説明

CDKI経路阻害剤の同定

本発明は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路の阻害に関する。より具体的には、本発明は、老化関連疾患および他のCDKI関連疾患の研究及び干渉のためにCDKI経路を阻害するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2006年5月15日に出願された米国仮出願第60/747,213号の優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路の阻害に関する。より具体的には、本発明は、癌および老化関連疾患における研究および介入のためにCDKI経路を阻害するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の要旨
細胞の老化は、当初は加齢に関連する一連の細胞変化として定義されていたが、今や、より広く、不可逆的な細胞周期の停止をもたらし細胞の表現型における明確な一連の変化を伴うシグナル伝達プログラムと見なされる(例えば、Campisi, Cell 120: 513−522 (2005); Shay and Roninson, Oncogene 23: 2919−2933 (2004)を参照)。老化は、テロメアの短縮(複製老化)によって、またはUVおよび煙草の煙などの主な環境要因を含む他の内因性および外因性の急性もしくは慢性のストレスシグナルによるものを含む、多くの異なる機構により誘発される。テロメア依存性老化の後者の形態は、老化促進、STASIS(ストレスまたは有害シグナル伝達誘導性老化(Stress or Aberrant Signaling Induced Senescence))、またはSIPS(ストレス誘導性早期老化)として多様に言及される。誘導の形態に拘わらず、老化細胞は、同じ一般的な形質を発現し、持続的な成長の停止のみならず、肥大した扁平な形態、顆粒の増加、大量のリソソーム、および老化関連内因性βガラクトシダーゼ活性(SA−β−gal)によってもまた特徴付けられる。
【0004】
Dimri et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 9363−9367 (1995)は、ヒトの体内において、細胞老化の形質が加齢と相関して検出されたことを教示する。Castro et al., Prostate 55: 30−38 (2003);Michaloglou et al., Nature 436: 720−724 (2005);およびCollado et al., Nature 436: 642 (2005)は、細胞老化の形質が、多様な前悪性の状態を含む疾患の状況においてもまた検出されたことを教示する。te Poele et al., Cancer Res. 62: 1876−1883 (2002);および、Robertson et al., Cancer Res. 65: 2795−2803 (2005)は、化学療法により処置された多数の腫瘍におけるこれの検出を教示する。
【0005】
分子レベルで特徴付けられている老化の殆どの系において、細胞周期の停止は、p53の活性化によって引き起こされ、これは次いで、広い特異性を有する(broad−specificity)サイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)p21Waf1/Cip1/Sdi1を誘導する。p21の誘導は、老化の開始において細胞周期の停止を引き起こすが、p53およびp21のレベルは、後期において低下する。Shay and Roninson, Oncogene 23: 2919−2933 (2004)は、この低下には、しかし、老化した正常細胞における細胞周期停止の維持の主要な原因であると考えられる別のCDKIタンパク質であるp16Ink4Aの安定した増加が伴うことを教示する。
【0006】
CDKIタンパク質は、細胞周期の負の調節因子として作用し、従って、一般に腫瘍抑制因子として知られている。CDKIタンパク質、特にp21の誘導は、また、癌治療の経過において、多様なクラスの腫瘍化学治療薬および電離放射線による細胞の損傷に応答して、腫瘍細胞においても起こる。CDKIによる細胞周期の停止は、抗癌剤の主要な治療効果の一部である細胞分裂停止および老化誘導活性を調節する(Roninson, Cancer Res., 11, 2705−2715)。したがって、CDKIタンパク質が細胞周期の停止を誘導する能力を増強する薬剤は、癌の化学的予防のため、および従来の抗癌剤の治療効率の増大のために有用である。
【0007】
老化細胞は分裂しないが、完全に生存可能であり続け、代謝的および合成的に活性である。老化細胞が、その環境に主要な影響を及ぼす多様な因子を分泌することが認識されている。上記のCampisiは、老化細胞の分泌活性が、発癌、皮膚老化、および多様な加齢関連疾患と関連していることを教示する。一連の研究は、p21および他のCDKIタンパク質を、老化細胞の疾患促進活性に関連付けている。この識見は、主に、Chang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97: 4291−4296 (2000)による、線維芽細胞様細胞(fibroblastoid cell)株において誘導プロモーターから発現されるp21の転写作用の分析から来ている。この分析は、p21が、複数の遺伝子の発現に重大な変化をもたらすことを示した。多数の遺伝子が、p21によって強くかつ急速に阻害され、それらの殆どが、細胞増殖に関連する。Zhu et al., Cell Cycle 1: 50−58 (2002)は、p21による細胞周期進行遺伝子の阻害は、これらの遺伝子のプロモーターにおけるCDE/CHRなどの負のシス調節エレメントによって媒介されることを教示する。同じ遺伝子が、化学療法処置の後で老化している腫瘍細胞においては下方調節されるが、Chang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 389−394 (2002)は、p21のノックアウトにより、薬物処置細胞において、これらの遺伝子の阻害が妨げられることを教示する。したがって、p21は、DNAの損傷に応答する複数の細胞周期進行遺伝子の阻害の原因である。
【0008】
