説明

BBB−特異的タンパク質およびその断片を同定する方法

【課題】 BBB−特異的タンパク質またはその断片を同定できる方法を提供する。
【解決手段】 脳毛細血管の内皮細胞中のBBB−特異的タンパク質またはその断片の存在を同定する方法において、脳から単離した新鮮な脳毛細血管の内皮を通常の方法による酵素消化により前精製処理し、得られた消化物を存在する赤血球とアポトーシス細胞を実質的に破壊し脳毛細血管の内皮細胞の少なくとも70%を生きている状態で維持する溶血性緩衝液で処理し、脳毛細血管の内皮細胞とサブトラクション法に用いる組織からサブトラクション法のcDNAライブラリーを調製し、一以上のディファレンシャル・ハイブリダイゼーションによりcDNAのサブトラクション法を実施し、サブトラクション法のcDNAライブラリーからのクローンを、それら個々の発現型に関するディファレンシャル・ハイブリダイゼーションによって照合し、サブトラクション法のcDNAライブラリーからのBBB−特異的タンパク質についてcDNA配列を完成し、調査したクローンの発現パターンを、新鮮な培養した脳毛細血管の内皮細胞間で比較し、それにより、BBB−特異的タンパク質またはその断片の存在を同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳毛細血管内皮細胞(brain microvessel endothelial cells;BMEC)中のBBB−特異的タンパク質(BBB=blood brain barrier)またはその断片を同定する方法に関する。また、本発明は、この方法で得られるタンパク質またはその断片にも関する。さらに、本発明は、この方法で得られる遺伝子と転写物との双方にも関する。
【背景技術】
【0002】
脳の毛細血管の内皮細胞は、血液と器官としての脳との間に選択的透過性を有する関門、すなわち、血液脳関門(BBB)を形成する。毛細血管の個々の内皮細胞は、管腔の周囲に配置され、円筒形の管状腔を構成する。個々の内皮細胞と内皮細胞に結合する他の種類の細胞との間が密接に接合することによって、多数の物質が規制されることなく受動的にこの細胞層を通過することが防止される。
【0003】
脳は、その機能を維持するため、安定な内部環境に高度に依存している。安定な内部環境は、血液脳関門によって保証されている。これは、血液と脳との間の物質交換も制御している。特異的な輸送体が、この交換を仲介している。上記関門の形成は、脳の毛細血管の内皮細胞(brain micro-vessel endothelial cells、BMEC)における特異的タンパク質の発現により、高度に分化した細胞型である他の内皮細胞との比較によって認められている。血液脳関門に特異的なタンパク質は、既に知られている。例えば、グルコース輸送体であるGLUT−1は、BMECに特異的であって、脳のエネルギー補給を保証している。
【0004】
血液脳関門の選択的透過能の性質によっては、中枢神経系の多様な疾患の治療が困難になる場合がある。これは、多数の医薬が血液脳関門を通過することが難しく、脳におけるそれらが作用する場所に低濃度でしか到達できないからである。そのため、脳で作用する医薬を開発するためには、血液脳関門の機能モードとそこに含まれるタンパク質を知ることが非常に重要である。特に問題とされるのは、上記タンパク質の知識を得ることである。上記タンパク質は、他の種類の細胞と比較して脳毛細血管の内皮細胞が顕著に多量または顕著に少量を生産するか、またはスプライシング変異により生じるか、あるいは特異的な転写後修飾を生じる。
【0005】
脳毛細血管の内皮細胞の研究は、様々な問題を伴っている。第1に、ヒトの脳におけるタンパク質発現を研究するためには、利用できる脳の材料が充分ではない。これは、とりわけ倫理的な理由が大きい。また、普遍的な情報とするには、脳を収集する特定の個人による違いが一般に大きすぎる。例えば、年齢、性別、体重、人種その他の原因により違いが生じる。さらに、検査材料は、死後の数時間以内に除去されなければならない。この期間を過ぎると、酵素的な劣化と変性処理によって、細胞中のタンパク質組成に顕著な変化が起きるからである。加えて、脳毛細血管の内皮細胞のタンパク質発現に関する従来の方法による研究では、直接研究するために充分な純度の検査材料を得ることができなかった。公知の方法に従い脳毛細血管の内皮細胞を単離する際に、一般に他の種類の細胞と混合したものが得られ、そのような試料によるタンパク質発現パターンの研究では、その結果を脳毛細血管の内皮細胞のみに起因させるには充分ではない。
【0006】
【非特許文献1】アルツチュル,エス・エフ(Altschul, S.F.), ギシュ,ダブリュー(Gish, W.), ミラー,ダブリュー(Miller, W.),マイヤーズ,イー・ダブリュー(Myers, E.W.),およびリップマン,ディー・ジェイ(Lipman, D.J.)(1990): “ベイシック・ローカル・アラインメント・サーチ・ツール(Basic local alignment search tool)”, J. Mol. Biol. 215, 403-410.
【非特許文献2】バーンボイム,エイチ・シー(Birnboim, H.C.)およびドリー,ジェイ(Doly, J.) (1979): “組み替えプラスミドDNAをスクリーニングするための迅速なアルカリ抽出操作(A rapid alkaline extraction procedure for screening recombinant plasmid DNA)”, Nucl. Acids Res. 7: 1513-1522.
【非特許文献3】クセルゾ外(Cserzo et al.) (1997): “原核生物の細胞膜タンパク質における膜内外α−へリックスの予測;高密度配列表面法(Prediction of transmembrane alpha-helices in procariotic membrane proteins: the dense alignment surface method)”, Prot. Eng. 10: 673-676.
【非特許文献4】デリールスニジュデル,ダブリュー(Deleersnijder, W.), ホン,ジー(Hong, G.), コルトブリンズ,アール(Cortvrindt, R.), ポイリエル,シー( Poirier, C.), チルザノウスキー,ピー(Tylzanowski, P.), ピトイス,ケイ(Pittois, K.), バン,マーク,イー(Van Marck, E.), およびメルガエルト,ジェイ(Merregaert, J.) (1996): “cDNAライブラリーのサブトラクション法を用いる軟骨−骨原性分化のマーカーの単離。膜内在性タンパク質の新規な多重遺伝子族に属する遺伝子の分子クローニングと特徴付け(Isolation of markers for chondro-osteogenic differentiation using cDNA library subtraction. Molecular cloning and characterization of a gene belonging to a novel multigene family of integral membrane proteins)”, J. Biol. Chem. 271, 19475-19482.
【非特許文献5】カワマタ,エイチ(Kawamata, H.), ナカシロ,ケイ(Nakashiro, K.), ウチダ,ディー(Uchida, D.), ヒノ,エス(Hino, S.), オモテハラ,エフ(Omotehara, F.), ヨシダ,エイチ(Yoshida, H.), およびサトー,エム(Sato M. )(1998): “ヒトの唾液腺ガン細胞における新規な抗ガン剤、ベスナリノンを用いる治療におけるTSC−22の誘発(Induction of TSC-22 by treatment with a new anti-cancer drug, vesnarinone, in a human salivary gland cancer cell)”, Brit. J. Cancer 77: 71-78.
【非特許文献6】ケスター,エイチ・エイ(Kester, H.A.), ブランチェロット,シー(Blanchelot, C.), デン・ヘルトグ,ジェイ(den Hertog, J.), バン・デル・サグ,ピー・ティー(van der Saag, P.T.), およびバン・デル・ブルグ,ビー(van der Burg, B.) (1999): “形質転換成長因子βで刺激されたクローン22は、ホモまたはヘテロの二量体化が可能なロイシン・ジッパー・タンパク質群の一つであって、転写抑制活性を有する(Transforming growth factor-β-stimulated clone-22 is a member of a family of leucine zipper proteins that can homo- and hetrodimerize and has transcriptional repressor activity)”, J. Biol. Chem. 274: 27439-27447.
【非特許文献7】リー,ジェイ・ワイ(Li, J.Y.), ボード,アール・ジェイ(Boado, R.J.), およびパルドリッジ,ダブリュー・エム(Pardridge, W.M.) (2001): “血液脳関門のゲノム学(Blood-brain barrier genomics)”, J. Cereb. Blood Flow Metabol. 21, 61-68.
【非特許文献8】マービン,ケイ・ダブリュー(Marvin, K.W.), フジモト,ダブリュー(Fujimoto, W.), ジェッテン,エイ・エム(Jetten, A.M.) (1995): “PMP22関連遺伝子に伴う新生鱗状細胞の同定と特徴付け(Identification and characterization of a novel squamous cell-associated gene related to PMP22)”, J. Biol. Chem. 270, 28910-28916.
【非特許文献9】ピアソン,ダブリュー・アール(Pearson, W.R.)およびリップマン,ディー・ジェイ(Lipman, D.J.) (1988): “生物学的配列解析の改良されたツール(Improved Tools for Biological Sequence Analysis)”, PNAS 85, 2444-2448.
【非特許文献10】サムブロック,ジェイ(Sambrook, J.), フリッチュ,イー・エフ(Fritsch, E.F.), およびマニアティス・ティー(Maniatis, T.), 分子クローニング:実験マニュアル(in Molecular Clonin: A Laboratory Manual.)Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY, Vol. 1, 2, 3 (1989).
【非特許文献11】セボールド,イー(Sebald, E.), クルーガー,アール(Krueger, R.), キング,エル・エム(King, L.M.), コーン,ディー・エイチ(Cohn, D.H.), およびクラコウ・ディー(Krakow, D.) (2003): “軟骨cDNAライブラリから、ADPリボシル化類似因子遺伝子群の新規構成要素の単離(Isolation of a new member of the ADP-ribosylation like factor gene family, ARL8, from a cartilage cDNA library)”, Gene 311: 147-151.
【非特許文献12】シェブチェンコ・エイ(Shevchenko A.), スニャエブ,エス(Sunyaev S.), ロボダ・エイ(Loboda A.), シェブチェンコ・エイ(Shevchenko A.), ボーク・ピー(Bork P.), エンス・ダブリュー(Ens W.)およびスタンディング・ケイ・ジー(Standing K.G.) (2001); “MALDI四極飛行時間法マススペクトルとBLAST相同性調査による非配列ゲノムを伴う組織のプロテオームの図表化(Charting the Proteomes of Organisms with Unsequenced Genomes by MALDI-Quadrupole Time-of-Flight Mass Spectrometry and BLAST Homology Searching)”; Anal. Chem. 73: 1917-1926.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、BBB−特異的タンパク質またはその断片を、あいまいな部分がないように同定できる方法を提供することである。この方法は、脳毛細血管の内皮細胞のBBB−特異的タンパク質および遺伝子を同定するために特に適している。さらに、この方法は、簡便かつ穏やかに実施できる。その上、本発明の方法は、タンパク質またはその断片に対して選択的である。タンパク質またはその断片は、脳毛細血管の内皮細胞で主にまたは選択的に生産され、対照組織および結合している種類の細胞では生産されない。さらに、本発明の方法で同定されたタンパク質およびその断片は、血液脳関門の機能不全を伴う疾患の診断マーカーとして適している。その上、本発明の方法で同定されたタンパク質およびその断片は、血液脳関門の機能不全を伴う疾患の治療のための医薬の生産に適している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従い、上記目的は、脳毛細血管の内皮細胞中のBBB−特異的タンパク質またはその断片の存在を同定する方法であって、a)脳から単離した新鮮な脳毛細血管の内皮細胞を、通常の方法で酵素消化により前精製処理し、b)工程a)で得られた消化物を、存在する赤血球とアポトーシス細胞を実質的に破壊し、脳毛細血管の内皮細胞の少なくとも70%を生きている状態で維持する溶血性緩衝液で処理し、c)工程b)で得られた生成物を、任意にさらに精製処理し、d)脳毛細血管の内皮細胞とサブトラクション法に用いる組織から、サブトラクション法のcDNAライブラリーを調製し、e)一もしくはそれ以上のディファレンシャル・ハイブリダイゼーションにより、cDNAについてサブトラクション法を実施し、f)上記サブトラクション法のcDNAライブラリーからのクローンを、それら個々の発現パターンに関するディファレンシャル・ハイブリダイゼーションによって照合し、g)上記サブトラクション法のcDNAライブラリーからのBBB−特異的タンパク質についてcDNA配列を完成し、h)調査したクローンの発現パターンを、新鮮な培養した脳毛細血管の内皮細胞間で比較し、それにより、BBB−特異的タンパク質またはその断片の存在を同定することを特徴とする方法により達成された。
【0009】
さらに本発明は、脳毛細血管の内皮細胞中のBBB−特異的タンパク質またはその断片の存在を同定する方法であって、a)脳から単離した新鮮な脳毛細血管の内皮細胞を、通常の方法で酵素消化により前精製処理し、b)工程a)で得られた消化物を、存在する赤血球とアポトーシス細胞を実質的に破壊し、脳毛細血管の内皮細胞の少なくとも70%を生きている状態で維持する溶血性緩衝液で処理し、c)工程b)で得られた生成物を、任意にさらに精製処理し、d)工程c)で得られた生成物を、適当な緩衝液に溶解し、e)等電点電気泳動を実施し、f)等電点電気泳動からの試料を、分子量に従って二次元分離し、g)相違点を同定して、単離し、h)工程g)の単離物について、質量スペクトル分析を実施し、i)特異性のデータベース分析により、その評価を行うことを特徴とする方法に関する。
【0010】
本発明に従う方法では、BBB−特異的タンパク質またはその断片を、あいまいな部分がなく、高い信頼性で同定することができる。本発明は、この方法で単離したタンパク質に加えて、それらのタンパク質をコードする転写物と遺伝子との双方にも関する。特に本発明は、この方法で単離された配列番号5、14、19、23、27、33、53の配列を有するタンパク質にも関する。
【0011】
さらに本発明は、血液脳関門の機能不全による疾患を診断または治療するための薬剤または医薬を生産するため、本発明の方法で同定されたタンパク質およびその断片のそれぞれを使用することに関する。
【発明の効果】
【0012】
驚くべきことに、上記処理工程の組み合わせによって、脳毛細血管の内皮細胞におけるBBB−特異的タンパク質をあいまいな部分がなく同定できることが判明した。本発明に従い単離したタンパク質は、BBBに特異的である。本発明に従い単離したタンパク質は、そのBBB特異性により、BBBにおいて、BBBに対して機能する。この機能とは、例えば、関門機能、搬送機能、BBBの栄養補給に関連する機能、密着結合タンパク質としての機能、酵素活性その他である。このようにして、これらのタンパク質の存在を同定することから始めて、BBBにおけるそれらの特異的な機能を推定で特定することが可能である。これにより、BBBを通して物質を選択的に搬送できるとの事実に基づき、全く新規な治療上の概念に到達することが可能になる。さらに、本発明に従う方法で同定されたタンパク質は、特に、治療上の介入の被検になり得る。本発明に従う方法により初めて、脳に関する疾患に対する治療の概念を発展させることができる。さらに、以上のように説明した方法に従い同定されるタンパク質の変化の検出は、BBBの機能不全に基づく疾患の診断に採用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
