説明

ICタグ付き金属蓋及び金属容器

【課題】ICタグを外見上目立たなくして、金属容器の外観を保つとともに、人為的なICタグの剥離、損壊等を抑制する。また、商品の出荷、陳列等の際に他の商品や器具と接触してICタグが破損する可能性を低減させる。また、ICタグが隣接する金属容器で隠れてしまう可能性を低減し、リーダ・ライタとの間で良好な無線通信を行うことができるようにする。
【解決手段】タブ33を有し、タブ33に搭載されるとともに、タブ33に電気的に接触するICタグ用のICチップ41を備え、タブ33が、アンテナとして高い動作利得が得られうるインピーダンスを有するように、所定の形状に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム缶やスチール缶などの金属容器に備えられる金属蓋に関し、特に、リーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグ用のICチップが実装・装着されたICタグ付き金属蓋及び金属容器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルミニウム缶、スチール缶等の金属容器は、例えば、ビール、コーラ、サイダー等の炭酸飲料や果汁飲料、各種お茶類等の飲料用の容器、缶詰食品の容器、各種液体製品の容器等に広く使用されている。
そして、このような各種の金属容器には、例えば商品名や内容物の成分、生産者、生産地、賞味期限等、所定の商品情報を表示した文字やバーコード等が付されている。この種の商品情報の表示は、通常、金属容器の外面に直接印刷されたり、ラベルに印刷されて貼付されるようになっている。
【0003】
ところが、商品情報等を表示するラベルや印刷は、容器のデザイン等を損なわないよう小さく表示されるのが一般的であり、その結果、表示面積や表示される文字の大きさ、文字数等が限られたものとなり、充分な商品情報が表示できないという問題があった。
また、バーコード表示の場合、リーダで読み取るためにバーコード自体を容器表面に平面状に表示等しなければならず、また、傷や汚れ等があると読み取り不能となってしまい、しかも、バーコードでコード化できる情報量は限られていることから、文字による表示の場合と同様に、商品情報を表示、認識する手段としては一定の限界があった。
【0004】
そこで、このような従来の商品情報表示の不利・不便を解消し、必要かつ十分な商品情報を簡易かつ正確に表示等する手段として、最近ではICタグが利用されるようになってきている。
ICタグは、非接触ICタグ、RFID(Radio Frequency Identification)タグ、RFタグ等とも呼ばれ、ICチップと無線アンテナを樹脂やガラス等で封止してタグ(荷札)状に形成した超小型の通信端末で、ICチップに所定の情報を記録して対象物にタグを取り付け、記録した情報を無線通信により読取装置(リーダ・ライタ)側でピックアップすることにより、ICチップに記録された情報を認識、表示するものである。
【0005】
このようなICタグは、ICチップのメモリに数百ビット〜数キロビットのデータが記録可能であり、十分な情報等を記録でき、また、読取装置側と非接触であるため接点の磨耗や傷、汚れ等の心配もなく、さらに、タグ自体は無電源にすることができるため対象物に合わせた加工や小型化・薄型化が可能となる。
そして、このようなICタグを用いることで、商品に関する種々の情報、例えば商品の名称や重量、内容量、製造・販売者名、製造場所、製造年月日、使用期限・賞味期限等の種々の情報が記録可能となり、従来の文字やバーコードによる商品表示では不可能であった多種多様な商品情報であっても、小型・薄型化されたタグを商品に装着するだけで利用することが可能になった。
【0006】
ところが、このようなICタグをアルミニウム缶やスチール缶のような金属容器に取り付けた場合、金属容器の導電性によってICタグが影響を受けてしまい、正確な無線通信が行えなくなるという問題が発生した。
ICタグを容器に取り付けると、ICタグが発生する磁束は容器を貫通する方向に生じることになる。このため、タグを金属容器に取り付けた場合、アンテナ部が発する磁波・電磁波が金属容器側に吸収される熱損失等が生じてしまい、タグの通信特性が損なわれる事態が生じる。
【0007】
例えば、図24(a)に示すように、ICタグ100を金属容器101に取り付けると、図24(b)に示すように、タグ100が発する磁束により金属容器101の表面に渦電流が誘起され、この渦電流によって、ICタグ100の磁束が打ち消されて熱損失が生じる
また、金属容器101の影響によりタグ100のアンテナコイル部のインダクタンス等が変化してしまい、これによりアンテナの共振回路の共振周波数もずれてしまう。
このようにして、通常の汎用されているICタグをそのまま金属容器に取り付けると、タグが誤動作したり、リーダ・ライタとの無線通信が行えなくなったりするという問題が発生した。
【0008】
そこで、これまで、アルミニウム缶やスチール缶のような金属容器にICタグを取り付ける場合には、ICタグの構成を金属容器専用のものに変更して、金属容器からの影響を回避しようとする提案がなされている(例えば、特許文献1−3参照。)。
具体的には、図25に示すように、従来提案されている金属容器専用のICタグ102は、タグ内部の金属容器101と対向する側に、シート形状等に形成した磁性体(高透磁率体)103や誘電体が配設されるようになっており、これによって、ICタグ102が発する磁束を磁性体103内に通過させて、金属容器101側に渦電流が発生することを防止するようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−207980号公報(第2−4頁、第1図)
【特許文献2】特開2004−127057号公報(第3−4頁、第1図)
【特許文献3】特開2004−164055号公報(第4−5頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来提案されている金属容器用のICタグは、汎用のICタグに比べ厚さ等の寸法が大きく、金属容器の表面に装着すると、外見上タグが装着されていることが明らかになってしまい、金属容器の外観を損なうおそれがあるとともに、商品の出荷、陳列等の際に他の商品や器具等と接触して破損するおそれもあり、さらに、人為的に剥離、損壊等することも可能で、管理システムに支障を来す可能性があった。
また、外見上目立たないようにICタグを小型化することも可能であるが、この場合には、必要なアンテナ長を確保できずに、無線通信の距離(範囲)が狭い範囲に限られたり、隣接する金属容器の影響等によって通信特性が損なわれるおそれがあった。
【0011】
本発明は、以上のような従来の技術が有する課題を解決するために提案されたものであり、ICチップを開封用のタブに電気的に接触させることにより、金属蓋自体をICタグのアンテナとして機能させるとともに、開封用タブを所定形状に形成することによって、ICタグを小型化しつつ、必要なアンテナ長を確保でき、金属による通信特性への影響も回避して、リーダ・ライタとの通信距離を長く確保することができる、アルミニウム缶やスチール缶等の金属容器に好適なICタグ付き金属蓋及び金属容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のICタグ付き金属蓋は、タブを有する金属蓋であって、前記タブに搭載されるとともに、該タブに電気的に接触するICタグ用のICチップを備え、前記タブが、アンテナとして高い動作利得が得られるインピーダンスを有するように、所定の形状に形成されている。
【0013】
このような構成からなる本発明のICタグ付き金属蓋によれば、金属蓋を構成する金属部材とICチップとを電気的に接続することにより、金属部材をICタグ用のアンテナとして機能させ、金属部材とICチップが一体となってICタグを構成するようにしてある。
そして、ICタグのアンテナとして機能する開封用タブを、そのリング部の周囲長を大きくする等、タブの構造を所定形状に形成することで、そのタブ形状に応じてインピーダンスの実数部成分及び虚数部成分を所定の最適値に設定し、ICチップ及びアンテナとしてのタブ間の信号の伝送特性を良好なものとして、開封用タブを所定の動作利得を有するアンテナとすることができるようになる。
【0014】
これにより、既存の金属容器にICチップをそのまま搭載した場合に比較して、通信距離を大幅に延長することができる。
また、金属容器の蓋部にICチップを実装するだけで、ICタグ付きの金属容器を構成することができ、ICタグ本体を小型化しつつ、金属容器からなるアンテナによって、通信に必要となる十分なアンテナ長を確保することが可能となり、金属による通信特性の劣化等の問題も有効に解消することができる。
さらに、金属容器をアンテナとすることにより、タグ側のアンテナを省略することができ、アンテナ用のコストを削減できるとともに、タグを可能な限り小型化することができ、小型かつ低コストな金属用ICタグを実現することができる。
【0015】
特に、本発明のICタグ付き金属蓋は、前記タブが、当該タブのインピーダンス(Zan)の実数部成分{Re(Zan)}と、前記ICチップのインピーダンス(Zic)の実数部成分{Re(Zic)}との関係が、下記式(1)を満たすとともに、前記タブのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}と、前記ICチップのインピーダンス(Zic)の虚数部成分{Im(Zic)}との関係が、下記式(2)を満たす所定形状に形成されることが好ましい。
