説明

SAW素子片およびSAWデバイス

【課題】フィルタ特性の急峻性を高め、通過帯域の近傍減衰量を向上したSAW素子片およびSAWデバイスを提供する。
【解決手段】SAW素子片10は、SAWの伝搬方向に沿って配置した複数のIDT20を圧電基板12上に設けている。そして、少なくとも1つのIDT20は、SAWを励振する電極セル22と、SAWを励振せずにSAWを反射する電極セル24とを備えている。このSAWを励振する電極セル22のピッチLaと、SAWを励振せずにSAWを反射する電極セル24のピッチLcとは、La<Lcの関係を満たしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタを構成する弾性表面波(SAW)素子片およびSAWデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルタを構成しているSAW素子片は、複数のすだれ状電極(IDT)と反射器を圧電基板上に設けている。各IDTは、1対の櫛部で構成してあり、各櫛部を構成している電極指を互いに噛み合せて形成してある。そしてIDTに電気信号を供給すると圧電基板にSAWが励起し、伝搬していく。また反射器は、複数の導体ストリップを有しており、導体ストリップの周期構造により特定の周波数領域のSAWを反射するストップバンドを形成している。これにより、このストップバンド内の周波数を有するSAWが反射器で反射されて、反射器間にSAWの定在波が生じる。IDTは、この定在波を受信すると電気信号に変換して出力する。
【0003】
そして特許文献1は、SAWフィルタについて開示している。このSAWフィルタは、圧電基板の主表面上に3つのIDTと、これらのIDTの両側に反射器を配設している。これらのIDTのうちの中央に配置してあるものは、隣接する2本の電極指をIDT全体に亘って均等に間引きしてあり、間引きした位置に短絡グレーティングが配設してある。このような構成にすることにより、このSAWフィルタは、フィルタ特性の通過域の平坦化と挿入損失の低減を図っている。
【特許文献1】特開2002−353777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した特許文献1のSAWフィルタは、中央に配置したIDT内に短絡グレーティングを配設している。この短絡グレーティングは、SAWを励起せずに反射をするから、これの周期構造に応じたストップバンドを形成している。しかし特許文献1では、IDTを構成する電極指のピッチや短絡グレーティングのピッチ、反射器を構成する導体ストリップのピッチについて言及していない。このため、この特許文献1を読んだ当業者は、IDTを構成する電極指のピッチと短絡グレーティングのピッチとを同じにすると考えられる。そしてIDTを構成する電極指のピッチと短絡グレーティングのピッチとを同じにすると、反射器と短絡グレーティングの各ストップバンドの中心周波数が異なる場合がある。
【0005】
図11は従来技術に係るストップバンドを示すグラフである。図11(A)は反射器のストップバンドを示すグラフであり、図11(B)は短絡グレーティングのストップバンドを示すグラフである。そして図11(A),(B)の縦軸は挿入損失を示している。また横軸は周波数であり、SAWフィルタの中心周波数f0から±10MHzの範囲を示している。なお図11は、IDTを構成する電極指のピッチをLa、短絡グレーティングのピッチをLc、反射器を構成する導体ストリップのピッチをLrとしたときに、Lr=1.02La,La=Lcとしたときのグラフである。図11(A)に示す反射器のストップバンドは、その中心周波数をSAWフィルタの中心周波数f0に合わせている。しかし短絡グレーティングは、従来、そのストップバンドについて全く考慮されていないので、これのピッチとIDTを構成する電極指のピッチとが同じになっていると、図11(B)に示すように、そのストップバンドの中心周波数がSAWフィルタの中心周波数f0からずれてしまっていた。このように、IDTの構成中に短絡グレーティングを設けても、これの反射がフィルタの構成に寄与していないので、フィルタ特性の急峻性が悪く、通過帯域の近傍減衰量が悪くなっていた。
【0006】
本発明は、フィルタ特性の急峻性を高め、通過帯域の近傍減衰量を向上したSAW素子片およびSAWデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るSAW素子片は、SAWの伝搬方向に沿って複数のIDTを圧電基板上に設け、少なくとも1つのIDTは、SAWを励振する電極セルと、SAWを励振せずにSAWを反射する電極セルとを備え、SAWを励振する電極セルのピッチLaと、SAWを励振せずにSAWを反射する電極セルのピッチLcとは、La<Lcの関係を満たすことを特徴としている。このようにピッチLaとピッチLcとの関係を規定したので、フィルタ特性の急峻性を高めることができ、通過帯域の近傍減衰量を改善することができる。
