説明

PLL回路およびPLL回路を備える半導体装置

【課題】回路規模も小さく簡単にジッタ成分を含んだクロックを生成するPLL回路を提供する。
【解決手段】位相比較器11は、入力される参照クロック信号CKRと分周器14からフィードバックされる信号との位相を比較して位相差に応じた出力信号をフィルタ部12に出力する。フィルタ部12は、位相比較器11の出力信号の低周波成分を検出して電圧制御発振器13に出力する。電圧制御発振器13は、フィルタ部12の出力電圧に基づいて制御される発振周波数の発振信号を出力信号CKFとして発生する。分周器14は、出力信号CKFを分周して位相比較器11に出力する。配線部15は、外部からノイズを誘導してフィルタ部12の出力信号に加算するように配線部15の配線の一端Qをフィルタ部12の出力Pに接続する。電圧制御発振器13が発生する出力信号CKFの発振周波数がノイズによって揺らぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL(Phase Locked Loop)回路およびPLL回路を備える半導体装置に係り、特に、ジッタを発生させるためのPLL回路およびこのPLL回路を備える半導体装置に係る。
【背景技術】
【0002】
近年、装置間のデータの転送速度が高速化しており、高いデータレートでの伝送が実現されている。このような高いデータレートの伝送において、パラレル伝送では、高速化に伴って並列信号間のスキュー確保が困難となるため、転送速度の限界が顕在化してきている。このため高速伝送には、シリアル伝送が次第に用いられるようになってきている。高速シリアル伝送において重要視されるのがジッタ特性である。低速伝送では問題とはならなかった信号の揺らぎが、高速になるにつれて伝送エラーの増大として顕在化してくる。そして、このジッタがある程度増大すると、データ伝送が正常に行われなくなる。
【0003】
送信器に或るジッタ量が存在すると、信号の伝送に伴って信号線の周波数特性やISI(Inter Symbol Interference)により生じるジッタが重畳される。受信器では、この送信器において生じたジッタと伝送中に重畳されたジッタとが加わった信号を受信し、元の送信対象となったディジタル信号を再生する必要がある。そこで伝送システムにおいて、受信器のジッタ耐性を測定しておくことが求められる。
【0004】
ジッタ耐性の測定の一つには、データにジッタ成分をのせる方法がある。この場合、データに位相変調またはFM変調をかけてシリアルI/Fデバイスにデータを送り、デバイスのCDR(Clock and Data Recovery)がそれを正常に受信できるかをテストする。このテストでは、データに変調をかけてジッタ成分をのせるための測定環境を構築する必要がある。
【0005】
一方で、CDRに供給するクロック側にジッタ成分をのせる方法もある。ジッタで変調されたクロックをもらって動作するCDRを用いて正常なデータを受信させることは、ジッタで変調されたデータを正常なクロックで動くCDRで受信させることと同じこととなり、同様のテストが可能となる。やはりこのテスト方法においても、測定環境を構築しなければならない。
【0006】
ところで、伝送システムにおいて、送受信のタイミングクロックを作るためにPLL回路が使われることが多い。PLL回路は基準クロックを入力して、その逓倍の周波数のクロックを出力する回路である。このようなPLL回路では、電圧制御発振器(VCO、Voltage Controlled Oscillator)によって逓倍の周波数のクロックを生成させるのが一般的である。そして、この電圧制御発振器の直前に変調信号発生器をとりつけ、電圧制御発振器から出力される出力信号の周波数に揺らぎを与え、ジッタ成分を含んだクロックを生成する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1に記載のPLL回路では、電圧制御発振器から制御信号の電圧に応じた周波数で出力される信号を分周器によって分周し、この分周信号と基準信号発生器から出力される基準信号とを位相周波数比較器に入力する。低域通過フィルタによって位相周波数比較器の出力信号から分周信号と基準信号の位相差に対応する誤差信号を抽出し、この誤差信号と変調信号発生器から出力される変調信号とを加算器で加算する。加算された信号は、電圧制御発振器に制御信号として入力する。変調信号発生器は、指定されたジッタ周波数に等しい周波数で、指定されたジッタ量に対応する振幅の変調信号を加算器に出力する。このようにして電圧制御発振器から出力される出力信号は、周波数に揺らぎをもち、ジッタ成分を含んだクロックが生成される。
