイオンを提供する工程;
基体を選択された回転周波数fで回転させる工程;および
基体上に1つまたは複数のコーティング層としてコーティング材料を堆積させ、材料の堆積プロセスの前および最中に、その基体および層にプラズマイオンを衝突させ、それによって、その上に1つまたは複数のコーティングを有する基体を形成する工程、
を有してなり、
基体上にコーティングを堆積させることは、式(Hooioを有する第1のコーティング、この第1のコーティングの上面の式(Lffj2Moの第2のコーティング、およびこの第2のコーティングの上面の式(Lffk2Moの第3のコーティングで基体を被覆して、その上に高反射コーティングを有する光学素子を提供することを意味し、
(Hooiが、基体上の複数iのコーティング周期Hooからなる積層体であり、iが10〜25の範囲にあり、Hoが非晶質MgAl24であり、Loが非晶質SiO2であり、第1の周期のHo層が基体と接触しており、
(Lffjが、(Hooioの上面に形成された積層体であり、Lfが第1の層であり、Hfが第2の層である交互の層により形成された複数jの周期Lffであり、jが2から6の範囲にある整数であり、2Moが(Lffj積層体の上面のコーティングであり、
(Lffkが、(Lffj2Moの上面に形成された、Lfが第1の層であり、Hfが第2の層である交互の層により形成された複数kの周期Lffの積層体であり、kが2から6の範囲にある整数であり、2Moが(Lffk積層体の上面のコーティングであり、
fは低屈折率金属フッ化物であり、Hfは高屈折率金属フッ化物であり、2Moは、シリカ、溶融シリカ、およびFドープト溶融シリカからなる群より選択される酸化物材料である、
方法に関する。光学素子の形成において、ある実施の形態では、フッ化物積層体は、一連の部分マスクまたは逆マスクにより、電子ビームまたは抵抗加熱された蒸発源から堆積される。別の実施の形態において、フッ化物積層体は、フッ素を含有する不活性ガスにより、電子ビームまたは抵抗加熱された蒸発源を用いて、一連の部分マスクまたは逆マスクにより堆積される。
【0021】
本発明はさらに、高反射光学素子を製造する方法であって、
真空槽を提供する工程;この真空槽内において:
1つまたは複数のコーティングをその上に堆積すべき基体を提供する工程;
少なくとも1つの選択されたコーティング材料源、またはコーティング材料源の混合物を提供し、電子ビームを用いてその材料を蒸発させて、コーティング材料の蒸気流束を提供する工程であって、この流束が、材料源から、選択されたマスクを通って、基体まで通過する工程;
プラズマ源からプラズマイオンを提供する工程;
基体を選択された回転周波数fで回転させる工程;および
基体上に1つまたは複数のコーティング層としてコーティング材料を堆積させ、材料の堆積プロセスの前および最中に、その基体および層にプラズマイオンを衝突させ、それによって、その上に1つまたは複数のコーティングを有する基体を形成する工程、
を有してなり、
基体上にコーティングを堆積させることは、式(Hooioを有する第1のコーティング、この第1のコーティングの上面の式(Lffj2Moの第2のコーティング、およびこの第2のコーティングの上面の式Hf(Lffk2Moの第3のコーティングで基体を被覆して、その上に高反射コーティングを有する光学素子を提供することを意味し、
(Hooiが、基体上の複数iのコーティング周期Hooからなる積層体であり、iが14〜20の範囲にあり、Hoが非晶質MgAl24であり、Loが非晶質SiO2であり、第1の周期のHo層が基体と接触しており、
(Lffjが、(Hooioの上面に形成された積層体であり、Lfが第1の層であり、Hfが第2の層である交互の層により形成された複数jの周期Lffであり、jが2から6の範囲にある整数であり、2Moが(Lffj積層体の上面のコーティングであり、
fが、第2のコーティングの上面に形成された第1の高屈折率金属フッ化物層であり、
(Lffkが、第1の高屈折率金属フッ化物層Hfの上面に形成された、Lfが第1の層であり、Hfが第2の層である交互の層により形成された複数kの周期Lffの積層体であり、kが2から6の範囲にある整数であり、2Moが(Lffk積層体の上面のコーティングであり、
fは低屈折率金属フッ化物であり、Hfは高屈折率金属フッ化物であり、2Moは、シリカ、溶融シリカ、およびFドープト溶融シリカからなる群より選択される酸化物材料である、
