説明

Ag系金属粉末及びCu系金属粉末並びにその製造方法

【課題】 小さな寸法変化率と良好な延性と低い凝集性とを有する金属粉末を提供する。
【解決手段】 水ジェットカーテンの噴射水流を噴射させる環状噴射スリット2を下向きに配置して中心軸に沿って溶融金属流を流下させる工程と、噴射水流が通過しない水ジェットカーテンの括れ状空洞7が形成されるように下降角度θと旋回角度ωとを有する向きへ水を噴射させる工程とを備えて一葉双曲面状水ジェットカーテンの噴射水流12を発生させて金属粉末を製造する水アトマイズ法を採用し、下降角度θを0〜30°、旋回角度ωを1〜20°とし、水の圧力を90〜150MPa及び水の流量を300〜800L/minとし、50%径が0.1〜5μm、球形度が0.6〜0.9、粒度幅指数が1以下、比酸素量が0.5〜7mg/m2、比水分量が1mg/m2以下である金属粉末を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路設計用や電子材料用の導電ペースト、マイクロMIM、微細な形状を有する部品の造形用及びダイヤモンド工具用バインダー等に用いられるAg系(Ag又はAgベース合金)の金属粉末及びCu系(Cu又はCuベース合金)の金属粉末並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、Ag又はAgベース合金の金属粉末やCu又はCuベース合金の金属粉末は、充填性の高い5μm以下の微細球状粉末のものにおいて需要が増大しており、平均粒径が0.5〜5μm、真球度が0.7〜0.85、酸素量が500〜3000ppmである金属粉末が提案され(特許文献1)、微細な擬球形で粒度分布の幅が狭い金属粉末を効率よく製造する方法として、流下する溶融金属流に向けて1°≦ω≦20°の旋回角度ωおよび5°≦θ≦60°の下降角度θで溶融金属流を一葉双曲面状に取り囲むように連続的に放出させて一葉双曲面状括れ部の近傍の圧力を50〜750mmHgに減圧する金属粉末製造方法(特許文献2)が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−8930号公報
【特許文献2】国際公開WO00/38865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、近年、粒径が5μm以下でかつ小さい寸法変化率と良好な延性との焼結特性を両立させた金属粉末が必要とされているが、前記金属粉末では、粉末の50%径(メジアン径)が5μm以下になると非常に凝集しやすく、この凝集を抑制するにはさらなる製造費が嵩むという問題点があった。また、寸法変化率が小さいことと延性を有していることとは互いに相反する特性であるため、延びや曲げに対して軟らかく破壊しにくい延性を得られるように焼結すれば、おのずと寸法変化率が大きくなり、当該両特性を満足させる金属粉末を得ることは困難であった。
【0005】
また、前記特許文献1に開示されている金属粉末の真球度は平均粒径と比表面積とから計算されているが、比表面積は一般に金属粉末の平均粒径が小さくなればそれに従って大きくなるので、当該金属粉末の酸素量は粉末全体に対する含有量として捉えられており、比表面積が大きいほど酸素含有量は多くなるが、酸素量は個々の粉末によるものであるから、粉末全体に対する酸素量では、金属粉末の特性を正確には表現できないという問題点があった。
【0006】
そのため、前記従来の金属粉末を回路設計用や電子材料用の導電ペーストに使用した場合、焼結体の寸法変化及び寸法バラツキが大きくなり、延性が劣る等の問題が発生していた。また、導電ペースト用として回路基板にスクリーン印刷しこれを焼成した場合、接合している基板の歪みが大きくなって回路に亀裂が入る問題やセラミックス基板と接合している隙間が広がって気密性を保つことができないという問題や高周波導電率が低くなる等の問題が発生していた。また、マイクロMIMや造形用の粘土等に使用した場合、収縮により微細なコーナー亀裂が入る問題や延性が悪い等の不具合が発生していた。さらに、ダイヤモンド工具用に使用した場合においてもバインダー層の延性が低下する問題やダイヤモンド粒子と金属粉末の隙間が開きやすいことでダイヤモンド粒子が脱落しやすくなり最終的にダイヤモンド工具の寿命が短くなるという問題が発生していた。
