説明

B7−2分子またはMHCクラスII分子等の抗原提示関連分子の細胞表面における発現を負に制御する哺乳類由来の新規タンパク質とその利用

本発明者によってクローニングされたヒトc−MIRは、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスのK3,K5蛋白といったウイルス蛋白の機能類似分子である、免疫抑制機能を持ったヒトホモログ等の哺乳類由来の新規タンパク質であり、その機能解析の結果、抗原提示関連分子であるB7−2分子さらにMHCクラスII分子の細胞表面における発現を抑制する免疫抑制作用が認められた。よって、c−MIRは、このような免疫抑制作用によりヒト免疫系において抗原提示関連分子の発現を調節する因子と考えられ、新たな免疫抑制方法の開発、細胞、臓器移植の際の拒絶反応の抑制、自己免疫疾患の治療、さらに新薬開発などに利用でき、医学上および産業上有用なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、B7−2分子またはMHCクラスII分子等の抗原提示関連分子の細胞表面における発現を負に制御する哺乳類由来の新規タンパク質とその利用に関するものである。
【背景技術】
ウイルスは、ヒトに感染し、巧みに免疫学的排除を回避し、持続感染、潜伏感染する。この現象は、ヘルペスウイルスや肝炎ウイルスにてよく認められるが、最近になって、(1)ウイルスの発現する蛋白が、免疫認識に重要な抗原提示関連分子(MHC等)の細胞表面における発現を抑制し、(2)これにより、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、ナチュラルキラー細胞(NK)によるウイルス認識を逃れ、ウイルスが免疫学的排除を回避し得ることが分かってきた(例えば、文献1:Immunity,2000 Sep:13(3):365−374および文献2:Journal of Virology,2000 Jun:74(11):5300−5309参照)。
より具体的には、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)のK3,K5蛋白(それぞれ「MIR1」「MIR2」ともいう)、およびマウスγヘルペスウイルス−68(MHV−68)のK3蛋白といったウイルス蛋白は、E3ユビキチンリガーゼとして機能し、MHCクラスI分子の細胞表面における発現を負に制御することが分かってきた。これらのウイルス蛋白は、BKS−PHD/LAPジンクフィンガードメインと呼ばれるリガーゼ活性の触媒部位を共通に有し、このドメインを介してMHCクラスI分子をユビキチン化する。このユビキチン化は、MHCクラスI分子の迅速なエンドサイトーシスと分解を誘導する。カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスは、このようなK3,K5蛋白の作用(免疫抑制作用)によってMHCクラスI分子の細胞表面における発現を抑制し、免疫学的排除を巧みに回避する。
上記のように、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス等は、上記K3,K5蛋白といったウイルス蛋白による免疫抑制機構を有しているが、本発明者は、上記K3,K5蛋白の機能解析を進めるうち、これらウイルス蛋白をコードする遺伝子は哺乳類ゲノムに由来し、これらウイルス蛋白の機能類似分子をコードする遺伝子が哺乳類ゲノム、特にヒトゲノムにも存在しているのではないかと考えた。
そして、もしそのような免疫抑制機能を持ったヒトホモログ等を見出すことができれば、ヒトの免疫調節機構の解明に役立つばかりでなく、例えば免疫抑制を効率良く人為的に行う方法の開発などにも利用でき、さらにこの方法は、細胞、臓器移植の際の拒絶反応の抑制、自己免疫疾患の治療などに応用可能であると考えた。
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、上記K3,K5蛋白といったウイルス蛋白の機能類似分子である、免疫抑制機能を持ったヒトホモログ等の哺乳類由来の新規タンパク質を見出し、その利用方法を提供することにある。
【発明の開示】
本発明者は、上記の課題に鑑み、上記K3,K5蛋白のヒトホモログをヒトゲノムにて探索した結果、ヒトホモログとして複数の遺伝子・タンパク質を同定した。さらに詳細な機能解析を進めた結果、複数のタンパク質に免疫認識に重要な抗原提示関連分子(B7−2共刺激分子やMHCクラスII分子)の細胞表面における発現を抑制する免疫抑制作用が認められ、機能上も上記K3,K5蛋白と類似すること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、医学上または産業上有用な方法・物質として、下記A)〜P)の発明を含むものである。
A) 以下の(a)又は(b)記載の哺乳類由来のタンパク質。
(a)配列番号2、4、6、8、10、12、14、又は16に示される何れかのアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号2、4、6、8、10、12、14、又は16に示される何れかのアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、抗原提示関連分子の細胞表面における発現を負に制御するタンパク質。
B) 上記A)のタンパク質であって、抗原提示関連分子であるB7−2分子の細胞表面における発現を負に制御するタンパク質。
C) 上記B)のタンパク質であって、B7−2分子をユビキチン化するタンパク質。
D) 上記A)〜C)の何れかに記載のタンパク質であって、抗原提示関連分子であるMHCクラスII分子の細胞表面における発現を負に制御するタンパク質。
E) 上記A)〜D)の何れかに記載のタンパク質であって、ヒト又はマウス由来のE3ユビキチンリガーゼであるタンパク質。
F) 上記A)〜E)の何れかに記載のタンパク質に対する抗体。
G) 上記A)〜E)の何れかに記載のタンパク質をコードする遺伝子。
H) 上記G)の遺伝子であって、配列番号1、3、5、7、9、11、13、又は15に示される何れかの塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
I)配列番号1、3、5、7、9、11、13、又は15に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、抗原提示関連分子の細胞表面における発現を負に制御するタンパク質をコードする遺伝子。
J) 上記G)〜I)の何れかの遺伝子を含む組換え発現ベクター。
K) 上記G)〜I)の何れかのの遺伝子が導入された形質転換体。
L) 上記G)〜I)の何れかのの遺伝子における少なくとも一部の塩基配列またはその相補配列をプローブとして用いた遺伝子検出器具。
M) 上記A)〜E)の何れかに記載のタンパク質、または、上記G)又はH)の遺伝子を含む免疫抑制剤。
N) 上記A)〜E)の何れかに記載のタンパク質の作用を調節する物質のスクリーニング方法。
O) 上記A)〜E)の何れかに記載のタンパク質と同様に、抗原提示関連分子の細胞表面における発現を負に制御する作用を有する物質のスクリーニング方法。
P) 下記(1)〜(3)の何れかの物質と、下記(4)〜(7)の何れかの物質とを用いることを特徴とする上記M)又はN)記載のスクリーニング方法。
(1) 上記A)〜E)の何れかに記載のタンパク質
(2) 上記A)〜E)の何れかに記載のタンパク質の部分タンパク質であって、全長タンパク質のアミノ酸配列中、少なくともその膜貫通領域を含む部分タンパク質
(3) 上記▲1▼のタンパク質または上記▲2▼の部分タンパク質の改変体
(4) B7−2分子またはMHCクラスII分子
(5) B7−2分子またはMHCクラスII分子の改変体
(6) B7−2分子またはMHCクラスII分子の部分タンパク質であって、全長タンパク質のアミノ酸配列中、少なくともその膜貫通領域またはその近傍の細胞内領域を含む部分タンパク質
(7) 上記(6)の部分タンパク質の改変体
Q) 上記N)〜P)の何れかに記載のスクリーニング方法を用いて得られた免疫疾患治療薬。
