説明

FRP構造体

【課題】衝撃吸収のために適切なクラッシャブル構造を備え、かつ変形を小さく抑えることができるFRP構造体を提供すること
【解決手段】表側FRP層と裏側FRP層とがコア材を介在して配置されたサンドイッチ構造のFRP構造体において、表側FRP層側のコア材表面から裏側FRP層側のコア材表面の間で、コア材のせん断破壊歪みに差を付与することである。さらに、好ましくは、表側FRP層の面剛性よりも裏側FRP層の面剛性の方が高く設定することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP(繊維強化プラスチック)構造体に関し、とくに、衝撃荷重を効果的に吸収できるようにした、自動車用外板部材等に用いて好適なFRP構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP構造体は、衝撃荷重をより効果的に吸収できる性能が求められる用途に用いられることがある。たとえば、自動車用外板部材がFRP構造体で構成される場合には、その自動車用外板部材には、衝突時等における安全性を高めることが要求されており、特に、衝撃的な外力が加わった際の乗員側の安全性とともに、事故時の歩行者の保護性能を高めることが要求されている。自動車が歩行者に衝突した際には、歩行者は、自動車の前部やボンネット等に対し、脚や頭部に衝撃荷重を受けることになるが、死亡事故の低減には、頭部へのダメージを低減することが不可欠であると言われている。したがって、特に頭部にダメージを与えやすい自動車側部位、すなわち、とりわけボンネットに対しては、衝突事故時にも極力衝撃力を吸収でき、頭部へのダメージを小さく抑えることが求められている。
【0003】
このような衝撃吸収性能を持たせるためには、自動車用外板部材が、適切に変形あるいは破壊することにより、自動車内部部品の破損や乗員へのダメージを極力小さく抑えつつ、歩行者に与える衝撃力を極力小さく抑える必要がある。つまり、歩行者保護の観点から、衝撃吸収のために適切なクラッシャブル構造とする必要がある。
【0004】
FRP製自動車用パネルとして、上記のような衝撃吸収のために適切なクラッシャブル構造とする提案はあまりなされていないのが現状であるが、例えば、特許文献1では、樹脂発泡材料からなる芯材と、繊維強化複合材料からなる表面材から構成される衝撃吸収部材において、表面材と芯材の間に非接合部分を設けた構造とし、衝突時に表面材と芯材のはく離を促進させることにより、衝撃吸収性能を向上させるという態様が開示されている。
【0005】
例えば、ボンネットに歩行者の頭部が衝突した場合、その衝撃エネルギーはボンネットが変形することによって吸収される。ボンネットが硬い場合は、ボンネットの変形は小さいが、歩行者への衝撃荷重は大きく、ボンネットが柔らかい場合は、歩行者への衝撃荷重は小さいが、ボンネットの変形は大きくなる。一方、ボンネットが柔らかい場合は、ボンネットの変形が大きいため、エンジン等の内蔵物に2次衝突すると、歩行者への衝突荷重がさらに大きくなってしまう問題が発生する。内蔵物に衝突しないように、ボンネットと内蔵物のクリアランスを大きくとることも可能であるが、空力特性や、外観意匠の観点等から、有効な手段とはならない。したがって、歩行者の頭部への衝撃荷重を小さく抑えつつ、内蔵物に2次衝突しないようにボンネットの変形をできるだけ小さくすることが求められる。
【0006】
特許文献1では、表面材と芯材の間に非接合部分を設け、表面材と芯材のはく離を促進させることで、衝撃吸収性能を向上させているが、非接合部分を設けていることからサンドイッチ板としての十分な剛性を得られず、変形が大きくなってしまう可能性がある。また、非接合部分を設ける手段として芯材に凹部を設ける方法や、芯材と表面材間に孔を有するシートを配置する方法を取っているため、製造困難であるか、製造できたとしても高コストとなることが避けられない。
【特許文献1】特開2006−77815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の課題は、衝撃吸収のために適切なクラッシャブル構造を備え、かつ変形を小さく抑えることができるFRP構造体を提供することにあり、特に、自動車用外板部材における歩行者保護性能の観点等から、衝突時における歩行者への衝撃荷重を小さく抑えることが可能であり、かつ2次衝突が生じないように、外板部材の変形を小さく抑えることが可能なFRP製自動車用外板部材として好適なFRP構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下の構成からなる。すなわち、
