説明

GSK3で選択的な阻害作用を示す新規な化合物

本発明は遊離塩基または薬学的に許容しうる塩、溶媒和物またはその塩の溶媒和物としての式(I)
【化1】


[式中、ZはNであり、XはCHまたはNであり;YはCONR5であり;Pはフェニル、または、N、OまたはSから選択される1個またはそれ以上のヘテロ原子を含有する5または6員の芳香族複素環であり;Qはフェニル、または、1個またはそれ以上の窒素原子を含有する5または6員の芳香族複素環であり;RはC1-6アルキルNR10R11またはC1-6アルキルアゼチジンであり;R10は水素、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリール、C0-6アルキルヘテロアリールまたはC1-6アルキルNR8R9であり;R11はC1-6アルキルNR8R9、C0-6アルキルC3-6シクロアルキルまたはC0-6アルキルヘテロシクロアルキルである]の新規化合物、それらの製造法およびそこで使用される新規中間体、治療的に活性な前記化合物を含有する医薬製剤、並びに治療における前記活性化合物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遊離塩基または薬学的に許容しうる塩、溶媒和物またはその塩の溶媒和物としての式Iの新規化合物、前記化合物を含有する医薬組成物、および治療での前記化合物の使用に関する。本発明はさらに式Iの化合物の製造法、およびそこで使用される新規中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)は異なる遺伝子によりコード化されるが、触媒ドメイン内で高度に相同である2種の異性体(αおよびβ)からなるセリン/スレオニンプロテインキナーゼである。GSK3は中枢および末梢神経系で高度に発現する。GSK3はタウ、β−カテニン、グリコーゲンシンターゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼおよび伸長開始因子2b(eIF2b)を含む幾つかの基質をリン酸化する。インシュリンおよび成長因子はプロテインキナーゼBを活性化し、これはセリン9残基でGSK3をリン酸化し、それを不活性化する。
【0003】
アルツハイマー病(AD)痴呆およびタウパシー(taupathy)
ADは認識力の低下、コリン作動性障害、神経細胞の死、神経原線維変化、およびアミロイド−βの沈着からなる老人斑を特徴とする。ADにおけるこれらの事象の順序は不明確であるが、関連があると考えられている。グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)またはタウ(τ)リン酸化キナーゼはAD脳で高リン酸化される部位において神経細胞の微小管結合タンパク質τを選択的にリン酸化する。高リン酸化されたタンパク質τは微小管に対する親和性が低く、対になったらせん状フィラメントとして蓄積し、これはAD脳における神経原線維変化および神経網の糸(neuropil thread)を構成する主な成分である。このことは微小管の脱重合を招き、これにより軸索の枯死および神経症性ジストロフィーが引き起こされる。神経原線維変化はAD、筋萎縮性側索硬化症、Guamのパーキンソン痴呆、大脳皮質基底核変性症、ボクサー痴呆、頭部外傷、ダウン症候群、脳炎後パーキンソン症候群、進行性核上麻痺、ニーマン−ピック病およびピック病のような疾患で常に見られる。一次海馬培養物にアミロイド−βを加えると、τの高リン酸化およびGSK3β活性の誘導による対になったらせん状フィラメント様状態、続けて軸索輸送の阻害および神経細胞の死が起こる(ImahoriおよびUchidaのJ. Biochem 121:179〜188(1997年))。GSK3βは神経原線維変化を優先的に標識し、AD脳の変化前(pre−tangle)の神経細胞において活性であることが示されている。また、AD患者の脳組織においてGSK3タンパク質濃度は50%まで増加している。さらに、GSK3βは解糖経路の鍵酵素であるピルビン酸デヒド ロゲナーゼをリン酸化し、ピルビン酸のアセチル−Co−Aへの変換を防止する(HoshiらのPNAS 93:2719〜2723(1996年))。アセチル−Co−Aは認知機能に関する神経伝達物質であるアセチルコリンの合成において重要である。したがって、GSK3βの阻害はアルツハイマー病や他の上記疾患に関する進行および認知障害に有益な効果を示し得る。
【0004】
慢性および急性の神経変性疾患
成長因子が関与するPI3K/Akt経路の活性化は神経細胞の生存において主要な役割を果たすことが示されている。この経路の活性化はGSK3βの阻害をもたらす。最近の研究(BhatらのPNAS 97:11074〜11079(2000年))によりGSK3β活性は脳虚血または成長因子欠乏後のような神経変性の細胞および動物モデルにおいて増加することが示されている。例えば、活性部位のリン酸化は一般にアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側策硬化症、ハンチントン病 、HIV痴呆、虚血性脳卒中および頭部外傷のような慢性および急性の神経変性疾患で起こると考えられているタイプの細胞死であるアポトーシスを受けやすい神経細胞において増加した。リチウムは細胞内および脳内のアポトーシスの阻害においてGSK3βの阻害を引き起こす用量で神経を保護した。したがって、GSK3β阻害剤は神経変性疾患の進行を遅らせるのに有用である。
【0005】
双極性障害(BD)
双極性障害(BD)は躁状態および鬱状態を特徴とする。リチウムはその気分安定効果に基づいてBDの治療に使用されている。リチウムの不利点は狭い治療濃度域およびリチウム中毒を引き起こし得る過剰投与の危険性である。リチウムがGSK3を治療的濃度で阻害するという最近の発見はこの酵素が脳におけるリチウムの作用の主要な標的である可能性を高めている(StambolicらのCurr. Biol. 6:1664〜1668(1996年);KleinおよびMeltonのPNAS 93:8455〜8459(1996年))。したがって、GSK3βの阻害は情動障害を有するAD患者だけでなくBDの治療とも治療的に関連がある。
【0006】
統合失調症
GSK3は多様な細胞過程、特に神経系の発達中におけるシグナル伝達カスケードに関与する。Kozlovskyら(Am. J. Psychiatry;157(5):831〜3(2000年5月))は統合失調症患者のGSK3β量が対照被験者に比べて41%低いことを見出した。この研究は統合失調症が神経発達上の病理に関与 し、異常なGSK3調節が統合失調症に影響を与えることを示している。さらに、β−カテニン量の減少が統合失調症を示す患者で報告されている(CotterらのNeuroreport 9:1379〜1383(1998年))。
【0007】
糖尿病
