説明

OHCエンジン及びその組付方法

【課題】 シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介設されるガスケットの厚さの違いを吸収して、ガスケットを跨いで噛合されるシリンダブロック側のギヤとシリンダヘッド側のギヤとの間の中心距離を一定に保つ。
【解決手段】 標準厚さとは異なる厚さのガスケット27を介設した際に、シリンダブロック1側のギヤ11とそのギヤ11に噛合されるシリンダヘッド3側のギヤ12との中心距離L132を設定値に保つべく、シリンダヘッド3を標準取付位置からシリンダブロック1の幅方向に移動させた状態に位置決めする位置決め手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックに設けられたクランクシャフトの回転を複数のギヤを介してシリンダヘッドに設けられたカムシャフトに伝達するタイミングギヤトレーンを有するOHCエンジン及びその組付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OHC(オーバーヘッドカムシャフト)エンジンは、吸・排気弁を開閉駆動するためのカムシャフトがシリンダヘッドに設けられたものである。このようなOHCエンジンにおいて、シリンダブロック側のクランクシャフトとシリンダヘッド側のカムシャフトとを結ぶタイミングギヤトレーンを設けたものが知られている(特許文献1及び2等参照)。
【0003】
例えば、図9(a)及び(b)に示すように、OHCエンジンは、シリンダブロック(エンジンブロック)1と、シリンダブロック1の上部にガスケット2を介して設けられたシリンダヘッド3とを備えている。シリンダブロック1の下部にはオイルパン4が設けられる。シリンダヘッド3の上部にはエンジンカバー5が設けられる。シリンダブロック1の下端部にはクランクシャフト6が回転自在に支持され、そのクランクシャフト6にはクランクギア7が取付けられる。シリンダヘッド3の上端部にはカムシャフト8が回転自在に支持され、そのカムシャフト8にはカムギヤ9が取付けられる。
【0004】
クランクシャフト6の回転は、複数のアイドルギヤ及びカムギヤ9によって1/2回転に減速されて、カムシャフト8に伝達される。複数のアイドルギヤは、クランクギヤ7に噛合される第一のブロック側アイドルギヤ10と、この第一のブロック側アイドルギヤ10に噛合される第二のブロック側アイドルギヤ11と、この第二のブロック側アイドルギヤ11にガスケット2を跨いで噛合されると共に、カムギヤ9に噛合されるヘッド側アイドルギヤ12とから構成される。第一のブロック側アイドルギヤ10及び第二のブロック側アイドルギヤ11は、シリンダブロック1に回転自在に支持された第一のブロック側アイドルシャフト13及び第二のブロック側アイドルシャフト14にそれぞれ取付けられる。ヘッド側アイドルギヤ12は、シリンダヘッド3に回転自在に支持されたヘッド側アイドルシャフト15に取付けられる。これらギア7、9、10、11、12によってタイミングギヤトレーンが構成される。
【0005】
図10に示すように、シリンダヘッド3は複数の円筒状のダウエルピン(位置決めピン)41によりシリンダブロック1に対して位置決めされる。このダウエルピン41は、その下端部がシリンダブロック1の上端部に設けられたダウエル孔(位置決め孔)42に嵌合され、上端部がシリンダヘッド3の下端部に設けられたダウエル孔(位置決め孔)43に嵌合される。この状態で、ボルト44をシリンダヘッド3に設けられたボルト挿通孔45及びダウエルピン41に挿通し、そのボルト44をシリンダブロック1に設けられたねじ孔46に螺合することで、シリンダヘッド3がガスケット2を介してシリンダブロック1に取付けられる。
【0006】
