説明

CDK阻害剤によるC型肝炎ウイルスの複製抑制

【課題】 本発明はC型肝炎ウイルスの複製を阻害することにより、C型肝炎ウイルスの感染に伴う疾患を治療するために有用な医薬を提供する。
【解決手段】cdk阻害活性を有する化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含むC型肝炎ウイルス複製阻害剤、及び該阻害剤を有効成分として含むC型肝炎ウイルスによる感染症治療のための医薬。さらに、該医薬を使用したC型肝炎ウイルス感染症の治療方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CDK阻害活性を有する化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む、C型肝炎ウイルスの複製抑制又は阻害剤に関する。また、本発明が該抑制又は阻害剤を有効成分として含む、C型肝炎ウイルス感染症の治療に有用な医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎は、Hepatitis C virus(HCV)に感染することで発病し、その患者数は全世界で1億7000万人にものぼる重篤な感染症である。HCVは1型から6型までの遺伝子型(genotype)に分けられ、その中で亜型(subtype)は現在40種類以上単離されている。日本や欧米諸国では1、2、3型が多く、エジプト、南アフリカ、東南アジアではそれぞれ4、5、6型が多く蔓延している。HCVへの暴露から7、8週間で黄疸、倦怠、悪心などの兆候が急性肝炎の症状として表れることがあるが、多くの場合は自覚症状のないまま持続感染する。一度持続感染が成立すると自然治癒は稀で、肝炎、肝線維症、肝硬変を経て肝臓癌に至る。
【0003】
HCVは、1989年にカイロン社のグループによって同定された、フラビウイルス科ヘパシウイルス属の、脂質二重膜で覆われた粒子構造を持つウイルスである。ヒト以外の宿主はチンパンジー、マーモセット、ツパイのみが知られており、血液・体液を介して肝臓及びB細胞、T細胞などの血球細胞特異的に感染する。ゲノムは約9.6kbのプラス鎖RNAであり、約340塩基の5’UTRと約9000塩基のオープンリーディングフレーム(ORF;open reading frame)、約260塩基の3’UTRからなる。ORFは一本のポリプロテインとして翻訳された後、細胞内のシグナルペプチダーゼ及びそれ自身にコードされているプロテアーゼによるプロセシングを受ける。その結果、最終的にcore(コア)、E1、E2、p7の4つの構造タンパク質、さらにNS2、3、4A、4B、5A、5Bの6つの非構造タンパク質が生成する。coreは、RNA結合能を持つヌクレオキャプシドであり、粒子生成の際RNAと非構造タンパク質をlipid droplet(LD)膜に集める。E1とE2は膜貫通ドメインを持つ糖タンパク質であり、E2はHCVレセプターであるCD81やscavenger receptor class B type I(SR−BI)などと結合しうる。p7はイオンチャネルであり、ウイルス粒子の組み立てや出芽に重要な役割を果たす。NS2はプロセシング後の機能は知られていないが、ポリペプチド状態ではNS2/3プロテアーゼとして自己を切断する。NS3はN末端側がRNAヘリカーゼで、C末端側がセリンプロテアーゼである。NS4AはNS3プロテアーゼのコファクターである。NS4Bは疎水性のタンパク質であるが、その機能はよく知られていない。NS5Aはp56とp58の2種類のリン酸化状態を持つタンパク質であり、NS5Bと結合しポリメラーゼ活性を調節する、複製複合体のサブユニットである。NS5BはRNA依存RNAポリメラーゼとして働き、ウイルスRNAの複製を行う。
【0004】
HCVの培養細胞における感染増殖系が長らく確立できていなかったことや、扱いやすい動物モデルが不在であることから、ウイルスの複製機構の解明や抗ウイルス薬の開発が立ち遅れてきた。1999年にgenotype 1bのCon1株の5’非翻訳領域(UTR;untraslated region)及びNS3から3’UTRまでを用いたサブゲノミックレプリコン(SGR;subgenomic replicon)システムが構築され、細胞内での複製機構の解析が可能となった。また、2005年にはgenotype 2aのJFH−1株全長の培養細胞での感染増殖系が確立され、ウイルスの感染から分泌まで全てのステップが培養細胞で観察可能となった。
【0005】
現在のところ、HCVに対する治療法は、ペグインターフェロンα(pegylated(peg)−interferonα)とリバビリン(ribavirin)による併用療法が主である。
インターフェロンαはウイルス感染によって誘導されるタンパク質で、RNA依存性プロテインキナーゼ(PKR;RNA−dependent protein kinase)や2’,5’−オリゴアデニレートシンテターゼ(OAS;2’,5’−Oligoadenylate Synthetase)などを誘導する。PKRは、eukaryotic initiation factor2(eIF2)のαサブユニットをリン酸化することで翻訳を阻害し、OASは、ATPより2−5A[px5’A(2’p5’A)n;x=1〜3;n≧2]を合成し、2−5A依存的にRNase Lが活性を持つ二量化となりRNAを切断する。また、インターフェロンにポリエチレングリコール(peg;polyethylenglycol)化を施すことにより、腎臓での代謝を遅らせ半減期を延長することができる。
リバビリン(1−α−D−リボフラノシル−1,2,4−トリアゾール−3−カルボキサミド)はプリンヌクレオシドアナログで広範に抗ウイルス活性を持つ。HCVに対しては、HCV感染の慢性化と関連すると考えられている2型ヘルパーT細胞を1型ヘルパーT細胞に転換させる、リン酸化を受けリバビリントリホスフェートとなりウイルスポリメラーゼを阻害する、ゲノムに取り込まれ、突然変異を起こす、などの作用機序が考えられている。
【0006】
しかし、この併用療法によるSVR(sustained virological response;治療を受けてから6ヶ月後にもHCV RNAが検出されない患者の割合)は50%程度にとどまり、また自己免疫疾患などの副作用が起こりやすいことや治療費が高額になることなどからも新しい治療法の開発が望まれている。また、欧米におけるhuman immunodeficiency virus(HIV)患者の約30%はHCVと共感染を起こしており、単独で感染するよりも免疫不全や肝臓病の進行が早まり、治療によるHCVに対するSVRも最大で40%程度である。
ウイルスの生活環の中で増殖阻害の標的となりうるステップは、宿主細胞へのエントリー、プロセシング、RNA複製、ウイルス粒子の組み立て、粒子の分泌である。その中で現在研究が進んでいるのは主にNS3プロテアーゼ阻害剤とNS5B RNA依存RNAポリメラーゼ阻害剤であり、例えばプロテアーゼ阻害剤のテラプレビア(telaprevir)やポリメラーゼ阻害剤のR−1626などの治験が行われている。その他にも宿主免疫応答を促すtoll−like receptor(TLR)のアゴニストであるCPG10101やANA975や、NS5Bと結合し、RNAへの結合能を高める宿主因子であるcyclopholin Bに対する阻害剤NIM−811などの研究が進んでいる。またHCVに対する有効なワクチンは未だ開発されておらず、チンパンジーに関してはウイルス血症をワクチンにより抑えられたという報告があるが、ヒトに関しては、T細胞の応答を高めることができるものの、血清中のHCV RNAの減少がほとんど見られないのが現状である。
【0007】
ところで、1つの細胞が染色体DNAなどの中身を倍加し、分裂して2つの細胞になるサイクルを細胞周期と呼ぶ。細胞周期は、細胞分裂からDNA合成までのG1期、DNA合成を行うS期、S期から細胞分裂までの間のG2期、細胞分裂を行うM期から成り、各時期への遷移はサイクリン依存性キナーゼ(cdk;cyclin−dependent kinase)とその調節因子サイクリン(cyclin)によって制御される。cdkは11の遺伝子が知られており、サイクリンと呼ばれる調節サブユニットと結合して酵素活性を持つようになるセリン/スレオニンキナーゼである。サイクリンはサイクリンボックスと呼ばれる150アミノ酸ほどの保存された領域を持つ、29の遺伝子からなるファミリーである。
G1期に細胞が分裂シグナルを受けるとサイクリンDが発現し、cdk4またはcdk6と結合しpRb、p107、p130というレチノブラストーマ(Rb;retinoblastoma)ファミリーをリン酸化する。インビトロの研究ではcdk4とcdk6の間や、3種類あるサイクリンDの間に大きな違いは見られていない。
【0008】
Rbは転写因子であるE2Fファミリーやヒストン脱リン酸化酵素(HDAC;histon deacetylase)、クロマチンリモデリング複合体(chromatin remodeling complex)などと結合し、転写活性を抑制する。cdk4,6/サイクリンD複合体によるRbのリン酸化によりRbとE2Fとの結合が弱まり、乖離したE2FがサイクリンEの転写を行う。cdk2はサイクリンEと結合することでさらにRbをリン酸化し、このことによって細胞周期がS期に入ると考えられる。S期にはサイクリンAが合成され、cdk2と結合することで転写因子やDNA複製に必要な遺伝子等のリン酸化を行い、S期が進行する。G2期に蓄積したサイクリンBがcdk1と結合することで、cdk1が70以上のタンパク質をリン酸化し、M期が進行する。
【0009】
HCVの発現によって細胞周期に影響を及ぼす例がいくつも知られている。例えばHCV coreタンパク質を発現させたトランスジェニックマウスでサイクリンD1、Eやcdk2、4の発現量が上昇していることや、E2やNS3によってMAPキナーゼ(MAPK;mitogen−activated protein kinase)が活性化され細胞増殖が起きること、又は、NS2により細胞周期の進行が阻害されることなどが報告されている。HCVを発現する細胞においてサイクリンの発現量やcdkの発現量及び活性が上昇していることが観察され(非特許文献1)、また、HCV患者の肝臓においても、正常あるいは高分化な組織より病状の進んだ組織の方がサイクリンやcdkを高発現していることが報告されている(非特許文献2)。
cdk2、3、4、6の基質であるpRbは培養細胞系でHCVのNS5Bを介してE6AP ubiquitin ligaseと結合し、プロテアソーム依存に分解を受けることが示されている。癌抑制遺伝子であるpRbが分解を受けることが、HCVによる肝発癌の原因の1つであると考えられる。またHCVがキャップ構造の代わりにリボソームをリクルートするために用いるinternal ribosome entry site(IRES)は、S期において最も翻訳活性が高まることが知られている。
【0010】
【非特許文献1】Koharaら,J.Biol.chem.,279(15),14531−14541,2004
【非特許文献2】Masakiら,Hepatology,37,534−543,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記状況に鑑み、細胞周期とHCVの増殖との関連に着目した上で、C型肝炎ウイルスの複製抑制又は阻害剤、並びにC型肝炎ウイルスの感染に対する有効な治療薬及び治療方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、HCVと細胞周期との関連性から、cdk活性がHCVの増殖を上方制御する可能性を考え、cdkの活性を阻害することがHCVの増殖に如何なる影響を及ぼすかを検討した。その結果、cdk阻害剤によるHCVタンパク質及びRNA量の減少が見出され、cdk阻害剤がHCVの増殖抑制に有効であることが明らかとなった。発明者らは、以上の結果に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、cdk阻害活性を有する下記一般式(1)又は(2)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含むC型肝炎ウイルス複製阻害剤、及び該阻害剤を有効成分として含むC型肝炎ウイルスによる感染症治療のための医薬である。
【化8】

