説明

RFID基地局並びにそれを用いたRFIDシステムおよびRFIDシステムにおける信号の送受方法

【課題】端末局からの伝達信号に対する、周囲環境の無線雑音および基地局の送信波による、不要無線雑音を効果に抑制する手段を提供する。
【解決手段】二つ以上の時間軸上のモードを有し、受信波と送信波の一部をアナログ/デジタル変換器によりデジタル信号にし、異なるデジタル演算を行うRFID基地局。すなわち、端末局から信号を送出するモードと送出しないモードを時間軸上にもち、両モードに亘るデジタル演算によって、基地局の送信波を参照信号として端末局からの受信信号に重畳される不要無線雑音を差し引くRFID基地局。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFID基地局並びにそれを用いたRFIDシステムおよびRFIDシステムにおける信号の送受方法に係り、特に、端末局までの距離が遠いシステムに適したRFID基地局並びにそれを用いたRFIDシステムおよびRFIDシステムにおける信号の送受方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線システムを採用し、遠方から監視あるいは調査することを可能とするワイヤレスモニタリングシステムが開発されつつある。
【0003】
実際の無線システムでは、搬送波と呼ばれる信号の伝達を担う電磁波に、変調と呼ばれる該搬送波の周波数より低い周波数の信号を重畳させ、結果として該搬送波の周波数より離れた周波数成分を生成する離調を用いている。従って、基地局では送信する電波の周波数成分を有する不要無線雑音を効果的に抑制することにより、端末局からの伝送信号(受信信号)に最も近い周波数の、すなわち最も大きな影響を与える電波からなる不要無線雑音を低減できることになる。この原理を用いて、基地局の送信波を参照信号として、その位相・振幅を調整して、基地局の受信波に負の重畳を行い、最も影響の大きい不要無線雑音を低減しようとする技術が、例えば特許文献1に述べられている。
【0004】
特許文献1の図3〜図5に開示された無線タグ通信装置の高周波送受信部18は、その送信回路(58)、搬送波分配器60、送受信分離部64、アンテナ20が直列に結合されている。アンテナ20からの受信信号を分離伝達する送受信分離部64の他の端子側にキャンセル信号合成部66を介してアナログ・デジタル変換器94が接続され、受信信号のデジタル出力が受信メモリ部42に入力される。搬送波分配器60により送信回路の出力は一部分岐され、キャンセル位相制御部72、キャンセル振幅制御部78及び分配器80を経てキャンセルメモリ部40に入力されると共に、キャンセル信号合波器66によりアンテナからの受信信号に負の重畳が施される。これにより、送信回路の出力と同じ周波数成分を有する雑音信号をこの受信信号より削減し受信メモリ部42に伝達することができる。受信メモリ部42はその受信感度をアダフティブキャンセル制御部38に伝達し、このアダフティブキャンセル制御部38はこの受信感度が最大となるように、キャンセル位相制御部72、キャンセル振幅制御部78の位相および振幅をコントロールする。
【0005】
【特許文献1】特開2007−251641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電力、水道、通信等の社会インフラシステムは、利用者の利便性向上の要求に従って年々高度化・複雑化しており、一旦同システムが正常動作をしなくなると多くの直接的な利用者が不利益を被ることに留まらず、複雑に関連しあった他のシステムにも波及効果が生じ、他のシステムの利用者にも難からの被害が伝播し、ひいては地域全体、社会全体の混乱を引き起こす可能性が出できている。現代になって頻繁に報道されている、広域大停電、広域毒性化学物質汚染等は既に大きな社会問題に発展している。このような課題を解決する一つの方策は、上記各社会インフラシステムの要となる装置の状態、また同装置が置かれている周囲環境の状態を調べることにある。
【0007】
一旦ある社会インフラシステムが稼動不能に陥ったとき、このシステム内のどの装置が正常動作をしていないかを迅速に調査することが出来れば、当該社会インフラシステムの早期復帰が可能となり、他の社会インフラシステムへの悪影響の拡散を最小限度にとどめることができる。また、定期的な社会インフラシステム内の各装置の稼動状況、あるいは装置の置かれている環境の状況を調査あるいは監視することが出来れば、同社会インフラシステムの不稼動状態を未然に防ぐことも可能となる。
【0008】
現代においては、利用者が高度なサービスの享受を要求しているために、利用者の通常の居住地から距離的に隔離された場所に、同社会インフラシステムの中核をなす装置を集中させ、通常の居住地近隣では危険あるいは問題となるような極限的環境で装置を稼動させているのが実情である。電力関係では放射線被爆の危険性がある原子力発電所、印火爆発の危険性のある火力発電所、高落差箇所を多く含む水力発電所、また発電所で発生された高圧電力を伝送・分配する、送電・変電施設がある。水道では、安全・衛生面から貯水池、浄水場内は人を含む生物からの汚染を排除するために、人は各施設への容易なアクセスは禁じられる。通信では、無線通信を実現するために、基地局アンテナは高所設置が一般的であり、光通信においても地下、地中にファイバ等の伝送媒体が設置されるため、何れも人の該設備へのアクセスは容易ではない。
【0009】
以上の状況を反映して、電磁波の透過性・迂回伝搬性・非接触性に着目して、上記各設備に何らかの状態検出機構を付帯させ、電波を用いてその状態を無線信号として検出する試みがなされている。しかしながら、電磁波の球面波的伝播特性に伴う対距離減衰特性が伝達信号のエネルギーを伝送路の中に閉じ込めて伝送する有線通信と比べて桁違いに大きいため、情報を無線で基地局から端末局に伝送する過程で、該無線伝送経路の周囲より種々の不要無線雑音を該伝達信号は混在させてしまうことになる。該伝達信号は、基地局と端末局の距離の二乗から三乗に比例して減衰し、該不要無線雑音は該伝達信号の伝送過程で途中に任意に混入可能であり、基地局が受信したときには、該不要無線雑音の該伝達信号に対するエネルギー比は大きなものになり、基地局は該伝達信号を忠実に復調するために、該不要無線雑音を抑制することが大きな課題となる。
【0010】
また、無線システムでは他のシステムとの共存、換言すれば両立性を確保するために、一つのシステムが使用できる電波の周波数帯域が制限される。このため、端末局は同周波数帯域内のある周波数を用いて信号を伝送する。一般にこの伝送に用いる周波数の電波に信号を重畳させる、換言すれば変調を施すと、該周波数より少し離れた周波数成分の電波が発生する。この周波数成分もシステムが許されている周波数帯域の中に包含される必要があることはいうまでもない。