式(1):Re(Zan)=Re(Zic)
式(2):Im(Zan)=−Im(Zic)
このような構成とすると、ICチップ及びアンテナであるタブ間のインピーダンス整合を行なうことができる。そのため、より一層良好な通信特性とすることができる。
【0016】
また、本発明のICタグ付き金属蓋は、前記タブが、適用するICタグの通信周波数帯域内で、当該タブのインピーダンス(Zan)の虚数部成分{Im(Zan)}が、下記式(3)を満たす所定形状に形成されることが好ましい。
式(3):0<{Im(Zan)}
一般に、ICタグ用のICチップが、リーダ・ライタ側からの電波のエネルギーを直流成分に変換するための整流回路を備えており、これがリアクタンス成分を有する関係上、そのインピーダンスの虚数部成分がマイナスになりやすい。
そこで、本発明に係る金属蓋は、通信周波数帯域内において、ICチップ及びアンテナとしてのタブのインピーダンスの虚数部成分の和を「0」に近づけることができ、これによってインピーダンス整合を行なうことができるので、通信距離を長く確保することができる。
【0017】
また、本発明のICタグ付き金属蓋は、前記タブが、リング部を備えるとともに、該リング部の周囲長Lが、28mm≦Lにあるように形成されることが好ましい。
これにより、ICタグ側とアンテナであるタブ側とのインピーダンス整合を行なうことができ、またアンテナの利得を向上できることにより、通信距離を長くすることができる。
【0018】
また、本発明のICタグ付き金属蓋は、前記タブが固定される蓋パネルを備え、前記タブが、前記蓋パネルと電気的に接触し、該タブ及び該蓋パネルがアンテナとして機能するとともに、前記蓋パネルが、前記タブ側に突出するとともに当該タブに接触する一又は二以上の突出部を備えている。
このような構成からなる金属蓋は、タブに接触する突出部により、タブに流れる電流長を調整することができる。
すなわち、突出部を、その位置や数を異ならせて設けることにより電流長を調整して、タブのインピーダンスを適当なものとすることができるので、より容易に所望の通信周波数帯域での通信を行なうことが可能となる。
【0019】
また、本発明のICタグ付き金属蓋は、前記タブの先端側端縁と前記蓋パネルの内径との間に、指を挿入可能な空間が形成される形状に前記タブが形成されている。
このような構成からなる金属蓋は、タブ自体が邪魔になることなく缶の開封を行なうことができる。
【0020】
また、本発明のICタグ付き金属蓋は、前記タブ及び前記ICチップ間に、これらのインピーダンス整合をとる整合回路を備えることが好ましく、また、前記整合回路は、当該整合回路のインピーダンス(Zma)の実数部成分{Re(Zma)}と、ICチップのインピーダンス(Zic)の実数部成分{Re(Zic)}と、前記タブのインピーダンス(Zan)の実数部成分{Re(Zan)}との関係が、下記式(4)の関係に設定されるとともに、当該整合回路のインピーダンス(Zma)の虚数部成分{Im(Zma)}と、前記ICチップのインピーダンス(Zic)の虚数部成分{Im(Zic)}と、前記タブのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}との関係が、下記式(5)の関係に設定されることがより好ましい。
式(4):Re(Zma)=Re(Zic)−Re(Zan)
式(5):Im(Zma)=−Im(Zic)−Im(Zan)
【0021】
このような構成とすると、金属蓋が、ICチップとアンテナであるタブ間に、これらのインピーダンス整合を行なう整合回路を備えることで、リターンロスを低減することができる。そのため、この金属蓋及び金属容器は、通信距離を延長することができる。
また、整合回路を用いることにより、タブの形状のみでインピーダンス整合を行なう場合に比較して、タブの形状を、複雑な形状とすることなくICチップとアンテナ間のインピーダンス整合を行なうことが可能となり、製造コストを低減することができる。
【0022】
また、本発明の金属容器は、容器本体と、該容器本体に被せられる金属蓋とを備える金属容器であって、前記金属蓋が、本発明に係る金属蓋からなる構成としている。
このような構成からなる本発明の金属容器によれば、本発明に係るICタグ付き金属蓋を備えることで、アルミニウム缶、スチール缶等の金属容器において、容器の外観・デザインを損なうことなく、また、ICタグの破損・脱落等を防止しつつ、リーダ・ライタとの間で良好な無線通信を行うことができる。
また、アンテナとしてタブが、その動作利得を向上させられているので、良好な通信特性を発揮することができ、単に、既存のタブにICチップを搭載した場合に比較して、通信距離を大幅に延長することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、開封用のタブを所定形状に形成するとともに、ICチップをこのタブに電気的に接触させたので、金属蓋自体をICタグのアンテナとして機能させることができる。
また、アンテナとして機能する開封用タブを、所定形状とすることにより、ICチップとアンテナのインピーダンス整合を図り、充分な通信特性を有する金属蓋とすることができる。
これによって、タグ本体を小型化しつつ、必要なアンテナ長を確保でき、金属による通信特性への影響も回避することができ、外見上タグが目立たなくなって金属容器等の外観が保たれ、かつ、リーダ・ライタとの間で良好な無線通信が行える、特にアルミニウム缶やスチール缶等の金属容器に好適なICタグ付き金属蓋を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第一実施形態に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備える金属容器を示す斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備える金属容器を構成する金属容器の巻締め部を示す断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備える金属容器を示す部分断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備える樹脂被覆された金属容器を示す部分断面図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係るICタグ付き金属蓋を及びこの金属蓋を備える金属容器の一部拡大斜視図である。
【図6】本発明の第一実施形態に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備える金属容器を示す図であって、(a)は、平面図、(b)は、側面断面図である。
【図7】本発明の第一実施形態に係るICタグ付き金属蓋及び金属容器における等価回路図である。
【図8】本発明の第一実施形態に係る金属蓋の特性を示すグラフ図であって、(a)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とアンテナのインピーダンスの虚数部成分との関係を示すグラフ図であり、(b)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とリターンロスとの関係を示すグラフ図である。
【図9】本発明の第二実施形態に係るICタグ付き金属蓋を及びこの金属蓋を備える金属容器の一部拡大斜視図である。
【図10】本発明の第二実施形態に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備える金属容器を示す図であって、(a)は、平面図、(b)は、側面断面図である。
【図11】本発明の第二実施形態に係る金属蓋の特性を示すグラフ図であって、(a)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とアンテナのインピーダンスの虚数部成分との関係を示すグラフ図であり、(b)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とリターンロスとの関係を示すグラフ図である。
【図12】本発明の第三実施形態に係るICタグ付き金属蓋を及びこの金属蓋を備える金属容器の一部拡大斜視図である。
【図13】本発明の第三実施形態に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備える金属容器を示す図であって、(a)は、平面図、(b)は、側面断面図である。
【図14】本発明の第三実施形態に係る金属蓋の特性を示すグラフ図であって、(a)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とアンテナのインピーダンスの虚数部成分との関係を示すグラフ図であり、(b)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とリターンロスとの関係を示すグラフ図である。
【図15】本発明の第四実施形態に係るICタグ付き金属蓋を及びこの金属蓋を備える金属容器の一部拡大斜視図である。