[式(1)中、Rは置換基を有してもよいアリール基、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はヒドロキシアルキル基、Rは炭素数1〜6のアルキル基である]
【化9】

[式(2)中、Rはハロゲン原子である]
【発明の効果】
【0014】
本発明の阻害剤は、C型肝炎ウイルスの複製を抑制又は阻害することができる。その結果、本発明の医薬はC型肝炎ウイルスによる感染疾患を治癒せしめることができる。
【0015】
本発明の医薬を用いることにより、C型肝炎ウイルスによる感染疾患を有効に治療することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
一般式(1)において、Rは置換基を有してもよいアリール基、Rは炭素数1〜10、より好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基又はヒドロキシアルキル基、Rは炭素数1〜10、より好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基である。ここでRの「アリール基」は、1又は2以上の置換基を有しても良く、2以上の置換基を有する場合、各置換基は互いに同じものであっても良いし、異なるものであっても良い。上記置換基は、限定はしないが、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、ハロゲン基等のほか、ニトロ基、アミノ基、スルホン基等であっても良い。これらの中でも、フェニル基又はベンジル基が好ましく、フェニル基の場合には、特に、3−アミノ−クロロフェニル基が好ましい。また、Rの「アルキル基」及び「ヒドロキシアルキル基」並びにRの「アルキル基」は、好ましくは、直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれでもよく、限定はしないが、例えば、直鎖状ではメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等、環状ではシクロプロペニル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等及びこれらのアルキル基の一部が水酸基で置換されたヒドロキシアルキル基が挙げられる。Rは、例えば、下記式(3)又は(4)が好ましい。
【化10】

