5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソール(5−Substituted4,7−dimethoxy−1,3−benzodioxoles)の結腸直腸癌(colorectalcancer)治療用医薬品の製造における使用
【課題】細胞周期抑制剤、および結腸直腸癌細胞を死滅させる薬剤、その製造方法の提供。
【解決手段】式(I)
(Rは、置換されたまたは非置換の、炭素原子数1〜6のメチルではないアルキル基、C数2〜6のアルケニル基、C数2〜6のアルキニル基、シアノ基、C数1〜5のエステル基、C数1〜5のカルボキシル基、イソオキサゾール基からなる群から選択される基であり)で表される5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソール。
【解決手段】式(I)
(Rは、置換されたまたは非置換の、炭素原子数1〜6のメチルではないアルキル基、C数2〜6のアルケニル基、C数2〜6のアルキニル基、シアノ基、C数1〜5のエステル基、C数1〜5のカルボキシル基、イソオキサゾール基からなる群から選択される基であり)で表される5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソール(5−substituted 4,7−dimethoxy−1,3−benzodioxole)の結腸直腸癌(colorectal cancer)治療用医薬品の製造における使用、結腸直腸癌治療用医薬品の製造方法に関する。ただし、5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールにおける5位の置換基はメチル基を含まない。また、本発明は5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを含有する細胞周期抑制薬および結腸直腸癌細胞死滅薬にも係る。
【背景技術】
【0002】
2006年に台湾衛生署によって公開された癌報告書によれば、結腸直腸癌(colorectal cancer)は台湾地区において、最も多発する癌のトップ5に入るという。現在の臨床治療においては、治療法は手術治療、放射線治療、一般的化学療法、および遺伝子治療に限られる(Asmis TR.and Saltz L.,Gastroenterol Clin North Am,2008;37:287−95,ix.;Durai R.et al.,J Gastrointest Liver Dis 2008;17:59−67;Kuwai T.et al.,Clin Exp Metastasis,2008;25:477−89)。大腸癌の治療に用いられる新治療薬の開発への切実な要望が依然として存在することは明らかである。
【0003】
牛樟芝(Antrodia camphorata)は中国伝統医学において、高血圧(hypertension)、そう痒症(pruritus)、下痢症(diarrhea)または肝臓癌(liver cancer)の治療に用いられている。出願人の以前の報告では、4,7−ジメトキシ5−メチル−1,3−ベンゾジオキソール(4,7−dimethoxy−5−methyl−l,3−benzodioxole、以下SY−1と略す)が牛樟芝の抽出物から単離されることを示している。SY−1は、ヒトCOLO 205癌細胞(COLO 205)の増殖反応を効果的に抑制することができる(Lien HM.et al.,Evid Based Complement Alternat Med.doi:10.1093/ecam/nep020、2009年3月17日公開)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールの抗腫瘍活性(anti−tumor activities)はまだ完全には理解されていない。さらに、SY−1は、腫瘍の成長を抑制する効果はあるものの、比較的高い投与量ではじめて結腸直腸癌細胞を有効的に抑制する効果が発揮できる。このため、当該技術分野において、結腸直腸癌の治療に用いられる薬の選択肢を増やすために、結腸直腸癌を有効的に治療できる新薬への需要は差し迫っている。従来技術によるSY−1以外にも、結腸直腸癌の治療に供する各種の候補薬を提供できれば、予め他の選択肢を提供することで、特定の薬品に対して薬物耐性が生じた際に、治療に用いる代替薬がないという問題を回避することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来技術における上記さまざまな欠点および需要に鑑みて、本発明は天然物から抽出された化合物の誘導体の、結腸直腸癌の治療における使用を提供することを目的とする。上記化合物は5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールであり、4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソール誘導体を含有する医薬組成物の形で提供することができる。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールの結腸直腸癌治療用医薬品の製造における使用を提供し、上記5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールは下記一般式(I)を有する。
【0007】
【化1】
上式において、Rは、炭素原子数1〜6のアルキル基(alkyl group)、炭素原子数2〜6のアルケニル基(alkenyl group)、炭素原子数2〜6のアルキニル基(alkynyl group)、シアノ基(cyano group)、炭素原子数1〜5のエステル基(ester group)、炭素原子数1〜5のカルボキシル基(carboxylic group)、イソオキサゾール基(isoxazole group)からなる群から選択されるものであり、ただし(with the proviso that)、Rはメチル基ではない(other than −CH3)ことを条件とする。
【0008】
上記の基は置換されたもの(substituted)でも非置換のもの(nonsubstituted)でもよい。より好ましくは、Rはエチル基、プロピル基、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基、エチニル基、プロピニル基、シアノ基(cyano group)、メチルエステル基、エチルエステル基およびカルボキシルメチル基、カルボキシルエチル基またはカルボキシルプロピル基で置換されたまたは置換されていない基である。
【0009】
好ましくは、Rは置換された上記官能基であり、以下を挙げることができるが、これらに限るものではない。置換された炭素原子数1〜6のアルキル基、その置換基はヒドロキシ基(−OH)、シアノ基、ニトロ基(nitro group)、芳香基(aromatic group)またはハロゲン基(halogenyl)である:置換された炭素原子数2〜6のアルケニル基、その置換基はヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、芳香基またはハロゲン基である;置換された炭素原子数2〜6のアルキニル基、その置換基はヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、芳香基またはハロゲン基である。
【0010】
Rは−CN、−COOH、−CH2CH2OH、−COOCH3、−(CH2)2CH3、−CH2CH(OH)CH2CN、−CH2CH=CH2、
【0011】
【化2】
【0012】
【化3】
および
【0013】
【化4】
からなる群から選択されたものが好ましい。
【0014】
さらに、該5−置換4,7−ジメトキシ1,3−ベンゾジオキソールのヒト結腸直腸癌細胞の増殖作用に対する半数阻害濃度(IC50)が375μM以下であることが好ましく、225μM以下であることがより好ましく、200μM以下であることがさらに好ましく、35μM以下であることがまたさらに好ましい。
【0015】
さらに、該5−置換4,7−ジメトキシ1,3−ベンゾジオキソールは、アピオール(apiole)、すなわち4,7−ジメトキシ5−(2−プロピレン−1−イル)−1,3−ベンゾジオキソールであることが好ましい。
【0016】
本発明は、結腸直腸癌の治療に用いられる医薬組成物を提供し、該医薬組成物は以下のものを含有する。治療上有効量の前記いずれかの5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールおよびその鏡像異性体、非鏡像異性体、医薬上許容される塩、またはそれらの組合せ、ならびに医薬上許容されるこれらの担体および/または賦形剤。
【0017】
上記医薬上許容される塩は、以下の医薬上許容される無機酸または有機酸との間で生成される塩類を意味する。例えば、塩酸、硫酸、スルホン酸、酢酸、プロパン酸、コハク酸、マロン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸、およびp−トルエンスルホン酸を挙げることができるが、これに限定されない。
【0018】
本発明において、上記の「治療有効量(therapeutically effective amount)」は、治療対象に対して治療に有効な量の化合物を投与することをいう。治療に対して有効であるとの評価は、客観的に試験もしくはマーカーなどを利用して判断し、または主観的に治療効果もしくは治療後の感覚に対する治療対象の供述に基づく。上記5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールの有効量の範囲は、約0.1mg/Kgから約500mg/Kgであり、または1mg/Kgから約50mg/Kgである。有効量は投薬ルートまたは併行して使用される他の薬剤の違いによって変わることもある。
【0019】
本発明の5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールは、医薬品組成物中の活性成分であり、経口または非経腸方式によって投薬でき、静脈内(intravenous)、筋肉内(intramuscular)、腹膜内(intraperitoneal)、皮下(subcutaneous)、直腸(rectal)および局部(topical)経由の投薬経路を含む。
