説明

FMN2遺伝子による細胞増殖および分化障害の診断並びに治療

本発明は、細胞増殖および/または分化障害を診断する方法、前記を治療する化合物および方法、並びに細胞増殖および/または分化障害の治療で潜在的に有用な物質を同定する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の増殖および/または分化障害を診断する方法、前記を治療する化合物および方法、並びに細胞の増殖および/または分化障害の治療に潜在的に有用な薬剤を同定する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ARF腫瘍サプレッサーは哺乳動物におけるオンコジーン活性化に対抗する細胞防御の中心的成分である。ヒト白血病およびメラノーマ患者は高いパーセンテージでARFの変異を有する。ARFノックアウトマウスは高い頻度で腫瘍を発する。ARFは、HDM2(p53のE3ユビキチンリガーゼである)の阻害を介してp53を安定化させることによってこのタンパク質を活性化する。しかしながら、p53およびARFノックアウトマウスに関する研究によって、p53に依存しないARF腫瘍サプレッサー経路もまた存在することが示された(図1)。ARFタンパク質は核内に集中し、核小体および核質の両方に分布する。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、ヒトフォルミン-2(Formin-2)(FMN2)遺伝子はARF腫瘍サプレッサーの誘発時に劇的にアップレギュレートされるという発見、および細胞周期調節タンパク質(p21)の発現(細胞周期停止をもたらす相互作用)を調節することができるという発見に基づいている。
本発明者らは、質量分析法による細胞小器官プロテオミクスおよび安定同位体標識(すなわちSILAC)を用いて、核小体タンパク質の消長におけるARFの影響を解析した(S.E. Ong et al. Stable isotope labeling by amino acids in cell cultures, silac as a simple and accurate approach to expression proteomics. Mol Cell Proteomics (2002) 1:376-386)。結果は、FMN2遺伝子発現レベルはp53に関係なくARF誘発によって増加することを示している。したがって、FMN2遺伝子および/またはタンパク質は、ある範囲の細胞増殖および/または分化障害の有用なマーカーおよびその治療用医薬として役立つと考えられる。さらにまた、FMN2抑制は細胞傷害作用をもつことが観察され、したがってFMN2は有用な薬剤標的として役立ちえる。
【0004】
FMN2は先ず初めにゲノム全長相同性検索によって同定された。したがって、FMNホモローグについてのESTデータベースの検索、マウスcDNAライブラリーのプローブ検索、およびヒトESTデータベースの更なる検索によって、Leader and Leader (2000)は、FMN2をコードするマウスcDNAおよび部分的ヒトcDNAを同定した。配列解析によって、1,567アミノ酸のマウスタンパク質および相同なヒトタンパク質として同定された部分配列が、それらのN末端で約79%の同一性およびそれらのC末端上で90%の同一性を共有することが予想された。それらはまたキイロショウジョウバエ(Drosophila)のカプチーノ(‘cappuccino’)タンパク質と高い相同性を有する。FMN2のFH1ドメインは11のプロリンリピートを含む。ノザンブロット解析は、全ての中枢神経系組織および胎児の脳で6から7kbのFMN2転写物の存在を明らかにした。ホールマウントin situハイブリダイゼーション解析によって、9.5日から10.5日のマウス胎児脊髄および脳でのFMN2の優越的発現が検出された。FMN2の解析が記載されている文献はほとんど見当たらない。例えば、FMN2言及文献は、NCBI PubMedにより2010年3月現在でわずかに15件見出すことができるだけである。これらの文献の大半は、マウスの減数分裂におけるFMN2と紡錘体移動との間の連関についての解析を報告している。
【0005】
ヒトまたはマウスの実験のいずれにおいても癌/腫瘍サプレッサー活性とFMN2との間の連関について報告している文献は存在しない。
したがって、本発明の第一の特徴は、細胞増殖および/または分化障害または前記に対する感受性を診断する方法を提供する。前記方法は、フォルミン2(FMN2)遺伝子および/またはタンパク質発現の調節を検出する工程を含み、この場合、FMN2遺伝子/タンパク質発現の調節は細胞増殖および/または分化障害の指標となる。
調節という用語は、FMN2遺伝子および/またはタンパク質発現の増加および/または低下を包含し、前記は、FMN2遺伝子生成物に影響を与える、アイソフォーム比、または転写後および/または翻訳後改変事象における変化に起因するFMN2遺伝子生成物の活性における変化を含むことは理解されよう。FMN2遺伝子/タンパク質発現のレベルの増加は、異常なオンコジーン活性化に応答するARF腫瘍サプレッサーの誘発と関連している可能性がある。したがって、FMN2遺伝子/タンパク質発現のレベルの増加は、例えば、1つまたは2つ以上のオンコジーンの異常な活性化または活性なp53の欠乏から生じる、細胞増殖および/または分化障害(例えば癌)とさらに関連している可能性があるということは当業者には理解されるであろう。
【0006】
“細胞増殖および/または分化障害”という用語は、多様な疾患、症状および/または症候群(例えば新形成性症状、例えば癌を含む)を包含するために用いることができる。これに関して、本発明によって提供される方法は特定のタイプの癌の診断に限定されず、したがって全形態の癌、肉腫またはリンパ腫が本発明の方法によって診断できることは理解されよう。例示すれば、肺癌、乳癌、結腸直腸癌および皮膚癌の症例とともに、例えば白血病のような癌も診断することが可能でありえる。自己免疫および/または炎症性疾患、例えば乾癬、アレルギーなどもまた本定義に包含されえる。さらにまた、減数分裂の異常(例えば生殖細胞の増殖に関係する異常(不妊をもたらしえる))、または肝炎、肝硬変、腎不全、急性肺炎、胃潰瘍、心筋梗塞、筋ジストロフィーおよび脳梗塞のような疾患および/または症状もまた、“細胞増殖および/または分化障害”という用語に包含されえる。
FMN2遺伝子および/またはタンパク質発現の低下は、異常なアポトーシス事象を特徴とする細胞増殖および/または分化障害、例えば神経変性疾患並びに急性細胞変性疾患および/または症状(例えば虚血性事象、例えば卒中、心筋梗塞など)の存在または前記に対する感受性の指標でありえる。
【0007】
他の実施態様では、本明細書に記載する方法を用いて、細胞増殖および/または分化障害罹患の素因があるかまたは前記に対して感受性を有する対象者を診断または同定することができる。細胞増殖および/または分化障害罹患の素因があるかまたは前記に対して感受性を有する対象者では、FMN2遺伝子および/またはタンパク質発現レベルは上昇しえる。
ある実施態様では、FMN2遺伝子および/またはタンパク質発現の調節は、健常個体(すなわち細胞増殖および/または分化障害に罹患していない個体)に由来する参照またはコントロールサンプルに存在するFMN2遺伝子/タンパク質発現レベルと比較して判定することができる。このようにして、FMN2遺伝子および/またはタンパク質発現のレベルの増加および/または低下は容易に検出することができる。
【0008】
“サンプル”という用語は、体液(例えば全血、血漿、血清、唾液、汗および/または精液)のサンプルを含むと理解されるべきである。他の例では、“サンプル”、例えば組織生検および/または切屑もまた用いることができる。特に、皮膚、腫瘍またはリンパ節の生検または切屑を用いることができる。さらにまた、サンプルは組織または腺の分泌物を含むことができ、洗浄プロトコルを用いて、例えば肺内に分泌された液体サンプルを入手することができる。適切な洗浄プロトコルには気管支肺洗浄方法が含まれえる。本明細書に記載したサンプルの各々から、多量のFMN2核酸(すなわちDNAおよびRNA)および/またはFMN2タンパク質、ペプチド(またはそのフラグメント)を収集できることは当業者には理解されるであろう。さらにまた、本明細書に記載した方法は、細胞増殖および/または分化障害が疑われるかまたは前記に罹患している対象者、または細胞増殖および/または分化障害発症のリスクがありえる対象者のサンプルを提供する第一の工程を含むことができる。記載したように、“参照サンプル”は、細胞増殖および/または分化障害に罹患していない、“正常”レベルのFMN2遺伝子および/またはタンパク質発現を示す対象者に由来しえる。本明細書に記載するように、サンプルを採取されるかまたは治療を受けることができる対象者はヒトまたは動物の対象者でありえる。
【0009】
当業者は、調節されるFMN2遺伝子および/またはタンパク質発現をサンプル(例えば上記に列挙したもの)で同定するために用いることができる技術を承知しているであろう。そのような技術には、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による技術、例えばリアルタイムPCR(また別には定量的PCRとして知られている)が含まれえる。本事例では、リアルタイムPCRを用いて、FMN2タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを決定することができる。典型的には、さらに特定の核酸配列の発現レベルを定量するためには、逆転写酵素PCRを用いて対応するmRNAを相補性DNA(cDNA)に逆転写することができる。好ましくは、逆転写酵素プロトコルは、対象のmRNA配列を特異的に増幅するために設計したプライマーを用いることができる。その後でPCRを用い、逆転写によって生成したcDNAを増幅することができる。典型的には、一定の配列と特異的にハイブリダイズするように設計したプライマーを用いcDNAを増幅させ、PCRに用いるヌクレオチドは蛍光化合物または放射能標識化合物で標識することができる。
当業者は、PCR中に生成されるDNAの量の定量を可能にするために標識ヌクレオチドを用いる技術を承知しているであろう。簡単にかつ例示として記せば、標識された増幅核酸の量は、PCRサイクル中に取り込まれる標識ヌクレオチドの量をモニターすることによって決定することができる。
本明細書に記載するPCR系技術に関する更なる情報は例えば以下で見出すことができる:PCR Primer: A Laboratory Manual, Second Edition Edited by Carl W. Dieffenbach & Gabriela S. Dveksler, Cold Spring Harbour Laboratory Press およびMolecular Cloning: A Laboratory Manual by Joseph Sambrook & David Russell, Cold Spring Harbour Laboratory Press。
【0010】
