説明

AB−DIP、並びにアルツハイマー病の予防及び治療剤

【課題】 細胞内Aβと結合し、細胞死を誘導する物質を同定すること、及び神経細胞死を制御する方法を開発すること。
【解決手段】 AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質に対する抗体、AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸に対するアンチセンス核酸、AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸に対するsiRNA、上記核酸を発現することができる組換えベクター、あるいは上記核酸又は上記組換えベクターを含有する形質転換体、の少なくとも1つを含むことを特徴とする細胞死抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病の原因であるアミロイドベータタンパク質に関連する神経細胞死を誘導するAB−DIP、並びにその制御によるアルツハイマー病の予防及び治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アミロイドベータタンパク質(Aβ)は、神経細胞に対して毒性を発揮する。また、本発明者らは、プレセニリン1トランスジェニックマウスの脳では、老人斑形成を伴わずに神経細胞死が促進されており、神経細胞内Aβが増大することを報告している(非特許文献1)。これまでの研究では、Aβにより誘導される酸化ストレス、小胞体ストレスなどによる細胞死、カルシウム調節障害による細胞死、ERAB(小胞体にあるタンパク質でAβに結合し、細胞障害を起こすタンパク質、endoplasmic-reticulim associated binding proteinの略)を介する細胞死、グリピカン1を介する細胞死などが知られているが、そのメカニズムは十分に明らかとされていない。そのため、神経細胞死のメカニズムやその調節又は制御について解明し、それにより神経細胞死に関連する疾患の治療方法を開発することが望まれている。
【0003】
【非特許文献1】Yan, S.D.ら、Nature、第389巻、第689-95頁、1997年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、上述した実状に鑑み、細胞内外Aβタンパク質と結合し、細胞死を誘導する物質を同定すること、及び神経細胞死を制御する方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行い、イーストツーハイブリッド法によりアミロイドベータタンパク質(Aβ42)と結合するタンパク質をスクリーニングしたところ、776個のアミノ酸からなるタンパク質、すなわちAβ結合細胞死誘導タンパク質(Aβ-binding death inducing protein;AB−DIP)をコードする新規遺伝子を見出した。また、このAB−DIP遺伝子を細胞において強制発現させると細胞死が誘導され、またAβを同時に発現させた場合には細胞死が増強されることを確認し、さらにAB−DIPが細胞死に関連するカスパーゼ9による切断を受けて活性型に変換することも確認し、AB−DIPを利用して神経細胞死を制御できるという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)AB−DIPタンパク質及びそれをコードする核酸
・以下の(a)又は(b)のAB−DIPタンパク質。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、アミロイドベータタンパク質との結合能を有するタンパク質
・以下の(a)又は(b)のAB−DIPタンパク質をコードする核酸。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、アミロイドベータタンパク質との結合能を有するタンパク質
・以下の(a)又は(b)の核酸。
(a)配列番号1に示される塩基配列の233番目〜2563番目の塩基配列からなる核酸
(b)配列番号1に示される塩基配列の233番目〜2563番目の塩基配列に相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、アミロイドベータタンパク質との結合能を有するタンパク質をコードする核酸
【0007】
(2)活性型AB−DIPタンパク質及びそれをコードする核酸
・以下の(a)又は(b)の活性型AB−DIPタンパク質。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列の1番目〜496番目のアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列の1番目〜496番目のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、アミロイドベータタンパク質との結合能を有するタンパク質
・以下の(a)又は(b)の活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列の1番目〜496番目のアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列の1番目〜496番目のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、アミロイドベータタンパク質との結合能を有するタンパク質
・以下の(a)又は(b)の核酸。
(a)配列番号1に示される塩基配列の233番目〜1720番目の塩基配列を含む核酸
(b)配列番号1に示される塩基配列の233番目〜1720番目の塩基配列に相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、アミロイドベータタンパク質との結合能を有するタンパク質をコードする核酸
【0008】
(3)上記核酸を含む組換えベクター。
(4)上記核酸、又は上記組換えベクターで形質転換された形質転換体。
(5)AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質に対する抗体。
該抗体は、例えば配列番号2の182番目〜196番目のアミノ酸配列を含む抗原又は753番目〜776番目のアミノ酸配列を含む抗原を用いて作製することができる。
(6)AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸に対するアンチセンス核酸。
(7)AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸に対する二本鎖RNA。
該二本鎖RNAとしては、配列番号7に示される塩基配列を有するものが挙げられる。
(8)上記形質転換体を培養し、得られる培養物からAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質を採取することを特徴とする、AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質の製造方法。
【0009】
(9)以下の(a)〜(h)の少なくとも1つを含むことを特徴とする細胞死誘導剤。
(a)請求項1記載のAB−DIPタンパク質
(b)請求項4記載の活性型AB−DIPタンパク質
(c)請求項2記載のAB−DIPタンパク質をコードする核酸
(d)請求項5記載の活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸
(e)請求項3記載の核酸
(f)請求項6記載の核酸
(g)請求項7記載の組換えベクター
(h)請求項8記載の形質転換体
上記細胞死誘導剤は、さらに以下の(i)〜(m)の少なくとも1つを含むものであってもよい。
(i)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるAβ42タンパク質、又は配列番号4に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、細胞障害機能を有するタンパク質
(j)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるAβ42タンパク質、又は、配列番号4に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、細胞障害機能を有するタンパク質、をコードする核酸
(k)配列番号3に示される塩基配列からなる核酸、又は、配列番号3に示される塩基配列に相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、細胞障害機能を有するタンパク質をコードする核酸
(l)上記(j)又は(k)のいずれかの核酸を含む組換えベクター
(m)上記(j)若しくは(k)のいずれかの核酸、又は上記(l)の組換えベクターを含有する形質転換体
【0010】
(10)以下の(a)〜(e)の少なくとも1つを含むことを特徴とする細胞死抑制剤。
(a)請求項9又は10記載の抗体
(b)請求項11記載のアンチセンス核酸
(c)請求項12又は13記載の二本鎖RNA
(d)上記(b)又は(c)のいずれかの核酸を発現することができる組換えベクター
(e)上記(b)若しくは(c)のいずれかの核酸、又は上記(d)の組換えベクターを含有する形質転換体
(11)以下の(a)〜(e)の少なくとも1つを含むことを特徴とする細胞死関連疾患の治療剤又は予防剤。
(a)請求項9又は10記載の抗体
(b)請求項11記載のアンチセンス核酸
(c)請求項12又は13記載の二本鎖RNA
(d)上記(b)又は(c)のいずれかの核酸を発現することができる組換えベクター
(e)上記(b)若しくは(c)のいずれかの核酸、又は上記(d)の組換えベクターを含有する形質転換体
細胞死関連疾患としては、例えばアルツハイマー病が挙げられる。
【0011】
(12)以下の(a)〜(h)の少なくとも1つを含むことを特徴とする細胞周期停止剤。
(a)請求項1記載のAB−DIPタンパク質
(b)請求項4記載の活性型AB−DIPタンパク質
(c)請求項2記載のAB−DIPタンパク質をコードする核酸
(d)請求項5記載の活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸
(e)請求項3記載の核酸
(f)請求項6記載の核酸
(g)請求項7記載の組換えベクター
(h)請求項8記載の形質転換体