培養したBMECに代えて、新鮮な状態で単離したBMEC(一次細胞)の使用は、本発明に従う方法において、特に重要である。驚くべきことに、培養しているBMECが非常に迅速に脱分化すること、言い換えると、それらのBBBとしての性質が非常に早く失われることが観察された。さらに、脳毛細血管の内皮細胞を培養すると、血液脳関門に特異的なタンパク質の発現は、ほんの数次の継代後に、強力なダウンレギュレーションを起こして、完全に消えてしまう。このような状況では、BMECに特異的なタンパク質について、信頼性の高い単離と同定は不可能である。そのほかに、純粋な生きた細胞を単離して、細胞の特殊性を保証し、好ましくない作用や、アポトーシス(細胞消滅)による結果であるかのように偽る作用を防止する必要がある。
【0014】
本発明に従う方法では、生きている生体の個々の器官から、手術により脳物質を除去する。その方法では、ヒト生体からの脳の試料も、例えば、脳手術により得ることができる。ただし、完全な脳またはその一部を生体から除去するのは、死の直後が好ましく、有利でもある。脳の除去は、死後1時間以内が好ましく、30分以内がより好ましく、15分以内がさらに好ましく、5分以内がさらにまた好ましい。脳は、様々な動物、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマその他から除去できる。最近では、ブタの脳が、脳毛細血管の内皮細胞の分析に関してヒトの脳の良好なモデルとなり、それらの結果をヒトに移しやすいことが知られている。
【0015】
ブタの脳は、解剖学的および形態学的な観点で、ヒトの脳に非常に類似している。さらに、タンパク質と核酸との双方の段階で、ヒトとブタとの間の配列の相同性は、一般に非常に高い。そのため、ブタの材料で得られた結果は、高い信頼性を伴って、ヒトに移すことができ、その逆も可能である。このように、ヒトとブタとは、ヒトとマウスやラットのような古典的な生体モデルよりも、系統発生学的に、より密接な関係があることが知られている。
【0016】
驚くべきことに、低張性溶血性緩衝液は、赤血球を溶血するだけではなく、一般に細胞死を招き、低張性ショックによってアポトーシス細胞を破裂させることが判明している。本発明に従う方法で使用する溶血性緩衝液は、脳毛細血管の内皮細胞を、少なくとも70%、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上維持する。さらに、溶血性緩衝液は、非毒性であり、かつ生理的な領域にpH値を有する必要がある。本発明に従い使用する低張性緩衝液は、イオン強度が0.1〜0.2Mであり、一価および二価のアニオンおよびカチオンをそれぞれ含み、7.0〜8.0のpH領域に緩衝能を有する。含まれる全ての物質が、細胞に対して無毒である。よって、健全な細胞は、短時間緩衝液中に存在するだけで損傷を受けることはない。0.1〜0.2Mのイオン強度を有する低張性緩衝液は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオンおよび硫酸イオンに加えて、グルコースを含み、7.0〜8.0のpH領域に緩衝能を有することが好ましい。これにより、赤血球と他の活力が異なる細胞との混合物から、脳毛細血管の生きた内皮細胞に富んだ部分を選択することが可能になる。本発明に従い使用する緩衝液は、7.5のpH値において、下記の組成を有することが好ましい。
【0017】
イオン/物質:最小濃度(mM)〜最大濃度(mM)
Na:30.0〜60.0
:5.0〜7.5
NH:80.0〜100.0
Ca2+:1.0〜2.0
Mg2+:6.0〜9.0
Cl:125.0〜175.0
HCO:4.5〜6.5
PO:0.5〜2.5
SO2−:0.3〜0.6
HPO2−:0.4〜0.7
グルコース:1.5〜3.0
【0018】
使用する溶血性緩衝液は、下記の組成を有することがさらに好ましい。
【0019】
NaCl:30mM〜50mM
KCl:4.5mM〜5.5mM
NHCl:80mM〜100mM
CaCl:1.0mM〜2.0mM
MgCl:0.6mM〜0.8mM
MgSO:0.3mM〜0.6mM
NaHCO:4.5mM〜6.5mM
NaHPO:0.2mM〜0.45mM
NaHPO:0.4mM〜0.65mM
KHPO:0.1mM〜0.15mM
グルコース:1.5mM〜3.0mM
【0020】
緩衝液は、下記の組成を有することが特に好ましい。
【0021】
NaCl:39mM
KCl:5.1mM
NHCl:88mM
CaCl:1.6mM
MgCl:0.69mM
MgSO:0.46mM
NaHCO:5.6mM
NaHPO:0.33mM
NaHPO:0.53mM
KHPO:0.12mM
グルコース:2.24mM
【0022】
上記のような溶血性緩衝液は、通常は、リンパ球およびリンパ球からのRNAをそれぞれ単離するため、最初にここで赤血球を溶血するために使用されている。現在に至るまで、本発明に従う緩衝液の組成や、緩衝液をアポトーシス細胞の溶血に使用することは、いずれも報告されていない。アポトーシスにおいてより強力に発現される遺伝子の転写物を同時に増幅することなく、BBB−特異的転写物を増幅するため、アポトーシス細胞の選択的な溶血は、本発明において重要な意味を有する。細胞を単離する他の方法では、アポトーシスの問題は、単離した細胞を培養することで回避している。しかし、脳毛細血管の内皮細胞は、培養中にその性質が変化し、別の遺伝子発現パターンに移行する。それゆえ、本発明に従う最終的な溶血工程を経て細胞を調製する方法により、脳毛細血管の新鮮な内皮細胞を充分な量で単離することが初めて可能になる。
【0023】
生体から脳の除去後、脳は実際的な方法で適切な緩衝液中に移し、可能な限り迅速に、冷却しながら次の処置の実験室まで搬送する。単離すべき脳毛細血管の内皮細胞は、主に灰白質に位置している。さらに細胞の精製処理を行う前に、灰白質を残りの脳の部分から機械的に切断することが有利な方法である。そのため、最初に髄膜を剥がし、灰白質を削り落とし、小さな断片に切り詰め、適当な培地に移す。適当な培地とは、例えば、M199培地(Gibco/BRL, Grand Island, NY)やアールの緩衝液(Earle’s buffer)である。実際的な方法では、さらに精製を行う前に、得られた灰白質の質量を決定する。
【0024】
アールの緩衝液(pH:7.3)
NaCl:117.2mM
KCl:5.3 mM
NaHPO×2HO:1.0mM
MgSO×7HO:0.81mM
CaCl×2HO:1.8mM
グルコース×HO:5.6mM
【0025】
本発明に従い、脳毛細血管の内皮細胞の前精製処理は、以下に述べる少なくとも二段階の酵素処理工程を経て脳物質を消化することにより実施する。第1の酵素処理工程では、脳物質を酵素のディスパーゼ(dispase)を用いて消化する。ディスパーゼによる消化は、神経組織の崩壊を起こす。灰白質1グラム当たり5mgのディスパーゼが、量として特に適していることが証明されている。実際的な方法では、ディスパーゼによる消化は、M199培地中で行われる。ただし、他の培地や緩衝液にも、この反応に適しているものがある。同様に調製したディスパーゼ溶液を灰白質の試料に加え、懸濁液を攪拌しながら37℃でインキュベートする。インキュベート時間は、2乃至4時間、好ましくは3時間が特に有利であることが証明されている。個々の場合における酵素濃度、使用する溶媒と培地のそれぞれ、およびインキュベート時間は、脳毛細血管を取り巻き結合している物質を可能な限り多量に劣化させて崩壊させるように選択すべきである。ただし、同時に条件は、各酵素処理工程において、単離すべき脳毛細血管の内皮細胞に影響が及び、細胞が死ぬ割合を可能な限り少なくし、細胞が損傷を受ける可能性を可能な限り少なくするように調節すべきでもある。
【0026】
この点に関して、結果として生じる剪断力を可能な限り小さくしておくことが重要である。これは、例えば、脳のかたまりの酵素消化を、攪拌ボトル中でゆっくり連続的に混合することで実現できる。
【0027】
最初の精製工程におけるディスパーゼ消化の後、デキストラン溶液中での遠心分離により脳毛細血管を得る。この目的のために、従来技術で公知の方法を採用できる。ディパーゼ消化による一定量の細胞懸濁液を、当量の15%デキストラン溶液と混合し、10分間振盪し、角度を固定したローター内で、10℃、8650×gにて約10分間遠心分離する方法が最適であることが実証されている。遠心分離後、上澄みを除去し、沈殿物に対して第2の酵素処理を行う。
【0028】
第2の酵素処理工程では、遠心分離の沈殿物をコラゲナーゼD(collagenase D)で消化する。コラゲナーゼDは、特に、基部の膜を溶解する。実際的な方法では、少なくとも一つのプロテアーゼ阻害剤を第2の酵素処理工程で添加する。この目的のためのプロテアーゼ阻害剤としては、p−トシル−L−リシン−クロロメチルケトンナトリウム(TLCK)が特に適している。実際的な方法では、第2の酵素処理工程を、37℃で約1時間攪拌することにより実施する。第2の酵素処理工程では、少なくとも一つのデオキシリボヌクレアーゼ(DNAse)、例えば、ベンゾナーゼ(benzonase)を使用することが特に適していることも実証されている。このようにして、死んだ細胞の消化の間に、放出されたDNAが劣化し、それとは別に懸濁液の粘度を増加させる。
【0029】
第2の酵素処理工程後、パーコール(Percoll)密度勾配遠心分離による第2の精製処理工程を実施する。密度勾配は、例えば、9.91mlのパーコール、0.72mlの10倍濃度M199培地および19.37mlのアールの緩衝液を混合し、超遠心分離機の角度固定ローター内で、4℃にて37200×gで1時間遠心分離することにより調製できる。第2の酵素処理工程からの細胞懸濁液は、例えば、低速遠心分離、上澄みの除去、遠心分離沈殿物の再懸濁を複数回繰り返すことにより洗浄(例えば、加えた酵素を除去)する。直前の遠心分離工程後、沈殿物を少量の液体、例えば、6mlのM199培地に取り、超遠心分離機のスイングアウトローター内で、4℃にて1400×gで10分間遠心分離する。パーコール密度勾配遠心分離では、懸濁した細胞物質が、その密度に従って分離される。通常は、ここに明確に区別される3種のバンドが生じる。最低の密度を有する第1の上方のバンドは、細胞の破片や断片を含む。第2の中間のバンドは、他と比較して、単離すべき脳毛細血管の内皮細胞を含む。最も高い密度を有する第3の低位バンドには、とりわけ赤血球が集まっている。
【0030】
脳毛細血管の内皮細胞を含む第2のバンドを単離し、本発明に従う次の精製処理を行う。単離は、針を用いてバンドを取り出すか、好ましくは、ピペットで吸い出すことにより実施できる。
【0031】
脳毛細血管の内皮細胞に到達する前に、パーコール密度勾配遠心分離で得られた第二のバンドの物質が、他の種類の細胞、主に赤血球とアポトーシス細胞を多数含むとの問題がある。現在まで、これらの汚染細胞を脳毛細血管の内皮細胞から穏やかな条件下で分離することは不可能であった。この問題は、驚くべきことに、リンパ球の単離に普通に用いられている溶血性緩衝液を用いて、脳毛細血管の内皮細胞をさらに精製することにより解決できることが判明した。ここで、溶血性緩衝液の組成、処理の継続時間、および処理温度は、赤血球とアポトーシス細胞がほぼ完全に破壊され、脳毛細血管の内皮細胞の大部分が生き残るように選択する。この緩衝液の利点と特徴は、既に述べた通りである。
【0032】
下記の成分を含む溶血性緩衝液が、本発明に適していることが実証されている。
【0033】
NaCl:30mM〜50mM
KCl:4.5mM〜5.5mM
NHCl:80mM〜100mM
CaCl:1.0mM〜2.0mM
MgCl:0.6mM〜0.8mM
MgSO:0.3mM〜0.6mM
NaHCO:4.5mM〜6.5mM
NaHPO:0.2mM〜0.45mM
NaHPO:0.4mM〜0.65mM
KHPO:0.1mM〜0.15mM
グルコース:1.5mM〜3.0mM
【0034】
下記の組成を有する溶血性緩衝液は、特に適している。
【0035】
NaCl:39mM
KCl:5.1mM
NHCl:88mM
CaCl:1.6mM
MgCl:0.69mM
MgSO:0.46mM
NaHCO:5.6mM
NaHPO:0.33mM
NaHPO:0.53mM
KHPO:0.12mM
グルコース:2.24mM
【0036】
溶血性緩衝液を添加後、懸濁液を混合し、低速遠心分離により繰り返して洗浄し、適当な培地および緩衝液、例えば、それぞれM199またはアールの緩衝液、に再懸濁する。精製した脳毛細血管の内皮細胞は、遠心分離で集める。
【0037】
精製した脳毛細血管の内皮細胞は、ここで、BBB−特異的タンパク質またはその断片の存在を同定するため、二つの異なる経路で処理することができる。すなわち、一方はタンパク質による経路であり、他方はゲノムによる経路である。それぞれの場合で、異なるタンパク質、その断片および転写物が、それぞれ、同定および単離することができる。以下において、双方の経路をより詳細に説明する。
【0038】
[2次元ディファレンシャルゲル電気泳動によるBBB−特異的タンパク質の同定]
遺伝子生成物の直接的な2次元比較により、脳毛細血管の内皮細胞の完全な所見が得られる。本発明に従い、対照組織を全ての電気泳動で使用する。対照組織は、血液脳関門に特異的な転写物とタンパク質とをそれぞれ選択的に同定することを可能にする組織である。原則として、全ての内皮細胞、例えば、同じ組織の大血管や小血管の内皮細胞や、他の組織(例、心臓、肺、腎臓、肝臓、大動脈他)からの内皮細胞を、対照組織として使用できる。また、培養により得られる脱分化したBMECを用いることもできる。ただし、脳毛細血管の内皮細胞に対する対照組織は、別の種類の内皮細胞を用いることが好ましい。大動脈からの内皮細胞が好ましく用いられる。大動脈の内皮細胞は、関門機能を全く示さない。それに加えて、小血管を大血管と比較できるとの利点もある。さらにまた、別の大血管の内皮細胞を用いることもできる。他の条件、例えば、pH値、成長培地、成長因子(例、サイトカイン)に関して異なる条件で培養した脳毛細血管の内皮細胞も、対照組織として適している。同定したタンパク質の生理学的な意味は、個々の対照組織に対して、脳毛細血管の内皮細胞について知られている性質から判断することができる。本発明では、二種類の明確な細胞型が好ましく使用される。一方は、関門機能を伴う細胞型である新鮮に単離されたBMECであり、他方は、BMECに類似する内皮細胞でありながら、関門機能を示さない大動脈からの内皮細胞である。特に、ブタの組織を使用することで、これらの細胞について詳細なタンパク質地図を作製できる。
【0039】
[試料調製]
最初に、調製した細胞および調製物に含まれる赤血球の部分の活力を決定する必要がある。活力の決定には、懸濁した細胞20μlを取り、フルオレセイン二酢酸が機能する溶液(アールの緩衝液中24μM)4μlおよびヨウ化プロピジウムが機能する溶液(アールの緩衝液中70μM)2μlを加える。懸濁液を混合して、37℃で10分間インキュベートする。細胞を蛍光顕微鏡で確認し、損傷した細胞に対する生きた細胞の比率を決定する。生きた細胞は、緑の蛍光(励起:450nm、放射:515nm)により認識することができる。一方、損傷した細胞は、核を起源とする赤い蛍光(励起:488nm、放射:615nm)により認識される。赤血球の部分は、ベンジジンが機能する溶液(15mMの塩酸ベンジジン、12%(v/v)の酢酸、2%(v/v)の過酸化水素)20μlを20μlの細胞懸濁液に加えることで決定される。試料は混合し、25℃で5分間インキュベートする。次に、一滴分の細胞をピペットで顕微鏡のスライドに吸い出し、カバーガラスで覆う。この試験では、透過型顕微鏡に青いクリスタルガラスを観察することにより、赤血球が確認できる。赤血球に対する内皮細胞の比率を、計数することにより決定する。生存細胞が95%以上との生存率と、赤血球の汚染率が5%未満であることを条件に、細胞を次の2次元ゲル電気泳動に使用することができる。
【0040】
新鮮に単離し、沈殿した細胞の湿潤重量を決定し、5倍容量(例えば、細胞100mgに緩衝液500μl)のpH6.8の緩衝液A(PIPESを10mM、NaClを100mM、MgClを3mM、ショ糖を300mM、EDTAを5mM、PMSFを1mM、ジギトニンを150μM)に注意深く再懸濁する。次に、細胞懸濁液をわずかに振盪しながら、氷冷下で20分間インキュベートする。続いて、遠心分離(480×g、4℃、10分間)を行い、細胞を沈殿させる。上澄みを除去し、次の使用まで−20℃で保管する。
【0041】
沈殿を再び、元の湿潤重量の5倍容量のpH7.4の緩衝液B(PIPESを10mM 、NaClを100mM、MgClを3mM、ショ糖を300mM、EDTAを5mM 、PMSFを1mM、Triton X−100を0.5%(v/v))に再懸濁し、氷冷下で激しく振盪しながら、30分間インキュベートする。そして、試料を10分間の遠心分離(5000×g、4℃)で沈殿させ、上澄みを除去し、次の使用まで−20℃で保管する。
【0042】
さらに沈殿を、元の湿潤重量の1.7倍容量のpH7.4の緩衝液(PIPESを10mM、NaClを10mM、MgClを1mM、PMSFを1mM、TWEEN-40を1% (v/v)、デオキシコール酸塩を0.5%(w/v))に再懸濁し、ドーンス(Dounce)ホモジナイザーに移し、5回作動させて破壊する。次に、試料を2mlの反応チューブに再び移し、超音波浴中で1分間インキュベートする。さらに、試料を遠心分離(6780×g、4℃、10分間)で沈殿させ、上澄みを除去し、沈殿を次の使用まで−20℃で保管する。
【0043】
沈殿を、その量に応じて200〜500リットルのpH8.0の緩衝液(トリスを50mM、MgClを1mM)に再懸濁し、窒素で急速凍結する。その後、試料を超音波浴中で解凍し、引き続き、5〜10μlのベンゾナーゼ(25U/μl)を加え、粘性のある液状でなく均一な状態になるまでインキュベートする。そして、7倍容量の5%(w/v)STS溶液を加え、試料を90℃で20分間加熱する。さらに、10分間の遠心分離(7000×g、20℃)を行い不溶性の成分を除去する。上澄みを取り出し、次の使用まで−20℃で保管する。今回は、沈殿を廃棄してもよい。