【0011】
このように、ワイヤレスモニタリングシステムでは、監視をつかさどる基地局と監視および調査されるべき物体あるいは環境の情報を該基地局に伝送する端末局の距離が遠いがために、該端末局が発信する無線情報が基地局までの伝送過程において、同伝送経路周囲より不要無線雑音を多くこうむる場合に、該不要無線雑音の効果を効果的に抑制する機能が求められている。
【0012】
特に、端末局の消費電力を極力低くする必要があるワイヤレスモニタリングシステムの場合、例えば、端末局が周囲環境に対する配慮が必要不可欠あるいは端末局への物理的アクセスがまったく不可能な場合等で電池を具備できず送信波の搬送波に直接変調を施すいわゆるバックスキャッタリング方式では、送信波の搬送波周波数と受信波の搬送波周波数が同一なので、基地局内部の送信波の受信波への干渉も該不要無線雑音と同等の効果を呈し、該不要無線雑音を抑制することはより深刻な課題となる。
【0013】
特許文献1に開示された従来技術は、受信波に対して、キャンセル位相制御部、キャンセル振幅制御部を用いて、送信波のアナログ的な負の重畳を行うものである。この従来技術では、その不要無線雑音を低減する効果は十分でなく、特に基地局と端末局の距離が大きいワイヤレスモニタリングシステムの場合に、この従来技術を用いることは困難であるという問題があった。
【0014】
本発明の目的は、端末局からの伝達信号に対して、周囲環境の無線雑音および基地局の送信波による不要無線雑音を効果に抑制することができる、RFID基地局並びにそれを用いたRFIDシステムおよびRFIDシステムにおける信号の送受方法を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、通常人間のアクセスが極めて困難な状況に設置されている、社会インフラシステム内の各装置の稼動状況、あるいは装置の置かれている環境の状況を、装置内に電池による電源を持つことなく、且つ人間が装置からの好ましからぬ影響から隔離されうる距離を確保しつつ、高い信頼性をもって調査あるいは監視するのに適した、ワイヤレスモニタリングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の代表的なものの一例を示せば以下の通りである。即ち、本発明のRFID基地局は、アンテナと、送信回路と、受信回路と、前記送信回路と前記受信回路のいずれかを前記アンテナに結合するサーキュレータを具備して成り、前記送信回路と前記受信回路及び前記サーキュレータ間にデジタルフィードフォワード回路が配置されて成り、前記デジタルフィードフォワード回路は、受信信号判別部及びデジタル信号処理部を備えて成り、前記受信信号判別部は、時間軸上において、受信波に端末局からの受信信号が含まれているか否かを検知する機能を有しており、前記デジタル信号処理部は、前記送信回路で生成された送信波を参照信号として、前記受信波に重畳された不要波成分を抑制するためのデジタル演算を行い、該デジタル演算の結果を前記受信回路に伝達する機能を有しており、前記デジタル信号処理部は、前記受信信号判別部で検知された前記受信信号の有無の情報を利用して、前記デジタル演算及び該デジタル演算のリセットを行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基地局は端末局が送出する無線信号に対する、この基地局自身が送出する送信波を含む無線不要雑音の擾乱・干渉をデジタル演算にて差し引くことができるので、温度変化・経年変化の影響少なく高精度の該擾乱・干渉の抑制効果が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明では基地局の送信波を参照信号として、基地局の受信信号に重畳された不要無線雑音をデジタル演算により差し引く。このために、この送信波と受信波はアナログ・デジタル変換器でデジタル信号に変換され、直接デジタル信号処理部により演算が施される。従来技術の本質的にアナログ回路によるこの不要無線雑音の抑制とは異なり、デジタル演算によるこの不要無線雑音の差し引きには相当の演算時間が必要とされ、現在のデジタル信号処理用ハードウエアの処理速度では実効的なリアルタイム処理は不可能である。このため、本発明では、基地局が、端末局から一旦伝送信号(受信信号)をある期間受信すると、受信信号に重畳された不要無線雑音をデジタル演算により差し引く演処理を行い、この処理に伴う一定のタイムラグ後に、不要無線雑音の除去処理がなされた受信信号を受信回路に供給する方式としている。
【0019】
一般デジタル演算では、適応処理と一括処理といわれる演算方式が知られているが、いずれも一旦デジタル化された参照信号を用いて、デジタル化されたこの受信信号に対する演算を施す前に、前処理といわれる準備段階の演算を行う時間帯が必要不可欠であり、この時間帯ではこの受信信号をこの受信回路に供給することはできない。換言すれば、本発明の技術では、受信回路に受信信号を供給できる時間帯とできない時間帯の、少なくとも二つの異なるモードが必要となる。
【0020】
また、一旦前処理が終了して、受信信号を受信回路に供給するための演算が開始されたとしても、その演算の内容によっては、基地局が端末局からの伝送信号(受信信号)を受信した後も、この演算が終了せず時間軸上に引き続いて訪れる端末局からの受信信号を受信しない時間帯、換言すれば別なモード、に移行した後もこのデジタル演算結果が受信回路に供給され続けることとなる。
【0021】
本発明の技術では、デジタル演算によって端末局から伝送される伝達信号に重畳される不要無線雑音を差し引くことができるので、デジタル・アナログ変換器のダイナミックレンジとデジタル演算器の演算精度によってこの不要無線雑音の抑制度が決定される。
【0022】
これら、ダイナミックレンジと演算精度は半導体プロセス技術の微細化と表裏一体の関係にあり、いわゆるムーアの法則に従い、日々向上を続けている。現状の技術では、数〜数十マイクロ秒の信号処理が可能なデジタルプロセッサが使用可能であり、この信号処理速度に対応したデジタル・アナログ変換器のダイナミックレンジは11〜14ビットであり、現行のアナログデバイスの製造精度、温度変化、経年変化のばらつき精度を凌駕している。
【0023】
このことは、数〜数十メガヘルツの周波数領域では、デジタル演算によるこの不要無線雑音の抑制効果はアナログ回路による同効果を現在でも凌いでいることになり、将来的には無線通信に好適な周波数である300〜3000メガヘルツでもデジタル演算によるこの不要無線雑音の抑制が有効であることになる。現在のデジタル半導体技術によって、同等の効果を引き出すには、基地局の送信波および端末局からの受信波を、別に設置した局部発信器を用いてダウンコンバートして数〜数十メガヘルツの周波数領域に変換すればよい。