(13)アミロイドベータタンパク質(Aβ)及びAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質と被検化合物とを接触させ、AβとAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質との結合を測定することを含む、AβとAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質との結合を阻害又は促進する化合物のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、アミロイドベータタンパク質(Aβ42)と結合し、神経細胞死を誘導する新規タンパク質であるAB−DIPタンパク質及びその活性型、それをコードする遺伝子などが提供される。AB−DIPタンパク質を利用することにより細胞死を制御することができるため、AB−DIPタンパク質等は細胞死に関連する疾患の予防又は治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明は、アミロイドベータタンパク質42(Aβ42)と結合するAβ結合細胞死誘導タンパク質(Aβ-binding death inducing protein;AB−DIP)及びその活性型、並びにそれらの用途に関するものであり、上記タンパク質がAβ42と結合し、細胞死を誘導する機能を有することに基づいて完成されたものである。
【0015】
アミロイドベータタンパク質(Aβ)は、主として40アミノ酸のAβ40と42アミノ酸のAβ42からなる。これらのAβは神経細胞に対して毒性を有し、また家族性アルツハイマー病患者においてはAβ42の量が増大しており、このAβ42形態が脳プラーク中に蓄積し、アミロイドの沈着に主要な役割を果たしていることから、Aβがアルツハイマー病の病因の一つであることが示唆されている(Iwatsuboら、1994 Neuron 13:45-53;Mannら、1996, Am. J. Pathol. 148:1257)。従って、Aβ42と結合して細胞死を誘導するAB−DIPタンパク質を利用して神経細胞死を制御することにより、アルツハイマー病をはじめとする細胞死に関連する疾患を治療又は予防することができる。
【0016】
本発明においては、AB−DIPタンパク質又はその活性型AB−DIPタンパク質を用いて細胞死を誘導することができる。また、AB−DIPタンパク質又はその活性型AB−DIPタンパク質の発現又は活性を抑制することにより細胞死を抑制することができる。
【0017】
1.AB−DIPタンパク質及びそれをコードする遺伝子
配列番号1にAB−DIPタンパク質をコードする遺伝子(AB−DIP遺伝子)の塩基配列を、配列番号2にAB−DIPタンパク質のアミノ酸配列を例示する。ここで、配列番号1の233番目〜2563番目の塩基配列がAB−DIPタンパク質をコードする領域である。AB−DIPタンパク質は、776個のアミノ酸残基からなり、以下の特徴ある配列を有するものである(図1):
カスパーゼ活性化及びリクルートドメイン(Caspase activation and recruitment domain;CARD)(配列番号2の6−48):これはカスパーゼやapaf−1など多くのアポトーシスに関連するタンパク質に見られる配列である(図1中、下線で示す)
グルタミン(Q)リッチドメイン(N末端側)(図1中、下線を付したQである)
核移行シグナル(Nuclear targeting signal;NTS)(配列番号2の234−250):これにより、このタンパク質の全部又は一部が核へ移行し、何らかの作用を発揮すると考えられる(図1中、イタリック体で示す)
【0018】
細胞接着配列(Cell attachment sequence)とされるRGD配列(配列番号2の319−321)とRGD結合モチーフと思われるDDM配列(配列番号2の685−687):この存在は、細胞接着に関する機能あるいは分子を不活性化する機能があると思われる(図1中、太字と下線で示す)
カスパーゼ認識切断部位(LEKD)(493−496):この存在はカスパーゼの基質となることが示唆される(図1中、太字で示す)
ショウジョウバエの遺伝子において保存されているD1ドメイン(配列番号2の523−581)及びD2ドメイン(配列番号2の690−743):この領域の機能は不明である。このタンパク質とC末端部分のアミノ酸が45%一致するDXS6673Eは伴性劣性遺伝を示す精神発達遅滞をおこす疾患の候補遺伝子との報告がある(図1中、網掛けで示す)。
【0019】
配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質は、アミロイドベータタンパク質(Aβ42)との結合能を有する限り、当該アミノ酸配列において複数個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に置換、欠失、挿入、付加、逆位等の変異が生じてもよい。アミロイドベータタンパク質との結合能は、変異を有するタンパク質と、アミロイドベータタンパク質とを接触させ、それらの結合を当技術分野で公知の方法(例えば免疫沈降法、酵母ツーハイブリッド法など)により測定することによって確認することができる。ここで、アミロイドベータタンパク質(Aβ42)のアミノ酸配列を配列番号4に、塩基配列を配列番号3に示す。Aβ42は、それらの配列から公知の方法に従って化学合成又は組換え手法により作製することができるし、あるいは公知の手法に従って細胞又は組織から単離してもよい(例えばRoherら、1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:10836参照)。また、Aβ42は、例えばバイオソース(アメリカ)(Biosource)社などから市販品として入手することも可能である。Aβ42は、その機能、すなわち細胞障害機能を維持する限り、Aβ42の塩基配列及びアミノ酸配列に変異が含まれていてもよい。ここで「細胞障害機能」とは、細胞の生理的機能に変調をきたすことを意味し、この機能は、細胞周期の変化、細胞増殖能の変化、細胞変性・死により確認することができる。
【0020】
例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号2に示されるアミノ酸配列に1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したものも、本発明のアミロイドベータタンパク質との結合能を有するタンパク質に含まれる。さらに具体的には、配列番号2に示されるアミノ酸配列の、例えば配列番号2の1番目〜340番目、1番目〜550番目、50番目〜776番目、又は345番目〜776番目のアミノ酸配列を有する変異体は本発明のタンパク質に含まれる。
【0021】
上記遺伝子は、ヒトの任意の細胞若しくは組織から調製したDNA又はヒトのcDNAライブラリーを用いて、上記遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を行うことにより調製することができる。
【0022】
また、一旦遺伝子の塩基配列が確定すると、その後は化学合成によって、この遺伝子を得ることができる。また、部位特異的突然変異誘発法等によって本発明の遺伝子の変異型であって上記機能又は活性を有するものを合成することもできる。なお、遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した市販の変異導入用キットなどを用いて変異の導入が行われる。また、エラー導入PCRやDNAシャッフリング等の手法により、遺伝子の変異導入やキメラ遺伝子を構築することもできる。エラー導入PCR及びDNAシャッフリング手法は、当技術分野で公知の手法であり、例えばエラー導入PCRについてはChen K, and Arnold FH. 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 90: 5618-5622を、またDNAシャッフリングについてはStemmer, W. P. 1994, Nature, 370:389-391及びStemmer W. P., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 91: 10747-10751を参照されたい。
【0023】
変異した遺伝子により作製される組換えタンパク質が目的の機能(アミロイドベータタンパク質との結合能)を有するか否かは、変異遺伝子で形質転換体において発現させ、得られる組換えタンパク質の結合能を、上述したように測定することにより確認することができる。
【0024】
さらに、上記塩基配列からなる核酸の全部又は一部の配列に相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、それぞれの機能又は活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も本発明のAB−DIP遺伝子に含まれる。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、高い相同性(相同性が60%以上、好ましくは80%以上)を有するDNAがハイブリダイズする条件をいう。より具体的には、ナトリウム濃度が150〜900mM、好ましくは600〜900mMであり、温度が60〜68℃、好ましくは65℃での条件をいう。例えばハイブリダイゼーション条件が65℃であり、洗浄の条件が0.1%SDSを含む0.1×SSC中で65℃、10分の場合に、慣例的な手法、例えばサザンブロット、ドットブロットハイブリダイゼーションなどによってハイブリダイズすることが確認された場合には、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするといえる。
また、AB−DIPタンパク質は、リン酸化されたものであってもよい。
【0025】
本発明においては、AB−DIPタンパク質の活性型をコードする遺伝子(「活性型AB−DIP遺伝子」という)の設計及び合成を行うことができる。活性型AB−DIPタンパク質とは、AB−DIPの全長アミノ酸配列(配列番号2)の1番目〜496番目のアミノ酸配列を含むタンパク質断片を指す。この活性型AB−DIPタンパク質は、AB−DIPのカスパーゼによる切断により生じ、約62kDaの分子量を有する。本明細書中、活性型AB−DIPタンパク質は、「活性型AB−DIP」、「AB−DIP p62」、又は単に「p62」とも称する。また、活性型AB−DIP遺伝子は、配列番号1の233番目〜1720番目の塩基配列からなる核酸である。
【0026】
この活性型AB−DIP遺伝子は、該断片をコードする領域の外側の領域であって配列番号1で表される塩基配列の任意の領域の配列に基づいてプライマーを設計し、AB−DIP遺伝子(配列番号1)を鋳型としてPCRを行うことにより得ることができる。また、活性型AB−DIPタンパク質は、活性型タンパク質のアミノ酸配列に基づいて化学合成により又は遺伝子工学的手法により作製してもよいし、あるいは全長のAB−DIPタンパク質にカスパーゼ−9を作用させて、その切断により得られる断片として調製してもよい。カスパーゼ−9は、MBL(名古屋市)社などから市販品として入手可能である。AB−DIPタンパク質及びAB−DIP遺伝子と同様に、活性型AB−DIPタンパク質及び活性型AB−DIP遺伝子の変異体も本発明に包含される。