上記のChang et al., 2000は、p21誘導の別の一般的な作用は、遺伝子の上方調節であり、これらの多くは膜貫通タンパク質、分泌されるタンパク質および細胞外マトリックス(ECM)構成要素をコードすることを教示する。p21のこの作用は比較的遅く、成長停止に続いて、老化の形態学的特徴の発現と同時に起こる。これらの遺伝子は、DNAの損傷によって誘導されるが、p21のノックアウトによりこれらの誘導が低下する(Chang et al., 2002、上記)。この低下は、単に部分的なものであり、p21誘導性遺伝子の大部分が他のCDKIであるp16およびp27に対する応答においても誘導されることによる最近の知見によって説明され得る(WO 03/073062を参照)。Gregory et al., Cell Cycle 1: 343−350 (2002);およびPoole et al., Cell Cycle 3: 931−940 (2004)は、CDKIによる遺伝子の上方調節が、多数の異なるCDKI誘導性遺伝子のプロモーター構築物を用いて再現され、これが転写のレベルで起きることを教示する。Perkins et al., Science 275: 523−527 (1997);Gregory et al.(上記);およびPoole et al.(上記)は、p21による転写の誘導が、部分的に、転写因子NFκBおよびp300/CBPファミリーの転写共因子(cofactor)により媒介されることを教示するが、CDKIに応答して転写の活性化をもたらすシグナル伝達経路(CDKI経路)における他の媒介物は現在のところ知られていない(図1)。
【0009】
CDKIによる転写の誘導の医学的重要性は、CDKI誘導性遺伝子の既知の機能によって示されてきた(Chang et al., 2000、上記)。CDKIによって上方調節される多数の遺伝子は、細胞老化および生体の加齢と関連し、加齢関連疾患および寿命の制限に関連づけられる遺伝子群を含む。これらの遺伝子の一つは、酸化ストレスのメディエーターであるp66Shcであり、これのノックアウトは、マウスの寿命を約30%延長する(Migliaccio et al.、上記)。多数のCDKI誘導性遺伝子は、加齢関連疾患、最も顕著には、アルツハイマー病およびアミロイドーシスにおいて役割を果たす。したがって、CDKIは、アルツハイマー病のアミロイド前駆体タンパク質(βAPP)、ならびにアミロイドーシス、動脈硬化症および関節炎に関連づけられる血清アミロイドAを含む多数のヒトアミロイドタンパク質を誘導する。CDKIはまた、アルツハイマー病およびアミロイドーシスの両方においてアミロイドペプチドを架橋してプラーク形成をもたらす組織のトランスグルタミナーゼを上方調節する。CDKI誘導性遺伝子の一部は、動脈硬化に関連する結合組織増殖因子およびガレクチン(galectin)−3、ならびに関節炎に関連するカテプシンB、フィブロネクチンおよび1型プラスミノゲンアクチベーター阻害剤である。Murphy et al., J. Biol. Chem. 274: 5830−5834 (1999)は、複数のCDKI誘導性タンパク質は、ニューロパシーのインビトロモデルにおいても関与することを教示する。重要なことに、p21ヌルのマウスは、動脈硬化症の実験的誘導(Merched and Chan, Circulation 110: 3830−3841 (2004))および慢性腎疾患(Al Douahji et al., Kidney Int. 56: 1691−1699 (1999); Megyesi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96: 10830−10835 (1999))に対して耐性であることが見出された。
【0010】
細胞の遺伝子に対する効果に加えて、CDKIは、HIV−1、サイトメガロウイルス、アデノウイルス、およびSV40などの多数のヒトウイルスのプロモーターを刺激する。多数のウイルスが感染細胞においてp21の発現を誘導することから、この効果により、CDKIによるプロモーターの刺激がウイルス感染を促進し得ることが示唆される(Poole et al.、上記)。
【0011】
CDKI誘導性遺伝子への強い関連は、癌においてもまた見出される。特に、p21の発現は、多数の増殖因子、アポトーシスの阻害因子、血管由来因子、および浸潤促進プロテアーゼの遺伝子を活性化する。遺伝子発現におけるこれらの変化に関し、上記のChang et al., 2000は、p21によって停止した細胞は、パラクリン性のマイトジェン活性および抗アポトーシス活性を共培養アッセイにおいて示すことを教示する。Krtolica et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98: 12072−12077 (2001)は、パラクリン性の腫瘍促進活性が、インビトロおよびインビボの両方において、p21およびp16を発現するCDKI発現正常老化線維芽細胞において、実証されたことを教示する。重要なことに、老化線維芽細胞は、腫瘍関連間質性線維芽細胞についてずっと以前に同定されている、特徴的な前腫瘍的活性を有する。さらに、線維芽細胞に腫瘍促進パラクリン活性を付与することが示された全ての実験的処置はまた、CDKIを誘導し、このことから、CDKI経路が、間質性線維芽細胞の前腫瘍活性の重要なメディエーターであり得ることが示唆される(Roninson, Cancer Lett. 179: 1−14 (2002))。
【0012】
CDKIの発現は、老化のプログラムにおいてのみならず、多様な損傷に対する一時チェックポイント停止(transient checkpoint arrest)、接触阻止、および最終分化などの多数の他の状況においても、細胞周期停止を媒介する。したがって、複数の疾患促進遺伝子の活性化をもたらすCDKI経路は、細胞老化においてのみならず、多数の他の生理学的状態においても活性化される。結果として、CDKI応答性遺伝子産物は、生涯にわたって蓄積され、アルツハイマー病、アミロイドーシス、動脈硬化症、関節炎、腎疾患および癌の発症の原因となることが予測される。
【0013】
したがって、CDKI経路を阻害するための方法に対する必要性が存在し、これは、異なる加齢関連疾患の化学的予防および治療において多様な臨床的用途を有し得る。有用なCDKI経路阻害剤は、細胞周期の阻害因子としてのCDKIタンパク質の機能を妨害するのではなく、むしろ、CDKI応答性遺伝子の転写の誘導をもたらす重要なシグナル伝達の事象を阻害すべきである。理想的なCDKI経路阻害剤は、CDKI経路を阻害し、かつCDKIタンパク質の腫瘍抑制細胞周期阻害活性を増強するべきである。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路による転写の誘導を阻害するための方法を提供する。出願番号PCT/US06/01046においてより詳細に記載されるハイスループットスクリーニング系を、市販の多様な化合物のコレクションからの100,000個を超える薬物様低分子をスクリーニングするために用いた。このスクリーニングにより、本発明は、一セットの活性化合物を同定した。これらは、一連の構造的に関連する化合物を含み、これらは、CDKIによる試験した全ての遺伝子の誘導を阻害し、また、CDKIにより誘導された転写を逆転する。これらの分子は、CDKIの細胞周期阻害機能を妨害せず、むしろ、CDKIタンパク質によるG1細胞周期停止を増強する。SNX2−クラスの化合物は、DNA損傷により停止した線維芽細胞における老化形態の発現を遮断する。これらはまた、CDKIにより停止した細胞による抗アポトーシス因子の分泌を阻害する。本発明は、CDKIの重要な腫瘍抑制機能を妨害することなく、疾患促進性CDKI経路を遮断することの実現可能性を実証した。本発明により発見された分子は、この有望な生物学的活性を有する化合物の主要なファミリーを提供する。
