説明

ATP産生促進剤

【課題】優れたATP促進効果を有するとともに、安定的にその効果を維持し得る新規なATP産生促進剤を提供する。
【解決手段】白金族から選択される少なくとも一種の金属のコロイドを有効成分とするATP産生促進剤、好ましくは、前記金属が白金であることを特徴とする前記ATP産生促進剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料等の皮膚外用剤に配合可能な新規なATP産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ATPは生体のエネルギー伝達体として数多くのエネルギー代謝に関与し、エネルギーの獲得及び利用に重要な役割を果たしている。細胞小器官ミトコンドリアは物質の酸化によるエネルギーを用いてATPを合成する酸化的リン酸化を主要な役割としている。ATPの合成能を高めることができればエネルギー源を増やすことができ、生体の生命活動能力を高めることができると考えられる。
【0003】
従来、皮膚のたるみ、ハリを改善することを目的として、酵母エキスを有効成分とする筋肉細胞ATP産生促進剤が提供されている(特許文献1)。また、表皮細胞のATP産生を促進することにより表皮細胞を活性化することを目的として、グリコーゲンを有効成分とするATP産生促進剤が提案されている(特許文献2)。この様に、従来、ATP産生を促進する剤の探索が種々行われ、使用されてきている。しかし、従来提案されているATP産生促進剤の多くは、媒体の液性や温度変化など外部環境により影響を受け易く、化学的安定性が問題になることがあるとともに、ATP産生効果を発現する過程でそれ自身が変化してしまうことも多いと考えられ、この様な点が改善された、新たなATP産生促進剤の提供が望まれている。
【0004】
一方、白金族金属コロイドには、抗酸化効果、美白効果、アトピー改善効果などが確認されていて、従来、医薬品、化粧品、飲料に配合されているが、ATP産生との関連性については、未だ確認されていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−10947号公報
【特許文献2】特開2003−321373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れたATP産生促進効果を有するとともに、安定的にその効果を維持し得る新規なATP産生促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明のATP産生促進剤は、白金族から選択される少なくとも一種の金属種のコロイドを有効成分とする。本発明の好ましい態様として、白金コロイドを有効成分とするATP産生促進剤が提供される。また、別の観点から、本発明によって、白金族から選択される少なくとも一種の金属のコロイドを供給することによって、ATP産生を促進する方法(但し、人間の治療方法を除く)が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れたATP促進効果を有するとともに、安定的にその効果を維持し得る新規なATP産生促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本発明のATP産生促進剤は、白金族から選択される少なくとも一種の金属のコロイドを有効成分とすることを特徴とする。白金族金属のコロイドは、化学的安定性に優れるので、外部環境により影響を受け難い。さらに、ATP産生促進効果のメカニズムが、主に白金族金属のコロイドの触媒反応であることから、ATP産生促進の過程で、剤の本質が変化せず(理論的には効果が永続的であり)、優れたATP産生促進効果を長期間奏することが期待できる。ATP産生の促進は、細胞の代謝機能改善につながるため、本発明のATP産生促進剤は、抗疲労やスリミング等を目的とした化粧料、健康食品、飲料に応用するのに有用である。
【0010】
白金族金属とは、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、及び白金からなる遷移金属の総称をいう。中でも、ロジウム及び白金が好ましく、白金が最も好ましい。白金族金属コロイドとは、これら白金族金属の粒子が、液相に分散した状態のものをいう。白金族金属から選ばれる一種のコロイドであってもよいし、二種以上の金属種のコロイドであってもよい。中でも、単一金属種のコロイドが好ましく、白金コロイド又はロジウムコロイドが好ましい。
【0011】
