説明

2型糖尿病の防止および処置において使用することができる医薬品を調製するためのリモナバントの使用

本発明は、2型糖尿病もしくはインスリン非依存性糖尿病および/またはこの合併症の防止および処置において使用することができる医薬品を調製するためのリモナバントの使用(単独での使用またはもう一つの活性な成分との組合せでの使用のいずれであっても)に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、2型糖尿病またはインスリン非依存性糖尿病および/またはこの合併症の防止および処置において有用な医薬品の調製のためのリモナバントの使用である。
【背景技術】
【0002】
2型糖尿病は、インスリン感受性またはインスリン抵抗性の障害を伴うインスリン分泌障害によって特徴づけられる。インスリン抵抗性は、高血糖によって、また、高レベルの循環遊離脂肪酸および貯蔵トリグリセリドによって悪化する。
【0003】
リモナバントは、欧州特許656354に記載されるN−ピペリジノ−5−(4−クロロフェニル)−1−(2,4−ジクロロフェニル)−4−メチルピラゾール−3−カルボキサミドに対する国際的な一般名である。
【0004】
リモナバントを用いて行われた臨床研究は、リモナバントが量的および質的な観点から食物摂取に対して作用し、肥満患者の体重を低下させることを示している(G.Le Fur、2003、35、First European Workshop on Cannabinoid Research、Madrid、Spain、2003年4月4日−5日;および、Heshmati H.M.et al.、Obesity Research、2001、9(suppl.3)、70)。
【発明の開示】
【0005】
今回、リモナバントが抗糖尿病特性を有し、糖尿病に関連づけられる合併症に対して作用することが見出されている。
【0006】
従って、本発明によれば、リモナバントを、2型糖尿病およびこの合併症を防止および処置するために有用な医薬品の調製のために使用することができる。
【0007】
糖尿病に関連づけられる合併症という表現は、
・糖尿病に関連づけられる心臓血管疾患;
・神経学的疾患(例えば、糖尿病性神経障害、末梢神経障害、自発性心臓神経障害);
・腎臓疾患(例えば、糖尿病性腎症、糖尿病性腎糸球体症);
・眼疾患(例えば、糖尿病性網膜症、黄斑浮腫、緑内障);
・脈管障害:細小血管障害、大型血管障害、冠状動脈症、末梢動脈症
を意味することが理解される。
【0008】
本発明の態様の1つによれば、本発明の主題は、糖尿病に関連づけられる合併症(最も具体的には、末梢神経障害、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、血管障害)の防止および処置のためのリモナバントの使用である。
【0009】
本発明による医薬組成物は、リモナバントの効果的な用量と、少なくとも1つの医薬的に許容される賦形剤とを含有する。
【0010】
前記賦形剤は、所望される薬学的投薬形態物および投与方法に従って、当業者に知られている通常の賦形剤から選ばれる。
【0011】
経口投与、舌下投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、局所投与、局部投与、気管内投与、鼻腔内投与、経皮投与または直腸投与のための本発明の医薬組成物において、有効成分は、従来の医薬用賦形剤と混合された、投与のための単位形態物で、2型糖尿病の防止または処置のために動物およびヒトに投与することができる。
【0012】
投与のための適切な単位形態物には、経口投与のための形態物(例えば、錠剤、ソフトゼラチンカプセルまたはハードゼラチンカプセル、粉末剤、顆粒、および、経口用の溶液または懸濁物)、舌下投与、口内投与、気管内投与、眼内投与または鼻腔内投与のための形態物、吸入による投与のための形態物、局所投与、経皮投与、皮下投与、筋肉内投与または静脈内投与のための形態物、直腸投与のための形態物およびインプラントが含まれる。局所適用のために、本発明による化合物を、クリーム、ゲル、軟膏またはローションで使用することが可能である。
【0013】
経口投与のための形態物(例えば、ゼラチンカプセルまたは錠剤)が好ましい。
【0014】
より具体的には、リモナバントを5mgから50mgとの間での用量(より具体的には、10mgから30mgの用量、特に20mgの用量)で含有するゼラチンカプセルまたは錠剤が好ましい。
【0015】
本発明による使用のために、リモナバントは、下記の治療剤クラスのいずれかから選ばれるもう一つの活性な成分と組み合わせることができる。
・血中脂肪低下薬または血中コレステロール低下薬;
・別の抗糖尿病薬;
・別の肥満防止剤。
【0016】