サンプル中のFMN2遺伝子発現のレベルを決定するために用いることができる他の技術には、例えばノザンブロットおよび/またはサザンブロット技術が含まれる。ノザンブロットは、サンプル中に存在する特定のmRNAの量を決定するために用いることができ、したがって、FMN2遺伝子発現量の決定に用いることができよう。簡単に記せば、当業者に公知の方法を用いてmRNAを細胞から抽出し、電気泳動に付すことができる。続いて、核酸プローブ(対象のmRNA(本事例ではFMN2タンパク質をコードするmRNA)とハイブリダイズする(すなわち前記と相補性または実質的に相補性である)ように設計されている)を用いて、サンプルに存在する特定のmRNAを検出しその量を定量することができる。
上記に加えて、または上記とは別に、FMN2遺伝子発現のレベルはマイクロアレイ解析の方法によって確認することができる。そのような方法はDNAマイクロアレイの使用を伴うであろう(前記マイクロアレイはFMN2遺伝子から誘導された核酸を含む)。FMN2遺伝子レベルを確認するために、当業者は核酸(好ましくはmRNA)をサンプルから抽出し、前記を増幅プロトコル(例えば逆転写酵素PCR)に付してcDNAを生成することができる。好ましくは、一定のmRNA配列(本事例ではFMN2遺伝子をコードする配列)に特異的なプライマーを用いることができる。場合によって(上記に記載したように)標識ヌクレオチドの存在下で、増幅FMN2 cDNAを更なる増幅工程に付すことができる。その後、場合によって標識した増幅cDNAを、マイクロアレイのDNAとの結合を許容する条件下でマイクロアレイと接触させることができる。このようにして、FMN2遺伝子発現レベルを確認することが可能でありえる。
【0011】
さらにまた、他の技術(例えばディープシークェンシングおよび/またはピロシークェンシング)を用いて、上記に記載のサンプルのいずれか(特に細胞抽出物)でFMN2配列を検出してもよい。これらの技術に関する更なる情報は以下で見出すことができる:“Applications of next-generation sequencing technologies in functional genomics” Olena Morozovaa and Marco A. Marra, Genomics Volume 92, Issue 5, November 2008, Pages 255-264;および“Pyrosequencing sheds light on DNA sequencing” Ronaghi, Genome Research, Vol. 11, 2001, pages 3-11。
上記の観点から、本発明の第二の特徴は、成熟FMN2タンパク質をコードする相補性DNA(cDNA)および前記を入手する方法を提供する。ある実施態様では、本発明によって提供されるcDNAは、図2および3に示される配列の1つまたは2つ以上を含む。さらに別の実施態様では、FMN2 cDNA配列は、染色体1、1q43(領域238321604-238705112)に位置するゲノムDNAの配列の転写および転写後修飾により作製される。5'‐
本発明はまた、上記配列およびその種特異的ホモローグと同様なcDNA配列を包含する。したがって、本発明は、同定されたcDNA配列と少なくとも85%、90%、95%、89%または99%同一レベルである配列を包含する。
これらの相同な配列は、したがって同じ種内の変異または種間変異と連関する変種に一致し、特に少なくとも1つのヌクレオチドの切端、置換、欠失および/または付加に一致しえる。前記相同な配列はまた、遺伝暗号の縮退または遺伝暗号の偏り(当該変種のファミリーまたは種に特異的である)と連関する変種と一致しえる。
【0012】
タンパク質および/または核酸配列の相同性は、当分野で公知の多様な配列比較アルゴリズムおよびプログラムのいずれかを用いて判定することができる。そのようなアルゴリズムおよびプログラムには、TBLASTN、BLASTP、FASTA、TFASTA、およびCLUSTALWが含まれるが、ただしこれらに限定されない(Pearson and Lipman, 1989, Proc Natl Acad Sci USA 85(8):2444-2448;Altschul et al. 1990, J Mol Biol 215(3):403-410;Thompson et al. 1994, Nucleic Acids Res 22(2):4673-4680;Higgins et al. 1996, Methods Enzymol 266:383-402;Altschul et al. 1990, J Mol Biol 215(3):403-410;Altschul et al. 1993, Nature Genetics 3:266-272)。
特に好ましい実施態様では、タンパク質および核酸配列の相同性は、ベーシックローカルアラインメント検索ツール(Basic Local Alignment Search Tool(“BLAST”))(前記は当分野で周知である)を用いて判定される(例えば以下を参照されたい:Karlin and Altschul, 1990, Proc Natl Acad Sci USA 87:2267-2268;Altschul et al. 1990, J Mol Biol 215(3):403-410;Altschul et al. 1993, Nature Genetics 3:266-272;Altschul et al. 1997, Nuc Acids Res 25:3389-3402)。
BLASTプログラムは、同定された全ての高スコアセグメント対の統計的有意を判定し、さらに好ましくはユーザーが規定する有意閾値(例えばユーザー規定パーセント相同性)を満たすセグメントを選択する。好ましくは、高スコアセグメント対の統計的有意は、Karlinの統計的有意の公式を用いて判定される(例えば以下を参照されたい:Karlin and Altschul, 1990, Proc Natl Acad Sci USA 87:2267-2268)。
【0013】
本発明の配列と相補的なヌクレオチド配列は、そのヌクレオチドが本発明の配列をもつヌクレオチドと相補的であり、さらにその向きが逆(アンチパラレル配列)である任意のDNAを意味すると理解される。
典型的なフラグメントの中で特に、本発明のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるフラグメントが好ましい。ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションとは、温度およびイオン強度が、2つの相補性DNAフラグメント間でハイブリダイゼーションが維持されえるように選択されることを意味する。
例えば、上記に記載したヌクレオチドフラグメントを同定するハイブリダイゼーション工程のための高ストリンジェンシー条件は有利には以下のとおりである。
ハイブリダイゼーションは65℃という好ましい温度でSSC緩衝液(0.15MのNaClおよび0.05Mのクエン酸ナトリウムに該当する1xSSC) の存在下で実施される。洗浄工程は例えば以下のとおりである:室温にて2.SSC, 0.1%SDS、続いて68℃で15分の以下による3回の洗浄(1xSSC, 0.1%SDS;0.5xSSC, 0.1%SDS;0.1xSSC, 0.1%SDS)。
中間的ストリンジェンシー条件は、例えば5xSSC緩衝液の存在下で60℃の温度を用い、低ストリンジェンシーでは、例えば5xSSC緩衝液の存在下で60℃の温度を用い、それぞれは2つの配列間でのハイブリダイゼーションのためにより低い全体的相補性を必要とする。
上記に記載した約300塩基のサイズのポリヌクレオチド用のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、より大きなサイズまたはより小さなサイズのオリゴヌクレオチドのためにはSambrookら(1989)の教示にしたがい当業者によって調節されるであろう。
【0014】
相同なポリペプチドとは、天然のポリペプチドとの関係で一定の改変(例えば、具体的には少なくとも1つのアミノ酸の欠失、付加もしくは置換、切端、伸長、キメラ融合および/または変異)を示すポリペプチド、または翻訳語修飾を示すポリペプチドを指すと理解される。相同なポリペプチドでは、そのアミノ酸配列が、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは90%の相同性または同一性を示すものが好ましい。置換の場合には、連続したまたは連続していない1つまたは2つ以上のアミノ酸が、“等価の”アミノ酸によって置き換えられる。“等価の”アミノ酸という表現は、基礎的構造中のアミノ酸の1つと置換することができるが、しかしながら対応するペプチドの生物学的活性を本質的に変更しない任意のアミノ酸を指すと本明細書では意図され、後に定義されるであろう。
さらにまた本発明に包含されるものは、一次遺伝子転写物のスプライス変種および翻訳されたFMN2スプライス変種タンパク質(スプライス変種によってコードされる)である。さらにまた、ポリアデニル化変種および開始コドン変種(前記をコードするcDNA配列を含む)もまた本発明の範囲内に含まれえることは当業者には容易に理解されるであろう。
【0015】
本発明によって提供されるcDNAを用いて組換えFMN2タンパク質を生成することができる。当業者は組換えタンパク質の生成に用いられる技術およびプロトコルを承知しているであろう(例えば以下を参照されたい:Gerd Gellissen et al. 2005)。さらにまた、cDNAは、FMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現を検出する手段としてアッセイまたはマイクロアッセイで利用できる。例示すれば、サンプル(例えば本明細書で詳述したもの)から入手したcDNAを核酸(すなわちDNA)プローブ(例えばゲノムDNAのフラグメントから生成されたもの)と高度にストリンジェントな条件下で接触させ、cDNAに存在するものと相補的な配列を含むDNAプローブとcDNAとを結合させることができる。cDNAを生成するとき、PCR工程のために用いられるヌクレオチドを蛍光化合物または放射能標識化合物で標識することができる。このようにして、マイクロアレイなどに結合したcDNAを容易に検出できる。
サンプル中のFMN2タンパク質のレベルを決定するために、FMN2タンパク質と結合することができる物質を利用する免疫学的技術を用いてもよい。タンパク質という用語は、全FMN2タンパク質とともにスプライス変種(アイソフォーム)、その機能的フラグメント、変異体および種特異的ホモローグにも対応すると理解される。
【0016】
ある実施態様では、本明細書に記載の方法は、サンプルに存在する任意のFMN2タンパク質を土台に結び付け、相互反応させ、結合させおよび/または固定させる条件下で、前記土台(またはその部分)を試験されるべきサンプルと接触させる工程を含むことができる。
適切な土台には、例えばガラス、ニトロセルロース、紙、アガロースおよび/またはプラスチックが含まれえる。土台(例えばプラスチック材)はマイクロタイタープレートの形態を採ることができる。