白金族金属粒子の粒径については、特に限定されないが、ナノ単位であるのが好ましい。具体的には、粒径は、1〜5nmが好ましく、1〜3nmであるのがより好ましく、1.5〜2.5nmであるのがさらにより好ましい。また、粒子の粒径分布は狭いのが好ましく、具体的には、90個数%以上のコロイド粒子の粒径が、0.1〜10nmの範囲に入るのが好ましく、1〜3nmの範囲に入るのがより好ましい。尚、コロイド粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡によって観察することにより求めることができる。
【0012】
白金族金属の粒子を分散させる液相の主成分は水であるのが好ましい。コロイド状態を不安定化させない範囲で、有機溶媒を含有していてもよい。有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類;グリセリン、ジグリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類等が挙げられる。
【0013】
金属コロイド又は金属粒子の調製方法は種々知られている(例えば、特公昭57−43125号公報、特開昭59−120249号公報、及び特開平9−225317号公報、特開平10−176207号公報、特開2001−79382号公報、特開2001−122723号公報など)。例えば、(金属コロイド又は)金属粒子の製造方法として、沈殿法又は金属塩還元反応法と呼ばれる化学的方法、あるいは燃焼法と呼ばれる物理的方法などが知られている。本発明のATP産生促進剤等には、いずれの方法で調製された金属コロイドを用いてもよいが、製造の容易性と品質面から、金属塩還元反応法で調製された金属コロイドを用いる、又は前記方法によって得られた金属粒子をコロイドに調製して用いることが好ましい。
【0014】
金属塩還元反応法では、例えば、水溶性若しくは有機溶媒可溶性の金属塩又は金属錯体の水溶液又は有機溶媒溶液を調製し、この溶液に水溶性高分子を加えた後、必要に応じpHを調整し、不活性雰囲気下で加熱還流することにより還元して金属粒子を得ることができる。金属の水溶性又は有機溶媒可溶性の塩の種類は特に限定されないが、例えば、酢酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、スルホン酸塩、又はリン酸塩などを用いることができ、これらの錯体を用いてもよい。
【0015】
金属塩還元反応法に用いる水溶性高分子の種類は特に限定されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、シクロデキストリン、アミロペクチン、又はメチルセルロースなどを用いることができ、これらを2種以上組み合わせて用いてもよい。好ましくはポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩を用いることができ、より好ましくはポリアクリル酸塩を用いることができる。また、水溶性高分子に替えて、あるいは水溶性高分子とともに各種の界面活性剤、例えばアニオン性、カチオン性、両性、又はノニオン性の界面活性剤を使用することも可能である。還元をアルコールあるいはグリコールを用いて行う際には、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、又はエチレングリコールなどが用いられる。これらの水溶性高分子及び界面活性剤は、液相中に金属粒子が生成した後は、白金族金属に配位し、該金属の親溶媒性を向上させ、保護コロイド剤として、コロイド状態の安定化に寄与する。
【0016】
本発明のATP産生促進剤は、外用医薬品及び化粧料等の皮膚外用剤中に配合するのが好ましい。前記皮膚外用剤の調製時には、本発明のATP産生促進剤とともに、従来公知の外用医薬用添加剤又は皮膚化粧料用添加剤を配合してもよい。皮膚外用剤における本発明のATP産生促進剤の配合量の好ましい範囲は、外用剤の剤型、使用目的等によっても異なるが、一般的には、白金族金属の濃度が最終組成物中に、好ましくは0.01nmol/L〜50μmol/L、より好ましくは1nmol/L〜1μmol/Lである。この範囲内であれば、コロイドを安定に配合することができ、優れたATP産生促進効果を発揮することができる。
【0017】
前記皮膚外用剤に必要に応じて添加される添加剤としては、皮膚用化粧料や外用医薬品の製剤に一般的に用いられる、水(精製水、温泉水、深層水等)、アルコール、油剤、界面活性剤、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、紫外線防御剤、包接化合物、抗菌剤、香料、消臭剤、塩類、pH調整剤、清涼剤、動物・微生物由来抽出物、植物抽出物、血行促進剤、収斂剤、抗脂漏剤、美白剤、抗炎症剤、活性酸素消去剤、細胞賦活剤、保湿剤、キレート剤、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、ビタミン類等が挙げられる。皮膚外用剤の調製は、常法に従って行うことができ、前記添加剤の配合量も本発明の効果を損なわない範囲で、常法に従って決定することができる。