【0020】
経口投薬に関しては、本発明の5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールは、従来の抗悪性腫瘍薬(antineoplastic)および/または細胞成長抑制薬(cell growth inhibitor)と併せて使用し、例えば錠剤(tablet)またはカプセル(capsule)、パウダー(powder)、分散可能な粒子(dispersible particle)、扁平状カプセル(cachet)、水溶液または懸濁液の形で投薬することができる。錠剤で経口投与する場合によく使われる担体は、ラクトース(lactose)、コーンスターチ(corn starch)、炭酸マグネシウム(magnesium carbonate)、タルク(talc)および糖である。潤滑剤(lubricants)として、例えばステアリン酸マグネシウム(magnesium stearate)がある。カプセルの形で経口投与する場合、効果的な担体は、ラクトース、コーンスターチ、炭酸マグネシウム、タルクおよび糖である。懸濁水溶液(aqueous suspension)による経口投与時には、担体は乳化剤(emulsion)および/または懸濁液とすることができる。このほか、経口投与時にはさらに甘味料(sweetener)および/または香味料(flavourings)を含有することができる。
【0021】
筋肉内、腹膜内、皮下および静脈内を経由する投薬に関しては、よく使用される剤形は活性成分の無菌溶液形式であり、緩衝液によってpH値が調整される。
【0022】
静脈内経由投薬に関してよく使用される剤形は、活性成分を含む溶質の全体濃度を制御して得られる等浸透圧溶液である。
【0023】
直腸投薬に関しては、よく使用される剤形は座剤である。前もって低融点ワックス(例えば脂肪酸、グリセリンまたはヤシ油の混合物)を溶解させ、次に活性成分を均等攪拌などの方法によって、該低融点ワックス中に分散させ、次いで低融点ワックスと活性成分とが均等に混合された混合物を適当なサイズの型に流し入れ、冷却して固体成型する。
【0024】
本発明の医薬組成物は、他の結腸直腸癌の治療に好適に使用されるあらゆる既知の方法または組成物と組み合わせて使用することができる。
【0025】
本発明は、上記5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを含有する細胞周期抑制薬を提供する。
【0026】
本発明は、上記5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを含有する結腸直腸癌細胞死滅薬を提供する。
【0027】
本発明における5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールは、細胞のタイプに対して特異性を有することが証明されており、結腸直腸癌細胞を死滅させるものの、正常なヒト細胞を死滅させることはない。したがって結腸直腸病変細胞の増殖作用に有効に対抗し、結腸直腸癌の治療に用いることができる。本発明の5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールおよびその医薬組成物は、結腸直腸癌細胞の増殖作用に対して、比較的低い半数阻害濃度を有する。これは、従来技術と比べて比較的低い投与量で癌細胞の成長を有効に抑制する効果を実現することを示しており、結腸直腸癌細胞死滅薬またはその他の結腸直腸癌治療薬のコンビナトリアル・ケミストリー・データバンクの参考になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】ヒト結腸直腸線癌細胞(human colorectal adenocarcinoma cells)(COLO 205)がSY−1誘導体によって24時間処理された後、細胞生長が抑制される様子を示すグラフである。
【図1B】ヒト結腸直腸線癌細胞(human colorectal adenocarcinoma cells)(COLO 205)がSY−1誘導体によって48時間処理された後、細胞生長が抑制される様子を示すグラフである。
【図1C】ヒト結腸直腸線癌細胞(human colorectal adenocarcinoma cells)(COLO 205)がSY−1誘導体によって72時間処理された後、細胞生長が抑制される様子を示すグラフである。
【図2】正常なヒト細胞(normal human cells)(FHC細胞)が異なる濃度のSY−1誘導体によって異なる時間処理された後、細胞生長が抑制される様子を示すグラフである。
【図3】アピオールのCOLO 205細胞中G0/G1段階の停滞に対する投与量依存効果を示す図である。これは、フローサイトメトリー分析によって得られ、サブG1、G0/G1、SおよびG2/M段階の細胞のパーセンテージはMulticycle分析ソフトによって測定され、各グループは3つのサンプルを有し、その値は平均値±SEで表示され、対照群に対して*P<0.05である。
【図4】アピオールの、細胞周期調整蛋白質の発現に対する効果を示すグラフである。
【図5A】アピオールのCOLO 205細胞のアポトーシスに対する時間と投与量の依存性反応を示し、同調化されたCOLO 205細胞が10%FCSによって15、36および48時間処理された後、細胞周期各段階における群分布の様子を示す図である。
【図5B】アピオールのCOLO 205細胞のアポトーシスに対する時間と投与量の依存性反応を示し、同調化されたCOLO 205細胞が10%FCSによって15、36および48時間処理された後、細胞周期各段階における群分布の様子を示す図である。
【図5C】アピオールのCOLO 205細胞のアポトーシスに対する時間と投与量の依存性反応を示し、同調化されたCOLO 205細胞が10%FCSによって15、36および48時間処理された後、細胞周期各段階における群分布の様子を示す図である。
【図5D】アピオールのCOLO 205細胞のアポトーシスに対する時間と投与量の依存性反応を示し、同調化されたCOLO 205細胞が10%FCSによって15、36および48時間処理された後、細胞周期各段階における群分布の様子を示す図である。
【図5E】アピオールの処理がCOLO 205細胞のカスパーゼおよびbax/bcl−2比率に及ぼす影響を示す図である。
【図6】アピオールによる処理がCOLO 205細胞のアポトーシス調整蛋白質に及ぼす影響を示す図である。
【図7】ヒトCOLO 205細胞中において、アピオールが細胞周期停滞を誘発する情報を伝達する経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
スクリーニングおよび最適化によって結腸直腸癌細胞の増殖作用を抑制できる新規活性化合物を得るために、出願人は10種類の4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールの一連の誘導体の、ヒト結腸直腸癌細胞(human colorectal carcinoma cell)(COLO 205)に対するインビトロでの抑制活性について評価を行った。これらの誘導体は牛樟芝から単離されたリード化合物(lead compound)(SY−1)を基礎としている。この10種類の化合物の構造と活性との関係を分析することによって、5位のアルキル基の鎖の長さが重要であり、置換基がアリル基であるアピオールが最も優れた抑制活性を示すことが判明した。本発明は、SY−1の類似物であるアピオールが、COLO 205細胞の増殖作用(proliferation)を抑制することができるが、正常なヒト結腸表皮細胞(FHC)の増殖作用を影響しないことを証明した。アピオール(75〜225μM)によって誘発されるG0/G1細胞周期の停滞(G0/G1 cell cycle arrest)は、p53、p21およびp27のレベル(level)増加およびシクロスポリンD1のレベル低減と明らかな関係を有することが分かった。一方、COLO 205細胞のアポトーシスに関しては、アピオール処理(>150μM)によって切断されるカスパーゼ−3、−8、−9およびbax/bcl−2比が顕著に増加し、DNA断片化作用の分析およびフローサイトメトリー分析におけるサブG1ピーク(Sub−G1 peak)の分析から、DNA断片化の発生を導くことが分かる。これらの結果は、SY−1がヒト結腸直腸癌細胞の成長を抑制できることを証明し、中でも特にアピオールは顕著な効果が見られる。
【0030】
本発明における5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールおよびその鏡像異性体、非鏡像異性体、薬学上許容される塩は、牛樟芝などの天然物中から既知のあらゆる抽出技術によって得られ、または4,7−ジメトキシ−5−メチル−1,3−ベンゾジオキソールを元に既知の化学的手段を用いて合成することで得ることができる。
【0031】
下記の実施例によって本発明をさらに説明するが、これらの実施例はあくまでも説明に供するものであって、本発明に対する実施上の制限と解するべきでないことを明確にすべきである。
【実施例】
【0032】
実験材料と実験方法
1.化合物と試薬
下記実施例中において使用される5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソール(5−Substituted 4,7−dimethoxy−1,3−benzodioxoles、すなわちSY−1誘導体であり、表1に示される化合物1〜9)はオーストリアのAurora Fine Chmicals Ltd.から購入した。アピオール(apiole)は友和貿易株式有限会社(Uni−onward Company)(台湾)から購入した。これらの化合物の構造はNMRスペクトルによって同定した。
【0033】
2.細胞の培養