本発明は、B7−2分子またはMHCクラスII分子の細胞表面における発現を負に制御する哺乳類由来の新規タンパク質とその利用に関するものであり、前述したとおり、新たな免疫抑制方法の開発、細胞、臓器移植の際の拒絶反応の抑制、自已免疫疾患の治療、さらに新薬開発などに利用できるほか種々の有用性を有するという効果を奏する。
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるだろう。
【図面の簡単な説明】
図1(a)は、本発明のタンパク質c−MIRのアミノ酸配列を示す図であり、図1(b)は、c−MIRが抗原提示関連分子の発現を抑制する作用を有するかフローサイトメトリー法によって調べた結果を示す図である。
図2は、c−MIRを恒常的に発現する細胞を用いて、c−MIRが抗原提示関連分子の発現を抑制する作用を有するかフローサイトメトリー法によって調べた結果を示す図である。
図3(a)〜(d)は、c−MIRによってB7−2分子の発現がどのように抑制されるのかその抑制機構を調べるために、B7−2分子の蛋白合成、分解、移動を検討した結果を示す図である。
図4(a)および図4(b)は、c−MIRによってB7−2分子が速やかにエンドサイトーシスされるかどうかを調べた結果を示す図である。
図5は、B7−2分子の膜貫通領域および細胞質領域がc−MIRを介したB7−2分子のダウンレギュレーションに十分であるかどうかを、キメラ蛋白を用いて調べた結果を示す図である。
図6(a)〜(c)は、c−MIRのBKS−PHD/LAPドメインがE3ユビキチンリガーゼ活性を持つかどうかを調べた結果を示す図である。
図7(a)〜(c)は、B7−2分子のユビキチン化が、c−MIRを介したB7−2分子のダウンレギュレーションに不可欠であるかどうかを調べた結果を示す図である。
図8(a)〜(d)は、c−MIRとB7−2分子との分子間相互作用がB7−2分子のユビキチン化およびそのダウンレギュレーションに不可欠であるかどうかを調べた結果を示す図である。
図9は、c−MIRの分子機構を説明する図である。
図10は、本発明のタンパク質HSPC240のアミノ酸配列を示す図である。
図11は、HSPC240が抗原提示関連分子の発現を抑制する作用を有するかフローサイトメトリー法によって調べた結果を示す図である。
図12(a)・(b)は、c−MIRによるMHCクラスII分子およびB7−2分子の発現抑制が抗原提示機能を抑制する結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。なお、本発明は、これに限定されるものではない。
(I)本発明のタンパク質、及びその遺伝子の構造
本発明者は、前記KSHVのK3,K5蛋白のヒトホモログの存在について調査検討を進めた結果、K3,K5蛋白の機能ドメインであるBKS−PHD/LAPジンクフィンガーモチーフを持ち、二次構造が類似するヒトホモログとして6つの遺伝子・タンパク質を同定した。
配列番号1、3、5、7、9、及び11には、それぞれ上記6つの遺伝子c−MIR、HSPC240、43171、XP−055276、CAD28529、20445の各塩基配列が、そのオープンリーディングフレーム(ORF)領域によってコードされる各アミノ酸配列と共に示される。また、上記6つの遺伝子によってそれぞれコードされるタンパク質の各アミノ酸配列が、配列番号2、4、6、8、10、及び12に示される。上記c−MIRおよびHSPC240については、それぞれ図1(a)および図10にもアミノ酸配列が示される。図1(a)中、「TM1」はc−MIRの第1膜貫通領域と、「TM2」は第2膜貫通領域と判定された領域である。BKS−PHD/LAPジンクフィンガーモチーフは、第1膜貫通領域よりもアミノ末端側に存在する。上記HSPC240については、そのBKS−PHD/LAPジンクフィンガーモチーフが図10において下線で示される。
上記c−MIRについて詳細な解析を進めた結果、後の実施例において詳述するように、その作用・性質について以下の知見が得られた。
(1)c−MIRは、抗原提示関連分子の1つであるB7−2共刺激分子(B7−2分子)をユビキチン化し、その細胞表面における発現を負に制御する。
(2)B7−2分子のユビキチン化は、B7−2分子の迅速なエンドサイトーシスとライソゾームにおける分解とを引き起こす。つまり、c−MIRは、B7−2分子をユビキチン化し、これにより、B7−2分子の迅速なエンドサイトーシスと分解とを誘導する。
(3)c−MIRは、その膜貫通領域を介してB7−2分子の膜貫通領域またはその近傍の細胞内領域に結合する。この結合がB7−2分子のユビキチン化に不可欠である。
(4)c−MIRは、さらに、他の抗原提示関連分子であるMHCクラスII分子の細胞表面における発現をも負に制御する。
(5)c−MIRは、上記K3,K5蛋白と同様にE3ユビキチンリガーゼとして機能し、そのBKS−PHD/LAPジンクフィンガードメインがリガーゼ活性を持つ触媒部位である。
このように、c−MIRには、B7−2分子さらにMHCクラスII分子の細胞表面における発現を負に制御する作用、換言すれば、これら抗原提示関連分子の発現を抑制する免疫抑制作用が認められた。よって、c−MIRは、このような免疫抑制作用によりヒト免疫系において抗原提示関連分子の発現を調節する調節因子と考えられる。
また、c−MIRの構造類似分子である上記HSPC240についても、機能解析の結果、B7−2分子の細胞表面における発現を負に制御する作用、換言すれば、抗原提示関連分子の発現を抑制する免疫抑制作用が認められた。同様に、c−MIRの構造類似分子である残り4つの分子についても抗原提示関連分子の発現を抑制する作用を有している可能性が極めて高く、本発明のタンパク質は、抗原提示関連分子の発現を抑制し、このような免疫抑制作用によりヒト免疫系において抗原提示・免疫認識を調節する調節因子ということができる。
さらに、本発明者は、上記c−MIRおよびHSPC240のマウスホモログをクローニングする共に、その機能解析を行った。配列番号13及び15には、それぞれ上記c−MIRおよびHSPC240のマウスホモログの各塩基配列が、そのオープンリーディングフレーム(ORF)領域によってコードされる各アミノ酸配列と共に示される。また、上記2つの遺伝子によってそれぞれコードされるタンパク質の各アミノ酸配列が、配列番号14及び16に示される。
上記c−MIRのマウスホモログについて、A20細胞にその遺伝子を導入し、MHCクラスI分子、MHCクラスII分子の各発現を調べた結果、MHCクラスII分子の特異的抑制が認められた。また、上記HSPC240のマウスホモログについて、A20.2J細胞にその遺伝子を導入し、B7−2分子、MHCクラスI分子、MHCクラスII分子の各発現を調べた結果、B7−2分子の特異的抑制が認められた。これらの結果より、上記c−MIRおよびHSPC240のマウスホモログについてもヒト遺伝子と同様に、抗原提示関連分子のうちの何れかの分子の発現を特異的に抑制する機能を持っていると考えられる。
さらに、c−MIRによるMHCクラスII分子およびB7−2分子の特異的抑制は、強力に抗原提示機能を抑制することも明らかとなった。それゆえ、c−MIRは過剰免疫反応を抑制している可能性が示唆される。これらはウイルス免疫回避分子の起源に興味ある視点を与えるものと考えられ、また、これらの生理機能の解明により新たな免疫制御機構が見えてくるものと考えられる。
尚、本発明のタンパク質は、上記8つの分子に限定されるものではなく、その一部が改変された変異タンパク質であってもよい。即ち、本発明のタンパク質には、(a)配列番号2、4、6、8、10、12、14、又は16に示される何れかのアミノ酸配列からなるタンパク質、のみならず、(b)配列番号2、4、6、8、10、12、14、又は16に示される何れかのアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、抗原提示関連分子の細胞表面における発現を負に制御するタンパク質、も含まれる。
