説明

LED用シリコーンレンズの製造方法

【課題】レンズの裏面形状を安定して製造することが可能で、指向特性や実装性に優れる、液状樹脂を用いたレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】レンズの曲面に対応する形状の窪みであるキャビティー1を有する下型2aとキャビティー1を平坦に覆う上型2bとを含む成形型2の第一の貫通孔5aから第一の樹脂流路6aを経てシリコーン樹脂3をキャビティー1へ満たし、該シリコーン樹脂3を熱硬化させてレンズの成形を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液状樹脂を用いたレンズの製造方法で、より特定的にはLED用のものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶のバックライトや一般照明、自動車、アミューズメント機器等にLEDデバイスの普及が益々進んでおり、光の方向性すなわち指向特性を制御することが可能なレンズ、特に熱硬化性の安価に大量生産することが可能な例えばシリコーンやエポキシ等の液状樹脂を用いたレンズが求められている。これら液状樹脂の製造方法の一つとして、ポッティング成形が知られている。
【0003】
一般に、ポッティング成形は大略100Pa.s以下の比較的に粘度が低い材料に使用され、樹脂を定量供給するポッティング装置から、金型内に樹脂を吐出、注入することによって成形される。
【0004】
図5は、ポッティング成形による従来のシリコーンレンズの製造方法とそれを用いた光半導体装置を示すもので、同図(a)はシリコーンレンズの製造方法を示す模式断面で、同図(b)はシリコーンレンズの断面図で、同図(c)はシリコーンレンズを用いたLED発光装置の模式断面である。
【0005】
図5において、101はキャビティー、102は成形型、103はシリコーン樹脂、104は定量供給装置、105はシリコーンレンズ、105aは曲面、105bは平坦面、106は収容部材、107はLED素子、108はワイヤー、109と110は一対のリード、111は封止樹脂材料を各々示している。
【0006】
図5(a)は、レンズの曲面に対応する形状の窪みであるキャビティー101を有する成形型102の該キャビティー101へ、定量供給装置104にて定量された流動状態のシリコーン樹脂103を滴下して該キャビティー101を満たし、遠赤外線ヒーターやIHヒーター等(図示せず)にてシリコーン樹脂103を加熱して熱硬化させた後に、シリコーン樹脂103を冷却し、取り出し機(図示せず)によりシリコーン樹脂103を成形型102から離型して取り出して図5(b)に示すシリコーンレンズ105を得ることが出来た。
【0007】
シリコーンレンズ105の表面形状はキャビティー101の曲面に対応した曲面105aとキャビティー101の開口に相当する平坦面105bとから成る。
【0008】
一般に、この様なシリコーンレンズ105は、収容部材106の底面から外部へ延出する一対のリード109、110の該収容部材106内の一方のリードにLED素子107が固着され該素子107と他方のリードとの間を金やアルミなどから成るワイヤー108でワイヤーボンドされ、LED素子107を含む収容部材106内に封止樹脂材料111が満たされ、該樹脂材料111を接着剤として利用してシリコーンレンズ105が接着され、LED素子107とシリコーンレンズ105の平坦面105bとが対面する形態で固定されるLED発光装置と成る。
【0009】
上述のシリコーンレンズの製造方法に関連した特許文献として、特開2004−276383号公報がある。
【特許文献1】特開2004−276383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記従来の構成では、キャビティー101の容量に対するシリコーン樹脂103の定量精度に起因する課題と、シリコーン樹脂103が熱硬化する際に収縮する事に起因する課題と、シリコーン樹脂103が加熱される際に対流が生じる事に起因する課題と、が有った。
【0011】
図6は、これらの課題を説明する為のものである。
【0012】
図6において、図5と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。図6の新たな構成要素とし、103aは這上り部、105cは縦バリを示す。
【0013】
キャビティー101の容量に対して精密に定量されたシリコーン樹脂103を該キャビティー101に滴下して成形型102の主面とシリコーン樹脂103の液面とを完全に同一面とすることは困難である。即ち、キャビティー101の容量に対してシリコーン樹脂103の分量が多過ぎるとキャビティー101からシリコーン樹脂103がはみ出してシリコーンレンズ105として成形不良と成り、キャビティー101からシリコーン樹脂103がはみ出さないまでも、シリコーン樹脂103の表面張力でシリコーンレンズ105の平坦面105bに膨らみを生じた。
