説明

FTSとHDAC阻害剤との組合せを用いたがん治療

有効量のFTS(S−トランス,トランス−ファルネシルチオサリチル酸もしくはサリラシブ)またはFTSアナログと、ヒストンデアセチラーゼ酵素(HDAC)の阻害剤と、薬学的に許容可能な担体とを含有する医薬組成物が開示される。FTSまたはそのアナログを含む有効量のRasアンタゴニストとHDAC阻害剤とをがん患者に共投与することによるがんの治療方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、その開示を引用することにより本明細書の一部をなすものとする2009年10月26日出願の米国仮特許出願第61/254,872号の出願日の権益を主張する。
【背景技術】
【0002】
Rasタンパク質は、正常細胞およびがん性または悪性細胞の両方において、同様に成長を制御する要である。このタンパク質は、ヒトがんの全体の約30%において突然変異していることがわかっている。正常なRasタンパク質は、その活性を発揮するために、少なくとも3回の変化を経なければならず、その最初の変化が、プレニル基の結合を伴う化学修飾である。そのプレニル基がトリテルペノイドファルネシル基である場合、結合ステップは、ファルネシル化として知られている。この反応は、ファルネシルトランスフェラーゼとして知られる酵素を触媒とする。次いで、ファルネシル化された正常なRasは、成長因子受容体との相互作用により促進されるステップである、酵素触媒によるいくつかのアミノ酸残基の追加の切断を受ける。次いで、Rasタンパク質が活性化されなければならないが、これには、細胞膜の内部表面に位置するタンパク質であるガレクチンへのドッキングまたはアンカリングが必要となる。
【0003】
正常な、病的でない状態では、細胞膜に結合した活性化型ファルネシル化Rasの量が、細胞質ゾル中の不活性なファルネシル化Rasとバランスが取れていることにより、細胞分裂がある程度制御される。がん細胞では、そのバランスが異常であり、膜に結合したRas、特に突然変異したRasの量がより多くなる方へとシフトし、Rasは、細胞膜にアンカリングされたままとなる。このアンバランスの結果、この疾患の特徴である、制御されない細胞分裂が起こる。
【0004】
Rasタンパク質の活性化、および続いて起こる下流の諸事象は、特にがんに関連して広く研究されている。その結果、Ras活性の抑制を目標として、Rasタンパク質の阻害剤が開発されている。たとえば、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、ファルネシル化Rasの成熟を妨げる成長因子受容体阻害剤、およびファルネシル化RasのガレクチンへのアンカリングをターゲットとするRasアンタゴニストは、すべてヒト臨床試験の対象になっている。特に、RasアンタゴニストであるS−トランス,トランス−ファルネシルチオサリチル酸(FTS)が、いくつかのがんに関して、現在までに臨床試験で有効であるとわかっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多くの有効ながん治療は、2種の異なる抗がん剤の組合せに関する。治療の構想および設計の要となるのは、付加的、好ましくは相乗的な治療効果を実現する組合せを選ぶことである。しかし、所与の任意の組合せの治療有効性、特にそれが相乗的となるかどうかを前もって予測することは、依然として実現が難しい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様は、本明細書に記載される式によって共に規定されるS−トランス,トランス−ファルネシルチオサリチル酸(本明細書においてFTSまたはサリラシブとも称される)またはFTSアナログと、ヒストンデアセチラーゼ酵素の阻害剤(本明細書においてHDAC阻害剤とも称される)と、薬学的に許容可能な担体とを含む組成物に関する。FTSおよびHDAC阻害剤は、組成物中に有効量で存在する。
【0007】
本発明の第二の態様は、FTSまたはFTSアナログとHDAC阻害剤の共投与を含む、がん患者の治療方法に関する。一部の実施形態では、これらの抗がん剤を単一組成物で投与することにより治療を実施する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】0.1%のMeSO(対照)、示した濃度のFTS、HDAC阻害剤バルプロ酸(VPA)、または2種の阻害剤の組合せの存在下での、3種の異なるがん細胞系、すなわち、ヒトA549細胞(非小細胞肺がん細胞)、DLD1細胞(ヒト結腸腺癌細胞)、およびARO細胞(甲状腺癌細胞)の成長抑制を示す棒グラフである。処理した培養物中の生細胞数を、対照においてカウントされた総生細胞数に対する百分率として示す。
【図2A.2B】FTSおよびVPAと共に16日間インキュベートしたA549細胞およびDLD1細胞でのVPAプラスFTSの相乗的な成長抑制効果を示すグラフである。細胞は7、12および16日にカウントしており、処理した培養物中の有糸分裂のS期にある細胞数をFACS分析によって決定したものを、対照のS期細胞数に対する百分率として示す。
【図2C】VPAプラスFTSによってS期のA549細胞、DLD1細胞、およびARO細胞(72時間後)の相乗的な成長抑制が実現されたことをFACS分析を介して示す棒グラフである。
【図3A.3B】示した濃度のFTSおよびVPAで72時間処理した後に、FTSおよびVPAの併用処理によってA549細胞およびDLD1細胞のシグナル伝達が阻害されることを示す図である。図3Aは、細胞を溶解させ、次いで免疫ブロットにかけた後の、サイクリンD1、Ras、サバイビン、およびβ−チューブリンの総レベルを示す電気泳動ゲルの写真である。図3Bは、対照A549細胞、ならびにFTS、VPA、およびVPAプラスFTSで処理したA549細胞におけるサバイビン転写物のリアルタイムPCR分析を示す棒グラフである。データは、正規化した対照レベルに対する、薬物処理した細胞中の正規化したサバイビン転写物量として、百分率で示す。
【図4】VPAとFTSとの組合せが、オーロラキナーゼA転写を相乗的に阻害し、A549細胞の有糸分裂を妨害することを、対照、FTS、VPA、およびVPAプラスFTSで処理したA549細胞(72時間)におけるオーロラA(Aurk−A)転写物のリアルタイムPCR分析によって示す棒グラフである。データは、正規化した対照レベルに対する薬物処理した細胞中の正規化したオーロラA転写物量の百分率として示す。
【図5】対照、FTS、VPA、およびVPAプラスFTSで処理したA549細胞(72時間)におけるNuSAP転写物のリアルタイムPCR分析を示す棒グラフである。NuSAP転写物のレベルは、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子の発現に対して正規化したものであり、データは、正規化した対照レベルに対する、薬物処理した細胞中の正規化したAurK−A転写物量として、百分率で示す。
【図6A.6B】A549細胞およびSW−480細胞それぞれに対する、示した濃度で18日間での、SAHAプラスFTSの相乗的な成長抑制効果を示すグラフである。すべての細胞は、7、14、および18日にカウントしている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[Rasアンタゴニスト]
Rasタンパク質、たとえば、H−Ras、N−RasおよびK−Rasは、細胞成長、分化、および生存を制御するシグナル伝達経路を調節する入切スイッチとして働く[Reutherら、Curr.Opin.Cell Biol.12:157〜65(2000)]。Rasタンパク質は、形質膜の内側小葉状部分にアンカリングされ、そこで、受容体チロシンキナーゼなどの細胞表面受容体が活性化されて、Ras上でのグアノシン二リン酸(GDP)のグアノシン三リン酸(GTP)との交換、および不活性Ras−GDPの活性Ras−GTPへの変換が誘発される[Scheffzekら、Science 277:333〜7(1997)]。これらのシグナルの停止には、Ras−GTPをRas−GDPにする加水分解が必要となる[Scheffzekら、Science 277:333〜338(1997)]。Rasのいくつかの変異型は、そのGTP加水分解の受けやすさに欠陥があり、したがって構成的活性型である[Barbacid、Biochem.56:779〜827(1987)、Box、Eur.J.Cancer 31:1051〜1054(1995)]。多くのがんタイプで見られるこうした発がん性Rasタンパク質は、悪性腫瘍の一因となり、したがって指向型治療の好適なターゲットとみなされる[Bos、Cancer Res.49:4682〜4689(1989)]。活性Rasタンパク質は、細胞成長、分化の調節解除、ならびに生存、遊走、および浸潤の増進に寄与する複数のRasエフェクターの活性化を通して発がんを促進する[たとえば、Downward,J.、Nat.Rev.Cancer 3:11〜22(2003)、Shields,J.M.ら、Trends Cell Biol.10:147〜541(2000)、およびMitin,N.ら、Curr.Biol.15:R563〜74(2005)]を参照のこと]。
【0010】