上記「1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、及び/又は付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されることを意味する。このように、上記(b)のタンパク質は、上記(a)のタンパク質の変異タンパク質であり、ここにいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異タンパク質を単離精製したものであってもよい。
また、本発明に係るタンパク質は、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。このようなポリペプチドが付加される場合としては、例えば、HisやMyc、Flag等によって本発明のタンパク質がエピトープ標識されるような場合が挙げられる。
本発明の遺伝子は、上記(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子であり、配列番号1、3、5、7、9、11、13、又は15に示される何れかの塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子、およびその塩基配列の一部を改変した改変遺伝子が含まれる。
また、本発明の「遺伝子」には、DNAおよびRNAが含まれる。DNAには、例えばクローニングや化学合成技術又はそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。DNA・RNAは二本鎖でも一本鎖でもよく、一本鎖DNA・RNAは、センス鎖となるコード鎖であっても、アンチセンス鎖となるアンチコード鎖であってもよい(アンチセンス鎖は、プローブとして又はアンチセンス薬物として利用できる)。また、本発明の遺伝子配列の一部を利用して得られるsiRNAも有用である。
さらに、本発明の「遺伝子」は、上記(a)又は(b)のタンパク質をコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
さらに、本発明に係る遺伝子は、上記配列番号1、3、5、7、9、11、13、又は15に示される塩基配列をORF領域として有する遺伝子に限定されるものではなく、配列番号1、3、5、7、9、11、13、又は15に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子が含まれる。なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
上記ハイブリダイゼーションは、J.Sambrook et al.Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(ハイブリダイズし難くなる)。
(II)本発明のタンパク質、及びその遺伝子の利用方法(有用性)
B7−2分子は、抗原提示細胞(樹状細胞、B細胞等)の表面にてT細胞への抗原提示を助け、T細胞と抗原提示細胞との間の免疫シナプス形成のモジュレーターとして機能する。免疫シナプス形成はT細胞を活性化させる。また、B7−2分子によるシグナル伝達は、自己免疫疾患の進行に関係している。
本発明のタンパク質は、上記B7−2分子などの抗原提示関連分子の発現を抑制する免疫抑制作用を有し、ヒト免疫系において免疫認識に重要な抗原提示を調節する調節因子と考えられることから、本発明のタンパク質、及びその遺伝子は、ヒト免疫制御機構の解明に有用なばかりでなく、医学上および産業上種々の利用が可能である。例えば、免疫抑制剤として免疫抑制を効率良く人為的に行う方法の開発などにも利用でき、さらに、細胞、臓器移植の際の拒絶反応の抑制、自己免疫疾患の治療などに本発明のタンパク質・遺伝子は応用可能である。
また、本発明のタンパク質、及びその遺伝子の哺乳類ホモログは、モデル動物を用いた免疫抑制効果を調べる実験等に有用であり、このような哺乳類ホモログも本発明に含まれる。例えば、マウスなどの小動物を用いて拒絶反応モデルを作製し、免疫抑制効果をin vivoにて検討する実験等に有用である。実際、本発明者は、上記c−MIRおよびHSPC240のマウスホモログをクローニングし、その機能解析を行ったところ、前述のとおり、ヒト遺伝子と同様にB7−2分子またはMHCクラスII分子の発現を特異的に抑制する機能が認められた。
さらに、本発明のタンパク質、及びその遺伝子は、薬剤の候補分子(創薬ターゲット)のスクリーニングに有用である。例えば、(1)本発明のタンパク質の作用を調節する物質のスクリーニング方法、あるいは、(2)本発明のタンパク質と同様に、B7−2分子またはMHCクラスII分子等の抗原提示関連分子の細胞表面における発現を負に制御する作用を有する物質のスクリーニング方法、等に利用可能である。上記(1)の本発明のタンパク質の作用を調節する物質とは、例えば、本発明のタンパク質と標的分子(B7−2分子またはMHCクラスII分子等)との結合を阻害し、本発明のタンパク質の免疫抑制作用を阻害する物質や、あるいは反対に、本発明のタンパク質の免疫抑制作用を高める物質等が挙げられる。このような物質は、免疫疾患の治療薬や診断薬として利用可能であり、そのスクリーニング方法も本発明に含まれる。
本発明のスクリーニング方法としては、物質間の結合の有無や解離の有無を調べる従来公知の種々の方法を適用することができ、特に限定されるものではない。例えば、上記c−MIRは、その膜貫通領域を介してB7−2分子の膜貫通領域またはその近傍の細胞内領域に結合し、この結合がB7−2分子のユビキチン化に不可欠である(後の実施例参照)ことから、試験管内反応系(cell−free system)において、下記(1)〜(3)のいずれかの物質と下記(4)〜(7)のいずれかの物質とを発現させ、両分子の結合を阻害する分子等を候補分子の中からELISA法等によって検出するスクリーニング方法などが挙げられる。
(1) 上記c−MIRなどの本発明のタンパク質
(2) 本発明のタンパク質の部分タンパク質であって、全長タンパク質のアミノ酸配列中、少なくともその膜貫通領域を含む部分タンパク質
(3) 上記(1)のタンパク質または上記(2)の部分タンパク質の改変体
(4) B7−2分子またはMHCクラスII分子
(5) B7−2分子またはMHCクラスII分子の改変体
(6) B7−2分子またはMHCクラスII分子の部分タンパク質であって、全長タンパク質のアミノ酸配列中、少なくともその膜貫通領域またはその近傍の細胞内領域を含む部分タンパク質
(7) 上記▲6▼の部分タンパク質の改変体
上記「(タンパク質の)改変体」とは、当該タンパク質の1個または数個(好ましくは7個以下、より好ましくは5個以下、さらに好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された改変体をいい、当該タンパク質がHisやMyc等のタグによって標識される場合や、当該タンパク質を蛍光タンパク質(GFP・ルシフェラーゼ等)または他のタンパク質と融合させる場合、当該タンパク質にリン酸化や糖鎖結合等により修飾を施す場合などをも含む意味で用いている。
勿論、本発明のスクリーニング方法は、上記の方法に限定されるものではなく、cell−free systemでのスクリーニングではなく、培養細胞等を用いて細胞内でスクリーニングを行ってもよい。
そのほか、(1)c−MIR等の本発明のタンパク質の膜貫通領域や、B7−2分子またはMHCクラスII分子の膜貫通領域またはその近傍の細胞内領域をカラムに固定してこれと結合する物質を検索する方法や、(2)免疫沈降−免疫ブロット法を用いてc−MIRとB7−2分子またはMHCクラスII分子との結合を阻害する物質を検索する方法など、物質間の結合の有無や解離の有無を調べる従来公知の種々の方法を本発明のスクリーニング方法に適用可能である。
さらに、本発明のスクリーニング方法においては、ヒト以外のタンパク質、例えば、マウスホモログやラットホモログ、その他の生物の各ホモログを用いてスクリーニングを行ってもよい。
(III)本発明の組換え発現ベクター等
本発明の組換え発現ベクターは、前記(a)又は(b)のタンパク質をコードする本発明の遺伝子を含むものであり、例えば、配列番号1、3、5、7、9、11、13、又は15に示される何れかの塩基配列を有するcDNAが挿入された組換え発現ベクターが挙げられる。組換え発現ベクターの作製には、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。
