説明

DME地上装置

【課題】スキッタパルス生成手段を熱雑音に依存せずに、外来パルスによる影響を排除してスキッタパルスを生成させ、それにより、常に、適正な送信レートでスキッタパルスを送信することができるDME地上装置を提供すること。
【解決手段】DME地上装置10で、送信レート監視制御部18の制御により、トランスポンダ部13は、受信した質問信号を解読して応答信号を生成し送出する際の送信レートを監視し、監視した結果で送信レートが所定に達している場合は応答信号を送信し、送信レートが所定に達していない場合はスキッタパルスを送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機と地上装置間の距離を測定する距離測定装置(DME:distance Measurineg Equipment)に係り、特に、地上側に設けられているDME地上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機に対して用いられている距離測定装置(DME:distance Measurineg Equipment;以下、DME装置という)は、航空機に搭載されている機上装置と、この機上装置と地上側から交信する地上装置とから構成されている2次レーダ方式である。
【0003】
DME装置では、航空機に機上装置として質問装置(interrogator:インタロゲータ)、地上側に応答装置(transponder:トランスポンダ)と呼ばれる送受信機をそれぞれ設けている。
【0004】
質問装置がUHF帯の質問パルス(ペアパルスとなっている)を応答装置に対して発射してから、応答装置からの応答パルス(ペアパルスとなっている)を受信するまでの時間に基づいて距離を測定している(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
すなわち、質問装置は、ランダムな時間間隔(ただし1秒当りの回数は決まっている、例えば30回)で質問パルスを、順次、地上装置に送信する。一方、地上装置では、応答装置が、航空機に搭載されている機上装置から発射される所定周波数の質問パルス信号を受信・復調し、この質問パルス信号をデコード(解読)後、所定のシステム遅延時間(例えば50μs)を付与して再度コード(符号)化し、応答パルス信号として所定の送信系を介して航空機に対して送信している。
【0006】
送信された応答パルスを受信した航空機に搭載の機上装置は、応答パルス信号を受信・復調し、質問パルス信号と応答パルス信号との経過時間を計測し、所定の計算式によりDME地上装置から自機までの距離情報を算出している。
【0007】
なお、応答装置は、複数の質問装置(航空機)からの質問にそれぞれ応答可能である。
【0008】
また、DME地上装置は、質問パルスを受信したときは、上述のように応答パルスを送信するが、質問パルスを受信しない場合でも、航空機に搭載の質問装置(インタロゲータ)の自動利得制御を維持させるためなどの理由で、1秒間に平均700パルス以上のランダムな応答パルスを発生することが義務付けられている。
【0009】
このランダムな応答パルスはスキッタパルスと呼ばれ、航空機からの質問パルスとの相関をできるだけ少なくするため、ランダムに発生することが重要である(例えば、特許文献2を参照)。
【0010】
このため、応答装置(トランスポンダ)の受信機の熱雑音などのノイズのランダム性を利用したアナログ回路により、ランダムな時間間隔(ただし1秒当りの回数は決まっている、例えば1000pps(Pulse pairs Per Second))で、航空機に搭載の質問装置の質問パルスと同時に受信し、デコードして使用するデコード装置がDME地上装置に装備されている。
【0011】
つまり、応答装置は、質問パルス信号を受信した場合のみ、スキッタパルス信号の代わりに応答パルス信号を送信する。従って、通常の運用状態においては、DME地上装置からは、スキッタパルス信号と応答パルス信号とを含めて、1000〜2700ppsのパルス信号が常時送信されている。
【特許文献1】特許第2629612号公報
【特許文献2】特開昭63−208782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、DME地上装置では、航空機に搭載の質問装置(インタロゲータ)の自動利得制御を維持させるためなどの理由により、航空機からの質問信号が少ないときにも、応答装置(トランスポンダ)からスキッタパルスをランダムな時間間隔で発生させ、航空機に送信している。
【0013】
従来のスキッタパルスは、ランダムな時間間隔を実現するために、トランスポンダの受信機の熱雑音などのノイズのランダム性を利用したアナログ回路が用いられていた。しかしながら、アナログ回路では、外来ノイズの影響を受けやすい。そのため、スキッタパルスの送信レートが変動し、適正な送信レートの範囲を逸脱してしまう場合が生じていた。