方法に関する。光学素子の形成において、ある実施の形態では、フッ化物積層体は、一連の部分マスクまたは逆マスクにより、電子ビームまたは抵抗加熱された蒸発源から堆積される。別の実施の形態において、フッ化物積層体は、フッ素を含有する不活性ガスにより、電子ビームまたは抵抗加熱された蒸発源を用いて、一連の部分マスクまたは逆マスクにより堆積される。
【0022】
本発明のある実施の形態において、Lfは、AlF3およびMgF2からなる群より選択される。ある実施の形態において、Hfは、LaF3およびGdF3からなる群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】屈折率比の関数としてのミラーの相対帯域幅を示すグラフ
【図2】本発明による標準的なMgAl24−SiO2ミラーの概略図
【図3】現場でのプラズマ平滑化により光学素子上に酸化物膜を堆積させる改良PIAD法の説明図
【図4】現場でのプラズマ平滑化による改良PIADにより堆積された196nmのMgAl24膜の屈折率深さプロファイルを示すグラフ
【図5】標準的なPIADにより堆積された198nmのMgAl24膜の屈折率深さプロファイルを示すグラフ
【図6】現場でのプラズマ平滑化による改良PIADプロセスにより堆積された196nmのMgAl24膜(rms=0.27nm)のAFM画像
【図7】標準的なPIADプロセスにより堆積された198nmのMgAl24膜(rms=0.71nm)のAFM画像
【図8】現場でのプラズマ平滑化による改良PIADプロセスにより堆積された196nmのMgAl24膜のXRD
【図9】非晶質MgAl24膜を堆積させるための出発材料としてMgAl24スピネルのXRD
【図10】異なる数の層を有するMgAl24−SiO2ミラーの相対的な吸収分布を示す棒グラフ
【図11】酸化物平滑化され、フッ化物強化された酸化物ミラーの概略図
【図12】193nmでの酸化物平滑化され、フッ化物強化された酸化物ミラーの角度による屈折率のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0024】
ここに用いたように、「周期」という用語は、下付文字の「o」および「f」が、それぞれ、酸化物およびフッ化物を表す、周期的な多層構造を形成するために繰り返す、HooまたはLffの層対を称する。「積層体(stack)」という用語は、複数のそのような層を称する。それゆえ、図11において、(Hooioという表記は、基体上にHoの次にLoが続く順番で載置される層対Hooにより形成される複数「i」の周期からなる積層体が基体上に形成され、この積層体の最後の周期が形成された後に、すなわち、Lo層で終わる積層体のi番目の周期後に、最後のHo層が積層体の上面に配置されることを意味する。ここで、Ho材料はMgAl24であり、Lo材料は、SiO2、F−ドープトSiO2および溶融シリカからなる群より選択される。(Lffj2Moおよび(Lffk2Moという表記は、(Hooio積層体が形成された後、(Hooio積層体の上面に(Lffj2Mo積層体が形成され、それに続いて、(Lffj2Mo積層体の上面に(Lffk2Mo積層体が形成されることを意味する。(Lffj2Moおよび(Lffk2Mo積層体は、基体上にLfの次にHfが続く順番で載置される層対Lffの周期をそれぞれ複数「j」および「k」有し、各々の積層体は、2Mo層の積層で終わる。すなわち、Hf層で終わる、j番目またはk番目の周期が形成されたときに、その積層体の最後のHf層の上面(またはキャップ)に2Mo層の積層体が配置される。Ho、Lo、Lf、Hf、および2Moが、ここに説明されている。「i」、「j」および「k」の値は、それぞれ、14〜20、2〜6および2〜6の範囲にある。それゆえ、i=14である場合、14周期のHoo対と、その後の最終(またはキャッピング)Ho層がある。jおよびkの値は、Lff周期について、同じ意味を有する。それゆえ、j=6である場合、6周期のLfとHfの対と、その後の最終(またはキャッピング)2Mo層または層の積層体がある。また、ここに用いたように、「溶融シリカ」という用語は、Lo層またはキャッピング層を載置するための溶融シリカ出発材料を意味し、その溶融シリカは、HPFS(登録商標)高純度溶融シリカ(コーニング社)または他の供給源から市販されている類似の材料である。
【0025】
個々の層、周期および積層体の厚さに関して、MgAl24−SiO2による被覆の場合、HoおよびLoの厚さは一緒になって、積層体の周期を形成し、その厚さは、600nmから1200nmの範囲、好ましくは860nmから1100nmの範囲にある。フッ化物の周期に関して、各周期において、HfおよびLf層は、20nmから40nmおよび30nmから50nmの範囲の厚さを有し、HfとLfの周期の積層体の厚さは、140nmから420nmの範囲にある。2Moコーティング材料の厚さは5nmから75nmの範囲にある。2Mo材料は、SiO2、F−ドープトSiO2、溶融シリカ、Al23ドープトSiO2、およびF−ドープトAl23からなる群より選択される。
