説明

PTC素子用焼結体、その製造方法、PTC素子、及び発熱モジュール

【課題】 Znを含むBaTiO系のPTC素子用焼結体においてジャンプ特性に優れたPTC素子用焼結体、その製造方法、及びこのPTC素子用焼結体を用いたPTC素子、発熱モジュールを提供する。
【解決手段】 Ba、Tiを必須とするペロブスカイト系のPTC素子用焼結体であって、Znを焼結体全体に対して酸化物換算でZnO:0.0001−0.0030mol%含み、平均結晶粒径が10μm以上100μm以下であり、室温抵抗率Rrが1×10Ω・cm以下、抵抗温度係数αが0.5%/℃以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、PTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチ、温度検知器などに用いられる、正の抵抗温度係数を有する半導体磁器組成物を有するPTC素子用焼結体と、その製造方法、PTC素子用焼結体を用いたPTC素子及び発熱モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PTCR特性(正の抵抗率温度係数:Positive Temperature Coefficient of Resistivity)を示す材料としてBaTiO系のペロブスカイト酸化物に様々な半導体化元素を加えた半導体磁器組成物(PTC材料)が提案されている。これらの半導体磁器組成物は、キュリー温度Tc以上の高温になると急激に抵抗値が増大する特性を有するので、PTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチ、温度検知器などに用いられる。
【0003】
PTC材料における大きな特徴は、PTC材料の抵抗率がキュリー温度で急激に高くなること(ジャンプ特性)にあるが、これは、結晶粒界に形成された抵抗(ショットキー障壁による抵抗)が増大するために起こると考えられている。PTC材料の特性としては、この抵抗率のジャンプ特性が高く(つまりは抵抗温度係数αが高く)、かつ室温での抵抗率は低い値で安定したものが要求されている。
【0004】
BaTiO系のペロブスカイト酸化物は、その特徴である高誘電率特性を利用してIC基板に使用するチップ部品などのコンデンサ材料として用いられ、添加元素として様々なものが検討されている。添加元素の一つとして亜鉛があり、亜鉛は誘電体磁器組成物として誘電損失を低下させるために意図的に添加される。
【0005】
但し、PTC素子の分野ではBaTiO系のペロブスカイト酸化物からなる上記のPTC特性を得るために亜鉛を意図的に添加することはあまり無い。稀有な例として、特許文献1は、抵抗温度係数と抵抗変化率を所定の範囲で自由に変化させることを目的として、仮焼後の原料にコバルト、ニッケル、亜鉛を添加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−177803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1ではZn添加によるPTC特性の向上が記載されているものの、本発明者らの検討では、BaTiO系のPTC素子は単にZn系の添加物を添加しただけではジャンプ特性が発現したPTC素子用焼結体は得られていない。BaTiO系のPTC素子用焼結体では、Zn添加によってPTC特性の向上効果を得るには製造方法も考慮して製造する必要があると思われる。
【0008】
本発明の課題は、Znを含むBaTiO系のPTC素子に関して、低い室温比抵抗かつ優れたジャンプ特性を示すPTC素子用焼結体、その製造方法、及びこのPTC素子用焼結体を用いた発熱モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、Ba、Tiを含むペロブスカイト系のPTC素子用焼結体であって、Znを焼結体全体に対して酸化物換算でZnO:0.0001−0.0030mol%含み、平均結晶粒径が10μm以上100μm以下であり、室温抵抗率Rrが1×10Ω・cm以下、抵抗温度係数αが0.5%/℃以上であることを特徴とする。
