説明

2つの金属構成部材の溶接方法、および2つの金属構成部材を有する接合構成体

本発明は、アルミニウム合金からなる2つの金属構成部材(12,14)を溶接する方法(10)であって、接合される前記金属構成部材(12,14)を、溶接領域(18)で、レーザ光線(20)によるエネルギー付与によって溶接シーム(22)を形成しながら溶解する工程と、さらなるエネルギー付与により、前記溶接シーム(22)をその表面(28)の領域において部分的に溶解しながら、前記溶接シーム(22)の表面(22)を平滑化する工程と、を有する方法(10)に関するものであり、前記さらなるエネルギー付与はデフォーカスされたレーザ光線(20’)によって実行され、該レーザ光線の焦点は光線方向(24)において前記溶接シーム(22)の表面(28)に至る前方または後方に位置決めされ、デフォーカスされた前記レーザ光線(20’)と、該レーザ光線が衝突する前記2つの金属構成部材(12,14)の表面(26,28)の面垂線とが5度以上の角度をなす。本発明は、この方法により溶接された接合構成体にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段部による2つの金属構成部材の溶接方法、および請求項7の前段部による2つの金属構成部材の接合構成体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な方法は特許文献1から公知である。そこには、金属合金からなり高温割れに脆弱な部材を溶接する際、修理溶接する際、またはメッキする際に割れを回避する方法が記載されている。この方法では、第1の熱源が部材に向けられ、溶解領域が形成され、熱源と部材とが互いに対して動かされる。さらに付加的な第2の熱源が設けられており、この熱源は部材に向けられ、間隔を置いて同じ速度で同じ方向に第1の熱源に追従する。その際に溶融領域の凝固領域の冷却速度が、凝固領域が溶解することのないように低減される。それにより、応力負荷が回避されるか、またはそれどころか応力負荷が形成されなくなり、高温割れの形成が回避される。
【0003】
特許文献2は、金属部材の溶接方法を開示し、レーザの溶接レーザ光線が金属部材に集束される。金属部材は溶接レーザ光線により、溶接シームを形成しながら溶接される。続いて溶接シームの熱処理が行われ、この熱処理はレーザ光線により実行される。この方法は、金属部材の溶接によって発生する、溶接シーム領域におけるこの金属部材の原材料の構造変質を逆遷移させる。
【0004】
ここで公知の方法はすべて、発生する溶接シームの表面形状がシーム隆起を有することがあり、および/または非常に角が尖ることがあるという課題を有する。これはとりわけ、溶接される金属部材がアルミニウム合金からなる場合、特に接合相手の少なくとも一方がシリーズ5000または7000のアルミニウム合金から形成されている場合に関係する。このため、部材の対応する溶接領域は特定の機能、例えばパッキンまたは桟の取り付けにもはや適さないものとなる。とりわけ、後の手作業による取付け工程で負傷のおそれが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0028897号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1747836号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、溶接領域の機能性を高めることのできる、金属構成部材の溶接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1の特徴を備える、2つの金属構成部材の溶接方法によって解決される。本発明の目的に適い、かつ重要な改善形態を備えた有利な構成は、従属請求項に記載されている。
【0008】
アルミニウム合金からなる2つの金属構成部材の溶接方法は第1の工程を有し、この第1の工程では、1つの溶接領域で接合される金属構成部材が、レーザ光線によるエネルギー付与により溶接シームを形成しながら溶融される。本発明によればさらなる工程が設けられており、この工程で、さらなるエネルギー付与により、溶接シームをその表面領域において部分的に溶融しながら、溶接シームの表面を平滑化し、前記さらなるエネルギー付与はデフォーカスされたレーザ光線によって実行され、該レーザ光線の焦点は光線方向において溶接シームの表面に至る前方または後方に位置決めされ、デフォーカスされたレーザ光線と、このレーザ光線が衝突する2つの金属構成部材の表面の面垂線とが5度以上の角度をなす。