従って、本発明の主題はまた、リモナバントおよびN−ピペリジノ−5−(4−ブロモフェニル)−1−(2,4−ジクロロフェニル)−4−エチルピラゾール−3−カルボキサミドから選ばれるピラゾール由来の、カンナビノイドCB受容体についてのアンタゴニストと、下記の治療剤クラス:
・血中脂肪低下薬または血中コレステロール低下薬;
・別の抗糖尿病薬
のいずれかから選ばれるもう一つの活性な成分とを組合せで含有する医薬組成物である。
【0017】
血中脂肪低下薬または血中コレステロール低下薬という表現は、フィブラート系薬剤から選ばれる化合物(例えば、アルフィブラート、ベクロブラート、ベザフィブラート、シプロフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブラート、エトフィブラート、フェノフィブラート);スタチン系薬剤(HMG−CoAレダクターゼ阻害剤)から選ばれる化合物(例えば、アトルバスタチン、フルバスタチンナトリウム、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シムバスタチン);または、アシピモクス、ニコチン酸アルミニウム、アザコステロール、コレスチラミン、デキストロチロキシン、メグルトール、ニセリトロール、ニコクロナート、ニコチン酸、β−シトステリン、チアデノールなどの化合物を意味することが理解される。
【0018】
他の抗糖尿病薬という表現は、下記のクラスのいずれかに属する化合物を意味することが理解される。スルホニルウレア系薬剤、ビグアニジン系薬剤、α−グルコシダーゼ阻害剤、チアゾリジンジオン系薬剤、メチグリニド系薬剤、例えば、アカルボース、アセトヘキサミド、カルブタミド、クロルプロパミド、グリベンクラミド、グリボルヌリド、グリクラジド、グリメピリド、グリピジド、グリキドン、グリソキセピド、グリブゾール、グリミジン、メタヘキサミド、メトホルミン、ミグリトール、ネテグリニド、ピオグリタゾン、レパグリニド、ロシグリタゾン、トラザミド、トルブタミド、ボグリボース。
【0019】
別の具体的な実施形態によれば、本発明の主題は、2型糖尿病の処置のために、リモナバントおよびメトホルミン、または、リモナバントおよびスルホニルウレア系薬剤(例えば、アセトヘキサミド、カルブタミド、クロルプロパミド、グリベンクラミド、グリボルヌリド、グリクラジド、グリメピリド、グリピジド、トラザミド、トルブタミド)を組合せで含有する医薬組成物である。
【0020】
本発明の別の態様によれば、リモナバントおよびもう一方の組み合わされた活性な成分は、同時に、別々にまたは時間を置いて投与することができる。
【0021】
表現「別々での使用」は、本発明による組成物のこれら2つの化合物(それぞれが異なった薬学的投薬形態物に含有される)の同時での投与を意味することが理解される。
【0022】
表現「時間を置いての使用」は、本発明による組成物の第1の化合物の、薬学的投薬形態物に含有されての投与、次いで、本発明による組成物の第2の化合物の、異なった薬学的投薬形態物に含有されての投与が連続していることを意味することが理解される。
【0023】
この「時間を置いての使用」の場合、本発明による組成物の第1の化合物の投与と、本発明による同じ組成物の第2の化合物の投与との間での時間経過は、一般には24時間を超えないが、これらの化合物のいずれかが、例えば、毎週の投与を可能にする医薬配合物に存在するならば、時間経過はより大きくすることができる。
【0024】
本発明による組成物の成分化合物の一方のみ、または、これら2つの化合物の組合せのいずれかを含む薬学的投薬形態物は、上記で記載された様々なタイプの使用において使用することができ、例えば、経口投与、鼻腔投与、非経口投与または経皮投与のために適切であり得る。
【0025】
同様に、「別々での使用」および「時間を置いての使用」の場合、2つの異なった薬学的投薬形態物が、同じ投与経路のためにまたは異なる投与経路(経口投与および経皮投与または経口投与および鼻腔投与または非経口投与および経皮投与、その他)のために意図され得る。
【0026】
従って、本発明は、リモナバントおよびもう一つの活性な成分または適する場合には2つの組み合わされた活性な成分を含有するキットに関し、この場合、リモナバントおよび前記活性な成分または適する場合には2つの組み合わされた活性な成分は、異なった区画に存在し、類似または異なる包装であり、同時に別々にまたは時間を置いて投与されることが意図される。
【実施例1】
【0027】
体重過多タイプまたは肥満タイプの糖尿病患者に対するリモナバントの作用
単独療法(メトホルミンまたはスルホニルウレア系薬剤)によって処置された2型糖尿病の1045名の肥満被験者において12ヶ月にわたって行われたRio−Diabetes臨床研究は、20mgの用量でのリモナバント対プラセボ製造物の効果を、体重減少、グリコシル化ヘモグロビン(HbA1c)の改善、血糖症の改善、インスリン血症の改善および脂質パラメーターの改善において比較する。低カロリー食(600Kcal/日の不足)が、すべての患者に対して処方され、処置期間が始まる4週間前に導入される。