【0044】
上澄みを解凍し、その量に応じて組み合わせて混合する。試料に含まれる洗浄剤を除去するため、試料を100%アセトン(−30℃で保管)と20対80の比率で混合する。完全に混合後、析出物を少なくとも1時間、−30℃でインキュベートする。そして、析出したタンパク質を、15分間、10000×g、4℃で沈殿させる。上澄みを注ぎだして捨てる。
【0045】
引き続き、沈殿物を80%(v/v)アセトン(−30℃に冷却)で洗浄し、再度、−30℃でインキュベートする。新たな遠心分離(15分間、10000×g、4℃)の後、上澄みを捨て、沈殿を可能な限り少量のソリュビリゼイション緩衝液I(尿素を7M、チオ尿素を2M、CHAPSを4%(w/v))またはII(尿素を8M、CHAPSを4%(w/v))再懸濁し、試料のタンパク質含量を決定する。この結果により、タンパク質を決定するため、ロティカント(Roth)一部と二回蒸留水2部を混合し、直ちに機能する溶液として、不溶性の成分を襞の付いたフィルターで除去する。検量曲線のため、ウシ血清アルブミン(BSA)をソリュビリゼイション緩衝液IおよびIIでそれぞれ希釈した液を調製する。ここで、検量溶液のため、濃度を0.2mg/ml、0.4 mg/ml、0.6mg/ml、0.8mg/mlおよび1.0mg/mlに調整する。それぞれ20μlの検量溶液、試料および対照液(ソリュビリゼイション緩衝液IおよびII)を1.5mlの反応容器に入れ、ロティカント機能液1mlを加える。ここの反応容器を直ちに反転させて混合する。次に、試料を25℃で20分間インキュベートする。試料を1mlのキュベットに移した後、560nmの吸収を分光光度計で測定する。試料のタンパク質含量は、検量曲線を調製することで決定できる。
試料の残存する上澄みは、次の使用まで−8℃で保管する。
【0046】
[等電点電気泳動]
12種類の電気泳動ゲルのため、4.5mlのソリュビリゼイション緩衝液IまたはII(pH勾配:4.5〜5.5)に2.5mgの試料を溶解したものに、1.125mlの電気泳動緩衝液I(尿素を7M、チオ尿素を2M、CHAPSを4%(w/v)、DTTを91mM、IPG緩衝液を2.5%)およびII(尿素を8M、CHAPSを4%(w/v)、2.5%IPG緩衝液を91mM、pH勾配:4.5〜5.5)それぞれを加え、超音波浴で1分間処理し、卓上遠心分離機(20000×g)で5分間遠心分離する。pH勾配(3.5〜4.5、4.0〜5.0、4.5〜5.5、5.0〜6.0、5.5〜6.7、6.0〜9.0)は、24cm長のゲル(Immobiline DryStrip; Amersham Biosciences)として使用する。使用するpH勾配のため、適当なIPG緩衝液を使用する。
【0047】
続いて、それぞれの試料450μlを再水化器に吸い出し、二組のピンセットを用いて、インモービリン・ドライストリップ(Immobiline DryStrip)電気泳動ゲルを、ゲル側を下に、気泡が生じないようにしながら溶液の上に置く。ゲルは、パラフィンオイルで覆う。再水化時間は、少なくとも12時間から、最大で16時間である。6.0〜9.0のpH勾配で、試料をカップに入れる。そのpH勾配で、試料に代えて、ゲル片を、ソリュビリゼイション緩衝液I(4.5ml)と電気泳動緩衝液I(1.125ml)とのそれぞれの混合物で再水化する。再水化後、それぞれのゲル片を、24cmのストリップ・ホルダーに移し、さらにカップに入れる。試料カップは、直接、陰極の前に置く。それぞれ200μgのタンパク質を含む試料を、ピペットで試料カップに吸い出し、パラフィンオイルで覆ったインモービリン・ドライストリップ・ゲルを重ねる。
【0048】
電気泳動片は二回蒸留水で湿らせ、それぞれのゲルの末端に置く。次に、これらの試験片に対して電極をつなげる。その後、試料を入れたストリップ・ホルダー6種類のそれぞれを、対応するpH勾配(第1表参照)を有するETTAN IPGphor電気泳動装置(Amersham Biosciences)で電気泳動する。電気泳動が完了後、試験片をピンセットで除き、次の使用まで−80℃で保管する。
【0049】
第1表
(等電点電気泳動のプログラム)
────────────────────────────────────────
プログラム 1
────────────────────────────────────────
S1 500V 直線的勾配 1h
S2 500V 段階的勾配 1h
S3 1000V 段階的勾配 1h
S4 8000V 直線的勾配 1h
S5 8000V 段階的勾配 88kVh
────────────────────────────────────────
プログラム 2
────────────────────────────────────────
S1 500V 直線的勾配 0.5h
S2 500V 段階的勾配 0.5h
S3 1000V 直線的勾配 0.5h
S4 1000V 段階的勾配 0,5h
S5 4000V 直線的勾配 1.0h
S6 4000V 段階的勾配 0.5h
S7 8000V 直線的勾配 0.5h
S8 8000V 段階的勾配 105kVh
────────────────────────────────────────
【0050】
プログラム1は、pH勾配3.5〜4.5、4.0〜5.0、4.5〜5.5、5.0〜6.0および5.5〜6.7で使用する。プログラム2は、pH勾配6.0〜9.0のゲルで使用する。
【0051】
[SDS電気泳動]
必要なアクリルアミド12.5%(w/v)の濃度を有する2次元用SDSポリアクリルアミドゲルを作成する。
【0052】
ゲルを展開する装置は、マニュアル(Amersham Biosciences)に従って組み立て、pH8.8の置換用緩衝液(トリスを0.375M、グリセロールを50%(v/v)、ブロモフェノールブルーを0.002%(w/v))を指定された容器に充填する。
【0053】
pH8.8のゲル重合溶液(アクリルアミドを12.17%(w/v)、ビスアクリルアミドを0.33%(w/v)、トリスを0.375M、SDSを0.1%(w/v)、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.05%(w/v))を先細のノズルが付いた容器中で混合し、次に、超音波浴中で5分間ガスを抜く。そして、TEMEDを0.04%(v/v)加えることで、重合反応を開始させる。直ちに容器をスタンドに立て、チューブでゲル展開装置に接続する。ゲル溶液は、ゲルカセットの底辺の約3cm下に到達するまで、装置に流入させる。そして、置換緩衝液の容器のプラグを塞ぎ、カセットのガラス端の下約2cmに上昇するまで、緩衝液でゲル溶液を置き換える。展開したゲルは、完全に重合するまで、n−ブタノールで飽和した水で覆う。
【0054】
電気泳動したゲルを、それぞれ一つずつ−80℃の冷凍庫から取り出し、平衡チューブに移す。タンパク質をセル内で電気泳動し、pH8.8の還元用緩衝液(尿素を6M、トリスを50mM、グリセロールを30%(v/v)、SDSを4%(w/v)、DTTを65mM)15mlを加え、25℃で15分間、それぞれ振盪して、還元する。次に、還元用緩衝液を捨て、ヨードアセトアミドを含むアルキル化緩衝液(尿素を6M、トリスを50mM、グリセロールを30%(v/v)、SDSを4%(w/v)、ヨードアセトアミドを260mM)15mlを加えることで、タンパク質をアルキル化する。再び、振盪しながら、25℃で15分間インキュベートする。続いて、緩衝液を再び捨てて、ゲル片をチューブから除く。ピンセットを用いて、ゲルをSDSゲルの上に置き、pH8.3の液体アガロース溶液(アガロースを0.5%(w/v)、トリスを25mM、グリシンを192mM、SDSを0.1%(w/v))2mlで覆い、それにより固定する。電気泳動用箱ETTAN DALT II(Amershal Biosciences)を、pH8.3の二次元展開緩衝液(トリスを25mM、グリシンを192mM、SDSを0.1%(w/v))10リットルで充填し、PAAゲルを装置に入れ、そして、電気泳動を実施する。ここで、最初のPAAゲル当たり5Wの一定の力を50分間設定する。温度は、20℃で一定である。次に、力をゲル当たり55W、ただし最大でも180Wまで増加させ、青い対照色素(ブロモフェノールブルー)がゲルの最低末端に到達するまで電気泳動を継続する。電気泳動を停止して、ゲルを除く。ゲル(酢酸を7%(v/v)、メタノール10%(v/v))400ml当たり、それぞれトレイに置き、ガラスプレートからゲルを除いてトレイに移す。固定のため、ゲルを振盪しながら、25℃で30分間インキュベートする。一方で、シプロルビイ(SyproRuby)染色溶液400mlを黒いトレイに置き、インキュベーション時間の経過後、固定したゲルを染色溶液に移す。振盪しながら16時間染色後、400mlの固定液中で15分間脱染色し、読み取りのため、473nmの励起波長、575nmの放射波長、100μmの解像度および16ビットのグラデーションで、FLA500スキャナー(Fuji)で走査する。次に、ゲルをプラスチックホイルで覆い、次の使用まで4℃で保管する。
【0055】
[ディファレンシャルスポットの同定]
タンパク質のディファレンシャルスポットの同定は、最初にpH勾配(3.5〜4.5、4.0〜5.0、4.5〜5.5、5.0〜6.0、5.5〜6.7、6.0〜9.0)毎に10種類のゲルを、調製した新鮮なBMECとAOEC(Aorta Endothelial Cells)からの10種類のゲルと共に調製して、走査する。ゲルは、次に、Z3評価ソフト(Compugen)を使用して比較し、ディファレンシャルスポットに印を付ける。ここで、100ピクセルの最小スポットサイズをフィルターで集める。BMECS中で多量(三倍量またはそれ以上)または特異的であるタンパク質を切り出し、0.2mlの反応容器に移す。切り出したスポットにラベルを付け、次の使用まで−80℃で保管する。
【0056】
[タンパク質試料の加水分解と質量スペクトル分析]
ゲルマトリックス中に固定した、切り出したタンパク質を、−80℃の冷凍庫から取り出し、100μlの二回蒸留水を加えて洗浄する。ここで、個々のバッチを振盪しながら25℃で20分間インキュベートし、次に上澄みをピペットで吸い出して捨てる。この操作を二回繰り返す。次に、50%(v/v)のアセトニトリル100μlで二回多い、振盪しながらそれぞれ25℃で15分間インキュベートする。再び上澄みを捨てる。ゲルの一片は、100%アセトニトリル100μlを加えて完全に脱水し、振盪しながら25℃で15分間インキュベートする。上澄みを除去後、ゲル片を5分間空気乾燥する。その後、再びゲル片を加水分解緩衝液((NHCOを50mMJ、トリプシンVを25ng〜50ng/15μl)15μlで再水化処理し、膨潤させる。37℃で18時間インキュベートすることで、タンパク質を加水分解する。マトリックス・アシステッド・レーザー・デソープション・イオニゼイション(MALDI)法によりペプチドのフィンガープリントを調製するため、加水分解物を0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸で酸処理する。使用したZipTip−C18ピペットチップは、50%(v/v)アセトニトリル10μlでそれぞれ3回脱水し、続いて、0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸10μlで平衡させることにより調製した。試料の適用は、加水分解調製物の上澄みを7回から10回吸い上げることにより行う。次に、ZipTipを、0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸10μlで洗浄する。ペプチドは、次に、三回から四回ピペットでMALDI測定担体に移すことで、マトリックス(α−シアノ桂皮酸、50%(v/v)アセトニトリル、0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸)で直接溶出する。担体上の試料を乾燥後、最初に試料をMALDIフィンガープリントで質量スペクトルを測定して、分析する。ここで、試料をVoyager DE PRO(PerSpective Biosystems)MALDI質量スペクトル分析機で、20000Vの加速電圧、75%のグリッド電圧、0.02%のグリッドワイヤー、220nsの遅延時間での正の反射モードで測定する。ここで、700〜3500Daの質量については、マス・ウィンドウを使用する。
【0057】
個々のタンパク質スポットについて得られた質量リストは、データベース分析に採用する。ここで、3種の異なるプログラム、Mascot、MSFitおよびProfoundを使用する。
【0058】
良好な質量フィンガープリントが存在するにもかかわらず、データベース同定が不可能であるタンパク質スポットは、アミノ酸配列上方が得られるESI質量分析機を使用する。
【0059】
そのため、加水分解後、加水分解調製物を0.2%(v/v)ギ酸15μlで酸処理し、振盪しながら30分間インキュベートする。一方、ZipTip−C18ピペットチップ(MilliPore)は、50%(v/v)アセトニトリル10μlでそれぞれ3回再水化処理し、続いて0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸10μlでそれぞれ3回平衡処理する。試料の調製は、加水分解調製物の上澄みを7回から10回吸い出すことにより実施する。次に、ZipTipを、0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸で洗浄する。引き続いて、0.1%(v/v)ギ酸で2回洗浄することにより緩衝液を交換し、50%(v/v)エタノール2μlで5回から7回吸い出すことによりペプチドを溶出する。
【0060】
得られるペプチド混合物は、直接分析するか、あるいはESI質量分析機と組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC)を用いて分析できる。
【0061】
直接分析には、1μlの溶出した試料を中空の針(Protana)に充填する。ここで最初に、850〜1000Vのイオンスプレイ電圧、20psiのカーテンガス圧、40〜50Vの分解電圧、245Vの電気泳動電圧、2000〜21000Vの多チャンネルプレート電圧での概観スペクトルを陽極モードで測定する。その際の走査領域は、100〜1600または410〜1600Thである。スペクトル中に検出されたペプチドは、衝突により断片化が誘導されている。
【0062】
この目的では、個々のペプチドの生成物のイオンスペクトルは、850〜1000Vのイオンスプレイ電圧、20〜40psiのカーテンガス圧、40〜50Vの分解電圧、245Vの電気泳動電圧、0.7〜1.0amuの4極解像度、15〜50Vの衝突エネルギーおよび2100〜2400Vの多チャンネルプレート電圧で記録する。ここで、走査範囲は、50〜1600Thである。
【0063】
ナノHPLCとESI質量スペクトル分析機との組み合わせでは、最初に2μlの試料と共に、20μl/分の流量で0.1%(v/v)のトリフルオロ酢酸を、逆相(RP)プレカラムに入れる。クロマトグラフィーによるペプチドの分離は、RP−C18カラム(LC packings)を用いて、出発条件(ギ酸を0.05%(v/v)、アセトニトリルを10%(v/v))から最終条件(ギ酸を0.05%(v/v)、アセトニトリルを76%(v/v))まで勾配を伴って35分間実施する。HPLCと質量スペクトル分析機との組み合わせは、中空の針(New Objective)を用いて実施する。質量スペクトル分析機の設定は、LCの実施中に二つの実験が実施できるように選択する。ここで設定するパラメーターは、イオンスプレイ電圧(1800〜2200V)以外は、前述したこれまでの設定に対応する。概観スペクトルと生成物イオンスペクトルとは、実施中に交互に記録する。生成物イオンスペクトルの設定は、概観スペクトルにおいて、2倍、3倍または4倍に電荷があり10cpsよりも大きな最も強い二つのシグナルを、衝突に誘発された断片化によって引き続き分析できるように設定する。個々で走査範囲は、450〜1600Thである。得られたスペクトルの評価は、3段階で実施する。
【0064】
A)対応するペプチドのアミノ酸配列に関する情報を含む生成物イオンスペクトルは、最初にソフトフェアープログラムMASCOT(Matrix Sciences)を用いて、公表されているデータベースと完全に照合する。そのようにして、ペプチドがタンパク質と一致しない場合は、
B)最初に生成物イオンスペクトルから、装置の製造会社のソフトフェアー・ツールを用いて自動的に配列を決定する。そのように得られたアミノ酸配列を、シェブチェンコ(Shevchenko)他の方法に従うMSBlastを用いて、公表されたデータベースと照合する。それでもタンパク質が同定できない場合は、
C)生成物イオンスペクトルを手動で評価し、得られたアミノ酸配列を、blastまたはFASTAを用いて、公表されたデータベースと照合する。
【0065】
以上の方法に従うと、BBB−特異的タンパク質またはその断片を、脳毛細血管の内皮細胞から選択的に同定できる。最初に説明した手順は、当業者であれば容易な、ありふれた変化を伴っている。例えば、以下に述べるように処理工程を変化させることができる。
【0066】
消化方法として、当業者に公知のタンパク質を得るための他の方法を採用できる。それらの方法は、一般的な文献(例えば、2Dプロテオーム・アナリシス・プロトコル(2D Proteome Analysis Protocols))に記載されている。
等電点電気泳動では、もちろん他の製造会社からの電気泳動ゲルをいずれも採用できる。同様に、異なる長さや異なるpH勾配も採用できる。
2次元分離でも、もちろん他の製造会社のゲルシステムをいずれも採用できる。別のゲルサイズの使用も可能である。
