説明

PCBを分離・回収する方法及び装置

【課題】安全且つ低コストで、低濃度PCB含有絶縁油を処理するために、PCBの抽出・分離・回収方法とその装置を提供すること。
【解決手段】低濃度のPCBを含有する絶縁油からPCBを分離・回収するに際し、(1)PCBを含有する絶縁油と非プロトン性有機極性溶媒を混合し、絶縁油と、PCBの非プロトン性有機極性溶媒溶液とを分離し、(2)該PCBの非プロトン性有機極性溶媒溶液に水と炭化水素溶媒を添加混合し、水と非プロトン性有機極性溶媒の溶液とPCBの炭化水素溶媒溶液に分離し、次いで(3)該PCBの炭化水素溶媒溶液からの炭化水素溶媒を回収すると共にPCBを分離・回収する方法、及びそれに用いられる装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低濃度のPCBを含有する絶縁油から、PCBを分離・回収する方法と、それに使用する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビフェニル類(PCB)やダイオキシン類等のハロゲン化有機物は、一般的に人体に有害で、環境を汚染する物が多い。特に、PCBは、難分解性で長期にわたり残存しその影響が続くため、環境汚染物質として大きな社会問題となっている。更に、PCBは化学的に非常に安定な物質であるために、廃棄等に際して無害化の処理が困難であるという問題もある。
【0003】
現在、PCBを含む廃油等の処理について規制する、廃棄物処理法で認められている方法としては、高温熱分解法、脱塩素化分解法、水熱酸化分解法、還元熱化学分解法、光分解法、プラズマ分解法が知られている。これらの中では、格別に大型・特殊な分解装置が必要ではない点、あるいは有害な副生物が生じない点、副生物の再利用が可能となるなどの点で脱塩素化分解法が好ましい。
【0004】
そして一般的に脱ハロゲン化分解法においては、金属ナトリウムや有機アルカリ金属あるいは触媒等をハロゲン化有機物と混合し化学反応させることにより、ハロゲン化有機物中のハロゲンを水素等に置換することが行われる。しかしながら、脱ハロゲン化分解に用いる金属や触媒は高価である上、無水の有機溶媒中で反応を行わなければならない等の欠点や問題点があった(特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2002−756号公報
【特許文献2】特開2001−269673号公報
【特許文献3】特開平8−66494号公報
【0005】
比較的単純な操作・手段でPCB等を無害化する方法として、PCB等のアルコール溶液に金属カルシウムを添加混合し、還元・脱ハロゲン化を行う方法も提案されている(特許文献4参照)。しかし、この方法も有機溶媒を用いなければならないという問題がある。
【特許文献4】特開2002−265391号公報
【0006】
また、PCBと水又はアセトニトリル等の溶媒を混合し、PCBを電気分解により処理するという方法も提案されている。この方法は比較的簡単にPCB等を無害化できるので優れた方法ではあるが、ただ通常の方法・装置で電気分解を行ったのでは、必ずしも脱ハロゲン化が完全には進行しない、という問題があった(特許文献5参照)。
【特許文献5】特開2002−345991号公報
【0007】
本発明者は、ハロゲン化有機物又はその含有液を電気分解し脱ハロゲン化を行うに際し、陽極と陰極が隔てられた隔膜電解槽を用いると共に、超音波発生手段を用いてハロゲン化有機物含有液をエマルジョン化し、同時に常温常圧下でありながら1000気圧、5000℃の真空状態を作るといわれるキャビテーション効果を利用し、且つ攪拌手段による液の攪拌をしながら、電気分解を行うことを特徴とするハロゲン化有機物の脱ハロゲン化方法を提案した(特許文献6参照)。かかる方法によれば、電気分解によって完全にかつ十分にハロゲン化有機物を脱ハロゲン化し、無害化物質として回収・除去できた。
【特許文献6】国際公開特許WO2005/92448号公報
【0008】
ところで、PCBの製造禁止以前に生産されたコンデンサーやトランスは、絶縁油としてPCBが使用されており、PCBの含有量によって高濃度PCBと低濃度PCBに分けられ、コンデンサーの絶縁油と大型トランスの絶縁油は高濃度PCBとされている。コンデンサーは他の油はなくPCBのみが使用され、大型コンデンサーでは6割のPCBと4割のトリクロロベンゼンが使用されている。一方、柱上トランス等の小型機器のトランス油では、大量の鉱油の中に数十ppm程度のPCBが使用されており、低濃度PCBと呼ばれている。