ところで、タイミングギヤトレーンを構成する各ギヤ(駆動側ギヤ及び負荷側ギヤ)の歯面間には、各ギヤの歯厚誤差、各ギヤ間の中心距離誤差(各ギヤが取付けられるシャフト間の軸間距離誤差)等を吸収するためのバックラッシ(遊び)(図10の符号J21参照)が設けられている。このため、カムシャフトのカムの負荷トルクが変動する毎に、負荷側ギヤがバックラッシ分だけ移動し、その負荷側ギヤが駆動側ギヤに衝突することによっていわゆる歯打ちが発生する。この歯打ちによって生じる騒音(歯打ち騒音)はアイドル運転時の騒音の主要因(約六割)となっているが、歯打ち騒音を低減させるにはバックラッシを小さくすることが有効であることが分かっている。
【0007】
従って、図9に示すOHCエンジンにおいては、各ギア7、9、10、11、12間のバックラッシを歯打ち騒音が小さくなるよう適切に設定すべく、各ギア7、9、10、11、12間の中心距離L211、L221、L231、L241がそれぞれ適宜設定される。
【0008】
【特許文献1】特開平5−141207号公報
【特許文献2】特開平10−299758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介設されるガスケットはシリンダブロックのシリンダ内(燃焼室)の圧力漏れを防止する機能だけでなく、シリンダ内(燃焼室)の体積を微調整する機能も有している。詳しくは、シリンダ内の体積はシリンダブロックやピストン等の製造ばらつきが原因でエンジン毎に多少異なるため、そのシリンダ内の体積の差に応じて厚さの異なるガスケットをエンジン毎に適用する。このようにすることで、シリンダ内の体積を常に一定にすることが可能となる。
【0010】
シリンダ内の体積を微調整するために、通常三種類程度のガスケットが予め用意される。例えば、シリンダ内の体積が規定値であれば標準厚さのガスケットを使用し、シリンダ内の体積が規定値よりも小さければ標準厚さよりも厚さが厚く形成されたガスケットを使用し、シリンダ内の体積が規定値よりも大きければ標準厚さよりも厚さが薄く形成されたガスケットを使用する。
【0011】
ここで、図9に示すOHCエンジンにおいては、最も薄いガスケット2を介設した際に第二のブロック側アイドルギヤ11とヘッド側アイドルギヤ12とが干渉しないように、且つ、標準厚さのガスケット2を介設した際に第二のブロック側アイドルギヤ11とヘッド側アイドルギヤ12との間のバックラッシJ21が適切となるように、つまり、第二のブロック側アイドルギヤ11とヘッド側アイドルギヤ12との中心距離L231が適切となるように、各ギヤ11、12の位置を設定している。
【0012】
しかしながら、図11に示すように、最も厚いガスケット2を介設した際には、第二のブロック側アイドルギヤ11とヘッド側アイドルギヤ12との中心距離L232が標準厚さのガスケット2を介設した際の中心距離L231(適切な中心距離)に比べて大きくなる。その結果、第二のブロック側アイドルギヤ11とヘッド側アイドルギヤ12との間のバックラッシJ22が標準厚さのガスケット2を介設した際のバックラッシJ21(適切なバックラッシ)に比べて大きくなってしまい、歯打ち騒音の悪化を招いてしまう。
【0013】
そこで、本発明の目的は、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介設されるガスケットの厚さの違いを吸収して、ガスケットを跨いで噛合されるシリンダブロック側のギヤとシリンダヘッド側のギヤとの中心距離を一定に保つことができるOHCエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、シリンダブロック上にガスケットを介してシリンダヘッドを設けると共に、上記シリンダブロック側のクランクシャフトと上記シリンダヘッド側のカムシャフトとを結ぶタイミングギヤトレーンを設けたOHCエンジンにおいて、標準厚さとは異なる厚さのガスケットを介設した際に、シリンダブロック側のギヤとそのギヤに噛合されるシリンダヘッド側のギヤとの中心距離を設定値に保つべく、上記シリンダヘッドを標準取付位置から上記シリンダブロックの幅方向に移動させた状態に位置決めする位置決め手段を備えたものである。