【0007】
そこで、本発明者は、電子材料用のみならず微細な形状の部品の造形用やダイヤモンド工具用等の用途に需要が増大しつつある50%径が5μm以下の微粉金属粉末に対して、小さな寸法変化率と良好な延性、さらには低い凝集性を満足させる金属粉末を得ることを技術的課題として、その具現化をはかるべく研究・実験を重ねた。
【0008】
先ず、5μm以下のAg及びCu金属粉末において球形に近い粉末が得られる条件を検討した。
【0009】
前記5μm以下の球形に近い金属粉末は、水アトマイズ法における環状噴射スリットの縦断面側面図である図1、図1に図示する環状噴射スリットから噴射される一葉双曲面状水ジェットカーテンの下降角度θを説明する図2及び同じく旋回角度ωを説明する図3に図示すように、水ジェットカーテンの噴射水流1を噴射させる環状噴射スリット2を下向きに配置して当該環状噴射スリット2を面位置3とする内包面4中央を該内包面4に対して直角に上下方向へ走る中心軸5に沿って溶融金属流6を流下させる工程と、当該環状噴射スリット2に対して高圧水流を供給して前記噴射水流1が通過しない水ジェットカーテンの括れ状空洞7が形成されるように環状噴射スリット2の一部位8から前記中心軸5と平行に下ろした垂線9(内包面4に対して直角)に対する前記溶融金属流6への振れ角である下降角度θと前記一部位8から前記内包面4に投影された前記括れ状空洞7への接線10と前記一部位8から前記中心軸5を横切る環状噴射スリット2の径11とが成す角である旋回角度ωとを有する向きへ水を噴射させる工程とを備えて一葉双曲面状水ジェットカーテン12の噴射水流1を発生させて金属粉末を得る水アトマイズ法を採用して製造した。
【0010】
前記水アトマイズ法におけるアトマイズ条件である噴射水流1の水の圧力及び流量、旋回角度ω、下降角度θについて検討した結果、表1のように旋回角度ωが0°では、球形度は0.6以下であるが、1°以上では球形度が0.6以上となっており、旋回角度ωと球形度とには関連性があることを確認した。
【0011】
【表1】

【0012】
また、前記旋回角度ωが1〜20°、前記下降角度θが0〜30°、前記水の圧力が90〜150MPa、前記水の流量が300〜800L(リットル)/minの時に50%径が0.1〜5μmでかつ球形度が0.6〜0.9であるAg及びCu金属粉末を得られることを確認した(表3及び表4参照)。
【0013】
次に、得られた金属粉末についてその粉末特性と焼結特性との関係について検討した。
【0014】
金属粉末は50%径が小さいほど低温で焼結するため、各50%径の金属粉末について焼結温度を変えて実験を行った。Cu粉末は大気中では酸化が進行するので窒素中(N2)の焼結とし、Ag粉末は従来の焼結法にならって大気中(Air)の焼結とした。その結果、同程度の比表面積において、小さい寸法変化率で延性の良好な(曲げ角の大きな)粉末は寸法変化率が大きく延性が劣っている(曲げ角が小さい)粉末より酸素量や水分量がかなり少ないことを確認した(表3及び表4参照)。また、50%径が2μm以下になると急激に比表面積が大きくなって酸素量及び水分量とも急激に増加するので、特に微細な粉末は酸素量や水分量の数値のみで粉末を評価することは不適当であることを確認できた。そこで、単位表面積当りの酸素量と水分量とを得るために、酸素量と水分量とを粉末の比表面積で除したところ、粉末の焼結性が良好なものはその各数値が酸素量においては0.5〜7mg/m2(Ag粉末では0.5〜2mg/m2、Cu粉末では2〜7mg/m2)にあることを確認した(表3及び表4参照)。そこで、単位表面積当りの酸素量を比酸素量、単位表面積当りの水分量を比水分量として粉末特性を表現する値とした。
【0015】
前記比酸素量と前記水アトマイズ法における水の流量及び溶融金属の流量との関係について検討した。
【0016】
水の流量と溶湯の流量との比(水の流量/溶湯の流量)を水溶湯比として該水溶湯比と比酸素量との値によりアトマイズの能力を評価した。その結果、表2に示すように、Cuにおいては水溶湯比が小さい場合に明らかに酸素量が増加し、Agでは水溶湯比が小さいものにおいて比酸素量が少し高い傾向にあった。これにより、金属粉末の酸素量を上げないためには水溶湯比が40以上であることが好ましく、水溶湯比が小さくなると粉末の比酸素量が増加する傾向にあることを確認した。
