説明

CPP−MRセンサ、MRセンサ、MR再生ヘッドの製造方法

【課題】フリー層を安定化するハードバイアス構造を備えたCPP−MRセンサを提供する。
【解決手段】本発明のCPP−MRセンサは、ハードバイアス構造4と、そのハードバイアス構造4によって水平方向にバイアス磁界が付与されたフリー層8を有するMRスタック6とを備える。ハードバイアス構造4は、シード層4A、FePt含有磁性層4B、およびキャップ層4Cを順に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリー層にバイアスを印加するハードバイアス構造を有するCPP−MRセンサおよびMRセンサ、ならびにMR再生ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD:hard disk drive)内の磁気ディスク等の磁気媒体にデータを保存する際の面密度が増加し続けている。これに伴い、HDD内のリードバック素子として用いられる磁気抵抗効果(MR:magneto-resistive)センサにおいては、ある一定の信号対雑音比(SNR:signal-to-noise ratio)を達成し維持すると共に、増加した面密度に対応して空間分解能を改善する必要がある。図1(A)〜1(C)に、一般的な従来のCPP(current-perpendicular-to-plane)型のMR再生ヘッドの模式図を3つ示す。図1(A)は、再生ヘッドの、エアベアリング面(ABS:air bearing surface)に対して平行な断面の構成を表す。図1(B)は、再生ヘッドを、それに含まれるフリー層(後述)を通過する水平方向の断面を表す。図1(C)は、図1(A)に示した再生ヘッドの一部であるセンサスタックを拡大して表した断面図である。
【0003】
図1(A)に、MRヘッドを示す。このMRヘッドは、CPP‐GMR(current- perpendicular-to-plane giant-magneto-resistive)ヘッドであってもよい。この場合、電流は、ヘッド構造全体にわたって、活性磁性層に対して垂直に流れる。また、ヘッドの抵抗は、巨大磁気抵抗効果の物理的原則に従って変化する。あるいは、このMRヘッドは、CPP‐TMR(current-perpendicular-to-plane tunneling magneto-resistive)ヘッドであってもよい。この場合、電流は、ヘッド構造全体にわたって、活性磁性層に対して垂直に流れる。また、ヘッドの抵抗は、トンネル磁気抵抗効果の物理的原則に従って変化する。
【0004】
図1(A)に示したように、一般的な従来のMRヘッドでは、膜面と垂直な方向に上から下へと見ると、まず、上部シールド101がある。上部シールド101は、外部磁界からセンサスタック106を磁気的に保護する。MRヘッドの下部には、下部シールド102が設けられている。下部シールド102は、上部シールド101と同様の機能を発揮する。このように、センサスタック106は、所定の距離103を隔てて対向する1組のシールドによって保護されている。
【0005】
センサスタック106のそれぞれの端面と対向するように、一対のハードバイアス(HB:hard bias)構造104(例えば高保磁力磁性材料によって形成された磁石)が横方向に延在するように形成されている。これらのハードバイアス構造104は、センサスタック106に含まれるフリー層108(後出)の磁化を安定化させるものであり、上部シールド101と下部シールド102との間に配置される。また、ハードバイアス磁石104の磁化の向きを矢印105によって示す。ハードバイアス構造104は、所望の結晶磁気異方性を促進するためのシード層120の上に形成される。センサスタック106自体は、通常、上部キャップ層118の下に、5つの水平な層からなるパターニングされた積層として形成される。矢印107は、センサスタック106のフリー層108における磁化方向を表す。
【0006】
図1(B)は、一対のハードバイアス構造104およびセンサスタック106を構成するフリー層108を通過する、水平方向に沿った断面である。これについては後述する。
【0007】
図1(C)に示したように、センサスタック106は、以下の5つの層を含んでいる。5つの層とは、磁気的フリー層108、スペーサ層109、リファレンス層110、結合層111、およびピンド層112である。フリー層108の磁化ベクトルを矢印107によって示す。層109は、TMR型センサの場合はトンネルバリア層として機能する誘電体層であり、GMR型センサの場合は導電体層である。リファレンス層110の磁化は、フリー層の磁化の移動と関連している。結合層111は、例えば、Ruからなる層である。ピンド層12の磁化は、反強磁性材料からなる厚い層119によって空間的に固定されている。センサスタック106の下方に位置する厚い層119は、リファレンス層110の磁化も固定する。ハードバイアス構造104は、長手方向の磁化105を備え、センサ積層体6内にバイアス磁界を生成し、フリー層108の磁化107を長手方向に向ける。キャップ層118は、フリー層108と上部シールド101との間に配置されている。センサを形成する際、センサスタック106とハードバイアス構造104とは一度のエッチング処理によって規定され、確実に同じ高さとされる。