また別には、被検サンプルと接触させる土台はFMN2タンパク質と結合することができる物質を含むことができる。好ましくは。FMN2タンパク質と結合することができる物質が土台(または少なくともその部分)に結合される。適切な結合物質には、例えば抗体(例えばモノクローナルまたはポリクローナル抗体)および/またはFMN2タンパク質と結合できる他のペプチドタイプまたは小分子が含まれえる。この定義は本明細書に記載の結合物質の全タイプに当てはまることは理解されよう。したがって、、FMN2タンパク質と結合することができる物質とサンプルに存在する任意のFMN2との結合または相互反応を許容する条件下で、土台(またはその部分)を被検サンプルと接触させることができる。
【0017】
土台またはFMN2タンパク質と結合することができる物質と結合した任意のFMN2タンパク質は、FMN2タンパク質と結合することができるさらに別の物質(本明細書では“一次結合物質”と称される)を使用して検出できる。前記に加えてまたは前記とは別に、一次結合物質は、FMN2タンパク質基質またはFMN2タンパク質と上記記載の物質(FMN2タンパク質と結合できる)を含む複合体に対して親和性を有するか、または前記と結合することができる。
一次結合物質はそれらの検出を可能にする成分(本明細書では“検出可能成分”と称される)と結合させることができる。例えば、一次物質は、比色定量性化学発光反応によりレベルを示すことができる酵素と結合させてもよい。そのような結合酵素には、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)およびアルカリ性ホスファターゼ(AlkP)が含まれるが、ただしこれらに限定されない。前記に加えてまたは前記とは別に、一次結合物質は、蛍光分子、例えば蛍光発光団(例えばFITC、ローダミンまたはテキサスレッド)と結合させることができる。結合物質と結合させることができる他のタイプの分子には放射能標識成分が含まれる。
また別には、土台またはFMN2タンパク質と結合できる物質と結合した任意のFMN2は、一次結合物質に親和性を有する、さらにまた別の結合物質(本明細書では“二次結合物質”と称される)の手段によって検出できる。好ましくは、二次結合物質は検出可能成分に結合される。
【0018】
FMN2タンパク質と結合する一次結合物質(または前記に結合する二次結合物質)の量は、被検サンプルに存在するFMN2タンパク質のレベルを表すことができる。
ある実施態様では、FMN2タンパク質のレベルを確認する方法は“ディップ-スティック”検査の形態を採ることができる。前記検査では、サンプルに存在する任意のFMN2タンパク質と土台または前記土台に結合もしくは固定された結合物質との結合を可能にする条件下で、土台(またはその部分)を被検サンプルに接触させる。
さらに別の実施態様では、前記方法は、免疫学的アッセイの形態、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を採用することができる。ELISAは“捕捉”ELISAの形態を採用することができる。前記形態では、被検サンプルを土台と接触させ、サンプルに存在する任意のFMN2タンパク質を、土台に結合または固定させた結合物質(FMN2タンパク質と結合できる)によって“捕捉”または結合させる。また別には、サンプルは、サンプルに存在する任意のFMN2タンパク質と土台との間の“直接的”結合を可能にする条件下で、土台と接触させることができる。
上記に記載したELISA方法の各々が、“直接”FMN2タンパク質検出工程または“間接” 確認工程を含むことができる。そのような工程を必要とするELISAは“直接”ELISAまたは“間接”ELISAとして公知でありえる。
“直接”ELISAは、サンプルに存在する任意のFMN2タンパク質と土台および/または前記に結合させた結合物質との結合を可能にする条件下で、土台を被検サンプルに接触させる工程を含むことができる。随意のブロッキング工程の後で、FMN2タンパク質と結合することができる物質(すなわち一次結合物質)の手段によって結合FMN2タンパク質を検出することができる。好ましくは、一次結合物質は検出可能成分と結合される。
“間接”ELISAは、FMN2タンパク質を一次結合物質と接触させる工程の後で、一次結合物質に対して親和性または特異性を有するさらに別の結合物質(二次結合物質)を用いるまた別の工程を含むことができる。好ましくは、二次結合物質を検出可能成分と結合させることができる。
【0019】
サンプル中のFMN2タンパク質のレベルを確認するために用いることができる他の免疫学的技術には例えば免疫組織化学が含まれ、この技術では、サンプルに存在する任意のFMN2タンパク質とFMN2タンパク質結合物質との間の結合を可能にする条件下で、結合物質(例えばFMN2タンパク質と結合できる抗体)をサンプル(例えば上記に記載したもの)と接触させる。典型的には、サンプルを結合物質と接触させる前に、サンプルを、例えば洗剤(例えばトリトンX100)で処理する。そのような技術は“直接”免疫組織化学染色と称することができる。
また別には、被検サンプルを間接免疫組織化学染色プロトコルに付すことができる。このプロトコルでは、サンプルをFMN2タンパク質結合物質と接触させた後、さらに別の結合物質(二次結合物質)(前記はFMN2タンパク質結合物質に特異的であるか、前記に対して親和性を有するか、または前記と結合することができる)を用いて、FMN2タンパク質/結合物質複合体を検出する。
直接免疫組織化学技術および間接免疫組織化学技術の両方で、結合物質または二次結合物質を検出可能成分と結合させることができることは当業者には理解されるであろう。好ましくは、結合物質または二次結合物質は、結合した結合物質または二次結合物質のレベルを比色定量性化学発光反応により示すことができる成分と結合される。
【0020】
FMN2タンパク質並びにアイソフォーム、種特異的ホモローグおよびフラグメントもまた、官能基付与ナノカンチレバーバイオセンサーおよび同様な装置を用いて検出できる(J Fritz, Analyst, 2008, 133:855-863)。
サンプルに存在するFMN2タンパク質のレベルを確認するために、免疫組織化学染色の結果を参照サンプルで実施した免疫組織化学染色の結果と比較することができる。例えば、参照サンプルの場合よりも結合したFMN2タンパク質結合物質が多いかまたは少ないサンプルは、細胞増殖および/または分化障害を有するか、または前記に対して感受性である対象者によって提供された可能性がある。
FMN2タンパク質と結合することができる物質の使用を利用する他の技術には、例えばウェスタンブロットまたはドットブロットのような技術が含まれる。ウェスタンブロットはサンプルを電気泳動に付し、サンプルの成分(例えばタンパク質様成分)を分離または分解する工程を含むことができる。続いて分解した成分を土台(例えばニトロセルロース)に移すことができる。サンプルに存在する任意のFMN2タンパク質を同定するために、サンプルに存在する任意のFMN2タンパク質とFMN2タンパク質と結合することができる物質との間の結合を可能にする条件下で、前記土台をFMN2タンパク質と結合することができる結合物質と接触させることができる。
有利には、FMN2タンパク質と結合することができる物質は検出可能な成分と結合させることができる。
【0021】
また別には、FMN2タンパク質と結合することができる結合物質に対して親和性を有するさらに別の結合物質と土台を接触させることができる。
ドットブロットの場合には、サンプルに存在するいずれのFMN2タンパク質も土台に結合または固定されるように、サンプルまたはその一部分を土台と接触させることができる。結合または固定されたいずれのFMN2タンパク質の同定も上記に記載したように実施することができる。
上述の技術のいずれにおいても、検出される一次または二次結合物質の量は、サンプルに存在するFMN2タンパク質の量に一致するかまたは前記に比例する。さらにまた、本明細書に記載したいずれかまたはいずれの診断方法から得られた結果も、細胞増殖および/または分化障害に罹患していないかまたは前記に感受性でないことが判明している健常な対象者に由来する参照またはコントロールサンプルから得られた結果と比較することができる。
本明細書に一般的に記載したアッセイは、当業者の案内たりえる以下の文献でより詳細に記載されている:“The Immunoassay Handbook”2005 Ed David Wild, Elsevier Ltd)。
【0022】
例えばARF腫瘍サプレッサーの誘発に起因するFMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現の調節(すなわち増加または低下)の他に、FMN2遺伝子配列に1つまたは2つ以上の変異が存在することもまた異常なFMN2遺伝子/タンパク質発現をもたらす。例えば、異常に活動的なプロモーター配列はFMN2遺伝子の異常な発現を引き起こしえる。核酸配列の変異は、1つまたは2つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、倒置および/または置換の形態を採ることが可能であり、FMN2発現のアップレギュレーションは1つまたは2つ以上のこれらのタイプの変異の存在から生じえる。したがって、例えばPCRおよび/または制限フラグメント長の多形性解析のような技術を用いて、変異および特定の配列モチーフ(FMN2発現異常(すなわち増加または低下)を生じることが判明している)の存在を検出することができる。
【0023】
ある実施態様では、核酸フラグメント(潜在的に変異を宿すFMN2配列の一部分を含む)を増幅してシークェンシングを実施し、FMN2遺伝子が変異を含むか否かを決定することができる。また別には、このタイプのフラグメントを増幅し、さらに適切なオリゴヌクレオチドおよび非常にストリンジェントなハイブリダイゼーション/洗浄条件を用いてハイブリダイゼーション実験を実施することができる(例えば以下を参照されたい:Sambrook et al. 2001)。化学的に改変されたオリゴヌクレオチド、または改変核酸塩基および/またはPNAモノマーを含む非標準オリゴヌクレオチド、またはペプチド核酸を含むものもまた用いることができることは当業者には理解されるであろう。このようにして、厳密に適合するオリゴヌクレオチドのみが、変異を含む1つの領域または複数の領域で増幅フラグメントと結合する。
存在するにせよしないにせよ変異を検出するためには、変異を含む可能性があるかまたは可能性がない配列を含むDNAフラグメントをまず初めに増幅し、その後で、増幅フラグメント内部プライマーを用いまた別のPCR反応を実施することによって、当該フラグメントが本来の配列または変異配列を含むか否かを検出することもまた適切でありえる。このような技術は一般にネステッド(nested)PCRとして知られている。
【0024】
さらにまた、変異は、新しい制限部位を作出するか、または野生型もしくは本来のFMN2配列に存在する制限部位の消失をもたらす可能性がある(これらの変化はRFLP解析によって容易に検出することができる)。変異を含む可能性がある(変異が存在するとして)フラグメントを適切なプライマーを用いてまず初めに増幅し、その後で、変異配列または本来の配列が対応する本来の配列または変異配列に存在しない制限部位を有すると仮定して、RFLP解析に付すことができる。本発明にしたがえば、本明細書で同定される例示的変異は新規な制限部位の作出をもたらし、前記新規な制限部位は、前記変異を含むフラグメントをまず初めに増幅し、その後で適切な制限酵素を用い得られるフラグメントを制限する(変異配列を含むフラグメントだけに制限される)。
