説明

PS−PLA1阻害剤

【課題】アレルギー、特にI型アレルギー、例えば、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症等の予防治療剤として有用であると考えられるPS−PLA阻害剤の提供。
【解決手段】特定のオキサゾリジン骨格を有する化合物、それらの薬学的に許容される塩、および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも一つを含有するPS−PLA阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ホスファチジルセリン特異的ホスフォリパーゼA(以下、PS−PLA1 ということがある。)を特異的に阻害する活性を有する化合物を含有するPS−PLA阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスファチジルセリン特異的ホスフォリパーゼA1(PS−PLA1 )(J. Biol. Chem. 272:2192-2198(1997) 、J. Biol. Chem. 274:11053-11059(1999) )は、このPSの極性頭部のセリン残基を厳密に認識して1位の脂肪酸鎖を特異的に加水分解してリゾPSへと変換する酵素である。ラット及びヒトのPS−PLA1 は、これまで報告されているホスホリパーゼとは有意な相同性を示さず、リパーゼファミリー(セリンエステラーゼ)の一員と考えられている。構造的には、456アミノ酸からなり、セリン、アスパラギン酸、ヒスチジンで構成される活性中心をもつセリンエステラーゼの特徴をもち、N末端には24アミノ酸からなる疎水性の分泌シグナル配列をもつ。
PS−PLAは、ラット腹腔マスト細胞の脱顆粒を惹起することが報告されている(J. Biol. Chem. 276:29664-29670(2001))。しかしながら、PS−PLA1 について生体の生理的機能の維持または病態にどのように関与しているかはほとんど解明されていない。
【0003】
新井らは、PS−PLA遺伝子ノックアウト(KO)マウスを作製して、表現形質の変化の有無を検討したところ、血液凝固能に変化のあることを認めた。
しかしながら、PS−PLAを特異的に阻害する化合物及びそれを含有するPS−PLA阻害剤は知られていない。また、PS−PLAまたはリゾPSとアレルギーの関係は必ずしも明らかにはなっておらず、また、PS−PLA阻害剤がアレルギー性疾患の予防/治療に有用であるか否かは明らかでなかった。
【特許文献1】特開2003-319735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今回、in vitro においてPS−PLA阻害活性を有する化合物を取得し、その薬効を検討したところ、マウスにおいて、I型アレルギー反応の一種である受動皮膚アナフィラキシー(PCA)反応を抑制することを見出した。
一方、PS−PLAノックアウト(以下、KOという。)マウスにおいてさらなる表現形質の変化の有無を検討するため、PCA反応を試験した結果、KOマウスにおいてはPCA反応が顕著に減弱していること、及び、減弱したPCA反応がPS−PLAの投与により回復することを認めた。
本発明は、オキサゾリン骨格を有する特定の化合物を有効成分とするPS−PLA阻害剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記式I〜IIIで示されるオキサゾリン骨格を有する化合物、それらの薬学的に許容される塩、および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも一つを含有するPS−PLA阻害剤である。
【0006】
【化2】


また本発明は、上記式I〜IIIの化合物、それらの薬学的に許容される塩、および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも一つを有効成分とするアレルギー疾患、特にI型アレルギー性疾患の予防/治療剤を提供する。
さらに、PS−PLA阻害剤を有効成分とするアレルギー性疾患、特にI型アレルギー性疾患の予防/治療剤を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のPS−PLA阻害剤は、アレルギー、特にI型アレルギー、例えば、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症等の予防治療剤として有用である。また、アレルギー、特にI型アレルギー、例えば、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症等の機序等の解明・研究に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のPS−PLA阻害剤は、式I〜IIIで示されるオキサゾリン骨格を有する化合物、それらの薬学的に許容される塩および溶媒和物のいずれかを含有する。その他の好ましい化合物は実施例に記載されている。該化合物は、公知の方法、例えば、コンビナトリアル合成の手法を応用することによって調製できる。また、市販品を購入することで入手可能である。
【0009】
本発明の阻害剤は、PS−PLA、例えば、ヒト、ラットまたはマウスPS−PLA、好ましくはヒトPS−PLAを特異的に阻害する。また、好ましくは、他のリパーゼファミリーの酵素に対する作用との間にPS−PLA選択性を有する。他のリパーゼファミリーの酵素としては、ホスファチジン酸特異的ホスフォリパーゼPA−PLAα及びPA−PLAβ(国際公開公報WO02/02762及びWO02/31131)等が挙げられる。また、これらの酵素に対する化合物の阻害活性は、公知の方法(国際公開公報WO02/02762及びWO02/31131)に準じて測定できる。
【0010】