本発明の形質転換体は、前記(a)又は(b)のタンパク質をコードする本発明の遺伝子が導入された形質転換体である。ここで、「遺伝子が導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されることを意味する。また、上記「形質転換体」とは、細胞・組織・器官のみならず、動物個体を含む意味である。対象となる動物は、特に限定されるものではないが、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラットなどの哺乳動物が例示される。特に、マウスやラット等の齧歯目動物は、実験動物・病態モデル動物として広く用いられており、なかでも近交系が多数作出されており、受精卵の培養、体外受精等の技術が整っているマウスが実験動物・病態モデル動物として好ましく、ノックアウトマウス等は、上記タンパク質c−MIRやそのホモログの更なる機能解析、これらのタンパク質が関与する病気の診断方法の開発や、その治療方法の開発などに有用である。
本発明の遺伝子検出器具は、本発明の上記遺伝子における少なくとも一部の塩基配列またはその相補配列をプローブとして用いている。遺伝子検出器具は、種々の条件下での本発明の遺伝子の発現パターンの検出・測定などに利用できる。本発明の遺伝子検出器具としては、例えば、本発明の遺伝子と特異的にハイブリダイズする上記プローブを基盤(担体)上に固定化したDNAチップ等が挙げられる。
本発明の抗体は、前記(a)又は(b)のタンパク質、またはその部分ペプチドを抗原として、公知の方法によりポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体として得られる抗体である。本発明の抗体は、本発明のタンパク質の検出・測定などに利用でき、その他、診断用・治療用などに利用できる可能性がある。
(IV)本発明に係る遺伝子、タンパク質等の取得方法
〔IV−1:遺伝子の取得方法〕
本発明に係る遺伝子を取得する方法は、特に限定されるものではなく、前述の開示された配列情報等に基づいて種々の方法により、上記各遺伝子配列を含むDNA断片を単離し、クローニングすることができる。
例えば、上記各cDNA配列の一部配列と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ヒト又はマウスのゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、上記各cDNA配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列・長さのものを用いてもよい。また、上記スクリーニングにおける各ステップについては、通常用いられる条件の下で行えばよい。
上記スクリーニングによって得られたクローンは、制限酵素地図の作成およびその塩基配列決定(シークエンシング)によって、さらに詳しく解析することができる。これらの解析によって、本発明に係る遺伝子配列を含むDNA断片を取得したか容易に確認することができる。
また、上記プローブの配列を、ヒトc−MIRおよびその類似分子の間で良好に保存されている領域(例えば、BKS−PHD/LAPジンクフィンガードメイン)の中から選択し、ヒトやマウス、その他の生物のゲノムDNA(またはcDNA)ライブラリーをスクリーニングすれば、上記c−MIRと同様の機能を有する相同分子や類縁分子をコードする遺伝子を単離しクローニングできる可能性が高い。
本発明に係る遺伝子を取得する方法は、上記スクリーニング法以外にも、PCR等の増幅手段を用いる方法がある。例えば、上記各cDNA配列のうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてヒト又はマウスのゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明に係る遺伝子を含むDNA断片を大量に取得できる。
〔IV−2:タンパク質の取得方法〕
本発明に係るタンパク質の取得する方法についても、特に限定されるものではなく、例えば、上記各cDNA配列を導入した組換え発現ベクターを作製し、周知の方法により大腸菌や酵母等の微生物又は動物細胞などに組み入れて形質転換体として、そのcDNAがコードするタンパク質を発現させ精製することで、本発明に係るタンパク質を容易に取得することができる。
尚、このように宿主に外来遺伝子を導入する場合、外来遺伝子の発現のため宿主内で機能するプロモーターを組み入れた発現ベクター及び宿主には様々なものが存在するので、目的に応じたものを選択すればよい。産生されたタンパク質を取り出す方法は、用いた宿主、タンパク質の性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のタンパク質を精製することが可能である。
変異タンパク質を作製する方法についても、特に限定されるものではなく、例えば、部位特異的突然変異誘発法(Hashimoto−Gotoh,Gene 152,271−275(1995)他)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し変異タンパク質を作製する方法、あるいはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異タンパク質作製法を用いて、上記各cDNAの塩基配列において、1またはそれ以上の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されるように改変を加えることによって作製することができる。また、変異タンパク質の作製には、市販のキット(例えば、QuikChange Site−Directed Mutagenesis Kit ストラタジーン社製)を利用してもよい。
上記のように作製された変異タンパク質が、野生型と同様の活性・機能を有する例は既に多数知られており、一方、その活性・機能に異常を来すように変異を導入し変異タンパク質を作製することも既に多く行われている。例えば、後の実施例において作製した変異タンパク質mZn c−MIR(c−MIRのBKS−PHD/LAPジンクフィンガー領域に変異を導入したタンパク質)は、標的分子をユビキチン化することができなかった。
〔IV−3:遺伝子検出器具〕
遺伝子検出器具は、本発明の遺伝子における一部の塩基配列又はその相補配列をプローブとして用いたものである。例えば、基盤(担体)上にオリゴヌクレオチド(プローブ)を固定化してなるDNAチップが挙げられる。ここで「DNAチップ」とは、主として、合成したオリゴヌクレオチドをプローブに用いる合成型DNAチップを意味するが、PCR産物などのcDNAをプローブに用いる貼り付け型DNAマイクロアレイをも包含するものとする。
プローブとして用いる配列は、cDNA配列の中から特徴的な配列を特定する従来公知の方法によって決定することができ、例えば、SAGE:Serial Analysis of Gene Expression法(Science 276:1268,1997;Cell 88:243,1997;Science 270:484,1995;Nature 389:300,1997;米国特許第5,695,937号)などを挙げることができる。
尚、DNAチップの製造には、公知の方法を採用すればよい。例えば、オリゴヌクレオチドとして合成オリゴヌクレオチドを使用する場合には、フォトリソグラフィー技術と固相法DNA合成技術との組み合わせにより、基盤上で該オリゴヌクレオチドを合成すればよい。一方、オリゴヌクレオチドとしてcDNAを用いる場合には、アレイ機を用いて基盤上に貼り付ければよい。
また、一般的なDNAチップと同様、パーフェクトマッチプローブ(オリゴヌクレオチド)と、該パーフェクトマッチプローブにおいて一塩基置換されたミスマッチプローブとを配置して遺伝子の検出精度をより向上させてもよい。さらに、異なる遺伝子を並行して検出するために、複数種のオリゴヌクレオチドを同一の基盤上に固定してDNAチップを構成してもよい。
〔IV−4:組換え発現ベクター及び形質転換体〕