【0015】
本発明は、CDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の誘導を増強するための方法を提供する。該方法は、細胞を、CDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の誘導を増強する化合物と接触させることを含む。いくつかの好ましい態様において、CDKIタンパク質の細胞周期阻害活性は、CDK2の阻害によって媒介される。CDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の増強は、癌および異常な細胞の増殖に関連する他の疾患の化学的予防および処置のため、ならびに、癌細胞の増殖を停止するためのCDKI誘導性癌治療剤の能力を増大させるために用いることができる。特定の態様において、本発明の方法は、細胞を、構造(I)を有する低分子化合物と接触させることを含む。特定の態様において、該低分子化合物は、図2において示す化合物の群から選択される構造を有する。いくつかの好ましい態様において、CDKIタンパク質の細胞周期阻害活性は、CDK2の阻害によって媒介される。
【0016】
本発明はまた、CDKI経路による転写の誘導を阻害する化合物を用いてCDKIタンパク質の細胞周期阻害活性を刺激するための方法を提供する。特に好ましいのは、構造Iを有する化合物(非限定的に図2において示される化合物を含む)を利用する方法である。
【0017】
本発明はさらに、CDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の誘導を増強する化合物を同定するための方法を提供する。該方法は、(i)細胞においてCDKIタンパク質を最大下G1停止を誘導するレベルで発現させること、(ii) 該細胞を試験化合物と接触させること、(iii)試験化合物の存在下および不在下におけるG1停止の程度を測定すること、を含み、ここで、試験化合物がG1停止の程度を増大させる場合、CDKIによるG1細胞周期停止の誘導を増強する化合物であると同定する。本発明の目的のために、「最大下G1停止」とは、CDKIタンパク質の不在下におけるG1期の細胞の数に対するCDKIタンパク質の存在下におけるG1期の細胞の数の増加の観察を可能にする、適切な数の細胞のG1期の停止を意味する。
【0018】
本発明はさらに、CDKI媒介性疾患(アルツハイマー病、動脈硬化症、アミロイドーシス、関節炎、慢性腎疾患、ウイルス疾患および癌を含むが、これらに限定されない)のための治療剤として有用な化合物を同定するための方法を提供する。該方法は、細胞を試験化合物と接触させること、試験化合物がサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路を阻害する能力を測定すること、細胞を本発明の第1の局面において有用な化合物の構造を有する第2の化合物と接触させること、第2の化合物がサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路を阻害する能力を測定すること、および、試験化合物と第2の化合物とがサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路を阻害する能力を比較すること、を含み、ここで、試験化合物が、第2の化合物と同等かまたは第2の化合物よりも優れたサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路を阻害する能力を有する場合、CDKI媒介性疾患のための治療剤として有用であると同定される。本発明のこの局面は、さらに、この方法によって同定された化合物を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、CDKI媒介性疾患を有する哺乳動物を治療的に処置するための方法を提供する。該方法は、哺乳動物に、本発明の第1および第2の局面による方法において有用である化合物の治療有効量を投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1−1】図1は、CDKIに応答して転写の活性化をもたらすシグナル伝達経路の阻害において有効な56個の化合物の構造を示す。
【図1−2】図1は、CDKIに応答して転写の活性化をもたらすシグナル伝達経路の阻害において有効な56個の化合物の構造を示す。
【図2】図2は、CDKIに応答して転写の活性化をもたらすシグナル伝達経路を阻害するSNX2ファミリーの活性化合物の構造を示す。
【0021】
【図3】図3は、SNX2ファミリーの不活性な化合物の構造を示す。
【図4】図4は、CMVプロモーター活性に対するいくつかのSNX2クラスの化合物の異なる用量の効果を示し、IPTG(p21誘導因子)の存在下または不在下においてHoechst 33342染色により測定した細胞DNA含有量(細胞数の尺度)により正規化した、CMVプロモーターからのレポーター細胞株におけるGFP発現として表す。
【0022】
【図5】図5は、SNX38がp21により誘導される転写を防止するのみならず、逆転することを示す。
【図6】図6は、p21により停止した細胞においてSNX2およびSNX14により得られたデータを示し、結果を、IPTGの存在下または不在下における各々の遺伝子についてのRNAレベルの比として表す。
【図7】図7は、p16により停止した細胞においてSNX2およびSNX14により得られたデータを示し、結果を、IPTGの存在下または不在下における各々の遺伝子についてのRNAレベルの比として表す。
【0023】
【図8】図8は、SNX2がNfκBタンパク質であるp50またはp65の、NfκBの結合部位を含む二本鎖DNAオリゴヌクレオチドへの結合を阻害しないことを示す。各々のセットは、コントロール細胞(左のバー)および既知のNfκB誘導因子TNFαで処置した細胞(第2のバー)におけるp50へのオリゴヌクレオチド結合、ならびにコントロール(第3のバー)またはTNFα処置細胞(右のバー)におけるp65へのオリゴヌクレオチド結合を示す。左のバーのセットは、キャリアのコントロールで処置された細胞を表し、中央のセットは、SNX2で処置された細胞を表し、右のセットは、NfκB結合の既知の阻害剤(TPCK)で処置された細胞を表す。
【0024】
【図9】図9は、DAPI染色HT1080 p21−9細胞におけるDNA含有量のFACS分析を示す。細胞は、未処置か、または、50μMのIPTGの存在下もしくは不在下において、18時間、20μMのSNX2もしくはSNX14で処置される。
【図10】図10は、SNX14の不在下において、または20μMもしくは40μMのSNX14の存在下において、示した濃度のIPTGで24時間処置した後での、HT1080 p27−2細胞のG1、SおよびG2/M画分における変化を示す(DNA含有量のFACS分析により決定される)。
