説明

SiドープGaAs単結晶

【課題】良好なキャリア濃度分布を有するSiドープGaAs単結晶並びにその製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】液体封止剤を用いた縦型ボート法によるSiドープGaAs単結晶の製造方法による結晶育成過程において、適正な時期に液体封止剤層を撹拌することにより、GaAs原料融液層中のSi濃度を制御し、単結晶中の位置を結晶育成過程における結晶の固化率gで表して(1−g)の対数値を横軸にとり、各固化率で特定される位置における単結晶中のキャリア濃度の対数値を縦軸にとったグラフに表される曲線が、固化率gが0.1〜0.8の範囲において、勾配が負の値を持ち、かつその勾配の絶対値が0.6より大きい直線と勾配の絶対値が0.6以下の直線とが接続されたものであるSiドープGaAs単結晶を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受発光素子等の素材として利用されるSiドープGaAs単結晶並びにその製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
受発光素子、高速演算素子、マイクロ波素子等の素材として用いられるn型導電性GaAs(ガリウム砒素)単結晶は、一般にSi(シリコン)がドーパントとして用いられ、結晶中の転位密度を小さくするため横型ボート法や縦型ボート法を用いて製造されている。特に縦型ボート法においては、(100)方位の結晶成長が育成可能であるばかりでなく、円形で大口径の結晶が得られる利点があり、縦型温度傾斜法(VGF法)や縦型ブリッジマン法(VB法)による結晶成長が行われている。
【0003】
ところで、上記GaAs単結晶の原料の1つであるV族元素のAsは、揮発成分であるため、結晶からの解離や分解を防ぐ目的等のために液体封止剤としてB23酸化ホウ素)が用いられている。ところが、B23を液体封止剤として用いる場合、ドーパントであるSiがB23と反応して酸化シリコン(SiO2又はSiO)を形成して結晶中のSi濃
度が制御しにくくなる。このため、所望の好ましいキャリア濃度分布を有するSiドープGaAs単結晶を常に安定して製造することが困難である。この欠点を除去すべく、本発明者等は、予めSi酸化物をドープしたB23を用いて再現性良く所望のキャリア濃度分布を有するSiドープGaAs単結晶を成長させる方法を提案した(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記提案にかかる発明でも、所定のキャリア濃度分布が所定の範囲にある結晶を歩留まり良く製造することは困難である。そこで本発明者らは、歩留まりを向上させるべく予めSi酸化物をドープしたB23とSi酸化物をドープしていないB23の2種類以上のB23を用い、これらを適正な時期に撹拌することによりキャリア濃度分布を制御する方法を提案した(特許文献2参照)。図6はこの提案にかかる従来の製造方法で製造したSiドープGaAs単結晶の固化率をgとして(1−g)の対数値を横軸にとり、単結晶中のキャリア濃度の対数値を縦軸にとった図である。図6に示されるように、キャリア濃度と固化率との関係を示す曲線が極小値又は極大値を持って変化しており、キャリア濃度分布が結晶成長方向で極小値又は極大値を持って変化している。この様な分布は結晶として極めて好ましくないものである。
【0005】
【特許文献1】特公平3−57079号公報
【特許文献2】特願平9−96799号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の背景のもとでなされたものであり、良好なキャリア濃度分布を有するSiドープGaAs単結晶並びにその製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、第1の発明は、液体封止剤を用いた縦型ボート法によって作製されたSiドープGaAs単結晶であって、該単結晶中の位置を結晶育成過程における結晶の固化率gで表して(1−g)の対数値を横軸にとり、各固化率で特定される位置における単結晶中のキャリア濃度の対数値を縦軸にとったグラフに表される曲線が、固化率gが0.1〜0.8の範囲において、勾配が負の値を持ち、かつその勾配の絶対値が0.6より大きい1又は2以上の直線又は直線と見做し得る曲線と勾配の絶対値