(1)表側FRP層と裏側FRP層とがコア材を介在して配置されたサンドイッチ構造のFRP構造体であって、前記表側FRP層側の前記コア材表面から前記裏側FRP層側の前記コア材表面にいくに従って、前記コア材のせん断破壊歪みが高くなっているFRP構造体。
【0009】
(2)表側FRP層と裏側FRP層とがせん断破壊歪みの異なる少なくとも2層からなる層状構造を有するコア材を介在して配置されたサンドイッチ構造のFRP構造体であって、前記層状構造をなす各コア材のせん断破壊歪みが、表側FRP層の側よりも裏側FRP層の側の方が高いFRP構造体。
【0010】
(3)前記裏側FRP層の面剛性が、前記表側FRP層の面剛性よりも高い、前記FRP構造体。
【0011】
(4)裏側FRP層が表側FRP層よりも厚く形成されている、前記FRP構造体。
【0012】
(5)裏側FRP層にスチフナが形成されている、前記FRP構造体。
【0013】
(6)前記スチフナがリブ状にFRP構造体の内部に突出している、前記FRP構造体。
【0014】
(7)前記スチフナがリブ状にFRP構造体の外部に突出している、前記FRP構造体。
【0015】
(8)裏側FRP層を構成する強化繊維の弾性率が、表側FRP層を構成する強化繊椎の弾性率よりも高い、前記FRP構造体。
【0016】
(9)裏側FRP層を構成する強化繊維の含有量が、表側FRP層を構成する強化繊維の含有量よりも高い、前記FRP構造体。
【0017】
(10)表側FRP層を構成する強化繊維の配向方向と、裏側FRP層を構成する強化繊維の配向方向とが異なっている、前記FRP構造体。
【0018】
(11)外部荷重の主たる入力方向(0°)に対し、裏側FRP層の強化繊椎の配向方向が、0°/90°配置に対し±20°の範囲内にあり、表側FRP層の強化繊稚の配向方向が、±45°配置に対し±20°の範囲内にある、前記FRP構造体。
【0019】
(12)裏側FRP層の曲率が表側FRPの曲率よりも大きい、前記FRP構造体。
【0020】
(13)前記FRP構造体が、外部荷重の入力する方向に対して凸となっている前記FRP構造体。
【0021】
(14)自動車のボンネット用に用いられる、前記FRP構造体。
からなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るFRP構造体によれば、表側FRP層側のコア材表面から裏側FRP層側のコア材表面の間で、コア材のせん断破壊歪みに差を付与しているので、外部から衝突等のエネルギーが入力された場合に、衝撃に対して確実に破壊し、その衝撃を効果的に吸収でき、FRP構造体の変形を小さく抑えることが可能になる。さらに、表側FRP層の面剛性を、裏側FRP層の面剛性よりも高く設定することで、かかる効果はより顕著なものとなる。
【0023】
本発明に係るFRP構造体を自動車用外板部材に適用すれば、衝突時等の衝撃に対して外板部材を適切に破壊させて、歩行者の頭部への衝撃荷重を小さく抑えつつ、かつ2次衝突が生じないように変形を小さくできる構造を実現できるので、近年の衝突事故時等における歩行者保護の要求に対処することが可能になる。これによって、死亡事故等の件数を顕著に低減できることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係るFRP構造体は、表側FRP層と裏側FRP層とが間隔をもって配置され、該表側FRP層と該裏FRP層の間にコア材が介在されたサンドイッチ構造において、該表側FRP層側のコア材表面から該裏側FRP層側のコア材表面にいくに従って、コア材のせん断破壊歪みが高くなっていることを特徴とする。
【0025】
コア材の厚み方向、すなわち、表側FRP層側のコア材表面から、裏側FRP層側のコア材表面に向かう方向にせん断破壊歪みの分布を設ける方法は、どのような方法でも良いが、例えばコア材の厚み方向の密度に差を設けることによって分布を設けることができる。一般的に、コア材の密度が大きいほど、せん断破壊歪みは小さく、密度が小さいほどせん断破壊歪みは大きくなる。材料によっては逆に密度が小さいほど、せん断破壊歪みは大きく、密度が大きいほど、せん断破壊歪みが小さい場合もあるが、いずれも、せん断破壊歪みに分布を設けることは可能であるため、いずれを採用しても良い。