【0027】
2.抗体
本発明においては、AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質に対する抗体を作製し、使用することができる。本発明において「抗体」とは、抗原であるタンパク質又はその部分ペプチドに結合可能な抗体分子全体又はそのフラグメント(例えば、Fab、F(ab’)フラグメント、Fvフラグメントなど)を意味し、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいし、さらにはヒト化又はキメラ抗体、一本鎖抗体などであってもよい。本発明において、抗体(ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体)は例えば以下の手法により作製することができる。
【0028】
抗体作製のための免疫原としては、全長のAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質を使用してもよいし、あるいはそれらの部分ペプチドを使用してもよい。部分ペプチドの例としては、限定するものではないが、例えば配列番号2に示されるアミノ酸配列の182番目〜196番目のアミノ酸配列又は753番目〜776番目のアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。免疫原は、タンパク質又はその部分ペプチドを緩衝液に溶解して調製し、必要であれば、免疫を効果的に行うためにアジュバント(完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント等)を添加してもよい。
【0029】
ポリクローナル抗体を作製する場合は、免疫原を、哺乳動物、例えばウサギ、ラット、マウスなどに投与する。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、1〜5回の免疫を行う。その後、最終の免疫日から一定期間経過後に、酵素免疫測定法(ELISA又はEIA、RIA)等で抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得る。その後は、抗血清中のポリクローナル抗体の反応性をELISA法などで測定する。
【0030】
モノクローナル抗体を作製する場合は、免疫原を、ポリクローナル抗体の場合と同様に哺乳動物、例えばウサギ、ラット、マウスなどに投与する。そして、最終の免疫日から一定期間経過後に抗体産生細胞(脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等)を採集し、ミエローマ細胞との細胞融合によりハイブリドーマを作製する。細胞融合は、血清を含まない動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを混合し、細胞融合促進剤(例えばポリエチレングリコール等)の存在のもとで融合反応を行う。また、エレクトロポレーションを利用した市販の細胞融合装置を用いて細胞融合させることもできる。
【0031】
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。また、ハイブリドーマの培養上清中に、AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質に反応する抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、例えば酵素免疫測定法、放射性免疫測定法等を採用することができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立する。
【0032】
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0033】
さらに、キメラ抗体及びヒト型化抗体は当技術分野で公知の方法を用いて作製することができる(Morrisonら, 1984, Proc. Natl. Acad. Sci., 81: 6851-6855; Neubergerら, 1984, Nature, 312: 604-608; Takedaら, 1985, Nature, 314: 452-454)。さらに、一本鎖抗体(Bird, 1988, Science 242: 423-426; Hustonら, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883; Wardら, 1989, Nature 334: 544-546)、Fvフラグメント(Skerraら, 1988, Science 242: 10381041)、F(ab’)フラグメント(抗体のペプシン消化により作製)、Fabフラグメント(F(ab’)フラグメントのジスルフィド架橋の還元により作製)も、当技術分野で公知の方法を用いて作製することができる。
【0034】
上述のようにして得られたAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質に対する抗体は、これらのタンパク質の精製及び検出、並びに後述する細胞死の抑制に使用することができる。
【0035】
3.アンチセンス核酸
本発明においては、AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸に対するアンチセンス核酸を使用することによって、AB−DIP遺伝子又は活性型AB−DIP遺伝子の発現を低減又は抑制することができる。従って、AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸に対するアンチセンス核酸を用いて、細胞死を抑制をすることができる。
【0036】
アンチセンス核酸は、当技術分野で公知の手法に従って設計し、使用することができる(例えば、Frank, B.L.ら、Method in Molecular Biology, 74:37, 1997)。例えば、AB−DIP遺伝子に対するアンチセンス核酸としては、配列番号1に示す塩基配列に対し相補的な配列からなる核酸を例示することができる。ただし、本発明において用いるアンチセンス核酸は、宿主に導入されて、内在性遺伝子の発現を低減又は抑制しうる限り、配列番号1(配列番号1の233番目〜2563番目の塩基配列)に示す塩基配列に対して完全に相補的な配列である必要はない。また、アンチセンス核酸は、宿主に導入されて、内在性遺伝子の発現(翻訳又は転写)を抑制又は阻害しうる限り、配列番号1に示す塩基配列に対し相補的な配列の一部分であってもよい。例えば、アンチセンス核酸は、長さが約10〜50塩基、好ましくは15〜30塩基、より好ましくは18〜25塩基であり、GC含量が50%以上となるように設計する。アンチセンス核酸を設計するためのソフトも公知であり、例えばHYBsimulator(日立化成)などを使用することができる。また、アンチセンス核酸は、DNA又はRNAのいずれでもよいし、DNAとRNAのハイブリッド核酸であってもよい。
【0037】
アンチセンス核酸は、設計したアンチセンス核酸をそのまま宿主に導入(投与)してもよいし、あるいは設計したアンチセンス核酸が宿主内で発現されるような核酸又は組換えベクターとして導入(投与)してもよい。このようなアンチセンス核酸の導入又は投与は、遺伝子治療として当技術分野で公知である。
【0038】
組換えベクターとしてアンチセンス核酸を送達する場合、投与は、公知の任意の手法、例えばキメラウイルスなどの組換え発現ベクターを用いた手法、又はレトロウイルスベクター若しくはアデノ随伴ウイルスベクターを含む種々のウイルスベクターを用いた手法により行うことができる。使用し得るベクターには、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、レトロウイルスなどのRNAウイルスが含まれるが、これらに限定されるものではない。このような組換えベクターの調製は、当技術分野で公知であり、本明細書においては「5.組換えベクター」の項に記載する。
【0039】
目的の宿主(組織又は細胞)にアンチセンス核酸を投与するために使用し得る他の遺伝子送達機構には、コロイド分散系、リポソーム誘導系、人工ウイルスエンベロープなどが含まれる。また、アンチセンス核酸の投与のために、例えば巨大分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、水中油型乳剤、ミセル、混合ミセル、リポソーム等を利用することができる。
【0040】
4.二本鎖RNA
RNAインターフェアランスとは、内在性遺伝子の配列に対して相補的な配列を有する二本鎖RNA(dsRNA)を導入することにより、当該内在性遺伝子のmRNAが分解されるという細胞内事象として知られている(例えば、Elbashir, SM.ら, Nature 411, 494-498, 2001; Hannon, GJ., Nature 418, 244-251, 2002 (review); Shinagawa, T.ら, Genes Dev. 17: 1340-1345 2003; 国際特許公開第WO99/32619号及びWO99/61613号参照)。従って、AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸に対する二本鎖RNAは、これらのタンパク質の発現(タンパク質への翻訳)を低減又は阻害することができる。従って、AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸に対する二本鎖RNAを用いることにより、細胞死を抑制をすることができる。
【0041】
二本鎖RNAは、当技術分野で公知の手法により設計することができる。例えば、配列番号1に示される塩基配列のうち連続した10〜100塩基、好ましくは連続した10〜50塩基、より好ましくは連続した10〜30塩基からなる配列に対して標的化するように二本鎖RNAを設計しうる。好ましくは、二本鎖RNAは、siRNA(short-interfering RNA)である。本発明において使用しうる二本鎖RNAの例としては、限定されるものではないが、配列番号7に示される塩基配列を有するものが挙げられる。
【0042】
また、二本鎖RNAは、二本鎖RNAをそのまま宿主に投与してもよいし、あるいは二本鎖RNAを発現する組換えベクターを宿主に投与し、該宿主において二本鎖RNAを発現させてもよい。二本鎖RNAの送達は、アンチセンス核酸と同様に、「3.アンチセンス核酸」の項に記載のように実施することができる。