【0009】
このように、少なくともある領域において再び溶融させ、表面を平滑化することにより、溶接シームの表面が再溶融され、これによって、冒頭に述べた個々の隆起部の崩壊が生じる。溶接シームの形状はもはや角が尖ったものではなく、かなり平滑であり、これにより2つの金属構成部材の溶接領域は、例えばそこにパッキンを設けることができるほどの非常に高い機能性を有する。
【0010】
これは溶接領域の表面品質が非常に良好であることを意味し、溶接領域の高い機能性をもたらす。このようにして得られた溶接領域の高い表面品質により、例えば、溶接シームの平滑化がなければ角の尖った形状により損傷を受けるはずのパッキンまたは桟を、金属構成部材の溶接されていない表面と同じように取付けることが可能になる。
【0011】
さらなるエネルギー付与を、焦点が光線方向において溶接シームの表面に至る前方または後方に位置決めされる、デフォーカスされたレーザ光線によって行うことにより、精確で迅速なプロセス実行が可能となり、このことは高い品質とともに、同時に本発明の方法にとっては低いコストをもたらす。デフォーカスされたレーザ光線は例えば、すでに金属構成部材を溶接領域で溶解したレーザのレーザ光線とすることができる。同様にデフォーカスされたレーザ光線を別のレーザのレーザ光線とすることもでき、この別のレーザ光線は所定の間隔を置いて例えば第1のレーザ光線に追従する。
【0012】
本発明によれば、デフォーカスされたレーザ光線と、レーザ光線が衝突する2つの金属構成部材の表面、すなわち溶接シームが形成される表面の面垂線とは少なくとも5°の角度をなす。これにより、構成部材表面から反射されたレーザ光線による光学系の損傷が回避される。
【0013】
デフォーカスされたレーザ光線によりエネルギー付与される面積は、2つの金属構成部材の溶接のために、フォーカスされたレーザ光線によりエネルギー付与される面積より、例えば4から16倍、とりわけ9倍大きい。これにより特異的エネルギー付与、すなわち溶接シームが部分的に再び溶融し、これにより溶接シームの表面が平滑化されるが、溶接シームが完全に再び溶融することはない面積当たりのエネルギー付与が可能となる。
【0014】
デフォーカスされたレーザ光線が溶接シーム上を移動する際には、溶接シームの部分的な再溶融のために十分なエネルギーが吸収されるようにプロセスパラメータを選択すべきである。
【0015】
アルミニウム合金からなる2つの金属構成部材を本発明の方法により溶接する場合、このアルミニウム合金の表面は固体レーザの波長に対して特に反射性であり、これによって、光学系または光導体ケーブルが、構成部材表面からバック反射した光線により破壊される危険性が最小となる。この危険性はとりわけ、レーザ光線がデフォーカスされた場合に生じる。なぜならデフォーカスされたレーザ光線は溶接シームに直接続く平滑な領域にも衝突し、この平滑な領域はレーザ光線を反射することができるからである。したがって破壊を回避するために、デフォーカスされたレーザ光線は面垂線と5°以上の角度をなす。
【0016】
デフォーカスされたレーザ光線のエネルギー分布は少なくとも実質的にガウス分布に従うことに注意されたい。これは、レーザ光線によりエネルギーが付与される面の外側領域には、この面の内側領域よりも小さいエネルギー密度が存在することを意味する。
【0017】
溶接シームをデフォーカスされたレーザ光線が移動すること、すなわちいわゆるデフォーカス移動は、例えば溶接シームまたは溶接シーム領域がまだ熱いうちに行うことができる。同じようにデフォーカス移動は、溶接シームまたは溶接シーム領域が例えば周囲温度にまですでに冷却された場合に行うこともできる。いずれに関しても、デフォーカス移動は逆の方向で、すなわち溶接シームを形成したのとは反対の方向で直接行うことができる。
【0018】
デフォーカス移動により、溶接シームのとりわけ不規則で角の尖った隆起部、縁部クレータおよびシーム隆起を平滑化することができる。
【0019】
ここで前記のシーム隆起は溶接シームの始部領域にあり、レーザ光線が溶接シームの形成の開始時に金属構成部材の対応する表面に衝突し、金属を溶融し、それどころか蒸発させることで発生する。ここで発生する蒸気細管(キーホール)は、溶接シームを形成するための対応する所望の方向に案内される。蒸気細管による材料変化と、蒸気細管の周囲で溶融した金属の流れが溶接方向とは反対であることにより、シーム始部にはシーム隆起が発生する。このシーム隆起はデフォーカスされたレーザ光線によって平滑化されるものであり、デフォーカス移動の際に、レーザ光線がシーム隆起をまさに確実に平滑化するためにレーザ光線がシーム始部を越えて、すなわち溶接シームの始部領域を越えて例えば逆方向に案内される。