【0015】
ここで、上記位置決め手段が、上記シリンダブロック及び上記シリンダヘッドにそれぞれ設けられたダウエル孔と、それら両ダウエル孔に嵌合されるダウエルピンとからなり、上記シリンダヘッドが上記標準取付位置に位置したときに、上記シリンダブロック側及び上記シリンダヘッド側のうち一方のダウエル孔が、他方のダウエル孔に対して上記シリンダブロックの幅方向にオフセットされるように形成されても良い。
【0016】
また本発明は、シリンダブロック上にガスケットを介してシリンダヘッドを設けると共に、上記シリンダブロック側のクランクシャフトと上記シリンダヘッド側のカムシャフトとを結ぶタイミングギヤトレーンを設けたOHCエンジンの組付方法において、標準厚さとは異なる厚さのガスケットを介設した際に、シリンダブロック側のギヤとそのギヤに噛合されるシリンダヘッド側のギヤとの中心距離を設定値に保つべく、上記シリンダヘッドを標準取付位置から上記シリンダブロックの幅方向に移動させて上記シリンダブロックに取付けるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介設されるガスケットの厚さの違いを吸収して、ガスケットを跨いで噛合されるシリンダブロック側のギヤとシリンダヘッド側のギヤとの中心距離を一定に保つことができる。従って、シリンダブロック側のギヤとシリンダヘッド側のギヤとの間のバックラッシを常に適切に設定することができ、歯打ち騒音の悪化を招くことはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係り、標準厚さのガスケットを介設した状態のOHCエンジンの概略図である。図2は、シリンダブロックの平面図である。図3は、図2のIII−III線矢視断面図である。図4は、シリンダヘッドの下面図である。図5は、図4のV−V線矢視断面図である。
【0020】
本実施形態のOHCエンジン(以下エンジンという)は、車両用等の多気筒(図示例では四気筒)エンジンである。エンジンとしては、SOHC(シングルオーバーヘッドカムシャフト)エンジンや、DOHC(ダブルオーバーヘッドカムシャフト)エンジンが含まれる。
【0021】
エンジンの主要な構成は背景技術の欄で説明したもの(図9参照)と同様であるため、同一部材には同一符号を付してその説明を省略する。
【0022】
図中、21はシリンダブロック(エンジンブロック)1に設けられたシリンダ(ピストンボア)(図2参照)であり、22はシリンダヘッド3に設けられ燃焼室の一部を構成するボア(図4参照)である。
【0023】
ここで、本明細書において、シリンダブロック及びシリンダヘッドの幅方向とは、各シャフト6、8、13、14、15の軸方向と直角な方向で、且つ、シリンダブロック1の上面或いはシリンダヘッド3の下面と平行な方向をいう(図2及び図4中の上下方向)。また、シリンダブロック及びシリンダヘッドの長手方向とは、各シャフト6、8、13、14、15の軸方向と平行な方向で、且つ、シリンダブロック1の上面或いはシリンダヘッド3の下面と平行な方向をいう(図2及び図4中の左右方向)。
【0024】
図1、図2及び図3に示すように、シリンダブロック1の上端部には、シリンダヘッド3をシリンダブロック1に取付けるためのボルト23が螺合される複数(図示例では十個)のねじ孔24が設けられる。本実施形態においては、ねじ孔24は、シリンダブロック1の長手方向の両端部及び各シリンダ21間であって、シリンダブロック1の幅方向の両端部にそれぞれ設けられる(図2参照)。
【0025】
図1、図4及び図5に示すように、シリンダヘッド3には、ボルト23が挿通されるボルト挿通孔25が設けられる。ボルト挿通孔25は、シリンダブロック1のねじ孔24と同数(つまり、十個)設けられる。各ボルト挿通孔25は、シリンダブロック1のねじ孔24に対して整列させて設けられる。つまり、ボルト挿通孔25は、シリンダブロック1のねじ孔24と同一間隔(ピッチ)で設けられる。
【0026】