【0043】
5.組換えベクター
本発明の組換えベクターは、適当なベクターにAB−DIP遺伝子若しくは活性型AB−DIP遺伝子、又はこれらの遺伝子に対するアンチセンス核酸若しくは二本鎖RNAを発現するための配列を連結(挿入)することにより得ることができる。本発明で使用するベクターとしては、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されない。例えば、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどが挙げられる。また、アンチセンス核酸又は二本鎖RNAを発現するために使用し得るベクターには、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、レトロウイルスなどのRNAウイルスのベクターが挙げられる。
【0044】
プラスミドDNAとしては、放線菌由来のプラスミド(例えばpK4,pRK401,pRF31等)、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322,pBR325,pUC118,pUC119,pUC18等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110,pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13,YEp24,YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。
【0045】
ベクターに遺伝子(核酸配列)を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0046】
遺伝子又は核酸配列は、AB−DIPタンパク質若しくは活性型AB−DIPタンパク質、又はアンチセンス核酸若しくは二本鎖RNAが発現されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、本発明のベクターには、プロモーター、遺伝子又は核酸配列のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを連結することができる。
【0047】
6.形質転換体
本発明はまた、上記遺伝子若しくは核酸配列、又は上記組換えベクターを含有する形質転換体を提供する。形質転換体は、上記遺伝子若しくは核酸配列、又は組換えベクターを、目的とするAB−DIP若しくは活性型AB−DIPタンパク質又はアンチセンス核酸若しくは二本鎖RNAが発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。ここで、宿主としては、特に限定されるものではなく、例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、その他動物細胞又は昆虫細胞が挙げられる。
【0048】
大腸菌等の細菌を宿主とする場合は、遺伝子又は組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明の遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。プロモーターは、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。細菌への遺伝子又は組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法(Cohen, S.N.et al.:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69:2110-2114 (1972))、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0049】
酵母を宿主とする場合は、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されるものではない。酵母への遺伝子又は組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法(Becker, D.M. et al., Methods. Enzymol. 194,182-187(1990))、スフェロプラスト法(Hinnen, A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 75,1929-1933 (1978))、酢酸リチウム法(Itoh, H. J. Bacteriol., 153,163-168 (1983))等が挙げられる。
【0050】
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3、PC12若しくはNG108−15細胞、又はヒトFL、HEK293、HeLa若しくはJurkat細胞などが用いられる。プロモーターとしてSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、β−アクチンプロモーター等が用いられ、また、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を用いてもよい。動物細胞への遺伝子又は組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞、Sf21細胞などが用いられる。昆虫細胞への遺伝子又は組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが用いられる。
【0051】
以上のようにして得られる形質転換体は、AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質を生成するものであるため、これらのタンパク質の製造や細胞死の誘導に使用することができる。また、形質転換体は、AB−DIPタンパク質若しくは活性型AB−DIPタンパク質に対するアンチセンス核酸若しくは二本鎖RNAを発現するものであるため、これらのタンパク質の発現を低減又は阻害することにより、細胞死の抑制に使用することができる。
【0052】
7.タンパク質の製造
本発明のAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質は、前記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養細胞若しくは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0053】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地は、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0054】
培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、36〜37℃で12〜14時間行う。
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が挙げられる。培養は、通常、5%CO存在下、37℃で40〜48時間行う。
【0055】
培養後、本発明のAB−DIP又は活性型AB−DIPが菌体内又は細胞内に生産される場合には、超音波処理、凍結融解の繰り返し、ホモジナイザー処理などを施して菌体又は細胞を破砕することにより上記タンパク質を採取する。また、当該タンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から本発明のタンパク質を単離精製することができる。
【0056】
8.細胞死誘導剤及び細胞死阻害剤、並びに細胞周期停止剤
AB−DIPタンパク質及び活性型AB−DIPタンパク質は、アミロイドベータタンパク質(Aβ42)と結合して、細胞死を誘導する。従って、AB−DIPタンパク質及び活性型AB−DIPタンパク質の量又は活性を増大する物質、具体的には、AB−DIPタンパク質及び活性型AB−DIPタンパク質、並びに当該タンパク質を生成する遺伝子、組換えベクター及び形質転換体などは、細胞死の誘導剤として使用することができる。
【0057】
一方、AB−DIPタンパク質及び活性型AB−DIPタンパク質の量又は活性を低減又は抑制することにより、細胞死を抑制することができる。従って、AB−DIPタンパク質及び活性型AB−DIPタンパク質の量又は活性を低減又は抑制する手段、具体的には、AB−DIPタンパク質及び活性型AB−DIPタンパク質に対する抗体、当該タンパク質をコードする核酸に対するアンチセンス核酸又は二本鎖RNAなどは、細胞死の抑制剤として使用することができる。
【0058】
また、AB−DIPタンパク質及び活性型AB−DIPタンパク質は、細胞の細胞周期をG2/M期で停止させるものである。従って、AB−DIPタンパク質及び活性型AB−DIPタンパク質の量又は活性を増大する物質、具体的には、AB−DIPタンパク質及び活性型AB−DIPタンパク質、並びに当該タンパク質を生成する遺伝子、組換えベクター及び形質転換体などは、細胞周期の停止のために使用することができる。
【0059】
本発明において「細胞死」とは、in vivo又はin vitroにおける細胞の死を意味し、アポトーシスを含む。また「細胞周期」とは、細胞が増殖を開始し、DNA複製、染色体の分配、核分裂、細胞質分裂などの事象を経て、2つの娘細胞となるサイクルをいい、G2/M期は、DNA合成(S期)を経て、分裂のための準備をし(G2期)、分裂(M期)する期間である。本発明において、「細胞」にはあらゆる種類の細胞が含まれる。例えば、神経細胞、神経膠細胞、上皮細胞、筋細胞、間葉系細胞、血球系細胞、臓器特異的細胞などが含まれる。
【0060】
さらに、アミロイドベータタンパク質(Aβ42)は、AB−DIPタンパク質及び活性型AB−DIPタンパク質の細胞死誘導能を増強する機能を有する。従って、細胞死誘導剤に、Aβタンパク質、Aβタンパク質をコードする核酸、該核酸を含む組換えベクター、該核酸又は該組換えベクターを含有する形質転換体などを含めることにより、その薬剤により誘導される細胞死が増強される。ここで、アミロイドベータタンパク質(Aβ42)のアミノ酸配列を配列番号4に、塩基配列を配列番号3に示す。Aβ42は、それらの配列から公知の方法に従って化学合成又は組換え手法により作製することができるし、あるいは公知の手法に従って細胞又は組織から単離してもよい(例えばRoherら、1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:10836参照)。また、Aβ42は、例えばバイオソース社などから市販品として入手することも可能である。