【0017】
【表2】

【0018】
また、以上の検討結果から寸法変化率が小さく延性が大きい良好な焼結特性の金属粉末としては、0.1〜5μmの範囲であることが好ましいことを確認し、より低温で焼結できるためには0.1〜3μm、さらに好ましくは0.1〜1μmであり、さらなる低温でも焼結できるためには0.1〜0.5μmが好ましいことを確認し、50%径が5μmを超えると焼結温度が900℃以上と高くなり、また、0.1μm未満では粒子が非常に微細で比表面積が大きくなりすぎるので、常温域でも焼結が始まる可能性があり、凝集も発生しやすくなるため前記各用途には不向きであることを確認した(表3及び表4参照)。
【0019】
また、金属粉末の形状は、実際の粉末と同等形状の球の比表面積と、粉末の実際の比表面積との比で表される球形度を採用して表した。粉末の径はレーザー回折散乱法を採用し、実際の比表面積の測定はBET法を採用して算出した。その結果、BET法では粉末粒子の表面の微細な凹凸による比表面積も測定してしまい、電子顕微鏡で観察して非常に球に近い粉末であったものでも球形度0.9を超える数値は実際には観察されないことを確認し、また、球形度0.6未満では形状が好ましくなく焼結後の収縮においても延性が得られないことを確認した。これにより、0.6〜0.9の範囲の球形度が良好であることを得た。
【0020】
次に、集合体としての金属粉末の分布状態を数値で表現する方法について検討した。
【0021】
金属粉末の粒度の幅に関しては幾何標準偏差が採用されているが、粉末の粒度分布が対数正規確率分布に従うとした場合に分布を近似直線の傾きで表現するため実状を表現しにくい面があった。実際の粉末は正規確率分布とならない場合が多い上に分布に偏りがある場合も多く、分布の裾の広がりにも微粉側と粗粉側で差が見られる場合が多々ある。そこで、粉末の粒度分布の広がりを直接表現するために、図4に示す横軸に粒度(μm)をとり縦軸に頻度(%)をとった粒度分布曲線に基づき、分布の両端に近い5%径と95%径を読み取り、分布の粒度目盛りに多く使われている対数での表記を参考に5%径と95%径との対数をとり、その差を求めることで粒度分布の広がりを表すことを試みたところ、5%径がAμm 、95%径がBμmである場合、log(B)−log(A)、即ち、log(B/A)により得られる数値(粒度幅指数)は、粉末の50%径によらず単純に粒度幅を表現でき、50%径が0.1μm〜5μmのいずれにあってもその幅を相対値によって表現できることを確認した。その結果、粒度分布の5%径と95%径間に存在する粉末粒度の幅、即ち、この間における粒度分布の広がりを相対的に表した粒度幅指数が1を超える場合は1以下の場合に比較してその焼結体の寸法変化も大きく、延性は低い傾向にあった。従って、寸法変化率を小さく延性を高くしようとすれば、1以下が好ましいことを確認した(表3及び表4参照)。
【0022】
前記球形度と粒度幅指数との関係では、粒度幅指数が1以下で粒度幅が小さいものの方が球形度が高い傾向が見られ、50%径の測定が体積基準のため、同じ50%径であっても粒度幅が広いものは個数の少ない粗粉に対して数多くの微粉を含有していることになり、比表面積が増大する傾向があると考えられる。実際に粒度幅が小さいものにおいて球形度が高い傾向が観察された。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記各研究・実験結果より、前記技術的課題は、次の通りの本発明によって解決できる。
【0024】
即ち、本発明に係るAg系金属粉末は、50%径が0.1〜5μm、球形度が0.6〜0.9、5%径と95%径間における粒度分布の広がり相対値を表す粒度幅指数が1以下、単位表面積当りの酸素量を表す比酸素量が0.5〜7mg/m2、単位表面積当りの水分量を表す比水分量が1mg/m2以下の金属粉末である。
【0025】
また、本発明に係るCu系金属粉末は、50%径が0.1〜5μm、球形度が0.6〜0.9、5%径と95%径間における粒度分布の広がり相対値を表す粒度幅指数が1以下、単位表面積当りの酸素量を表す比酸素量が0.5〜7mg/m2、単位表面積当りの水分量を表す比水分量が1mg/m2以下の金属粉末である。