【0010】
上記のPTC素子用焼結体は、結晶の組成式が[(Bi・Na)(Ba1−y−θθ1−x][Ti1−z]O(但し、Rは希土類元素のうち少なくとも一種、AはSr、Caのうち少なくとも1種、MはNb、Ta、Sbのうち少なくとも一種)で表され、前記x、y、z、θが、0≦x≦0.3、0≦y≦0.02、0≦z≦0.005、0≦θ≦0.3を満足する材料を用いることができる。
【0011】
Znを焼結体全体に対して酸化物換算でZnO:0.0007−0.0025mol%とすることで、室温抵抗率Rrが5×10Ω・cm以下、抵抗温度係数αが3%/℃超であるPTC素子用焼結体を得ることができる。このPTC素子用焼結体は、平均結晶粒径が20μm以上、さらには30μm以上とすることができる。Zn量は酸化物換算でZnO:0.0008−0.0020mol%とすることが好ましい。
【0012】
上記のPTC素子用焼結体を用いてPTC素子を得ることができる。
【0013】
上記のPTC素子を用いて発熱モジュールを得ることができる。
【0014】
上記のPTC素子用焼結体の製造方法は、組成式が[(Bi・Na)(Ba1−y−θθ1−x][Ti1−z]O(但し、Rは希土類元素のうち少なくとも一種、AはSr、Caのうち少なくとも1種、MはNb、Ta、Sbのうち少なくとも一種)で表され、前記x、y、z、θが、0≦x≦0.3、0≦y≦0.02、0≦z≦0.005、0≦θ≦0.3を満足する原料を、800℃以上1000℃未満で仮焼し、前記仮焼後にZn原料を焼結体の原料全体に対して酸化物換算でZnO:0.0001−0.0030mol%添加し、その後1000℃以上1500℃以下で本焼成することを特徴とする。
Zn原料を低温で仮焼した仮焼粉に添加することで、低い室温比抵抗で、かつ優れたジャンプ特性を示すPTC素子が得られる。なお、上記の式においてx、yの一方の値が0である場合は、他方の値は0超とすることが好ましい。なお、ZnOは焼成で若干飛散するが、焼結前後での数値は微差なため、焼結前後でのZnO量の値は同じ範囲で記載している。
【0015】
仮焼後に前記仮焼粉を造粒する造粒工程を備え、前記造粒工程中、若しくは造粒工程後に、前記Znとしてステアリン酸亜鉛を添加することができる。
離型剤として用いられるステアリン酸亜鉛を用いることで、上記のPTC特性の向上のみならず、本焼成用の成形体を型抜きすることが容易となり、PTC素子の寸法精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Znを含むBaTiO系のPTC素子用焼結体において、ジャンプ特性に優れたPTC素子用焼結体、その製造方法、及びこのPTC素子用焼結体を用いたPTC素子、発熱モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態のPTC素子のジャンプ特性を示す図である。
【図2】比較用のPTC素子のジャンプ特性を示す図である。
【図3】PTC素子を用いた加熱装置(発熱モジュール)を示す模式図である。
【図4】別の発熱モジュールであって、その一部を切り欠いて示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のPTC素子は、平均結晶粒径が10μm以上と大きいことが特徴である。添加したZn元素は粒界内に主に存在する。平均結晶粒径が大きくなる理由は、添加したZnと仮焼粉中に含まれる生原料BaCO、TiOとの反応物が焼結助剤として働く為であると推察される。
【0019】
本実施形態のPTC材料用焼結体、及びこのPTC素子用焼結体の製造方法を説明する。