【0008】
近年、MRセンサにおけるハードバイアスの改善は、多大な関心を集めている。最先端の磁気バイアス素子は、一般に、Cr含有シード層、それに続いてCoCrPtまたはCoPt硬磁性薄膜を含む構造を有する。バイアス膜によって生じるバイアス磁界は、フリー層を安定化するのに十分な高さである必要がある。前述のように、所望の高記録面密度を達成するために、センサを小さくするにつれて、フリー層は磁気的により不安定になり、バイアスをかけることがより困難になっている。
【0009】
L10相のFePt膜は、飽和磁化が高く、かつ、保磁力も高いので、硬磁性物質として大きな関心を集めている。Qui等による特許文献1には、Pt(2nm厚)/Fe62Pt38/Pt(2nm厚)の積層膜は300℃で4時間アニールすると、5100Oeの保磁力を達成することが開示されている。Hua等による特許文献2では、Pt(1nm厚)/Fe40Pt60(1nm厚)/AFe65Pt35(1.5nm厚)/Fe40Pt60(1nm厚)/Pt(1nm厚)なる膜を300℃で4時間アニールすると、約6000Oeの残留保磁力を達成することが開示されている。双方の開示において、Ptキャップ層およびシード層が、適切なアニール条件において高保磁力を達成するための鍵となっている。
【0010】
上記で引用した従来技術および適切なアニール条件下において高保磁力を備えた磁性膜を形成する際にさまざまなシード層およびキャップ層を使用することに関連する他の従来技術によって、MRセンサのハードバイアスに特に適している特に有利な組み合わせについて検討するようになった。本技術に関連する他の従来技術としては、Mao等による特許文献3、Larson等による特許文献4、およびSbiaa等による特許文献5等がある。これらの従来技術は、シード層およびキャップ層とともにFePt膜を使用することを開示しているが、本発明において説明する組み合わせおよびその有利な特性については開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0274931号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/0047627号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0015268号明細書
【特許文献4】米国特許第7,061,731号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2006/0114620号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の第1の目的は、は、MRセンサのフリー層を安定化するハードバイアス(HB)層を提供することにある。
【0013】
本発明の第2の目的は、特に有利なHB材料として、FePtのL10相を促進するHB層を提供することにある。
【0014】
本発明の第3の目的は、前述の目的を満たすと共に、他のPt合金形式において必要であるよりも安価なシード層材料を用いることである。
【0015】
本発明の第4の目的は、場合によってはシード層を必要とせずに第1の目的を達成し、それにより、HB層とフリー層との間の距離を減少させ、バイアスの強度を向上させることである。
【0016】
本発明の第5の目的は、異なる組成のFePtの使用に際し、厚さが調整可能であるHB合金材料を提供することにある。
【0017】