COLO 205(p53−野生型)細胞株は、ヒト結腸線癌細胞(human colon adenocarcinoma)(CCL−222,American Type Culture Collection,アメリカ)から分離されたものである。この細胞株を10%牛胎児血清(FBS)および1%ペニシリン−ストレプトマイシン(penicilin−streptomycin)(Invitrogen,Carlsbad,CA)を含むRPMI−1640培地(Invitrogen,Carsbad,CA)で培養した。FHC(CRL−1831,American Type Culture Collection,アメリカ)は、正常なヒト胚胎結腸粘膜長期表皮細胞培養物(Siddiqui KM and Chopra DP,In Vitro,1984;20:859−68)である。培養物は湿潤5%CO2を含む37℃のインキュベータ中において培養した。
【0034】
3.細胞生存率アッセイ(cell viability assay)
培養細胞に対する化合物の増殖抑制効果は、3−(4,5−ジメチルチアゾル−2−イル)−2,5−ジフェニル−テトラゾリウムブロミドアッセイ[3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide assay,MTT assay]によるものである。各ウェル2×104細胞(cells/well)の密度で24ウェル培養プレート(24−well culture plate)中で培養し、一晩放置した後、異なる濃度の化合物で処理した。24、48および72時間のインキュベーション後、2mg・mL-1のMTT溶液[リン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline,PBS),pH7.4に調整]30μLを各ウェル中に入れ、培地プレートをさらに3時間インキュベートする。インキュベートによって、緩やかに吸収され、各ウェルから培地を取り除き、200μLジメチルスルホキシド(DMSO)で置き換えた。各ウェルの吸収値を酵素結合免疫吸着分析器(enzyme−linked immunosorbent assay)によって波長550nmで測定した。
【0035】
4.フローサイトメトリー分析(flow cytometry analysis)
異なる濃度のアピオールでCOLO 205細胞を処理した後、それぞれ異なる時間経過後にトリプシン−エチレンジアミン四酢酸(trypsin−EDTA)によって吸収し、ろ過後にPBSで二回洗浄し、4℃の70%アルコール中で24時間以上かけて固定させた。固定された細胞をろ過後にPBSで再度洗浄し、DNase−free RNase(2 U mL−1)で30分間処理した後、ヨウ化プロピジウム試薬(propidium iodide reagent)[3.8mMのクエン酸ナトリウム(sodium citrate)、0.1%のTriton X−100および20mgのml−1ヨウ化プロピジウム]で処理した。DNA含有量をフローサイトメトリー測定器(Cytomics FC500,Beckman Coulter)によって測定した。細胞周期の各段階にある細胞のパーセンテージをソフトウェア(例えば、Multicycle 32bit version,Beckman Coulter)によって分析した。
【0036】
5.免疫ブロット法分析(immunoblotting analysis)
COLO 205細胞株を異なる濃度のアピオールでそれぞれ異なる時間(duration)で処理した後、溶解緩衝液(lysis buffer)[20mM Tris−HCl、1% NP−40、137 mM NaCl、50 mM EDTA、プロテアーゼ抑制カクテル(protease inhibitor cocktail)および1mM PMSF]に溶解し、得られた細胞溶解液(cell lysate)を免疫ブロット法分析に用いた(Lin H et al.,J Biol Chem,2007;282:2776−84)。処理された細胞から得られた蛋白質抽出物(各レーンに100μg)をSDS−PAGEによって分離し、特定抗体によって検出し、β−アクチンの含有量によって蛋白質負荷量(loading)を修正する。免疫検出(immuunodetection)は適当に希釈された特定抗体を使用して、4℃で終夜行った。一次抗体(primary antibody)を1:100と1:1000の比で希釈した。上記一次抗体は、抗サイクリンD1(anti−cyclin D1)と抗p27(Santa Cruz,Inc.,CA,USA)、抗アクチン(anti−actin)(Chemicon Co.,MA,USA)、抗切断カスパーゼ−3、−8、−9(anti−cleaved caspase−3,−8,−9)(Cell Signaling Technology,Inc.,MA,USA)、抗p21、抗p53(BD Bioscience,CA,USA)および抗baxと抗bcl−2(Assay Designs,MI,USA)を含む。二次抗体は、過酸化酵素と複合したヤギ抗マウスまたは抗ウサギ抗体(peroxidase−conjugated goat anti−mouse or anti−rabbit antibodies)およびアルカリ性脱リン酸化酵素と複合したヤギ抗マウス抗体(alkaline phosphatase−conjugated goat anti−mouse antibody)(Jackson ImmunoResearch Laboratory,PA,USA)を含み、1:5000で希釈して室温で1時間インキュベートした。ECL検出試薬(ECL detection reagent)およびBCIP/NBT基質溶液(BCIP/NBT substrate solution)(Perkin Elmer Co.,MA,USA)を使用して、Trans−Blot SD(Bio−Rad Co.,CA,USA)を用いてPVDFメンブレン(PVDF membranes)上に転移させた免疫活性を有する蛋白質(immunoreactive proteins)を可視化(visualize)する。
【0037】
6.DNA断片化作用の分析(analysis of DNA fragmentation)
異なる処理が施されたCOLO 205細胞を使用し、DNA断片化作用の分析によって細胞のアポトーシス(apoptosis)を測定した(Ho YS et al.,Mol Carcinog,1996;16:20−31)。ゲノムDNA(genomic DNA)を抽出し、2%アガロースゲル(agarose gel)で電気泳動を行った。DNAは臭化エチジウム染色(ethidium bromide staining)によって可視化した。
【0038】
7.統計
すべての数値は、平均値±標準偏差(means±SE)の方式で示された。有意性の比較は(significant comparisons)はDunnett’s one−way ANOVAによって行った。有意性はP<0.05を境界としている。
【実施例1】
【0039】
5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソール誘導体のヒト結腸線癌細胞に対する細胞毒性活性(cytotoxic activity)
本実施例では10種類のSY−1誘導体の抗増殖効果(anti−proliferation effect)について分析し、COLO 205細胞を異なる濃度の各化合物(37.5〜225μM)で異なる時間(24、48および72時間)処理した後、3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−テトラゾリウムブロミドジメトキシを使用して「実験材料と実験方法」に記載された「3.細胞生存率アッセイ」を用いて、各化合物の細胞毒性活性を測定した。
【0040】
各化合物のCOLO 205細胞中における抗増殖活性を図1A〜1Cに示した。その結果から、5位の官能基が脂肪族置換基(aliphatic substituents)であるもの(化合物4、5およびアピオール)は、極性アルカン官能基であるもの(化合物1〜3)に比べ、比較的高い抗増殖効果を有することが分かった。化合物1、2、3、4、5および6のIC50値(IC50 value)は、測定の結果それぞれ59.4μ M、152.3μM、148.5μM、72.1μM、110.9μMおよび66.7μ Mであった。しかし、5位が比較的バルキーな置換基(bulkier substituents)であるもの(化合物7、8および9)は、非常に弱い抑制効果を示した(>225μM)。
【0041】
結果は図1A〜1Cに示される通りであるが、COLO 205 細胞に対して最も潜在能力のあるのはアピオール(apiole)であり、IC50値は48時間および72時間に明らかに<37.5μM(図1Bおよび1C)となった。SY−1誘導体の側鎖(side chain)は2−プロペニル基(2−propenyl group)(アピオール)およびn−プロピル基(n−propyl groups)(化合物5)であるが、アピオールのCOLO 205細胞に対する抗増殖活性はプロピル基を有するものの3倍以上であった。
【0042】
また、SY−1誘導体のCOLO 205癌細胞増殖に対する抑制作用が細胞タイプに対して特異性(cell−type specific)があるかを調べるために、正常なヒト結腸表皮細胞(normal human colonic epithelial cells)(FHC)を異なる投与量のアピオール(図2で示すもの)で異なる時間処理し、「実験材料と実験方法」に記載した細胞生存率分析によって各化合物の細胞毒性活性を測定した。
【0043】
図2に示すように、アピオールの細胞毒性活性は正常なヒト細胞株においては観察されていない。そのため、下記実施例ではアピオールを代表として、本発明について例を挙げて説明する。
【0044】
【表1】
【実施例2】
【0045】
SY−1誘導体によって誘導されるヒト結腸線癌細胞の細胞周期停滞(cell cycle arrest)
