説明

6−O−PUFAアスコルビン酸エステルを含有する皮膚化粧料並びに飲食品

【課題】
本発明は、6-O-PUFA-アスコルベートを含有する皮膚化部粧料および飲食品を提供する。
【解決手段】 一般式(I):
RCO−A (I)
(式中、RCO−は高度不飽和脂肪酸由来のアシル基を示し、Aはアスコルビン酸の水酸基由来の−O−で結合するアスコルビン酸の残基を示す)
で示される6-O-PUFA-アスコルベートをビタミンC成分として含有する、アスコルビン酸の優れた組織あるいは細胞移行性を示し、アスコルビン酸の機能を効率的に発揮させ、さらにPUFAの持つ機能性をも期待できる皮膚化粧料、および一般式(I)で示される6-O-PUFA-アスコルベートを含有する飲食品。

【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
【0001】
本発明は、6−O−PUFA (高度不飽和脂肪酸:poly unsaturated fatty acid)アスコルビン酸エステルとしてアスコルビン酸成分を含有する、皮膚における表皮や真皮へのアスコルビン酸の透過性が向上し、特に皮膚角化細胞へのアスコルビン酸の移行性が増加した皮膚化粧料に関する。本発明はさらに、6−O−PUFAアスコルビン酸エステルを含有する飲食品にも関する。
【従来の技術】
【0002】
ビタミンCはその不足が壊血病の主原因となるコラーゲンの合成を促進したり、生体内抗酸化物質として生体内で生成するフリーラジカルを消去したり、チトクロームCの鉄イオンの酸化還元反応に関与するなどの生理作用以外に、抗がん、免疫賦活、コレステロール生成抑制に伴う抗動脈硬化などの多くの作用が知られている。また、皮膚領域においても、抗酸化やコラーゲン合成促進などに基づく光老化防止、紫外線障害の予防、色素沈着の抑制などの作用を有し、化粧品に添加されている(フレグランスジャーナル、25巻、3月号、特集、7頁、1997年)。また、酸化防止剤としても、食品や化粧品に添加されている。しかしながら、ビタミンCの生理機能を化粧品として期待する場合、ビタミンCの水溶性が高く、皮膚の表皮を通過し、目的とする細胞に到達することが難しい。
【0003】
一方、PUFAとして、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)、またαやγ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)、アラキドン酸などは生体成分としてだけでなく、種々の有用な機能性が知られており(脳の働きと脂質、奥山治美ら編、学会センター関西、1997年。機能性脂質の開発、佐藤清隆ら監修、1992年。肝臓病と治療栄養、渡邉明治ら著、第一出版、1992年。)、それらのいくつかは医薬や食品、健康食品として利用されている。特に、DGLAやGLAは1シリーズのプロスタグランディン(PGE1)の前駆体として知られている。PGE1は例えば2−シリーズのプロスタグランディン(PGE2)と拮抗し、抗炎症的に働くことや、それ以外にも遅延型アレルギーに対する抑制効果が知られている(植物資源の生理活性物質ハンドブック、吉積顕雄ら編、サイエンスフォーラム、536頁、1998年)。
【0004】
また、PUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体は知られている。また、それらはPUFAの機能とアスコルビン酸の相互の機能が期待されるだけでなく、それらそのものの機能性についてもいくつか知られている。例えば、6-O-ドコサヘキサエノイル-アスコルベートは抗不整脈作用(特開平10−139664)、カルシウム拮抗作用(WO94/20092)、抗アレルギー作用(特開平6−122627)を示すこと、6−O−γ―リノレノイルアスコルベートがアルドースレダクターゼ阻害作用を有し(USP6069168)、ストレプトゾトシンで誘発した糖尿病モデルで有効である(Diabetologia, 1996, 39, 1047)ことなどが知られている。さらに、PUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体はPUFAそのものよりも酸化安定性が優れていることも知られている(J.Oil Chem. Soc., 2001, 78, 823)。リノール酸を種々の界面活性剤の存在化にマルトデキストリンやアラビアゴム、大豆多糖などの水溶性多糖と混合して、スプレードライすることによって、ミクロカプセル化され、それがリノール酸に比べて酸化安定性が向上することも知られている(J. Agr. Food Chem., 2002, 50, 3984。J. Microencapsulation, 2002, 19, 181)。以上のように、PUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体は、生理機能の面や酸化安定性に優れた性質を持っていることが確認あるいは推測されている。