形質膜との連係は、野生型および変異した構成的活性型の両方において同様に、Ras活性にとって非常に重要であることが示されている[Boguskiら、Nature、366:643〜654(1993)、Coxら、Curr.Opin.Cell Biol.4:1008〜1016(1992)、Marshall、Curr.Opin.Cell Biol.8:197〜204(1996)]。少なくとも2種の構造的要素がこの連係に必要であり、第一は、Rasのカルボキシ末端にあるファルネシルシステインカルボキシメチルエステルであり、第二の要素は、近傍の上流配列に存在し、異なるRasアイソフォームによって様々である[Hancockら、EMBO J.10:4033〜4039(1991)、Hancockら、Cell 57:1167〜1177(1989)]。正常なRas活性には、特にファルネシルイソプレノイド部分が必要であり[Coxら、Curr.Opin.Cell Biol.4:1008〜1016(1992)、Coxら、Mol.Cell.Biol.12:2606〜2615(1992)]、この部分が特異的な認識単位として働いて、H−Rasをガレクチン−1と[Elad−Sfadiaら、J.Biol.Chem.277:37169〜37175(2002)、Rotblatら、J.Biol.Chem.64:3112〜3118(2004)]、K−Rasをガレクチン−3と結合させ[Elad−Sfadiaら、J.Biol.Chem.279:34922〜34930(2004)]、強力な膜連係および強固なシグナル伝達を促進する。
【0011】
FTSは、活性のあるGTP結合型のH−Ras、N−Ras、およびK−Rasタンパク質に、どちらかと言えば特異的に作用するRas阻害剤として知られている[Weisz,B.ら、Oncogene 18:2579〜2588(1999)、Gana−Weisz,M.ら、Clin.Cancer Res.8:555〜65(2002)]。より詳細には、FTSは、形質膜において、特異的な飽和性結合部位への結合を巡ってRas−GTPと競合し、その結果、活性Rasの誤った局在化が生じ、Ras分解が促進される[Haklaiら、Biochemistry 37(5):1306〜14(1998)]。この競合的阻害により、活性Rasがその主立った下流エフェクターと相互作用することが妨げられ、活性化型Rasを収容する形質転換細胞の形質転換された表現型が逆転する。その結果として、Ras依存的な細胞成長および形質転換活性は、in vitroおよびin vivoの両方で、FTSによって強力に阻害される[Weisz,B.ら、上記を参照、Gana−Weisz,M.ら、上記を参照]。
【0012】
本発明における有用なRasアンタゴニストとして、以下に述べるFTSおよびその構造アナログが挙げられる。
【0013】
Rasアンタゴニストは、次式により表される。
【化1】

式中、Rは、ファルネシルまたはゲラニル−ゲラニルを表し、Rは、COOR、CONR、またはCOOCHROR10であり、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、アルキルまたはアルケニル(線状および分枝状のアルキルまたはアルケニルを含み、一部の実施形態では、C1〜C4アルキルまたはアルケニルを含む)であり、Rは、Hまたはアルキルを表し、R10は、アルキル(線状および分枝状のアルキルを含み、一部の実施形態では、C1〜C4アルキルを表す)を表し、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ(線状および分枝状のアルキル、アルケニル、またはアルコキシを含み、一部の実施形態では、C1〜C4アルキル、アルケニル、またはアルコキシである)、ハロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、またはアルキルメルカプトであり、XはSを表す。R、R、Rおよび/またはR10のいずれかがアルキルを表す実施形態では、アルキルは、メチル基またはエチル基であることが好ましい。Rasアンタゴニストは、薬学的に許容可能な塩の形、または治療上有効である他の任意の形態で存在してもよい。
【0014】
一部の実施形態では、Rasアンタゴニストは、S−トランス,トランス−ファルネシルチオサリチル酸またはFTS(Rはファルネシルであり、RはCOORであり、Rは水素である)である。
【0015】
一部の実施形態では、FTSアナログは、ハロゲン化されており、たとえば、5−クロロ−FTS(Rはファルネシルであり、RはCOORであり、Rはクロロであり、Rは水素である)および5−フルオロ−FTS(Rはファルネシルであり、RはCOORであり、Rはフルオロであり、Rは水素である)である。
【0016】
他の実施形態では、FTSアナログは、FTS−メチルエステル(Rはファルネシルを表し、RはCOORを表し、Rはメチルを表す)、FTS−アミド(Rはファルネシルを表し、RはCONRを表し、RおよびRは、両方とも水素を表す)、FTS−メチルアミド(Rはファルネシルを表し、RはCONRを表し、Rは水素を表し、Rはメチルを表す)、およびFTS−ジメチルアミド(Rはファルネシルを表し、RはCONRを表し、RおよびRは、それぞれメチルを表す)である。
【0017】
さらに他の実施形態では、Rasアンタゴニストは、S−プレニルチオサリチル酸アルコキシアルキルまたはFTS−アルコキシアルキルエステル(RはCOOCHROR10を表す)である。代表例としては、S−ファルネシルチオサリチル酸メトキシメチル(Rはファルネシルであり、RはHであり、R10はメチルである)、S−ゲラニルゲラニルチオサリチル酸メトキシメチル(Rはゲラニルゲラニルであり、RはHであり、R10はメチルである)、5−フルオロ−S−ファルネシルチオサリチル酸メトキシメチル(Rはファルネシルであり、Rはフルオロであり、RはHであり、R10はメチルである)、およびS−ファルネシルチオサリチル酸エトキシメチル(Rはファルネシルであり、Rはメチルであり、R10はエチルである)が挙げられる。上述の実施形態のそれぞれにおいて、別段詳細に指摘しない限り、R、R、RおよびRはそれぞれ、水素を表す。
【0018】
[HDAC阻害剤]
真核細胞中のDNAは、タンパク質と密な複合体をなして、クロマチンを形成する。ヒストンは、DNAと複合体をなす小さなタンパク質である。H2A、H2B、H3およびH4として知られるヒストンそれぞれ2分子ずつが、通常は約150塩基対の量のDNAと密な複合体をなして、ヌクレオソームを形成する。この構造は、リンカーDNAによってさらに連結されて、ソレノイドとなる。ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)およびヒストンデアセチラーゼ(HDAC)は、ヌクレオソームコアヒストンのリシン残基のアセチル基をそれぞれ付加および除去することによりヒストン尾部のアセチル化レベルを制御する、2種の酵素ファミリーである。ヌクレオソームコアから伸びるヒストンが、こうして酵素的な修飾を受け、クロマチン構造および遺伝子発現に影響を及ぼす。アセチル化されたヒストンは、転写因子および他のコアクチベータータンパク質を補充することができるので、HATは、ヒストンのアセチル化によって、転写および遺伝子発現を可能にする。HDACは通常、DNAの過剰メチル化および遺伝子サイレンシングと関連付けられる。
【0019】
HDACは、細胞増殖および分化において重要な役割を果たす。アセチル化ヒストンは、DNA転写の促進において効力が比較的弱いのに対し、脱アセチル化ヒストンは、この過程の促進において効力が比較的強い。アセチル化と脱アセチル化は、正常細胞においてはバランスが取れている。しかし、悪性細胞では、HDAC活性がHAT活性に比べて過剰になっており、脱アセチル化ヒストンのアセチル化ヒストンに対するバランスが悪くなる。このアンバランスの結果、DNA転写が度を超え、細胞増殖が制御されなくなる。細胞増殖および分化の制御にHDACが関与することは、異常なHDAC活性ががんにおいて役割を果たし得ることを示唆している。
【0020】
HDAC酵素ファミリーには、4クラス(クラスI、IIa、IIb、III、およびIV)に分類される少なくとも18種の酵素が含まれる。クラスI HDACには、HDAC1、2、3および8が含まれる。クラスI HDACは、核において見ることができ、転写制御リプレッサーおよび補助因子と関わり合いがあると考えられている。クラスIIa HDACには、HDAC4、5、7および9が含まれ、クラスIIb HDACには、HDAC6および10が含まれる。これらの酵素は、細胞質ならびに核の両方において見ることができる。特定のクラスIおよびクラスII HDACは、正常組織に比べて腫瘍で過剰発現される。Johnstone、Nature Reviews Drug Disovery 1:287〜99(2002)を参照のこと。クラスIII HDACは、NAD依存性タンパク質であると考えられており、サーチュインファミリーのメンバーであるタンパク質を含む。サーチュインタンパク質の非限定的な例として、SIRT1−7が挙げられる。クラスIV HDACには、HDAC11が含まれる。
【0021】
広範には、用語「HDAC阻害剤」とは、本明細書では、ヒストンデアセチラーゼ活性を阻害する能力を有する化合物を指す。この治療クラスは、血管新生および細胞周期をブロックし、アポトーシスおよび分化を促進し得る。HDAC阻害剤は、標的抗がん活性を示し、本明細書で開示するように、がん治療においてFTSおよびそのアナログと相乗的に作用する。
【0022】
選択的HDAC阻害剤および非選択的HDAC阻害剤は、同様に本発明において有用となり得る。用語「選択的HDAC阻害剤」とは、3種すべてのHDACクラスと実質的に相互作用しないHDAC阻害剤を指す。本明細書では、「クラスI選択的HDAC」とは、HDAC1、2、3または8の1種または複数と相互作用するが、クラスII HDAC(すなわち、HDAC4〜7、9および10)とは実質的に相互作用しないHDAC阻害剤を指す。