【0026】
また、本発明に係るAg系金属粉末の製造方法は、水ジェットカーテンの噴射水流を噴射させる環状噴射スリットを下向きに配置して当該環状噴射スリットを面位置とする内包面中央を上下方向へ走る中心軸に沿って溶融金属流を流下させる工程と当該環状噴射スリットに対して高圧水流を供給して前記噴射水流が通過しない水ジェットカーテンの括れ状空洞が形成されるように環状噴射スリットの一部位から前記中心軸と平行に下ろした垂線に対する前記溶融金属流への振れ角である下降角度θと前記一部位から前記内包面に投影された前記括れ状空洞への接線と前記一部位から前記中心軸を横切る環状噴射スリットの径とが成す角である旋回角度ωとを有する向きへ水を噴射させる工程とを備えて一葉双曲面状水ジェットカーテンの噴射水流を発生させて金属粉末を製造する水アトマイズ法を採用し、前記下降角度θを0〜30°、前記旋回角度ωを1〜20°とし、水の圧力を90〜150MPa及び水の流量を300〜800L/minとして水を噴射させてAg系金属粉末を製造し、当該Ag系金属粉末を分級して50%径が0.1〜5μm、球形度が0.6〜0.9、5%径と95%径間における粒度分布の広がり相対値を表す粒度幅指数が1以下、単位表面積当りの酸素量を表す比酸素量が0.5〜7mg/m2、単位表面積当りの水分量を表す比水分量が1mg/m2以下である金属粉末を得るものである。
【0027】
さらに、本発明に係るCu系金属粉末の製造方法は、水ジェットカーテンの噴射水流を噴射させる環状噴射スリットを下向きに配置して当該環状噴射スリットを面位置とする内包面中央を上下方向へ走る中心軸に沿って溶融金属流を流下させる工程と当該環状噴射スリットに対して高圧水流を供給して前記噴射水流が通過しない水ジェットカーテンの括れ状空洞が形成されるように環状噴射スリットの一部位から前記中心軸と平行に下ろした垂線に対する前記溶融金属流への振れ角である下降角度θと前記一部位から前記内包面に投影された前記括れ状空洞への接線と前記一部位から前記中心軸を横切る環状噴射スリットの径とが成す角である旋回角度ωとを有する向きへ水を噴射させる工程とを備えて一葉双曲面状水ジェットカーテンの噴射水流を発生させて金属粉末を製造する水アトマイズ法を採用し、前記下降角度θを0〜30°、前記旋回角度ωを1〜20°とし、水の圧力を90〜150MPa及び水の流量を300〜800L/minとして水を噴射させてCu系金属粉末を製造し、当該Cu系金属粉末を分級して50%径が0.1〜5μm、球形度が0.6〜0.9、5%径と95%径間における粒度分布の広がり相対値を表す粒度幅指数が1以下、単位表面積当りの酸素量を表す比酸素量が0.5〜7mg/m2、単位表面積当りの水分量を表す比水分量が1mg/m2以下である金属粉末を得るものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、50%径が0.1〜5μm、球形度が0.6〜0.9、粒度幅指数が1以下、比酸素量が0.5〜7mg/m2及び比水分量が1mg/m2以下のAg系及びCu系金属粉末を提供できるので、従来の金属粉末より凝集性が低く、小さな寸法変化率を示し、90°曲げても破断しない優れた延性を持つ焼結体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図4を参照して説明する。
【0030】
100は一葉双曲面状水ジェットカーテン12の噴射水流1を発生させてAg系又はCu系金属粉末を製造する水アトマイズ装置であり(図1参照)、1は水ジェットカーテンの噴射水流、2は噴出口を下向きに向けて配置した、噴射水流1を噴射させる環状噴射スリット、3は環状噴射スリット2の仮想上の面位置平面、4は円形環状噴射スリット2によって囲まれた面位置3の仮想上の円形内包面、5は内包面4中央を該内包面4に対して直角に上下方向へ走る仮想上の中心軸、6は中心軸5に沿って流下する溶融金属流、7は一葉双曲面状水ジェットカーテン12の噴射水流1が通過しない括れ状空洞、8は環状噴射スリット2の各一部位、9は一部位8から前記中心軸5と平行に下ろした仮想上の垂線(内包面4に対して直角)、10は一部位8から内包面4に投影された括れ状空洞7へ引いた仮想上の接線、11は一部位8から中心軸5を横切る環状噴射スリット2の仮想上の径である。そして、下降角度θは垂線9に対する溶融金属流6への振れ角、旋回角度ωは接線10と径11とが成す角である。