本発明の第6の目的は、HB素子に対してさらなる磁気モーメントを生じさせる磁性シード層/キャップ層の組み合わせを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記した本発明の目的は、Fe47.5Pt47.5Cu5なる層をHB膜として用い、センサのフリー層にバイアスをかけるMR再生ヘッド設計(好ましくはCPP‐TMR再生ヘッド)によって達成される。この層材料について意義深い実験を行った。その実験では、様々なシード層およびキャップ層の組み合わせを適用し、真空中で、300℃において10時間アニールした。これにより、上記の組み合わせが適切であれば、保磁力および磁気モーメントについて、非常に魅力的な値を得られることがわかった。具体的には、シード層およびキャップ層を適切に選択すれば、PtのL10相の成長が促進される。これは、保磁力の増加によって示される。さらに興味深い事実として、特定の条件下では、シード層を用いずに高保磁力層を実現できるということがある。すなわち、このような材料を用いれば、フリー層に近接したHB層を形成することが可能であり、それによって非常に効果的なバイアス構造を形成することができる。最後に、FeCoMo等のFeを含む特定のシード層は、FePt(Cu)HB層に対して飽和磁化(Ms)を増加させるというさらなる利点をもたらすことがわかっている。さらに、そのようなFeCoMoからなるシード層の厚さは、FePt膜の組成に従って調整可能である。
【0019】
本発明のCPP−MRセンサは、シード層、FePt含有磁性層、およびキャップ層を順に有するハードバイアス構造と、そのハードバイアス構造によって水平方向にバイアス磁界が付与されたフリー層を有するMRセンサスタックとを備えたものである。
【0020】
本発明のMRセンサは、FePt含有磁性層とその上に設けられたキャップ層とを有するハードバイアス構造と、そのハードバイアス構造によって水平方向にバイアス磁界が付与されたフリー層を有するMRセンサスタックとを備えたものである。
【0021】
本発明の第1のMR再生ヘッドの製造方法は、高保磁力材料の縦バイアス層を有するMR再生ヘッドの製造方法であって、下部基板を用意し、その上に、フリー層を含むMR積層膜を形成する工程と、そのMR積層膜のパターニングを行うことにより、フリー層が露出した端面を含む一対の隣接接合面を有するMR積層体を形成する工程と、下部基板の上に、MR積層体を挟んで対向するように一対のハードバイアス構造を形成する工程と、MR積層体および一対のハードバイアス構造を覆うように上部基板を形成する工程とを含み、一対のハードバイアス構造を、シード層と、FePt含有磁性層と、キャップ層とを順に積層することによりそれぞれ形成するようにしたものである。
【0022】
本発明の第2のMR再生ヘッドの製造方法は、高保磁力材料の縦バイアス層を有するMR再生ヘッドの製造方法であって、下部基板を用意し、その上に、フリー層を含むMR積層膜を形成する工程と、そのMR積層膜のパターニングを行うことにより、フリー層が露出した端面を含む一対の隣接接合面を有するMR積層体を形成する工程と、隣接接合面および下部基板を覆う絶縁層を形成する工程と、絶縁層の上に、MR積層体を挟んで対向するように一対のハードバイアス構造を形成する工程と、MR積層体および一対のハードバイアス構造を覆うように上部基板を形成する工程とを含み、一対のハードバイアス構造を、FePt含有磁性層を含む3層構造と、それを覆うキャップ層とを有するように形成するようにしたものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明のCPP−MRセンサおよびMRセンサによれば、ハードバイアス構造における保磁力および磁気モーメントを改善することができ、そのハードバイアス構造によってフリー層に対し、より効果的にハードバイアス磁界を印加することができる。また、本発明のMR再生ヘッドの製造方法によれば、そのようなCPP−MRセンサおよびMRセンサを備えた再生ヘッドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来のCPP‐MR再生ヘッドにおける、ABSと平行な断面模式図(A)、フリー層を通る水平方向の断面を表す模式図(B)、およびセンサスタックを拡大して表した断面模式図(C)である。
【図2】(A)は、本発明の第1の形態としてのCPP‐MR再生ヘッドを表す模式図であり、(B)は、本発明の第2の形態としてのCPP‐MR再生ヘッドを表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の目的、特徴および利点は、以下に記載の好適な実施の形態の説明に照らして理解される。
【0026】
(第1の実施の形態)
図2(A)は、本発明の第1の実施の形態としてのMRヘッドにおける要部であるCPP−TMRセンサの、ABSと平行な断面構成を表すものである。このCPP−TMRセンサは、対向配置された上部シールド1および下部シール2の間に、MRスタック6が挟まれたものである。MRスタック6の両隣には、上部シールド1および下部シールド2の間にそれぞれ挟まれた一対のハードバイアス構造4が設けられている。ここで、MRスタック6に含まれるフリー層は、横方向に配置された一対のハードバイアス構造4によって長手方向にバイアスをかけられている。ハードバイアス構造4は、例えばFe47.5Pt47.5Cu5(以下、単にFePtCuとする)なる層が、さまざまな組み合わせのシード層(すなわち、単層または二重層であるシード層構造)とキャップ層(すなわち、単層または二重層であるキャップ層構造)との間に挟まれて形成される。本実施の形態では、間にFeCoMoなる中間層が挿入された2つのFePtCu層を備える。