【0023】
本発明の一部の実施形態では、HDAC阻害剤は、クラスI選択的HDAC阻害剤などの選択的HDAC阻害剤である。本発明において有用となり得るこのような阻害剤の代表例として、モセチノスタット(Mocetinostat)としても知られているMGCD−0103(N−(2−アミノ−フェニル)−4−[(4−ピリジン−3−イル−ピリミジン−2−イルアミノ)−メチル]−ベンズアミド)などのベンズアミド、および米国特許第6,897,220号で開示されているような関連化合物、エンチノスタット(entinostat)または「SNDX−275」としても知られているMS−275((N−(2−アミノフェニル)−4−(N−(ピリジン−3−イルメトキシカルボニル)アミノメチル)ベンズアミド)などのベンズアミド、およびたとえば米国特許第6,174,905号で開示されているような関連化合物、スピルコスタチンA、SK7041およびSK7068(クラスI HDAC阻害剤、Parkら、Clin.Cancer Res.10:5271(2004))、ならびに6−アミノニコチンアミドが挙げられる。
【0024】
一部の実施形態では、HDACは、非選択的HDAC阻害剤である。本発明において有用となり得るこのような阻害剤の代表例として、トリコスタチンA(TSA)やトリコスタチンC(TSC)などのトリコスタチンアナログ(Kogheら、Biochem.Pharmacol.56:1359〜64(1998))、サリチリヒドロキサム酸(SBHA)(米国特許第5,608,108号)、アゼライン酸ビスヒドロキサム酸(ABHA)、アゼライン酸−1−ヒドロキサメート−9−アナリド(AAHA)、6−(3−クロロフェニルウレイド)カプロン酸ヒドロキサム酸(3C1−UCHA)、およびN’−ヒドロキシ−N−フェニル−オクタンジアミド(「SAHA」またはボリノスタットとしても知られるスベロイルアニリドヒドロキサム酸ならびに米国特許第5,369,108号、第6,087,367号、第7,399,787号、第7,456,219号、および第RE38,506号で開示されているような関連ヒドロキサム酸化合物)を含むヒドロキサム酸、トラポキシン(TPX、非競合的HDAC阻害剤である)などのエポキシケトン、ピロキサミド、m−カルボキシケイ皮酸ビスヒドロキサミド(CBHA;Richonら、PNAS 95:3003〜7(1998))、オキサムフラチン(oxamflatin)、A−161906、GCK1026(スクリプタイド;Leeら、Int.J.Oncol.33(4):767〜76(2008))、ベリノスタット(PXD−101、クラスIおよびII HDAC阻害剤)、LAQ−824(Remiszewskiら、J.Med.Chem.46(21):4609〜23(2003))、環状含ヒドロキサム酸ペプチド(CHAP;Furumaiら、PNAS 98(1):87〜92(2001))、MW2796およびMW2996(Andrewsら、Int.J.Parasitol.30:761〜8(2000))、パノビノスタット(LBH589)(Tanら、J Hematol Oncol.3:5(2010))、タセジナリン(tacedinaline)、CI−994、アセチルジナリン、4−アセトアミド−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(Lopreviteら、Oncol Res.15(1):39〜48(2005))、BML−210、N−(2−アミノフェニル)−N’−フェニル−オクタンジアミド(Savickieneら、Eur J Pharmacol.549(1〜3):9〜18(2006)) M344、D237、4−ジメチルアミノ−N−(6−ヒドロキシカルバモイルヘキシル)−ベンズアミド(Takaiら、Gynecol Oncol 101:108〜113(2006))が挙げられる。
【0025】
こうした実施形態のいくつかでは、非選択的HDAC阻害剤は、バルプロ酸(2−n−プロピルペンタン酸、VPA)またはその誘導体などの低分子量カルボキシレートである。VPAは、HDAC1〜3(クラスI)およびHDAC4〜8(クラスII)を阻害することが報告されている。バルプロ酸は、次式により表される。
【化2】

【0026】
本発明での使用に適するVPA誘導体は、次式により表される。
【化3】

式中、RおよびRは、それぞれ独立に、1個または数個のヘテロ原子を任意選択的に含み、置換されていてもよい、線状または分枝状、飽和または不飽和の脂肪族C2〜25、好ましくはC3〜25炭化水素鎖を表し、Rは、ヒドロキシル、アルコキシ、または任意選択的にアルキル化されたアミノ基である。炭化水素鎖RおよびRは、炭化水素鎖中に、炭素原子に代わる1個または数個のヘテロ原子(たとえば、O、N、S)を含んでいてもよい。RおよびRは、たとえば、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、およびアルコキシ基、ならびにアリール基およびヘテロ環基で置換されていてもよい。RおよびRは、別個に、2〜10個の炭素原子を含んでいることが好ましく、3〜10個または5〜10個の炭素原子を含んでいることがより好ましい。また、RおよびRは、別個に、飽和であるか、または1個の二重結合もしくは1個の三重結合を含んでいることが好ましい。特に好適であり得るVPA誘導体として、S−4−yn VPAおよび2−EHXA(2−エチル−ヘキサン酸)が挙げられる。
【0027】
HDAC阻害剤は、薬学的に許容可能な塩の形、または治療上有効である他の任意の形態で存在してもよい。
【0028】
一般に、HDAC阻害によって引き起こされるヒストンの過剰アセチル化によって、リシン側鎖の正電荷が中和され、クロマチン構造が変化し、結果としていくつかの遺伝子の転写活性化が起こって、最終的な成果が細胞周期の阻止になると考えられている。すなわち、細胞は分裂を止める。数多くのHDAC阻害剤が、現在がん臨床試験で使用されている。それらには、上記した種々のHDAC阻害剤の他に、パノビノスタット、ベリノスタット、ITF−2357、PC−24781、フェニルブチレート、SB−939、およびJHJ−26481585が含まれる。
【0029】
[組成物および方法]
RasアンタゴニストとHDAC阻害剤は共投与されるが、共投与は、本明細書では、これらの抗がん剤が、その複合治療効果の恩恵を得るために、両方の薬剤および/またはその代謝産物が患者において同時に存在するように、同じまたは異なる時間に(すなわち、事実上同時にまたは逐次に)、同じまたは異なる投与経路で、がん患者に投与される治療計画を包含する。すなわち、共投与には、別個の組成物での同時投与、別個の組成物での異なる時間での投与、および/または両方の薬剤を含有する組成物での投与が含まれる。したがって、一部の実施形態では、RasアンタゴニストとHDAC阻害剤は、単一組成物において投与される。
【0030】
用語「治療有効量」とは、本明細書では、がんおよびその関連する徴候の少なくとも1つの症状を回復させ、疾患の程度または重症度を軽減し、疾患の進行を遅らせまたは阻止し、部分的または完全な寛解を実現し、生存を引き延ばすのに十分な、RasアンタゴニストおよびHDAC阻害剤それぞれの量およびその組合せを指す。実施例に示すように、RasアンタゴニストとHDAC阻害剤を組み合わせることにより、少なくとも、がん細胞のin vitroでの成長抑制に関して、相乗的、すなわち付加的より大きい効果が実現される。出願人らは、こうした結果は、腫瘍/がん細胞成長のin vivoでの抑制活性を反映しており、最終的により効果的ながん治療、および疾患の臨床徴候の1つまたは複数の相応の改善につながると考えている。任意のがん患者のための適切な「有効」量は、用量漸増研究などの技術を使用して決定することができる。任意の特定の患者の特別な用量レベルは、RasアンタゴニストおよびHDAC阻害剤の効力、患者の年齢、体重、および全般的な健康状態、がんの重症度などのいくつかの要素に応じて決まる。
【0031】
本発明のRasアンタゴニストの平均日用量は、一般には約200mg〜約2000mg(たとえば、200mg、400mg、600mg、800mg、1000mg、1200mg、1400mg、1600mg、1800mg、および2000mg)、一部の実施形態では約400〜約1600mg、他の一部の実施形態では約600〜約1200mg、さらに他の実施形態では約800mg〜約1200mgの範囲である。HDAC阻害剤の平均日用量は、具体的な薬剤に応じて様々となる。バルプロ酸(およびその誘導体)の平均日用量は、たとえば、一般には約500mg〜約3500mg、一部の実施形態では約750〜3000mg、他の一部の実施形態では約750mg〜約1500mgの範囲である。ボリノスタット(およびその誘導体)の平均日用量は、たとえば、一般には約100mg〜約600mg、他の一部の実施形態では約200〜約500mg、他の一部の実施形態では約300mg〜約400mgの範囲である。SNDX−275(およびその誘導体)の平均週用量は、たとえば、2週間に1回、一般には約2.5mg〜約10mg、一部の実施形態では約5mg〜約10mgの範囲である。
【0032】