ボルト挿通孔25の形状及び大きさは、後述するようにシリンダヘッド3を標準取付位置からシリンダブロック1の幅方向に移動させた状態でシリンダブロック1に取付けた際に、ボルト23と干渉しないような形状及び大きさに設定される。
【0027】
ここで、本実施形態においては、シリンダブロック1のシリンダ21内(燃焼室)の体積(容積)を微調整するために、標準厚さのガスケット26(図1参照)と、標準厚さよりも厚さが厚く形成されたガスケット27(以下厚いガスケットという)(図7参照)との二種類のガスケットのうちいずれかがエンジン毎に適用される。
【0028】
図1から図5に示すように、シリンダブロック1の上端部及びシリンダヘッド3の下端部には、標準厚さのガスケット26を介設した際にダウエルピン(位置決めピン)28が嵌合される複数(図2及び図4参照、図示例では二個)の第一のダウエル孔(位置決め孔)29、30がそれぞれ設けられる。また、シリンダブロック1の上端部及びシリンダヘッド3の下端部には、厚いガスケット27を介設した際にダウエルピン28が嵌合される複数(図2及び図4参照、図示例では二個)の第二のダウエル孔(位置決め孔)31、32がそれぞれ設けられる。
【0029】
本実施形態においては、シリンダブロック1側の第一・第二のダウエル孔29、31はねじ孔24の上部に設けられた円形状のざぐり孔であり、シリンダヘッド3側の第一・第二のダウエル孔30、32はボルト挿通孔25の下部に設けられた円形状のざぐり孔である。
【0030】
シリンダブロック1側の第一のダウエル孔29はねじ孔24と同心に形成される(図3参照)。シリンダブロック1側の第二のダウエル孔31は、厚いガスケット27の厚さに応じて、ねじ孔24に対して所定のオフセット量eだけ偏心させて設けられる(図3参照)。シリンダヘッド3側の第一・第二のダウエル孔30、32はボルト挿通孔25と同心に形成される(図5参照)。このようにすることで、ダウエルピン28を第一ダウエル孔29、30に嵌合してシリンダヘッド3を標準取付位置に位置させたときに、シリンダブロック1側のダウエル孔31が、シリンダヘッド3側の第二ダウエル孔32に対してシリンダブロック1の幅方向にオフセットされる(図1参照)。また、本実施形態のダウエルピン28は円筒状に形成される。
【0031】
上記のオフセット量eについて図6により説明する。
【0032】
図6中、標準厚さのガスケット26を介設した際の第二のブロック側アイドルギヤ11及びヘッド側アイドルギヤ12の中心を符号C1、C2でそれぞれ示す。
【0033】
図6に示すように、標準厚さのガスケット26を介設した際に、ギヤ11、12間の中心距離L131が所定値となると共に、ギヤ11、12間のバックラッシJ11が適切となるようにギヤ11、12の位置が設定される。この状態で、シリンダブロック1のシリンダ21内の体積誤差を微調整(補正)すべく、標準厚さのガスケット26に代えて厚いガスケット27を介設すると、第二のブロック側アイドルギヤ11の中心C1とヘッド側アイドルギヤ12の中心(図6中の符号C4参照)が標準厚さのガスケット26の厚さと厚いガスケット27の厚さとの偏差(厚さ変化量)tの分だけ上下方向にさらに離間される。すると、ギヤ11、12間の中心距離(図6中の符号L133参照)が所定値より大きくなると共に、ギヤ11、12間のバックラッシが大きくなってしまう。
【0034】
そこで、ヘッド側アイドルギヤ12の中心(図6中の符号C3参照)を所定のオフセット量eだけシリンダブロック1の幅方向に対して第二のブロック側アイドルギヤ11の中心C1側(つまり、図6中の右方向)へと移動させることで、厚いガスケット27を介設した際のギヤ11、12間の中心距離L132を、標準厚さのガスケット26を介設した際のギヤ11、12間の中心距離L131と等しくすることができる。
【0035】
ここで、標準厚さのガスケット26を介設した際のギア11、12間の中心距離L131、及び、厚いガスケット27を介設した際のギア11、12間の中心距離L132は次式で表される。
