説明

RNAを含有する微小胞およびそのための方法

意図された組成物および方法は、受容細胞に所望の効果を与えるために、場合によっては組み換えドナー細胞由来の微小胞の使用を対象とする。ある好ましい態様において、該微小胞のRNAがその所望の効果を発揮するために利用される。例えば、微小胞は、培地中で成長する細胞の継代数を増加し、培地中で成長する細胞の血清および/または成長因子の要求を低減し、および/または培地中で成長する細胞の分化を遅延させるために、in vitroで使用される。さらに好ましい態様は、微小胞内に封入された、または微小胞と連結したRNA、膜タンパク質、および/または細胞質タンパク質が治療効果を提供する治療薬としての微小胞の使用を含む。さらに、哺乳動物から単離された微小胞のRNAが哺乳動物の状態と関連している診断方法が意図される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願では我々の米国特許仮出願第60/576395号(2004年6月2日出願)の利益を主張し、該出願を本発明の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0002】
本発明の分野はバイオテクノロジーであり、とりわけ微小胞(microvesicles)に関する組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
微小胞はこれまで特に機能を持たない細胞片であるとみなされてきた。しかし近年、微小胞は多くの生物活性を有することが、増加しつつある実験データの集積により示唆された。例えば血小板由来の微小胞は該微小胞上の表面タンパク質を介して、選択された細胞を刺激することが明らかにされた(例えば、CD154、RANTESおよび/またはPF−4;Thromb.Haemost.(1999),82:794,またはJ.Boil.Chem.(1999),274:7545を参照)。他の例において、血小板微小胞における生理活性脂質(たとえばスフィンゴシン‐1‐ホスフェート、HETE、またはアラキドン酸)の特定の標的細胞上への特定の効果が報告されている。(例えば、J.Biol.Chem.(2001),276:19672; またはCardiovasc.Res.(2001),49(5):88を参照)。さらに別の例では、血小板微小胞が特定の微小胞表面成分を動員細胞へ移送することにより、動員されたCD34+内皮細胞の付着を増加させる(Blood(2001),89:3143を参照)。
【0004】
これらおよび他の発見に基づき、血小板由来微小胞に関して米国特許第5428008号に記載されたような外傷治療、米国特許第5165938号に教示されたような止血、及び米国特許出願第2004/0082511号に記載されたような組織再生を含めて、多様な臨床使用が提案された。このような使用は少なくとも多少の有望な見通しを与えるにもかかわらず、いくつか大きな未解明の問題が残っている。とりわけ、生理活性は多くの場合、予測が難しい。さらに、治療用途は一般的に微小胞を含有する製剤の投与を受けたヒトが感染することを防ぐために、殺菌および抗ウィルス性処理を必要とする。
【0005】
したがって、微小胞に関する多くの組成物および方法が当技術分野において周知であるにもかかわらず、それらのすべてまたは大部分が一つもしくは複数の不都合に頭を悩ませている。とりわけ、最も重要なことは、該微小胞の多くの用途における生理効果の予測には問題がある、ということである。したがって、有核および無核細胞由来の微小胞に関連する組成物および方法の改良がさらに必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、微小胞に接触した細胞を修飾するためにドナー細胞由来の微小胞(または合成微小胞)を利用した組成物および方法を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
最も一般的に、修飾は少なくとも一部は微小胞のRNAによりもたらされるが、さらに微小胞の脂質成分、微小胞の膜結合ペプチドまたは微小胞の細胞質ゾルペプチドにより(別の方法で、あるいは付加的に)もたらされる可能性がある。ドナー細胞および/または微小胞の調製のタイミング次第で、微小胞の内容物および構成が異なることを認識すべきである。したがって意図された受容細胞に及ぼす効果は大幅に異なる可能性がある。
【0008】
本発明の主題の一つの態様において、キットはドナー細胞由来の微小胞からなる組成物を含み、その微小胞は少なくとも一つのRNAを取り込んでおり、さらにRNAの機能および性質の少なくとも一つを提供する、組成物に関連する情報を含む。したがって、特定の効果を与えることが周知であるRNAを取り込む複数の微小胞が提供されるような、細胞を修飾する方法が意図される。このような方法のもう一つの段階において、受容細胞を修飾するため、受容細胞は該RNAを該受容細胞に送達するための十分な量の微小胞に接触させられる。
【0009】
とりわけ好ましいキットおよび方法において、ドナー細胞は幹細胞、分化細胞、病的細胞および/またはアポトーシス細胞で、場合によっては処理されていてもまたは組み換え型であってもよい。組み換えドナー細胞は、調節RNA、分泌タンパク質、あるいは膜結合タンパク質をコードする組み換え型核酸を含んでいてもよい。ドナー細胞の性質次第で、意図された微小胞はさらに膜結合タンパク質、細胞質タンパク質、核タンパク質および膜脂質成分を有することができ、ここでこれらの成分は、好ましくは微小胞と接触している受容細胞に所望の効果を発揮する。それ故、製品を市販する方法は、ドナー細胞由来の、少なくとも一つのRNAを含有する微小胞を含む組成物を提供する段階を有する。このような方法のもう一つの段階においては、RNAの機能または性質のうち少なくとも一つを提供する、組成物に関与する情報が提供される。
【0010】
本発明の主題のもう一つの態様において、キットはドナー細胞由来の(好ましくは保存された)微小胞からなる組成物を含む。このようなキットはさらに微小胞と受容細胞とを、該受容細胞中にて所望の効果を発揮するために、in vitroで組み合わせるための、組成物に関連する情報を含むことが出来る。所望の効果のなかで、とりわけ好ましい効果は、継代数の増加、ウィルス感染感受性の増加、分化の遅延、血清に対する要求の低減、および/または成長因子に対する要求の低減を含む。このような所望の効果は特に、微小胞のRNA、膜結合タンパク質、細胞質タンパク質、核タンパク質および/または膜脂質成分により生じる。
【0011】
本発明の主題のさらにもう一つの態様において、キットがさらにドナー細胞由来の保存された(例えば脱水された)微小胞を含む組成物および所望の効果を達成するために微小胞とin vitro成長培地を組み合わせるための、組成物に関連する情報を含むことが出来るよう意図される。所望の効果のなかで、培地中で成長する細胞の継代数増加、培地中で成長する細胞の血清および/または成長因子に対する要求の低減、および/または培地中で成長する細胞の分化の遅延がとりわけ意図される。したがって、特に意図された態様はさらに保存された微小胞を含有する粉末培地製剤を含む。使用次第で、キットがドナー細胞由来の保存された微小胞からなる組成物およびin vitro使用で該組成物を使用するための、該組成物に関連する情報を含むであろうことが一般的に意図される。
【0012】
本発明の主題のさらにもう一つの態様において、発明者らは、一つの段階において哺乳動物から単離された、少なくとも一つの微小胞がRNAを取り込んでいる複数の微小胞を含む試料が提供される、哺乳動物における状態の診断方法を意図する。もう一つの段階において、試料中のRNAの存在および/または量を決定し、さらにもう一つの(任意選択の)段階では、RNAの存在および/または量と状態を関連づける。通常、試料は哺乳動物の体液を含むであろうし、RAの存在および/または量を決定する段階はRT−PCR、Q−PCRおよび/または固相上でのRNAのハイブリダイゼーションを含むであろう。
【0013】
発明の主題を限定するものではないが、このような方法におけるRNAはウィルス感染(例えばHIV、HCVまたはポックスウィルス感染)、代謝障害(例えば、PKU、低ケトン性低血糖症、糖原病)および腫瘍性疾患(例えば、前立腺癌、大腸癌または乳癌)の少なくとも一つに関連する配列を有することが意図される。
【0014】
本発明の様々な目的、特徴、態様および優位性は以下の発明の好ましい実施形態の詳細な説明によりさらに明らかになるであろう。
【0015】
(発明の詳細な説明)