PS−PLA活性またはPS−PLA阻害活性は公知の方法に従って実施可能であり、例えば、RI標識した合成基質を用いた方法(J. Biol. Chem. 272:2192-2198(1997)、J. Biol. Chem. 274:11053-11059(1999))等が挙げられる。具体的には、実施例に記載の方法に従うことができる。
【0011】
本発明の予防/治療剤は、PS−PLA阻害剤、好ましくは、オキサゾリン骨格を有しかつPS−PLAを特異的に阻害する化合物を有効成分として含有する。特に好ましくは、式I〜IIIで示されるオキサゾリン骨格を有する化合物、それらの薬学的に許容される塩、溶媒和物のいずれかを含有する。その他の好ましい化合物は実施例に記載されている。
【0012】
本発明のPS−PLA阻害剤は、PS−PLAを特異的に阻害することにより、アレルギー性疾患、特にI型アレルギー性疾患、例えば、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症等の予防治療剤として有用である。本発明のPS−PLA阻害剤の治療効果等は、公知の適当なアレルギー性疾患、特にI型アレルギー性疾患の動物モデル等を用いた薬理試験において確認できる。例えば、マウス等を用いた受動皮膚アナフィラキシー(PCA)試験が挙げられ、具体的な方法は実施例に示されている。
【0013】
本発明の有効成分の化合物は、無機酸または有機酸との塩を形成することができる。これらの塩の例としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの無機酸との塩、酢酸塩、クエン酸塩、蓚酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩などの有機酸との塩、などがあげられる。置換基の種類によっては無機塩基または有機塩基との塩を形成することもできる。炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基との塩、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ピリジン等の有機塩基との塩、などがあげられる。これらの塩は常法、例えば、当量の有効成分の化合物と所望の酸、あるいは塩基を含む溶液を混合し、所望の塩を濾取するか溶媒留去して集めることにより得ることができる。
【0014】
また、本発明の化合物またはその塩は、水、エタノール、グリセロールなどと溶媒和物を形成することができ、このような溶媒和物も本発明に含まれる。尚、本発明の溶媒和物はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0015】
1.PS−PLAの発現および精製
(1)ラットPS−PLAの発現
Satoら(J. Biol. Chem. 272:2192-2198(1997))の方法に従って実施した。まず、公知のラットPS−PLA1cDNAのコード領域を含むDNA(塩基位置−13〜1729に対応)をbaculovirus transfer vector pVL1393 (PharMingen, San Diego, CA)のSmaI及びEcoRIサイトに挿入した。次に、BaculoGold system (PharMingen)を用いて組換ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus (AcNPV))を調製した。Sf9細胞を液体培地(EX-CELL420、JRH Biosciences)にて1x106 cells/mLの濃度に調製し培養を行い、翌日、組換ウイルスを含む液体培地と交換した。その後27℃、4日間培養を続け、培養上清中に組換ラットPS−PLA1を分泌発現させた(実施例1)。
【0016】
(2)組換ラットPS−PLAの精製
得られた培養上清は100mM NaCl/10mM Tris-HCl(pH7.4)のバッファーで平衡化した陰イオン交換カラム(Q-Sepharose FF、Amersham Biosciences)に供し、その非吸着画分を同バッファーで平衡化したヘパリンカラム(Heparin Sepharose 6 FF、Amersham Biosciences)に吸着させ、NaClの濃度勾配(100mM-2000mM)によって溶出を行った。得られた画分のPS−PLA1抗原量をEIAにより測定し、目的とする画分をプールし、PS−PLA1活性を測定した。
【0017】
2.PS−PLA阻害活性化合物の同定
(1)化合物
実施例1で調製したPS−PLA1粗精製品、及び検索対象化合物として、市販の化合物(Chemical Diversity Labs, Inc)を購入して使用した。
【0018】
(2)PS−PLA阻害活性の確認方法
PS−PLA1阻害活性は、公知の方法(Higashi, S. et al. J. Biochem. 103, 442-447 (1988)、Yokoyama, K. et al. J. Biochem. 117, 1280-1287 (1995) )に準じて測定する。基質とする1-[1-14C] オレオイル-sn-グリセロ-3- フォスフォセリンは公知の方法(Horigome, K.et al. J. Biochem. 101, 53-61 (1987))に従って調製する。0.4mM塩化カルシウムを含む100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に40mMの基質とPS-PLA1を加え37℃で適当な時間(例えば、15分)反応させた後、Doleの溶液(Dole, V. P. and Meinertz, H. J. Biol. Chem. 235, 2595-2599 (1960) )を加えて反応を停止、遊離された脂肪酸を抽出した後、放射能を測定する。披験化合物を添加しない対照群との比較により50%阻害濃度(IC50)を求める。
【0019】
(3)PS−PLA阻害活性化合物