【0014】
また、逆にシリコーン樹脂103の分量が少なくてキャビティー101を満たしきれない場合は、成形型102の主面よりもシリコーン樹脂103の液面が低くなり、シリコーン樹脂103の液面周縁からキャビティー101の表面を該樹脂103が這上がって這上り部103aを形成する。この這上がり現象は、成形性を重視されてシリコーン樹脂103とキャビティー101との濡れ性が良好である程顕著に生じる。この這上り部103aがそのまま熱硬化されてシリコーンレンズ105の平坦面105b周縁に縦バリ105cとして残存する(図6(a))。
【0015】
この縦バリ105cは、例えば図5(c)に示した収容部材106へのシリコーンレンズ105の正確な取り付けを阻害し光特性に悪影響を与え、縦バリ105cを除去する為には余分な工数を要する。
【0016】
キャビティー101に満たされたシリコーン樹脂103は加熱されて熱硬化する際に、重合反応により僅かな体積収縮が起こる。成形型102に形成された窪みであるキャビティー101に満たされたシリコーン樹脂103は、熱硬化して固化して行く際に、キャビティー101に接する面は該キャビティー101に貼りついた状態でその表面の変移が抑制される。これに対して103の液面はその表面の変移を抑制されないので、シリコーン樹脂103が収縮する際の変移が液面に集中するので、該樹脂103の液面が凹面となる傾向がある。従って、シリコーンレンズ105の平坦面105bがそのまま凹面となる傾向がある(図6(b))。
【0017】
この平坦面105bが凹面と成ったシリコーンレンズ105は、例えば図5(c)に示した収容部材106へ該レンズ105を取り付けた場合、発光半導体素子107とシリコーンレンズ105の平坦面105bとの距離を変化させる。
【0018】
また、封止樹脂材料111とシリコーンレンズ105の平坦面105bとの間に気泡を抱き込んだ状態を生じる恐れもある。これらは、光特性に悪影響を与える。
【0019】
キャビティー101に満たされたシリコーン樹脂103は熱硬化させる為に加熱されるが、その際にシリコーン樹脂103内で熱対流が生じる。この熱対流の流れがシリコーン樹脂103の液面の平滑性を阻害し、シリコーンレンズ105の平坦面105bに、うねりとしてその痕跡を残す(図6(c))。
【0020】
この平坦面105bにうねりを生じたシリコーンレンズ105は、例えば図5(c)に示した収容部材106へ該レンズ105を取り付けた場合、LED素子107が発する光の透過率を低下させ、あるいは光を散乱させて光特性に悪影響を与える。
【0021】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、樹脂の精密な定量や修正を加えること無く、曲面と平坦面とから成る樹脂レンズの平坦面にバリや凹み、あるいはうねり等が生ずる事がないLED用シリコーンレンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記従来の課題を解決するために、本発明のLED用シリコーンレンズの製造方法は、レンズの曲面に対応する形状の窪みであるキャビティーを有する下型と、該下型の主面と合わさり、キャビティーを平坦に覆う上型とを含む成形型を用いて熱硬化性の液状樹脂であるシリコーン樹脂を成形する方法で、キャビティーへシリコーン樹脂を流し込む為の経路として、キャビティーの近傍に上型を表裏貫通する第一の貫通孔が開けられ該貫通孔が下型と上型とのパーティングラインに沿って該下型側に形成される第一の樹脂流路を経てキャビティーへ連通しており、ヒーターにて加熱された成形型の第一の貫通孔の開口へ、シリコーン樹脂をパーティングラインよりも該シリコーン樹脂の液面が高くなるまで流し込みキャビティーをシリコーン樹脂で満たして該シリコーン樹脂を熱硬化させることを特徴とする。
【0023】
本構成によって、シリコーン樹脂の精密な定量を必要とせずに該シリコーン樹脂でキャビティーを正確に満たし、レンズの平坦面に対応するシリコーン樹脂の平坦面も成形型に接しているので、該シリコーン樹脂が熱硬化していく際に成形型とシリコーン樹脂とが貼りついて該樹脂表面の変移を抑制するので、シリコーンレンズの平坦面の平坦度を阻害することがない。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明のLED用シリコーンレンズの製造方法によれば、レンズの平坦面の膨らみや凹み、あるいは縦バリやうねりの発生を抑制でき、光特性を阻害することが無いものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における樹脂レンズの製造方法を示す模式断面図である。