【0020】
ここで前記縁部クレータは、シーム隆起に対向する溶接シームの端部領域にあり、同じようにデフォーカス移動によって平滑化されるものである。ここで縁部クレータは、溶融した金属により充填され、平坦にされる。
【0021】
本発明の方法は、例えば溶接プロセスがロボットで案内されるリモートレーザ光線溶接法の範囲内で使用できることに注意されたい。
【0022】
リモートレーザ光線溶接法は、レーザ光線が比較的大きな間隙から、金属構成部材の対応する表面に向けて照射される溶接法であり、レーザ光線はスキャナによっても表面上を案内され、対応する所望の個所に偏向される。溶接装置の溶接ヘッドにはスキャナのミラーが配置されており、ミラーはレーザ光線の微調整を行い、レーザ光線を所望の個所に偏向する。
【0023】
スキャナはさらにこのスキャナを移動させるロボットアームに保持されており、ロボットアームによるスキャナの運動は、スキャナおよびそのミラーによるレーザ光線の前記微調整よりも粗く行われる。
【0024】
とりわけスキャナおよびミラーによるレーザ光線の案内と偏向は、非常に高速かついわば跳躍的に実施することができる。これによりレーザ光線の新たな位置決め、ひいては溶接シームのシーム始部の新たな位置決めを高速に行うことができる。これによりこの溶接法の非生産時間を特に短くすることができ、このことは全体のサイクルタイムを短いものに留め、ひいてはサイクルタイムが非常に短い、有利な方法を可能にする。
【0025】
とりわけ、すでに述べたように、レーザ光線を特に高速に移動させ、新たに位置決めすることができるので、例えば20から30mmの間隔で並置された2つの溶接シームの形成も可能である。
【0026】
この高速でフレキシブルな位置変更により、とりわけ有利にはデフォーカス移動を作業フローに組み込むことも可能である。溶接の直後にレーザ光線がスキャナによりデフォーカスされ、溶接方向とは反対の方向で前に溶接されたシーム上に案内される。このことは、スキャナの連続運動中に、ロボットによって、溶接される金属構成部材の表面上で行われる。
【0027】
リモートレーザ光線溶接法は従来の方法よりも約係数3だけ高速であり、とりわけレーザ光線が高速に再調整されるので溶接加材は不可能である。
【0028】
本発明の方法により、特にシリーズ5000および/または7000のアルミニウム合金から形成された金属構成部材と関連するリモートレーザ光線溶接法の範囲内でも、品質の高い非常に良好な溶接シームを、溶接加材なしでも提供することができる。
【0029】
このことは、前記のアルミニウム合金からなる金属構成部材が非常に流動性のある溶解物を形成し、その形状が、粗度が高い、割れ目がある、角が尖っている等の理由から前記の機能性に関して不利である場合には非常に有利である。これらの欠点は本発明の方法により克服される。
【0030】
したがって本発明の前記第1の態様は、金属構成部材の、とりわけレーザ光線によってエネルギー付与される側の表面上で、金属構成部材の高い機能性を提供することができる本発明の方法に関するものである。本発明の第2の態様は、とりわけレーザ光線によるエネルギー付与とは反対側、すなわち第1の表面に対向する側の表面の高い機能性を提供することができる方法に関するものである。第1の表面はシーム上方ビードと称され、一方、第1の表面に対向する第2の表面はシーム下方ビードと称される。
【0031】
本発明の有利な構成は、アルミニウム合金からなる2つの金属構成部材を溶接するための方法に関するものであり、溶接領域にある接合される金属構成部材はレーザ光線によるエネルギー付与によって、溶接シームを形成しながら溶融される。次に引き続きエネルギー付与の方向すなわちレーザ光線の方向で、エネルギー付与によらずに、すなわちレーザ光線によらずに溶融した金属構成部材の残余材料厚さ領域が設けられる。さらに金属構成部材の少なくとも1つのエネルギー付与すなわちレーザ光線とは反対側の表面において、エネルギー付与から生じた溶接シームの領域における幾何形状変化が求められる。その後、エネルギー付与すなわちレーザ光線の方向に延在する残余材料厚さ領域が、求められた幾何形状変化に依存する大きさで形成される。