一般的な原則に従えば、当業者に公知の他のプロテアーゼを、ペプチドパターンの調製に使用できる。
他の種類あるいは他の製造会社の質量スペクトル分析機にも、ペプチドの質量と新規なアミノ酸配列の決定のために使用できる。
質量スペクトル分析条件は、ペプチド質量の決定および新規なアミノ酸配列のため、試料に対応して、機械と機能とを変化させることができる。
【0067】
(タンパク質のウェスタンブロット)
最初にタンパク質を前述したように12.5%ポリアクリルアミドゲル上で分離し、続いてニトロセルロース膜上に移す。ここで、ワットマン(Whatman)紙(Schleicher & Schull)を7枚、分離ゲルの大きさに合わせて切り、それぞれを異なる緩衝液に浸す。
【0068】
陽極緩衝液I(トリス塩基を300mM、メタノールを20%(v/v))中の2枚の紙を、血液検査装置(BioRad)の陽極上に、気泡が生じないように置き、陽極緩衝液II(トリス塩基を25mM、メタノールを20%(v/v))中の二枚の紙を重ねる。ニトロセルロース膜は、同様に陽極緩衝液IIに浸し、その上に置き、さらにポリアクリルアミドゲルを重ねる。最後に、さらに三枚の紙を陽極緩衝液(トリスを25mM、アミノカプロン酸を40mM、SDSを0.1%(w/v)、メタノールを20%)に浸して、適用する。装置を閉じて、最大25V、2.5mA/cmゲルで1時間、タンパク質の移動を起こす。
【0069】
次にタンパク質の免疫化学的な染色を、ウサギの多クローン性抗血清を用いて実施した。
ここで、膜をTBST緩衝液(トリス塩基を10mM、塩化ナトリウムを150mM、トゥウィーン20を0.05%(v/v)、pH:8.0)中で洗浄し、続いて、遊離の結合部位をBlotto(トリス塩基を10mM、塩化ナトリウムを150mM、トゥウィーン20を0.05%(v/v)、スキムミルクパウダーを5%(w/v)、pH:8.0)で飽和させる。最初の抗体のインキュベーションは、TBST緩衝液中のRT(抗−EMP1−抗体(ウサギ)1:4000,抗−TKA−1−抗体(ウサギ)1:4000)で2時間実施し、TBST緩衝液で三回洗浄する。結合した抗体は、アルカリ性ホスファターゼに結合した第2抗体と共に、TBST緩衝液中のRT(抗−ウサギ−IgG−抗体(ヤギ)、1:5000)で1時間インキュベートすることにより検出される。TBST緩衝液で二回洗浄後、AP緩衝液(トリス塩基を100mM、塩化ナトリウムを100mM、塩化マグネシウムを5mM、pH:9.5)でインキュベートすることにより、膜をアルカリ性のpH値に再緩衝する。発色反応の基質として、AP緩衝液中の塩化ニトロテトラゾリウムブルー0.016%(w/v)と5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート二ナトリウム塩を使用した。
【0070】
以下において、ゲノム上の経路による脳毛細血管の内皮細胞におけるBBB−特異的タンパク質またはその断片の同定について、説明する。
【0071】
[cDNAサブトラクション法によるBBB特異的転写物の同定]
細胞または組織の特異的タンパク質の選択的同定は、ディファレンシャル法で実施する。これは、様々な組織および細胞の消化物の二次元ゲルをそれぞれ比較し、続いて組織と細胞の種類それぞれに特異的なタンパク質を決定することにより、タンパク質レベルで実施することができる。タンパク質の物理的性質(サイズ、溶解性)と独立させるため、転写レベルでディファレンシャル法を実施して特異的なタンパク質を同定することもできる。加えてサブトラクションRNA法を用いると、組織と細胞物質の必要量がそれぞれ少なくて良く、有利である。
【0072】
BBB−特異的タンパク質を同定するため、出発物質として新鮮に単離されたBMECを使用することがきわめて重要である。これまで説明した最も良い方法は、腎臓のRNAに対する脳の毛細管のRNAのサブトラクションに基づく結果である(リー他、2001年)。ここで、BMECに隣接する脳毛細血管は、周皮細胞や星状細胞のような他の細胞型を含むことが問題である。さらに、サブトラクション組織として、腎臓は非常に不均質である。すなわち、腎臓は多数の細胞型からなり、そこで内皮細胞はほんの一部でしかない。本発明に従うサブトラクション組織を利用すると、血管脳関門に特異的な転写物とタンパク質のそれぞれに選択的な同定が可能になる。基本的には、あらゆる内皮細胞が対照組織として使用できる。例えば、同じ組織の大血管または小血管の内皮細胞、あるいは他の組織(例、心臓、肺、腎臓、肝臓、大動脈他)の内皮細胞を対照組織として使用できる。また、培養により得られる脱分化BMECを用いることもできる。ただし、脳毛細血管の内皮細胞に対しては、他の内皮細胞型を対照組織として用いることが好ましい。好ましく用いられるのは、大動脈の内皮細胞であり、これは関門機能を示さない。これには、加えて、小血管を大血管と比較できるとの利点もある。さらに、他の大血管内皮細胞も使用できる。別に適した比較組織は、別の条件で培養した脳毛細血管の内皮細胞である。別の条件とは、pH値、成長培地、成長因子(例、サイトカイン)に関して異なる条件である。同定した標的の生理学的な意味は、個々の対照組織に対して、脳毛細血管の内皮細胞の公知の性質から判断することができる。本発明では、二種類の明確な細胞型が好ましく使用される。一方は、関門機能を伴う細胞型である新鮮に単離されたBMECであり、他方は、BMECに類似する内皮細胞でありながら、関門機能を示さない大動脈からの内皮細胞である。この研究経路は、転写物とタンパク質の双方を同定することを可能にして、従来よりも大幅に選択的な血液脳関門の形成に寄与するはずである。
【0073】
[サブトラクション法によるcDNAライブラリーの調製]
トリゾール(Trizol、Invitrogen)を用い、製造会社の説明書に従って、細胞から全RNAを単離した。引き続き、変性アガロースゲル上で全RNAの純度を確認する。RNAの単離のため、1mlのトリゾール中、100mgの組織と10cmの融合成長細胞それぞれを、機械的にホモジナイズして、引き続きホモジネートをRTで5分間インキュベートする。その後、トリゾール(Invitrogen)1ml中のクロロホルム0.2mlを加え、ボルテックス(Vortex)で15秒間混合し、RTで3分間インキュベートする。4℃にて12000×gで15分間遠心分離して、相分離させる。その後、上部の水相を新鮮な容器に移す。トリゾール1ml中のイソプロパノール0.5mlを加え、攪拌後、RTで10分間インキュベートする。4℃にて12000×gで10分間遠心分離して、RNAを沈降させ、75%エタノールで二回洗浄し、空気乾燥し、DEPC処理水に溶解する。濃度は、分光光度計で決定し、品質は変性アガロースゲルで確認する。
【0074】
全RNAから始めて、製造会社の説明書に従い、ダイナビーズ(Dynal)を用いてmRNAの割合を高める。
【0075】
(mRNAの濃縮)
全RNA75μgを、65℃で2分間変性し、直ちに二倍量の結合緩衝液中のダイナビーズ・オリゴ(dT)25(Dynal)200μlを加え、攪拌しながら5分間インキュベートする。磁気分離の上澄みを捨て、ダイナビーズを洗浄用緩衝液で二回洗浄する。ポリA−RNAは、pH7.5の10mMトリス−塩酸20μlを用いて85℃で2分間、最後に溶出する。
【0076】
サブトラクション法のcDNAライブラリーの調製は、市販のPCRサブトラクション・キットで実施できる。例えば、クローンテック(Clontech)社のPCR選択cDNAサブトラクションキッドを、製造会社の説明書に従い使用できる。
【0077】
ここで、BMEC(テスター)およびAOEC(ドライバー)からのmRNAそれぞれ2mgを、AMV逆転写酵素により、オリゴ(dT)アダプタープライマーから直接開始して、一本鎖cDNAに転写する。次に、第2鎖の合成を酵素混合物(DNAポリメラーゼI、リボヌクレアーゼHおよびDNAリガーゼ)を用いて16℃で2時間実施し、続いて、T4DNAポリメラーゼを加え、16℃で30分間さらにインキュベートする。このようにして調製した二本鎖cDNAは、フェノール/クロロホルム抽出で精製し、エタノールで沈降させる。
【0078】
後述するアダプターの連結反応に適した末端を導入するためと共に、より均一なサイズのcDNA断片を生じるために、ここで、RsaIによる制限分解を実施する。このように調製した二本鎖cDNA断片は、フェノール/クロロホルム抽出とエタノール沈降により精製する。cDNAの合成および制限分解の生成物は、ゲル電気泳動で純度を検査する。
【0079】
後述するPCRによる増幅のため、ここで、アダプター1および2Rを、酵素T4DNAリガーゼと共に、テスターcDNAのRsaI末端に加える。連結反応は、PCRで確認する。
【0080】
実際のサブトラクションは、二種類のハイブリダイゼーションにより行う。第1のハイブリダイゼーションでは、一つのバッチでBMECアダプター1のcDNAがAOECcDNAとハイブリダイズして、もう一つのバッチでBMECアダプター2RのcDNAがAOECcDNAとハイブリダイズする。第2のハイブリダイゼーションでは、第1のハイブリダイゼーションからのバッチの双方を併せて、AOECから新たに変性したcDNAとハイブリダイズさせる。
【0081】
ハイブリダイゼーションの生成物は、最終的に、第1のPCR反応の鋳型として使用する。ここで、双方のアダプター1および2Rの共通領域からのオリゴヌクレオチドは、プライマーとして機能する。
【0082】
この最初のPCRの生産混合物は、ここでは、入れ子式のPCRの鋳型として使用した。ここで、互いに配置した二種類のプライマーは、双方のアダプター1および2Rの特異的領域からそれぞれ得られる。この第2のPCRは、特異性を増加させる。
【0083】
サブトラクションの有効性は、ハウスキーピング遺伝子(GAPDH)のための比較用PCRで確認する。BMECおよびAOECからの非サブトラクション法による二種類のcDNAと比較して、顕著により多くのPCRが循環した後においてのみ、サブトラクション法によるcDNAと共に生成物が形成される。典型的なハウスキーピング遺伝子であるGAPDHは、全ての組織と細胞型において比較できる程度まで発現する。それゆえ、サブトラクション法によるハイブリダイゼーションでは、異なる表現型の遺伝子が豊富ではないが、転写物の量がサブトラクション法cDNA(正および逆のサブトラクションのいずれ)において、サブトラクション前のBMECおよびAOECからのcDNAと比較すると顕著に減少する。これは、サブトラクション前のcDNAとそれぞれのサブトラクション法cDNAの双方を、GAPDH特異的プライマーでPCRに使用することで実験的に確認する。サブトラクション法のcDNAによる最初の生成物の形成は、二つの非サブトラクションcDNAと比較すると、追加の16サイクル後においてのみ得られる。そのため、ハイブリダイゼーションにおいて、少なくとも要素が50000に増幅する。この増幅で、BBB−特異的転写物の選択的同定が容易になり、単離した配列の第1の有効性も示す。
【0084】
第2のPCRの生成物は、pT−Advベクター(Clontech)でクローン化し、大腸菌のキモコンペンテント(chemocompetent)TOP10F’(Clontech)を形質転換する。第2のPCRの生成物は、pT−Advプラスミドベクター(Clontech)でクローン化する。このベクターは、5’末端のdT残基が重複しており、3’dA残基と適合できる。これは、例えば、TaqDNAポリメラーゼによりPCR生成物に結合できることを意味する。これと対照システムとは、いずれもPCR生成物を高い効率で直接クローン化できる。形質転換を大腸菌のキモコンペンテント(chemocompetent)TOP10F’(Clontech)で実施することは、文献(サムブルック他、1989年)に記載がある。
【0085】
[ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション]
サブトラクション法によるcDNAライブラリーからのクローンは、BMEC対AOECの発現として、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーションにより確証する。ここでは、PCRに選択的なディファレンシャル・スクリーニング・キット(Clontech)を使用する。逆サブトラクション・プローブは、上記の製造会社の説明書に従い、クローンテック(Clontech)社のPCR選択的cDNAサブトラクション・キットを用いて調製した。ここで、BMECはドライバー、AOECはテスターとして機能する。
【0086】
製造会社の説明書に従い、クローンの液体培地を96の窪みがあるマイクロ滴定プレートに接種する。これらは、プライマー・アダプター1および2Rの挿入を増幅するための鋳型として用いる。液体培地の残りには、グリセロールを加え、永久培地として凍結する。PCR生成物は、ゲル電気泳動により確認する。200塩基対よりも大きい、それぞれ1μlの生成物を、二つの同一のハイボンドN(HybondN)膜上に滴下し、紫外光を用いて固定する。製造会社の説明書から離れて、92クローンを有する二つのフィルターのみをハイブリダイズする。それぞれは、BMEC特異的な転写物が豊富な正にサブトラクションしたプローブがあるフィルターと、AOEC特異的な転写物が豊富な逆にサブトラクションしたプローブがある他のフィルターである。BMECおよびAOECそれぞれからのcDNAがある別の二つのフィルターのハイブリダイゼーションは省略する。これは、そこから関連性が高い付加的な情報を集めることができないためである。代わりに、BMECおよびAOECからのRNAを、ノーザンブロット解析とRT−PCR実験における解析(後述)において、発現パターンの調製のために使用する。サブトラクション法によるcDNAライブラリーの92クローンは、製造会社による2種類の負の対照と共に、フィルターに適用する。製造会社の説明書に加えて、BMECおよびAOECで同じように強く発現さされるハウスキーピング遺伝子のPCR生成物の一つを、BHSマーカー(Apolipoprotein A1)のためのPCR生成物と同様にスポットする。BHSマーカーは、AOECよりもBMECで強く発現する正の対照である。
【0087】
ハイブリダイゼーションは、製造会社が説明するように、エクスプレスHyb溶液(Clontech)を用いて72℃で同等の活性を有するプローブを用いて実施する。続いて、フィルターを厳重に洗浄する。通常の厳格な条件を採用する。好ましくは、フィルターを68℃で20分間、2回、0.5%SDS中の0.2×SSCで厳密に洗浄する。信号強度は、ホスフォイメージャー(FLA−5000、Fuji)を用いて、フイルム上での異なる時間による露光で決定する。BMECにおいて、AOECよりも約5倍の信号強度を示すクローンを、ディファレンシャルに発現したものとして区別し、さらに処理する。
【0088】
正のクローンの永久培地から液体培地を接種して、キアーゲン(Quiagen)カラムを用いる標準的な方法(バーンボイムおよびドリー、1979年)に従い、プラスミドDNAを単離する。プラスミドの挿入は、普遍的なプライマーを用いて配列させ、任意に遺伝子に特異的なプライマーを加えて用いる。DNA配列から得られたデータベースは、アルゴリズムのBLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)およびFASTA(http://www.ebi.ac.uk/fasta33)を用いて相同性を調査する。
【0089】
[BBB−特異的転写物の検証:発現パターン]
関連する正のクローンから、BMEC、AOECおよび9種の他の組織において、発現パターンを生じさせる。これは、RT−PCTおよび/またはノーザンブロット解析により実施する。
【0090】
RT−PCR実験では、全RNAを出発物質としてランダムに開始することでcDNAを調製する。使用する全ての酵素とランダム・ヘキサマーは、インビトロゲン社製である。ここで、5μlのデオキシリボヌクレアーゼI、10倍量の緩衝液および5μmlのデオキシリボヌクレアーゼIを、ヌクレアーゼ・フリーの水40μl中の全RNA10μgに加え、25℃で15分間インキュベートする。続いて、25mMのEDTA5μlを加え、65℃で15分間、酵素を熱で不活性にする。調製物から25μlを除き、100μlまで、ヌクレアーゼ・フリーの水を加え、−RT対照として−80℃で保管する。8μlのランダム・プライマー(100ng/μl)、3μlのdNTP混合物(それぞれ10mM)および2μlのヌクレアーゼ・フリーの水を、デオキシリボヌクレアーゼIの消化物から残っている25μlの全RNAに加える。ここで、65℃で5分間、RNAの2次構造を崩壊させ、その後、直ちに試料を氷の上に置く。10μlの5倍ストランド用緩衝液、6μlのDTT(100mM)および3μlのRNaseOUTを加える。プライマーがアニーリングするまで、25℃で10分間インキュベートし、引き続いて、温度を42℃に2分間調節する。3μlのスーパースクリプトII逆転転写酵素を加え、42℃で50分間インキュベートする。次に、70℃で15分間、酵素を熱で不活性にする。3μlのリボヌクレアーゼHを加え、37℃で20分間インキュベートし、cDNAからの全RNAを分解する。最後に、ヌクレアーゼ・フリーの水を加えて100μlとして、cDNAを80℃で保管する。cDNAの品質は、ハウスキーピング遺伝子(GAPDH)と18SのrRNAをそれぞれ用いるPCRで確認する。ここで、異なる組織と細胞のそれぞれからcDNAについて、比較できる程度の量で生成物が生じることが期待される。調製したcDNA細胞は、それぞれの場合で、転写の発現パターンを調製するために使用され、研究される。
【0091】