用語「投与する」、「投与すること」、「投与」などは、本明細書では、化合物または組成物の所望の生物学的作用部位への送達を可能にするために使用することのできる方法を指す。本発明での使用に適する医学的に許容可能な投与技術は、当業界で知られている。たとえば、GoodmanおよびGilman、The Pharmacological Basis of Therapeutics、現行版、Pergamon;およびRemington’s、Pharmaceutical Sciences(現行版)、Mack Publishing Co.、ペンシルヴェニア州イーストンを参照のこと。一部の実施形態では、少なくとも一方または両方の活性薬剤を経口投与する。他の実施形態では、少なくとも一方または両方の活性薬剤を非経口投与する(本発明の意図では、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、血管内、および注入がこれに含まれる)。局所投与や直腸投与などの他の投与経路が適する場合もある。
【0033】
用語「薬学的に許容可能な」とは、本明細書では、(1種または複数の)活性薬剤の生物学的活性または特性を損なわず、比較的非毒性である、担体や他の不活性賦形剤などの材料を指す。
【0034】
用語「医薬組成物」とは、本明細書では、任意選択的に薬学的に許容可能な担体と組み合わされた(たとえば、混合された)Rasアンタゴニストおよび/またはHDAC阻害剤を指す。こうした成分は、非毒性であり、生理学的に不活性であり、組成物中に存在する(1種または複数の)活性薬剤と不利に相互作用しない。担体は、活性薬剤の製剤および/または投与を円滑にする。本発明の医薬組成物は、1種または複数の賦形剤をさらに含有してもよい。
【0035】
Rasアンタゴニストおよび/またはHDAC阻害剤の経口組成物は、(1種または複数)の薬剤を、担体と関連させる(たとえば、混合する)ことにより調製でき、ここで担体の選択は投与方式に基づく。担体は一般に、固体または液体である。場合によっては、組成物は、固体担体と液体担体を含有してもよい。活性物を含有する、経口投与に適する組成物は、錠剤(たとえば、フィルムコート、糖衣、制御放出、または持続放出を含む)、カプセル剤、たとえば、硬ゼラチンカプセル剤(制御放出または持続放出を含む)および軟ゼラチンカプセル剤、粉末および顆粒などの固体剤形にすることが好ましい。しかしながら、組成物は、他の経口形態、たとえば液体またはゲルでの患者への投与を可能にする、他の担体中に含まれていてもよい。形態にかかわらず、組成物は、所定の量の1種または複数の活性成分を含む個別または組合せの用量に分けられる。
【0036】
経口剤形は、1種または複数の活性医薬成分を1種または複数の適切な担体と(任意選択的に1種または複数の他の薬学的に許容可能な賦形剤と共に)混合し、次いで組成物を所望の剤形に製剤することにより、たとえば、組成物を錠剤に圧縮する、または組成物をカプセルもしくは小袋に充填することにより調製できる。典型的な担体および賦形剤として、ラクトース、デンプン、マンニトール、微結晶性セルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、第二リン酸カルシウム、アカシア、ゼラチン、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、トウコロコシ油、植物油、およびポリエチレングリコールを含む、増量剤もしくは希釈剤、結合剤、緩衝剤もしくはpH調整剤、崩壊剤(架橋およびスーパー崩壊剤、たとえばクロスカルメロースを含む)、流動促進剤(glidant)、および/または滑沢剤が挙げられる。糖、セラック、合成ポリマーなどのコーティング剤、ならびに着色剤および保存剤を用いることもできる。Remington’s Pharmaceutical Sciences,The Science and Practice of Pharmacy、第20版(2000)を参照のこと。
【0037】
液体形態の組成物としては、たとえば、溶液、懸濁液、乳濁液、シロップ、エリキシル、および加圧組成物が挙げられる。たとえば、(1種または複数の)活性薬剤を、水、有機溶媒(およびその混合物)、および/または薬学的に許容可能な油脂などの薬学的に許容可能な液体担体に溶解または懸濁させることができる。経口投与用の液体担体の例として、水(特に、前述のような添加剤、たとえば、セルロース誘導体を好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム溶液中の懸濁液にしたものを含有する)、アルコール(一価アルコールおよび多価アルコール、たとえばグリセリンおよび非毒性グリコールを含む)およびその誘導体、ならびに油(たとえば、ヤシ油およびラッカセイ油)が挙げられる。液体組成物は、可溶化剤、乳化剤、緩衝剤、保存剤、甘味剤、着香剤、懸濁化剤、増粘剤、着色剤、粘度調整剤、安定剤、浸透圧調節剤などの適切な他の医薬添加剤を含有していてもよい。
【0038】
非経口投与用組成物の調製に適する担体としては、注射用滅菌水、注射用静菌水、塩化ナトリウム注射液(0.45%、0.9%)、デキストロース注射液(2.5%、5%、10%)、乳酸化リンゲル注射液などが挙げられる。グリセロール、液体ポリエチレングリコール、これらの混合物、および油中に分散液を調製することもできる。組成物は、等張化剤(たとえば、塩化ナトリウムおよびマンニトール)、抗酸化剤(たとえば、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、およびアスコルビン酸)、および保存剤(たとえば、ベンジルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、およびメチルパラベンとプロピルパラベンの組合せ)も含有し得る。
【0039】
RasアンタゴニストおよびHDAC阻害剤を含有する医薬組成物、またはRasアンタゴニストおよびHDAC阻害剤をそれぞれ含有する第一および第二の組成物は、キットの形で包装および販売することができる。たとえば、組成物は、活性薬剤の一方または両方を含有する錠剤やカプセル剤(たとえば、硬ゼラチンカプセル剤または軟ゼラチンカプセル剤)などの1種または複数の経口剤形の形にすることができる。キットには、本明細書に記載の本発明の方法を実施するための取扱説明書を含めてもよい。
【0040】
一部の実施形態では、Rasアンタゴニストは、(単一または分割用量で)毎日経口的に3週間服用させ、続いて1週間の「休止期間」を置き、寛解に到達するまで繰り返すことにより投与される。こうした実施形態では、HDAC阻害剤が同じ組成物中に存在していてもよい。他の一部の実施形態では、たとえばVPAを、単一または分割投与量で毎日(たとえば、1日2回または3回)投与する。ボリノスタットは、たとえば、約400mgの初期用量で1日1回服用させることができ、次いでこれを300mgの日用量に減らし、次いで300mgで5日間毎日連続して続けることができる。SNDXは、約5mgまたは10mgの量で2週間毎に投与することができる。
【0041】
がんとは一般に、身体の隣接した組織または他の部分に広がり得る、細胞の制御されない異常な成長によって引き起こされる疾患を指す。がん細胞は、がん細胞が一まとまりになっている固形腫瘍を形成する場合もあり、またはがん細胞は、白血病でのように分散した細胞として存在する場合もある。正常細胞は、成熟に至るまで、また損傷または死滅した細胞の補充に必要な場合に限り分裂(複製)する。がん細胞は、永久に分裂し、最終的に近傍の細胞を締め出し、身体の他の部分に広がるので、しばしば「悪性」と呼ばれる。悪性のがん細胞は、結局は血流またはリンパ系を介して身体の他の部分に転移および拡散し、そこで増殖し、新たな腫瘍を形成し得る。悪性腫瘍は、癌腫(上皮性前駆細胞から生じる)、肉腫(主として間葉組織から生じる)、およびリンパ腫(赤血球および白血球の前駆体から生じる)に類別される。
【0042】
増大した野生型Rasの存在または変異したRasタンパク質の存在を特徴とするがんは、本発明による治療の影響を受けやすい。そうしたがんには、ヒトリンパ腫、肉腫、および癌腫、たとえば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、滑膜腫、中皮腫、リンパ管内皮肉腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸直腸(たとえば、結腸)癌、胃腸(たとえば、胃)がん、膵臓がん、甲状腺がん(たとえば、濾胞性、乳頭状、および未分化甲状腺癌)、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、ヘパトーム、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頚がん、精巣腫瘍、非小細胞肺癌(NSCLC)、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、たとえば、急性リンパ球性白血病(ALL)および急性骨髄性白血病(AML)(骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、および赤白血病)を包含する白血病、慢性白血病(慢性骨髄性(顆粒球性)白血病(CML)および慢性リンパ球性白血病)(CLL)、真性多血症、リンパ腫(たとえば、ホジキン病、非ホジキン病、および皮膚T細胞リンパ腫を包含する)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、ならびに重鎖病が含まれる。
【0043】
一部の実施形態では、本発明は、腎癌、皮膚がん、膵臓がん、結腸直腸(たとえば、結腸)がん、NSCLC、卵巣がん、肝細胞(肝)がん、甲状腺がん、精上皮腫、皮膚がん、子宮内膜がん、黒色腫、白血病、リンパ腫、前立腺がん、膀胱および泌尿器のがん、乳がん、ならびにこれら原発腫瘍の脳転移、原発性脳がん(神経膠腫や神経芽細胞腫など)、および頭頸部がんに罹患している患者の治療に使用する。たとえば、Bos、Cancer Res.49:4682〜89(1989)を参照のこと。