組換え発現ベクターは、本発明の遺伝子を含むものである。ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、ホスト細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、ホスト細胞の種類に応じて、確実に遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明に係る遺伝子を各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。
本発明の遺伝子がホスト細胞に導入されたか否か、さらにはホスト細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。例えば、ホスト細胞中で欠失している遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと本発明の遺伝子とを含むプラスミド等を発現ベクターとしてホスト細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現から本発明の遺伝子の導入を確認することができる。あるいは、本発明に係るタンパク質を融合タンパク質として発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質GFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明に係るタンパク質をGFP融合タンパク質として発現させてもよい。
上記ホスト細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、ヒト又はマウス由来の細胞をはじめとして、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeや分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫Caenorhabditis elegans、アフリカツメガエル(Xenopas laevis)の卵母細胞、各種哺乳動物(ラット、ウサギ、ブタ、サル等)の培養細胞、あるいは、キイロショウジョウバエ、カイコガ等の昆虫の培養細胞等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
上記発現ベクターをホスト細胞に導入する方法、すなわち形質転換方法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
〔IV−5:抗体〕
抗体は、本発明のタンパク質、またはその部分ペプチドを抗原として、公知の方法によりポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体として得られる抗体である。公知の方法としては、例えば、文献(Harlowらの「Antibodies:A laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988))、岩崎らの「単クローン抗体ハイブリドーマとELISA,講談社(1991)」」に記載の方法が挙げられる。こうして作製した抗体は、本発明のタンパク質の検出に有効である。
以下、本発明のタンパク質であるc−MIR、さらにHSPC240について行った機能解析の結果について、図面を参照しながら説明する。
〔実施例1:カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)のK3,K5蛋白の機能・構造ホモログとしてのc−MIRの同定〕
セレーラゲノミクス社のデータベースから、KSHVのK3,K5蛋白のヒトホモログを検索した。その結果、アミノ酸配列全体のレベルでは、K3,K5蛋白と高い相同性を持つ配列は見つからなかったが、一つのクローンhCP36279は、K3,K5蛋白と、二次構造、BKS−PHD/LAPジンクフィンガー、および当該ジンクフィンガーの位置が共通していた。hCP36279のアミノ末端側の配列がデータベースでは欠けていたので、キャップトラッピング(cap−trapping)法を用いた5’RACE解析を行うことにより、NK細胞株YTSからhCP36279の全長アミノ酸配列を決定した。その配列を図1(a)に示す(同配列は、配列表の配列番号2にも示される)。図中、下線のTM1、TM2は、PHDhtmプログラムによって予測された膜貫通領域であり、他の下線は、BKS−PHD/LAPジンクフィンガー構造に重要なアミノ酸残基である。RT−PCR解析により、この転写産物は、BJAB細胞および293T細胞においても見出された。
本発明者は、この新規タンパク質を「cellular MIR(c−MIR)」と命名した。そして、このc−MIRとK3,K5蛋白との機能的類似性を調べるため、エレクトロポレーション法によりHisタグ付のc−MIRを一過性にBJAB細胞に発現させ、免疫認識に重要な抗原提示関連分子の細胞表面における発現をtwo−colorフローサイトメトリー法によって解析した。その結果を図1(b)に示す。
図中、MHC I、ICAM−1、B7−2は、抗原提示関連分子であり、それぞれMHCクラスI分子、ICAM−1分子、B7−2分子の表面発現レベルを調べた結果である。上記実験では、GFP−c−MIRベクターをBJAB細胞にトランスフェクションさせ、導入後24時間してから上記各分子の表面発現レベルおよびGFPの発現レベルをフローサイトメトリー法によって解析した。図の縦軸はMHCクラスI分子、ICAM−1分子、B7−2分子の表面発現レベルを、横軸はGFPの発現レベルをそれぞれ示す。
同図に示すように、c−MIRの発現が高くなるにつれてB7−2分子の細胞表面における発現は負に制御された(つまり、発現が抑制された)が、MHCクラスI分子およびICAM−1分子の発現は負に制御されなかった。また、Flagタグ付のc−MIRを発現させて調べた場合も、同様の結果が得られた(データ示さず)。
さらにc−MIRの詳細な機能解析のため、c−MIRを恒常的に過剰発現するようBJAB細胞を改変し(この細胞を以下、「c−MIR細胞」という)、種々の抗体を用いたフローサイトメトリー法によって抗原提示(免疫認識)関連分子の細胞表面における発現を検討した。その結果を図2に示す。
図中、ICAM−1、B7−2、ClassI、ClassII(DR)は、抗原提示関連分子であり、それぞれICAM−1分子、B7−2分子、MHCクラスI分子、MHCクラスII(HLA−DR)分子の表面発現レベルを調べた結果である。また図中、c−MIRは、遺伝子導入によりc−MIRを発現させた上記c−MIR細胞について調べた結果であり、Contは、そのような発現をさせていない対照用のBJAB細胞について調べた結果であり、Mergeは、両者の結果を重ね合わせたものである(c−MIR細胞の結果を白抜きで示す)。
同図に示すように、B7−2分子およびMHCクラスII分子の細胞表面における発現は顕著に負に制御されたが、MHCクラスI分子およびICAM−1分子は負に制御されなかった。このように、新規タンパク質c−MIRには、B7−2分子およびMHCクラスII分子の発現を特異的に抑制する作用が認められた。
〔実施例2:上記c−MIRはB7−2分子の迅速なエンドサイトーシスとライソゾームによる分解を誘導する〕
上記c−MIRによってB7−2分子の発現がどのように抑制されるのかその抑制機構を調べるために、B7−2分子の蛋白合成、分解、移動を検討した。そのため、BJAB細胞(Cont)およびc−MIR細胞(c−MIR)を、35Sメチオニンと35Sシステインとによって30分間パルス標識した後、所定期間(0h,1h,3h,6h)追跡した。各期間経過後、細胞を溶解し、抗B7−2抗体(上パネル)または抗MHC I抗体(下パネル)で免疫沈降した結果を図3(a)に示す。
