説明

2次元アブソリュートエンコーダ及びそのスケール

【課題】2次元アブソリュートエンコーダの高分解能化に有利な技術を提供する。
【解決手段】互いに直交する第1方向および第2方向に沿って所定のピッチでマークが2次元配列されたスケールと、第1方向に配列された第1個数のマークを検出し、第2方向に配列された第2個数のマークを検出する検出器と、第1及び第2方向におけるスケールの絶対位置を、検出器の出力に基づいて、それぞれ決定する処理部とを備える。各マークは、第1方向における位置を示すための量子化された第1符号の情報と第2方向における位置を示すための量子化された第2符号の情報とを有する。処理部は、第1個数のマークの検出結果から第1符号列を生成し、第1符号列から第1方向におけるスケールの絶対位置を求め、第2個数のマークの検出結果から第2符号列を生成し、第2符号列から第2方向におけるスケールの絶対位置を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元アブソリュートエンコーダ及びそのスケールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械装置のステージ位置を計測する目的で、インクリメンタルエンコーダやアブソリュートエンコーダが用いられる。インクリメンタルエンコーダは、最初に原点を検出しないと絶対位置情報が得られないため、特に工作機械やロボット分野への応用は限られていた。一方、アブソリュートエンコーダは、絶対位置情報が得られるので原点検出を要しない。
【0003】
アブソリュートリニアエンコーダをX方向、Y方向の2次元化するには、2つのアブソリュートリニアエンコーダをステージの互いに直交する側面にそれぞれ配置して検出する方法が一般的である。しかし、装置の事情によりステージの上面又は下面のように1つの面に2次元スケールを配置しそれを外部の検出器にて検出することが求められる場合がある。アブソリュートコードを有する2次元スケールパターンにする方法はいくつか考えられてきている。特許文献1は、2次元平面に等間隔に絶対位置を特定するパターンを埋め込む方法を開示する。特許文献1記載の2次元アブソリュートエンコーダは、1箇所のグリッドに絶対位置情報を埋め込むため複数の領域(要素)に細分化して白黒にてコード化する。
【0004】
特許文献2も、2次元平面に等間隔に絶対位置を特定するパターンを埋め込む方法を開示する。特許文献2記載の手法では、等間隔に用意した測定点の周囲に赤青緑などの色パターンを配置し、その配置の状態で絶対位置情報を表現している。しかしながら、色情報を用いたスケールや検出光学系は高コストになる場合がある。特許文献3記載の2次元スケールは、2次元平面を等間隔の正方形グリッド領域に分割し、X方向、Y方向それぞれに対して準ランダムパターンを付与している。特許文献3記載の手法では、X方向、Y方向それぞれに対して付与された準ランダムパターンの特定の領域を切り出して一括して検出し、そこで得られた2次元画像パターンより相関演算を組合せることで2次元絶対位置を特定する。しかし、特許文献3記載の2次元パターンを設計する手法は複雑である。
【0005】
これら特許文献1〜3記載の2次元アブソリュートエンコーダでは、撮像光学系の解像度が高分解能化(高精細化)の限界と思われ、インクリメンタルエンコーダに匹敵する高分解能化を実現できない。また、特許文献1〜3記載の2次元アブソリュートエンコーダは、いずれもCCDなどの2次元受光素子アレイと複雑な構造のマークや画像処理技術とを必要とするため高いコストを要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−248489号公報
【特許文献2】特表2008−525783号公報
【特許文献2】特開2004−333498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、2次元アブソリュートエンコーダの高分解能化に有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの側面は、互いに直交する第1方向および第2方向に沿って所定のピッチで複数のマークが2次元配列されたスケールと、前記第1方向に配列された第1個数のマークを検出し、前記第2方向に配列された第2個数のマークを検出する検出器と、前記第1方向及び前記第2方向における前記スケールの絶対位置を、前記検出器の出力に基づいて、それぞれ決定する処理部と、を備え、前記複数のマークのそれぞれは、前記第1方向における位置を示すための量子化された第1符号の情報と前記第2方向における位置を示すための量子化された第2符号の情報とを有し、前記処理部は、前記第1個数のマークの検出結果から前記第1個数の前記第1符号で構成される第1符号列を生成し、該第1符号列から前記第1方向における前記スケールの絶対位置を求め、前記第2個数のマークの検出結果から前記第2個数の前記第2符号で構成される第2符号列を生成し、該第2符号列から前記第2方向における前記スケールの絶対位置を求める、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、2次元アブソリュートエンコーダの高分解能化に有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施形態の2次元アブソリュートエンコーダの光学系の構成図である。