【0024】
デジタル・アナログ変換器のダイナミックレンジは扱う周波数と反比例の関係があるから、端末局からの受信波に対してこの不要無線雑音の電力をあらかじめ下げておくことにより同ダイナミックレンジの要求を緩和し、デジタル・アナログ変換器の適用周波数を上げることが可能となる。これを実現するために、基地局の送信波を参照波とし端末局からの受信波に含まれるこの送信波と同一の周波数のこの不要無線雑音を削減するアナログフィードフォワード回路を、本発明のデジタル演算によるこの不要無線雑音差し引き回路の構成要素であるデジタル・アナログ変換器の前段あるいは、別置の局部発信器を用いるダウンコンバート回路の前段に設置することも極めて有効である。
以下、図を参照しつつ、本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
本発明の一実施例を、図1A〜図4を用いて説明する。図1Aは本発明の一実施例になるRFID基地局の一実施例の構成を示す図であり、図1Bは、図1Aの信号判別部の具体的構成例を示す図、図1Cは、図1Aのデジタル信号処理部の具体的構成例を示す図である。
【0026】
図1Aにおいて、1は送信回路、2は受信回路、3はデジタルフィードフォワード回路、6はアンテナ、7はサーキュレータ(方向性結合器)である。送信回路1は、搬送波発生部、変調部及び増幅器などを有している。受信回路2は、復調部、波形等化部、復号部などを有している。デジタルフィードフォワード回路3は、送信回路1とサーキュレータ7間に配置された電力分配器8と、アナログ・デジタル変換器4A及び4B、受信信号判別部50及びデジタル信号処理部5を備えている。
【0027】
サーキュレータ7は、送信回路1と受信回路2のいずれかをアンテナ6に結合する。すなわち、送信回路1と電力分配器8とサーキュレータ7が直列に結合され、送信回路1の信号がアンテナ7より送出されるように、サーキュレータ7とアンテナ6が結合される。また、このアンテナ6の受信信号がこのサーキュレータ7を介して受信回路2に伝達されるように、サーキュレータ7と第二のアナログ・デジタル変換器4Bが結合される。
【0028】
サーキュレータ7とデジタル信号処理部5との間に配置された受信信号判別部50は、受信波に端末局からの周期的な受信信号が含まれているか否かを判別する機能、すなわち、サーキュレータ7を経由して入力された受信波に、ある端末局からの受信信号が含まれているか否かを検知する機能を有する。換言すると、受信信号判別部50は、時間軸上において、ある端末局からの受信波に受信信号が含まれている受信モードと該受信信号が含まれていない非受信モードを1周期とする、周期的なモードの変化を検知する機能を有している。
【0029】
この受信信号判別部50は、たとえば、図1Bに示すように、バンドパスフィルタ51、検波部52、及びアナログ・デジタル変換器53で構成することができる。端末局は通常、基地局から受信した信号に変調を施す、すなわち端末局固有の位相(タイミング差=中心周波数fc)で搬送信号を基地局に送り返す機能を有しているので、この端末局固有の位相(中心周波数fc)の信号の有無(端末局からのパルス形状受信信号の最初の立ち上がり及び最後の立ち下がり)をバンドパスフィルタ51及び検波部52で検出し、これによって受信信号の有無を判別するようにすれば良い。なお、受信信号の有無の判別手段はこれに限定されるものではなく、端末局で受信信号に施される変調の種類等に応じた他の手段で実現しても良い。
【0030】
また、送信回路1の出力の一部がデジタルフィードフォワード回路3の電力分配器8に結合され、第一のアナログ・デジタル変換器4Aに入力され、これら第一のアナログ・デジタル変換器4Aのデジタル出力(X)と第二のアナログ・デジタル変換器4Bのデジタル出力(Y)が共にデジタル信号処理部5に入力される。
【0031】
デジタル信号処理部5は、例えば、図1Cに示すような、入力メモリ、スイッチ/演算回路部と中間メモリの多段セット、及び出力メモリで構成されている。このデジタル信号処理部5の各段のスイッチ/演算回路部によって、デジタル演算が実行される。このデジタル演算は、受信波に含まれる不要波成分の抑制や、このデジタル演算のための準備演算等であり、受信信号判別部50で検出された受信信号の有無の情報によって制御される。
【0032】
例えば、特定の端末局からの受信信号に関するデジタル信号(X)、(Y)を入力とし、Wiをウエイト係数とする、次式(1)のようなデジタル演算が施される。
【0033】
Zi=Xi−(WiYi+Wi-1Yi-1+ - - - - W1Y1) (1)
各段のスイッチ/演算回路部によってウエイト係数Wiを順次アップしたデジタル演算が実行される。このデジタル演算によって、第二のアナログ・デジタル変換器4Bのデジタル出力のうち、送信回路1の出力信号と同一の周波数成分を持つ無線雑音の成分が差し引かれたものが、このデジタル信号処理部5の出力(Z)として、順次受信回路2に入力される。
【0034】
図2に、本発明が適用されるRFIDシステムの構成例を示す。この例では、1つの基地局100と1個の端末局110が存在する。なお、本発明は、1つの基地局に対して複数の端末局を備えたRFIDシステムに適用されるものであるが、こごでは、説明を簡単にするために、以下、基地局が1つの端末局との間で通信を行うものと仮定して説明する。
【0035】
端末局110は、整流部、平滑部、マイクロプロセッサ、及び端末局アンテナ等により構成されている。基地局と端末局の間の通信媒体には、空間を伝播する電磁波を使用する。基地局100において、発信器を有する搬送波発生部で中心周波数f0(タイミングt0)の搬送波信号が生成され、この搬送波信号は可変減衰器を介して変調部に入力される。変調部では入力波に対して、変調信号により振幅変調や位相変調等の所定の変調が加えられる。変調部の出力は、サーキュレータ7に結合している。サーキュレータを介して基地局アンテナからり出力される出力信号104は、一定の搬送波周期(繰り返し周期)を有し、時間軸上では波高値一定のON、OFF信号を有するパルス形状の間欠波形となる。この出力信号104は、図2に示すように、周波数軸上では、中心周波数f0を中心として、遠ざかるにつれて電力が減衰する複数の側帯波からなる周波数スペクトラムを形成する。
【0036】