【0026】
ここで言う、「表側FRP層側のコア材表面から、裏側FRP層側のコア材表面にいくに従って、コア材のせん断破壊歪みが高くなっている」とは、単一の層からなるコア材を厚み方向に均等に3分割し、ASTM C273M−00に基づき、3分割した各箇所につきN数5体でせん断応力が最大の時のせん断破壊歪みを測定し、その平均値を求めた結果、裏側FRP層に近いコア材ほどせん断破壊歪みが高くなっていれば良い。コア材の厚みによって、せん断破壊歪みの測定に必要なコア材が採取できない場合は、該当する3箇所のコア材と同じ密度のコア材を成形し、それぞれにつきN数5体でせん断応力が最大の時のせん断破壊歪みを測定し、その平均値を求めることによってせん断破壊歪みの分布を求めれば良い。
【0027】
さらに、本発明に係るFRP構造体は、単一の層からなるコア材を用いるかわりに、せん断破壊歪みの異なる少なくとも2層からなる層状構造とすることもできる。そして本発明では、層状構造をなす各コア材のせん断破壊歪みが、表側FRP層の側よりも裏側FRP層の側の方が高くなるように配置する。この場合も、ASTM C273M−00に基づき、各層につきN数5体でせん断応力が最大の時のせん断破壊歪みを測定し、その平均値を求めた結果、裏側FRP層に近いコア材ほどせん断破壊歪みが高くなっていれば良い。コア材の各層の厚みによって、せん断破壊歪みの測定に必要なコア材が採取できない場合は、該当する層と同じ密度のコア材を成形し、それぞれにつきN数5体でせん断応力が最大の時のせん断破壊歪みの測定をし、その平均値を求めることによってせん断破壊歪みの分布を求めれば良い。また、上述の各層には、異なる材質のコア材を組み合わせることもできる。
【0028】
さらには、本発明に係るFRP構造体は、表側FRP層の面剛性よりも裏側FRP層の面剛性の方が高く設定されていることが好ましい。なお、本発明において「面剛性」とは、初期の所定の面形状を保つための剛性のことを言い、FRP層が平面状態であるならば、FRP層の弾性率と厚さの3乗の積に比例し、また、FRP層が曲率を持つ場合は、面剛性は曲率の2乗におおよそ比例する。各FRP層の厚みや積層構成、繊維含有率等により、表側および裏側FRP層のどちらの面剛性が高いかを判断し得るが、FRP構造体より、例えば、FRP層の強化繊維が炭素繊維の場合はJIS K7074−1988、それ以外の強化繊維の場合はJIS K7017−1999に基づいた寸法のサンプルを取り出し、N数5体で曲げ弾性率を測定し、その平均値を求めた結果、裏側FRP層の曲げ弾性率が表側FRP層の曲げ弾性率よりも高くなっていることにより判断できる。またFRP構造体が曲率を有する場合は、Rゲージ等で曲率を計測することによっても、表側および裏側FRP層のどちらの面剛性が高いかを判断することができる。
【0029】
表側FRP層の面剛性と裏側FRP層の面剛性に差を付与する手段として、裏側FRP層を表側FRP層よりも厚く形成する手段が好ましく採用される。つまり、厚い方の裏側FRP層の面剛性を高く、薄い方の表側FRP層の面剛性を低く構成することにより達成させるのである。
【0030】
また、表側FRP層の面剛性と裏側FRP層の面剛性に差を付与する別の手段として、裏側FRP層にスチフナが形成する手段も好ましく採用される。つまり、裏側FRP層にスチフナを形成(たとえば、一体形成)することにより、裏側FRP層の面剛性を高く設定し、スチフナを設けない方の表側FRP層の面剛性を低く構成することにより達成させるのである。スチフナとしては、例えば、リブ状にFRP構造体の内部または外部に突出している構成とすることが好ましい。また、裏側FRP層に対して、自動車用ボンネットなどの外板部材として設置した場合には、当該部位の内方に寸法的な余裕が有るならば、スチフナがリブ状にFRP構造体の外部に突出している構成とすることが好ましい。
【0031】
また、表側FRP層の面剛性と裏側FRP層の面剛性に差を付与するさらに別の手段として、裏側FRP層の強化繊維の弾性率が、表側FRP層の強化繊維の弾性率よりも高い構成とする手段が好ましく採用される。つまり、強化繊維の弾性率が高い方の裏側FRP層の面剛性を高く、弾性率が低い方の表側FRP層の面剛性を低く構成することにより達成させるのである。