【図2A】第1実施形態の2次元アブソリュートエンコーダの処理部の構成図である。
【図2B】第1実施形態の2次元アブソリュートエンコーダの処理部の構成図である。
【図3】第1実施形態で、スケールへの照明位置をずらした場合の光学系の説明図である。
【図4A】第1実施形態で、スケールへの照明位置をずらした場合の処理部の説明図である。
【図4B】第1実施形態で、スケールへの照明位置をずらした場合の処理部の説明図である。
【図5】第2実施形態の2次元アブソリュートエンコーダの光学系の構成図である。
【図6A】第2実施形態の2次元アブソリュートエンコーダの処理部の説明図である。
【図6B】第2実施形態の2次元アブソリュートエンコーダの処理部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
[第1実施形態]
図1、図2は、第1実施形態の2次元アブソリュートエンコーダを示す。作図の都合で図2の2次元スケールSCLは、スケールを透過した光の強度を検出する透過型のスケールとして表現されている。しかし、本実施形態の2次元スケールSCLは、スケールを反射した光の強度を検出する反射型のスケールである。なお、本実施形態の2次元スケールSCLは、透過型のスケールであってもよい。2次元アブソリュートエンコーダは、発光素子LEDから射出された発散光束のうち開口部SLT(X)で選択された光束で2次元スケールSCLを照明し、その反射光を1次元受光素子アレイPDA(X)上に拡大投影する。また、2次元アブソリュートエンコーダは、発光素子LEDから射出された発散光束のうち開口部SLT(Y)で選択された光束で2次元スケールSCLを照明し、その反射光を1次元受光素子アレイPDA(Y)上に拡大投影する。
【0013】
2次元アブソリュートエンコーダ用のスケールSCLは、非反射性の板体上に互いに直交する2方向(第1方向および第2方向)に沿って所定の周期(ピッチ)で複数の正方形の反射部(マーク)が2次元配列されている。反射部は、形状が同じで反射率が互いに異なり以下の4つの階調に対応する4つの種類を含むように構成されている。この4つの階調は以下のルールで形成される。
1.X方向、Y方向の2方向に関して、巡回符号を作成し、X軸、Y軸の座標上のグリッドに定義する。
2.Y軸の座標上のグリッドの符号に対して正方形の反射部の反射率を以下のように設定する。
【0014】
X方向の符号(第1符号)が0でY方向の符号(第2符号)が0のとき反射率25%
X方向の符号が1でY方向の符号が0のとき反射率50%
X方向の符号が0でY方向の符号が1のとき反射率75%
X方向の符号が1でY方向の符号が1のとき反射率100%
階調の付与の方法は、反射部において薄膜を追加又は削除する方法、正方形の反射部のサイズを変化させる方法、ハッチングパターン等による部分反射などの方法で実現できる。しかし、反射光量を増減できるのであれば他の方法で階調を付与してもよい。図1では、反射率が25%の反射部を縦横ハッチング、50%の反射部を縦(Y方向の線)ハッチング、75%の反射部を横(X方向の線)ハッチング、100%の反射部を白(ハッチング無し)で表現している。また上記反射率とX方向、Y方向の符号との組合せを変更してもよいことは言うまでもない。複数の反射部のそれぞれは、X方向(第1方向)における位置を示すための量子化された第1符号の情報とY方向(第2方向)における位置を示すための量子化された第2符号の情報との双方を含むマークを構成している。
【0015】