本発明の活性化合物4-(2,3-ジメトキシベンジリデン)-2-(2-メトキシフェニル)-4H-オキサゾール-5-オン、2-(2-フルオロフェニル)-4-((5-メチルフラン-2-イル)メチレン)-4H-オキサゾール-5-オン、4-((5-メチルフラン-2-イル)メチレン)-2-(2-ニトロフェニル)-4H-オキサゾール-5-オン(式I)、4-(2-メトキシベンジリデン)-2-(2-メトキシフェニル)-4H-オキサゾール-5-オン、2-(2-ブロモフェニル)-4-((5-メチルフラン-2-イル)メチレン)-4H-オキサゾール-5-オン、4-(4-メトキシベンジリデン)-2-(2-メトキシフェニル)-4H-オキサゾール-5-オン、4-(3-メトキシベンジリデン)-2-(2-メトキシフェニル)-4H-オキサゾール-5-オン、4-ベンジリデン-2-(2-メトキシフェニル)-4H-オキサゾール-5-オン(式II)、4-(2,4-ジメトキシベンジリデン)-2-(2-メトキシフェニル)-4H-オキサゾール-5-オン、4-((フラン-2-イル)メチレン)-2-フェニル-4H-オキサゾール-5-オン、4-((5-ブロモフラン-2-イル)メチレン)-2-(2-フルオロフェニル)-4H-オキサゾール-5-オン(式III)は、10μg/mL以下のIC50値を示す。
【0020】
【表1】

【0021】
3.受動皮膚アナフィラキシー(PCA)反応試験
(1)PCA試験方法
C57BL/6 マウス(オス♂、8〜10週令)にネンブタール(大日本製薬)0.05mg/gB.W.を腹腔内投与し、シェーバー(夏目製作所)で背部皮膚の剃毛をした。滅菌PBSで希釈した抗DNPモノクローナルIgE抗体(clone SPE-7, Sigma)15ngまたは150ngを、注射針(27G)付シリンジで 50μl/spotとなるように皮内投与した。2時間後に抗原2, 4-dinitrophenylated Ascaris(DNP-As)(Hara K, et al. Biol Pharm Bull.17,1121-3(1994))200μgを1%エバンスブルー(東京化成)/PBS溶液として200μl静注し、さらに30分後背部の皮膚を切り取って反転し、色素漏出斑を観察した。IgE抗体と抗原はそれぞれ投与直前に約5分37℃でインキュベーションしてから用いた。
また、作用の特異性を確認するため、マウスの背部の皮膚にヒスタミン(1、10、100μg/mL PBS)またはCompound 48/80(0.1,1μg/ml)を50μL/spotで皮内投与し、5分後にエバンスブルー1%溶液200μLを静注した。その30分後、マウスの背部の皮膚を切り取って反転し、色素漏出斑を観察した。
【0022】
(2)PS−PLA阻害化合物のPCA反応抑制試験
PS−PLA1阻害活性が同定された化合物(式I〜III)を、上記(1)のPCA試験に供し、それらの抑制効果の有無を確認した。各化合物は、0.8、0.4、0.2または0.1mg/mLの濃度で50μLを、IgE抗体と混合して皮下投与し、化合物投与群における色素漏出斑を、等量の生理食塩水を投与した対照群のそれと比較することにより抑制効果の有無を評価した。その結果、各化合物について、対照群と比較して、PCA反応の抑制効果が認められ、特に、式I及びIIの化合物は用量依存的にPCA反応を抑制した(図1B)。一方、これらの化合物は、マスト細胞を直接活性化して脱顆粒を引き起こし、IgE/ IgE受容体を介した刺激とは異なった刺激伝達系を介してヒスタミン遊離を非特異的に促進するヒスタミン遊離促進剤であるCompound 48/80(0.1μg/mL)またはヒスタミンによる色素の漏出に対しては影響を及ぼさなかったことから、PCAに対する特異性を有すると考えられた(図1A)。
【0023】
4.PS−PLAノックアウト(KO)マウスの作製
PS−PLA1遺伝子の機能が欠損したマウス、すなわち、KOマウスは、公知の方法(特開2003-319735号公報)に従って作製した。概略は以下のとおりである。PS−PLA1遺伝子を含むゲノムDNA領域の塩基配列を基にPS−PLA1遺伝子を不活化するターゲティングベクターを作製し、相同組換法を用いてマウス胚性幹細胞に導入した。その結果、遺伝子の機能が欠損した変異PS−PLA1遺伝子を有し、多分化能を保持した細胞を得た。引き続き該細胞を、胚盤胞期胚に挿入し、キメラ胚を作製した。該キメラ胚を偽妊娠雌の子宮に移植し、キメラマウスを出産させた。このキメラ個体と他の正常な個体と交配させ、ヘテロ変異体を得た。ヘテロ変異体同士を交配させ、対立遺伝子の両方において変異PS−PLA1遺伝子を有する個体(ホモ変異体)を得た(実施例4)。
【0024】
5.PS−PLAノックアウトマウスにおけるPCA反応の低下
実施例4で作製したPS−PLAノックアウトマウス(ホモ変異体)を用いて、3.(1)のPCA反応試験を実施したところ、正常なPS−PLA遺伝子を有する野生型のマウスに比較して、PCA反応が著しく減弱していた(図2)。一方、Compound48/80またはヒスタミンに対する応答性には野生型マウスとの差が認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】PS−PLA阻害化合物のPCA反応試験における抑制効果を示す図である。
【図2】野生型(Wild-type)のマウスに比較して、PS−PLAノックアウトマウス(PS−PLA1-/-)においてPCA反応が著しく減弱していることを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式I〜IIIの化合物、それらの薬学的に許容される塩、および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも一つを含有するPS−PLA阻害剤。
【化1】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−96708(P2006−96708A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285522(P2004−285522)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000181147)持田製薬株式会社 (62)
【Fターム(参考)】