が0.6以下の1又は2以上の直線又は直線と見做し得る曲線とが接続されたものであることを特徴とするSiドープGaAs単結晶である。但し、ここにおける勾配とは、前記グラフにおける横軸をx軸、縦軸をy軸とする直交座標において、前記直線又は直線と見做し得る曲線をy=ax+bで現した場合のaの値とする。
【0008】
第2の発明は、第1の発明にかかるSiドープGaAs単結晶において、前記曲線は、固化率gが0.1〜0.4の範囲の第1の直線又は直線と見做し得る曲線と、固化率gが0.4〜0.8の範囲の第2の直線又は直線と見做し得る曲線とを接続したものであり、かつ、第1及び第2の直線又は直線と見做し得る曲線が共に負の勾配を持ち、かつ前記第1の直線又は直線と見做し得る曲線の勾配の絶対値が0.6より大きく、前記第2の直線又は直線と見做し得る曲線の勾配の絶対値が0.6以下であることを特徴とするSiドープGaAs単結晶である。
【0009】
第3の発明は、第1の発明にかかるSiドープGaAs単結晶において、前記曲線は、固化率gが0.1〜0.6の範囲の第1の直線又は直線と見做し得る曲線と、固化率gが0.6〜0.8の範囲の第2の直線又は直線と見做し得る曲線とを接続したものであり、かつ、第1及び第2の直線又は直線と見做し得る曲線が共に負の勾配を持ち、かつ前記第1の直線又は直線と見做し得る曲線の勾配の絶対値が0.6より大きく、前記第2の直線又は直線と見做し得る曲線の勾配の絶対値が0.6以下であることを特徴とするSiドープGaAs単結晶である。
【0010】
第4の発明は、第1の発明にかかるSiドープGaAs単結晶において、前記曲線は、固化率gが0.1〜0.4の範囲の第1の直線又は直線と見做し得る曲線と、固化率gが0.4〜0.75の範囲の第2の直線又は直線と見做し得る曲線と、固化率gが0.75〜0.8の範囲の第3の直線又は直線と見做し得る曲線とを接続したものであり、かつ、第1〜第3の直線又は直線と見做し得る曲線が共に負の勾配を持ち、かつ前記第1及び第3の直線又は直線と見做し得る曲線の勾配の絶対値が0.6より大きく、前記第2の直線又は直線と見做し得る曲線の勾配の絶対値が0.6以下であることを特徴とするSiドープGaAs単結晶である。
【0011】
第5の発明は、液体封止剤を用いた縦型ボート法によるSiドープGaAs単結晶の製造方法であって、るつぼ内に、種結晶、GaAs原料、ドーパント用Si原料及びSi酸化物を予めドープした液体封止剤用原料を収納し、これら原料を溶融して前記GaAs原料層の上に液体封止剤が配置されるようにした後、所定の結晶育成工程を有するSiドープGaAs単結晶の製造方法において、前記液体封止剤層と前記GaAs原料融液層との間でSiの移動を伴う反応が行われ、この反応は、前記液体封止剤層中に含まれるSiの濃度が該液体封止剤層とGaAs原料融液層との界面近傍の下部で高く、この界面から離れて上部にいくにしたがって急激に低くなる状態で平衡になる性質を有する現象を利用し、前記結晶育成過程において、前記液体封止剤層のSi濃度分布を強制的に変化させる操作を行うことにより前記液体封止剤中に取り込むSiの量を制御し、これによって、前記GaAs原料融液層中のSi濃度を制御して良好なキャリア濃度分布を有するSiドープGaAs単結晶を得ることを特徴とするSiドープGaAs単結晶の製造方法である。
【0012】
第6の発明は、第5の発明にかかるSiドープGaAs単結晶の製造方法において、前記液体封止剤層のSi濃度分布を強制的に変化させる操作は、前記結晶育成工程開始後の適正な時期に前記液体封止剤層を撹拌するものであることを特徴とするSiドープGaAs単結晶の製造方法である。