【0014】
本発明は、これらの事情を考慮してなされたもので、スキッタパルス生成手段を熱雑音に依存せずに、外来パルスによる影響を排除してスキッタパルスを生成させ、それにより、常に、適正な送信レートでスキッタパルスを送信することができるDME地上装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様によれば、航空機からの質問信号を受信する空中線部と、この空中線部により受信した質問信号を受信し、該質問信号に対する応答信号を生成するとともに、スキッタパルスを生成して送信するトランスポンダ部と、このトランスポンダ部を監視制御する監視制御部とを備え、前記トランスポンダ部は、受信した質問信号を解読して応答信号を生成し送出する際の送信レートを監視し、監視結果に応じて、前記送信レートが所定値に達している場合は前記応答信号を送信し、前記送信レートが所定値に達していない場合は前記応答信号の代わりに前記スキッタパルスを送信することを特徴とするDME地上装置が提供される。
【0016】
また、本発明のDME地上装置では、前記トランスポンダ部は、前記方向性結合器を介して入力された航空機からの質問信号を受信し解読する質問信号受信部と、この質問信号受信部において解読された信号に基いて応答信号を生成する応答信号生成部と、この応答信号生成部で生成された応答信号を送出する応答信号送出部と、この応答信号送出部17から送出される応答信号の送信レートを監視し、その制御を行う送信レート監視制御部と、スキッタパルスを生成するスキッタパルス生成部を備えていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のDME地上装置では、前記質問信号受信部は、デコーダで、受信した質問信号の判別を行うため、自動スレショールド制御とパルス幅分別とを組み合わせ、受信した前記質問信号を解読することを特徴とする。
【0018】
また、本発明のDME地上装置では、前記応答信号生成部は、前記質問信号受信部で解読された信号に対して、所定のシステム遅延時間を付与し、再度コード化し、応答信号として生成することを特徴とする。
【0019】
また、本発明のDME地上装置では、前記スキッタパルス生成部は、常時、スキッタパルスの基となるランダムパルスを生成することを特徴とする。
【0020】
また、本発明のDME地上装置では、前記スキッタパルス生成部は、デジタル回路から得られたランダム信号によりランダムパルスを生成していることを特徴とする。
【0021】
また、本発明のDME地上装置では、前記デジタル回路は、擬似雑音・擬似ランダムパルスであるPNコードを発生するPNコード発生回路であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、スキッタパルス生成手段を熱雑音に依存せずに、外来パルスによる影響を排除してスキッタパルスを生成させ、それにより、常に、適正な送信レートでスキッタパルスを送信することができるDME地上装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
【0024】
図1は、本発明のDME地上装置の実施形態を示すブロック図である。DME地上装置10は、その構成を大別すると、図示しない航空機からの質問信号を受信しその応答信号を送信するアンテナ部である空中線部11と、この空中線部11に接続された方向性結合器12と、航空機からの質問信号に対して応答信号を生成するトランスポンダ部13と、このDME地上装置10の全体を監視する監視制御部14とにより構成されている。
【0025】
空中線部11は、航空機(不図示)の機上装置からの質問パルス信号を捕捉する電子走査アンテナである。
【0026】
方向性結合器12は、一般に用いられているもので、信号を隔離、分離または結合するためのマイクロ波伝送のルーティングに用いられる汎用機器である。
【0027】
トランスポンダ部13は、質問信号受信部15と、応答信号生成部16と、応答信号送出部17と、送信レート監視制御部18と、スキッタパルス生成部19とを有している。
【0028】
質問信号受信部15は、方向性結合器(サーキュレータ)12を介して入力された航空機からの質問信号を受信し解読するものである。
【0029】
なお、質問信号受信部15はデコーダで、受信した質問信号の判別を行うため、自動スレショールド制御とパルス幅分別とを組み合わせ、質問信号を解読している。デコード回路としては、公知のパルスピークを基準に調整されたスレショールドを用いて入力信号をディジタルパルスに整形した後、ある一定の許容値内のパルス幅を有する信号を取り出す回路や、整形されたパルス群からある一定のパルス幅以上のパルスを取り出す回路を用いることができる。