発明者らは、思いがけなく有核細胞由来および/または無核細胞由来の微小胞が所定の様式で受容細胞の修飾に使用できることを発見した。最も一般的に、このような修飾は少なくとも部分的に核酸、および、とりわけ微小胞中に含まれたRNAによって媒介され、これは従来認められていなかったことである。以下の例示的スキーム1は本明細書中で意図された一般概念を表している。
【0016】
【化1】

【0017】
発明者らはさらに、RNA含有微小胞が多数の診断および治療用途にもまた利用できることを発見した。そのような場合において、微小胞の具体的なRNA内容物が診断的および/または治療的使用を決定するであろうことを認識するべきである。
【0018】
本明細書中で使用する場合、「微小胞」という用語は約10nmから約5000nmまでの間、より一般的には30nmと1000nmとの間、および最も一般的には約50nmと750nmとの間の直径(または粒子が球体でない場合は最大径)を有する、少なくとも微小胞の膜の一部は細胞から直接得られる、膜性粒子を指す。したがって、意図された微小胞は特にドナー細胞から脱ぎ捨てられたものを含み、通常エキソソームおよびシナプトソームを含むことになる。その一方、特徴づけられた脂質から作られ、細胞膜から得られた脂質を含まないリポソームは、本明細書中で使用する定義では微小胞とは考えない。
【0019】
また本明細書中で使用する場合、「ドナー細胞」という用語はそこから微小胞を得られる任意の細胞を指す。さらに本明細書中で使用する場合、「受容細胞」という用語は少なくとも部分的に微小胞を融合させる任意の細胞を指す。本明細書中で使用する場合、「少なくとも部分的に融合させる」という用語は、微粒子の脂質層の少なくとも一部が一時的または恒久的に受容細胞の脂質細胞膜の少なくとも一部の部分になる処理を指す。したがって、「少なくとも部分的に融合させる」という用語は、微小胞の外部細胞膜への付着、微小胞の外部細胞膜との融合(微小胞内容物の受容細胞内部への同時放出を伴っても伴わなくても)およびエンドサイトーシスを指す。
【0020】
意図されたドナー細胞
微小胞がドナー細胞より得られるならば、ドナー細胞の性質は本発明の主題を限定するものではないことを認識すべきである。したがって、適切な細胞は、原核細胞、古細菌細胞、真菌細胞および単細胞・多細胞真核細胞を含む。
【0021】
必要に応じて、微小胞を得る前に、このような生物から細菌および/または酵母の細胞壁を取り除いても差し支えないことを理解すべきである。あるいは、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、バチルス(Bacillus)属、ボレリア(Borrelia)属、ボルデテラ(Bordetella)属、カリマトバクテリウム(Calymmatobacterium)属、エシェリキア(Escherichia)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、ナイセリア(Neisseria)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ポルフィロモナス(Porphyromonas)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、サルモネラ(Salmonella)属、セラチア(Serratia)属、シゲラ(Shigella)属およびエルシニア(Yersinia)属を含む、微小胞を脱ぎ捨てることが周知の細菌から微小胞が得られる。微小胞を細菌から得る殆どすべての場合、細菌細胞は、微小胞中の組み換え膜タンパク質および組み換えRNAの少なくとも一つを提供するためにトランスフェクトされる。さらに、細菌および/または真菌細胞の脂質組成物が組み込み、融合および/または微小胞の受容細胞への付着を減少または阻害でさえした場合、組み込み、融合および/または微小胞の受容細胞への付着を増進する化合物を用いて細菌または真菌細胞を修飾することが意図される。例えば、適切な化合物は陽イオン洗浄剤、高分子化合物(例えばPEG)および/または微小胞表面上のポリペプチドでもよい。
【0022】
ドナー細胞が真核細胞の場合、一般的に真核生物は多細胞生物が好ましく、より好ましくは脊椎動物細胞(例えば哺乳動物)である。通常、適切なドナー細胞は自然発生的に、または化学的および/または機械的刺激に反応して、微小胞を作るであろう。例えば、様々な胚細胞および他の幹細胞は自然発生的に顕著な量の微小胞を作り出すことが周知である。一方、サイトカインおよび/または血小板の機械的刺激は微小胞の形成の大幅な増加をもたらす。さらに、ドナー細胞が有核または無核でも良いことを認識すべきである。したがって、適切なドナー細胞は、リンパ球(例えば、多核のリンパ球、多形核リンパ球、など)、繊維芽細胞、肝細胞のほかに赤血球および血小板もまた含む。加えて、意図された細胞はまたそれらが由来している分化全能性幹細胞(例えば、異数形神経細胞またはグリア細胞)に比べて、自然発達または疾患の結果として、遺伝情報の少なくとも一部を喪失しているかもしれない。
【0023】
同様に、適切なドナー細胞はその細胞系列に関してどの望ましい発達段階からも得ることが出来る。それ故、適切なドナー細胞は特に幹細胞(特定の細胞系に直接関与していてもいなくても良い)、部分分化幹細胞および完全分化細胞を含む。さらにその上、本明細書中で意図されたドナー細胞は、それらの個々の細胞年齢の、それらの前駆細胞から分離されたばかりから、それらの老化またはさらに死細胞までの範囲の、どの段階にあっても良い。注目すべきことに、微小胞の脱皮はアポトーシス小胞形成(原形質膜および/または細胞核由来でも良い)時に増加する。したがって、前アポトーシスドナー細胞またはアポトーシスに陥った細胞もまた本明細書中で意図される。
【0024】
さらにまた、適切なドナー細胞が正常細胞および、一つまたはそれ以上の病原体および/または状態により影響されている病的細胞を含むことも意図される。例えば、病的ドナー細胞はウィルス、細胞間寄生体または細菌に感染しているかもしれない。他の例では、病的細胞は代謝異常細胞(例えば、遺伝的欠陥原因、酵素原因、受容体および/またはトランスポーター機能障害または代謝浸襲)、腫瘍細胞、または該細胞を制御不良性細胞増殖感受性にさせる一つ以上の突然変異を有する細胞であってもよい。同様に、ドナー細胞は野生型(例えば、生体検査から得た)、培養された(例えば、野生型または不死化された)または処理された細胞でもよい。例えば、ドナー細胞は化学的および/または機械的に処理され、結果として細胞特異的ストレス反応を示すドナー細胞を生じる。もう一つの例においては、意図されたドナー細胞は、該細胞が受容体を有するか、またはさもなければ相補的構造を有するような、天然または合成のリガンドによって処理されても良い。さらになお別の例では、ドナー細胞は、代謝、細胞増殖、細胞分裂、細胞構造および/または分泌のうち少なくとも一つを変化させる薬剤や化合物によって処理されても良い。
【0025】
加えて、意図された処理はその結果組み換え細胞を形成するために、一つまたはそれ以上の核酸分子を細胞中に導入するものを含む。核酸導入の周知の様式(例えば、ウィルストランスフェクション、化学的トランスフェクション、エレクトロポレーション、弾道トランスフェクション、など)はすべて本明細書中での使用に適していると考えられることに留意するべきである。核酸がDNAである場合、DNAがドナー細胞のゲノムの中に組み込まれうること、またはDNAが染色体外単位として細胞中に宿ることが意図される。このようなDNAは、調節性および/またはタンパク質コード機能を有するRNA産生のための鋳型として用いることが出来る。同様に、核酸がRNAである場合、このようなRNAは調節実体(例えば、アンチセンスまたは干渉を介して)および/またはタンパク質コード実体として使用できる。もちろん、周知の核酸アナログ(例えば、ホスホロチオエートアナログ、ペプチド核酸アナログ、など)のすべてもまた、本明細書中の使用に適していると考えられる。
【0026】
ドナー細胞の起源に関しては、ドナー細胞が、内皮、中皮および外皮起源を含む所望のどの起源をも有することが意図される。したがって、適切なドナー細胞は一般的に腺、臓器、筋肉、構造組織中などにおいて見出されるものを含むであろう。さらに、意図されたドナー細胞が、受容細胞に関して異種性または自家性であっても良いことを認識すべきである。例えば、受容細胞がヒト膵臓細胞である場合、ドナー細胞がブタ膵臓細胞であっても良い。同様に、ドナー細胞があるヒトの繊維芽細胞である場合、受容細胞が他のヒトの繊維芽細胞であっても良い。ドナー細胞および受容細胞が自家性であった場合、受容細胞はドナー細胞に対して古くても良いということは特に評価すべきである。例えば、培養早期段階の幹細胞は、同じ幹細胞のためのドナー細胞として、その後少なくとも1回は細胞分裂を起こした培養段階のドナー細胞を利用できる。