【図16】本発明の第四実施形態に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備える金属容器を示す図であって、(a)は、平面図、(b)は、側面断面図である。
【図17】本発明の第四実施形態に係るICタグ付き金属蓋及び金属容器におけるICタグの回路パターンを示す図である。
【図18】本発明の第五実施形態に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備える金属容器を示す平面図である。
【図19】本発明の第五実施形態の変形例に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備える金属容器を示す平面図である。
【図20】本発明の第一比較例に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備える金属容器を示す図であって、(a)は、平面図、(b)は、側面断面図である。
【図21】本発明の第一比較例に係る金属蓋の特性を示すグラフ図であって、(a)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とアンテナのインピーダンスの虚数部成分との関係を示すグラフ図であり、(b)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とリターンロスとの関係を示すグラフ図である。
【図22】本発明の第二比較例に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備える金属容器を示す図であって、(a)は、平面図、(b)は、側面断面図である。
【図23】本発明の第二比較例に係る金属蓋の特性を示すグラフ図であって、(a)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とアンテナのインピーダンスの虚数部成分との関係を示すグラフ図であり、(b)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とリターンロスとの関係を示すグラフ図である。
【図24】従来の一般的な金属容器にICタグを実装した場合の通信特性の状態を模式的に示す説明図であり、(a)は金属容器に実装されたICタグの状態を、(b)は(a)に示すICタグが発する磁束の状態を示している。
【図25】従来の金属専用ICタグを金属容器に実装した場合の通信特性の状態を模式的に示す説明図であり、(a)は金属容器に実装された金属専用ICタグの状態を、(b)は(a)に示す金属専用ICタグが発する磁束の状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備えた金属容器の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
[第一実施形態]
まず、図1〜8を参照して、本発明の第一実施形態に係るICタグ付き金属蓋及びこの金属蓋を備えた金属容器について説明する。
(金属容器)
図1は、本発明の第一実施形態に係るICタグ付き金属蓋を備えた金属容器を示す斜視図であり、図2は、本実施形態に係る金属容器を示す部分断面図、図3は、同じく本実施形態に係る金属容器の巻締め部を示す断面図である。
これらの図に示すように、本実施形態の金属容器10は、飲料が充填されるアルミニウム缶、スチール缶等の缶容器であり、缶の胴部及び底部からなる容器本体20と、缶の蓋部となる金属蓋30とで構成されている。
そして、このような金属容器10の金属蓋30に、リーダ・ライタとの間で通信を行うICタグ40が装着されるようになっている。
【0026】
金属容器10を構成する缶容器は、いわゆるスリーピース缶の場合には、胴部と蓋部及び底部がそれぞれ分離しており、胴部に蓋部及び底部を巻締めることにより形成され、いわゆるツーピース缶の場合には、底部と胴部が一体化されて容器本体を構成し、この容器本体に蓋部が巻締められることにより形成される。
本実施形態の金属容器10は、胴部及び底部を形成する容器本体20に、蓋部を形成する金属蓋30を巻締めるツーピース缶によって構成してある。
但し、金属容器10は、スリーピース缶によって構成してもよい。
【0027】
図2及び図3に示すように、容器本体20と金属蓋30との巻締め部は、容器本体20の上端縁に形成されたボディフック21と、金属蓋30の外周縁に形成されたカバーフック31とを重ね合わせ、かつ、巻込み状に圧着することにより形成されている。
この巻締め部は、金属容器10に充填された内容物の品質保持に大きな影響を与える部分であり、通常は、巻締め部の重ね合わせ部分にウレタン樹脂P等を塗布し、必要な密封性が確保されるようになっている。
このような構成により、金属容器10は、容器本体20と金属蓋30は、絶縁部材であるウレタン樹脂Pを介して絶縁されるが、厳密には、容器本体20と金属蓋30が直接接触する部分も存在しているので、完全な絶縁状態とはなっていない。
【0028】
ここで、アルミニウム缶やスチール缶等の缶容器では、容器胴部を構成する金属材にPET樹脂等のプラスチック樹脂を被覆した樹脂被覆缶容器が広く知られている。
このような樹脂被覆缶容器では、容器胴部を構成する金属材の外面や内面にPET樹脂等が被覆されており、このような樹脂被覆された胴部と蓋部とは、ウレタン樹脂等の有無に拘わらず、もともと完全な絶縁状態にある。
従って、容器本体20をこのような樹脂被覆缶容器で構成し、この樹脂被覆缶容器の蓋部にICチップを実装することで、胴部側と完全に絶縁された蓋部をICタグ用アンテナとして機能させることができる。これによって、巻締め部に別途絶縁部材の充填等を必要とすることなく、金属蓋30を容器本体20と完全に絶縁された状態として、良好な通信特性が得られるようになる。
【0029】
図4は、このような樹脂被覆された金属容器を示す部分断面図である。
同図に示す金属容器10は、蓋部(金属蓋30)と胴部(容器本体20)が樹脂被覆によって絶縁されようになっており、これによって胴部を構成する金属からの影響を回避して良好な通信特性が得られるようになる。
具体的には、本実施形態では、容器本体20を樹脂被覆金属で構成することで(樹脂被覆層23,23参照)、金属蓋30と容器本体20とがほぼ完全に絶縁されるようにしてある。
【0030】
容器本体20は、例えば、ティンフリースチール板の両面に予めポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂フィルムをラミネートした厚さが0.1〜0.4mmの樹脂被覆金属板によって形成される。
樹脂被覆金属板は、例えば、厚さが0.18mmのティンフリースチール板等の金属薄板の両面に、厚み20μmのポリブチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルムをラミネートしたものが好適に用いられる。
また、金属薄板に被覆される樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,エチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体,エチレンテレフタレート−アジペート共重合体,ブチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体等のポリエステル系樹脂,ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン−ポリプロピレン共重合体,エチレン−酢酸共重合体,アイオノマー等のポリオレフィン系樹脂,ナイロン6,ナイロン66等のポリアミド系樹脂などがある。
【0031】
なお、本発明によれば、後述するように、金属蓋30の開封用タブ33を所定形状に形成することにより、容器本体20と金属蓋30が絶縁されていなくても、ICタグ(ICチップ)の通信が行えるようになっている。その意味で、容器本体20と金属蓋30とは、絶縁されていることがより好ましいが、絶縁されていなくても良いことになる。
従って、金属容器10の構成は、容器本体20及び金属蓋30が導通するタイプ(図3参照)、これらが絶縁させられるタイプ(図4参照)のどちらであってもよい。
【0032】
(金属蓋)
図5は、本実施形態に係る金属蓋を、容器本体に結合した状態で示す斜視図である。図6は、本実施形態に係る金属蓋を示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面断面図をそれぞれ示している。
これらの図に示すように、金属蓋30は、円形の蓋パネル32と開封用タブ33を備えた構成となっている。
蓋パネル32は、円形の金属板であり、周縁部には、上述したカバーフック31が形成され、中央部オフセット位置には、開口予定領域を囲むようにスコア34が形成されている。
【0033】
開封用タブ33は、剛性のある金属板状部材であって、リベット35を介して蓋パネル32に固定される固定部36と、固定部36から蓋パネル32に沿って延びるリング部37とが一体的に備られており、リベット35を介して蓋パネル32と電気的に導通されている。
また、タブ33は、タブ33の先端側端縁と蓋パネル32のカバーフック31内周との間に、指を挿入可能な空間が形成される形状に形成されている。