本発明はまたキットにも及ぶ。前記キットは、FMN2配列で1つまたは2つ以上の変異を検出するための、または上記に記載したより一般的な検出およびプローブ探索のための1つまたは2つ以上のオリゴヌクレオチド/プライマーを含む。前記キットはまた、例えばシークェンシング、PCRおよび/またはRFLP解析の実施を容易にする他の試薬を含むことができる。そのようなキットはまた、FMN2遺伝子で1つまたは2つ以上の変異を検出するためにそれらを使用するための指示、および場合によって、変異が前述の疾患/症状のいずれかの発症または発症に至る素因と連関しているか否かをどのように解釈すべきかについての指示を含むことができる。同様に、本明細書に記載した1つまたは2つ以上の結合物質(例えばFMN2特異的抗体および場合によって二次結合物質)を含むキットも、FMN2タンパク質の検出のために提供されえる。
【0025】
本発明のオリゴヌクレオチド/プライマーはまた、FMN2配列の変異を同定するために、当業者に公知の多重PCR技術で用いることができる(例えば以下を参照されたい:G Kuperstein, E Jack and SA Narod, Genet Test 2006, 10(1):1-7)。
FMN2遺伝子/タンパク質(FMN2のスプライス、開始コドンおよび/またはポリアデニル化変種を含む)のレベルをサンプルで検出するために用いることができる他の方法には、例えば質量分光分析技術が含まれる。例えば、単離タンパク質を酵素消化(例えばトリプシン切断による)または化学的切断によって予想可能なフラグメントに切断し、得られたペプチドの質量/電荷比を質量分光計で検出および/または測定することができる。前記結果を参照またはコントロールサンプル(すなわち、正常に発現された標準物、野生型または非変種FMN2タンパク質/遺伝子を含む)を用いて得られた結果と比較することによって、種々のサンプルにおけるFMN2タンパク質および/または遺伝子発現のレベルの変化を質量分光計で検出できる。ある実施態様では、参照またはコントロールサンプルは、化学的タグによるかまたは重い同位元素の取り込みにより標識されたFMN2遺伝子および/またはタンパク質を含むことができる。これらのタイプのプロトコルに関する更なる情報は以下の文献で見出すことができる:R Aebersold & M Mann, Mass spectrometry-based proteomics. Nature 2003, 422:198-207;SE Ong et al. Stable isotope labelling by amino acids in cell cultures, SILAC, as a simple and accurate approach to expression proteomics. Mol Cell Proteomics 2002, 1:376-386。
【0026】
FMN2遺伝子および/またはタンパク質の阻害は細胞傷害性作用を有するという本発明者らの発見(更なる考察およびデータについては詳細な説明を参照されたい)により、本発明の第三の特徴は、細胞増殖および/または分化障害の治療で使用される、FMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現/機能を調節することができる化合物を提供する。
第四の特徴は、FMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現/機能を調節することができる化合物の細胞増殖および/または分化障害の治療用医薬の製造を目的とする使用を提供する。
本発明の第五の特徴は細胞増殖および/または分化障害を治療する方法を提供し、前記方法は、その必要がある対象者にFMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現/機能を調節することができる化合物を投与する工程を含む。
“調節する”という用語は、“正常”または“健常”系で生じるFMN2遺伝子および/またはタンパク質発現レベルと比較してFMN2遺伝子および/またはタンパク質発現の増加または低下を包含すると理解されるべきである。“正常”または“健常”系は、細胞増殖および/または分化障害に罹患していない対象者から誘導されるか、または前記によって提供される細胞でありえることは当業者には理解されるであろう。
【0027】
FMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現を調節することができる化合物は、例えばDNAもしくはRNAオリゴヌクレオチド、またはそのようなオリゴヌクレオチドの化学的改変誘導体および/またはアンチセンスオリゴヌクレオチドを含むことができ、それらはFMN2 DNAまたはRNAと特異的にハイブリダイズすることができる。ある実施態様では、オリゴヌクレオチドは、小さい/短い干渉および/またはサイレンシングRNAとして当業者に公知のRNA分子でありえる(それらは以下ではsiRNAと称されるであろう)。そのようなsiRNAオリゴヌクレオチドは、天然RNAのデュープレックスまたはヌクレアーゼ耐性であるようにいくつかの方法で(例えば化学的改変によって)改変されたデュープレックスの形態を採ることができる。前記に加えてまたは前記とは別に、siRNAオリゴヌクレオチドは、本明細書に記載のsiRNAと一致するかまたは前記を含む短いヘアピンRNA(shRNA)発現構築物またはプラスミド構築物の形態を採ることができる(例えば以下を参照されたい:Gregory J Hannon et al. 2003)。
本明細書に記載のタイプのアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、任意の与えられた遺伝子の発現を調節する(例えば阻害するか、ダウンレギュレートするか、または実質的に停止させる)ことができることは当業者には容易に理解されるであろう。さらにまた、遺伝子発現または遺伝子機能の調節もまた、調節される遺伝子によってコードされる任意のタンパク質の発現および/または機能に同様なまたは“ノックオン”作用を与えることができる。したがって、本発明によって提供される(アンチセンス)オリゴヌクレオチドは、FMN2遺伝子の発現および機能および/またはそのタンパク生成物を調節するように設計することができる。
【0028】
天然のまたは野生型FMN2配列を解析し、かつアルゴリズム(例えばBIOPREDsi)の支援を得て、当業者は、これら遺伝子に対して最適なノックダウン作用を有する核酸配列を容易に決定するか、またはコンピュータにより予想することができよう(例えばhttp://www.biopredsi.org/start.htmlを参照されたい)。したがって、当業者は、種々のオリゴヌクレオチドのアレイまたはライブラリーを作製および試験して、それらがFMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現または機能を調節することができるか否かを決定することができる。
ある実施態様では、アンチセンスオリゴヌクレオチドはFMN2 mRNAに対向するsiRNAであり、以下の配列を有することができる:5'-GUAUACCAGGUCUCCUCAA-3'。
上記の観点から、本明細書に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび/またはsiRNA分子は、(i)細胞増殖および/または分化障害の治療で、(ii)細胞増殖および/または分化障害の治療用医薬の製造で、または(iii)細胞増殖および/または分化障害に罹患した対象者を治療する方法で用いることができる。
遺伝子発現のsiRNAによる制御のまた別の選択肢として、遺伝子発現の標的誘導調節を特異的なsnoRNA(FMN2の発現を調節するように設計される)によって実施することができる。これを達成する方法は例えばPCT/GB2008/003211に記載されている。
他の実施態様では、FMN2タンパク質と結合することができる抗体は、細胞増殖および/または分化障害の治療で有用でありえる。FMN2タンパク質の機能をブロックまたは中和するか、またはFMN2タンパク質と他のタンパク質(例えば細胞周期タンパク質、p21)との相互作用をブロックする抗体は特に有用でありえる。
【0029】
ポリクローナルおよび/またはモノクローナル抗体(mAb)を作製するために用いられる技術は周知であり、上記に記載した“The Immunology Handbook”に記載されてあり、簡単に利用してFMN2タンパク質またはそのフラグメントに特異的な抗体を作製することができる(前記抗体は任意の天然のp21と競合的に対抗する)。
細胞増殖および/または分化障害の治療で有用な他の化合物には、例えばタンパク質、ペプチド、アミノ酸、炭水化物および他の小さな有機分子が含まれえる。例えば、FMN2と細胞周期タンパク質(p21)との相互作用に干渉するか、または前記を妨害することができる化合物は特に有用でありえる。そのような化合物は完全なp21タンパク質またはそのフラグメントの形態を採ることができる。
前記に加えてまたは前記とは別に、FMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現/機能を調節することができる化合物は、FMN2の機能および/またはFMN2タンパク質と細胞周期の調節に必要な他のもの(例えばp21)との相互作用に重要であると確認されたFMN2タンパク質の特定の領域と特異的に結合することができる。いくつかの例では、FMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現/機能を調節することができる化合物は、他の遺伝子および/またはタンパク質(例えばp53および/またはHdm2)の発現および/または機能に間接的に影響を与えることができる。他の化合物は、他の遺伝子および/またはタンパク質の発現および/または機能に影響を与えることはできない。
【0030】
本発明の第六の特徴は、FMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現を調節する物質を同定または入手する方法を提供し、前記方法は、FMN2遺伝子またはタンパク質を試験物質と接触させる工程およびFMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現/機能の何らかの調節を検出する工程を含む。
本発明のこの第六の特徴に記載したような方法は、FMN2遺伝子を含むように、および/またはFMN2タンパク質を発現するように改変した系、例えば細胞依存系または無細胞系で実施できることは当業者には理解されるであろう。例えば、細胞にFMN2遺伝子を含む核酸をトランスフェクトすることができる。ある実施態様では、核酸はベクター(例えば当分野で周知のプラスミドまたは発現カセット)の形態を採ることができる。