1次元受光素子アレイPDA(X)には、開口部SLT(X)で選択された光束により照明され2次元スケールSCLのX方向に隣接する少なくとも第1個数(11個)の正方形の反射部で反射された光が周期的な明暗パターンとなって投影される。同様に、1次元受光素子アレイPDA(Y)には、開口部SLT(Y)で選択された光束により照明され2次元スケールSCLのY方向に隣接する少なくとも第2個数(11個)の正方形の反射部で反射された光が周期的な明暗パターンとなって投影される。1次元受光素子アレイPDA(X)、PDA(Y)は、1つの正方形の反射部による反射光がN=12の受光素子(光電変換素子)に入射するように構成されている。また、1次元受光素子アレイPDA(X)、PDA(Y)は、アブソリュートコードがM=11ビットであれば、M+1=12周期の周期的な明暗パターンを受光するように構成されている。したがって、図1の例では、1次元受光素子アレイPDA(X)、PDA(Y)の有効素子数は、それぞれ(M+1)×N=144としている。1次元受光素子アレイPDA(X)は、X方向(第1方向)に配列された第1個数の反射部(マーク)を検出する第1検出器を構成している。1次元受光素子アレイPDA(Y)は、Y方向(第2方向)に配列された第2個数の反射部(マーク)を検出する第2検出器を構成している。また、2つの1次元受光素子アレイPDA(X)、PDA(Y)は、全体として、第1方向に配列された第1個数のマークを検出し、第2方向に配列された第2個数のマークを検出する検出器を構成している。また、1次元受光素子アレイPDA(X)は、検出器中の第1方向に配列された複数の光電変換素子を構成し、1次元受光素子アレイPDA(Y)は、検出器中の第2方向に配列された複数の光電変換素子を構成している。
【0016】
処理部PRO(X)、PRO(Y)における1次元受光素子アレイPDA(X)、PDA(Y)の検出結果を用いた信号処理について図2を用いて説明する。受光素子アレイPDA(X)は、X方向の検出のために整列させて配置してあり、スケールSCL上の矩形領域Aで反射した光束を受光する。受光素子アレイPDA(X)は、1つの反射部に対してN個の受光素子(光電変換素子)が対応するように配置されていて、各受光素子から出力される位相が等間隔にずれているように構成されている。すなわち、受光素子アレイPDA(X)の受光素子(光電変換素子)は、X方向に沿って反射部(マーク)のX方向の周期よりも小さいピッチで配列されている。アブソリュートコードのビット数(第1個数)をM=11、受光素子アレイPDA(X)の明暗信号分割数をN=12、受光素子アレイPDA(X)のチャンネル数を(M+1)×N=144としている。その結果、受光素子アレイPDA(X)の144チャンネルで常に12周期の周期信号(第1周期信号)が得られることになる。
【0017】
同様に受光素子アレイPDA(Y)はY方向の検出のために整列させて配置してあり、スケールSCL上の矩形領域Bで反射した光束を受光している。受光素子アレイPDA(Y)は、1つの反射部に対してN個の受光素子が対応するように配置されていて、各受光素子から出力される位相が等間隔にずれているように構成されている。すなわち、受光素子アレイPDA(Y)の受光素子(光電変換素子)も、Y方向に沿って反射部(マーク)のY方向の周期よりも小さいピッチで配列されている。アブソリュートコードのビット数(第2個数)をM=11、受光素子アレイPDA(Y)の明暗信号分割数をN=12、受光素子アレイPDA(Y)のチャンネル数を(M+1)×N=144としている。その結果、受光素子アレイPDA(Y)の144チャンネルで常に12周期の周期信号(第2周期信号)が得られることになる。
【0018】
図1の状態でスケールSCLの照明された光束を受光素子アレイPDA(X)、PDA(Y)へ投影した場合の明暗分布はGRPH0(X)、GRPH0(Y)のようになる。受光素子アレイPDA(X)、PDA(Y)の各素子から明暗に応じた複数の電気信号が出力される。本実施形態では、各受光素子から出力される複数の電気信号を一旦レジスタRGST0(X)、RGST0(Y)に収容し、それを外部から印加されたクロック信号に従って、順次処理部PRO(X)、PRO(Y)に出力させる。クロック信号を順次印加することにより発生する信号波形をGRPH1(X)、GRPH1(Y)に示す。この波形は受光素子アレイPDA(X)、PDA(Y)に入射する光量分布を示すGRPH0(X)、GRPH0(Y)と同じである。
【0019】
図2の波形GRPH1(X)、GRPH1(Y)は正弦波波形がアブソリュートコード(巡回符号)によって振幅変調されたものとして表記されている。しかし、実際の波形GRPH1(X)、GRPH1(Y)はスケールSCLと受光素子アレイPDA(X)、PDA(Y)との間隔の変動により三角波になったり台形状になったりして正弦波に歪が加わっている。これら2つの出力波形は、受光素子アレイPDA(X)、PDA(Y)のチャンネル数(M+1)×N=144に対応した「波形データ」である。しかし、以降の処理部PRO(X)、PRO(Y)による信号処理では、2本の縦点線で選択された中央部の領域のM×N=132の要素からなる「波形データ」として変換されるとする。
【0020】