【0036】
L131=(a2+b21/2
L132=((a−e)2+(b+t)21/2
ただし、aが標準厚さのガスケット26を介設した際のシリンダブロック1の幅方向に対するギヤ11、12間の中心距離(基準幅方向中心距離)であり、bが標準厚さのガスケット26を介設した際のシリンダブロック1の上下方向に対するギヤ11、12間の中心距離(基準上下方向中心距離)である。
【0037】
標準厚さのガスケット26を介設した際のギア11、12間の中心距離L131と、厚いガスケット27を介設した際のギア11、12間の中心距離L132とが等しい(L131=L132)として、上記の式により求められるオフセット量eは、次式で表される。
【0038】
e=a−(a2+b2−(b+t)21/2
例えば、基準幅方向中心距離aが20mm、基準上下方向中心距離bが100mm、厚さ変化量tが0.1mmとすると、オフセット量eは0.506mmとなる。
【0039】
次に、本実施形態のOHCエンジンの組付方法について説明する。
【0040】
まず、シリンダヘッド3及びガスケットを外した状態で、ピストン(図示せず)が最上部に位置するようにクランクシャフト6を回転させる。次に、最上部に位置させたピストンの上面とシリンダブロック1の上面との距離(ピストン突出量)を計測する。次に、計測したピストン突出量に応じて、使用するガスケットを決定する。詳しくは、ピストン突出量が規定値であれば標準厚さのガスケット26を使用し、ピストン突出量が規定値よりも大きければ(シリンダ21内の体積が規定値よりも小さければ)厚いガスケット27を使用する。このように、ピストン突出量に応じたガスケットを使用することで、シリンダブロック1のシリンダ21内の体積を常に規定値となるように微調整する。
【0041】
次に、標準厚さのガスケット26を使用する際には、図1に示すように、ダウエルピン28の下端部をシリンダブロック1側の第一のダウエル孔29に嵌合した後に、ダウエルピン28の上端部をシリンダヘッド3側の第一のダウエル孔30に嵌合する。このようにすることで、第二のブロック側アイドルギヤ11とヘッド側アイドルギヤ12との中心距離L131が設定値となるように、シリンダヘッド3がシリンダブロック1に対して標準取付位置に位置決めされる。そして、ボルト23をシリンダヘッド3のボルト挿通孔25及びダウエルピン28に挿通し、そのボルト23をシリンダブロック1のねじ孔24に螺合させて、シリンダヘッド3を標準厚さのガスケット26を介してシリンダブロック1に取付ける。これにより、第二のブロック側アイドルギヤ11とヘッド側アイドルギヤ12との間のバックラッシJ11を適切に設定することができる。
【0042】
一方、厚いガスケット27を使用する際には、図7に示すように、ダウエルピン28の下端部をシリンダブロック1側の第二のダウエル孔31に嵌合した後に、ダウエルピン28の上端部をシリンダヘッド1側の第二のダウエル孔32に嵌合する。このようにすることで、シリンダヘッド3がシリンダブロック1の幅方向(図7中の矢印A参照)に上記の標準取付位置から上記のオフセット量e分だけ移動された状態でシリンダブロック1に対して位置決めされる。そして、ボルト23をシリンダヘッド3のボルト挿通孔25及びダウエルピン28に挿通し、そのボルト23をシリンダブロック1のねじ孔24に螺合させて、シリンダヘッド3をシリンダブロック1の幅方向に移動させた状態で厚いガスケット27を介してシリンダブロック1に取付ける。
【0043】
これにより、第二のブロック側アイドルギヤ11とヘッド側アイドルギヤ12との中心距離L132を設定値に保ちつつ、シリンダヘッド3をシリンダブロック1の幅方向に移動させた状態でシリンダブロック1に取付けることができる。従って、標準厚さのガスケット26とは厚さの異なる厚いガスケット27を介設しても、第二のブロック側アイドルギヤ11とヘッド側アイドルギヤ12との中心距離は一定となるので、第二のブロック側アイドルギヤ11とヘッド側アイドルギヤ12との間のバックラッシJ12を適切に設定することができる。
