説明

FTTH方式のCATVシステム

【課題】複数の双方向通信サービスを運用することができるFTTH方式のCATVシステムを実現すること。
【解決手段】図2のように、光端末機11は、E/O変換器100と、レベル制御部102と、増幅部103を有している。E/O変換器100の出力する上り光信号のスペクトル幅は、0.5nm以上である。増幅部103は、変調度が20%以上となるように上り電気信号を増幅する。レベル制御部102は、センターに到達した時の各上り光信号のレベルが揃うように、上り光信号のレベルを制御する。以上によると、OBIが発生しても正常に上り通信を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上り通信において光信号が干渉してビート雑音が発生しても伝送可能なFTTH(Fiber To The Home)方式のCATVシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のFTTH方式のCATVシステムとして、たとえば特許文献1がある。特許文献1には、ヘッドエンドに接続する光ファイバーケーブルと、光ファイバーケーブルを複数に分岐させる光分配器と、各光ファイバーケーブルに接続する光端末機と、加入者宅に設置されたセットトップボックスおよびケーブルモデムと光端末機とを接続する同軸ケーブルと、によって構成されたFTTH方式のCATVシステムが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−263402
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の同軸ケーブルによるCATVシステムでは、異なった双方向通信サービスを行う場合に、それぞれ専用の端末装置をサービスの加入者宅に設置し、その双方向通信サービスごとに専用の端末制御装置をセンターに設置して、それぞれの双方向通信サービスごとに異なった周波数を割り当てて通信制御を行っている場合が多い。
【0005】
しかし、このような異なる通信制御装置を用いて異なる双方向通信サービスの提供をFTTH方式のCATVシステムにおいて行おうとすると、それぞれのサービスに用いているケーブルモデムが同時に送信する可能性がある。その場合、光信号同士の光ビート干渉(OBI;Optical Beat Interference)が発生してしまい、伝送品質が大きく劣化し、上り通信が不可能となってしまう。
【0006】
そこで本発明の目的は、FTTH方式のCATVシステムにおいて2以上の双方向通信サービスを運用する場合に、OBIが発生しても上り通信可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、センター側に配置された複数の端末制御装置と、複数の端末制御装置に光伝送路を介して接続し、電気信号と光信号とを相互に変換する複数の光端末機と、各光端末機に対し電気伝送路を介して接続し、複数の端末制御装置にそれぞれ対応して通信制御され、出力する電気信号の周波数が対応する端末制御装置ごとにそれぞれ異なる、端末制御装置の数と同数の端末装置と、を有したFTTH方式のCATVシステムにおいて、光端末機は、入力された上り電気信号の1チャンネル当たりの変調度を25%以上とする増幅部と、増幅部からの電気信号をスペクトル幅が0.06nm以上の上り光信号に変換するE/O変換器と、センターに到達した各光端末機からの上り光信号のレベルが、そのセンターにおいて揃うように、E/O変換器の出力する上り光信号のレベルを制御するレベル制御部と、を有する、ことを特徴とするFTTH方式のCATVシステムである。
【0008】
E/O変換器の出力する上り光信号のスペクトル幅は、0.2nm以下とすることが望ましい。スペクトル幅を大きくしすぎると、歪みが増大して通信品質が劣化してしまうからである。
【0009】
増幅部は、入力された上り電気信号の1チャンネル当たりの変調度を40%以下とすることが望ましい。これよりも変調度が高いと、伝送チャンネル数が多い場合には歪みが生じてしまう可能性があり、通信品質が劣化してしまうため望ましくない。
【0010】
また、センターにおいて各上り光信号のレベルが揃うとは、厳密に揃っていることを意味するのではなく、4dB程度のレベル誤差があってもよい。
【0011】
また、レベル制御部による上り光信号のレベル制御は、光アッテネータの挿入、E/O変換器の有するレーザーの出力の制御など、種々の方法によって制御可能である。また、下り光信号のレベルを検出し、そのレベルによって動的に上り光信号のレベルを制御するようにしてもよい。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、レベル制御部は、光端末機が受信した下り光信号のレベルによって動的に上り光信号のレベルを制御する、ことを特徴とするFTTH方式のCATVシステムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のFTTH方式のCATVシステムによれば、OBIが発生しても上り通信を行うことができ、異なる双方向通信サービスを運用することができる。また、本発明のFTTH方式のCATVシステムは、従来の通信制御方法を変更するものではないので、従来のCATVシステムで用いている端末制御装置、端末装置をそのまま使用することができる。そのため、従来の同軸ケーブルによるCATVシステムからFTTH方式のCATVシステムに移行するような場合にも、低コストでシステム移行が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1のFTTH方式のCATVシステムの構成を示した図。