以前の研究(Lien HM.et al.,2009,上記と同じ;Ho YS et al.,Food Chem Toxicol,2005;43:1483−95)において、COLO 205細胞は完全培地(complete medium)に置き換えて15時間(15h)後に、化合物で処理された群別のG0/G1細胞群は、対照群に対して最大の差異を示す。このため、本実施例においては、この時間(15h)を選んでアピオールによる細胞周期停滞の投与量依存効果について調べた。本実施例は「実験材料と実験方法」に記載した「4.フローサイトメトリー分析」の分析によって異なる投薬量のアピオールで処理したCOLO 205細胞の、細胞周期の各段階における細胞のパーセンテージを示している。上記の「5.免疫ブロット分析」によって、p21、p27およびp53およびサイクリンD1で処理したCOLO 205の細胞内における発現状況が分かった。
【0046】
図3に示すように、アピオールはG0/G1停滞に対して投与量依存効果(dose−dependent effects)を有し、中でも顕著なG0/G1停滞(significant G0/G1 arrest)はアピオール(>75μM)で処理されたCOLO 205細胞中において誘発され、その効果は投与量依存性である。
【0047】
以前の研究で、サイクリン依存性のキナーゼ阻害剤(cyclin−dependent kinase inhibitors,CDKi)、例えばp21およびp27は抗癌薬(anti−cancer agents)によってG0/G1において停滞するヒト結腸癌細胞中において上向きに調節される(upregulated)(Lien HM.et al.,2009,同上書;Ho YS et al.,2005,同上書;Wu CH et al.,Toxicol Appl Pharmacol,2002;180:22−35)ことが明らかになっている。本実施例においては、細胞周期調整蛋白質(cell cycle regulatory proteins)の発現に対する、アピオールの効果について分析したが、その結果は図4に示す通りで、上記アピオール(<150μM)中に暴露され15時間経過したCOLO 205細胞において、p21、p27、p53およびサイクリンD1の発現が誘発された。
【実施例3】
【0048】
SY−1誘導体によるヒト結腸線癌細胞のカスパーゼ(caspase)の活性化
本実施例ではさらに、COLO 205細胞がアピオール中に暴露されて36〜48時間経過した後のアポトーシスの状況について分析し、「実験材料と実験方法」に記載した「3.フローサイトメトリー分析」、「4.免疫ブロット分析」および「5.DNA断片化作用分析」によって実施した。
【0049】
まず、アピオールの細胞周期調節の時間と投与量の依存効果を、上記実施例を参照してフローサイトメトリー方式の細胞測定分析によって測定した。その結果は図5A〜5Dに示す通りで、高投与量のアピオール(150、225μM)は、36および48時間に顕著なサブG1ピーク(sub−G1 peak)群を増大させる。
【0050】
次に、従来技術で、アポトーシスの発生に活性化カスパーゼ(Thornberry NA and Lazebnik Y,Science,1998;281:1312−6;el−Deiry WS et al.,Cell,1993;75:817−25)が必要であることが示されている。したがって、出願人はさらに免疫ブロット分析によって、アピオールで処理した後のCOLO 205細胞中のカスパーゼ活性化およびbax/bcl−2比に対する関与の状況(involvement)を測定し、その際に異なる投与量のアピオールで処理したCOLO 205細胞の蛋白質抽出物[各レーン(lane)において100μg]をSDS−PAGEによって分離し特定抗体によって検出し、さらにβ−アクチンによって蛋白質負荷量を校正した。
【0051】
図5Eに示す通り、アピオール(150または225μM、36時間経過)はCOLO 205アポトーシスを誘発し、それに伴ってbax/bcl−2比の増加およびカスパーゼ−3、−8、−9の切断作用が生じる。
【0052】
次に、出願人は、DNA断片化作用の分析により、アピオールで処理したCOLO 205細胞のアポトーシス状況を調べた。アピオールで36時間処理した後のCOLO 205細胞中においてのみ、DNA断片化作用が観察された(>75μM)。DNA断片化作用は確かに高投与量のアピオール(150μM)によって誘発されることが分かり、図6に示す通りである。
【0053】
以上のことから、例えばアピオールなどのSY−1誘導体は、確かに細胞タイプに特異的にヒト結腸線癌細胞のアポトーシスを誘発し、したがって結腸直腸癌の化学療法に用いることが可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソール(5−substituted 4,7−dimethoxy−1,3−benzodioxole)の結腸直腸癌(colorectal cancer)治療用医薬品の製造における使用、結腸直腸癌治療用医薬品の製造方法に関する。ただし、5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールにおける5位の置換基はメチル基を含まない。また、本発明は5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを含有する細胞周期抑制薬および結腸直腸癌細胞死滅薬にも係る。
【背景技術】
【0002】
2006年に台湾衛生署によって公開された癌報告書によれば、結腸直腸癌(colorectal cancer)は台湾地区において、最も多発する癌のトップ5に入るという。現在の臨床治療においては、治療法は手術治療、放射線治療、一般的化学療法、および遺伝子治療に限られる(Asmis TR.and Saltz L.,Gastroenterol Clin North Am,2008;37:287−95,ix.;Durai R.et al.,J Gastrointest Liver Dis 2008;17:59−67;Kuwai T.et al.,Clin Exp Metastasis,2008;25:477−89)。大腸癌の治療に用いられる新治療薬の開発への切実な要望が依然として存在することは明らかである。
【0003】
牛樟芝(Antrodia camphorata)は中国伝統医学において、高血圧(hypertension)、そう痒症(pruritus)、下痢症(diarrhea)または肝臓癌(liver cancer)の治療に用いられている。出願人の以前の報告では、4,7−ジメトキシ5−メチル−1,3−ベンゾジオキソール(4,7−dimethoxy−5−methyl−l,3−benzodioxole、以下SY−1と略す)が牛樟芝の抽出物から単離されることを示している。SY−1は、ヒトCOLO 205癌細胞(COLO 205)の増殖反応を効果的に抑制することができる(Lien HM.et al.,Evid Based Complement Alternat Med.doi:10.1093/ecam/nep020、2009年3月17日公開)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールの抗腫瘍活性(anti−tumor activities)はまだ完全には理解されていない。さらに、SY−1は、腫瘍の成長を抑制する効果はあるものの、比較的高い投与量ではじめて結腸直腸癌細胞を有効的に抑制する効果が発揮できる。このため、当該技術分野において、結腸直腸癌の治療に用いられる薬の選択肢を増やすために、結腸直腸癌を有効的に治療できる新薬への需要は差し迫っている。従来技術によるSY−1以外にも、結腸直腸癌の治療に供する各種の候補薬を提供できれば、予め他の選択肢を提供することで、特定の薬品に対して薬物耐性が生じた際に、治療に用いる代替薬がないという問題を回避することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来技術における上記さまざまな欠点および需要に鑑みて、本発明は天然物から抽出された化合物の誘導体の、結腸直腸癌の治療における使用を提供することを目的とする。上記化合物は5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールであり、4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソール誘導体を含有する医薬組成物の形で提供することができる。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールの結腸直腸癌治療用医薬品の製造における使用を提供し、上記5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールは下記一般式(I)を有する。
【0007】
【化1】
上式において、Rは、炭素原子数1〜6のアルキル基(alkyl group)、炭素原子数2〜6のアルケニル基(alkenyl group)、炭素原子数2〜6のアルキニル基(alkynyl group)、シアノ基(cyano group)、炭素原子数1〜5のエステル基(ester group)、炭素原子数1〜5のカルボキシル基(carboxylic group)、イソオキサゾール基(isoxazole group)からなる群から選択されるものであり、ただし(with the proviso that)、Rはメチル基ではない(other than −CH3)ことを条件とする。
【0008】
上記の基は置換されたもの(substituted)でも非置換のもの(nonsubstituted)でもよい。より好ましくは、Rはエチル基、プロピル基、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基、エチニル基、プロピニル基、シアノ基(cyano group)、メチルエステル基、エチルエステル基およびカルボキシルメチル基、カルボキシルエチル基またはカルボキシルプロピル基で置換されたまたは置換されていない基である。
【0009】
好ましくは、Rは置換された上記官能基であり、以下を挙げることができるが、これらに限るものではない。置換された炭素原子数1〜6のアルキル基、その置換基はヒドロキシ基(−OH)、シアノ基、ニトロ基(nitro group)、芳香基(aromatic group)またはハロゲン基(halogenyl)である:置換された炭素原子数2〜6のアルケニル基、その置換基はヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、芳香基またはハロゲン基である;置換された炭素原子数2〜6のアルキニル基、その置換基はヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、芳香基またはハロゲン基である。