【0005】
しかしながら、皮膚化粧料のアスコルビン酸成分として、PUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体を用いる試みはなされていなかった。
【特許文献1】特開平10−139664
【特許文献2】PCT WO94/20092
【特許文献3】特開平6−122627
【特許文献4】USP 6069168
【非特許文献1】フレグランスジャーナル、25巻、3月号、特集、7頁、1997年
【非特許文献2】脳の働きと脂質、奥山治美ら編、学会センター関西、1997年
【非特許文献3】機能性脂質の開発、佐藤清隆ら監修、1992年。
【非特許文献4】肝臓病と治療栄養、渡邉明治ら著、第一出版、1992年。
【非特許文献5】植物資源の生理活性物質ハンドブック、吉積顕雄ら編、サイエンスフォーラム、536頁、1998年
【非特許文献6】Diabetologia, 1996, 39, 1047
【非特許文献7】J.Oil Chem. Soc., 2001, 78, 823
【非特許文献8】J. Agr. Food Chem., 2002, 50, 3984
【非特許文献9】J. Microencapsulation, 2002, 19, 181
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、化粧品の分野で応用が期待でき、ビタミンCそのものを含む従来の皮膚化粧料と比べ、表皮や真皮の細胞内へのビタミンCの移行を顕著に向上させ、アスコルビン酸の機能を効率的に発揮させた皮膚化粧料を提供する。
【0007】
本発明は、さらにPUFAの生理活性に基づく機能をも示す皮膚化粧料を提供する。
【0008】
本発明はさらに、6−O−PUFAアスコルビン酸エステルを含有する飲食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の皮膚化粧料は、一般式(I):
RCO−A (I)
(式中、RCO−は高度不飽和脂肪酸由来のアシル基を示し、Aはアスコルビン酸の水酸基由来の−O−で結合するアスコルビン酸の残基を示す)
で示される6-O-PUFA-アスコルベートをビタミンC成分として含有する。
【0010】
ビタミンCは水溶性であることから、そのトランスポーターも知られているが細胞への透過性は必ずしもよくないため、皮膚化粧料にビタミンCを含ませても、その効果が十分に発揮できなかった。ところが驚くべきことに、ビタミンCの6位がPUFAでエステル化されたPUFAアスコルビン酸誘導体を皮膚切片に接触させると、ビタミンCそのものに比べて表皮、真皮への移行性が顕著に向上することを見いだした。また、このエステル誘導体を培養皮膚角化細胞の培地に添加すると、ビタミンCそのものに比べて細胞内のビタミンC濃度が顕著に向上することがわかった。さらにまた、このエステル誘導体を取り込んだヒト皮膚角化細胞にUVAを照射した場合、ビタミンCそのものに比べてその細胞の生存率が顕著に改善されることもわかった。本発明はこのような発見に基づいて完成するに至った。
【0011】
皮膚層は、表皮およびその下側の真皮からなり、表皮の最上層は角化細胞で構成されている。従って、一般式(I)で示されるPUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体をビタミンC成分として含有する本発明の皮膚化粧料は、ビタミンCそのものを含む皮膚化粧料に比べて、皮膚に適用したとき、より多くのビタミンCを角化細胞に取り込ませて表皮および真皮に移行させ、これらの細胞内のビタミンCを濃縮し、さらにまた、屋外でUVAにさらされる皮膚を損傷から保護するために使用することができる。
【0012】
細胞内に移行したPUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体は、PUFAの機能とビタミンCとしての機能の両方を併せ持ち、かつPUFAの酸化安定性を向上させるという性質を持っていることが確認あるいは推測されている。また、PUFAはDHAやEPA、アラキドン酸などで代表されるように生体成分としての生理機能だけでなく、種々の有用な機能性が知られている。そのため、本発明の皮膚化粧料および飲食品は、以下の効果を発揮すると期待される。
【0013】
イ) 細胞のもつエステラーゼやリパーゼにより、ビタミンCを生じる。ビタミンCは水溶性ビタミンとして、優れた生理機能を持ち、また優れた抗酸化剤として、美白作用;