固定部36は、スコア34に囲まれた開口予定領域にオーバーラップするように蓋パネル32に固定されており、リング部37は、スコア34から遠ざかる方向に延びている。
【0034】
リング部37は、リング孔38を有する環状のつまみ部であり、リング部37の先端部に指を掛けて引き起すと、リベット35を支点として固定部36の先端部が下動し、いわゆる梃子の原理でスコア34を破断する。これにより、開口予定領域が開封され、内容物の注出が可能になる。
リング部37の一部又は全体は、蓋パネル32の表面から離間するように形成することが好ましい。このようにすると、リング部37と蓋パネル32の間に指掛け空間が確保されるので、リング部37の指掛けや引き起しが容易になる。
【0035】
そして、本実施形態では、この開封用タブ33のリング部37のリング孔38上にICタグ40が備えられるようになっている。
開封用タブのリング孔は、一般には、開封操作時の指掛け用の孔として認識されているが、近年の開封用タブは、開封後も金属蓋から分離されない構造となっており、小型化され、容器から完全に切り離される旧来の大型のプルタブとは異なり、リング孔も小さいものとなっている。本実施形態の開封用タブ33も、このような開封後も金属蓋から分離されない、リング孔の小さいタイプのものとなっている。そして、このようなタイプの開封用タブのリング孔は、実際にはリング孔38に指が入れられることはなく、せいぜい開封時に指の腹で押えられる程度のものとなっている。
そこで、本実施形態では、このように実際にはデッドスペース化している開封用タブ33のリング部37のリング孔38にまたがってICタグ40(ICチップ41)を搭載することによりリング孔38を装着空間として有効活用するようにしてある。
【0036】
そして、本実施形態では、開封用のタブ33を、ICタグ40のアンテナとして機能させるとともに、アンテナとして所定の動作利得が得られうるインピーダンスを有するように、所定形状に形成するようにしてある。
ICタグ40で使用される周波数帯としては、例えば、135kHz以下の帯域、13.56MHz帯、いわゆるUHF帯に属する860M〜960MHz帯、2.45GHz帯等の数種類の周波数帯がある。そして、使用される周波数帯によって無線通信が可能な通信距離が異なるとともに、周波数帯によって最適なアンテナ長などや配線パターンが異なってくる。
そこで、金属蓋30をアンテナとして機能させるために、金属蓋30の径・面積を所定の値に設定することで、特定周波数帯(例えば2.45GHz帯)に適したアンテナとなるようにしてある。
【0037】
図7は、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器における等価回路図を示している。
ICタグのICチップ41及びアンテナ部分であるタブ33においては、タブ33のインピーダンス(Zan)とICチップ41部分のインピーダンス(Zic)とが整合されていることが望ましく、インピーダンス整合は、ICチップ41とアンテナ(タブ33)のインピーダンスにおいて、ICチップ41の実数部成分の値と、アンテナの実数部成分の値とが一致し({Re(Zic)}={Re(Zan)})、かつ、ICチップ41とアンテナの虚数部成分の和の値が0({Im(Zic)}+{Im(Zan)}=0)となれば最高の性能となる。
そして、これらが不整合になれば、それだけICタグ40の性能は劣化することになる。
【0038】
そこで、本実施形態では、アンテナを構成するタブ33を、そのインピーダンス(Zan)の実数部成分{Re(Zan)}と、ICチップのインピーダンス(Zic)の実数部成分{Re(Zic)}との関係が、下記式(1)の関係となるように設定するとともに、タブのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}と、ICチップのインピーダンス(Zic)の虚数部成分{Im(Zic)}との関係が、下記式(2)の関係となるよう設定してある。
式(1):Re(Zan)=Re(Zic)
式(2):Im(Zan)=−Im(Zic)
【0039】
また、金属蓋30は、アンテナであるタブ33が、通信周波数帯域においてインピーダンス(Zan)の虚数部成分{Im(Zan)}がプラスの値を有することにより、ICチップ41とアンテナであるタブ33とのインピーダンス整合が行なわれ、リターンロスを低減することができる。
すなわち、タブ33が、そのインピーダンス(Zan)の虚数部成分{Im(Zan)}が、0<{Im(Zan)}を満たすようにすることで、ICチップ41とタグ33間のインピーダンス整合を確実に行なうことができる。これは、ICタグ用のICチップ41が、リーダ・ライタ側からの電波のエネルギーを直流成分に変換するための整流回路を備えており、これがリアクタンス成分を有する関係上、そのインピーダンスの虚数部成分がマイナスになりやすいからである。
そこで、本実施形態では、アンテナを構成するタブ33を、そのインピーダンス(Zan)の虚数部成分{Im(Zan)}が、下記式(3)を満たすように設定してある。
式(3):0<{Im(Zan)}
【0040】
本実施形態では、タブ33の外形を所定形状に形成することにより、上述した式(1)〜(3)の関係が得られるようにしてある。
具体的には、タブ33は、リング部37の周囲長Lが、28mm≦Lにあるように形成してある。
このような形状とすることにより、タブ33の電流長が最適なものとなり、すなわち、タブ33側のインピーダンスの実数部成分と虚数部成分の双方を最適なものとすることができる。これにより、ICチップ41とタブ33のインピーダンスの虚数部成分の和を「0」に近づけることができるので、インピーダンス整合が行なわれるようになり、通信距離を長く確保することが可能となる。
【0041】
図6に示すように、本実施形態のタブ33は、そのリング部37の先端部側において、固定部36側にほぼVの字状に凹設形成された凹設部70を備えており、リング部37の形状が、横幅が大きな、ほぼハート型状に形成されている。また、リング孔38は、外形にそって形成されている。また、リング部37は、リング孔38を横断して架設される架設バー71を備えている。
このタブ33のリング部37のリング孔38上には、ICタグ40が位置している。
【0042】
このようにすると、タブ33のリング部37の周囲長を大きくする等、タブの構造の変化により、インピーダンスのリアクタンス領域(虚数部成分)を調整することができる。これにより、通信距離を長く確保することができるようになる。
すなわち、所定の通信周波数帯域(本実施形態では、2.40GHz〜2.4835GHz)において、タブ33のインピーダンス(Zan)の虚数部成分{Im(Aan)}がプラスの値を有するように形成することができる。
これにより、本実施形態では、ICチップ41が、リーダ・ライタ側からの電波のエネルギーを直流成分に変換するための整流回路を備えることになり、これがリアクタンス成分を有しているので、タブ33の虚数部成分{Im(Aan)}がプラスの値を有すると、虚数部成分{Im(Zan)}と{Im(Zic)}の和を「0」、又は「0」に近づけることができ、タブ33が、アンテナとして良好な動作利得を得ることができるようになる。
【0043】
(ICタグ)
図5及び図6に示すように、ICタグ40は、金属蓋30の開封用タブ33に装着される。
一般に、ICタグ40は、ICチップ41とアンテナとを有し、これらを樹脂などからなる基材に搭載して構成されるが、本実施形態に係るICタグ40は、専用のアンテナを備えず、金属容器10の一部を、ICタグ用のICチップ41に電気的に接続し、ICタグ40のアンテナとして機能させるようにしてある。
【0044】
具体的には、ICタグ40は、矩形状の基板上に搭載されるICチップ41を備えている。基板は、フィルムでもよく、形状も自由である。
そして、このICタグ40は、金属蓋30の開封用タグ33に装着されている。
ICチップ41が搭載される基板は、ガラスエポキシ樹脂などで形成されており、ICチップ41側と金属蓋30側とが絶縁されている。
そして、ICチップ41は、金属製のコンタクト部を介してタブ33に電気的に接触するようになっている。なお、ICチップ41のコンタクト部は、少なくとも1箇所においてタブ33と電気的に接続していれば良く、従って、コンタクト部は複数設けられていても良い。
【0045】
ICチップ41が搭載される基板は、ガラスエポキシ樹脂などで形成されており、ICチップ41側と金属蓋30側とが絶縁されている。ただし、基板は、樹脂フィルムなどで形成してもよい。
ICチップ41は、メモリ等の半導体チップからなり、例えば数百ビット〜数キロビットのデータが記録可能となっている。そして、アンテナを介して図示しないリーダ・ライタとの間で無線通信による読み書き(データ呼び出し・登録・削除・更新など)が行われ、ICチップ41に記録されたデータが認識されるようになっている。
ICチップ41に記録されるデータとしては、例えば、商品の識別コード、名称、重量、内容量、製造・販売者名、製造場所、製造年月日、使用期限等、任意のデータが記録可能であり、また、書換も可能である。
【0046】
ICタグ40で使用される周波数帯としては、例えば、135kHz以下の帯域、13.56MHz帯、いわゆるUHF帯に属する860M〜960MHz帯、2.45GHz帯等の数種類の周波数帯がある。そして、使用される周波数帯によって無線通信が可能な通信距離が異なるとともに、周波数帯によって最適なアンテナ長などや配線パターンが異なってくる。