【0027】
意図された微小胞
適切なドナー細胞についての上記の考察に基づき、意図された微小胞の構造と構成は顕著に異なるものであること、およびドナー細胞の型と状態のほかに微小胞の調製もまた少なくとも部分的に微小胞の特徴を決定するである可能性があることを認識すべきである。
【0028】
ドナー細胞より単離された微小胞
最も一般的に、微小胞は当業者に周知の多くの手段によって単離することが出来、とりわけ好ましい方法は生体液からの遠心分離または細胞培養の上澄みを含む。微小胞の単離の典型的な方法はPlatelets(2004),15(2):109−115,J.Immumol.(1998),161(8):4382−4387,またはCurr.Opin.Hematol.(2004),11(3):156−164に記載されている。あるいは、Thromb Haemost.(1997),77(1):220に記載のように、微小胞はまたフローサイトメトリー法を介して単離されおよび/または特徴付が出来る。最も一般的には、意図された微小胞はドナー細胞のサイズ(平均直経)の5%までのサイズ(平均直経)を有するであろう。従って、また特定のドナー細胞に依存して、微小胞は10nmから約5000nm、より一般的には30nmと1000nmとの間、最も一般的には約50nmと750nmとの間の平均寸法を有するだろう。さらにその意図される態様では、微小胞の単離は細胞培養上澄みに限定する必要はなく、全ての生体液(全血、尿、乳、唾液を含む)および生体検査試料もまた適切であると見なされることを評価すべきである。
【0029】
意図された微小胞の膜構成に関しては、該膜構成がドナー細胞の平均的膜構成を反映するこが一般的に意図される。したがって、正確な膜構成は大部分、ドナー細胞の特定の膜構成に左右されるだろう。しかしながら、微小胞の脱ぎ捨ての特有の様式により、膜構成は、ドナー細胞の単なる局所的な膜構成を代表しているかもしれないことを認識すべきである。例えば、意図された微小胞がドナー細胞と一般的に同じ構造(例えば、脂質二重膜、一般的には単小胞構造の形のみで入れ子式小胞の形ではない)を有するにもかかわらず、様々な膜構成要素または膜結合分子はドナー細胞または微小胞中に見出されないかもしれないし、主に見出されるかもしれない。
【0030】
微小胞とドナー細胞との間に偏在しているかもしれない他の構成要素の中には、脂質ベースの分子(例えば、糖脂質、セラミドなど)、膜貫通タンパク質、受容体、トランスポーター、膜横断シグナル伝達に機能的に関与している構成要素などがある。例えば、非対称的な糖脂質分布はActa Biochemica Polonica(1998),45(2)に報告されており、さらに微小胞担持ケモカイン受容体はNat.Med.(2000),6(7):769−75に報告された。同様に、Proc Natl Acad Sci(2004),101(28):10241−10242にIl−1ベータに関して報告されているように、細胞内ペプチドは、ドナー細胞と微小胞の間に均等に分布していても偏在していても、微小胞の中に見出される。
【0031】
さらに、ドナー細胞由来の微小胞はまた該ドナー細胞内に見出される核酸の平均集団および/または特定の集団を代表する核酸を含むであろうことを特に認識すべきである。特定のドナー細胞型しだいで、核酸はDNAおよび/またはRNAを含むであろう。その際、RNAは、異種核RNA(hnRNA)、場合によってはキャップされたおよび/またはポリアデニル化されたメッセンジャーRNA(mRMA)、トランスファーRNA(tRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、イントロン付随RNA(icRNA)およびリボソームRNA(rRNA)を明らかに含むであろう。このようなRNAは通常、細胞型、細胞年齢、細胞状態(例えば、正常または病的)および細胞源の少なくとも一つを反映しているであろう。加えて、このようなRNAは、またあらかじめドナー細胞に導入された組み換えDNAに由来するするかも知れない。微小胞中のRNAの少なくともいくつかのRNAは、優先的にまたはさらに選択的に微小胞中に存在するかもしれないし、しないかもしれないことに特に留意すべきである。なかでも、Exp.Cell Res.(2000),260:248−256の中で議論されているように、RNAおよびDNAが別々のアポトーシス小体に分離されることは周知である。さらにその上、RNAはまたBiol.Cell(2005),97:5−18に報告されているように、選択的にRNA輸送を介した微小胞搬出に支配されるかも知れない。細胞膜に局在化させるRNAのアドレス指定能力に基づき、ドナー細胞内の組み換えDNAが、RNAの細胞膜への位置付けを促すシグナルを含有出来ることが意図される(例えば、Dev.Cell(2003),5:161−174を参照)。
【0032】
したがって、少なくともこの観点から、微小胞中のRNAは、受容細胞(同一のまたは異なる組織型の)に所定のまたは独特の様式で受容細胞と相互に作用しあうであろう一つまたはそれ以上の分子を提供することができる。例えば、微小胞中のRNAがmRNAである場合、たとえ受容細胞が別にそのタンパク質を産生しなかったとしても、受容細胞は対応するポリペプチドを発現するために、微小胞によって修飾される。もう一つの例では、微小胞中のRNAがsiRNAである場合、受容細胞は受容細胞中で応答性遺伝子の発現を上方制御または下方制御するために微小胞によって修飾される。その上さらなる例では、微小胞中のRNAがrRNAである場合、微小胞は受容細胞中でリボソーム合成をその翻訳とともに下方制御できる。
【0033】
それ故、微小胞のRNAは少なくとも一つのRNA(最も一般的に特徴付けられたRNA)を介して受容細胞中で所望の効果を発揮するために採用できることを認識すべきである。もう一つの観点から見た時、微小胞が、受容細胞に特定の効果を与えることが周知のRNAを含むであろうことを認識すべきである。「特定の効果を与えることが知られたRNA」という用語は本明細書中で使用される場合、所定の様式で受容細胞に作用する(in vivo、in vitro、in silico)ことが実証されているRNAを指し、ここで該効果は単独のパラメーターにおける変化(例えば、特定の遺伝子の発現の増加または減少)、複数のパラメーター(例えば、細胞シグナル伝達における修飾、または発生過程における変化[例えば、分化の遅延])または全ての細胞への作用(例えば、アポトーシス誘導、分化など)である。
【0034】
その上、本発明の主題のさらなる態様において、微小胞中のRNAは、微小胞に付随する少なくとも一つのほかの因子と組み合わせて受容細胞について所望の効果を提供でき、特に好ましい因子は膜結合ポリペプチド(例えば、受容体、チャネル、膜貫通型シグナル伝達におけるポリペプチド)、水溶性ポリペプチド(例えば、サイトカイン、転写因子など)および脂質組成物(例えば、スフィンゴ糖脂質、グリセロリン脂質など)を含むことが意図されている。したがって、微小胞は該微小胞が単離された細胞に対する抗原として採用でき、その際、宿主中で微小胞により誘発された免疫応答を生じることを認識すべきである。このような場合、微小胞の効果は間接的であるか、または拡張されている(例えば、受容細胞は免疫細胞で、微小胞による初回抗原刺激の後これらの免疫細胞はドナー細胞に直接または抗体を介して作用する)。
【0035】
合成微小胞
本発明の主題のもう一つの態様において、ドナー細胞より得た一つまたはそれ以上の膜構成要素を含む微小胞を合成的に産生できることが意図されている。しかしながら、いくつかの代替の態様において、膜構成は、少なくともいくつかの点で特定のドナー細胞の膜構成に似ているようにシミュレートできる。調製の様式に関係なく、通常、合成微小胞は少なくとも一つのRNAを含むことが好ましい。例えば、合成微小胞はドナー細胞の例えば、洗浄剤、超音波処理、剪断力などによる)分解により調製でき(、粗製製剤または少なくとも部分的に濃縮された膜画分を用いて、一つまたはそれ以上の微小胞を再構成する。
【0036】
微小胞製剤の合成経路を使用する場合には、このような微小胞中のRNAはドナー細胞に対して純種でも良く、または組み換え型起源であっても良い(修飾されたドナー細胞の一部または外から加えられたRNAとして)。RNAおよび膜が得られたドナー細胞に関しては上記と同一の考察が当てはまる。さらに微小胞が合成されたものである場合、このような微小胞が製薬学的に活性な分子を担持する可能性が意図されている(例えば、リポソームを担持するものと同様な方法で)。