【化11】

また、Rはイソプロピル基が特に好ましい。
一般式(2)において、Rはハロゲン原子であり、ここで「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれでもよいが、特に、臭素原子が好ましい。
本明細書において、ある官能基について「置換基を有していてもよい」と言う場合には、その置換基の個数又は置換位置は特に限定されない。
また、本発明に係るC型肝炎ウイルス複製抑制又は阻害剤及び医薬の有効成分として含まれる一般式(1)又は(2)で表される化合物には、特に断らない限り、その幾何異性体(例えば、E体、Z体など)及び光学異性体も含まれる。
【0017】
一般式(1)で示される化合物及びその塩としては、限定はしないが、例えば次のものが挙げられる。
2−(R)(1−エチル−2−ヒドロキシエチルアミノ)−6−ベンジルアミノ−9−イソプロピルプリン及びその許容される塩、
(2R)−2−((6−((3−アミノ−5−クロロフェニル)アミノ)−9−(1−メチルエチル)−9H−プリン−2−イル)アミノ)−3−メチル−1−ブタノール及びその許容される塩。
一般式(2)で示される化合物及びその塩としては、限定はしないが、例えば、次のものが挙げられる。
2−ブロモ−12,13−ジヒドロ−5H−インドロ[2,3−a]ピロロ[3,4−c]カルバゾール−5,7(6H)−ジオン及びその許容される塩。
【0018】
本発明の一般式(1)及び(2)で表わされる化合物は、いずれも公知の文献又は通常の化学的合成方法を用いて得ることができ、あるいは、Calbiochem社等から市販されているものを購入することもできる。
【0019】
本発明は、一般式(1)及び(2)で表される化合物によりcdk活性を阻害することによって、C型肝炎ウイルスの複製が有効に阻害(抑制)されることを初めて見出したことに基づいて完成されたものである。
ここで「cdk(cyclin dependent kinase)」は、現在の11の遺伝子が知られており、調節サブユニットであるサイクリンと結合して酵素活性を発揮するセリン/スレオニンキナーゼのことである。例えば、HCVの増殖との関連において、cdk2、3、4、6の関与が示唆されているが、特に、ここではこれらのファミリーに限定するものではない。
本発明の化合物の阻害対象である「cdk」は、いかなる細胞又は組織に由来するものであってもよく、ヒト又は、ヒト以外の動物種、限定はしないが、例えば、好ましくは、霊長類(特にチンパンジー、マーモセット)、ツパイなどの細胞又は組織等に由来するものであってもよい。特に、好ましくは、ヒトである。
【0020】
本発明の医薬の有効成分としては、上記一般式(1)又は(2)で表される化合物のほか、生理学的に許容されるその塩を用いてもよい。塩としては、例えば、酸性塩基が存在する場合には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩;アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルカミン、L−グルカミン等のアミンの塩;又はリジン、δ− ヒドロキシリジン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸との塩を形成することができる。塩基性基が存在する場合には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸の塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸塩、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、乳酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、ニコチン酸、サリチル酸等の有機酸との塩;又はアスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸との塩などを挙げることができる。
さらに、本発明の医薬の有効成分として、一般式(1)又は(2)で表される化合物、又はその塩の溶媒和物若しくは水和物を用いることもできる。
【0021】
本発明の医薬は、有効成分である一般式(1)又は(2)で表される化合物及び薬理学的に許容されるその塩、又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物自体を投与してもよいが、一般式(1)又は(2)で表される化合物の他、製剤用添加物を含む医薬組成物の形態で投与することが望ましい。本発明の医薬の有効成分としては、一般式(1)又は(2)で表される化合物に含まれる2種以上を組み合わせて用いることができ、上記医薬組成物には、C型肝炎ウイルスによる感染疾患に対する他の医薬の有効成分を含有せしめても良い。
【0022】
医薬組成物の種類は特に限定されず、剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。液体製剤の場合には、使用時に、水又は他の溶媒に溶解又は懸濁する形態であってもよい。また錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明の化合物を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水或いはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。経口投与用又は非経口投与用の任意の製剤形態で提供される。例えば、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤又は液剤等の形態の経口投与用医薬組成物、静脈内投与用、筋肉内投与用、若しくは皮下投与用などの注射剤、点滴剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、点鼻剤、吸入剤、坐剤などの形態の非経口投与用医薬組成物として調製することができる。注射剤や点滴剤などは、凍結乾燥形態などの粉末状の剤形として調製し、用時に生理食塩水などの適宜の水性媒体に溶解して用いることもできる。また、高分子などで被覆した徐放製剤を脳内に直接投与することも可能である。
【0023】
医薬組成物の製造に用いられる製剤用添加物の種類、有効成分に対する製剤用添加物の割合、又は医薬組成物の製造方法は、組成物の形態に応じて当業者が適宜選択することが可能である。製剤用添加物としては無機又は有機物質、あるいは固体又は液体の物質を用いることができ、一般的には、有効成分重量に対して1重量%から90重量%の間で配合することができる。具体的には、その様な物質の例として乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、ショ糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水等が挙げられる。
【0024】
経口投与用の固形製剤を製造するには、有効成分と賦形剤成分例えば乳糖、デンプン、結晶セルロース、乳酸カルシウム、無水ケイ酸などと混合して散剤とするか、さらに必要に応じて白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて湿式又は乾式造粒して顆粒剤とする。錠剤を製造するには、これらの散剤及び顆粒剤をそのまま或いはステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの顆粒又は錠剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸− メタクリル酸メチルポリマーなどの腸溶剤基剤で被覆して腸溶剤製剤、或いはエチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。また、カプセル剤を製造するには、散剤又は顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をそのまま、又はグリセリン、ポリエチレングリコール等に溶解した後ゼラチン膜で被覆し軟カプセルとすることができる。
【0025】
注射剤を製造するには、有効成分を必要に応じて塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのpH 調整剤、塩化ナトリウム、ブドウ糖などの等張化剤と共に注射用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、更にマンニトール、デキストリン、シクロデキストリン、ゼラチンなどを加えて真空凍結乾燥し、用事溶解型の注射剤としてもよい。また、有効成分にレチシン、ポリソルベート80 、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを加えて水中で乳化せしめ注射剤用乳剤とすることもできる。
【0026】
直腸投与剤を製造するには、有効成分をカカオ脂、脂肪酸のトリ、ジ及びモノグリセリド、ポリエチレングリコールなどの座剤用基材と共に加湿して溶解し型に流し込んで冷却するか、有効成分をポリエチレングリコール、大豆油などに溶解した後、ゼラチン膜で被覆すればよい。
【0027】
皮膚用外用剤を製造するには、有効成分を白色ワセリン、ミツロウ、流動パラフィン、ポリエチレングリコールなどに加えて必要ならば加湿して練合し軟膏剤とするか、ロジン、アクリル酸アルキルエステル重合体などの粘着剤と練合した後ポリアルキルなどの不織布に展延してテープ剤とする。
【0028】
本発明の医薬の投与量及び投与回数は特に限定されず、治療対象疾患の悪化・進展の防止及び/又は治療の目的、患者の体重や年齢、疾患の重篤度などの条件に応じて、医師の判断により適宜選択することが可能である。一般的には、経口投与における成人一日あたりの投与量は0.01〜1000mg(有効成分重量)程度であり、一日1回又は数回に分けて、或いは数日ごとに投与することができる。注射剤として用いる場合には、成人に対して一日量0.001〜100mg(有効成分重量)を連続投与又は間欠投与することが望ましい。