【0044】
RasアンタゴニストとHDAC阻害剤との組合せは、単独で使用しても、または他の治療剤、たとえば、生物学的抗がん剤(たとえば、抗体)、化学療法、および放射線と共に使用してもよい。この組合せは、一次治療戦略として、たとえば、がんが転移しているかいないかにかかわらず、新たに診断されたがん患者における初回の治療として、使用することができる。この組合せはまた、二次治療戦略として、たとえば、少なくとも1種の他の薬剤を使用して以前に治療を受けたことがあるが、以前の(1種または複数の)薬剤に反応しなかった、またはそれに対して抵抗性が出てしまい、そのため、はっきりとわかる治療有効性が実現できる前に治療を終了する結果となってしまった可能性もあるがん患者の治療において使用することもできる。
【0045】
ここで、本発明の実施形態について、以下の非限定的な実施例によって説明する。
【0046】
[実施例1:異なる3種類のがん細胞においてFTSとVPAの相乗効果を示すin vitro実験]
−細胞系−
発がん性K−Rasを発現するヒトA549非小細胞肺癌細胞(CCL−185、ATCC)は、1.5g/Lの炭酸水素ナトリウム、10%のウシ胎児血清(FCS)、100U/mlのペニシリン、および100μg/mlのストレプトマイシンで補充したKaighn変法ハムF12培地(Sigma)で維持した。
【0047】
同じく発がん性K−Rasを発現する、ヒト結腸腺癌細胞であるDLD1およびSW−480は、10%のFCS、2mMのL−グルタミン、100U/mlのペニシリン、および100μg/mlのストレプトマイシンを加えたDMEMで培養した。
【0048】
野生型K−Rasが慢性的に活性であり、B−Rafが構成的に活性である、甲状腺癌細胞AROは、10%のFCS、2mMのL−グルタミン、100U/mlのペニシリン、および100μg/mlのストレプトマイシンを加えたRPMI1640培地で培養した。
【0049】
細胞はすべて、95%の空気および5%のCOの加湿雰囲気中にて37℃でインキュベートした。
【0050】
−薬物の調製−
FTSは、Rotbalt、Meth.Enzymol.439:467〜89(2008)に従前から記載されているとおりに調製した。
【0051】
VPAは、4℃で粉末として貯蔵し、各実験の前に秤量し、細胞培地で希釈して所望の濃度とした。
【0052】
SAHAは、DMSOで5mMの濃度に再構成し、10μlの保存液に分け、4℃で貯蔵した。各実験では、1つの保存液を、細胞培地を使用して所望の濃度に希釈した。
【0053】
増殖アッセイ
細胞の生存を判定するために、A549細胞、DLD1細胞、SW−480細胞、およびARO細胞を、24ウェルプレートに1ウェルあたり8×10細胞の密度で播いた。24時間後、0.1%MeSO(Concordia Pharmaceuticals、フロリダ州フォートローダーデール)に溶解させたVPA(Sigma)、SAHA(Alexis)、もしくはFTS、またはFTSとVPAの組合せ、またはFTSとSAHAの組合せで、細胞を指定の時間処理した。対照細胞は、0.1%MeSOで処理した。3日より長いインキュベート時間の場合、細胞を分離し、カウントし、10cmプレートあたり3×10細胞の密度で播き直した。以下は、異なる細胞系で使用したVPA、SAHA、およびFTSの濃度である。
【表1】

【0054】
トリパンブルーを使用して生細胞を直接カウントすることにより、細胞成長を推定した。実験は、4通りに2回実施した。
【0055】
−蛍光活性化細胞選別機(FACS)分析−
A549細胞、DLD1細胞、およびARO細胞(10cmプレートあたり4×10細胞)を24時間播いておき、次いで、10%のFCSを含有する培地においてVPAおよびFTSと共にさらに72時間インキュベートした。次いで細胞を収集し、ヨウ化プロピジウム(50μg/mL、Sigma)、0.1%のクエン酸ナトリウム、および0.1%のTriton x−100(BDH、英国プール)を含有するPBSに再懸濁し、暗所にて4℃で一晩インキュベートした。
【0056】
次いで細胞を蛍光活性化細胞選別機(FACS Calibur、Becton Dickinson、カリフォルニア州ロサンゼルス)による分析にかけた。実験は2通りに2回実施した。
【0057】
−ウエスタンブロット解析−
FTSが培養細胞のタンパク質レベルに与える効果を調べるために、A549細胞、DLD1細胞、およびARO細胞を10cmプレートあたり4×10細胞の密度で播き、24時間成長させた。次いで、0.1%MeSO(対照)、FTS、VPA、SAHA、VPAとFTSの組合せ処理、またはFTSとSAHAの組合せ処理により、細胞を72時間処理した。次に、300μlのホモジナイズ緩衝液(50mmol/LのTris−HCl(pH7.6)、20mMのMgCl、200mMのNaCl、0.5%のNP40、1mMのDTT、およびプロテアーゼ阻害剤)に細胞を溶解させ、4℃で10分間14,000rpmで遠心分離し、上清を集めた。等しい量のタンパク質(1レーンあたり50〜100μg)をSDS−PAGEにかけた後、ウサギ抗サイクリンD1(1:1,000)、マウス抗pan−Ras抗体Ab(Calbiochem)、ウサギ抗サバイビンAb(Santa Cruz、カリフォルニア州)、およびウサギ抗β−チューブリンAb(Sigma)を用いた免疫ブロットにかけた。次いでブロットを適切なペルオキシダーゼ結合二次IgG(1:5,000)に暴露し、強化化学発光にかけた。Zundelevichら、Mol.Cancer Ther.31:31(2007)。TINA2.0ソフトウェア(Ray Tests)を使用する濃度測定によって、タンパク質バンドを定量化した。
【0058】
−免疫蛍光および共焦点顕微鏡観察−
10cmプレートに配置されたガラスカバースリップ上にA549細胞を4×10細胞/プレートの密度で24時間播いておいた後に、0.1%のMeSO、75μMのFTSもしくはVPAを0.8mM、またはVPA+FTSを加えてさらに24時間または72時間おいた。その後、細胞を室温で30分間ホルムアルデヒド固定し、次いで0.2%のTriton X−100で処理した。リン酸緩衝溶液(PBS)で3回洗浄した後、スライドを、200μg/mLの無処置ヤギIgG(Jackson ImmunoResearch)を含有する1%ウシ血清アルブミン(BSA)に30分間浸漬し、次いで、ウサギ抗オーロラA(1:50、Cell Signaling、マサチューセッツ州ダンヴァーズ)、抗オーロラB(1:50、Bethyl Labs、テキサス州Montgomery)、またはマウス抗ホスホ−H3(1:50、Upstate、バージニア州シャーロッツヴィル)と共に4℃で一晩インキュベートした。PBSでさらに3回洗浄した後、細胞をヤギ抗マウスCy3結合Abまたはロバ抗ウサギCy2結合Ab(1:200、Jackson ImmunoResearch)と共に暗所で1時間インキュベートした。次いで細胞をPBS中で2回洗浄し、抗α−チューブリンFITC Ab(1:50、sigma、F2168)と共に室温で1時間さらにインキュベートした。最後に、細胞をHoechst 33258(Fluka AG、CH9470)で対比染色し、LSM 510 META顕微鏡を用いた拡大率60倍での蛍光顕微鏡観察によって調べた。
【0059】
−全RNA精製−
A549細胞を75μMのFTS、0.8mMのVPA、0.1%のビヒクル(対照)、または75μMのFTSプラス0.8mMのVPAのいずれかで72時間処理した。RNeasy Plus Mini Kit(Qiagene)に収められているプロトコールおよび試薬を使用して、培養細胞から全RNAを単離した。分光光度計において260nm(A260)で吸光度を測定することにより、RNAサンプルの濃度を決定した。精製したRNAをRNase−free水中にて−70℃で貯蔵した。この精製RNAをリアルタイムPCRに使用した。
【0060】
−リアルタイムPCR分析−
Verso(商標)RT−PCRキット(ABgene)を使用して、全RNA(1μg)の抽出物を総体積20μLで逆転写した。次いで、1μLのcDNAサンプルをリアルタイムPCR(QPCR SYBR Green Mix Plus ROX Vial、ABgene)に使用した。使用したプライマーは、サバイビン、AurK−A、およびNuSap遺伝子、ならびにハウスキーピング遺伝子GAPDHをターゲットとするものとした。これら実験に使用するプライマー配列を以下の表に示す。
【表2】

【0061】
−統計解析−
データは、平均±SDとして表示する。平均値の差の統計的有意性を、一方向ANOVAに続き、Tukey事後検定で評価した。P値≦0.05を有意であるとみなした。
【0062】
−結果−
VPAおよびFTSは、Ras経路が活発な細胞の成長を相乗的に抑制する。
【0063】
VPAとFTSの併用処理が細胞の成長および死滅に及ぼす効果を調べるために、A549細胞、DLD1細胞、およびARO細胞を、2種の阻害剤のそれぞれ、およびその組合せと共に、またはこれらなしでインキュベートした。細胞を阻害剤と共に72時間インキュベートし、次いで画像処理し、直接カウントした。阻害剤のそれぞれにより、細胞数が有意に減少し、組合せでは、VPAまたはFTS単独よりもはるかに大きく細胞数が減少した(図1)。詳細には、A549細胞において、細胞数は、阻害剤それぞれ単独で50%の減少となり、組合せにより90%の減少となった。DLD1細胞およびARO細胞でも同様の結果が得られた(図1)。これらの結果は、HDAC阻害剤およびRas阻害剤が、Ras経路が活発な細胞において細胞成長の協調的な阻害を発揮したことを示唆した。