【0028】
20mgの用量で12ヶ月にわたってリモナバントにより処理された被験者は、プラセボ群において観測された体重減少よりも大きい4.2±0.4kgの体重減少を示す(p≦0.001)。
【0029】
リモナバントの20mgのもとでは、プラセボと比較して0.7±0.1%の違いが、HbA1cのレベルの減少において観測される(p<0.001)。この減少は9ヶ月において最大であり、その後12ヶ月まで維持され、これに対して、体重の減少は6ヶ月後に安定化したようである。
【0030】
0.64±1.96mmol/Lの空腹時胃での血糖における減少が、プラセボ群における0.33±2.32mmol/Lの増大と比較して、リモナバント(20mg)群において観測される(p<0.001)。
【0031】
空腹時胃でのインスリン血については、0.7±9.9μIU/mLの減少が、プラセボ群における0.4±14.8μUI/mLの増大と比較して、リモナバントの20mgのもとで観測される(p=0.247)。
【0032】
インスリン抵抗性が、Matthew D.R.et al.によって、Diabetologica、1985、28、412−419に記載されるHOMA(恒常性モデル評価)試験によって評価される。
【0033】
インスリン抵抗性における改善が、HOMA試験によって評価された場合、リモナバントの20mgのもとで客観的に示され(−0.5±5.7%)、これに対して、プラセボ群では、このインスリン抵抗性における悪化が誘導される。
【0034】
脂質プロフィルに関しては、8.4±1.2%を超えるHDL−cレベルにおける増大が、プラセボ群と比較して、リモナバントの20mgにより観測される(p<0.001)。
【0035】
トリグリセリドが、プラセボ群と比較して、処置群では16.4±3.3%を超えて低下した(p<0.001)。
【0036】
体重が共変数として導入されるロジスティック回帰タイプの分析の後、HbA1cおよびHDL−cにおける改善についての約55%ならびにトリグリセリドについての約35%が体重減少との影響は無関係であることが、この研究では観測される。
【0037】
さらに、20mgの用量でリモナバントにより処置された患者において、0.8±12.8mmHg(p=0.020)の収縮期血圧における減少および1.9±8.2mmHg(p=0.060)の拡張期血圧における減少が観測される。
【0038】
従って、リモナバントにより処置された被験者では、代謝パラメーター(例えば、HbA1c、HDL−cおよびトリグリセリドなど)における改善が、体重減少に対してだけでなく、製造物の直接的な効果に対しても関係づけられる。
【0039】
研究期間中に受けた抗糖尿病処置にもかかわらず、リモナバントは著しい体重減少を誘導することが観測される。体重減少における差は、プラセボ群と比較した場合、リモナバント−メトホルミンの組合せの期間中では4.3±0.4kg(p<0.001)であり、リモナバント−スルホニルウレア系薬剤の組合せの期間中では3.1±0.5kg(p<0.001)である。
【0040】
HbA1cに対する結果は、リモナバントがメトホルミンと組み合わされるかまたはスルホニルウレア系薬剤と組み合わされるかによらず、0.7±0.1%(p<0.001)の、プラセボ群と比較したときの観測された差と類似することもまた観測される。
【実施例2】
【0041】
肥満ラットにおける膵臓の保護に対するリモナバントの作用
リモナバントによる長期間(12ヶ月)の処置の影響を、肥満が確立されたZuckerラットにおいて調べた。
【0042】
肥満Zuckerラットのfa/fa系統は、過食症、肥満、異常脂質血症および2型糖尿病によって特徴づけられる。
【0043】
12ヶ月後、ビヒクルにより処置されたfa/fa肥満Zuckerラットは膵臓の顕著な肥大を示す(+38%、p<0.05)。
【0044】
この肥大は、リモナバントを用量依存的な様式で投与することによって用量依存的な様式で逆転する。3mg/kg/日および10mg/kg/日でそれぞれ、+17%および1%(p<0.05)。
【実施例3】
【0045】
ラットにおける糖尿病性神経障害モデルに対するリモナバントの作用
糖尿病が、B.Rudas(Arzneimittelforschung、1972、22:830−61)に従って、0.1Mクエン酸塩を含有するクエン酸緩衝液(pH4.5)におけるストレプトゾシン溶液(55mg/kg)の静脈内注射によって誘導される。5日後、血液を眼窩後静脈洞から採取し、その後、遠心分離する。それぞれの動物について、血漿中のグルコース濃度を測定する。機械的感受性および感受性神経伝導速度(SNCV)を糖尿病誘導後8週間で評価し、血糖を研究終了時に再び測定する。