および皮膚のUVAからの保護作用を発揮する;
ロ) ビタミンCとともに生じたPUFA、例えばDGLAやGLAが、さらにPGE1を生じてPGE2と拮抗する抗炎症作用を発揮し、あるいは遅延型アレルギーに対する抑制作用を発揮する;特に、DGLAの場合はその抗炎症作用は肌荒れなどに効果を示すことが期待される。その際、同時に生じたビタミンCは抗酸化剤としてDGLAやGLAの安定性を高める;
ハ) PUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体そのものの機能、例えば、6-O-ドコサヘキサエノイル-アスコルベートを用いた場合は抗不整脈作用、カルシウム拮抗作用、抗アレルギー作用、および6−O−γ―リノレノイルアスコルベートを用いた場合はアルドースレダクターゼ阻害作用に対する効果などが期待できる。
【0014】
本発明の皮膚化粧料および飲食品に使用できるPUFA (高度不飽和脂肪酸:poly unsaturated fatty acid)の例として、炭素数が18以上、不飽和結合が2個以上の脂肪酸、リノール酸、リノレン酸、γ−リノレン酸、ジホモγ−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸が挙げられる。したがって、一般式(I)で示されるPUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体の具体例としては、6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベート、6-O-アラキドノイルアスコルベートおよび6-O-ドコサヘキサエノイル-アスコルベートが挙げられる。
【0015】
一般式(I)で示されるPUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体は、いずれも公知の化学的合成方法(USP6069168)または酵素的製造方法(JAOCS, 2001, 78, 823)によって製造できる。化学的合成方法においては、PUFAとアスコルビン酸とをジシクロヘキシルイソウレカルボジイミドなどの通常の脱水剤により縮合させるか、あるいはPUFAの酸クロリドをアスコルビン酸と処理する(USP6069168)。酵素的に製造法においては、PUFAとアスコルビン酸をアセトンなどの有機溶剤に溶解し、リパーゼを用いて合成することができる(JAOCS, 2001, 78, 823)。これらの方法で製造したPUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体は、必要であればシリカゲルクロマトグラフィによって精製することもできる。
【0016】
一般式(I)で示されるPUFAアスコルビン酸誘導体は、単独であるいは通常の外用組成物として知られる種々の形態の化粧料の基剤に配合して、本発明の皮膚化粧料を調製することができる。配合に際して、適当な有機溶媒に溶解して基剤に混合してもよく、液状の基剤もしくは基剤成分に直接混合してもよい。PUFAアスコルビン酸エステルは、基剤に対して0.001〜10重量%、より好ましくは0.01〜10重量%含有することが好ましい。
【0017】
皮膚化粧料の形態は特に限定されるものではないが、例えば、乳液、クリーム、化粧水、パック、洗浄料、口紅などのメーキャップ化粧料、頭皮・毛髪用品などの化粧品や、軟膏剤、分散液、クリーム剤、外用液剤などの医薬部外品などとすることができる。外用組成物の基剤としては、これら外用剤の形態に応じた基剤、例えば、精製水、低級アルコール、多価アルコール、油脂等を用いることができる。皮膚化粧料は、慣用されている補助成分、例えば、界面活性剤、pH調製成分、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、増粘剤、色素、顔料、防腐剤、香料等を用いることができ、またビタミンC成分以外の生理活性成分および/または栄養成分を適宜含有してよい。
【0018】
さらに、本発明の皮膚化粧料は、ビタミンC成分の皮膚への取り込みを促進するために、経皮吸収促進剤を含んでもよい。しかしながら、PUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体の皮膚透過性は極めて良好であるため、経皮吸収促進剤を使用しない皮膚化粧料は、本発明の好ましい態様である。
【0019】
本発明はさらに、6−O−PUFAアスコルビン酸エステルを含有する飲食品にも関する。6−O−PUFAアスコルビン酸エステルは、一般に任意の飲食品にビタミンC成分として配合することが可能である。配合量に特別の制限はないが、ビタミンC添加効果を奏するために、一般には、飲食品の全量あたり0.001〜10重量%である。
