説明

MHC分子と結合する腫瘍関連ペプチド

本発明は、添付の配列表の配列番号1〜配列番号101からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する腫瘍関連ペプチドであって、ヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIの分子と結合能を有するペプチドに関する。さらに本発明は該ペプチドの使用および薬物の製造ならびに腫瘍性疾患および/または腺腫様疾患の処置のためのペプチドおよび該ペプチドをエンコードしている核酸の使用に関する。さらに、少なくとも1つの該ペプチドを有する医薬組成物を報告する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト主要組織適合(遺伝子)複合体(major-histocompatibility-complex、MHC)クラスIの分子との結合能を有する腫瘍関連ペプチドに関する。
【0002】
このようなペプチドは、例えば、腫瘍性疾患の免疫療法において使用する。
【背景技術】
【0003】
免疫系のコンポーネントによる腫瘍関連抗原(TAA)の認識は、免疫系による腫瘍細胞の排除に重要な役割を果たしている。この機構は、腫瘍細胞と正常細胞間に質的または量的な差異があるという前提条件に基づく。抗腫瘍応答を生じさせるためには、腫瘍細胞が、この腫瘍の排除のために十分な免疫学的応答を生じさせる、腫瘍に対する抗原を発現することが必要である。
【0004】
腫瘍の拒絶に関与するのは、特にCD8発現性の細胞障害性Tリンパ球(以下CTL)である。細胞障害性T細胞によるこのような免疫反応の誘発に関しては、外来タンパク質/ペプチドが該T細胞に提示される必要がある。T細胞はペプチド断片として抗原を認識するが、当該認識はこれらがMHC分子によって細胞表面で提示された場合に限る。これらのMHC分子(「主要組織適合遺伝子複合体」)はペプチド受容体であり、通常、細胞内でペプチドと結合して、これらを細胞表面へ輸送する。ペプチドとMHC分子のこの複合体は、T細胞が認識可能なものである。ヒトのMHC分子は、ヒト白血球抗原(HLA)とも称される。
【0005】
2つのクラスのMHC分子が存在する:MHCクラスI分子は、核を有するほとんどの細胞上に認められるもので、内因性タンパク質のタンパク質分解によって生じるペプチドを提示する。MHCクラスII分子は特別な抗原提示細胞(APC)上にのみ存在し、外来タンパク質のペプチドを提示する。このペプチドはエンドサイトーシスの過程でAPCによって摂取され、プロセシングされたものである。ペプチドとMHCクラスIの複合体は、CD8陽性の細胞障害性Tリンパ球によって認識され、ペプチドとMHCクラスIIの複合体はCD4ヘルパーT細胞によって認識される。
【0006】
ペプチドが細胞の免疫応答を誘発するためには、MHC分子と結合する必要がある。この過程は、MHC分子の対立遺伝子および該ペプチドのアミノ酸配列に依存する。MHCクラスI結合性のペプチドは、通常8-10残基長であり、その配列中に2つの保存残基(「アンカー」)を含有する。これらはMHC分子の対応する結合溝と相互作用する残基である。
【0007】
免疫系が腫瘍由来ペプチドに対する有効なCTL応答の開始能を有するためには、これらのペプチドは腫瘍細胞が発現する特定のMHCクラスI分子と結合能を有することが必要であるだけでなく、特異的T細胞受容体(TCR)を有するT細胞によって認識される必要がある。
【0008】
腫瘍ワクチンの開発に関する主な目標は、CD8+ CTLが認識する腫瘍関連抗原の同定および特徴付けである。
【0009】
腫瘍特異的な細胞障害性Tリンパ球によって認識される抗原またはそのエピトープは、それぞれ、すべてのタンパク質類、例えば酵素、受容体、転写因子等由来の分子であり得る。別の重要な腫瘍関連抗原類は、例えば種々の腫瘍および健康な精巣組織において発現されるCT(「癌精巣(cancer testis)」)抗原のような組織特異的構造である。
【0010】
タンパク質が腫瘍特異的抗原として細胞障害性Tリンパ球によって認識されるため、そして治療において使用可能であるためには、特定の前提条件を呈する必要がある:この抗原は主に腫瘍細胞によって発現され、正常組織では発現されないか、あるいは腫瘍内より少量しか発現されない。さらに、各抗原が1種の腫瘍において存在するだけでなく、他においても高濃度で存在することが望ましい。さらに、無条件に必要なことは、抗原のアミノ酸配列中にエピトープが存在することである。その理由は、インビトロ(in vitro)またはインビボ(in vivo)に関わらず、腫瘍関連抗原由来ペプチド(「免疫原性ペプチド」)のエピトープがT細胞応答を生じさせるからである。
【0011】
したがって、腫瘍関連抗原は腫瘍ワクチン開発のための出発点を提供する。他方、腫瘍関連抗原の同定およびその特徴付けの方法は、患者において既に誘導されているCTLの使用に基づくものであり、あるいは腫瘍と正常組織間で差異のある転写プロファイルの作成に基づくものである。
【0012】
しかし、腫瘍組織内で過剰発現されているか、あるいはそれらの組織内で選択的に発現されている遺伝子を同定しても、これらの遺伝子が転写する抗原を免疫療法において使用することについての正確な情報は得られなかった。その原因は、各事例において、これらの抗原の単一のエピトープのみが上記使用に適するに過ぎないことである。これは、抗原全体ではなく、抗原のエピトープのみがMHCの提示を介するT細胞応答を誘発するからである。したがって重要なことは、MHC分子によって提示される、過剰発現されているか、あるいは選択的に発現されているタンパク質のペプチドを選択することである。これにより、細胞障害性Tリンパ球による特異的な腫瘍認識についての出発点が得られる。
【非特許文献1】Younget al.,「腎上皮性新生物の発現プロファイリング:腫瘍分類法および診断分子マーカーの発見方法(expression profiling of renal epithelial neoplasms: a method for tumor classification and discovery of diagnostic molecular markers)」2001, Am. J. Pathol., 158:1639-1651)