【0029】
本発明の医薬は、植込錠及びマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として、体内から即時に除去されることを防ぎ得る担体を用いて調製することができる。例えば、エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの、生物分解性、生物適合性ポリマーを用いることができる。このような材料は、当業者によって容易に調製することができる。また、リポソームの懸濁液も薬剤的に受容可能な担体として使用することができる。有用なリポソームは、限定はしないが、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG−PE)を含む脂質組成物として、使用に適するサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製され、逆相蒸発法によって精製される。
【0030】
本発明の医薬は、医薬組成物としてキットの形態で、容器、パック中に投与の説明書と共に含めることができる。本発明に係る薬剤組成物がキットとして供給される場合、該薬剤組成物のうち異なる構成成分が別々の容器中に包装され、使用直前に混合される。このように構成成分を別々に包装するのは、活性構成成分の機能を失うことなく長期間の貯蔵を可能にするためである。
【0031】
キット中に含まれる試薬は、構成成分が活性を長期間有効に持続し、容器の材質によって吸着されず、変質を受けないような何れかの種類の容器中に供給される。例えば、封着されたガラスアンプルは、窒素ガスのような中性で不反応性ガスの下において包装されたバッファーを含む。アンプルは、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの有機ポリマー、セラミック、金属、又は試薬を保持するために通常用いられる他の何れかの適切な材料などから構成される。他の適切な容器の例には、アンプルなどの類似物質から作られる簡単なボトル、及び内部がアルミニウム又は合金などのホイルで裏打ちされた包装材が含まれる。他の容器には、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジ、又はその類似物が含まれる。容器は、皮下用注射針で貫通可能なストッパーを有するボトルなどの無菌のアクセスポートを有する。
【0032】
さらに、本発明には、C型肝炎ウイルスに感染した哺乳動物の感染疾患に関する治療方法も含まれる。
ここで「治療」とは、C型肝炎ウイルスに感染した哺乳動物において、該感染疾患の病態の進行及び悪化を阻止又は緩和することを意味し、これによって該感染疾患の諸症状等の進行及び悪化を阻止又は緩和することを目的とする治療的処置の意味として使用される。
【0033】
治療の対象となる「哺乳動物」は、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、特に限定はしないが、例えば、ヒトの他、チンパンジー、マーモセット、ツパイなどの動物も含まれるが、特に好ましい「哺乳動物」は、ヒトである。
【0034】
次に本発明を具体例によって説明するがこれらの例によって本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
1.材料・方法
1−1.細胞培養
1−1−1.バッファー 試薬
(i)完全培地
・ダルベッコ修正イーグル培地(DMEM)(GIBCO #11885−092)
・10% 熱処理ウシ胎児血清(Moregate)
・1% ペニシリン、ストレプトマイシン(GIBCO #15070−063)
(ii)レプリコン完全培地
完全培地に0.3mg/mlのジェネティシン(geneticin)(GIBCO #10131−035)を添加したものを用いた。
(iii)リン酸緩衝生理食塩水(PBS)
・137 mM NaCl
・8.1 mM NaHPO・12H
・2.68 mM KCl
・1.47 mM KHPO
また、細胞の植え継ぎには、0.25%トリプシンを使用した。
【0036】
1−1−2.細胞
(i)huh7:ヒト肝臓癌由来細胞。
(ii)huh7.5.1:HCV感受性の高い、huh7由来細胞(Moradpourら,J Virol,July 2004,7400−7409;Zhongら,PNAS 9294−9299 June 28,2005 vol.102(26);Sumpterら,J Virol, Mar.2005,2689−2699;Blightら,J Virol,Dec.2002,13001−13014。
(iii)huh7.5.1+JFH−1:huh7.5.1にHCV genotype 2a JFH−1株を感染させた細胞。
全長のHCVゲノムRNAを導入した細胞から細胞上清を濃縮し、非感染細胞の培地に濃縮液を添加することによって感染させた。
(iv)Y19:huh7にHCV genotype 2a JFH−1株のsubgenomic repliconをトランスフェクションし、選択培養したもの(Katoら,GASTROENTEROLOGY 2003;125:1808−1817)。
(v)Y19c:Y19をインターフェロン処理によりレプリコンRNAを検出限界以下に抑えたもの(Blightら,J Virol,Dec.2002,13001−13014)。
(Vi)2−3:huh7にHCV genotype 1b HCV−N株のfullgenomic repliconをトランスフェクションし、選択培養したもの(Ikedaら,J.Virol Mar.2002,2997−3006)。
(vii)2−3c:2−3をインターフェロン処理によりレプリコンRNAを検出限界以下に抑えたもの(Blightら,J Virol, Dec.2002,13001−13014)。
【0037】
1−1−3.培養方法
huh7細胞及びhuh−7.5.1細胞、huh7.5.1+JFH−1、Y19cは完全培地を用いて、37℃、5%COの条件下で培養した。レプリコン導入細胞Y19はセレクションの為、0.3mg/mlのジェネティシンを加えたレプリコン完全培地で培養を行った。ただし、レプリコン導入細胞でも阻害剤等を添加する実験においてはレプリコン活性が減少しジェネティシン耐性が消失する可能性が考えられるので、ジェネティシンを含まない培地で培養した。
【0038】
1−2.プラスミド構築
1−2−1.用いたプラスミド
(a)pCMV6 XL5 cdk4:(origene #SC113109)
(b)pCMV6 XL5:(a)を元に、cdk4遺伝子の両端にあるNotI制限酵素サイトを切断し、セルフライゲーションさせたもの。
(c)pcDNA3.1 zeo(+):(invitrogen #V790−20)
(d)pcDNA3.1 zeo(+) FLAG:(c)のマルチクローニングサイト上流に、KOZAK配列、開始コドン及びFLAGタグ配列を持ったオリゴDNAを挿入したもの。
(e)pcDNA3.1 zeo(+) HA:(c)のマルチクローニングサイト上流に、KOZAK配列、開始コドン及びHAタグ配列を持ったオリゴDNAを挿入したもの。
(f)pcDNA3.1 zeo(+) FLAG−cyclin D1:(d)のFLAGタグ配列の直下にヒトサイクリンD1配列を挿入したもの。
(g)pcDNA3.1 zeo(+) HA−cyclin D1:(e)のHAタグ配列の直下にヒトサイクリンD1配列を挿入したもの。
プラスミド作成に用いたプライマーの配列は表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
1−2−2.大腸菌・プラスミド抽出
プラスミドを殖やす際及び変異体を作製する際は大腸菌DH5αを用い、培養条件はLBプレート、液体LB培地どちらも100μg/mlのアンピシリン濃度で37℃とした。
1−2−3.クローニング
サイクリンD1のクローニングを以下の方法で行った。
huh7.5.1細胞から後述する方法によりRNAを抽出し、逆転写反応を行いcDNA ライブラリーを作成した。KOD polymerase(TOYOBO #KOD−201)とprimer set1を用いてサイクリンD1のコード領域を増幅し、A addition kit(QIAGEN #231994)を用いて3’末端にA残基を付加し、pGEM−T easy vector(promega #A1360)に組み込んだ(pGEM−T easy cyclilnD1)。ここで得られた遺伝子の塩基配列は、celera社により報告されたヒト11番染色体ゲノム配列(NW_925106)のサイクリンD1コード領域のエクソンをつなぎ合わせて作られるサイクリン D1 mRNA配列と同一であった。このプラスミドに制限酵素サイトNheIを加えるためprimer set2を用いインバースPCRを行った。pcDNA3.1 zeo(+) FLAG(又はHA)プラスミドに制限酵素サイトNheIとXhoIの2箇所で切断し組み込んだ(pcDNA3.1 zeo(+) FLAG(又はHA)−cyclin D1)。
pcDNA3.1 zeo(+) FLAG(又はHA)はpcDNA3.1 zeo(+) vectorをNheIとHindIIIで切断し、oligomer1、2とライゲーションさせることによって作成した。
primer set(プライマーセット)及びoligomer(オリゴマー)の配列は表1に示す。
【0041】
1−3.阻害剤処理
1−3−1.用いた阻害剤
本研究で用いたcdk阻害剤は3種類あり、下記の式(5)(以下、阻害剤Aとする)、(6)(以下、阻害剤Eとする)及び(7)(以下、阻害剤Bとする)で表される化合物である。いずれもcalbiochem社より購入した。各々、ジメチルスルホキシド(DMSO;Dimethyl Sulfoxide)に溶解して実験に用いた。阻害剤の各cdkに対するIC50を表2にまとめる。
【表2】