実施形態のPTC素子用焼結体は、Ba、Tiを必須とするペロブスカイト系のPTC素子用焼結体であって、Znを焼結体全体に対して酸化物換算でZnO:0.0001−0.0030mol%含み、平均結晶粒径が10μm以上100μm以下であることを特徴とする。平均結晶粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により表面を観察し、その観察面写真に直線を引いてその直線上にある結晶の数を数え、直線の長さを結晶の数で割った値として算出できる。
【0020】
上記PTC素子は、結晶の組成式が[(Bi・Na)(Ba1−y−θθ1−x][Ti1−z]O(但し、Rは希土類元素のうち少なくとも一種、AはSr、Caのうち少なくとも1種、MはNb、Ta、Sbのうち少なくとも一種)で表され、前記x、y、z、θが、0≦x≦0.3、0≦y≦0.02、0≦z≦0.005、0≦θ≦0.3を満足する材料を用いることができる。
上記PTC素子はBiやNaを添加することでキュリー温度を制御することができる。Bi、Naの総添加量として、xの範囲は0.3以下とすることが好ましい。xが0.3以下であれば、実用に供する抵抗値に抑えることができる。上記PTC素子は希土類元素Rを添加することで室温抵抗率Rrを小さくすることが出来る。希土類元素量の添加量範囲であるyは0.02以下とすることが好ましい。抵抗温度係数αが3%/℃以上のPTC素子を得ることもでき、ヒータのPTC素子として熱暴走に対する安全性を確保できる。
BaサイトをSrやCaのA元素で置換する事もできる。A元素の置換量を増やすことで抵抗温度係数αを小さくして経時変化を大きく低減することができる。A元素の総置換量θが0.05以上であることが好ましい。また、A元素の総置換量θが0.3を越えると抵抗温度係数αが低くなり好ましくない。
【0021】
なお、上記の組成式は[(Bi・Na)(Ba1−y−θθ1−x]で表されるBaサイトと、[Ti1−z]で表されるTiサイトの比が1対1の組成を記載しているが、BaサイトとTiサイトの比が1:0.95〜1:1.05の範囲も本願発明の範囲とする。また、BiとNa比が1対1の組成を記載しているが、BiとNaの比が1:0.9〜1:1.1の範囲も本願発明の範囲とする。
【0022】
上記の焼結体は、BiやNaを含まない原料、例えば、BaTiO仮焼粉、(BaR)TiO仮焼粉、(BaCa)TiO仮焼粉、及び(BaRCa)TiO仮焼粉からなる各仮焼粉(以下、BT仮焼粉と称する)と、BiやNaを含む原料、例えば(Bi−Na)TiO仮焼粉からなる仮焼粉(以下、BNT仮焼粉と称する)を別々に用意し、上記BT仮焼粉とBNT仮焼粉を適宜混合した混合仮焼粉を用いて製造することもできる。
【0023】
仮焼温度は800℃以上1000℃未満が好ましい。800℃未満では仮焼粉中に含まれる生原料(BaCO3、TiO2)の割合が多くなり焼結体密度が低下する可能性がある。1000℃以上では仮焼がBaとTiの反応が進み、後述のZn添加の効果によるジャンプ特性の向上効果が得られなくなる。
【0024】
仮焼後にZn原料を添加する。Zn原料は例えば酸化亜鉛でも良いし、ステアリン酸亜鉛の形で添加することもできる。Zn原料は仮焼粉に添加しても良いし、仮焼後の造粒工程、若しくは造粒工程後の造粒粉に添加しても良い。仮焼後の造粒工程、若しくは造粒工程後の造粒粉に添加する場合は、離型効果が期待できるステアリン酸亜鉛を用いることが好ましい。Zn量は焼結体の材料全体に対して、酸化物ZnO換算で0.0001−0.0030mol%を混合する。0.0001mol%未満、0.0030超のいずれの範囲でも十分なジャンプ特性が得られなくなる。Zn量を0.0007〜0.0025mol%の範囲とすることで、室温抵抗率Rrが5×10Ω・cm以下、抵抗温度係数αが3%/℃超のPTC素子用焼結体が得られる。
【0025】
Zn添加後の材料を1000℃以上1500℃以下の温度で本焼成する。焼成温度が1000℃以上であれば結晶の粒成長が十分に期待できる。1500℃以下であれば焼成炉の管理が容易である。