インシュリンは骨格筋においてグリコーゲンシンターゼの脱リン酸化、すなわち活性化によりグリコーゲン合成を刺激する。静止状態下でGSK3は脱リン酸化によりグリコーゲンシンターゼをリン酸化し、不活性化する。GSK3はまた、II型糖尿病患者の筋肉内で過剰発現する(NikoulinaらのDiabetes;49(2):263〜71(2000年2月))。GSK3の阻害はグリコーゲンシンターゼの活性を増大させ、その結果グルコースのグリコーゲンへの変換によりグルコース量が減少する。したがって、GSK3阻害はI型およびII型糖尿病、並びに糖尿病性神経障害の治療と治療的に関連がある。
【0008】
脱毛症
GSK3はβ−カテニンをリン酸化し、分解する。β−カテニンはケラトニン合成経路のエフェクターである。β−カテニンの安定化は毛髪発生の増加を引き起こす。GSK3によりリン酸化された部位の突然変異により安定化したβ−カテニンを発現するマウスは新毛髪形態の形成に似たプロセスを経過する(GatらのCell;95(5):605〜14(1998年11月25日))。新しい毛包は通常胚形成においてのみ確認される皮脂腺および皮膚乳頭の形成をもたらす。したがって、GSK3阻害は禿頭症の治療法を提供することができる。
【0009】
経口避妊薬
Vijajaraghavanら(Biol Reprod;62(6):1647〜54(2000年6月))は不動性精子と比べて可動性精子のGSK3は高いことを報告している。免疫細胞化学によりGSK3が鞭毛および精子頭部の前方部分に存在することが明らかになっている。これらのデータはGSK3が精巣上体の運動開始および成熟精子の機能調節の基礎をなす重要な要素であることを示唆している。GSK3の阻害剤は男性の避妊薬として有用である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は良好な生物学的利用能を有するだけでなくGSK3で選択的な阻害効果を示す化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は遊離塩基または薬学的に許容しうる塩、溶媒和物またはその塩の溶媒和物としての式I
【化1】

[式中、ZはNであり;
YはCONR5、NR5CO、SO2NR5、NR5SO2、CH2NR5、NR5CH2、NR5CONR5、C1-6アルキレン、CH2CO、COCH2、CH=CH、OCH2またはCH2Oであり;
XはCHまたはNであり;
Pはフェニル、または、独立してN、OまたはSから選択される1個またはそれ以上のヘテロ原子を含有する5または6員の芳香族複素環であり、ここで前記フェニル環または芳香族複素環は場合によりC、N、OまたはSから選択される1個またはそれ以上の原子を含有する5または6員の飽和、部分的に飽和または不飽和環と縮合しており;
Qはフェニル、または、1個またはそれ以上の窒素原子を含有する5または6員の芳香族複素環であり、ここで前記フェニル環または芳香族複素環は場合によりC、N、OまたはSから選択される1個またはそれ以上の原子を含有する5または6員の飽和、部分的に飽和または不飽和環と縮合しており;
RはC1-6アルキルNR10R11またはC1-6アルキルアゼチジンであり、ここでアゼチジン環は場合によりAで置換され;
R3およびR4は独立してハロ、ニトロ、CHO、C0-6アルキルCN、OC1-6アルキルCN、C0-6アルキルOR6、OC1-6アルキルOR6、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、C0-6アルキルNR6R7、OC1-6アルキルNR6R7、OC1-6アルキルOC1-6アルキルNR6R7、NR6OR7C0-6アルキルCO2R6、OC1-6アルキルCO2R6、C0-6アルキルCONR6R7、OC1-6アルキルCONR6R7、OC1-6アルキルNR6(CO)R7、C0-6アルキルNR6(CO)R7、O(CO)NR6R7、NR6(CO)OR7、NR6(CO)NR6R7、O(CO)OR6、O(CO)R6、C0-6アルキルCOR6、OC1-6アルキルCOR6、NR6(CO)(CO)R6、NR6(CO)(CO)NR6R7、SR6、C0-6アルキル(SO2)NR6R7、OC1-6アルキルNR6(SO2)R7、OC0-6アルキル(SO2)NR6R7、C0-6アルキル(SO)NR6R7、OC1-6アルキル(SO)NR6R7、SO3R6、C0-6アルキルNR6(SO2)NR6R7、C0-6アルキルNR6(SO)R7、OC1-6アルキルNR6(SO)R7、OC0-6アルキルSO2R6、C0-6アルキルSO2R6、C0-6アルキルSOR6、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリールおよびC0-6アルキルヘテロアリールから選択され、ここで前記C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリールおよびC0-6アルキルヘテロアリールは場合により1個またはそれ以上のAで置換され;
【0012】
mは0、1、2、3または4であり;
nは0、1、2、3または4であり;
R5は水素、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリール、C0-6アルキルヘテロアリール、C1-6アルキルNR6R7またはC1-6アルキルCONR6R7であり;
R6およびR7は独立して水素、C1-6アルキル、(CO)OR8、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリール、C0-6アルキルヘテロアリ
ールおよびC1-6アルキルNR8R9から選択され;
R6およびR7は一緒になって独立してN、OまたはSから選択される1個またはそれ以上のヘテロ原子を含有する置換された5または6員の複素環式環を形成することができ、その複素環式環は場合によりAで置換され;
R8およびR9は独立して水素、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリールおよびC0-6アルキルヘテロアリールから選択され;
R8およびR9は一緒になって独立してN、OまたはSから選択される1個またはそれ以上のヘテロ原子を含有する5または6員の複素環式環を形成することができ、その複素環式環は場合によりAで置換され;
R10は水素、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリ−ル、C0-6アルキルヘテロアリールまたはC1-6アルキルNR8R9であり;
R11はC0-6アルキルC3-6シクロアルキルであり;
Aはハロ、ニトロ、CHO、CN、OR6、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、C0-6アルキルNR6R7、OC1-6アルキルNR6R7、CO2R8、CONR6R7、NR6(CO)R6、O(CO)R6、COR6、SR6、(SO2)NR6R7、(SO)NR6R7、SO3R6、SO2R6またはSOR6である]の化合物を提供する。