【0008】
前述したピッチLaとピッチLcとの比La/Lcは、0.955<La/Lc≦0.99の関係を満たすことを特徴としている。このようにピッチLaとピッチLcとの比La/Lcを規定したので、従来のSAWフィルタの最も良い急峻性よりも、本発明のSAW素子片は急峻性を良くすることができる。
【0009】
また本発明に係るSAW素子片は、SAWの伝搬方向における複数のIDTを挟み込む位置に複数の導体ストリップを備えた反射器を設け、2本の導体ストリップで構成する電極セルのピッチLrは、Lr≒Lcの関係を満たすことを特徴としている。これによりピッチLa、ピッチLcおよびピッチLrは、La<Lc≒Lrの関係を満たし、ピッチLaとピッチLrとの比La/Lrは、0.955<La/Lr≦0.99の関係を満たす。よってピッチLa、ピッチLc、ピッチLrの関係を規定したので、SAWを反射する機能のみを持つ電極セルのストップバンドの中心周波数を、反射器のストップバンドの中心周波数と一致または略一致することができ、フィルタ特性の急峻性が高まるとともに近傍減衰量が改善される効果がある。
【0010】
また本発明に係るSAW素子片は、SAWの伝搬方向における複数のIDTを挟み込む位置に複数の導体ストリップを備えた反射器を設け、IDTの一方の端部側に配設された反射器の電極セルのピッチLr1と、IDTの他方の端部側に配設された反射器の電極セルのピッチLr2とは異なり、ピッチLr1とピッチLr2とを平均したピッチLraは、Lra≒Lcの関係を満たすことを特徴としている。これによりSAWを反射する機能のみを持つ電極セルのストップバンドの中心周波数を、反射器のストップバンドの中心周波数と一致または略一致することができ、フィルタ特性の急峻性が高まるとともに近傍減衰量が改善される効果がある。
【0011】
また本発明に係るSAW素子片は、SAWを励振せずにSAWを反射する電極セルを構成する各電極指は互いに短絡し、反射器を構成する各導体ストリップは互いに短絡していることを特徴としている。これにより各電極セルでの反射量が大きくなり、同じ電極指や導体トリップの対数であればSAW素子片のフィルタ特性がより急峻になるとともに低い挿入損失になる。また反射量が増大するので、電極指や導体ストリップを開放した場合とフィルタ特性を同一にするならば、反射器の対数を少なくでき、SAW素子片を小型にできる。
【0012】
また本発明に係るSAW素子片は、SAWを励振せずにSAWを反射する電極セルを構成する各電極指は互いに開放し、反射器を構成する各導体ストリップは互いに開放していることを特徴としている。これによりIDTを構成する電極指の両端を接続する部分が不要になるので、バスバー間の距離を縮めることができ、SAW素子片を小型にできる。
【0013】
また本発明に係るSAW素子片は、IDTは、ソリッド電極とスプリット電極とを備え、スプリット電極を用いたSAWを励振する電極セルのピッチLbと、スプリット電極を用いたSAWを励振も反射もしない電極セルのピッチLdとは、Lb=Ldの関係を満たし、ソリッド電極を用いたSAWを励振する電極セルのピッチLaとピッチLbとは、La≠Lbの関係を満たすことを特徴としている。ソリッド電極とスプリット電極を混在してIDTを形成した場合であっても、各電極セルのピッチを規定したので、フィルタ特性の急峻性を高めることができ、通過帯域の近傍減衰量を改善することができる。
【0014】
また本発明に係るSAW素子片は、SAWの伝搬方向に沿って配置した複数のIDTと、SAWの伝搬方向における複数のIDTを挟み込む位置に配置した反射器とを圧電基板上に設け、少なくとも1つのIDTは、SAWを励振する電極セルと、SAWを励振せずにSAWを反射する電極セルとを備え、SAWを励振せずにSAWを反射する電極セルのストップバンドの中心周波数と、反射器のストップバンドの中心周波数とを一致または略一致させたことを特徴としている。これによりSAWを励振せずにSAWを反射する電極セルが、フィルタ特性に寄与することができる。よってフィルタ特性の急峻性を高めることができ、通過帯域の近傍減衰量を改善することができる。
【0015】
また本発明に係るSAWデバイスは、前述したSAW素子片をパッケージで保持したことを特徴としている。これにより前述したSAW素子片を安定した状態で保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係るSAW素子片およびSAWデバイスの実施形態について説明する。図1はSAW素子片の概略平面図である。SAW素子片10は、複数のIDT20と反射器30を圧電基板12上に設けている。各IDT20は、励振されたSAWの伝搬方向に沿って設けてある。また反射器30は、SAWの伝搬方向における複数のIDT20を挟み込む位置に設けてある。