【0037】
微小胞の調製
本明細書中で意図された微小胞は、好ましくはそれらのドナー細胞から単離されるか、または合成され、生理的に許容される溶液から単離される。例えば、適切な溶液は、緩衝生理食塩水、成長培地、様々な水性培地などを含む。通常、このような溶液中には約10から約10粒子/ミリリットル、またはそれより高い濃度で微小粒子が存在する。個々の使用に応じて、微小粒子はそれらのRNA含有量によって特徴付けられ(例えば、固相ハイブリダイゼーション、qPCRなどを介して)、またさらなる特徴(例えば、膜結合ポリペプチドの含有量、脂質の構成、水溶性ポリペプチドの含有量/構成など)が必要に応じて決定される。
【0038】
加えて、本明細書中で意図される微小胞は特に望ましい結果を達成するために修飾されうる。例えば、適切な修飾は、微小胞が哺乳動物の中に(直接または受容細胞を介して)導入される場合に、微小胞の潜在的免疫原性を減少させるために、一つまたはそれ以上の膜結合成分が少なくとも部分的に取り除かれているものを含む。例えば、除去は様々な酵素(例えば、プロテアーゼ、グリコシラーゼなど)を用いてまたは化学的に実施できる。同様に、免疫寛容を誘導するため、または微小胞もしくは微小胞によって処理された細胞が標的組織に到達することを助けるために、膜結合成分を微小胞に加える(例えば、もう一つの微小胞との融合)ことが出来る。さらに、一つまたはそれ以上の独立した微小胞製剤は、mRNAの内容に関与していてもしていなくても良い二つ以上の望ましい特性を兼ね備えるために融合される(例えば、超音波および/またはPEGを用いて)。例えば、二つの明白に相異なる製剤由来の微小胞は、特定の脂質および/またはタンパク質プロフィールを達成するために融合される。あるいは、微小胞はまた断片化できる。微小胞の性質および/または起源には関係なく、基礎研究または診断学への使用、または微小胞の運命および/または位置の観察を可能にするため、標識化の可能性が一般的に意図される。適切な標識薬剤は、当業者には周知の全ての既知の標識化薬剤を含み、特に好ましい標識薬剤はGFP、ルシフェラーゼ、マイクロビーズ抗体および放射性同位体を含む。
【0039】
本発明の主題についてのさらに特に好ましい態様において、微小粒子(例えば、ドナー細胞より単離された、または合成された)は、物理的および/または化学的安定性の向上した製剤中で処理および/または調製される。例えば、微小胞が水性(または他の)培地中に残存している場合、約−60℃から約−80℃(またはさらに低温)の間の温度で製剤を急速冷凍することが一般的に好ましい。これらの場合、微小粒子溶液は一つまたはそれ以上の保存剤(例えば、NaN、安息香酸エステルなど)、酸化防止剤、及び/または凍結製剤の損傷を減少する抗凍結剤(例えば、グリセロール、DMS、プロパンジオールなど)を含んでも良い。あるいは、意図された微小胞は脱水されていても(凍結乾燥、噴霧乾燥など)良く、脱水微小胞は分散保護剤(例えば、トレハロース、血清タンパク質、蔗糖、ヒドロキシメチルでんぷん、など)、酸化防止剤などを含む。
【0040】
希望であれば、単離されたおよび/または脱水された微粒子はまた多くの医薬および/または化粧品製剤に組み込むことが出来、特定の使用が最終的に特有な製剤処方を決定する。例えば、微粒子が治療薬(例えば、予防接種用)として採用された場合、適切な剤形は注射用または噴霧用製剤形態または局所的剤形(例えば目薬の形態)でよい。もう一つの例において、微小胞が外傷治療薬として採用された場合、適切な剤形は微小胞が創傷包帯の一部である(例えば、バンドエイドまたはガーゼの中)ものを含むことができる。やや好ましい態様では、微小胞が経口投与のために製剤されうる。あるいは、微小胞が化粧品目的のために利用された場合、好ましい剤形は局所的剤形を含み、最も好ましくは溶液、クリーム、ローション、軟膏または口紅の形態を含む。当業者には周知の医薬・化粧品用処方のための組成物および方法が数多くあり、そのすべてが本明細書中の使用に適切であると考えられる。
【0041】
意図された受容細胞
すべての細胞および細胞含有構造、とりわけ生細胞およびそれを備えた構造が、本発明の主題に従った微小胞のための受容細胞および/または受容体として適切であることが一般的に意図されている。
【0042】
したがって、細胞型(例えば、原核細胞、古細菌細胞、真菌細胞および単および多細胞真核細胞)、細胞起源(例えば、内皮、中皮、外皮)、細胞年齢(例えば、親細胞から分離したばかり、2〜8分裂の間またはより高齢、アポトーシスに陥っているなど)、分化段階(例えば、未分化幹細胞、系統に入った幹細胞、部分分化または完全分化)、ゲノム内容物(例えば、整倍数性の、異数性の)および健康状態(例えば、ウィルス、または細菌により感染したもの、腫瘍性のものなど)に関しては、上に提供されたものと同様の考察が当てはまる。さらにまた、意図される受容細胞は、染色体外またはゲノム組み換えDNAを抱く組み換え細胞であってよい。
【0043】
受容細胞の一つの好ましい態様において、受容細胞がin vitro細胞であること、および微小胞の受容細胞との接触、融合および/または吸収の増加のために該細胞がさらには修飾されないことが意図される。しかしながら、in vitro細胞が微小胞の接触、融合および/または吸収の増加のために処理できることもまた評価すべきである。例えば、受容細胞は陽イオンもしくは非イオン洗浄剤またはポリマー(例えば、PEG)により化学的に処理できる。あるいは、細胞はさらに融合を促進するために熱ショックまたは超音波を使用して物理的に処理できる。
【0044】
受容細胞のもう一つの好ましい態様は、受容細胞がin vivo細胞であること、および該細胞は微小胞が投与された生物内の使用液、または生体液を介して微小胞と接触することが意図される。例えば、in vivo/in situ投与は局所的または局部的投与を含み、その適切な方法は微小胞製剤の噴霧、眼球用途または点滴注入法を含む。あるいは、全身性投与もまた意図されており、とりわけ注射および経口投与を含む。受容細胞(例えば、in vitroまたは in vivo)の位置とは関係なく、受容細胞は単離された細胞、同一の、もしくは他の細胞型とともに培養液中の細胞、または組織、臓器、もしくは生物の全個体中の細胞でさえ良いことを認識すべきである。
【0045】
それ故、受容細胞の特定の用途および状態次第で、受容細胞が微小胞と一時的に、長期的または恒久的な様式でさえ接触できるであろうことが意図される。例えば、受容細胞がin vitro細胞である場合、培地は数分から数時間の間に(または培地変更または継代の間微小胞が除去されていた場合、数日)微小胞で濃縮される。その一方、in vivo受容細胞は、通常、少なくとも部分的には、小胞の血清半減期(例えば、数時間および数日の間)によって決定される期間、微小胞にさらされている。受容細胞に対する微小胞の量に関して、特定の所望の効果が少なくとも部分的にその比を決定することが一般的に意図される。しかしながら、ほとんどの場合、微小胞と受容細胞の比は、約10:1から10−1:1までの間であり、より一般的には約10:1から約10:1まで、および最も一般的には約10:1から約10:1までの間であろう。もちろん、受容細胞は一種を超える型の微小胞と接触することができ、特定の所望の効果が、受容細胞が接触している微小胞の数および型を決めることを認識すべきである。
【0046】
本発明の主題を限定するものではないが、一般的に、受容細胞は、微小胞と融合することが一般的に好ましく、その際、少なくとも微小胞中のRNAのいくつかは細胞質に送達されるであろう。さらに、微小胞中の膜構成要素の少なくともいくつかが受容細胞膜(細胞質膜)の中に組み込まれるであろう。あるいは、または加えて、すべての微小胞のいくつかが、微小胞の細胞質膜への融合なしに細胞に取り込まれうることが意図される。このような場合には、微小胞は、微小胞の細胞の非細胞膜区画への、およびとりわけ核、ミトコンドリアおよび小胞体への融合または取り込みを可能にする効果のある膜組成物(例えば、脂質プロフィールおよび/または膜結合ポリペプチドを介して)を有することが意図される。一般に、そのような微小胞は、エンドサイトーシスまたは食作用によって取り込まれる。
【0047】
意図された使用