【0013】
本発明の一態様はZがNであり;YがCONR5であり;XがNであり;Pがフェニルであり;Qが1個の窒素原子を含有する6員の芳香族複素環であり;RがC1-6アルキルNR10R11であり;mが0であり;nが0であり;R5が水素であり;R10が水素、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリール、C0-6アルキルヘテロアリールまたはC1-6アルキルNR8R9であり;そしてR11がC0-6アルキルC3-6シクロアルキルである式Iの化合物に関する。
【0014】
この態様のある実施形態では、C1-6アルキルNR10R11のC1-6アルキルはプロピルであり; R10およびR11はシクロブチルであり;そしてQはピリジンである式Iの化合物が提供される。
【0015】
本発明の他の見地において、遊離塩基または薬学的に許容しうる塩、溶媒和物またはその塩の溶媒和物としての次の化合物が提供される:
3−アミノ−6−{4−[3−(ジシクロブチルアミノ)プロピル]フェニル}−N−ピリジン−3−イルピラジン−2−カルボキサミド塩酸塩。
【0016】
さらに本発明の他の見地において、式Iの化合物の製造において中間体として有用である遊離塩基、塩、溶媒和物またはその塩の溶媒和物としての次の化合物が提供される:
3−アミノ−6−ブロモ−N−ピリジン−3−イルピラジン−2−カルボキサミド。
【0017】
さらに本発明の他の見地において、式Iの化合物の製造において中間体として有用である遊離塩基、塩、溶媒和物またはその塩の溶媒和物としての次の化合物が提供される:
N−[3−(4−ブロモフェニル)プロピル]−N,N−ジシクロブチルアミン。
【0018】
本明細書および特許請求の範囲で本発明を詳しく説明するために使用される様々な用語の定義を下記に挙げる。
【0019】
疑念を回避するために、本明細書において基が「上記で定義された」、「前記で定義された」、「上記で定義された通りである」または「上記で定義されたような」により限定された場合、その基は最初に記載した最も広い定義およびその基の好ましい定義のそれぞれすべてを包含することは理解されよう。
【0020】
疑念を回避するために、本明細書において「C0-6」は0、1、2、3、4、5または6個の炭素原子を有する炭素基を意味することは理解されよう。
【0021】
特に断りがなければ、本明細書において「アルキル」なる用語は直鎖状および分枝鎖状のアルキル基を共に包含する。C1-6アルキルはメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、t−ペンチル、ネオペンチル、ヘキシルである。
【0022】
特に断りがなければ、本明細書で使用される「アルコキシ」なる用語は「アルキル」が上記で定義されたような「アルキル」O基を包含する。C1-5アルコキシはメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、i−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、i−ペンチルオキシ、t−ペンチルオキシ、ネオペンチルオキシである。
【0023】
特に断りがなければ、本明細書において「アルケニル」なる用語は直鎖状または分枝鎖状アルケニル基を包含するが、2−ブテニルのようなアルケニル基については直鎖状のものだけを意味する。特に断りがなければ、「アルケニル」なる用語は有利に2〜5個の炭素原子、好ましくは3〜4個の炭素原子を含有する炭素鎖を意味する。アルケニルはビニル、アリル、プロペニル、i−プロペニル、ブテニル、i−ブテニル、クロチル、ペンテニル、i−ペンテニルまたはヘキセニルであるが、これらに限定されない。
【0024】
特に断りがなければ、本明細書において「アルキニル」なる用語は直鎖状または分枝鎖状アルキニル基を包含するが、2−ブチニルのようなアルキニル基については直鎖状のものだけを意味する。特に断りがなければ、「アルキニル」なる用語は有利に2〜5個の炭素原子、好ましくは3〜4個の炭素原子を含有する炭素鎖を意味する。アルキニルはエチニル、プロパルギル、ブチニル、i−ブチニル、ペンチニル、i−ペンチニルまたはヘキシニルであるが、これらに限定されない。
【0025】
特に断りがなければ、本明細書において「アリール」なる用語は少なくとも1個の芳香環を含有する、場合により置換される単環式または二環式炭化水素環系を意味する。「アリール」はC5-7シクロアルキル環と縮合して二環式炭化水素環系を形成することができる。「アリール」なる用語の例およびこれに対応する適当な基はフェニル、ナフチル、インダニルまたはテトラリニルである。
【0026】
特に断りがなければ、本明細書においてN、OおよびSから選択される1個またはそれ以上のヘテロ原子を含有する「ヘテロアリール」および「5または6員の芳香族複素環」なる用語はフリル、イミダゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、ピラジニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリジル、ピリミジル、ピロリル、チアゾリルまたはチエニルを意味するが、これらに限定されない。
【0027】
特に断りがなければ、本明細書において「独立してC、N、OまたはSから選択される原子を含有する5または6員の飽和、部分的に飽和または不飽和環」なる用語はフリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、ピラジニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリジル、ピリミジル、ピロリル、チアゾリル、チエニル、イミダゾリル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、モルホリニル、ピペラジニル、ピペリジル、ピペリドニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピロリジニル、ピロリニル、テトラヒドロピラニル、チオモルホリニル、シクロヘキシルまたはシクロペンチルを意味するが、これらに限定されない。
【0028】
特に断りがなければ、本明細書において「独立してN、OまたはSから選択される1個またはそれ以上のヘテロ原子を含有する5または6員の芳香族複素環」なる用語はフリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、ピラジニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリジル、ピリミジル、ピロリル、チアゾリル、チエニルまたはイミダゾリルを意味するが、これらに限定されない。