【0030】
応答信号生成部16は、質問信号受信部15において解読された信号に基いて応答信号を生成するものである。
【0031】
また、応答信号生成部16は、質問信号受信部15で解読された信号に対して、所定のシステム遅延時間(例えば50μs)を付与し、再度コード(符号)化し、応答信号として生成している。
【0032】
応答信号送出部17は、応答信号生成部16で生成された応答信号を送出するものである。この応答信号は応答信号送出部17より方向性結合器12を介して空中線部11より、質問信号を発した航空機に送信される。
【0033】
送信レート監視制御部18は、応答信号送出部17から送出される応答信号の送信レートを監視し、その制御を行うものである。
【0034】
スキッタパルス生成部19は、常時、スキッタパルスの基となるランダムパルスを生成し、応答信号の送出のみでは送信レートが低すぎる場合に、応答信号の代わりにスキッタパルスを送出する。
【0035】
次に、図2は、DME地上装置のスキッタパルス生成部のブロック図である。図2に示すように、スキッタパルス生成部19は、PNコード発生回路21と、PNコード値判定回路22と、送信パルス生成部23とを有している。
【0036】
PNコード発生回路21は、デジタル回路であるシフトレジスタで構成されPNコード(Psudo Noise:疑似雑音・擬似ランダムパルス)を発生する。PNコード値判定回路22は、PNコード発生回路21から出力されるPNコードを複数ビット束ねて整数値とし、このPNコード値と所定の閨値と比較判定するものである。また、送信パルス生成部23は、PNコード値が上記閾値を越えたとき送信パルスを生成するものである。
【0037】
PNコード発生回路21としては、例えば、図3に、シフトレジスタ30を用いたPNコード発生回路21の一例を示す。すなわち、最後の遅延段Dnの論理値と途中段Dkの論理値との2進数の論理和または2進数の排他的論理和が、加算器31により初段に帰還入力されるように構成されている。途中段Dkの段数を遅延段数により適宜選択することで、最長符号系列(m系列:2DK−1個までは同じ順のコードを繰り返さないコード列)となるように設定され、このPNコード発生回路の出力で搬送波の位相変調が行われる。
【0038】
監視制御部14は、DMEの機上装置からの信号と同様な所定レベルの質問パルス信号を、方向性結合器12を介して入力している。また、トランスポンダ部13で応答パルス信号として応答信号送出部17から出力される信号を、方向性結合器12を介して受信し、DME地上装置10の動作状態を常時モニタしている。
【0039】
次に、上述した構成のDME地上装置10について、その動作について説明する。
【0040】
まず、図示しない航空機のインタロゲータから質問信号を空中線部11が捕捉すると、空中線部11により捕捉された質問信号は方向性結合器12に入力される。質問信号は方向性結合器12を介してトランスポンダ部13の質問信号受信部15に入力され、質問信号受信部15で質問信号が解読される。
【0041】
質問信号受信部15での解読結果に基いて、応答信号生成部16で航空機のインタロゲータからの質問信号に対して、所定のシステム遅延時間(例えば、50μs)を付与し、再度コード(符号)化して応答信号が生成される。
【0042】
応答信号生成部16で生成された応答信号は、応答信号送出部17から方向性結合器12に送出される。このとき、送信レート監視制御部18が送出される応答信号の送信レートを監視する。
【0043】
送信レート監視制御部18は、応答信号送出部17から送出される応答信号の送信レートを監視し、監視した結果が応答信号の送信レートが所定値に達している場合は、送信レート監視制御部18は応答信号送出部17を制御し、応答信号を方向結合器12を介して空中線11から航空機へ送出される。
【0044】
つまり、質問信号受信部15は、航空機に搭載されているDMEの機上装置から発射される所定周波数の質問パルス信号を受信・復調し、この質問パルス信号をデコード(解読)後、応答信号生成部16で所定のシステム遅延時間(例えば50μs)を付与して再度コード(符号)化し、応答パルス信号として応答信号送出部17から、方向性結合器12を介して空中線11から航空機に対して送信している。
【0045】
航空機に搭載の機上装置では、応答パルス信号を受信・復調し、質問パルス信号と応答パルス信号との経過時間を計測し、DME地上装置10から自機までの距離情報を得ている。
【0046】
一方、送信レート監視制御部18が、応答信号送出部17から送出される応答信号の送信レートを監視した結果、送信レートが所定値よりも低いときは、応答信号送出部17を制御して応答信号を送信せずに、スキッタパルス生成部19を制御してスキッタパルスの送信を指示する。