処理部PRO(X)は、受光素子アレイPDA(X)の出力するシリアル転送波形GRPH1(X)に基づいてスケールSCLのX方向(第1方向)における絶対位置を決定する。同様に、処理部PRO(Y)は、受光素子アレイPDA(Y)の出力するシリアル転送波形GRPH1(Y)に基づいてスケールSCLのY方向(第2方向)における絶対位置を決定する。波形データGRPH1(X)、GRPH1(Y)は、まず、レジスタRGST1(X)、RGST1(Y)により2つの経路に分岐される。第1経路で、演算ユニットAVE(X)、AVE(Y)は、波形データGRPH1(X)、GRPH1(Y)の中央部と隣接5要素の和(11素子の平均の2倍の値)を演算し、それぞれレジスタRGST2(X)、RGST2(Y)に収容する。レジスタRGST2(X)、RGST2(Y)に収容された値はGRPH2(X)、GRPH(Y)のような波形データになっている。演算ユニットAVE(X)、AVE(Y)は、その際に最大値Maxと最小値Minも把握しておく。コンパレータCOMP(X)、COMP(Y)は、波形データGRPH2(X)、GRPH(Y)を1周期毎に2値化して11個の2値化符号のデータ列(第1符号列、第2符号列)を示すデジタル信号波形GRPH3(X)、GRPH3(Y)を生成する。生成された波形データGRPH3(X)、GRPH3(Y)は、レジスタRGST3(X)、RGST3(Y)に収容される。なお2値化の基準は、先述の最大値Maxと最小値Minの平均値で、図2のX方向の最大値は1、最小値は0.5である。この波形データGRPH3(X)、GRPH3(Y)はアブソリュートコードの仮の整数部となる。アブソリュートコードの仮の整数部は、演算ユニットGAIN(X)、GAIN(Y)により逆数が演算されて波形データGRPH4(X)、GRPH4(Y)に変換され、レジスタRGST4(X)、RGST4(Y)に収容される。
【0021】
第2経路で、波形データGRPH1(X)、GRPH1(Y)は、乗算演算ユニットMULT0(X)、MULT0(Y)により、レジスタRGST4(X)、RGST4(Y)の波形データと乗算され波形データGRPH5(X)、GRPH5(Y)に変換される。変換された波形データGRPH5(X)、GRPH5(Y)は、レジスタRGST5(X)、RGST5(Y)に収容される。この波形データGRPH5(X)、GRPH5(Y)は、元の波形データGRPH1(X)、GRPH1(Y)の2本の縦点線で選択された中央部の領域のM×N=132の要素からなる「波形データ」の振幅変調分を一定の振幅に規格化した周期信号である。
【0022】
この周期信号GRPH5(X)は、4つの信号に分配後、乗算器MLUT1〜4(X)によって、{(1−sinωt)/2}、{(1−cosωt)/2}、{(1+sinωt)/2}、{(1+cosωt)/2}が乗算される。また、周期信号GRPH5(Y)は、4つの信号に分配後、乗算器MLUT1〜4(Y)によって、{(1−sinωt)/2}、{(1−cosωt)/2}、{(1+sinωt)/2}、{(1+cosωt)/2}が乗算される。総和演算器SUM1〜4(X)およびSUM1〜4(Y)は、乗算後の周期信号を総和演算する。総和演算により得られた信号Ax(+)、Bx(+)、Ax(-)、Bx(-)およびAy(+)、By(+)、Ay(-)、By(-)は、レジスタRGST6(X)、RGST6(Y)に収容される。これらX方向、Y方向のそれぞれの4つの信号は、所謂インクリメンタルエンコーダの90°位相差を有する4相信号に相当する。
【0023】
乗算器MLUT1〜4(X)およびMLUT1〜4(Y)に入力されるのはレジスタRGST(sin-)、レジスタRGST(cos-)、レジスタRGST(sin+)、レジスタRGST(cos+)に収容された4つの波形データである。その4つの波形データは、それぞれ11×12=132要素からなるGRPH(sin-)、GRPH(cos-)、GRPH(sin+)、GRPH(cos+)の波形データである。波形データは、上記の乗算、総和演算(積和演算、または、積の積分)によって、擬似サイン波状の明暗パターンと理想的なサイン波状のパターンとの相関値に相当する値になる。なお、当該演算は、数学的には、高調波成分・直流成分を有する周期信号に正弦(または余弦)関数を乗算して周期の整数倍の領域で定積分を行うことに相当する。これにより、高調波成分と直流成分との影響を軽減して、位相の正弦(または余弦)関数値(よって位相)を求めることができる。したがって、元の波形GRPH5(X)、GRPH5(Y)に波形歪(高調波成分、直流成分)が含まれていても、位相の値が正しく取得されることになる。すなわち、信号Ax(+)、Bx(+)、Ax(-)、Bx(-)およびAy(+)、By(+)、Ay(-)、By(-)は、歪が非常に少ないインクリメンタルエンコーダの4相信号相当の信号になる。なお、1周期の明暗パターンが投影される受光素子数は本実施形態ではN=12であるが、これを増やせば歪を更に理想的に除去できる。