【0027】
MRスタック6は、下部シールド2の上に、ピンド層12、結合層11、リファレンス層10、スペーサ層9およびフリー層8が順に設けられたものであり、一対のハードバイアス構造4と対向する一対の隣接接合面6Sを有する。フリー層8には、ハードバイアス構造4によって水平方向にバイアス磁界が付与されている。
【0028】
ハードバイアス構造4は、シード層4A、FePt含有磁性層4B、およびキャップ層4Cを順に有する。
【0029】
シード層4Aは、例えばCrもしくはCrTi、またはその他のCr含有材料からなる層を含み、1nm以上10nm以下の厚さを有するものである。
【0030】
シード層4Aおよびキャップ層4Cは、例えばスパッタリング法またはイオンビーム蒸着法により形成することができる。
【0031】
シード層4Aは、Fe,FeCoもしくはFeCoMoを含み、1nm以上10nm以下の厚さを有するものであってもよい。
【0032】
また、シード層4Aは、1nm以上10nm以下の厚さを有するCrTi層42Aと、1nm以上10nm以下の厚さを有するFeCoMo層41Aとが順に積層された構造を有していてもよい。その場合、FeCoMo層41Aの厚さは、FePt含有磁性層4BにおけるFeおよびPtの組成比に応じて調整されたものである。
【0033】
FePt含有磁性層4Bは、例えば、5nm以上30nm以下の厚さを有すると共にFePtまたはFePtX(XはCuもしくはAg)からなる層である。その場合、FePtXからなる層は、35原子パーセント以上75原子パーセント以下のFeと、0原子パーセントを超えて15原子パーセント以下のXとを含んで構成されている。あるいは、FePt含有磁性層4Bは、例えば、35原子パーセント以上75原子パーセント以下のFeと、25原子パーセント以上65原子パーセント以下のPtとによって構成されている。
【0034】
具体的には、FePt含有磁性層4Bは、例えば第1のFePtCu層50Aと、その上に形成されたFeCoMo層40と、その上に形成された第2のFePtCu層50Bとの3層構造を含んでいる。ここで、第1および第2のFePtCu層50A,50Bは、合計で12.5nmの厚さを有し、FeCoMo層40は、0.5nmの厚さを有する。
【0035】
キャップ層4Cは、例えば1nm以上10nm以下の厚さを有し、Fe,FeCoもしくはFeCoMoからなる層を複数含むものである。キャップ層4Cは、1nm以上10nm以下の厚さを有するCrTi層41Bの上に、1nm以上10nm以下の厚さを有するFeCoMo層42Bが設けられたものであってもよい。FeCoMo層42Bの厚さは、FePt含有磁性層4BにおけるFeおよびPtの組成比に応じて調整されたものである。
【0036】
FeCoMo等のFeを含むシード層4Aおよびキャップ層4Cを用いることで、FePtCuからなるFePt含有磁性層4Bにおいて、飽和磁化(Ms)が増加するというさらなる利点が得られる。
【0037】
このCPP−TMRセンサを含むMR再生ヘッドを製造する際には、以下のように行う。まず、下部シールド2を用意し、その上に、のちにMRスタック6となるMR積層膜を形成する。そののち、そのMR積層膜のパターニングを行うことにより、フリー層8が露出した端面を含む一対の隣接接合面6Sを有するMRスタック6を形成する。次いで、下部シールド2の上に、MRスタック6を挟んで対向するように一対のハードバイアス構造4を形成する。具体的には、シード層4Aと、FePt含有磁性層4Bと、キャップ層4Cとを順に積層することにより、一対のハードバイアス構造4をそれぞれ形成する。最後に、MRスタック6および一対のハードバイアス構造4を覆うように上部シールド1を形成することで、MR再生ヘッドが完成する。
【0038】
(第2の実施の形態)
図2(B)は、本発明の第2の実施の形態としてのMRヘッドにおける要部であるMRセンサの、ABSと平行な断面構成を表すものである。このMRセンサは、対向配置された上部シールド1および下部シール2の間に、MRスタック6が挟まれたものである。MRスタック6の両隣には、上部シールド1および下部シールド2の間にそれぞれ挟まれた一対のハードバイアス構造14が設けられている。本実施の形態では、シード層は必要なく、それゆえ、ハードバイアス構造14とフリー層8との間の距離が減少する。
【0039】
ハードバイアス構造14は、FePt含有磁性層14Bとその上に設けられたキャップ層14Cとを有する。
【0040】