【0032】
なお、ここで規定した表側FRP層、裏側FRP層の弾性率は、曲げ弾性率を意味し、上記と同様に、例えばFRP層の強化繊維が炭素繊維の場合はJIS K7074−1988、それ以外の強化繊維の場合はJIS K7017−1999により測定される。そして、こうして測定された裏側FRP層の弾性率が表側FRP層の弾性率よりも高くなることが、表側FRP層の面剛性と裏側FRP層の面剛性に差を付与する手段として好ましく用いられるのである。
【0033】
また、表側FRP層の面剛性と裏側FRP層の面剛性に差を付与するさらに別の手段として、裏側FRP層の強化繊維の含有量が表側のFRP層の強化繊維の含有量よりも高い構成とする手段が好ましく採用される。つまり、強化繊維の含有量が高い方の裏側FRP層の面剛性を高く、含有量が低い方の表側FRP層の面剛性を低く構成することにより達成させるのである。なお、FRP層中の強化繊維の含有量は、例えばASTM D3171−99に基づいて測定することができる。
【0034】
また、表側FRP層の面剛性と裏側FRP層の面剛性に差を付与するさらに別の手段として、表側FRP層を構成する強化繊維の配向方向と、裏側FRP層を構成する強化繊維の配向方向とが異なっている構成とする手段が好ましく採用される。例えば、外部荷重の主たる入力方向(0°)、すなわち、外部荷重の入力する方向に対し、表側FRP層の強化繊維の配向方向を、±45°配置に対し±20°の範囲内として撓みやすく面剛性の低い構成とし、裏側FRP層の強化繊維の配向方向を、0°/90°配置に対し±20°の範囲内として撓みにくく面剛性の高い構成とすることができる。なお、ここで言う、外部荷重の入力する方向としては、自動車用ボンネットなどの外板部材として設置した場合には、自動車の進行方向を0°とした場合が例示される。
【0035】
さらに、表側FRP層の面剛性と裏側FRP層の面剛性に差を付与するさらに別の手段として、裏側FRP層の曲率が表側FRP層の曲率よりも大きい構成とする手段が好ましく採用される。つまり、曲率が大きい(曲率半径が小さい)方の裏側FRP層の面剛性を高く、曲率が小さい(曲率半径が大きい)方の表側FRP層の面剛性を低く構成することにより達成させるのである。なお、ここで言う曲率半径は、FRP構造体の断面(図1、図7で表された面)において、表側FRP層の最外面(図1、図7では最外線として表される)上の衝撃が入力される点における曲率半径と、該点における法線が、裏側FRP層の最外面(図1、図7では最外線として表される)と交わった点における曲率半径を意味する。
【0036】
また、本発明に係るFRP構造体は、前記外部荷重の入力に対して凸とすることによって、前記裏側FRP層の曲率半径は前記表側FRP層の曲率半径よりも小さくすることもでき、裏側FRP層の面剛性を表側FRP層の面剛性よりも高くすることができる。
【0037】
本発明に係るFRP構造体の適用範囲は特に限定されず、自動車のボンネットや前部フェンダー用に好ましく用いられる。特に、自動車のボンネットに用いられる場合、前述したような衝突事故時の歩行者の特に頭部保護に有効である。
【0038】
以下に、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態をさらに詳細に説明する。
【0039】
本発明のFRP構造体とはFRP層とコア材から構成される。
【0040】
FRP層とは、強化繊維により強化された樹脂層を指し、強化繊維としては、たとえば、炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維や、ケブラー繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維からなる強化繊維が挙げられる。面剛性の制御の容易性の面からは、とくに炭素繊維が好ましい。FRP層のマトリックス樹脂としては、たとえば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、さらには、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂も使用可能である。また、コア材としては、弾性体や発泡材の使用が可能であり、軽量化のためにはとくに発泡材が好ましい。発泡材の材質としては特に限定されず、たとえば、ポリウレタンやアクリル、ポリスチレン、ポリイミド、塩化ビニル、フェノールなどの高分子材料のフォーム材などを使用できる。