B7−2分子はグリコシル化の程度が高いため、成熟B7−2分子は未成熟なものよりゆっくりと移動した。一方、成熟MHC I分子は未成熟なものよりゆっくり移動することはなかったが、これはおそらくグリコシル化の程度が低いためと考えられる。また、同図に示すように、追跡開始時(0時)に対照細胞(Cont)およびc−MIR細胞(c−MIR)の両細胞で観察された未成熟B7−2分子の量はほぼ同じであったが、対照細胞(Cont)では成熟B7−2分子の量は6時間まで実質的に減少しなかったのに対して、c−MIR細胞(c−MIR)では1時間後すでに成熟B7−2分子の量はかなり少なかった。この結果は、c−MIRによってB7−2分子の急速な分解が誘導されることを示すものである。
標的分子の急速な分解は、KSHVのK3,K5蛋白を発現するBJAB細胞においても観察され、この分解はライソゾームで起こることが報告されている。そこで、c−MIRによって誘導されるB7−2分子の分解がライソゾームで起こるのかどうかを検討した。実験では、c−MIR細胞を10μM bafilomycin A1で2〜4時間処理した後、抗B7−2抗体(上パネル)または抗アクチン抗体(下パネル)でイムノブロット解析に供した。その結果を図3(b)に示す。bafilomycin A1で細胞を処理すると、vacuolar H−ATPaseを阻害することによりライソゾーム内のpHが上がる。その結果、同図に示すように、B7−2蛋白の発現は安定的に増加した。
さらに、bafilomycin A1で処理した後、図3(a)の実験と同様にパルス追跡(pulse−chase)解析を行うことによって、bafilomycin A1がB7−2分子の分解を阻害する結果が得られた(図3(c)参照:図中「Bafilo+」はbafilomycin A1で処理したもの、一方「Bafilo−」は対照用のDMSOで処理したもの)。これらの結果は、c−MIRがB7−2分子を標的としてライソゾームにて分解させることを示すものである。
次に、B7−2分子の細胞内動態をEndo−H(endo−β−N−acetylglucosaminidase H)による消化実験によって調べた。B7−2分子があるグリカンで修飾されると、Endo−Hの消化に耐性となるが、それはB7−2分子が少なくとも中間ゴルジに到達していることを示している。実験では、BJAB細胞(Cont)またはc−MIR細胞(c−MIR)を35Sメチオニンと35Sシステインとによって30分間パルス標識し、15〜30分追跡した。各期間経過後、細胞を0.1%SDS含有溶解バッファーにて溶解し、抗B7−2抗体で免疫沈降した。その後、各サンプルは、Endo−H(+)またはなし(−)で消化され、SDS−PAGEによって分離された。その結果を図3(d)に示す。図中、★印はEndo−H耐性のB7−2分子を示す。同図に示すように、30分後、対照細胞およびc−MIR細胞において、Endo−H耐性のB7−2分子の量はほぼ同じであり、B7−2分子の細胞内動態はB7−2分子が中間ゴルジに達するまで影響を受けていないことがこの実験結果より示された。
上記の実験結果より、c−MIRによってB7−2分子のエンドサイトーシスが亢進する可能性が考えられた。この可能性を確かめるため、FACS(Fluorescence−activated cell sorter)−basedエンドサイトーシス解析を行った。その結果を図4(a)に示す。
上記実験では、BJAB細胞(Cont)およびc−MIR細胞(c−MIR)を4℃にてPE共役抗B7−2抗体で染色し、非結合抗体除去のためPBSで洗浄した後、37℃で10分間または30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞内へ内部化していない抗体を酸性溶液で除去し、内部化した蛍光シグナルをフローサイトメーターで測定した。これらの結果は、同図の「10」「30」と記したパネルに示される。蛍光のバックグラウンドレベルを決定するため、PE共役抗B7−2抗体で染色後、細胞の表面にある抗体を酸性溶液で除去し、バックグラウンドレベルをフローサイトメーターで測定した。この結果は、同図の「0」と記したパネルに示されると共に、「10」「30」のパネルにも太線で示される。「Pre」と記したパネルは、細胞表面にある抗体を除去する前のB7−2分子の細胞表面発現レベルを示すものである。
同図に示すように、10分間インキュベーションすると、c−MIR細胞では細胞内部への顕著な蛍光シグナルが観察された。一方、対照細胞では細胞内へのシグナルは観察されなかった。また、30分間インキュベーション後、c−MIR細胞では細胞内への蛍光シグナルに増加は認められず、対照細胞では依然として細胞内へのシグナルは観察されなかった。これらの結果は、c−MIRによって誘導されるB7−2分子の急速なエンドサイトーシスが10分以内に起こることを示すものである。また、同様の実験をMHCクラスI分子(MHC I)について行ったところ、c−MIR細胞ではMHC Iのエンドサイトーシスは亢進しなかった(データ示さず)。
さらに、c−MIRによって誘導されるB7−2分子の急速なエンドサイトーシスを確認するため、c−MIR細胞および対照細胞を37℃でFITC標識した抗B7−2抗体と2時間反応させた後、共焦点顕微鏡によってB7−2分子の局在を調べた。その結果を図4(b)に示す。同図に示すように、c−MIR細胞では細胞内にB7−2分子が観察されたが、対照細胞では観察されなかった。以上の結果は、c−MIRがB7−2分子の迅速なエンドサイトーシスを誘導することを示すものである。
〔実施例3:B7−2分子の膜貫通領域および細胞質領域が、c−MIRの標的の特異性に関係している〕
本発明者は、KSHVのK3,K5蛋白の機能に関し、CD8キメラ蛋白を用いた解析によって、標的分子の膜貫通領域および細胞質領域が、K3,K5蛋白を介した標的分子のダウンレギュレーション(発現抑制)に十分であることを以前示した。そこで、B7−2分子の同領域がc−MIRを介したB7−2分子のダウンレギュレーションに十分であるか調べるため、HLA−A2およびB7−2分子についてCD8キメラ蛋白を作製した(これらキメラ蛋白をそれぞれ「CD8/A2」「CD8/B7−2」という)。CD8/A2、CD8/B7−2は、それぞれ、CD8αの細胞外領域のカルボキシル末端にHLA−A2分子およびB7−2分子の膜貫通領域および細胞質領域を含んでいる。これらのCD8キメラ蛋白を対照用のBJAB細胞またはc−MIR細胞に発現させ、CD8の細胞表面における発現をフローサイトメトリー法によって調べた。その結果を図5に示す。
BJAB細胞表面にはCD8は発現していないため、上記の実験により標的分子のダウンレギュレーションを良好に検出できる。図5に示すように、いずれのCD8キメラ蛋白も対照用のBJAB細胞では効率良く発現した。一方、c−MIR細胞ではCD8/A2キメラ蛋白は十分発現したが、CD8/B7−2キメラ蛋白は十分な発現が見られなかった。この結果は、B7−2分子の膜貫通領域および細胞質領域が、c−MIRの標的の特異性に関与していることを示すものである。
〔実施例4:c−MIRは、E3ユビキチンリガーゼとして機能する〕
前述のように、KSHVのK3,K5蛋白については、BKS−PHD/LAPジンクフィンガーがE3ユビキチンリガーゼの機能ドメインであることが示されている。そこで、c−MIRのBKS−PHD/LAPジンクフィンガーがE3ユビキチンリガーゼ活性を持つかどうか調べるため、K3蛋白においてそのBKS−PHD/LAPジンクフィンガー(8〜57番目のアミノ酸残基)をc−MIRのもの(78〜137番目のアミノ酸残基)に置換したキメラ蛋白を作製した(このキメラ蛋白を以下「Zn MIR−K3」という)。そして、このキメラ蛋白がK3の標的分子であるMHC Iに対するリガーゼ活性を持ち、その細胞表面における発現を抑制するかどうか調べた。あわせて、c−MIRのBKS−PHD/LAPジンクフィンガー領域に変異を導入し、これをK3のBKS−PHD/LAPジンクフィンガーと置換したキメラ蛋白も作製した(このキメラ蛋白を以下「mZn MIR−K3」という)。上記の変異とは、亜鉛(Zn)結合部位の4つのシステイン(80,83,123,125番目)をセリンに置換したものである。これらのキメラ蛋白と野生型のK3蛋白をA7細胞に発現させ、MHC Iの表面発現をtwo−colorフローサイトメトリー法によって調べた。その結果を図6(a)に示す。