端末局110はRFIDタグであり、基地局100はRFIDタグのリーダとして機能する。端末局は装置内に電池による電源を持たない。その代わり、端末局において、端末局アンテナに整合部が結合されている。整合部の出力は、整流部、平滑部を介しマイクロプロセッサの電力として供給される。整流部は整流素子としてのダイオードを備えている。基地局からの出力信号104は、端末局110に到達して、端末局アンテナより端末局内部に取り込まれ、整合部を介して整流部に印加される。印加電圧がこのダイオードの閾値電圧を超える場合は、この整流部への印加電力は整流され平滑部に送られてマイクロプロセッサ等の電源として蓄積され、この電力によりマイクロプロセッサを駆動する。また、出力信号104は整流部を経てマイクロプロセッサに送られ、ここで復調される。マイクロプロセッサでは、出力信号に応答して、端末局の情報を含む反射波を生成するために、基地局から放射される送信電力に施す変調を制御する。この変調は、振幅変調、位相変調その他のデジタル変調である。
【0037】
基地局はタイミング時間t0で送信波104をアンテナ106より送出する。反射波に位相変調を施す場合、端末局110は応答情報の信号成分を含む電波を、送信波104に対して端末局110に固有の所定のタイミング時間(t1−t0)だけ位相変調を施して、基地局に対して送出する。その結果、端末局からの反射波105として、図2に示すように、周波数軸上では、中心周波数fcを中心として、遠ざかるにつれて電力が減衰する複数の側帯波からなる周波数スペクトラムを有する新たな伝送信号が形成される。
【0038】
これが基地局で受信波105として受信される。端末局からの反射波105は、基地局に到達し基地局アンテナ8より基地局100内部の受信回路に取り込まれ、復調、波形等化、復号の各処理が施される。
【0039】
次に、基地局のデジタルフィードフォワード回路3における受信信号の処理について、図3、図4を用いて説明する。図3に、本実施例におけるデジタルフィードフォワード回路3での受信信号の処理の流れ図を示す。図4は、本発明からなるRFID基地局の行うデジタル処理の時間タイミングを示す図である。図4には、基地局の受信信号、デジタル信号処理、受信回路入力信号を同一の時間軸にて併記している。本実施例では、適応処理がなされるものとする。図4の(a)に示すように、基地局の受信波は端末局からの信号成分を有する受信期間Ts(受信モード)と同信号成分を含まない受信期間Tp(非受信モード)を1周期(=Ts+Tp)とし、連続する第1の区間、第2の区間の各区間内にTsとTpが、交互に周期的に現れる波形である。受信信号判別部50は、受信波の各周期における第1、第2の各区間(モード)を、それぞれ個別のモードとして検知し、その結果をデジタル信号処理部5に送る。
【0040】
図3に示したデジタル信号処理部5の処理フローにおいて、まず、適応処理に関するパラメータが初期値、例えばゼロにセットされる(S302)。次に、受信信号判別部50の出力をもとに、ある1つの周期、例えば第1の区間で、受信波が該当する端末局からの信号成分を含まない受信期間(非受信モード)Tpに該当するか否かを判定する(S304)。第1の区間の非受信モードであると判定された場合、デジタル信号処理部5において適応トレーニング処理を行なう(S306)。この処理は、前記式(1)の演算を繰り返し実行し、該演算の制度を高めるための処理である。
【0041】
次に、受信信号判別部50の出力をもとに、受信波が端末局からの信号成分を有する第1の区間の受信期間(受信モード)Tsに該当するか否かを判定する(S308)。受信信号が検出されない場合、適応トレーニング処理を継続する。もし、第1の区間の受信モードを示す受信信号が検出された場合、この受信モードではデジタル信号処理部5において適応処理を行なう(S310)。
【0042】
さらに、受信信号判別部50の出力をもとに、次の周期の区間、例えば第2の区間に関する受信期間(非受信モード)Tpを示す受信信号を受信したか否かの判定を行なう(S312)。第2の区間の非受信モードと判定された場合、適応処理を継続する。もし、第2の区間の受信モードであると判定された場合、第1の区間の適応処理を終了し、演算結果(Z)を受信回路2に伝達する(S314)。また、適応処理に関するパラメータがリセットされる(S316)。以下、同様にして、各周期毎に、各モードに対応した適応トレーニング処理及び適応処理が行なわれる。
【0043】
本実施例の処理は適応処理で、受信信号をデジタル信号処理部に入力してから安定して、無線不要雑音が差し引かれた信号がこのデジタル信号処理部5より出力されるのにある期間(トレーニング期間)を必要とする。
【0044】
従って、図4の(b)に示すように、デジタル信号処理部5では、ある1つの周期、例えば第1の区間のデジタル信号処理を行なうために、まず、リセット処理を行い、次に、第1の区間のTpの期間(非受信モード)に必要な準備的な信号処理(トレーニング処理)を行い、さらに、第1の区間のTsの期間(受信モード)内に必要な受信波に含まれる信号成分に対するデジタル演算(適応処理)を行う。そして、図4の(c)に示すように、この演算結果であるこの無線雑音が差し引かれた受信波に含まれる信号成分のデジタル出力(Z)を受信回路2に伝達する。
【0045】
端末局より信号が送出されていないTpの期間(非受信モード)においても、基地局はこの端末の信号に擾乱・干渉を与える無線不要雑音を受信することは可能なので、このTpの期間において、このトレーニングを行う。また、端末局からの信号を受信し終えたら、適応処理の誤差の蓄積を解消するためにデジタル演算のリセットを行う必要がある。
【0046】
本実施例に拠れば、デジタル演算により基地局の受信波に混在する無線雑音を差し引いて端末局から伝送された信号成分のデジタル出力を得ることができるので、経年変化、温度変化等の影響を抑制しつつ、精度の高い信号成分に対する雑音成分の除去効果を実現することができる。
【0047】
また、デジタル信号処理部は半導体集積回路で実現可能であるため、基地局装置全体の寸法を小型化する効果もあり、同半導体集積回路の量産効果により、基地局装置の製造コストを低減することも可能である。
【0048】
さらに、本実施例の処理によって、等価的に端末局が信号を送出してから無線不要雑音が差し引かれた信号がこのデジタル信号処理部より出力されるのに必要とする期間を短縮できるので、基地局が端末局から送出される信号を読み取ることができる時間軸上の確率を増やすことができ、結果として基地局の端末局からの信号を受信する感度を向上させることができる。
【0049】
また、以上述べた本発明のRFID基地局を具備するRFIDシステムは、端末局の消費電力を極力低くする必要があるワイヤレスモニタリングシステムに採用しても、端末局からの伝達信号を基地局で受信する感度を大幅に向上させ忠実に復調することができる。このようなワイヤレスモニタリングシステムにより、高所、高濃度有害化学物質充満領域、放射線取り扱い領域、高電力通過領域、高温領域、高圧領域、高純度衛生環境を維持すべき領域等、人および生物が直接のアクセスをすることが安全・健康上の理由で適当でない領域の状態を、人の該設備へのアクセスなしに、監視あるいは調査することができる。