意図される微小胞の特定の使用は少なくとも部分的に微小胞中の、所望の効果を受容細胞に与える特定のRNAに依存することを認識すべきである。さらに、所望の機能を与える微小胞の付加的構成要素には、微小胞の膜脂質組成物も膜結合ポリペプチドもが含まれる。したがって、微小胞に付随しているRNAが受容細胞に所望の効果を及ぼす、および/または微小胞が免疫調節実体として使用される多くの使用が意図される。あるいは、微小胞は、微小胞中のRNAが診断マーカーとして働く診断テストにも採用できる。微小胞はそれらのRNAおよび/またはタンパク質内容物の量により測定できる。ほとんどの場合、所望の効果のために必要とされる微小胞の量は0.01μg/mLから1000μg/mL(タンパク質/mL)まで、またはRNAが0.1ngから1μg/mLまでの範囲内であろうことが意図される。
【0048】
修飾および/または治療的使用
In vitro使用:本発明の主題の一つの態様において、微小胞中のRNAはin vitro で受容細胞に特定の効果を与えるために利用される。例えば、受容細胞がウィルスによってトランスフェクトされることを可能にする表面受容体を発現するような、RNA含有微小粒子により受容細胞が一時的にトランスフェクトされることが意図される。組み換えDNAを幹細胞(および最も好ましくは胚性幹細胞)の中に導入することが望まれている場合、このような例示的使用は特に有利である。通常は、不可能ではないにしても、多くの幹細胞を用いる遺伝子導入は極めて非効率的である。しかしながら、細胞の中に入るために、ウィルスによって使用される受容体をコードするRNAを微小胞が含む場合、ウィルストランスフェクションは相対的に単純で効果的である。最も有利には、このような遺伝子形質転換は一時的であり、ウィルストランスフェクションに先立って幹細胞ゲノムを修飾しないであろう。
【0049】
同様に、幹細胞の例示的使用についてさらに拡大すれば、幹細胞の未分化の性質の維持に関与している多くの細胞表面受容体の一時的発現は、初期段階および/または未分化幹細胞に対してのみ真性の、さまざまな生理学的特徴を維持するであろうことを評価すべきである。このようにして、幹細胞の初期段階培養液から単離された微小胞は、幹細胞の未分化の性質を後期段階の幹細胞において維持するために利用できる。したがって、多数の使用の中で、微小胞中のRNAは細胞の継代数(若い細胞由来の微小胞の使用による再生)の増加、ウィルス感染の感受性の増加(例えば、ウィルスドッキング/エントリータンパク質の一時的発現を介して)、分化の遅延などのために使用できる。
【0050】
加えて、ゲノムが恒久的に突然変異化されなければならない場合、一時的なノックアウトおよび/またはノックダウン核酸を細胞の中に導入できる。例えば、微小胞中のRNAが受容細胞(例えば、RNAがアンチセンスRNAまたはsiRNA)について調節効果を有する場合、一時的遺伝子サイレンシングが受容細胞ゲノムの変更なしに実施できる。
以前の実験データ(以下参照)に基づき、発明者らはまた、驚いたことに、培養早期細胞由来の微小胞、とりわけ幹細胞由来の微小胞を、血清に対する細胞の要求の低減、および/または一つまたはそれ以上の成長因子に対する細胞の要求の低減をもたらすために、別の細胞の成長培地に添加することができることを発見した。したがって、微小胞は多数の所望の効果を発揮するために、細胞のない、または細胞を含有する培地にも添加できることを認識すべきである。得られる利益の中で、培地中の血清および/または成長因子の部分的または全体の置換は、細胞培養のコストを顕著に低減し、ウィルス、マイコプラズマ、または他の病原体による汚染の可能性を低減するだろう。
【0051】
それ故、現時点では、微小胞中のRNAの効果のみを検討すれば、微小胞は細胞パラメーター、およびとりわけ(下方制御および/またはmRNAの導入を介して)一つまたはそれ以上の遺伝子の発現、外部および/または内部シグナルに対する細胞の感受性に影響することになる膜結合ポリペプチドの提示、またはウィルスによる感染、または細胞の免疫プロフィールの修飾(例えば、細胞が「目に見えないもの」に変化するか、または免疫系により認識可能になる)の一時的修飾に利用できることを認識すべきである。
【0052】
さらに、微小胞は、微小胞による融合を介して受容細胞に導入される脂質構成成分、および/または膜結合ポリペプチドの添加によって受容細胞を修飾するために使用(それらのRNA内容物とは独立にさえ)できることも認識すべきである。例えば、微粒子は中性スフィンゴ糖脂質、ガングリオシド、および/または血小板のセラミドを(「希釈」によって)低減させるため、または標識抗体がすでに利用されている既知の膜結合エピトープを導入するために利用できる。したがって、受容細胞は機能的に、構造的におよび/または組成的に、少なくともこれらの効果のいくつかが恒久的な遺伝子修飾なしに達成されるように変更できることを評価すべきである。
【0053】
in vivo使用:本発明の主題のもう一つの態様では、微小胞中のRNAは受容細胞の1つ以上のパラメーターを少なくとも一時的に変化させる治療薬として使用できる。一つの好ましい例では、負傷したまたは病気の組織(皮膚または骨髄または心臓 Nature,Feb 10,2005の論文を参照)に投与される有核ドナー細胞由来(および特に幹細胞由来)からの微小胞が誘導されることが意図される。このような例示的使用では、幹細胞が、傷ついたまたは罹患した細胞型を含む系統に発達するであろう胚性幹細胞、または全能性幹細胞、または多能性幹細胞のいずれかであることが一般的に好ましい。特定の理論または仮説に束縛されることを望むものではないが、微小胞が、細胞脱分化および/または細胞再分化結合遺伝子の発現を誘発するであろう、あるいは組織修復に関与する細胞を引き込む因子の産生を促すであろうRNAおよび他の構成要素(例えば、膜結合ポリペプチド、転写因子など)を提供することが意図される。
【0054】
したがって、意図された使用のなかで、(特に幹細胞由来の)微小胞は、微小胞が傷ついたまたは罹患した組織に接触する治療薬として採用できる。例えば、適切な用途は、皮膚再生、外傷治療および傷または感染部分の傷跡の予防または減少を含む。したがって、特に好ましい態様は、さもなければ傷が残るかまたは壊死したであろうような、肝繊維症および/または肝硬変の治療中である肝組織、にきび治療の顔の表皮組織、および虚血性梗塞の治療中である心臓組織を含む組織を再生するために微小胞が採用されたものである。血小板由来の微小粒子が骨損傷治療法として提唱されていることに留意すべきである(米国特許出願第2004/0082511を参照)。しかしながら血小板は無核細胞であり、このような微小胞が顕著なRNA含有量を有することは疑問である。さらに、血小板由来の微小粒子の比較的高い血小板因子取り込み量から、このような微小粒子は劇的に凝固を誘導し維持するので、治療的使用のためのin vivo用途は問題があるように思われる。
【0055】
本発明の主題のまたさらなる態様において、微小粒子はドナー細胞が病的細胞(腫瘍細胞、またはHIV感染細胞など)である宿主中でワクチンとして使用される可能性が意図される。このような例示的な使用では、微小粒子は、病的細胞のRNA、膜結合ポリペプチドまたは細胞質ポリペプチドを含むであろう。そしてそれらは、その後免疫系による標的になる可能性があるということが期待されている。あるいは、病的ドナー細胞は処置(化学物質、生物製剤または熱/低温ショック、放射線、低酸素などの物理的因子を使用したex vivoおよび/または in vitroの)に供されることもでき、その際、ドナー細胞が変化させられ、例えばアポトーシスに入ったりアポトーシスであったりし、そのように処置されたドナー細胞から微小胞が収集される。このような場合には、微小粒子は、処置された病的細胞のRNA、膜結合または細胞質ポリペプチドを含むであろうことが期待され、1.病的ドナー細胞に対する免疫応答を刺激する(ワクチン接種効果)、2.病的ドナー細胞への拒絶反応を誘導する、3.病的ドナー細胞を体内で維持、増加することに対する抵抗力を誘導する、ための注射に使用でき、および/または病的細胞を融合して、その細胞を、アポトーシスが運命づけられたものとして誘導および/または印をつけることが期待される。もちろん、このような意図された使用におけるドナー細胞は、受容細胞と同一の生物に由来することが好ましいことを認識すべきである。しかしながら、望まれる場合には、異種ドナー細胞もまた適切であるとされる(例えば、細胞はワクチン接種のためのウィルス感染症)。
【0056】