【0026】
BT仮焼粉とBNT仮焼粉を別途作製する場合、それぞれの原料粉末はそれぞれに応じた適正温度で仮焼することができる。例えば、BNT仮焼粉の原料粉は、通常TiO、Bi、NaCOが用いられるが、Biは、これらの原料粉の中では融点が最も低いので焼成による揮散がより生じ易い。そこでBiが成るべく揮散しないで、かつNaの過反応が無いように700〜950℃の比較的低温で仮焼きすることが好ましい。一旦、BNT仮焼粉とした後は、BNT粉自体の融点は高い値で安定するので、BT仮焼粉と混合してもより高い温度で焼成できる。このように分割仮焼法の利点はBiの揮散とNaの過反応を抑え、秤量値に対しBi−Naの組成ずれの小さいBNT仮焼粉にできることである。
よって、分割仮焼法を用いることにより、BNT仮焼粉のBiの揮散が抑制され、Bi−Naの組成ずれを防止してBiとNaのモル比率Bi/Naを精度良く制御することができ、それら仮焼粉を混合して、成形、焼結することにより、室温における抵抗率が低く、キュリー温度のバラツキが抑制されたPTC材料が得られる。
【0027】
上記の仮焼粉を粉砕して造粒後、一軸プレス装置で成形する。その後、この成形体を所定の焼結条件で焼成し焼結体を得る。得られた焼結体を切削してPTC素体とする。このPTC素体に電極ペーストをスクリーン印刷などし、これを480℃から650℃の温度で焼き付けてオーミック電極を形成する。オーミック電極の形成にはスパッタリング等を用いても良い。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
BaCO、TiO、およびLaの原料粉末を準備し、組成式[(Bi・Na)(Ba1−y−θθ1−x][Ti1−z]Oにおいて、表1に示すx、y、z、θの値の原料組成になるように配合し、純水で6時間混合した。得られた混合原料粉末を大気中で900℃×4時間の熱処理で仮焼を行い、仮焼粉を用意した。この仮焼粉に純水を加えてジルコニアボールとともにポットミルに投入し、6時間かけて混合粉砕した。その後、粉砕後のスラリーを乾燥させた。粉砕粉にPVAを10wt%添加し、混合し、その後、造粒装置によって造粒した。
【0029】
次に、この造粒粉にステアリン酸亜鉛を添加した。亜鉛量が酸化亜鉛ZnOに換算して原料全体(仮焼粉+酸化亜鉛)に対してmol%で、0%、0.0002%、0.0005%、0.0010%、0.0015%、0.0025%、0.0050%と変えて添加した。
【0030】
得られたZn原料添加の造粒粉を一軸プレス装置で100MPaの圧力で成形した。この成形体を700℃で脱バインダー後、大気雰囲気中にて1360℃で4時間保持し、その後徐冷して40×25×1.7mmのPTC素子用焼結体(以後、焼結体)を得た。得られた焼結体を中心部から10mm×10mm×1mmの板状に加工し、10mm×10mmの面にオーミック電極とカバー電極を塗布し、180℃で乾燥後、600℃、10分保持で焼き付けて電極を形成しPTC素子とした。
このPTC素子の室温抵抗率Rr、抵抗温度係数α、平均結晶粒径を測定した。抵抗温度係数αは恒温槽で10℃から260℃まで昇温しながら5℃毎に抵抗値を測定して算出した。尚、抵抗温度係数αは次式で定義される。
【0031】
【数1】

(Rは最大抵抗率、TはRを示す温度、Tはキュリー温度、RはTにおける抵
抗率である。)
【0032】
室温抵抗率Rrは25℃中の温度下において4端子法で測定した。
表1に測定結果を示す。また、図1はZn量が酸化亜鉛ZnOに換算して原料全体(仮焼粉+酸化亜鉛)に対してmol%で、0%、0.0010%、0.0015%、0.0050%のPTC素子の温度と抵抗率の関係を示す図である。Zn量が0mol%及び0.0050mol%のPTC素子用焼結体はジャンプ特性が表れない。
【0033】
【表1】

【0034】
Zn原料の添加を造粒前の仮焼粉に対して酸化亜鉛ZnOを添加する方法で実験を行なったところ同様の結果が得られた。