【0031】
前記水アトマイズ装置100は、水ジェットカーテンの噴射水流1を噴射させる環状噴射スリット2を下向きに配置して当該環状噴射スリット2を面位置3とする内包面4中央を上下方向へ走る中心軸5に沿って溶融金属流6を流下させる工程と、当該環状噴射スリット2に対して高圧水流を供給して前記噴射水流1が通過しない水ジェットカーテンの括れ状空洞7が形成されるように前記下降角度θと前記旋回角度ωとを有する向きへ水を噴射させる工程とにより、一葉双曲面状水ジェットカーテン12の噴射水流1を発生させて前記金属粉末を製造している。
【0032】
前記水アトマイズ法を採用して前記下降角度θを0〜30°、前記旋回角度ωを1〜20°とし、水の圧力を90〜150MPa及び水の流量を300〜800L/minとして水を噴射させて金属粉末を製造し、当該金属粉末を分級して50%径が0.1〜5μm、球形度が0.6〜0.9、5%径と95%径間における粒度分布の広がり相対値を表す粒度幅指数が1以下、単位表面積当りの酸素量を表す比酸素量が0.5〜7mg/m2、単位表面積当りの水分量を表す比水分量が1mg/m2以下である金属粉末を得る。
【0033】
前記水アトマイズ法によれば、吸引するガスとその後の高速水ジェットによって溶融金属流6を微細に粉砕することができ、一葉双曲面状水ジェットカーテン12によって粒子同士の衝突を大きく減少でき、これにより、得られる金属粉末の形状を球形に近いものにすることができ、微細化が可能になる。また、衝突を減少させながらも分裂した微細な溶融液滴を一葉双曲面で取り囲むように急速に冷却するので、内蔵する酸素量はもとより表面の酸素量も低く抑えることができ、合わせて比酸素量の低い粉末を得ることができる。
【0034】
前記下降角度θは、垂線9が内包面4に対して直角に走っているので、0°以上であり、0°〜30°の範囲であれば良好にアトマイズできる。しかし、30°を超えればエゼクター効果が十分に発揮できず、吸引するガスの流量が不十分となり一次分裂が不十分で粉末は粗くなり、さらに、50%径が粗くなると共に、球形度が低下するので好ましくない。また、前記旋回角度ωは、1°以上で一葉双曲面状のジェットの特徴である衝突の減少が見られ、旋回角度ωを20°を超えて得ることは困難である。
【0035】
前記噴射水流1の水の圧力は、90MPa以上で微細な金属粉末の収率を高めることができ、150MPaを超える圧力ではエネルギー効率が低下してロスが大きくなるので、好ましくない。また、水の流量は、一葉双曲面状水ジェットカーテン12を発生させるには300L/min以上必要であり、多いほど好ましいが800L/minを超える流量では脱水処理、水の後処理、ポンプの容量等から無駄が多くなり、好ましくない。
【0036】
前記比酸素量は、0.5〜7mg/m2(Agベース合金を含むAg系金属粉末、Cuベース合金を含むCu系金属粉末)が良好であるが、Ag粉末の場合は0.5〜2mg/m2、酸化しやすいCu粉末の場合は2〜7mg/m2の範囲であることが好ましい。比酸素量が7mg/m2を超えれば、酸化膜の厚さの増加により、焼結性が低下し、延性が上昇せず、焼結体が脆く破損しやすくなるので、好ましくない。また、比酸素量が0.5mg/m2未満、あるいは、Cu粉末において比酸素量が2mg/m2未満では、樹脂と混練してペースト化して使用する場合にペースト中のC(カーボン)残留物を燃焼させて除去することができないので好ましくない。
【0037】
前記比水分量は、1mg/m2を超えれば、異常な寸法変化や保管中の酸化・凝集を誘発するので好ましくない。
【0038】
なお、前記水アトマイズ装置100において、環状噴射スリット2の形状は円形の外、楕円形や三角形等の角形であってもよく、環状噴射スリット2が傾いて配置されている場合には、前記中心軸5が走る上下方向は内包面4に対して直角方向であるから、傾きを持った上下方向となり、溶融金属流6は中心軸5に沿って傾きを有して流下される。また、前記接線10は、内包面4に投影した空洞7が厚みを有している場合には空洞7の内円又は外円に対して引いた接線である。
【実施例】
【0039】
実施例1〜10、比較例1〜8.