【非特許文献2】Tighe et al., 1998,「遺伝子ワクチン接種:プラスミドDNAはまさしく青写真以上である(Gene vaccination: plasmid DNA is more than just a blueprint)」Immunol. Today 19(2):89-97
【非特許文献3】Melief et al., 1996,「ペプチドベースの癌ワクチン(peptides-based cancer vaccines)」Curr. Opin. Immunol. 8:651-657
【非特許文献4】Methods Enzymol. (1986), 121,「ハイブリドーマ技術とモノクローナル抗体(Hybridoma technology and monoclonal antibodies)」
【非特許文献5】A. Kibbe.,「医薬賦形剤ハンドブック第3版(Handbook of Pharmaceutical Excipients, 3. Ed.)」2000, American Pharmaceutical Association and pharmaceutical press
【非特許文献6】Schirle, M. et al.,「T細胞に依存しない新規アプローチによる腫瘍関連MHCクラスIリガンドの同定(Identification of tumor-associated MHC class I ligands by a novel T cell-independent approach)」2000, European Journal of Immunology, 30:2216-2225
【非特許文献7】Barnstable, C.J. et al.,「A型赤血球、HLAおよび他のヒト細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体の作成−遺伝的分析用の新規ツール(Production of monoclonal antibodies to group A erythrocytes, HLA and other human cell surface antigens-new tools for genetic analysis)」1978, Cell, 14:9-20
【非特許文献8】Parham, P. & Brodsky, F.M.,「HLA-A2およびHLA-A28の変異体に対して特異性を有する細胞障害性モノクローナル抗体、BB7.2の部分精製およびいくつかの性質(Partial purification and some properties of BB7.2. A cytotoxic monoclonal antibody with specificity for HLA-A2 and a variant of HLA-A28)」1981, Hum. Immunol., 3:277-299
【非特許文献9】Schirle, M. et al.,「T細胞に依存しない新規アプローチによる腫瘍関連MHCクラスIリガンドの同定(Identification of tumor-associated MHC class I ligands by a novel T cell-independent approach)」2000, European Journal of Immunology, 30:2216-2225
【非特許文献10】Younget al.,「腎上皮性新生物の発現プロファイリング:腫瘍分類法および診断分子マーカーの発見方法(Expression profiling of renal epithelial neoplasms: a method for tumor classification and discovery of diagnostic molecular markers)」2001, Am. J. Pathol., 158:1639-1651
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この背景を考慮すると、本発明の目的は、ヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIの分子との結合能を有するペプチドについての少なくとも1つの新規アミノ酸配列を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、添付の配列表の配列番号1〜配列番号101からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する腫瘍関連ペプチドを提供することによってこの目的を解決する。この場合、前記ペプチドはヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIの分子との結合能を有するものである。
【0015】
これにより、本発明の根幹を成す目的は完全に解決する。
【0016】
同定された腫瘍由来のペプチドは、合成することができ、あるいは細胞で発現させてこのペプチドを大量に得ることができ、そして以下に述べる目的のために使用することができることが理解される。
【0017】
発明者らは、MHCクラスI分子の特異的リガンドである上記ペプチドを腫瘍組織から単離し、同定することができた。この場合、用語「腫瘍関連」とは、腫瘍材料から単離され、同定されたペプチドを示す。したがって、真性(real)(原発)腫瘍上で提示されるこれらのペプチドは、腫瘍細胞における抗原プロセシングの根拠を成す。
【発明の効果】
【0018】
前記特異的リガンドを癌治療において使用し、例えば、このペプチドの起源である対応する抗原を発現している腫瘍細胞に対する免疫応答を誘発することができる。
【0019】
一方、このような免疫応答はインビボにおいてCTLを誘導する形式で達成することができる。この場合、前記ペプチドを当該腫瘍関連抗原と関連する腫瘍性疾患の患者に投与する。該投与は、例えば医薬組成物の形式で行う。
【0020】
他方、前記ペプチドの起源である抗原を発現している腫瘍に対するCTL応答をエキソビボ(ex vivo)で誘発することもできる。この場合、CTL前駆細胞をAPC、および該ペプチドとともにインキュベートする。その後、こうして刺激されたCTLを培養し、そしてこれらの活性型CTLを患者に投与する。