【0064】
予想外に、このような細胞、たとえば、A549(図2A)およびDLD1(図2B)を72時間(5日)より長い期間阻害剤と共にインキュベートしたとき、顕著な成長抑制効果が観察された。VPAまたはFTSで処理した細胞は、対照と比べて相対的にゆっくりとしたペースで成長し続けたが、2種の阻害剤で一緒に処理した細胞は、驚くべきことに成長が止まり、完全に成長が停止した(図2Aおよび2B)。さらに、VPAプラスFTSで処理した細胞(72時間の処理)のFACS解析では、S期の細胞の相乗的な減少が示された(図2C)。
【0065】
したがって、本発明者らは、Ras経路が活発なNSCLC細胞の成長を抑制するのに、VPAとFTSが相乗的に働くと結論付けた。
【0066】
VPAおよびFTSは、A549細胞およびDLD1細胞においてサバイビンを相乗的に下方制御する
次に、本発明者らは、RasおよびRasの既知の下流ターゲットに対するVPAとFTSの併用効果について調べた。A549細胞およびDLD1細胞を、VPAまたはFTS単独で、または両方の薬物で72時間処理した。次いで、Ras、サイクリンD1、およびサバイビンタンパク質のレベルにこの処理が与える影響を、特異的Abを用いるウエスタン免疫ブロット法によって明らかにした。サバイビンは、いくつかのカスパーゼに対する阻害作用を通して抗アポトーシス性の因子として、ならびに紡錘体との関連を通して細胞周期の進行に重要な因子として作用することがわかっている。Blumら、Mol.Cancer Ther.5:2337〜47(2006)、Delacour−Laroseら、Med.Sci(Paris)24:828〜32(2008)。サバイビンは、オーロラB、INCENP、およびボレアリンも含んでいる染色体パッセンジャー複合体(CPC)の重要なサブユニットであるとみなされる。Ruchaudら、Mol.Cell Biol.8:798〜812(2007)。CPC複合体は、有糸分裂における重要な側面を制御する。Vagnarelli、Chromosoma 113:211〜22(2004)。サイクリンD1は、細胞が細胞周期のS期に入るのに不可欠である。サイクリンD1は、活発に増殖する細胞において細胞周期の調節スイッチとして働く。Stacey、Curr Opin Cell Biol.15(2):158〜63(2003)。
【0067】
これらの実験の典型的な結果(図3A)では、A549細胞およびDLD1細胞において、RasおよびサイクリンD1のレベルが、FTSによって有意に低下したが、VPAでは低下しなかったことが示された。これらの結果は、FTSの既知の抗Ras活性と矛盾していない。Erlichら、Biochem.Pharmacol.72:427〜36(2006)、Blumら、Int.J.Cancer 119:527〜38(2006)。VPAは、それ自体ではRasおよびサイクリンD1のレベルに影響を及ぼさない(図3A)。しかしながら、Ras、サイクリンD1、およびサバイビンに対する併用処理の効果は、いずれかの薬物単独の効果より明らかに強かった(図3A)。従前の研究では、FTSによってRasが阻害されると、Ras依存的なRaf−MEK−ERK経路およびPI3K−Akt経路が阻害されて、活性Rasを示す細胞においてサイクリンD1のプロテアソーム分解が増強されるために、サイクリンD1タンパク質が下方制御されたことが示されている。Erlichら、Biochem.Pharmacol.72:427〜36(2006)、Blumら、Int.J.Cancer 119:527〜38(2006)。これにより、A549およびDLD1細胞においてRasおよびサイクリンD1の減少が認められたことの説明がつく。同様に、本発明者らは、Rasが、神経膠芽腫においてサバイビンの転写をプラス方向に調節することも示していた。Blumら、Mol.Cancer Ther.5:2337〜47(2006)。Rasによるサバイビン発現のプラス方向への制御は、FTSで処理した細胞においてサバイビンmRNAおよびタンパク質のレベルが低下することに現れるように、FTSによって(またはドミナントネガティブRasによって)緩められる場合がある。Blumら、Mol.Cancer Ther.5:2337〜47(2006)。この結果は、A549およびDLD1において、サバイビンタンパク質レベルがFTSによって同様に激しく低下することを示している(図3A)。この結果は、少なくとも、2種の薬物が、細胞成長サイクルに加えて、関連のない細胞経路にも影響を及ぼすという観点から、予想外であった。
【0068】
VPAおよびFTSは、A549細胞においてオーロラキナーゼA転写を相乗的に阻害し、有糸分裂をブロックする
サバイビンのレベルにおいてVPAとFTSの非常に強力な相乗効果が検出された。2種の薬物の存在下では、細胞系のいずれにおいてもサバイビンタンパク質を検出することができなかった(図3A)。実際に、サバイビンmRNAを測定するRT−PCRでは、サバイビン転写物のレベルの低減においてVPAとFTSの強力な相乗作用が示された(図3B)。これは、サバイビン転写の阻害、または小分子RNAにより媒介されるmRNA安定性の低下の結果であるとすることができるであろう。
【0069】
これらのデータは、観察された、サバイビンを完全に消失させるFTSとVPAの相乗効果が、2種の薬物の存在下で認められた細胞周期停止(図2A)と関連付けられることを示唆している。本発明者らは、サバイビンの消失は、主として有糸分裂に欠陥を生じさせると仮定した。したがって、本発明者らは、阻害剤と共に72時間インキュベートしたA549細胞において、VPA、FTS、およびこれら組合せがオーロラA発現に与える影響を調べた(図4)。VPA単独では、オーロラA発現に対する阻害効果は非常に小さく(10%±10)、FTSは、57%±7の阻害というより強い効果を示し、VPAとFTSの組合せは、オーロラA発現を相乗的に完全にブロックした(96%±1.5の阻害、図4)。
【0070】
これらの結果に照らして、本発明者らは次いで、薬物の分裂中期細胞に対する影響を、三重蛍光共焦点顕微鏡法を使用し、染色体(Hoechstで標識、青色蛍光)、オーロラA(抗オーロラA AbおよびCy3−Ab、赤色蛍光)、およびこれらの細胞において紡錘極の強力な標識となるα−チューブリン(FITC標識抗α−微小管Ab、緑色蛍光)を検出して調べた。これらの実験および後続の実験では、細胞を薬物と共に24時間インキュベートして、M期細胞の検出が可能になるようにした。対照細胞について本発明者らが得た画像(図示せず)は、先の報告(Zhangら、Cancer Biol.Ther.7:1388〜97(2008))と合致する。すなわち、画像は、紡錘体赤道面上に整列した典型的な中期染色体(青色)を示し、オーロラAが紡錘極に局在化していることがわかる。VPAのみでの処理では、紡錘極におけるオーロラAのレベルに対する効果が相対的に存在せず(15%±10の低下、n=30、p>0.05)、FTS処理ではより強い効果が示され(60%±12の低下、n=30、p<0.001)、併用処理では、紡錘極においてオーロラAがほぼ完全に消失する結果となった(95%±6の低下、n=30、p<0.001)。これらの結果は、RT−PCRデータ(図4)と一致している。さらに、以前の研究であるVader、Biochim.Biophys.Acta.1786:60〜72(2008)とも合致して、画像は、分裂中期の対照細胞の染色体が紡錘極の中間に局在化し、紡錘極は、オーロラAと共局在することを実証している。薬物処理により、こうした構造は破壊されなかったが、オーロラAのレベルが低下し、またはオーロラAが完全に消失した。オーロラAは、正確な二極の紡錘構築に不可欠であるので、これらの結果は、VPAおよびFTSの存在下で認められた完全な成長停止(図2A)と整合性がある。
【0071】
VPAおよびFTSは、オーロラキナーゼB発現およびヒストン−H3リン酸化を相乗的にブロックする
オーロラBは、分裂中期の間、動原体に局在化し、異常なオーロラB発現は、有糸分裂に不可欠であるホスホヒストン−H3(ser10)レベルの低下と同時に起こる。Vader、Biochim.Biophys.Acta.1786:60〜72(2008)。FTS処理したA549細胞(75μMのFTSで72時間)における本発明者らの以前の遺伝子プロファイリング分析(Blumら、Cancer Res.67:3320〜8(2007))では、オーロラB発現の減少が示されている。他の研究では、HDAC阻害剤が、オーロラBのレベルを低下させたことが示されている。Zhangら、Cancer Biol.Ther.7:1388〜97(2008)。したがって、本発明者らは次に、A549細胞においてVPAおよびFTSがオーロラBおよびホスホヒストンH3(ser10)レベルに与える合算した影響について調べた。三重蛍光共焦点顕微鏡法を使用して、染色体(Hoechstで標識、青色蛍光)、オーロラB(抗オーロラB AbおよびCy3標識Ab、赤色蛍光)、およびホスホヒストンH3(ser 10)(抗ホスホヒストンH3(ser 10)AbおよびCy2標識Abで標識、緑色蛍光)を検出した(写真は示さず)。本発明者らは、24時間の処理の後、VPAによってオーロラB(30%±8の阻害)およびホスホヒストンH3が減少し、FTSによってオーロラBが30%±7阻害されたことを見出した。予想外に、併用処理によって、オーロラBが完全に消失した(90%±5の阻害)。先の研究と合致して、オーロラBレベルの低下には、染色体濃度の低下が伴った。Shannon、Curr.Biol.12:R458〜60(2002)、Vasら、Cell Cycle 7:293〜6(2008)。