【0041】
図1は本発明の一実施形態に係るFRP構造体の断面を示しており、間隔をもって配置された表側FRP層11と裏側FRP層12との間に、弾性体や発泡体からなるコア材13が介在されたサンドイッチ構造となっている。コア材13のせん断破壊歪みの分布は、図2ように表側FRP層側から裏側FRP層側に向かって直線的に大きくなっている。また、コア材のせん断破壊歪み分布は図3〜図6に示すように下凹、上凸、S字、逆S字などの形態を取ることも可能である。本実施形態では、表側FRP層の面剛性と裏側FRP層の面剛性に差を付与するよう、裏側FRP層13は表側FRP層12よりも面剛性が高くなるよう厚く成形されている。面剛性の差の程度は特に限定されないが、表側FRP層の面剛性を裏側FRP層の面剛性に対し10〜80%程度の範囲内で適宜設定すればよい。
【0042】
このようなFRP構造体10においては、表側FRP層11の側より衝撃物Pが衝突した場合、その衝撃によりFRP構造体10に変形が生じる。変形によって生じるせん断応力の最大発生位置は裏側FRP層12の面剛性が表側FRP層11の面剛性よりも大きく設定しているので、裏側FRP層13近くのせん断破壊歪みが大きいコア材の領域にあり、最大せん断応力発生位置で衝撃物Pの入力に対して垂直な方向に破壊14を発生させることができる。破壊14によって、衝撃物Pの入力する方向に対して、垂直な方向に衝撃を吸収することができるため、FRP構造体10の衝撃物Pの入力する方向への変形を小さく抑えることができる。
【0043】
またせん断破壊歪みが大きいコア材は、破壊を進展させるために必要なエネルギーの指標となる破壊靭性値Gc[kJ/m]が大きいため、せん断破壊歪みが大きいコア材で破壊が生じる場合は、コア材のせん断破壊歪みが小さいコア材で破壊が生じる場合と比較すると、同じ大きさのエネルギーを吸収しても、破壊の面積を小さくすることが可能となり、したがってFRP構造体の変形をさらに小さくすることが可能となる。
【0044】
図7は本発明の別の一実施形態に係るFRP構造体の断面を示しており、間隔をもって配置された表側FRP層21と裏側FRP層22との間に、コア材23aとコア材23aよりもせん断破壊歪みが大きいコア材23bが介在されたサンドイッチ構造となっている。裏側FRP層22は表側FRP層21よりも面剛性が高くなるよう厚く成形されている。コア材は2層以上であってもよく、その場合、表側FRP層側から裏側FRP層に近づくに従って、コア材のせん断破壊歪みが大きくなっていればよい。またコア材は異なる材質のものを混合して用いることもできる。
【0045】
上記した、裏側FRP層12の厚みを表側FRP層11の厚みよりも厚くすること以外に面剛性の差を付与する手段は、例えば、図8−a、図8−b、および図9に示すような構造によって達成される。図8−aに示す構造においては、面剛性を低く設定する表側FRP層31に対し、面剛性を高く設定する裏側FRP層32にコア材33内に向けてリブ状のスチフナ34を形成している。この裏側FRP層32は、スチフナ34が形成されるのと同時に増厚されていてもよい。また、スチフナ34は、支障がなければ、図8−bのように外側部に突出させてもよい。図9に示す構造においては、例えば、面剛性を低く設定する表側FRP層41の強化繊維の配向方向を、自動車の進行方向Aに関し、±45°配置Bに対し±20°の範囲内として撓みやすく面剛性の低い構成とし、面剛性を高く設定する裏側FRP層42の強化繊維の配向方向を0°/90°配置Cに対し±20°の範囲内として撓みにくく面剛性の高い構成とする。この他、前述したように、表裏FRP層間で、強化繊維の強度または弾性率に高低差をもたせたり、強化繊維の含有量に大小差をもたせたり、また曲率(曲率半径)に大小差をもたせることによっても面剛性の差を付与することもできる。さらにこれらの面剛性の差を付与するための構造を適宜組み合わせれば、より効率よく所望の面剛性差をもたせることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るFRP構造体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明に係るコア材のせん断破壊歪み分布の一例を示すグラフである。