但し、光学式エンコーダの場合、歪成分は2次、3次、4次の成分が多いため実用的にはN=12で十分な効果が得られる。レジスタ RGST6(X)、RGST6(Y)の値は、アークタンジェント演算器ATN(X)、ATN(Y)に入力される。アークタンジェント演算で算出されたKビットの位相情報PHS(X)は、マークの周期の長さより短い分解能で算出されたX方向における位置データ(第3位置データ)であり、レジスタRGST7(X)に収容される。また、アークタンジェント演算で算出されたKビットの位相情報PHS(Y)は、マークの周期の長さより短い分解能で算出されたY方向における位置データ(第4位置データ)であり、レジスタRGST7(Y)に収容される。ここでK=10とすると分割数は2^10=1024であり、位相が0°〜360°に対応したアブソリュートコードの内挿部として0〜1023の値が2進法で収容されている。
【0024】
アブソリュートコードの仮の整数部は、M×N=132個の要素からなっていて、そこから12個ごとに抜き出すことでアブソリュートコードの整数部を決定することができる。処理部PRO(X),PRO(Y)は、アブソリュートコードの整数部をマークの周期を単位とするX方向、Y方向における位置データ(第1位置データ、第2位置データ)に変換する。抜き出しに際しては、アブソリュートコードの内挿部の値に応じてシフトさせる必要がある。例えば、X方向の内挿位相が0°(アブソリュートコードの内挿部が0000000000)の場合、レジスタRGST3(X)のデータを、端を基点に12個ごとに抜き出せば良い。X方向の内挿位相が180°(アブソリュートコードの内挿部が0111111111)の場合、レジスタRGST3(X)のデータを端から6番目のところを基点に12個ごとに抜き出せば良い。コードの切り替わり部は曖昧になり誤差が発生しやすいが、本方式では、コードの切り替わりが発生していない領域の中央付近のデータを抜き出すため、コードの取得に誤りが生じることは非常に少なくなる。
【0025】
取得されたアブソリュートコードの整数部は、このままでは巡回符号になっているため扱いにくい場合がある。その場合は、通常の2進コードに変換すればよい。こうして最終的に得られたアブソリュートコードの整数部と内挿部は、合成されてレジスタRGST(X)、RGST(Y)に保管される。このレジスタに収容された情報は、要求に応じて外部にスケールSCLの絶対位置を示すアブソリュートエンコーダの信号として出力される。X方向、Y方向のアブソリュートエンコーダ信号は分離したコードとして良いし、連結されたコードとしても良い。
【0026】
図1の光学系においてスケールSCLにおいて光束が照明された部分A、Bは、説明をわかりやすくする目的でグリッド状パターンと一致するとして説明したが、例えば図3のように照明位置が1つ隣のパターンになる場合がある。図3の状態でスケールSCLに照明された光束を受光素子アレイPDA(X)、PDA(Y)へ投影した場合の明暗分布は、図4のGRPH0(X)、GRPH0(Y)のようになる。図2の説明と同様にレジスタRGST1(X)、RGST1(Y)から2つの経路に分岐する。第1経路では、演算ユニットAVE(X)、AVE(Y)は、波形データGRPH1(X)、GRPH1(Y)の中央部と隣接5要素の和(11素子の平均の2倍の値)を演算し、演算結果をそれぞれレジスタRGST2(X)、RGST2(Y)に収容する。収容された値は波形データGRPH2(X)、GRPH(Y)である。演算ユニットAVE(X)、AVE(Y)は、その際に最大値Maxと最小値Minも把握しておく。更にコンパレータCOMP(X)、COMP(Y)は、波形データGRPH2(X)、GRPH(Y)を2値化して波形データGRPH3(X)、GRPH3(Y)に変換し、それをレジスタRGST3(X)、RGST3(Y)に収容する。なお2値化の基準は、先述の最大値Maxと最小値Minの平均値で、図4のX方向の最大値は0.75、最小値は0.5である。なおこの波形データGRPH3(X)、GRPH3(Y)はアブソリュートコードの仮の整数部となる。演算ユニットGAIN(X)、GAIN(Y)は、波形データGRPH3(X)、GRPH3(Y)の逆数を演算して波形データGRPH4(X)、GRPH4(Y)に変換し、それをレジスタRGST4(X)、RGST4(Y)に収容する。波形データGRPH4(X)、GRPH4(Y)を用いて元の波形データGRPH1(X)、GRPH1(Y)の2本の縦点線で選択された中央領域の132の要素からなる振幅変調分を一定の振幅に規格化した周期信号GRPH5(X)、GRPH5(Y)を得る。以下の信号処理は、図2の説明と同様なので割愛する。以上のように、図3のスケール位置の場合でも信号処理が正常に機能する。
【0027】
[第2実施形態]