本実施形態では、金属蓋30をアンテナとして機能させることから、上述したように開封用タブ33の外形を所定の大きさに設定することで、特定周波数帯(例えば2.45GHz帯)に適したアンテナとすることができる。
【0047】
(通信特性)
次に、以上のような構成からなる本実施形態の金属蓋の通信特性について、図8を参照しつつ説明する。図8は、ICチップ41として、そのインピーダンスがZic=20−j50のものを使用してシミュレーションを行った結果を示している。
図8は、本実施形態に係る金属蓋の特性を示すグラフ図であって、(a)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とアンテナのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}の関係を示すグラフ図であり、(b)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とリターンロスとの関係を示すグラフ図である。
【0048】
図8に示すように、本実施形態の金属蓋は、通信周波数帯域(2.40GHz〜2.4835GHz)内において、2.40GHz〜約2.42GHzの領域で、アンテナのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}が、プラス(Im(Zan)>0)となっており(図8(a)参照)、また、リターンロスの最高性能が、約−3.8dB(2.40GHzのとき)となっており(図8(b)参照)、良好な通信特性が得られることがわかる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態のICタグ付き金属蓋によれば、タブ33が、アンテナとして所定の動作利得が得られうるインピーダンスを有するように、所定形状に形成することにより、既存のタブにICチップ41をそのまま搭載した場合と比較して、通信距離を大幅に延長することができる。
すなわち、タブ33のリング部37等を所定形状に形成すると、その形状に応じてインピーダンスの実数部成分及び虚数部成分を所定の値とすることができるので、ICチップ及びアンテナとしてのタブ間の信号の伝送特性が良好になり、タブを所定の動作利得を有するアンテナとして機能させることができるようになる。
そして、タブ33の形状によりインピーダンス整合を行なうことができるので、既存のICチップをそのまま用いることが可能となり、汎用性、拡張性に優れた金属対応ICタグを実現することができる。
【0050】
また、ICチップ41が、タブ33に電気的に接触することで、金属蓋30をICタグ用のアンテナとして機能させ、金属蓋30とICチップ41とが一体となってICタグ40を構成するようになる。
これにより、金属容器10の蓋部にICチップ41を実装するだけで、ICタグ付きの金属容器10を構成することができ、ICタグ40本体を小型化しつつ、金属蓋30からなるアンテナによって、通信に必要となる十分なアンテナ長を確保することができ、金属による通信特性の劣化等の問題も解消することができる。
さらに、金属容器10の一部又は全部をアンテナとすることにより、ICタグ40側のアンテナを省略することができ、アンテナ用のコストを削減できるとともに、タグを可能な限り小型することができ、小型かつ低コストな金属用ICタグを実現することができる。
【0051】
また、本実施形態では、容器の外観上デッドスペースとなる金属蓋30にICチップ41が実装されるのみでICタグ40を構成できるので、金属蓋30によって構成されるICタグ40は、金属容器10の天面に配設されることになり、容器の外観が損なわれず、しかも、金属容器10が保管・陳列された状態でも、他の容器や商品等で隠れてしまうことがなく、どのような状態でもリーダ・ライタとの通信が行えるようになり、ICタグとしての機能・特性を十分に発揮させることができる。
【0052】
このように、本実施形態によれば、ICタグ40が金属容器10の蓋部によって構成されることにより、容器の外見上ICタグが目立たなくなり、ICタグ40の装着によって容器の外観が損なわれることなく、容器本来の外観・デザインを維持することができる。
また、ICタグ40が外観上目立たなくなることで、人目に付きにくくなり、人為的なICタグ40の剥離、損壊等も抑制することができる。
さらに、金属蓋30は、容器の保管、出荷、陳列等の際にも、他の容器や器具、他の商品等とほとんど接触することがなく、金属蓋30に装着されたICチップ41が他の容器や商品等と接触して破損したり、容器から脱落したりすることも有効に防止できるようになる。
【0053】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る金属蓋及び金属容器について、図9〜11を参照しつつ説明する。
図9は、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器の一部を拡大した状態で示す斜視図である。図10は、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器を示す図であって、(a)は平面図を(b)は側面断面図をそれぞれ示している。
これらの図に示すように、本実施形態に係る金属蓋30は、上述した第一実施形態の変更実施形態であり、タブ33aの形状が、第一実施形態における凹設部70(図6参照)がない略涙滴状に形成されている点で第一実施形態と異なる。
【0054】
また、本実施形態では、蓋パネル32は、リング部37aの先端部側の二箇所に、このリング部37aに先端が接触するように突設形成された突出部60を備えている。
また、本実施形態では、蓋パネル32には、リング部37aの固定部35から先端部側のほぼ中央位置に、リング部37aに先端が接触するように突設形成された二つの突出部60が備えられている。
突出部60は、本実施形態では、約0.3mmに形成してある。
このように、金属蓋30に突出部60を設け、この突出部60をタブ33aと接触させることにより、タブ33aを流れる電流長を調整することができる。
すなわち、突出部60の位置や数を異ならせて設けることにより、電流長を調整してタブ33aのインピーダンスを適当なものとすることができるので、より容易に所望の通信周波数帯域での通信を行なうことが可能となる。
なお、リング部37aの先端側端縁と、蓋パネル32のカバーフック31内周との間には、第一実施形態と同様に、開封時に指を挿入しうる空間が形成されている。
さらに、リベット部35及び固定部36は、第一実施形態と同様の形態とし、開封性を維持している。
【0055】
(通信特性)
本実施形態の金属蓋の通信特性について説明する。
図11は、本実施形態に係る金属蓋の特性を示すグラフ図であって、(a)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とアンテナのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}の関係を示すグラフ図であり、(b)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とリターンロスとの関係を示すグラフ図である。
【0056】
同図に示すように、通信周波数帯内において、約2.46GHz〜2.4835GHzの領域で、アンテナのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}が、プラス(Im(Zan)>0)となっており(図11(a)参照)、リターンロスの最高性能が、約−5.5dB(約2.47GHzのとき)となっており(図11(b)参照)、良好な通信特性が得られることがわかった。
【0057】
以上説明したように、本実施形態の金属蓋及び金属容器は、上記実施形態と同様に、ICチップ41とアンテナであるタブ33aとのインピーダンス整合により、通信距離を延長することができる。
また、本実施形態では、金属蓋30は、通信周波数帯域内において、虚数部成分{Im(Zan)}がプラスになる周波数を、第一実施形態のものと異なる位置とすることができる。
すなわち、タブ33aの形状を異ならせることにより、所望の周波数で良好なリターンロスを得ることができるようになり、その周波数での通信距離を延長することができる。
また、突出部60を設けることにより、タブ33aを流れる電流長を調整することができる。すなわち、突出部60を、その位置や数を異ならせて設けることにより電流長を調整して、タブ33aのインピーダンスを適当なものとすることができるので、より容易に所望の通信周波数帯域での通信を行なうことが可能となる。
【0058】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態に係る金属蓋及び金属容器について、図12〜14を参照しつつ説明する。
図12は、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器におけるICタグの拡大斜視図である。図13は、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器の一部を拡大して示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面断面図である。