ある実施態様では、上記に記載の方法で得られた結果を、FMN2遺伝子および/またはタンパク質を試験物質と接触させなかったコントロールの方法で得られた結果と比較することができる。このようにして、前記物質がFMN2遺伝子またはタンパク質の発現を調節することができるか否かを決定することが可能でありえる。FMN2遺伝子またはタンパク質の発現レベルが、コントロールの方法で検出された発現レベルよりも低いかまたは高い場合、当該試験物質はFMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現の調節物質として有用でありえる。発現のレベルがコントロールの方法で観察されたものと同じである場合、当該試験物質がFMN2遺伝子またはタンパク質の発現を調節できることはほとんどありえない。
【0031】
適切な試験物質は、核酸(例えば上記に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド)、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、抗体(およびそのフラグメント)、炭水化物および他の小さな有機分子の形態を採ることができる。
第七の特徴では、本発明は、上記記載の化合物(例えばオリゴヌクレオチド、抗体、小さな有機化合物、p21タンパク質またはそのフラグメント)のいずれか、および/または本発明の第六の特徴によって提供される方法により同定され、FMN2遺伝子/タンパク質の発現または機能を調節することができる物質のいずれかを、医薬的に許容できる賦形剤、担体または希釈剤と一緒に含む医薬組成物を提供する。そのような組成物は、例えば細胞増殖および/または分化障害(例えば上記に記載されたもの)の治療に適用できる。
好ましくは、本発明によって提供される医薬組成物は無菌的な医薬組成物として処方される。適切な賦形剤、担体または希釈剤には、例えば水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール、イオン交換剤、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清蛋白質(例えば血清アルブミン)、緩衝物質(例えばリン酸塩)、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、植物性飽和脂肪酸の部分的グリセリド混合物、水性塩(water salt)または電解質、例えば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドケイ酸、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ロウ、ポリエチレン-ポリプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂など、または前記の組合せが含まれえる。
【0032】
前記医薬処方物は、例えば経口、非経口または局所投与に適した形態で処方することができる。局所投与用に処方される医薬組成物は、水性または非水性液中の軟膏、溶液または懸濁物として、または水中油乳液として提供することができる。
開陳したように、本発明は、FMN2の過剰発現はARFの誘発によってmRNAレベルでアップレギュレートされるという観察に基づいている。したがって、FMN2遺伝子は、遺伝子療法分野でそれ自体応用性を見出しえるARF応答性プロモーターを保持する。したがって、本発明はまた、前述の疾患/症状のいずれかを予防的または治療的に処置する方法に及び、前記方法は、上述の疾患のいずれかに罹患しているかまたは発症の素因を有する患者に、ARF応答性FMN2プロモーターの制御下にある遺伝子配列またはそのフラグメントを含むDNA構築物を投与することによって達成される(前記遺伝子配列またはそのフラグメントは、前記疾患および/または症状の治療に潜在的に有用なタンパク質の1つまたは2つ以上のコピーを発現することができ、それによって前記タンパク質の1つまたは2つ以上の発現が前記疾患/症状を治療または緩和する)。
【0033】
典型的には、細胞増殖および/または分化障害の治療に潜在的に有用なタンパク質は組換え分子の形態で対象者に投与されるであろう。前記組換え分子は、対象者に投与されたときに潜在的に有用なタンパク質を発現できるように適切な転写/翻訳制御下に前記遺伝子配列を含む。前記遺伝子配列またはフラグメントは、適切なプロモーター(例えば構成的および/または制御性プロモーター)の制御下に存在しえるということは理解されるであろう。便利なプロモーターには、天然のFMN2プロモーター(以下ではARF応答性プロモーターと称される)が含まれる。ARF応答性プロモーターはchr1:238,341-238,321,875(182468塩基)内に位置する。本発明者らは、実施例の項に記載したようにこのプロモーター領域の特徴をさらに明らかにした。これに関して、FMN2開始コドンの約2kb上流の領域は、プロモーターおよびARF応答性能力を保有することが示された。発現されるべきタンパク質は、細胞傷害性物質、例えばシトシンデアミナーゼおよび単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼなどであってもよく(Cestmir Altaner, 2008)、前記はARFが存在する結果としてのみ、例えば癌細胞で発現されるであろう。前記はまた予防的に用いられ、ARF活性化が生じると直ちに発現が開始するように、上述の疾患/症状の発症素因を有する可能性がある対象者に投与することができる。
【0034】
したがって本発明はまた、タンパク質またはそのフラグメントをコードする遺伝子配列をFMN2 ARF応答性プロモーターの制御下に含む、治療で使用される組換え分子を提供する。前記組換え分子はプラスミド、ファージミドまたはウイルスベクターの形であってもよい。さらにまた、組換えにより発現させるか、または化学的に合成されるFMN2タンパク質またはその機能的に重要なフラグメントを製造し、FMN2発現低下に関連する細胞増殖および/または分化障害の治療または予防手段として、または対象者がFMN2の変異体または異常な形態を発現したときに用いることができる。
遺伝子療法で用いられる多様な多くのウイルス性および非ウイルス性ベクター並びにそれらをデリバリーする方法が知られている。前記は、例えばアデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、リポソーム、DNAワクチン接種などである。
例えば、疾患(例えば細胞増殖および/または分化障害、特にARFの誘発を伴う細胞増殖および/または分化障害)の治療で潜在的に有用な遺伝子を本明細書に記載のFMN2 ARF応答性プロモーターに連結することができる。ARF応答性プロモーターは、FMN2 ARF応答性プロモーター配列を含むように操作したベクターを利用して、潜在的に有用な遺伝子に連結することができる。適切なベクターには、例えばプラスミドまたは核酸カセットが含まれえる。続いて、ベクターを上述の疾患の治療に(おそらく医薬として)用いることができる。遺伝子療法によって細胞増殖および/または分化障害を治療するいずれの方法も、ある遺伝子が対象者でFMN2 ARF応答性プロモーターの制御下において発現されるように、遺伝子/FMN2 ARF応答性プロモーター複合体をその必要がある対象者に投与する工程を含むことができることは当業者には理解されるであろう。本明細書に記載の方法および医薬は、治療されるべき疾患がARF腫瘍サプレッサーの誘発と関係する場合に特に有用であることは当業者には理解されるであろう。さらにまた、本明細書に記載の医薬および方法は、(例えば腫瘍内に注射することによって)核酸構築物を罹患組織に直接投与する工程または上記に記載の他のルートのいずれかによる投与を伴うことができることも当業者には理解されるであろう。ARF応答性FMN2プロモーターは、また別のプロモーター(例えばCMVプロモーターなど)に融合させたARF応答性エレメントを含むことができる。
以下の図面を参照しながら、これから本発明を詳細に開示するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ARF腫瘍サプレッサーシグナリングの模式図である。ARF腫瘍サプレッサーは、オンコジーン活性化に対抗する細胞防御の中心的成分である。白血病およびメラノーマ患者は高いパーセンテージでARFの変異を有する。ARFノックアウトマウスは高い頻度で腫瘍を発する。ARFは、HDM2(p53のE3ユビキチンリガーゼである)の阻害を介してp53を安定化させることによってこのタンパク質を活性化する。しかしながら、p53およびARFノックアウトマウスに関する研究によって、p53に依存しないARF腫瘍サプレッサー経路もまた存在することが示された。
【図2】aはFMN2のN-末端領域をコードする配列を示す。エクソン1には2つの可能な開始コドンが存在し、それらは太字で示されている。bは、FMN2のC-末端領域をコードする配列を示す。我々がsiRNAの標的とした配列は太字で示されている。
【図3】FMN2の完全なcDNA配列を示す。大文字はFMN2のタンパク質コード領域を示す(タンパク質配列は図13にある)。小文字はヒトゲノムデータベースから得た3'UTRを示す。ヒトゲノムプロジェクトによって予想された開始コドンは下線で示されている。本実験で発見した新しい開始コドンおよびコード配列は灰色の陰影で示されている。
【図4】FMN2配列の模式図を示す。FMN2遺伝子位置を示す(最初のATGからTGAまで)。(ATG)chr1:238,321,604−238,704,077(TGA)。配列1:エクソン1の最初のATGからエクソン1とエクソン2の接合部まで、プライマーFMN2Ex1F2およびFMN2Ex1-2R1を使用。配列2:エクソン1の第二のATGからエクソン1とエクソン2の接合部まで、プライマーFMN2Ex1F3およびFMN2Ex1-2R1を使用。配列3:エクソン1とエクソン2の接合部からエクソン4の末端まで、プライマーFMN2Ex1-2F1およびFMN2Ex4-5R1(報告された開始コドンから)を使用。配列4:全エクソン5、プライマーFMN2Ex5F1およびFMN2Ex5R1を使用。配列5:エクソン13の開始部から終止コドンを含むエクソン18まで、プライマーFMN2Ex13F1およびFMN2Ex18R1(報告された開始コドンから)を使用。くさび形は、我々が質量分析法により検出した位置を示す。
【図5】核小体タンパク質の消長の決定を示す。a.3つの細胞集団のプロテオームはアルギニンの安定同位体の誘導体の取り込みによってコード化される(SILAC法)。細胞を少なくとも5回の細胞分裂の間に代謝によりArg0、Arg6およびArg10で標識し、続いてIPTGで0、4および8時間または0、16および24時間処理してp14ARFをそれぞれ誘発する。細胞を混合して核小体を精製し、質量分析によって解析する。この解析を共通のゼロ点を用いて3回繰り返す。b.c.p14ARFのペプチドスペクトルであり、核小体に補充されるp14ARFの量の増加を示している。d.p14ARFの動態プロフィルである。Y軸は標準物に対する変化倍数で表した単位を示す。