【0010】
Rは−CN、−COOH、−CH2CH2OH、−COOCH3、−(CH2)2CH3、−CH2CH(OH)CH2CN、−CH2CH=CH2、
【0011】
【化2】
【0012】
【化3】
および
【0013】
【化4】
からなる群から選択されたものが好ましい。
【0014】
さらに、該5−置換4,7−ジメトキシ1,3−ベンゾジオキソールのヒト結腸直腸癌細胞の増殖作用に対する半数阻害濃度(IC50)が375μM以下であることが好ましく、225μM以下であることがより好ましく、200μM以下であることがさらに好ましく、35μM以下であることがまたさらに好ましい。
【0015】
さらに、該5−置換4,7−ジメトキシ1,3−ベンゾジオキソールは、アピオール(apiole)、すなわち4,7−ジメトキシ5−(2−プロピレン−1−イル)−1,3−ベンゾジオキソールであることが好ましい。
【0016】
本発明は、結腸直腸癌の治療に用いられる医薬組成物を提供し、該医薬組成物は以下のものを含有する。治療上有効量の前記いずれかの5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールおよびその鏡像異性体、非鏡像異性体、医薬上許容される塩、またはそれらの組合せ、ならびに医薬上許容されるこれらの担体および/または賦形剤。
【0017】
上記医薬上許容される塩は、以下の医薬上許容される無機酸または有機酸との間で生成される塩類を意味する。例えば、塩酸、硫酸、スルホン酸、酢酸、プロパン酸、コハク酸、マロン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸、およびp−トルエンスルホン酸を挙げることができるが、これに限定されない。
【0018】
本発明において、上記の「治療有効量(therapeutically effective amount)」は、治療対象に対して治療に有効な量の化合物を投与することをいう。治療に対して有効であるとの評価は、客観的に試験もしくはマーカーなどを利用して判断し、または主観的に治療効果もしくは治療後の感覚に対する治療対象の供述に基づく。上記5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールの有効量の範囲は、約0.1mg/Kgから約500mg/Kgであり、または1mg/Kgから約50mg/Kgである。有効量は投薬ルートまたは併行して使用される他の薬剤の違いによって変わることもある。
【0019】
本発明の5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールは、医薬品組成物中の活性成分であり、経口または非経腸方式によって投薬でき、静脈内(intravenous)、筋肉内(intramuscular)、腹膜内(intraperitoneal)、皮下(subcutaneous)、直腸(rectal)および局部(topical)経由の投薬経路を含む。
【0020】
経口投薬に関しては、本発明の5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールは、従来の抗悪性腫瘍薬(antineoplastic)および/または細胞成長抑制薬(cell growth inhibitor)と併せて使用し、例えば錠剤(tablet)またはカプセル(capsule)、パウダー(powder)、分散可能な粒子(dispersible particle)、扁平状カプセル(cachet)、水溶液または懸濁液の形で投薬することができる。錠剤で経口投与する場合によく使われる担体は、ラクトース(lactose)、コーンスターチ(corn starch)、炭酸マグネシウム(magnesium carbonate)、タルク(talc)および糖である。潤滑剤(lubricants)として、例えばステアリン酸マグネシウム(magnesium stearate)がある。カプセルの形で経口投与する場合、効果的な担体は、ラクトース、コーンスターチ、炭酸マグネシウム、タルクおよび糖である。懸濁水溶液(aqueous suspension)による経口投与時には、担体は乳化剤(emulsion)および/または懸濁液とすることができる。このほか、経口投与時にはさらに甘味料(sweetener)および/または香味料(flavourings)を含有することができる。
【0021】
筋肉内、腹膜内、皮下および静脈内を経由する投薬に関しては、よく使用される剤形は活性成分の無菌溶液形式であり、緩衝液によってpH値が調整される。
【0022】
静脈内経由投薬に関してよく使用される剤形は、活性成分を含む溶質の全体濃度を制御して得られる等浸透圧溶液である。
【0023】
直腸投薬に関しては、よく使用される剤形は座剤である。前もって低融点ワックス(例えば脂肪酸、グリセリンまたはヤシ油の混合物)を溶解させ、次に活性成分を均等攪拌などの方法によって、該低融点ワックス中に分散させ、次いで低融点ワックスと活性成分とが均等に混合された混合物を適当なサイズの型に流し入れ、冷却して固体成型する。
【0024】
本発明の医薬組成物は、他の結腸直腸癌の治療に好適に使用されるあらゆる既知の方法または組成物と組み合わせて使用することができる。
【0025】
本発明は、上記5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを含有する細胞周期抑制薬を提供する。
【0026】
本発明は、上記5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを含有する結腸直腸癌細胞死滅薬を提供する。
【0027】
本発明における5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールは、細胞のタイプに対して特異性を有することが証明されており、結腸直腸癌細胞を死滅させるものの、正常なヒト細胞を死滅させることはない。したがって結腸直腸病変細胞の増殖作用に有効に対抗し、結腸直腸癌の治療に用いることができる。本発明の5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールおよびその医薬組成物は、結腸直腸癌細胞の増殖作用に対して、比較的低い半数阻害濃度を有する。これは、従来技術と比べて比較的低い投与量で癌細胞の成長を有効に抑制する効果を実現することを示しており、結腸直腸癌細胞死滅薬またはその他の結腸直腸癌治療薬のコンビナトリアル・ケミストリー・データバンクの参考になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】ヒト結腸直腸線癌細胞(human colorectal adenocarcinoma cells)(COLO 205)がSY−1誘導体によって24時間処理された後、細胞生長が抑制される様子を示すグラフである。
【図1B】ヒト結腸直腸線癌細胞(human colorectal adenocarcinoma cells)(COLO 205)がSY−1誘導体によって48時間処理された後、細胞生長が抑制される様子を示すグラフである。
【図1C】ヒト結腸直腸線癌細胞(human colorectal adenocarcinoma cells)(COLO 205)がSY−1誘導体によって72時間処理された後、細胞生長が抑制される様子を示すグラフである。
【図2】正常なヒト細胞(normal human cells)(FHC細胞)が異なる濃度のSY−1誘導体によって異なる時間処理された後、細胞生長が抑制される様子を示すグラフである。
【図3】アピオールのCOLO 205細胞中G0/G1段階の停滞に対する投与量依存効果を示す図である。これは、フローサイトメトリー分析によって得られ、サブG1、G0/G1、SおよびG2/M段階の細胞のパーセンテージはMulticycle分析ソフトによって測定され、各グループは3つのサンプルを有し、その値は平均値±SEで表示され、対照群に対して*P<0.05である。
【図4】アピオールの、細胞周期調整蛋白質の発現に対する効果を示すグラフである。
【図5A】アピオールのCOLO 205細胞のアポトーシスに対する時間と投与量の依存性反応を示し、同調化されたCOLO 205細胞が10%FCSによって15、36および48時間処理された後、細胞周期各段階における群分布の様子を示す図である。
【図5B】アピオールのCOLO 205細胞のアポトーシスに対する時間と投与量の依存性反応を示し、同調化されたCOLO 205細胞が10%FCSによって15、36および48時間処理された後、細胞周期各段階における群分布の様子を示す図である。
【図5C】アピオールのCOLO 205細胞のアポトーシスに対する時間と投与量の依存性反応を示し、同調化されたCOLO 205細胞が10%FCSによって15、36および48時間処理された後、細胞周期各段階における群分布の様子を示す図である。
【図5D】アピオールのCOLO 205細胞のアポトーシスに対する時間と投与量の依存性反応を示し、同調化されたCOLO 205細胞が10%FCSによって15、36および48時間処理された後、細胞周期各段階における群分布の様子を示す図である。
【図5E】アピオールの処理がCOLO 205細胞のカスパーゼおよびbax/bcl−2比率に及ぼす影響を示す図である。
【図6】アピオールによる処理がCOLO 205細胞のアポトーシス調整蛋白質に及ぼす影響を示す図である。
【図7】ヒトCOLO 205細胞中において、アピオールが細胞周期停滞を誘発する情報を伝達する経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