【0013】
第7の発明は、第6の発明にかかるSiドープGaAs単結晶の製造方法において、前記適正な時期は、前記GaAs原料の固化率gが0.3〜0.5の範囲にある時期である
ことを特徴とするSiドープGaAs単結晶の製造方法である。
【0014】
第8の発明は、第6の発明にかかるSiドープGaAs単結晶の製造方法において、前記適正な時期は、前記GaAs原料の固化率gが0.5〜0.6の範囲にある時期であることを特徴とするSiドープGaAs単結晶の製造方法である。
【0015】
第9の発明は、第6の発明にかかるSiドープGaAs単結晶の製造方法において、前記液体封止剤撹拌工程は、前記GaAs原料の固化率gが0.3〜0.5の範囲にある時期と、固化率gが0.5〜0.7の範囲にある時期との2つの時期でそれぞれ行うことを特徴とするSiドープGaAs単結晶の製造方法である。
【0016】
第10の発明は、第6ないし第9のいずれかの発明にかかるSiドープGaAs単結晶の製造方法において、前記液体封止剤は、B23を主成分とするものであることを特徴とするSiドープGaAs単結晶の製造方法である。
【0017】
第11の発明は、液体封止剤を用いた縦型ボート法によるSiドープGaAs単結晶の製造装置において、種結晶、GaAs原料、ドーパント用Si原料及び液体封止剤用原料を収納するるつぼと、これら原料を溶融して前記GaAs原料融液層の上に液体封止剤層が配置されるようにする加熱手段と、前記液体封止剤層を撹拌する撹拌手段と、前記撹拌手段による撹拌の時期及び撹拌の度合いを制御する制御手段とを有することを特徴とするSiドープGaAs単結晶の製造装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかるSiドープGaAs単結晶は、SiドープGaAs単結晶液体封止剤を用いた縦型ボート法によって作製されたSiドープGaAs単結晶であって、該単結晶中の位置を結晶育成過程における結晶の固化率gで表して(1−g)の対数値を横軸にとり、各固化率で特定される位置における単結晶中のキャリア濃度の対数値を縦軸にとったグラフに表される曲線が、固化率gが0.1〜0.8の範囲において、勾配が負の値を持ち、かつその勾配の絶対値が0.6より大きい1又は2以上の直線又は直線と見做し得る曲線と勾配の絶対値が0.6以下の1又は2以上の直線又は直線と見做し得る曲線とが接続されたものであることを特徴とするものである。また、本発明にかかるSiドープGaAs単結晶の製造方法は、結晶育成過程において、液体封止剤層とGaAs原料融液層との間でSiの移動を伴う反応が行われ、この反応は、液体封止剤層中に含まれるSiの濃度が該液体封止剤層とGaAs原料融液層との界面近傍の下部で高く、この界面から離れて上部にいくにしたがって急激に低くなる状態で平衡になる性質を有する現象を利用し、結晶育成過程において、液体封止剤層のSi濃度分布を強制的に変化させる操作を行うことにより液体封止剤中に取り込むSiの量を制御し、これによって、GaAs原料融液層中のSi濃度を制御して良好なキャリア濃度分布を有するSiドープGaAs単結晶を得るものである。これにより、良好なキャリア濃度分布を有するSiドープGaAs単結晶及びその製造方法を得ている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1にかかるSiドープGaAs単結晶のキャリア濃度分布を示すグラフであり、図2ないし図4は本発明にかかるSiドープGaAs単結晶の製造方法に用いる単結晶製造装置の説明図である。以下、これらの図面を参照にしながら本発明の実施の形態1にかかるSiドープGaAs単結晶及びその製造方法を説明する。
【0020】
この実施の形態にかかるSiドープGaAs単結晶は、縦型ボート法の中の縦型温度傾斜法によって製造したものである。図2は縦型温度傾斜法を実施する単結晶製造装置の概