【0032】
言い替えるとこれは、金属構成部材が完全には溶融されず、前記の残余材料厚さ領域が設けられることを意味する。これは一方では、エネルギー付与とは反対側の表面の形状が、その溶融のために悪化し、粗くなり、角が尖るのを回避する。とは言うものの、溶接シームは、金属構成部材の強固な接合が得られるようにエネルギー付与の方向に深く形成されなければならず、したがって大きな進入深度を有していなければならない。したがって一方では金属構成部材の強固な結合を形成するための溶接シームの進入深度と、他方ではエネルギー付与(レーザ光線)とは反対側の金属構成部材の表面、または構成部材が重なる場合には2つの金属構成部材のうちの下側の表面に高い表面品質を形成するための進入深度との間で妥協が図られる。
【0033】
金属構成部材が完全には溶融されない場合であっても、すなわちいわゆる不完全溶融の場合でも、エネルギー付与とは反対側の表面には幾何形状の変化が生じる。この反対側の表面を以下では下側と称する。形状の変化または変形とも称されるこの幾何形状変化は、例えば前もって行う実験で求められ、または検出される。そしてこれが、溶融により形成される溶接シームが前記の下側の前方にどの程度の厚さで存在するか、すなわちエネルギー付与の方向に延在する残余材料厚さ領域の大きさがどの程度の大きさであるかという尺度となる。したがって同様に変形は、2つの金属構成部材の接合の強度に対する尺度である。
【0034】
変形を求めることまたは検出することにより、上記の妥協が達成される。例えばこの変形のプロフィール高さならびにプロフィール角度が求められ、そこから接合部の強度、およびエネルギー付与の方向に延在する残余材料厚さ領域の大きさが推定される。
【0035】
溶接シームの溶融した領域が特に下側の近傍に存在する場合、変形は鋭利で高い形状を有し、一方、溶接シームの溶融領域が下側からかなり離れている場合、形状は広く平坦な推移を有する。
【0036】
この幾何形状変化に依存して、またはこの形状に依存して、下側の所望の形状が溶接シームの領域に調整されるように本発明の方法を調整することができ、これにより一方では高い表面品質が、他方では金属構成部材間の強固な結合が可能である。
【0037】
ここで前記プロフィール高さの特に有利な範囲は20μm以上100μm以下であり、一方、前記プロフィール角度の特に有利な範囲は1°以上5°以下である。とりわけプロフィール角度は接合部の強度に対する非常に有用な尺度であり、エネルギー付与とは反対側の表面上でも前記機能性を提供する非常に良好な表面品質を同時に実現する。プロフィール角度および/またはプロフィール高さがそれぞれの範囲内にあれば、完全に溶融しなくても2つの金属構成部材は相互に強固に接合される。
【0038】
本発明の方法は、実質的にアルミニウム合金からなる金属構成部材を溶接するのに特に適し、とりわけ接合される部材の少なくとも一方がシリーズ5000または7000のアルミニウム合金から形成されており、機能フランジで互いに溶接される場合に特に適する。溶接領域の高い機能性が達成される他に、さらにこれ以降の、手作業による取付け工程での負傷のおそれが回避される。なぜなら組立工を負傷させ得る尖ったエッジが回避または除去されるからである。
【0039】
本発明の第1の態様による本発明の方法と本発明の第2の態様の本発明による方法とは、高い機能性を備える品質の高い表面を2つの金属構成部材のシーム上方ビードでもシーム下方ビードでも提供するために、簡単に組み合わせることができることを述べておく。
【0040】
互いに溶接された2つの金属構成部材を備える接合構成体も本発明に属するものであり、ここで2つの金属構成部材は、本発明の第1の態様の本発明による方法によって、または本発明の第2の態様の本発明による方法によって、または本発明のこれら2つの態様による方法の組み合わせによって互いに溶接されている。接合構成体の有利な構成はそれぞれの方法の有利な構成とみなすべきであり、反対も当てはまる。
【0041】
本発明のさらなる利点、特徴および詳細は、複数の好ましい実施例に関する、図面に基づいた以下の説明から明らかである。明細書中の前述の特徴および特徴の組み合わせ、ならびに以降の図面の説明で述べる特徴および特徴の組み合わせ、または図面だけに示された特徴および特徴の組み合わせは、それぞれ述べられた組み合わせだけでなく、別の組合せにおいても、または単独でも本発明の枠を逸脱することなく使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】2つの金属構成部材を溶接するための方法の2つの工程を概略的に示す図である。