【0050】
すなわち、本発明によれば、通常人間のアクセスが極めて困難な状況に設置されている、社会インフラシステム内の各装置の稼動状況、あるいは装置の置かれている環境の状況を、装置内に電池による電源を持つことなく、且つ人間が装置からの好ましからぬ影響から隔離されうる距離を確保しつつ、高い信頼性をもって調査あるいは監視するのに適した、ワイヤレスモニタリングシステムを提供することができる。
【実施例2】
【0051】
本発明の他の一実施例を、図5を用いて説明する。図5は、本実施例における、アンテナ6から入力される受信波(図5の(a))と、受信回路2に入力されるデジタル信号(図5の(b))及び受信回路入力信号(図5の(c))を同一の時間軸において示す図である。図1の実施例と異なる点は、受信回路2に入力されるデジタル信号が、図1の実施例と比べて時間軸上を遅延している点である。本実施例では、基地局の受信波に混在する無線雑音を差し引いて端末局から伝送された信号成分のデジタル出力を得るためのデジタル演算がより多くの処理時間を要し、デジタル信号処理部5における適応処理が第1の区間のTs(受信モード)以内に終了していない場合である。その結果、基地局の受信波が端末局から伝送される信号成分を含まないTpの期間(非受信モード)に亘って、デジタル信号処理部5の出力か受信回路2に伝送される。端末局より信号が送出されていないTpの期間(非受信モード)に、デジタル信号処理部5で適応処理を行なっても、基地局の動作に支障は無い。
【0052】
一般に、基地局の受信波に混在する無線雑音を差し引く効果を増大させるためにはより処理時間の長い精度よいデジタル演算を行う必要がある。本実施例では、基地局が受信波を受け取る時間軸上のモードの違いを利用して、そのように精度よいデジタル演算を、端末局から伝送される信号に影響を及ぼすことなく実現できるので、受信波に混在する無線雑音を差し引く効果を増大させる効果がある。
【実施例3】
【0053】
本発明の他の一実施例を、図6、図7を用いて説明する。図6に、本実施例におけるデジタルフィードフォワード回路での受信信号の処理の流れ図を示す。
【0054】
図7は、本実施例において、基地局が行うデジタル処理の時間タイミングを示す図で、基地局受信信号(図7の(a))と、受信回路2に入力されるデジタル信号(図7の(b))及び受信回路入力信号(図7の(c))を同一の時間軸にて併記している。図7に示すように、この受信信号は端末局からの信号成分を有する受信期間Ts(受信モード)と同信号成分を含まない受信期間Tp(非受信モード)が、連続する第1の区間、第2の区間、−,−の各区間内に、周期的に交互に現れる。
【0055】
図6に示したデジタル信号処理部5の処理フローにおいて、まず、一括処理に関するパラメータが初期値にセットされる(S602)。次に、受信信号判別部50の出力に基づいて、当該区間、例えば第1の区間で、受信波が該当する端末局からの信号成分を含む受信期間Ts(受信モード)に該当するか否かを判定する(S604)。受信期間Tsであると判定された場合、デジタル信号処理部5において一括処理を行なう(S606)。
【0056】
さらに、受信信号判別部50の出力に基づいて、次の区間、例えば第2の区間に関する受信波が該当する端末局からの信号成分を含む受信期間Tp(非受信モード)に該当するか否かを判定する(S608)。第2の区間の受信期間Tpでないと判定された場合、一括処理を継続する。もし、第2の区間の受信期間Tpであると判定された場合、第1の区間の適応処理を終了し、演算結果(Z)を受信回路2に伝達する(S610)。また、一括処理に関するパラメータがリセットされる(S612)。以下、同様にして、各区間の一括処理が行なわれる。
【0057】
本実施例の処理は一括処理で、受信信号をデジタル信号処理部に入力してから安定して、無線不要雑音が差し引かれた信号がこのデジタル信号処理部より出力されるのに必要とされる期間(トレーニング期間)がない。一方、一括処理には割り算のプロセスを含むため、一般に、適応処理と比較してデジタル信号処理部がなすべきデジタル演算量は多くの時間を必要とする。しかし、端末局より信号が送出されていない次の区間の期間(Tp)においても、この一括処理のデジタル演算を継続することは可能なので、次の区間の期間(Tp)に入ってもこの一括処理のデジタル演算を行う。また、端末局からの信号を受信し終えたら、デジタル信号処理部の動作の安定を保つためにデジタル演算のリセットを行うことが望ましい。
【0058】
本実施例の処理によって、適応処理と比較してより精度の高い、端末局から送出された無線信号に対する無線不要雑音の差し引き演算を実現できるので、結果として基地局の端末局からの信号を受信する感度を向上させることができる。
【実施例4】
【0059】
本発明の他の一実施例を、図8を用いて説明する。図8は本実施例の基地局が行うデジタル処理の時間タイミングを示す図であり、基地局受信信号(図8の(a))と、デジタル信号処理(図8の(b))及び受信回路2に入力されるデジタル信号(図8の(c))を同一の時間軸にて併記している。本実施例の、図7の実施例と異なる点は、デジタル演算において、入力されるデジタルデータの間隔に対して、必要とされるデジタル演算の負荷が大きく出力されるデジタルデータの間隔が増大していることである。このような場合でも、端末局より信号が送出されていない次の区間の期間(Tp)においても、この一括処理のデジタル演算を継続することは可能なので、この次の区間の期間(Tp)に入ってもこの一括処理のデジタル演算を行うことができる。また、端末局からの信号を受信し終えたら、デジタル信号処理部の動作の安定を保つためにデジタル演算のリセットを行うことが望ましい。本実施例の処理によって、高負荷のデジタル演算によるより精度の高い、端末局から送出された無線信号に対する無線不要雑音の差し引き演算を実現できるので、結果として基地局の端末局からの信号を受信する感度を向上させることができる。
【実施例5】
【0060】
本発明の他の一実施例を図9、図10を用いて説明する。図9は、本発明からなるRFID基地局の他の一実施例の構成を示す図である。図10は本実施例の基地局が行うデジタル処理の時間タイミングを示す図であり、基地局受信信号(図10の(a))と、受信回路2に入力されるデジタル信号(図10の(b))を同一の時間軸にて併記している。本実施例が図1の実施例と異なる点は、デジタルフィードフォワード回路3が局部発信器9とミキサ10、11を具備している点である。これにより、電力分配器8の出力とサーキュレータ7の出力をそれぞれミキサ11と10を介して、周波数ダウンコンバートを行い、元来の送信回路1の出力周波数fcよりも低い周波数|fc−fl|(fl=局部発信器の周波数)の信号を、アナログ・デジタル変換器3および4の入力とする。
