説明

Cu−Sn−P系合金すずめっき条

【課題】すずめっきの耐熱剥離性を改善したCu−Sn−P系合金すずめっき条を提供する。
【解決手段】1〜12質量%のSn及び0.01〜0.35質量%のPを含有する銅基合金を母材とするCu−Sn−P系合金すずめっき条において、めっき層と母材との境界面におけるC濃度を0.10質量%以下に調整する。母材は、更にZn、Fe、Ni、Si、Mn、Co、Ti、Cr、Zr、Al及びAgの群から選ばれた少なくとも一種を合計で0.005〜3.0質量%の範囲で含有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ、端子、リレー、スイッチ等の導電性材料として好適で、良好な耐熱剥離性を有するCu−Sn−P系合金Snめっき条に関する。
【背景技術】
【0002】
Cu−Sn−P系合金は、その優れたばね性により、コネクタ、端子、リレー、スイッチ等の電気接点材料として広く使用されている。Cu−Sn−P系合金として代表的なものはりん青銅であり、C5111、C5102、C5191、C5121、C5210等の合金がJIS H3110とH3130に規定されている。Cu−Sn−P系合金を電気接点材料に用いる場合、低い接触抵抗を安定して得るためにSnめっきを施すことが多い。Cu−Sn−P系合金のSnめっき条は、Snの優れた半田濡れ性、耐食性、電気接続性を生かし、自動車電装用ワイヤーハーネスの端子、印刷回路基板(PCB)の端子、民生用のコネクタ接点等の電気・電子部品に大量に使われている。
【0003】
Cu−Sn−P系合金のSnめっき条は、脱脂及び酸洗の後、必要に応じ電気めっき法により下地めっき層を形成し、次に電気めっき法によりSnめっき層を形成し、最後にリフロー処理を施しSnめっき層を溶融させる工程で製造される。
伸銅品のSnめっき条にはCu下地めっきが施されることが多いが、Cu−Sn−P系合金のCu下地Snめっきには、高温で長時間保持した際にめっき層が母材より剥離する現象(以下、熱剥離という)が生じやすいという問題がある。したがって、Cu−Sn−P系合金のSnめっきでは、下地めっきを行わないか、熱剥離が比較的生じにくいNi下地めっきを施すことが多い。特に耐熱性が求められる用途に対しては、Ni下地めっき上に更にCu下地めっきを施す(以下、Cu/Ni二層下地)こともある。Cu/Ni二層下地めっき上にSnめっきを施し、リフロー処理を行うと、リフロー後のめっき皮膜層の構成は表面からSn相、Cu−Sn相、Ni相、母材となる。この技術の詳細は特許文献1〜3等に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−196349号公報
【特許文献2】特開2003−293187号公報
【特許文献3】特開2004−68026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、耐熱剥離性に対し、より高温で長期間の信頼性が求められるようになり、比較的良好な耐熱剥離性を有している下地めっきなしやCu/Ni二層下地めっきのCu−Sn−P系合金Snめっき条に対しても、更に良好な耐熱剥離性が求められるようになった。
本発明の目的は、すずめっきの耐熱剥離性を改善したCu−Sn−P系合金すずめっき条を提供することであり、特に、下地めっき無し又はCu/Ni二層下地めっきに関して改善された耐熱剥離性を有するCu−Sn−P系合金すずめっき条を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、Cu−Sn−P系合金のすずめっき条の耐熱剥離性を改善する方策を鋭意研究した。その結果、めっき層と母材との境界面におけるC濃度を低く抑えると、耐熱剥離性を大幅に改善できることを見出した。
【0007】
本発明は、この発見に基づき成されたものであり、以下の通りである。
(1)1〜12質量%のSn及び0.01〜0.35質量%のPを含有する銅基合金を母材とし、めっき層と母材との境界面におけるC濃度が0.10質量%以下であることを特徴とするCu−Sn−P系合金すずめっき条。
(2)1〜12質量%のSn及び0.01〜0.35質量%のPを含有する銅基合金を母材とし、表面から母材にかけて、Sn相、Sn−Cu合金相の各層でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.1〜1.5μm、Sn−Cu合金相の厚みが0.1〜1.5μmであり、めっき層と母材との境界面におけるC濃度が0.10質量%以下であることを特徴とするCu−Sn−P系合金すずめっき条。