配合に際して、適当な有機溶媒に溶解して飲食品に混合してもよく、液状の飲料に直接混合してもよい。
【0020】
本発明の飲食品は、乳幼児用食品、高齢者用食品、栄養補給食品、点滴、携帯食、スポーツドリンク、ビタミン剤、愛玩動物用飲食品、家畜飼料、ミネラルウォーター、調味料、乳製品、フリカケ、ダシ、清涼飲料、粉末飲料、アルコール飲料であってよい。
【発明の効果】
【0021】
PUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体をビタミンC成分として含有する本発明の皮膚化粧料は、ビタミンCの細胞移行性を顕著に増大させることによってビタミンCの機能を効率的に発揮させることができる。
【0022】
本発明の皮膚化粧料をヒト皮膚に施すと、表皮および真皮にアスコルビン酸が顕著に移行し、またこれらの組織の細胞内に顕著にアスコルビン酸が蓄積される。さらに、UVAにより損傷を受け易いヒト皮膚角化細胞の生存率が改善される。
【0023】
また、本発明の皮膚化粧料に含まれるPUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体は、PUFAの機能をも示すことが期待できる。例えば、DGLAやGLAは1シリーズのプロスタグランディンの前駆体として知られ、例えば、PGE1は2−シリーズのPGE2と拮抗し、抗炎症的に働く。それ以外にも遅延型アレルギーに対する抑制効果も知られている。このような作用は肌荒れなどに効果を示すことが期待される。PUFAアスコルビン酸エステルは、体内でエステルが分解されたとき、そのビタミンC成分が、酸化に対して不安定なPUFAの酸化安定性を顕著に向上させる。
【0024】
6−O−PUFAアスコルビン酸エステルについて皮膚細胞への透過性が向上したことから、本発明の飲食品は、6−O−PUFAアスコルビン酸エステルの小腸管からの吸収も容易であることが期待される。また、体内に移行した後上皮組織に移行することも期待される。一方、体内のエステラーゼやリパーゼで徐々にアスコルビン酸とPUFAとに分解される。そのため、遊離状態で含まれるアスコルビン酸と比べて、ビタミンCの効果が体内で持続することが期待できる。ビタミンCは、生じたPUFAの安定性を高める、一方、PUFAは上記化粧料の場合と同様に、遅延型アレルギー抑制作用、抗炎症作用などの種々の健康に好ましい作用に加え、抗不整脈作用を奏することも期待される。
[実施例]
【0025】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものではないことは言うまでもない。また、参考例として各種PUFAが6位にエステル結合したアスコルビン酸誘導体の製造例も併記する。
【参考例1】
【0026】
6-O-アラキドノイル-アスコルベートの合成
アラキドン酸(2.0g、6.6mmol)をベンゼン(20ml)に溶解し、オキザリルクロリド(5.4ml、7.9mmol)を添加し、窒素雰囲気下、2.5時間室温で攪拌する。その後、減圧濃縮し、油状のアラキドン酸クロリドを得る。N−メチルピロリドン(15ml)の4N-HCl/ジオキサン(2.4ml)混合液に、L−アスコルビン酸(1.4g、7.9mmol)を加え、氷冷する。この溶液に、先に、調製したアラキドン酸クロリドの塩化メチレン溶液(約2ml)を加え、氷冷下、一夜攪拌する。反応終了後、水を加え、酢酸エチルで抽出する。酢酸エチル層を水洗(2回)し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し(溶出液、1%〜20%のグラジエント)、減圧乾固し、ペースト状のの表記化合物(2.7g、90%収率)を得た。PMR(δppm、CDCl3); 0.87(3H, t), 1.2-1.4(6H, m), 1.73(2H, q), 2.0-2.2(4H, m), 2.36(2H, t), 2.8-2.9(6H, 4.2-4.3(3H, m), 4.79(1H, s), 5.36(8H, m)。
【参考例2】
【0027】
6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの合成
ジホモ-γ-リノレン酸(2.0g、6.6mmol)から同様にしてペースト状の表記化合物(2.43g、80%収率)を得た。PMR(δppm、CDCl3); 0.89(3H, t), 1.2-1.4(12H, m),1.63(2H, t), 2.0-2.1(4H, m), 2.39(2H, t), 2.7-2.9(4H, m), 4.2-4.3(3H, m), 4.79(1H, s), 5.2-5.4(6H, m)