【0025】
【図11】図11は、ドキソルビシンは老化マーカーSA−β−gal(青色の染色)の発現を誘導するが、SNX2およびSNX14はこの表現型を遮断することを示す。
【図12】図12は、p21発現HT1080 p21−9細胞のパラクリン性抗アポトーシス活性についてのアッセイの結果を、低血清培地におけるC8細胞の生存によって測定して示す。ここで、HT1080 p21−9は、未処置か、あるいは、単独またはSNX2クラスの化合物(SNX2、SNX14もしくはSNX38)の存在下において、p21誘導性IPTGにより処置した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
好ましい態様の詳細な説明
本発明は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路の阻害に関する。より具体的には、本発明は、老化関連疾患における研究および介入のための、CDKI経路を阻害するための方法に関する。本明細書において引用する特許および刊行物は、この分野における知識のレベルを反映し、本明細書によりその全体が参考として援用される。引用文献と本明細書との教示の間のあらゆる矛盾は、後者を優先して解決されるべきである。
【0027】
本発明は、CDKI経路を阻害するための方法を提供し、これは、異なる加齢関連疾患の化学的予防および治療において、多様な臨床的用途を有し得る。本発明のCDKI経路阻害法は、本明細書においてSNX2クラス化合物として同定される、正常細胞において細胞毒性をほとんど有さないか全く有さない分子を利用する。これらの分子は、CDKIの細胞周期阻害機能を妨害せず、むしろCDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の誘導を増強する。SNX2クラス化合物は、DNA損傷により停止した線維芽細胞における老化形態の発現を阻害する。これらはまた、CDKIにより停止した細胞による抗アポトーシス因子の分泌を阻害する。本発明は、CDKIの重要な腫瘍抑制機能を妨害することなく、疾患促進性CDKI経路の遮断の実現可能性を実証した。本発明により発見された分子は、この有望な生物学的活性を有する化合物の主要なファミリーを提供する。
【0028】
第1の局面において、本発明は、CDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の誘導を増強するための方法を提供する。該方法は、細胞を、CDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の誘導を増強する化合物と接触させることを含む。いくつかの好ましい態様において、CDKIタンパク質の細胞周期阻害活性は、CDK2の阻害によって媒介される。CDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の誘導の増強は、癌および異常細胞の増殖に関連する他の疾患の化学的予防および治療のために、ならびに、癌細胞の増殖を停止させるCDKI誘導性癌治療剤の能力を増大させるために用いることができる。
【0029】
好ましい態様において、本発明の方法は、細胞を、構造(I):
【化1】

【0030】
式中、
は、低級アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルコキシアルキル、ジアルキルアミノアルキル、アラルキル、アリール、ヘテロアリール、フェネチル、およびアルコキシフェニルから選択され、
は、Rおよび水素から選択され、
Aは、水素またはRから選択され;ならびに
Bは、ハロゲンである、
を有する低分子阻害剤と接触させることを含む。
【0031】
特定の好ましい態様において、Rは、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、C7〜C8アラルキル、C2〜C3−O−アルキル置換アリール、ならびにOおよびNから選択される1〜2個のヘテロ原子を有する3〜6員のヘテロアルキル基から選択され、ここで、Rが水素でない場合、RはC2〜C3アルキルである。
特定の態様において、Rは、好ましくは水素である。特定の好ましい態様において、Aは水素である。
特定の好ましい態様において、低分子は、図2に示される構造の群より選択される構造を有する。
【0032】
第2の局面において、本発明は、CDKI経路による転写の誘導を阻害する化合物を用いてCDKIタンパク質の細胞周期阻害活性を刺激するための方法を提供する。本発明の目的のために、「CDKI経路による転写の誘導を阻害する」とは、本発明の化合物の存在下において、該化合物の不在下と比較して、CDKI経路による転写の誘導を妨げるかまたは低減すること、または、既に起こっているかかる誘導を、該化合物を用いて、該化合物の不在下と比較して低減することを意味する。本発明のこの局面による方法の実際的処置として、該方法は、CDKIタンパク質の重要な腫瘍抑制機能を阻害すべきではなく、また、CDKI経路により転写が活性化される遺伝子によりコードされるタンパク質の機能を直接的に阻害すべきではない。しかし、CDKI経路により転写が活性化される遺伝子の転写の阻害は、CDKI経路により転写が活性化される遺伝子によりコードされるタンパク質の機能の直接的阻害とは見なされない。特に好ましいのは、構造式Iを有する化合物(図2に示す化合物を非限定的に含む)を利用する方法である。
【0033】
本発明の第3の局面は、CDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の誘導を増強する化合物を同定するための方法を提供する。該方法は、(i)細胞においてCDKIタンパク質を最大下G1停止を誘導するレベルで発現させること、(ii) 該細胞を試験化合物と接触させること、(iii)試験化合物の存在下および不在下におけるG1停止の程度を測定すること、を含み、ここで、試験化合物がG1停止の程度を増大させる場合、CDKIによるG1細胞周期停止の誘導を増強する化合物であると同定する。本発明の目的のために、「最大下G1停止」とは、CDKIタンパク質の不在下におけるG1期の細胞の数に対するCDKIタンパク質の存在下におけるG1期の細胞の数の増加の観察を可能にする、適切な数の細胞のG1期の停止を意味する。この説明に該当する実際の細胞の数は、細胞株、CDKIタンパク質、およびCDKIタンパク質を発現するための条件によって異なる。しかし、あらゆる細胞株およびCDKI発現系について、この数は、以下の例において記載されるように、容易に決定することができる。
【0034】