【0061】
アナログ・デジタル変換器のダイナミックレンジと入力アナログ周波数との間には反比例の関係があるので、本実施例に拠ればデジタル信号処理に用いる信号の有効数字を拡大することができ、従ってデジタル演算の精度を上げることかでき、結果として受信波に混在する無線雑音を差し引く効果を増大させる効果がある。
【0062】
なお、本実施例(及び以下の各実施例)における第1の区間、第2の区間におけるデジタル演算の種類や処理のタイミングに関しては、図5〜図8の実施例でのべたと同様な、種々の処理パターンを選択できることは言うまでも無い。
【実施例6】
【0063】
本発明の他の一実施例を図11、図12を用いて説明する。図11は、本発明からなるRFID基地局の他の一実施例の構成を示す図である。図12は本実施例の基地局が行うデジタル処理の時間タイミングを示す図であり、基地局受信信号(図12の(a))と、受信回路2に入力されるデジタル信号(図12の(b))を同一の時間軸にて併記している。本実施例が図1の実施例と異なる点は、デジタルフィードフォワード回路3が電力分配器8とサーキュレータ7の間に挿入された電力分配器15を備え、この電力分配器15の出力が減衰器12および移相器13を介して合成器14によってサーキュレータ7を介して得られるアンテナ6からの受信波に負に重畳され、デジタル・アナログ変換器14のアナログ入力となることである。
【0064】
本実施例に拠れば、送信回路1の出力の一部用いて、送信回路1の出力周波数と同じ周波数成分を持つ無線雑音を低減して、アンテナ6からの受信波をアナログ・デジタル変換器4および3の入力とすることができる。本実施例に拠れば、デジタル信号処理によって差し引くべき無線雑音の量をあらかじめ低減できるので、従ってデジタル演算の精度を上げることかでき、結果として受信波に混在する無線雑音を差し引く効果を増大させる効果がある。
【実施例7】
【0065】
本発明の他の一実施例を図13、図14を用いて説明する。図13は本発明からなるRFID基地局の他の一実施例の構成を示す図である。図14は本実施例の基地局が行うデジタル処理の時間タイミングを示す図であり、基地局受信信号(図14の(a))と、受信回路2に入力されるデジタル信号(図14の(b))を同一の時間軸にて併記している。本実施例が、図11の実施例と異なる点は、デジタルフィードフォワード回路3が局部発信器9とミキサ10、11を具備している点である。これにより、電力分配器8の出力と合成器14の出力をそれぞれミキサ11及び10を介して、周波数ダウンコンバートを行い、元来の送信回路1の出力周波数fcよりも低い周波数|fc−fl|(fl=局部発信器の周波数)の信号を、アナログ・デジタル変換器3および4の入力とすることである。
【0066】
本実施例によれば、端末局からの受信波に対してこの不要無線雑音の電力をあらかじめ下げておく一種の調整操作をすることにより、このダイナミックレンジの要求を緩和し、デジタル・アナログ変換器の適用周波数を上げることが可能となる。この調整操作は、例えば、製品の出荷時に行なうことができる。また、デジタル信号処理によって差し引くべき無線雑音の量をあらかじめ低減できるので、従ってデジタル演算の精度を上げることかでき、結果として受信波に混在する無線雑音を差し引く効果を増大させる効果がある。
【実施例8】
【0067】
本発明の他の一実施例を図15、図16を用いて説明する。図15は本発明からなるRFID基地局の他の一実施例の構成を示す図である。図16は本実施例の基地局が行うデジタル処理の時間タイミングを示す図であり、基地局受信信号(図16の(a))と、受信回路2に入力されるデジタル信号(図16の(b))を同一の時間軸にて併記している。本実施例が、図13の実施例と異なる点は、デジタルフィードフォワード回路3において、図13の減衰器12および移相器13がそれぞれ可変減衰器22および可変移相器23と置き換わっていることである。さらに、検波部20および21がそれぞれ合成器14および電力分配器8の出力を包絡線検波し、その結果を用いて差分器24にて差分を作成し、あらかじめデータが書き込まれたメモリテーブル26のこのデータとの比較を比較器25を用いて行い、可変減衰器22および可変移相器23の値を変更するために必要な直流電圧を直流電圧制御部27にて供給することである。また、メモリテーブル26には合成器14の出力のうち送信回路1が送出する周波数と同じ周波数成分を有する無線不要雑音を最小とするこの可変減衰器22および可変移相器23の状態を実現するための両者への印加直流電圧が、合成器14および電力分配器8の出力に対応して記憶されている。
【0068】
本実施例に拠れば、温度変化、経年変化、また外部環境の変化による外部不要無線雑音の変化に対応して、デジタル信号処理によって差し引くべき無線雑音の量を、製品の出荷時等に、あらかじめ低減できるので、図9乃至5の実施例の効果を安定させる効果がある。
【実施例9】
【0069】
本発明の他の一実施例を、図17を用いて説明する。図17は本発明のRFID基地局を具備するRFIDシステムにおいて、端末局が複数存在するときのシステム構成例を示す図である。このシステムでは、各端末局がそれぞれ固有のタイマーを有しており、基地局からの送信波に直接変調を施し、夫々所定のタイミングで伝送信号して送り返すものとする。
【0070】
図17の例では、1つの基地局100と3個の端末局110,120,130が存在する。基地局は、タイミング時間t0で送信波104をアンテナ106より送出する。端末局110,120,130は信号成分を含む電波をそれぞれタイミング時間t1,t2,t3にて基地局に対して送出し基地局の受信波105となる。基地局では、タイミング時間t0の信号は不要無線雑音となり、デジタル演算によってタイミング時間t1,t2,t3の信号に対して差し引くような処理を受ける。本実施例の時間タイミング例では、端末局110,120,130の信号の送出時間タイミングは重なっておらずいずれも判別可能であるが、いずれかの送信時間タイミングが一致すればこれらの信号は判別不能となる。
【0071】
この問題を解決するために、端末局は信号の送信を繰り返す再送方式をとり、その再送時間間隔をそれぞれの端末局で固有のものとする。すなわち、各端末局は送信波(伝送信号)の送信を周期的に繰り返す再送機能を有しており、再送の時間間隔は端末局毎に異なる固有の値として予め設定されている。そして、基地局の受信信号判別部は、各端末局からの周期的な伝送信号を繰り返し受信することにより、再送時間間隔の差を利用して全ての端末局の伝送信号を判別可能に構成されている。
【0072】