(3)1〜12質量%のSn及び0.01〜0.35質量%のPを含有する銅基合金を母材とし、表面から母材にかけて、Sn相、Sn−Cu合金相、Ni相の各層でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.1〜1.5μm、Sn−Cu合金相の厚みが0.1〜1.5μm、Ni相の厚みが0.1〜0.8μmであり、めっき層と母材との境界面におけるC濃度が0.10質量%以下であることを特徴とするCu−Sn−P系合金すずめっき条。
(4)母材がZn、Fe、Ni、Si、Mn、Co、Ti、Cr、Zr、Al及びAgの群から選ばれた少なくとも一種を合計で0.005〜1.0質量%の範囲で含有する(1)〜(3)いずれかのCu−Sn−P系合金すずめっき条。
(5)最終圧延における母材表面への圧延油の封入を抑制することにより、リフロー後のめっき層と母材との境界面におけるC濃度を0.10質量%以下に調整することを特徴とする、(1)〜(4)いずれかのCu−Sn−P系合金すずめっき条の製造方法。
なお、Cu−Sn−P系合金のすずめっきは、部品へのプレス加工の前に行う場合(前めっき)とプレス加工後に行う場合(後めっき)があるが、両場合とも、本発明の効果は得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(1)母材の成分
本発明は1〜12質量%のSn及び0.01〜0.35質量%のPを含有する銅合金を対象とする。Snが1質量%未満になると強度が不足し、12質量%を超えると導電率の低下が著しくなる。Snは好ましくは3〜11質量%である。Pが0.01質量%未満になると製造性(特に溶解鋳造性)が低下し、0.35質量%を超えると導電率の低下が著しくなる。Pは好ましくは0.03〜0.20質量%である。
本発明の銅合金母材には、合金の強度、耐熱性、耐応力緩和性等を改善する目的で、Zn、Fe、Ni、Si、Mn、Co、Ti、Cr、Zr、Al及びAgの群から選ばれた少なくとも一種を合計で0.005〜1.0質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%添加することができる。これら元素の合計量が0.005質量%未満になると特性向上の効果が発現しない。一方、合計量が1.0質量%を超えると、導電率低下、製造性の低下、原料コストの増加等の問題が生じる。
【0009】
(2)めっき層と母材との境界面におけるC濃度
めっき層と母材との境界面におけるC濃度が0.10質量%を超えると、耐熱剥離性が低下する。そこで、上記C濃度を0.10質量%以下に規定する。ここで、めっき層と母材との境界面におけるC濃度とは、例えばGDS(グロー放電発光分光分析装置)により求められる脱脂後のサンプルのCの深さ方向の濃度プロファイルにおいて、めっき層と母材との境界面に該当する位置に現れるピーク頂点のC濃度をいう。
【0010】
めっき層と母材との境界面におけるC濃度に影響を及ぼす製造条件因子として、最終冷間圧延の条件及びその後の脱脂条件がある。すなわち、冷間圧延では圧延油が用いられるため、ロールと被圧延材との間に圧延油が介在する。この圧延油が被圧延材表面に封入され、次工程の脱脂で除去されずに残留すると、めっき工程(電着とリフロー)を経てめっき/母材界面にC偏析層を形成する。
冷間圧延工程では、材料の圧延機への通板(パス)を繰り返し、材料を所定の厚みに仕上げる。図1は圧延中に圧延油が被圧延材表面に封入される過程を模式的に示したものである。(a)は圧延前の被圧延材断面である。(b)は通常使用される表面粗さが大きいロールを用いて圧延を行った後の被圧延材断面であり、被圧延材表面に凹凸が生じ、その凹部に圧延油が溜まっている。(c)は(b)の後に最終パスとして表面粗さの小さいロールを用いて圧延を行った後の被圧延材断面であり、(b)で凹部に溜まった圧延油が被圧延材表面に封入されている。
【0011】
図1は、圧延油の封入を抑えるためには、表面粗さの小さいロールを使用する最終パスより前のパスにおいて、表面粗さが小さいロールを用いることが重要であることを示している。即ち、最終パス前の全パスにおいて1回でも表面粗さの大きいロールを使用することは被圧延材表面に凹凸が生じる原因となるため好ましくない。また、ロール粗さ以外の重要な因子として圧延油の粘度があり、粘度が低く流動性が良い圧延油ほど、被圧延材表面に封入されにくい。