キャップ層14Cは、スパッタリング法またはイオンビーム蒸着法によって形成されたものである。キャップ層14Cは、例えばFe,FeCoもしくはFeCoMoを含み、1nm以上10nm以下の厚さを有するものである。キャップ層14Cは、例えば1nm以上10nm以下の厚さを有するFeCoMo層41と、1nm以上10nm以下の厚さを有するCrTi層42とが順に積層されたものである。FeCoMo層41の厚さは、FePt含有磁性層14BにおけるFeおよびPtの組成比に応じて調整されたものである。
【0041】
FePt含有磁性層14Bは、5nm以上30nm以下の厚さを有すると共にFePtまたはFePtX(XはCuもしくはAg)からなる層である。FePt含有磁性層14Bは、35原子パーセント以上75原子パーセント以下のFeと、25原子パーセント以上65原子パーセント以下のPtとによって構成されている。例えば、FePtX(XはCuもしくはAg)からなる層は、35原子パーセント以上75原子パーセント以下のFeと、0原子パーセントを超えて15原子パーセント以下のXとを含んで構成されている。FePt含有磁性層14Bは、例えば第1のFePtCu層50Aと、FeCoMo層40と、第2のFePtCu層50Bとが順に積層された3層構造からなるものであり、第1および第2のFePtCu層50A,50Bは、合計で12.5nmの厚さを有し、FeCoMo層40は、0.5nmの厚さを有する。
【0042】
このMRヘッドでは、FePt含有磁性層14Bはシード層を必要としないため、FePt含有磁性層14Bと、下部シールド2およびMRスタック6とを分離するものは薄い絶縁層60のみである。
【0043】
FeCoMo等のFeを含むキャップ層を用いることで、FePtCuからなるFePt含有磁性層14Bにおいて、飽和磁化(Ms)が増加するというさらなる利点が得られる。Feを含むキャップ層14Cの厚さは、FePt含有磁性層14Bの原子パーセント組成に従って調整可能である。
【0044】
このMRセンサを含むMR再生ヘッドを製造する際には、以下のように行う。まず、下部シールド2を用意し、その上に、のちにMRスタック6となるMR積層膜を形成する。そののち、そのMR積層膜のパターニングを行うことにより、フリー層8が露出した端面を含む一対の隣接接合面6Sを有するMRスタック6を形成する。次いで、隣接接合面6Sおよび下部シールド2を覆う絶縁層60を形成する。さらに絶縁層60の上に、MRスタック6を挟んで対向するように一対のハードバイアス構造14を形成する。具体的には、3層構造のFePt含有磁性層14Bと、キャップ層14Cとを順に積層することにより、一対のハードバイアス構造14をそれぞれ形成する。その際、FePt含有磁性層14Bを、第1のFePtCu層50Aと、FeCoMo層40と、第2のFePtCu層50Bとを順に積層する。最後に、MRスタック6および一対のハードバイアス構造14を覆うように上部シールド1を形成することで、MR再生ヘッドが完成する。
【実施例】
【0045】
表1は、種種のシード層とキャップ層との組み合わせを採用した場合における、保磁力Hcを比較したものである。より詳細には、表1は、Fe47.5Pt47.5Cu5なる膜を、さまざまな組み合わせのシード層とキャップ層との間に配置し、真空中において、300℃で10時間アニールした結果得られる保磁力Hcを表している。これらの実験結果によれば、図2(A)および図2(B)を用いて説明したように、TMRデバイスにおいて非常に有利に機能することがわかる。
【0046】
表1の実験例Aによると、Taによってキャップをした厚さ25nmのFePtCu層の保磁力は、僅か640Oeである。これは、PtのL10相はほとんど形成されていないことを示している。
【0047】
実験例Bによると、FePtCuに接するシード層およびキャップ層の双方として、2nmのFe85Co10Mo5(以下、FeCoMoとする)を用いた場合、生成される保磁力は4289Oeである。なお、FeCoMoなるシード層を用いる場合、FeCoMoなるシード層は、MRデバイスのギャップ層の上にイオンビーム蒸着またはスパッタリングによって堆積し、その厚さは約1nm以上10nm以下であり、好ましくは2nmである。
【0048】
実験例Cによると、2つの12.5nmのFePtCu層の間に0.5nmのFeCoMoなる中間層を挿入し、その3層構造を2nmのFeCoMoからなるキャップ層によって覆った場合、5240Oeの保磁力が得られる。
【0049】
実験例Dによると、FeCoMoなるシード層/キャップ層を、3nm厚のCrTi層によって置き換えることによって、同様の結果が得られる。なお、Cr,CrTi,または他のCr含有材料をシード層として用いる場合、それは、センサのギャップ層の上にイオンビーム蒸着またはスパッタリングによって堆積する。その厚さは約1nm以上10nm以下であり、好ましくは2nmである。