【0040】
図1〜図3に示す水アトマイズ法を採用して表3及び表4に示す条件にてCu金属粉末(実施例1〜5、比較例1〜4)とAg金属粉末(実施例6〜10、比較例5〜8)とを得た。
【0041】
前記各金属粉末の5%径、50%径及び95%径は日機装株式会社製のマイクロトラックを使用してレーザー回折散乱法(体積%)を採用して測定した。また、比表面積はBET法による測定結果を採用した。球形度は50%径から計算できる真球の比表面積とBET法による比表面積との比により算出した。粒度幅指数はlog(95%径)−log(5%径)により算出した。例えば、実施例1では、粒度幅指数=log(0.78)−log(0.13)=−0.108−(−0.886)=0.778となり、粒度幅指数が小さいほど粒度の広がりが小さいこと、即ち、粒度幅が狭いことを示す。また、酸素量は高温でCと反応することで発生したCOガスの赤外線検出法に従って測定した。水分量はカールフィッシャー法により測定した数値によった。なお、分級は粉末毎に目標に応じた分級機で粉末毎に行った。
【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
表中の粉末の凝集性において、「◎」は粒状の凝集がほとんどない状態、「○」は粒状の凝集は有るが均一に分散している状態、「△」は不規則な弱い凝集がある状態、「×」は不規則な強い凝集がある状態を示す。
【0045】
寸法変化率と延性は各粉末を5MPaで厚さ約1.5×幅12×長さ30mmに成形し、表3及び表4に示す各温度、各雰囲気中で30分間焼結した後、折り曲げ試験を行った。焼結の前後での寸法変化を測定して寸法変化率を算出し、破断するまでの角度を測定して延性を判断した。表中、曲げ角90°は、90°でも破断しなかったことを表す。なお、粉末は微細なほど低い温度で焼結が進行するので、適正な焼結温度は各メジアン径で異なることから、メジアン径によって焼結温度を変更した。
【0046】
表3及び表4によれば、50%径が0.1〜5μm、球形度が0.6〜0.9、粒度幅指数が1以下、比酸素量が0.5〜7mg/m2及び比水分量が1mg/m2以下の金属粉末を焼結した場合に小さい寸法変化率と高い延性を兼ね備えた粉末が得られていた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、小さな寸法変化率と良好な延性、さらには低い凝集性を満足させる金属粉末であるから、回路設計用や電子材料用の導電ペースト、マイクロMIMや造形用の粘土等、ダイヤモンド工具用バインダー等に利用できる。
【0048】
従って、本発明の産業上利用性は非常に高いといえる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】水アトマイズ法における環状噴射スリットの縦断面側面図である。
【図2】図1に図示する環状噴射スリットから噴射される一葉双曲面状水ジェットカーテンの降下角度θを説明する図である。
【図3】図1に図示する環状噴射スリットから噴射される一葉双曲面状水ジェットカーテンの旋回角度ωを説明する図である。
【図4】粒度分布曲線のグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1 噴射水流
2 環状噴射スリット
3 面位置
4 内包面
5 中心軸
6 溶融金属流
7 括れ状空洞
8 一部位
9 垂線
10 接線
11 径
12 一葉双曲面状水ジェットカーテン
100 水アトマイズ装置
θ 下降角度
ω 旋回角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50%径が0.1〜5μm、球形度が0.6〜0.9、5%径と95%径間における粒度分布の広がり相対値を表す粒度幅指数が1以下、単位表面積当りの酸素量を表す比酸素量が0.5〜7mg/m2、単位表面積当りの水分量を表す比水分量が1mg/m2以下であるAg系金属粉末。