【0009】
現在、高濃度PCBを処理する技術は多く開発されており、高濃度PCBの処理も事業として開始されている。しかし、低濃度PCBを高濃度PCBと同様に処理した場合は、処理コストが高くなり、国の施策としても高濃度PCBの処理と同様な方法では処理しない方針が出されている。従って、現在、低濃度PCBを安く処理する方法の開発が望まれており、本発明者が提案した前記電気分解によるハロゲン化有機物の脱ハロゲン化は非常に期待の持てる方法である。しかしながら、対象が大量の鉱油と低濃度PCBとの混合物の場合には、前記電気分解による方法は好適に応用できないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、安全且つ低コストで、比較的低濃度のPCBを含有する絶縁油を処理するために、PCBの抽出・分離・回収方法を提供することにある。特に、本発明者が先に提案した超音波電気分解処理装置によるPCBの処理の前処理として、例えば、トランス油等の絶縁油からPCBを抽出・分離・回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に記載の発明は、比較的低濃度、即ち、1000ppm以下のPCBを含有する絶縁油からPCBを分離・回収するに際し、(1)PCBを含有する絶縁油と非プロトン性有機極性溶媒を混合し、絶縁油と、PCBの非プロトン性有機極性溶媒溶液とを分離し、(2)該PCBの非プロトン性有機極性溶媒溶液に水と炭化水素溶媒を添加混合し、水と非プロトン性有機極性溶媒の混合液とPCBの炭化水素溶媒溶液に分離し、次いで(3)該PCBの炭化水素溶媒溶液からの炭化水素溶媒を回収すると共にPCBを分離・回収する方法である。
【0012】
請求項2記載の発明は、1000ppm以下のPCBを含有する絶縁油からPCBを分離・回収するに際し、(1)PCBを含有する絶縁油と非プロトン性有機極性溶媒と炭化水素溶媒を混合し、絶縁油と炭化水素溶媒の混合液と、PCBの非プロトン性有機極性溶媒溶液とを分離し、(2)該PCBの非プロトン性有機極性溶媒溶液に水と炭化水素溶媒を添加混合し、水と非プロトン性有機極性溶媒の混合液とPCBの炭化水素溶媒溶液に分離し、次いで(3)該PCBの炭化水素溶媒溶液から炭化水素溶媒を回収すると共にPCBを分離・回収する方法である。
【0013】
そして、請求項4記載の発明は、PCBを含有する絶縁油、非プロトン性有機極性溶媒、水、炭化水素溶媒を混合し攪拌するための混合攪拌装置と、共にこれに連結された、PCBと炭化水素溶媒を蒸留により分離するため蒸留装置Aと、水と非プロトン性有機極性溶媒を蒸留により分離するため蒸留装置Bとからなり、請求項1又は2のPCBを分離・回収する方法において用いられる装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法はいずれも、特に、本発明者が先に提案した超音波電気分解処理装置によるPCBの処理方法の前処理方法として適している。本発明の方法によると、トランス油等の絶縁油からPCBを効率良く抽出・分離・回収することができ、この方法により得られたPCBを用いることによって、前記超音波電気分解処理装置によってトランス等の低濃度PCBを処理する際に、他の油も一緒に処理する必要がなくなり、大幅に処理効率が上がり処理コストも下がる。また、本発明の装置は、かかる方法において効果的に用いられる装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の対象は、PCBを低濃度、即ち、1000ppm以下、好ましくは100ppm以下の濃度で含有する絶縁油である。絶縁油とは、トランスやコンデンサー等の電気機器に広く使用されている、機器の絶縁と冷却を目的とした鉱油、合成油、あるいはそれらの混合油等を主成分とした油である。
【0016】