【図3】本発明に係るコア材のせん断破壊歪み分布の一例を示すグラフである。
【図4】本発明に係るコア材のせん断破壊歪み分布の一例を示すグラフである。
【図5】本発明に係るコア材のせん断破壊歪み分布の一例を示すグラフである。
【図6】本発明に係るコア材のせん断破壊歪み分布の一例を示すグラフである。
【図7】本発明に係るFRP構造体の一例を示す断面図である
【図8−a】本発明に係るFRP構造体の一例(スチフナがリブ状にFRP構造体の内部に突出している例)を示す断面図である。
【図8−b】本発明に係るFRP構造体の一例(スチフナがリブ状にFRP構造体の外部に突出している例)を示す断面図である。
【図9】本発明に係るFRP構造体の一例を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
10、20、30 FRP構造体
11、21、31、41 表側FRP層
12、22、32、42 裏側FRP層
13、23a、23b、33 コア材
14 破壊
34 スチフナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表側FRP層と裏側FRP層とがコア材を介在して配置されたサンドイッチ構造のFRP構造体であって、前記表側FRP層側の前記コア材表面から前記裏側FRP層側の前記コア材表面にいくに従って、前記コア材のせん断破壊歪みが高くなっているFRP構造体。
【請求項2】
表側FRP層と裏側FRP層とがせん断破壊歪みの異なる少なくとも2層からなる層状構造を有するコア材を介在して配置されたサンドイッチ構造のFRP構造体であって、前記層状構造をなす各コア材のせん断破壊歪みが、表側FRP層の側よりも裏側FRP層の側の方が高いFRP構造体。
【請求項3】
前記裏側FRP層の面剛性が、前記表側FRP層の面剛性よりも高い、請求項1または2に記載のFRP構造体。
【請求項4】
裏側FRP層が表側FRP層よりも厚く形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載のFRP構造体。
【請求項5】
裏側FRP層にスチフナが形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載のFRP構造体。
【請求項6】
前記スチフナがリブ状にFRP構造体の内部に突出している、請求項5に記載のFRP構造体。
【請求項7】
前記スチフナがリブ状にFRP構造体の外部に突出している、請求項5に記載のFRP構造体。
【請求項8】
裏側FRP層を構成する強化繊維の弾性率が、表側FRP層を構成する強化繊椎の弾性率よりも高い、請求項1〜7のいずれかに記載のFRP構造体。
【請求項9】
裏側FRP層を構成する強化繊維の含有量が、表側FRP層を構成する強化繊維の含有量よりも高い、請求項1〜8のいずれかに記載のFRP構造体。
【請求項10】
表側FRP層を構成する強化繊維の配向方向と、裏側FRP層を構成する強化繊維の配向方向とが異なっている、請求項1〜9のいずれかに記載のFRP構造体。
【請求項11】
外部荷重の主たる入力方向(0°)に対し、裏側FRP層の強化繊椎の配向方向が、0°/90°配置に対し±20°の範囲内にあり、表側FRP層の強化繊稚の配向方向が、±45°配置に対し±20°の範囲内にある、請求項10に記載のFRP構造体。
【請求項12】
裏側FRP層の曲率が表側FRPの曲率よりも大きい、請求項1〜11のいずれかに記載のFRP構造体。
【請求項13】
前記FRP構造体が、外部荷重の入力する方向に対して凸となっている、請求項12に記載のFRP構造体。
【請求項14】
自動車のボンネット用に用いられる、請求項1〜13のいずれかに記載のFRP構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−a】
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【図8−b】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−213437(P2008−213437A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58164(P2007−58164)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】