略構成を示す断面図である。図2において、符号4はるつぼであり、該るつぼ4内に原料が収納されて結晶育成が行われるものである。このるつぼ4は、略円筒形状で、上側が開口され、下側が次第に径が小さくなるように断面テーパ状に形成されて閉じられたもので、最下端の小径部に種結晶5が収納されるようになっている。
【0021】
るつぼ4は底を有する円筒状のるつぼ収納容器3内に収納され、このるつぼ収納容器3は下部ロッド1に支持されている。この下部ロッド1は図示しない駆動機構によって上下及び回転の動作ができるようになっており、るつぼ収納容器3と該るつぼ収納容器3に収納されたるつぼ4を上下及び回転駆動できるようになっている。
【0022】
るつぼ収納容器3は、円筒状の加熱ヒーター17内に設置されている。この加熱ヒーター17は、それぞれ独立に温度の設定ができる複数のヒーターによって構成されており、るつぼ収納容器3に所望の温度勾配・温度分布を形成できるようになっている。加熱ヒーター17の外側には、円筒状の断熱材16が配置され、これらは気密容器11に収納されている。
【0023】
気密容器11の下部には下部ロッド1を貫通させる貫通孔が形成され、この貫通孔にシールリング11aが嵌め込まれており、下部ロッド1が気密容器11の気密を維持しつつ上下及び回転運動ができるようになっている。また、上部には上部ロッド12を貫通させる貫通孔が形成され、この貫通孔にシールリング11bが嵌め込まれており、上部ロッド12が気密容器11の気密を維持しつつ上下及び回転運動ができるようになっている。
【0024】
上部ロッド12は、図示しない駆動機構によって上下及び回転の動作ができるようになっており、その先端部には、撹拌板10が取り付けられている。撹拌板10は、略四角形状の1枚の板体が上部ロッド12の先端部の取り付け部に略垂直に取り付けられているものである。撹拌板10の板体は、るつぼ4の内径の1/2以上の横幅と後述する液体封止剤層の厚さの1/2以上の縦幅を有する。また、この板体2枚以上設けてもよい。さらには、撹拌板10は融液を撹拌できるものであれば原則としてどの様な形状のものであってよい。なお、るつぼ4や撹拌板10は、必要な耐熱性を有し、原料融液と反応しにくい材料、例えば、カーボン(C)やpBN等が用いられることは勿論である。
【0025】
上述の単結晶製造装置によって、以下のようにしてSiドープGaAs単結晶を製造する。まず、図4に示すように、るつぼ4に、種結晶5、GaAs原料13、ドーパントしてのSi原料14及び液体封止剤原料としてのB23原料を充填する。
【0026】
ここで、るつぼ4に充填する原料の量は以下の通りである。
*GaAs原料13…4000g
*ドーパントしてのSi原料14…GaAs原料に対して0.02〜0.03重量%
*液体封止剤原料としてのB23原料(Si濃度換算で3重量%になるようにSi酸化物を添加したB23 )… 240g
【0027】
次に、これら原料を充填したるつぼ4を装置内にセットし、縦型温度傾斜法の手法にしたがって原料を溶解し、固化を開始する。固化は加熱ヒーター17の温度を下げてるつぼ4の下部の種結晶5に接する部分から行われ、次第に上方に進行していく。この固化は、種結晶5から結晶が成長していく過程でもある。GaAs原料全体の重量に対して固化している部分の重量の比率を固化率gという。固化率gは固化が進行して結晶が成長していくにしたがって0から1まで増大していく。したがって、固化率gがある特定の値であるということは、固化している部分と融液の部分とが接する界面がgの値に1対1に対応した特定の位置にあることを意味する。これによって特定される位置は、全部が固化されて結晶が完成された後にも当然同じである。したがって、完成された単結晶の結晶成長方向
における位置を固化率gで特定することができる。
【0028】