【0017】
図2はIDTを構成する電極セルの説明図である。各IDT20は、複数の電極セルを組み合わせて形成してある。この電極セルは、SAWを励振する電極セル(以下「励振用の電極セル」という。)22と、SAWを励振せずにSAWを反射する電極セル(以下「反射用電極セル」という。)24とが有る。そして各IDT20は、励振用の電極セル22を備えるとともに、複数のIDT20のうちの少なくとも1つは、反射用電極セル24を備えている。すなわち少なくとも1つのIDT20は、励振用の電極セル22と、反射用電極セル24とが混在している。
【0018】
図2(A)はSAWを励振する電極セルの平面図である。この励振用の電極セル22は、ソリッド電極を用いた電極セルになっており、SAWが伝搬する方向のピッチ(長さ)がLaになっている。また励振用の電極セル22は一対のバスバー26を有しており、このバスバー26間に2本の電極指28を備えている。そして一方の電極指28aが一方のバスバー26aに接続しており、他方の電極指28bが他方のバスバー26bに接続している。これにより励振用の電極セル22は、電極指28の基端をバスバー26に接続した櫛部を1対有し、各櫛部の電極指28を互いに交差させた構成になる。そして一方の電極指28aと他方の電極指28bの間隔はLa/2になっている。また励振用の電極セル22の端部と、これに隣接する電極指28との間隔は、La/4になっている。
【0019】
また図2(B)ないし(D)は、SAWを励振せずにSAWを反射する電極セルの平面図である。この反射用電極セル24(241,242,243)は、ソリッド電極を用いた電極セルになっており、SAWが伝搬する方向のピッチ(長さ)がLcになっている。
【0020】
そして図2(B)に示す反射用電極セル241は一対のバスバー26を有しており、このバスバー26間に2本の電極指28を配設している。これらの電極指28はバスバー26に接続してないためバスバー26に電気信号が供給されても電極指28には供給されず、SAWを励起することはない。また電極指28がSAWの導波路に配設されているので、SAWを反射することになる。そして各電極指28は、一方の端部で互いに導通して同電位になっている。すなわち各電極指28は電気的に短絡(ショート)された状態となっている。なお各電極指28は、両方の端部で互いに導通して同電位になっていてもよい。このような電極指28は、互いの間隔がLc/2になっている。また反射用電極セル241の端部と、これに隣接する電極指28との間隔は、Lc/4になっている。
【0021】
また図2(C)に示す反射用電極セル242は、一対のバスバー26を有しており、このバスバー26間に2本の電極指28を配設している。これらの電極指28はバスバー26に接続してなく、また互いに独立して配設してある。このためバスバー26に電気信号が供給されても電極指28には供給されず、SAWを励起することはない。また電極指28がSAWの導波路に配設されているので、SAWを反射することになる。なお電極指28同士の間隔等は、前述した図2(B)と同じになっている。
【0022】
さらに図2(D)に示す反射用電極セル243は、一対のバスバー26を有しており、このバスバー26間に2本の電極指28を配設している。これらの電極指28は、いずれも一方のバスバー26aに接続している。このためバスバー26に電気信号が供給されると各電極指28にも供給されるが、各電極指28が同電位になっているのでSAWを励起することはない。また電極指28がSAWの導波路に配設されているので、SAWを反射することになる。なお電極指28同士の間隔等は、前述した図2(B)と同じになっている。
【0023】
そして励振用の電極セル22のピッチLaは、反射用電極セル24のピッチLcよりも短くなっている。すなわちピッチLaとピッチLcは、La<Lcの関係を満たしている。
【0024】
そして少なくとも1つのIDT20は、図2(A)に示す励振用の電極セル22と、図2(B)ないし(D)に示す反射用電極セル24のうち少なくとも1つとを組み合わせて形成してあればよい。図3はSAW素子片の一例を示す平面図である。なお図3に示す反射用電極セル24は、バスバー26の間に電極指28を設け、この電極指28の両端において互いに導通した形態となっている。また図3では、2つあるIDT20のいずれにおいても、励振用の電極セル22と反射用電極セル24を混在させている。そしてIDT20中の各電極セル22,24の配置は、SAW素子片10の仕様等によって適宜変わるので、コンピュータによるシミュレーションを行って、使用目的に対して最適になるように定めればよい。