スクリーニングおよび最適化によって結腸直腸癌細胞の増殖作用を抑制できる新規活性化合物を得るために、出願人は10種類の4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールの一連の誘導体の、ヒト結腸直腸癌細胞(human colorectal carcinoma cell)(COLO 205)に対するインビトロでの抑制活性について評価を行った。これらの誘導体は牛樟芝から単離されたリード化合物(lead compound)(SY−1)を基礎としている。この10種類の化合物の構造と活性との関係を分析することによって、5位のアルキル基の鎖の長さが重要であり、置換基がアリル基であるアピオールが最も優れた抑制活性を示すことが判明した。本発明は、SY−1の類似物であるアピオールが、COLO 205細胞の増殖作用(proliferation)を抑制することができるが、正常なヒト結腸表皮細胞(FHC)の増殖作用を影響しないことを証明した。アピオール(75〜225μM)によって誘発されるG0/G1細胞周期の停滞(G0/G1 cell cycle arrest)は、p53、p21およびp27のレベル(level)増加およびシクロスポリンD1のレベル低減と明らかな関係を有することが分かった。一方、COLO 205細胞のアポトーシスに関しては、アピオール処理(>150μM)によって切断されるカスパーゼ−3、−8、−9およびbax/bcl−2比が顕著に増加し、DNA断片化作用の分析およびフローサイトメトリー分析におけるサブG1ピーク(Sub−G1 peak)の分析から、DNA断片化の発生を導くことが分かる。これらの結果は、SY−1がヒト結腸直腸癌細胞の成長を抑制できることを証明し、中でも特にアピオールは顕著な効果が見られる。
【0030】
本発明における5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールおよびその鏡像異性体、非鏡像異性体、薬学上許容される塩は、牛樟芝などの天然物中から既知のあらゆる抽出技術によって得られ、または4,7−ジメトキシ−5−メチル−1,3−ベンゾジオキソールを元に既知の化学的手段を用いて合成することで得ることができる。
【0031】
下記の実施例によって本発明をさらに説明するが、これらの実施例はあくまでも説明に供するものであって、本発明に対する実施上の制限と解するべきでないことを明確にすべきである。
【実施例】
【0032】
実験材料と実験方法
1.化合物と試薬
下記実施例中において使用される5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソール(5−Substituted 4,7−dimethoxy−1,3−benzodioxoles、すなわちSY−1誘導体であり、表1に示される化合物1〜9)はオーストリアのAurora Fine Chmicals Ltd.から購入した。アピオール(apiole)は友和貿易株式有限会社(Uni−onward Company)(台湾)から購入した。これらの化合物の構造はNMRスペクトルによって同定した。
【0033】
2.細胞の培養
COLO 205(p53−野生型)細胞株は、ヒト結腸線癌細胞(human colon adenocarcinoma)(CCL−222,American Type Culture Collection,アメリカ)から分離されたものである。この細胞株を10%牛胎児血清(FBS)および1%ペニシリン−ストレプトマイシン(penicilin−streptomycin)(Invitrogen,Carlsbad,CA)を含むRPMI−1640培地(Invitrogen,Carsbad,CA)で培養した。FHC(CRL−1831,American Type Culture Collection,アメリカ)は、正常なヒト胚胎結腸粘膜長期表皮細胞培養物(Siddiqui KM and Chopra DP,In Vitro,1984;20:859−68)である。培養物は湿潤5%CO2を含む37℃のインキュベータ中において培養した。
【0034】
3.細胞生存率アッセイ(cell viability assay)
培養細胞に対する化合物の増殖抑制効果は、3−(4,5−ジメチルチアゾル−2−イル)−2,5−ジフェニル−テトラゾリウムブロミドアッセイ[3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide assay,MTT assay]によるものである。各ウェル2×104細胞(cells/well)の密度で24ウェル培養プレート(24−well culture plate)中で培養し、一晩放置した後、異なる濃度の化合物で処理した。24、48および72時間のインキュベーション後、2mg・mL-1のMTT溶液[リン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline,PBS),pH7.4に調整]30μLを各ウェル中に入れ、培地プレートをさらに3時間インキュベートする。インキュベートによって、緩やかに吸収され、各ウェルから培地を取り除き、200μLジメチルスルホキシド(DMSO)で置き換えた。各ウェルの吸収値を酵素結合免疫吸着分析器(enzyme−linked immunosorbent assay)によって波長550nmで測定した。
【0035】
4.フローサイトメトリー分析(flow cytometry analysis)
異なる濃度のアピオールでCOLO 205細胞を処理した後、それぞれ異なる時間経過後にトリプシン−エチレンジアミン四酢酸(trypsin−EDTA)によって吸収し、ろ過後にPBSで二回洗浄し、4℃の70%アルコール中で24時間以上かけて固定させた。固定された細胞をろ過後にPBSで再度洗浄し、DNase−free RNase(2 U mL−1)で30分間処理した後、ヨウ化プロピジウム試薬(propidium iodide reagent)[3.8mMのクエン酸ナトリウム(sodium citrate)、0.1%のTriton X−100および20mgのml−1ヨウ化プロピジウム]で処理した。DNA含有量をフローサイトメトリー測定器(Cytomics FC500,Beckman Coulter)によって測定した。細胞周期の各段階にある細胞のパーセンテージをソフトウェア(例えば、Multicycle 32bit version,Beckman Coulter)によって分析した。
【0036】
5.免疫ブロット法分析(immunoblotting analysis)
COLO 205細胞株を異なる濃度のアピオールでそれぞれ異なる時間(duration)で処理した後、溶解緩衝液(lysis buffer)[20mM Tris−HCl、1% NP−40、137 mM NaCl、50 mM EDTA、プロテアーゼ抑制カクテル(protease inhibitor cocktail)および1mM PMSF]に溶解し、得られた細胞溶解液(cell lysate)を免疫ブロット法分析に用いた(Lin H et al.,J Biol Chem,2007;282:2776−84)。処理された細胞から得られた蛋白質抽出物(各レーンに100μg)をSDS−PAGEによって分離し、特定抗体によって検出し、β−アクチンの含有量によって蛋白質負荷量(loading)を修正する。免疫検出(immuunodetection)は適当に希釈された特定抗体を使用して、4℃で終夜行った。一次抗体(primary antibody)を1:100と1:1000の比で希釈した。上記一次抗体は、抗サイクリンD1(anti−cyclin D1)と抗p27(Santa Cruz,Inc.,CA,USA)、抗アクチン(anti−actin)(Chemicon Co.,MA,USA)、抗切断カスパーゼ−3、−8、−9(anti−cleaved caspase−3,−8,−9)(Cell Signaling Technology,Inc.,MA,USA)、抗p21、抗p53(BD Bioscience,CA,USA)および抗baxと抗bcl−2(Assay Designs,MI,USA)を含む。二次抗体は、過酸化酵素と複合したヤギ抗マウスまたは抗ウサギ抗体(peroxidase−conjugated goat anti−mouse or anti−rabbit antibodies)およびアルカリ性脱リン酸化酵素と複合したヤギ抗マウス抗体(alkaline phosphatase−conjugated goat anti−mouse antibody)(Jackson ImmunoResearch Laboratory,PA,USA)を含み、1:5000で希釈して室温で1時間インキュベートした。ECL検出試薬(ECL detection reagent)およびBCIP/NBT基質溶液(BCIP/NBT substrate solution)(Perkin Elmer Co.,MA,USA)を使用して、Trans−Blot SD(Bio−Rad Co.,CA,USA)を用いてPVDFメンブレン(PVDF membranes)上に転移させた免疫活性を有する蛋白質(immunoreactive proteins)を可視化(visualize)する。
【0037】
6.DNA断片化作用の分析(analysis of DNA fragmentation)
異なる処理が施されたCOLO 205細胞を使用し、DNA断片化作用の分析によって細胞のアポトーシス(apoptosis)を測定した(Ho YS et al.,Mol Carcinog,1996;16:20−31)。ゲノムDNA(genomic DNA)を抽出し、2%アガロースゲル(agarose gel)で電気泳動を行った。DNAは臭化エチジウム染色(ethidium bromide staining)によって可視化した。
【0038】
7.統計
すべての数値は、平均値±標準偏差(means±SE)の方式で示された。有意性の比較は(significant comparisons)はDunnett’s one−way ANOVAによって行った。有意性はP<0.05を境界としている。
【実施例1】
【0039】
5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソール誘導体のヒト結腸線癌細胞に対する細胞毒性活性(cytotoxic activity)