【0029】
特に断りがなければ、本明細書において「ハロゲン」なる用語はフッ素、塩素、臭素または沃素である。
【0030】
本発明は上記で定義されたような式Iの化合物の使用およびその塩に関する。医薬組成物に使用される塩は薬学的に許容しうる塩であるが、他の塩は式Iの化合物の製造において有用である。
【0031】
有機および無機酸を使用して本発明の化合物の非毒性で薬学的に許容しうる酸付加塩を形成することができる。さらに、十分に酸性である本発明の化合物の適当な薬学的に許容しうる塩はアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、または生理学的に許容しうるカチオンを与える有機塩基との塩である。
【0032】
幾つかの式Iの化合物はキラル中心および/または幾何異性中心(E−およびZ−異性体)を有することができ、また本発明はGSK3阻害活性を有するこのようなジアステレオ異性体、光学異性体および幾何異性体をすべて包含することは理解されよう。
【0033】
本発明は式Iの化合物のありとあらゆる互変異性体に関することは理解されよう。
【0034】
本発明の目的は治療に使用される式Iの化合物、特にヒトを含む哺乳動物のグリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK3)と関係がある症状の予防および/または治療において有用な化合物を提供することである。特に、GSK−3に対して選択的な親和性を示す式Iの化合物である。
【0035】
製造法
本発明の他の見地において、本発明は遊離塩基またはその薬学的に許容しうる塩としての式Iの化合物の製造法を提供する。このような方法についての次の説明全体を通して、有機合成分野の当業者に容易に理解されるようなやり方で、必要ならば、適当な保護基が種々の反応体および中間体に加えられ、その後で除去されることは理解されよう。このような保護基を使用するための慣用の方法および適当な保護基の例は例えばT.W. Green, P.G.M. Wutsの「有機合成の保護基(Protective Groups in Organic Synthesis)」, Wiley−Interscience,ニューヨーク(1999年)に記載されている。
【0036】
中間体の製造法
中間体(ここでY、X、Z、P、Q、R、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、A、mおよびnは特に断りがなければ式Iで定義された通りである)の製造法は下記工程からなる:
【化2】

【0037】
(i)式II(式中、ZはNであり、XはNまたはCHであり、R12は水素、C1-6アルキルであり、またはR12が水素である場合は塩形態、例えばナトリウム塩である)の化合物をハロゲン化して式IIIの化合物を得る工程は、適当なハロゲン化試薬、例えば沃素、臭素、塩素、ハロゲン化物塩、例えばICl、BrClまたはHOCl、または、他の適当なハロゲン化試薬、例えばN−ブロモスクシンイミドまたは三臭化リンを使用して行なうことができる。反応は金属または酸、例えばFe、Cu−塩、酢酸または硫酸により触媒したり、または酸化剤、例えば硝酸、過酸化水素または三酸化硫黄により助長したりすることができる。反応は水、酢酸またはクロロホルムのような適当な溶媒中、−70℃〜+100℃の範囲の温度で行なわれる。
【0038】
【化3】

【0039】
(ii)式III(式中、ZはNであり、XはNまたはCHであり、R12はC1-6アルキルである)の化合物をアミド化して式IV(式中、YはCONR5である)の化合物を得る工程は、式IIIの化合物を式V
【化4】

(式中、Q、R4およびmは上記で定義された通りである)の化合物のような適当なアミンで処理することにより行なうことができる。反応はニートで、または、N,N−ジメチルホルムアミド、塩化メチレンまたは酢酸エチルのような適当な溶媒を使用して−25℃〜+150℃の範囲の温度で行なわれる。反応は炭酸カリウム、トリエチルアミンまたは1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンのような塩基、またはトリメチルアルミニウムまたはp−トルエンスルホン酸のような酸を使用して助長することができる。
【0040】
(iii)式III(式中、R12は水素である)の化合物をアミド化して式IV(式中、YはCONR5であり、そしてR4は特定のカップリング剤に影響されない置換基である)の化合物を得る工程は、式IIIの化合物を1,3−ジイソプロピルカルボジイミド、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド塩酸塩、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N',N'−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N',N'−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート、1,1'−カルボニルジイミダゾールまたはO−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N',N'−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートのようなカップリング試薬で処理するか(この反応は1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物を加えて助長することができる)、または、塩化シアヌル、塩化オキサリル、塩化チオニルまたはブロモトリスピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェートのようなハロゲン化アシル試薬を使用して活性化し、次に0℃〜還流温度の反応温度において塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリルまたはテトラヒドロフランのような適当な溶媒中、式Vの化合物のような適当なアミンで処理することにより行なうことができる。反応は炭酸カリウムまたはトリアルキルアミン、例えばトリエチルアミンまたはN−エチル−N,N−ジイソプロピルアミンのような塩基を使用して助長することができる。
【0041】
【化5】

【0042】