【0061】
本発明の細胞死誘導剤及び細胞死阻害剤、並びに細胞周期停止剤は、in vitro及びin vivoの両方で使用することができ、また本発明の細胞死誘導剤、細胞死阻害剤又は細胞周期停止剤を投与した細胞(形質転換体)を投与することも可能である(ex vivo)。また投与の対象は、in vitroにおいては、例えば哺乳動物細胞又は組織、特にヒト、マウス、ラット、ウシなどに由来する細胞又は組織であり、in vivo又はex vivoにおいては、例えば動物、特にヒト、マウス、ラット、ウシなどの哺乳動物である。
【0062】
例えば、AB−DIPタンパク質、活性型AB−DIPタンパク質、抗体などを含む薬剤の場合には、その投与量は、投与経路、投与回数、剤形によって異なるが、当技術分野で慣例的な手法を用いて適宜決定することができる。投与経路、投与回数なども当技術分野で公知の方法に従って決定することができる。
【0063】
上記各種薬剤は、医薬的に許容される担体又は添加物を共に含むものであってもよい。このような担体及び添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、剤形に応じて上記の中から適宜又は組み合わせて選択される。また薬剤は、医薬において通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等などを適宜選択し、常法により製造することができる。
【0064】
また例えば、AB−DIPタンパク質若しくは活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸、それに対するアンチセンス核酸若しくは二本鎖RNA、それらを含む組換えベクターなどを含む薬剤の場合にも、その投与量は、投与経路、投与回数、剤形によって異なるが、当技術分野で慣例的な手法を用いて適宜決定することができる。このような薬剤は、核酸を注射により直接投与する方法のほか、該遺伝子が組込まれた組換えベクターを投与する方法が挙げられる。これらの組換えベクターを用いることにより効率よく投与することができる。また、核酸や組換えベクターをリポソームなどのリン脂質小胞、ミセル、ウイルスエンベロープなどに導入し、投与する方法を採用してもよい。
【0065】
また、AB−DIPタンパク質若しくは活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸、それに対するアンチセンス核酸若しくは二本鎖RNA、それらを含む組換えベクターなどを含む薬剤は、被験体から得られた細胞又は組織に導入した後、その細胞又は組織を同じ被験体又は別の被験体に投与することも可能である(ex vivo法)。細胞又は組織への導入は、当技術分野で公知の遺伝子導入法(例えば、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション、リポフェクションなど)を用いて行うことができる。
【0066】
9.細胞死関連疾患の予防剤・治療剤
上記細胞死抑制剤は、細胞死に伴う疾患(細胞死関連疾患)の治療又は予防のために使用することができる。本発明において「細胞死関連疾患」としては、アルツハイマー病、神経変性疾患、自己免疫性疾患、筋萎縮症、その他の臓器障害、癌及び肉腫等が挙げられ、これらの疾患が単独で発症したものでも、複数種類が合併したものでも本発明の予防剤又は治療剤の適用対象となり得る。なお、合併症には上記疾患と他の疾患とが合併したものも含まれる。本発明の予防剤又は治療剤は、経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる。
【0067】
細胞死関連疾患の予防剤又は治療剤は、使用する対象を特に限定するものではない。例えば、神経系(脳、脊髄等)、血管系(動脈、静脈、心臓等)、呼吸器系(気管、肺等)、消化器系(唾液腺、胃、腸、肝臓、膵臓等)、リンパ系(リンパ節、脾臓、胸腺等)、泌尿器系(腎臓等)、生殖系(精巣、卵巣、子宮等)などの組織に生じる疾患について治療又は予防を特異目的として用いることができる。これらの疾患は、単独であっても、併発したものであっても、上記以外の他の疾病を併発したものであってもよい。
【0068】
本発明の予防剤又は治療剤を経口投与する場合は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等のいずれのものであってもよく、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。また、本発明の予防剤又は治療剤を非経口投与する場合は、静脈内注射(点滴を含む)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐剤などの製剤形態を選択することができ、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0069】
これらの各種製剤は、医薬において通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等などを適宜選択し、常法により製造することができる。
【0070】
上記各種製剤は、医薬的に許容される担体又は添加物を共に含むものであってもよい。このような担体及び添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、剤形に応じて上記の中から適宜又は組み合わせて選択される。
【0071】
本発明の予防剤又は治療剤の投与量は、予防剤又は治療剤に含まれる成分の種類、投与対象の年齢、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができる。
【0072】
本発明の予防剤又は治療剤が核酸又は組換えベクターなどを含み、それを遺伝子治療剤として使用する場合は、核酸を注射により直接投与する方法のほか、核酸が組込まれた組換えベクターを投与する方法が挙げられる。また例えば核酸や組換えベクターをリポソームなどのリン脂質小胞、ミセル、ウイルスエンベロープなどに導入し、投与する方法を採用することができる。
【0073】
さらに、AB−DIPタンパク質若しくは活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸、それに対するアンチセンス核酸若しくは二本鎖RNA、それらを含む組換えベクターなどを含む薬剤は、被験体から得られた細胞又は組織に導入した後、その細胞又は組織を同じ被験体又は別の被験体に投与することも可能である(ex vivo法)。細胞又は組織への導入は、当技術分野で公知の遺伝子導入法(例えば、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション、リポフェクションなど)を用いて行うことができる。
【0074】
遺伝子治療剤の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内等の全身投与のほか、中枢神経系組織(脳、脊髄等)、血管系(動脈、静脈、心臓等)、呼吸器系(気管、肺等)、消化器系(唾液腺、胃、腸、肝臓、膵臓等)、リンパ系(リンパ節、脾臓、胸腺等)、泌尿器系(腎臓等)、生殖系(精巣、卵巣、子宮等)などに局所投与を行うことができる。さらに、カテーテル技術、外科的手術等と組み合わせた投与形態をを採用することもできる。遺伝子治療剤の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、通常は、遺伝子の重量にすると成人1日あたり0.01〜100mg/bodyの範囲が適当である。
【0075】
10.スクリーニング
本発明のAB−DIPタンパク質及び活性型AB−DIPタンパク質は、Aβと結合して細胞死を誘導するものである。従って、AβとAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質との結合を阻害又は促進する化合物は、細胞死を抑制し、細胞死関連疾患の予防又は治療に用いることができる可能性がある。
【0076】
従って、本発明においては、アミロイドベータタンパク質(Aβ)及びAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質と被検化合物とを接触させ、AβとAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質との結合を測定することを含む、AβとAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質との結合を阻害又は促進する化合物のスクリーニング方法を提供する。
【0077】
ここで、アミロイドベータタンパク質(Aβ42)のアミノ酸配列及びその遺伝子の塩基配列はそれぞれ配列番号4及び3に示している。ここで、接触させるAβ42は、その全長タンパク質でもよいし、又は部分ペプチドであってもよい。
【0078】
接触させる被検化合物は、特に限定されるものではなく、タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成化合物、天然抽出物(細胞抽出物など)、ケミカルライブラリー若しくはペプチドライブラリーなどでありうる。
【0079】
AβとAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質との結合は、当技術分野で公知の方法により測定することができる。例えば、酵母ツーハイブリッド法などを用いて、タンパク質の結合を測定することができる。その結果、AβとAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質との結合を促進する化合物は、細胞死誘導を促進する化合物として使用することができる。一方、AβとAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質との結合を阻害する化合物は、細胞死誘導を抑制する化合物として使用することができる。このような細胞死誘導を抑制する化合物は、アルツハイマー病の予防又は治療に有効である可能性がある。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0081】
〔実施例1〕Aβと結合するタンパク質の発見
(1)AB−DIP cDNAのクローニング