【0018】
前記皮膚用外用剤の形態については限定されず、乳液、クリーム、化粧水、美容液、パック、洗顔料、メーキャップ化粧料等の皮膚用化粧料に属する形態;シャンプー、ヘアートリートメント、ヘアースタイリング剤、養毛剤、育毛剤等の頭髪化粧料に関する形態;及び分散液、軟膏、エアゾール、貼付剤、パップ剤、リニメント剤等の外用医薬品の形態;のいずれであってもよい。
【0019】
また、本発明のATP産生促進剤は、食品(飲料を含む)に配合することもできる。前記食品としては、特に制限されないが、例えば、飴、チューインガム、健康食品、飲料等が挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
[例1:ATP産生促進剤の調製]
アリーン冷却器と三方コックを接続した100mL二口ナス型フラスコにポリ(ポリアクリル酸ナトリウム)(アルドリッチ社製,0.31g)を入れ、蒸留水23mLで溶解した。この溶液を10分間撹拌した後、塩化白金酸(H2PtCl6・6H2O、和光純薬株式会社製)を蒸留水に溶解した1.66×10-2mol/L溶液(2mL)を加えてさらに30分間撹拌した。反応系内を窒素置換し、特級エチルアルコール25mLを加えて窒素雰囲気下を保ちながら100℃で2時間還流した。反応液の紫外可視光吸収スペクトルを測定し、白金イオンピークの消失と、金属固体特有の散乱によるピークの飽和を確認し、還元反応を終了した。有機溶媒を減圧留去して白金コロイド(平均粒径2.4±0.7nm)として、ATP産生促進剤を調製した。得られたATP産生促進剤の白金濃度は1mmol/Lであった。
【0021】
[例2:ATP産生促進能の評価]
ヒト新生児由来線維芽細胞NB1RGBを1%FBS入りDMEM中で培養した。そのとき、上記調製したATP産生促進剤(即ち1mmol/lの白金コロイド)を培地単位体積当りの濃度が、0、0.001 vol/vol%、0.01 vol/vol%になるように、培地中に添加しておいた。培養5日後に、細胞を回収して各濃度の白金コロイドで処理した細胞を、一定細胞数マイクロプレートにとり、ATP測定試薬(東洋ビーネット株式会社製)100μLを添加して、10分間攪拌した。反応後、ルミノメーターを用いて発光測定し、別に調製したATP溶液による検量線から、細胞のATP産生量を得た。白金コロイドを加えていない細胞のATP産生量と比較し、その比率(白金コロイド添加細胞のATP産生量/白金コロイド未添加細胞のATP産生量×100)からATP産生促進率を算出した。結果を下記表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
[例3:化粧水]
以下の方法により本発明のATP産生促進剤を配合した化粧水を調製した。
A.下記成分(3)〜(5)、(12)及び(13)を混合溶解する。
B.下記成分(1)、(2)、(6)〜(11)及び(14)を混合溶解する。
C.AとBを混合して均一にし、化粧水を得た。
【0024】
(成分) (%)
(1)グリセリン 5.0
(2)1,3−ブチレングリコール 6.5
(3)ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 1.2
モノラウリン酸エステル
(4)エチルアルコール 12.0
(5)アスコルビン酸
パルミチン酸エステル*1 0.1
(6)アスコルビン酸リン酸エステルナトリウム*2 0.5
(7)アスコルビン酸グルコシド*3 2.0
(8)乳酸 0.05
(9)乳酸ナトリウム 0.1
(10)ATP産生促進剤(1mmol/Lの白金コロイド) 0.05
(11)コラーゲン 1.0
(12)防腐剤 適量
(13)香料 適量
(14)精製水 残量
*1 和光純薬社製
*2 シグマ社製
*3 林原生物化学研究所製
【0025】
例3で調製した化粧水は、変色変臭、沈殿などがなく安定であり、肌に適用すると、みずみずしい保湿感があり、連続的に適用することにより肌を健やかにする効果のあるものであった。
【0026】
[例4:乳液の調製]
以下の方法により、本発明のATP産生促進剤を配合した乳液を調製した。
(製法)
A.下記成分(12)〜(14)を加熱混合し、70℃に保つ。
B.下記成分(1)〜(9)を加熱混合し、70℃に保つ。