(iv)式VI(式中、P、R3、nおよびC1-6アルキルは上記で定義された通りである)の化合物から式VII(式中、P、R3、R10、R11、nおよびC1-6アルキルは上記で定義された通りである)の化合物への変換は適当なアルデヒド(R10CHOおよび/またはR11CHO)および/またはケトン(R10(CO)R11)と、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンまたはメタノールのような適当な溶媒中、酢酸のような適当な酸の存在下で反応させ、次に0℃〜+50℃の範囲の適当な反応温度でシアノ水素化ホウ素ナトリウムまたはトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムのような適当な還元剤を加えることにより行なうことができる。
【0043】
最終生成物の製造法
本発明の他の目的は次の工程からなる一般式I(式中、Y、X、Z、P、Q、R、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、A、mおよびnは特に断りがなければ式Iで定義された通りである)の化合物の製造法である:
【0044】

式IVの化合物を適当なアリール種と脱ハロゲン化カップリング(ここでR3 および R4は反応中に特定の試薬に影響されない置換基である)させて式Iの化合物を得る:
【化6】

【0045】
すなわち、工程Aの脱ハロゲン化カップリングは式IVの化合物を適当なアリールボロン酸またはボロン酸エステルとカップリングさせることにより行なうことができる。反応は場合によりP(t−ブチル)3または2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニルのような適当なリガンドを含むPd(PPh3)4、Pd(dppf)Cl2またはPd(OAc)2のような適当なパラジウム触媒、または、Znおよびナトリウムトリフェニルホスフィントリメタスルホネートと共に木炭上のニッケルまたはNi(dppe)Cl2のようなニッケル触媒を使用して行なうことができる。アルキルアミン、例えばトリエチルアミン、または炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムまたはフッ化セシウムのような適当な塩基を反応で使用することができ、それは+20℃〜+160℃の範囲の温度において油浴またはマイクロ波オーブンを使用してトルエン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン/水またはN,N−ジメチルホルムアミドのような適当な溶媒または溶媒混合物中で行なわれる。アリールボロン酸またはボロン酸エステルは式VIIの化合物からブチルリチウムのような適当な塩基およびホウ酸トリメチルまたはホウ酸トリイソプロピルのような適当なホウ素化合物を使用して生成することができる。反応は非プロトン性溶媒、例えばテトラヒドロフランまたはヘキサン中、−78℃〜+20℃の範囲の温度で行なわれる。
【0046】
式Iの化合物の塩酸塩は式Iの化合物を0℃〜+25℃の範囲の温度において塩化メチレン、テトラヒドロフランまたは塩化メチレン/メタノール混合物のような適当な溶媒中、塩酸で処理することにより得ることができる。
【実施例1】
【0047】
3−アミノ−6−ブロモ−N−ピリジン−3−イルピラジン−2−カルボキサミド
70℃で3−アミノピリジン(10g、106ミリモル)にメチル3−アミノ−6−ブロモ−2−ピラジンカルボキシレート(1.0g、4.3ミリモル)および1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(645μL、4.3ミリモル)を加えた。反応溶液を4時間攪拌し、水(75mL)で希釈し、塩化メチレンで抽出した。合一した有機層を飽和塩化アンモニウム溶液で洗浄し、乾燥(MgSO4)し、ろ過し、真空下で蒸発させた。粗生成物を溶離剤として塩化メチレン/エタノール(9:1)を使用するシリカゲルカラムにより精製して750mg(収率59%)の表題化合物を黄色の固体として得た:1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 9.50 (br s, 1 H), 8.82 (d, J = 3 Hz, 1 H), 8.43 (dd, J = 5および1 Hz, 1 H), 8.31 (s, 1 H), 8.23 (ddd, J = 8、3および2 Hz, 1 H), 7.34 (dd, J = 8, 5 Hz, 1 H);MS (TSP) m/z 294 (M++1)。
【実施例2】
【0048】
N−[3−(4−ブロモフェニル)プロピル]−N,N−ジシクロブチルアミン
3−(4−ブロモフェニル)プロパン−1−アミン(0.50g、2.34ミリモル;Davies, R.V.らのJ.Chem.Soc. Perkin Trans.1, 2357〜2364(1977年)に記載されている)、シクロブタノン(0.393g、5.61ミリモル)および酢酸(0.140mL、2.34ミリモル)をジクロロメタン(6mL)中で混合し、30分間攪拌した。トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムを加え、反応混合物を15時間攪拌した。反応混合物を水(15mL)でクエンチし、塩化メチレン(50mL)で抽出した。有機相を分離し、乾燥し、蒸発させた。溶離剤として塩化メチレン〜塩化メチレン/メタノール(2:1)のグラジエント溶媒を使用するカラムクロマトグラフィーにより精製して0.32g(収率42%)の表題化合物を無色の油状物として得た:MS (ESI) m/z 322および324(M++1)。
【実施例3】
【0049】
3−アミノ−6−{4−[3−(ジシクロブチルアミノ)プロピル]フェニル}−N−ピリジン−3−イルピラジン−2−カルボキサミド塩酸塩
n−ブチルリチウム(0.97mL、1.55ミリモル)を窒素雰囲気下、無水テトラヒドロフラン(2mL)中におけるN−[3−(4−ブロモフェニル)プロピル]−N,N−ジシクロブチルアミン(0.10g、0.31ミリモル)およびホウ酸トリイソプロピル(0.21mL、0.93ミリモル)の冷却(−78℃)溶液に20分間にわたって滴加した。反応混合物を−78℃で2時間攪拌した。HCl(3M水溶液、0.6mL)を反応混合物に加え、混合物を室温まで加温した。テトラヒドロフラン(2mL)、次に炭酸ナトリウム(1.1g、10.8ミリモル)、Pd(dppf)Cl2 (0.010g、12.2μモル)および3−アミノ−6−ブロモ−N−ピリジン−3−イルピラジン−2−カルボキサミド(0.10g、0.34ミリモル)を加えた。混合物を65℃で15時間加熱した。溶媒を除去し、溶離剤として塩化メチレン〜塩化メチレン/メタノール(2:1)のグラジエント溶媒を使用するシリカ上のカラムクロマトグラフィーにより精製して黄色の固体を得た。固体を塩化メチレン(10mL)に溶解し、攪拌しながらジエチルエーテル中の1M HClを加えた。生成した黄色の沈殿物をろ過し、乾燥して75mg(収率53%)の表題化合物を黄色の固体として得た:1H NMR (D2O, 400 MHz) δ9.47 (s, 1 H), 8.73 (s, 1 H), 8.69 (d, J = 8.6 Hz, 1 H), 8.61 (d, J = 5.6 Hz, 1 H), 8.10 (dd, J = 15, 6 Hz, 1 H), 7.98 (d, J =9 Hz, 2 H), 7.41 (d, J = 9 Hz, 2 H), 3.80 (m, 2 H), 3.01 (m, 2 H), 2.75 (m, 2 H), 2.28 (m, 4 H), 2.17 (m, 4 H), 2.03 (m, 2 H), 1.79 (m, 4 H);MS (ESI) 457 m/z (M++1)。