ロールの表面粗さを小さくする方法として、粒度が細かい砥石を用いてロール表面を研磨する方法、ロール表面にめっきを施す方法等があるが、これらはかなりの手間とコストを要する。また、ロールの表面粗さを小さくすると、ロール表面と被圧延材との間でスリップが発生しやすくなり圧延速度を上げられなくなる(効率が低下する)等の問題も生じる。このため、最終パスでは製品の表面粗さを作り込むために表面粗さが小さいロールが用いられていたものの、最終パス以外のパスにおいて表面粗さが小さいロールを用いることは、当業者に避けられていた。また、動粘度が低い圧延油を用いることについても、圧延ロール表面の磨耗が大きくなる等の理由から、避けられていた。
本発明によりすずめっきの耐熱剥離性の改善のためにめっき層と母材との境界面におけるC濃度を低下させることが重要であることが初めて見いだされた。そして、そのためには最終パスより前のパスにおいて表面粗さが小さいロールを用い、動粘度が低く流動性が良い圧延油を使用することにより、圧延油の封入を抑えることが効果的であることが示された。
【0012】
最終パスより前に使用される表面粗さの小さいロールの表面の最大高さ粗さRzは、好ましくは3.0μm以下、更に好ましくは2.0μm以下、最も好ましくは1.0μm以下である。Rzが3.0μmを超えると圧延油が封入されやすくなり、境界面におけるC濃度が低下しにくい。又、使用される圧延油の動粘度(40℃で測定)は、好ましくは15mm2/s以下、更に好ましくは10mm2/s以下、最も好ましくは5mm2/s以下である。粘度が15mm2/sを超えると圧延油が封入されやすくなり、境界面におけるC濃度が低下しにくい。
なお、特許文献3でもC濃度に着目しているが、このC濃度はSnめっき層中の平均C濃度であり、本発明の構成要素であるめっき層と母材との境界面におけるC濃度とは異なる。特許文献3では、Snめっき層中の平均C濃度はめっき液中の光沢剤、添加剤の量及びめっき電流密度により変化し、0.001質量%未満ではSnめっきの厚さにムラが生じ、0.1質量%を超えると接触抵抗が増加するとされている。従って、特許文献3の技術が本発明の技術と異なることは明らかである。
【0013】
(3)めっきの厚み
(3−1)下地めっき無し
下地めっき無しの場合、Cu−Sn−P系合金母材上に直接、電気めっきによりSnめっき層を形成し、その後リフロー処理を行う。このリフロー処理により、合金母材中のCuとSnめっき層が反応してSn−Cu合金相が形成され、めっき層構造は、表面側よりSn相、Sn−Cu合金相となる。
リフロー後のこれら各相の厚みは、
・Sn相:0.1〜1.5μm
・Sn−Cu合金相:0.1〜1.5μm
の範囲に調整する。
Sn相が0.1μm未満になると半田濡れ性が低下し、1.5μmを超えると加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましい範囲は0.2〜1.0μmである。
Sn−Cu合金相は硬質なため、0.1μm以上の厚さで存在すると挿入力の低減に寄与する。一方、Sn−Cu合金相の厚さが1.5μmを超えると、加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましい厚みは0.5〜1.2μmである。
【0014】
上記めっき構造を得るためには、電気めっき時のSnめっきの厚みを0.5〜1.8μmの範囲に適宜調整し、230〜600℃、3〜30秒間の範囲の中の適当な条件でリフロー処理を行う。
【0015】
(3−2)Cu/Ni下地めっき
Cu/Ni下地めっきの場合、Cu−Sn−P系合金母材上に、電気めっきによりNiめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層を順次形成し、その後リフロー処理を行う。このリフロー処理により、CuめっきはSnと反応してSn−Cu合金相となり、Cu相は消失する。一方Ni層は、ほぼ電気めっき上がりの状態で残留する。その結果、めっき層の構造は、表面側よりSn相、Sn−Cu合金相、Ni相となる。
リフロー後のこれら各相の厚みは、
・Sn相:0.1〜1.5μm
・Sn−Cu合金相:0.1〜1.5μm