図2においては、るつぼ4内の符号6で示した部分がGaAsが固化した部分であり、符号7の部分が融液の部分である。固化部6と融液部7との界面の位置が、このときの固化率gで表される位置である。なお、この融液7の上面には、液体封止剤としての溶解したB23層8が形成されている。この実施の形態では、結晶が成長していく過程であって、固化率gが0.4のときに、図3に示されるように、上部ロッド12を下方に移動し、撹拌板10をB23層8に浸漬し、上部ロッド12を回転駆動して撹拌板8を回転してB23層8を撹拌する。この撹拌は、撹拌板8の回転数を1rpmにして20時間行う。
【0029】
こうして得られたSiドープGaAs単結晶の各位置におけるキャリア濃度分布をVander Pauw法により測定したところ、図1のグラフに示したような結果が得られ
た。図1のグラフは、横軸が単結晶中の位置を結晶育成過程における結晶の固化率gで表して(1−g)の対数値をとったものであり、縦軸が各固化率で特定される位置における単結晶中のキャリア濃度の対数値をとったものである。図1のグラフに示されるように、キャリア濃度分布を示す曲線は、固化率gが0.4において、共に負の勾配をもつ2つの直線が接続されたものになっており、滑らかな増加傾向を示している。しかも、固化率gが0.1〜0.4での直線の勾配は約−0.85であり、固化率gが0.4〜0.8での直線の勾配は約−0.3であった。この結果は従来では得られなかったような十分に良好なキャリア濃度分布を有するということができる。なお、ここにおける勾配とは、前記グラフにおける横軸をx軸、縦軸をy軸とする直交座標において、前記直線をy=ax+bで現した場合のaの値である。また、この勾配は、GaAs中のSiの偏析係数と一定の対応関係にある。
【0030】
この様な良好なキャリア濃度分布を得られたのは、本発明が従来は認識されていなかった新しい事実の発見に基づいている。以下、この点を説明する。一般に、キャリア濃度分布はドーパントたるSi濃度分布に対応する。また、GaAsに対しては不純物でもあるSi濃度は、固化率gが増すごとに増大していき、一様にはならない。そこで、従来から、液体封止剤がSiを取り込むことを利用してSi濃度分布を制御する試みが種々なされていた。すなわち、原料融液と接する液体封止剤たるB23融液層と、Siを含むGaAs融液層との間では、次の反応が平衡状態になるまで行われる。
3Si(GaAs Melt中)+2B23=3SiO2(B23へ)+4B(GaAs Meltへ)
【0031】
そこで、B23層を2層にして、下層(GaAs層側)のB23層には予め適当な量のSiO2を加え、上層にはSiO2を加えないでおく。固化率gが小さい間(Si濃度も小さい)はこの状態の下層で上記平衡状態になるようにしてGaAs層から取り込むSiを少なくしておく。固化率gが所定の値になったとき(GaAs層のSi濃度も大きくなる)に上層と下層とを混合して下層のSiO2濃度を小さくしてGaAs層からB23層に
取り込むSiを多くする。これによって、Si濃度分布を一様にしようとするものである(詳しくは、特願平9−96799号明細書参照)。
【0032】
しかし、上記方法で、Si濃度分布をある程度一様にできることがわかったが、2層のB23に加えるSiO2の量を種々変えても、理論的に想定される一様性を得ることはで
きなかった。特に、試行錯誤的結果に基づいて、より一様性を向上させる筈である量を添加した場合、逆に、Si濃度分布が図6に示されるような、不連続的分布を示す場合のあることがわかった。
【0033】
本発明は、この原因の究明の過程で発見された新たな事実に基づくものである。すなわち、従来は、融液中のSi濃度は大略一様であるという常識的知識を前提にしていた。本発明者等が上記原因究明のために、液体封止剤であるB23層中のSi濃度を調べたとこ
ろ、B23層においては、GaAs融液層との界面近傍の下部でSi濃度が高く、この界面から離れて上部にいくにしたがってSi濃度が急激に低くなっていることが判明した。
【0034】
この事実が判明したことによって、従来の液体封止剤を2層にした方法が必ずしも理論的に想定した程の効果が得られない理由が解明され、同時に、本発明をなすことが可能になったものである。
【0035】