【0042】
1−3−2.阻害剤処理
6ウェルプレートに細胞をまき、目的の最終濃度となるように各阻害剤を16μlのDMSOに溶解して培地中に添加した。2日以上の阻害剤処理を行う場合には、阻害剤処理から24時間後に培地を除きPBS洗浄を行ってから培地を加え、再び阻害剤を培地中に添加した。
【0043】
1−4.細胞増殖試験
1−4−1.試薬・器具類
・WST−1(roche #1 644 807)
・マイクロプレートリーダー(microplate reader)(Perkin Elmer、Wallac 1420 ARVO MX/Light)
1−4−2.細胞増殖試験
96ウェルプレートに100μlの培地を加えて細胞を培養した。10μlのWST−1試薬を加え、37℃で90分から120分インキュベートした後、プレートを2,000rpm、室温で遠心し、1分間室温で振盪し、マイクロプレートリーダーで吸光度を測定した。
吸光度測定は450nmを測定し、同一ウェルの620nmの波長をリファレンス波長として差し引き、さらに培地・阻害剤だけを含むウェルからの波長をブランクとして差し引いた。
【0044】
1−5.ウェスタンブロッティング
培養細胞からのタンパク質の抽出は以下のように行った。
培養細胞の入った6ウェルプレートを2回PBSで洗浄し、cell lysis buffer(20mM tris−HCl pH7.4,150mM NaCl,10mM EDTA−2Na pH8.0,1% ノニデット P−40,10% グリセロール,2mM DTT(dithiothreitol),1mM PMSF(phenylmethylsulfonyl fluoride),2 μg/ml アプロチニン,2μg/ml ロイペプチン,2 μg/ml ペプスタチン,1mM NaF,1mM NaVO)を1ウェルに150μlずつ加えた。4℃で30分振盪した後、4℃で30分、 15krpmで遠心し、上清を用いて実験を行った。タンパク質の濃度はBSAをスタンダードとしてprotein assay(Biorad #500−0006JA)を用いて求めた。使用方法はキット添付のプロトコルに従った。
得られたタンパク質サンプルに対し、定法に従い、下記の抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。
(抗体)
・anti−core:マウスモノクローナル抗体(Affinity BioReagents # MA1−080)
・anti−NS3:マウスモノクローナル抗体(virostat #1828)
・anti−actin:マウスモノクローナル抗体(abcam #ab9484)
・anti−cdk4:マウスモノクローナル抗体(santa cruz #sc−23896)
・anti−cyclinD1:マウスモノクローナル抗体(santa cruz #20044)
・Rb(total):マウスモノクローナル抗体(BD Biosciences #554136)
・Rb(pS780):ウサギモノクローナル抗体(EPITOMICS #1182−1)
・anti−mouse IgG:ヤギポリクローナル抗体(Dako #P0447)
・anti−rabbit IgG:ヤギポリクローナル抗体(Dako #P0448)
【0045】
1−6.定量的RT−PCR
細胞の培地を除き0.25% トリプシン処理を行って細胞を回収した。PBSで洗い、細胞を1mlのISOGEN(Nippon gene # 311−02501)に溶解した後0.2mlのクロロホルムを加えてフェノール・クロロホルム抽出、イソプロパノール沈殿、エタノール沈殿を行ってRNAを精製し、nuclease−free TEにとかし、UV測定で定量を行った。
次に、細胞から抽出したRNA 10ngにoligo(dT)12−18(invitrogen #18418−012)を用いてsuperscript III(invitrogen #18080−093)で逆転写を行った。方法はキット添付のプロトコルに従った。
HCV RNAのコピー数測定には、細胞から抽出したRNAを10ng用いた。反応溶液は全量20μlで、組成は以下の通りである。
O 2.2μl
50 mM Mn(OAc) 1.3μl
5μM FITC標識ハイブリダイゼーションプローブ 1.0μl
5μM LC−Red640標識ハイブリダイゼーションプローブ 1.0μl
10μl 上流プライマー 1.0μl
10μl 下流プライマー 1.0μl
RNA master hybridization probe 7.5μl
RNA サンプル 5.0μl
上記サンプルをLight cycler(roche #2011468)キャピラリーに加え、Light cycler装置本体のカローセルにセットした。リアルタイムPCRの反応プログラムは以下の通りである。
逆転写 61℃ 20分
熱変性 95℃ 2分
PCR45サイクル(95℃ 5秒、55℃10秒、72℃13秒)
クーリング 40℃ 30秒
プライマー、プローブの配列は表1に示す。
【0046】
1−7.トランスフェクション
1−7−1.過剰発現
発現コンストラクトの導入方法はキット添付のプロトコルに従った。
opti−MEM(invitrogen #31985−062)とFuGENE6(roche #11 988 387 001)を混和して5分静置後、DNAを混ぜて25分静置し、細胞培養プレートに加えた。
【0047】
2.結果
2−1.cdk阻害剤のHCVレプリコン活性に対する影響
cdkの活性を阻害する薬剤を用いて、HCV genotype 1b HCV−N株由来のフルゲノミックレプリコン(FGR;full genomic replicon)を発現するreplicon細胞2−3を処理した(図1c)。ここでFGRとは、ネオマイシン耐性遺伝子を含むHCVの全長ゲノムRNAの自律的な複製が行われるHCV複製モデル系のことを指す。また、FGRを発現している細胞にインターフェロン処理をしてレプリコンRNAを除去した細胞をcured細胞と呼ぶ。