【0027】
図1において、1はキャビティー、2は成形型、2aは下型、2bは上型、3はシリコーン樹脂、4は供給装置、5aは第一の貫通孔、6aは第一の樹脂流路を各々示している。
【0028】
図1に示したシリコーンレンズの製造方法は、レンズの曲面に対応する形状の窪みであるキャビティー1を有する下型2aと、該下型2aの主面と合わさり、キャビティー1を平坦に覆う上型2bとを含む成形型2を用いて熱硬化性の液状樹脂であるシリコーン樹脂3を成形するものである。
【0029】
キャビティー1へシリコーン樹脂3を流し込む為の経路として、キャビティー1の近傍に上型2bを表裏貫通する第一の貫通孔5aが開けられ該貫通孔5aが下型2aと上型2bとのパーティングラインに沿って下型2a側に形成される溝である第一の樹脂流路6aを経てキャビティー1へ連通している。
【0030】
ヒーター(図示せず)にて加熱された成形型2の第一の貫通孔5a開口へ供給装置4から供給されるシリコーン樹脂3を下型2aと上型2bとのパーティングラインよりもシリコーン樹脂3の液面が高くなるまで流し込みキャビティー1をシリコーン樹脂3で満たして該樹脂3を熱硬化させた後に冷却し、成形型2を開き、固化したシリコーン樹脂3を吸着させる吸盤などを有する取り出し機(図示せず)にて該樹脂3を取り出すものである。
【0031】
図2は、上述の製造工程をステップ順に示すフロー図である。
【0032】
即ち、成形型2に供給装置4を用いてシリコーン樹脂3を供給し、キャビティー1にシリコーン樹脂3を注入するステップと、成形型2をヒーターにて加熱することでシリコーン樹脂3を熱硬化させて固化するステップと、成形型2およびシリコーン樹脂3を冷却するステップと、成形型2を開き、取り出し機にてシリコーン樹脂3を取り出すステップと、シリコーン樹脂3の、第一の樹脂流路6aからキャビティー1への入り口に相当するゲート部をカットしてLED用シリコーンレンズ単体とするゲートカットステップと、から成る。
【0033】
ここで、流動性の観点より、シリコーン樹脂3の常温時の粘度は好ましくは200Pa・s以下で、より好ましくは50Pa・s以下であれば良い。
【0034】
好ましくは、成形型2の材料としては、鉄やステンレス鋼等の金属が好ましく、シリコーンレンズ表面に対応する成形型2の表面の算術平均表面粗さはRa=0.1μm以下の鏡面とすれば良い。
【0035】
好ましくは、少なくともシリコーン樹脂3と接する面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)系やCrN系の被膜コーティングが施されていれば良い。これによれば、固化したシリコーン樹脂3と成形型2との離型性が向上する。
【0036】
かかる構成によれば、キャビティー1が上型2bで平坦に覆われるのでシリコーン樹脂3を精密に定量する必要が無く、シリコーン樹脂3を下型2aと上型2bとのパーティングラインよりも液面が高くなるまで流し込めば正確にキャビティー1がシリコーン樹脂3で満たされ、シリコーンレンズの平坦面に従来の縦バリや膨らみを生じることがない。
【0037】
また、キャビティー1を満たすシリコーン樹脂3のシリコーンレンズの平坦面に対応する平坦な面は、上型2bに接しているので、シリコーン樹脂3が熱硬化して固化して行く際に、キャビティー1に接する面と同様に上型2bに貼りついた状態でその表面の変移が抑制される。従って、シリコーン樹脂3が熱硬化に際して重合にて収縮した場合でもシリコーンレンズの平坦面のみが表面変移して凹面と成ること無く、レンズ全体が相似形に収縮し、光特性に悪影響を与えることもない。
【0038】
更に、シリコーン樹脂3を熱硬化させる為に加熱し、シリコーン樹脂3内部で熱対流が生じてもシリコーン樹脂3の平坦面は曲面部と同様に上型2aに接しているので表面変移が抑制されて、シリコーンレンズの平坦面にうねりとしてその痕跡を残すこともない。
【0039】
なお、ゲートカットの際にレンズの周縁部に残るゲート残りをレンズの周縁部と略同一面とするには、図3に示す様に、キャビティー1の下型2a主面に開口する部分である周縁部を下型2aの主面に対して第一の樹脂流路6aよりも深い所定の深さの垂直な面とする周縁垂直部1aとすれば良い。
【0040】
かかる構成によれば、第一の樹脂流路6aのゲート部を垂直にカットし、周縁垂直部1aと略同一面とすることが出来る。