発現パターンの調製のためのノーザンブロット解析では、細胞と組織それぞれからの全RNAを、そのサイズに従い変性ゲルで分離し、ナイロン膜に移す。ここで、放射性物質で標識した遺伝子に特異的なプローブとハイブリッド形成する。6.0gのアガロースを、290mlのDEPC処理した水に加熱しながら溶解する。次に、60℃の水浴で60℃まで冷却し、40mlの10倍MOPS緩衝液(MOPSを200mM、酢酸ナトリウムを50mM、EDTAを10mM)と70mlのホルムアルデヒドを加える。最後に、ビック・ポケット・フォーマー(12ライン)のマキシゲル(maxigel)をフューム・フードに展開し、放置することで固形化する。それぞれ10μl中の全RNA10μgを、40μlの試料緩衝液(脱イオンホルムアミドを500μl、ホルムアルデヒドを160μl、10倍のMOPSを100μl、DEPC処理した水を240μl)で15分間、65℃で変性し、続いて氷の上に移す。ここで、10μlのローディング緩衝液(グリセロールを500μl、EDTAを500mM、10%ブロモフェノールブルーを25μl、DEEPC処理した水を473μl)を加え、試料を1倍MOPS緩衝液で覆ったゲルに適用する。電気泳動を250Vで3〜4時間実施する。その後、ゲルを最初に水の中で10分間回転させ、次に10倍のSSCの中で30分間回転させる。ゲルの大きさに合わせて注文しておいたハイボンドXLフィルターを10倍SSC中で15分間振盪する。
【0092】
ブロットの組み立て(底部から上部へ)は、塩橋(10倍SSCを入れた緩衝液容器中に浸漬)、ゲル、フィルター、5 3MM(予め10倍SSCに浸漬)、約7cmの緑色のタオル(セルロースの布)、ガラス板、約0.5kgの重りである。ブロッティングは、16〜20時間実施する。その後、ブロットを分解し、ハイボンドXLフィルターを、2倍SSCで10分間洗浄する。RNAは、ここで70000μJ/cmの紫外線架橋結合によりハイボンドフィルター上に固定される。さらに、フィルターを染色溶液(0.3M酢酸ナトリウム1リットル中のメチレンブルー300mg)中で1分間染色し、RNAを可視化する。さらに2分間水洗して、背景を脱色する。染色したフィルターを写真で解析する。引き続いてフィルターを3MM紙の間で乾燥し、サランラップで覆い、−20℃で保管する。
【0093】
ハイブリダイゼーションは、放射性元素で標識したcDNAプローブ(Rediprime II、 Amersham)を用いて実施する。このプローブは、製造会社の説明書に従い、エクスプレスHyb溶液(Clontech)を用いて、プローブカント(ProbeQuant)G−50カラム(Amersham)で予め精製してある。ホスフォイメージャーFLA−5000(Fuji)を用いてハイブリダイゼーションを最初に確認後、バイオマックスMSフイルム(Kodak)上でオートラジオグラフを調製する。
【0094】
[cDNA配列の完成]
様々なcDNAライブラリーとRACE−PCR実験をスクリーニングすることで、サブトラクション法による関連するcDNAライブラリーから、BBB−特異的クローンの完全なcDNA配列を決定する。
【0095】
cDNAライブラリーは、製造会社の明細書に従い、λTriplEx2ベクター内のSMARTcDNAライブラリー組み立てキット(Clontech)を用いて、ブタのBMECから構築する。ここで、最初に、前述したように、トリゾール(Invitrogen)から全RNAを単離する。そして、ダイナビーズ(Dynal)を用いて、そこからポリA−RNAを濃縮する。ライブラリーの調製では、BMECからのポリA−RNAを2μg用いる。最後に、製造会社の説明書に従い、ファージ抽出物ギガパックIIIゴールド(Stratagene)を用いて、インビトロで連結反応を進行させる。BMECのcDNAライブラリーの独立ファージの数は、130万pfuに達する。そのうち99%以上は、ブルー/ホワイト試験(サムブルック他、1989年)を実施した組み換え体であった。挿入物の少なくとも半分は、1kbを越える大きさを有していた。完全なライブラリーの増幅後、滴定量は、約150mlの全量において約2×1010pfu/mlであった。このファージの溶解生成物は、DMSO7(v/v)%に調整し、−80℃で保管する。説明したファージのライブラリーは、製造会社の説明書(Clontech ClonCapture cDNA Selection Kit)に従い、プラスミド・ライブラリーに変換する。この説明書では、大腸菌BM25.8が、200万pfuのファージ・ライブラリーで感染されている。この細菌株は、Creレコンビナーゼを発現する。Creレコンビナーゼは、λTriplEx2ベクターのloxPサイトを認識し、それにより転換を可能にする。ここで、プラスミド中のラムダ・ファージの転換は、インビボでの削除と、それに続く完全なプラスミドの環状化によって行われる。得られるプラスミドは、次に、安定した状態で大腸菌から抜け出る。プラスミドは、感染したBM25.8のプレート培地から、ヌクレオボンド・プラスミド・キット(Clontech)を用いて調製される。
【0096】
cDNAプラスミドのライブラリーをクローンキャプチャー(ClonCapture)でスクリーニングするため、ビオチンを加えたcDNAプローブを用いる。ここで、RecAga仲介する反応で、プラスミドが挿入された同じ配列を有するDNAの三重構造が形成される。このように選択されたプラスミドは、磁石ビーズに結合したストレプトアビジンを用いて単離でき、形質転換に使用できる。そのような濃縮物からのクローンは、さらにコロニーのハイブリダイゼーションでスクリーニングされ、プラスミドDNAが単離され、そこから生じる正のクローンにつなげる。
【0097】
クローンキャプチャー(ClonCapture)による正のクローンの単離は、製造会社の説明書(Clontech)に正確に従って実施する。プローブの調製では、最初に、遺伝子に特異的なプライマーを有するPCRを適当なプラスミドに最適化する。これにより、一つの生成物のみが形成される。このために、プライマーは、互いの融点が1℃よりも異ならず、プライマーの二量体や安定なループを形成しないように設計する。アニーリング温度は、以下の式で計算される融点よりも2〜5℃低い、比較的高めの温度となるように選択する。
=[(G+C)×4]+[(A+T)×2]
これにより、ゲル電気泳動による対照の唯一のバンドにおいて、特異的な生成物が形成される。この生成物から、滅菌したパスツールピペットを用いて、アガロースゲルから一片を取り、滅菌した水200μlに移す。70℃で30分間、回転させながらインキュベートすることにより、DNAをゲル片から溶出させ、プローブ調製の鋳型として用いる。この鋳型を用いる対照反応を、ビオチン−21−dUTPを用いる場合と用いない場合とで実施し、アガロースゲルで分析する。これは、ビオチンがPCRを阻害するからである。対照反応が成功すれば、ここでビオチンを加えたプローブが、[α32P]dCTPを10μCi加えた調製用のPCR中で調製される。20サイクル後、調製物の5μlをアガロースゲルで検査し、可能ならばさらに5サイクルを加える。続いてPCR生成物を、製造会社の説明書に従い、ヌクレオスピン・エクストラクション・キット(Clontech)で精製し、35μlの溶出用緩衝液で溶出する。そこから2μlをゲル電気泳動で分析し、生成物を分光光度計で定量する。ビオチン添加の対照とするため、純粋なPCR生成物2μlを、15μlの磁気ビーズに加え、インキュベーション前の信号をガイガー・カウンターで確認する。わずかに振盪しながら30分間インキュベート後、磁気ビーズを磁石で分離し、上澄みを再びガイガー・カウンターで定量する(インキュベート後の信号)。ビオチン添加に成功すると、インキュベーション前の信号は、インキュベーション後の信号よりも2〜四倍強くなる。
【0098】
50(200bp)〜100(600bp)ngを捕獲するため、水中のビオチンを加えたPCR生成物は、100℃で5分間変性し、その後、直ちに氷の上に移す。ここで、プラスミドDNA以外の全ての成分を加える。ここでは、プローブ50ngに対して、RecAタンパク質2μgを用いる。37℃で15分間インキュベーション後、1μgのプラスミド・ライブラリーを加えて、さらに37℃で20分間インキュベートする。一方、磁気ビーズ15μlをニシンの精子DNAで非特異的に飽和させ、捕獲のための精製用に調製する。EcoR Vで解裂したλ−DNAを捕獲用調製物に加え、プロテイナーゼKによる消化を37℃で10分間行う。この反応は、最後にPMSFを加えて停止し、捕獲用調製物を磁気ビーズで精製する。単離したプラスミドを100μlの溶出用緩衝液で溶出し、沈降させ、さらに10μlの水に溶解する。
【0099】
クローンキャプチャーで濃縮したプラスミド・ライブラリー2μlで、電気適応能がある大腸菌DH5αを形質転換し、LB−Ampプレートから取り出す。正のクローンは、標準的な方法に従い放射性物質で標識したプローブ(ビオチン添加の場合と同じ増幅標識)を用いるコロニー・ハイブリダイゼーションにより同定する。このように得られたクローンは、コロニーPCRでさらに検証する。そのため、上記増幅標識(amplicon)とそれよりも下流に位置する他のプライマーからのプライマーを用いる。クローンキャプチャーのプローブとして用いた増幅標識からの双方のプライマーを選択することは、避けるべきである。これにより、コロニーPCR(PCRは、DNAに代えて、個々のコロニーからの細菌を使用することで実施する)を行う際に、生成物の形成が細胞内のプラスミドでは起こらず、汚染したプローブにより起こることを回避する。それゆえ、少なくとも一つのプライマーを増幅標識の外側に、最も好ましくは3’側から配置すべきである。すなわち、この配列は、知られており、かつcDNAライブラリーにおける全ての正のクローンに含まれているからである。正のクローンのプラスミドDNAは、標準的な方法(バーンボイムおよびドリー、1979年)に従い、キアーゲン社のカラムを用いて単離し、鎖末端法(サンガー他、1977年)に従い配列を決定する。配列の決定には、製造会社の説明書に従い、「ABIプリズム・ビッグダイ・ターミネーター・サイクル・シークエンシング・レディ・リアクション・キット、バージョン2.0(Applied Biosystms)」を使用できる。配列決定反応の生成物は、「ABIプリズム310ジェネティック・アナライザー(Applied Biosystems)」で分析する。
【0100】
RACA−PCR(フローマン他、1988年)は、未知のcDNA配列の決定に利用できる。具体的には、cDNA合成により既知の配列部分から開始し、引き続き、第2のPCRプライマーをアニーリングするため既知の合成末端を導入する。
【0101】
5’RACE−PCRは、製造会社の説明書に従い、cDNA末端の迅速増幅用5’RACEシステムのバージョン2.0(Invitrogen)を用いて実施する。ここで、最初にcDNAプライマリー鎖を、遺伝子特異的プライマー(GSP1)とBMECの全RNA1μlを用いて合成する。cDNAをガラスMAXカラムで精製後、第2段階として、酵素末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼを用いて、オリゴ−dC−テイルを付ける。最初のPCRは、さらに遺伝子特異的なプライマー(GSP2)と短縮したアンカープライマーとを用いて、テイルを付けたcDNA5μl上に置く。アンカープライマーは、オリゴ−dC−テイルに結合している。PCRの特異性は、第2の入れ子式のPCRにより増加する。これは、短縮した普遍的な増幅プライマーと第3の遺伝子特異的プライマー(GSP3)を用いて、最初のPCRからのPCR生成物を1:100希釈したもの5μl上で実施される。それぞれひとつだけのプライマーのバッチと水を制御したバッチは、第2のPCRの対照として機能する。ゲル電気泳動解析後、第2のPCRの生成物は、出来る限りクローン化する。これにより、pGEM−TeasyシステムII(Promega)を用いる連結反応と、電気適応能があるDH5αの形質転換を実施する。得られるクローンは、コロニーPCRを持ちおいて検査し、プラスミドDNAを調製し、最後に実際に知られている方法で配列を決定する。
【0102】
3’RACE−PCRは、製造会社の説明書に従い、cDNA末端の迅速な増幅用3’RACEシステム(Intvitrogen)を用いて実施できる。3’RACE−PCRにおいて、cDNAプライマリー鎖の合成は、オリゴ−dTアダプタープライマーを用いて、BMECの全RNA5μgに関して実施する。最初のPCRでは、cDNA2μlを、遺伝子特異的プライマー(GSP1)および短縮した普遍的な増幅プライマーと共に用いる。半入れ子式の第2のPCRは、遺伝子特異的プライマー(GSP2)および短縮した普遍的な増幅プライマーを、5’RACEで説明した対照と共に用いて実施する。生成物をクローン化し、既に述べたように配列を決定する。
【0103】
以上述べた方法に従い、BBB−特異的タンパク質またはその断片は、脳毛細血管の内皮細胞で選択的に同定することができる。以上述べた手順は、当業者に自明のありふれた変更が可能である。例えば、以下に述べるように処理工程を変化させることができる。
【0104】
単離したBMECを散布し、第1の培地を新鮮なBMECに代えて、サブトラクション法におけるテスターとして使用できる。
別のサブトラクション法の組織(ドライバー)として、例えば、培養(少なくとも2継代)により脱分化したBMECを選択できる。
【0105】
RNAとmRNAそれぞれを、RNAが損なわれておらず、mRNAが逆転写によりcDNAに転写できることを条件に、当業者に公知の他の方法に従って調製できる。
サブトラクション法によるPCR生成物を、ポリメラーゼによる3’dA残基および平滑末端の双方を用いるか、あるいは制限分解後、それぞれ適切なベクターシステムでクローン化できる。形質転換は、別の大腸菌株を用いて実施できる。大腸菌株は、化学的および電気的な適応能がある細胞であれば、この分野で良く知られている細胞を用いることができる。
【0106】
ディファレンシャルハイブリダイゼーションの工程は、任意であるが、推奨される。ここで他の好ましい膜(例、陽極電荷が負荷された、あるいは負荷されていないナイロン膜)や他のハイブリダイゼーション溶液を用いることもできる。膜の厳格な洗浄は他の温度でも、あるいは他の溶液を用いても(例えば、より低温とより低塩量、およびより高温とより高塩量、例、T=50〜70℃、0.5〜0.05×SSC/0.1%5DS)、それぞれ実施できる。
表現型は、それぞれのcDNAを用いて、定量的PCR(同時PCR)によっても決定できる。実際的な方法では、定量的PCRを、オプティコン(MJ Research)を用いて実施する。反応を実施するため、キアーゲン社の「クアンティテキストSYBRグリーンPCRキット」を使用する。ここで、PCRの条件は、前述したものが採用される。定量において、溶出液系列を一つずつ、BMECcDNAから調製できる。説明書は、使用したRNAと当量のピコグラム単位である。それぞれの場合に、相対的な定量を実施するためには、目的物質の計算上の量を、18SrRNAの計算上の量で割っておく。最後に、試料(例、BMEC)を100%に設定し、他の全ての試料をそれと参照する。
【0107】
cDNAは、他のシステムを用いて生産することもできる。ノーザンブロット解析は、他の適当なプローブとハイブリダイゼーション/洗浄溶液を用いて実施できる。
cDNAは、既知の重複配列を用いてデータベース検索により展開できる。実験的には、求めている転写物が生じている細胞と組織それぞれの他のcDNAライブラリーを、様々なシステムによりスクリーニングできる。求めている転写物が生じている細胞と組織それぞれのRNAをRACE−PCRそれぞれに採用できる(サムブロック、1989年参照)。RACE−PCRでは、当業者に公知の他の適当なシステムも使用できる。
【0108】
この方法で同定したタンパク質または断片は、血液脳関門に特異性を有しており、それが本発明の主題にもなっている。血液脳関門に対するタンパク質または断片の特異性に関する知識により、現在では、タンパク質の機能を選択的に発見することが可能になった。機能の決定は、通常、利用可能なデータベース、例えば、BLASTアルゴリズムを用いて、既知の配列データとの比較により行われる。同定したタンパク質の特異性に関する知識は、血液脳関門での発現の選択的調節を可能にし、これにより病理学的な条件を特別に扱うことができる。
【0109】
そのようにして、それぞれのBBB−特異的タンパク質についてのアゴニストとアンタゴニストを、それらの活性を選択的に調節するように展開できる。それらのタンパク質の発現は、例えば、遺伝子転移やアンチセンスRNAにより直接調節することもできる。特に治療において有効な方法は、「トロイの木馬」医薬への展開である。この医薬は、同定した担体によって、BBBを通過する活性を有する分子と結合させる。あるいは、いわゆるプロドラッグである内皮細胞のBBB−特異的酵素で変性した物質、およびこれにより得られる治療上の効果が可能になる。
【0110】
BBB−特異的タンパク質は、多面的な機能を満足する。例えば、それらは、養分の供給(例えば、グルコース担体であるGLUT1)に機能し、あるいは、接触タンパク質(例えば、強固な結合タンパク質であるZO−1)として機能する。さらに、それらは、酵素活性(例、グルタミルトランスフェラーゼGGT)を有するか、あるいはアミノ酸の搬送担体として機能する。
【0111】
[虚血におけるBBB−特異的タンパク質の発現]