同様に、移植臓器が臓器受容体の血液から単離された微小粒子により灌流される場合、微小粒子はまた免疫寛容に寄与すると考えられる。逆に、臓器受容体は(追加的にまたは代替として)受容体内での臓器に対する免疫寛容を誘発するために、臓器ドナー由来の微小粒子(通常ドナー血液、またはドナー臓器関連細胞由来)もまた受け入れることができる。例えば、移植される臓器または組織由来の微小胞は移植宿主に注射できる(皮下注射または胸腺に)。
【0057】
本発明の主題のさらに意図された態様において、微小粒子は特定の細胞表面受容体を発現することが周知の特定のドナー細胞からも調製できる。微小粒子がその受容体を含むであろうこと、および微小粒子製剤が対応リガンドの循環量を低減するための可溶性受容体として利用されることもまた期待されている。可溶性受容体の少なくともいくつかが他の細胞の中に固定されるであろうことが期待される場合、および微小粒子がさらに可溶性受容体(例えば、受容体と機能的に協力するGタンパク質共役型成分)に結合したポリペプチドをコードする(または調節機能を有する)RNAを含む場合、このような微小粒子の使用はさらに高めることができる。
【0058】
多くの病状は患者の血流中の微小胞の顕著な増加と関連していることがさらに観察された。したがって、(例えば、患者の血流)中の微小胞を低減するすべての化合物および方法は、罹患した受容体についても所望の効果を有することが意図される。化合物のなかで、in vivoの微小粒子濃度を低減する好ましい化合物には、さまざまな抗生物質(例えば、ナイスタチン、フィリピンおよび類似物質)、スタチン、フラボンおよびポリフェノール(例えば、アピゲニン、カテキン、レスベラトロール、クルクミン、ケルセチン)およびそれらの類似物、レチノイン酸およびその類似物、8‐Cl−cAMPおよびその類似物、および植物抽出液、および細胞骨格、膜流動性および/または膜ラフリングに作用することが周知の組成物および化合物を含む。これらの化合物は化学療法剤とともに使用し得るであろう。個々の特定の使用とは関係なく、微小胞により固定化される効果はほとんどの環境下で一時的効果であり、効果の期間は、主に微小胞中のRNAの半減期および/または受容細胞の代謝回転速度に依存している。
【0059】
微小胞はまた、装置または組織の構成要素として用いることができる。その際、微小胞は装置または組織に直接的にまたは間接的に関与することができる(例えば、微小胞を含んだコーティング層)。例えば、培養皿、フラスコ、カテーテルまたはインプラント(例えば、ステント、人工心臓弁など)は特に本明細書中で意図される。
【0060】
診断的使用
RNA微小粒子のさらに好ましい使用において、微小粒子のRNAが一つまたはそれ以上の細胞の個々の状態を反映する診断用マーカーとして利用される可能性が意図される。例えば、腫瘍細胞が腫瘍遺伝子の転写を含む場合、腫瘍細胞(例えば、固体細胞または転移細胞)の位置とは関係なしに、腫瘍遺伝子は腫瘍細胞から脱ぎ捨てられた微小胞中に検出できる。微小胞はRNAの同定のために単離され、濃縮され、調製されたすべての生体物質(例えば、血流、尿、生検など)中に見出される。RNAの同定は、蛍光標識アンチセンスオリゴヌクレオチドおよび細胞蛍光分析を含むすべての周知の様式を使用して行うことができる。あるいは、意図されたRNAは腫瘍遺伝子に限定される必要はなく、配列および量が疾病のマーカーとして用いることができる多くの他の遺伝子をも含む。適切なRNAマーカーはCEA(癌胎児性抗原)およびPSA(前立腺特異抗原)、v−myc、ki−ras、ha−ras、BRCA−1、BRCA−2をコードするものを含む。
【0061】
RNAはすでに高いコピー数で、高度に濃縮された形態で(例えば血清と比較して、RNA分析に先立って生体液由来の微小胞を単離、濃縮するため)存在し、ドナー細胞の位置とは独立しているため、このような診断分析が、一般に実施されている分析を超える多くの利益を提供することを認識すべきである。それ故、とりわけ好ましい分析液は生体液(例えば、全血、尿、唾液)および生検試料を含む。
【0062】
微小胞中のRNAの存在および/または量は当分野では周知の多くの様式により決定でき、周知の様式のすべては本明細書中の使用に適切と思われる。しかしながら、とりわけ好ましい様式は定量PCR(qPCR)、逆転写PCT(rtPCR)およびRNAが直接的に(または増幅後間接的に)固相とハイブリダイズする遺伝子チップに基づく方法を含む。中でも、このような診断方法は、微小粒子中にあって、疾病(例えば、ウィルス感染、代謝障害または腫瘍性疾患)に関与している、検出可能なRNAに関連する多くの疾病および状態の発見および定量化を補助するであろうことが意図される。ウィルス感染の中で、HIV、HCV、インフルエンザまたはポックスウィルスによる感染は特に意図される。同様に、意図された診断方法は、またさまざまな遺伝性代謝障害(例えば、フェニルケトン尿症(PKU)、低ケトン性低血糖症または糖原病)の発見を可能にする。意図された診断方法は、前立腺癌、大腸癌および乳癌を含むさまざまな(場合により後遺症)腫瘍性疾患(例えば、循環または局所的転移)の発見にまたとりわけ有益である。好ましい定性的および定量的診断分析は、主にRNA含有量に基づくにもかかわらず、どのような診断にも、単離されまたは少なくとも一部濃縮された微小胞集団の使用は、感受性および/または選択性の向上のために有益である可能性があることもまた評価すべきである。
【0063】
本発明の主題のさらなる態様において、発明者らは、微小胞が疾病、素因および/または状態のための追加的マーカーとしての役目をはたしうることを意図し、ここでRNAは診断にだけではなく、疾病の特性または病期、素因および/または状態にも有益である。さらに、脂質、成長因子、リガンド、RNAおよび全体としての他のタンパク質を含むさまざまな微小胞成分相互間の定性的および/または定量的関係は、どれか一つの因子よりも重要と思われる。このことは、現在周知の血清に基づく分析が、通常、一つの分析物(とりわけその分析物がもう一つの分析物に関連している場合には)の源を識別できないので、とりわけ重要である。微小胞は多くの場合、疾病に関連しており、それらの微小胞はさまざまな刺激に応答性を持つと思われることを留意すべきである。したがって、微小胞は、その産生を刺激または低下させる新しい試薬または薬剤を同定するための代理マーカーとして良い候補となるはずである。例えば、RNA以外の微小胞成分が疾病の診断および/または病期にも有益な可能性がある。中でも、転移性癌細胞からin vivoで産生された微小胞はメタロプロテイナーゼ(それらの細胞膜におよび/または微小胞中に)を持っているかもしれない。したがって、多くの転移性細胞がメタロプロテイナーゼを発現することは周知なので、微小胞はそれらの細胞/臓器特異性マーカーにより単離でき、その後さらにタンパク質分解活性について(例えば、さまざまな蛍光標識基質を用いて)分析することが出来る。
【0064】
したがって、発明者らは、ドナー細胞由来の、少なくとも一つのRNAを取り込む微小胞を含有するキット、組成物および方法を意図する。その組成物に関連するのは(例えば、添付文書としてまたは組成物を入れる容器上)、RNAの機能および性質のすくなくとも一つを提供する情報である。微小胞はさらに、膜結合タンパク質、細胞質タンパク質、核タンパク質および膜脂質成分を含む、一つまたはそれ以上の追加成分を含むことができ、その場合、その追加成分は、微小胞に接触する細胞上に所望の効果(例えば、細胞を識別可能にする、薬剤またはウィルスの取り込みに感受性を持たせる、など)を有する。最も好ましくは、微小粒子およびこのようなキットは、特定の効果を与えることが周知のRNAを含む複数の微小胞を提供する受容細胞を修飾する方法に用いることができる。そのとき、受容細胞はRNAを受容細胞の中に送達し、結果として受容細胞を修飾するために十分量の微小胞に接触させられる。別の見方をすれば、適切なキットは有核ドナー細胞由来の微小胞からなるキットをも含むことができ、さらに受容細胞中で所望の効果を発揮するために、in vitroで微小胞と受容細胞とを組み合わせるための、組成物に関連する情報を含んでいる。このような、および他のキットはそれ故、組成物をin vitro使用(「in vitro」という用語は本明細書中で使用する場合ex vivoをも含む)で用いるための、組成物に関連した情報を含むことができる。
【0065】
それ故、意図された組成物およびキットは、ドナー細胞由来の少なくとも一つのRNAを有する微小胞を含む組成物を提供すること、およびRNAの機能および性質の少なくとも一つを提供する、組成物に関連した情報を提供すること、により市販される。微小胞がin vitroで用いられる場合、所望の効果を発揮するために、微小胞とin vitro成長培地とを組み合わせるための、組成物に関連する情報とともに、微小粒子がキットの組成物中に提供されることが意図される。したがって、とりわけ好ましい成長培地は、保存微小胞を含む粉末培地製剤を含む。