同図に示すように、Zn MIR−K3蛋白は、MHC Iの表面発現を十分ダウンレギュレーションした。mZn MIR−K3蛋白では、MHC Iの表面発現をダウンレギュレーションできなかったため、このダウンレギュレーションはBKS−PHD/LAPドメイン依存的といえる。この結果は、c−MIRがE3ユビキチンリガーゼ活性を持つことを示すものである。
このことをさらに確かめるため、in vitro自己ユビキチン化解析を行った。具体的には、c−MIRのBKS−PHD/LAPドメインの野生型または変異型をGSTのカルボキシル末端に融合させ、精製したこのGST融合蛋白をATP、フリーのユビキチン、E1、E2(UbcH5a)の混合物を用いて自己ユビキチン化解析に供した。その結果を図6(b)に示す。同図に示すように、野生型のBKS−PHD/LAPドメインを含むGST融合蛋白(図中、c−MIR)では、抗ユビキチン抗体(α−Ubi)により自己ユビキチン化(ub−GST)がはっきりと観察されたが、GST単独のもの(図中、GST)および変異型のBKS−PHD/LAPドメインを含むGST融合蛋白(図中、mZn c−MIR)では、自己ユビキチン化は観察されなかった。この結果は、c−MIRのBKS−PHD/LAPドメインがE3ユビキチンリガーゼ活性を持つことを示すものである。
さらに、B7−2分子がc−MIRによってユビキチン化されるか調べるため、HAで標識したユビキチンおよび野生型(wt)のc−MIR(または、BKS−PHD/LAPドメインを改変した変異型のc−MIR(mZn c−MIR))とB7−2分子とを共発現させた。そして、各細胞溶解物を抗B7−2抗体で免疫沈降した後、抗HA抗体(上段パネル)または抗B7−2抗体(中央パネル)を用いたイムノブロット解析に供した。その結果を図6(c)に示す。同図に示すように、野生型のc−MIR(図中、c−MIR)を発現させた場合、抗HA抗体および抗B7−2抗体のブロット結果は、ユビキチン化されたB7−2(ub−B7−2)をはっきりと示したが、野生型のc−MIRを発現させなかった場合(図中、Cont)および変異型のc−MIRを発現させた場合(図中、mZn c−MIR)では、ユビキチン化は観察されなかった。尚、各細胞溶解物におけるc−MIRおよびmZn c−MIRの発現量を確認するため、抗His抗体でブロットした結果を下段のパネルに示す。
以上の結果、c−MIRは、そのBKS−PHD/LAPジンクフィンガードメインを介して、B7−2分子に対するE3ユビキチンリガーゼとして機能することが示された。
〔実施例5:ユビキチン化は、c−MIRを介したB7−2分子のダウンレギュレーションに不可欠である〕
これまで、c−MIRが、▲1▼B7−2分子の細胞表面における発現の調節因子(モジュレーター)であること、▲2▼B7−2分子に対する新規E3ユビキチンリガーゼであることを示した。しかし、ユビキチン化が、B7−2分子の細胞表面における発現のダウンレギュレーションに不可欠であるかどうかは不明確である。この点を確かめるため、野生型のc−MIR(wt−c−MIR)とB7−2分子をユビキチン化できなかったmZn c−MIR変異体をエレクトロポレーション法によってBJAB細胞に一過性に発現させ、two−colorフローサイトメトリー法によってB7−2分子の細胞表面における発現を調べた。その結果を図7(a)に示す。同図に示すように、mZn c−MIRは、B7−2分子の発現を抑制しなかった。
次に、CD8キメラ蛋白を用いて次のような実験を行った。KSHVのK5蛋白は、標的分子の細胞質に位置するリジン残基をユビキチン化することが知られている。そこで、c−MIRについても同様であるか調べるため、前述のCD8/B7−2キメラ蛋白においてB7−2分子の細胞質領域に位置するリジン残基のすべてをPCRベースの変異導入法によってアルギニンに改変し、さらに、そのアミノ末端にFlagタグでエピトープ標識した(このキメラ蛋白を「B7−KR」という)。さらに、上記改変を施さないCD8/B7−2キメラ蛋白についても、Flagタグでエピトープ標識した(このキメラ蛋白を「wt−B7」という)。
上記B7−KRまたはwt−B7を、HAタグ付のユビキチンおよびc−MIRと共に293T細胞に共発現させ、図6(c)と同様の実験に供した。その結果を図7(b)に示す。同図に示すように、抗HA抗体および抗Flag抗体によるブロット解析の結果、wt−B7ではc−MIRを介したユビキチン化(図中、ub−Flag−CD8 chimera)が観察されたが、B7−KRではc−MIRを介したユビキチン化は観察されなかった。
B7−2分子のユビキチン化と、その発現抑制(ダウンレギュレーション)との関係を調べるため、wt−B7およびB7−KRをBJAB細胞(対照細胞)およびc−MIR細胞に発現させ、CD8の表面発現レベルをフローサイトメトリー法により比較した。その結果を図7(c)に示す。同図に示すように、wt−B7の発現はc−MIR細胞において抑制されたが、B7−KRの発現はc−MIR細胞において抑制されなかった。この結果は、B7−2分子の細胞質領域のリジン残基のユビキチン化がそのダウンレギュレーションに必要であることを示すものである。
〔実施例6:分子間の相互作用を通じてのB7−2分子の特異的ユビキチン化とダウンレギュレーション〕
E3ユビキチンリガーゼは、標的分子への結合を通じて機能すると考えられるので、次に、c−MIRとB7−2との分子間相互作用を調べた。図7(b)の実験に用いたwt−B7と同じ分子であるCD8−B7とc−MIRとを293T細胞に単独または共発現させた後、その細胞溶解物を抗Flag抗体で免疫沈降し、c−MIRを認識する抗V5抗体でイムノブロット解析に供した。その結果を図8(a)の上段パネルに示す。
同図に示すように、c−MIRおよびCD8−B7を共発現させた場合のみ、c−MIRに対応する特異的バンドが検出されたので、c−MIRとB7−2との分子間相互作用が確認された。また、CD8キメラ蛋白の発現量、c−MIRの発現量を、それぞれ抗Flag抗体(中央パネル)、抗V5抗体(下段パネル)で確認した。
ところで、KSHVのK3,K5蛋白については、その膜貫通領域が標的分子の膜貫通領域との結合を介して特異的ターゲッティングに関与することが報告されている。仮にc−MIRと標的分子との結合が同様であるとすれば、前記mZn c−MIR変異体は野生型の膜貫通領域を有しているので、標的分子との結合能を有すると考えられる。この仮説を確かめるため、mZn c−MIRを図8(a)と同じ実験に供した。その結果を図8(b)に示す。同図に示すように、mZn c−MIRおよびCD8−B7を共発現させた場合のみ、mZn c−MIRに対応する特異的バンドが検出された。尚、図8(a)(b)の両実験において、mZn c−MIRおよびCD8−B7の結合体のほうがc−MIRおよびCD8−B7の結合体より容易に検出されたが、これは野生型のc−MIR結合体の不安定性によるものと考えられる。
c−MIRによるB7−2分子の特異的ダウンレギュレーションが分子間の相互作用によるものか調べるため、前記CD8/A2キメラ蛋白を用いた実験を行った。CD8/A2キメラ蛋白の細胞表面における発現はc−MIR細胞においてダウンレギュレートされなかったからである(図5参照)。CD8/A2はそのアミノ末端にFlagエピトープタグを持つよう改変された(このキメラ蛋白を「CD8−A2」という)。そして、CD8−A2またはCD8−B7を293T細胞においてmZn c−MIRと共発現させ、免疫沈降−イムノブロット法によって分子間相互作用を調べた。尚、このように本実験ではmZn c−MIRを用いたが、これはc−MIR結合体の検出が容易なためである。本実験では、CD8−A2発現細胞およびCD8−B7発現細胞の各細胞溶解物を抗HA抗体または抗Flag抗体で免疫沈降し、抗V5抗体(上段)または抗Flag抗体(中央)でイムノブロット解析を行った。その結果を図8(c)に示す。両細胞の溶解物について抗V5抗体でイムノブロット解析を行った結果についてもあわせて下段に示される。
同図に示すように、CD8−B7とmZn c−MIRとは共沈降したが、CD8−A2とmZn c−MIRとは共沈降しなかった。この結果は、分子間相互作用がc−MIRを介したB7−2分子の特異的ダウンレギュレーションに不可欠であることを示すものである。