【図2】図1の方法により発生した溶接シームの縦断面を、図1の方法の第2の工程前および後で対比して示す図である。
【図3】図1の方法で形成される溶接シームの進入深度と、本方法で溶接される金属構成部材の接合の強度との関係を示す図である。
【図4】図1の方法で形成される、エネルギー付与とは反対側の表面上にある溶接シームに対して、横方向の高さプロフィールを示す図である。
【図5】図4の高さプロフィールと、図1の方法で形成される溶接シームの進入深度との関係を示す図である。
【図6】図1の方法により互いに溶接される金属構成部材の接合の強度と、図4および5の高さプロフィールとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1は、シリーズ5000または7000のアルミニウム合金から形成された第1の金属構成部材12と第2の金属構成部材14との溶接方法を示す。まず金属構成部材12と14がオーバラップ領域16で重ねて配置され、それによりオーバラップ突合わせが形成される。
【0044】
次に接合される金属構成部材12と14が溶接領域18で、レーザ光線20によるエネルギー付与によって溶接シーム22を形成しながら溶解される。ここでレーザ光線20は、溶接シーム22上にまたは方向矢印24による光線方向で上側の金属構成部材12の上側表面26上に集束される。すなわちレーザ光線20の焦点と表面26との間隔zはゼロmmである。
【0045】
図1から分かるように、これにより溶接シーム22の不均等な表面28が発生し、この表面28はシーム上方ビードと称される。
【0046】
続いて溶接シーム22の表面28が、さらなるエネルギー付与により溶接シーム22が表面28の領域で部分的に溶解され平滑化される。ここで参照符号30は、均等なシーム上方ビードを有する再溶解領域を示す。
【0047】
さらなるエネルギー付与はデフォーカスされたレーザ光線20’によって実行され、該レーザ光線20’の焦点は光線方向で溶接シーム22に至る前方または表面28の後方に位置決めされる。レーザ光線20’の焦点の間隔zは例えば40mmとなる。ここでレーザ光線20’は同時にレーザ光線20であっても良く、レーザ光線20は単にデフォーカスされ、溶接シーム22上に案内される。
【0048】
図1から同様に分かるように、方法10では溶接シーム22の進入深度sが、接合される金属構成部材12と14の全体材料厚tgesよりも小さくなるよう構成されている。これは、溶接シーム22が、方向矢印24による光線方向で下側の金属構成部材14の、方向矢印24による光線方向で下側の表面32に突き抜けていないことを意味する。したがってレーザ光線20の方向で溶接シーム22に続く金属構成部材12と14の残余材料厚さ領域が設けられる。レーザ光線20の方向に延在するこの残余材料厚さ領域の大きさ(厚さ)は、レーザ光線20によるエネルギー付与から生じた、レーザ光線20とは反対側の金属構成部材14の表面32で求められた幾何形状変化に依存して溶接シーム22の領域に形成される。このことを以下、図面に基づいて説明する。
【0049】
したがって、溶接シーム22の表面28を平滑化することにより得られる表面26の高い表面品質の他に、表面32の非常に良好な表面品質も実現される。
【0050】
図面により示された金属構成部材12と14の溶接方法では、金属構成部材12と14が、フランジ領域に沿ったリモートレーザ光線溶接法による一連のステップシームまたはスポットシームにより互いに接合される。ここでは金属構成部材12と14はシリーズ5000のアルミニウム合金から形成されている。フランジ領域に沿ったスポットシームの間隔は、スポットシーム中央からスポットシーム中央までで約60mmである。スポットシームごとのシーム長は30mmであり、2つの金属構成部材12と14の薄板厚はそれぞれ1.5mmである。金属構成部材の溶接されるフランジ領域は、フランジ領域でスポットシーム間に配置されたスパナフィンガにより互い押圧される。
【0051】
レーザ光線20およびデフォーカスされたレーザ光線20’は、出力が6kW、波長が約1μmのディスクレーザにより形成される。レーザの出力は、コア直径が200μmのグラスファイバケーブルとして構成された光導体ケーブルを介して、3Dスキャナとして構成された加工ヘッドに導かれる。スキャナはロボットフランジに固定されている。