【0047】
スキッタパルス生成部19では、デジタル回路であるPNコード発生回路21で生成したスキッタパルスを、PNコード値判定回路22で判定され、送信パルス生成装置23を経由し、さらに方向結合器を介して空中線部11から航空機へ送出する。
【0048】
従って、上述の実施形態によるDME地上装置10は、DME地上装置10のスキッタパルス生成部19が航空機に対して送信するスキッタパルスの発生について、熱雑音に依存していないので、外来パルスによる影響を受けることのないスキッタパルスを発生することができ、常に、所定の送信レートで安定して送信することができる。
【0049】
また、スキッタパルスの発生タイミングのランダムパターンを変更したい場合はPN符号の発生パターンを変更できるようなデジタル回路をあらかじめ構成しておくこともできるため、例えば隣接するDME地上装置間でのスキッタパルスの干渉も避けることができる。
【0050】
なお、本発明は上記の実施形態のそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係るDME地上装置の実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明に係るDME地上装置のスキッタパルス生成部のブロック図である。
【図3】本発明に係るDME地上装置のスキッタパルス生成部に用いられるPNコード発生回路の一例の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
10…DME地上装置、11…空中線、12…方向性結合器、13…トランスポンダ部、14…監視制御装置、15…質問信号受信部、16…応答信号生成部、17…応答信号送出部、18…送信レート監視制御部、19…スキッタパルス生成部、21…PNコード発生回路、22…PNコード値判定回路、23…送信パルス生成回路、30…シフトレジスタ、31…加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機からの質問信号を受信する空中線部と、
この空中線部により受信した質問信号を受信し、該質問信号に対する応答信号を生成するとともに、スキッタパルスを生成して送信するトランスポンダ部と、
このトランスポンダ部を監視制御する監視制御部とを備え、
前記トランスポンダ部は、受信した質問信号を解読して応答信号を生成し送出する際の送信レートを監視し、監視結果に応じて、前記送信レートが所定値に達している場合は前記応答信号を送信し、前記送信レートが所定値に達していない場合は前記応答信号の代わりに前記スキッタパルスを送信することを特徴とするDME地上装置。
【請求項2】
前記トランスポンダ部は、
航空機からの質問信号を受信し解読する質問信号受信部と、この質問信号受信部において解読された信号に基いて応答信号を生成する応答信号生成部と、この応答信号生成部で生成された応答信号を送出する応答信号送出部と、この応答信号送出部17から送出される応答信号の送信レートを監視し、その制御を行う送信レート監視制御部と、スキッタパルスを生成するスキッタパルス生成部を備えていることを特徴とする請求項1記載のDME地上装置。
【請求項3】
前記質問信号受信部は、デコーダであって、受信した質問信号の判別を行うため、自動スレショールド制御とパルス幅分別とを組み合わせ、受信した前記質問信号を解読することを特徴とする請求項2記載のDME地上装置。
【請求項4】
前記応答信号生成部は、前記質問信号受信部で解読された信号に対して、所定のシステム遅延時間を付与し、再度コード化し、応答信号として生成することを特徴とする請求項2記載のDME地上装置。
【請求項5】
前記スキッタパルス生成部は、常時、スキッタパルスの基となるランダムパルスを生成することを特徴とする請求項2記載のDME地上装置。
【請求項6】
前記スキッタパルス生成部は、デジタル回路から得られたランダム信号によりランダムパルスを生成していることを特徴とする請求項5記載のDME地上装置。
【請求項7】
前記デジタル回路は、擬似雑音・擬似ランダムパルスであるPNコードを発生するPNコード発生回路であることを特徴とする請求項6記載のDME地上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−298596(P2008−298596A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145283(P2007−145283)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】