図5、図6を用いて第2実施形態の2次元アブソリュートエンコーダについて説明する。第1実施形態では、図1、図3に示されるように、スケールSCLにおいて光束により照明される部分A、Bは、グリッド状パターンと一致するとして説明した。しかし、実際は、スケールSCLにおいて照明される部分は、隣接しあうパターン間の中間位置になって、振幅が変調した周期信号の波形データが得られないことがある。そこで、第2実施形態では、図5のように、X方向に配列されたマークをY方向に沿って複数列検出するようにピッチ以上の幅の開口SLT(X)で投影し、受光素子アレイPHC(X)を用いてY方向に1周期分以上の領域で受光して平均化する。同様に、Y方向に配列されたマークをX方向に沿って複数列検出するようにピッチ以上の幅の開口SLT(Y)で投影し、受光素子アレイPHC(Y)を用いてX方向に1周期分以上の領域で受光して平均化する。それに対応する処理部PRO(X)、PRO(Y)を図6に示す。図6の受光素子アレイPDA(X)の受光光量分布をGRPH0(X)に示す。GRPH0(X)に正弦波状の曲線が3本示されているが、これは、スケールSCLのY方向の位置変動によって受光素子アレイPDA(X)の受光光量分布がこの範囲で変化することを意味している。また、図6の受光素子アレイPDA(Y)の受光光量分布GRPH0(Y)に正弦波状の曲線が3本示されているが、これは、スケールSCLのX方向の位置変動によって受光素子アレイPDA(Y)の受光光量分布がこの範囲で変化することを意味している。
【0028】
このように受光素子アレイPDA(X)より得た信号周期信号は、スケールSCLのY方向の相対位置により周期信号のピークの値が変動する。しかし、処理部PRO(X)、PRO(Y)は、3つの信号の平均値を算出し、その最大値と最小値の中間値を利用して2値化することで常に正しく復調することができる。同様に、受光素子アレイPDA(Y)より得た信号周期信号もスケールSCLのX方向の相対位置により周期信号のピークの値が変動するが、3つの信号の平均値を算出し、その最大値と最小値の中間値を利用して2値化することで常に正しく復調することができる。本実施形態は、第1実施形態と比較して光束の利用効率が良いため、よりノイズの少ない検出が可能であり、分解能や応答性能をより向上させることが可能になる。
【0029】
以上のように構成された2次元アブソリュートエンコーダは、X方向、Y方向用検出ヘッドを用いて2次元スケールSCL上の任意の箇所でそれぞれN本のマークよりN組の周期信号を平均化して演算している。そのため、アークタンジェント演算で内挿された位相情報(アブソリュートコードの内挿部)を、従来のインクリメンタルエンコーダと同等の高精度とすることができる。またアブソリュートコードの切り替わり部も、N組の周期信号を平均化して演算した位相情報を用いているため、マークのエッジの描画誤差の影響を受けずにアブソリュートコードの切り替わり部を規定する。そのため、アブソリュートコードの整数部の精度も非常に高精度である。よって最終的に出力されるアブソリュートコードは、取り付け誤差が多少あっても高精度を維持する高分解能の2次元アブソリュートエンコーダが実現できる。
【0030】
〔他の実施形態〕
本発明は、第1実施形態、第2実施形態の構成にとらわれず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。変形、変更可能な態様の例を以下に示す。
1.第1、第2実施形態では、共通の発光素子からの発散光を2次元スケールに照明し、2次元スケールに配列されたマークにおける反射光をX方向およびY方向検出用の1次元受光素子アレイに投影した。しかし、光源をX方向用、Y方向用に分けて、空間的に異なる位置に配置しても良い。また、第1、第2実施形態では、発散光をスケールに照明し反射光を受光素子アレイに拡大投影した。しかし、コリメータレンズなどで光源からの光を平行光とし、その平行光によってスケールを照明し反射光を受光する構成、結像レンズを用いて受光素子アレイにスケール上のマークパターンを結像させる構成、その他の光学系による検出する構成も可能である。また、第1、第2実施形態では、図1、3、5に示されるように、開口A,Bを有する板部材を光源とスケールとの間に配置した。しかし、受光素子に入射する領域が受光素子のサイズ、形状で規定させるため、開口A,Bを有する板部材は無くても支障がない。
2.第1、第2実施形態では、正方形の反射パターンを等間隔で配置し、反射率に4つの階調を付与することで、2方向の符号(0・1)を対応させた反射タイプのスケールを使用した。しかし、複数のマークは、形状が同じで透過率が互いに異なるマークを用い、検出器はマークを透過した光を検出する透過タイプであってもよい。またマークにおける反射率(又は透過率)の階調を、100%、75%、50%、25%の4つ種類ではなく、その他の階調の値にしたり、階調数を5以上にしたりしても良い。