(実施の形態2)
この実施の形態は、撹拌の時期を固化率gが約0.55の時点から行うようにした点を除くほかは実施例1と同じであるのでその詳細説明は省略する。
【0036】
図5は、得られたSiドープGaAs単結晶の各位置におけるキャリア濃度分布を示すグラフである。図5のグラフの横軸、縦軸は実施の形態1の場合と同じである。図5のグラフに示されるように、キャリア濃度分布を示す曲線は、固化率gが0.1〜0.55の範囲の第1の直線と、固化率gが0.55〜0.8の範囲の第2の直線との共に負の勾配をもつ2つの直線が接続されたものになっており、滑らかな増加傾向を示している。しかも、固化率gが0.1〜0.55での直線の勾配は約−0.85であり、固化率gが0.55〜0.8での直線の勾配は約−0.3であった。この結果は従来では得られなかったような十分に良好なキャリア濃度分布を有するということができる。
【0037】
(比較例)
この比較例は、実施の形態1におけるB23層8の上に、Si酸化物を添加しないB2
3層(50g)が配置されるようにして、液体封止剤層を2層にしたほかは、撹拌の条
件を含めて実施の形態1と同じ条件で結晶育成を行ったものである。得られたSiドープGaAs単結晶の各位置におけるキャリア濃度分布は図6に示したグラフの通りであった。図6に示されるように、キャリア濃度と固化率との関係を示す曲線が不連続になっており、キャリア濃度分布が結晶成長方向で不連続的に変化している。この様な分布は結晶として極めて好ましくないものである。
【0038】
以上の説明した各実施例では、撹拌の時期や条件が特定の場合を示したが、本発明は、これに限られるものでなく、結晶育成過程において、液体封止剤層とGaAs原料融液層との間でSiの移動を伴う反応が行われ、この反応は、液体封止剤層中に含まれるSiの濃度が該液体封止剤層とGaAs原料融液層との界面近傍の下部で高く、この界面から離れて上部にいくにしたがって急激に低くなる状態で平衡になる性質を有する現象を利用し、結晶育成過程において、液体封止剤層のSi濃度分布を強制的に変化させる操作を行うことにより液体封止剤中に取り込むSiの量を制御し、これによって、GaAs原料融液層中のSi濃度を制御して良好なキャリア濃度分布を有するSiドープGaAs単結晶を得る全ての場合を含むものである。
【0039】
すなわち、例えば、撹拌の時期は上記実施例に示された時期以外でもGaAsのキャリア濃度分布を所定の範囲にするような時期であれば他の時期でもよい。また、撹拌の条件も、上記実施例に示された条件以外でもGaAsのキャリア濃度分布を所定の範囲にするような条件であれば他の条件でもよい。したがって、場合によっては、上記条件を満たすような撹拌の条件さえを選定できれば、撹拌を連続的に行って、常時、液体封止剤のSi濃度分布を変化させてもよい。
【0040】
また、撹拌は、撹拌板10を液体封止剤中に浸漬して固定させておき、下部ロッド1を回転させることによって行ってもよい。勿論、撹拌板10と下部ロッド1との双方を回転させるようにしてもよい。さらには、液体封止剤は撹拌せず、撹拌板10をGaAs融液中に浸漬させてGaAsを撹拌することによって液体封止剤層のSi濃度分布を強制的に
変化させるようにしてもよい。
【0041】
また、本発明は、液体封止剤を用いた縦型ボート法によって作製されたSiドープGaAs単結晶であって、該単結晶中の位置を結晶育成過程における結晶の固化率gで表して(1−g)の対数値を横軸にとり、各固化率で特定される位置における単結晶中のキャリア濃度の対数値を縦軸にとったグラフに表される曲線が、固化率gが0.1〜0.8の範囲において、勾配が負の値を持ち、かつその勾配の絶対値が0.6より大きい1又は2以上の直線又は直線と見做し得る曲線と勾配の絶対値が0.6以下の1又は2以上の直線又は直線と見做し得る曲線とが接続されたものであることを特徴とするSiドープGaAs単結晶を全て含むものである。
【0042】