特に、例4は、哺乳動物細胞において、G1停止を最大下の程度に誘導する中間レベルでCDKIタンパク質を発現する調節されたプロモーター系の使用を例示する。あるいは、中間レベルのCDKI発現は、細胞を、CDKIタンパク質を発現する異なる量のベクターで形質転換することにより、または、リポソームなどの好適な送達ベクターを用いて細胞に直接的に異なる量のCDKIタンパク質を送達することにより、達成することができる。別の代替的アプローチにおいて、CDKIにより誘導されるG1停止を増強する化合物の能力を、細胞を用いない系において同定してもよく、これは、試験化合物の存在下または不在下において、サイクリン/CDK複合体のキナーゼ活性に対する精製CDKIタンパク質の効果を測定し、該化合物の不在下よりも該化合物の存在下においてより著しい程度でキナーゼ活性がCDKIタンパク質により阻害される場合、試験化合物をCDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の誘導を増強するものと同定することにより、行われる。好ましい態様において、サイクリン/CDK複合体は、CDK2およびCDK2と相互作用するサイクリンを含み、CDKIタンパク質は、p21およびp27を含む。
【0035】
第4の局面において、本発明は、CDKI媒介性疾患(アルツハイマー病、動脈硬化症、アミロイドーシス、関節炎、慢性腎疾患、ウイルス疾患および癌を含むが、これらに限定されない)のための治療剤として有用な化合物を同定するための方法を提供する。該方法は、細胞を試験化合物と接触させること、試験化合物がサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路を阻害する能力を測定すること、細胞を本発明の第1の局面において有用な化合物の構造を有する第2の化合物と接触させること、第2の化合物がサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路を阻害する能力を測定すること、および、試験化合物と第2の化合物とがサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路を阻害する能力を比較すること、を含み、ここで、試験化合物が、第2の化合物と同等かまたは第2の化合物よりも優れたサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路を阻害する能力を有する場合、CDKI媒介性疾患のための治療剤として有用であると同定される。本発明のこの局面は、さらに、この方法によって同定された化合物を提供する。
【0036】
本発明の第5の局面において、本発明は、CDKI媒介性疾患を有する哺乳動物を治療的に処置するための方法を提供する。該方法は、哺乳動物に、本発明の第1および第2の局面による方法において有用である化合物の治療有効量を投与することを含む。
【0037】
本明細書における結果は、SNX2クラス化合物が、疾患関連遺伝子発現、パラクリン性抗アポトーシス活性、およびCDKIにより停止した細胞の老化の表現型の誘導を遮断することにより、CDKI経路阻害剤について予測される全ての重要な生物学的効果を示すことを実証する。したがって、本発明は、アルツハイマー病、アミロイドーシス、動脈硬化症、腎疾患、ウイルス疾患または癌の化学的予防および治療のために有用であり得る薬物のプロトタイプを構成するSNX2クラス化合物を提供する。
【0038】
医薬製剤および投与
本発明の方法において、上記の化合物は、医薬製剤中に組み込まれてもよい。かかる製剤は当該化合物を含み、これは、遊離の酸、塩またはプロドラッグの形態であっても、薬学的に受容可能な希釈剤、キャリア、または賦形剤中にあってもよい。かかる製剤は、当該分野において周知であり、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Edition, ed. A. Gennaro, Mack Publishing Co., Easton, Pa., 1990において記載される。
【0039】
キャリアの特徴は、投与の経路に依存する。本明細書において使用される場合、用語「薬学的に受容可能」とは、無毒の材料であって、細胞、細胞培養物、組織または生体などの生物システムに適合性であり、活性成分(単数または複数)の生物学的活性の有効性を妨げないものを意味する。したがって、本発明の組成物は、阻害剤に加えて、希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤、および当該分野において周知の他の材料を含んでもよい。
【0040】
本明細書において用いられる場合、用語、薬学的に受容可能な塩、とは、上記の化合物の所望の生物学的活性を保持し、望ましくない毒性作用を最小限しか示さないか全く示さない塩を指す。かかる塩の例として、無機酸により形成される塩(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸など)、ならびに、酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パモ酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸およびポリガラクツロン酸などの有機酸により形成される塩が挙げられるがこれらに限定されない。
【0041】
化合物はまた、当業者に公知の薬学的に受容可能な四級塩として投与されてもよく、これは具体的には、式−−NR+Z−−の四級アンモニウム塩を含み、式中、Rは水素、アルキルまたはベンジルであり、Zは対イオンであって、塩素、臭素、ヨウ素、−O−アルキル、トルエンスルホン酸、メチルスルホン酸、スルホン酸、リン酸またはカルボン酸(安息香酸、コハク酸、酢酸、グリコール酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、ベンジロエート(benzyloate)、およびジフェニル酢酸)を含む。
【0042】
活性化合物は、処置される患者において重篤な毒性作用を引き起こすことなく、治療有効量を患者に送達するために十分な量において、薬学的に受容可能なキャリアまたは希釈剤中に含まれる。薬学的に受容可能な誘導体の有効投与量の範囲は、送達されるべき親化合物の重量に基づいて計算することができる。誘導体がそれ自体において活性を示す場合、有効投与量は、上記のように誘導体の重量を用いて、または当業者に公知の他の手段により概算することができる。
【0043】
本発明の方法における医薬製剤の投与は、あらゆる医学的に受容可能な経路により行うことができ、かかる経路として、非経口、経口、舌下、経皮、局所、鼻内、気管内、または直腸内が挙げられるがこれらに限定されない。特定の好ましい態様において、本発明の組成物は、非経口で、例えば病院において静脈内で投与される。特定の他の好ましい態様において、投与は、好ましくは経口経路による。
【0044】
以下の例は、本発明の特定の好ましい態様をさらに例示することを意図され、本発明の範囲を限定することは意図されない。
【実施例】
【0045】
例1
CDKI経路阻害剤の同定