Aβと結合するタンパク質をコードする遺伝子のスクリーニングは酵母ツーハイブリッド法によって行った。即ち、Aβ1−42 cDNA(配列番号3)をGal−4 DNA結合ドメインを有するpGBKT7プラスミドベクター(clontech社)のKpnI切断部位に挿入した。次に、ヒト胎児脳由来cDNAライブラリー(クロンテック(アメリカ)社)をGal−4トランス活性化ドメインを有するpACT2プラスミドベクター(clontech社)に挿入した。両プラスミドを酵母AH109株(クロンテック)に導入し、アデニン、ヒスチジン、ロイシン、トリプトファンを欠く培地で選択し、β−ガラクトシダーゼ活性を調べた。Aβと結合するタンパク質が存在する場合には、β−ガラクトシダーゼが活性化されてクロロフェノールで発色するので、そのようなクローンを陽性クローンとした。空ベクター及びlaminのDNA結合ドメインを有するプラスミド(pGBKT7−lamin)を陰性コントロールとした。
その結果、上記方法により得られた陽性クローンの中からその中にストップコドンを有するcDNA断片が得られた。
【0082】
(2)全長cDNAのクローニング
ヒト脾臓由来二本鎖Marathon cDNAライブラリー(Clontech社)をテンプレートとして5’−及び3’−RACE(rapid amplification of cDNA ends)を行った。3’−RACEには遺伝子特異的プライマー(GSP1)として配列番号1の2039−2065に対応するGTGACTGAGGAGATGCTATGGGAGTGC(配列番号5)とAP1プライマー(キット添付)を、5’−RACEにはGSP2として配列番号1の2158−2132に対応するGTGCTGGTCCACTGTCTTCAATAGGAA(配列番号6)とAP2プライマー(キット添付)を用いた。Marathon RACE反応はTitaniumポリメラーゼを含むAdvantage−2 polymerase mixを用いて行った。
【0083】
その結果、5’RACEによって得られた2.1kbの最も長い産物にはKozac配列が含まれていた。3’RACEはツーハイブリッド法により得られたクローンより長いものは得られなかった。RACEによって得られた産物をPUC18ベクターのSmaIサイトに結合し、塩基配列を決定した。次いで、5’端及び3’端の塩基配列をもとにプライマーを設定し、ヒト脾臓由来二本鎖cDNAを用いてPCR法により全長cDNAを得た。この遺伝子の塩基配列はNCBIのデータベースに登録されていた(mRNAの登録番号:AK074313、タンパク質の登録番号:BAB85047)。
【0084】
この遺伝子は776個のアミノ酸残基よりなるタンパク質をコードしていた(図1、配列番号2)。その中には以下の特徴ある配列が見られた:
カスパーゼ活性化及びリクルートドメイン(CARD):これはカスパーゼやapaf−1など多くのアポトーシスに関連するタンパク質に見られる配列である(図1中、下線で示す)
N末端側にはグルタミン(Q)リッチドメインがあった
核移行シグナル(NTS)の存在は、このタンパク質の全部又は一部が核へ移行し、何らかの作用を発揮すると考えられた(図1中、イタリック体で示す)
細胞接着配列とされるRGD配列とRGD結合モチーフと思われるDDM配列の存在は、細胞接着に関する機能あるいは分子を不活性化する機能があると思われた(図1中、太字と下線で示す)
カスパーゼ認識切断部位(LEKD)の存在はカスパーゼの基質となることが示唆された(図1中、太字で示す)
【0085】
この他ショウジョウバエの遺伝子において保存されているD1、D2ドメインがあったが、その機能は不明である。このタンパク質とC末端部分のアミノ酸が45%一致するDXS6673Eは伴性劣性遺伝を示す精神発達遅滞をおこす疾患の候補遺伝子との報告がある(図1中、網掛けで示す)。
【0086】
本発明者は、このタンパク質がAβに関連して細胞死を誘導するところから、Aβ関連細胞死誘導タンパク質(Aβ-related death-inducing protein;AB−DIP)と命名した。
【0087】
〔実施例2〕AB−DIPとAβが結合することの証明
実施例1に記載のようにして単離したAB−DIPとAβが生理的状態で結合していることを示すために免疫沈降を行った。まず、10%牛胎児血清、2mM L−グルタミン、及び50単位/mlペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM−F12培養液(インビトロジェン(アメリカ)社)で培養したSH−SY5Y細胞(神経芽細胞としての特徴を有する細胞)に、HAタグをつけたAβ1−40(pCMV−HA−Aβ40)又はAβ1−42(pCMV−HA−Aβ42)とMycタグをつけたAB−DIP(pCMV−HA−AB−DIP)をリポフェクタミン2000(Invitrogen)により遺伝子導入し、共発現させた。
【0088】
HAタグをつけたAβ1−40(pCMV−HA−Aβ40)又はAβ1−42(pCMV−HA−Aβ42)とMycタグをつけたAB−DIP(pCMV−HA−AB−DIP)は、以下のようにして作製した。APPの塩基配列をもとに以下に示す5’プライマーと3’プライマーを設計し、それぞれ制限酵素切断サイトを挿入した:
HA-Abeta42 (KpnI)5':CGG GTA CCA TGG ATG CAG AAT TCC GAC ATG AC(配列番号7)
HA-Abeta42 (KpnI)3':GCG GTA CCC GCT ATG ACA ACA CCG CCC ACC AT(配列番号8)
【0089】
上記プライマーを用いてPCR増幅し、産物の配列を確認した後精製し、pUC18ベクターにクローニングした。これよりKpnIによりAβ42を切り出し、pCMV−HAベクターのKpnI部位にDNA T4リガーゼを用いて挿入した。このようにして、HAタグを5’端に結合したAβ42のcDNAが得られた。
【0090】
pCMV−HA−Aβ40も同様に作製した。Aβ40の場合、BglII、XhoI部位を挿入した。用いたプライマーは以下のとおりである:
HA-Abeta40 (BglII)5':GCA GAT CTC TGA TGC AGA ATT CCG ACA TGA C(配列番号9)
HA-Abeta40 (XhoI)3':GCC TCG AGT CAG ACA ACA CCG CCC ACC ATG AG(配列番号10)
【0091】
36時間後、細胞をタンパク質分解酵素阻害剤カクテル(Complete,Roche)とフェニルメチルスルホニルフッ素を含むRIPA緩衝液で洗った後、スクレーパーで集め、15秒間の細胞破砕後、4℃で13,000回転にて15分間遠沈した。総タンパク質量はBCA法(Pierce)によって測定した。上澄をプロテインA−セファロースビーズ(Sigma)と90分間反応させた後、一晩特異抗体を反応させた。翌朝、免疫複合体を回収し、RIPA緩衝液で3回洗浄後、SDSに溶解し、沸騰する水の中で5分間変性させ、12.5%アクリルアミドゲルで電気泳動を行った。そしてPVDF膜に転写した後、検出用特異抗体を作用させ、化学発光法により検出した。用いた抗体は、AB−DIP特異的抗体N2、C1、抗HA抗体(Sigma)、抗Aβ抗体6E10(Chemicon)、及び抗Myc抗体(Invitrogen)である。AB−DIP特異的抗体N2は、AB−DIPタンパク質に基づいて、ウサギ血清を用いて作製し、IgGに精製したものであり、MBL社に作製を委託した。
【0092】
その結果、Myc抗体で免疫沈降しAβ抗体で検出すると、Aβ40(図2の下のバンド)とAβ42(図2の上のバンド)が共沈することが分った(図2)。これはN2抗体で免疫沈降しても同様の結果であった。
【0093】
次に逆の方法により同様の実験を行った。即ち、Aβ抗体6E10で免疫沈降し、Myc抗体で検出したところ、AB−DIPを検出した(図3)。このことから、AB−DIPとAβ1−40又はAβ1−42が結合していることが明らかになった。
【0094】
〔実施例3〕AβはAB−DIPの中央部分に結合する
AβとAB−DIPの結合をin vivoで調べるために、AB−DIPの部分欠失遺伝子をPCR増幅し、pCMV−MycベクターのEcoRIサイトとSalIサイトに挿入し、pCMV−Myc−1−340(AB−DIPの1−340のみを有する)、pCMV−Myc−345−776(AB−DIPの345−776のみを有する)、pCMV−Myc−50−776(AB−DIPの50−776のみを有する)、pCMV−Myc1−550(AB−DIPの1−550のみを有する)、及びpCMV−Myc−231−589(AB−DIPの231−589のみを有する)を作製した。これらのベクターとpCMV−Aβ42をSY5Y細胞に同時に発現させ、Myc抗体で免疫沈降し、6E10抗体でAβを検出した。
【0095】
その結果、Aβ1−42は、231−589のみを有するAB−DIP以外のすべてと結合した(図4)。従って、AβはAB−DIPの中央部分とは結合せず、C末端側とN末端側両方に結合サイトがあることが分った。
【0096】
〔実施例4〕AB−DIPによる細胞死誘導確認試験
AB−DIPのcDNAをPCR増幅し、Myc−tagを有する発現ベクター(pCMV−Myc)のEco−Salサイトに挿入し、pCMV−Myc−AB−DIPを得た。AB−DIPの発現を可視化するために、先ずEGFPを融合した遺伝子pEGFPN1−AB−DIPを構築した。そのために、まず全長のAB−DIP遺伝子(配列番号1)をpCMV−Myc−AB−DIPのEcoRI−SalIサイトから切り出し、pEGFPN1プラスミド(Clontech社)のEcoRI−SalIサイトに挿入した。陽性コントロールとして、ヒト神経芽細胞腫SH−SY5YのRNAからp53特異的プライマーを用いて逆転写PCRによりp53 cDNA(配列番号11)をクローニングし、EcoRI(5’)サイトとSalI(3’)サイトで切断し、pEGFPN1プラスミドに挿入し、pEGFPN1−p53を得た。
【0097】
次に、AB−DIPを強発現すると細胞がすべて死滅してしまうために、テトラサイクリン(tet)で発現が制御される遺伝子を構築した。そのために、先ずAB−DIPをtetオペレーター配列を有するプラスミド(pcDNA4−To)のEcoRI−XbaIサイトに挿入し、pcDNA4−To−AB−DIPを得た。tetオペレーターの制御(レプレッサー)にはpcDNA6−TR空ベクター(Invitrogen)を用いた。そして、pcDNA4−To−AB−DIPとpcDNA6−TRをリポフェクタミン法により1:4の比でSH−SY5Y細胞に導入し、ブラスチシジン(6μg/ml)とゼオシン(140μg/ml)で選択し、クローンN3を得た。クローンN3はドキシサイクリン(1μg/ml)の存在下でのみAB−DIPの発現を示した。
【0098】
そこで先ずEGFP−AB−DIPをSH−SY5Y細胞に発現させ、EGFP陽性細胞の生存状態を蛍光顕微鏡で調べた。EGFPのみのコントロールベクターを導入した細胞(図5、菱形)は96時間後も増殖を継続したが、EGFP−AB−DIPを導入した細胞(図5、四角)は48時間後には生存細胞数が減少し、96時間後には殆どの細胞が死んでしまった。これはEGFPの発現が低下したのではない証拠に顕微鏡下に細胞の剥離、浮遊、断片化によって確認された。EGFP−p53を発現する細胞はAB−DIPとほぼ同等の細胞死を示した(図5、三角)。