【0025】
またSAW素子片10を構成している反射器30は、複数の導体ストリップ32で形成されている。そして図1および図3に示す場合では、導体ストリップ32の各端部同士が接続しており、梯子型の反射器30になっている。このような反射器30では、図3に示すように、2本の導体ストリップ32で構成した電極セル(以下「反射器の電極セル」という。)34を複数備えることで形成してある。この反射器30の電極セル34は、SAWが伝搬する方向のピッチ(長さ)がLrになっている。そして反射器30の電極セル34のピッチLrは、反射用電極セル24のピッチLcと一致または略一致している。すなわちピッチLrとピッチLcは、Lr≒Lcの関係を満たしている。これにより励振用の電極セル22のピッチLa、反射用電極セル24のピッチLcおよび反射器30の電極セル34のピッチLrは、La<Lc≒Lrの関係を満たしている。
【0026】
なお反射器30(30a,30b)は、IDT20を挟み込む位置に設けてあるが、IDT20の一方の端部側に配設された反射器30aの電極セル34のピッチLr1と、IDT20の他方の端部側に配設された反射器30bの電極セル34のピッチLr2とは異なる場合がある。この場合には、ピッチLr1とピッチLr2とを平均したピッチLraが、反射用電極セル24のピッチLcと一致または略一致していればよい。すなわち平均のピッチLraとピッチLcは、Lra≒Lcの関係を満たしていればよい。
【0027】
そして反射器30の電極セル34のピッチLr(Lra)と反射用電極セル24のピッチLcとを一致または略一致させているので、反射器30のストップバンドの中心周波数と、反射用電極セル24のストップバンドの中心周波数が一致または略一致している。図4はストップバンドを示すグラフである。ここで図4(A)は反射器のストップバンドを示すグラフであり、図4(B)は反射用電極セルのストップバンドを示すグラフである。そして図4(A),(B)の縦軸は挿入損失を示している。また横軸は周波数であり、フィルタの中心周波数f0から±10MHzの範囲を示している。なお図4は、Lr=1.02La,Lr=Lcとしたときのグラフである。
【0028】
図4(A)に示す反射器30のストップバンドは、その中心周波数がフィルタの中心周波数f0と合っている。また図4(B)に示す反射用電極セル24のストップバンドは、その中心周波数がフィルタの中心周波数f0と合っている。これによりピッチLrとピッチLcがLr≒Lcの関係を満たすことにより、反射器30のストップバンドの中心周波数と、反射用電極セル24のストップバンドの中心周波数が略一致することがわかる。
【0029】
図5はフィルタの急峻性を説明する図である。図5の縦軸はBW15/BW3を示している。このBW15/BW3は、フィルタ特性の最小挿入損失から3dB下がったところの帯域幅(BW3)と、15dB下がったところの帯域幅(BW15)との比を示している。そしてBW15/BW3が1.0になるときが、急峻性が最も良くなっている。また図5の横軸は、励振用の電極セルのピッチLaと反射器の電極セルのピッチLrとの比(La/Lr)を示している。
【0030】
図5に示す円マーク(●)は、本実施形態に係るSAW素子片10(ピッチLcとピッチLrが等しいとき)であり、ピッチLaとピッチLrの比を変えたときの急峻性を示している。また図5に示す三角マーク(△)は、励振用の電極セル22のピッチLaと反射用電極セル24のピッチLcとを同じにし、これらと反射器30の電極セル34のピッチLrとの比を変えたときの急峻性を示している。なお励振用の電極セル22のピッチLa、反射用電極セル24のピッチLcおよび反射器30のピッチLrを全て同じにした場合は、La/Lrが1.00のときの値になる。
【0031】
図5からわかるように、円マーク(●)で示す本実施形態に係るSAW素子片10は、三角マーク(△)で示すピッチLcとピッチLaが等しいとき(従来技術)に比べて急峻性が良くなっている。そしてピッチLaとピッチLrの比La/Lrが0.955より大きく、0.99以下の範囲であれば、三角マーク(△)で示すピッチLcとピッチLaが等しいときの急峻性が最も良いものに比べて、本実施形態に係るSAW素子片10の急峻性が良くなっている。すなわち本実施形態に係るSAW素子片10のようにLa<Lcとすれば、従来技術に係るSAWフィルタに比べて、急峻性が向上することになる。
【0032】