【0050】
実験例Eによると、シード層を用いず、実験例Cの3層構造を用い、FeCoMo層の上にスパッタリングまたはイオンビーム蒸着によって堆積された2nmのFeCoMo層および3nmのCrTi層からなる2層のキャップ層を用いた場合、4322Oeの保磁力が得られる。これは非常に有意味な結果である。シード層を削除することによって、HB層をセンサ積層体により近接して堆積することができるからである。これにより、バイアスの強度がより効果的なものとなることが期待される。
【0051】
【表1】

【0052】
当業者であれば理解できるように、本発明の好適な実施の形態は、本発明の具体例であって、本発明を限定するものではない。FePtCuからなるハードバイアス層をシード層とキャップ層との間に形成することによって、PtL10相を促進し、適度なアニール条件下で高保磁力を生じさせるMRセンサの形成および提供について、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神と範囲とに従って、そのようなデバイスを形成し、その形成方法を提供する限りにおいて、そのMRセンサの形成および提供に採用する方法、材料、構造、および寸法に対して修正および変形が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…上部シールド、2…下部シールド、4,14…ハードバイアス構造、4A…シード層、4B,14B…FePt含有磁性層、4C,14C…キャップ層4C、6…MRスタック、8…フリー層、9…スペーサ層、10…リファレンス層、11…結合層、12…ピンド層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シード層、FePt含有磁性層、およびキャップ層を順に有するハードバイアス構造と、
前記ハードバイアス構造によって水平方向にバイアス磁界が付与されたフリー層を有するMRセンサスタックと
を備えたCPP−MRセンサ。
【請求項2】
前記シード層は、CrもしくはCrTi、またはその他のCr含有材料からなる層を含み、1nm以上10nm以下の厚さを有する
請求項1に記載のCPP−MRセンサ。
【請求項3】
前記シード層は、スパッタリング法またはイオンビーム蒸着法により形成されたものである
請求項1に記載のCPP−MRセンサ。
【請求項4】
前記シード層は、Fe,FeCoもしくはFeCoMoを含み、1nm以上10nm以下の厚さを有する
請求項1に記載のCPP−MRセンサ。
【請求項5】
前記シード層は、1nm以上10nm以下の厚さを有するCrTi層と、1nm以上10nm以下の厚さを有するFeCoMo層とが順に積層されたものである
請求項1に記載のCPP−MRセンサ。
【請求項6】
前記FeCoMo層の厚さは、前記FePt含有磁性層におけるFeおよびPtの組成比に応じて調整されたものである
請求項5に記載のCPP−MRセンサ。
【請求項7】
前記FePt含有磁性層は、5nm以上30nm以下の厚さを有すると共にFePtまたはFePtX(XはCuもしくはAg)からなる層である
請求項1に記載のCPP−MRセンサ。
【請求項8】
前記FePt含有磁性層は、35原子パーセント以上75原子パーセント以下のFeと、25原子パーセント以上65原子パーセント以下のPtとによって構成されている
請求項7に記載のCPP−MRセンサ。
【請求項9】
前記FePtX(XはCuもしくはAg)からなる層は、35原子パーセント以上75原子パーセント以下のFeと、0原子パーセントを超えて15原子パーセント以下のXとを含んで構成されている
請求項7に記載のCPP−MRセンサ。
【請求項10】
前記FePt含有磁性層は、第1のFePtCu層と、その上に形成されたFeCoMo層と、その上に形成された第2のFePtCu層とを含み、
前記第1および第2のFePtCu層は、合計で12.5nmの厚さを有し、
前記FeCoMo層は、0.5nmの厚さを有する
請求項1に記載のCPP−MRセンサ。
【請求項11】
前記キャップ層は、スパッタリング法またはイオンビーム蒸着法により形成されたものである
請求項1に記載のCPP−MRセンサ。
【請求項12】
前記キャップ層は、1nm以上10nm以下の厚さを有し、Fe,FeCoもしくはFeCoMoからなる層を複数含む
請求項1に記載のCPP−MRセンサ。
【請求項13】
前記キャップ層は、1nm以上10nm以下の厚さを有するCrTi層の上に、1nm以上10nm以下の厚さを有するFeCoMoからなる層を含む
請求項1に記載のCPP‐MRセンサ。
【請求項14】