【0026】
本発明を実施する際に、材料の個々の層または周期は、堆積されている材料を現場で(in-situ)プラズマ平滑化しまたは「削り取り(turning off)」、平滑化プラズマのみを表面に印加することにより、密度を増加させ、表面粗さを減少させる(これにより散乱を最少にする)ために平滑化しても差し支えない。酸化物が被覆されている場合、平滑化プラズマは、一連の部分マスクまたは逆マスクを用いて、酸素を含有する不活性ガスから誘導される。フッ化物が被覆されている場合、平滑化プラズマは、一連の部分マスクまたは逆マスクを用いて、フッ素を含有する不活性ガス、または緩衝SiO2層がフッ化物積層体の上面にある場合には、酸素と不活性ガスの混合物から誘導される。
【0027】
レーザリソグラフィーシステム用の高反射ミラーは、一般に、高屈折率材料(「H」)および低屈折率材料(「L」)の交互の層により被覆される選択された基体を用いて製造される。選択された基体は、アルカリ土類金属フッ化物単結晶材料(CaF2、BaF2、SrF2、BaF2の単結晶)、ガラス材料(例えば、制限するものではなく、SiO2、「HPSF」(コーニング社)、BK7(商標)およびSF10(商標)(ショットガラス社))、金属材料(例えば、制限するものではなく、アルミニウム、チタン)、その上に金属コーティングを有するガラス材料、および他の材料(例えば、制限するものではなく、SiおよびSi34)であって差し支えない。
【0028】
高反射ミラーの帯域幅は、材料が、関心のあるスペクトル領域において吸収がない場合、主に、HおよびLコーティング材料の屈折率比により決まる。しかしながら、193nmでは、酸化物コーティング材料、特に、Al23などの高屈折率材料は、吸収がないわけではない。その上、低屈折率コーティング材料としてSiO2を使用する場合、Al23−SiO2の屈折率比はたった1.16である。これらの2つの要因である吸収と低屈折率比のために、Al23−SiO2被覆ミラーの高反射率および帯域幅が減少してしまう。コーティング材料として金属フッ化物を使用する場合、得られるコーティングはほとんど吸収がなく、(GdF3−AlF3)コーティングの屈折率比は、フッ化物単層の結果に基づいて、1.23ほど高くあり得る。しかしながら、金属フッ化物層の数が増加するにつれ、主にフッ化物膜の気孔率が増加するために、平均屈折率比が減少する。金属膜の充填密度の減少のために、散乱損失が高くなる。その結果、フッ化物系のミラーの反射率および帯域幅も制限されてしまう。193nmで使用するための広帯域高反射ミラーを製造するために、膜の吸収と散乱損失を減少させ、屈折率比を増加させるための解決策を見つける必要がある。
【0029】
ここに記載した本発明は、193nmで高反射ミラーの帯域幅を増加させる目的を達成するために、本発明にうまく組み込まれた5つの技術的解決法の組合せから生まれたものである。これらの解決策のうまくいった組込みにより、193nmで広角高反射率を備えた酸化物平滑化およびフッ化物強化酸化物ミラーが得られた。これらの組み込まれる技術的解決法は以下のとおりである:
1. 酸化物系の多層においてAl23(屈折率n=1.84)の代わりに、MgAl24(屈折率n=1.96)の非晶質膜を使用することによって、屈折率比が増加した。非晶質MgAl24膜は、コーティング材料源として単結晶スピネルMgAl24を使用することによって生成した。単結晶スピネルMgAl24は、単結晶または単結晶から製造した粉末として存在してもよい。
2. 現場でのプラズマ平滑化を組み込んだ改良PIAD法を用いて、基体上に緻密な非晶質MgAl24膜を堆積させた。
3. 低屈折率フッ化物材料層および高屈折率フッ化物材料層からなる1つまたは複数の周期の、堆積によるフッ化物多層強化(enhancement)を用いて、最も外側のMgAl24層の吸収を減少させた。
4. 一連の部分マスクまたは逆マスクを用いて、周期間にSiO2層を挿入して、フッ化物膜構造を緩衝させ制御することによって、堆積したフッ化物強化層の散乱損失をなくした。SiO2挿入は、複数のフッ化物周期からなる積層体間であって差し支えない。例えば、合計で15のフッ化物周期がある場合、SiO2層は、5周期毎に挿入して差し支えない。