【0021】
さらに、エキソビボでAPCに前記ペプチドを摂取させること、および腫瘍組織において該ペプチドの起源である抗原を発現している患者にこれらの摂取型抗原提示細胞を投与する可能性が存在する。こうして、逆にAPCはインビボでCTLに該ペプチドを提示する能力を有し、これらを活性化することができる。
【0022】
他方、本発明のペプチドは診断試薬として使用することができる。
【0023】
したがって、前記ペプチドを使用して、あるペプチドを特異的に標的とするCTLがCTL集団中に存在するかどうか、あるいはそれらが治療によって誘導されるかどうかを同定することができる。
【0024】
さらに、規定のペプチドに対する反応性を示すペプチドを使用して前駆T細胞の増加を試験することができる。
【0025】
さらに、前記ペプチドをマーカーとして使用して、前記ペプチドの起源である抗原を発現している腫瘍についての疾患の進行をモニターすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
添付の表1に、同定されたペプチドを列挙する。この表ではさらに、該ペプチドの起源であるタンパク質および、各タンパク質中の各ペプチドの位置を挙げる。この場合、間違いやすい翻訳を回避するため、タンパク質の英語表記を保持した。さらに、各Acc番号を挙げる。これらは国立衛生研究所に属する「National Center for Biotechnology Information」のGenbankに保存されている。(http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照すること)。
【0027】
発明者らは、2患者、RCC68およびRCC44の腎細胞腫瘍からペプチド(すなわちリガンド)を単離することができた。
【0028】
患者の腫瘍から、101個のリガンドを同定することができた。これらはHLA亜型であるHLA-A*02、HLA-A*29、HLA-B*15またはHLA-B*45(患者RCC68)およびHLA-A*3201、HLA-A*1101、HLA-B*4002、HLA-B*2705またはHLA-Cw*0202(患者RCC44)と結合するものであった。
【0029】
いくつかのリガンドは、強力に発現されている、いわゆる「ハウスキーピング」遺伝子由来であった。該遺伝子はほとんどの組織において一律に発現されているものである。他方、多数のリガンドは組織特異的および腫瘍特異的発現を特徴とするものであった。
【0030】
このように、特に腫瘍組織において過剰発現されているタンパク質由来のいくつかのペプチドを同定することができた。ここでは、例えば、ビメンチンの断片(ALRDVRQQY、第268-276位、配列番号7;EENFAVEA、第348-355位、配列番号15;MEENFAVEA、第347-355位;NYIDKVRFL、第116-124位)を同定することができた。Youngetら(非特許文献1)は、このタンパク質が腎細胞腫瘍の組織において過剰発現されていることを示した。
【0031】
さらに発明者らは、特にアルファ-カテニン由来のリガンド(LQHPDVAAY、第229-237位、配列番号43)、およびベータ-カテニン由来のリガンド(AQNAVRLHY、第481-489位、配列番号8)を同定することができた。
【0032】
さらに、発明者らは独自の実験において、代表的な選択ペプチドを用いて、各々該選択ペプチドに特異的なCTLをインビトロで作成することが可能であることを示すことができた。これらのCTLを用いて、腫瘍細胞を選択的に死滅させることができた。該腫瘍細胞は、対応するタンパク質を発現していることに加えて、種々の患者の諸腫瘍細胞株由来のものであった。さらに、前記CTLはまた、例えば、あらかじめ各ペプチドを「パルスされた(pulsed)」(摂取させた(loaded))樹状細胞を溶解させた。こうして証明することができたことは、エピトープである本発明のペプチドを用いて、ヒトT細胞をインビトロで活性化することができることであった。結果的に発明者らは、ある患者の末梢血単核細胞(PBMNC)から得られた、特定のペプチドに特異的なCTLが別の患者の同種の腫瘍細胞を死滅させることができることを示すことができただけでなく、さらに発明者らは、これらのCTLを用いて別種の腫瘍細胞をも溶解させることができることを示した。
【0033】
好ましい実施態様でも、ペプチドを免疫応答の刺激のために使用することができ、該ペプチドは配列番号1〜101を示すものであった。そしてこの場合、少なくとも1個のアミノ酸が類似の化学的性質を有する別のアミノ酸で置換されている。
【0034】
各MHC亜型に関して、これらは、例えばアンカーアミノ酸であり、当該アミノ酸は類似の化学的性質を有するアミノ酸で置換可能である。したがって、例えばMHC亜型HLA-A*02と関連するペプチドの場合には、第2位のロイシンはイソロイシン、バリンまたはメチオニンで置換可能であり、その逆も可能であり、またC末端のロイシンはバリン、イソロイシンおよびアラニンで置換可能である。これらはすべて非極性側鎖を有するものである。
【0035】
さらに、配列番号1〜101の配列を有するペプチドであって、Nまたは/およびC末端に少なくとも1個の追加アミノ酸を示すか、あるいはこの箇所で少なくとも1個のアミノ酸が欠失しているペプチドを使用することが可能である。
【0036】
さらに、配列番号1〜101の配列を有するペプチドであって、少なくとも1個のそのアミノ酸が化学的に修飾されているペプチドを使用することができる。
【0037】
これに関して、変更用アミノ酸(群)は、該変更によってペプチドの免疫原性が影響を受けないように、すなわちペプチドがMHC分子との結合親和性を同様に有し、そしてT細胞刺激能を有するように選択される。
【0038】
本発明では、前記ペプチドを使用して、腫瘍性疾患および/または腺腫様疾患を処置することができる。
【0039】
この場合、処置対象の腫瘍性疾患は、例えば腎癌、乳癌、膵癌、胃癌、精巣癌および/または皮膚癌を含む。その実施において、列挙される腫瘍性疾患は単に例示であり、これらは使用の範囲を限定しないものとする。発明者らは独自の実験において、本発明のペプチドがそのような使用に適していることを証明することができた。この実験において、特別に作成された、特定ペプチドに特異的なCTLは効果的かつ選択的に腫瘍細胞を死滅させることができることが示された。