【0050】
医薬組成物
本発明の一態様によれば、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3が関与する症状の予防および/または治療に使用される遊離塩基または薬学的に許容しうる塩、溶媒和物またはその塩の溶媒和物としての式Iの化合物を含有する医薬組成物が提供される。
【0051】
本組成物は経口投与に適した形態、例えば錠剤であり、注射剤の場合は無菌の液剤または懸濁剤である。一般に、上記組成物は薬用担体または希釈剤を使用して慣用の方法で製造することができる。ヒトを含む哺乳動物の治療における式Iの化合物の適当な1日量は経口投与では約0.01〜250mg/kg体重であり、非経口投与では約0.001〜250mg/kg体重である。活性成分の典型的な1日量は広い範囲内で変動し、関連する兆候、投与経路、患者の年齢、体重および性別のような様々な要因に応じて決まり、医師により決定され得る。
【0052】
式Iの化合物、または薬学的に許容しうる塩、溶媒和物またはその塩の溶媒和物はそのままで使用することができるが、通常は式Iの化合物/塩/溶媒和物(活性成分)を薬学的に許容しうる希釈剤または担体と一緒に含有する医薬組成物の形態で投与される。投与方法に応じて、医薬組成物は0.05〜99重量%、例えば0.10〜50重量%の活性成分を含有するが、すべての重量百分率は全組成物に基づいている。
【0053】
希釈剤または担体には水、水性ポリエチレングリコール、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖(例えばラクトース)、ペクチン、デキストリン、スターチ、トラガカント、微結晶性セルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースまたはカカオ脂がある。
【0054】
本発明の組成物は錠剤または注射剤の形態であってよい。錠剤はさらに崩壊剤を含有してもよく、そして/または被覆されていてもよい(例えば腸溶コーチングで、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなコーチング剤で被覆することができる)。
【0055】
本発明はさらに前記で定義されたような式Iの化合物、または薬学的に許容しうる塩、溶媒和物またはその塩の溶媒和物を薬学的に許容しうる希釈剤または担体と混合することからなる本発明の医薬組成物の製造法を提供する。
【0056】
本発明の医薬組成物の例は前記で定義されたような本発明の化合物、または薬学的に許容しうる塩、溶媒和物またはその塩の溶媒和物および滅菌水、および必要ならば最終組成物のpHを約pH5にする水酸化ナトリウムまたは塩酸、さらに場合により溶解を補助する界面活性剤を含有する注射液である。
【0057】
水に溶解した式Iの化合物またはその塩を含有する溶液:
〔表1〕
溶液 mg/mL
化合物X 5.0% w/v
純 水 100%まで
【0058】
医学的用途
驚くべきことに、遊離塩基またはその薬学的に許容しうる塩としての本発明で定義された化合物はグリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK3)を阻害するのに適していることがわかった。したがって、本発明の化合物はグリコーゲンシンターゼキナーゼ−3活性が関与する症状の予防および/または治療において有用であると考えられる、すなわち本化合物はこのような予防および/または治療の必要なヒトを含む哺乳動物でGSK3の阻害作用を引き起こすために使用することができる。
【0059】
GSK3は中枢および末梢神経系や他の組織で高度に発現する。したがって、本発明の化合物は中枢および末梢神経系のグリコーゲンシンターゼキナーゼ−3活性が関与する症状の予防および/または治療に適していると考えられる。特に、本発明の化合物はとりわけ痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型痴呆パーキンソン型、Guamのパーキンソン痴呆複合、HIV痴呆、神経原線維変化病と関連する疾患およびボクサー痴呆と関連する症状の予防および/または治療に適していると考えられる。
【0060】
他の症状は筋委縮性側索硬化症、大脳皮質基底核変性症、ダウン症候群、ハンチントン病、脳炎後パーキンソン症候群、進行性核上麻痺、ピック病、ニーマン−ピック病、卒中、頭部外傷および他の慢性神経変性疾患、双極性疾患、情動障害、うつ病、統合失調症、認知障害、脱毛症および避妊薬療法から選択される。
【0061】
さらに他の症状は前痴呆状態、軽度の認知障害、加齢による記憶障害、加齢による認識力低下、非痴呆性認知障害、軽度の認識力低下、軽度の神経認識力低下、高齢期の健忘症、記憶障害および認知障害、血管性痴呆、レビー小体痴呆、前頭側頭型痴呆および男性型脱毛症、I型およびII型糖尿病、糖尿病性神経障害、並びに糖尿病関連疾患から選択される。
【0062】
本発明の一態様は痴呆およびアルツハイマー病の予防および/または治療に関する。
【0063】
特定の疾患の治療的または予防的処置に必要な投与量は、必然的に、治療する患者、投与経路および治療する病気の程度に応じて変動する。
【0064】
本発明はまた、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3が関与する症状を予防および/または治療するための薬剤の製造における前記で定義されたような式Iの化合物の使用に関する。
【0065】
本明細書において、特にそれに反する断りがなければ、「治療」なる用語は「予防」もまた包含する。「治療的」および「治療的に」なる用語は適宜に解釈される。
【0066】
本発明はまた、治療的に有効な量の前記で定義されたような式Iの化合物を治療および/または予防の必要なヒトを含む哺乳動物に投与することからなるグリコーゲンシンターゼキナーゼ−3が関与する症状を治療および/または予防する方法を提供する。
【0067】
非医学的用途
治療用薬剤におけるそれらの使用の他に、遊離塩基またはその薬学的に許容しうる塩としての式Iの化合物はまた、新規治療剤を探索する一環としてネコ、イヌ、ウサギ、サル、ラットおよびマウスのような実験動物でGSK3に関連する活性の阻害効果を評価するための試験管内および生体内試験システムの開発および標準化における薬理学的ツールとして有用である。