本発明者らは、CDKI経路を阻害する化合物のためのハイスループットスクリーニング(HTS)法を開発した。この方法は、生理学的に中性(neutral)のβガラクトシドIPTG(イソプロピル−β−チオガラクトシド)によって誘導されるプロモーターからp21を発現するHT1080線維肉腫細胞の誘導体であるHT1080 p21−9細胞を、CDKI誘導性サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターから緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するレンチウイルスベクターで感染させ、その後、GFP陽性細胞をサブクローニングし、IPTGによるGFP発現の誘導をモニタリングすることにより作出した、高感度のレポーター細胞株を利用する。IPTGの添加によりおよそ10倍のGFPの増大を示す細胞株を、96ウェルのフォーマットにおけるHTSのために用いた。このレポーター株を用いて、ChemBridge Corp.により開発された各50,000個の化合物を含む2つの異なる低分子ライブラリ、Microformat 04およびDiverSetをスクリーニングした。これらの異なるライブラリは、ChemBridgeにより、Chem−Xソフトウェアのバージョンを用いて薬理作用団(pharmacophore)の多様性を最大化して、500,000個より多い薬物様分子のコレクション中の薬理作用団を定量することによって、合理的に選択した。
【0046】
Microformat 04コレクションを、より旧いDiverSetライブラリによりカバーされる化学的空白を補填するように設計した。ChemBridgeライブラリを、これらのライブラリの細胞ベースのスクリーニングのための一般的な濃度である20μMの濃度でスクリーニングした。100,000個のChemBridge化合物のうち62個を、HTSにより同定し、p21に応答してのCMV−GFP発現の誘導を阻害することを証明した。この低いヒット率(0.06%)は、本発明者らのアッセイの高い選択性を示す。これらの活性化合物のうち56個の構造を、図1に示す。活性なSNX2クラス化合物を、図2に示す。不活性な化合物を図3に示す。
【0047】
例2
CDKIにより誘導されるレポーター遺伝子上の転写に対する同定された化合物の効果
図4は、CMVプロモーター活性に対する、一部のSNX2クラスの化合物の異なる用量の効果を示し、IPTG(p21の誘導因子)の存在下または不在下において、レポーター細胞におけるCMVプロモーターからのGFP発現を、Hoechst 33342染色により測定される細胞DNA含有量(細胞数の指標)で正規化したものとして表す。化合物は、p21による転写の顕著な用量依存的阻害を示すが、これらは、p21が誘導されない場合、プロモーター機能に対してわずかな効果しか有さない。図5における実験は、一部のSNX2クラスの化合物は、p21により誘導される転写を阻害するのみならず、逆転することを示す。
【0048】
この実験において、細胞のNK4遺伝子のCDKI応答性プロモーターからホタルルシフェラーゼを発現するHT1080 p21−9細胞を、IPTGとともに2日間培養した。これは、最大に近いNK4の誘導に十分である。SNX2クラスの化合物であるSNX38は、化合物をIPTGと同時に添加した場合のみならず、IPTG処理の2日後に添加した場合においてもまた、p21によるNK4ルシフェラーゼの誘導を強く低下させた。このことは、化合物がCDKIにより誘導される転写を妨げるだけでなく、逆転させることを示す。ネガティブコントロールとして、図5は、無関連な化合物SNX63が、IPTGと同時に添加した場合のみ転写を阻害し、2日後では阻害しないことを示す。CDKI誘導性転写を逆転する能力から、SNX2クラスの化合物から誘導される薬物が、化学的予防のみならず、治療的な用途においても有用であり得ることを示唆される。
【0049】
例3
CDKIにより誘導される内因性遺伝子上の転写に対する化合物の効果
本発明者らは、SNX2クラスの化合物が、人工プロモーター−レポーター構築物についてだけでなく、CDKI応答性内因性遺伝子についてもまたCDKI効果を阻害するか否かを決定した。この目的のために、本発明者らは、11のCDKI応答性遺伝子のRNAレベルを測定するためのリアルタイム逆転写PCR(Q−PCR)アッセイを開発した。このアッセイは、96ウェルのTurboCapture RNA抽出キット(Qiagen)を使用した。ここでは、oligo(dT)がウェル表面に共有結合しており、同じウェル中での細胞溶解物からのmRNAの単離およびcDNA合成が可能である。5ユニット/lのSuperScript III逆転写酵素(Invitrogen)をウェルに添加し、50℃で1時間cDNA合成させ、次いで、生じたcDNAの2μlを用いて、SYBR Green PCR Master Mix(ABI)およびABI 7900HT Q−PCRマシンを使用するQ−PCR分析に用いた。対応する遺伝子およびβアクチン(コントロール)について特異的な遺伝子産物を増幅するために用いたプライマーを、表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
図6および7は、SNX2およびSNX14により得られたデータを示す。結果を、IPTGの存在下または不在下における各々の遺伝子のRNAレベルの比として表す(発現がCDKIにより影響を受けないβアクチンを、正規化の標準として用いた)。この分析は、SNX2クラスの化合物が、図6においてp21停止細胞について、および図7にp16停止細胞について示すように、CDKIにより停止した細胞において、全ての試験した遺伝子の誘導を完全にまたは部分的に阻害することを示した。これらの結果は、SNX2クラスの化合物の分子標的が、特定のCDKIでなく、むしろ、異なるCDKIの転写誘導作用の共通の下流のメディエーターであることを議論する。
【0052】
本発明者らはまた、これらの化合物がNFκBの阻害剤として作用することができるかを、NFκBコンセンサス結合部位を含有するオリゴヌクレオチドに結合するp50またはp65サブユニットの細胞レベルを測定することにより、ACTIVE MOTIF TransAMTMNFkB p65 ChemiおよびNFkB p50 Chemi 転写因子アッセイキットを用いて試験した。図8に示すように、SNX2は、これらのアッセイにおいてNFκB活性を完全に遮断するNFκB阻害剤であるTPCK(ポジティブコントロール)と比較して、TNFαにより誘導されるNFκB活性または基底NFκB活性に対して有意な効果を有さない。
【0053】
例4
CDKI誘導性細胞周期停止に対するSNX2クラスの化合物の効果
SNX2クラスの化合物は、CDKIタンパク質による転写の誘導を阻害する所望の活性を有するが、一方、これらは、これらの化合物がp21誘導の際に細胞数を増加させる能力を有さないことにより示されるように、細胞増殖の阻害剤としてのp21の腫瘍抑制機能を妨害しない。本発明者らは、p21停止HT1080 p21−9の細胞周期分布に対するSNX2クラスの化合物の効果を分析した。P21誘導の際に、これらの細胞は、G1およびG2の両方において停止することが知られている(Chang et al., Oncogene 19, 2165−2170)。これは、図9において、50μMのIPTGで18時間処理された細胞のS期は減少するが、G1およびG2画分は減少しないことによって示される(DAPI染色細胞におけるDNA含有量のFACS分析により決定される)。