【0040】
概して、腫瘍ワクチンにおける腫瘍関連抗原の使用に関しては、いくつかの適用形式が考えられる。非特許文献2では、抗原は、組換えタンパク質として適切なアジュバントまたは担体系とともに、あるいはプラスミドベクター中の該抗原をエンコードしているcDNAとして投与することができることが報告された。これらの事例で免疫応答を誘発するためには、該抗原は患者の体内で抗原提示細胞(APC)によってプロセシングされ、かつ提示される必要がある。
【0041】
非特許文献3では、さらなる可能性、すなわち合成ペプチドをワクチンとして使用することが示された。これに関して好ましい実施態様では、アジュバントを加えて、あるいは単独形式で前記ペプチドを使用することができる。
【0042】
例えば、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)をアジュバントとして使用することができる。このようなアジュバントに関する別の例は、水酸化アルミニウム、鉱油のエマルジョン、例えばフロイント(Freund)アジュバント、サポニンまたはケイ素化合物である。
【0043】
アジュバントとともに使用すると、ペプチドが誘発する免疫応答を向上させることが出来て、および/あるいはペプチドが安定化される利点がある。
【0044】
別の好ましい実施態様では、APCに結合したペプチドを使用する。
【0045】
これらの手段は、前記ペプチドを免疫系、特に細胞障害性Tリンパ球(CTL)に提示することができる利点を有する。その実施において、CTLは腫瘍細胞を認識し、それらを特異的に死滅させることができる。APCとして、例えば樹状細胞、単球またはBリンパ球がそのような使用に適している。
【0046】
この場合、細胞には、例えばエキソビボでペプチドを摂取させることができる。他方、該ペプチドをエンコードしているDNAまたは対応するRNAを細胞にトランスフェクトし、該ペプチドを細胞上に発現させることは有望である。
【0047】
発明者らは独自の実験において、樹状細胞(DC)に特定のペプチドを特異的に摂取させることが可能であり、そしてこれらの摂取型樹状細胞がペプチド特異的CTLを活性化することを示すことができた。その意味するところは、免疫系を刺激して、対応するペプチドを発現している腫瘍に対するCTLを生産することができることである。
【0048】
この場合、ペプチドを保持するAPCは、そのまま使用するか、あるいは使用前に、例えば熱ショックタンパク質gp96を用いて活性化することができる。この熱ショックタンパク質はMHCクラスI分子、および補助刺激分子(costimulating molecules)、例えばB7の発現を誘導し、さらにサイトカインの生産を刺激する。これにより免疫応答の総合的な誘発が促される。
【0049】
別の好ましい実施態様では、前記ペプチドを使用して、白血球、特にTリンパ球を標識する。
【0050】
この使用は、前記ペプチドを使用して、あるペプチドを特異的に標的とするCTLがCTL集団中に存在するかどうかを解明しようとする場合には有益である。
【0051】
さらに、前記ペプチドをマーカーとして使用し、腫瘍性疾患における治療の進行を判断することができる。
【0052】
また、前記ペプチドを他の免疫化または治療において使用し、治療をモニターすることができる。このように前記ペプチドは、治療的にだけでなく診断的にも使用することができる。
【0053】
別の実施態様では、前記ペプチドを使用して抗体を作成する。
【0054】
ポリクローナル抗体は、通常の様式で取得することができる。当該取得は、動物に前記ペプチドを注射して免疫化し、その後、免疫グロブリンを精製することによって行う。
【0055】
モノクローナル抗体は、例えば非特許文献4に記載される標準プロトコルしたがって作成することができる。
【0056】
別の側面では、本発明はさらに、1つまたは複数の前記ペプチドを含有する医薬組成物に関する。
【0057】
この組成物は、例えば非経口投与または経口投与に使用する。非経口投与とは、例えば皮下、皮内または筋肉内投与である。この場合、製薬的に許容される、好ましくは水性の、担体中に前記ペプチドを溶解または懸濁する。さらに、前記組成物には補助物質、例えばバッファー、結合剤、希釈剤等を含有させることができる。
【0058】
前記ペプチドはまた、免疫刺激物質、例えばサイトカインとともに投与することができる。このような組成物中で使用することができる補助物質は、例えば非特許文献5に包括的に表記されている。
【0059】
この場合、前記物質を使用して、腫瘍性疾患および/または腺腫様疾患を阻止(prevention)、予防(prophylaxis)および/または治療することができる。
【0060】
配列番号1〜101の配列を有する少なくとも1つのペプチドを含有する医薬物質は、各ペプチドまたは抗原と関連する腫瘍性疾患の患者に投与されるものである。これにより、腫瘍特異的CTLに基づく腫瘍特異的免疫応答を誘発させることができる。
【0061】
この場合、医薬組成物中に存在するペプチドまたはペプチド群の量は治療有効量である。この場合、組成物中に含有されるペプチドはまた、少なくとも2つの異なるHLA型と結合することができる。
【0062】
別の側面では、本発明は、配列番号1〜101の配列を有するペプチドをエンコードしている核酸分子、ならびに腫瘍性疾患および/または腺腫様疾患を治療するための薬物を製造するための少なくとも1つのこの核酸分子の使用に関する。
【0063】
この場合、核酸分子はDNAまたはRNA分子であり得て、そして同様に癌性疾患の免疫療法に使用される。その実施において、核酸分子によって誘導されるペプチドは、このペプチドを発現している腫瘍細胞に対する免疫応答を誘発する。
【0064】
本発明ではまた、前記核酸分子はベクター中に存在させ得る。
【0065】
さらに本発明は、配列番号1〜101の配列を有するペプチドを生産するように、該ペプチドをエンコードしている核酸分子を用いて遺伝子改変されている細胞に関する。
【0066】
この場合、前記ペプチドをエンコードしているDNAまたは対応するRNAを細胞にトランスフェクトする。これにより、該ペプチドが細胞上に発現されるようにする。このようなAPCとしての使用には、例えば樹状細胞、単球または他のヒト細胞が適している。これらは補助刺激用の適切な分子、例えばB7.1またはB7.2を発現しているものである。