これらの図に示すように、本実施形態に係る金属蓋30は、タブ33bの形状が、上述した第一、第二実施形態のものと異なっている。
具体的には、タブ33bは、第二実施形態のものに比較して、そのリング部37bの先端部において、固定部36側に、ほぼ三角形状に凹設形成された凹設部72が形成されている。その他の構成は、第二実施形態のものと同様である。
このような形状とすることで、タブ33bのリング部37bの形状が大きくなるので、タブ33bを流れる電流長が調整され、通信周波数帯域内におけるアンテナとしてのタブ37bのインピーダンス(Zan)の実数部成分{Re(Zan)}及び虚数部成分{Im(Zan)}を所定の値以上とすることができる。
【0059】
(通信特性)
本実施形態の金属蓋の通信特性について説明する。
図14は、本発明の第三実施形態に係る金属蓋の特性を示すグラフ図であって、(a)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とアンテナのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}の関係を示すグラフ図であり、(b)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とリターンロスとの関係を示すグラフ図である。
【0060】
同図に示すように、通信周波数帯域内において、約2.46GHz〜2.4835GHzの領域で、アンテナのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}が、プラス(Im(Zan)>0)となっており(図14(a)参照)、リターンロスの最高性能が、約−5.8dB(約2.47GHzのとき)となっており(図14(b)参照)、良好な通信特性が得られていることがわかる。
以上のように、本実施形態の金属蓋及び金属容器は、タブ33bのリング部37bの形状が大きくなるので、タブ33bを流れる電流長を調整することができ、上述した第一、第二実施形態の場合と同様、ICタグ40の良好な通信特性を得ることができる。
【0061】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態に係る金属蓋及び金属容器について、図15〜17を参照しつつ説明する。
図15は、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器におけるICタグの拡大斜視図である。図16は、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器におけるICタグの拡大図であって(a)は平面図、(b)は。側面断面図である。
図17は、本実施形態に係るICタグ付き金属蓋及び金属容器におけるICタグの回路パターンを示す図である。
【0062】
これらの図に示すように、本実施形態に係る金属蓋30及び金属容器10は、タブ33aの形状は、上述の第二実施形態とほぼ同様であり、さらに、ICタグ40aが、ICチップ41とタブ33aに電気的に接触するとともに、これらの間のインピーダンス整合をとる整合回路50aを備えている。
整合回路50aは、基板45上に、例えば、アルミニウムなどの導電性金属で形成された回路パターンで構成されている。そして、回路パターンの一端に形成されたコンタクト部51が、基板45を貫通してタブ30aに接触している。
【0063】
この整合回路50aは、無線通信などに用いられる高周波の電気信号の伝送路において、信号の送り出し側回路の出力インピーダンスと、信号を受ける側回路の入力インピーダンスとを合わせる(整合する)ために設けられる。
インピーダンス整合は、ICチップ41、アンテナ(タブ33)及び整合回路50のインピーダンスにおいて、ICチップ41の実数部成分の値と、アンテナ及び整合回路の実数部成分の和の値とが一致し({Re(Zic)}={Re(Zan)}+{Re(Zan)})、かつ、ICチップ41、アンテナ及び整合回路の虚数部成分の和の値が0({Im(Zic)}+{Im(Zan)}+{Im(Zma)}=0)となれば最高の性能となる。これらが不整合になれば、それだけICタグ40の性能は劣化することになる。
【0064】
そこで、本実施形態では、整合回路50aを設けて、所定の通信周波数帯域(本実施形態では、2.40GHz〜2.4835GHz)において、整合回路のインピーダンス(Zma)の実数部成分{Re(Zma)}と、ICチップのインピーダンス(Zic)の実数部成分{Re(Zic)}と、タブのインピーダンス(Zan)の実数部成分{Re(Zan)}との関係が、下記式(4)の関係に設定されている。
式(4):Re(Zma)=Re(Zic)−Re(Zan)
【0065】
また、整合回路50aは、通信周波数帯域内において、整合回路のインピーダンス(Zma)の虚数部成分{Im(Zma)}と、ICチップのインピーダンス(Zic)の虚数部成分{Im(Zic)}と、タブのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}との関係が、下記式(5)の関係に設定されている。
式(5):Im(Zma)=−Im(Zic)−Im(Zan)
なお、本回路は、整合回路の一例であって、上述の式(4)及び式(5)を満たす回路であればどのような回路であってもよい。
【0066】
本実施形態においては、整合回路50は、回路パターンを所定形状に形成することにより、そのインピーダンス(Zma)の実数部成分{Re(Zma)}及び虚数部成分{Im(Zma)}を上記のような所定の値となるようにしている。
ICチップ41は、そのインピーダンス(Zic)の虚数部成分{Im(Zic)}がマイナスである。これは、ICチップ41は、リーダ・ライタ側からの電波のエネルギーを直流成分に変換するための整流回路を備えており、これがリアクタンス成分を有していることに起因する。
そのため、ICチップ41及びアンテナであるタブ33のインピーダンスの整合を行なうには、実数部及び虚数部の成分をともに増やす必要がある。
【0067】
そこで、本実施形態において、整合回路50は、虚数部成分{Im(Zma)}を増やすため、図17に示すような回路パターンとし、インダクタ成分を付与して虚数部成分を増加している。
また、整合回路50は、インピーダンス(Zma)の実数部成分{Re(Zma)}を増やすため、コの字状の部分を備えることが好ましい。(図17参照)。このようなコの字状の配線パターンとすることで、回路長を長くすることができるので、インピーダンスの実数部成分{Re(Zma)}の値を増やすことができ、また、虚数部成分{Im(Zma)}の値の調整も行なうことができる。
【0068】
以上のようにして、整合回路50aは、所定の回路パターンとすることにより、そのインピーダンス(Zma)の実数部成分{Re(Zma)}及び虚数部成分{Im(Zma)}とを所定の値としている。
なお、本実施形態に係る金属蓋30は、第二実施形態と比較して、突出部60の位置が異なり、架設バー71の両端近傍に設けられている。
【0069】
以上のような構成からなる本実施形態によれば、金属蓋30が、ICチップ41とアンテナであるタブ33a間に、これらのインピーダンス整合を行なう整合回路50aを備えているので、リターンロスを低減することができる。そのため、この金属蓋30及び金属容器10は、通信距離を延長することができる。
また、整合回路50aを用いると、タブの形状のみでインピーダンス整合を行なう場合に比較して、タブ33aの形状を、複雑な形状とすることなくICチップ41とアンテナ(タブ33a)間のインピーダンス整合を行なうことができる。そのため、製造コストを低減することができる。
この金属蓋の通信距離は、特定小電力のリーダ・ライタを使用して、7.0〜7.5cmであり、良好な通信特性が得られることを確認した。
【0070】
[第五実施形態]
さらに、図18〜19を参照して、本発明の第五実施形態に係る金属蓋及び金属容器について説明する。
図18は、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器の平面図を示している。
同図に示すように、本実施形態に係る金属蓋及び金属容器は、ICタグ40cにおいて、ICチップ41(及び整合回路を備える場合(第四実施形態参照)にはその整合回路)が封止部材42で封止された状態で、金属蓋30の開封用タブ33cに装着される点で上記第一〜第四実施形態と異なる。
また、ICタブ33cが、固定部36側からリング部37cの先端部側に向けて広がる扇型状に形成されている。
【0071】
具体的には、ICタグ40cは、ICチップ41と、このICチップ41から外部に突出するコンタクト部材43を備え、コンタクト部材43を介して金属容器10の一部(本実施形態では金属蓋30)とが、電気的に接触・導通するようになっている。
そして、このICタグ40cは、樹脂やゴム等の封止部材42で封止された状態で、金属蓋30の開封用タグ33cに装着されるようになっている。
【0072】
また、ICタグ40cは、金属蓋30に備えられる開封用タブ33cのリング孔38の孔内に、ICチップ41を封止した封止部材42が圧入状態で装着されることにより、金属蓋30に装着されるようになっている。