【図6】核小体タンパク質の消長を測定する種々の方法の比較を示す。a.ドキシサイクリン(5μg/mL)誘発中にGFP-ARFを発現するU2OS生細胞で、24時間画像化した。核小体内のGFP蛍光シグナルの変化(青曲線)を、単離核小体でSILACにより検出した誘発p14ARFのレベルの変化と比較した。誤差バーは、各事例で5つの個々の細胞の蛍光測定における標準偏差である。b.一過性にトランスフェクトした核小体タンパク質およびGFP-ARFのU2OS細胞における発現パターンを示す。
【図7】核小体タンパク質の動態プロフィルを示す。a.最初のタイムポイントから最後のタイムポイントまで変化を示す全てのタンパク質を示す。b.変化倍数データを用いた3500のタンパク質の階層性クラスターの形成を示す。c.最大のパーセンテージ変化はp53陰性E6細胞での誘発後4時間のタイムポイントで示されることを示す、上位50タンパク質の経時変化である。
【図8】FMN2の発現パターンを示す。NARF2(A−H)、E6(L−P)細胞(a)およびU2OS(A−H)、HeLa(L−P)細胞(b)を固定し、DNAにはDAPI(青色)で、さらに抗FMN2抗体または抗p14ARF抗体(緑色)で染色した。細胞をIPTGとともにまたはIPTGの非存在下で24時間インキュベートして外因性p14ARFを誘発した。
【図9】ARF活性化時のマイクロアレイ解析を示す。NARF2細胞をIPTGとともに24時間インキュベートして外因性ARF発現を誘発した。我々は、FMN2、HDM2、p21、p14ARF、コイリン(coilin)、B23、ヌクレオリン(Nucleolin)、ATM/ATRおよびフィブリラリン(Fibrillarin)を我々の最終的データセットから選択し、log2比として示した。
【図10】FMN2に対するsiRNAによるアプローチを示す。NARF2細胞をコントロール、DNA-PKまたはFMN2 siRNAで処理し、IPTG24時間誘発を実施しまたは実施せずに48時間で採集した。
【図11】a−bはFMN2枯渇の影響を示す。cはFMN2誘発に対するIPTGの影響を、dはFMN2誘発に対するARF誘発およびUVの影響を示す。eはARF誘発およびFMN2とp53との結合に対する影響を示す。
【図12】aはp21の発現に対するFMN2枯渇の影響を示す。bはARFによるFMN2誘発に対するUbc9枯渇の影響を示す。c−eはFMN2に対するsiRNAによるアプローチを示す。図12cは、FMN2がプロテオソーム経路を妨害することによってp21を安定化させることを示す。
【図13】FMN2のタンパク質配列および抗体生成のための抗原領域を示す。ヒトFMN2アミノ酸配列が示される。本実験で同定した新規なまた別の配列は灰色で示す(1a.a.−143a.a.)。抗原配列は太字で示す(方法および図15Aもまた参照されたい)。市場で入手できるFMN2抗体(Abnova)の抗原領域もまた灰色で示されている(方法もまた参照されたい)。
【図14】PA28γおよびSkp2のsiRNAによるFMN2の救済を示すウェスタンブロットの結果である。
【図15】AはFNM2タンパク質およびドメインの模式図を示す。本模式図は、モノクローナル抗体(m22Ab)およびポリクローナル抗体(p31Ab)の作製に用いたタンパク質の領域を示す。本模式図はまた、切り縮めて結合させた2つのポリペプチドmCherry-FMN2Ex6-12およびmCherryFMN2Ex13-18を作製したタンパク質の領域を示す。Bは、2つの抗体p31Abおよびm22Abの同時位置決定解析を示す。Cは、mCherryFMN2Ex13-18中の過剰発現ポリペプチドに対するp31Abの特異性を示す。
【図16】AはFMN2抗体p31Abおよびm22Abを用いた免疫沈澱(IP)の結果を示す。BおよびCはさらに別のIP解析を示す。
【図17】FMN2およびp21(CIP1)の同時位置決定を示す。
【図18】AおよびBは、FMN2のプロモーターを検出するための実験の結果を示す。Cは、FMN2のプロモーターおよびARF応答性エンハンサーエレメントの模式図を示す。
【図19】肺初代および癌細胞でのFMN2発現解析の結果を示す。
【図20】p14 ARD-FMN2経路のモデルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
材料と方法
安定同位体標識核小体タンパク質の単離
ARF誘発前に、細胞を少なくとも5回の細胞分裂の間L-アルギニン13C614N4標識またはL-アルギニン13C615N4標識培養液中で増殖させた。外因性p14ARFの誘発のために、全ての細胞にIPTGを最終濃度1mMで添加し、それぞれ4、8、16および24時間インキュベートした。共通のゼロタイムポイントとしての未処理Arg0細胞と合わせて合計5つのタイムポイントを提供するように実験を繰り返した。以前に記載されたように(http://www.lamondlab.com/f5nucleolaraprotocol.htm)、核小体をNARF2およびE6から単離した。単離核小体タンパク質をNuPAGE 4−12%Bis-Trisゲルで分離し、12の細片に切断した。インゲル消化から得られたペプチドをゲル片から抽出して脱塩し、逆相C18チップ上で濃縮し、さらに自動質量分析法による解析のために96ウェルへ溶出させた。
質量分析およびデータの解析
質量分析法による解析は、LTQオビトラップ(Obitrap)(ABI)を用いてタンデム質量分析(LC MS/MS)と結合させた液体クロマトグラフィー(Agilent HP100)によって実施した。LTQオビトラップのために、4つのもっとも強いイオンのプリカーサーイオンスペクトル(m/z 350−1,500)およびプロダクトイオンスペクトル(m/z 70−1,500)を1秒間収集した。LTQ-FT-ICR装置をデータ依存モードで操作し、ICRセル中に高解像プリカーサーイオンスペクトル(m/z 300−1,500、R1/4 25,000、および10,000,000の目標値へイオン累積)を得た。正確な質量測定のために、3つのもっとも強いイオンを選択イオンモニタリング(SIM)スキャンによって連続的に単離した(10Da質量ウィンドウ、R1/4 50,000、および50,000の目標累積値)。27%の標準化衝突エネルギー設定および2,000の目標値を用い、線状イオントラップでイオンを連続的に断片化した。
マスコット(Mascot)プログラム(Matrix Science)およびLTQ-FT-ICRデータを用いる国際タンパク質インデックスデータベースでは、精密な基準がタンパク質の同定のために要求される。すなわち、1タンパク質につき少なくとも2つのマッチペプチド、3p.p.m.以内の質量精度(平均絶対ペプチド質量の精度は0.7p.p.m.であった)、個々のペプチドについて20を超えるマスコットスコア、および5より高いデルタスコアである。逆データベース26を用いた実験によって、このような条件下では2つのマッチペプチドをもつタンパク質が0.1パーセント未満の偽陽性率で同定されることが示された。各シングルスキャン質量スペクトルのArg6/Arg0およびArg10/Arg0のピーク面積比として、各アルギニン含有ペプチドについてタンパク質比を計算した。各タンパク質について配列決定した全てのアルギニン含有ペプチドについてペプチド比を平均し、ゼロに対して標準化した(x−1)。標準化逆比は1より小さい比について計算した[1-(1/x)]。MS-Quant(http://msquant.sourceforge.net/)(院内開発ソフトプログラム)を用いて、ペプチド同定およびペプチド優先率(peptide abundance ratio)の確実性を判定した。
【0037】
生細胞の画像化
GFP-ARF細胞をWillco薄ガラス底マイクロウェルディッシュ(Intracel)で培養し、透明包囲チャンバー(Solent Scientific)に取り付けたデルタヴィジョン・スペクトリス(Deltavision Spectris)顕微鏡(Applied Precision)にマウントした。細胞の画像は60倍のプラン・アポクロマート(Plan Apochromat)対物レンズで得た。0.5mm離した12の光学的区分を各視野について記録し、露出はそれぞれ0.05秒実施した。最初のタイムポイントを記録した後で、ドキシサイクリンを最終濃度5μg/mLで添加し、細胞画像を2−3時間得た(SoftWoRX画像処理ソフト、Applied Precision)。核小体または核の輪郭を手で描き(図6参照)、5つの核小体/核を2つのそれぞれ別の実験から測定した。
【0038】
siRNA
siRNAデュープレックスオリゴヌクレオチドをMWGによって合成し、製造業者の指示にしたがいインターフェリン(Interferin, Polyplus)を用いてトランスフェクションを実施した。簡単に記せば、トランスフェクションの前日に6ウェルプレートの各ウェルに細胞を2x105細胞/ウェルの濃度で播種した。次の日、新しい培養液中のsiRNAオリゴヌクレオチドを最終濃度5nM(最終体積2.2mL)でトランスフェクトした。採集前に細胞をさらに48時間インキュベートした。IPTGは特段の記載がなければ24時間添加した。siRNAの配列は本明細書に記載した(コントロール:CAGUCGCGUUUGCGACUGG、FMN2-GUAUACCAGGUCUCCUCAA)。MG132はMerck Chemicalsから購入し、最終濃度50μMで用いた。
【0039】
細胞
NARF2およびNARF2-E6細胞株はDr. Gordon Peters (Cancer Research UK London Research Institute)から提供され、以前に報告されている(Stott et al. 1998;Brookes et al. 2002;Rocha et al. 2003)。NARF2細胞(イソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)誘発性p14ARF遺伝子を含むヒト骨肉腫U2OS細胞の誘導体)は以前に報告された(Stott et al. 1998)。NARF2-E6細胞はNARF2細胞の誘導体であるが、さらに別に構成的に発現されるヒトパピローマウイルス(HPV)E6タンパク質を含む。
【0040】
RNAの調製および標識
DNase I処理とともにRNeasyミニキット(QUIAGEN)を製造業者の指示にしたがって用いて、NARF2細胞の全RNAを単離した。一色マイクロアレイ系遺伝子発現系(One-Color Microarray-based Gene Expression system;Agilent Technology)を用いて全RNAを標識した。
【0041】
マイクロアレイ実験および解析
全てのマイクロアレイ実験はEMBL's Genomics Core Facility(Heidelberg, Germany)で実施した。標識cDNAの品質はナノドロップ(NanoDrop)ND-1000 UV-VIS分光光度計によって解析した。標識cDNAは全ヒトゲノムオリゴDNAマイクロアレイ(Human WG 4X 44k:Agilent Technologies)上でハイブリダイズさせた。スキャンしたデータはジーンスプリング(GeneSpring)GXソフトで製造業者の指示にしたがい解析した(Agilent Technologies)。
【0042】
結果