【0052】
スキャナは、レーザ光線20ないし20’を光線方向(z方向)に運動させるための電動コリメータを有し、z方向でのこの運動は±70mmの行路長にわたって実施することができる。
【0053】
さらにスキャナは、レーザ光線20ないし20’を走査容積内で2つの方向(x方向およびy方向)に偏向または位置決めするための2つの可動のミラーを有し、これらのミラーは互いに垂直であり、それぞれz方向に垂直に延在している(デカルト座標系)。走査容積は、約320mm×190mm×70mmの寸法を有する楕円形の走査容積である。スキャナの集束光学系の焦点距離は450mmであり、アスペクト比は3:1である。焦点直径は600μmである。
【0054】
金属構成部材12と14の溶接方法では、金属構成部材12と14の原材料が対応して溶融され、このときレーザ光線の焦点は、金属構成部材12の表面26または金属構成部材12の上側フランジを基準にしてz=0mmである。この溶接の開始時に、レーザ光線20と表面26との間の入射角は0°である。溶接速度、すなわちレーザ光線20が表面26上を案内される速度は10m/分であり、そこから180msのスポットシームに対する純粋な溶接持続時間が生じる。この速度では下側金属構成部材14は完全には貫通溶接されず、レーザ光線20の方向に延在する0.2から1mmの大きさ(厚さ)を有する前記の残余材料厚さ領域が残る。
【0055】
このように非貫通溶接であっても、表面32には溶接シーム22の領域で幾何形状変化、すなわち表面32の形状の変化が形成される。この変化は変形とも称され、熱的膨張による塑性の永久変形である。
【0056】
図4に関連して、この変形のプロフィール高さは約20から100μmであり、この変形のプロフィール角度は約0.5から3°である。ここでプロフィール高さとプロフィール角度は、レーザ光線20の方向に延在する残余材料厚さ領域の大きさに対する有用な尺度である。すなわち溶融しない残余材料厚さに対する有用な尺度であり、したがって溶接シーム22の進入深度sに対する有用な尺度でもあり、さらには溶接シーム22の強度に対する、したがって金属構成部材12と14の接合に対する間接的な尺度である。
【0057】
溶接シーム22の形成直後に、レーザ光線20は±40mmだけデフォーカスされ、そこからレーザ光線20’から表面26までの前記間隔z=40mmが生じる。これにより表面26上でのレーザ光線20ないし20’の光点直径が約係数3だけ、フォーカスされたレーザ光線20の光点直径と比較して拡大する。次に、前記のようにして形成された溶接シーム22のデフォーカス移動が、溶接シーム22を形成するための先行の運動方向とは反対の方向で実施され、これにより表面28または表面領域が、前に溶接されすでに大部分が凝固した溶接シーム22の約0.1から1mmの深さまで再び溶解され、そのときに平滑化または平坦化される。ここでこのデフォーカス移動は、6kWのレーザ出力と、約18m/分の速度で行われ、そこからデフォーカス移動に対して100msの持続時間が生じる。
【0058】
デフォーカス移動の後、レーザ光線20’は数ミリ秒で次のスポットシームの始部に偏向され、これに続いて次のスポットシームが形成される。したがって溶接は、フォーカスされた移動と、対応する表面28を平滑化するためにデフォーカスされた移動とを互いに交互に行う。
【0059】
そのために必要なスキャナのミラーおよび電動コリメータの運動が制御計算ユニットにより、前もって調節または学習されたスポットシームの位置、プログラミングされた溶接パラメータ、ならびに加工光学系および運動のためにロボットに保持されたスキャナの運動を考慮して求められる。
【0060】
ここでレーザ光線20または20’を粗く配向するためのロボット速度は約12.5m/分であり、したがって10m/分である溶接シーム22を形成するためのレーザ光線20の前記速度よりもはるかに高い。このことは、スキャナのミラーの運動が高速であるために、レーザ光線20が1つのスポットシームから次のスポットシームへ高速に跳躍できることによって可能となる。
【0061】
図2のAは、表面28を平滑化する前の溶接シーム22の縦断面を示す。多数の鋭利なエッジを有する不均等な表面28が見られる。
【0062】
これに対応して、図2のBは、デフォーカスされたレーザ光線20’によるさらなるエネルギー付与により平滑化された後の溶接シーム22の縦断面を示す。表面28が格段に滑らかであり、鋭利なエッジをもはや備えていない。