【0035】
(比較例2)
仮焼温度を1150℃×1.5hとした以外は実施例1と同様にして仮焼粉を製造した。この仮焼粉に原料全体(仮焼粉+酸化亜鉛)に対して、酸化亜鉛ZnOを0.0015mol%添加した。
このZn添加の仮焼粉を用い、実施例1と同様にしてチタン酸バリウム系のPTC素子を得た。室温抵抗率Rr、抵抗温度係数α、平均結晶粒径を測定した。表1に測定結果を示す。また、このPTC素子の温度と抵抗率の関係を図2に示す。比較例2のPTC素子からはPTCR効果が得られなかった。
【0036】
(比較例3)
BaCO、TiO、La、およびZnOの原料粉末を準備した。組成式:Ba0.9965La0.0035Ti1.025となるように配合し、さらに、原料全体に対して、酸化亜鉛ZnOを0.0015mol%添加した。配合した原料を純水で混合した。得られた混合原料粉末を大気中で900℃×4時間の熱処理で仮焼して仮焼粉とし、実施例1と同様に粉砕、乾燥、造粒を行なった。この造粒粉をそのまま用いて一軸プレス装置で100MPaの圧力で成形した。その後、実施例1と同様の条件で焼成を行いPTC素子を得た。室温抵抗率Rr、抵抗温度係数α、平均結晶粒径の測定結果を表1に示す。抵抗温度係数αが小さく、仮焼前の原料混合時にZn原料を添加しても十分なジャンプ特性を備えるPTC素子用焼結体が得らなかった。
【0037】
(実施例2)
BaCO、TiO、及びCaO、SrO、Nb、Taの原料粉末を準備し、組成式[(Bi・Na)(Ba1−y−θθ1−x][Ti1−z]Oにおいて、表2に示すx、y、z、θの値の原料組成になるように配合し、純水で混合した。得られた混合原料粉末を大気中で900℃×4時間の熱処理で仮焼し、仮焼粉を用意した。
この仮焼粉に原料全体(仮焼粉+酸化亜鉛)に対して、酸化亜鉛ZnOをmol%で0.0015%添加した。
このZn添加の仮焼粉を用い、実施例1と同様にしてチタン酸バリウム系のPTC素子を得た。室温抵抗率Rr、抵抗温度係数α、平均結晶粒径を測定した。表2に測定結果を示す。
【0038】
【表2】

【0039】
(実施例3)
BaCO、TiO、およびLaの原料粉末を配合し、純水で混合した。得られた混合原料粉末を大気中で900℃×4時間の熱処理で仮焼してBT仮焼粉を得た。次に、NaCO、Bi、TiOの原料粉末を準備してエタノール中で混合し、得られた混合原料粉末を大気中で800℃×2時間の熱処理で仮焼してBNT仮焼粉を得た。
BT仮焼粉とBNT仮焼粉を、0.95:0.05、0.9:0.1、0.8:0.2の混合比でそれぞれ配合したものを仮焼粉とした。
この仮焼粉に、純水を加えて、ジルコニアボールとともにポットミルに投入し、6時間混合粉砕した。その後、粉砕後のスラリーを乾燥させた。粉砕粉にPVAを10wt%添加し、混合し、その後、造粒装置によって造粒した。
次に、この造粒粉にステアリン酸亜鉛を添加した。亜鉛量が酸化亜鉛ZnOに換算して原料全体(仮焼粉+酸化亜鉛)に対してmol%で0.0015%になるように添加した。
【0040】
得られたZn原料を添加した造粒粉を一軸プレス装置で100MPaの圧力で成形した。この成形体を700℃で脱バインダー後、酸素濃度500ppm以下の窒素雰囲気中で1360℃で4時間保持し、その後徐冷して40×25×1.7mmのPTC素子用焼結体を得た。室温抵抗率Rr、抵抗温度係数α、平均結晶粒径を測定した。表3に測定結果を示す。
【0041】
【表3】

【0042】
(発熱モジュール)
本発明のPTC素子を、図3に示すように金属製の放熱フィン20a1、20b1、20c1に挟み込んで固定し、発熱モジュール20を得た。PTC素子用の焼結体(以後、焼結体)11の面に形成した電極2a,2cはそれぞれ正極側の電力供給電極20a,20cに熱的および電気的に密着され、他方の面に形成した電極2bは負極側の電力供給電極20bに熱的および電気的に密着される。