【0072】
FTS処理したA549細胞における有糸分裂の欠陥
次に、本発明者らは、薬物により長い時間(72時間)暴露したA549細胞において、FTSがオーロラBに与える影響を調べた。細胞を上記に詳述したように標識し、次いで三重蛍光共焦点顕微鏡法を使用して画像処理した。上記で指摘したように、M期細胞で検出したとき、薬物で24時間処理した細胞において、FTSは、オーロラBに対して30%の効果を示した(写真は示さず)。本発明者らは、FTS 72時間後のM期細胞を調べた際、以前の遺伝子プロファイリング分析と一致する、オーロラBの激しい減少(60%±7、示さない)を見出した。Blumら、Cancer Res.67:3320〜8(2007)。さらに、本発明者らは、細胞質分裂の間のオーロラBの局在化に対するFTSの強力な効果を検出した。従前の実験(Terada、Cell Struct.Funct.26:653〜7(2001))と一致して、分裂終期の対照細胞は、α−チューブリンを標識とする紡錘中央体を示し、そこにオーロラBも局在化していた。それに著しく反して、FTS処理した細胞では、オーロラBが中央体からは完全に誤った場所に局在化した(写真は示さず)。これらの結果から、FTSの長期間の効果は、オーロラBが誤った場所に局在化して正しく完了し得ない、細胞質分裂の欠陥としても現れることがまた示された。Kollareddyら、Bomed.Pap.Med.Fac.Univ.Palacky Olomouc Czech Repub.152:27〜33(2008)。対照M期細胞の正常な紡錘構造とは異なり、FTS処理したM期細胞の紡錘体は、不完全であった(図示せず)。さらに、G2期のFTS処理細胞では、ビヒクル処理した対照の正常な二極紡錘構造とは対照的に、三極の紡錘体が検出された(図示せず)。こうした条件下(FTSで72時間)では、細胞が完全に成長を阻止されたので、本発明者らは、VPAとFTSの複合効果を検出することができなかった。
【0073】
最近の実験では、核小体および紡錘体関連タンパク質(NuSAP)が、有糸分裂の紡錘体編成に関与する新規の微小管関連タンパク質であることが示されている。Fujiwaraら、Br.J.Haematol.135:583〜90(2006)、Ribbeckら、Curr.Biol.17:230〜6(2007)。実際に、NuSapに対するsiRNAは、正常な紡錘体の形成を妨害している。Raemaekersら、J.Cell.Biol.162:1017〜29(2003)。したがって、本発明者らは、A549細胞においてVPAとFTSの組合せがNuSAP転写のレベルに与える影響を調べた。図5に示すように、VPA単独では弱い効果しか示されず(10%±10の阻害)、FTS単独は効果が強く(66%±8阻害)、併用処理によりNuSAP発現がほぼ完全に阻害された(95%±1の阻害)。これらの結果は、VPAとFTSの組合せがサバイビンおよびオーロラキナーゼの減少において相乗作用を示したという所見に加えて、併用処理によって、観察された細胞成長停止を説明付ける分裂期細胞死が導かれることを示唆している(図2A)。
【0074】
SAHAおよびFTSは、A549およびSW−480細胞系の成長を相乗的に抑制する
本発明者らは、A549およびSW−480細胞でSAHAプラスFTS処理の組合せについて調べた。細胞を、これらの薬剤それぞれと共に、または薬剤なしで、またこれらの組合せと共に72時間インキュベートし、次いで画像処理し、直接カウントした(写真は示さず)。阻害剤それぞれにより、細胞数が有意に減少した。組合せにより、SAHAまたはFTS単独よりも、細胞数がはるかに大きく減少した。これらの結果は、FTSの相乗効果が、他の異なるHDAC阻害剤とでも実現できることを示唆している。
【0075】
細胞を阻害剤と共に72時間より長時間インキュベートしたとき、SAHA単独での処理により、著しい成長抑制効果がもたらされたが、細胞は非常にゆっくりとしたペースで成長し続けた。併用処理した細胞は、成長が止まり、完全に成長が停止した(図6Aおよび6B)。SAHAでの処理はアポトーシスを高めたので、SAHAプラスFTS処理の機序は、VPAプラスFTSの機序とはやや異なるように思われる。併用処理した細胞では、2種の集団、すなわち、アポトーシス細胞からなる第一の集団、およびアポトーシスを免れ、完全に成長が停止した細胞からなる第二の集団が観察された。
【0076】
次に、本発明者らは、A549細胞系において、SAHAとFTSの併用処理がサバイビンおよびオーロラAタンパク質レベルに与える効果を調べた。SAHA処理により、オーロラAおよびサバイビンが減少した(データは示さない)。SAHAプラスFTSの併用処理により、オーロラAタンパク質レベルはより大きく減少し、サバイビンタンパク質レベルはSAHA単独での処理と同様に減少した。
【0077】
[実施例2:FTS(200mg)およびバルプロ酸ナトリウム(230mg、VPA 200mgに相当)を含有する錠剤]
FTS活性医薬成分(2.0kg)、バルプロ酸ナトリウム活性医薬成分(2.3kg)、微結晶性セルロース(2.0kg)、クロスカルメロースナトリウム(0.2kg)、およびステアリン酸マグネシウム(0.1kg)を均質に混和し、打錠機で錠剤に圧縮する。材料の移動、ならびに打錠機の始動、調整、および停止での5%の損失を想定し、FTS(200mg)およびバルプロ酸ナトリウム(230mg)を含有する、およそ9,500錠が得られる。
【0078】
[実施例3:FTS(100mg)およびバルプロ酸ナトリウム(230mg、VPA 200mgに相当)を含有する硬ゼラチンカプセル剤]
FTS活性医薬成分(1.0kg)、バルプロ酸ナトリウム(2.3kg)、微結晶性セルロース(2.0kg)、クロスカルメロースナトリウム(0.2kg)、およびステアリン酸マグネシウム(0.1kg)を均質に混和し、カプセル化装置で硬ゼラチンカプセルに充填する。材料の移動、ならびにカプセル化装置の始動、調整、および停止での5%の損失を想定し、およそ9,500カプセルが得られる。
【0079】
[実施例4:FTS(100mg)およびボリノスタット(100mg)を含有する硬ゼラチンカプセル]
FTS活性医薬成分(2.0kg)、ボリノスタット活性医薬成分(2.0kg)、微結晶性セルロース(2.0kg)、クロスカルメロースナトリウム(0.2kg)、およびステアリン酸マグネシウム(0.1kg)を均質に混和し、カプセル化装置で硬ゼラチンカプセルに充填する。材料の移動、ならびにカプセル化装置の始動、調整、および停止での5%の損失を想定し、およそ19,000カプセルが得られる。
【0080】
[実施例5:FTS(100mg)およびVPA(100mg)を含有する軟ゼラチンカプセル]
FTS活性医薬成分(2.0kg)およびVPA活性医薬成分(2.0kg)をトウモロコシ油(4.0kg)に溶解させ、撹拌して均質な溶液とした。製袋−充填−シールカプセル化機で軟ゼラチンカプセルに溶液を充填する。材料の移動、ならびに軟ゼラチンカプセル化装置の始動、調整、および停止での5%の損失を想定し、FTS(100mg)およびVPA(100mg)を含有する、およそ19,000カプセルが得られる。
【0081】
すべての特許刊行物および非特許刊行物は、本発明が属する分野の技術者の技量のレベルを示唆する。これらの刊行物はすべて、個々のそれぞれの刊行物について引用することにより本明細書の一部をなすものとすると明確かつ個別に指摘した場合と同じく、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0082】
本明細書では本発明について特定の実施形態に関して述べてきたが、それらの実施形態は、単に本発明の原理および応用の具体例に過ぎないことを理解されたい。したがって、その具体例となる実施形態に数多くの変更を加えてもよいこと、ならびに添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の意図および範囲から逸脱することなく、他の計画を考案してもよいことを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】

【化1】

[式中、Rは、ファルネシルまたはゲラニル−ゲラニルを表し、Rは、COOR、CONR、またはCOOCHROR10であり、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、またはアルケニルであり、Rは、Hまたはアルキルを表し、R10は、アルキルを表し、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、またはアルキルメルカプトであり、XはSを表す]により表されるRasアンタゴニストと、
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の阻害剤と、
薬学的に許容可能な担体とを含み、
前記Rasアンタゴニストおよび前記HDAC阻害剤は組成物中に治療有効量で存在する、がん患者を治療するための組成物。
【請求項2】