【0063】
図3は、横軸36に溶接速度がプロットされた線図34を示す。ここで溶接速度は、溶接シーム22を形成するためのレーザ光線20が金属構成部材12と14に対して移動される速度である。線図34の縦軸38には、金属構成部材12と14の接合の強度が示されている。
【0064】
さらに図3には、図1から既知の、溶接シーム22および金属構成部材12と14の断面図と、光線方向で下側の金属構成部材14の、光線方向で下側の表面32の平面図とが示されている。溶接シーム22の表面28をシーム上方ビードと称するとすると、溶接シーム22の対向する表面はシーム下方ビード40と称することができる。
【0065】
図から分かるように、溶接速度が上昇すると溶接シーム22の進入深度(図1)が低下し、したがって溶接シーム22の下側構成部材14への進入深度も低下する。溶接速度が低いと、溶接シームは下側金属構成部材14を貫通してしまい、そのためシーム下方ビード40が表面32上に見られる。従って金属構成部材12と14の接合の強度38は確かに高いが、表面32の表面品質も悪化する。そのため溶接領域18には、例えばパッキン等をもはや取り付けることができない。パッキン等は、鋭利なエッジ(図2)により損傷を受けることとなる。
【0066】
したがって、強度38と溶接シーム22の進入深度sまたは溶接速度36との間で妥協を図るべきである。
【0067】
ここで線図34の領域Cは最適の溶接速度領域であり、この領域Cでは金属構成部材12と14の接合の強度38が十分に大きく、かつ表面32も所望の高い表面品質を有する。なぜなら第2の金属構成部材14がその表面32まで突き抜けること、すなわち貫通溶接が回避されているからである。この非貫通溶接は、単溶接とも称される。
【0068】
図4は、下側金属構成部材14へのこのような単溶接の場合、すなわち溶接シーム22が下側金属構成部材14を完全に突き抜けることを回避した場合の、シーム縦方向に対して横方向に測定された表面32上の典型的な高さプロフィールを示す。ここでプロフィール高さはhとして示されており、プロフィール角度は角度αにより示されている。
【0069】
図5を概観すると、これは、溶接シーム22の進入深度sが増大し、したがって下側金属構成部材14への溶接シーム22の進入深度eが増大すると、プロフィール角度αも増大することを意味している。
【0070】
さらに図6を概観すると、プロフィール角度αと金属構成部材12と14の接合の強度38との関係が明らかである。プロフィール角度αが増大すると、強度38も増大する。しかしプロフィール角度αに対する強度38の推移は次第に弱まる。すなわち所定のプロフィール角度αから、強度38はもはや有意には増大しない。
【0071】
反対の結論として、このことは、溶接シーム22の溶接深度eまたは進入深度sに既知のように関連するある程度のプロフィール角度αを形成すれば十分であること意味する。したがって、一方では下側表面32の非常に良好な表面品質を提供し、同時に金属構成部材12と14との間の強固な接合を提供するためには、第2の金属構成部材14を突き抜けない溶接シーム22の所定の進入深度sでも十分である。
【符号の説明】
【0072】
10 方法
12,14 金属構成部材
16 オーバラップ領域
18 溶接領域
20,20’ レーザ光線
22 溶接シーム
24 光線方向
26,28 表面
30 再溶解領域
32 下側表面
34 線図
36 溶接速度
38 強度
40 シーム下方ビード
z 間隔
ges 全体材料厚
e 溶接深度
s 進入深度
C 領域
α プロフィール角度
h プロフィール高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなる2つの金属構成部材(12,14)を溶接する方法(10)であって、
接合される前記金属構成部材(12,14)を、溶接領域(18)で、レーザ光線(20)によるエネルギー付与によって溶接シーム(22)を形成しながら溶解する工程と、
さらなるエネルギー付与により、前記溶接シーム(22)をその表面(28)の領域において部分的に溶解しながら、前記溶接シーム(22)の前記表面(28)を平滑化する工程と、
を有する方法(10)において、
前記さらなるエネルギー付与はデフォーカスされたレーザ光線(20’)によって実行され、該レーザ光線の焦点は光線方向(24)において前記溶接シーム(22)の表面(28)に至る前方または後方に位置決めされ、