そして、本発明において、非プロトン性有機極性溶媒とは、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトリトリル、N−メチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、アセトン、ニトロベンゼン、ピリジン、プロピレンカーボネート等の非プロトン性溶媒である。これらの中では、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトリトリル又はこれらの混合溶媒が好ましく、特にジメチルスルホキシドが好ましい。
【0017】
また、炭化水素溶媒としては、炭素数5〜18の常温で液体のものが適当であり、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンが好ましい。
【0018】
本発明のうち請求項1に記載された発明は、先ず、(1)PCBを含有する絶縁油と非プロトン性有機極性溶媒を混合し、絶縁油と、PCBの非プロトン性有機極性溶媒溶液とを分離し、(2)該PCBの非プロトン性有機極性溶媒溶液に水と炭化水素溶媒を添加混合し、水と非プロトン性有機極性溶媒の溶液とPCBの炭化水素溶媒溶液に分離し、次いで(3)該PCBの炭化水素溶媒溶液からの炭化水素溶媒を回収すると共にPCBを分離・回収するものである。以下、各工程を図1のフローチャートを用いて説明する。
【0019】
図1には、低濃度のPCBを含有するトランス油(PCB以外は鉱油からなる)を、非プロトン性有機極性溶媒としてDMSOを用い、炭化水素溶媒としてヘキサンを用いて処理する場合の例を示した。先ず、(1)トランス油を1倍から1000倍のDMSOに混合し攪拌する。かかる操作で、鉱油からPCBが分離・抽出されDMSOに溶解し、上層の鉱油と下層のPCB+DMSOの二層に分離する。この段階で、上層の鉱油にPCBが残存していない場合には、鉱油は廃油として処理されるが、PCBが残存している場合には、再び前記(1)に戻しDMSOによる分離・抽出工程を繰り返す。
【0020】
次に、(2)PCB+DMSOの溶液に水を加え攪拌する。この操作で、DMSOは水と混ざり、PCBは分離又は遊離する。更に、分離したPCBと、水とDMSOの混合液に、ヘキサンを入れて混合攪拌する。かかる操作で、分離したPCBはヘキサンに溶解し、PCB+ヘキサンとDMSO+水の二層に分離する。
【0021】
次に、(3)上層のPCB+ヘキサン層を分離し、ヘキサンを留去しPCBを分離する。ヘキサンは回収しリサイクルする。一方、下層のDMSO+水層からは、水を留去しDMSOを回収しリサイクルする。そして、分離されたPCBは、別に設置されている超音波電気分解装置にかけて分解処理される。
【0022】
図2には、本発明のうち請求項2に記載された発明、即ち、低濃度のPCBを含有するトランス油(PCB以外は鉱油からなる)を、非プロトン性有機極性溶媒としてDMSOを用い、炭化水素溶媒としてヘキサンを用いて処理するもう一つの例を示した。先ず、(1)トランス油を1倍から1000倍のDMSOとヘキサンの混合液に混合し攪拌する。かかる操作によって鉱油とヘキサンからなる上層と、PCBが溶解したDMSOの下層に分離する。この段階で、上層の鉱油とヘキサン層にPCBが残存していない場合には、鉱油とヘキサンは廃油として処理されるが、PCBが残存している場合には、再び前記(1)に戻しDMSOによる分離・抽出工程を繰り返す。次に、(2)PCB+DMSOの溶液に水とヘキサンを加え攪拌する。この操作で、DMSOは水と混ざり、PCBを溶解したヘキサンと分離する。
【0023】
以後は図1の場合と同様に処理してPCBは分離され、別に設置されている超音波電気分解装置にかけて分解処理される。
【0024】
前記本発明の方法は図3に示したような装置を用いることによって、効果的に実施することができる。即ち、PCBを含有する絶縁油(トランス油)、非プロトン性有機極性溶媒(DMSO)、水、炭化水素溶媒(ヘキサン)を混合し攪拌するための混合攪拌装置と、共にこれに連結された、PCBと炭化水素溶媒を蒸留により分離するため蒸留装置Aと、水と非プロトン性有機極性溶媒を蒸留により分離するため蒸留装置Bとからなる装置である。
【0025】