また、電力供給電極20a、20b、20cはそれぞれ放熱フィン20a1、20b1、20c1と熱的に接続している。なお、絶縁層2dは電力供給電極20aと電力供給電極20cの間に設けられ、両者を電気的に絶縁している。焼結体11で生じた熱は電極2a、2b、2c、電力供給電極20a、20b、20c、放熱フィン20a1、20b1、20c1の順に伝わり主に放熱フィン20a1、20b1、20c1から雰囲気中に放出される。
【0043】
電源30cを、電力供給電極20aと電力供給電極20bの間、または電力供給電極20cと電力供給電極20bの間に接続すれば消費電力は小さくなり、電力供給電極20aおよび電力供給電極20cの両方と電力供給電極20bの間に接続すれば消費電力は大きくなる。つまり、消費電力を2段階に変更することが可能である。こうして発熱モジュール20は、電源30cの負荷状況や、希望する加熱の緩急の必要度合いに応じて加熱能力を切り替え可能である。
この加熱能力切り替え可能な発熱モジュール20を電源30cに接続することで加熱装置30を構成することができる。なお、電源30cは直流電源である。発熱モジュール20の電力供給電極20aと電力供給電極20cはそれぞれ別のスイッチ30a、30bを介して電源30cの一方の電極に並列接続され、電力供給電極20bは共通端子として電源30cの他方の電極に接続される。
スイッチ30a、30bの何れか一方のみを導通させれば加熱能力を小さくして電源30cの負荷を軽くすることができ、両方を導通すれば加熱能力を大きくすることができる。
【0044】
焼結体11がキュリー温度付近まで加熱されると、焼結体11の抵抗値が急激に上昇し焼結体11に流れる電流が小さくなり、自動的にそれ以上加熱されなくなる。また、焼結体11の温度がキュリー温度付近から低下すると再び素子に電流が流れ、焼結体11が加熱される。このようなサイクルを繰り返して焼結体11の温度、ひいては発熱モジュール20全体を一定にすることができるので、電源30cの位相や振幅を調整する回路、さらには温度検出機構や目標温度との比較機構、加熱電力調整回路なども不要である。
この加熱装置30は、放熱フィン20a1〜20c1の間に空気を流して空気を暖めたり、放熱フィン20a1〜20c1の間に水などの液体を通す金属管を接続して液体を温めたりすることができる。このときも焼結体11が一定温度に保たれるので、安全な加熱装置30とすることができる。
【0045】
更に、本発明の変形例に係る発熱モジュール12を、図4を参照して説明する。なお、図4では説明のために発熱モジュール12の一部を切り欠いて示している。
この発熱モジュール12は略扁平直方体状のモジュールであり、実施例のPTC素子用焼結体が略直方体状に加工されたPTC素子3と、素子3の上下面に設けられた電極3a,3bと、PTC素子3及び電極3a,3bとを覆う絶縁コーティング層5と、それぞれ電極3a,3bに接続し絶縁コーティング層5から外部に露出された引き出し電極4a,4bとを有する。この発熱モジュール12には、発熱モジュール12の上下面を貫通し、その内周面が絶縁コーティング層5で覆われる複数の貫通孔6が設けられている。PTC素子3は正極側材料と負極側材料の2層からなり、それぞれ正極と負極に接続している。
【0046】
この発熱モジュール12は、例えば以下のように作製することが出来る。まず、PTC素子3に、PTC素子3の厚み方向に貫通する複数の孔を形成する。次に、この孔がPTC素子3の上下面に開口する開口周縁を除くPTC素子3の両面に電極3a、3bを形成する。なお、この電極3a,3bは上記と同様にオーミック電極と表面電極を重ねて印刷形成したものである。さらに外部引出し用電極4a、4bを設けた後、この引出し用電極4a,4bが外部に露出するようにPTC素子3と電極3a、3bの全体を絶縁性コーティング剤で覆って絶縁コーティング層5を形成し、発熱モジュール12が得られる。なお、絶縁コーティング層5を形成する際に、PTC素子3の孔の内周面を絶縁コーティング層5で覆って貫通孔6を形成する。