【0008】
【特許文献1】特開2000−230953号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、データ、またはクロックにジッタ成分をのせてデバイスの受信テストをしているが、クロック発生器やデータ発生器にジッタ変調をかけるための測定器相当の機器を必要としていた。例えば、特許文献1に記載の技術によれば、制御可能な変調信号発生器が必要であった。しかしながら、このような構成では、特にLSI等に組み込んでジッタの乗ったクロックを簡単に生成することを考えると、回路規模が大きくなってしまう虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する本発明の1つのアスペクトに係るPLL回路は、入力参照信号とフィードバックされる分周器の出力信号との位相を比較して位相差に応じた出力信号を出力する位相比較器と、該位相比較器の出力信号の低周波成分を通過させるフィルタ部と、該フィルタ部の出力電圧に基づいて制御される発振周波数の発振信号を発生する電圧制御発振器と、該発振信号を分周して前記位相比較器に出力する前記分周器と、を備えるPLL回路において、外部からノイズを誘導する配線部を備え、前記配線部で誘導したノイズ信号を前記フィルタ部の出力信号に加算するように構成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外部からノイズを誘導する配線部を従来のPLL回路に付加するだけであるので、回路規模も小さく簡単にジッタ成分を含んだクロックを生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るPLL回路の構成を示すブロック図である。図1において、PLL回路は、位相比較器11、フィルタ部12、電圧制御発振器13、分周器14、配線部15を備える。位相比較器11は、入力される参照クロック信号CKRと分周器14からフィードバックされる信号との位相を比較して位相差に応じた出力信号をフィルタ部12に出力する。フィルタ部12は、位相比較器11の出力信号の低周波成分を検出して電圧制御発振器13に出力する。電圧制御発振器13は、フィルタ部12の出力電圧に基づいて制御される発振周波数の発振信号を出力信号CKFとして発生する。分周器14は、出力信号CKFを分周して位相比較器11に出力する。配線部15は、外部からノイズを誘導してフィルタ部12の出力信号に加算するように配線部15の配線の一端Qをフィルタ部12の出力Pに接続する。
【0013】
以上のように構成されるPLL回路は、外部から誘導したノイズがフィルタ部12の出力信号に加算されて電圧制御発振器13に入力されるので、電圧制御発振器13が発生する出力信号CKFの発振周波数がノイズによって揺らぐ。すなわち、ノイズによるジッタ成分が出力信号CKFに乗ることとなる。
【0014】
このようなPLL回路によれば、データやクロックにジッタをのせるような測定環境を作らずに、ジッタ変調のかかったクロックである出力信号CKFをCDR等に供給して、ジッタ耐性の試験を容易におこなうことができる。この際、従来の技術における変調信号発生部を必要とせず、簡単な回路構成でジッタの乗ったクロックを生成することができる。回路構成が極めて簡単であるため、特に半導体装置に組み込む場合に好適である。
【実施例1】
【0015】
図2は、本発明の実施例に係るPLL回路の構成を示すブロック図である。図2のPLL回路は、位相比較器11a、電圧制御発振器13、分周器14、配線部15、チャージポンプ16、ローパスフィルタ12aを備え、基本的な動作は、図1のPLL回路と同じである。図2において、図1と同一の符号は同一物を表わし、その説明を省略する。位相比較器11aの出力は、チャージポンプ16に入力され、チャージポンプ16の出力は、ローパスフィルタ12aの一端P、電圧制御発振器13の入力、および配線部15の一端Qに接続される。位相比較器11aは、入力される参照クロック信号CKRと分周器14からフィードバックされる信号との位相を比較し、比較結果に応じたパルス幅でアップ信号あるいはダウン信号を出力する。チャージポンプ16は、アップ信号あるいはダウン信号に従って、正あるいは負の電流パルスを出力する。これらの電流パルスがローパスフィルタ12aにより積分され、高周波成分がカットされた制御信号として電圧制御発振器13に出力されるが、この制御信号には配線部15が誘導したノイズ信号による揺らぎも含まれることになる。電圧制御発振器13は、制御信号に基づいた発振周波数の発振信号を出力信号CKFとして発生する。制御信号にはノイズ信号による揺らぎも含まれているため、出力信号CKFにはジッタ成分が含まれることになる。