【0067】
本発明はさらに、新規ペプチドのいずれか一の存在を診断マーカーとして使用する診断方法、ならびに、治療有効量の少なくとも1つの新規ペプチドを投与して、目的のタンパク質に対する免疫応答を誘発する、病理学的状態の処置方法に関する。
【0068】
発明者らは、新規ペプチドがまた、病理学的状態に関するマーカーとして使用可能であり、したがって、患者の血液サンプルを採取して、通常の様式で該新規ペプチドのうちの1つを標的とするリンパ球の存在に関して検査する各診断方法を、早期診断として、あるいは的を絞って適切な処置を選択するために使用することができることを理解している。
【0069】
さらに本発明は、少なくとも1つの前記新規ペプチドのアミノ酸配列および/または該新規ペプチドをエンコードしている核酸分子の核酸配列を含有する電子記憶媒体に関する。
【0070】
前記記憶媒体から出発して、対応する指標が存在する場合には、病理学的状態の処置に適したペプチドに関する情報を迅速に提供することができる。
【0071】
以下の説明の対象である上記特徴および特徴群は、それぞれ既定の組み合わせにおいて使用可能であるだけではなく、本発明の範囲から逸脱することなく、固有の位置付けにおいても使用可能であることが理解される。
【0072】
以下の実施例では、本発明の実施態様を説明する。
【実施例1】
【0073】
1.1.患者サンプル
テュービンゲン大学の泌尿器科から2サンプルを入手した。これらは組織学的に確認された腎細胞腫瘍の患者由来であった。両患者は術前治療を受けていなかった。患者1(以下RCC68と称する)は次のHLA型別を有した:HLA-A*02 A*29 B*15 B*45;患者2(以下RCC44と称する)はHLA-A*3201 A*1101 B*4002 B*2705 Cw*0202であった。
【0074】
1.2.MHCクラスI結合型ペプチドの単離
腫瘍のショックフリーズサンプルを、非特許文献6において既に報告されているようにプロセシングした。標準プロトコルにしたがい、具体的には、HLAクラスI分子に特異的なモノクローナル抗体W6/32、またはHLA-A2に特異的なモノクローナル抗体BB7.2を用いてペプチドを単離した。非特許文献7および非特許文献8では、これらの抗体の作成および使用が報告されている。
【0075】
1.3.質量分析
前記ペプチドを「逆相HPLC」(SMART-system,μRPC C2/C18 SC 2.1/19, Amersham Pharmacia Biotech)によって分離し、得られたフラクションをナノESI MSによって分析した。この分析は、非特許文献9に記載されるように行った。
【0076】
腫瘍組織から得られたペプチドをキャピラリLC-MSによって同定した。この同定は文献記載に正確にしたがって行ったが、わずかな変更点を有した:各サンプル100μlを加え、脱塩し、そして300μm * 5 mmのC18μプレカラム(LC Packings)でプレ濃縮した。溶媒およびサンプルは、密封型100μlシリンジ(1710 RNR, Hamilton)を備えるシリンジポンプ(PHD 2000, Harvard apparatus, Inc.)によって加えた。この添加は2μl/分の速度で行った。ペプチドを分離するため、プレ濃縮カラムを75μm * 250 mm C-18カラム(LC Packings)の前に配置した。その後、25-60% Bのバイナリー・グラジエントを70分の範囲内で流し、ここで流速を12μl/分から約300 nl/分に減速させ、そしてこの作業は特にTEEコネクション(ZT1C, Valco)、および300μm * 150 mm C-18カラムを用いて行った。
【0077】
前記系が残留ペプチドを含まないように確保にするために、各事例において、ブランクのサンプルを測定した。オンライン−フラグメンテーションを文献記載の通りに実施し、断片のスペクトルを手作業で解析した。MASCOT(http://www.matrixscience.com)を利用してデータベース検索(NCBInr, EST)を実施した。
【0078】
1.4.患者RCC68およびRCC44の腫瘍組織由来MHCクラスIリガンドの同定
添付の配列表および添付の表1に、患者RCC68およびTCC44のHLA分子と結合したリガンドを列挙する。HLA-A*02と関連したペプチドは対立遺伝子特異的ペプチドモチーフを示した:この場合、第2位にはロイシン、バリン、イソロイシン、アラニンまたはメチオニンが、およびC末端にはロイシン、バリン、イソロイシンまたはアラニンが認められた。ほとんどのリガンドはいわゆる「ハウスキーピング」タンパク質由来であったが、腫瘍と関連するタンパク質由来のリガンドもまた同定することができた。ここでは、例えばビメンチンの断片(ALRDVRQQY、第268-276位、配列番号7;EENFAVEA、第348-355位、配列番号15;MEENFAVEA、第347-355位;NYIDKVRFL、第116-124位)を同定することができた。Youngetら(非特許文献10)は、当該タンパク質が腎細胞腫瘍の組織において過剰発現されていることを示した。
【0079】
1.5.正常CD8+ T細胞レパートリーにおけるペプチド特異的T細胞の検出
ペプチド特異的T細胞を検出するため、健康な患者の末梢血由来の単核細胞を各HLA-A*亜型テトラマーで染色した。該テトラマーは各ペプチドを伴って構成されているものであった:テトラマーの作成では、組換えHLA-A*亜型分子をインビトロで該ペプチドと構成させ、ゲルろ過によって精製し、ビオチン標識し、そしてモノマーを連結するためにストレプトアビジンと混合した。
【0080】
概して、二重染色の結果はFACSを用いる分析によって評価し、前記ペプチド−テトラマーの特異的結合を検出した。
【実施例2】
【0081】
腫瘍細胞による選択ペプチドの提示およびCTLによる該ペプチドの認識を分析するために、該選択ペプチドに特異的なCTLをインビトロで誘導した。この場合、健康なドナーの末梢血単核細胞(PBMNC)由来の樹状細胞(DC)を使用した。これらは同一の各HLA(亜)型を有するものであった。
【0082】