【請求項2】
50%径が0.1〜5μm、球形度が0.6〜0.9、5%径と95%径間における粒度分布の広がり相対値を表す粒度幅指数が1以下、単位表面積当りの酸素量を表す比酸素量が0.5〜7mg/m2、単位表面積当りの水分量を表す比水分量が1mg/m2以下であるCu系金属粉末。
【請求項3】
水ジェットカーテンの噴射水流を噴射させる環状噴射スリットを下向きに配置して当該環状噴射スリットを面位置とする内包面中央を上下方向へ走る中心軸に沿って溶融金属流を流下させる工程と当該環状噴射スリットに対して高圧水流を供給して前記噴射水流が通過しない水ジェットカーテンの括れ状空洞が形成されるように環状噴射スリットの一部位から前記中心軸と平行に下ろした垂線に対する前記溶融金属流への振れ角である下降角度θと前記一部位から前記内包面に投影された前記括れ状空洞への接線と前記一部位から前記中心軸を横切る環状噴射スリットの径とが成す角である旋回角度ωとを有する向きへ水を噴射させる工程とを備えて一葉双曲面状水ジェットカーテンの噴射水流を発生させて金属粉末を製造する水アトマイズ法を採用し、前記下降角度θを0〜30°、前記旋回角度ωを1〜20°とし、水の圧力を90〜150MPa及び水の流量を300〜800L/minとして水を噴射させてAg系金属粉末を製造し、当該Ag系金属粉末を分級して50%径が0.1〜5μm、球形度が0.6〜0.9、5%径と95%径間における粒度分布の広がり相対値を表す粒度幅指数が1以下、単位表面積当りの酸素量を表す比酸素量が0.5〜7mg/m2、単位表面積当りの水分量を表す比水分量が1mg/m2以下である金属粉末を得ることを特徴とするAg系金属粉末の製造方法。
【請求項4】
水ジェットカーテンの噴射水流を噴射させる環状噴射スリットを下向きに配置して当該環状噴射スリットを面位置とする内包面中央を上下方向へ走る中心軸に沿って溶融金属流を流下させる工程と当該環状噴射スリットに対して高圧水流を供給して前記噴射水流が通過しない水ジェットカーテンの括れ状空洞が形成されるように環状噴射スリットの一部位から前記中心軸と平行に下ろした垂線に対する前記溶融金属流への振れ角である下降角度θと前記一部位から前記内包面に投影された前記括れ状空洞への接線と前記一部位から前記中心軸を横切る環状噴射スリットの径とが成す角である旋回角度ωとを有する向きへ水を噴射させる工程とを備えて一葉双曲面状水ジェットカーテンの噴射水流を発生させて金属粉末を製造する水アトマイズ法を採用し、前記下降角度θを0〜30°、前記旋回角度ωを1〜20°とし、水の圧力を90〜150MPa及び水の流量を300〜800L/minとして水を噴射させてCu系金属粉末を製造し、当該Cu系金属粉末を分級して50%径が0.1〜5μm、球形度が0.6〜0.9、5%径と95%径間における粒度分布の広がり相対値を表す粒度幅指数が1以下、単位表面積当りの酸素量を表す比酸素量が0.5〜7mg/m2、単位表面積当りの水分量を表す比水分量が1mg/m2以下である金属粉末を得ることを特徴とするCu系金属粉末の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−84906(P2007−84906A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278180(P2005−278180)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000239426)福田金属箔粉工業株式会社 (83)
【Fターム(参考)】