図6はフィルタ特性の図である。図7は、図6に示すフィルタ特性の拡大図である。そして図6および図7の縦軸は挿入損失を示し、横軸は周波数を示している。また図6の横軸は、フィルタの中心周波数f0から±10MHzの範囲を示している。図7の横軸は、フィルタの中心周波数f0から±2.5MHzの範囲を示している。さらに図6および図7に示す実線は本実施形態に係るSAW素子片10のフィルタ特性を示し、破線は従来技術に係るSAWフィルタのフィルタ特性を示している。図6および図7からわかるように、実線で示す本実施形態に係るSAW素子片10のフィルタ特性は、従来技術に係るものに比べて急峻性が高まっており、通過帯域の近傍減衰量が改善されている。
【0033】
以上説明したように、SAW素子片10は、少なくとも1つのIDT20を構成する励振用の電極セル22のピッチLaを反射用電極セル24のピッチLcよりも短くしたので、フィルタ特性の急峻性を高めることができ、通過帯域の近傍減衰量を改善することができる。
【0034】
またSAW素子片10は、反射用電極セル24のピッチLcを反射器30の電極セル34のピッチLr(Lra)と同じまたは略同じにしたので、反射用電極セル24のストップバンドと反射器30のストップバンドの各中心周波数を一致または略一致させることができる。これによりSAW素子片10は、フィルタ特性の急峻性を高めることができ、通過帯域の近傍減衰量を改善することができる。
【0035】
なお前述したSAW素子片10は、図1および図3に示すように、反射器30を設けた構成であるが、実施形態によっては反射器30を設けない構成であってもよい。またSAW素子片10が反射器30を備えている場合は、図3に示すように、反射器30を構成する各導体ストリップ32が互いに短絡していれば、反射用電極セル24を構成する各電極指28を互いに短絡した構成にすればよい。このように構成すると、各電極セルでの反射量が大きくなり、反射用電極セル24を構成する電極指28や導体ストリップ32の対数が同じであればSAW素子片10のフィルタ特性がより急峻になるとともに低い挿入損失になる。また反射量が増大するので、反射用電極セル24を構成する電極指28や導体ストリップ32を開放した場合とフィルタ特性を同一にするならば、反射器30の対数を少なくでき、SAW素子片10を小型にできる。
【0036】
これに対し、反射器30を構成する各導体ストリップ32が互いに開放していれば、反射用電極セル24を構成する各電極指28を互いに開放した構成にすればよい。すなわち反射器30が複数の導体ストリップ32のみで構成してある場合は、例えば図2(C)に示す反射用電極セル242を用いればよい。このように構成すると、反射用電極セル24における電極指28の両端を接続する部分が不要になるので、バスバー26間の距離を縮めることができ、SAW素子片10を小型にできる。
【0037】
また前述したSAW素子片10に用いるIDT20は、ソリッド電極で構成した電極セル22,24のみを用いているが、このIDT20にスプリット電極で構成した電極セルを混在させてもよい。図8はスプリット電極を用いた電極セルの説明図である。
【0038】
図8(A)は、励振用の電極セルの平面図である。この図8(A)に示す励振用の電極セル40は、スプリット電極を用いた電極セルになっており、SAWが伝搬する方向のピッチ(長さ)がLbになっている。この励振用の電極セル40は一対のバスバー26を有しており、このバスバー26間に4本の電極指44を備えている。そして隣接する2本の電極指44aが一方のバスバー26aに接続しており、他の2本の電極指44bが他方のバスバー26bに接続している。これにより励振用の電極セル40は、電極指44の基端をバスバー26に接続した櫛部を1対有し、各櫛部の電極指44を互いに交差させた構成になる。そして各バスバー26に接続した電極指44の互いの間隔はLb/4になっている。また一方のバスバー26aに接続した電極指44aと、これと隣り合っている他方のバスバー26bに接続した電極指44bとの間隔は、Lb/4になっている。また励振用の電極セル40の端部と、これに隣接する電極指44との間隔は、Lb/8になっている。
【0039】
また図8(B)ないし(D)は励振も反射もしない電極セルの平面図である。これらの励振も反射もしない電極セル42(421,422,423)は、スプリット電極を用いた電極セルになっており、SAWが伝搬する方向のピッチ(長さ)がLdになっている。そして図8(B)に示す励振も反射もしない電極セル421は一対のバスバー26を有しており、このバスバー26間に4本の電極指44を備えている。これらの電極指44は、いずれのバスバー26にも接続していないためバスバー26に電気信号が供給されても電極指44には供給されず、SAWを励起することはない。また電極指44がSAWの導波路に配設されているが、スプリット電極と同様に4本の電極指の各電極指からの反射波が相互に打ち消しあって、実質的に反射を生じない。すなわち、励振も反射も生じない。そして各電極指44は、一方の端部で互いに導通して同電位になっている。なお各電極指44は、両方の端部で互いに導通して同電位になっていてもよい。このような電極指44は、互いの間隔がLd/4になっている。また励振も反射もしない電極セル421の端部と、これに隣接する電極指44との間隔は、Ld/8になっている。