前記混合攪拌装置には、例えば、PCBを含有する絶縁油、非プロトン性有機極性溶媒、水又は炭化水素溶媒のタンクから、それぞれの液体をパイプ等によって導入するための手段を設けることができる。また、蒸留装置A及びBには、分離生成物を分取するための手段や加熱、冷却手段等を適宜設けることができる。混合攪拌装置と蒸留装置A及びBとの連結方法・手段においても特に制限はなく、公知のものを使用することができる。図3に示したように、非プロトン性有機極性溶媒(DMSO)、水、炭化水素溶媒(ヘキサン)は再利用することもできる。
【0026】
本発明の方法・装置で分離・回収されたPCBあるいはPCBを含む回収液は、以下のようにして処理することができる。トランス油等の絶縁油からPCBを抽出した後の油は、PCB含有率が0.5ppm以下であり廃油として通常の処理が可能となる。そして、抽出・回収されたPCBは、従来の処理施設に運んで処理することも可能となる。あるいは、全国に散在しているPCBを含む絶縁油のある現場に、本発明の方法を実施するための本発明の装置(抽出機)と、本発明者が既に提案しているPCBの超音波電気分解装置を持ち込んで、現場で容易にPCB処理が出来る。
【0027】
本発明者が既に提案しているPCBの超音波電気分解装置は、PCB等のハロゲン化有機物又はその含有液を電気分解し脱ハロゲン化を行うに際し、陽極と陰極が隔てられた隔膜電解槽を用いると共に、超音波発生手段を用いてハロゲン化有機物含有液をエマルジョン化し、同時に常温常圧下でありながら1000気圧、5000℃の真空状態を作るといわれるキャビテーション効果を利用し、且つ攪拌手段による液の攪拌をしながら、電気分解を行うことを特徴とするPCB等のハロゲン化有機物の脱ハロゲン化方法である。この場合において、ハロゲン化有機物又はその含有液を陰極側に入れ、陰極側で超音波発生手段を用いて超音波を与え、且つ攪拌手段で攪拌しながら、電気分解を行う方法がより効率的である。陰極として水素吸蔵金属又は合金を用いるのが好ましく、また、超音波付与や攪拌は、必ずしも常時行う必要はなく、状況に応じ断続的に行っても良い。
【0028】
電解条件としては、対象とするハロゲン化有機物又はその含有液の状態によって異なるが、通常、電圧は5〜500V、電流は5〜100Aの範囲で調節される。電気分解は直流電源を用いるのが適当であるが、例えば50〜60Hzの交流電源、あるいは例えば1KHzの高周波電源を用いても良い。また、電気分解に際しては、電気伝導度を上げるために、ハロゲン化有機物又はその含有液に、あるいはそれらを含む処理液に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や塩化物等の塩を添加して、電気分解を行うのも好ましい。その際、例えば、水で200V必要な電圧は、十分の一の20V位に下がり、処理液の温度上昇を抑えることが出るので望ましい。添加する量は、処理液1L当たり1〜50g、好ましくは3〜10gである。
【0029】
本発明者が既に提案している発明は、電気分解の陰極における還元反応として、ハロゲン化有機物のハロゲンと、水の電気分解により発生する水素との置換反応を起こさせるものである。しかし、陽極において可逆反応が起こる可能性があるので、陰極での生成物を物理的に陽極に接触させないことにより、可逆反応を防止することが望ましい。その方法として陽極室と陰極室を分ける隔膜電解槽が用いられる。隔膜としては、イオン交換膜、有機又は無機の微多孔膜等があり、これらの中から耐食性、機械的強度、気孔径・分布、電気抵抗等を勘案して、適当なものを容易に選択することができる。形状は特に限定されるものではなく、陽極と陰極で発生、存在する物質が電解液に溶解し、それが拡散対流によって混合するのを防げるようなものであれば良い。
【0030】
PCB等のハロゲン化有機物又はその含有液は、そのまま、あるいは有機溶媒溶液あるいは水性エマルジョンや水との混合液の形(処理液)で電気分解に使用される。例えば、本発明の方法によって、低濃度のPCBを含有する絶縁油から分離・回収されたPCBの場合には、回収PCB又はPCBを高濃度に含む炭化水素溶媒溶液に、適量の水を加えて混合液とするか、又は適当な界面活性剤でエマルジョンとし、得られた液を電気分解に用いれば良い。反応に際しては、もちろん、電気・機械的な攪拌手段により処理液を攪拌しても良い。
【0031】