FeCoMo層の厚さは、前記FePt含有磁性層におけるFeおよびPtの組成比に応じて調整されたものである
請求項13に記載のCPP‐MRセンサ。
【請求項15】
FePt含有磁性層とその上に設けられたキャップ層とを有するハードバイアス構造と、
前記ハードバイアス構造によって水平方向にバイアス磁界が付与されたフリー層を有するMRセンサスタックと
を備えたMRセンサ。
【請求項16】
前記キャップ層は、スパッタリング法またはイオンビーム蒸着法によって形成されたものである
請求項15に記載のMRセンサ。
【請求項17】
前記キャップ層は、Fe,FeCoもしくはFeCoMoを含み、1nm以上10nm以下の厚さを有する
請求項15に記載のMRセンサ。
【請求項18】
前記キャップ層は、
1nm以上10nm以下の厚さを有するFeCoMoからなる層と、1nm以上10nm以下の厚さを有するCrTiからなる層とが順に積層されたものである
請求項15に記載のMRセンサ。
【請求項19】
前記FeCoMoからなる層の前記厚さは、前記FePt含有磁性層のFeおよびPtの組成比に応じて調整されたものである
請求項18に記載のMRセンサ。
【請求項20】
前記FePt含有磁性層は、5nm以上30nm以下の厚さを有すると共にFePtまたはFePtX(XはCuもしくはAg)からなる層である
請求項1に記載のMRセンサ。
【請求項21】
前記FePt含有磁性層は、35原子パーセント以上75原子パーセント以下のFeと、25原子パーセント以上65原子パーセント以下のPtとによって構成されている
請求項20に記載のMRセンサ。
【請求項22】
前記FePtX(XはCuもしくはAg)からなる層は、35原子パーセント以上75原子パーセント以下のFeと、0原子パーセントを超えて15原子パーセント以下のXとを含んで構成されている
請求項20に記載のMRセンサ。
【請求項23】
FePt含有磁性層は、第1のFePtCu層と、その上に形成されたFeCoMo層と、その上に形成された第2のFePtCu層とを含み、
前記第1および第2のFePtCu層は、合計で12.5nmの厚さを有し、
前記FeCoMo層は、0.5nmの厚さを有する
請求項1に記載のCPP−MRセンサ。
【請求項24】
高保磁力材料の縦バイアス層を有するMR再生ヘッドの製造方法であって、
下部基板を用意し、その上に、フリー層を含むMR積層膜を形成する工程と、
前記MR積層膜のパターニングを行うことにより、前記フリー層が露出した端面を含む一対の隣接接合面を有するMR積層体を形成する工程と、
前記下部基板の上に、前記MR積層体を挟んで対向するように一対のハードバイアス構造を形成する工程と、
前記MR積層体および前記一対のハードバイアス構造を覆うように上部基板を形成する工程と
を含み、
前記一対のハードバイアス構造を、シード層と、FePt含有磁性層と、キャップ層とを順に積層することによりそれぞれ形成する
MR再生ヘッドの製造方法。
【請求項25】
前記シード層構造を、CrもしくはCrTi、またはその他のCr含有材料からなる層を含むと共に、1nm以上10nm以下の厚さとなるように形成する
請求項24に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項26】
前記シード層構造を、スパッタリング法またはイオンビーム蒸着法により形成する
請求項24に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項27】
前記シード層構造を、Fe,FeCoもしくはFeCoMoを含み、1nm以上10nm以下の厚さとなるように形成する
請求項24に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項28】
前記シード層構造を、1nm以上10nm以下の厚さを有するCrTi層と、1nm以上10nm以下の厚さを有するFeCoMo層とを順に積層することにより形成する
請求項24に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項29】
前記FeCoMo層の厚さは、前記FePt含有磁性層におけるFeおよびPtの組成比に応じて調整されたものである
請求項28に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項30】
前記FePt含有磁性層を、5nm以上30nm以下の厚さを有すると共にFePtまたはFePtX(XはCuもしくはAg)からなる層とする
請求項24に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項31】
前記FePt含有磁性層を、35原子パーセント以上75原子パーセント以下のFeと、25原子パーセント以上65原子パーセント以下のPtとによって形成する