5. 酸化物平滑化およびフッ化物強化酸化物ミラーを形成するために、フッ化物積層体をSiO2封止層(最も外側の層としての)により環境から隔離した。すなわち、酸化物平滑化およびフッ化物強化酸化物ミラーの最後のコーティング層は、SiO2層である。
上述した各工程の結果として、選択された基体、基体の上面のMgAl24−SiO2多層コーティング、金属フッ化物コーティングの1つまたは複数の積層体(金属フッ化物コーティング周期の間に挿入されたSiO2層がなくてもよいが、あると好ましい)、およびフッ化物コーティング材料を環境から封止するための、最後の最も外側のSiO2層または数層の周期からなる高反射ミラーが製造される。
【0030】
MgAl24を使用することより増加した酸化物系ミラーの帯域幅
標準的な高反射ミラーは、高屈折率材料H、および低屈折率材料Lの多層、すなわち、H−L系ミラーからなる。このミラーの帯域幅は、多層構造を構築するのに用いられる低屈折率と低屈折率の比により著しく影響を受ける。コーティングがどのように働くかを説明するために、直角の入射角での標準的な1/4波長ミラーを例として用いる。この1/4波長ミラーは、式(1):
【化1】

【0031】
の形態で高屈折率層と低屈折率層の積層体を含み、ここで、HおよびLは、高屈折率層と低屈折率層の1/4波長に相当し、iはH−L対の数である。相対帯域幅Δλ/λ0は、式(2)
【化2】

【0032】
により記載することができ、ここで、γは、それぞれ、層HおよびLに対応する高屈折率nHの低屈折率nLに対する比であり、Δλは、λ0の波長での高反射ミラーの中心の帯域幅である。図1は、屈折率比の関数としてのミラーの相対帯域幅を示している。図1に示されているように、相対帯域幅は屈折率比に比例する。言い換えれば、高帯域ミラーでは、大きい屈折率比が必要である。HLコーティング対としてMgAl24−SiO2を使用すると、MgAl24−SiO2系ミラーの193nmでの帯域幅は、Al23の1.84の高い屈折率から、MgAl24の1.96のさらに高い屈折率に増加したために、Al23−SiO2系ミラーのものより44%広い。広い帯域幅を達成するために、193nmの高反射ミラーの用途の低い散乱および低い吸収のMgAl24多層コーティングを堆積させる必要がある。
【0033】
緻密な非晶質MgAl24膜の堆積
ここに用いるMgAl24膜を、改良PIAD技法を用いて堆積させた。堆積流束分布およびそのプラズマイオンとの相互作用により、Wang et al, “Wavefront control of SiO2-based ultraviolet narrow-bandpass filters prepared by plasma-ion assisted deposition,” Applied Optics 46(2), pp.175-179 (2007)により記載されているように、膜の光学的性質および機械的性質を改善することができる。その上、PIAD膜の結晶相は、Wang et al, “Crystal phase transition of HfO2 films evaporated by plasma ion-assisted deposition,” Applied Optics 47(13), C189-192(2008)により論じられたように、膜堆積中のプラズマイオン運動量移動の量を変更することによって、変えてもよい。MgAl24はスピネル結晶構造を有する。高反射光学素子のコーティングとして使用するために、材料は、緻密な非晶質MgAl24膜として堆積される必要があり、これにより、193nmでの散乱損失が無視できるほどで、MgAl24−SiO2系多層構造を調節することが可能になる。
【0034】
緻密な非晶質膜を形成するために、プラズマ平滑化(「PS」)が、マスキング技術を用いてPIAD法に組み込まれ、これにより、現場でのプラズマ平滑化法を図解している図3に示されるような現場でのプラズマ平滑化がもたらされる。図3は、真空槽11を有する堆積構成20を示している。この真空槽内には、被覆すべき光学素子12が上に配置されている回転可能な素子保持具22、および素子12上に高屈折率層としての1つのコーティング材料、例えば、MgAl24の層を堆積させるため、マスク14−1を通り過ぎる蒸気流束15−1を生成するための標的17−1に衝突する電子ビーム16−1が配置されている。1番目の層を完成した後、別の電子ビーム16−2が標的17−2に衝突して、素子12の1番目の層の上面に低屈折率層として第2のコーティング材料、例えば、SiO2の層を堆積させるためにマスク14−2を通り過ぎる蒸気流束15−2を生成する。