電気分解により脱ハロゲン化反応を行うに際して、超音波発生手段、例えば、超音波発生装置を用いて、反応系に超音波を与えると、超音波によって反応液が、キャビテーション効果だけでなく、ハロゲン化有機物あるいはそれと他の液体とがエマルジョン効果により微小なクラスターを形成し、反応がより効率的に進行する。超音波発生手段としては、例えば、公知あるいは市販の超音波発生装置を用いることができる。超音波のパワーとしては、処理液1リットル当たり1〜100W程度、好ましくは10〜40Wである。なお、超音波発生手段とは、マイクロ波等のいわゆる超音波以外の、周波数により物体に振動を与える手段でも良い。
【0032】
反応温度は一般には室温で行うのが便利であるが、ハロゲン化有機物又はその含有液が氷結しない最低の温度〜還流温度の範囲で調整することができる。反応時間は、処理量にもよるが、通常、10〜100分の間で調整される。反応雰囲気は格別の配慮は必要ではなく、開放系で常圧であっても良いが、空気の影響を出来るだけ避けるため、窒素等の不活性雰囲気下で反応を行っても良い。
【0033】
電気分解は、ハロゲン化有機物又はその含有液を電気分解し脱ハロゲン化を行うための電解槽であって、前述した隔膜によって隔てられた陽極と陰極、超音波発生手段及び攪拌手段を備えてなる電解槽を用いて行われる。陽極としては、例えば、白金、チタンや炭素が用いられる。陰極としては、例えば、パラジウム、チタン等の金属やその合金が用いられる。超音波発生手段は、処理液を十分にエマルジョン効果により乳化し、キャビテーション効果により脱ハロゲン化を促すものであればどのようなものでも良いが、超音波発生機と接続された超音波発振棒を処理液に挿入するタイプのものが適当である。攪拌手段は、公知あるいは市販の攪拌機を利用すれば良い。処理槽としては、特別な槽を用いる必要はなく、実用的にも、例えば、ステンレスやガラス製、あるいは塩化ビニール製の一般的な容器・装置を用い、電気分解を行うことができる。
【0034】
陰極として水素吸蔵金属又は合金を使用するのが好ましく、パラジウム等の水素吸蔵金属あるいはチタン−鉄合金等の水素吸蔵合金を使用すると、電気分解で発生した水素が陰極に吸蔵され、その後この排出される水素が効率的にハロゲンと置換し脱ハロゲン化反応に寄与し、還元反応が効率的に行われるので好ましい。そして、この場合にも、電気分解に際し隔膜電解槽を用いる方法が好ましく、更に、超音波発生手段と攪拌手段を用いて、処理液に超音波を与え且つ攪拌しながら電気分解を行う方法を採用すると、より好ましい結果が得られる。
【0035】
以下、実施例により本発明を詳述するが、実施例において、PCBはGC/MAS方法で測定した。
【実施例1】
【0036】
図2のフローチャートに従って分離・抽出操作を行なった。(1)100ppmのPCBを含有するトランス油(PCB以外は鉱油からなる)50mlに、200mlのDMSOと250mlのヘキサンを添加混合して攪拌した。そして、二層に分離した鉱油とヘキサンからなる上層と、PCBを溶解したDMSO溶液からなる下層とを分離した。上層にPCBが検出されなくなるまで、DMSOを添加・混合・攪拌・溶液分離の操作を繰り返した。PCBが検出されなくなった鉱油とヘキサンは、廃油として別途処理することによって、ヘキサンは再利用することができる。
【0037】
次に、(2)PCBを溶解したDMSOの溶液250mlに水を250mlとヘキサンを188ml加え混合・攪拌した。この操作で、DMSOは水と混ざり、PCBとヘキサン(PCBのヘキサン溶液)は分離又は遊離したので、両者を分液した。DMSOと水の層にPCBが検出されなくなるまで、ヘキサンの添加・混合・攪拌・溶液分離の操作を繰り返した。DMSOと水の混合液は、図2に示した様に、100〜160℃で水とDMSOを蒸留により分離し、DMSOを再利用に供することができる。
【0038】
次に、(3)分離したPCBのヘキサン溶液からヘキサンを留去し、100ppmのPCBを分離した。ヘキサンは回収しリサイクルすることができる。分離されたPCBは、別に設置されている超音波電気分解装置(特許文献6に開示された装置)にかけて下記のごとく分解処理した。
【0039】