このようにすることにより、再送を繰り返すうちにどこかの時間タイミングにてすべての端末局の送出信号をすべて判別可能とすることができる。本実施例に拠れば、基地局の構成を複雑にすることなく、RFIDシステムが収容できる端末局の数を増大させることができので、このシステムのサービス範囲を広げるあるいはサービスを多様化する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1A】本発明の一実施例になるRFID基地局の一実施例の構成を示す図である。
【図1B】図1Aの信号判別部の具体的構成例を示す図である。
【図1C】図1Aのデジタル信号処理部の具体的構成例を示す図である。
【図2】本発明が適用されるRFIDシステムの構成例を示す図である。
【図3】本実施例におけるデジタルフィードフォワード回路での受信信号の処理の流れ図である。
【図4】本実施例のRFID基地局の行うデジタル処理の時間タイミングを示す図である。
【図5】本発明の第二の実施例において、基地局が行うデジタル処理の時間タイミングを示す図である。
【図6】本発明の第三の実施例になる、デジタルフィードフォワード回路における受信信号の処理の流れ図である。
【図7】本発明の第三の実施例において、基地局が行うデジタル処理の時間タイミングを示す図である。
【図8】本発明の第四の実施例において、基地局が行うデジタル処理の時間タイミングを示す図である。
【図9】本発明の第五の実施例になるRFID基地局の構成例を示す図である。
【図10】本発明の第五の実施例のデジタルフィードフォワード回路における、受信信号の処理の流れ図である。
【図11】本発明の第六の実施例になるRFID基地局の構成例を示す図である。
【図12】本発明の第六の実施例のデジタルフィードフォワード回路における、受信信号の処理の流れ図である。
【図13】本発明の第七の実施例になるRFID基地局の構成例を示す図である。
【図14】本発明の第七の実施例のデジタルフィードフォワード回路における、受信信号の処理の流れ図である。
【図15】本発明の第八の実施例になるRFID基地局の構成例を示す図である。
【図16】本発明の第八の実施例のデジタルフィードフォワード回路における、受信信号の処理の流れ図である。
【図17】本発明の第九の実施例になる、RFID基地局を具備するRFIDシステムにおいて、端末局が複数存在するときのシステム構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1…送信回路、2…受信回路、3…デジタルフィードフォワード回路、4A,4B…アナログ・デジタル変換器、5…デジタル信号処理部、6…アンテナ、7…サーキュレータ、8…電力分配器、9…局部発信器、10…ミキサ、11…ミキサ、12…減衰器、13…移相器、14…合成器、15…電力分配器、20…検波部、21…検波部、22…可変減衰器、23…可変移相器、24…差分器、25…比較器、26…メモリテーブル、27…直流電圧制御部、50…受信信号判別部、51…バンドパスフィルタ、52…検波部、53…アナログ・デジタル変換器、100…基地局、104…送信波、105…受信波、106…基地局アンテナ、110…端末局、120…端末局、130…端末局。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナと、送信回路と、受信回路と、前記送信回路と前記受信回路のいずれかを前記アンテナに結合するサーキュレータを具備して成り、
前記送信回路と前記受信回路及び前記サーキュレータ間にデジタルフィードフォワード回路が配置されて成り、
前記デジタルフィードフォワード回路は、受信信号判別部及びデジタル信号処理部を備えて成り、
前記受信信号判別部は、時間軸上において、受信波に端末局からの受信信号が含まれているか否かを検知する機能を有しており、
前記デジタル信号処理部は、前記送信回路で生成された送信波を参照信号として、前記受信波に重畳された不要波成分を抑制するためのデジタル演算を行い、該デジタル演算の結果を前記受信回路に伝達する機能を有しており、
前記デジタル信号処理部は、前記受信信号判別部で検知された前記受信信号の有無の情報を利用して、前記デジタル演算及び該デジタル演算のリセットを行なう
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項2】
請求項1において、
前記基地局が端末局からの受信波を受信してから、該受信波に含まれる該端末局からの伝送信号が受信信号として基地局の該受信回路に供給されるまで、所定の時間間隔を有しており、
前記受信信号判別部は、前記時間間隔を利用して、前記受信波に前記受信信号が含まれている受信モードと該受信信号が含まれていない非受信モードを1周期とする、周期的なモードの変化を検知する機能を有している
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項3】
請求項2において、
前記デジタル信号処理部は、少なくとも前記受信モードにおいて前記不要波成分の抑制を行うデジタル演算を行い、前記非受信モードにおいて該デジタル演算のリセットを行なう
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項4】
請求項1において、
前記受信波に含まれる不要波成分の抑制を行うデジタル演算が、適応処理である
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項5】
請求項1において、
前記受信波に含まれる不要波成分の抑制を行うデジタル演算が、一括処理である
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項6】
請求項1において、
前記デジタル演算の一つが前記受信波に含まれる不要波成分の抑制であり、他のデジタル演算が該デジタル演算のための準備演算である
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項7】
請求項2において、
前記受信波に含まれる不要波成分の抑制を行うデジタル演算が、適応処理であり、
前記デジタル演算は、1つの周期の前記受信モードに始まり、次周期の前記非受信モードにおいて終了する
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項8】
請求項2において、
前記受信波に含まれる不要波成分の抑制を行うデジタル演算が、一括処理であり、
前記準備演算が、1つの周期の前記非受信モードにおいて実行され、
前記不要波成分の抑制のためのデジタル演算が、1つの周期の前記受信モードに始まり、次周期の前記非受信モードにおいて終了する
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項9】