【0046】
実験を、リモナバントを3mg/kgまたは10mg/kgで経口投与することにより行う。動物を、ストレプトゾシン注射後の7日目から毎日、7週間の期間にわたって処置する。
【0047】
機械的刺激に対する感受性を、機械的な侵害性刺激に対する応答における足引っ込み閾値を測定することによってVon Freyフィラメント(感覚消失メーター)により求める。剛直なポリプロピレンチップを使用して、力を足の裏面に加える。引っ込み応答を誘導する力を記録する。試験をそれぞれの動物について約5分間隔で3回繰り返し、平均値を計算する。
【0048】
SNCVを、P.De Koning et al.によって、Peptides、1987、8(3):415−22に記載される方法に従って測定する。ラットを30mg/kgのペントバルビタールの注射によって麻酔し、坐骨神経および腓骨神経を、坐骨神経および腓骨神経の切痕部の位置で(足首の位置で)それぞれ、単極性電極の助けをかりて連続して刺激する。応答を表面の電極によって足底弓の位置で記録する。SNCVを、遠位ラテンス(latence)を近位ラテンスから引き、この結果を刺激電極と受信電極との間の距離により割ることによってこれらの応答ラテンスから計算する。
【0049】
糖尿病ラットは、機械的な侵害性刺激に対する応答での足引っ込み閾値における約40%の減少によって現れる機械的な痛覚過敏を発症する。この欠損は、3mg/kg(po)または10mg/kg(po)の用量でのリモナバントによる処置によって、7週間の処置の後で完全に逆戻りする(100%)。
【0050】
同じ期間中に、SNCVが、コントロールラットと比較して、糖尿病ラットでは22%低下する。10mg/kgでのリモナバントによる処置はSNCV欠損を部分的に低下させ(約12%)、これは欠損の54.5%の復帰に対応する。
【0051】
これらの結果は、リモナバントの経口投与が、糖尿病誘導後8週間でラットにおいて、糖尿病に関連する痛み症状を完全に逆戻りさせ、坐骨神経におけるSNCV欠損を著しく減少させることを示す。
【0052】
従って、リモナバントはこの糖尿病性神経障害処置モデルにおいて効力を示す。
【実施例4】
【0053】
医薬組成物
患者への投与のために、リモナバントは、湿式造粒によって調製される医薬組成物に配合される。
【0054】
【表1】

【0055】
錠剤は、好ましくは、適切な賦形剤を使用して被覆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2型糖尿病および/またはこの合併症の処置および防止において有用な医薬品を調製するためのリモナバントの使用。
【請求項2】
2型糖尿病を防止および処置するための請求項1に記載の使用。
【請求項3】
2型糖尿病の合併症を防止および処置するための請求項1に記載の使用。
【請求項4】
糖尿病性神経障害を防止および処置するための請求項1に記載の使用。
【請求項5】
糖尿病性網膜症を防止および処置するための請求項1に記載の使用。
【請求項6】
血管障害を防止および処置するための請求項1に記載の使用。
【請求項7】
リモナバントが、下記の治療剤クラス:
・血中脂肪低下薬または血中コレステロール低下薬;
・抗糖尿病薬
のいずれかから選ばれるもう一つの活性な成分と組み合わされる、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
リモナバントが5mgから50mgとの間での用量で使用される、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
リモナバントがメトホルミンと組み合わされる、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
リモナバントがスルホニルウレア系薬剤と組み合わされる、請求項7に記載の使用。
【請求項11】
リモナバントとならびにメトホルミンおよびスルホニルウレア系薬剤から選ばれるもう一つの活性な成分とを組合せで含有する医薬組成物。

【公表番号】特表2008−530189(P2008−530189A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555669(P2007−555669)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【国際出願番号】PCT/FR2006/000376
【国際公開番号】WO2006/087481
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(504456798)サノフイ−アベンテイス (433)
【Fターム(参考)】