【図2】光端末機11の構成を示した図。
【図3】OBI未発生時の上り電気信号のスペクトルを示した図。
【図4】OBI発生時の上り電気信号のスペクトルを示した図。
【図5】OBI発生時の上り電気信号のスペクトルを示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
図1は、実施例1のFTTH方式のCATVシステムの構成を示した図である。FTTH方式のCATVシステムは、センターに配置されるCMTS(ケーブルモデムターミナルシステム)10A、10Bと、各加入者宅に配置される複数の光端末機11と、同じく各加入者宅に配置される複数のCM(ケーブルモデム)12A、12Bと、を有している。CMTS10A、10Bは、本発明の端末制御装置に相当し、CM12A、12Bは、本発明の端末装置に相当する。CMTS10AおよびCM12Aに入出力される電気信号の周波数と、CMTS10BおよびCM12Bに入出力される電気信号の周波数は異なっている。また、CMTS10A、10Bは、混合器14に接続し、混合器14は光送受信機15に接続している。光送受信機15は光ファイバーケーブル13を介して光分配器16に接続している。そして、光ファイバーケーブル13は光分配器16によって加入者数に分配されて光端末機11に接続している。また、光端末機11は同軸ケーブル17を介して分波器18に接続し、分波器18は同軸ケーブル17を介してCM12A、12Bに接続している。
【0017】
図2は、光端末機11の構成を示した図である。光端末機11は、E/O変換器100と、O/E変換器101と、レベル制御部102と、増幅部103、104と、分波器105と、によって構成されている。E/O変換器100は、光ファイバーケーブル13の上り通信側の心線13Aに接続し、O/E変換器101は、光ファイバーケーブル13の下り通信側の心線13Bに接続している。E/O変換器100の電気信号入力側、およびO/E変換器101の電気信号出力側は、それぞれ増幅部103、104を介して分波器105に接続し、分波器105は同軸ケーブル17に接続している。また、E/O変換器100とO/E変換器101との間にはレベル制御部102が接続されている。
【0018】
E/O変換器100は、レーザーを用いて上り電気信号を上り光信号へと変換する装置である。E/O変換器100の出力する上り光信号のスペクトル幅(半値幅)は、0.06nm以上である。上り光信号のスペクトル幅は0.2nm以下とすることが望ましい。スペクトル幅を大きくしすぎると、歪みが増大して通信品質が劣化してしまうからである。
【0019】
レベル制御部102は、O/E変換器101に入力された下り光信号のレベルを検出し、そのレベルに応じて動的にE/O変換器100のレーザーの出力を調整して上り光信号のレベルを制御する。また、その上り光信号のレベル制御は、センターに到達した時点(光送受信機15に到達時点)での各上り光信号のレベルが揃うように行う。上り光信号のレベルは厳密に揃っている必要はなく、4dB程度の誤差を有する範囲であってよい。
【0020】
増幅部103は、1チャンネル当たりの変調度が25%以上となるように上り電気信号を増幅する。上り電気信号の変調度は40%以下とすることが望ましい。これよりも変調度が高いと、伝送チャンネル数が多い場合には歪みが生じてしまう可能性があり、通信品質が劣化してしまうため望ましくない。
【0021】
次に、実施例1のFTTH方式のCATVシステムにおける上り通信時の動作について説明する。
【0022】
実施例1のFTTH方式のCATVシステムでは、CMTS10Aによって各加入者のCM12Aからの上り通信のタイミングが制御されており、CMTS10Bによって各加入者のCM12Bからの上り通信のタイミングが制御されている。そのため、各加入者のCM12A間の上り通信、および各加入者のCM12B間の上り通信は衝突しないように制御されており、通信品質の低下を抑制している。
【0023】
一方、CMTS10AはCM12Bからの上り通信のタイミングを制御しておらず、CMTS10BはCM12Aからの上り通信のタイミングを制御していない。そのため、CM12AとCM12Bとの間では上り光信号同士によるOBI(光ビート干渉)が発生して通信品質が低下する可能性がある。
【0024】
しかし、実施例1の光端末機11では、変調部103において上り電気信号の1チャンネル当たりの変調度を25%以上とすることでCN比を改善し、E/O変換器100の出力する上り光信号のスペクトル幅を0.06nm以上とすることで、光信号のピークレベルを下げることができ、OBIの発生を抑制している。さらに、各光端末機11からセンターに到達する各上り光信号のレベルが揃うように、レベル制御部102によって上り光信号のレベルを調整し、これにより光端末機11からセンターまでの伝送距離の違いによる上り光信号の受信レベル差を小さくしている。そのため、OBIが発生しても通信品質の劣化が抑制され、上り通信を行うことができる。
【0025】
図3は、CM12AからCMTS10Aへの上り通信を行い、上り電気信号の1チャンネル当たりの変調度を15%、上り光信号のスペクトル幅を0.03nmとし、OBIが発生しなかった場合のCMTS10A到達時の上り電気信号のスペクトルを示した図である。また、図4は、図3と同じ変調度、スペクトル幅とし、CM12AからCMTS10Aへの上り通信とCM12BからCMTS10Bへの上り通信を同時に行ってOBIを発生させた場合のCMTS10A到達時の上り電気信号のスペクトルを示した図である。図3、4から、1チャンネル当たりの変調度15%、上り光信号のスペクトル幅0.03nmではC/Nが大幅に劣化していることがわかる。