高屈折率層と低屈折率層の形成を繰り返すことによって、2つのコーティング材料の周期的な層構造を有する酸化物積層体を、素子の表面上に形成することができる。さらに、プラズマ19を生成するプラズマ源18がある。回転可能な素子保持具22は、光学素子の片側だけを被覆するように光学素子12を配置するための保持具の要素を通る開口を有して差し支えない。膜の堆積中、プラズマイオンが、区域βにおいて堆積した酸化物分子と相互作用するのに対し、区域αにおいては、プラズマは、既存の表面に衝突して、現場でのプラズマ平滑化が行われる。現場でのプラズマ平滑化を含むこの被覆プロセスは、堆積した原子P当たりのプラズマ運動量移動により表すことができ、これは、式(3):
【化3】

【0035】
に示される、被覆中の、(任意単位eV)0.5の単位の、区域α(Pα)および区域β(Pβ)における運動量移動の合計(すなわち、PSおよびPIADのプラズマ運動量移動の合計)であり、ここで、Vbはプラズマのバイアス電圧であり;Jiおよびmiは、それぞれ、イオン/(cm2秒)および任意単位の質量のプラズマイオン束であり;Rは、nm/秒の堆積速度であり;eは電子の荷電であり;nsは、原子/cm2の堆積膜の表面原子密度であり;κは単位変換係数であり;αおよびβは、4から36rpmの範囲にある周波数fで回転する回転可能な板の中心に対する上記流束のマスクの陰になった区域と陰になっていない区域のラジアンである。
【0036】
本発明の好ましい実施の形態において、この業界に通常使用されている規則的なマスクの代わりに、図3に示された「部分マスク」または特許文献1に記載された「逆マスク」を用いて、基体または他の膜層に膜が堆積させられる。αとβの比、APS(Advanced Plasma Source)パラメータ、堆積速度、および基体の回転周波数を調節することにより、プラズマアシスト蒸着およびプラズマ平滑化について運動量移動の量を別々に制御することが可能になる。この結果、膜の表面での平滑性、並びに膜容積における均一性が改善され、このことは、低損失のDUV用途にとって重要である。本発明を実施する際に用いられるマスクの形状は、主に、1と4の間であるべきである(1≦α/β≦4)α/βの比により決まる。「規則的な」マスクは、マスクを通る開口は有さないであろうし、標的17の真上にある。特許文献1に記載された逆マスクは、マスクを通る開口を有するであろう。図3に示すような「部分マスク」を使用する場合、α/βの比は、1〜4の範囲にあるべきである。
【0037】
図4は、現場でのプラズマ平滑化を含む改良PIADにより堆積した196nmのMgAl24膜の屈折率深さプロファイル(193nmの波長で)を示している。膜深さプロファイルz/nmにおける特有の屈折率nは、緻密で均一な膜微細構造を表す。図4において、zは膜の断面を表し、ここで、基体と膜の界面ではz=0nmであり、膜と空気の界面ではz=193nmである。196nm厚のMgAl24膜のモデル化された表面粗さは、rmsで0.3nmである。比較のために、図5は、現場でのプラズマ平滑化を使用しない標準的なPIAD法により堆積した198nmのMgAl24の屈折率深さプロファイルを示している。1.96の平均屈折率が193nmで得られたが、屈折率深さプロファイルは、厚さが増加するにつれて、少量の不均一性を示す。すなわち、屈折率は、膜厚が増加するにつれて、わずかに減少する。図4と5の比較から、図5の標準的なPIADのMgAl24膜の表面粗さは、図4に示した膜(現場でのプラズマ平滑化を含む改良PIA)のものよりも3倍大きい。表面粗さの差は、AFM測定によりさらに確認される。5μ×5μに亘るRMS(二乗平均の平方根)で表した測定した表面粗さは、標準的な膜について0.71nmであり(図7、標準的なPIAD法)、改良膜については0.27nmであり(図6、現場でのプラズマ平滑化を含む改良PIAD)、表面粗さが約62%減少している。
【0038】