デフォーカスされた前記レーザ光線(20’)と、該レーザ光線が衝突する前記2つの金属構成部材(12,14)の表面(26,28)の面垂線とが5度以上の角度をなすことを特徴とする、方法。
【請求項2】
デフォーカスされたレーザ光線(20’)によりエネルギー付与される面積は、フォーカスされたレーザ光線(20)によりエネルギー付与される面積の4から16倍、とりわけ9倍大きいことを特徴とする、請求項1に記載の方法(10)。
【請求項3】
デフォーカスされた前記レーザ光線(20’)によるさらなるエネルギー付与は、第1の工程の直後に100ms以下の時間間隔、とりわけ10ms以下の時間間隔で行われ、デフォーカス移動は3Dスキャナによって、前記第1の工程で行われた溶接とは反対の方向で実行されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法(10)。
【請求項4】
とりわけアルミニウム合金からなる2つの金属構成部材(12,14)を溶接する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法(10)であって、
前記エネルギー付与の方向で、とりわけ前記レーザ光線(20)の方向で前記溶接シーム(22)に続いている、前記エネルギー付与によってとりわけ前記レーザ光線(20)によって溶解されていない、前記金属構成部材の残余材料厚さ領域を設ける工程と、
前記エネルギー付与から生じた、前記金属構成部材(12,14)の少なくとも1つの、前記エネルギー付与とりわけ前記レーザ光線(20)とは反対側の表面(32)での、前記溶接シーム(22)の領域における幾何形状変化を求める工程と、
前記エネルギー付与とりわけ前記レーザ光線(20)の方向に延在する前記残余材料厚さ領域を、求められた前記幾何形状変化に依存する大きさで形成する工程と、
を付加的に有する、方法(10)。
【請求項5】
前記金属構成部材(12,14)は溶接の前に、オーバラップ領域(16)に重ねて配置され、前記溶接領域(18)が前記オーバラップ領域(16)に設けられることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法(10)。
【請求項6】
前記2つの金属構成部材(12,14)としてアルミニウム合金が溶接され、接合される前記部材の少なくとも1つはシリーズ5000または7000のアルミニウム合金から形成されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法(10)。
【請求項7】
互いに溶接された2つの金属構成部材(12,14)を有する接合構成体であって、
前記2つの金属構成部材(12,14)は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法によって互いに溶接されており、前記2つの金属構成部材(12,14)はアルミニウム合金から形成されており、
接合される前記部材の少なくとも1つはシリーズ5000または7000のアルミニウム合金から形成されている、接合構成体。
【請求項8】
特に前記レーザ光線(20)の前記第1のエネルギー付与とは反対側の表面が、特にデフォーカスされたレーザ光線(20’)の第2のエネルギー付与により平滑化され、
および/または、前記エネルギー付与とは反対側の第2の金属構成部材には、溶解されないもしくは完全に溶解されない残余材料厚さ領域が残り、前記エネルギー付与とは反対側の表面には残った幾何形状変化(変形)が形成され、前記幾何形状変化は前記残余材料厚さ領域の大きさ(厚さ)に関して特徴的であり、前記幾何形状変化(変形)のプロフィール高さは、20から100μmの範囲にあり、またはシーム方向に対して1から5°のプロフィール角度が形成されることを特徴とする、請求項7に記載の接合構成体。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−513486(P2013−513486A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542387(P2012−542387)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007348
【国際公開番号】WO2011/069621
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】