次に、分子間相互作用とユビキチン化との関係を調べるため、上記CD8−A2およびCD8−B7について図7(b)と同様の実験に供した。その結果を図8(d)に示す。同図に示すように、CD8−A2と比べてCD8−B7では十分なユビキチン化(ub−CD8 chimera)が観察された。この結果は、分子間相互作用がc−MIRを介したユビキチン化およびその後の標的分子のダウンレギュレーションに不可欠であることを示すものである。
以上の実験結果から考えられるc−MIRの分子機構を図9に示す。同図に示すように、c−MIRはB7−2分子と膜貫通部位を介して結合する。その後、PHD/LAPドメイン(PHD)に結合しているE2ユビキチンコンバーティング酵素(E2)より、ユビキチン(Ubi)がB7−2分子の細胞内領域にあるそれぞれのリジン残基(K)に輸送され、B7−2分子がユビキチン化される。ユビキチン化されたB7−2分子は、細胞表面からエンドサイトーシスされ、ライソゾームへ運ばれ分解される。
〔実施例7:上記c−MIRの機能的・構造的類似分子HSPC240〕
上記c−MIRと同族の新規ヒトE3ユビキチンリガーゼについて探索を行った結果、c−MIRの構造類似分子として5つの遺伝子・タンパク質を同定した。図10には、このうちHSPC240のアミノ酸配列が示される(配列表の配列番号4にも同配列が示される)。図中、下線はBKS−PHD/LAPジンクフィンガーモチーフを示す。このHSPC240が抗原提示関連分子の発現を抑制するかどうか調べた。具体的には、BJAB細胞にHSPC240を一過性に発現させ、MHCクラスI分子(MHC I)、MHCクラスII(MHC II/DR)分子、ICAM−1分子、B7−2分子の細胞表面における発現をフローサイトメトリー法により調べた。その結果を図11に示す。同図に示すように、HSPC240の発現によってB7−2分子の発現は顕著に抑制されたが、MHC I、MHC II、ICAM−1各分子の発現は抑制されなかった。この結果は、HSPC240が、B7−2分子の細胞表面における発現を特異的に抑制すること、および、c−MIRと同様に抗原提示関連分子の発現を抑制する作用を持つことを示すものである。
〔実施例8:c−MIRによるMHCクラスII分子およびB7−2分子の発現抑制は、強力に抗原提示機能を抑制する〕
c−MIR発現A20.2J細胞を作成し、OVA323−339特異的I−A拘束性Th1 clone,42−6A用いて、OVAまたはOVA323−339ペプチドに対する抗原提示機能をIL−2の産生を指標に調べた。図12(a)にOVAを用いた結果、図12(b)にOVA323−339ペプチドを用いた結果を示す。点線はコントロール細胞の結果を示し、実線はc−MIR過剰発現細胞の結果を示す。また、OVAは24時間、ペプチドは6時間後にELISAにて培養上清中のIL−2を測定した。この結果から明らかなように、OVAまたはOVA323−339ペプチドに対する抗原提示機能は著明な抑制が認められた。
【産業上の利用の可能性】
本発明は、B7−2分子またはMHCクラスII分子の細胞表面における発現を負に制御する哺乳類由来の新規タンパク質とその利用に関するものであり、前述したとおり、新たな免疫抑制方法の開発、細胞、臓器移植の際の拒絶反応の抑制、自己免疫疾患の治療、さらに新薬開発などに利用できるほか種々の有用性を有する。したがって、本発明は、各種医薬品産業等、広く医療の発展に寄与するものと考えられる。
【配列表】





































【図2】



【図5】




【図9】

【図10】

【図11】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)記載の哺乳類由来のタンパク質。
(a)配列番号2、4、6、8、10、12、14、又は16に示される何れかのアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号2、4、6、8、10、12、14、又は16に示される何れかのアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、抗原提示関連分子の細胞表面における発現を負に制御するタンパク質。
【請求項2】
抗原提示関連分子であるB7−2分子の細胞表面における発現を負に制御する請求の範囲1記載のタンパク質。
【請求項3】
B7−2分子をユビキチン化する請求の範囲2記載のタンパク質。
【請求項4】
抗原提示関連分子であるMHCクラスII分子の細胞表面における発現を負に制御する請求の範囲1〜3の何れか1項に記載のタンパク質。
【請求項5】
ヒト又はマウス由来のE3ユビキチンリガーゼである請求の範囲1〜4の何れか1項に記載のタンパク質。
【請求項6】
請求の範囲1〜5の何れか1項に記載のタンパク質に対する抗体。
【請求項7】
請求の範囲1〜5の何れか1項に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項8】
配列番号1、3、5、7、9、11、13、又は15に示される何れかの塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する請求の範囲7記載の遺伝子。
【請求項9】
1、3、5、7、9、11、13、又は15に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、抗原提示関連分子の細胞表面における発現を負に制御するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項10】
請求の範囲7〜9の何れか1項に記載の遺伝子を含む組換え発現ベクター。
【請求項11】
請求の範囲7〜9の何れか1項に記載の遺伝子が導入された形質転換体。
【請求項12】
請求の範囲7〜9の何れか1項に記載の遺伝子における少なくとも一部の塩基配列またはその相補配列をプローブとして用いた遺伝子検出器具。
【請求項13】
請求の範囲1〜5の何れか1項に記載のタンパク質、または、請求の範囲7〜9の何れか1項に記載の遺伝子を含む免疫抑制剤。
【請求項14】
請求の範囲1〜5の何れか1項に記載のタンパク質の作用を調節する物質のスクリーニング方法。
【請求項15】
請求の範囲1〜5の何れか1項に記載のタンパク質と同様に、抗原提示関連分子の細胞表面における発現を負に制御する作用を有する物質のスクリーニング方法。
【請求項16】
下記(1)〜(3)の何れかの物質と、下記(4)〜(7)の何れかの物質とを用いることを特徴とする請求の範囲14又は15記載のスクリーニング方法。
(1) 請求の範囲1〜5の何れか1項に記載のタンパク質
(2) 請求の範囲1〜5の何れか1項に記載のタンパク質の部分タンパク質であって、全長タンパク質のアミノ酸配列中、少なくともその膜貫通領域を含む部分タンパク質
(3) 上記(1)のタンパク質または上記(2)の部分タンパク質の改変体
(4) B7−2分子またはMHCクラスII分子
(5) B7−2分子またはMHCクラスII分子の改変体
(6) B7−2分子またはMHCクラスII分子の部分タンパク質であって、全長タンパク質のアミノ酸配列中、少なくともその膜貫通領域またはその近傍の細胞内領域を含む部分タンパク質
(7) 上記(6)の部分タンパク質の改変体
【請求項17】
請求の範囲14〜16の何れか1項に記載のスクリーニング方法を用いて得られた免疫疾患治療薬。

【国際公開番号】WO2004/061106
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564468(P2004−564468)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012173
【国際出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成14年8月24日 東京大学医科学研究所主催の「あわじ感染症・免疫国際フォーラム」において文章をもって発表
【出願人】(800000057)財団法人新産業創造研究機構 (99)
【Fターム(参考)】