式(3)に記載した堆積パラメータを適切に調節することによって、化学組成を変えずに、緻密で滑らかな非晶質膜を堆積させることができる。所望の非晶質MgAl24膜を、図3に示したようなSiO2基板上に堆積させた。真空槽11の上部に配置された回転可能な素子保持具22を、プラズマに対して負にバイアスさせた。プラズマシートからのイオンを基体まで加速させ、電子が反射されている間に成長している膜に衝突させ、プラズマイオンアシスト蒸着(PIAD)が行われる。堆積した原子当たりのプラズマイオン運動量移動は、式(3)に基づいて、堆積速度、プラズマバイアス電圧、プラズマイオン束、およびイオン質量により変化させた。膜の堆積中、化学反応蒸着のために、真空槽中に酸素ガス(4〜12sccm)を直接導入したのに対し、プラズマ源の作用ガスとしてアルゴン(10〜20sccm)を用いた。典型的な堆積速度およびバイアス電圧は、それぞれ、0.02nm/秒から0.25nm/秒および100Vから140Vに及ぶ。XRDの結果により、非晶質膜構造が得られたことがさらに確認され、これにより、表面粗さと界面粗さを増加させずに、ミラー多層を堆積させることができる。図8は、SiO2基体の背景を減算した後の196nmのMgAl24膜のXRDパターンをプロットしている。図8のXRDパターンは、MgAl24膜が非晶質であることを明らかに示している。図9は、電子ビーム蒸発に用いたMgAl24スピネル結晶原料のXRDパターンをプロットしている。図9に示された回折ピークは、MgAl24スピネル構造のものと一致している。図8および9を比較した結果、改良PIAD法により、出発材料が高結晶質である場合でさえも、非晶質MgAl24膜を堆積させることができるのが確認される。緻密な非晶質MgAl24膜を形成する能力により、滑らかな表面と界面を有するMgAl24−SiO2多層を堆積させることが可能になる。そのような緻密で滑らかな非晶質相を堆積させる能力の結果、MgAl24−SiO2系ミラーの散乱損失は193nmで無視できる。上述したことの結果、この時点で、MgAl24−SiO2多層構造によって、広い帯域幅が確立された。
【0039】
フッ化物多層強化による最も外側のMgAl24層の吸収の減少
MgAl24のバンドギャップの制限のために、非晶質MgAl24膜には193nmで少量の吸収が存在する。この非晶質膜の減衰係数は193nmで約0.01であり、この係数は可変角分光偏光解析法により決まる。図10は、層の数の関数としてのMgAl24−SiO2系ミラーの相対吸収分布をプロットしている。図10が示すように、吸収は、ミラーと空気の界面に近いほどMgAl24層について急激に増加する。ここで、層1は、基体から最も近い最も内側の層を表し、層31は、MgAl24の最も外側の層すなわち上層を表す。しかしながら、MgAl24積層体の吸収は、複数の金属フッ化物層の少なくとも1つの積層体を、層のMgAl24−SiO2積層体の上面に加えることによって減少させることができた。フッ化物は、酸化物よりも比較的広いエネルギーバンドギャップを有するので、吸収を減少させるための解決策は、酸化物積層体の上面にフッ化物積層体を加えることである。
【0040】
熱蒸発したフッ化物多層の表面粗さは、フッ化物材料、堆積パラメータ、基体のタイプおよび表面状況に依存することが知られている。フッ化物強化酸化物の手法について、酸化物の吸収は、フッ化物強化の増加により減少する。一方で、強化ミラー表面は、フッ化物の層の数と厚さが増加するにつれ、粗くなり、193nmでの散乱損失が大きくなる。フッ化物多層の散乱損失をなくすための解決策は、フッ化物多層強化の堆積中に一連の部分マスクまたは逆マスクを使用し、フッ化物積層体の間に、現場でのプラズマ平滑化により緻密で滑らかなSiO2層を挿入することである。フッ化物膜構造を緩衝し、既存の表面を滑らかにした後、フッ化物強化手法を再開することができる。この繰り返しのフッ化物強化およびSiO2平滑化手法は、以下の式:
【化4】

【0041】
または
【化5】

【0042】
に記載することができ、ここで、HoおよびLoは、それぞれ、1/4波長の高屈折率MgAl24および低屈折率SiO2に相当する。2Moは半波長SiO2層を表す。HfおよびLfは、それぞれ、高屈折率と低屈折率のフッ化物層である。酸化物平滑化およびフッ化物強化酸化物ミラーの概略図が図11に示されている。Lf材料は、1.30から1.45の範囲の低屈折率を有し、Hfは、1.60から1.75の範囲の屈折率を有する低屈折率材料である。Lfの例としては、以下に限られないが、アルカリ土類金属フッ化物(CaF2、BaF2、MgF2、およびSrF2)およびAlF3が挙げられる。MgF2が好ましいアルカリ土類金属フッ化物である。Hfの例としては、以下に限られないが、ランタニド系列金属フッ化物(LaF3、GdF3、PrF3、NdF3、PmF3、SmF3、EuF3、DyF3、HoF3など)が挙げられる。LaF3およびGdF3が好ましいランタニド金属フッ化物である。積層体(Hffjおよび(Hffkを比較すると、この2つの積層体におけるHfおよびLfは、同じでも異なっても差し支えない。すなわち、積層体jを積層体kと比較すると:
(a) LfおよびHfは両方の積層体において同じである;