2.1.DCの取得
DCは、ヘパリン添加血からPBMNCをFicoll/Paque(Biochrom, Berlin, Germany)で密度勾配遠心分離することによって単離した。ヘパリン添加血は、テュービンゲン大学の血液バンクに属する健康なドナーの「軟膜(buffy coat)」調製物から得た。細胞を、RP10培地(10%加熱不活性化(heat-inactivated)胎児ウシ血清および抗生物質を補充したRPMI 1640)中、6ウェルプレート(Falcon, Heidelberg, Germany)に播いた(ウェル当たり1 x 107細胞/ 3 ml)。37℃、5%CO2で2時間インキュベートした後、非接着細胞を除去し、接着血中単球をRP10培地で培養した。この場合、補充物質として以下のサイトカインを培地に加えた:ヒト組換えGM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子;Leukomax, Novartis;100 ng/ml)、インターロイキンIL-4(R&D Systems, Wiesbaden, Germany;1000 IU(ml)、およびTNF-α(腫瘍壊死因子(Tumor-Nekrose-Faktor)α)(R&D Systems, Wiesbaden, Germany;10 ng/ml)。
【0083】
2.2.ペプチドの合成
代表的な選択ペプチドは、ペプチドシンセサイザー(432A, Applied Biosystems, Weiterstadt, Germany)でF-moc(9-フルオロエニルメチルオキシカルボニル)保護基を用いて合成し、「逆相」HPLCおよび質量分析によって分析した。これにより、十分な量の同定ずみのペプチドを作成することができた。
【0084】
2.3.リストリングド(restringed)合成ペプチドを用いる抗原特異的CTL応答の誘発
CTLの誘導では、段階2.1.で得られたDC(5 x 105)に段階2.2.から得られた50μg/mlのペプチドを2時間パルスし、次いで洗浄し、そしてRP10培地中2.5 x 106の自己PBMNCとインキュベートした。7日の培養期間の後、細胞を自己ペプチドパルスPBMNCで再刺激した。この実施においては、1 ng/mlのヒト組換えインターロイキンIL-2(R&D Systems)を1、3および5日目に加えた。この方法で誘導されたCTLの細胞障害活性を5日目に検査した。この検査は、最後の再刺激の後に、標準化されている51Cr放出アッセイを用いて行った(以下の2.4.:CTLアッセイを参照すること)。
【0085】
2.4.CTLアッセイ
CTLアッセイでは、腫瘍細胞、諸細胞株のペプチドパルス細胞および自己DCを標的細胞として使用した。ペプチドパルス細胞には50μg/mlのペプチドを2時間パルスした。すべての標的細胞を(51Cr)標識した。この標識化はRP10培地(10%加熱不活性化胎児ウシ血清および抗生物質を補充したRPMI 1640)中、37℃で1時間、[51Cr]クロム酸ナトリウムを用いて行った。その後、各ウェル当たり104細胞を丸底96ウェルプレートに加えた。種々の量のCTLを加えて最終容量を200μlにし、その後37℃で4時間インキュベートした。その後、上澄液(50μl/ウェル)を回収し、ベータプレートカウンターでカウントした。特異的溶解は以下のようにパーセントで算出した:100 x(実験における放出−自然放出/最大放出−自然放出)。自然放出および最大放出は、それぞれ培地または2%triton X-100の存在下で決定した。
【0086】
2.5.CTL誘導の結果
a)ペプチドパルスDCに対するCTL細胞障害活性
51Cr放出アッセイ(2.4.を参照すること)において、誘導型CTL(2.3.を参照すること)のT2またはDC細胞に対する細胞障害活性を試験した。T2細胞株はHLA-A*02陽性であり、TAP(抗原プロセシングと関連する輸送体)欠損である;(TAPペプチド輸送体はサイトゾル由来のタンパク質抗原のペプチド断片を小胞体(endoplasmatic reticulum)内へ輸送し、ここでこれらはMHC分子と結合する)。これらの放出アッセイの結果は、2週間の再刺激後に得られたCTL細胞株を用いて、抗原特異的な細胞の死滅を達成することができたことを示す:各選択ペプチドを提示した細胞のみが増加量のCTLによって死滅した;無関係のペプチドを摂取させたコントロール細胞は死滅しなかった。これにより、細胞溶解活性の特異性を示すことができた。
【0087】
b)腫瘍細胞株に対するCTL細胞障害活性
次の段階では、再度51Cr放出アッセイによって、選択ペプチドに特異的なCTLが、該選択ペプチドを内因的に発現している腫瘍細胞を認識し、溶解するか否かを試験した。
【0088】
この場合、対応するHLA分子を発現している種々の51Cr標識細胞株を使用した:HCT 116(大腸癌;Prof. G. Pawelec, Tuebingen, Germanyから入手)、A 498MZ 1257およびMZ 1774(腎細胞癌;Prof. A. Knuth, Frankfurt, Germanyから入手)、MCF-7(乳癌;ATCC, American Type Culture Collectionから商業的に入手)、Mel 1479(黒色腫;Prof. G. Pawelec, Tuebingen, Germanyから入手)、およびU 266(多発性骨髄腫;Prof. G. Pawelec, Tuebingen, Germanyから入手)。これらの細胞株は標的構造(「標的」)である特定タンパク質を発現している。
【0089】
前記研究中に、B細胞細胞株Croft(不死化EBV(エプスタイン・バーウイルス);HLA-A*02陽性;O.J. Finn, Pittsburgh, USAから入手)および細胞株SK-OV-3(卵巣腫瘍;HLA-A*03陽性;O.J. Finn, Pittsburgh, USAから入手)をネガティブコントロールとして含めた。K 562細胞(例えばDeutschen Sammlung von Mikroorganismen and Zellkulturen, DSMZで入手可能;ACC 10)を用いて、ナチュラルキラー細胞(NK)の活性を決定した。その理由は、この細胞株がこれらのキラー細胞に対して感受性が高いからである。