そして、基板から突出するコンタクト部材43が、封止部材42から外部に突出し、開封用タブ33cに接触し、ICチップ41は金属蓋30と電気的に導通することになる。
本実施形態では、金属蓋30は、上述したように容器本体20と完全に絶縁されているので、金属蓋30のアンテナとしての機能が、容器本体20を構成する金属の影響を受けない。
【0073】
ここで、図18に示す実施形態では、コンタクト部材43は、ワイヤ状(棒状)のコンタクト部材が複数本(4本)、タグ外部に向かって突出している。但し、コンタクト部材43の形態や本数等は特に限定されない。また、突出するコンタクト部材43のすべてがICチップと電気的に接続・導通している必要はない。
例えば、図18に示すワイヤ状のコンタクト部材の例では、4本突出しているコンタクト部材43のうち、実際にICと接触するコンタクト部材は、アンテナの設計により1本でも2本でもよく、その他のコンタクト部材はICと導通させず、ICタグ40cと開封用タブ33cとの固定・支持の役割だけとしても構わない。
また、後述する図19に示すように、コンタクト部材43を板状、薄膜状等に形成して封止部材42から突出させて開封用タブ33cと接触・導通させることもできる。
【0074】
また、コンタクト部材43の材質としては、Cu製やAl製が好適であるが、ICとの導通性が必要な場合には、金属のような導電性のある材質で形成し、一方、プルタブとの固定だけでICとの導通性が必要ない場合には、金属等の導電性物質である必要はなく、樹脂材料等、ICタグ40cの支持・固定に好適な任意の材質・部材を使用することができる。
【0075】
このように、ICチップ41を開封用タブ33cのリング孔38内に装着することで、開封用タブ33cのリング孔38をICタグ40cの装着空間として利用できるとともに、装着されたICチップ41を開封用タブ33cのリング部37によって保護することができる。
上述したように、現在流通している金属容器の開封用タブのリング孔は、実際には孔に指が入れられることはなく、せいぜい開封時に指の腹で押えられる程度のものとなっている。そこで、本実施形態では、実際にはデッドスペース化している開封用タブ33cはリング孔38をICタグ40cの装着空間として有効活用して、開封用タブ33cのリング孔38にICチップ41を装着してある。
このようにすることで、開封用タブ本来の機能を損なうことなく、金属蓋30の空間を有効に利用でき、また、ICチップ41をリング孔38内に隠蔽して、外観上目立たなくすることができるとともに、リング部37によってICタグを保護することもできる。
【0076】
また、図18に示す実施形態では、開封用タブ33cに、ICタグ40cの封止部材42から突出しているワイヤ状のコンタクト部材43が係止する係止溝39が設けてあり、この係止溝39にコンタクト部材43が係止・接触することで、ICチップ41と開封用タブ33が電気的に導通されるようになっている。
具体的には、図18に示すように、ICタグ40cからは放射状に4本のワイヤ状のコンタクト部材43が突出しており、これらコンタクト部材43が係止可能な4本の係止溝39が、開封用タブ33cのリング部37cの上面部に形成してある。
【0077】
このような係止溝39を開封用タブ33c側に形成することで、コンタクト部材43をより確実に開封用タブと接触させることができ、ICチップ41の装着の際の位置決め等も容易となり、開封用タブ33cに対するコンタクト部材43の接続作業が容易に行えるようになる。
また、コンタクト部材43を溝に係止・係合させることで、コンタクト部材43は係止溝39によって堅固に保持され、コンタクト部材43の接続不良等を長期に亘って防止することもできるようになる。
【0078】
ICタグ40cを封止する封止部材42は、開封用タブ33cのリング孔38に圧入できるように、一定の弾性を有する部材であることが好ましく、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、フェノール樹脂、シリコーンゴムやSBR、ウレタンゴムなどのゴム材料等がある。また、樹脂による埋め込みをする場合には、ウレタン樹脂やポリエステル樹脂に硬化剤としてイソシアネート樹脂を混ぜても良い。
封止部材42によるICチップ41(及び整合回路を備える場合にはその整合回路)の封止は、例えば、ウレタン樹脂に硬化剤のイソシアネート樹脂を混合し、ICチップ41や整合回路を設けた基板を入れた型に流し込み、硬化させて行なう。基板については、ガラスエポキシ樹脂からなるリジット基板、又は、PETなどの樹脂材料のフィルムからなるフレキシブル基板のどちらでもよい。また、樹脂やゴムで形成された外装材をICタグ40cが装着できるように予め成形し、挟み込んだり装着したりすることで封止してもよい。
また、後述する図19に示すように、フィルム状の基板にICチップ41や整合回路を形成し、そのフィルム状基板を樹脂・ゴム等で形成した封止部材42の表面に貼着・接着することで、封止部材42とICチップ41(及び整合回路)を一体的に構成することもできる。
【0079】
そして、以上のようにしてICチップ41を封止した封止部材42は、上述した開封用タブ33cのリング孔38の内径よりやや大きくなるように形成され、リング孔38内に圧入状態で装着できるようになっている。
これにより、樹脂やゴム等の弾性部材で封止がなされたICタグ40cは、装着のための基材や接着剤等を必要とすることなく、金属蓋30に脱落不能に取り付けることができ、ICタグ40cの装着作業はきわめて容易に行うことができる。また、このように圧入状態で装着されたICタグ40cは、取り外しも簡単に行え、容器の使用後の廃棄・回収の際にも、容器10とICタグ40cとの分別が容易となりリサイクルに資する金属容器を実現することができる。
さらに、ゴム等の弾性部材で封止がなされたICタグ40cは、外部からの接触・衝撃等からも保護されることになる。
【0080】
ここで、図19に、図18で示した実施形態の変形例を示す。
同図に示すように、この例では、まず、薄膜状に形成したフィルム樹脂等により構成された基板上に、ICチップ41が搭載されるとともに、フィルム状基板の表面に配線パターンが印刷等に形成される。また、必要に応じて、配線パターンを所定の回路パターンとすることで、ICチップ41と電気的に接続される整合回路50が形成されるようになっている。
さらに、フィルム状基板の一端縁からはICチップ41(及び整合回路50)の配線パターンと電気的に導通した金属薄膜からなるコンタクト部材43が突出するように形成されている。
そして、このようにフィルム状に形成された基板が、樹脂,ゴム等で開封用タブのリング孔38に圧入可能に形成された封止部材42の表面に貼着・接着されることで、封止部材42とICチップ41(及び整合回路50)が一体的に構成されるようになっている。
【0081】
このとき、フィルム状基板は、ICチップ41が搭載されている方の面が、封止部材42の表面と接触するようにして、封止部材42に重ね合わされ貼着される。これによって、ICチップ41(及び整合回路50)は、封止部材42とフィルム状基板の間に挟持された状態で封止・保護されることになる。
また、フィルム状基板は、ICチップ41が搭載されている方と逆の面が、封止部材42の表面と接触するようにして、封止部材42に重ね合わされ貼着されてもよい。この場合、ICチップ41を保護するため、ICチップ41上にエポキシ樹脂などの樹脂で覆ってもよい。
また、フィルム状基板は、基板縁部から突出している薄膜状のコンタクト部材43が、封止部材42の一端縁(図19の例では封止部材42の長手方向の一端縁)から突出するように位置合わせされて、封止部材42に接着・固定される。
なお、フィルム状基板と封止部材42は接着剤等を用いて剥離不能に接着・固定することができるが、接着方法はどのような方法であってもよい。
【0082】
このような構成により、ICチップ41と一体化された封止部材42の縁部からは、ICチップ41に導通した薄膜状のコンタクト部材43が突出するようになっている。
そして、このようにフィルム状のICチップ41(及び整合回路)が一体化された封止部材42を、外部に突出したコンタクト部材43が開封用タブ33に接触するように、開封用タブ33の上面又は下面からリング孔38内に装着・圧入する。
【0083】
このようにしても、上述した図18で示したワイヤ状のコンタクト部材43を備える場合と同様、樹脂やゴム等の弾性部材で保護・封止されたICタグ40cは、装着のための基材や接着剤等を必要とすることなく、金属蓋30に脱落不能に取り付けることができ、ICタグ40cの装着作業はきわめて容易に行うことができる。また、ゴム等の弾性部材で封止がなされたICタグ40cは、外部からの接触・衝撃等からも保護されることになる。
また、図19に示したような構成によれば、ICタグ40cを構成する基板を樹脂フィルムにより形成してあるので、ガラス基板等の場合と比較して小型化、薄膜化することができる。さらに、開封用タブ33cと電気的導通を取るためのコンタクト部材43も薄膜形成することで、ワイヤ状のコンタクト部材43を設ける場合と比較して、ICタグ40cの全体をより小型化、薄膜化することができ、また、製造も容易となる。
【0084】
(ICタグの装着方法)
つぎに、金属蓋30に対するICタグ40cの装着方法について、説明する。