3.第1、第2実施形態では、受光素子アレイPDA(X)、PDA(Y)は、明暗1周期を12の受光素子で検出するように構成した。しかし、明暗1周期を検出する受光素子の数を3、4、6、8等に変更しても良い。
4.受光素子アレイPDA(X)、PDA(Y)は、アブソリュートコードのビット数N以上の領域を一括して受光するようにして、処理部の内部において必要な領域のみを演算しても良い。その場合、周期信号の所謂「インクリメンタルエンコーダの格子の平均化効果」が増大し、更なる内挿部の高精度化が得られる。また適切な信号処理により部分的な読込みエラーの影響を軽減する(ただし、冗長性が増す)効果も期待できる。
5.受光素子アレイは2つの1次元受光素子アレイを用いるのではなく、CCDなどの2次元受光素子アレイを使用しても、処理部の内部において必要な領域の情報を抜き出してから同様な信号処理を実施することが可能である。この場合、投光光学系および受光光学系は一体となるため小型化に貢献する場合がある。但し、2次元受光素子アレイからの信号の取り出し速度には留意が必要となる。
6.受光素子アレイの各セルの感度バラツキや光学系に起因する光量ムラを考慮し必要に応じて本実施例で演算に用いた数式/値を変更しても良い。また必要精度に応じて近似値を適用しても良い。
7.処理部は、同等な機能を他のアルゴリズムやフローで実現させても良い。受光素子アレイからの信号を並列アナログ回路で加減乗算処理する方法、シリアルアナログ回路で加減乗算処理またはフィルタリング処理する方法、受光素子アレイの信号を直ちにAD変換し、デジタル情報としてFPGA等にて演算処理する方法が考えられる。また、第1、第2実施形態では、エンコーダ光学系として平行光を直接透過させるエンコーダ光学系を用いた。しかし、発散光によりスケールを照明しその拡大透過光または拡大反射光を受光素子アレイで受光するように構成したもの、結像レンズを用いて受光素子アレイにスケール上の格子パターンを結像させる方式の光学系、その他の光学系による検出方法も可能である。
8.第1、第2実施形態では、アブソリュートコードとして巡回符号を用いているが、それ以外のコードを使用してもよい。なお、本明細書で用いた用語「巡回符号」は、「循環符号」といわれる場合もある。
9.第1、第2実施形態では、アブソリュートコードとして正方形反射パターンを等間隔に配置したものを利用しているが、長方形でも良い。その場合X方向、Y方向の分解能が変わる。また正方形、長方形ではなく円形、楕円形その他の形状でも良い。また境界が明瞭な形状パターンではなく、反射率(または透過率)が連続的に変動する周期階調パターンも使用可能である。即ち、受光素子アレイ上に強度変調された周期パターンが投影されるものであれば何でも良い。
【0031】
本発明のアブソリュートコードでは、下記の効果が得られる。
・アブソリュートコードの整数部と内挿部が同一の受光素子アレイより算出されるため高分解能かつ高精度であり、受光素子アレイに投影される光量分布(パターン)が変動しても、常に安定した動作が得られる。すなわちインクリメンタルエンコーダ並みの高分解能、高精度、取扱い容易性が得られる。
・受光素子アレイは、CCDやCMOSなどの2次元型受光素子アレイだけでなく1次元の受光素子アレイを2組使用することも可能であり、速い応答性が得られる。
・スケール上のパターンは単純な反射率または透過率の階調パターンでありアブソリュートコードパターンの設計が容易でかつ安価に製作可能である。
・アブソリュートコードの生成部や内挿部の構成は小規模な電子回路で実現可能であり、複雑な信号処理を必要としないので、小型でかつ安価に構成可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する第1方向および第2方向に沿って所定のピッチで複数のマークが2次元配列されたスケールと、
前記第1方向に配列された第1個数のマークを検出し、前記第2方向に配列された第2個数のマークを検出する検出器と、
前記第1方向及び前記第2方向における前記スケールの絶対位置を、前記検出器の出力に基づいて、それぞれ決定する処理部と、
を備え、
前記複数のマークのそれぞれは、前記第1方向における位置を示すための量子化された第1符号の情報と前記第2方向における位置を示すための量子化された第2符号の情報とを有し、
前記処理部は、前記第1個数のマークの検出結果から前記第1個数の前記第1符号で構成される第1符号列を生成し、該第1符号列から前記第1方向における前記スケールの絶対位置を求め、前記第2個数のマークの検出結果から前記第2個数の前記第2符号で構成される第2符号列を生成し、該第2符号列から前記第2方向における前記スケールの絶対位置を求める、