・Ni相:0.1〜0.8μm
の範囲に調整する。
Sn相が0.1μm未満になると半田濡れ性が低下し、1.5μmを超えると加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましい範囲は0.2〜1.0μmである。
Sn−Cu合金相は硬質なため、0.1μm以上の厚さで存在すると挿入力の低減に寄与する。一方、Sn−Cu合金相の厚さが1.5μmを超えると、加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましい厚みは0.5〜1.2μmである。
【0016】
Ni相の厚みは0.1〜0.8μmとする。Niの厚みが0.1μm未満ではめっきの耐食性や耐熱性が低下する。Niの厚みが0.8μmを超えると加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましいNi相の厚みは0.1〜0.3μmである。
上記めっき構造を得るためには、電気めっき時の各めっきの厚みを、Snめっきは0.5〜1.8μmの範囲、Cuめっきは0.1〜0.4μm、Niめっきは0.1〜0.8μmの範囲で適宜調整し、230〜600℃、3〜30秒間の範囲の中の適当な条件でリフロー処理を行う。
【実施例】
【0017】
本発明の実施例で採用した製造、めっき、測定方法を以下に示す。
高周波誘導炉を用い、内径60mm、深さ200mmの黒鉛るつぼ中で2kgの電気銅を溶解した。溶湯表面を木炭片で覆った後、所定量のSn、P及びその他の合金元素を添加した。その後、溶湯を金型に鋳込み、幅60mm、厚み30mmのインゴットを製造し、以下の工程で、下地無しリフローSnめっき材及びCu/Ni下地リフローSnめっき材に加工した。めっき/母材界面のC濃度が異なるサンプルを得るために、工程12の条件を変化させた。
【0018】
(工程1)均質化焼鈍として700℃で3時間加熱した。
(工程2)表面の酸化スケールをグラインダーで研削、除去した。
(工程3)板厚10mmまで冷間圧延した。
(工程4)均質化焼鈍として500℃で3時間加熱した。
(工程5)表面の酸化スケールをグラインダーで研削、除去した。
(工程6)板厚1.5mmまで冷間圧延した。
(工程7)再結晶焼鈍として400℃で30分間加熱した。
(工程8)10質量%硫酸−1質量%過酸化水素溶液による酸洗及び#1200エメリー紙による機械研磨を順次行い、表面酸化膜を除去した。
(工程9)板厚0.5mmまで冷間圧延した。
(工程10)再結晶焼鈍として400℃で30分間加熱した。
(工程11)10質量%硫酸−1質量%過酸化水素溶液による酸洗を行い、表面酸化膜を除去した。
【0019】
(工程12)板厚0.3mmまで冷間圧延した。パス数は2回とし、1パス目で0.38mmまで加工し、2パス目で0.3mmまで加工した。2パス目では表面のRz(最大高さ粗さ)を1.0μmに調整したロールを用いた。1パス目ではロール表面のRzを1、2、3及び4μmの4水準で変化させた。また、圧延油(1パス目、2パス目共通)の動粘度を5、10及び15mm2/sの3水準で変化させた。
(工程13)アルカリ水溶液中で試料をカソードとして次の条件で電解脱脂を行った。
電流密度:3A/dm2。脱脂剤:ユケン工業(株)製商標「パクナP105」。脱脂剤濃度:40g/L。温度:50℃。時間30秒。電流密度:3A/dm2
(工程14)10質量%硫酸水溶液を用いて酸洗した。
【0020】
(工程15)次の条件でNi下地めっきを施した(Cu/Ni下地の場合のみ)。
・めっき浴組成:硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸30g/L。
・めっき浴温度:50℃。
・電流密度:5A/dm2
・Niめっき厚みは、電着時間により調整。
(工程16)次の条件でCu下地めっきを施した(Cu/Ni下地の場合のみ)。
・めっき浴組成:硫酸銅200g/L、硫酸60g/L。
・めっき浴温度:25℃。
・電流密度:5A/dm2
・Cuめっき厚みは、電着時間により調整。
(工程17)次の条件でSnめっきを施した。
・めっき浴組成:酸化第1錫41g/L、フェノールスルホン酸268g/L、界面活性剤5g/L。
・めっき浴温度:50℃。
・電流密度:9A/dm2
・Snめっき厚みは、電着時間により調整。