cdk1、2に対する阻害剤Aと、cdk4に対する阻害剤Bを用いて実験を行った(表2)。この2種類のcdk阻害剤をreplicon細胞及びcured細胞に24時間処理し、NS5A、NS5B及びactinに対する抗体でウエスタンブロットを行った(図2a)。Actinは各ウェルにロードしたタンパク量のコントロールである。ウイルスタンパク質であるNS5AとNS5BはReplicon細胞でのみ検出される。20μMの阻害剤Bを24時間添加することで、NS5AとNS5Bのタンパク量が低下した(図2a、レーン12)。一方、阻害剤Aを処理した細胞では100μMの濃度で処理をするとNS5A、NS5B共にタンパク量の減少が若干みられたが、阻害剤B程の効果は見られなかった(図2a、レーン6)。また、この時のリン酸化状態をリン酸化状態特異的抗体によるウエスタンブロットで確認すると、阻害剤A、Bどちらを処理してもリン酸化状態のRbは減少していた(図2b)。
この実験結果は、特に、cdk阻害剤Bがgenotype 1b HCV−N株のFGRのレプリコン活性を減少させる、という新しい知見を示している。
【0048】
次に、このcdk阻害剤による抗HCVレプリコン活性のgenotype特異性を調べるために、genotype 2a JFH−1株由来のサブゲノミックレプリコン(subgenomic replicon)(図1b)を発現するY19細胞とそのcured細胞Y19c用いて実験を行った。
ウイルスタンパク質であるNS3はreplicon細胞でのみ検出される。genotype 2a JFH−1株SGRでも、阻害剤AによるHCVタンパク質の減少は、100μMの濃度で若干観察されたのに対し、阻害剤Bを5μM、あるいは、20μM処理した細胞ではHCVのNS3のタンパク量が減少していた(図3a レーン9、10)。20μM処理した細胞の方が、NS3が大きく減少していたので、量依存的な傾向が見られる。
次に、HCVレプリコンのRNA量の増減を調べるために、阻害剤を2日間処理したY19細胞からRNAを抽出し、1μg 総RNAあたりのHCVレプリコンのRNAコピー数を測定した。この時新たに阻害剤Eを加えて実験を行った。阻害剤Eはcdk1、2、5に対する阻害活性を示す(表2)。
阻害剤A、B及びEを添加して、DMSOだけを加えた細胞から取られたサンプルと比較すると、HCVレプリコンRNAの減少が認められた(図3b、c)。阻害剤Aの抗HCVレプリコン活性は、NS3のタンパク質の減少は少なかったものの(図3a)、RNA量の減少は認められた(図3b)。これは薬剤の処理日数が違うこと、タンパク質量とRNA量の挙動が違い得ること、RNAの内部標準を測定して補正をしていないことなどの複合要因が考えられる。阻害剤Eは阻害剤Bと同等か、それ以上のレプリコンRNA量の減少を示した(図3c)。
そこで、阻害剤BとEの薬剤を1日処理した細胞からタンパク質とRNAを抽出し、それぞれNS3とactinに対するウエスタンブロット(図4a)、定量的RT−PCRを行った(図4b)。いずれの実験でも、実験した条件においては阻害剤Bを20μMの濃度で1日処理した条件で最も高い抗HCVレプリコン活性が見られた。
以上より、cdk阻害剤はgenotype 1b、2aのいずれのHCVに対しても、そのレプリコン活性をタンパク質・RNAレベルにおいて減少させる。
阻害剤B、Eによる細胞増殖への影響を調べてみると、長期間、高濃度で薬剤処理をすると細胞の増殖を阻害することが示された。例えば、阻害剤Bを20μMの濃度で1日処理する条件ではY19、Y19c細胞のいずれもDMSOだけ加えた条件に比べ20%程度の細胞しか生存していない(図6)。この結果を元に、阻害剤処理実験の期間は1日あるいは2日とした。
【0049】
2−2.cdk阻害剤による感染細胞中におけるHCVの増殖抑制効果
レプリコン発現細胞で見られた抗HCV活性が実際のウイルスに対しても観察されることを確かめるために、huh7.5.1細胞にHCV genotype 2a JFH−1株を持続感染させたhuh7.5.1+JFH−1細胞にcdk阻害剤を処理した。細胞を回収し、HCV coreタンパク質とactinに対する抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。coreはhuh7.5.1+JFH−1感染細胞からのみ検出される(図5a、b)。SGRの実験(図3a、b)と同様、阻害剤Bの濃度依存的に感染細胞のcoreタンパク質が減少していくことが観察された(図5a)。阻害剤Eを1日処理してもcoreのタンパク量の減少が観察されなかったが、阻害剤Eを10μMで2日間処理するとcoreタンパク質の減少が観察された(図5b、レーン8)。一方、阻害剤Bを2μMで2日間処理すると抗HCV活性が見られなかったが(図5b、レーン6)、これは阻害剤Bを5μMあるいは20μMの濃度で1日処理するという条件に比べ、低い濃度で処理したために起きたと考えられる。また、薬剤を1日処理した細胞からRNAを抽出したところ、B、Eのどちらの阻害剤でも量依存的に抗HCV活性を示し、阻害剤Bを20μMの濃度で1日処理した条件でHCV RNAの1/6程度の減少が見られた(図5c)。
このことから、cdk阻害剤による抗HCV効果は、レプリコンシステムに限らず感染培養系で起こることが示された。また薬剤による細胞増殖への影響を調べた(図7) 。この結果を元に、阻害剤処理実験の期間は1日あるいは2日とした。
【0050】
2−3.cdk4の過剰発現によるHCVの増殖促進効果
一連のcdk阻害剤を用いた実験の中で最も抗HCV活性が高かった条件は、阻害剤Bを20μMで24時間処理した時である(図3、4及び5)。阻害剤Bはcdk4に対する阻害剤なので(表2)、cdk4がウイルスの増殖に対して有利に働いている可能性が考えられる。そこで感染細胞にcdk4とその調節サブユニットサイクリンD1を過剰発現させ、HCVタンパク質量の増減を調べた。サイクリンD1の発現コンストラクト、pcDNA3.1 zeo(+) FLAG cyclinD1は、huh7.5.1細胞よりクローニングし、cdk4の発現コンストラクトであるpCMV6 XL5 cdk4は、Origene社より購入した。
非感染細胞huh7.5.1と感染細胞huh7.5.1+JFH−1にそれぞれサイクリンD1、cdk4発現コンストラクトをトランスフェクションし、2日後に細胞を回収し、サイクリン、cdk4及びcoreとactinに対するウエスタンブロットを行った(図8)。感染細胞にpcDNA3.1 zeo(+) FLAG cyclinD1とpCMV6 XL5 cdk4をトランスフェクションしたサンプルでは、それぞれcyclinD1とcdk4が大量に発現していることが観察される(図8、レーン10、12、14)。一方、非感染細胞にそれぞれの発現プラスミドをトランスフェクションしたサンプルではサイクリンD1とcdk4の量があまり変動していない(図8、レーン3、5、7)。これは非感染細胞と感染細胞でトランスフェクション効率が異なるため、遺伝子の挙動に変化が起きていると考えられる。