ことを特徴とする2次元アブソリュートエンコーダ。
【請求項2】
前記複数のマークは、形状が同じで透過率が互いに異なる複数の種類のマークを含み、該種類の数は、前記第1符号の種類の数と前記第2符号の種類の数とを掛け合わせた数であり、前記検出器は、前記複数のマークを透過した光を検出する、ことを特徴とする請求項1に記載の2次元アブソリュートエンコーダ。
【請求項3】
前記複数のマークは、形状が同じで反射率が互いに異なる複数の種類のマークを含み、該種類の数は、前記第1符号の種類の数と前記第2符号の種類の数とを掛け合わせた数であり、前記検出器は、前記複数のマークで反射した光を検出する、ことを特徴とする請求項1に記載の2次元アブソリュートエンコーダ。
【請求項4】
前記検出器は、前記第1方向に配列された前記第1個数のマークを前記第2方向に沿って前記ピッチ以上の幅にわたって検出し、前記第2方向に配列された前記第2個数のマークを前記第1方向に沿って前記ピッチ以上の幅にわたって検出し、
前記処理部は、前記第2方向に沿って前記ピッチ以上の幅にわたって検出された結果を用いて前記第1符号列を生成し、前記第1方向に沿って前記ピッチ以上の幅にわたって検出された結果を用いて前記第2符号列を生成する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の2次元アブソリュートエンコーダ。
【請求項5】
前記検出器は、前記第1方向および前記第2方向に前記ピッチより小さいピッチで配列された複数の光電変換素子を含み、
前記処理部は、
前記検出器中の前記第1方向に配列された複数の光電変換素子から出力された第1周期信号の振幅を1周期毎に量子化することによって前記第1符号列を生成し、該第1符号列から前記第1方向における第1位置データを求め、前記検出器中の前記第2方向に配列された複数の光電変換素子から出力された第2周期信号の振幅を1周期毎に量子化することによって前記第2符号列を生成し、該第2符号列から前記第2方向における第2位置データを求め、
前記第1周期信号の少なくとも1周期分の信号の位相から、前記第1方向における第3位置データを求め、前記第2周期信号の少なくとも1周期分の信号の位相から、前記第2方向における第4位置データを求め、
前記第1位置データと前記第3位置データとを合成して前記第1方向における前記スケールの絶対位置を求め、前記第2位置データと前記第4位置データとを合成して前記第2方向における前記スケールの絶対位置を求める、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の2次元アブソリュートエンコーダ。
【請求項6】
前記検出器は、前記第1方向に配列された前記第1個数のマークを検出する第1検出器と、前記第2方向に配列された前記第2個数のマークを検出する第2検出器とを含む、ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の2次元アブソリュートエンコーダ。
【請求項7】
互いに直交する第1方向および第2方向に沿って所定のピッチで複数のマークが2次元配列された、2次元アブソリュートエンコーダ用のスケールであって、
前記複数のマークのそれぞれは、前記第1方向における位置を示すための量子化された第1符号の情報と前記第2方向における位置を示すための量子化された第2符号の情報とを有する、ことを特徴とするスケール。
【請求項8】
前記複数のマークは、形状が同じで透過率が互いに異なる複数の種類のマークを含み、該種類の数は、前記第1符号の種類の数と前記第2符号の種類の数とを掛け合わせた数である、ことを特徴とする請求項7に記載のスケール。
【請求項9】
前記複数のマークは、形状が同じで反射率が互いに異なる複数の種類のマークを含み、該種類の数は、前記第1符号の種類の数と前記第2符号の種類の数とを掛け合わせた数である、ことを特徴とする請求項7に記載の2次元アブソリュートエンコーダ。
【請求項10】
互いに直交する第1方向および第2方向に沿って所定のピッチで複数のマークが2次元配列されたスケールの前記第1方向および前記第2方向における絶対位置を求める2次元アブソリュートエンコーダであって、
前記スケールとして請求項7ないし請求項9のいずれか1項に記載のスケールを有する、ことを特徴とする2次元アブソリュートエンコーダ。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公開番号】特開2013−7685(P2013−7685A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141215(P2011−141215)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】