【0099】
また72時間でAnnexin V Fluos Staining Kit(Roche)を用いてアネキシンV染色を行い、アポトーシスのマーカーとされるアネキシンV陽性細胞数を数えた。EGFP対照の460個に比し、AB−DIPのみ発現する細胞は653個、AB−DIPとpCMV−HA−Aβ42の導入によりAβ1−42を発現する細胞は754個、p53を発現する細胞は877であった。以上より、AB−DIPそれ自体の強発現でアポトーシスが誘導されること、Aβ1−42の存在下にそのアポトーシスは更に増強されることが分った。
【0100】
〔実施例5〕AB−DIPによる細胞周期停止確認試験
次に、ドキシサイクリン(Dox)でAB−DIPを発現した時としない時の細胞周期をFACSで調べた。細胞周期をG2/M期で停止させることが知られているノコドゾールでSH−SY5Y細胞を処理すると、G2/M期の細胞は35.4%に達した(図6B)。DoxでAB−DIPを発現させた細胞では32.0%がG2/M期を示した(図6F)。これに対し、SH−SY5Yの何もしない対照細胞のそれは14.6%(図6A)、空ベクターTo/Trを導入しDoxを加えないもの17.1%(図6C)、空ベクターを導入しDoxを加えたもの16.2%(図6D)、AB−DIP発現ベクターを導入しDoxを加えないもの20.6%であった(図6E)。以上より、AB−DIPは細胞周期をG2/M期で止める作用があることが分った。
【0101】
〔実施例6〕AB−DIPのカスパーゼによる切断
本実施例においては、Doxで誘導されるAB−DIPを安定的に発現する細胞株N3を用いた。
N3細胞を小胞体ストレスの誘導剤であるツニカマイシン(和光純薬)、ミトコンドリア呼吸酵素複合体の阻害剤であるロテノン(MPバイオメディカル(アメリカ))で処理したところ、いずれも97kDaのAB−DIPに加え62kDaのAB−DIP(AB−DIP p62)を生じた。また、N3細胞にpCMV−HA42を導入し、AB−DIPとAβ1−42を同時に発現させたときにもAB−DIP p62が生成された(図7)。
【0102】
また、抗癌剤であるビンブラスチン(シグマ(アメリカ))、有糸分裂阻害剤であるノコドゾール(シグマ)で処理すると、p62と97KDaのAB−DIPに加え、更に大きい分子量のAB−DIPを生じた(図7)。この大きいサイズのAB−DIPはラムダホスファターゼを同時に加えると消失したことから、AB−DIPがリン酸化されたものと考えられた。すなわち、図8に示すように、N3細胞をビンブラスチン(レーン5)、ノコドゾール(レーン7)で処理すると97kDのAB−DIPを生じ、このバンドはホスファターゼを一緒に処理することにより消失した(レーン6及び8)ので、これらの処理によりAB−DIPがリン酸化を受けたと考えられる。また、無処理N3細胞(レーン1)、N3+ホスファターゼ(レーン2)、N3+ロテノン(レーン3)、N3+ロテノン+ホスファターゼ(レーン4)では、このようなリン酸化は見られなかった(図8)。従って、細胞死誘導に際しAB−DIPはリン酸化され、何らかの酵素により限定切断を受け、その結果生じるp62が活性型AB−DIPとして生理活性を発揮し、細胞死誘導に関与するものと考えられた。
【0103】
そこで、AB−DIPの切断酵素の同定を行った。先ず、上記細胞死誘導剤でN3細胞を処理するとき同時にカスパーゼ一般の阻害剤であるzVAD.fmkで処理するとアポトーシスの誘導は阻害され、同時にp62の生成も阻害された。また、AB−DIPにはLEKD(493−496位)というカスパーゼによる切断配列が含まれることから、何らかのカスパーゼがその切断に関与していると推定された。
【0104】
次に、N3細胞を遠沈し、生理食塩水で洗浄後、20mM Hepes、pH7.5、1.5mM MgCl、10mM KCl、1mM EGTA、1mM DTT及びプロテアーゼインヒビターを含む緩衝液に浮遊させ、15秒間超音波破砕を行い、遠沈後上清を得た。この上清をタンパク質量200μgに調整し、各種ヒトリコンビナントカスパーゼ2単位/50μl(MBL社)を加え、30℃にて3時間インキュベートした。その後SDSバッファーを加えて反応を止め、免疫ブロット法によりp62の生成を調べた。その結果、カスパーゼ−6、−8、−9,−10を調べたところ、カスパーゼ−9のみがp62を生じた(図9)。
【0105】
さらに、LEKDに相当する496位のアスパラギン酸(D)をアラニン(A)に置換したAB−DIP発現細胞では、これらのカスパーゼによるp62の生成は見られなかった。以上より、AB−DIPは何らかのアポトーシスシグナルによりリン酸化され、カスパーゼ−9が結合し、LEKDの部位で切断され、活性型AB−DIP(p62)を生じ、これが核へ移行し細胞死を誘導すると考えられた。このとき細胞内にAβ1−42が存在すると、p62の生成が増強され、細胞死は一層増強されることが分った。
【0106】
〔実施例7〕Aβによる細胞死のsiRNAによる阻害試験
(1)siRNAの構築
AB−DIPのスタートコドンから1601−1631位の21塩基対の2本鎖RNA、5’-AAG CUC GAA AUG GAG AAG GUG-3’(配列番号12)をsiRNAとして選択し、構築した。この配列はヒトゲノムのBLASTサーチにより、AB−DIP以外の遺伝子を阻害しないことを確認した。対照として、ルシフェラーゼ遺伝子のスタートコドンから153−171位の18塩基対の5’-CGU ACG CGG AAU ACU UCG-3’(配列番号13)の2本鎖RNA、及び合成スクランブルド2本鎖RNA(Dharmacon)を用いた。
【0107】
(2)ドミナントネガティブAB−DIPの構築
先ず、AB−DIPの各種欠失変異体を構築した。pEGFP−DM1(アミノ酸配列1−48のみを有する)、pEGFP−DM2(アミノ酸配列31−223のみを有する)、pEGFP−DM3(アミノ酸配列224−329のみを有する)、pEGFP−DM4(アミノ酸配列124−319と592−776のみを有する)、pEGFP−DM5(アミノ酸配列1−319と592−776のみを有する)は、pEGFPN1のプラスミドのHindIII−EcoRIサイトに挿入した。pEGFP−DM6(アミノ酸配列1−487のみを有する)、pEGFP−DM7(アミノ酸配列124−496のみを有する)、pEGFP−DM8(アミノ酸配列380−776のみを有する)は、pEGFPN1(クロンテック社)のEcoRI−ApaIサイトに挿入した。これらのプラスミドをPCMV−Myc−AB−DIP(実施例4参照)と共発現させ、AB−DIPの発現を調べた。
【0108】
その結果、AB−DIPのsiRNAはAB−DIPの発現を著しく抑制した(図10)。pEGFP−DM4を共発現させた時にのみAB−DIPの発現が著しく抑制された。また、pEGFP−DM4はドミナントネガティブに作用すると考えられた。pEGFP−DM4はカスパーゼ活性化及びリクルートドメイン(CARD)、核移行配列(NTS)を欠くコンストラクトであった。
【0109】
〔実施例8〕細胞外Aβによる細胞死をAB−DIPが増強する
EGFPN1(「空ベクター」は削除)(クロンテック社)とEGFP−DM4(実施例7)をSH−SY5Y細胞に導入し、これらを安定的に発現する細胞株を樹立した。後者の細胞はEGFP−DM4と命名した。これらの細胞の培養液中に合成Aβ1−40又はAβ1−42(バイオソース社)を20μMの濃度で加え、72時間後にMTTアッセイ(ロッシュ(ドイツ))により細胞の生存状態を調べた。
【0110】
その結果、EGFP空ベクターを発現する細胞にAβ1−40又はAβ1−42を作用させると、作用させない場合に比し、それぞれ55.8%又は57.2%の細胞生存率であった。これに対してEGFP−DM4ではそれぞれ81%又は78.8%と上昇した(図11)。このことは細胞外から作用させたAβによる細胞死にAB−DIPが関与していることを示唆している。また、図11において「Abeta42−1」はAβ1−42の逆配列であり、活性がないため、対照と同様の結果となる。
【0111】
〔実施例9〕細胞内Aβによる細胞死をAB−DIPが増強する
EGFPにAβ1−42を結合させたプラスミドpEGFPN1−42を構築した。これをSH−SY5Y細胞にAB−DIPに対するsiRNAと共発現させ、24、48及び72時間後にアネキシンV染色によりアポトーシス細胞を定量的に調べた。対照はルシフェラーゼに対するsiRNA、合成スクランブルド2本鎖RNA(siRNA)(Dharmacon)を用いた。
【0112】
その結果、pEGFPN1−42を発現する細胞(EGFP−42)はEGFPの空ベクターを発現する細胞(EGFP control)に比し、アネキシンV陽性細胞(アポトーシスを示す細胞)は24、48及び78時間後に有意に増加した(図12)。これに対し、pEGFPN1−42とAB−DIPに対するsiRNAを同時に発現する細胞(EGFP−42+siAB−DIP)では48時間後及び72時間後のアネキシンV陽性細胞は有意に抑制された(図12)。ルシフェラーゼに対するsiRNA(siLuc)及びスクランブルドsiRNA(siNon)にはその抑制作用は見られなった(図12)。この結果は、細胞内に発現させたAβ1−42によるアポトーシスを、AB−DIPに対するsiRNAが抑制することを示している。
【0113】
〔実施例10〕AB−DIPのヒト組織での発現
ヒト各種臓器及びヒト脳の各種部位のRNAを含むMultiple Tissue Northern(Clontech)を用いて、ノーザンブロット法によりAB−DIPの発現を調べた。プローブとしてはAB−DIPのC末部分(2039−2560塩基対)を用いた。対照としてβ−アクチンを用いた。ハイブリダイゼーションはExpression−hyb緩衝液(Clontech社)を用い、68℃で1時間を行った。
【0114】
その結果、AB−DIP cDNAは3.1kbのバンドとして見られ、脳、心臓、骨格筋をはじめすべての臓器に見られた。また、脳では小脳、大脳皮質、延髄などすべての部位に発現が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明により、アミロイドベータタンパク質(Aβ42)と結合し、神経細胞死を誘導する新規タンパク質であるAB−DIPタンパク質及びその活性型、それをコードする遺伝子などが提供される。AB−DIPタンパク質を利用することにより細胞死を制御することができるため、AB−DIPタンパク質等は細胞死に関連する疾患の予防又は治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】AB−DIPタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)を示す。下線はCARDドメイン(6−48)を、また下線を付したQはN末端側のグルタミンリッチ領域を、イタリック体は核移行シグナル(234−250)を、太字及び下線はRGD(319−321)及びDDM(685−887)を、太字はLEKDを、網掛けはショウジョウバエ保存領域D1(523−581)及びD2(690−743)を表す。