C.BにAを加えて混合し、均一に乳化する。
D.Cを冷却後、下記成分(10)及び(11)を加え均一に混合する。
E.Dに下記成分(15)を加え、十分に攪拌し、さらに下記成分(16)〜(18)を加え、均一に混合して乳液を得た。
【0027】
(成分) (%)
(1)ポリオキシエチレン(10E.O.)ソルビタン 1.0
モノステアレート
(2)ポリオキシエチレン(60E.O.)ソルビット 0.5
テトラオレエート
(3)グリセリルモノステアレート 1.0
(4)ステアリン酸 0.5
(5)ベヘニルアルコール 0.5
(6)スクワラン 8.0
(7)パルミチン酸レチノール*1 0.0002
(8)エチルアルコール 5.0
(9)カンゾウ抽出物*2 0.01
(10)グリチルリチン酸ジカリウム*3 0.1
(11)ATP産生促進剤(1μmol/Lの白金コロイド) 0.2
(12)精製水 残量
(13)防腐剤 0.1
(14)カルボキシビニルポリマー 0.2
(15)水酸化ナトリウム 0.1
(16)ヒアルロン酸 0.1
(17)酸化亜鉛 3.0
(18)香料 適量
*1 日本ロシュ社製
*2 丸善製薬社製
*3 丸善製薬社製
【0028】
例4で調製した乳液は、変色変臭などがなく安定であり、肌に適用すると、滑らかなエモリエント効果が高く、連続的に適用することによりシワ形成を抑制又は改善する効果に優れるものであった。
【0029】
[例5:クリーム]
以下の方法により、本発明のATP産生促進剤を配合したクリームを調製した。
(製法)
A.下記成分(1)〜(10)を加熱混合し、70℃に保つ。
B.下記成分(11)〜(16)および(19)〜(21)を加熱混合し、70℃に保つ。
C.BにAを加えて混合し、均一に乳化する。
D.Cを冷却後、下記成分(17)及び(18)を加え、均一に混合してクリームを得た。
【0030】
(成分) (%)
(1)セトステアリルアルコール 3.0
(2)グリセリン脂肪酸エステル 2.0
(3)モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン 1.0
(4)モノステアリン酸ソルビタン 1.0
(5)N−ステアロイル−N−メチルタウリンナトリウム 0.5
(6)ワセリン 5.0
(7)メチルポリシロキサン(100mm2/s) 3.0
(8)トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリル 20.0
(9)dl−α―トコフェロール*1 1.0
(10)エラグ酸*2 0.05
(11)乳酸(50%水溶液) 1.0
(12)ジプロピレングリコール 10.0
(13)アルブチン*3 3.0
(14)クエン酸ナトリウム 0.5
(15)ATP産生促進剤(1μmol/Lの白金コロイド) 0.5
(16)L−アスコルビン酸
リン酸エステルマグネシウム塩*4 0.1
(17)酸化チタン 0.1
(18)香料 適量
(19)エデト酸2ナトリウム 0.03
(20)防腐剤 適量
(21)精製水 残量
*1 エーザイ社製
*2 シグマ社製
*3 和光純薬社製
*4 和光純薬社製
【0031】
例5で調製したクリームは、変色変臭、分離などがなく安定であり、肌に適用すると、滑らかな保湿感があり、連続的に適用することによりしみ、くすみなどを抑制又は改善する効果のあるものであった。
【0032】
[例6:飲料]
下記方法により、本発明のATP産生促進剤を配合した飲料を調製した。
(製法)
下記成分(1)〜(4)を混合溶解することにより安定な飲料を得た。
(成分) (%)
(1)ATP産生促進剤(1μmol/Lの白金コロイド) 0.1
(2)アスコルビン酸ナトリウム 0.1
(3)クエン酸 0.2
(4)水 残量
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のATP産生促進剤は、細胞の代謝機能改善効果を有し、抗疲労やスリミングを目的とした化粧料、健康食品、飲料に配合可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族から選択される少なくとも一種の金属のコロイドを有効成分とするATP産生促進剤。
【請求項2】
前記少なくとも一種の金属が白金である請求項1に記載のATP産生促進剤。

【公開番号】特開2008−156314(P2008−156314A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349507(P2006−349507)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【Fターム(参考)】