【0040】
また図8(C)に示す励振も反射もしない電極セル422は、一対のバスバー26を有しており、このバスバー26間に4本の電極指44を備えている。これらの電極指44はバスバー26に接続してなく、互いに独立して配設してある。このためバスバー26に電気信号が供給されても電極指44には供給されず、SAWを励起することはない。また電極指44がSAWの導波路に配設されているが、4本の電極指の各電極指からの反射波が相互に打ち消しあって、実質的に反射を生じない。すなわち、励振も反射もしない。なお電極指44同士の間隔等は、前述した図8(B)と同じになっている。
【0041】
さらに図8(D)に示す励振も反射もしない電極セル423は、一対のバスバー26を有しており、このバスバー26間に4本の電極指44を備えている。これらの電極指44は、いずれも一方のバスバー26aに接続している。このためバスバー26に電気信号が供給されると各電極指44にも供給されるが、各電極指44が同電位になっているのでSAWを励起することはない。また電極指44がSAWの導波路に配設されているが、4本の電極指の各電極指からの反射波が相互に打ち消しあって、実質的に反射を生じない。すなわち、励振も反射もしない。なお電極指44同士の間隔等は、前述した図8(B)と同じになっている。
【0042】
そして励振用の電極セル40のピッチLbは、励振も反射もしない電極セル42のピッチLdと同じになっている。またソリッド電極を用いた励振用の電極セル22のピッチLaとピッチLbとは、La≠Lbの関係を満たしている。
【0043】
そして少なくとも1つのIDT20は、ソリッド電極を用いた励振用の電極セル22およびスプリット電極を用いた励振用の電極セル40のうち少なくともいずれか一方を備えるとともに、前述したソリッド電極を用いた反射用電極セル24および前述したスプリット電極を用いた励振も反射もしない電極セル42のうち少なくともいずれか一方を備えている。図9はスプリット電極を混在させたSAW素子片の一例を示す平面図である。図9に示すSAW素子片10は、ソリッド電極を用いた励振用の電極セル22、ソリッド電極を用いた反射用電極セル24およびスプリット電極を用いた励振用の電極セル40で一方のIDT20(図9の右側に示すもの)を構成するとともに、ソリッド電極を用いた励振用の電極セル22、ソリッド電極を用いた反射用電極セル24、スプリット電極を用いた励振用の電極セル40およびスプリット電極を用いた励振も反射もしない電極セル42で他方のIDT20(図9の左側に示すもの)を構成している。そしてIDT20中の各電極セル22,24,40,42の配置は、SAW素子片10の仕様等によって適宜変わるので、コンピュータによるシミュレーションを行って、使用目的に対して最適になるように定めればよい。このようなSAW素子片10としても、ソリッド電極のみで構成したSAW素子片と同じ効果を得ることができる。
【0044】
そして、以上説明したSAW素子片10は、パッケージで保持されてSAWデバイスを構成することができる。図10はSAWデバイスの概略断面図である。SAWデバイス50は、SAW素子片10を収容するパッケージ52を有している。パッケージ52は、パッケージベース54とリッド66を備えている。このパッケージベース54は、上方に向けて開口した凹陥部56を有しており、この凹陥部56の底面にパッド電極58が設けてある。またパッケージベース54の裏面に外部端子60が設けてあり、この外部端子60とパッド電極58が導通している。そしてSAW素子片10は、接着剤62等を用いて凹陥部56の底面に固着してある。このときIDT20は上方に向いており、IDT20のバスバー26等とパッド電極58にワイヤ64を接合して、これらが導通している。またリッド66は、パッケージベース54の上側に固着しており、凹陥部56内を封止している。このような構成のSAWデバイス50にすることにより、外部環境の状態にかかわらずSAW素子片10を安定した状態で保持することができ、また電子機器に搭載し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】SAW素子片の概略平面図である。
【図2】IDTを構成する電極セルの説明図である。