【参考例3】
【0028】
6-O-ドコサヘキサエノイル-アスコルベートの合成
ドコサヘキサエン酸(2.0g、6.1mmol)から同様にしてペースト状の表記化合物(2.5g、84%収率)を得た。PMR(δppm、CDCl3); 0.97(3H, t), 2.07(2H, q), 2.43(4H, q), 2.8-2.9(10H, m), 4.76(1H, s), 5.2-5.4(10H, m), 4.2-4.7(3H, m), 4.80(1H, s), 5.2-5.5(12H, m)。
【実施例1】
【0029】
ヒト皮膚角化細胞での細胞内アスコルビン酸の濃度に対する6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの効果
ヒト皮膚角化細胞HaCaT細胞を100ミリメートル直径のディッシュに370000細胞蒔く。 培養16時間後に、HaCaTの24時間無血清培養液を40%添加した10%FBS含有DMEM培地に溶かした6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートを100μM加える。添加後3−24時間に培地を除去して、 氷冷したPBSで2回リンスし、トリプシンで細胞シートを剥離し、単一細胞の状態とする。これを50μMのジチオスレイトール(DTT)を含有したPBSで懸濁し、遠心処理によって3回リンスする。細胞懸濁液をポッター型テフロンホモジェナイザで破砕し、 次いで液体窒素中で2回凍結・融解させる。この上澄み液をモルカット(日本ミリポア(株)製、加圧式限外ろ過ユニット、分画分子量10000、ポリエーテルスルホン膜)処理して高速液体クロマトグラフィー(東ソー(株)製AS−8020システム、カラム:Shodex ODSpak(昭和電工(株)製、4.6X150mm)、移動相:0.1M KHPO−HPO(pH2.35)−0.1mM EDTA−2Na、流速:1.5mL/分)で細胞内アスコルビン酸量をクーロメトリック電気化学検出器(ESACo,Bedford,MA、200mV)で分析する。結果を図1に示す。
【0030】
同様に、6-O-アラキドノイル-アスコルベートおよび6-O-ドコサヘキサエノイル-アスコルベート、比較例として、アスコルビン酸も検討し、結果を同じく図1に示した。
【0031】
図1に示すように、PUFAアスコルビン酸誘導体はビタミンCと比較して、ヒト皮膚角化細胞内のビタミンC量を増大させる。
【実施例2】
【0032】
紫外線A波(UVA)照射によるヒト皮膚表皮由来の角化細胞(HaCaT)の細胞死に対する6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの保護効果
ヒト皮膚角化細胞HaCaT(ハイデルベルグ大学Fusenig博士から恵与された細胞株)を10%ウシ胎仔血清(FBS)含有ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で24ウェルプレートに10000細胞/ウェルを蒔いて18時間後に32−48ミリジュール/平方センチメートル( mJ/cm2)のUVAを照射する。照射前2時間に6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートを100−200μM添加しておき、照射直前に除去しリンスする。照射は薬剤非存在下PBS中で行ない、照射後はFBS10%含有DMEM培地で培養を継続し、照射後24時間に細胞生存率を2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスホフェニル)−2H−テトラゾリウム、一ナトリウム塩(WST−1)を用いたミトコンドリア脱水素酵素活性測定法で調べた。結果を図2に示す。
【0033】
すなわち、6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベート200μM処理でヒト皮膚角化細胞の生存率を向上させる。
【実施例3】
【0034】
ヒト皮膚切片を用いた6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの皮膚組織へのアスコルビン酸の移行性に対する効果
インフォームドコンセントの得られたヒト摘出皮膚片(56才の男性の右側腹部)を垂直方向に短冊型小片に分割し、この小片を改変ブロノフ拡散セルチャンバーに組み込んだ。皮下側をDMEM培地(2 mL)に漬けて栄養を供給しつつ、角質層側へは5% CO2を通気して培地のpHを7.25に維持した。角質層の上に、実施例2で得られた6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベート100 mM(3.38%w/w、 PBS(-)溶液)、1 mLを染み込ませた約5 mm四方の二重ガーゼをあてる。