前記RasアンタゴニストがFTSである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記Rasアンタゴニストが、5−クロロ−FTS、5−フルオロ−FTS、FTS−メチルエステル、FTS−アミド、FTS−メチルアミド、FTS−ジメチルアミド、S−ファルネシルチオサリチル酸メトキシメチル、S−ゲラニルゲラニルチオサリチル酸メトキシメチル、5−フルオロ−S−ファルネシルチオサリチル酸メトキシメチル、およびS−ファルネシルチオサリチル酸エトキシメチルからなる群から選択されるFTSアナログである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記HDAC阻害剤がバルプロ酸である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記HDAC阻害剤がボリノスタットである、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記HDAC阻害剤がSNDX−275である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記薬学的に許容可能な担体が液体である、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記薬学的に許容可能な担体が固体である、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
錠剤またはカプセル剤の形態である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
がん患者を治療するための方法であって、前記患者に、治療有効量の、式
【化2】

[式中、Rは、ファルネシルまたはゲラニル−ゲラニルを表し、Rは、COOR、CONR、またはCOOCHROR10であり、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、またはアルケニルであり、Rは、Hまたはアルキルを表し、R10は、アルキルを表し、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、またはアルキルメルカプトであり、XはSを表す]により表されるRasアンタゴニストと、
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の阻害剤とを共投与するステップを含む方法。
【請求項11】
前記Rasアンタゴニストと前記HDAC阻害剤とを同一剤形で投与する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記共投与が経口送達によるものである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記がんが、腎癌、皮膚がん、膵臓がん、結腸直腸がん、NSCLC、卵巣がん、肝がん、甲状腺がん、精上皮腫、皮膚がん、子宮内膜がん、黒色腫、白血病、骨髄異形成症候群、リンパ腫、前立腺がん、膀胱および泌尿器のがん、乳がん、ならびに前記がんおよび癌腫の脳転移、原発性脳がん、および頭頸部がんからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記がんが甲状腺がんである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記がんが結腸がんである、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記がんが肺がんである、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記RasアンタゴニストがFTSである、請求項10から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記Rasアンタゴニストが、5−クロロ−FTS、5−フルオロ−FTS、FTS−メチルエステル、FTS−アミド、FTS−メチルアミド、FTS−ジメチルアミド、S−ファルネシルチオサリチル酸メトキシメチル、S−ゲラニルゲラニルチオサリチル酸メトキシメチル、5−フルオロ−S−ファルネシルチオサリチル酸メトキシメチル、およびS−ファルネシルチオサリチル酸エトキシメチルからなる群から選択されるFTSアナログである、請求項10から16のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記HDAC阻害剤がバルプロ酸である、請求項10から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記HDAC阻害剤がボリノスタットである、請求項10から18のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記HDAC阻害剤がSNDX−275である、請求項10から18のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
治療有効量の、本明細書の式により規定されるRasアンタゴニストおよびHDAC阻害剤を含有する第一の剤形、または、RasアンタゴニストおよびHDAC阻害剤をそれぞれ含有する別々の剤形と、任意選択的に、1つまたは複数の剤形を使用してがん患者を治療するための取扱説明書とを含む、がん治療において使用するためのキット。
【請求項23】
有効量の、式
【化3】

[式中、Rは、ファルネシルまたはゲラニル−ゲラニルを表し、Rは、COOR、CONR、またはCOOCHROR10であり、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、またはアルケニルであり、Rは、Hまたはアルキルを表し、R10は、アルキルを表し、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、またはアルキルメルカプトであり、XはSを表す]により表されるRasアンタゴニストと、
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の阻害剤との、
がん患者におけるがんの治療において使用するための活性薬剤の組合せ。
【請求項24】
前記Rasアンタゴニストおよび前記HDAC阻害剤が、同一剤形で共投与されるためのものである、請求項23に記載の使用のための活性薬剤の組合せ。
【請求項25】
前記Rasアンタゴニストおよび前記HDAC阻害剤が経口共投与のためのものである、請求項23に記載の使用のための活性薬剤の組合せ。
【請求項26】
前記がんが、腎癌、皮膚がん、膵臓がん、結腸直腸がん、NSCLC、卵巣がん、肝がん、甲状腺がん、精上皮腫、皮膚がん、子宮内膜がん、黒色腫、白血病、骨髄異形成症候群、リンパ腫、前立腺がん、膀胱および泌尿器のがん、乳がん、ならびに前記がんおよび癌腫の脳転移、原発性脳がん、および頭頸部がんからなる群から選択される、請求項23に記載の使用のための活性薬剤の組合せ。
【請求項27】
前記がんが甲状腺がんである、請求項23に記載の使用のための活性薬剤の組合せ。
【請求項28】
前記がんが結腸がんである、請求項23に記載の使用のための活性薬剤の組合せ。
【請求項29】
前記がんが肺がんである、請求項23に記載の使用のための活性薬剤の組合せ。
【請求項30】
前記RasアンタゴニストがFTSである、請求項23から29のいずれかに記載の使用のための活性薬剤の組合せ。
【請求項31】
前記Rasアンタゴニストが、5−クロロ−FTS、5−フルオロ−FTS、FTS−メチルエステル、FTS−アミド、FTS−メチルアミド、FTS−ジメチルアミド、S−ファルネシルチオサリチル酸メトキシメチル、S−ゲラニルゲラニルチオサリチル酸メトキシメチル、5−フルオロ−S−ファルネシルチオサリチル酸メトキシメチル、およびS−ファルネシルチオサリチル酸エトキシメチルからなる群から選択されるFTSアナログである、請求項23から29のいずれかに記載の使用のための活性薬剤の組合せ。
【請求項32】
前記HDAC阻害剤がバルプロ酸である、請求項23から31のいずれかに記載の使用のための活性薬剤の組合せ。
【請求項33】
前記HDAC阻害剤がボリノスタットである、請求項23から31のいずれかに記載の使用のための活性薬剤の組合せ。
【請求項34】
前記HDAC阻害剤がSNDX−275である、請求項23から31のいずれかに記載の使用のための活性薬剤の組合せ。

【図1】
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【図2A−2B】
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【図2C】
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【図4】
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【図5】
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【図3A−3B】
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【図6A−6B】
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【公表番号】特表2013−508458(P2013−508458A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536940(P2012−536940)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/054042
【国際公開番号】WO2011/056542
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512111865)ラモット・アット・テル−アヴィヴ・ユニヴァーシティ・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】