請求項2において、
前記受信波に含まれる不要波成分の抑制を行うデジタル演算が、一括処理であり、
前記受信波に含まれる前記不要波成分の抑制を行う前記デジタル演算は、前記受信信号が含まれているモードに始まり、該デジタル演算の終了が時間軸上に引き続いて存在しておりかつ前記受信信号が含まれていない次の周期のモードにおいて終了する
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項10】
請求項1において、
連続して時間軸上に存在し前記受信信号が含まれていない次の周期において、過去の受信波の履歴をリセットする処理を行う
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項11】
請求項1において、
前記受信信号判別部は、特定の端末局からの伝送信号に受信信号が含まれているか否かを検知するバンドパスフィルタを備えている
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項12】
請求項1において、
前記デジタルフィードフォワード回路は、局部発信回路部とミキサを具備し、前記送信波と前記受信波を両者の周波数よりも低い周波数である中間周波数帯ダウンコンバートし、該中間周波数帯においてアナログ/デジタル変換器によりデジタル信号にし、該デジタル信号を用いて前記デジタル演算を行う
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項13】
請求項1において、
前記デジタルフィードフォワード回路は、前記送信波を参照信号とし、該参照信号と同一の周波数成分を有する前記受信波に含まれる不要波を抑制する、アナログフィードフォワード回路部を具備する
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項14】
請求項1において、
前記送信回路で生成された送信波の搬送波周波数と前記受信波の搬送波周波数が等しい
ことを特徴とするRFID基地局。
【請求項15】
基地局と少なくとも1つの端末局から構成されて成り、
前記基地局は、
アンテナと、送信回路と、受信回路と、前記送信回路と前記受信回路のいずれかを前記アンテナに結合するサーキュレータを具備して成り、
前記送信回路と前記受信回路及び前記サーキュレータ間にデジタルフィードフォワード回路が配置されて成り、
前記デジタルフィードフォワード回路は、受信信号判別部及びデジタル信号処理部を備えて成り、
前記受信信号判別部は、時間軸上において、受信波に前記端末局からの周期的な伝送信号が含まれているか否かを検知する機能を有しており、
前記デジタル信号処理部は、前記送信回路で生成された送信波を参照信号として、前記受信波に重畳された不要波成分を抑制するためのデジタル演算を行い、該デジタル演算の結果を前記受信回路に伝達する機能を有しており、
前記デジタル信号処理部は、前記受信信号判別部で検知された前記受信信号の有無の情報を利用して、前記デジタル演算及び該デジタル演算のリセットを行なう
ことを特徴とするRFIDシステム。
【請求項16】
請求項15において、
前記端末局が複数存在し、
前記各端末局は前記伝送信号の送信を周期的に繰り返す再送機能を有しており、
前記再送の時間間隔は端末局毎に異なる固有の値として予め設定されており、
前記基地局の前記受信信号判別部は、前記端末局からの周期的な伝送信号を繰り返し受信することにより、前記再送時間の間隔の差を利用して全ての前記端末局の伝送信号を判別可能に構成されている
ことを特徴とするRFIDシステム。
【請求項17】
請求項16において、
前記各端末局は、前記基地局からの送信波に直接変調を施して前記伝送信号を送り返す機能を有する
ことを特徴とするRFIDシステム。
【請求項18】
請求項16において、
前記基地局が前記各端末局からの受信波を受信してから、該受信波に含まれる該端末局からの伝送信号が受信信号として前記基地局の該受信回路に供給されるまで、所定の時間間隔を有しており、
前記受信信号判別部で、前記時間間隔を利用して、前記各端末局の受信波に前記受信信号が含まれている受信モードと該受信信号が含まれていない非受信モードを1周期とする、周期的なモードの変化を検知し、
前記受信モードで前記受信波に含まれる不要波成分の抑制を行なうためのデジタル演算を行い、前記非受信モードで該デジタル演算のための準備演算を行なう機能を有する
ことを特徴とするRFIDシステム。
【請求項19】
基地局と少なくとも1つの端末局から構成されたRFIDシステムにおける信号の送受方法であって、
前記基地局は、
アンテナと、送信回路と、受信回路と、前記送信回路と前記受信回路のいずれかを前記アンテナに結合するサーキュレータを具備して成り、
前記送信回路と前記受信回路及び前記サーキュレータ間にデジタルフィードフォワード回路が配置されて成り、
前記デジタルフィードフォワード回路は、受信信号判別部及びデジタル信号処理部を備えて成り、
前記デジタル信号処理部は、前記送信回路で生成された送信波を参照信号として、受信波に重畳された不要波成分を抑制するためのデジタル演算を行い、該デジタル演算の結果を前記受信回路に伝達する機能を有しており、
前記受信信号判別部で、時間軸上において、前記受信波に前記端末局からの周期的な伝送信号が含まれているか否かを検知し、
前記デジタル信号処理部において、前記受信波に含まれる前記受信信号の有無の情報を利用して、前記デジタル演算を行なう
ことを特徴とするRFIDシステムにおける信号の送受方法。
【請求項20】
請求項19において、
前記端末局が複数存在し、
前記各端末局は前記伝送信号の送信を周期的に繰り返す再送機能を有しており、
前記再送の時間間隔は端末局毎に異なる固有の値として予め設定されており、
前記各端末局が、前記基地局からの送信波に直接変調を施して前記伝送信号を送り返し、
前記基地局の前記受信信号判別部において、前記端末局からの伝送信号を繰り返し受信することにより、前記再送時間間隔の差を利用して全ての前記端末局の伝送信号を判別し、
前記デジタル信号処理部において、前記判別された端末局からの前記伝送信号の有無の状態を利用して、前記デジタル演算及び該デジタル演算のリセットを行う
ことを特徴とするRFIDシステムにおける信号の送受方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2009−194819(P2009−194819A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35831(P2008−35831)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】