【0090】
すべての細胞株はRP10培地(10%加熱不活性化胎児ウシ血清および抗生物質を補充したRPMI 1640)中で培養した。
【0091】
上記腫瘍細胞株および2.3.で誘導されたCTLを用いて、51Cr放出アッセイ(2.4.を参照すること)を実施した。
【0092】
これらの試験では、それぞれ選択ペプチドに特異的なCTLは、対応するHLA分子ならびに選択ペプチドの両者を発現している腫瘍細胞を効果的に溶解した。特異的溶解を、上記2.4.に挙げたように、51Cr放出によって測定した。対照的に、コントロール細胞株SK-OV-3(HLA-A-*02陰性)は、HLA-A*02と結合したペプチドによって誘導されたCTLによって溶解されなかった。このことから、標的細胞を効果的に溶解するためには、ペプチドが対応するHLA分子とともに腫瘍細胞上で提示される必要があることがわかった。さらに、これによりこのCTLの抗原特異性およびMHC拘束性(MHC-restriction)が確認される。
【0093】
さらに、前記ペプチドによってインビトロで誘導されたCTL細胞は細胞株K562を認識しなかった。したがって、この細胞障害活性がナチュラルキラー細胞(NK)細胞によって媒介されないことが示された。
【0094】
c)阻害アッセイ
インビトロ誘導型CTLの抗原特異性およびMHC拘束性をさらに検証するため、非51Cr標識(「非放射性」)インヒビター細胞株を用いて阻害アッセイを実施した。
【0095】
ここでは、ペプチドパルス細胞株が腫瘍細胞の溶解を阻害する能力、またはその競合的な能力を分析した。この場合、過剰のインヒビター(すなわち、パルスした非標識細胞)を使用した。インヒビター(ペプチドパルス細胞)と標的(腫瘍細胞)の比は20:1であった。インヒビター細胞株が溶解しても、51Crが放出されることはなかった。その理由はこのインヒビター細胞株が非標識であったからである。
【0096】
細胞株T2(HLA-A*02;TAP欠損;2.5.a)を参照すること)をインヒビターとして使用した。アッセイ前に、この細胞株T2に各関連ペプチドまたは無関係のコントロールペプチドをパルスした。
【0097】
インヒビター細胞の不存在下では、CTLによる腫瘍細胞の溶解が観察された。さらに、インヒビター標的が過剰である場合、対応するペプチドがこのインヒビター標的にパルスされていれば、腫瘍細胞の溶解は生じない(したがって51Cr放出がない)ことを示すことができた。CTLの活性は過剰に存在する非標識T2細胞を標的とし、したがって腫瘍細胞ではなく、これらの細胞が溶解した。無関係のペプチドをパルスされたT2細胞は該CTLによる腫瘍細胞の溶解を阻害することができず、したがって51Cr放出を測定することができた。
【0098】
HLA-A*02-ペプチド誘導型CTLが媒介する細胞障害活性のMHC拘束性および抗原特異性は、HLA-A*02特異的モノクローナル抗体を用いて、ならびに非標識(「非放射性」)インヒビターを用いる阻害アッセイにおいて確認することができた:HLA-A*02特異的抗体(モノクローナル抗体BB7.2、IgG2b、S. Stefanovic, Tuebingenから入手)を加えてA 498腫瘍細胞をブロックした。したがって、これらはCTLを加えても溶解されず、51Crは放出されなかった。HLA-A*02分子をブロックしない非特異的な抗体(ChromPureマウスIgG, Dianova, Germany)はコントロールとして機能するものであった。これらの阻害実験では、細胞を10μg/mlの抗体と30分インキュベートした後、96ウェルプレートに播いた。
【0099】
さらに、無関係のペプチドをパルスされたT2競合細胞株はCTLが媒介する腫瘍細胞株A 498の溶解を阻害することができないが、対応するペプチドをパルスされたT2インヒビター細胞株は該腫瘍細胞株の溶解を阻害することができ、したがって後者の事例では51Cr放出を測定することができないことが見出された。
【0100】
d)トランスフェクトされたDCの特異的溶解
次の実験では、CTLの細胞障害活性を自己実験設定において分析した。この場合、CTL誘導(2.2.を参照すること)に使用したものと同一のPBMNCから得られた自己DCを標的細胞として使用した。CTLアッセイを実施する前に、腫瘍細胞株からあらかじめ単離されたRNAあるいはコントロールRNAを示すRNAでDCをエレクトロポレーションした。トータルRNAは、QIAGEN Rneasyミニキット(QIAGEN, Hilden, Germany)を使用して腫瘍細胞から単離した。該キットは製造元の指示書にしたがって使用した。光度測定によってRNAの量および純度を決定し、一定量を-80℃で保存した。
【0101】
6日目のエレクトロポレーションの前に、血清を含まないX-VIVO 20培地(BioWhittaker, Walkersville, USA)で未成熟DCを2回洗浄し、最終濃度2 x 107細胞/mlで再懸濁した。その後、細胞懸濁物200μlをトータルRNA 10μgと混合し、4 mmキュベットにおいてEasyject Plus(商標)(Peqlab, Erlangen, Germany)を用いてエレクトロポレーションを行った(パラメータ:300 V、150μF、1540Ω、パルス時間:231 ms)。エレクトロポレーションの後に、細胞をRP10培地中へ移し、再度インキュベーター内へ入れた。このエレクトロポレーションの後に、80%を超える細胞が生存していた。
【0102】
選択ペプチドによって誘導されたCTLを用いてCTLアッセイを実施(2.4.を参照すること)した後に、ペプチド発現性腫瘍細胞株のRNAでエレクトロポレーションされたDCの特異的溶解を観察することができた。対照的に、ペプチド非発現性腫瘍細胞株のRNAでエレクトロポレーションされたDCは溶解されなかった。
【0103】
このことは、ペプチド陽性腫瘍細胞のRNAでDCをトランスフェクションした後に、同定済みのペプチドがプロセシングされ、提示されることを示す。
【0104】
e)慢性リンパ性白血病(lymphatic leukaemia)患者におけるペプチド特異的CTLの誘導