【0054】
20μMの濃度のSNX2またはSNX14は、IPTGの不在下においてG1画分を少し増加させる(SNX2により4%増加し、SNX14により5%増加させる)(図9)。しかし、SNX2およびSNX14をIPTGと同時に添加した場合、これらは、IPTG単独により処理された細胞と比較して、はるかに大きなG1画分の増大をもたらす(SNX2により19%増大し、SNX14により22%増大する)(図9)。G1画分を増大させる一方で、SNX2クラスの化合物は、同時に、IPTG処理細胞のG2画分を減少させる(SNX2により6%減少し、SNX14により7%減少する)(図9)。したがって、SNX2クラス化合物は、p21誘導性G1停止を増大させるが、一方、p21誘導性G2停止は減少させる。
【0055】
P21誘導性G1停止の増大がSNX2クラスの化合物の一次的な細胞周期効果であるのか、p21誘導性G2停止の妨害の二次的な結果であるのかを決定するために、本発明者らは、CDKI p27(CDKN1B)のIPTG誘導性発現を有する細胞株HT1080 p27−2を用いた(Maliyekkel et al, Cell Cycle 5, 2390−2395)。P27は、CDK2(これはまた、p21により阻害される)の特異的阻害剤である。P21と異なり、p27は、G1においてのみ、細胞周期の停止を誘導する。図10は、p27誘導性IPTGの異なる用量の、G1、SまたはG2における細胞の画分に対する効果を示す。IPTGは、G1画分の用量依存的増大、ならびにSおよびG2/Mの対応する減少をもたらす。この実験において用いたIPTGの用量は、50〜100μMのIPTGによりもたらされる最大レベル(ここで、80%より多い細胞がG1にある)より低いレベルで、G1停止を誘導する。検出可能であるが最大下のG1停止をもたらすこれらの低い用量のIPTGの効果は、40μMのSNX14により、20μMおよびより高い程度まで、強く増加される(図10)。したがって、SNX2クラス化合物は、CDKIタンパク質のG1停止活性を増大させる。
【0056】
これらの知見は、SNX2クラス化合物によるCDKI経路阻害についての機序を提案する。CDKIタンパク質は、2つの異なる活性を有する:(i)これらはサイクリン/CDK複合体に結合し、それらのキナーゼ活性を阻害し、細胞周期停止を引き起こす、および(ii)これらは、CDKI経路を活性化し、CDKI応答性遺伝子の転写活性をもたらす。SNX2クラスCDKI経路阻害剤は、CDKIタンパク質によりCDKIをCDK結合および阻害に向かって「シフト」させることにより、CDKI経路の活性化を低下させる。結果として、SNX2クラス化合物は、CDKI経路を阻害するのみならず、細胞周期阻害剤としてのCDKIタンパク質の所望の腫瘍抑制活性を増大させる。SNX2クラスCDKI経路阻害剤の腫瘍抑制増大活性は、癌の化学予防剤としてのこれらの利用可能性を示す。これらの化合物とCDKIとのG1停止の誘導における相乗的相互作用は、CDKI(主にp21)の発現を誘導することにより腫瘍細胞の分裂を停止させる従来の化学治療薬または放射線の補助としての、これらの有用性を示す。
【0057】
例5
SNX2クラス化合物の生物学的活性
本発明者らは、SNX2クラス化合物がCDKI応答性遺伝子の誘導を阻害する能力を、正常なヒトWI−38線維芽細胞において200nMのドキソルビシンでの処置により誘導される老化の形質に対するそれらの効果と関連づけた。図11に示すとおり、ドキソルビシンは、老化マーカーSAβ−galの発現を誘導する(青の染色)が、SNX2およびSNX14は、この形質を遮断し、また、細胞老化と関連する形態学的変化を低減する。
【0058】
本発明者らは、SNX2クラス化合物がCDKI発現細胞のパラクリン性腫瘍促進活性を阻害することができるか否かを試験した。図12に示すアッセイにおいて、HT1080 p21−9細胞を、処理しないか、またはp21誘導性IPTG単独もしくは3つのSNX2クラス化合物(SNX2、SNX14およびSNX38)の存在下で処理した。3日後に、細胞をトリプシン処理し、洗浄して残りの化合物を除去し、各々のサンプルの3×10個の細胞アリコートを(6個のアリコートにおいて)、低血清培地においてアポトーシスへの感受性が高いC8マウス線維芽細胞株の10個の細胞アリコートと混合した。(C8細胞を共培養中で検出するために、本発明者らは、それらを、ホタルルシフェラーゼを発現するベクターで形質導入した。)混合物を96ウェルプレート(10%血清中、IPTGまたは化合物の不在下において)中にプレーティングした翌日、細胞を低血清(0.5%)培地に暴露し、生存C8細胞の相対数を、3日後にルシフェラーゼアッセイにより計測した。p21誘導を行った細胞は、C8細胞の生存を5倍より多く増大したが、この効果は、p21誘導をSNX2クラス化合物の存在下において行った場合著しく減少し、SNX14が最も強い効果を示した(図12)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の誘導を増強するための方法であって、細胞を、CDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の誘導を増強する低分子阻害剤と接触させることを含む、前記方法。
【請求項2】
低分子阻害剤が、構造(I):
【化1】

式中、
は、低級アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルコキシアルキル、ジアルキルアミノアルキル、アラルキル、アリール、ヘテロアリール、フェネチル、およびアルコキシフェニルから選択され、
は、Rおよび水素から選択され、
Aは、水素またはRから選択され;ならびに
Bは、ハロゲンである、
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
が、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、C7〜C8アラルキル、C2〜C3−O−アルキル置換アリール、ならびにOおよびNから選択される1〜2個のヘテロ原子を有する3〜6員のヘテロアルキル基から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
が水素でない場合、RがC2〜C3アルキルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
が水素である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
Aが水素である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