(工程18)リフロー処理として、温度を400℃、雰囲気ガスを窒素(酸素1vol%以下)に調整した加熱炉中に、試料を10秒間挿入し水冷した。
【0021】
このように作製した試料について、次の評価を行った。
(a)母材の成分分析
機械研磨と化学エッチングによりめっき層を完全に除去した後、Sn、P及びその他合金元素の濃度を、ICP−発光分光法で測定した。
(b)電解式膜厚計によるめっき厚測定
リフロー後の試料に対しSn相及びSn−Cu合金相の厚みを測定した。なお、この方法ではNi相の厚みを測ることはできない。
【0022】
(c)GDSによる表面分析
リフロー後の試料をアセトン中で超音波脱脂した後、GDS(グロー放電発光分光分析装置)により、Sn、Cu、Ni、Cの深さ方向の濃度プロファイルを求めた。測定条件は次の通りである。
・装置:JOBIN YBON社製 JY5000RF-PSS型
・Current Method Program:CNBinteel-12aa-0。
・Mode:Constant Electric Power=40W。
・Ar-Presser:775Pa。
・Current Value:40mA(700V)。
・Flush Time:20sec。
・Preburn Time:2sec。
・Determination Time:Analysis Time=30sec、Sampling Time=0.020sec/point。
【0023】
GDSで得られるC濃度プロファイルデータより、めっき/母材境界面のC濃度を求めた。Cの代表的な濃度プロファイルとして、後述する発明例2(表1、下地めっき無し)のデータを図2に示す。深さ1.6μm(めっき層と母材との境界面)のところにCのピークが認められる。このピークの高さを読み取り、めっき/母材境界面のC濃度とした。また、GDSで得られるNi濃度プロファイルデータより、Ni下地めっき(Ni相)の厚みを求めた。
【0024】
(d)耐熱剥離性
幅10mmの短冊試験片を採取し、160℃の温度で大気中3000時間まで加熱した。その間、100時間毎に試料を加熱炉から取り出し、曲げ半径0.5mmの90°曲げと曲げ戻し(90°曲げを往復一回)を行った。次に、曲げ内周部表面に粘着テープ(スリーエム社製#851)を貼り付け引き剥がした。その後、試料の曲げ内周部表面を光学顕微鏡(倍率50倍)で観察し、めっき剥離の有無を調べた。そして、めっき剥離が発生するまでの加熱時間を求めた。
【0025】
めっき層/母材界面のC濃度と耐熱剥離性との関係(発明例1〜24及び比較例1〜9)
めっき層/母材界面のC濃度が耐熱剥離性に及ぼす影響を調査した実施例を表1に示す。工程12においてロール表面粗さRz及び圧延油動粘度をそれぞれ1〜4μm及び5〜15mm2/sに調整することにより、めっき層/母材界面のC濃度を変化させている。
下地めっき無し材については、Snの厚みを1.2μmとして電気めっきを行い、400℃で10秒間リフローしたところ、全ての発明例、比較例でいずれもSn相の厚みは約0.8μm、Cu−Sn合金相の厚みは約0.8μmとなった。
Cu/Ni下地めっき材については、Niの厚みを0.3μm、Cuの厚みを0.3μm、Snの厚みを0.8μmとして電気めっきを行い、400℃で10秒間リフローしたところ、全ての発明例、比較例でいずれもSn相の厚みは約0.4μm、Cu−Sn合金相の厚みは約1μmとなり、Cu相は消失し、Ni相は電着時の厚み(0.3μm)のまま残留していた。
本発明合金である発明例1〜24ではめっき層/母材界面のC濃度が0.10質量%以下であり、160℃で3000時間加熱してもめっき剥離が生じていない。一方、比較例1〜9ではC濃度が0.10質量%を超え、剥離時間が3000時間を下回っている。また、圧延ロールの表面粗さを小さくすること、及び圧延油の粘度を低くすることにより、めっき層/母材界面のC濃度を低くできることもわかる。
【0026】
【表1】

【0027】
めっきの厚みと耐熱剥離性との関係(発明例25〜36及び比較例10〜14)
めっきの厚みが耐熱剥離性に及ぼす影響を調査した実施例を表2及び3に示す。母材組成はCu−6.0質量%−0.12質量%Pとした。また工程12では、1パス目でRzが2μmの圧延ロールを用い、1パス目、2パス目とも動粘度が10mm2/sの圧延油を用いた。その結果、各試料におけるめっき層/母材界面のC濃度は、0.07〜0.09質量%の範囲に収まった。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