【図2】Mycタグを付したAB−DIPとAβを共発現させ、myc抗体で免疫沈降し、Aβ抗体6E10でウエスタンブロットを行った結果を示す。
【図3】Mycタグを付したAB−DIPとAβを共発現させ、Aβ抗体6E10で免疫沈降し、myc抗体でウエスタンブロットを行った結果を示す。
【図4】Mycタグを付した各種欠損変異AB−DIPとAβを共発現させ、myc抗体で免疫沈降し、6E10抗体でウェスタンブロットを行った結果を示す。
【図5】AB−DIPを強発現する細胞はp53を強発現する細胞とほぼ同等の細胞死を引き起こすことを示す。Aβ42とAB−DIPを共発現すると細胞死はやや増強される。
【図6】ドキシサイクリン(Dox)でAB−DIPが発現誘導されるN3細胞株を用いて細胞周期を調べた結果を示す。
【図7】カスパーゼを活性化させ細胞死を誘導する各種薬剤で細胞を処理すると97kDのAB−DIPが62kDのAB−DIP p62を生じたことを示す。
【図8】N3細胞を、無処理(レーン1)、又は、N3+ホスファターゼ(レーン2)、N3+ロテノン(レーン3)、N3+ロテノン+ホスファターゼ(レーン4)、ビンブラスチン(レーン5)、ビンブラスチン+ホスファターゼ(レーン6)、ノコドゾール(レーン7)若しくはノコドゾール+ホスファターゼ(レーン8)で処理した場合に生じるAB−DIPのサイズを調べた結果を示す。
【図9】AB−DIPはカスパーゼ9により切断をうけ、p62を生じたことを示す。
【図10】AB−DIPに対するsiRNAがAB−DIPの発現を著しく抑制したことを示す。
【図11】Aβ40及びAβ42による細胞死はAB−DIPをドミナントネガティブに変異することにより抑制されることを示す。
【図12】細胞内Aβ42発現による細胞死をAB−DIPのsiRNAが有意に抑制することを示す。
【配列表フリーテキスト】
【0117】
配列番号5〜10、12及び13:合成オリゴヌクレオチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のAB−DIPタンパク質。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、アミロイドベータタンパク質との結合能を有するタンパク質
【請求項2】
以下の(a)又は(b)のAB−DIPタンパク質をコードする核酸。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、アミロイドベータタンパク質との結合能を有するタンパク質
【請求項3】
以下の(a)又は(b)の核酸。
(a)配列番号1に示される塩基配列の233番目〜2563番目の塩基配列からなる核酸
(b)配列番号1に示される塩基配列の233番目〜2563番目の塩基配列に相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、アミロイドベータタンパク質との結合能を有するタンパク質をコードする核酸
【請求項4】
以下の(a)又は(b)の活性型AB−DIPタンパク質。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列の1番目〜496番目のアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列の1番目〜496番目のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、アミロイドベータタンパク質との結合能を有するタンパク質
【請求項5】
以下の(a)又は(b)の活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列の1番目〜496番目のアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列の1番目〜496番目のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、アミロイドベータタンパク質との結合能を有するタンパク質
【請求項6】
以下の(a)又は(b)の核酸。
(a)配列番号1に示される塩基配列の233番目〜1720番目の塩基配列を含む核酸
(b)配列番号1に示される塩基配列の233番目〜1720番目の塩基配列に相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、アミロイドベータタンパク質との結合能を有するタンパク質をコードする核酸
【請求項7】
請求項2、3、5又は6記載の核酸を含む組換えベクター。
【請求項8】
請求項2、3、5若しくは6記載の核酸、又は請求項7記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項9】
AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質に対する抗体。
【請求項10】
配列番号2の182番目〜196番目のアミノ酸配列を含む抗原又は753番目〜776番目のアミノ酸配列を含む抗原を用いて作製されたものである、請求項9記載の抗体。
【請求項11】
AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸に対するアンチセンス核酸。
【請求項12】
AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸に対する二本鎖RNA。
【請求項13】
配列番号7に示される塩基配列を有するものである、請求項12記載の二本鎖RNA。
【請求項14】
請求項8記載の形質転換体を培養し、得られる培養物からAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質を採取することを特徴とする、AB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質の製造方法。
【請求項15】
以下の(a)〜(h)の少なくとも1つを含むことを特徴とする細胞死誘導剤。
(a)請求項1記載のAB−DIPタンパク質
(b)請求項4記載の活性型AB−DIPタンパク質
(c)請求項2記載のAB−DIPタンパク質をコードする核酸
(d)請求項5記載の活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸
(e)請求項3記載の核酸
(f)請求項6記載の核酸
(g)請求項7記載の組換えベクター
(h)請求項8記載の形質転換体
【請求項16】
さらに以下の(i)〜(m)の少なくとも1つを含む、請求項15記載の細胞死誘導剤。
(i)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるAβ42タンパク質、又は配列番号4に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、細胞障害機能を有するタンパク質
(j)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるAβ42タンパク質、又は、配列番号4に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加若しくは逆位されたアミノ酸配列からなり、かつ、細胞障害機能を有するタンパク質、をコードする核酸
(k)配列番号3に示される塩基配列からなる核酸、又は、配列番号3に示される塩基配列に相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、細胞障害機能を有するタンパク質をコードする核酸
(l)上記(j)又は(k)のいずれかの核酸を含む組換えベクター
(m)上記(j)若しくは(k)のいずれかの核酸、又は上記(l)の組換えベクターを含有する形質転換体
【請求項17】
以下の(a)〜(e)の少なくとも1つを含むことを特徴とする細胞死抑制剤。
(a)請求項9又は10記載の抗体
(b)請求項11記載のアンチセンス核酸
(c)請求項12又は13記載の二本鎖RNA
(d)上記(b)又は(c)のいずれかの核酸を発現することができる組換えベクター
(e)上記(b)若しくは(c)のいずれかの核酸、又は上記(d)の組換えベクターを含有する形質転換体
【請求項18】
以下の(a)〜(e)の少なくとも1つを含むことを特徴とする細胞死関連疾患の治療剤又は予防剤。
(a)請求項9又は10記載の抗体
(b)請求項11記載のアンチセンス核酸
(c)請求項12又は13記載の二本鎖RNA
(d)上記(b)又は(c)のいずれかの核酸を発現することができる組換えベクター
(e)上記(b)若しくは(c)のいずれかの核酸、又は上記(d)の組換えベクターを含有する形質転換体
【請求項19】
細胞死関連疾患がアルツハイマー病である、請求項18記載の治療剤又は予防剤。
【請求項20】
以下の(a)〜(h)の少なくとも1つを含むことを特徴とする細胞周期停止剤。
(a)請求項1記載のAB−DIPタンパク質
(b)請求項4記載の活性型AB−DIPタンパク質
(c)請求項2記載のAB−DIPタンパク質をコードする核酸
(d)請求項5記載の活性型AB−DIPタンパク質をコードする核酸
(e)請求項3記載の核酸
(f)請求項6記載の核酸
(g)請求項7記載の組換えベクター
(h)請求項8記載の形質転換体
【請求項21】
アミロイドベータタンパク質(Aβ)及びAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質と被検化合物とを接触させ、AβとAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質との結合を測定することを含む、AβとAB−DIPタンパク質又は活性型AB−DIPタンパク質との結合を阻害又は促進する化合物のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−166879(P2006−166879A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367780(P2004−367780)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】