【0066】
さらに意図された態様において、哺乳動物における状態の診断方法は、哺乳動物から単離された複数の微小胞を含む試料が提供される一つの段階を有し、微小胞のすくなくとも一つは状態の周知の病因学的要素であるRNAを取り込む。もう一つの段階において、試料中のRNAの存在および/または量を決定し、そのRNAの存在および/または量は場合によっては哺乳動物の状態に関連する。「周知の病因学的要素」という用語は、状態の一因となる調節および/またはタンパク質コード機能を細胞中に有するRNA成分を指す。例えば、意図されたRNA成分は、腫瘍遺伝子に対応するRNA、状態(例えば、ジストロフィン遺伝子における突然変異/削除)に関与している機能不全ポリペプチドを誘導する突然変異遺伝子をコードするRNA、および/またはウィルス核酸(例えば、HIV、HCVまたはHPV)に対応するRNAを含む。
【0067】
いくつかの出版物および特許に基づき、細胞は年齢とともに生理機能に関して変化することが示唆される。ここで、発明者らは微小胞形成および内容物はそれに応じて変化するであろうこと、及びこのような変化は老化作用の観察に使用される可能性を意図する。あるいは、微小胞産生および/またはRNA内容物は、薬剤の同定、食物および/または体内で微小胞の産生を減少させる処置に対する代理マーカーとして用いることができ、これは結局、ヒトの健康に有利になりうる。あるいは、VEI(ウィルス侵入阻害剤)と同様に、微小胞の産生および/または融合を抑制するために薬剤が選択および/または投与でき、または患者の中の微小胞の濃度を低下させるために透析を用いることができる。したがって、さらに別の見方をすると、微小胞の産生および/または含有量は時間および刺激依存性であり、したがって薬理学および毒物学研究(例えば、代理マーカーとして役目を果たす)に有益である。
【0068】
生物から単離された場合、微小胞は異種の集団を代表していると思われるので、単離された微小胞は一つまたはそれ以上のマーカー(例えば、FACSまたはアフィニティー分離を介して)の効力によって分析できることを評価すべきである。このような分別的に単離された微小胞は、したがって、特異性が向上した治療用医薬品または診断用医薬品として用いることができる。もちろん、集団における差異は疾病および病状、特定のドナー細胞および/またはドナー細胞年齢を反映している。例えば、一つの癌病巣/腫瘍からの癌細胞亜集団は大部分、腫瘍の腫瘍原性、攻撃性、転移能などに特徴的であることが報告されている。このような細胞は今や細胞表面マーカーにより同定され、特徴(クローン性増殖、走化性分析、in vivo腫瘍原性分析、インベージョンアッセイなど)の分別に関してin vivoまたはin vitroで検査される。単発性腫瘍から誘導された腫瘍細胞由来の微小胞は、その腫瘍由来の異なる細胞の一部から生じたので、全く違う可能性があること、およびこれらの微小胞の特徴および分析は、よりよい調査、診断または薬剤標的を可能にすることを認識することは重要である。
【実施例】
【0069】
実験
胚性幹細胞微小胞からの単離およびRNA決定
微小胞は胚細胞(胚細胞系)およびヒト血小板から、標準手順を用いて高速遠心分離により単離した。微小胞からのRNAの単離のために、幹細胞との比較として等量の微小胞を用いた。選択した遺伝子のためのプライマーをSCL、Nanog、4−OCT、GATA−4、Rex−1を含むさまざまな転写因子に関するRNAを増幅するために選んだ。図1は、幹細胞由来と微小胞由来との選択されたRNAが増幅されたリアルタイムPCRの結果を示している。微小胞は通常、培養液中、約10〜10/細胞の濃度で以下の実験に用いた。
【0070】
見て明らかにわかるように、選択された転写因子に対応するcDNAの増幅は親胚細胞中より微小胞中において顕著に高いことが示された。これは、微小胞がRNAを含むだけでなく、微小胞中のRNA濃度が親ドナー細胞中より顕著に高い、という発見を支持するための納得のいくデータを提供する。
【0071】
新鮮および保存微小胞におけるRNAの安定性
微小胞は上記のように幹細胞から新鮮なものを調製し、微小胞の一部を凍結乾燥し、他の部分は4℃にて維持した。1日後、RNAを微小胞から標準RNA単離キット(例えば、Quiagen)を使用して抽出し、選択した標的RNAを増幅し、ゲル電気泳動にかけた。図2は凍結乾燥した微小胞製剤中のRNAの安定性を表すオートラジオグラフを示している。同等の分析を使用して、任意の微小胞のRNA内容物は(定性的におよび定量的に)容易に追跡でき、確定できる。
【0072】
微小胞によるRNA転写
胚様体の発達は、とりわけ膜発現分子および他の分子による胚性幹細胞(ES)間の密接な細胞間相互作用により調節されるので、ES由来MV(ESMV)が、標的細胞の生物学に影響し、細胞間連絡において重要な役割を果たす一つまたはそれ以上の幹細胞特異的分子の発現に至らせた、あるいは至らせ得ることが意図される。この仮説を検証するために、マウスES細胞(ES−D3)およびヒトES細胞(CCTL14)から収集した馴化培地からESMVを単離し、遠心分離により可溶性因子を洗い流し、ESMVおよび増幅細胞(Oct−4、Nanog、Rex−1、SCL)の双方の中の初期転写調節タンパク質に関してmRNAの発現を分析した。
【0073】
ESMVを介したmRNA(ここではOct−4)転写を受けた細胞に関してウエスタンブロットおよびqPCR分析を行った。受容細胞は骨髄(BM)由来Sca−1+linCD45+細胞である。結果は、図3の右パネルに示したように、微小胞のRnase処理でOct−4は無傷で残るので、明らかに微小胞がmRNAを取り込むことを実証している。左のパネルは、未処理の受容細胞はOct−4の発現を欠いているが、Oct−4をコードするmRNAを含むことが周知のESMVとともに細胞を接種すると、Oct−4を発現することを明らかに示している。
【0074】
造血幹細胞を刺激および増殖するためのESMVの使用
際立ったことは、MVを介して受容細胞に転写されたmRNAが、また他のマーカーへ顕著な影響(直接的または間接的)を与えたことである。図4はESMVにより増殖された受容細胞における成長因子の発現の例示的パネルを示す。ここで、Wnt−3および選択された初期転写因子(Oct−4、Rex−1、Nanog、HoxB4)のmRNA発現は、マウス骨髄(BM)由来のScakitlin‐造血幹細胞の増殖の間(5日目(n=4))に測定した。図4におけるバーは受容細胞における選択された成長因子の発現における倍数差を示しており、ここで対照は成長因子(+GFs)を使用して培地で成長させた細胞であり、E−MVはマウスの胚性幹細胞由来の微小胞による処理を表す。
【0075】
驚くべきことに、図5に示すように幹細胞の増殖は顕著に影響を受けた。ここで、未処理細胞を対照として使用し、成長因子により処理された細胞をGFで標記し、微小胞(上記参照)で処理した細胞をESMVで示した。明らかに、12日目には対照および成長因子処理由来のコロニーの数は予想水準のままであったのに対して、ESMV処理細胞由来のコロニーに数は顕著に増加した。驚いたことに、成長因子(GF)処理群と比較してESMV処理群中のほうが細胞増殖は低かった。さらに驚いた発見(データは示さず)では、発明者らは、微小胞が低温保存中および低温保存からの回復において細胞生存能力を向上させる効果があることを発見した。
【0076】
このようにして、RNA含有微小胞の具体的な実施形態および応用が開示された。しかしながら、当業者には、すでに述べたものの他に、本明細書における発明概念から離れることなく、さらに多くの修正形態が可能であることは明らかなはずである。したがって、本発明の主題は付記の請求の範囲の精神を除いて限定されるものではない。さらに明細書および特許請求の範囲の双方の解釈において、すべての用語は背景と一致する最も広い可能な様式で解釈すべきである。特に「含む」および「含むこと」という用語は、非排除的な様式において、要素、成分、または段階を示しており、参照された要素、成分、または段階は存在し、利用され、または明白に参照されていない他の要素、成分または段階と組み合わせられることを表すと解釈すべきである。その上に、本発明の一部を構成するものとして援用する参照文献中の用語の定義または使用が、本明細書中に与えられたその用語の定義と矛盾または相反する場合は、本明細書中の与えられたその用語の定義を適用し、参照文献中のその用語の定義は適用しないものとする。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】選択されたドナー細胞中のRNA種およびドナー細胞由来の微小胞の相対量を表したグラフである。