実施例では、2つ及び3つの直線を接続した例を掲げたが、この直線の数は4つ以上であってもよく、原理的には無数であってもよい。
【0043】
また、実施例においては、縦型温度傾斜法による場合を示したが、これは縦型ブリッジマン法であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態1にかかるSiドープGaAs単結晶のキャリア濃度分布を示すグラフである。
【図2】本発明にかかるSiドープGaAs単結晶の製造方法に用いる縦型ボート法を実施する単結晶製造装置の概略構成を示す断面図である。
【図3】本発明にかかるSiドープGaAs単結晶の製造方法に用いる単結晶製造装置の説明図である。
【図4】本発明にかかるSiドープGaAs単結晶の製造方法に用いる単結晶製造装置の説明図である。
【図5】本発明の実施の形態2にかかるSiドープGaAs単結晶のキャリア濃度分布を示すグラフである。
【図6】従来例にかかるSiドープGaAs単結晶のキャリア濃度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
1…下部ロッド、3…るつぼ収納容器、4…るつぼ、5…種結晶、6…固化部、7…融液部、8…液体封止剤たるB2 3層、10…撹拌板、11…気密容器、12…上部ロッド
、11a、11b…シールリング、16…断熱材、17…加熱ヒーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体封止剤を用いた縦型ボート法によって作製されたSiドープGaAs単結晶であって、
該単結晶中の位置を結晶育成過程における結晶の固化率gで表して(1−g)の値を横軸にとり、各固化率gで特定される位置における該単結晶中のキャリア濃度の値を縦軸にとった、横軸と縦軸とが同スケールを有し、横軸に(1−g)の0.1〜1.0の範囲をとり、縦軸にキャリア濃度の5×1017〜1×1019cm−3の範囲をとった両対数グラフ上に、該単結晶中の各固化率gで特定される位置における各キャリア濃度の値をとり、当該値を結んだ線を直線とみなしたときに、
該直線は、固化率gが0.1〜0.8の範囲において、GaAs中のSiの偏析係数と対応関係にある勾配が負の値を持ち、かつ、その勾配の絶対値が異なる直線が接続されたものとなることを特徴とするSiドープGaAs単結晶。
但し、ここにおける勾配とは、前記両対数グラフにおける横軸をx軸、縦軸をy軸とする直交座標グラフに置き換えたときの該直線の勾配の値とする。
【請求項2】
請求項1に記載のSiドープGaAs単結晶において、前記直線は、固化率gが0.1〜0.4の範囲の第1の直線と、固化率gが0.4〜0.8の範囲の第2の直線とを接続したものであり、かつ、第1及び第2の直線が共に負の勾配を持ち、かつ前記第1の直線の勾配の絶対値が0.6より大きく、前記第2の直線の勾配の絶対値が0.6以下であることを特徴とするSiドープGaAs単結晶。
【請求項3】
請求項1に記載のSiドープGaAs単結晶において、前記直線は、固化率gが0.1〜0.6の範囲の第1の直線と、固化率gが0.6〜0.8の範囲の第2の直線とを接続したものであり、かつ、第1及び第2の直線が共に負の勾配を持ち、かつ前記第1の直線の勾配の絶対値が0.6より大きく、前記第2の直線の勾配の絶対値が0.6以下であることを特徴とするSiドープGaAs単結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−230963(P2008−230963A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90528(P2008−90528)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【分割の表示】特願平10−279844の分割
【原出願日】平成10年10月1日(1998.10.1)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】