次に、金属蓋30に対するICタグ40cの装着方法について、図18に示すワイヤ状のコンタクト部材43を備えるICタグ40cを例にとって説明する。なお、以下に示す装着方法は、図19に示すICタグ40cでも同様である。
まず、ICタグ40cは、上述したように、ICチップ41が予め封止部材42で被覆・封止される。ICチップ41を封止した封止部材42は、適度な弾性を有している。
また、ICタグ40cを被覆・封止した封止部材42の外形は、開封用タブ33cに形成されるリング孔38cの形状に対応しており、リング孔38cよりも若干大きく形成される。
また、ICタグ40cからは、コンタクト部材43が四方に延出されており、このコンタクト部材43が封止部材42を貫通して外部に突出している。
【0085】
そして、このように封止されたICタグ40cが、開封用タブ33cのリング孔38cに圧入状態で装着される。
装着作業は、封止部材42から突出するコンタクト部材43と開封用タブ33cの係止溝39とを位置合わせしつつ、弾性を有する封止部材42をリング孔38cに押し込むようにして簡単に装着することができる。
ICタグ40cが装着されると、突出するコンタクト部材43がリング部37cに当接して開封用タブ33cと導通するとともに、リング部37cに形成された係止溝39に係止・保持される。
【0086】
以上のようにして装着されたICタグ40cは、コンタクト部材43を介して開封用タブ33cとICチップ41とが電気的に導通され、金属蓋30をICタグ40cのアンテナとして機能させることができる。
そして、容器の使用後等に廃棄・回収する際には、リング孔38に圧入状態で装着されている封止部材42を押し出すことで、ICタグ40cを開封用タブ33cから取り外すことができる。
【0087】
以下に、図20〜22を参照して、上述した本発明の第一〜第五の各実施形態の金属蓋との比較例について説明する。
図20は、第一比較例に係る金属蓋を示している。
同図に示すように、本比較例の金属蓋は、既存のスチール缶の缶蓋に、上記と同様のICタブ40を搭載したものである。ICタブ40は、タブ33dの先端側がコンタクト部51で電気的に接続されている。
【0088】
図21は、第一比較例に係る金属蓋の特性を示すグラフ図であって、(a)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とアンテナのインピーダンス(Zan)の虚数部成分{Im(Zan)}の関係を示すグラフ図であり、(b)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とリターンロスとの関係を示すグラフ図である。
この第一比較例の金属蓋は、通信周波数帯域内において、約2.47GHz〜2.4835GHzのわずかな領域で、アンテナのインピーダンス(Zan)の虚数部成分{Im(Zan)}がプラス(Im(Zan)>0)となっている(図21(a)参照)。また、リターンロスの最高性能は、約−1.75dB(約2.47GHzのとき)となって(図21(b)参照)おり、動作利得は低くなるが、特定小電力のリーダ・ライタを使用して通信試験を行った場合、接触時には通信が可能であることを確認した。
【0089】
図22は、第二比較例に係る金属蓋を示している。
同図に示すように、本比較例の金属蓋は、上述の第一比較例に比較して、そのタブ33eのリング孔38がφ約2mmに形成されている。その他の構成は第一比較例と同様である。
図23は、第二比較例に係る金属蓋の特性を示すグラフ図であって、(a)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とアンテナのインピーダンス(Zan)の虚数部成分{Im(Zan)}の関係を示すグラフ図であり、(b)は、金属蓋に実装・装着した場合のICタグの共振周波数とリターンロスとの関係を示すグラフ図である。
この第二比較例の金属蓋は、通信周波数帯域内において、アンテナのインピーダンス(Zan)の虚数部成分{Im(Zan)}が、プラスとなる領域が無く(図23(a)参照)、また、リターンロスの最高性能が、約−0.032dB(約2.47GHzのとき)となっており(図23(b)参照)、この金属蓋では、動作利得が十分でないことがわかる。
【0090】
以上、本発明のICタグ付き金属蓋及び金属容器について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明に係るICタグ付き金属蓋及び金属容器は、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上述した実施形態では、本発明を適用する金属容器として、飲料等が充填される金属製の缶容器を例にとって説明したが、本発明を適用できる金属容器としては、容器の用途や収納する内容物、容器の構成成分等は特に限定されるものではない。すなわち、ICチップと電気的に導通されてアンテナとして機能できる金属蓋等を備える容器であれば、どのような大きさ、形状、材質等の容器であってもよく、また、容器に収納される内容物がどのようなものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、金属蓋によって封止・密封される金属容器、特に、飲料等の容器となるアルミニウム缶、スチール缶等の金属容器に好適なICタグ付き金属蓋として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0092】
10 金属容器
20 容器本体
23 樹脂被覆層
30 金属蓋
32 蓋パネル
33、33a、33b、33c 開封用タブ
34 スコア
35 リベット
36 固定部
37、37a、37b、37c リング部
38 リング孔
39 係止溝
40 ICタグ
41 ICチップ
42 封止部材
43 コンタクト部材
45 基板
50a 整合回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開封用のタブを有する金属蓋であって、
前記タブに搭載されるとともに、当該タブに電気的に接触するICタグ用のICチップを備え、
前記タブが、アンテナとして所定の動作利得が得られるインピーダンスを有するように、所定形状に形成されるICタグ付き金属蓋。
【請求項2】
前記タブが、
当該タブのインピーダンス(Zan)の実数部成分{Re(Zan)}と、前記ICチップのインピーダンス(Zic)の実数部成分{Re(Zic)}との関係が、下記式(1)を満たすとともに、前記タブのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}と、前記ICチップのインピーダンス(Zic)の虚数部成分{Im(Zic)}との関係が、下記式(2)を満たす所定形状に形成される請求項1記載のICタグ付き金属蓋。
式(1):Re(Zan)=Re(Zic)
式(2):Im(Zan)=−Im(Zic)
【請求項3】
前記タブが、適用するICタグの通信周波数帯域内で、
当該タブのインピーダンス(Zan)の虚数部成分{Im(Zan)}が、下記式(3)を満たす所定形状に形成される請求項1又は2記載のICタグ付き金属蓋。
式(3):0<{Im(Zan)}
【請求項4】
前記タブが、リング部を備えるとともに、該リング部の周囲長Lが、28mm≦Lにあるように形成される請求項3記載のICタグ付き金属蓋。
【請求項5】
前記タブが固定される蓋パネルを備え、
前記タブが、前記蓋パネルと電気的に接触し、該タブ及び該蓋パネルがアンテナとして機能するとともに、
前記蓋パネルが、前記タブ側に突出するとともに当該タブに接触する一又は二以上の突出部を備える請求項1〜4のいずれか一項に記載のICタグ付き金属蓋。
【請求項6】
前記タブの先端側端縁と前記蓋パネルの内径との間に、指を挿入可能な空間が形成される形状に前記タブが形成される請求項5記載のICタグ付金属蓋。
【請求項7】
前記タブ及び前記ICチップ間に、これらのインピーダンス整合をとる整合回路を備える請求項1記載のICタグ付き金属蓋。
【請求項8】
前記整合回路が、
当該整合回路のインピーダンス(Zma)の実数部成分{Re(Zma)}と、ICチップのインピーダンス(Zic)の実数部成分{Re(Zic)}と、前記タブのインピーダンス(Zan)の実数部成分{Re(Zan)}との関係が、下記式(4)の関係に設定されるとともに、当該整合回路のインピーダンス(Zma)の虚数部成分{Im(Zma)}と、前記ICチップのインピーダンス(Zic)の虚数部成分{Im(Zic)}と、前記タブのインピーダンスZanの虚数部成分{Im(Zan)}との関係が、下記式(5)の関係に設定される請求項7記載のICタグ付き金属蓋。
式(4):Re(Zma)=Re(Zic)−Re(Zan)
式(5):Im(Zma)=−Im(Zic)−Im(Zan)
【請求項9】
容器本体と、該容器本体に被せられる金属蓋とを備える金属容器であって、
前記金属蓋が、請求項1〜8のいずれか一項に記載の金属蓋からなる金属容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2010−1074(P2010−1074A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121589(P2009−121589)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】