【0016】
次に、配線部15の詳細について説明する。配線部15は、ノイズを発生する配線21に近接して配置される。ノイズを発生する配線21は、図3に示すような電源線22、あるいは図4に示すようなGND線23であることが好ましい。電源線22あるいはGND線23は、例えばPLL回路が内蔵される半導体装置における電源線あるいはGND線であって、半導体装置の動作に伴いノイズが発生する配線である。さらに、図5に示すように、配線部を配線部15aと配線部15bとに分岐し、それぞれを電源線22およびGND線23に近接して配置するようにしてもよい。
【0017】
以上のように、配線部15を、ノイズを発生する配線21(電源線22、GND線23等)に近接して配置することで、ノイズが容量結合および/または電磁誘導によって配線部15に非接続的に誘導される。誘導されたノイズは、電圧制御発振器13の出力信号CKFの発振周波数におけるジッタ成分となる。なお、図5に示すような構成にすれば、より大きなノイズを誘導することができる。
【0018】
また、配線部15は、スイッチ部20a〜20nを含む。配線部15内の配線をスイッチ部の数に応じて分割し、配線の実効的な長さ(ノイズを誘導する配線の長さ)を調整可能とするように分割された配線間にスイッチ部20a〜20nをそれぞれ挿入する。そして、不図示の制御信号によってスイッチ部20a〜20nの開閉をそれぞれ制御する。配線部15の配線の一端Qに近い方からスイッチ部20a、20b、・・20nとすれば、全てのスイッチ部を開放した時、配線の長さが最も短く、スイッチ部20a、20b、・・20nを順に閉じることで配線の長さが順次長くなる。このようにスイッチ部20a〜20nの開閉によって配線の長さを変更して、誘導されるノイズの振幅を制御する。そして、ノイズの振幅を制御することで、電圧制御発振器13から出力される出力信号のジッタ量を可変にすることができる。
【0019】
次に、スイッチ部の構成について説明する。図6は、スイッチ部20i(i=a〜n)の構成を示す図である。スイッチ部20iは、スイッチ素子SW1、SW2、SW3を含む。スイッチ素子SW1、SW2は、配線の一端N1と他の配線の一端N2との間に縦続に挿入される。また、スイッチ素子SW3は、スイッチ素子SW1、SW2の接続点と接地または電源との間に接続される(図6では接地に接続されている)。スイッチ素子SW1、SW2とスイッチ素子SW3とは逆の開閉動作を行う。すなわち、図6(a)に示すようにスイッチ素子SW1、SW2が「オン」の時は、スイッチ素子SW3は「オフ」となり、図6(b)に示すようにスイッチ素子SW1、SW2が「オフ」の時は、スイッチ素子SW3は「オン」となるように制御される。
【0020】
スイッチ部が、図6(b)に示される場合、容量結合などでスイッチ素子SW1、SW2が完全には遮断にならないことがないように、スイッチ素子SW3をオンにする。これによって、スイッチ素子SW1、SW2の接続点がGND電位に接続され、開放となっているスイッチ素子SW1、SW2の容量結合により伝わるノイズを遮断することができる。
【0021】
次に、スイッチ部の具体的な回路構成について説明する。図7は、スイッチ部20i(i=a〜n)の具体的な回路構成を示す図である。図6におけるスイッチ素子SW1、SW2、SW3がそれぞれNMOSトランジスタMN1、MN2、MN3によって構成される。また、NMOSトランジスタMN1、MN2のゲートには、スイッチ部の開閉を制御する制御信号CNTが与えられ、NMOSトランジスタMN3のゲートには、制御信号CNTをインバータINVで反転した信号が与えられる。NMOSトランジスタMN1、MN2とNMOSトランジスタMN3とは、制御信号CNTによって相反するように開閉が制御される。このスイッチ部は、NMOSトランジスタ3個とインバータ1個とで簡単に構成出来るので、回路規模を小さくすることができる。
【0022】
また、図8に示すように図6におけるスイッチ素子SW1、SW2、SW3がそれぞれPMOSトランジスタMP1、MP2、MP3によって構成されるようにしてもよい。この場合、PMOSトランジスタMP1、MP2、MP3の接続点は、電源VDDに接続される。PMOSトランジスタMP3のゲートには、スイッチ部の開閉を制御する制御信号CNTが与えられ、PMOSトランジスタMP1、MP2のゲートには、制御信号CNTをインバータINVで反転した信号が与えられる。PMOSトランジスタMP1、MP2とPMOSトランジスタMP3とは、制御信号CNTによって相反するように開閉が制御される。このスイッチ部は、PMOSトランジスタ3個とインバータ1個とで簡単に構成出来るので、回路規模を小さくすることができる。