【0044】
ここで、本実施形態では、シリンダブロック1側及びシリンダヘッド3側の第二のダウエル孔31、32、及び、ダウエルピン28が特許請求範囲の位置決め手段をなす。また、本実施形態では、第二のブロック側アイドルギヤ11、及び、ヘッド側アイドルギヤ12が、特許請求の範囲のシリンダブロック側のギヤ、及び、シリンダヘッド側のギヤをそれぞれなす。
【0045】
以上、本実施形態においては、シリンダブロック1とシリンダヘッド3との幅方向における取付位置を変えることで、シリンダブロック1とシリンダヘッド3との間に介設される標準厚さのガスケット26と厚いガスケット27との厚さの違いを吸収し、ガスケットを跨いで噛合される第二のブロック側アイドルギヤ11とヘッド側アイドルギヤ12との中心距離を一定に保つことができる。従って、第二のブロック側アイドルギヤ11とヘッド側アイドルギヤ12との間のバックラッシを常に適切に設定することができ、歯打ち騒音の悪化を招くことはない。
【0046】
また、本実施形態においては、使用するガスケットの厚さに応じて、ダウエルピン28を嵌合するダウエル孔を変更するといった簡単な方法で第二のブロック側アイドルギヤ11とヘッド側アイドルギヤ12との中心距離を一定に保つことができる。また、本実施形態は、標準厚さのガスケット26或いは厚いガスケット27を介設する際に同一のダウエルピン28を使用することができると共に、治具等を必要としないので、実用性が高い。
【0047】
本発明は以上説明した実施形態には限定はされない。
【0048】
例えば、上記の実施形態においては、標準取付位置におけるシリンダブロック1側の第二のダウエル孔31が、シリンダヘッド3側の第二のダウエル孔32に対してシリンダブロック1の幅方向にオフセットされて形成されるとしたが、これとは逆に、標準取付位置におけるシリンダヘッド3側の第二のダウエル孔32が、シリンダブロック1側の第二のダウエル孔31に対してシリンダヘッド3の幅方向にオフセットされて形成されても良い。この場合、シリンダブロック1側の第二のダウエル孔31をねじ孔24と同心に形成し、シリンダヘッド3側の第二のダウエル孔32をボルト挿通孔25に対して所定のオフセット量eだけ偏心させて設ければ良い。
【0049】
また、ダウエルピン28、ダウエル孔29、30、31、32の形状は上記の実施形態には限定はされない。例えば、ダウエルピンが断面矩形状や断面多角形状等に形成されると共に、ダウエル孔が矩形状や多角形状に形成されていても良い。
【0050】
また、上記の実施形態においては、第一・第二のダウエル孔29、30、31、32がねじ孔24の上部或いはボルト挿通孔25の下部に設けられるとしたが、第一・第二のダウエル孔29、30、31、32がねじ孔24或いはボルト挿通孔25とは独立して設けられても良い。あるいは、円筒状のダウエルピン28、及び、ねじ孔24の上部或いはボルト挿通孔25の下部に設けられた第一・第二のダウエル孔29、30、31、32の代わりに、図8に示すように、中実状のノックピン33を設けると共に、ねじ孔24或いはボルト挿通孔25とは独立して、ノックピン33が嵌合される第一・第二のノックピン孔34、35を設けても良い。
【0051】
また、タイミングギヤトレーンを構成するギヤの数は上記の実施形態には限定はされない。例えば、第二のブロック側アイドルギヤ11とカムギア9とが噛合されていても良く、クランクギヤ7とヘッド側アイドルギヤ12とが噛合されていても良く、さらには、クランクギヤ7とカムギヤ9とがアイドルギヤを介さずに直接噛合されていても良い。
【0052】
また、上記の実施形態においては、シリンダブロック1のシリンダ21内の体積を増量補正するために、標準厚さよりも厚いガスケット27を用いるとしたが、シリンダブロック1のシリンダ21内の体積を減量補正するために、標準厚さよりも薄いガスケットを用いても良い。その場合、シリンダヘッド3をシリンダブロック1の幅方向に対して上記の実施形態とは逆方向に移動させて取付ければ良い。つまり、シリンダブロック1側の第二のダウエル孔31を、シリンダブロック1の幅方向に対して上記の実施形態とは逆方向にオフセットさせて形成すれば良い。