本実施例では10種類のSY−1誘導体の抗増殖効果(anti−proliferation effect)について分析し、COLO 205細胞を異なる濃度の各化合物(37.5〜225μM)で異なる時間(24、48および72時間)処理した後、3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−テトラゾリウムブロミドジメトキシを使用して「実験材料と実験方法」に記載された「3.細胞生存率アッセイ」を用いて、各化合物の細胞毒性活性を測定した。
【0040】
各化合物のCOLO 205細胞中における抗増殖活性を図1A〜1Cに示した。その結果から、5位の官能基が脂肪族置換基(aliphatic substituents)であるもの(化合物4、5およびアピオール)は、極性アルカン官能基であるもの(化合物1〜3)に比べ、比較的高い抗増殖効果を有することが分かった。化合物1、2、3、4、5および6のIC50値(IC50 value)は、測定の結果それぞれ59.4μ M、152.3μM、148.5μM、72.1μM、110.9μMおよび66.7μ Mであった。しかし、5位が比較的バルキーな置換基(bulkier substituents)であるもの(化合物7、8および9)は、非常に弱い抑制効果を示した(>225μM)。
【0041】
結果は図1A〜1Cに示される通りであるが、COLO 205 細胞に対して最も潜在能力のあるのはアピオール(apiole)であり、IC50値は48時間および72時間に明らかに<37.5μM(図1Bおよび1C)となった。SY−1誘導体の側鎖(side chain)は2−プロペニル基(2−propenyl group)(アピオール)およびn−プロピル基(n−propyl groups)(化合物5)であるが、アピオールのCOLO 205細胞に対する抗増殖活性はプロピル基を有するものの3倍以上であった。
【0042】
また、SY−1誘導体のCOLO 205癌細胞増殖に対する抑制作用が細胞タイプに対して特異性(cell−type specific)があるかを調べるために、正常なヒト結腸表皮細胞(normal human colonic epithelial cells)(FHC)を異なる投与量のアピオール(図2で示すもの)で異なる時間処理し、「実験材料と実験方法」に記載した細胞生存率分析によって各化合物の細胞毒性活性を測定した。
【0043】
図2に示すように、アピオールの細胞毒性活性は正常なヒト細胞株においては観察されていない。そのため、下記実施例ではアピオールを代表として、本発明について例を挙げて説明する。
【0044】
【表1】
【実施例2】
【0045】
SY−1誘導体によって誘導されるヒト結腸線癌細胞の細胞周期停滞(cell cycle arrest)
以前の研究(Lien HM.et al.,2009,上記と同じ;Ho YS et al.,Food Chem Toxicol,2005;43:1483−95)において、COLO 205細胞は完全培地(complete medium)に置き換えて15時間(15h)後に、化合物で処理された群別のG0/G1細胞群は、対照群に対して最大の差異を示す。このため、本実施例においては、この時間(15h)を選んでアピオールによる細胞周期停滞の投与量依存効果について調べた。本実施例は「実験材料と実験方法」に記載した「4.フローサイトメトリー分析」の分析によって異なる投薬量のアピオールで処理したCOLO 205細胞の、細胞周期の各段階における細胞のパーセンテージを示している。上記の「5.免疫ブロット分析」によって、p21、p27およびp53およびサイクリンD1で処理したCOLO 205の細胞内における発現状況が分かった。
【0046】
図3に示すように、アピオールはG0/G1停滞に対して投与量依存効果(dose−dependent effects)を有し、中でも顕著なG0/G1停滞(significant G0/G1 arrest)はアピオール(>75μM)で処理されたCOLO 205細胞中において誘発され、その効果は投与量依存性である。
【0047】
以前の研究で、サイクリン依存性のキナーゼ阻害剤(cyclin−dependent kinase inhibitors,CDKi)、例えばp21およびp27は抗癌薬(anti−cancer agents)によってG0/G1において停滞するヒト結腸癌細胞中において上向きに調節される(upregulated)(Lien HM.et al.,2009,同上書;Ho YS et al.,2005,同上書;Wu CH et al.,Toxicol Appl Pharmacol,2002;180:22−35)ことが明らかになっている。本実施例においては、細胞周期調整蛋白質(cell cycle regulatory proteins)の発現に対する、アピオールの効果について分析したが、その結果は図4に示す通りで、上記アピオール(<150μM)中に暴露され15時間経過したCOLO 205細胞において、p21、p27、p53およびサイクリンD1の発現が誘発された。
【実施例3】
【0048】
SY−1誘導体によるヒト結腸線癌細胞のカスパーゼ(caspase)の活性化
本実施例ではさらに、COLO 205細胞がアピオール中に暴露されて36〜48時間経過した後のアポトーシスの状況について分析し、「実験材料と実験方法」に記載した「3.フローサイトメトリー分析」、「4.免疫ブロット分析」および「5.DNA断片化作用分析」によって実施した。
【0049】
まず、アピオールの細胞周期調節の時間と投与量の依存効果を、上記実施例を参照してフローサイトメトリー方式の細胞測定分析によって測定した。その結果は図5A〜5Dに示す通りで、高投与量のアピオール(150、225μM)は、36および48時間に顕著なサブG1ピーク(sub−G1 peak)群を増大させる。
【0050】
次に、従来技術で、アポトーシスの発生に活性化カスパーゼ(Thornberry NA and Lazebnik Y,Science,1998;281:1312−6;el−Deiry WS et al.,Cell,1993;75:817−25)が必要であることが示されている。したがって、出願人はさらに免疫ブロット分析によって、アピオールで処理した後のCOLO 205細胞中のカスパーゼ活性化およびbax/bcl−2比に対する関与の状況(involvement)を測定し、その際に異なる投与量のアピオールで処理したCOLO 205細胞の蛋白質抽出物[各レーン(lane)において100μg]をSDS−PAGEによって分離し特定抗体によって検出し、さらにβ−アクチンによって蛋白質負荷量を校正した。
【0051】
図5Eに示す通り、アピオール(150または225μM、36時間経過)はCOLO 205アポトーシスを誘発し、それに伴ってbax/bcl−2比の増加およびカスパーゼ−3、−8、−9の切断作用が生じる。
【0052】
次に、出願人は、DNA断片化作用の分析により、アピオールで処理したCOLO 205細胞のアポトーシス状況を調べた。アピオールで36時間処理した後のCOLO 205細胞中においてのみ、DNA断片化作用が観察された(>75μM)。DNA断片化作用は確かに高投与量のアピオール(150μM)によって誘発されることが分かり、図6に示す通りである。
【0053】
以上のことから、例えばアピオールなどのSY−1誘導体は、確かに細胞タイプに特異的にヒト結腸線癌細胞のアポトーシスを誘発し、したがって結腸直腸癌の化学療法に用いることが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを用いた結腸直腸癌治療用医薬品の製造方法であって、下記一般式(I)
【化1】
(上式において、Rは、置換された(substituted)または非置換の(nonsubstituted)、炭素原子数1〜6のアルキル基(alkyl group)、炭素原子数2〜6のアルケニル基(alkenyl group)、炭素原子数2〜6のアルキニル基(alkynyl group)、シアノ基(cyano group)、炭素原子数1〜5のエステル基(ester group)、炭素原子数1〜5のカルボキシル基(carboxylic group)、イソオキサゾール基(isoxazole group)からなる群から選択される基であり、ただし、(with the proviso that)Rがメチル基ではない(other than −CH3)ことを条件とする)を有する5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを用いた結腸直腸癌治療用医薬品の製造方法。
【請求項2】
Rが、置換されたまたは非置換の、エチル基、プロピル基、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基、エチニル基、プロピニル基、シアノ基、メチルエステル基、エチルエステル基またはカルボキシルメチル基、カルボキシルエチル基、カルボキシルプロピル基である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
Rが置換された基であり、置換基がヒドロキシ基(−OH)、シアノ基(−CN)、ニトロ基(nitro group)またはハロゲン基(halogenyl)である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
Rが−CN、−COOH、−CH2CH2OH、−COOCH3、−(CH2)2CH3、−CH2CH(OH)CH2CN、−CH2CH=CH2、
【化2】
【化3】
および
【化4】
からなる群から選択される請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールが、静脈内(intravenous)、筋肉内(intramuscular)、腹膜内(intraperitoneal)、皮下(subcutaneous)、直腸(rectal)、局部(topical)経路を経由して投薬される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールが、約0.1mg/kg〜500mg/kgの範囲の有効量で投薬される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