低分子が図2に示される化合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
CDKI経路による転写の誘導を阻害する化合物を用いて、CDKIタンパク質の細胞周期阻害活性を刺激するための方法。
【請求項9】
細胞周期阻害活性が腫瘍抑制活性である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
化合物が、構造(I):
【化2】

式中、
は、低級アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルコキシアルキル、ジアルキルアミノアルキル、アラルキル、アリール、ヘテロアリール、フェネチル、およびアルコキシフェニルから選択され、
は、Rおよび水素から選択され、
Aは、水素またはRから選択され;ならびに
Bは、ハロゲンである、
を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
が、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、C7〜C8アラルキル、C2〜C3−O−アルキル置換アリール、ならびにOおよびNから選択される1〜2個のヘテロ原子を有する3〜6員のヘテロアルキル基から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
が水素でない場合、RがC2〜C3アルキルである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
が水素である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
Aが水素である、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
化合物が図2に示される化合物から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
CDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の誘導を増強する化合物を同定するための方法であって、(i)最大下のG1停止を誘導するレベルで細胞においてCDKIタンパク質を発現させること、(ii)前記細胞と試験化合物とを接触させること、(iii)試験化合物の存在または不在下においてG1停止の程度を測定すること、を含み、ここで、該試験化合物がG1停止の程度を増大させる場合、該試験化合物はCDKIタンパク質によるG1細胞周期停止の誘導を増強する化合物として同定される、前記方法。
【請求項17】
CDKI媒介性疾患のための治療剤として有用である化合物を同定するための方法であって、細胞を試験化合物と接触させること、該試験化合物がサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路を阻害する能力を測定すること、細胞を構造Iの第2の化合物と接触させること、前記第2の化合物がサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路を阻害する能力を測定すること;および、前記試験化合物および第2の化合物がサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路を阻害する能力を比較すること、を含み;ここで、前記試験化合物が第2の化合物と同等のまたはより優れたサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CDKI)経路を阻害する能力を有する場合、前記試験化合物は、CDKI媒介性疾患の治療剤として有用であると同定される、前記方法。
【請求項18】
CDKI媒介性疾患を有する哺乳動物を処置するための方法であって、該哺乳動物に、構造(I):
【化3】

式中、
低級アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルコキシアルキル、ジアルキルアミノアルキル、アラルキル、アリール、ヘテロアリール、フェネチル、およびアルコキシフェニルから選択され、
は、Rおよび水素から選択され、
Aは、水素またはRから選択され;ならびに
Bは、ハロゲンである、
を有する化合物を投与することを含む、前記方法。
【請求項19】
が、C1〜C3アルキル、C2〜C3アルケニル、C2〜C3アルキニル、C7〜C8アラルキル、C2〜C3−O−アルキル置換アリール、ならびにOおよびNから選択される1〜2個のヘテロ原子を有する3〜6員のヘテロアルキル基から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
が水素でない場合、RがC2〜C3アルキルである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
が水素である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
Aが水素である、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
低分子が図2に示される化合物から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
CDKI経路を阻害するための方法であって、細胞をCDKIタンパク質によるG1停止の誘導を増強する化合物と接触させることを含む、前記方法。
【請求項25】
CDKI誘導性G1停止を増強する化合物を同定するための方法であって、サイクリン/CDK複合体に結合するCDKIタンパク質の存在または不在下において、およびまた、候補化合物の存在または不在下において、G1期からの遷移を調節する精製されたサイクリン/CDK複合体のインビトロキナーゼ活性を測定することを含み、ここで、前記候補化合物が、CDKIタンパク質の存在下において、CDKIタンパク質の不在下においてより高い程度までサイクリン/CDK複合体のキナーゼ活性を阻害する場合、CDKI誘導性G1停止の増強剤として見なされる、前記方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図10】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−505386(P2010−505386A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511025(P2009−511025)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/011623
【国際公開番号】WO2007/133773
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(508338670)セネックス バイオテクノロジー,インク. (2)
【Fターム(参考)】