【0068】
薬理試験
シンチレーション近接GSK3βアッセイによるATP競合の測定
GSK3βシンチレーション近接アッセイ
競合実験は底が透明なマイクロタイタープレート(Wallac社製、フィンランド)において10種の異なる濃度の阻害剤を使用して二連で行なった。1mUの組換えヒトGSK3β(ダンディー大学、英国)、12 mMのモルホリンプロパンスルホン酸(MOPS)、pH7.0、0.3mMのEDTA、0.01%β−メルカプトエタノール、0.004%Brij35(天然界面活性剤)、0.5%グリセロールおよび0.5μgのBSAを含有するアッセイ緩衝液(25μl)にビオチン化ペプチド基質のビオチン−Ala−Ala−Glu−Glu−Leu−Asp−Ser−Arg−Ala−Gly−Ser(PO3H2)−Pro−Gln−Leu(AstraZeneca社製、ルンド)を1μMの最終濃度で加えた。0.04μCiの[γ−33P]ATP(Amersham社製、英国)および非標識ATPを1μMの最終濃度および25μlのアッセイ容量で加えて反応を開始した。室温で20分間インキュベートした後、5mMのEDTA、50μMのATP、0.1%トリトンX−100および0.25mgのストレプトアビジン被覆シンチレーション近接アッセイ(SPA)ビーズ(Amersham社製、英国)を含有する25μlの停止溶液を加えることにより各反応を終了させた。6時間後、放射活性を液体シンチレーションカウンター(1450 MicroBeta Trilux、Wallac社製)において測定した。GraphPad Prism(米国)を使用して阻害曲線を非線形回帰により分析した。種々の化合物の阻害定数(Ki)を計算するために使用したGSK3βに対するATPのKm値は20μMである。
【0069】
次の略語を使用した:
MOPS モルホリンプロパンスルホン酸
EDTA エチレンジアミン四酢酸
BSA ウシ血清アルブミン
ATP アデノシントリホスフェート
SPA シンチレーション近接アッセイ
GSK3 グリコーゲンシンターゼキナーゼ3
【0070】
結果
本発明の化合物の典型的なKi値は約0.001〜約10,000nMの範囲である。他のKi値は約0.001〜約1000nMの範囲である。さらにKi値は約0.001nM〜約300nMの範囲である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離塩基または薬学的に許容しうる塩、溶媒和物もしくはその塩の溶媒和物としての式I
【化1】

の化合物。
式中、ZはNであり;
YはCONR5、NR5CO、SO2NR5、NR5SO2、CH2NR5、NR5CH2、NR5CONR5、C1-6アルキレン、CH2CO、COCH2、CH=CH、OCH2またはCH2Oであり;
XはCHまたはNであり;
Pはフェニル、または、独立してN、OまたはSから選択される1個またはそれ以上のヘテロ原子を含有する5または6員の芳香族複素環であり、ここで該フェニル環または芳香族複素環は場合によりC、N、OまたはSから選択される1個またはそれ以上の原子を含有する5または6員の飽和、部分的に飽和または不飽和環と縮合してよく;
Qはフェニル、または、1個またはそれ以上の窒素原子を含有する5または6員の芳香族複素環であり、ここで該フェニル環または芳香族複素環は場合によりC、N、OまたはSから選択される1個またはそれ以上の原子を含有する5または6員の飽和、部分的に飽和または不飽和環と縮合してよく;
RはC1-6アルキルNR10R11またはC1-6アルキルアゼチジンであり、ここでアゼチジン環は場合によりAで置換されてよく;
R3およびR4は独立してハロ、ニトロ、CHO、C0-6アルキルCN、OC1-6アルキルCN、C0-6アルキルOR6、OC1-6アルキルOR6、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、C0-6アルキルNR6R7、OC1-6アルキルNR6R7、OC1-6アルキルOC1-6アルキルNR6R7、NR6OR7C0-6アルキルCO2R6、OC1-6アルキルCO2R6、C0-6アルキルCONR6R7、OC1-6アルキルCONR6R7、OC1-6アルキルNR6(CO)R7、C0-6アルキルNR6(CO)R7、O(CO)NR6R7、NR6(CO)OR7、NR6(CO)NR6R7、O(CO)OR6、O(CO)R6、C0-6アルキルCOR6、OC1-6アルキルCOR6、NR6(CO)(CO)R6、NR6(CO)(CO)NR6R7、SR6、C0-6アルキル(SO2)NR6R7、OC1-6アルキルNR6(SO2)R7、OC0-6アルキル(SO2)NR6R7、C0-6アルキル(SO)NR6R7、OC1-6アルキル(SO)NR6R7、SO3R6、C0-6アルキルNR6(SO2)NR6R7、C0-6アルキルNR6(SO)R7、OC1-6アルキルNR6(SO)R7、OC0-6アルキルSO2R6、C0-6アルキルSO2R6、C0-6アルキルSOR6、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリールおよびC0-6アルキルヘテロアリールから選択され、ここで該C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリールおよびC0-6アルキルヘテロアリールは場合により1個またはそれ以上のAで置換されてよく;
mは0、1、2、3または4であり;
nは0、1、2、3または4であり;
R5は水素、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリール、C0-6アルキルヘテロアリール、C1-6アルキルNR6R7またはC1-6アルキルCONR6R7であり;
R6およびR7は独立して水素、C1-6アルキル、(CO)OR8、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリール、C0-6アルキルヘテロアリールおよびC1-6アルキルNR8R9から選択され;
R6およびR7は一緒になって独立してN、OまたはSから選択される1個またはそれ以上のヘテロ原子を含有する置換された5または6員の複素環式環を形成することができ、その複素環式環は場合によりAで置換されてよく;
R8およびR9は独立して水素、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリールおよびC0-6アルキルヘテロアリールから選択され;
R8およびR9は一緒になって独立してN、OまたはSから選択される1個またはそれ以上のヘテロ原子を含有する5または6員の複素環式環を形成することができ、その複素環式環は場合によりAで置換されてよく;
R10は水素、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリ−ル、C0-6アルキルヘテロアリールまたはC1-6アルキルNR8R9であり;