【0035】
投与4時間および17時間後にさらに6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベート100 mM(3.38%w/w、 PBS(-)溶液)を同様に投与し、24時間後、改変ブロノフ拡散セルから皮膚小片を切り出し、0.1%トリプシンのPBS(-)溶液を10倍量添加して、37℃、3時間処理後、温和に攪拌して、 表皮と真皮に分離した。無気泡下で、ポッター型テフロンホモジェナイザーと液体窒素での凍結融解をそれぞれに施し、細胞破砕した。破砕液の遠心分離上清を限外ろ過した。表皮および真皮中の総ビタミンC量および(還元型と酸化型の総和)および還元型ビタミンC量を総ビタミンC量は還元剤 16 mM Dithiothreitolを添加した条件で、還元型ビタミンC量は還元剤無添加の条件で測定し、それぞれの値から還元型ビタミンCの総ビタミンCに占める割合を算出した。結果を図3に示す。
【0036】
同様に、6-O-アラキドノイル-アスコルベートおよび6-O-ドコサヘキサエノイル-アスコルベート、比較例として、アスコルビン酸も検討し、結果を同じく図3に示した。
【0037】
図3に示すように、6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートおよび6-O-アラキドノイル-アスコルベートはビタミンCに比べて、真皮におけるビタミンC量を顕著に増大させる。
【実施例4】
【0038】
クリームの調製
スクワラン5.0重量%、ワセリン2.0重量%、ミツロウ0.5重量%、ソルビタンセスキオレエート0.8重量%、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20E.O)1.2重量%、1,3−ブチレングリコール5.0重量%、防腐剤適量、香料適量、6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベート1.0重量%を混合し、加熱して70℃に保つ。また、エチルアルコール5.0重量%および精製水59.5重量%を混合し、加熱して70℃に保つ。これらを混合した後、冷却し、カルボキシビニルポリマー(1%溶液)20.0重量%を加えて、クリームを得る。
【0039】
6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの替わりに6-O-アラキドノイル-アスコルベートを用いて、同様のクリームを得た。
【0040】
6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの替わりに6-O-ドコサヘキサエノイル-アスコルベートを用いて、同様のクリームを得た。
【実施例5】
【0041】
化粧水の調製
ポリオキシエチレン(20E.O)ソルビタンモノラウレート1.2重量%、エチルアルコール8.0重量%、6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベート1.0重量%、防腐剤適量、香料適量を混合溶解する。また、グリセリン5.0重量%、1,3−ブチレングリコール6.5重量%、および精製水78.3重量%を混合溶解する。両者を混合して均一にし、化粧水を得た。
【0042】
6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの替わりに6-O-アラキドノイル-アスコルベートを用いて、同様の化粧水を得た。
【0043】
また、6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの替わりに6-O-ドコサヘキサエノイル-アスコルベートを用いて、同様の化粧水を得た。
【実施例6】
【0044】
乳液の調製
ポリオキシエチレン(10E.O)ソルビタンモノステアレート1.0重量%、ポリオキシエチレン(10E.O)ソルビタンテトラオレエート0.5重量%、グリセリルモノステアレート1.0重量%、ステアリン酸0.5重量%、ベヘニルアルコール0.5重量%、スクワラン8.0重量%および6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベート1.0重量%を加熱混合し、70℃に保つ。また、カルボキシビニルポリマー0.1重量%、エチルアルコール5.0重量%、防腐剤適量、香料適量および精製水82.4重量%を加熱混合し、70℃に保つ。両者を均一に混合し、乳液を得た。
【0045】
6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの替わりに6-O-アラキドノイル-アスコルベートを用いて、同様の乳液を得た。