本発明に従い同定されたBBB−特異的タンパク質の発現反応を、虚血に関して調べた。このために調製した内皮細胞は、洗浄後、再懸濁し、フランク他(2000年)が説明したように、コラーゲンでコートした細胞培地のボトルに散布した。細胞の培養は、二酸化炭素中、37℃のインキュベートで行い、二酸化炭素量は5%に一定化した。細胞が集合体を形成後、トリプシン溶液の処理で細胞を剥がし、そのために準備しておいたトランスウェル(transwell)皿(44cm、Corning)に分けた。上記条件で細胞を3日培養後、トランスウェルバッチを皿に移した。皿の底には、C6−グリオーム細胞(市販品、例えば、ATCCから購入可能)を増殖させておいた。二つの細胞型を、ヒドロコルチゾンを加えた共有培地で、さらに2日培養した。培地の交換は、虚血の発現実験のために行った。最初に、新しい培地を、0.2%の酸素、94.2%の窒素および5%の二酸化炭素で燻蒸する。新しい培地は、グルコースを全く含まない。引き続き、0.2%の酸素、94.2%の窒素および5%の二酸化炭素を有する二酸化炭素インキュベーター内で、細胞を37℃で24時間保管した。培地の交換は、対照実験のためにも実施した。最初に培地を、21%の酸素、74%の窒素および5%の二酸化炭素で燻蒸した。培地は、グルコースを含む。これらの条件で細胞をさらに24時間培養した。次に、それぞれのタンパク質の発現を、前述したように定量的に決定した。
【実施例】
【0112】
ここで、血液脳関門において、以下のタンパク質を本発明の方法で同定した。
[第1例:S129=ITM2Aの同定]
上記のようにブタの脳から単離した新鮮なBMECを、コラーゲンG(Biochrom)上の雄牛の血清(PAA)10(v/v)%を加えたM199培地(Sigma)で精製または培養した。培養したBMECから全RNAを、前述したように、初代の培地(P0)とそれぞれT75細胞からの継代(P1〜3)から単離した。新鮮なBMECとP0〜3を比較する発現パターンは、それぞれの場合でgAPDHと18sのrRNAに関する個々の遺伝子に特異的なプライマーを用いて調製した。この例および以下の例で説明するクローンが得られた。
【0113】
サブトラクション法によるクローンS129は、正プローブと共にディファレンシャルスクリーンに用いる逆プローブと比較して、5倍よりも強い信号を示すため、配列決定に選択される。クローンS129の配列は、配列番号1に示されている。このS129の配列により、Itm2Aが明白に同定された。
最初にItm2Aの発現パターンを、前述したプライマーItm2a.s2(5’ACC TCC ATT GTT ATG CCT CCT A3’=配列番号2)およびItm2a.as2(5’GFF GCC TCT CAC TCT TGA CAG A3’=配列番号3)を用いて調製し、GAPDHを対照として用いた。発現パターンは、RT−PCR(描写せず)で得られた。
【0114】
半定量的発現パターンは、Itm2AがBMEC内で、AOEC内よりも強く発現することを示している。これにより、ディファレンシャルハイブリダイゼーションの結果が確認される。さらに、BMECでの発現は、皮質(脳)での発現よりも明らかに強く、脳のBMECへの特異性を示唆している。心臓においてのみ強い発現が観察されることから、筋肉における前述した発現と関連させることができるかもしれない。発現パターンは、ノーザンブロット解析により検証できる。ここで、ブタのItm2Aのコード領域(図1のa)は、プローブとして利用する。
ノーザンブロットにおいて、BMECの特異性は、さらに明確である。BMECでのそのような発現、およびそこからBBBでの発現は、これまで記述されていない。
【0115】
さらに、第2に、BMECにおいてさらに小さな転写物をノーザンブロットで認識できる。これを特徴づけるため、5’と3’の非コード領域と共にコード領域を、BMECにおいて、RT−PCRとRACE−PCRをそれぞれ用いて調査した。ここで、Itm2Aには二つの3’非コード領域が存在し、短い方が交互のポリアデニル化信号により形成されていることが、配列の解析により明らかとなった。このようなことは、Itm2Aについて、今日まで記述されていなかった。おそらく、転写の頻度、およびそれによるタンパク質の量が、二つの異なる3’領域によって、異なる安定性により調節されている。説明した実験は、ブタのItm2Aについて完全なcDNA配列(完全なCDS119〜910)を与える(配列番号4+配列番号5)。
【0116】
虚血症状において標的となるItm2A/S19の発現は、前述した一般的な実験装置に従い検査した。ここで、BMECで標的となるs129は、虚血における発現が顕著に減少していることが明らかとなった。これは、虚血症状に関する疾患、例えば、脳卒中、心筋梗塞、合併症(例、グリア芽腫)を伴う腫瘍に、Itm2Aが関与していることを示している。決定した発現パターンは、一方で、これらの疾患の診断マーカーとして標的を利用することを可能にし、他方で、上記疾患を根本的に治療するため標的を治療的に利用することも可能にする。虚血においてItm2Aの発現パターンを、100%までの対照と比較したものを図1のbに示す。BMECは、方法の部分で説明したように、虚血症状(ischemia)において一度、通常の条件(control)で一度、培養した。続いて、双方の試料で標的の発現を18SのrRNAと比較して測定した。得られた値は100%までを対照として、そこから虚血試料を引用した。
【0117】
BBBにおけるItm2Aの可能性のある役割について参考になる点を得るため、培養したBMECにおける発現パターンを、既知のBBBマーカーとGAPDHのそれぞれとの比較で調査した。結果を図2に示す。これらのデータは、既知のBBBマーカーについて説明されていたように、Itm2Aの前に発現が急速に低下することを示している。しかし、GAPDHのようなハウスキーピング遺伝子は、調節を全く示さない。
【0118】
データは、BBBにおけるItm2Aの機能を明確に示している。軟骨細胞とT細胞との分化において、タンパク質の役割を検討すると、Itm2Aは、BBBにおける内皮細胞の特定の分化状態にも対応することが結論として得られる。Itm2Aは主に原形質膜に位置しているため、細胞のある状態によっては、おそらく、同質または異質の多量体を形成することにより、ここで受容体として機能しているように思われる。そのような受容体の細胞外部分は、分泌された分子または他の細胞の表面分子に結合し、受容体複合体の細胞内部分は、そのようなモデル、例えば、結合効果による分子配座の変化により、信号を変換でき、そして、細胞の応答を標的とする信号カスケードにおける信号は、それらの性質を変化させる。
【0119】
Itm2Aは、デリールスニジュデル他(1996年)により、マウスの顆のcDNAライブラリーのディファレンシャルスクリーンによって、最初に発見された。タンパク質のコードは263アミノ酸からなり、II型の膜内在性タンパク質を示す。潜在性のグリコシル化部位を、顕在的なロイシン・ジッパーと共に有する。6つのエクソンからなる遺伝子は、骨形成組織で最も強く発現し、軟骨/骨分化の標識を示す。Itm2Aは、三つの構成要素からなる新たな遺伝子ファミリーの一員である。ヒトとマウスとの間では、ファミリーの個々の構成員は、それぞれ高度に遺伝子が保存されている。個々の構成員の間での遺伝子の保存は、約40%程度の量である。ここで、主にC−末端が保存されているが、N−末端は保存されていない。ロイシン・ジッパーの刺激は、Itm2Aについてのみ発見されている。他方、このファミリーのタンパク質は、既知の配列による刺激を含んでいない。
【0120】
[第2例:S231の同定]
正プローブを逆プローブと比較するディファレンシャルスクリーンにおいて、サブストラクションクローンS231は、5倍よりも高い強度のシグナルを示し、それにより配列から選択された。クローンS231の配列は、配列番号6に示す。BLAST相同性調査により、配列S231は、EMP1に対して最も高い相同性を示した。
【0121】
最初に、S231についての発現パターンを、前述したように、プライマーS231.5(5’CCA TAA CTC TTT CAC GCA ACT G3’=配列番号7)およびS231.1R(5’ACA ACA GAG GAG TTG GCT GTT T3’=配列番号8)を用いて調製した。GAPDHは、対照として使用した(図3参照)。
【0122】
この半定量的表現パターンは、S231は、AOEC内でよりも、BMEC内での方が、より強く発現されていることを示し、それゆえ、ディファレンシャルハイブリダイゼーションの結果が確認される。その上、BMECでの発現は、皮質(脳)におけるものよりも明らかに強く、脳におけるBMECの特異性についての手がかりになっている。心臓においてのみ強い発現が見られるが、肺、結腸または脳では弱いだけである。ただし、この組織について、強い発現が文献に記載されている(ラットでは脳のみ)。これは、S231が実際にブタからのEMP1を表現しているのか、それとも、この遺伝子ファミリーの他のメンバーなのかとの疑問を提示している。
【0123】
これを明確にするため、BMECのcDNAライブラリー(λTriplEx2)を、S231をプローブ(放射性活性物質で標識した標準的な方法)として用いてスクリーニングした。いくつかのクローンを単離し、そのうち最大の二つのクローンを、それぞれ、5’末端から部分的に配列を決定した。いずれの配列も再びEMP1との高い相同性を示した。ここで、それぞれの場合における重複は、3’側の非コード領域に位置していた。
【0124】
S231が本当にブタのEMP1に関するものであるのか研究するため、RT−PCRを、BMECについて、ヒトのEMP1のコード領域から得られたプライマーhsEMP1.s1(5’ GGT ATT GCT GGC TGG TAT CTT T3’=配列番号9)およびhsEMP1.as1 (5’ ATG TAG GAA TAG CCG TGG TGA T3’=配列番号10)を用いて実施した。得られた生成物(ssEMP1)はクローン化し、配列を決定した。その配列から、プライマーssEMP1.1(5’ GGT CTT TGT GTT CCA GCT CTT C3’=配列番号11)が得られた。第2のプライマーssEMP1.1R(5’ TTC TCA GGA CCA GAT AGA GAA CG3’=配列番号12)は、ヒトのEMP1のコード配列と、ブタからのEST・F23116との絶対的な一致部分から得られた。これら二つのプライマーssEMP1.1/ssEMP1.1Rを用いて、前述したように発現パターンを調製した(図4参照)。
【0125】
クローンS231およびSSEMP1からのプライマーに関する発現パターンは、実際に類似しているが、決して同一ではない。それゆえ、S231は、pmp−22/emp/mp20遺伝子ファミリーの他のメンバーを示していることが仮定できる。
双方の発現パターンは、ノーザンブロット解析により解明された。ここで、クローンS231(図5のA)とPCR生成物hsEMP1.s1/hsEMP1.as1(EMP1)(図5のB)は、それぞれプローブ(図5参照)として使用した。
ノーザンブロットにおいて、BMECの特異性はさらに明確になる。BMECにおける発現、その結果、BBBにおける発現は、いずれもこれまで報告されていない。
【0126】
ノーザンブロットにおいて注目すべきは、叢(ただし、ここでは約2〜3倍量のRNAを適用)および結腸における強い発現である。一方、RT−PCRによる発現は、心臓において強い。さらに、BMECの二種類の転写物の比率は、使用するプローブに応じて、明確に異なる。S231を用いると、小さな転写物に対する大きな転写物の比率は、ほぼ同じである。EMP1をプルーブとして用いると、小さな転写物の方が顕著に強いことを示す。
【0127】
文献におけるEMP1の発現データを比較すると、ブタのS231はヒトやマウスのEMP1とは異なる転写物のサイズを有しており、さらに、異なる種のEMP1に関して、文献データにより、発現パターンが部分的かつ強く異なることが明らかとなる。転写物の段階での不一致は、ここで説明するS231がEMP1を表すのではなく、S231に相当するこの遺伝子ファミリーの他のメンバーを表していることを示している。おそらく、ヒトにおいては一つの遺伝子EMP1のみが存在し、これが二種類のプロモーターにより制御されている。しかし、ブタにおいて、この機能は二つの異なる遺伝子であるEMP1とS231とが引き継いでいる。
【0128】
ブタのS231の完全なコード領域を得るために、BMECのcDNAライブラリーを、EMP1をクローンキャプチャー・プローブとして、pTriplEx2でスクリーニングする。ここで、幾つかの完全なコード領域を含む正のクローンを単離した。これらは配列を決定し、そこから、タンパク質配列を導いた(配列番号13および配列番号14)。
ブタのS231とヒトのEMP1との同一性は、アミノ酸配列のレベルで78%程度でしかなく、マウスに対しては76%である。この結果も、S231はEMPを表さないとの論理を支持する。すなわち、通常のタンパク質は、ヒトとブタとの間で85〜95%の同一性を有しているからである(図7参照)。
【0129】
BBBにおけるS231の積極的な役割について、手がかりを得るため、培養したBMECにおける発現パターンを、第1例(図8参照)で説明したように、既知のBBBマーカーとGAPDHとのそれぞれと比較しながら研究した。これらのデータは、既知のBBBマーカーで説明されているように、S231の発現の急速な減少を示す。しかし、GAPDHのようなハウスキーピング遺伝子は、制御を示さない。
【0130】
S231について既に説明した方法で実施したウェスタンブロット解析の結果、RNAレベルで得られた結果を確認した。BMECでは、AOECとは異なり、強いタンパク質の発現が認められる。その上、ウェスタンブロットの結果は、S231は、主に膜分画に存在することを示している。培養したBMECにおいて発現は低下するが、低分子量のタンパク質はより多くの量が検出できる。これは、おそらく、S231の二つの異なるホモおよびヘテロダイマーが原因となっている。ウェスタンブロットは図6に示す。
データは、明らかにBBBにおけるS231の機能を示している。他の細胞型の分化におけるタンパク質について既に述べたような役割を検討すれば、S231はBBBの内皮細胞の特異的な分化状態に対応し、おそらく細胞付着分子またはチャネル(最も強く保存される膜領域)を示している。
【0131】
[第3例:S012の同定]
正プローブを逆プローブと比較するディファレンシャルスクリーンにおいて、サブストラクションクローンS012は、5倍よりも高い強度のシグナルを示し、それにより配列から選択された。クローンS012の配列は、配列番号15に示す。配列に基づき、S012は、ヒトの仮定的なタンパク質であるFLJ13448と明らかに一致した。
【0132】
最初に、S012について、プライマーS012.s1(5’GTA TCG GGA GTG GAG GAT TAC A3’=配列番号16)およびS012.as1(5’CCC GAG GTA TAT TTG TTT CTG G3’=配列番号17)を既に述べたように用いて、発現パターンを調製した。GAPDHは、対照として使用した(発現パターンは示さず)。
【0133】
この半定量的な発現パターンは、S012はBMEC中で、AOEC中よりも、より強く発現することを示し、その結果、ディファレンシャルハイブリダイゼーションの結果が確認できる。その上、BMECにおける発現は、皮質(脳)におけるものよりも明らかに強く、これが脳におけるBMECの特異性についての手がかりになっている。心臓においてのみ強い発現が見られる。ブタのS012/FLJ13448のcDNA全長は、5’と3’のRACE−PCRを重ねることにより得られ、タンパク質配列と共に、配列番号18および配列番号19に示す。
【0134】
発現パターンは、ノーザンブロット解析により確認した。全長クローンFLJ13448/S012(配列番号:18)は、このためのプローブとして用いた(図9参照)。
ノーザンブロットにおいて、BMECの特異性は、より明確になる。BMECおよびそれによるBBBでの発現については、これまで報告されていない。
S012は、ヒトの仮定的タンパク質FLJ13448と同じであり、対応するマウスのもの(XM 129724)と相同である。ヒト、ネズミおよびブタのFLJ13448/S012の相同性の比較を図10に示す。シグナルペプチドとして機能するペプチドおよび開裂するペプチドは、それぞれの場合、イタリックで印刷されている。
【0135】
N末端の60アミノ酸の低い保存性と、C末端の高い相同性のそれぞれは、驚異的である。おそらく、N末端は、細胞内のタンパク質の正確な位置に対応するシグナルペプチドを示している。生命情報科学の研究結果は、細胞内のタンパク質のミトコンドリアにおける位置を示している。タンパク質の機能は、強く保存されているC末端に依存している。
BBBにおけるFLJ13448/S012の積極的な役割について手がかりを得るため、第1例(図11参照)で説明したように、培養したBMECにおいて、既知のBBBマーカーとGAPDHとの比較により、発現パターンを研究した。
これらのデータは、明らかにBBBにおけるFLJ13448/S012の役割を示す。培養したBMECにおける発現の強い低下は、細胞の分化状態に伴うFLJ13448/S012の調節を示している。
【0136】
[第4例:NSE2の同定]
試料材料を[2次元ディファレンシャルゲル電気泳動によるBBB−特異的タンパク質の同定]の項で説明したように調製した。
【0137】
ディファレンシャルスポット1.1.0.1.10.37に、MALDI・TOF分析を行った結果、以下のペプチド分子量が得られた:861.499878.47975.501056.61;1132.53;1198.71;1216.71;1227.53;1347.69;1430.76;1438.69;1516.71;1623.79;1790.87;1796.811935.93;1954.05;2081.02;2231.07;2375.08;2577.09;2613.1。
【0138】
スポット1.1.0.1.10.37は、NCBIデータベースにおける詳細なデータベース分析により、NSE3であることが同定された。ヒトのNSE2は、計算上の分子量が34.5kDaで、pI値が5.4であり、いずれも2次元ゲルにおいてスポット1.1.0.1.10.37が観察された位置と良く一致している。下線を付したペプチド分子量は、ヒトの配列と同じであると思われるものに割り当てている。図12は、ペプチド分子量が、ヒトのタンパク質の配列をカバーする部分を表している。