R11はC0-6アルキルC3-6シクロアルキルであり;
Aはハロ、ニトロ、CHO、CN、OR6、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、C0-6アルキルNR6R7、OC1-6アルキルNR6R7、CO2R8、CONR6R7、NR6(CO)R6、O(CO)R6、COR6、SR6、(SO2)NR6R7、(SO)NR6R7、SO3R6、SO2R6またはSOR6である。
【請求項2】
ZはNであり;YはCONR5であり;XはNであり;Pはフェニルであり;Qは1個の窒素原子を含有する6員の芳香族複素環式環であり;RはC1-6アルキルNR10R11であり;mは0であり;nは0であり;R5は水素であり;R10は水素、C0-6アルキルC3-6シクロアルキル、C0-6アルキルアリール、C0-6アルキルヘテロアリールまたはC1-6アルキルNR8R9であり;そしてR11はC0-6アルキルC3-6シクロアルキルである請求項1記載の化合物。
【請求項3】
C1-6アルキルNR10R11のC1-6アルキルはプロピルであり;R10およびR11はシクロブチルであり;そしてQはピリジンである請求項2記載の化合物。
【請求項4】
遊離塩基または薬学的に許容しうる塩、溶媒和物もしくはその塩の溶媒和物としての3−アミノ−6−{4−[3−(ジシクロブチルアミノ)プロピル]フェニル}−N−ピリジン−3−イルピラジン−2−カルボキサミド塩酸塩である化合物。
【請求項5】
遊離塩基、塩、溶媒和物またはその塩の溶媒和物としての3−アミノ−6−ブロモ−N−ピリジン−3−イルピラジン−2−カルボキサミドである化合物。
【請求項6】
遊離塩基、塩、溶媒和物またはその塩の溶媒和物としてのN−[3−(4−ブロモフェニル)プロピル]−N,N−ジシクロブチルアミンである化合物。
【請求項7】
活性成分として治療的に有効な量の請求項1〜4の何れか1項に記載の化合物を薬学的に許容しうる担体または希釈剤と一緒に含有する医薬製剤。
【請求項8】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3が関与する症状の予防および/または治療に使用される請求項7記載の医薬製剤。
【請求項9】
治療に使用される請求項1〜4の何れか1項に記載の化合物。
【請求項10】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3が関与する症状を予防および/または治療するための薬剤の製造における請求項1〜4の何れか1項に記載の化合物の使用。
【請求項11】
痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型痴呆パーキンソン型、Guamのパーキンソン痴呆複合、HIV痴呆、神経原線維変化病に関連する疾患およびボクサー痴呆を予防および/または治療するための薬剤の製造における請求項1〜4の何れか1項に記載の化合物の使用。
【請求項12】
疾病はアルツハイマー病である請求項11記載の化合物の使用。
【請求項13】
筋委縮性側索硬化症、大脳皮質基底核変性症、ダウン症候群、ハンチントン病、脳炎後パーキンソン症候群、進行性核上麻痺、ピック病、ニーマン−ピック病、卒中、頭部外傷および他の慢性神経変性疾患、双極性疾患、情動障害、うつ病、統合失調症、認知障害、脱毛症および避妊薬療法を予防および/または治療するための薬剤の製造における請求項1〜4の何れか1項に記載の化合物の使用。
【請求項14】
前痴呆状態、軽度の認知障害、加齢による記憶障害、加齢による認識力低下、非痴呆性認知障害、軽度の認識力低下、軽度の神経認識力低下、高齢期の健忘症、記憶障害および認知障害、血管性痴呆、レビー小体痴呆、前頭側頭型痴呆および男性型脱毛症、I型およびII型糖尿病、糖尿病性神経障害、並びに糖尿病関連疾患を予防および/または治療するための薬剤の製造における請求項1〜4の何れか1項に記載の化合物の使用。
【請求項15】
治療的に有効な量の請求項1〜4の何れか1項に記載の式Iの化合物を、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3が関与する症状の予防および/または治療の必要なヒトを含む哺乳動物に投与することからなる該症状を予防および/または治療する方法。
【請求項16】
治療的に有効な量の請求項1〜4の何れか1項に記載の式Iの化合物を、痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型痴呆パーキンソン型、Guamのパーキンソン痴呆複合、HIV痴呆、神経原線維変化病に関連する疾患およびボクサー痴呆の予防および/または治療の必要なヒトを含む哺乳動物に投与することからなる該疾病を予防および/または治療する方法。
【請求項17】
疾病はアルツハイマー病である請求項16記載の方法。
【請求項18】
治療的に有効な量の請求項1〜4の何れか1項に記載の式Iの化合物を、筋委縮性側索硬化症、大脳皮質基底核変性症、ダウン症候群、ハンチントン病、脳炎後パーキンソン症候群、進行性核上麻痺、ピック病、ニーマン−ピック病、卒中、頭部外傷および他の慢性神経変性疾患、双極性疾患、情動障害、うつ病、統合失調症、認知障害、脱毛症および避妊薬療法の予防および/または治療の必要なヒトを含む哺乳動物に投与することからなる該疾病を予防および/または治療する方法。
【請求項19】
治療的に有効な量の請求項1〜4の何れか1項に記載の式Iの化合物を、前痴呆状態、軽度の認知障害、加齢による記憶障害、加齢による認識力低下、非痴呆性認知障害、軽度の認識力低下、軽度の神経認識力低下、高齢期の健忘症、記憶障害および認知障害、血管性痴呆、レビー小体痴呆、前頭側頭型痴呆および男性型脱毛症、I型およびII型糖尿病、糖尿病性神経障害、並びに糖尿病関連疾患の予防および/または治療の必要なヒトを含む哺乳動物に投与することからなる該疾病を予防および/または治療する方法。
【請求項20】
請求項1〜4の何れか1項に記載の式Iの化合物の製造における請求項5または6記載の中間体の使用。

【公表番号】特表2006−513180(P2006−513180A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560223(P2004−560223)
【出願日】平成15年12月15日(2003.12.15)
【国際出願番号】PCT/SE2003/001955
【国際公開番号】WO2004/055005
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(391008951)アストラゼネカ・アクチエボラーグ (625)
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
【Fターム(参考)】