この発熱モジュール12は、貫通孔6に流体を流すことで流体を加熱することができる。このとき、電流の流れるPTC素子3及び電極3a,4aは絶縁コーティング層5で覆われているので、流体と直接接触することがないので導電性の液体を加熱することができる。したがって発熱モジュール12は電気導電性を有する塩水等の流体を瞬間的に加熱する用途に適している。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により得られるPTC素子用焼結体は、PTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチ、温度検知器などのPTC素子に最適である。また、PTC素子を構成要素とする発熱モジュールに利用することが出来る。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ba、Tiを必須とするペロブスカイト系のPTC素子用焼結体であって、
Znを焼結体全体に対して酸化物換算でZnO:0.0001−0.0030mol%含み、平均結晶粒径が10μm以上100μm以下であり、室温抵抗率Rrが1×10Ω・cm以下、抵抗温度係数αが0.5%/℃以上であることを特徴とするPTC素子用焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載のPTC素子用焼結体であって、
前記PTC素子用焼結体は、結晶の組成式が[(Bi・Na)(Ba1−y−θθ1−x][Ti1−z]O(但し、Rは希土類元素のうち少なくとも一種、AはSr、Caのうち少なくとも一種、MはNb、Ta、Sbのうち少なくとも一種)で表され、前記x、y、z、θが、0≦x≦0.3、0≦y≦0.02、0≦z≦0.005、0≦θ≦0.3を満足することを特徴とするPTC素子用焼結体。
【請求項3】
請求項2に記載のPTC素子用焼結体であって、
Znを焼結体全体に対して酸化物換算でZnO:0.0007−0.0025mol%含み、室温抵抗率Rrが5×10Ω・cm以下、抵抗温度係数αが3%/℃超であることを特徴とするPTC素子用焼結体。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れかに記載のPTC素子用焼結体を用いたことを特徴とするPTC素子。
【請求項5】
請求項4に記載のPTC素子を用いたことを特徴とする発熱モジュール。
【請求項6】
PTC素子用焼結体の製造方法であって、
組成式が[(Bi・Na)(Ba1−y−θθ1−x][Ti1−z]O(但し、Rは希土類元素のうち少なくとも一種、AはSr、Caのうち少なくとも一種、MはNb、Ta、Sbのうち少なくとも一種)で表され、前記x、y、z、θが、0≦x≦0.3、0≦y≦0.02、0≦z≦0.005、0≦θ≦0.3を満足する原料を、800℃以上1000℃未満で仮焼し、前記仮焼後にZn原料を焼結体の原料全体に対して酸化物換算でZnO:0.0001−0.0030mol%添加し、その後1000℃以上1500℃以下で本焼成することを特徴とするPTC素子用焼結体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のPTC素子用焼結体の製造方法であって、
仮焼後に前記仮焼粉を造粒する造粒工程を備え、
前記造粒工程中、若しくは造粒工程後に、前記亜鉛としてステアリン酸亜鉛を添加することを特徴とするPTC素子用焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−224537(P2012−224537A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−86377(P2012−86377)
【出願日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】