【0139】
最初に、NSE2について、プライマーssNSE2.s1(5’CGC GTG GTG AAT GAT CTG TA3’=配列番号20)およびssNSE2.as1(5’CTC CAT GAT CAG GTC CTC CAG3’=配列番号21)を既に述べたように用いて、発現パターンを調製した。GAPDHは、対照として使用した。
この半定量的な発現パターンは、NSE2の発現は心臓で最も高く、BMECおよび皮質(示さず)がこれに次ぐことを示している。この結果は、ノーザンブロット分析(図13参照)により確認された。ハイブリダイゼーションでは、3’RACE−PCRで得られたブタのNSE2の部分的cDNA配列(配列番号22および配列番号23)を使用した(CDS1〜192は部分的にC末端部分をコードする)。
【0140】
BBBにおけるNSE2の積極的な役割について手がかりを得るため、第1例で説明したように、培養したBMECにおいて、既知のBBBマーカーとGAPDHとの比較から、発現パターンを研究した。結果は、図14に示す。これらのデータは、NSE2の発現の急速な減少を示し、それゆえ、BBBにおけるNSE2の機能を示す。
図15は、ヒトのNSE2とNSE1との相同性の比較を示す。
【0141】
ホスホリラーゼ活性部位は、通常のフォントで示している。下線部は、チロシンキナーゼ部位と見なされる(プロサイト・パターン・マッチPS00109)。ここで、活性残基は、太字で示している。図16は、NSE2におけるPEST部位の分配を示す。PEST配列は、タンパク質中のPro、Glu、SerおよびThrが豊富な領域であって、これらのタンパク質のユビキチン制御における細胞内の短い半減期に対応する。REST領域(明るい灰色)における幾つかのSerまたはThr残基によるホスホリラーゼ活性は、ユビキチン・プロテアソーム経路による処理認識において重要である。
【0142】
ヒトNSE2の81〜163位は、NLP/P60ファミリー(pfam領域00877.4)と相同性を示す。NLP/P60ファミリーは、幾つかのリポタンパク質で発見されているが、機能は明らかではない。
さらに、この目的物は、虚血の諸症状についても研究した。ここで、虚血において、BMECにおけるNSE2の発現として、NSE2が減少することが明らかになった(図17参照)。このことは、虚血状態に伴う症状、例えば、卒中、心筋梗塞および腫瘍に伴う症状、例えば、グリア芽細胞に、NSE2が関与していることを示す。その上、NSE2の発現を制御することで、原因についての根本的な治療も可能になる。
【0143】
[第5例:DRG−1の同定]
試料材料を[2次元ディファレンシャルゲル電気泳動によるBBB−特異的タンパク質の同定]の項で説明したように調製した。
【0144】
ディファレンシャルスポット1.1.0.1.11.12に、MALDI・TOF分析を行った結果、以下のペプチド分子量が得られた:789.45;880.47;890.50948.491204.681217.641289.58;1428.70;1517.791573.73;1753.91;2017.08。
【0145】
スポット1.1.0.1.11.12は、NCBIデータベースにおける詳細なデータベース分析により、取得番号CAB66619に相当する仮説的なタンパク質であることが同定された。同じタンパク質は、データベースの他の記載では、ドーパミン応答性タンパク質DRG−1、LYST相互作用タンパク質LIP5およびHSPC228として記録されている。仮定的タンパク質CAB66619/DRG−1は、計算上の分子量が33.8kDaで、pI値が6.1であり、いずれも2次元ゲルにおいてスポット1.1.0.1.11.12が観察された位置と良く一致している。下線を付したペプチド分子量は、ヒトの配列と同じであると思われるものに割り当てている。図16は、ペプチド分子量が、ヒトのタンパク質の配列をカバーする部分を表している。
【0146】
ヒト(CAB66619)とマウス(XP−125508)との相同性の比較から、非常に高い相同性が、特にaa1〜180領域において認められる。生命情報科学の研究結果は、膜内外の領域を示し、N末端部分が細胞内に位置していることを示している。細胞内領域は保存性が高いホスホリラーゼ部位を示し、ヒトの配列(図19参照)では、グリコシル化部位が細胞外であることが予想される。
【0147】
最初に、既に説明したようにCAB66619.s1(5’CGA GAC CCT GTG GTG GCT TAT TAC3’=配列番号24)およびCAB66619.as1(5’CTG GTG TAT TAG CTG GAG CGT GTG3’=-配列番号25)を用いて、DRG−1の発現パターンを調製した。GAPDHは、対照として用いた。
半定量的な発現パターン(図20、ノーザンブロット解析で確認した)は、ブタのDRG−1は、BMECでの発現が、AOECでの発現よりも弱いことを示している。これは、2次元ゲルでの結果と全くは反対である。一般に、DRG−1は、実際に強度が異なって発現し、非常にユビキチン的である。それゆえ、2次元ゲルで起きた相違は、BMECにおけるDRG−1の特別な転写後の修飾によるはずである。このような相違は、例えば、予想されるホスホリラーゼ部位で起こり得る。細胞特異的なホスホリラーゼ活性は、そのようにして、タンパク質の活性を決定できる。
【0148】
BBBにおけるDRG−1の積極的な役割について手がかりを得るため、第1例(図21参照)で説明したように、培養したBMECにおける発現パターンを、既知のBBBマーカーおよびGAPDHとそれぞれ比較することにより研究した。これらのデータは、DRG−1の発現の明確な減少を示し、それゆえ、BBBにおけるDRG−1の機能を示している。
配列番号26および27は、ブタのDRG−1の部分的cDNA配列を示している(CDS1−585、中央の部分)
【0149】
[第6例:TKA−1の同定]
試料材料を[2次元ディファレンシャルゲル電気泳動によるBBB−特異的タンパク質の同定]の項で説明したように調製した。
【0150】
ディファレンシャルスポット1.1.0.1.6.30に、MALDI・TOF分析を行った結果、以下のペプチド分子量が得られた:776.44;847.47;900.50;916.46;976.521048.58;1085.61;1127.66;1137.55;1167.67;1180.68;1212.69;1234.69;1291.67;1301.67;1303.69;1338.72;1350.70;1370.65;1419.70;1423.77;1434.79;1440.791456.76;1466.76;1467.71;1483.77;1547.781558.85;1665.90;1714.96;1716.90;1740.80;1762.90;1838.92;1897.99;2025.11;2054.06;2234.15;2243.20;2244.18。
【0151】
スポット1.1.0.1.6.30は、NCBIデータベースにおける詳細なデータベース分析により、TKA−1であることが同定された。下線を付したペプチド分子量は、ヒトの配列と同じであると思われるものに割り当てている。図22は、ペプチド分子量が、ヒトのタンパク質の配列をカバーする部分を表している。
データベースにおいて、TKA−1の3種類の形態が見いだされ、以下に述べる計算上の分子量とpI値を有している:CAA90511:49.3kDA/pI6.7;BAA33216:37.4kDA/pI7.9;AAB53042:、36.2kDA/pI8.2。 2次元ゲルでの位置は、明らかに大きな形態を示している。BAA33216の形態は、ここで明確に実験的に見いだされた。すなわち、取得番号AAB53042のタンパク質では、ペプチドDGSAWKQDPFQ(図22における斜字)が失われている。ただし、MALDI分析では、トリプシン断片において部分的に(下線部が)認められた。
【0152】
ヒト、マウスおよびラットにおけるTKA−1配列の比較の結果、高い配列保存性が明らかとなる。TKA−1は、タンパク質−タンパク質相互作用を調節する二つのPDZ領域を有している。これらのPDZ領域に、幾つかの活性ホスホリラーゼ活性部位が位置している。これにより他のタンパク質との相互作用を調節することができる。また、N−グリコシル化部位も保存されている。
【0153】
最初に、TKA−1の発現パターンを、プライマーssSLC9A3R2.s1(5’AAA AGG CCC CCA GGG TTA CG3’=配列番号28)およびssSLC9A3R2.as1(5’GGA GTG GGC AGC AGG TGA GC3’=配列番号29)を用いて調製した。GAPDHは、対照として用いた。
【0154】
配列パターンは、ノーザンブロット解析で確認した。ここで、二種類のプライマーssTKA−1ctg.s1(5’TTA ACC TGC ACA GCG ACA AGT3’=配列番号30)およびssTKA−1ctg.as1(5’TTG CTG AAG ATC TCA CGC TTC3’=配列番号31)間の550bpのPCR生成物ssTKA−1.ctgを、プローブとして用いた。GAPDHは、対照として用いた。
【0155】
ノーザンブロット(図23)は、TKA−1がBMECにおいて最も強く発現し、BMECにおいて3種類の異なる転写物を生じることを示している。発現型は、肺において比較的強い。ただし、ここで、小さな転写物は、完全に失われている。現在まで、TKA−1とBBBあるいは内皮細胞との関係について、説明している文献は存在していない。
【0156】
BBBにおけるTKA−1の積極的な役割について手がかりを得るため、実施例1(図24参照)で説明したように、既知のBBBマーカーおよびGAPDHとそれぞれ比較することにより、培養したBMECにおける発現パターンを研究した。これらのデータは、TKA−1の明確な減少を示し、それゆえBBBにおけるTKA−1の機能を指摘している。
【0157】
虚血における発現に関して、目的とするTKA−1について、既に述べたように研究した。ここで、虚血において、BMECの発現に関してこの目的物が強く減少することが示された。このことは、虚血状態に伴う症状、例えば、卒中、心筋梗塞および腫瘍に伴う症状、例えば、グリア芽細胞に、TKA−1が関与していることを示す。TKA−1の発現を研究することで、これらの疾患における診断上のマーカーを使用することが可能になる。目的とするTKA−1は、既に充分に説明した疾患に対する根本的な治療の出発点として適している。
【0158】
虚血において、BMECにおけるTKA−1の発現パターンを、対照と比較したものを図25に示す。BMECは、一度虚血条件(ischemia)で培養し、さらに一度、方法の部分で説明したように通常の条件(control)で培養する。引き続き、双方の試料で目的物の発現を、18SのrRNAとの相対的な関係で測定した。得られた値は、対照を100%として、虚血試料ではそれを参照した。
【0159】
TKA−1のウェスタンブロット解析の結果により、RNAレベルで得られた結果を確認した。BMECでは、タンパク質の強い発現が認められるが、AOECでは希である。その上、ウェスタンブロットでは、TKAが第1に膜を伴い、かつ核内に存在することを示している。培養したBMECでは、発現が非常に急速に減少し、最初の世代を過ぎるともはや検出できなくなる。TKA−1のウェスタンブロット解析を図26に示す。
配列番号32および配列番号33は、ブタのTKA−1の部分的なcDNA配列を示している(CDS1〜741は、部分的にC末端部分をコードしている)。
【0160】
[第7例:S064/ARL8の同定]
正プローブを逆プローブと比較するディファレンシャルスクリーンにおいて、サブストラクションクローンS064は、5倍よりも高い強度のシグナルを示し、それにより配列から選択された。クローンS064の配列は、配列番号35に示す。この配列に基づくと、S064を既知の遺伝子と照合することができない。BLAST調査の結果から、DKFZのcDNAクローンp43401317に対して有意な相同性が認められる。ただし、p43401317は、明確なコード領域を含んでいない。
【0161】
対応するタンパク質を同定するため、ブタのBMECからのcDNAライブラリーを、サブストラクション法のクローンS064でスクリーニングした。ここで、二つの独立したクローンが同定された。長い方のクローンS064.3の配列を配列番号36に示す。BLAST調査の結果では、この配列も既知の遺伝子と照合することができない。
【0162】
ただし、クローンS064.3の配列は、ヒトゲノムの相同性比較により、領域10p12に位置している可能性がある。この遺伝子座の同じ方向における次の遺伝子は、ADP−リボシル化−8因子類似(ARL8)である。S064がARL8の新たな3’末端を示しているかどうかを確認するため、結合PCRを実施した。ここで、プライマーhsARL8.s1(5’TAA TGC AGG GAA AAC CAC CAT TCT3’、配列番号37)およびS064.3R(5’AAC CAA GAG ACA TGT TGG CAC T3’、配列番号38)を、一段RT−PCRにおいて、BMECのRNAと共に用いた。生成物の特異性を調べるために、一段RT−PCRの生成物を1:1000に希釈し、プライマーhsARL8.s2(5’ATA GCA TTG ACA GGG AAC GAC T3’、配列番号39)およびS064.GSP2(5’CTG CTA GAT TCA AGT CAT CAT GC3’、配列番号40)と共に、入れ子式のPCRで用いた。ここで得られた生成物は、クローン化し、配列を決定した。得られた配列により、サブストラクション法のクローンS064が、遺伝子ARL8を表していることが明確に確認される。
【0163】
ARL8を完全にコードするcDNA配列は、一段RT−PCRを利用し、BMECのRNAとプライマーS064cds.s1(5’CTC GTG ATG GGG CTG ATC TTC3’、配列番号41)およびS064cds.as1(5’ATC TCA CAC CAA TCC GGG AGG T3’、配列番号42)を用いて得ることができた。ブタのARL8のコード配列は配列番号43に、それによりコードされるタンパク質を配列番号44に示す。この高度な配列保存性は、このタンパク質の非常に有用な役割を指摘している。ARL8(ブタ)のcDNA配列は、ヒトおよびマウスの対応する配列のコード領域と比較して、それぞれ95%および92%の相同性を有している。
【0164】
S064について、説明したように、プライマーS064.s1(5’AAG CCT GAA GCT TGA TGG ATA A3’、配列番号45)およびS064.as1(5’CAA TTA CAG CTT TGC TCC TGT G3’、配列番号46)を用いて、発現パターンを調製した。18SのrRNAは、対照として用いた。いずれのプライマーS064cds.s1/as1も、ヒトとブタとの高い相同性(例えば、結合PCRの生成物)のため、ヒトの配列に由来させた。一般的なプライマー設計における次の手順として、完全なコード領域を二つのプライマーで挟むことを行った。その方法では、プライマーS064cds.s1が7〜9位においてATG開始コドンを含み、プライマーS064cds.as1の22位が終止コドンの最初の塩基を示す。発現パターンを図27に示す。
【0165】
発現パターンは、ARL8のコー路領域からの別のプライマー対ARL8cds.s1(5’ATA GCA TTG ACA GGG AAC GAC T3’、配列番号47)およびARL8cds.as1(5’GAA CTG AGG GTG AGG TAT TTG G3’、配列番号48)を用いて繰り返した。発現パターンを図28に示す。
【0166】
さらに、発現パターンをノーザンブロット解析で確認した。ここで、クローンS064をプローブとして用いた。結果を図29に示す。
これら三種類の実験は、BBB、すなわち脳血管関門についてARL8の非常に高い特異性を示す。BMECおよびBBBにおけるそれぞれの発現は、これまで報告されていない。ここで示される高い特異性は、BBBにおけるARL8の非常に重要な役割を示している。
【0167】
BBBにおけるARL8の運動機能に対して手がかりを得るため、発現パターンを培養したBMECにおいて調べ、既知のBBBマーカーと比較した。結果を図30に示す。
データは、培養したBMECにおいてARL8の発現の急速な減少を示し、それゆえ、BBBにおけるARL8の活性作用を指摘している。
【0168】
ARL8は、調節GTP加水分解酵素のRAS超ファミリーに属している。これらは、細胞成長因子の転移、細胞骨格の構築、細胞膜輸送(エキソサイトーシスおよびエンドサイトーシス)のような複数の処理に含まれている。ARL8は、最初に、セボールド他により2003年に報告された。ただし、彼らは、大人の脳での発現を示すことができなかった。この例は、BBBにおけるARL8の実際の発現を最初に示す。この結果は、ARL8は、BBBの内皮細胞の特異的な分化状態に依存し、それにより、BBBの機能に寄与していることを示している。
【0169】
[第8例:5G9/PNOV1の同定]
正プローブを逆プローブと比較するディファレンシャルスクリーンにおいて、サブストラクションクローン5G9は、5倍よりも高い強度のシグナルを示し、それにより配列から選択された。クローン5G9の配列は、配列番号49に示す。この配列に基づくと、5G9は、新規なタンパク質HSNOV1(AAH39195)をコードするヒトの転写物(NCBIデータベースの番号BC039195)に対応させることができた。mRNA分子について説明したこのデータベースの記述では、オープンリーディングフレームとその結果として生じる仮定的なタンパク質をアノタチオンと同定している。これは、実験データによるものではなく、コンピューター・ベースの予測である。得られるタンパク質は、既知のタンパク質と類似性を示すことなく、それゆえ、新規なタンパク質と呼ぶことができた。