治療上有効量の前記いずれかの5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールおよびその鏡像異性体、非鏡像異性体、医薬上許容される塩、またはこれらの組合せと、
これらの医薬上許容される担体および/または賦形剤とを含有する、結腸直腸癌の治療に用いられる医薬組成物であって、
前記5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールが、下記一般式(I)
【化5】
(上式において、Rは、置換された(substituted)または非置換の(nonsubstituted)、炭素原子数1〜6のアルキル基(alkyl group)、炭素原子数2〜6のアルケニル基(alkenyl group)、炭素原子数2〜6のアルキニル基(alkynyl group)、シアノ基(cyano group)、炭素原子数1〜5のエステル基(ester group)、炭素原子数1〜5のカルボキシル基(carboxylic group)、イソオキサゾール基(isoxazole group)からなる群から選択される基であり、ただし、(with the proviso that)Rがメチル基ではない(other than −CH3)ことを条件とする)で表わされる医薬組成物。
【請求項8】
Rが、置換されたまたは非置換の、エチル基、プロピル基、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基、エチニル基、プロピニル基、シアノ基、メチルエステル基、エチルエステル基、カルボキシルメチル基、カルボキシルエチル基、カルボキシルプロピル基である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
Rが、−CN、−COOH、−CH2CH2OH、−COOCH3、−(CH2)2CH3、−CH2CH(OH)CH2CN、−CH2CH=CH2、
【化6】
【化7】
および
【化8】
からなる群から選択される請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
経口または非経腸で投薬される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項11】
担体は低融点ワックスであることを特徴とする、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項12】
5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールの有効量の範囲が、約0.1mg/Kg〜約500mg/Kgである、請求項7から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを含有する、細胞周期抑制剤。
【請求項14】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを含有する、結腸直腸癌細胞を死滅させる薬剤。
【請求項1】
5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを用いた結腸直腸癌治療用医薬品の製造方法であって、下記一般式(I)
【化1】
(上式において、Rは、置換された(substituted)または非置換の(nonsubstituted)、炭素原子数1〜6のアルキル基(alkyl group)、炭素原子数2〜6のアルケニル基(alkenyl group)、炭素原子数2〜6のアルキニル基(alkynyl group)、シアノ基(cyano group)、炭素原子数1〜5のエステル基(ester group)、炭素原子数1〜5のカルボキシル基(carboxylic group)、イソオキサゾール基(isoxazole group)からなる群から選択される基であり、ただし、(with the proviso that)Rがメチル基ではない(other than −CH3)ことを条件とする)を有する5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを用いた結腸直腸癌治療用医薬品の製造方法。
【請求項2】
Rが、置換されたまたは非置換の、エチル基、プロピル基、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基、エチニル基、プロピニル基、シアノ基、メチルエステル基、エチルエステル基またはカルボキシルメチル基、カルボキシルエチル基、カルボキシルプロピル基である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
Rが置換された基であり、置換基がヒドロキシ基(−OH)、シアノ基(−CN)、ニトロ基(nitro group)またはハロゲン基(halogenyl)である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
Rが−CN、−COOH、−CH2CH2OH、−COOCH3、−(CH2)2CH3、−CH2CH(OH)CH2CN、−CH2CH=CH2、
【化2】
【化3】
および
【化4】
からなる群から選択される請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールが、静脈内(intravenous)、筋肉内(intramuscular)、腹膜内(intraperitoneal)、皮下(subcutaneous)、直腸(rectal)、局部(topical)経路を経由して投薬される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールが、約0.1mg/kg〜500mg/kgの範囲の有効量で投薬される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
治療上有効量の前記いずれかの5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールおよびその鏡像異性体、非鏡像異性体、医薬上許容される塩、またはこれらの組合せと、
これらの医薬上許容される担体および/または賦形剤とを含有する、結腸直腸癌の治療に用いられる医薬組成物であって、
前記5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールが、下記一般式(I)
【化5】
(上式において、Rは、置換された(substituted)または非置換の(nonsubstituted)、炭素原子数1〜6のアルキル基(alkyl group)、炭素原子数2〜6のアルケニル基(alkenyl group)、炭素原子数2〜6のアルキニル基(alkynyl group)、シアノ基(cyano group)、炭素原子数1〜5のエステル基(ester group)、炭素原子数1〜5のカルボキシル基(carboxylic group)、イソオキサゾール基(isoxazole group)からなる群から選択される基であり、ただし、(with the proviso that)Rがメチル基ではない(other than −CH3)ことを条件とする)で表わされる医薬組成物。
【請求項8】
Rが、置換されたまたは非置換の、エチル基、プロピル基、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基、エチニル基、プロピニル基、シアノ基、メチルエステル基、エチルエステル基、カルボキシルメチル基、カルボキシルエチル基、カルボキシルプロピル基である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
Rが、−CN、−COOH、−CH2CH2OH、−COOCH3、−(CH2)2CH3、−CH2CH(OH)CH2CN、−CH2CH=CH2、
【化6】
【化7】
および
【化8】
からなる群から選択される請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
経口または非経腸で投薬される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項11】
担体は低融点ワックスであることを特徴とする、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項12】
5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールの有効量の範囲が、約0.1mg/Kg〜約500mg/Kgである、請求項7から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを含有する、細胞周期抑制剤。
【請求項14】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の5−置換4,7−ジメトキシ−1,3−ベンゾジオキソールを含有する、結腸直腸癌細胞を死滅させる薬剤。
【図3】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図7】
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図4】
【図5E】
【図6】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図7】
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図4】
【図5E】
【図6】
【公開番号】特開2012−17294(P2012−17294A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155835(P2010−155835)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(510189422)優生生物科技股▲分▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(510189422)優生生物科技股▲分▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]