追加の実験では、慢性リンパ性白血病(CLL)患者のPBMNCから選択ペプチドに特異的なCTLを作成した。さらに、51Cr放出がペプチド誘導型CTLによって媒介されるアッセイにおいて、この患者の自己の原発性CLL細胞およびDCを51Cr標識標的として使用した。その結果、選択ペプチドをパルスされたこの患者の自己DC、ならびに自己CLL細胞の両者がこのペプチド誘導型CTLによって溶解された。対照的に、無関係のペプチドをパルスされたDCは溶解されなかった。さらに、非悪性のB細胞および細胞株K 562はCTLによって溶解されなかった。
【0105】
このCTL応答の特異性を標的阻害アッセイにおいて確認した。この場合、各選択ペプチドまたは無関係のペプチドをパルスされた細胞株T2(上記参照すること)をインヒビター細胞として使用した。この事例ではまた、当該ペプチドを用いて誘導されたCTLは、該ペプチドをパルスされた、過剰に存在するインヒビター細胞株を溶解した。したがってこの事例では、51Cr標識腫瘍細胞は溶解されなかった。
【0106】
従って、発明者らは、結論として、同定されたペプチドが多数の(腫瘍性)疾患における免疫療法に即して有望な物質であることを示すことができた。
【0107】
【表1】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
添付の配列表の配列番号1〜配列番号101からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する腫瘍関連ペプチドであって、ヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIの分子との結合能を有するペプチド。
【請求項2】
少なくとも1個のアミノ酸が類似の化学的性質を有する別のアミノ酸で置換されていることを特徴とする、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
Nまたは/およびC末端に少なくとも1個の追加アミノ酸が存在することを特徴とする、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
少なくとも1個のアミノ酸が欠失していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項5】
少なくとも1個のアミノ酸が化学的に修飾されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項6】
腫瘍性疾患および/または腺腫様疾患を処置するための薬物を製造するための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の1つまたは複数のペプチドの使用。
【請求項7】
腫瘍性疾患および/または腺腫様疾患を処置するための、請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドの使用。
【請求項8】
疾患が腎癌、乳癌、膵癌、胃癌、膀胱癌および/または精巣癌であることを特徴とする、請求項6または7に記載の使用。
【請求項9】
ペプチドをアジュバントとともに使用することを特徴とする、請求項7または8に記載の使用。
【請求項10】
抗原提示細胞上に結合したペプチドを使用することを特徴とする、請求項7または8に記載の使用。
【請求項11】
白血球、特にTリンパ球を標識するための、請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドの使用。
【請求項12】
腫瘍性疾患における治療の進行を判断するための、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
抗体を作成するための、請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドの使用。
【請求項14】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の1つまたは複数のペプチドを含有する医薬組成物。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドをエンコードしている核酸分子。
【請求項16】
腫瘍性疾患および/または腺腫様疾患を処置するための薬物の製造のための、請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドをエンコードしている少なくとも1つの核酸分子の使用。
【請求項17】
請求項15に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項18】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドを生産するように、請求項15に記載の核酸分子を用いてあるいは請求項17に記載のベクターを用いて遺伝子改変された細胞。
【請求項19】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチドの存在を診断マーカーとして使用する診断方法。
【請求項20】
目的のタンパク質に対する免疫応答を誘発する、病理学的状態の処置方法であって、請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも1つのペプチドの治療有効量を投与することを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも1つのペプチドのアミノ酸配列および/または請求項15に記載の核酸分子の核酸配列を含有する電子記憶媒体。


【公表番号】特表2006−521093(P2006−521093A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500071(P2006−500071)
【出願日】平成16年3月23日(2004.3.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003077
【国際公開番号】WO2004/085461
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(505358107)インマティクス ビーオテヒノロギース ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】