【0026】
図5は、上り電気信号の1チャンネル当たりの変調度を30%、上り光信号のスペクトル幅を0.1nmとし、OBIを発生させた場合のCMTS10A到達時の上り電気信号のスペクトルを示した図である。図5から、図4の場合に対してC/Nが9dB改善していることがわかった。このように、上り電気信号の1チャンネル当たりの変調度と上り光信号のスペクトル幅を最適化することで、C/Nを改善し、OBIの発生を改善できることがわかる。
【0027】
【表1】

表1は、同時に上り通信を行った際に、センター到達時点での上り光信号のレベル差と、S/Nとの対応を示した表である。表1のように、レベル差が小さいほどS/Nが大きく、レベル差が大きいほどS/Nが小さくなることがわかる。この結果から、センターに到達する上り光信号のレベルがなるべく揃うように光端末機11のE/O変換器100の出力を制御することで、OBIが発生しても一定以上のC/Nを確保し、通信品質の劣化を抑制できることがわかる。特に、光信号のレベル差が4dB以下であれば、S/Nは15dB以上となり、良好に上り通信を行うことができる。
【0028】
以上のように、実施例1のFTTH方式のCATVシステムによれば、たとえOBIが発生しても正常に上り通信を行うことができるので、CMTS10AとCM12Aとの間の双方向通信サービスと、CMTS10BとCM12Bとの間の双方向通信サービスの2つの双方向通信サービス(たとえばインターネットサービスと電話サービス)を運用することができる。また、実施例1のFTTH方式のCATVシステムは、従来の同軸ケーブルによるCATVシステムでの通信制御方法を変更するものではない。そのため、実施例1のFTTH方式のCATVシステムにおいて用いているCMTS10A、BやCM12A、Bは、従来の同軸ケーブルによるCATVシステムにおいて用いているものをそのまま使用することができる。したがって、従来の同軸ケーブルによるCATVシステムからFTTH方式のCATVシステムに移行する場合にも、本発明のFTTH方式のCATVシステムであれば低コストでシステム移行が可能である。
【0029】
なお、実施例1では通信制御装置が2台で2つのサービスを運用する例を示したが、3つ以上の通信サービスを運用する場合にも本発明は適用することができる。
【0030】
また、実施例1では、光ファイバーケーブルとして2心のものを用いて双方向通信を行う場合を示したが、波長多重装置を用いて複信方式とすることで、1心の光ファイバーケーブルを用いることも可能である。
【0031】
また、実施例1の光端末機11では、レベル制御部102によって動的に上り光信号のレベルを調整しているが、必ずしも動的なレベル制御である必要はない。また、上り光信号のレベル制御は、E/O変換器100のレーザーの出力を制御する以外にも、光アッテネータの挿入などによって制御するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、FTTH方式のCATVシステムにおいて、2以上の双方向通信サービスを運用するのに適している。
【符号の説明】
【0033】
10A、10B:CMTS
11:光端末機
12A、12B:CM
13:光ファイバーケーブル
14:混合器
15:光送受信機
16:光分配器
17:同軸ケーブル
18:分波器
100:E/O変換器
101:O/E変換器
102:レベル制御部
103、104:増幅部
105:分波器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センター側に配置された複数の端末制御装置と、複数の前記端末制御装置に光伝送路を介して接続し、電気信号と光信号とを相互に変換する複数の光端末機と、各前記光端末機に対し電気伝送路を介して接続し、複数の前記端末制御装置にそれぞれ対応して通信制御され、出力する電気信号の周波数が対応する前記端末制御装置ごとにそれぞれ異なる、前記端末制御装置の数と同数の端末装置と、を有したFTTH方式のCATVシステムにおいて、
前記光端末機は、
入力された上り電気信号の1チャンネル当たりの変調度を25%以上とする増幅部と、
前記増幅部からの電気信号をスペクトル幅が0.06nm以上の上り光信号に変換するE/O変換器と、
前記センターに到達した各前記光端末機からの上り光信号のレベルが、そのセンターにおいて揃うように、前記E/O変換器の出力する上り光信号のレベルを制御するレベル制御部と、
を有する、
ことを特徴とするFTTH方式のCATVシステム。
【請求項2】
前記レベル制御部は、前記光端末機が受信した下り光信号のレベルによって動的に上り光信号のレベルを制御する、ことを特徴とする請求項1に記載のFTTH方式のCATVシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−169776(P2012−169776A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27667(P2011−27667)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000116677)シンクレイヤ株式会社 (38)
【Fターム(参考)】