上記で得られたPCB100ppmを、水酸化ナトリウム100gと水20Lと混合し処理液を調整した。特許文献6に開示された電解槽(処理槽はステンレス製)を用い、この処理液を陰極室に入れ、一方、陽極室には、水酸化ナトリウム100gを含む水溶液20Lを入れ、電源として三相電源の直流を用い、超音波を与えながら、常温常圧で30分間電気分解を行った。電気分解の平均電圧は20V、平均電流は50Aであった。超音波発生手段である電波棒は、直径45mm、長さ35cmの金属棒を用い、これに20KHzの超音波を印加した。超音波のバワーは、平均255Wであった。なお、電気分解における印加電圧は、30分間ほぼ一定であったが、電流と超音波のバワーは、徐々に増加した。陰極室の処理液は、市販のミキサーを用いて1400回/mの攪拌を行った。電気分解後の処理液中のPCBの濃度は、0.5ppm以下であり、電気分解前の100ppmに比べ著しく減少していた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の方法によって、トランス油等の絶縁油からPCBを抽出した後の油は、廃油として通常の処理が可能となり、抽出・回収されたPCBは、従来の処理施設に運んで処理することも可能となる。あるいは、全国に散在しているPCBを含む絶縁油のある現場に、本発明の方法を実施するための装置(抽出機)と、本発明者が既に提案しているPCBの超音波電気分解装置を持ち込んで、現場で容易にPCB処理が出来る。本発明の方法・装置によると、近年問題となっているPCB等を含んだトランスオイルその他のPCB等含有液を、比較的簡単な方法・装置で、従って非常に経済的に処理することができる。しかも操作は常温常圧下で行われるために安全で、水と電気を使用するクリーンな処理で無害化できるので、産業上や環境上その利用価値は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明方法のPCBの分離・抽出の流れの一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明方法のPCBの分離・抽出の流れの他の例を示すフローチャートである。
【図3】本発明方法の実施に使用される装置の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1000ppm以下のPCBを含有する絶縁油からPCBを分離・回収するに際し、(1)PCBを含有する絶縁油と非プロトン性有機極性溶媒を混合し、絶縁油と、PCBの非プロトン性有機極性溶媒溶液とを分離し、(2)該PCBの非プロトン性有機極性溶媒溶液に水と炭化水素溶媒を添加混合し、水と非プロトン性有機極性溶媒の混合液とPCBの炭化水素溶媒溶液に分離し、次いで(3)該PCBの炭化水素溶媒溶液から炭化水素溶媒を回収すると共にPCBを分離・回収する方法。
【請求項2】
1000ppm以下のPCBを含有する絶縁油からPCBを分離・回収するに際し、(1)PCBを含有する絶縁油と非プロトン性有機極性溶媒と炭化水素溶媒を混合し、絶縁油と炭化水素溶媒の混合液と、PCBの非プロトン性有機極性溶媒溶液とを分離し、(2)該PCBの非プロトン性有機極性溶媒溶液に水と炭化水素溶媒を添加混合し、水と非プロトン性有機極性溶媒の混合液とPCBの炭化水素溶媒溶液に分離し、次いで(3)該PCBの炭化水素溶媒溶液から炭化水素溶媒を回収すると共にPCBを分離・回収する方法。
【請求項3】
非プロトン性有機極性溶媒がジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトリトリル又はこれらの混合溶媒である請求項1又は2記載のPCBを分離・回収する方法。
【請求項4】
PCBを含有する絶縁油、非プロトン性有機極性溶媒、水、炭化水素溶媒を混合し攪拌するための混合攪拌装置と、共にこれに連結された、PCBと炭化水素溶媒を蒸留により分離するための蒸留装置Aと、水と非プロトン性有機極性溶媒を蒸留により分離するための蒸留装置Bとからなり、請求項1又は2のPCBを分離・回収する方法において用いられる装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−100166(P2008−100166A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284899(P2006−284899)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(502201066)
【出願人】(501256638)株式会社エーアイティー (5)
【Fターム(参考)】