我々は、質量分析法による細胞小器官プロテオミクスおよび安定同位体標識(すなわちSILAC)を用いて、ARF腫瘍サプレッサー経路における核小体タンパク質消長を解析した(図5a)(Ref.4−6)。我々は、ヒトARF誘発性モデル細胞株(NARF2と称される)の核小体プロテオームの定量的解析を実施し、ARF誘発性でp53陰性の別の細胞株(E6と称される)(Ref.1−3)と比較した。NARF2は、U2OSヒト骨肉腫細胞から樹立された安定な細胞株である。内因性ARF発現は、U2OS細胞ではARF遺伝子プロモーター領域の高メチル化によって妨げられる。しかしながら、これらの細胞はまた外因性で誘導性の野生型ARF遺伝子コピーを含み、その発現はNARF2細胞ではIPTGの添加によって誘発することができる。E6細胞株はNARF2から樹立され、p53を不活化するヒトパピローマウイルス(HPV)E6タンパク質を発現する。我々はARFタンパク質由来のペプチドを検出し(図5b)、NARF2およびE6細胞株におけるその動的経時変化を比較した(図5c)。結果は、ARFタンパク質レベルは、我々が予期したようにIPTG誘発時に両細胞株において劇的に増加することを示した。次に、我々は、質量分析データを生細胞の蛍光顕微鏡画像のシグナル強度と比較した(図6)。前記データは、ARFの変化倍数を示すデータと顕微鏡のシグナル強度とは一致することを示唆した(図6a)。我々はいくつかの他のタンパク質を選択し、我々の質量スペクトルデータと比較したところ、それらの行動態様は我々が検出した変化倍数データと一致した(図6b)。
これらのデータは、ARF誘発中に数千の核小体タンパク質のレベルが経時的に変化することを立証した(図7aおよびb)。例えば、フォルミン-2(FMN2)(Ref.7&8)(前記は細胞質分裂で、および我々のデータからは癌で役割を有する)は、p53陽性および陰性の両細胞株でARF誘発時に劇的に増加する(図7bおよびc)。この結果は、フォルミン2はARFタンパク質の新規なパートナーであるかもしれないこと、またはARFに依存する下流のメカニズムを仲介する可能性があることを示唆している。
我々は、これらの細胞株でIPTG誘発下またはIPTG誘発のない状態下でのFMN2発現を確認するために免疫細胞化学試験を実施した(図8)。FMN2はNARF2およびE6細胞でIPTG非存在下でも低レベルで発現したが、発現レベルはIPTG処理後24時間で増加した。我々はそのような変化をU2OS細胞では検出せず、このことは、FMN2誘発はIPTG処理それ自体の結果ではないことを示している。HeLa細胞は内因性ARFを有するので、我々はまたこの細胞株でもFMN2発現レベルをチェックした。我々は、ARFを発現しないU2OS細胞よりも高いFMN2発現を検出した。これらのデータはARFとFMN2発現との間における正の相関関係を示している。
我々はまたマイクロアレイ解析を実施して、これらの遺伝子のRNAレベルをアッセイした(図9)。FMN2 RNAレベルは、外因性ARFの誘発後に10倍以上の高い割合の増加を示した。この結果は、FMN2発現はARFによって制御され、したがってARFはFMN2プロモーターの発現に直接または間接的に影響を与えることを強く主張している。
細胞内でのFMN2の機能を解析するために、我々は、5つのsiRNAを設計してFMN2の発現を抑制した。それらのうちの1つがFMN2発現抑制に成功した(図10)。我々はp53またはHdm2(E3ユビキチンリパーゼである)に対する影響を全く認めなかったが、サイクリン依存キナーゼインヒビターp21は激しく低下した(図10a)。他の実験は、FMN2ノックダウンはpumaレベルには影響を与えないが、p21は低下させることを示した。対照的に、DNA-PKのsiRNAノックダウンはpumaとp21の両方のレベルを低下させる(図10b)。したがって、FMN2は特異性を示し、さらにオンコジーン活性化時にp21タンパク質のレベルを安定化させるか、および/またはp21発現を加速する。これらの発見は再現性があり、FMN2発現はp21を安定化させるか、またはその発現を強化するか、またはその両方である(図10c)。
【0043】
更なる材料と方法
siRNA実験:siRNAデュープレックスオリゴリボヌクレオチドをMWGによって合成し、これを製造業者の指示にしたがってインターフェリン(Polyplus)を用いてトランスフェクトした。簡単に記せば、トランスフェクションの前日に6ウェルプレートの各ウェルに細胞を2x105細胞/ウェルの濃度で播種した。次の日、新しい培養液中のsiRNAオリゴリボヌクレオチドを最終濃度5nM(最終体積2.2mL)でトランスフェクトした。採集前に細胞をさらに48時間インキュベートした。IPTGは特段の記載がなければ24時間添加した。siRNAの配列をここに記載する(コントロール:5'-CAGUCGCGUUUGCGACUGG-3'、FMN2- 5'-GUAUACCAGGUCUCCUCAA-3'、PA28γ- 5'-GAAUCAAUAUGUCACUCUA-3', Skp2- 5'-ACUCAAGUCCAGCCAUAAG-3' )。
抗体の作製:FMN2マウスモノクローナルおよびウサギポリクローナル抗体はDundee Cell Products(Dundee, UK)が作製した。マウス腹水ハイブリドーマクローンのTC上清のためのオリゴペプチド(CTEHVRAPPAPSRSR, MHSIRTVEIKVPEIEEC, KDSQALQTGELDSAHS)を合成してFMN2-m22Abを樹立し(図15A)、さらにオリゴペプチド(CRQKKGKSLYKIKPR, CKPRHDSGIKAKISMKT)を合成してFMN2-p31Abを樹立した。
【0044】
免疫沈澱:免疫沈澱は以前に記載されたように実施した(Trinkle-Mulcahy et al. 2006)。核溶解物をNARF2安定細胞株から調製した。精製核をRIPA緩衝液に再懸濁し、タンパク質を可溶化した。FMN2タンパク質を抗FMN2-m22Abモノクローナル抗体および抗FMN2-p31Abを用いて免疫沈澱させた(図15)。サンプルを2つに分け、さらにインプット用にそれぞれの核溶解物の1/2からサンプルを単離した。
顕微鏡検査:全ての細胞画像は、デルタヴィジョン・スペクトリス蛍光顕微鏡(Applied Precision)を用いて記録した。細胞の画像は60X(NA 1.4)プラン・アポクロマート対物レンズを用いて得た。0.5mm離した12の光学的区分を各視野について記録し、各露出は
(SoftWoRX画像処理ソフト、Applied Precision)。
【0045】
結果
図14は、PA28γおよびSkp2のためのsiRNAによるFMN2枯渇の救済を示す。FMN2に対するsiRNA(siRNA標的配列の位置については図15Aを参照されたい)、PA28γ、Skp2およびコントロール(図ではControl)のためのsiRNAのいずれかを用いてNARF2細胞をトランスフェクトしp14ARFで誘発しまたは誘発しないで(図では+/blank)、続いて実施した内因性FMN2、Skp2、PA28G、p21、p14ARFおよびアクチンのタンパク質レベルの検出が示されている。等価量のNARF2抽出物を各レーンにローディングしてタンパク質をSDS PAGEで分離し、エレクトロブロッティングを実施し抗PA28γモノクローナル抗体並びに抗FMN2、抗Skp2、抗p21、抗p14ARF、および抗アクチンポリクローナル抗体(ローディングコントロール)をプローブにして調べた。FMN2枯渇後に観察されたp21不活化は、PA28γ siRNA/Skp2 siRNAの両者を同時トランスフェクトすることによって部分的に救済された。これらのデータは、FMN2枯渇によるp21不活化は、ユビキチン依存分解経路(Skp2)およびユビキチン非依存経路(PA28γ)の両方によって引き起こされることを示唆している(モデルは図20に示されている)。
FMN2特異的抗体の樹立:マウス抗FMN2モノクローナル抗体(m22Ab)およびウサギ抗FMN2ポリクローナル抗体(p31Ab)は、合成FMN2オリゴペプチドを注射することによって樹立された(図15A参照)。抗体の特異性を確認するために、FMN2の部分的cDNA配列をmCherry赤色蛍光タンパク質cDNAと融合させた(mCherry-FMN2Ex6-12およびmCherry-FMN2Ex13-18)。図15AはまたFMN2のタンパク質構造を示し、FMN2ノックダウンに用いたsiRNAのための位置、抗FMN2抗体を作製するための抗原として用いたペプチド配列、およびモチーフを指摘している。FH2ドメインはほぼ完全なαへリックスであり、いくぶん恣意的な境界をもつ5つのサブドメインにさらに分割することができる。これらには、N-末端の“lasso”、“リンカー”セグメント、球状“ノブ”サブドメイン、コイルドコイル(coiled-coil)領域、カルボキシ末端の“post2”サブドメインが含まれる。ダイマー形成は、パートナーFH2の“lasso”と“post”との固有の相互作用によって仲介され、閉環構造が明示されている。
DEPドメインは、DEPドメイン含有タンパク質を特定の細胞区分の膜性部位、おそらくは特異的G-タンパク質結合シグナリング経路に誘導する際に選択的役割を果たしえると提唱されている。
図15BはFMN2 m22Ab-p31Abについての同時位置決定解析を示す。p14ARF誘発に続いて、NARF2細胞を固定し、マウス抗FMN2モノクローナル抗体(m22Ab)およびウサギ抗FMN2ポリクローナル抗体(p31Ab)で染色した。
図15Cは、mCherry-FMN2部分プラスミドの発現の結果を示す。mCherry-FMN2Ex6-12およびmCherry-FMN2Ex13-18をトランスフェクトした後、HeLa細胞を固定し、抗FMN2ポリクローナル抗体(p31Ab)を用いて染色した。スケールバーは10μmである。矢印はトランスフェクトした細胞を示す。図から明らかなように、FMN2-p31Abによって認識される抗原配列を含むmCherry-FMN2Ex13-18の一過性発現は、FMN2-p31Abによって強く染色された。この同じ抗体は、mCherry-FMN2Ex6-12(抗FMN2抗体を作製するために用いられたペプチド配列を含まない)の一過性発現後の細胞を染色しなかった(矢印)。
【0046】
図16は、FMN2特異的抗体を用いた免疫沈澱(IP)を示す。免疫沈澱は以前に示されたように実施した(Trinkle-Mulcahy et al. 2006)。NARF2細胞核溶解物をp14ARF誘発後に単離し、等価量の溶解物をFMN2ポリクローナル抗体(FMN2p31AB)またはモノクローナル抗体(FMN2m22Ab)のどちらかと混合した。分画化の達成はまた、核マーカーとしてB23タンパク質を、さらに細胞質マーカーとしてチューブリンをチェックすることによって確認した(図16B)。等価量のIP抽出物を各レーンにローディングしてタンパク質をSDS PAGEで分離し、エレクトロブロッティングを実施し、抗FMN2抗体をプローブにして調べた(例えば、抗FMN2モノクローナル抗体でIPを実施し、抗FMN2ポリクローナル抗体をプローブにして調べた(レーンM))(図15A参照)。図から明らかなように、インプット(図ではInput)レーン(抗体非添加溶解物)と比較して、IP後にFMN2の明瞭な単離が示された。p21もまたFMN2 IPで検出された。