(b) Lfは両方の積層体において同じであり、Hfは異なる;
(c) Lfは異なり、Hfは両方の積層体において同じである;および
(d) LfおよびHfは両方の積層体において異なる。
すなわち、Lf材料としてとAlF3とMgF2を、高屈折率材料としてLaF3とGdF3を使用した例として、(a)、(b)、(c)および(d)は、以下のようになり得る:
(a) (Hffj=(LaF3AlF3jおよび(Hffk=(LaF3AlF3k
(b) (Hffj=(LaF3AlF3jおよび(Hffk=(GdF3AlF3k
(c) (Hffj=(LaF3AlF3jおよび(Hffk=(LaF3MgF3k;および
(d) (Hffj=(LaF3AlF3jおよび(Hffk=(GdF3MgF3k
その上、2Moは、2つの積層体において同じであっても異なっても差し支えない。例えば、両方の積層体jおよびkにおいて、2MoはSiO2であるか、または積層体jにおいて、2MoはSiO2であり、積層体kにおいて、2MoはFドープトSiO2である。
【0043】
緻密で滑らかなSiO2層が、式(4)および(5)に記載されたように、フッ化物強化酸化物ミラーの上面に配置されていることに留意することは価値のあることである。このSiO2層は、フッ化物積層体を環境から隔離し、光学素子の寿命を延ばす。図12は、193nmでの酸化物平滑化およびフッ化物強化酸化物ミラーの角度反射率を示している。
【0044】
本発明を、限られた数の実施の形態を参照して記載してきたが、この開示の恩恵を受けた当業者には、ここに開示された本発明の範囲から逸脱しない他の実施の形態も考えられることが認識されよう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲のみにより限られるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択された基体および該基体上の式(Hooioの非晶質コーティングを有してなる光学素子であって、
(Hooiは、前記基体上のHo層およびLo層からなる複数iのコーティング周期の積層体であり、
iは14〜20の範囲にあり、
oは非晶質MgAl24であり、
oは非晶質SiO2であり、
それによって、前記基体上に非晶質MgAl24−SiO2コーティングを形成し、第1の周期のHo層が前記基体に接触しており、
前記iの周期の厚さが600nmから1200nmの範囲あることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記厚さが860nmから1200nmの範囲にあることを特徴とする請求項1記載のコーティング。
【請求項3】
前記素子がミラーであり、
前記式(Hooioの非晶質コーティングが、860nmから1200nmの範囲の厚さを有し、
前記基体が、
(a)アルカリ土類金属フッ化物単結晶、
(b)シリカ、溶融シリカ、およびFドープト溶融シリカ、
(c)アルミニウム、チタン、SiおよびSi34、並びに
(d)各々が自身の上に金属コーティングを有する、シリカ、溶融シリカ、およびFドープト溶融シリカ、
からなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項4】
前記素子が、非晶質SiO2、FドープトSiO2および溶融シリカからなる群より選択される非晶質材料のキャッピングコーティングをさらに備え、該キャッピングコーティングが前記(Hooioコーティングの上面にあることを特徴とする請求項3記載の光学素子。
【請求項5】
前記基体がアルカリ土類金属フッ化物単結晶基体であり、前記非晶質(Hooioコーティングの厚さが860mから1200nmの範囲にあり、該非晶質(Hooioコーティングの上面に、非晶質SiO2、FドープトSiO2および溶融シリカからなる群より選択される非晶質材料のキャッピングコーティングが配置されていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項6】
式(Hooioを有する第1のコーティング、該第1のコーティングの上面に配置された式(Lffj2Moの第2のコーティング、および該第2のコーティングの上面に配置された式(Lffk2Moの第3のコーティングを有する選択された基体、
からなる光学素子であって、
(Hooiは、前記基体上の複数iの周期Hooからなる積層体であり、iは14〜20の範囲にあり、Hoは非晶質MgAl24であり、Loは非晶質SiO2であり、第1の周期のHo層が前記基体と接触しており、