coreタンパク質はhuh7.5.1+JFH−1細胞からのみ検出された。その中で特にcdk4を過剰発現させた細胞でcoreタンパク質発現量の上昇が見られた。サイクリンD1を過剰発現させた細胞からはcoreタンパク質発現量の上昇は見られなかった。また、サイクリンD1とcdk4を共に過剰発現させた細胞において、cdk4のみを過剰発現させた細胞よりcoreタンパク質の増加量が少ないのは、cdk4の発現量が少ないことを反映していると考えられる。
以上の結果は、過剰発現したcdk4がHCVの増殖を促進していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のC型肝炎ウイルスの複製阻害剤は、C型肝炎感染症の治療及び治療薬の進展及び開発に大きく貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】HCVとHCV SGRの構造を示す。(a)HCVゲノム構造を示す。5’UTRからinternal ribosome entry site(IRES)、構造タンパク質、非構造タンパク質、3’UTRの順に構成される。(b)サブゲノミックレプリコン構造を示す。HCV 5’UTR、Neomycin耐性遺伝子、encephalomyocarditis virus(EMCV) IRES、HCV NS3以後の非構造タンパク質、HCV 3’UTRの順に構成される。(c)フルゲノミックレプリコン構造を示す。HCV 5’UTR、Neomycin耐性遺伝子、EMCV IRES、 HCV ORFの全長、3’UTRの順に構成される。
【図2】cdk阻害剤のgenotype 1bにおける抗HCV活性を示す。(a)genotype 1b由来HCV−N株のフルゲノミックレプリコン(Full Genomic Replicon)を発現する細胞に、阻害剤AあるいはBを24時間処理し、NS5A、NS5B、actinに対する抗体を用いてウエスタンブロットを行った。actinは内部標準として用いている。(b)cdk阻害剤はRbのリン酸化を抑制する。(a)と同様に調製したサンプルを、リン酸化型Rb特異的抗体、リン酸化状態非依存Rb抗体、actinに対する抗体を用いウエスタンブロットを行った。
【図3】cdk阻害剤のHCV レプリコン活性に対する影響。(a)cdk阻害剤はHCV レプリコン RNAを減少させる。genotype 2a 由来SGRを発現するY19細胞と、interferon cureをしたY19c細胞に各阻害剤を1日処理し、細胞を回収してウエスタンブロットにより、ウイルス由来のNS3タンパク質の発現量を調べた。actinは内部標準として示してある。(b)及び(c)A、B及びE阻害剤を2日間処理したY19細胞からRNAを抽出し、総RNA 1μgあたりのHCV レプリコンのコピー数を定量的RT−PCRによって測定した。定量はn=4で行い、値は平均値を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【図4】cdk阻害剤のHCV レプリコン活性に対する影響。(d)阻害剤B、Eを1日処理したY19細胞のタンパク質抽出液をウエスタンブロットにより、ウイルス由来のNS3タンパク質の発現量を調べた。actinは内部標準として示してある。(e)阻害剤B、Eを1日処理したY19細胞からRNAを抽出し、総RNA 1μgあたりのHCV レプリコンのコピー数を定量的RT−PCRによって測定した。定量はn=4で行い、値は平均値を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【図5】cdk阻害剤は持続感染細胞モデルにおいてHCV増殖活性を減少させる。(a)ヒト肝臓癌由来huh7.5.1細胞と、それにgenotype 2a由来のJFH−1株粒子に持続感染させたhuh7.5.1+JFH−1細胞に阻害剤B、Eを1日処理し、coreとactinに対する抗体でウエスタンブロット行った。(b)(a)と同様の実験を、濃度を変え処理時間を2日にしておこなった。4c阻害剤B、Eで処理したhuh7.5.1+JFH−1細胞からRNAを抽出し、total RNA 1μgあたりの HCV レプリコンのコピー数を定量的RT−PCRによって測定した。定量はn=4で行い、値は平均値を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【図6】cdk阻害剤が細胞増殖に与える影響(1)。 Y19、Y19c細胞に各阻害剤について濃度を分け、1、2、3日間処理したものに、WST−1試薬を加え、WST−1の代謝産物によるOD450の吸光度を測定した。値は薬剤の溶媒であるDMSOだけを加えた条件に対する相対値で示してある。値は3つの独立した実験の平均値を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【図7】cdk阻害剤が細胞増殖に与える影響(2)。 図6と同様の実験を、huh7.5.1、huh7.5.1+JFH−1細胞について行った。
【図8】cdk4の過剰発現がHCVの増殖を促進することを示す結果である。 huh7.5.1細胞及びhuh7.5.1+JFH−1細胞にサイクリンD1、cdk4の発現プラスミドをトランスフェクションし、2日後に細胞を回収、サイクリンD1、cdk4、core、actinに対する抗体でウェスタンブロッティングを行った。レーン2、9は、pcDNA3.1 zeo(+)FLAG、レーン4、11は、pCMV6 XL5、レーン6、13は、pcDNA3.1 zeo(+)FLAGとpCMV6 XL5の両方を、それぞれトランスフェクションした細胞である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
cdk阻害活性を有する下記一般式(1)又は(2)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含むC型肝炎ウイルス複製阻害剤。
【化1】