【0053】
さらに、本発明が適用されるOHCエンジンは、多気筒のものに限定されず、単気筒のものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係り、標準厚さのガスケットを介設した状態のOHCエンジンの概略図である。
【図2】シリンダブロックの平面図である。
【図3】図2のIII−III線矢視断面図である。
【図4】シリンダヘッドの下面図である。
【図5】図4のV−V線矢視断面図である。
【図6】ガスケットの厚さとオフセット量との関係を示す概略図である。
【図7】標準厚さよりも厚さが厚いガスケットを介設した状態を示すOHCエンジンの概略図である。
【図8】ダウエルピン及びダウエル孔の変形例を示すOHCエンジンの要部拡大図である。
【図9】(a)はOHCエンジンの正面図であり、(b)は側面図である。
【図10】標準厚さのガスケットを介設した状態を示す、従来のOHCエンジンの概略図である。
【図11】標準厚さよりも厚さが厚いガスケットを介設した状態を示す、従来のOHCエンジンの概略図である。
【符号の説明】
【0055】
1 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
11 第二のブロック側アイドルギヤ(シリンダブロック側のギヤ)
12 ヘッド側アイドルギヤ(シリンダヘッド側のギヤ)
27 ガスケット
28 ダウエルピン(位置決め手段)
31 第二のダウエル孔(位置決め手段)
32 第二のダウエル孔(位置決め手段)
L132 中心距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロック上にガスケットを介してシリンダヘッドを設けると共に、上記シリンダブロック側のクランクシャフトと上記シリンダヘッド側のカムシャフトとを結ぶタイミングギヤトレーンを設けたOHCエンジンにおいて、
標準厚さとは異なる厚さのガスケットを介設した際に、シリンダブロック側のギヤとそのギヤに噛合されるシリンダヘッド側のギヤとの中心距離を設定値に保つべく、上記シリンダヘッドを標準取付位置から上記シリンダブロックの幅方向に移動させた状態に位置決めする位置決め手段を備えたことを特徴とするOHCエンジン。
【請求項2】
上記位置決め手段が、上記シリンダブロック及び上記シリンダヘッドにそれぞれ設けられたダウエル孔と、それら両ダウエル孔に嵌合されるダウエルピンとからなり、上記シリンダヘッドが上記標準取付位置に位置したときに、上記シリンダブロック側及び上記シリンダヘッド側のうち一方のダウエル孔が、他方のダウエル孔に対して上記シリンダブロックの幅方向にオフセットされるように形成される請求項1記載のOHCエンジン。
【請求項3】
シリンダブロック上にガスケットを介してシリンダヘッドを設けると共に、上記シリンダブロック側のクランクシャフトと上記シリンダヘッド側のカムシャフトとを結ぶタイミングギヤトレーンを設けたOHCエンジンの組付方法において、
標準厚さとは異なる厚さのガスケットを介設した際に、シリンダブロック側のギヤとそのギヤに噛合されるシリンダヘッド側のギヤとの中心距離を設定値に保つべく、上記シリンダヘッドを標準取付位置から上記シリンダブロックの幅方向に移動させて上記シリンダブロックに取付けることを特徴とするOHCエンジンの組付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−170038(P2006−170038A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−362446(P2004−362446)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】