(Lffjは、(Hooioの上面に形成された積層体であり、Lfが第1の層であり、Hfが第2の層である交互の層によって形成された複数jの周期Lffであり、jは2から6の範囲にある整数であり、2Moが(Lffj積層体の上面のコーティングであり、
(Lffkは、(Lffj2Moの上面に形成された積層体であり、Lfが第1の層であり、Hfが第2の層である交互の層により形成された複数kの周期Lffであり、kが2から6の範囲にある整数であり、2Moが(Lffk積層体の上面のコーティングであり、
fは低屈折率金属フッ化物であり、Hfは高屈折率金属フッ化物であり、2Moは、シリカ、溶融シリカ、およびFドープト溶融シリカからなる群より選択される酸化物材料であることを特徴とする光学素子。
【請求項7】
前記素子がミラーであり、
前記基体が、
アルカリ土類金属フッ化物単結晶、
シリカ、溶融シリカ、およびFドープト溶融シリカ、
アルミニウム、チタン、SiおよびSi34、並びに
自身の上に金属コーティングを有する、シリカ、溶融シリカ、およびFドープト溶融シリカ、
からなる群より選択され、
前記式(Hooioの第1のコーティングが、860nmから1200nmの範囲の厚さを有することを特徴とする請求項6記載の光学素子。
【請求項8】
前記基体がアルカリ土類金属フッ化物単結晶基体であり、
前記(Hooioコーティングの厚さが860nmから1200nmの範囲あり、
前記積層体(Lffjおよび(Lffkの各々の層において、Lfの厚さが30nmから50nmの範囲にあり、Hfの厚さが20nmから40nmの範囲にあり、前記積層体の厚さが140nmから420nmの範囲にあることを特徴とする請求項6記載の光学素子。
【請求項9】
高反射光学素子を製造する方法であって、
真空槽を提供する工程;該真空槽内において:
1つまたは複数のコーティングをその上に堆積すべき基体を提供する工程;
少なくとも1つの選択されたコーティング材料源、またはコーティング材料源の混合物を提供し、前記材料を蒸発させて、コーティング材料の蒸気流束を提供する工程であって、該流束が、前記材料源から、選択されたマスクを通って、前記基体まで通過する工程;
プラズマ源からプラズマイオンを提供する工程;
前記基体を選択された回転周波数fで回転させる工程;および
前記基体上に1つまたは複数のコーティング層として前記コーティング材料を堆積させ、該材料の堆積プロセスの前および最中に、前記基体および前記層に前記プラズマイオンを衝突させ、それによって、その上に1つまたは複数のコーティングを有する基体を形成する工程、
を有してなり、
前記基体上にコーティングを堆積させることは、該基体を、式(Hooioを有する第1のコーティング、該第1のコーティングの上面の式(Lffj2Moの第2のコーティング、および該第2のコーティングの上面の式(Lffk2Moの第3のコーティングで被覆して、その上に高反射コーティングを有する光学素子を提供することを意味し、
(Hooiが、前記基体上の複数iのコーティング周期Hooからなる積層体であり、iが10〜25の範囲にあり、Hoが非晶質MgAl24であり、Loが非晶質SiO2であり、第1の周期のHo層が前記基体と接触しており、
(Lffjが、(Hooioの上面に形成された積層体であり、Lfが第1の層であり、Hfが第2の層である交互の層により形成された複数jの周期Lffであり、jが2から6の範囲にある整数であり、2Moが前記(Lffj積層体の上面のコーティングであり、
(Lffkが、(Lffj2Moの上面に形成された、Lfが第1の層であり、Hfが第2の層である交互の層により形成された複数kの周期Lffの積層体であり、kが2から6の範囲にある整数であり、2Moが前記(Lffk積層体の上面のコーティングであり、
fは低屈折率金属フッ化物であり、Hfは高屈折率金属フッ化物であり、2Moは、シリカ、溶融シリカ、およびFドープト溶融シリカからなる群より選択される酸化物材料であることを特徴とする方法。
【請求項10】
前記フッ化物積層体が、フッ素を含有する不活性ガスにより、電子ビームまたは抵抗加熱された蒸発源を用いて、一連の部分マスクまたは逆マスクにより堆積されることを特徴とする請求項9記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−196168(P2010−196168A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−41821(P2010−41821)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】