p14ARFを誘発して、または誘発しないでNARF2細胞核溶解物を単離し、さらに等量の溶解物をFMN2ポリクローナル抗体(FMN2p31Ab)と混合した。等価量の全核溶解物(図ではInput)、沈殿させたサンプル(IP)およびフロースルーサンプル(FT)を各レーンにローディングしてタンパク質をSDS PAGEで分離し、エレクトロブロッティングを実施し、抗FMN2m22Ab、抗PA28γ、抗Skp2、並びにインプットおよびFTのためのローディングコントロールとして抗B23を含む抗体をプローブにして調べた(図16C参照)。
p14ARFを誘発して、または誘発しないでNARF2細胞を固定し、ウサギ抗FMN2p31Abおよび抗p21抗体で染色した。FMN2およびp21シグナルの大半が核内に一緒に局在した。この結果は、図15に提示したIPの結果と一致する。
最初のATG(+1)から上流のFMN2プロモーターが欠失した2つのプラスミドを構築した(図18Aの左パネル)。プラスミドmCherry-FMN2p-2k、mCherry-FMN2p-1kまたはプロモーターを含まないmCherryでトランスフェクトした後でp14ARF誘発を実施しまたは実施しないで、NARF2細胞を固定し、さらに抗p14ARF抗体で染色した。図から明らかなように、mCherry-FMN2p-2k(FMN2遺伝子の上流の約2000塩基の配列を有する)はp14ARF誘発細胞でアップレギュレートされた。しかしながらmCherry-FMN2p-1k(FMN2遺伝子から上流の配列1000塩基のみを有する)は、p14ARF誘発に応答するアップレギュレーションを示さなかった(矢印)(図18A右側パネル参照)。同じ実験をNARF2-E6細胞(p53陰性細胞)を用いて実施した(図18B参照)。この実験もNARF2細胞で観察された結果と同じ結果を示している。これらの結果は、FMN2遺伝子の上流のFMN2プロモーター/調節領域(約-2000塩基)は、ARFにより誘発を付与する1つまたは2つ以上のエレメント(p53非依存性である)を含むことを示している。
最後に、図18CはFMN2プロモーター解析の要旨を示している。FMN2プロモーター領域もまた特徴が明らかにされ、ARF誘導性エレメントが決定された(染色体1、約238319604から238321603の+鎖、ゲノムブラウザー)。
ヒト肺初代線維芽細胞(ATCC-CCL-211)およびヒト肺線癌細胞(ATCC-CRL-5868)を固定し、抗FMN2-p31Ab、抗FMN2-m22Ab、抗p21および抗p14ARF抗体で染色した。図19は、FMN2遺伝子はヒト肺初代細胞と比較して肺癌細胞でアップレギュレートされることを示している。これは、我々が組織培養、例えばU2OS、HeLa、NARF2およびNARF2-E6細胞株で観察したとおりで、すなわちオンコジーン活性化後にFMN2発現が強化された(図8もまた参照されたい)。これらのデータは、FMN2発現の上昇は組織培養モデル系の場合と同様に多様な癌継代で生じえることを示している。
図20はp14ARF-FMN2経路のモデルである。我々は、p53非依存性である新規な腫瘍サプレッサー経路を発見した。オンコジーン活性化によって誘発されるp14ARFは、p53に依存しないFMN2遺伝子をアップレギュレートする。FMN2は、直接的であれ間接的であれ、ユビキチン依存性および非依存性経路の両経路を含むp21分解を阻害する。
【0047】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞増殖および/または分化障害またはそのような障害発症に対する感受性を診断する方法であって、前記方法が、フォルミン2(FMN2)遺伝子および/またはタンパク質の発現の調節を検出する工程を含み、FMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現の調節が細胞増殖および/または分化障害の指標である、前記診断方法。
【請求項2】
調節がFMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現レベルの増加である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞増殖および/または分化障害が、癌、例えば癌腫、肉腫もしくはリンパ種、白血病または自己免疫疾患および/または炎症性疾患、例えば乾癬、アレルギーなど、減数分裂の異常、例えば不妊をもたらす可能性がある生殖細胞の増殖を伴う異常、または例えば肝炎、肝硬変、腎不全、急性肺炎、胃潰瘍、心筋梗塞、筋ジストロフィーおよび脳梗塞のような疾患および/または症状である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
調節がFMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現の低下であり、前記低下が細胞増殖および/または分化障害発症の存在または発症に対する感受性の指標でありえる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
細胞増殖および/または分化障害が異常なアポトーシス事象を特徴とし、神経変性疾患、例えば急性細胞変性疾患および/または症状、例えば虚血性事象、例えば卒中、心筋梗塞などでありえる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
図2もしくは3に示す配列、またはそのアイソフォーム、別のスプライス型または翻訳後改変もしくは切端型の1つまたは2つ以上を含む、単離cDNA配列。
【請求項7】
請求項1−5のいずれかに記載の方法で使用される、請求項6に記載のcDNAを含むDNAマイクロアレイ。
【請求項8】
請求項6に記載の単離cDNAから発現される、組換えFMN2タンパク質またはそのフラグメント。
【請求項9】
請求項8に記載の組換えタンパク質またはフラグメントと特異的に反応することができるポリクローナルもしくはモノクローナル抗体または抗体フラグメント。
【請求項10】
請求項1−5のいずれかに記載の方法で使用される、土台に結合された請求項9に記載の抗体または抗体フラグメント。
【請求項11】
検出可能成分、例えば比色定量、蛍光、化学発光または放射能標識と結合された、請求項9に記載の抗体または抗体フラグメント。
【請求項12】
FMN2遺伝子または1つもしくは2つ以上の変異を含むFMN2遺伝子と特異的にハイブリダイズすることができる、1つまたは2つ以上のオリゴヌクレオチド/プライマーを含むキット。
【請求項13】
細胞増殖および/または分化障害の治療で使用される、FMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現/機能を調節することができる化合物。
【請求項14】
細胞増殖および/または分化障害の治療用医薬の製造ための、FMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現/機能を調節することができる化合物の使用。
【請求項15】
細胞増殖および/または分化障害を治療する方法であって、前記方法が、その必要がある対象者にFMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現/機能を調節することができる化合物を投与する工程を含む、前記治療方法。
【請求項16】
FMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現/機能を調節する物質を同定または入手する方法であって、前記方法が、FMN2遺伝子またはタンパク質を試験物質と接触させる工程およびFMN2遺伝子および/またはタンパク質の発現/機能の何らかの調節を検出する工程を含む、前記同定または検出方法。
【請求項17】
FMN2遺伝子/タンパク質の発現または機能を調節することができる化合物を、医薬的に許容できる賦形剤、担体または希釈剤と一緒に含む医薬組成物。
【請求項18】
細胞増殖および/または分化障害を治療するために設計された遺伝子の発現で使用される、ARF応答性エンハンサーおよびプロモーターを含むベクター。
【請求項19】
ARF応答性エンハンサーおよびプロモーターがFMN2開始コドンの約2kb上流の配列を含む、請求項18に記載のベクター。
【請求項20】
遺伝子が細胞傷害性遺伝子であり、治療されるべき疾患が癌である、請求項18または19に記載のベクター。
【請求項21】
請求項18−20のいずれかに記載のベクターを対象者に投与する工程を含む、細胞増殖および/または分化障害を治療する方法。

【図1】
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【図2a−1】
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【図2a−2】
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【図2a−3】
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【図2b】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10a−b】
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【図10c】
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【図11a−b】
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【図11c−d−e】
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【図12a−b】
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【図12c−d−e】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16A−B】
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【図16C】
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【図17】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2012−520068(P2012−520068A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553515(P2011−553515)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000448
【国際公開番号】WO2010/103284
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(507419839)ザ ユニヴァーシティー コート オブ ザ ユニヴァーシティー オブ ダンディー (8)
【Fターム(参考)】