【0023】
さらに、図9に示すように図6におけるスイッチ素子SW1、SW2、SW3が、NMOSトランジスタMN4とPMOSトランジスタMP4、NMOSトランジスタMN5とPMOSトランジスタMP5、NMOSトランジスタMN6とPMOSトランジスタMP6からなるそれぞれのトランスファゲートによって構成されるようにしてもよい。NMOSトランジスタMN4、MN5、PMOSトランジスタMP6のゲートには、スイッチ部の開閉を制御する制御信号CNTが与えられ、NMOSトランジスタMN6、PMOSトランジスタMP4、MP5のゲートには、制御信号CNTをインバータINVで反転した信号が与えられる。NMOSトランジスタMN4、MN5、PMOSトランジスタMP4、MP5と、NMOSトランジスタMN6、PMOSトランジスタMP6とは、制御信号CNTによって相反するように開閉が制御される。トランスファゲート構成とすることで、広い入力レンジに対して確実にオンオフ制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るPLL回路の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例に係るPLL回路の構成を示すブロック図である。
【図3】配線部の配置の例を示す図である。
【図4】配線部の配置の他の例を示す図である。
【図5】配線部の配置のさらに他の例を示す図である。
【図6】スイッチ部の構成を示す図である。
【図7】NMOSトランジスタで構成したスイッチ部の回路図である。
【図8】PMOSトランジスタで構成したスイッチ部の回路図である。
【図9】トランスファゲートで構成したスイッチ部の回路図である。
【符号の説明】
【0025】
11、11a 位相比較器
12 フィルタ部
12a ローパスフィルタ
13 電圧制御発振器
14 分周器
15、15a、15b 配線部
16 チャージポンプ
20a〜20n スイッチ部
21 配線
22 電源線
23 GND線
INV インバータ
MN1〜MN6 NMOSトランジスタ
MP1〜MP6 PMOSトランジスタ
SW1〜SW3 スイッチ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力参照信号とフィードバックされる分周器の出力信号との位相を比較して位相差に応じた出力信号を出力する位相比較器と、該位相比較器の出力信号の低周波成分を通過させるフィルタ部と、該フィルタ部の出力電圧に基づいて制御される発振周波数の発振信号を発生する電圧制御発振器と、該発振信号を分周して前記位相比較器に出力する前記分周器と、を備えるPLL回路において、
外部からノイズを誘導する配線部を備え、
前記配線部で誘導したノイズ信号を前記フィルタ部の出力信号に加算するように構成することを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
前記配線部に含まれる配線の一端を、前記電圧制御発振器の入力端に接続することを特徴とする請求項1記載のPLL回路。
【請求項3】
前記配線部は、電源線および接地線の少なくとも一方に近接して配線される配線を含むことを特徴とする請求項1記載のPLL回路。
【請求項4】
前記配線部は、前記配線の実効的な長さを調整可能とする1または2以上のスイッチ部を含むことを特徴とする請求項2または3記載のPLL回路。
【請求項5】
前記スイッチ部は、前記配線間に挿入される縦続接続の第1および第2のスイッチ素子と、前記第1および第2のスイッチ素子の接続点と接地または電源との間に接続され、前記第1および第2のスイッチ素子とは逆の開閉動作を行う第3のスイッチ素子と、を含むことを特徴とする請求項4記載のPLL回路。
【請求項6】
前記第1、第2および第3のスイッチ素子は、ゲートに与えられる制御信号によって開閉が制御されるMOSトランジスタであることを特徴とする請求項5記載のPLL回路。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一に記載のPLL回路を備えることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−352292(P2006−352292A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173218(P2005−173218)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】