請求項30に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項32】
前記FePtX(XはCuもしくはAg)からなる層を、35原子パーセント以上75原子パーセント以下のFeと、0原子パーセントを超えて15原子パーセント以下のXとを含むように形成する
請求項31に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項33】
前記FePt含有磁性層を、第1のFePtCu層と、0.5nmの厚さを有するFeCoMo層と、第2のFePtCu層とを順に積層して形成し、
前記第1および第2のFePtCu層を、合計で12.5nmの厚さとなるように形成する
請求項24に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項34】
前記キャップ層を、スパッタリング法またはイオンビーム蒸着法により形成する
請求項24に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項35】
前記キャップ層を、1nm以上10nm以下の厚さを有するCrTi層と、1nm以上10nm以下の厚さを有するFeCoMoからなる層とを順に積層して形成する
請求項24に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項36】
高保磁力材料の縦バイアス層を有するMR再生ヘッドの製造方法であって、
下部基板を用意し、その上に、フリー層を含むMR積層膜を形成する工程と、
前記MR積層膜のパターニングを行うことにより、前記フリー層が露出した端面を含む一対の隣接接合面を有するMR積層体を形成する工程と、
前記隣接接合面および前記下部基板を覆う絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層の上に、前記MR積層体を挟んで対向するように一対のハードバイアス構造を形成する工程と、
前記MR積層体および前記一対のハードバイアス構造を覆うように上部基板を形成する工程と
を含み、
前記一対のハードバイアス構造を、FePt含有磁性層を含む3層構造と、それを覆うキャップ層とを有するように形成する
MR再生ヘッドの製造方法。
【請求項37】
前記キャップ層を、Fe,FeCoもしくはFeCoMoを含み、1nm以上10nm以下の厚さとなるように形成する
請求項36に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項38】
前記キャップ層を、1nm以上10nm以下の厚さを有するCrTi層と、1nm以上10nm以下の厚さを有するFeCoMo層とを順に積層することにより形成する
請求項36に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項39】
前記FePt含有磁性層を、5nm以上30nm以下の厚さを有すると共にFePtまたはFePtX(XはCuもしくはAg)からなる層とする
請求項36に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項40】
前記FePt含有磁性層を、35原子パーセント以上75原子パーセント以下のFeと、25原子パーセント以上65原子パーセント以下のPtとによって形成する
請求項39に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項41】
前記FePtX(XはCuもしくはAg)からなる層を、35原子パーセント以上75原子パーセント以下のFeと、0原子パーセントを超えて15原子パーセント以下のXとを含むように形成する
請求項39に記載のMR再生ヘッドの製造方法。
【請求項42】
前記FePt含有磁性層を、第1のFePtCu層と、0.5nmの厚さを有するFeCoMo層と、第2のFePtCu層とを順に積層して形成し、
前記第1および第2のFePtCu層を、合計で12.5nmの厚さとなるように形成する
請求項36に記載のMR再生ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−113808(P2012−113808A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254257(P2011−254257)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(500475649)ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド (251)
【Fターム(参考)】