[式(1)中、Rは置換基を有してもよいアリール基、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はヒドロキシアルキル基、Rは炭素数1〜6のアルキル基である]
【化2】


[式(2)中、Rはハロゲン原子である]
【請求項2】
前記アリール基がフェニル基又はベンジル基である請求項1に記載のC型肝炎ウイルス複製阻害剤。
【請求項3】
前記Rが、下記の式(3)又は(4)で表される置換基である請求項1に記載のC型肝炎ウイルス複製阻害剤。
【化3】

【化4】

【請求項4】
前記Rがイソプロピル基である請求項1に記載のC型肝炎ウイルス複製阻害剤。
【請求項5】
前記一般式(1)で表される化合物が下記式(5)で表される、2−(R)(1−エチル−2−ヒドロキシエチルアミノ)−6−ベンジルアミノ−9−イソプロピルプリン、又は下記式(6)で表される、(2R)−2−((6−((3−アミノ−5−クロロフェニル)アミノ)−9−(1−メチルエチル)−9H−プリン−2−イル)アミノ)−3−メチル−1−ブタノールである請求項1に記載のC型肝炎ウイルス複製阻害剤。
【化5】

【化6】

【請求項6】
前記一般式(1)で表される化合物が下記式(7)で表される、2−ブロモ−12,13−ジヒドロ−5H−インドロ[2,3−a]ピロロ[3,4−c]カルバゾール−5,7(6H)−ジオンである請求項1に記載のC型肝炎ウイルス複製阻害剤。
【化7】

【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のC型肝炎ウイルス複製阻害剤を有効成分とする、C型肝炎ウイルスによる感染症治療のための医薬。

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−207764(P2011−207764A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194237(P2008−194237)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 厚生労働省、独立行政法人医薬基盤研究所・保険医療分野における基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】