【0046】
6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの替わりに6-O-ドコサヘキサエノイル-アスコルベートを用いて、同様の乳液を得た。
【実施例7】
【0047】
軟膏の調製
トリエタノールアミン2.0重量%、グリセリン5.0重量%および精製水70重量%を加熱混合し、75℃に保つ。また、ステアリン酸18.0重量%、セタノール4.0重量%および6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベート1.0重量%を加熱混合し、75℃に保つ。前者を徐々に後者に加え、冷却して軟膏を得た。
【0048】
6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの替わりに6-O-アラキドノイル-アスコルベートを用いて、同様の軟膏を得た。
6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの替わりに6-O-ドコサヘキサエノイル-アスコルベートを用いて、同様の軟膏を得た。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ヒト皮膚角化細胞での細胞内アスコルビン酸の濃度に対する6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの効果を示すグラフである。
【図2】紫外線A波(UVA)照射によるヒト皮膚表皮由来の角化細胞(HaCaT)の細胞死に対する6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの保護効果を示すグラフである。
【図3】6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートの皮膚組織へのアスコルビン酸の移行性に対する効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
RCO−A (I)
(式中、RCO−は高度不飽和脂肪酸由来のアシル基を示し、Aはアスコルビン酸の水酸基由来の−O−で結合するアスコルビン酸の残基を示す)
で示される6-O-PUFA-アスコルベートを含有する皮膚化粧料。
【請求項2】
6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートを含有する、請求項1記載の皮膚化粧料。
【請求項3】
6-O-アラキドノイルアスコルベートを含有する、請求項1記載の皮膚化粧料。
【請求項4】
6-O-ドコサヘキサエノイル-アスコルベートを含有する、請求項1記載の皮膚化粧料。
【請求項5】
外用化粧料の基剤中に、6-O-PUFA-アスコルベートを0.001〜10重量%含有する、請求項1ないし4のいずれか1項記載の皮膚化粧料。
【請求項6】
乳液、クリーム、化粧水、パック、洗浄料、メーキャップ化粧料、頭皮・毛髪用品、軟膏剤、分散液および外用液剤からなる群から選択される、請求項1ないし5のいずれか1項記載の皮膚化粧料。
【請求項7】
一般式(I):
RCO−A (I)
(式中、RCO−は高度不飽和脂肪酸由来のアシル基を示し、Aはアスコルビン酸の水酸基由来の−O−で結合するアスコルビン酸の残基を示す)
で示される6-O-PUFA-アスコルベートを含有する飲食品。
【請求項8】
6-O-ジホモ-γ-リノレノイル-アスコルベートを含有する、請求項7記載の飲食品。
【請求項9】
6-O-アラキドノイルアスコルベートを含有する、請求項7記載の飲食品。
【請求項10】
6-O-ドコサヘキサエノイル-アスコルベートを含有する、請求項7記載の飲食品。
【請求項11】
6-O-PUFA-アスコルベートを0.001〜10重量%含有する、請求項7ないし10のいずれか1項記載の飲食品。
【請求項12】
乳幼児用食品、高齢者用食品、栄養補給食品、点滴、携帯食、スポーツドリンク、ビタミン剤、愛玩動物用飲食品、家畜飼料、ミネラルウォーター、調味料、乳製品、フリカケ、ダシ、清涼飲料、粉末飲料、アルコール飲料からなる群から選択される、請求項7ないし10のいずれか1項記載の飲食品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−56795(P2006−56795A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237942(P2004−237942)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】