【0170】
5G9の発現パターンを、既に述べたように、プライマー5G9.1(5’TGT ATA TGT GGG ACA GCC ATC A3’、配列番号50)および5G9.1R(5’GTC CGA GCA GGA TAT ACT TCC A3’配列 番号51)を用いて調製した。18SのrRNAを参照として使用した。発現パターンの決定に用いるプライマー対は、一般的な原則に従い入手した。すなわち、プライマーの融点は55〜75℃であり、二つのプライマーの融点はほぼ同じ値であり、18〜26塩基対の長さであり、至適GC含率が40〜60%であり、ヘアピンループを避け、ホモおよびヘテロダイマーの形成を避け、生成物のサイズが100〜300bpであるようにした。発現パターンを図31に示す。
【0171】
発現パターンは、5G9が、主にBBB、結腸および腎臓で形成されることを示している。脳では、発現がBMECに特異的であるように見える。BMECおよびBBBにおけるそれぞれの発現は、これまでに報告されていない。
ブタの対応するタンパク質を同定するため、クローン5G9の配列から出発して、ブタの完全なcDNAであるPNOV1を、5’および3’RACE−PCR(配列番号52)を用いて単離した。この480〜1466位の転写物は、配列番号53のタンパク質をコードしている。HSNOV1とPNOV1との相同性の比較を図32に示す。
【0172】
HSNOV1とPNOV1との相同性は、94%である。ただし、PNOV1は、HSNOV1と比較して、N末端が47アミノ酸だけ短い。HSNOVIにおけるこの部分の配列は、後に切断されるシグナル配列を意味している可能性がある。
タンパク質HSNIOV1は、他の既知のタンパク質と有意な相同性を全く示さない。生命情報科学の研究結果は、8つの細胞間領域の存在を示している(図33参照)。
【0173】
さらに、いくつかの領域(例えば、インタープロ領域ipr002657)が発見され、輸送体としての機能が示された。
これらのデータは、PNOV1/HSNOV1がBBBにおける新規な輸送体であることを示しているようである。同様のことは、多くの物質に対する高い輸送活性を有している二つの組織、結腸および腎臓でも起きる。
【0174】
[第9例:5E7/TSC−22の同定]
正プローブを逆プローブと比較するディファレンシャルスクリーンにおいて、サブストラクションクローン5E7は、5倍よりも高い強度のシグナルを示し、それにより配列から選択された。クローン5E7の配列は、配列番号54に示す。この配列に基づき、5E7は、形質転換成長因子ベータ刺激タンパク質TSC22であると明確に同定された。
【0175】
クローン5E7は、転写物TSC−22の3’末端を示す。ブタの完全なcDNAを得るため、5’RACE−PCRを実施した。このPCR生成物をクローン化し、配列を決定した。ブタのTSC−22からの完全なcDNA配列を、配列番号55に示す。ここでコード領域は、243〜677位に位置している。これに対応するタンパク質を、配列番号56に示す。ブタのタンパク質は、既に明らかとなったヒトのタンパク質TSC−22と100%相同であって、これは、このタンパク質の特別な重要性を示している。
【0176】
5E7について、説明したノーザンブロット分析により、発現パターンを調製した。ここで、サブトラクション法のクローン5E7をプローブとして利用した(図34参照)。
実験結果は、全脳と比較して、BMECにおいてTSC−2の強い発現を示した。これにより、血液脳関門における特異性が示された。BMECおよびBBBのそれぞれにおける発現は、これまで報告されていない。
【0177】
BBBにおけるTSC−22の積極的な役割について手がかりを得るため、培養したBMECにおいて、既知のBBBマーカーおよび18SのrRNAとの比較により、発現パターンを調べた。定量的なPCRのため、プライマー5E7.1(5’AAG AGG TGT GGC TTG TCT TTT A3’、配列番号57)および5E7.1R(5’TTT TTC AAA GTA TTC AAC CAG CTC3’、配列番号58)を用いた。結果を図35に示す。
【0178】
データは、培養したBMECにおけるTSC−22の発現の急速な減少を示しており、それゆえ、BBBにおけるTSC−22の役割を明確に示している。TSC−22に関して、培養したBMECにおける発現の強い減少は、細胞の分化状態に関係している。
虚血状態のBMECにおけるTSC−22の発現は、同様に研究した。結果を図36に示す。
【0179】
目的とするTSC−22は、虚血状態のBMECにおいて、その発現が強く縮小する。これは、虚血の症状を伴う疾患に、TSC−22が積極的に機能的な役割をすることを実現可能にする。これらの疾患には、卒中、心筋梗塞および腫瘍に伴う症状、例えば、グリア芽細胞が属する。TSC−22の発現の研究結果は、これにより、これらの疾患の診断上のマーカーとして利用することができる。この知識に基づき、BBBの機能不全に伴う疾患について、治療上の概念を展開することができる。
【0180】
TSC−22は、ロイシン・ジッパー(ケスター他、1999年)を伴う転写因子群に属している。特に、TGF−ベータのシグナル転移に関し(カワマタ他、1998年)、それゆえ、細胞成長と細胞分化における役割を示す。
この結果は、TSC−22がBMECの分化状態において共通の応答であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】aはItm2Aのノーザンブロット解析であり、bは虚血状態のBMECにおけるItm2Aの発現である。
【図2】培養したBMECにおけるItm2Aの発現パターンである(M:100bpマーカー)。
【図3】S231の発現パターンである(M:100bpラダー)。
【図4】ssEMP1の発現パターンである(M:100bpラダー)。
【図5】S231(A)およびEMP1(B)を、それぞれプローブとしてハイブリダイズさせたノーザンブロット解析である。
【図6】S231のウェスタンブロット解析である。
【図7】ヒトとネズミのEMP1並びにブタのS231の相同性比較であり、膜領域はハイライトの薄い色で、N−グリコシル化部位は明るい灰色で示す。
【図8】培養細胞におけるS231の発現パターンである(M:100bpマーカー)。
【図9】FLJ13448/S012の全長をプローブとしてハイブリダイズしたノーザンブロットである。
【図10】ヒト、ネズミおよびブタのFLJ13448/S012の相同性比較であり、それぞれの場合、ペプチドはシグナルペプチドとして機能し、開裂する。その部分は、斜字で表されている。
【図11】培養細胞におけるブタのFLJ13448/S012の発現パターンである(M:100bpマーカー)。
【図12】ヒトのタンパク質のNSE2アミノ酸配列であり、マスフィンガープリント法で同定されたペプチドは、太字の下線を付けたフォントで示されている。
【図13】配列番号22をプローブとしてハイブリダイズしたNSE2のノーザンブロットである。
【図14】培養細胞におけるNSE2の発現パターン(M:100bpマーカー)。
【図15】ヒトのNSE2とNSE1との相同性の比較であり、ホスホリラーゼ活性部位は淡いフォントで示され、チロシンキナーゼ活性領域(プロサイト・パターン・マッチPS00109)は下線が引かれ、そこで活性残基は太字で示されている。
【図16】NSE2のPEST領域の分配であり、PEST配列はタンパク質中のPro、Glu、SerおよびThrが豊富な領域であり、それらは細胞中のそれらのタンパク質の短い半減期に対応し、それらはそれらのタンパク質のユビキチン化を制御し、PEST領域(淡い色)におけるSerまたはThr残基のホスホリル化は、ユビキチン・プロテアゾーム経路の認識と処理に重要である。
【図17】虚血状態におけるBMEC中のNSE2の発現である。
【図18】ヒトのタンパク質DRG−1(CAB66619)のアミノ酸配列であり、マスフィンガープリント法で同定されたペプチドは、太字の下線を付けたフォントで示している。
【図19】ヒトおよびネズミのDRG−1の相同性比較は、90%の同一性と94%の相同性をそれぞれ示しており、ホスホリラーゼ活性部位、保存されていないグリコシル化活性部位および膜内外の領域は、淡いフォントで示され、N−末端は細胞内に位置している。
【図20】DRG−1の発現パターンである(M:100bpマーカー)。
【図21】培養した細胞におけるDRG−1の発現パターンである(M:100bpマーカー)。
【図22】ヒトのタンパク質TKA−1のアミノ酸配列であり、マスフィンガープリント法で同定されたペプチドは、太字の下線を付けたフォントで示している。
【図23】ssTKA−1.ctgをプローブとしてハイブリダイズしたノーザンブロットである。
【図24】培養した細胞におけるTKA−1の発現パターンである(M:100bpマーカー)。
【図25】虚血状態のBMEC中でのTKA−1の発現である。
【図26】TKA−1のウェスタンブロット解析である。
【図27】S064の発現パターンである。
【図28】ARL8の発現パターンである。
【図29】S064をプローブとしてハイブリダイズした、多組織のブロットである。
【図30】培養したBMECにおけるS064/ARL8の発現である。
【図31】5G9の発現パターンである。
【図32】HSNOV1とPNOV1との相同性比較である。
【図33】タンパク質HSNOV1の配列において、膜内外領域の予測である。
【図34】5E7をプローブとしてハイブリダイズした、多組織のブロットである。
【図35】培養したBMECにおけるTSC−22の発現パターンである。
【図36】虚血状態のBMECにおけるTSC−22の減少した発現率である。
【配列表】































【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳毛細血管の内皮細胞中のBBB−特異的タンパク質またはその断片の存在を同定する方法であって、
a)脳から単離した新鮮な脳毛細血管の内皮を、通常の方法で酵素消化により前精製処理し、
b)工程a)で得られた消化物を、存在する赤血球とアポトーシス細胞を実質的に破壊し、脳毛細血管の内皮細胞の少なくとも70%を生きている状態で維持する溶血性緩衝液で処理し、
c)工程b)で得られた生成物を、任意にさらに精製処理し、
d)脳毛細血管の内皮細胞とサブトラクション法に用いる組織から、サブトラクション法のcDNAライブラリーを調製し、
e)一もしくはそれ以上のディファレンシャル・ハイブリダイゼーションにより、cDNAについてサブトラクション法を実施し、
f)上記サブトラクション法のcDNAライブラリーからのクローンを、それら個々の発現型に関するディファレンシャル・ハイブリダイゼーションによって照合し、
g)上記サブトラクション法のcDNAライブラリーからのBBB−特異的タンパク質についてcDNA配列を完成し、
h)調査したクローンの発現パターンを、新鮮な培養した脳毛細血管の内皮細胞間で比較し、それにより、BBB−特異的タンパク質またはその断片の存在を同定する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
工程b)の溶血性緩衝液が、下記の組成からなることを特徴とする請求項1に従う方法:
Na:30.0mM〜60.0mM;
:5.0mM〜7.5mM;
NH:80.0mM〜100.0mM;
Ca2+:1.0mM〜2.0mM;
Mg2+:6.0mM〜9.0mM;
Cl:125.0mM〜175.0mM;
HCO:4.5mM〜6.5mM;
PO:0.5mM〜2.5mM;
SO2−:0.3mM〜0.6mM;
HPO2−:0.4mM〜0.7mM;および
グルコース:1.5mM〜3.0mM。
【請求項3】
溶血性緩衝液が、下記の組成からなることを特徴とする請求項2に従う方法:
NaCl:30mM〜50mM;
KCl:4.5mM〜5.5mM;
NHCl:80mM〜100mM;
CaCl:1.0mM〜2.0mM;
MgCl:0.6mM〜0.8mM;
MgSO:0.3mM〜0.6mM;
NaHCO:4.5mM〜6.5mM;
NaHPO:0.2mM〜0.45mM;
NaHPO:0.4mM〜0.65mM;
KHPO:0.1mM〜0.15mM;および
グルコース:1.5mM〜3.0mM。
【請求項4】
工程d)のサブトラクション法に用いる組織が、大動脈内皮細胞であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に従う方法。
【請求項5】
工程i)における完全なcDNA配列を、cDNAライブラリーのスクリーニングとRACE−PCR法により調製することを特徴とする請求項1乃4のいずれか一項に従う方法。
【請求項6】
脳毛細血管の内皮細胞がヒトまたはブタ由来であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に従う方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に従う方法により得られるBBB−特異的タンパク質またはその断片。
【請求項8】
配列番号5、配列番号14、配列番号19または配列番号53から選ばれる配列を有することを特徴とする請求項7に従うタンパク質。
【請求項9】
脳毛細血管の内皮細胞中のBBB−特異的タンパク質またはその断片の存在を同定する方法であって、
a)脳から単離した新鮮な脳毛細血管の内皮細胞を、通常の方法で酵素消化により前精製処理し、
b)工程a)で得られた消化物を、存在する赤血球とアポトーシス細胞を実質的に破壊し、脳毛細血管の内皮細胞の少なくとも70%を生きている状態で維持する溶血性緩衝液で処理し、
c)工程b)で得られた生成物を、任意にさらに精製処理し、
d)工程c)で得られた生成物を、適当な緩衝液に溶解し、
e)等電点電気泳動を実施し、
f)等電点電気泳動からの試料を、分子量に従って二次元分離し、
g)相違点を同定して、単離し、
h)工程g)の単離物について、質量スペクトル分析を実施し、
i)特異性のデータベース分析により、その評価を構築する
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
工程b)の溶血性緩衝液が、下記の組成からなることを特徴とする請求項9に従う方法:
Na:30.0mM〜60.0mM;
:5.0mM〜7.5mM;
NH:80.0mM〜100.0mM;
Ca2+:1.0mM〜2.0mM;
Mg2+:6.0mM〜9.0mM;
Cl:125.0mM〜175.0mM;
HCO:4.5mM〜6.5mM;
PO:0.5mM〜2.5mM;
SO2−:0.3mM〜0.6mM;
HPO2−:0.4mM〜0.7mM;および
グルコース:1.5mM〜3.0mM。
【請求項11】
溶血性緩衝液が、下記の組成からなることを特徴とする請求項10に従う方法:
NaCl:30mM〜50mM;
KCl:4.5mM〜5.5mM;
NHCl:80mM〜100mM;
CaCl:1.0mM〜2.0mM;
MgCl:0.6mM〜0.8mM;
MgSO:0.3mM〜0.6mM;
NaHCO:4.5mM〜6.5mM;
NaHPO:0.2mM〜0.45mM;
NaHPO:0.4mM〜0.65mM;
KHPO:0.1mM〜0.15mM;および
グルコース:1.5mM〜3.0mM。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか一項に従う方法により得られるBBB−特異的タンパク質またはその断片。
【請求項13】
配列番号23、配列番号27、配列番号33から選ばれる配列を有することを特徴とする請求項12に従うタンパク質。
【請求項14】
血液脳関門を通して物質を搬送するための医薬を調製するための、請求項7、8、12、13のいずれか一項に従うタンパク質の使用。
【請求項15】
血液脳関門の機能不全に基づく疾患を診断または治療するための薬品または医薬を調製するための、請求項7、8、12、13のいずれか一項に従うタンパク質の使用。
【請求項16】
請求項7、8、12、13のいずれか一項に従うタンパク質を含むことを特徴とする血液脳関門の機能不全に基づく疾患を診断するための薬品。
【請求項17】
請求項7、8、12、13のいずれか一項に従うタンパク質を含むことを特徴とする血液脳関門の機能不全に基づく疾患治療剤。
【請求項18】
虚血性の病状を伴う疾患の診断のための薬品を調製するための、配列番号4、配列番号6、配列番号15、配列番号22、配列番号23、配列番号26、配列番号32、配列番号35、配列番号36、配列番号43、配列番号49、配列番号52、配列番号54、配列番号55から選択される一もしくはそれ以上のDNA配列の使用。
【請求項19】
脳卒中、心筋梗塞または腫瘍を伴う病状の診断のための請求項18に従う使用。
【請求項20】
前記DNA配列によりコードされるタンパク質の発現を制御することにより、診断を実施することを特徴とする請求項18または19のいずれか一つに従う使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公表番号】特表2006−517181(P2006−517181A)
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−538876(P2004−538876)
【出願日】平成15年9月8日(2003.9.8)
【国際出願番号】PCT/EP2003/009968
【国際公開番号】WO2004/029631
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(505090470)フランクゲン・ビオテクノロギー・アーゲー (1)
【氏名又は名称原語表記】FrankGen Biotechnologie AG
【Fターム(参考)】