【図3】SAW素子片の一例を示す平面図である。
【図4】ストップバンドを示すグラフである。
【図5】フィルタの急峻性を説明する図である。
【図6】フィルタ特性の図である。
【図7】図6に示すフィルタ特性の拡大図である。
【図8】スプリット電極を用いた電極セルの説明図である。
【図9】スプリット電極を混在させたSAW素子片の一例を示す平面図である。
【図10】SAWデバイスの概略断面図である。
【図11】従来技術に係るストップバンドを示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
10…SAW素子片、12…圧電基板、20…IDT、22,40…励振用の電極セル、24…反射用電極セル、28,44…電極指、30…反射器、32…導体ストリップ、34…反射器の電極セル、42…励振も反射もしない電極セル、50…SAWデバイス、52…パッケージ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SAWの伝搬方向に沿って複数のIDTを圧電基板上に設け、
少なくとも1つの前記IDTは、SAWを励振する電極セルと、SAWを励振せずにSAWを反射する電極セルとを備え、
前記SAWを励振する電極セルのピッチLaと、前記SAWを励振せずにSAWを反射する電極セルのピッチLcとは、La<Lcの関係を満たす、
ことを特徴とするSAW素子片。
【請求項2】
前記ピッチLaと前記ピッチLcとの比La/Lcは、0.955<La/Lc≦0.99の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載のSAW素子片。
【請求項3】
SAWの伝搬方向における複数の前記IDTを挟み込む位置に複数の導体ストリップを備えた反射器を設け、
2本の前記導体ストリップで構成する電極セルのピッチLrは、Lr≒Lcの関係を満たす、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のSAW素子片。
【請求項4】
SAWの伝搬方向における複数の前記IDTを挟み込む位置に複数の導体ストリップを備えた反射器を設け、
前記IDTの一方の端部側に配設された前記反射器の電極セルのピッチLr1と、前記IDTの他方の端部側に配設された前記反射器の電極セルのピッチLr2とは異なり、
前記ピッチLr1と前記ピッチLr2とを平均したピッチLraは、Lra≒Lcの関係を満たす、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のSAW素子片。
【請求項5】
前記SAWを励振せずにSAWを反射する電極セルを構成する各電極指は互いに短絡し、前記反射器を構成する前記各導体ストリップは互いに短絡していることを特徴とする請求項3または4に記載のSAW素子片。
【請求項6】
前記SAWを励振せずにSAWを反射する電極セルを構成する各電極指は互いに開放し、前記反射器を構成する前記各導体ストリップは互いに開放していることを特徴とする請求項3または4に記載のSAW素子片。
【請求項7】
前記IDTは、ソリッド電極とスプリット電極とを備え、
スプリット電極を用いたSAWを励振する電極セルのピッチLbと、スプリット電極を用いたSAWを励振も反射もしない電極セルのピッチLdとは、Lb=Ldの関係を満たし、
ソリッド電極を用いた前記SAWを励振する電極セルのピッチLaと前記ピッチLbとは、La≠Lbの関係を満たす、
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のSAW素子片。
【請求項8】
SAWの伝搬方向に沿って配置した複数のIDTと、SAWの伝搬方向における複数の前記IDTを挟み込む位置に配置した反射器とを圧電基板上に設け、
少なくとも1つの前記IDTは、SAWを励振する電極セルと、SAWを励振せずにSAWを反射する電極セルとを備え、
前記SAWを励振せずにSAWを反射する電極セルのストップバンドの中心周波数と、前記反射器のストップバンドの中心周波数とを一致または略一致させた、
ことを特徴とするSAW素子片。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載のSAW素子片をパッケージで保持したことを特徴とするSAWデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−98902(P2008−98902A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277571(P2006−277571)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】