【0041】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2のシリコーンレンズの製造方法を示す模式断面図である。図4において、図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。図4の新たな構成要素は、キャビティー1の近傍に上型2bを表裏貫通する第二の貫通孔5bが開けられ該貫通孔5bが下型2aと上型2bとのパーティングラインに沿って下型2a側に形成される溝である第二の樹脂流路6bを経てキャビティー1へ連通しているものである。
【0042】
これによれば、第一の貫通孔5aの開口よりシリコーン樹脂3を供給して流し込んでキャビティー1を該樹脂3で満たしていく際に、第二の樹脂流路6bを経て第二の貫通孔5bへ樹脂3が流れ込むので内在する気泡も第二の貫通孔5bへ抜けて行く事と成り、形成されるLED用シリコーンレンズへの気泡残留を確実に防止できる。
【0043】
なお、本発明の実施例としてシリコーン樹脂を用いて説明したが、エポキシ等の常温で流動性を有する熱硬化性樹脂であれば採用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
LED用シリコーンレンズの製造方法として有用であり、特にレンズの面に精度が要求されるものに適している。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1におけるLED用シリコーンレンズの製造方法を示す断面図
【図2】本発明の実施の形態1における工程フローを示す図
【図3】本発明の実施の形態1における変更実施例を示す断面図
【図4】本発明の実施の形態2におけるLED用シリコーンレンズの製造方法を示す断面図
【図5】従来のLED用レンズの製造方法を示す模式図
【図6】従来のLED用レンズの製造方法の課題を示す模式図
【符号の説明】
【0046】
1、101 キャビティー
1a 周縁垂直部
2、102 成形型
2a 下型
2b 上型
3、103 シリコーン樹脂
4 供給装置
5a 第一の貫通孔
5b 第二の貫通孔
6a 第一の樹脂流路
6b 第二の樹脂流路
104 定量供給装置
105 シリコーンレンズ
105a 曲面
105b 平坦面
106 収容部材
107 LED素子
108 ワイヤー
109、110 一対のリード
111 封止樹脂材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズの曲面に対応する形状の窪みであるキャビティーを有する下型と、該下型の主面と合わさり、前記キャビティーを平坦に覆う上型とを含む成形型を用いて熱硬化性の液状樹脂であるシリコーン樹脂を成形する方法で、
前記キャビティーへ前記シリコーン樹脂を流し込む為の経路として、前記キャビティーの近傍に前記上型を表裏貫通する第一の貫通孔が開けられ該貫通孔が前記下型と前記上型とのパーティングラインに沿って該下型側に形成される第一の樹脂流路を経て前記キャビティーへ連通しており、
ヒーターにて加熱された前記成形型の前記第一の貫通孔の開口へ、前記シリコーン樹脂を前記パーティングラインよりも該シリコーン樹脂の液面が高くなるまで流し込み前記キャビティーを前記シリコーン樹脂で満たして該シリコーン樹脂を熱硬化させることを特徴とするLED用シリコーンレンズの製造方法。
【請求項2】
前記キャビティーの近傍に前記上型を表裏貫通する第二の貫通孔が開けられ該貫通孔が前記パーティングラインに沿って前記下型側に形成される第二の樹脂流路を経て前記キャビティーへ連通していることを特徴とする請求項1に記載のLED用シリコーンレンズの製造方法。
【請求項3】
前記シリコーン樹脂の常温時の粘度が200Pa・s以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のLED用シリコーンレンズの製造方法。
【請求項4】
少なくとも、前記シリコーンレンズ表面に対応する前記成形型の表面の算術平均表面粗さがRa=0.1μm以下であることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のLED用シリコーンレンズの製造方法。
【請求項5】
前記成形型の表面で、少なくとも前記シリコーン樹脂と接する面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)系またはCrN系の被膜コーティングが施されていることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載のLED用シリコーンレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−110894(P2010−110894A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282724(P2008−282724)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】