【図2】凍結乾燥微小胞由来のRNAの完全性を実証するオートラジオグラフである。
【図3】微小胞により提供されたRNA由来の受容細胞における遺伝子発現、および微小胞のRNAse処理後のRNAの完全性を明示したオートラジオグラフである。
【図4】ES微小胞により処理した細胞における様々な遺伝子の発現の差を、成長因子により処理した対照細胞に対して表したグラフである。
【図5】成長因子により処理した対照細胞に対するES微小胞により処理した細胞のクローン原性の増加を例示するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小胞が少なくとも一つのRNAを取り込んでいる、ドナー細胞由来の微小胞を含む組成物;および
RNAの機能および性質の少なくとも一つを提供する、該組成物に関連する情報
を含むキット。
【請求項2】
ドナー細胞が、幹細胞、分化細胞、病的細胞およびアポトーシス細胞からなる群から選択される請求項1のキット。
【請求項3】
ドナー細胞が組み換えDNAを含む請求項1のキット。
【請求項4】
組み換えDNAが、少なくとも一つのRNA、分泌タンパク質および膜結合タンパク質からなる群から選択される分子をコードする請求項1のキット。
【請求項5】
RNAの機能が調節機能およびタンパク質コード機能の少なくとも一つである請求項1のキット。
【請求項6】
微小胞が、膜結合タンパク質、細胞質タンパク質、核タンパク質および膜脂質成分からなる群から選択される少なくとも一つの追加成分をさらに含み、該追加成分が該微小胞と接触する細胞に所望の効果を有する請求項1のキット。
【請求項7】
情報が所望の効果を同定する請求項6のキット。
【請求項8】
受容細胞を修飾する方法であって、
特定の効果を与えることが周知であるRNAを取り込んだ複数の微小胞を提供すること、および
該受容細胞を、該RNAを該受容細胞の中に送達するための十分な量で該微小胞とを接触させ、結果として該受容細胞を修飾すること、
を含む方法。
【請求項9】
微小胞が、幹細胞、分化細胞、病的細胞およびアポトーシス細胞からなる群から選択される、場合によっては組み換え体である細胞から単離された請求項8の方法。
【請求項10】
特定の効果がアンチセンスハイブリダイゼーション、RNA干渉、細胞質ゾルタンパク質の発現および膜結合タンパク質の発現からなる群から選択される請求項8の方法。
【請求項11】
微小胞が受容細胞と同一の細胞型から単離された請求項8の方法。
【請求項12】
微小胞がさらに、膜結合タンパク質、細胞質タンパク質、核タンパク質および膜脂質成分からなる群から選択される少なくとも一つの追加成分を含み、該追加成分がさらに受容細胞を修飾する請求項8に記載の方法。
【請求項13】
製品を市販する方法であって、
微小胞が少なくとも一つのRNAを有する、ドナー細胞由来の微小胞を含む組成物を提供すること;および
該RNAの機能と性質の少なくとも一つを提供する、該組成物に関連する情報を提供すること
を含む方法。
【請求項14】
微小胞が、幹細胞、分化細胞、病的細胞およびアポトーシス細胞からなる群から選択される、場合によっては組み換え体である細胞から単離された請求項13の方法。
【請求項15】
RNAの機能が調節機能およびタンパク質コード機能の少なくとも一つである請求項13の方法。
【請求項16】
微小胞が、膜結合タンパク質、細胞質タンパク質、核タンパク質および膜脂質成分からなる群から選択される少なくとも一つの追加成分を含む、という情報をさらに含む請求項13の方法。
【請求項17】
有核ドナー細胞由来の微小胞を含む組成物;および
受容細胞中で所望の効果を発揮するためにin vitroで該微小胞と該受容細胞とを組み合わせるための、該組成物に関連する情報
を含むキット。
【請求項18】
微小胞が保存形態である請求項17のキット。
【請求項19】
微小胞が幹細胞、分化細胞、病的細胞およびアポトーシス細胞からなる群から選択される、場合によっては組み換え体である細胞から単離された請求項17のキット。
【請求項20】
ドナー細胞と受容細胞の細胞型が同一である請求項17のキット。
【請求項21】
所望の効果が、継代数の増加、ウィルス感染に対する感受性の増加、分化の遅延、血清に対する要求の低減および成長因子に対する要求の低減の少なくとも一つである請求項17のキット。
【請求項22】
所望の効果が少なくとも部分的に微小胞の少なくとも一つの成分に起因し、該成分が、RNA、膜結合タンパク質、細胞質タンパク質、核タンパク質および膜脂質成分からなる群から選択される、という情報を提供する段階をさらに含む請求項17のキット。
【請求項23】
ドナー細胞由来の微小胞を含む組成物、および
所望の効果を発揮するために該微小胞とin vitro成長培地とを組み合わせるための、該組成物に関連する情報
を含むキット。
【請求項24】
所望の効果が、培地中で成長する細胞の継代数の増加、培地中で成長する細胞の血清に対する要求の低減、培地中で成長する細胞の成長因子に対する要求の低減および培地中で成長する細胞の分化の遅延である請求項23のキット。
【請求項25】
微小胞が、幹細胞、分化細胞、病的細胞およびアポトーシス細胞からなる群から選択される、場合によっては組み換え体である細胞から単離された請求項23のキット。
【請求項26】
微小胞が脱水された形態である請求項23のキット。
【請求項27】
保存微小胞を含む粉末培地製剤。
【請求項28】
微小胞が、幹細胞、分化細胞、病的細胞およびアポトーシス細胞からなる群から選択される、場合によっては組み換え体である細胞から単離された請求項27の粉末培地。
【請求項29】
微小胞が、該微小胞を含まない同一培地と比較して、培地中で成長する細胞の継代数の増加、培地中で成長する細胞の血清に対する要求の低減、培地中で成長する細胞の成長因子に対する要求の低減および培地中で成長する細胞の分化の遅延、の少なくとも一つを提供するために十分な量で存在する請求項27の粉末培地。
【請求項30】
有核ドナー細胞からの微小胞を含む組成物、および
in vitro使用で該組成物を使用するための該組成物に関連する情報、
を含むキット。
【請求項31】
微小胞が、幹細胞、分化細胞、病的細胞およびアポトーシス細胞からなる群から選択される、場合によっては組み換え体である細胞から単離された請求項30のキット。
【請求項32】
in vitroの使用がin vitroの細胞培養およびin vitroの細胞トランスフェクションの少なくとも一つを含む請求項30のキット。
【請求項33】
哺乳動物における状態を診断する方法であって、
該哺乳動物から単離された複数の微小胞を含み、
該微小胞の少なくとも一つが該状態の周知の病因成分であるRNAを取り込む試料を提供すること、
該試料中のRNAの存在および量の少なくとも一つを決定すること、および
場合によっては該RNAの該存在および該量の少なくとも一つと該状態とを関連付けること、
を含む方法。
【請求項34】
試料が哺乳動物の生体液から単離された請求項33の方法。
【請求項35】
RNAの存在および量の少なくとも一つを決定する段階が、RT−PCR、Q−PCR、および固相上での該RNAのハイブリダイゼーションの少なくとも一つを含む請求項33の方法。
【請求項36】
RNAが、ウィルス感染、代謝障害および腫瘍性疾患の少なくとも一つと関連のある配列を有する請求項33の方法。
【請求項37】
ウィルス感染が、HIV感染、HCV感染およびポックスウィルス感染からなる群より選択され、代謝障害がフェニルケトン尿症、低ケトン性低血糖症および糖原病からなる群より選択され、腫瘍性疾患が前立腺癌、大腸癌および乳癌からなる群から選択される請求項36の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−501336(P2008−501336A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515063(P2007−515063)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/010674
【国際公開番号】WO2005/121369
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(506400362)ソースフアーム・インコーポレイテツド (1)
【Fターム(参考)】