表2(発明例25〜29及び比較例10及び11)は下地めっき無しの場合について、Snの厚みを変化させている。本発明合金である発明例25〜29については、160℃で3000時間加熱してもめっき剥離が生じていない。
Snの電着厚みを2.0μmとし他と同じ条件でリフローを行った比較例10では、リフロー後のSn相の厚みが1.5μmを超えている。またSnの電着厚みを2.0μmとしリフロー温度を高くした比較例11ではリフロー後のSn−Cu合金相厚みが1.5μmを超えている。Sn相またはSn−Cu合金相の厚みが規定範囲を超えたこれら合金では、剥離時間が3000時間を下回っている。
【0031】
表3(発明例30〜36及び比較例12〜14)はCu/Ni下地めっきでのデータである。本発明合金である発明例30〜36については、3000時間加熱してもめっき剥離が生じていない。
発明例30〜32及び比較例14では、Snの電着厚みを0.9μm、Cuの電着厚みを0.2μmとし、Ni下地の厚みを変化させている。リフロー後のNi相の厚みが0.8μmを超えた比較例14では、剥離時間が3000時間を下回っている。
【0032】
発明例33〜36及び比較例12ではCu下地の電着厚みを0.15μm、Ni下地の電着厚みを0.2μmとし、Snの厚みを変化させている。リフロー後のSn相の厚みが1.5μmを超えた比較例12では剥離時間が3000時間を下回っている。
Snの電着厚みを2.0μm、Cuの電着厚みを0.6μmとし、リフロー温度を他の実施例より高くした比較例13では、Sn−Cu合金相厚みが1.5μmを超え、剥離時間が3000時間を下回っている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】冷間圧延中に圧延油が被圧延材表面に封入される過程を示す模式図である。
【図2】発明例2(表1、下地めっき無し)における、C濃度の深さ方向のプロファイルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜12質量%のSn及び0.01〜0.35質量%のPを含有する銅基合金を母材とし、めっき層と母材との境界面におけるC濃度が0.10質量%以下であることを特徴とするCu−Sn−P系合金すずめっき条。
【請求項2】
1〜12質量%のSn及び0.01〜0.35質量%のPを含有する銅基合金を母材とし、表面から母材にかけて、Sn相、Sn−Cu合金相の各層でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.1〜1.5μm、Sn−Cu合金相の厚みが0.1〜1.5μmであり、めっき層と母材との境界面におけるC濃度が0.10質量%以下であることを特徴とするCu−Sn−P系合金すずめっき条。
【請求項3】
1〜12質量%のSn及び0.01〜0.35質量%のPを含有する銅基合金を母材とし、表面から母材にかけて、Sn相、Sn−Cu合金相、Ni相の各層でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.1〜1.5μm、Sn−Cu合金相の厚みが0.1〜1.5μm、Ni相の厚みが0.1〜0.8μmであり、めっき層と母材との境界面におけるC濃度が0.10質量%以下であることを特徴とするCu−Sn−P系合金すずめっき条。
【請求項4】
母材がZn、Fe、Ni、Si、Mn、Co、Ti、Cr、Zr、Al及びAgの群から選ばれた少なくとも一種を合計で0.005〜1.0質量%の範囲で含有する請求項1〜3いずれか1項記載のCu−Sn−P系合金すずめっき条。
【請求項5】
最終圧延における母材表面への圧延油の封入を抑制することにより、リフロー後のめっき層と母材との境界面におけるC濃度を0.10質量%以下に調整することを特徴とする、請求項1〜4いずれか1項記載のCu−Sn−P系合金すずめっき条の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−291459(P2007−291459A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121850(P2006−121850)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】